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事件 平成 25年 (ワ) 7391号 不正競争行為差止等請求事件
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裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2014/03/18
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月18日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成25年(ワ)第7391号 不正競争行為差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成26年2月4日

判 決

原 告 システムプラン株式会社

訴訟代理人弁護士 新谷 勇人

被 告 株式会社トーヘン

被 告 P 1

被 告 P 2

被告ら訴訟代理人弁護士 礒川 正明

同 相内 真一

同 東 重彦

同 礒川 剛志

同 水口 良一

同 寺中 良樹

同 松本 史郎

同 村上 智裕

同 天野 雄介

同 中村 美絵

同 水口 哲也

同 谷岡 俊英

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する(主位的請求・予備的請求)。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由




第1 請求

(主位的請求)

1 被告P2及び被告株式会社トーヘンは,被告P2が原告に在籍中に担当した原告

顧客に対し,平成27年5月20日まで,別紙商品目録記載の商品を販売し,又は

設置工事をしてはならない。

2 被告らは,原告に対し,連帯して300万円及びこれに対する被告株式会社トー

ヘン及び被告P1は平成25年7月27日から,被告P2は同月30日から各支払

済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(被告P2に対する予備的請求)

1 被告P2は,原告に在籍中に担当した原告顧客に対し,平成27年5月20日ま

で,別紙商品目録記載の商品を販売し,又は設置工事をしてはならない。

2 被告P2は,原告に対し,連帯して300万円及びこれに対する平成25年7月

30日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が,主位的には,元従業員である被告P2,及び同被告の就業先であ

る被告株式会社トーヘン(以下「被告トーヘン」という。,被告トーヘンの取締役で


ある被告P1に対し,同被告らが,共同して,被告P2が原告から不正に取得した営

業秘密の開示を受け,被告トーヘンにおいて利用し,もって不正競争防止法2条1項

4号の不正競争行為をしていると主張して,被告P2及び被告トーヘンに対して同法

3条に基づく営業行為の差止め及び同4条に基づく損害賠償(訴状送達時から支払済

みまでの遅延損害金の支払を含む。)を求めるとともに,予備的に,被告P2に対し,

原告と同被告間の雇用契約上の競業避止義務に違反したと主張して,主位的請求と同

様の差止め及び損害賠償を求めた事案である。

1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)

