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事件 |
平成
25年
(ワ)
20534号
損害賠償請求事件
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別紙当事者目録記載のとおり | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2015/09/11 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
1 被告リブ・コンサルティング(以下「被告リブ社」という。),被告C(以 下「被告C」という。)及び被告A(以下「被告A」という。)は,原告に対 し,連帯して2735万3564円及びこれに対する被告リブ社,被告Cにつ いては平成25年9月13日(被告リブ社及び被告Cに対する訴状送達の日の 翌日)から,被告Aについては平成25年9月19日(被告Aに対する訴状送 達の日の翌日)から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告リブ社,被告C及び被告B(以下「被告B」という。)は,原告に対 し,連帯して8439万9726円及びこれに対する平成25年9月13日 (被告リブ社,被告C及び被告Bに対する訴状送達の日の翌日)から支払済み まで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告リブ社,被告合同会社オートビジネス・コンサルティング(以下「被告 オートビジネス社」という。),被告C及び被告Bは,原告に対し,連帯して 2715万3534円及びこれに対する被告リブ社,被告C及び被告Bについ ては平成25年9月13日(被告リブ社,被告C及び被告Bに対する訴状送達 の日の翌日)から,被告オートビジネス社については平成25年9月27日( 被告オートビジネス社に対する訴状送達の日の翌日)から,支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。 4 被告リブ社,被告オートビジネス社,被告A及び被告Bは,連帯して8億9 042万2233円及びこれに対する被告リブ社及び被告Bについては平成2 5年9月13日(被告リブ社及び被告Bに対する訴状送達の日の翌日)から, 被告オートビジネス社については平成25年9月27日(被告オートビジネス 社に対する訴状送達の日の翌日)から,被告Aについては平成25年9月19 日(被告Aに対する訴状送達の日の翌日)から,支払済みまで年5分の割合に よる金員を支払え。 5 仮執行宣言 |
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事案の概要
1 前提となる事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全 趣旨から容易に認められる事実である。) (1) 当事者 原告は,平成21年5月に株式会社日本エル・シー・エーから会社分割の 方法により設立された,住宅,建設,不動産業界,自動車関連業界,組織開 発,人材育成等に関するコンサルティング事業を行う会社である。株式会社 日本エル・シー・エーは,その後株式会社L’ALBAホールディングス と,さらに平成25年8月に株式会社エル・シー・エー・ホールディングス へと商号変更をした(商号変更の前後を問わず,以下「エル社」とい う。)。原告は,エル社の傘下である株式会社インタープライズ・ホールデ ィングス(以下「IPH」という。)の子会社であり,エル社の孫会社であ る。 被告Cは,平成2年1月にエル社に入社し,平成21年8月に同社取締役 ,平成22年8月には同社代表取締役となった。被告Cは,平成21年8月 から平成25年1月までは原告の代表取締役でもあった。 被告Aは,平成14年4月にエル社に入社し,平成21年5月,同社から 株式分割の方法により原告が設立されるに伴い,原告の取締役,平成22年 5月に専務取締役となった。被告Aは,平成24年7月24日に自らが代表 取締役となって被告リブ社を設立し,同月31日をもって原告の取締役を退 任した。 被告Bは,平成8年4月に訴外日本水産株式会社に入社し,平成17年に 同社を退社した後,エル社に入社し,平成21年5月に原告に転籍して,同 社自動車事業部部長,平成23年に執行役員となった。被告Bは,平成24 年8月6日に被告オートビジネス社を設立し,同月20日をもって原告を退 職し,被告リブ社の取締役に就任している。 被告リブ社は,被告Aが,原告を退職する前の平成24年7月24日,同 人によって設立された資本金300万円の株式会社であり,経営・事業に関 するコンサルティング業務を主たる業務とする。同社の代表取締役は被告A であり,被告Bもまた,原告を退職した後すぐに同社の取締役に就任してい る。 被告オートビジネス社は,被告Bが原告を退職する前の平成24年8月6 日に,同人によって設立された資本金30万円の合同会社であり,被告リブ 社と同様に経営・事業に関するコンサルティング業務を主たる業務とし,被 告Cが原告の自動車事業部の事業部長をしていた経緯から,自動車関連会社 のコンサルティングを行っている。 (2) 各業務委託契約等の締結 ア 原告と被告リブ社,被告B,被告オートビジネス社は,平成24年7月 31日ないし同年12月31日の間に,以下の@ないしGの業務委託契 約(以下「本件業務委託契約@」ないし「本件業務委託契約G」といい, 併せて「本件各業務委託契約」という。)を締結し,このうちC,D, F及びGを除く@ないしB及びEについては債務弁済契約公正証書を作 成した。 @ 被告Cは,原告の代表者として,被告リブ社との間で,平成24年7月 31日,別紙一覧表1記載の内容の業務(各会社に対するコンサルティ ング業務)につき,同年8月1日から別紙一覧表1記載の各会社との契 約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報酬とし て,原告が被告リブ社に対し合計1293万6677円を支払う旨の業 務委託契約を締結した。なお,別紙一覧表の「状況」欄記載のとおり, いずれのコンサルタント契約についても,上記業務委託契約締結当時, 顧客における被告Aに対する個人的信頼が強いことや,コンサルティン グ支援内容の専門性が高く他のコンサルタントでは代替できないことか ら,既に契約締結当時において,被告Aの原告からの退職に伴って中途 解約となる可能性が極めて高いことが指摘されていた。〔甲11の1〕 また,被告A及び被告C(被告Cの代理人としてG〔以下「G」とい う。〕)は,同日,銀座公証役場において,上記金額のうち690万4 065円につき強制執行認諾条項(第5条)付き債務弁済契約を締結し, 債務弁済契約公正証書を作成した。〔甲11の2〕A 被告Cは,原告の代表者として,被告Bとの間で,平成24年7月31 日,別紙一覧表2記載の内容の業務(各会社に対するコンサルティング 業務)につき,同年8月21日から別紙一覧表2記載の各会社との契約 期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報酬として, 原告が被告Bに対し合計1億5345万4049円を支払うことを内容 とする業務委託契約を締結した。〔甲12の1〕 また,被告B及び被告C(被告Cの代理人としてG)は,同日,銀座公 証役場において,上記金額のうち7451万1566円につき強制執行 認諾条項(第5条)付き債務弁済契約を締結し,債務弁済契約公正証書 を作成した。