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事件 平成 25年 (ワ) 7931号 損害賠償請求事件
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裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2014/03/06
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月6日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成25年(ワ)第7931号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成26年1月30日

判 決



原 告 弘伸商事株式会社



訴訟代理人弁護士 岨中 良太

同 本岡 文亜



被 告 P1

同訴訟代理人弁護士 財家 庄司

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,704万7800円及びこれに対する平成25年8月21日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が,元従業員である被告に対し,@被告に,営業秘密を持ち出した不

正競争行為があった(請求1),A原告の取引先である日本ペイント株式会社(寝屋

川営業所。以下「日本ペイント」という。)に虚偽事実を告げた不法行為があった(請

求2),B退職後の競業避止義務に違反した(請求3),と主張して,原告が被ったと

する損害の賠償及びこれに対する訴状送達の日(請求の日)の翌日から支払済みまで




の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実

(1) 当事者

原告は,一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬等を目的とする株式会社である。

被告は,平成15年6月2日原告に従業員として採用され,平成24年7月3

1日に原告を退職した者である。被告は,原告を退職後,一般廃棄物及び産業廃

棄物の収集,運搬,処分等を営む大東衛生株式会社(以下「大東衛生」という。)

に就職した(争いがない)。

(2) 原告における被告の業務

被告は,原告において,営業に従事しており,原告から貸与を受けたパソコン

等を用いて,見積書や請求書を作成していた(争いがない)。

(3) 原告による取引先に対する文書の配布

原告は,平成23年10月28日に甲4号証の1の書簡(以下「書簡1」とい

う。)を,平成24年9月5日に,甲4号証の2の書簡(以下「書簡2」という。)

を,原告の複数の取引先に送付した(争いがない)。

書簡1には,近年の産業廃棄物処理に関する法令の度重なる改正や処分費の高

騰により,収集運搬業だけでは経営が成り立たない状況が続いたことから,原告

が,平成23年11月30日をもって,産業廃棄物部門より撤退する旨,また油

水分離槽清掃及び油泥収集業務(以下「油水分離槽清掃業務等」という。)は従

来からの処分委託者である大東衛生が同1条件で引き続き行うので申しつけら

れたい旨記載されている(甲4の1)。

書簡2にも,撤退日を平成24年10月31日とするほかは,書簡1と全く同

趣旨の記載がされている(甲4の2)。

2 争点

(1) 被告が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に取得し,使用したか(請求1)

(2) 被告が,日本ペイントに,原告に関する虚偽の事実を告げたか(請求2)




(3) 被告が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかどうか(請求3)

(4) 原告の被った損害額

3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1) (被告が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に取得し,使用したか

(請求1))について

(原告の主張)

ア 被告は,業務の過程において,日本ペイントを含む取引先に対する見積書や

請求書のデータをパソコン等に保存していたところ,顧客情報は被告が作業伝

票を作成する際に見積書から転記された後,作業伝票を受け取った原告の経理

担当従業員及び事務担当従業員により元帳及び原告のコンピュータにより記

載・入力され,その元帳やコンピュータは秘密として管理されていた。

秘密として管理されている情報を作成した本人には,当該情報を作成した者

の責任として,みだりに第三者に当該情報を開示してはならない義務が課せら

れるところ,被告は,上記パソコン等から,データをコピーして顧客情報(取

引先から受注する業務内容,数量,単価,受注金額をいう。以下「本件情報」

という。)を不正に取得した。これら,とりわけ単価の情報はトップシークレ

ットであり,非公知性有用性がある。

ウ 被告は,原告が取引先との間で締結していた単価よりも約1割減額した単価

で営業を行っており,被告の把握していた本件情報が大東衛生の従業員として

の被告の営業活動に使用されていたものである。

エ 被告の上記行為は,不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に該当する。

そして,被告が,大東衛生に就職した後,本件情報を用いて営業活動を行った

結果,原告は,平成25年9月20日以降,取引先である日本ペイントとの取

引を失った。

(被告の主張)

