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事件 平成 22年 (ワ) 13704号 損害賠償等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/03/08
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成22年(ワ)第13704号 損害賠償等請求事件
口 頭弁論終結日 平成25年1月30日

判 決

東京都新宿区〈以下略〉

原 告 X

同訴訟代理人弁護士 赤 井 文 彌

同 笹 浪 恒 弘

同 藤 川 和 之

同 齊 藤 貴 一

東京都中央区〈以下略〉

被 告 株式会社チューン

同訴訟代理人弁護士 伊 藤 芳 朗

同 田 代 奈 美

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成18年9月28日か

ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は,インターネット上のアドレス〈略〉において開設するウェブサイト

における別紙〈略〉記載の一切の表示を抹消せよ 。

第2 事案の概要

1 本件は,「Aクリニック」という名称の診療所(以下「本件クリニック」と

いう。)の開設者である原告が,本件クリニックに関する情報を記載したウェ

ブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を運営する被告に対し,被告




1
による本件ウェブサイトの運営が原告のプライバシー,肖像権,氏名権等の人

格権及び本件クリニックに係る業務遂行権を侵害する不法行為であり,また,

本件ウェブサイト上に虚偽の事実を表示していることが不正競争防止法(以下

「不競法」という。)2条1項14号の不正競争に該当すると主張して,人格

権若しくは財産権(業務遂行権)に基づく差止請求権又は不競法3条差止

求権に基づき,本件ウェブサイト上の一切の表示の抹消を求めるとともに,不

法行為又は不競法5条2項に基づく財産的損害の賠償として150万円(一部

請求),不法行為に基づく慰謝料請求として50万円及びこれらに対する不法

行為の日(被告が本件ウェブサイトに関する権限を喪失したとされる平成18

年9月27日の翌日)から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支

払を求める事案である。

2 争いのない事実等(証拠略)

(1) 当事者等

ア 原告

原告は医師であり,本件クリニックの開設者である。

イ 被告

被告は,ホームページの作成等を主な業とする株式会社であり,株式会

社メディライン(以下「メディライン」という。)から委託を受けて,イ

ンターネット上のアドレス(略)において,「Aクリニック」の名称を標

榜するウェブサイト(本件ウェブサイト)を開設している。

ウ メディライン

メディラインは,医薬品,医薬部外品,化粧品の販売並びに輸出入及び

輸出入代行業務,医療機器の販売・リース・レンタル等,経営コンサルテ

ィング業務,経理事務代行業務,労働者派遣事業などを目的とする株式会

社であり,その代表取締役は,Zである。なお,メディラインの商号は,

平成20年3月25日以前は,「有限会社スペクトラム」であったが,同




2
日付けで「株式会社スペクトラム」に変更され,さらに,同年8月29日

付けで現商号に変更された。

エ 株式会社ディーピーシー

株式会社ディーピーシー(以下「DPC」という。)は,医薬品,医薬

部外品,化粧品の販売並びに輸出入及び輸出入代行業務,医療機器の販売・

リース・レンタル等,経営コンサルティング業務などを目的とする株式会

社であり,その代表取締役は,メディラインと同じくZである。

(2) 本件クリニック

本件クリニックは,平成17年12月14日,東京都千代田区(以下略)

に,「Aクリニック」との名称で開設された,外科・心臓血管外科を診療科

目として標榜する診療所であり,その開設の際に保健所長宛てに提出された

診療所開設届では,本件クリニックの開設者及び管理者は,いずれも原告と

されていた。その後,本件クリニックは,平成21年10月29日に,東京

都千代田区(以下略)に移転したが,その際に提出された診療所開設届でも,

本件クリニックの管理者は原告とされていた。

本件クリニックは,下肢静脈瘤の治療に特化した専門クリニックであり,

原告がその院長を務めている。

(3) 本件契約

原告とメディライン(ただし,当時の商号は「有限会社スペクトラム」)