〔甲12の2〕B 被告Cは,原告の代表者として,被告オートビジネス社との間で,平成 24年8月31日,別紙一覧表3記載の内容の業務(各会社に対するコ ンサルティング業務)につき,同年8月21日から別紙一覧表3記載の 各会社との契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し, その報酬として,原告が被告オートビジネス社に対し合計2063万3 285円を支払う旨の業務委託契約を締結した。〔甲13の1〕 また,被告C及び被告Bは,同日,銀座公証役場において,上記金額の うち1628万7574円につき強制執行認諾条項(第5条)付き債務 弁済契約を締結し,債務弁済契約公正証書を作成した。〔甲13の2〕C 被告Cは,原告の代表者として,被告リブ社との間で,平成24年9月 30日,別紙一覧表4記載の内容の業務(各会社に対するコンサルティ ング業務)につき,同年9月21日から別紙一覧表4記載の各会社との 契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報酬と して,原告が被告リブ社に対し合計635万7881円を支払う旨の業 務委託契約を締結した。〔甲14〕D 被告Cは,原告の代表者として,被告リブ社との間で,平成24年10 月31日,別紙一覧表5記載の内容の業務(各会社に対するコンサルテ ィング業務)につき,同年10月21日から別紙一覧表5記載の各会社 との契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報 酬として,原告が被告リブ社に対し合計1021万6409円を支払う 旨の業務委託契約を締結した。〔甲15〕E 被告Cは,原告の代表者として,被告オートビジネス社との間で,平成 24年11月26日,別紙一覧表6記載の内容の業務(各会社に対する コンサルティング業務)につき,同年11月21日から別紙一覧表6記 載の各会社との契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託 し,その報酬として,原告が被告オートビジネス社に対し合計2873 万6778円を支払う旨の業務委託契約を締結した。〔甲16の1〕 また,被告C及び被告Bは,同日,銀座公証役場において,上記金額と 同額につき強制執行認諾条項(第5条)付き債務弁済契約を締結し,債 務弁済契約公正証書を作成した。〔甲16の2〕 F 被告Cは,原告の代表者として,被告リブ社との間で,平成24年11 月30日,別紙一覧表7記載の内容の業務(各会社に対するコンサルテ ィング業務)につき,同年11月21日から別紙一覧表7記載の各会社 との契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報 酬として,原告が被告リブ社に対し合計1132万4176円を支払う 旨の業務委託契約を締結した。〔甲17〕 G 被告Cは,原告の代表者として,被告リブ社との間で,平成24年12 月31日,別紙一覧表8記載の内容の業務(各会社に対するコンサルテ ィング業務)につき,同年12月21日から別紙一覧表8記載の各会社 との契約期間満了日まで原告が被告リブ社に対しこれを委託し,その報 酬として,原告が被告リブ社に対し合計889万8611円を支払う旨 の業務委託契約を締結した。〔甲18〕 イ 原告は,上記アに基づき,被告リブ社らに対し,業務委託報酬の支払を した。 (3) 本件と関連する別件訴訟の概要 ア 東京地裁平成25年(ワ)第3091号損害賠償請求事件(以下「別件 訴訟1」という。) 被告A,被告Bが原告となり,本件原告及びエル社を被告として訴えた 名誉毀損損害賠償請求訴訟である。 被告Aらは,平成25年1月17日に,原告の当時の代表者であったD (以下「D」という。)が,原告の従業員らに対し,メール(以下「本 件メール」という。)により,@被告Aらが持株会を通じて原告の株式 を取得するに当たり背任罪又は特別背任罪に当たる行為に関与したとい う事実を摘示し(以下「摘示部分1」という。),A被告Aらが原告に 在職中に同社の従業員らに対し被告リブ社に移籍するよう促したという 事実を摘示し(以下「摘示部分2」という。),B被告 Aらが正しい情 報を提供せずに被告リブ社へのコンサルティング契約の切替えを依頼し たとの事実を摘示し(以下「摘示部分3」という。),C被告Aらは許 諾の範囲を超えて原告の著作物を利用しているとの事実を摘示し(以下 「摘示部分4」という。),これにより被告Aらの社会的評価を低下さ せたとして,名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償として, 原告及びエ ル社に対し連帯して,それぞれ550万円及び遅延損害金の支払を求め たものである。 平成26年11月11日,東京地裁は,@摘示部分1ないし4はいず れも被告Aらの社会的評価を低下させるものであるが,公共の利害に関 する事実であり専ら公益を図る目的であったと認められる,A摘示部分 1,同3については重要な部分において真実であることの証明があり, 意見や論評の域を逸脱したものともいえない,B摘示部分2,同4につ いては重要な部分において真実であることの証明があったとはいえず, 真実と信じたことにつき相当の理由があるともいえないとして,被告 A 及び被告B各自に対し,本件原告,エル社において連帯して55万円及 びこれに対する遅延損害金の支払を命じる判決をした。〔乙イ26〕 これに対し,上記事件被告である本件原告,エル社が控訴したが(東京 高裁平成26年(ネ)第6444号損害賠償請求控訴事件),東京高裁 は,平成27年3月31日,控訴棄却の判決をした。〔乙イ28〕イ 東京地裁平成25年(ワ)第16785号業務委託料等請求事件(以下 「別件訴訟2」という。) 被告リブ社が原告となり,本件原告に対して業務委託料等の支払を請求 した事件である。 2 事案の概要 本件は,原告が,原告の代表取締役であった被告Cは会社のため善管注意 義務ないし忠実義務を負い,被告Aも原告の専務取締役として被告C同様の 義務を,被告Bも原告の執行役員として被告C及び被告A同様の義務を負っ ていたところ,本件各業務委託契約については,各契約締結の相手方である 被告リブ社ないし被告オートビジネス社,及び,同社の代表者である被告A ないし被告Bの利益を図る目的のもとに,被告Aないし被告B,及び,これ らの者と契約を締結した被告Cらで共謀の上,被告Aないし被告B,及び, 被告Cは上記義務に背き,原告に帰属すべき利益を被告Aないし被告Bに不 法に帰属させ,あるいはその利益を図り,被告リブ社ないし被告オートビジ ネス社へ利益を還流させる目的をもって本件各業務委託契約等を締結して原 告に損害を与える共同不法行為を行ったところ,原告の損害額は,本件各業 務委託契約に基づく業務委託料債務の55%相当額であるとして,原告に対 し,(1)被告リブ社,被告C及び被告Aは,本件業務委託契約@,C,D,F 及びGについての共同不法行為に基づく損害賠償として合計2735万35 64円の支払義務があり,連帯して同額及びこれに対する民法所定の年5分 の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨第1項),(2)被告リブ社,被 告C及び被告Bは,本件業務委託契約Aについての共同不法行為に基づく損 害賠償として8439万9726円の支払義務があり,連帯して同額及びこ れに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨 第2項),(3)被告リブ社,被告オートビジネス社,被告C及び被告Bは,本 件業務委託契約B及びEについての共同不法行為に基づく損害賠償として合 計2715万3534円の支払義務があり,連帯して同額及びこれに対する 民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨第3項), (4)被告A,被告Bは,共謀して,原告のノウハウ,顧客情報等の営業秘密を 不正に取得して使用し,原告所属のコンサルタントに対する引き抜き行為を 行い,原告のそれとほとんど同じパンフレットや印刷物を作成・頒布し,あ るいは,原告の社歴を被告リブ社あるいは被告オートビジネス社の説明に引 用するなどして,その顧客に対し,既存の業務委託契約について原告を外し て被告リブ社ないし被告オートビジネス社との間の直接契約に切り換えさせ, あるいは,原告との契約更新時にあたかも原告の社名が被告リブ社ないし被 告オートビジネス社へ変更されたかのごとく説明するなどし,その結果誤認 した顧客をして契約を締結させ,もって,被告A,被告B,被告リブ社及び 被告オートビジネス社が利益を上げ,原告に対し8億9042万2233円 の損害を与える不正競争行為(不正競争防止法〔以下「不競法」という。