原告の主張を否認する。被告は,原告から貸与を受け使用していたパソコンか




らデータをコピーしていない。

本件情報程度のものは,営業担当者であれば,概ね記憶しているものである上,

同業者であってもおおよそ知りうるものであり,更には通常の商談で判明するも

のであるから,わざわざ被告がコピーする必要がない。また,そのようなもので

あるから,営業秘密に該当しない。

(2) 争点(2) (被告が,日本ペイントに,原告に関する虚偽の事実を告げたか(請

求2))について

(原告の主張)

ア 原告は,平成23年11月末に産業廃棄物処理業務の一部門である油水分離

槽清掃業務等から撤退したものであるが,被告は,その事実を拡大して表現し,

油水分離槽清掃業務等とは全く別部門の業務に関する取引先であった日本ペ

イントに対して,あたかも原告が産業廃棄物処理業務全般から撤退するかのよ

うな虚偽の説明をして,日本ペイントをして取引の相手方を原告から大東衛生

に変更させたものである。

イ 原告は,書簡1,書簡2を全取引先に送ったものではなく,油水分離槽清掃

業務等の取引先のうち,原告にとって今後取引を継続すると採算が合わない取

引先に対して送付したにすぎない(したがって,日本ペイントには送付されて

いない。。現に原告は現在も産業廃棄物運搬業務を多数継続して行っている。


ウ 被告の主張は否認する。

(被告の主張)

ア 被告は,平成23年10月ころ,事務職員から,書簡1を見せられ,原告代

表者に確認したが,その際,原告代表者から,産業廃棄物部門から撤退するこ

とを明確に告げられた。その際,撤退の理由を聞かされることはなかったし,

撤退の範囲が油水分離槽清掃等に限定されるとの話もなかった。

イ 被告は,このような原告代表者の意向を,担当していた営業先の一つである

日本ペイントに告げたものであって,何ら虚偽の事実を告げたものではない。




(3) 争点(3) (被告が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかどう

か(請求3))について

(原告の主張)

ア 原告は,従業員代表の意見を聴取した上(甲9の1,2),平成17年4月

1日,就業規則に退職後1年間は同種の仕事及び得意先に営業行為をしてはな

らない旨の定めを追加し,その旨を原告代表者から全ての営業担当職員が参加

するミーティングにおいて告知し,その旨の就業規則を従業員休憩室に備えた。

これにより,上記就業規則の規定は全従業員に適用されるに至った。

イ 被告は,上記規定に反して,原告と同種事業を営む大東衛生に就職し,原告

の取引先であった日本ペイントを失わせ,退職後の競業避止義務に違反して原

告に後記損害を負わせたものである。

(被告の主張)

ア 原告の主張を争う。原告の就業規則は適法に変更されていない。

イ 原告のいう就業規則中の退職後の競業禁止規定は,1年間という長期にわた

る制限であり,地域,範囲について何らの限定もなく,原告が何らの代償措置

も講じておらず,被告が原告に就職した後に定められたものであることから,

被告に対して効力を有しない。

(4) 争点(4) (原告の被った損害額)について

(原告の主張)

原告は,平成23年9月15日から1年間で,日本ペイントとの取引において

月額平均70万4780円の売上を得ていたところ,被告の上記行為により,平

成24年9月20日から本件訴え提起(平成25年8月1日)まで少なくとも1

0か月間の上記平均売上額を失った。

したがって,被告は,原告に対し上記平均売上額合計704万7800円及び

これに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払義務を負う。

(被告の主張)