は,平成17年10月頃,本件クリニックの開設に当たり,主にメディライ

ンが本件クリニックの開設運営に必要な経費等を支出負担(出資)し,原告

が医療知識・技術等を提供(出資)し,共に本件クリニックを営むことを約

する内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した(なお,本件契約

の当事者に,原告及びメディラインのほかに,DPCが含まれるかについて

は,当事者間に争いがある。)。

本件契約に関連し,原告及びメディラインが作成した平成17年10月1




3
2日付けの「協業覚書」(以下「本件覚書」という。)には,原告とメディ

ラインが,原告の行う医院の運営とその運営サポートであるメディラインの

業務との協業について合意に達したこと(前書き),本件覚書の有効期間を

平成17年10月12日から平成27年12月31日までとすること(第1

条),原告及びメディラインは,互いの利益のために,原告がメディライン

以外の者から同種サービスの提供を受けないこと(第2条),原告及びメデ

ィラインは,互いの業務の状況等を口頭又は書面で遅滞なく報告し,業務の

遂行に支障を生じるおそれのある事故の発生を知った場合は,その旨を直ち

に報告し,今後の対応方針についての協議を行うこと(第4条),原告及び

メディラインは,互いの事業において獲得した利潤について,毎年末に報告

し,その利潤は別途定めた計算方法により公平に分配すること(第5条),

原告及びメディラインは,協業の成功に向けて相互に協力して必要な手続を

誠実に進め,早期に両者間の各種契約の締結を行うものとすること(第6条

などが記載されていた。

(4) 本件ウェブサイトの開設等

本件クリニックの開設に当たり,本件契約に係る契約関係に基づいて,メ

ディラインは,原告の了解を得て,被告に対して,本件クリニックのホーム

ページの制作及び運営を委託した。被告は,メディラインからの委託を受け

て,本件ウェブサイトを制作・開設し,以後これを運営している。なお,本

件ウェブページの制作及び更新に当たっては,原告も,本件クリニックの紹

介や医学的知識に関する記事などのコンテンツの作成に積極的に関わった。

(5) 原告による本件契約の解除の申入れ等

平成18年9月27日に原告がZに対して,本件契約を解除したいと申し

入れたことを端緒として,本件クリニックに関する原告とメディラインとの

協力関係は破綻した。原告は,同年10月11日に,Zから本件クリニック

に係る銀行預金通帳,診療所開設書類及び不動産契約書等の経営関係書類を




4
受領するなどし,以後,メディラインの関与なしに本件クリニックを運営す

るようになった。

(6) その後の経緯等

ア 本件ウェブサイトについて

原告とメディラインとの協力関係が破綻した後,本件クリニックに関し

ては,その所在地,所属医師及び診療時間の変更,来院者数及び手術件数

(実績)の増加などの種々の変化があったが,被告が,本件ウェブサイト

の管理や更新に関する原告からの要望に応じなかったことから,本件訴訟

の提起時,本件ウェブサイトには,本件クリニックに関する上記情報等に

ついて事実と異なる内容が掲載されている状態であった。また,被告は,

原告から本件ウェブサイトの削除の要求を受けたが,本件ウェブサイトの

運営委託をメディラインから受けていることを理由に,原告の求めを拒絶

した。

ただし,本件訴訟係属中の平成24年2月頃,被告は,本件ウェブサイ

ト上から,本件クリニックの所在地,勤務していない医師名など,一部の

記載を削除し,その結果,本件ウェブサイトの表示内容は,別紙(略)記

載のとおりとなった。

一方,原告は,平成18年10月29日に「***」のドメインを取得

し,「***」のアドレス上に,本件クリニックの名称を標榜するウェブ

ページを新たに開設し,以後,これを運営している。

イ Bクリニックの開設等

Z及び医師であるWは,平成19年9月11日,医療法人社団スペクト

ラム(以下「社団スペクトラム」という。)を設立し,Wが理事長,Zが

理事に就任するとともに,本件クリニックの当時の所在地から1キロメー

トルほど離れた場所に「Bクリニック」という名称の診療所(以下「訴外

クリニック」という。)を開設し,以後これを経営している。なお,同ク




5
リニックは,本件クリニックと同様,下肢静脈瘤の専門クリニックである。

また,被告代表者は,平成20年1月15日以降,社団スペクトラムの

理事を務めている。

ウ 別件訴訟について

メディラインは,平成22年6月頃,原告に対し,3億0918万84

25円及びその遅延損害金の支払を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)

を提起した。別件訴訟において,メディラインは,原告に対し,本件契約

に基づく利益分配請求として,本件クリニック開設後4年間の本件クリニ

ックの利益の2分の1に当たる1億4793万8425円の支払を求める

とともに,組合員たる原告が本件契約に基づいて負担する,下肢静脈瘤専

門クリニックを全国展開すべき債務の不履行を理由とする損害賠償請求と

して,1億6125万円の支払を求めている。

なお,別件訴訟において,原告は,本件契約が原告とメディラインとの

組合契約又は組合類似の契約であるが,DPCはその当事者でないこと,

本件クリニックの利益は,原告とメディラインとで折半するべきではなく,

各自の出資割合に応じて利益分配(民法674条1項)するべきこと,メ

ディラインが本件契約に基づく出資義務を果たしていないことなどを主張

した。

3 争点

(1) 被告による本件ウェブサイトの運営が原告に対する不法行為を構成するか

(2) 被告による本件ウェブサイトの運営が不競法2条1項14号の不正競争に

当たるか

(3) 本件ウェブサイトの表示の抹消請求の可否

(4) 損害の有無及びその額

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点(1) 被告による本件ウェブサイトの運営が原告に対する不法行為を構成