〕 2条1項4号)ないし共同不法行為を行ったとして,損害賠償として,連帯 して同額及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を(請求の趣旨第4項),それぞれ求めた事案である。 3 争点 (1) 本件各業務委託契約の締結が不法行為に当たるか (2) 被告らによる営業秘密の使用等の不正競争行為ないし共同不法行為の成否 (3) 損害発生の有無及びその額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件各業務委託契約の締結が不法行為に当たるか)について 〔原告の主張〕 (1) 被告C,被告A及び被告Bは,業務内容,事業地域からして原告と明確に 競合関係に立つ新会社である被告リブ社,被告オートビジネス社を設立し, 原告が得るべき利益を不法に得ようと考えて,原告がコンサルティング契約 に基づき委託会社から受領する金額のうち利益の95%相当額を,被告B, 被告A,及び同人らが代表取締役を務める被告リブ社,被告オートビジネス 社へ支払う旨の本件各業務委託契約を締結したばかりか,その一部につき利 益を確実に帰属させるために強制執行認諾条項付き公正証書を締結すること を合意した。 被告Cは,原告の代表者として原告の利益を追求し自社に損害を与えるこ とのないよう業務を執行しなければならないのに,被告A及び被告Bととも に上記行為に及んだことは,原告に対する不法行為である。 以上のとおり,上記被告らの行為は,共同不法行為に該当する。 (2) 被告Aと被告Cは,原告においては,原告から独立した従業員との間で業 務委託契約を締結する場合,その業務委託料は基本的に粗利の40%までの 範囲で定めており,粗利の95%の料率は法外な金額であることを十分に認 識していた。なお,上記金額が法外な金額であることは,そもそも算定根拠 となる粗利額には,外注費が控除されているものの,原告側において負担す る販売費(販売促進費・広告費等)及び一般管理費(人事・経理・役員など の人件費,人事・経理・役員等が入居する事務所を運営するための費用〔光 熱費,家賃,減価償却費等〕租税公課,福利厚生費,通信費等)が一切控除 されていないことからも明らかである。 〔被告らの主張〕(1) 原告の主張については,否認ないし争う。 (2) 被告リブ社の代表取締役である被告Aは,原告の専務取締役の任に当たっ ていたが,独立してコンサルティング会社である被告リブ社を設立すること を決意し,エル社及び原告との間で,エル社を実質的に支配していたE(エ ル社の元代表取締役であるDの実子。以下「E」という。)を介して退職に 当たっての条件について協議した。そして,エル社と被告Aは,その協議に おいて,平成24年6月下旬ころまでに,以下のような認識を共有するに 至った。 @ 原告の業務について中心的な役割を果たしていた被告Aが退職すること になれば,原告の他のコンサルタントらも退職の意向を表明する可能性が 高い。 A 被告Aの退職と同時期に原告の他のコンサルタントらが大量に退職する ような事態となった場合,コンサルティングサービスの特殊性に鑑み,原 告が顧客の大半を喪失してしまうおそれがあり,ひいてはエル社が上場廃 止基準に抵触するおそれがある。 B そこで,仮に,原告のコンサルタントらが大量に退職するような事態と なったとしても,エル社の上場が維持できるよう,顧客と原告とのコンサ ルティング契約は維持し,被告Aや他の退職するコンサルタントらにコン サルティングサービスの業務委託(再委託)をするという形をとって,原 告に売上が計上されるようにした方がよい。 C そのためには,退職するコンサルタントらが他のコンサルティング会社 に就職するなどして拡散してしまうことのないよう,相当の業務委託料 (再委託料)を支払うことを提示する必要がある。 以上のような認識に基づき,エル社が,原告に,同月29日,コンサルタントらに対して被告Aが退職することになった経緯等に関する説明会を開催させたところ,原告のコンサルタントらの大半は,同年7月下旬までに,被告Aと行動を共にしたいと希望した。 この大量の退職意向を受け,エル社は,その顧問弁護士らから,退職を希望するコンサルタントらの退職時期をできるだけ遅らせるよう努力すべきであるなどと助言されたこともあって,原告の当時の代表取締役である被告Cや,被告Aらに,退職を希望するコンサルタントらのうち,自動車コンサルティング事業部のコンサルタントらには平成24年8月20日まで,異業種コンサルティング事業部のコンサルタントらには同年11月20日まで,住宅・不動産コンサルティング事業部のコンサルタントらには平成25年2月20日まで,それぞれ原告に在籍してもらいたいと説得させた。 そうしたところ,退職を希望するコンサルタントらの大半は,そのような退職時期を受け入れることとなった。 (3) その後,被告Aは,平成24年7月31日付けで,原告の取締役を辞任し, 退職することとなったが,前記の共通認識に基づき,原告と,被告Aが設立 した被告リブ社との間で,被告Aがコンサルタントとして関与していた顧客 に対するコンサルティングサービスについて,業務委託契約が締結されるこ ととなった。その際に作成された確認書(乙イ3)には,被告リブ社が受け 取る業務委託料についても明記されており,その内容は事前にエル社及び原 告の各取締役会が確認し,エル社の顧問弁護士らによる監修も経たもので あった。 このように,エル社及び原告の代表取締役である被告Cが,単独決済に より被告リブ社との業務委託契約を締結したものではない。また,その後に, 原告と被告リブ社らとの間で締結された本件各業務委託契約の内容も,前記 確認書(乙イ3)の内容に沿ったものにすぎない。 このため,原告の当時の代表取締役である被告Cと被告Aらが共謀して, 原告に損害を与えることを知りながら,原告と被告リブ社とが顧客から受注 した契約の利益の95%相当額を被告リブ社等へ支払わせる旨の業務委託契 約を締結したなどということはない。 以上のような経過を経て,被告リブ社は,原告の顧客に対するコンサル ティングサービスを行うこととなったものであり,本件各業務委託契約の締 結が不法行為に当たることはない。 2 争点(2)(被告らによる営業秘密の使用等の不正競争行為ないし共同不法行 為の成否)について〔原告の主張〕 (1) 原告の顧客情報は,以下のとおり営業秘密に該当するからその使用等に ついて不正競争行為が成立するか,少なくとも不法行為に該当する。 ア 秘密管理性 原告の顧客情報は,それぞれの従業員がパスワードでアクセスを行うものであり,秘密として管理されている。 そのうえ,原告では,重要な顧客情報のほとんど全てを顧客とのコンサルティング業務委託契約に基づいて取得するところ,個々の従業員は,当該情報をコンサルティング業務の遂行に必要な限度で使用・利用することが許されているにすぎないことから,当然に顧客から与えられた情報が秘密保持の対象となるべきものであることを認識している。