(1) 当事者

ア 原告




原告は,別紙商品目録記載の商品等の販売や設置工事を業とする株式会社で

ある(争いがない)。

イ 被告トーヘン

被告トーヘンは,変減速機の製作販売等を目的とする株式会社である(甲1)。

ウ 被告P2

被告P2は,平成7年4月に原告に採用され,同年7月に正社員となり,電

話装置等のOA機器等の営業職に従事していた。同被告は,平成24年5月2

0日付けで原告を退職し,その後,被告トーヘンに採用された(争いがない)。

なお,被告トーヘンの商業登記上,被告P2は,遅くとも平成17年1月24

日から被告トーヘンの取締役である旨の登記がされている(甲1)。

エ 被告P1

被告P1は,被告トーヘンの取締役である(甲1)。

(2) 原告と被告P2間での文書の作成

原告は,平成20年5月ころ,被告P2に対し,同月17日付けの,「秘密保

持に関する誓約書」(甲3),身元保証を含む「誓約書」(甲4),労働契約書(甲

5)(以下,甲3の文書を「本件誓約書」と,甲5の文書を「本件契約書」とい

う。)に,署名押印を求め,同被告はこれに応じ,同被告作成部分を作成した。

また甲3号証,甲4号証の文書の身元保証人欄には,被告P1名義の署名及び押

印がされている(争いがない)。

本件契約書の第10条には,被告P2が,原告を退職後3年間にわたり,@原

告と競合関係に立つ事業者に,就職もしくは役員に就任すること,A原告と競合

関係に立つ事業者の提携先企業に就職もしくは役員に就任すること,B原告と競

合関係に立つ事業を自ら開業又は設立すること,C原告と競合関係にたつ事業の

顧問もしくはコンサルティング契約をすること,を行わないこととする旨の記載

がある(甲5。以下この記載にかかる合意を「本件合意」という。。


(3) 原告における顧客情報の管理手法




原告は,原告のパソコンにおいて,市販のデータベースソフトウェア(マイク

ロソフトアクセス)を用いて顧客情報を管理しており(以下,そのファイルを「本

件データベース」という。,本件データベースにおいて,顧客の会社名,住所,


電話番号,設置日,種別,機種,金額,担当者,リース利用の有無等の情報(以

下,これを便宜「本件顧客情報」という。)が管理されていた(甲10の1,2)。

(4) 被告トーヘンにおけるOA機器販売事業の開始

被告P2が,被告トーヘンに入社した後,同被告は,OA機器販売事業を始め,

同被告の商業登記上も,平成24年6月11日付けで,同被告の目的に,前記変

減速機の製作販売等に加え,情報機器及びOA機器の販売,同取付工事の目的が

追加された(争いがない)。

2 争点

(1) 被告P2が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に持ち出し,被告トーヘンに

おいてこれが使用されたか(主位的請求原因)

(2) 被告P2が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかどうか(予

備的請求原因)

(3) 原告の被った損害額

3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1) (被告P2が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に持ち出し,被告

トーヘンにおいてこれが使用されたか(主位的請求原因))について

(原告の主張)

営業秘密該当性

原告の営業分野は,OA機器の販売であり,かつリースを使うものがほとん

どであるから,リース期間の終了時期は,取り替え需要を掘り起こす上で極め

て重要であり,有用性非公知性がある。

そして,原告は,被告P2に対し,本件誓約書により,本件顧客情報を含む

価格決定,販売顧客先等の原告の営業上の情報について,秘密の保持を求め,




同被告はその旨誓約しているから,秘密管理性もある。本件データベースの情

報は,すべて秘密指定されているから,本件データベースにパスワード等の措

置がなかったからといって秘密管理性を否定することにはならない。

イ 被告P2が不正に本件顧客情報を取得したこと

被告P2は,原告から退職する直近の1年内に,本件データベースにおいて

管理されている顧客の詳細情報(そのサンプルは甲10号証の2のとおり。)

を,紙媒体に印刷し社外に持ち出し,もって不正に取得した。

ウ 被告らが,本件顧客情報を使用したこと。

被告らは,共謀の上,本件顧客情報を使用し,原告の顧客をことさら選んで

OA機器の販売の営業をしているから,本件顧客情報を使用するものといえる。

エ 前提事実のとおり,原告と被告トーヘンは競争関係にあるところ,被告らの

上記行為は,不正競争防止法2条1項4号に違反するものであるから,同3条

により,侵害行為の差止めを求め,同4条により,後記損害の賠償を求める。

(被告の主張)

営業秘密該当性の反論

原告の主張では,そもそも問題とすべき営業秘密が特定されていない。

また,OA機器販売会社では,新規契約や再契約に結びつくのは,顧客情報

ではなく,販売会社の営業担当者とユーザー会社間の個人的な人間関係であっ

て,顧客情報は,有用性を有しないし,本件データベースは,何らパスワード

の管理がされていないものであり,原告の全従業員が自由に閲覧できるもので

あった上,客観的にこれが秘密として認識されるような可能性もなかった(本

件誓約書は,特に内容を説明せずに一方的にサインされたものにすぎない。)

から,本件データベース内にあるという本件顧客情報も,何ら秘密に管理され

ていない。したがって,本件顧客情報は,不正競争防止法にいう「営業秘密

に当たらない。

イ 取得について




否認する。被告P2は,原告の主張するような行為は一切していない。

ウ 使用について

被告P2は,被告トーヘン代表者が高齢となり,その事業を徐々に引き継ぐ

ために原告を退職し被告トーヘンに戻ったものであり,原告在籍中に担当した

約700社のうち,個人的に関係の深かったユーザー会社三,四十社程度に挨

拶回りをして,原告を退職し,被告トーヘンにおいてOA機器を扱う旨を報告

したことはあるが,何らの営業行為も行っていない。

(2) 争点(2) (被告P2が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかど

うか(予備的請求原因関係))について

(原告の主張)