6
するか)について

〔原告の主張〕

(1) 被告は,何らの権限もないのに,本件ウェブサイトに,原告名義で,原告

の個人情報(氏名,写真,略歴等)や本件クリニックの業務情報等を掲載し,

原告からの削除要求にもかかわらず,これを公開し続けている。しかも,本

件ウェブサイトに掲載された内容は,閲覧者をして,本件ウェブサイトが原

告及び本件クリニックのホームページと誤信させるものとなっている上,本

件クリニックの所在地,連絡先,診療時間,スタッフ,手術実績等について

誤った情報を提供することで,原告の本件クリニックの業務を妨害し,かつ

原告の名誉・信用等を著しく毀損する状況を作出している。

したがって,被告が本件ウェブサイトを削除せずに,これを運営し続ける

行為は,所有権ないし占有権等の財産権行使の一内容であるところの原告の

業務遂行権を侵害し,また,本件クリニックこと原告のプライバシー,肖像

権,氏名権等の人格権を侵害するものである。

なお,被告は,本件訴訟係属中に,本件ウェブサイト上の事実と異なる記

載の一部を削除したが,その削除はごく一部であり,かつ不完全,中途半端

なものにとどまっている。原告の個人情報が本件ウェブサイト上で不本意な

形で全世界に発信されることは,原告の自己情報コントロール権の侵害とな

り,また,現在の運営状況が十分に反映されず,原告がメール相談に応じる

こともできないような不完全なウェブサイトの存在は,本件クリニックの営

業に大きな支障をもたらし,本件クリニックの信頼を失墜させている。よっ

て,仮に本件ウェブサイトに虚偽の記載がないとしても,本件ウェブサイト

の存在自体が,原告の権利を侵害している。

(2) 確かに,メディラインは,本件契約に基づく契約関係の下で,被告に対し

て,本件ウェブサイトの制作及び運営を委託し,原告も,当初は,被告によ

る本件ウェブサイトの運営につき了解していたが,原告は,平成18年9月




7
27日,メディラインの債務不履行を理由に本件契約を解除したから,被告

は,この時点で,メディラインの有していた権限に基づいて原告名義で原告

や本件クリニックに関する各種情報を公開する権限を失った。

被告による本件ウェブサイトの運営により,原告は,人格権及び財産権と

いう排他的な絶対権を侵害されており,一方,被告は,本件ウェブサイトを

削除することが極めて容易であり,削除することにつき何らの不利益がない

にもかかわらず,原告からの再三の削除要求を無視して,本件ウェブサイト

の公開を継続しているのであるから,このような被告の行為は,悪質であり,

違法性が顕著である。

また,Z及び被告代表者は,社団スペクトラムの理事に就任し,本件クリ

ニックの近くに,競合する訴外クリニックを開設して運営しているところ,

被告が本件ウェブサイトを放置しているのは,本件クリニックの業務を妨害

するためである。

(3) 被告の主張について

ア 本件契約は,原告とメディラインとの間で締結した本件覚書に基づき,

主にメディラインが開設運営に必要な経費等を支出負担(出資)し,原告

が医療知識・技術を提供(出資)して,共に本件クリニックを営むことを

約した組合契約又は組合類似の契約であったが(以下,本件契約に基づき

組合又は組合類似のものとして成立した団体を「本件団体」という。),

被告は,これを前提に,被告が本件団体から委託を受けて,本件ウェブサ

イトを制作し,これを運営してきたのであり,その当時,原告もそれが本

件団体の業務の一環として行われることを了解していたのであるから,被

告が本件ウェブサイトを運営することによって,原告個人の権利が侵害

れることはなく,被告の行為に違法性はない旨主張する。

しかし,原告は,メディラインが本件契約に基づく出資義務を怠ったこ

とを理由として,債務不履行により本件契約を解除し,あるいは,本件団




8
体からのメディラインの除名,原告の脱退又は本件団体の解散によって,

本件契約は既に解消されているから,被告の主張は失当である。

また,仮に本件契約が解消されておらず,本件団体が現存するとしても,

本件ウェブサイトは,本件クリニックこと原告についての虚偽の情報を掲

載し,原告の利益に反するものであるから,被告が本件ウェブサイトを放

置する行為は,条理上の作為義務に違反するものであり,しかも,被告は,

現在,実質的にメディラインが本件クリニックの経営から撤退し,原告の

みが実質的な経営を行っており,メディラインが本件ウェブサイトの放置

により原告の権利を侵害していることを知悉しているのであるから,被告

がメディラインと共同して,本件クリニックの信用を失墜させる共同不法

行為を行っているといえる。

よって,原告とメディラインとの「組合」の問題は,本件では何らの法

的意味を持たない。

イ 被告は,本件クリニックの権利主体が原告ではないと主張するが,医療

39条及び44条の規定や,「医療機関の開設者の確認及び非営利性の

確認について」の通知に照らせば,本件クリニックに関する権利の全てが,

本件クリニックの開設者兼管理者である原告に帰属することは明らかであ

る。

仮に本件団体が内的組合であったとしても,そもそも内的組合とは,対