そして,業務委託等により原告以外の第三者に対して業務が再委託されて顧客情報を開示する必要がある場合には,当該業務委託先とは秘密保持条項の記載のある業務委託契約書を締結することにより原告から限定的に開示されることになるのであるから,これにアクセスする者は,少なくとも原告の顧客情報が秘密として管理されていることを認識していることは疑う余地がない。 したがって,原告の顧客情報は,秘密として管理されている。 イ 有用性・非公知性 原告の顧客情報が事業活動に使用・利用されるものであることは明ら かであるから,有用性を有し,かつ顧客情報は,原告従業員において守 秘義務の対象となり,原告から業務委託を受ける第三者もまた原告に対 して守秘義務を負うことからすれば,非公知性も認めることができる。 ウ 不正使用・開示行為 被告A及び被告Bは,原告が保有する営業秘密を,将来的に被告リブ 社及び被告オートビジネス社で使用・利用して,原告の顧客を奪い取る 意思を以って取得した。そして,被告A及び被告Bは,原告の取締役な いし執行役員として原告との関係で守秘義務を負う立場にありながら, 入手した原告の顧客情報を利用し,当該顧客とのコンサルティング業務 委託契約を原告から契約当事者を移行させるなどして,予め設立した被 告リブ社及び被告オートビジネス社を通じて不正な利益を得ており,ま さに営業秘密の不正な「使用」,「開示」を行っている。 エ 共同不法行為 上記被告らの行為につき,仮に不競法に定める不正競争に該当しな かったとしても,被告らの行為が原告に対する不法行為を構成すること は明らかである。 (2) 被告らによるその他の不法行為 ア 原告のコンサルタントの大量引き抜き 被告Aと被告Bは,共謀のうえ,被告Aが設立する被告リブ社へ原告の コンサルタントのあらかたを一斉に引き抜き,不法に被告リブ社らの利益 を図る目的で,Bらと共に,平成24年6月29日のコアデイ(いわゆる 全社会議の日)の前(同月18日から同月28日までの間)に原告のコン サルタントらを統括する地位にある部長やマネージャーと面談し,引き抜 きに向けた根回しを行った(甲32の1,2,甲35の2)。 そして,被告Aは,同月26日,被告Aらの意図を了知した被告Cと事 前のすり合わせを行ったうえで(甲35の2),同月29日のコアデイに おいて,原告のコンサルタントらに対して,「L’ALBAホールディン グスに原告の株式を返還することになったが,経営コンサルティング事業 を知らない株主や経営陣がコンサルティング事業をできるはずもないため, 原告の株式を返還することで原告の存続が危ぶまれる」,「今後も経営コ ンサルティング事業を存続させるのであればAが独立してコンサルティン グ事業を引き継ぐしかない」,「原告からリブ社へ売上金額の95%で業 務委託契約を結んでいる。これは公正証書をまいているから問題がない」 旨を説明し,原告のコンサルタントの不安をあおるとともに,あたかも原 告やエル社が被告リブ社と業務委託契約書を締結することを承諾している かのように誤信させて,被告リブ社への移籍を勧誘した。 その後も,被告Aらは,原告のコンサルタントが被告リブ社へ移籍する ように,それぞれの意向を把握しながら,移籍を明確に述べないコンサル タントについては個別に面談するなどして根回しを行い(甲34の1), その結果,平成24年7月27日ころ,原告のコンサルタント59名のう ち57名が原告を退社する意向を示し,その後の最終確認でも,原告のコ ンサルタントの49名が原告を退社する意向を示し,同人らは,被告リブ 社へ直接または被告オートビジネス社を経由して被告リブ社へ移籍し,あ るいは,原告を退社して被告リブ社から業務を請け負うこととなった。 これにより,原告は,最も重要な財産である人材を大量に喪失し,コン サルティング事業の縮小を余儀なくされ,原告の顧客から業務委託契約を 解約されるなど,多大な損害を被った。他方,被告リブ社は,その設立者 である被告Aらの行為によりコンサルタントという重要な財産を不法に得 た。 被告A及び被告Bの上記引き抜き行為は,@原告のコンサルタントのあ らかたを一斉に引き抜こうとしたこと,A被告A及び被告Bは原告の専務 取締役等に在任中,かかる引き抜き行為に及んでいること,B綿密に計画 を立てたうえで,秘密裏に引き抜き行為に及び,被告オートビジネス社を 経由させるなどの工作をしていること,C最終的に原告のコンサルタント 59名のうち49名が原告を退職するに至ったが,引き継ぎ業務が行われ なかったこと,D原告のコンサルティング事業は部門を整理し,大幅に縮 小することを余儀なくされたことなどからすると,社会的相当性を逸脱し, 不法行為が成立することは明らかである。 イ 原告の著作物の利用又は虚偽の情報提供等による原告の顧客の奪取 被告A及び被告Bは,被告リブ社のパンフレットとして原告のものと酷 似したパンフレットやホームページを作ると共に,平成24年8月ころか ら公開したホームページ上においては,原告の支援実績を被告リブ社での 実績のように示し(甲19の1ないし甲23の2),被告リブ社が原告を 承継したかのような表現で紹介したり,原告の支援実績やコンサルティン グ事例を,被告リブ社での実績のように示したりした。 また,原告では,平成22年1月から「めざましコラム」や「SSレポ ート」を作成して原告の顧客等へ配布していたところ(甲24の1,2, 甲26の1),被告リブ社はその続き番号から「めざましコラム」や「S Sレポート」を作成し,被告リブ社設立前のものも自社作成のものとして 原告の顧客等へ配布し(甲25の1,2,甲26の2),原告が被告リブ 社へ移行したのではないかと誤認させた。 さらに,被告リブ社とエル社及び原告とは資金関係はなく,原告の事業 の分離や譲渡等も行った事実がないにもかかわらず,被告A及び被告Bは, 平成24年8月1日ころより,原告の顧客に対して,「エル社の株式処理 などで融通を利かせたのでエル社から承諾を得て,原告の事業部門を分離 独立して被告リブ社を設立した。」などと,あたかも正式に事業譲渡がな されたかのような虚偽の事実を述べて,原告の顧客に対して,原告から被 告リブ社へ契約を切替えるように依頼した(甲35の4,甲38〜40, 42)。 被告A及び被告Bは,これらの行動により,原告の顧客らをして被告リ ブ社を原告と誤認混同させ,被告リブ社への契約切替えまたは被告リブ社 との新規契約締結をさせるに至り,原告に財産上の損害を生じさせた。他 方,被告リブ社は,不法にコンサルティング業務委託報酬という財産を得 たものであるから,被告らには不法行為が成立する。 〔被告らの主張〕(1) 不正競争行為につき 情報に秘密管理性が認められるためには,当該情報にアクセスできる者 を制限する(アクセス制限)とともに,同情報にアクセスした者にそれが 秘密であることが認識できることが必要であるところ,原告の主張する顧 客情報は,原告の従業員であれば,誰でもアクセスできる情報であったし, 顧客情報が他の情報と区別して秘密であることが認識できる状態にあった とは認められない。 原告の主張する顧客情報には秘密管理性が認められない。 (2) 共同不法行為につき 本件各業務委託契約の締結に至る過程は上記1〔被告らの主張〕記載のと おりであり,被告らにおいて,原告のコンサルタントの引き抜きを行った事 実はない。 また,被告Aと被告Bが,被告リブ社を原告と誤認混同させるような言動 に及んだことはないし,エル社及び原告の各取締役会の承諾を得ていた範囲 を超えて,原告において使用していた印刷物等を作成・頒布したこともない。 