ア 原告と被告P2間の競業禁止合意とその違反

前提事実(2)記載のとおり,原告と被告P2間においては,平成20年5月

21日付けで,本件契約書において,本件合意をしたにもかかわらず,被告P

2は,原告と競合関係にある被告トーヘンに就職し,原告の従来の顧客への挨

拶回りをして顧客を奪取し,もって原告との競業に及んだものであり,この行

為は上記合意に違反するものである。

イ 本件合意の有効性

本件合意は,3年という時間的限定はあるが,地域的限定も禁止行為の範囲

も代償措置もないので,問題はあるものの,本訴における請求では,被告P2

が担当した顧客に対するOA機器の販売と取付行為に限定し,地域的には大阪

府に限定している。

在職時の顧客は,原告が被告P2に給与を払って担当させた顧客なのである

から,その制限は,合意ある限り十分に合理的である。すなわち,仮に同被告

担当の顧客に対するアクセス権が原告にも同被告にもあるとしても,退職後の

3年に限定して原告にだけアクセス権があるとし,その後は同被告も自由にア

クセスしてよいとするのは,合意を前提とする限り合理的である。またこの結




果同被告の受ける制限は極めて限定的となり,職業選択の制限はない。したが

って,本件合意は,有効である。

ウ よって原告は,被告P2に対し,本件合意に基づき,予備的請求記載の差止

め及び後記損害の賠償を求める。

(被告P2の主張)

ア 本件合意の不成立

本件契約書に本件合意が記載されていること及び本件契約書の成立は認め

るが,原告と被告P2間に本件合意が成立したことは否認する。

被告P2は,平成20年5月ころ,原告から,突然何ら説明もなく乙(被用

者側)が空白となっていた本件契約書を渡され,「今後も勤務を継続したけれ

ば署名押印をするように」と言われたのみであり,その内容については全く説

明を受けていない。

したがって,本件合意は成立していない。

イ 原告の主張する合意の不成立

原告は,大阪府に地域が限定され,禁止行為の範囲が担当顧客への販売・取

付行為に限定された,競業避止義務の合意がされたと主張するが,被告P2は,

原告とそのような個別の合意はしていない。

ウ 本件合意が公序良俗に反し無効であること

競業避止義務を定める合意が有効であるかどうかは,使用者の利益,退職者

の従前の地位,期間,地域,業務内容,対象の制限範囲,代償措置の有無,内

容から検討されるべきである。

しかし,原告は,使用者の利益として,抽象的に現在の顧客を守るためとし

ており,何ら具体的な利益を主張しないし,被告P2は原告では何の役職にも

ついていない営業マンにすぎず,原告の機密情報は一切保有する地位にない。

本件合意は,3年もの長期にわたり,被告P2に情報機器,OA機器の事業自

体に一切かかわることを禁止するものであり,合理的な制限ではない。被告P




2は,在職中に,競業避止義務の対価としての在職中の賃金の増額や機密保持

手当の支給,退職金の増額などの代償措置を一切受けていない。

したがって,本件合意は,公序良俗に反し無効である。

(3) 争点(3) (原告の被った損害額)について

(原告の主張)

被告会社がどこに何をどれだけ売ったかを明らかにするのは,当該事実の性質

上極めて困難であるから,原告は,本訴において,不正競争防止法9条にいう「相

当な損害額」として300万円を主張し,年6分の割合による遅延損害金を付加

した上で,その支払を求める。

(被告らの主張)