外的に個人が権利帰属主体となって,組合が権利帰属主体とはならないこ

とを説明する概念であると思われるから,本件クリニックに関する権利の

主体が原告であることを否定することはできない。

また,原告とメディラインとの間で作成された本件覚書では,「甲(原

告)の行う医院の運営とその運営サポートである乙(メディライン)の業

務との協業について合意に達した」と明記されていることから,本件契約

においても,原告のみが本件クリニックの運営を行うことが前提であった




9
ことが明らかであり,本件クリニックについての原告の権利主体性が認め

られる。

〔被告の主張〕

(1) 本件契約について

原告,メディライン及びDPCは,平成17年8月頃,下肢静脈瘤レーザ

ー治療専門クリニックを全国に展開し運営することを共同事業として,メデ

ィラインがその資金提供と人材提供による出資を行い,原告が同クリニック

の医療役務や専門知識の提供役務による出資を行い,DPCが下肢静脈瘤治

療用レーザーの安定供給と普及及び人材提供による出資を行うとの内容の組

合契約を締結することとし,三者間で本件契約を締結した。

したがって,本件契約に基づき成立した団体(本件団体)は組合である。

(2) 権利侵害及び違法性がないこと

本件クリニックは,組合である本件団体が,本件契約に基づく共同事業の

第1号店として開設したものであって,原告は,本件団体の組合員として,

本件クリニックの開設管理に当たっているにすぎないから,原告が,本件団

体と切り離したところで,本件クリニックについて独自の権利・利益を主張

することはできない。また,本件クリニックの名称も,本件団体が付したも

のであり,本件団体が組合事業を行うために使用する屋号であるから,原告

の名称とはいえない。

他方,本件ウェブサイトの運営も,本件団体の事業の一環としてなされて

いるものであるから,本件ウェブサイトは,原告のサイトではなく,本件ク

リニックの経営主体である本件団体のサイトである。したがって,本件ウェ

ブサイトによって原告個人の権利が侵害されることはない。

そして,被告は,本件団体から委託を受けて,本件ウェブサイトを制作し,

これを運営してきたのであり,その当時,原告も,それが本件団体の業務の

一環として行われることを了解していたのであるから,被告が本件ウェブサ




10
イトを運営することによって,原告個人の権利が侵害されることはなく,ま

た,その被告の行為に違法性はない。

なお,本件ウェブサイトに原告個人の情報が掲載されているとしても,そ

れはあくまで本件クリニックに関する情報として掲載されているものであっ

て,原告個人の人格権を構成するほどの情報ではない。

(3) 原告の主張について

ア 原告は,原告が本件クリニックの開設者兼管理者になっていることや医

療法の規定を根拠として,本件クリニックに関する権利が全て原告に帰属

すると主張するが,本件団体は,いわゆる内的組合,すなわち,当事者間

の内部関係では共同事業として組合関係があるが,許可営業などのように

個人(又は法人)名義でしかできない事情があるため,対外的行為は,全

員の名(ないし組合の名)ではなく,当事者の固有の名義で行われ,組合

関係が対外的に現れないものである。本件では,本件団体の組合員のうち

クリニックの開設者になることが可能であった原告が,本件クリニックの

開設者になったにすぎず,そのことは,本件団体において組合の事業を共

同して行うことと何ら矛盾しないし,医療法違反ともならない。

イ 原告は,メディラインの債務不履行を理由に本件契約を解除したことに

より,被告が原告及び本件クリニックに関する情報を公開する権限を失っ

たと主張する。

しかし,原告は,本件団体の一組合員として,本件クリニックが赤字の

時期には他の組合員に頼っていたにもかかわらず,本件クリニックが黒字

に転じたとたんに,一方的に本件契約の解除や組合からの脱退を言い立て

て,メディライン及びDPCの関与を排除し,以後その利益を独り占めし

ているにすぎない。

また,原告の上記解除の申入れは,「組合の目的たる事業の成功又は成

功の不能」(民法682条)又は「やむことを得ない事由の存在」(同法




11
683条)との解散事由には当たらず,原告の業務執行からの辞任や他の

組合員らの業務執行の解任の事由(同法672条)はないのであるから,

本件団体が解散したとか,原告が組合を脱退したという評価は不可能であ

って,本件団体は,現在も存続している。

ウ 原告は,被告が本件ウェブサイトを削除することが容易であると主張す

るが,被告は,依頼者である本件団体からの指示がなければ,本件ウェブ

サイトを削除することができない。本件ウェブサイトをどうするかは,本

来,本件団体の問題として,原告及びメディラインとの間で決すべき問題

である。

2 争点(2) 本件ウェブサイトの運営が不競法2条1項14号の不正競争に当た


るか)について

〔原告の主張〕

被告が本件ウェブサイトを公開・運営している行為は,「競争関係にある他

人の営業上の信用を害する虚偽の事実」を「流布」する行為であり,不競法2

条1項14号の不正競争に該当する。