もとより,被告リブ社にとって,財務状況が著しく悪いエル社の子会社であ る原告と誤認されることにはデメリットしかなく,被告リブ社は,逆に,原 告との資本関係等がないこと等を強調して説明していたものである。 一方で,平成24年8月9日にエル社の代表取締役に就任したDも,前記 のような経過を把握した上で,コンサルティングサービスに代わる新しい事 業である不動産投資事業をエル社の傘下に置き,同事業に全力を傾けないと いけない旨述べていた。ところが,エル社は,平成25年1月16日,Dを 原告の代表取締役に就任させた上で,突如として被告リブ社との業務委託契 約等を一方的に解約するとともに,退職を希望していたが平成25年2月2 0日までは説得により原告に留まることとなっていたコンサルタントらの退 職の意思表示を撤回させ,さらには,既に被告リブ社に入社していたコンサ ルタントらを呼び戻そうと目論んで,原告の従業員約30名及びエル社の子 会社である株式会社COSMOの従業員約20名,並びに被告リブ社のコン サルタントら約30名に対して,虚偽の事実をもって被告Aらの名誉を毀損 する本件メールを一斉送信した。エル社側がこのような不法行為に及んだの は,Dら経営陣が,コンサルティングサービスを継続するための努力を怠り つつ,それに代わる新しい事業をエル社の傘下に置くことにも失敗したこと を誤魔化し,株主代表訴訟が提起されるのを免れようとしたためである。 なお,原告は,被告リブ社との業務委託契約等を一方的に解約しながら, 顧客に対してコンサルティングサービスを提供する陣容を整えていなかった ため,原告の顧客へのコンサルティングサービスは,被告リブ社において継 続することを余儀なくされた。 以上のとおりであり,被告らにおいて不法行為を行ったことはない。 3 争点(3)(損害発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 本件各業務委託契約に関連する不法行為に基づく損害 コンサルティング業務の委託において,通常の業務委託契約であれば,そ のコンサルタント・フィーはどんなに多く見積もっても40%を超えること はないから,その差額分,すなわち,被告らの共謀によって95%もの業務 委託料の支払を余儀なくされたことによって,通常の業務委託料率40%と の間に生じた差額分55%相当額については,原告が被った損害であると認 められる。 これらを,本件各業務委託契約の各当事者及び被告Cらにおいて,連帯し て,請求の趣旨第1項ないし第3項記載のとおり支払うことを求める(請求 の趣旨第1項ないし第3項)。 (2) 不正競争行為ないし共同不法行為による損害 前記のとおり,被告らは,原告における自動車部門,韓国部門,住宅部門, SS(サービスステーション)部門及び事業・人材開発部門に所属する従業 員のほとんど全員を引き抜き,原告の同事業部門を事実上閉鎖に追いやった。 これは,被告リブ社あるいは被告オートビジネス社を原告と混同させて原告 の下にある顧客との契約関係を奪い取り,その利益を独り占めにせんとする ものであって不正競争に当たることは多言を要しない。これにより,原告は, 主要な売上・利益をほとんど喪失しており,グループ全体においても会社存 亡の危機に直面している。 その損害の算定については,原告の各事業部門における過去3年の実績の 平均値を取ると,自動車部門1億0165万6196円,韓国部門2737 万2391円,住宅部門1億3646万4963円,SS部門2161万7 501円及び事業・人材・組織開発その他の部門969万6360円の営業 利益が計上されているから,これを基にすれば,どんなに少なく見積もって も,原告においては近接した将来の3年間は同程度の利益が計上されたこと は疑いない。 したがって,原告の各部門の1年間の営業利益の合計額の3年分に相当す る8億9042万2233円が原告の損害というべきであり,これを被告ら において連帯して支払うよう求める(請求の趣旨第4項)。 〔被告らの主張〕 いずれも否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 証拠(甲1〜64,乙ア1〜20の2,乙イ1〜29,証人F〔以下「F」 という。〕,被告C,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認 められ,この認定を左右するに足る的確な証拠はない。 (1) エル社は,平成20年頃に債務超過に陥り,資金調達に苦慮した結果,エ ル社の保有する原告の株式に譲渡担保権を設定するに至った。これが実行さ れた結果,原告の発行済み株式の過半を第三者が保有するに至り,原告の経 営に不安を感じた当時のエル社幹部及び被告Aらが協議し,原告の役員であ る被告C,被告A,被告Bらにおいて,平成22年9月に役員持株会を設立 した上で,第三者が保有する原告の株式を,当時エル社と関係が深かった Hill&Partners株式会社を通じて買い戻し,同持株会で原告の株式の60%を 保有することとした。〔乙ア19,乙イ1,乙イ12〕(2) しかし,平成24年2月頃までに,前記原告の役員による持株会設立ないし 株式保有を巡って,被告Aとエル社との間で対立が生じ,エル社からはEが 派遣されて被告Aらとの調整に当たってきたが,その後も調整が難航したた め,同年6月頃には,被告Aは,原告を退職し取締役も退任する決意をする に至った。 (3) 平成24年7月頃,当時エル社の監査役であったFは,E,Gとともに,原 告と被告Aとの間での退職の交渉にA与するようになった。なお,Fは,平 成26年3月には,原告の代表取締役に就任している。〔甲63〕(4) 平成24年5月頃における原告の状況について,エル社の顧問弁護士である 紀尾井町法律事務所所属尾崎純理弁護士(以下「尾崎弁護士」という。)は, 同年10月9日付け「Aとの合意に関する報告書」と題する書面(以下「本 件報告書」という。)において,エル社と被告Aとの交渉は「Aの退職・社 員の大人数の退職可能性・業務委託契約を行って売り上げを維持することを 前提として交渉が進められた。」と記載し,「Aの取締役としての競業避止 義務を理由に,Aの新会社とIPC(判決注;原告)取引先との契約をさせ ない方向も検討されたが,すでにAがやめる方向での調整が行われており, 会社もそれを認める方向で進めたいとの意向であること,A以外の社員に競 業避止義務を求めることは難しいこと等から,最終的には,契約の範囲を特 定することによって,その限りで競業避止義務を解除し,Aに退職してもら う方向で調整することとなった。IPCとクライアントとの現存する契約に ついての契約期間満了後の扱いについては,最終的にはクライアントの意思 に任せることとなったが,仮に契約満了後に再度契約が取れなかったとして も,2年間は上場維持のための売り上げが確保できることになっているとの 説明がされていた。」,「また,社員の大半がやめる可能性があることは, 本業が空洞化することから問題ではないかとの検討もされたが,社員流出は 止められない状況とのことだった。そこで,一斉にやめるのではなく,段階 的にやめるような調整をおこなうことで,時間的猶予を得て,その間に社員 への説得を図ったり,別の社員を入れる等の調整を図ることで対応せざるを 得ないこととなった。また,社員がばらばらにやめることは,IPCとクラ イアントとの契約が履行できない結果となり,その損害賠償等を考えると避 けるべきであるとの判断から,社員はやめるとしてもある程度まとまってい てほしいとのラルバの意向もあった。」と記載した。〔乙イ2〕(5) E,D,Fらも出席した平成24年6月4日の原告における定時取締役会に おいて,被告Aに対して原告としては慰留を行ってきたが同人の退職の意向 が強く,Eと被告Aとの面談を設定すること,原告の新役員体制を決定する ことが確認された。