原告の主張を争う。原告はいかなる損害が発生したのか全く主張立証していな

いから,不正競争防止法9条の適用の前提を欠く。また予備的請求に基づく損害

は何ら主張していない。

なお,不正競争防止法に基づく損害賠償請求権は,商行為によって生じた債権

とはいえないから,商事法定利率によることはできない。

第3 判断

1 争点(1) (被告P2が,原告の営業秘密に当たる情報を不正に持ち出し,被告トー

ヘンにおいてこれが使用されたか(主位的請求原因))について

(1) 原告は,被告P2が,本件データベースにおいて管理されている顧客情報に

ついて,退職の1年前から退職時までに,これを印刷して持ち帰って取得し,被

告トーヘンにおいて使用したことが不正競争防止法2条1項4号に該当すると

主張するので検討する。

(2) まず,原告は,当裁判所の釈明にもかかわらず,本件顧客情報の内容は,甲

10号証の1,2に記載されたような情報とするのみであり,被告P2が,不正

に取得したとする情報について具体的に特定しない。甲10号証の1には,原告

が取り扱った特定の機種の販売先,住所,電話番号,設置日,種別,機種,金額,




リース利用の有無が記載されており,甲10号証の2は,1件の売上報告書であ

り,特定の会社の住所,連絡先,販売した商品,リースの回数,仕入値,利益等

の情報が記載されてはいるが,これをもって,本件顧客情報の全体が特定された

ものとは到底いえない。したがって,本件顧客情報が不正競争防止法2条6項

いう「営業秘密」に該当するものと評価する前提を欠くというほかない。

この点を措いても,原告は,本件顧客情報が,原告の全従業員が何らの障害な

く閲覧可能な本件データベースに収録されていたことを自認する上,本件顧客情

報のうち原告が問題とする取引先との取引状況(具体的に取引された機種や,そ

のリース期間)は,従業員において,秘密として保持しなければならないとの客

観的認識を生じさせる性質の情報には当たらないから,本件顧客情報が営業秘密

として管理されていたとは認められないというべきである。

さらに,原告は,その主張する被告P2が本件顧客情報を取得した態様も,被

告らの使用の態様も,何ら立証しないし(甲9の1ないし3,11,12によっ

ては到底認めるに足りない。,そもそも,本件顧客情報は,被告P2が,原告在


職中に同被告自身が担当した顧客についての情報であるから,その概要を知って

いること自体は,
「不正の手段」により取得したことに何ら該当しない。そして,

被告らの自認する,被告P2が,原告在職中の取引先のうちの数十社に挨拶をし

たことをもって,本件顧客情報の使用であるということもできない。

(3) 以上によると,本件顧客情報が不正競争防止法にいう営業秘密に該当するこ

と,被告P2が,営業秘密である本件顧客情報を不正の手段により取得したこと,

被告トーヘンにおいてこれが使用されたことはいずれも認められないから,この

点に関する原告の主張は理由がない。

2 争点(2) (被告P2が,退職後の競業避止義務を負い,これに違反したものかどう

か(予備的請求原因関係))について

(1) 前提事実記載のとおり,平成20年5月21日,被告P2が,本件合意が記載

された本件契約書に署名押印したことは争いがないが,職業選択の自由の制限と




なる退職後の競業避止義務が有効であるためには,その合理性を支える事情が必

要となる。

(2) この点,本件合意は,3年間,地域,業務に何ら制限なく,同業者(その関連

企業も含む)への就職や起業,コンサルティング業務等までをも禁止する広汎な

ものであり,およそ情報機器等の販売等に従事すること一切を禁止するものであ

るところ,前記前提事実のとおり,被告P2は単に営業職であったにすぎず,同

被告がこのような競業避止義務を甘受すべき地位,職務にあったとは認められな

いし,また,原告が,同義務を負わせるに十分な代償措置を講じたことなどにつ

いての立証は何らされていない。結局,前記職業選択の自由の制限を正当化する

に足る事情は何ら認められないというべきである。

(3) したがって,本件合意は,その内容に照らし,真意に基づいて合意されたとは

認め難い上に,その合理性を支える事情は何ら認められないから,被告P2に対

して効力がないというべきである。

(4) なお,原告は,訴訟において本件合意をより制限的に主張することによって,

当該限定された部分について本件合意が有効である旨の主張もするが,広汎な競

業禁止規定はそれ自体が公序良俗に反し無効になるのであり,そのような合意の

存在は不当な抑止的効果を持つことを考えれば,訴訟となった後に,制限的に適

用を主張することにより,その部分に限って有効とすることはできないというべ

きである。

(5) 以上によると,原告の,被告P2に対する,競業禁止を規定する本件合意に基

づく請求(予備的請求)は理由がない。

3 結論

以上の次第で,争点(3)を判断するまでもなく,原告の主位的請求,予備的請求は

いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。



大阪地方裁判所第21民事部




裁判長裁判官 谷 有 恒




裁判官 松 阿 彌 隆




裁判官 松 川 充 康





(別紙)



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