すなわち,被告代表者が理事を務める社団スペクトラムは,訴外クリニック

を運営しているところ,同クリニックは,本件クリニックと同様に,下肢静脈

瘤治療等を専門に行うクリニックであり,しかも両クリニックは1キロメート

ルほど離れた場所に位置し,対象とする顧客が重なる関係にあるから,競争関

係に立つ。そうすると,被告代表者は,本件クリニックと競争関係に立つ訴外

クリニックの運営母体たる社団スペクトラムの理事として,同クリニックの経

営に携わる者であるから,被告もまた,本件クリニックを経営する原告と競争

関係に立つといえる。

ま た,被告は,本件ウェブサイトに,本件クリニックの運営に関する基本的

かつ重要な事項について虚偽の事実を記載している。なお,本件ウェブサイト

には,「X先生が丁寧にお応えします」と記載されたメール相談システムが運




12
営されているところ,実際には,原告がそれにアクセスすることができず,相

談者に対して返答することができない仕組みになっているため,「メール相談

に回答する」という記載も虚偽の事実となる。さらに,原告が本件ウェブサイ

トを運営できず,随時内容を更新することができないにもかかわらず,あたか

も原告がこれを運営し,随時内容を更新しているかの如き体裁を採っているこ

とも虚偽事実である。

そして,被告は,不特定多数の人間が自由にアクセスできる本件ウェブサイ

トにおいて,上記のような本件クリニックについての虚偽の事実を公開してい

るのであるから,虚偽の事実を「流布」していると評価できる。

〔被告の主張〕

被告はあくまでウェブサイトの制作・運営会社であり,被告代表者が他の医

療法人の理事に名を連ねているからといって,被告が原告と「競争関係」(不

競法2条1項14号)にあるわけではない。

また,本件ウェブサイトの管理・運営は本件団体が被告に依頼したものであ

り,その時点で虚偽の事実は一切なかった。その後,原告が本件団体の業務を

懈怠しているために,更新作業が止まっているにすぎない。

3 争点(3)(本件ウェブサイトの表示の抹消請求の可否)について

〔原告の主張〕

(1) 人格権及び財産権(業務遂行権)に基づく請求

被告が本件ウェブサイトを運営し,そこに別紙(略)記載の表示をしてい

ることは,前記1〔原告の主張〕のとおり,原告の人格権及び財産権(業務

遂行権)を侵害する不法行為に該当するから,原告は,人格権及び財産権に

基づき,本件ウェブサイトの別紙記載の一切の表示の抹消を請求することが

できる。

なお,原告が経営している本件クリニックの情報が,原告の望まない形で

本件ウェブサイトに掲載されていること自体が,原告の人格権としてのプラ




13
イバシー権(自己情報コントロール権)の侵害であり,また,本件ウェブサ

イトの記載のうち,虚偽の情報のみが削除された場合,未完成のような本件

クリニックのウェブサイトが残ることになり,それを閲覧した者に対して,

原告がウェブサイトの管理をできていないかのような印象を与え,本件クリ

ニックの名誉・信用が毀損され,業務遂行が妨げられることになるため,本

件ウェブサイト上の虚偽の情報のみを削除するだけでは,権利侵害を完全に

阻止できるわけではないから,本件ウェブサイトの全部の表示の抹消が必要

である。

(2) 不競法に基づく請求

被告が,本件クリニックについての虚偽の事実を表示した本件ウェブサイ

トを公開・運営する行為は,不競法2条1項14号の「不正競争」に該当す

るところ,それを閲覧した多数の人間が,本件クリニックが潰れてしまった

のではないか,不親切な医師である,手術をしていないのではないか等の不

安を抱くこととなり,本件クリニックの営業に対する信用を著しく侵害し,

また,今後も原告の営業に対する信用を著しく侵害するおそれがあることは

明らかである。

よって,原告の営業上の利益侵害及びそのおそれがあることから,原告

は,被告に対し,その侵害行為の差止めとして,本件ウェブサイトにおける

一切の表示の抹消を請求できる。

〔被告の主張〕

原告の主張は争う。

本件ウェブサイトは,途中までは原告も了解して,制作・運営されてきたも

のであり,その内容にも一切の誤謬がなかった。最近になって,原告が,本件

契約に違反して,他の組合員を排除した上,被告にも一切連絡することなく,

勝手に本件クリニックを移転させ,医師を入れ替えるなどしたために,齟齬が

生じるようになったにすぎない。




14
したがって,これらの事情からすれば,被告が自己の費用において,本件ウ

ェブサイトの抹消等に応じなければならない理由はない。

4 争 点(4)(損害の有無及びその額)について

〔原告の主張〕

(1) 財産的損害 150万円

ア 不競法に基づく請求

被告代表者が理事を務める社団スペクトラムは,平成20年8月1日か

ら平成21年7月31日までの1年間に,1364万8813円の事業利

益を上げているところ,被告は,故意又は過失により原告の営業上の利益

侵害し,その侵害行為により社団スペクトラムを介して上記事業利益を

上げているのであるから,原告が被告の侵害行為により被った損害の金額

は,上記事業利益に等しいと推定されるべきである(不競法5条2項)。