〔乙ア13〕 そして,Eと被告Aとの更なる協議の結果,被告Aは,役員持株会の保有 する原告株式をエル社に戻す(譲渡する)のであれば,原告を退職する意向 を明確にした。これを受けて,Eらは,被告Aが退職すると原告の多くの社 員が退職してしまう可能性が高いところ,その場合には「上場会社が事業活 動を停止した場合又はこれに準ずる状態になった場合」との上場廃止基準に 抵触するところから,Eらは,被告Aとの間で,原告の社員が大量退職する 事態が起こったとしても,原告の上場が維持できる方法を協議することとし た。〔乙イ1,乙イ11〕(6) 平成24年6月29日,原告の全社員(ただし,後記のとおり,出席できな かったコンサルタントが数名存在した)を集めた会議(コアデイ)が開かれ, 同会議において,被告Cは,被告Aとともに,被告Aが同年7月末をもって 退職することとなった経緯及び原告の役員持株会の保有する株式がエル社に 引き継がれることとなることについて説明した。 また,被告Bにおいて,コアデイに参加していない者(自動車事業部のコン サルタントである古川裕康ほか2名)に対する説明を行うためのフォローリス トも作成し,これらの者に対して同旨を伝えた。〔乙イ5の1〜乙5の6,乙 イ10,乙イ21〕 なお,Dは,被告Bが作成した「120629コアデイ参加者リスト」の同 年7月2日における進捗状況のファイルにつき,後にこれをDにおいて再度保 存するに当たり,「【根回し状況一覧】」とのタイトルを付加して保存した。 〔甲34の1,乙イ5の2,乙12〕(7) 平成24年7月2日の定時取締役会において,Eらは,被告Aの退任を受け た原告における新たな役員体制について話し合った。〔乙ア15〕(8) 平成24年7月25日頃,原告に所属するコンサルタントに対しアンケート が行われたところ,多くのコンサルタントが被告Aと同時期に退職する意向 を示した。コンサルタントの意見の中には,多くの企業がコスト削減に注力 している中でコンサルタント業務にお金を払うのは,そのコンサルタントを 信頼しているからであり,被告Aらが退社した後に原告に将来性を感じるこ とができない,とするもの(乙ア14の1),原告は「7割位がAさんの影 響力で成り立っていると感じるのにそのAさんが経営を外れるという意志決 定が,現場では理解しかねる。」として被告Aと行動を共にするとするもの (乙ア14の3),「クライアントや社員とのスタンス・方向性が分からな い人,ここまで経営を事実上してきたAさんを出さざるを得ない組織の下で やっていくことにクライアントや社員の事を考えると出た方が良いと考え る」,「事実上の事業運営者であったAさんを出さざるを得ないという意思 決定が理解出来ません。」とするもの(乙ア14の7),「何の実績もない 新会社の方が,経営への意志反映ができない今のL’ALBAより魅力を感 じるから」とするもの(乙14の8),「会社ブランドに引かれた(判決注 ;ママ)わけでも,ノウハウに引かれた(判決注;ママ)わけでもない」と して被告Aと共に同年8月1日をもって退社する意志が固いとするもの(乙 ア14の11),長期安定した株主構成を期待できない状況からは早期に離 れたい,過去の4ないし5年の変動ぶりはクライアントに不安を与え続けた, とするもの(乙イ16の2),当時の状況で原告の株式を100%エル社が 保有することとなると,事業の成長を推進すること,クライアントの支援, 社員の生活を守ること等に疑問が残る,とするもの(乙イ16の2)などが ある。 (9) 平成24年7月24日,被告Aは自らが代表取締役となって被告リブ社を 設立した。 この被告リブ社の設立について,尾崎弁護士は,本件各業務委託契約につき 「本スキームは事業譲渡であるとして,対価を算定すべきとの意見もあった が,Aとの合意のみを見れば,総会決議が必要な事業譲渡ではないと判断。」 としている。〔乙イ25〕 そして,同月27日にエル社の支配株主であり債権者でもあるH(以下「H」 という。)から,同月末日までに原告の株式を被告Aらの役員持株会がエル 社に譲渡しないのであれば,刑事告訴をするとの強い申し入れがあり,エル 社及び原告としては,同月末までに役員持株会の原告の株式をエル社に戻す (譲渡する)ことを最優先課題とせざるを得なくなった。仮に被告Aとの合 意ができないままで被告Aが原告を退社した場合,原告の株を役員持株会が 保有したままで社員の大半が退社することになり,その結果,原告と顧客と の契約は債務不履行となってしまい損害賠償請求を受けるほか,原告の活動 がほぼできなくなる事態が予想された。〔乙イ2〕 なお,Fは,後記同年9月13日のエル社役員のミーティングにおいて,上 記Hの申し入れを「Hさん事件」と表現し,被告A以外のコンサルタントと の間での退職条件を調整中にこれが起きたため他のコンサルタントの退職に 関しても被告Aに関するものと同様の契約を結ばざるを得なかった旨を述懐 している。〔乙ア16,乙イ12〕(10) 平成24年7月31日,原告とリブ社,原告と被告Bは,本件業務委託契 約@及びAを締結し,その際,被告Aの要望で,同業務委託契約に関し公正証書が作成された。そして,被告Aは同日原告の取締役を退任した。Fらにおいても,遅くともその頃までには,被告Bも退職予定であることを認識していた。〔証人F〕 また,同日付けで,被告A,エル社,原告,エル社の親会社であるIPH(株式会社インタープライズ・ホールディングス)との間(エル社,原告,IPHの代表者はいずれも被告C)で,「確認書」(以下「本件確認書」という。)が作成された。本件確認書の第6条において,本件確認書の当事者間において,被告Aが原告及びIPHに在籍中に業務として作成した著作物(経営レポート,提案書,及びコンサルティング資料等)の知的財産権は原告又はIPHに帰属することを確認した上で,原告及びIPHは,被告A又は被告Aの設立した被告リブ社による当該著作物の使用を許諾する旨が定められた。また,本件確認書の内容は,エル社,原告及びIPHに在籍中の各取締役会も確認の上のものであるとして確認書の署名押印がされ,Fもその内容を了解している。〔乙イ3,甲63〕 同日付けで,原告と,原告の社員でコンサルタントである,I及びJとの間でも,それぞれ,同人らが同年8月20日をもって原告を退職する(第1条)とした上で,被告Aとの間の本件確認書とほぼ同内容の確認書(以下「本件確認書」と併せ,「本件確認書等」という。)が締結された。原告とIらとの確認書には,それぞれ,本件業務委託契約Aの別紙と同一の別紙が添付されている。〔乙イ18の1,2〕 なお,本件業務委託契約Aは自動車関連事業を営む顧客を対象とするコンサルティングに関するものであり,同契約においては,「協業者」として,被告Bと共に委託業務を遂行する原告社員が13名指名されている。〔甲12の1,第1条,別紙1〕 また,本件業務委託契約@については平成25年1月末日分までの,本件業務委託契約Aについては平成25年8月末日分までの業務委託報酬につい て,強制執行認諾条項付きの公正証書が作成された。〔甲11の2,甲12 の2〕(11) 平成24年7月31日,役員持株会の保有する原告の株式について,エル 社に対する譲渡がされた。その結果,原告の株式はエル社が100%保有す る状態となった。〔乙イ1,18頁〕 同日以降も,被告Aらは,本件各業務委託契約に基づく委託事務を行うた め,原告の事務所の一部を借りることで家賃・清掃料・電気料の一部を負担 するほか,事務用品の費用も負担することとなった。〔乙イ1,乙イ6〕(12) 被告Bは,平成24年8月6日に被告オートビジネス社を設立し,同月2 0日をもって原告を退職し,被告リブ社の取締役に就任した。 そして,同月20日,原告のコンサルタントのうち21名が退職し,10 日ほど被告オートビジネス社に在籍した後,被告リブ社に移籍した。