原告の主張を争う。

第3 判断

1 争点(1) (被告が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に取得し,使用したか(請

求1))について

(1) 原告は,営業秘密として問題とする本件情報を,原告が被告に貸与したパソコ

ン等で被告が日常業務において作成した見積書等に記載の取引先,業務内容,単

価,数量の情報と特定した上で,被告の行為が不正競争防止法2条1項4号に該

当すると主張する。

しかしながら,原告が主張するところによっても,被告は日本ペイントを含む

原告の取引先との取引に従事する過程で,取引先に交付する見積書や請求書を作

成する都度,原告の業務に使用するものとして,原告が被告に貸与していたパソ

コン等に保存していたというのであり,原告の主張する上記情報とは,前記見積

書に記載されていた事項であるというのであるから,そもそも被告が上記情報を

不正の手段により取得したということはできないし,仮に被告が上記情報を何ら

かの形で所持していたとしても(そのような事実が立証されている訳ではない),

不正取得行為により取得した情報の使用とはいえないから,不正競争防止法2条

1項4号が適用される余地のないことは,明らかと言わざるを得ない。

また,被告が上記情報を取得し使用することが不正競争行為に当たるとするた

めには,上記情報が不正競争防止法2条6項営業秘密に当たることが前提とな

るが,上記情報のうち,産業廃棄物運搬の単価にかかる情報は,従業員や契約の

相手方において,通常秘匿することが当然に期待される性質の情報とはいえない

し,原告は,上記情報,あるいはそれを記録したパソコンの管理等に関する従業

員に対する指示内容や,情報管理に関する規程等の秘密管理の状況,さらに上記

情報が非公知であることについて何ら具体的に主張立証せず,被告が大東衛生に

対し,本件情報を開示したことについての立証もない。

(2) 以上によれば,不正競争防止法違反に基づく原告の請求(請求1)は理由がな




い。

2 争点(2)(被告が,日本ペイントに,原告に関する虚偽の事実を告げたか(請求2))

について

(1) 前提事実(3)のとおり,原告が,書簡1,2を原告の複数の取引先に送付したこ

とは当事者間に争いがなく,証拠(甲11,12,乙3)及び弁論の全趣旨によ

れば,被告は,自らの営業担当先であった日本ペイントに対し,原告が産業廃棄

物部門から撤退する意向である旨を告げたことが認められる。

(2) 書簡1,2の記載内容は前提事実(3)記載のとおりであり,かつこれ以上の内容

は含まれていないから,原告が,その内部的な方針はともかく,産業廃棄物部門

全体から撤退する旨の意思を対外的に表明していることは明らかである。

他方,原告が,その主張のとおり仮に産業廃棄物部門全体からは撤退する意向

がない旨の真意を抱いていたとしても,そのような真意を明確に被告に説明した

ような事情は何ら認められない。

そうすると,上記のとおり,被告が,日本ペイントに対し,原告が産業廃棄物

部門から撤退する意向である旨を告げたものであるとしても,これをもって取引

先に虚偽の事実を告げたことにはならず,不法行為を構成する余地はない。原告

が主張する,原告が書簡1,2を油水分離槽清掃業務等の取引先のみに送付した

とか,現在も産業廃棄物運搬業務を行っているとかの事実が仮にあるとしても,

上記判断を左右するものではない。

(3) 以上によれば,不法行為に基づく原告の請求(請求2)は理由がない。

3 争点(3) (被告が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかどうか(請

求3))について

証拠(甲5,9の1・2)によると,平成17年4月1日,原告の就業規則に,

「退職後,1年間は同業種の仕事及び得意先に営業行為をしてはならない」との規

定が追加されたことが認められる一方,被告が原告に採用されたのが平成15年6

月2日であることは当事者間に争いがない。そうすると,就業規則の不利益変更と




いう意味においても,また,そもそも職業選択の自由の制限となる退職後の競業避

止義務の有効性という意味においても,同規定が被告に適用されるには,その合理

性を支える事情が必要となるというべきところ,同規定は,1年間,地域,業務に

何ら制限なく同業者への就職や取引先への営業行為を禁止する広汎なものである

のに対し,このような職業選択の自由の制約を正当化するに足るような事情,すな

わち,原告において,被告が競業避止義務を甘受すべき地位,職務にあったこと,

また,原告が,同義務を負わせるに十分な代償措置を講じたことなどについての主

張立証はされていないから,結局,前記合理性を支える事情は何ら認められないと

いうべきである。

したがって,原告の主張する就業規則は,被告を拘束しないというべきであるか

ら,退職後の競業避止義務違反をいう原告の主張(請求3)は理由がない。

4 結論

以上の次第で,争点(4)を判断するまでもなく,原告の請求はすべて理由がないか

ら,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。



大阪地方裁判所第21民事部




裁判長裁判官 谷 有 恒




裁判官 松 阿 彌 隆




裁判官 松 川 充 康






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