よって,原告は,上記損害のうち,一部請求として150万円を請求す

る。

イ 不法行為に基づく請求

上記アの推定規定は不競法上の推定規定であるが,被告による権利侵害

がなければ,原告が営業において得られた利益として,不法行為に基づく

損害賠償にも妥当するから,原告は,選択的に,不法行為に基づく損害と

して,上記アと同額の損害を主張する。

(2) 慰謝料 50万円

原告は,被告による本件ウェブサイトの運営によって,名誉権・信用等の

人格権を侵害され,また,財産権ないしその一内容である業務遂行権を侵害

されて,精神的苦痛を被った。その原告の受けた精神的損害は,慰謝料にし

て50万円を下らない。

〔被告の主張〕

原告の主張は全て争う。




15
原 告には,財産的損害も,精神的損害も生じていない。また,原告は,附帯

請求について,平成18年9月28日を起算日としているが,その時点を起算

日とすべき根拠の主張立証はない。

第4 当裁判所の判断

1 争点(1) 被告による本件ウェブサイトの運営が原告に対する不法行為を構成


するか)について

(1) 財産権(業務遂行権)の侵害について

ア 原告は,本件クリニックの運営が原告の事業であり,本件クリニックに

関する権利が原告に帰属することを前提に,本件ウェブサイトによって本

件クリニックの業務が妨害されていることが,本件クリニックこと原告の

財産権の侵害であると主張する。

しかし,本件契約は,その契約当事者にDPCが含まれるか否かは争い

があるものの,少なくとも原告及びメディラインが契約当事者となった組

合契約又は組合類似の契約であることについては当事者間に争いがないと

ころ,前記第2,2(3)のとおり,本件契約は,原告とメディラインが,主

にメディラインが本件クリニックの開設運営に必要な経費等を支出負担

(出資)し,原告が医療知識・技術等を提供(出資)し,共に本件クリニ

ックを営むことを内容とする契約であること,本件契約に係る本件覚書の

第4条では,互いの業務についての報告義務や協議の義務が定められ,第

5条では,互いの事業において獲得した利潤を公平に分配することが定め

られていること,その他前記第2,2(1)ないし(3)記載の事実を総合考慮

すれば,本件契約は組合契約であると認められ,その契約に基づき成立し

た本件団体は,本件クリニックの運営等を共同の事業とする組合であると

解するのが相当である(なお,原告は,本件契約が組合契約又は組合類似

の契約であると主張するが,原告の述べる「組合類似の契約」の意義や,

その「組合類似の契約」と一般的な組合契約との実質的な差異は明らかで




16
なく,本件契約の上記内容に鑑みれば,これを組合契約と解することに何

ら支障はないものと認められる。)。

そうすると,本件クリニックの運営は,組合契約たる本件契約に基づい

て組合員らが共同で営む事業であると認められるから,原告が本件団体の

組合員の一人として,その事業に係る業務を執行しているとしても,その

事業の主体は組合たる本件団体であって,その事業に伴う権利や財産も,

総組合員の共有に属するものであって(民法668条),原告一人に属す

るものと認めることはできない。

したがって,原告の上記主張は,その前提において誤りであり,採用す

ることができない。

イ 原告の主張について

(ア) これに関して原告は,医療法の規定や通知に照らせば,本件クリニッ

クに関する権利の全てが,本件クリニックの開設者兼管理者である原告

に帰属することが明らかであると主張する。

この点,確かに,前記第2,2(2)のとおり,保健所長に対しては,本

件クリニックの開設者兼管理者が原告であるとして届け出られているこ

とが認められるが,組合が行う事業についても,組合の業務の執行を一

人又は数人の組合員に委任することが可能であり(民法672条1項

照),また,例えば,許認可等の関係で,特定の個人又は法人の名義で

しか当該事業を行えないような場合に,一人の組合員の名義で対外的な

行為を行うことも可能であると解されるのであって,本件において,法

令等に基づく制限から,本件クリニックの開設者兼管理者が医師である

原告と届け出られているとしても,そのことと,本件クリニックの運営

が組合の事業であることとは何ら矛盾するものでない。また,本件クリ

ニックが本件団体の事業であると解した場合に,仮にそれが医療機関の

非営利性などの規制に反することになるとしても,そのことによって,




17
本件契約における当事者間の合意の内容やそれに基づく当事者間の内部

関係についての認定が左右されるものではない。

(イ) 原告は,原告とメディラインとの間で作成された本件覚書の記載にお

いても,原告のみが本件クリニックを運営することが前提とされていた

と主張する。

この点,本件覚書の前書きには,「甲」を原告,「乙」をメディライ

ンとして,「甲の行う医院の運営とその運営サポートである乙の業務と

の協業について合意に達した」と記載されていることが認められるが,

上記アのとおり,本件契約が,原告とメディラインがそれぞれ出資して,

共に本件クリニックを営むことを内容とする契約であることからすれば,