Dは, この事実を平成24年9月末頃に知ったとしている。〔乙イ12,8・10 ・11頁〕(13) 平成24年8月31日,本件業務委託契約Bが締結された。また,本件業 務委託契約Bにつき平成25年6月末日までの業務委託報酬について,強制 執行認諾条項付きの公正証書が作成された。〔甲13の2〕(14) 平成24年9月13日のエル社の常勤役員臨時ミーティングにおいて, D,F,被告Cら出席のもと,業務委託契約を締結することで原告の役員に 責任が及ぶか否かについて話し合いがされ,1年以内に原告と顧客との間の 契約がなくなり急激な売上,利益の減少となると,役員の責任は免れないの ではないか,既存の顧客との契約継続について最大限の努力をしないと,原 告及びエル社の役員は善管注意義務違反となるのではないかとの意見が出さ れた。〔乙ア16〕 平成24年9月30日に,本件業務委託契約Cが締結された。 (15) 尾崎弁護士の本件報告書では,「IPCの主要事業はコンサルタント事業 であることから,IPCの社員がほとんどいなくなるということは,本業を 失ったと判断され,その点からの上場廃止が問題となる可能性があることか ら,IPCの社員が急激にいなくなることは避けなければならない。11月 ・2月の社員退社に関しては,既定事項ではなく,最短で予想される退社時 期を示したものと理解し,それまでにラルバ(判決注;エル社)の資金状況 が改善された上で,メンバーが残っても良いと考えるような環境の整備がで きれば,社員に対してIPCに残留することによるメリットを提示でき,社 員退社が防げる可能性がある。」,「特に2月は住宅関係のチームの退社が 問題となっているが,住宅関係はIPCの事業の柱の1つであることや,H 氏が予定している事業との関係があること,中心がK氏であること等から, 退社を防ぐことは努力により十分に可能であると考える。」と記載されてい る。〔乙イ2〕 そして,平成24年10月頃に,DやFは,被告Aに対し,平成25年2 月20日までは原告に残留することに応じた原告の住宅不動産コンサルティ ング事業部の社員約20名に対し,退職日を遅らせるように頼むなどした。 しかし,その頃までには,エル社が役員持株会から原告の株式60%を取得 する際に,原告に留保されている資金については月額500万円を超えてエ ル社が取得しないとの約束をしたにもかかわらず,これを反故にしていると の不安が,原告の社員の間で広がっている状況にあった。〔乙イ20〕(16) 平成24年10月31日,本件業務委託契約Dが締結された。 (17) 平成24年11月20日,原告において異業種事業を行うコンサルタント 8名が退職した。〔乙イ12〕(18) 平成24年11月26日に,本件業務委託契約Eが締結された。また,本 件業務委託契約Eにつき平成25年7月末日までの業務委託報酬について, 強制執行認諾条項付きの公正証書が作成された。〔甲16の2〕 そして,その後,平成24年11月30日に本件業務委託契約Fが,平成2 4年12月31日には本件業務委託契約Gがそれぞれ締結された。 (19) 平成25年1月16日,原告において臨時株主総会が開かれ,被告Cは, 議決権を行使できる唯一の株主であるエル社により,原告の代表取締役及び 取締役を解任され,後任の取締役にDが選任された。〔甲8〕 同日,Dは,本件各業務委託契約に基づき業務を行っていた被告A,被告B らを原告の銀座オフィスから退去させた。〔乙イ10,11頁〕 Dは,同月17日に,原告の従業員らに対し,本件メールを送信した。本件 メールには,「HD(判決注;エル社)は,あくまでAさん個人と退職に係 る諸条件についてのみ話をしてきており,それらがAさん以外のメンバーに も一律に適用される,といった事態は,全く認識していませんでした。その ような状況で,IPC(判決注;原告)にとって不利な条件の契約書が,I PCとリブとの間で,いくつも締結されてしまいました。」,「【HDがお 金を搾取するといった誤解】もうひとつ,HDとIPCのサイフが一緒にな れば,皆さんがせっかく頑張って稼いだ収益が全部吸い取られてしまうので はないか,という懸念をお持ちかと思います。確かに4年前か5年前くらい の一時期,そういったことが行われたことがあるというように私も聞いてお ります。ただ,CさんやAさんが,当時のHD役員たちと交渉された成果も あって,ここ数年は,グループの資金繰りがどんなに厳しくても,IPCの お金を使わざるを得ないときは,必ずCさん,Aさんに相談し,承諾があっ てからしか使っておりません。お客様からの前受金に手をつけることもあり ませんし,上場維持費についても,上場会社としてやっていくために最低限 必要な額として,月500万円だけ頂き,それ以上の費用を求めることもし ていません。私も,たとえ100%子会社であっても,その会社の皆さんが 必死に努力して稼いだお金を,親会社が勝手に使うことは,あってはならな いと考えますし,今後もその原則に従ってグループ運営を進めていく方針で す。」などと記載されている。〔乙イ26〕 本件メールの作成には,Dのほか,Fも関与している。〔乙イ12,39 頁〕(20) 平成25年2月8日,被告A及び被告Bは,原告に対し,別件訴訟1を提 起した。〔乙ア19〕(21) 平成25年2月20日,原告のコンサルタント20名が退職した。〔乙イ 12,8頁〕(22) 被告リブ社は,原告に対し同年6月25日,別件訴訟2を提起した。〔乙 ア19〕(23) 原告は,平成25年8月2日,本件訴訟を提起した。 (24) 本件各業務委託契約には,第6条(知的財産権)として,「1.乙(判決 注;被告A,被告B,被告リブ社,被告オートビジネス社ら各契約当事者) の本件委託業務の実施により新たに開発されたノウハウ及び商品の著作権そ の他の知的財産権(以下,知的財産権等という)の帰属については,以下の とおりとする。(1)甲(判決注;原告),乙又は顧客が単独で行った開発から 生じた知的財産権等については,当該開発を行った者に単独に帰属するもの とする。(2)甲,乙又は顧客が共同で行った開発から生じた知的財産権等につ いては,当該開発を行った者の共有とし,その持分比率は開発に対する貢献 度に応じて定める。2.前項により,乙にその全部又は一部が帰属した知的 財産権等は,第7条(判決注;第7条は権利の保証に関する条項であり,報 酬に関する定めは第2条にある)に定める報酬の全額支払を条件として,乙 から甲に譲渡されるものとする。ただし,乙は当該著作物等を使用(現存の まま閲覧・参照すること),複製,二次的著作物作成その他の形式で利用す ることができる。」と,第8条(顧客情報)として,「甲,乙及び協業者は, 本契約に関連して得られた顧客の情報については,顧客の事前の承認を条件 として,甲,乙及び協業者が使用できるものとする。」と,それぞれ定めら れている。〔甲11の1(第8条中の「協議者」を除く),甲12の1,甲 13の1,甲14,15,16の1,甲17,18〕2 争点(1)(本件各業務委託契約の締結が不法行為に当たるか)について(1) 上記1で認定した事実によれば,原告と被告らとの本件各業務委託契約 の締結には,以下の事情があったと認められる。すなわち,上記各業務委 託締結当時,役員持株会が保有する原告の株式をエル社に譲渡すること, 及び被告Aらが原告を退職することが明らかとなると,これに伴って原告 所属のコンサルタントが大量に退職することが予想されたところ,一時に 大量のコンサルタントが退職することとなると,原告の事業の継続及び上 場維持が危ぶまれる事態が想定されたこと,そこで,原告においてこうし た事態を防止すべく,原告社員の退職を一部にとどまらせ退職時期も遅ら せつつ,原告と顧客との契約について,少なくとも原告と顧客との間の契 約の存続期間中においては,本件各業務委託契約に基づいて顧客との契約 が維持され,原告においても 相当額の売上があるとの外形を保つ必要が あったことから,原告の役員のほかエル社から派遣されたE,Fらと被告 Aらとが交渉を重ねた上でその条件について合意した結果,平成24年7 月31日から同年12月31日に至るまで,合計8回にわたり,本件各業 務委託契約が締結されたものであることが認められる。 そうすると,双方の真摯な合意が反映されたものと認められる本件各業 務委託契約につき,その締結が不法行為に該当するものとは到底認めるこ とができないというべきである。 (2) この点に関して原告は,本件各業務委託契約に基づく報酬が売上げの9 5%に相当するのは異常に高額である旨主張する。 しかし,本件各業務委託契約は,前記(1)のとおり,社員の大量退職を 防止して相当額の売上げを保ちながら原告の事業を継続し,上場維持を図 るという原告の要請に基づくものであって,業務委託報酬の売上げにおけ る割合についても,双方協議を重ねた上で合意されたものであり,被告リ ブ社らが建物賃料・電気代等の一部を負担していることをも勘案すれば, 本件各業務委託契約の報酬が不相応に高額であるものとは認められず,そ の締結につき被告Aらにおいて不法行為に該当することとなる事情も認め られない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 3 争点(2)(被告らによる営業秘密の使用等の不正競争行為ないし共同不法 行為の成否)について(1) 不正競争行為・共同不法行為の成否につき ア 原告は,被告らにおいて原告の営業秘密である顧客情報を不正に使用 等した不正競争行為等が存する旨主張する。 しかし,原告は,社内における顧客情報の存在及びその管理状況につ いて,何ら客観証拠を提出しないところ,本件全証拠を精査しても,原 告の主張する顧客情報につき,秘密として管理されていたものと認める ことはできない。 そうすると,その他の要件について判断するまでもなく,営業秘密の 使用等の不正競争行為に関する原告の主張は,理由がないというべきで ある。 イ また,原告は,被告A及び被告Bは,原告会社の営業秘密である顧客 情報を利用して,原告の顧客との契約を被告リブ社らとの契約に切り替 えさせたものであり,また仮に不正競争行為に当たる事実が認められな いとしても,被告らの行為は共同不法行為に当たる旨主張する。 しかし,前記のとおり原告の主張する顧客情報につき秘密管理性を認 めることができないことのほか,被告らにおいて,原告の営業秘密に該 当する事実を不正に取得,使用した事実を認めるに足る証拠はない。 また,不競法に定める不正競争行為が存しない場合に不法行為が成立 する場合があるか否かに関しては,市場における競争は本来自由である べきところ,一定の範囲の行為についてのみ不正競争行為としてこれを 規制する不競法の趣旨に照らせば,同法において規制の対象とならない 行為については,当該行為が自由競争の範囲を逸脱し,ことさら相手方 に損害を与えることのみを目的として行われたなど,同法が規律の対象 とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事 情が存在しない限り,一般不法行為を構成することはないというべきで あるが,本件においては,本件全証拠を精査しても,上記特段の事情を 認めることができないというべきである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) その他の不法行為の成否につき ア 原告は,被告Aらにおいて,原告のコンサルタントの大量引き抜きとい う不法行為を行った旨を主張する。 しかし,上記1で認定した事実によれば,平成24年6月29日の原 告におけるコアデイにおいて,原告の社員に対し,被告Aが近い将来退 職することのほか,役員持株会が保有する原告の株式がエル社に譲渡さ れることとなる旨が併せて説明されたところ,原告のコンサルタントに 対するアンケートの回答にあるとおり,原告のコンサルタントの大部分 は,被告Aがいない状態となった原告においては適切なコンサルタント 業務を継続するのは困難であると認識しており,また,エル社が完全に 原告の支配権を握った場合,原告の会社としての将来に著しい不安を覚 えていたなどの事情が認められる。そして,被告Aが退職して半年余り が経過した平成25年1月17日に,Dが原告の社員に対し,エル社と 原告との関係を説明する本件メールを送信してもなお,同年2月20日 に20名もの原告のコンサルタントが退職したのは,エル社と原告との 関係などについてのDらの説明に納得できなかったことによるものとみ るほかない。 そうすると,原告のコンサルタントの大量退職は,専ら,被告Aが退 職せざるを得なかったことと,エル社が原告の支配権を握ることに対す る不安によるものであり,原告の主張する,被告らにおける原告のコン サルタントの引き抜きを行ったとする事実について,これを認めること はできないというべきである。 イ この点に関して原告は,被告A,被告Bが原告のコンサルタントに対 する引き抜きを行ったことの証拠として,コンサルタントに対する根回 しを行った旨を示すコアデイ参加者リスト(甲34の1)等を提出する が,上記1で認定したとおり,これらリストに「【根回し状況一覧】」 とのタイトルを付したのはDであることのほか,平成24年6月29日 のコアデイの後のコンサルタントに対するアンケートの回答をみても, 前記アのとおり,コンサルタントは被告Aがいなくなり,エル社の完全 子会社となった後の原告の将来に不安を覚えて退職に至ったものであり, これは平成25年2月20日に至っても多くの退職者が出ていることか らも裏付けられているというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 原告は,被告らは原告の著作物を無断で利用し,被告リブ社らが原告を 承継したかのような虚偽の情報提供等により原告の顧客を奪う違法行為を 行った旨を主張する。 しかし,Fもその内容を了解した上で,原告において被告Aらとの間で 締結された本件確認書等によれば,被告Aらが原告在籍中に著作した著作 物等については,原告,被告らにおいて共同で利用できる旨が定められて おり,原告の提出する証拠のうち,原告の著作物ないし原告における支援 実績等を示すものは,いずれも本件確認書等に基づき被告リブ社らの名称 を付したものと認められ,その他,被告らにおいて,被告らが原告の事業 を承継したかのような虚偽の情報提供をした事実も認めることができない。 したがって,原告の上記主張はその前提を欠くというべきであり,採用 することができない。 4 結語 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判断する。 |
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追加 | |
(別紙)当事者目録東京都港区<以下略>原告株会イタプイ・ンルィグ式社ンーラズコサテン同訴訟代理人弁護士水野晃同島本泰宣同柴崎菊恵東京都千代田区<以下略>被告株式会社リブ・コンサルティング東京都千代田区<以下略>被告合会オトジスコサテン同社ービネ・ンルィグ東京都品川区<以下略>被告A東京都目黒区<以下略>被告B上記被告3名訴訟代理人弁護士榎園利浩同竹田真埼玉県蕨市<以下略>被告C同訴訟代理人弁護士橋正樹同佐藤大文別紙省略 |
裁判長裁判官 | 東海林保 |
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裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 瀬孝 |