本件覚書の前書きの上記記載は,本件団体が本件クリニックを共同の事

業としながら,医師である原告が,クリニックの開設やそこでの医療行

為の提供などの,本件クリニックの事実上の運営行為をしていくとの趣

旨をいうにすぎないものと解される。また,上記アのとおり,本件覚書

第4条では,互いの業務についての報告義務や協議の義務が定められ,

第5条では,互いの事業において獲得した利潤を公平に分配することが

合意されていることに照らしても,本件契約の当事者間で,原告のみが

本件クリニックの事業主体となることが前提とされていたと解すること

はできないというべきである。

(ウ) 原告は,本件契約は,メディラインの出資義務の債務不履行による解

除,メディラインの除名,原告の脱退又は本件団体の解散によって,既

に解消されたと主張する。

しかし,そもそも本件全証拠を精査しても,メディラインの出資義務

の債務不履行に基づく契約解除,除名,脱退又は本件団体の解散を基礎

付ける事実を認めることはできない。

また,一部の組合員が出資義務を履行しない場合でも,そのことを理




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由に組合契約を解除することはできないと解されるから(大審院昭和1

4年6月20日第二民事部判決・民集18巻666頁参照),原告の解

除の主張は理由がない。さらに,仮に本件契約がメディラインの債務不

履行によって解除されたといい得たとしても,組合契約の解除の効力は

遡及しないから(民法684条620条),組合財産は清算手続によ

る清算の対象となるにすぎず,当然に原告に帰属することにはならない。

このことは,本件団体がその他の事由により解散した場合も同様である

(同法685条)。このほか,メディラインの除名(同法680条)に

ついては,「正当な事由」「他の組合員の一致」等の要件を満たしてい

ることにつき何ら具体的な主張立証がなく,また,仮に原告主張のとお

り,本件契約が原告とメディラインの二者間の契約であった場合には,

組合の解散を意味することになる一方の除名をなすことはできないと解

され,仮にそれができるとしても,同時に組合の解散を導く結果,清算

手続を要することになることは上記と同様である。加えて,原告自らが

組合から脱退した場合に,組合財産が原告に帰属することにならないこ

とは当然である。

よって,本件契約の解除や本件団体の解散等を理由に本件クリニック

が原告に帰属することになっているとの原告の主張は採用することがで

きない。

(エ) 原告は,現在,実質的にメディラインが本件クリニックの経営から撤

退し,原告のみが経営を行っていると主張する。

しかし,本件訴訟の経緯や別件訴訟の内容に照らせば,それは,単に

原告が本件クリニックの経営からメディラインを排除したにすぎないも

のと解され,そのような現状をもって,原告及びメディライン間で本件

クリニックに係る共同事業についての清算が終了し,その結果として,

本件クリニックが原告個人に帰属したものと評価することはできない。




19
ウ 以上のとおり,本件クリニックは組合たる本件団体が共同の事業として

営むものであると認められるから,本件クリニックに係る権利は,原告個

人ではなく,本件団体に属するものと解されるのであり,そうである以上,

本件クリニックに係る権利の全てが原告個人に帰属することを前提として,

その財産権の一内容をなす業務遂行権の侵害が原告に対する不法行為を構

成するという原告の主張は,その前提を欠き,理由がないというべきであ

る。

なお,原告は,被告が本件ウェブサイトを削除することが極めて容易で

あり,削除することにつき何らの不利益がないこと,Z及び被告代表者

社団スペクトラムの理事として,競合する訴外クリニックを運営しており,

本件ウェブサイトの放置は本件クリニックの業務を妨害するためであるな

どと,被告の行為の悪質さやその違法性についても言及するが,これらは

いずれも本件クリニックに係る権利が原告個人に帰属することを前提とし

て初めていえることであるから,上記のとおり,かかる主張の前提が認め

られない以上,失当であり採用することができない。

エ ところで,原告は本件団体の構成員であることから,構成員の一人とし

て,第三者に対して権利行使をすることができ,又は,本件団体をいわゆ

る内的組合と解した場合には,少なくとも対外的には,原告がその権利の

帰属主体になり得ると考えられる余地もないわけではない。

しかし,前記第2,2(4)のとおり,本件においては,被告は,メディラ

インから本件ウェブサイトの制作及び運営を委託されたものであるところ,

本件クリニックの運営が本件団体の事業であることに照らすと,メディラ

インによる被告への委託は,本件団体の組合員であるメディラインが,本

件団体の業務の執行として,これを被告に委託したものと解するのが相当

である。

そうすると,本件ウェブサイトは本件団体のウェブサイトであり,被告




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は,本件団体から委託されて本件ウェブサイトを運営しているにすぎない

のであるから,その本件ウェブサイトの運営が,本件団体との関係で違法

と評価される余地はなく,したがって,原告が,本件団体における本件ク

リニックに係る業務の執行者として,あるいは組合のために本件クリニッ

クに関する債権債務の帰属主体となる者として,本件ウェブサイトの運営

の違法性を主張することができるものと解することはできない。

よって,いずれにせよ,本件においては,原告が,本件クリニックに関

する権利に基づいて被告の不法行為責任を主張することができる地位にあ

るとは認められない。

(2) 人格権の侵害について

前記第2,2(6)アのとおり,本件ウェブサイトには別紙(略)記載の表示

がされているところ,そこには,原告の氏名及び略歴が表示され,また,原

告の写真が掲載されていることが認められる。この点に関して,原告は,こ

のような本件ウェブサイトの表示が,原告のプライバシー,肖像権,氏名権

等の人格権を侵害するものであると主張する。

しかし,原告は,本件団体が経営する本件クリニックの院長として,その

業務に従事している者であるから,本件団体が運営する本件ウェブサイトに,

本件クリニックの業務に関連して,原告の氏名及び略歴が表示され,原告の

写真が掲載されているとしても,そのことから当然に原告の人格権が侵害

れているということはできない。

上記(1)アの認定事実を前提に,前記争いのない事実等並びに証拠(略)及

び弁論の全趣旨によれば,組合たる本件団体は,本件ウェブサイトの運営主

体かつ本件クリニックの事業主体であり,原告はその組合員であること,本

件ウェブサイト上で原告は本件クリニックの院長として表示されており,原

告の氏名,略歴及び写真もそれを示すものとして掲載されているにすぎない

こと,原告は実際に本件クリニックの院長として本件クリニックの業務に従




21
事しており,上記各表示は虚偽のものではなく,また,他者による冒用でも

ないこと,本件ウェブサイトは,原告の承認と関与の下で制作されたもので

あること,本件ウェブサイト上には,氏名,略歴及び写真のほかにも,原告

に関する雑誌記事,原告の論文や書籍の紹介などが掲載されているが,それ

らはいずれも本件クリニックの院長である原告の医師としての業績に関する

ものであり,それ以外には,本件クリニックの業務と無関係な原告の私的な

情報が掲載されているわけではないこと,原告は,自身が開設した本件クリ

ニックに関するウェブサイト上に氏名及び略歴を表示し,かつ写真を掲載し

て,自らそれらを公開していることが,それぞれ認められる。

このように,本件ウェブサイト上の原告の氏名,略歴及び写真は,いずれ

も本件クリニックの院長である原告を示すものとして表示されており,それ

らの表示は虚偽のものでも,第三者による冒用でもなく,しかも,そのよう

な情報は,いずれも原告が本件クリニックに係る他のウェブサイトで自ら公

開しているものである。また,本件ウェブサイトの運営主体かつ本件クリニ

ックの事業主体は本件団体であり,原告はその組合員として,本件クリニッ

クの業務執行に当たっている上,そもそも原告自身が本件ウェブサイトの制

作を承認し,それに関与していたというのであるから,これらの事情に照ら

せば,本件ウェブサイト上に原告の氏名及び略歴が表示され,原告の写真が

掲載されているからといって,それによって,原告の人格的利益が社会生活

上の受忍限度の範囲を超えて違法に侵害されているということはできない。

したがって,本件ウェブサイトの運営が原告の人格権を侵害する不法行為

であるとは認められない。

(3) 小括

以上によれば,被告による本件ウェブサイトの運営が,原告の財産権又は

人格権を違法に侵害するものであって,不法行為を構成するものであると認

めることはできない。




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2 争点(2) 本件ウェブサイトの運営が不競法2条1項14号の不正競争に当た


るか)について

原告は,被告が本件クリニックを経営する原告と競争関係にあることを前提

に,被告による本件ウェブサイトの運営が不競法2条1項14号の不正競争に

当たると主張する。

しかし,前記第2,2(1)イのとおり,被告は,ホームページの作成等を主な

業とする株式会社であるから,その被告が,下肢静脈瘤の専門クリニックであ

る本件クリニックと競争関係にあると認めることはできない。

この点に関して原告は,被告代表者が理事を務める社団スペクトラムが,本

件クリニックと競争関係にある訴外クリニックを運営していると主張し,前記

第2,2(6)イのとおり,その事実が認められるものの,訴外クリニックを運営

しているのは社団スペクトラムであって被告でないことは明らかであり,被告

代表者が社団スペクトラムの理事を兼ねているからといって,ホームページの

制作会社である被告と,医療法人である社団スペクトラムあるいは下肢静脈瘤

治療の専門クリニックである訴外クリニックとを同視して,被告が本件クリニ

ックと競争関係にあると解することはできない。

また,そもそも,前記1のとおり,本件クリニックの事業主体は,原告では

なく,本件団体であると認められることからすれば,仮に本件ウェブサイトに

よって本件クリニックの営業上の信用が害されることがあったとしても,それ

をもって,本件クリニックとは別に,原告の営業上の信用が害されたと評価し

得るとはいえない。

しかも,被告による本件ウェブサイトの運営は,本件団体から委託されたも

のであるから,その被告の行為が,本件団体が運営する本件クリニックとの関

係で不正競争に当たると解することは困難である。

したがって,本件ウェブサイトに虚偽の事実が記載されているか否かにつき

検討するまでもなく,被告による本件ウェブサイトの運営が原告に対する不正




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競争に当たるとの原告の主張は採用することができない。

3 結論

以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず

れも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部




裁判長裁判官 東 海 林 保




裁判官 田 中 孝 一




裁判官 足 立 拓 人




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