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事件 |
平成
27年
(ネ)
10109号
損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
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控訴人兼附帯被控訴人 日亜化学工業株式会社 (以下「一審被告」という。) 訴訟代理人弁護士 長島安治 同 古城春実 同 松田俊治 同 東崎賢治 同 宮原正志 同 牧野知彦 同 上田一郎 同 加治梓子 被控訴人兼附帯控訴人 株式会社立花エレテック (以下「一審原告」という。) 訴訟代理人弁護士 井上裕史 同 田上洋平 同 佐合俊彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/02/09 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴に基づき,原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。 12 上記取消部分につき一審原告の請求を棄却する。 3 本件附帯控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,一,二審ともに一審原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 一審被告(控訴の趣旨) 主文1,2項と同旨 2 一審原告(附帯控訴の趣旨) (1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 一審被告は,一審原告に対し,500万円及びこれに対する平成26年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
一審被告は,発明の名称を「発光ダイオード」とする発明に係る特許(特許第4530094号)の特許権者であるところ,一審原告が,原判決別紙物件目録記載1及び2の各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出を行っており,一審原告による当該輸入,譲渡又は譲渡の申出が上記特許権の侵害に当たるとして,一審原告に対し特許権侵害訴訟を提起するとともに,原判決別紙プレスリリース目録に記載のとおりのプレスリリースを一審被告のウェブサイト上に掲載した。 本件は,一審原告が,一審被告に対し,一審被告による上記プレスリリースの掲載が平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法(以下単に「不正競争防止法」という。)2条1項14号(現行法15号)所定の不正競争行為に該当するとして,同法4条に基づき,損害445万円(無形損害400万円と弁護士費用45万円の合計)及びこれに対する平成26年4月13日(不正競争行為の後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,一審被告による上記訴訟の提起等が不法行為を構成するとして,不法行為(民法709条)に基づき,損害55万円(無形損害50万円と 2弁護士費用5万円の合計)及びこれに対する平成26年4月13日(不法行為の後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は,一審原告の請求について,不正競争防止法4条に基づく110万及びこれに対する平成26年4月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し,その余の請求を棄却した。 これに対し,一審被告は,その敗訴部分を不服として控訴を提起し,さらに,一審原告においても,その敗訴部分を不服として,附帯控訴を提起した。 1 前提事実 前提事実については,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は, 「原告」を「一審原告」「被告」を「一審被告」「別紙」を「原判決別紙」と , ,それぞれ読み替え,原判決で用いられた略語はそのまま使用する。。 ) (1) 原判決3頁3行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「また,エバーライト社は,一審被告に対し,本件特許の無効審判を請求し,平成26年5月1日,本件特許を無効とする旨の審決がされたため,一審被告は,同年6月9日,上記審決につき,審決取消訴訟を提起するとともに,同年9月3日,本件特許につき訂正審判を請求した。知的財産高等裁判所は,同年12月1日,上記審決を取り消す旨の決定をした(上記取消決定をうけて特許庁に差し戻された本件特許に係る無効審判請求において,訂正請求がされたものとみなされた。。 ) 特許庁は,平成27年4月16日,本件特許につき,訂正を認めるとともに,無効不成立の審決をした。その後,この審決に対して知的財産高等裁判所に審決取消訴訟が提起され,現在,審理中である。」 (2) 原判決4頁19行目冒頭から同頁24行目末尾までを次のとおり改める。 「先行訴訟については,平成25年1月31日,一審原告が本件製品を輸入,譲渡又は譲渡の申出をしたことも,そのおそれがあることも認めることはできないと 3して,一審被告の請求を棄却する旨の判決がされた。一審被告は,同判決を不服として控訴したが,知的財産高等裁判所は,同年7月11日,一審原告は本件製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をしておらず,そのおそれもないとして,一審被告の控訴を棄却する旨の判決をした。 一審被告は,上記判決を不服として,同月24日,上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成27年7月22日,上告審として受理しない旨の決定をし,上記判決は確定した(甲27)」 。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の3(訂正後の2)及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁7行目の「3 争点」を「2 争点」に改める。 (2) 原判決5頁8行目の「被告による」から同9行目の「該当する」まで及び同頁13行目の「被告による」から同14行目の「該当する」までを,いずれも「一審被告による本件プレスリリースの掲載が,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか,また,一審被告に同法4条の故意又は過失があるか」と改める。 (3) 原判決6頁26行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「一審被告は,製品カタログを例に挙げ,社会のIT化により顧客の製品購入へのアクセス方法が容易化されているにもかかわらず,従前であれば,譲渡の申出と評価されていた行為を,社会のIT化によって実質的に置き換えたにすぎない行為について,譲渡の申出が認められなくなるというのは不合理である旨主張する。 しかし,単に製造メーカーのカタログを商社が店舗に備え置いているだけで,譲渡の申出が認められるとは限らない(カタログの内容や備え置きの態様や利用態様により個別に判断されるべき問題である。。そして,第三者(エバーライト社)の )行為や顧客の行為(クリック行為)を,一審原告の行為と評価することができる法 4的・事実的根拠など存在しない。また,このような評価を社会のIT化から導ける根拠も存在しない。 なお,主張立証責任については,特許権者である一審被告に,一審原告が本件特許権を侵害しているとの事実についての主張立証責任があり,一審被告がその証明に失敗した時点で,虚偽の事実であると認定されるべきである。 また,一審被告が,本件プレスリリースに記載された,一審原告が本件製品を輸入,販売することにより,本件特許権の侵害行為を行っているとの事実が虚偽の事実ではないと主張することは,事実上先行訴訟の蒸し返しであるといえる。一審被告が本件において提出する証拠は,先行訴訟において一審被告が提出した証拠と共通しており,主張も共通している。先行訴訟と本件訴訟とは訴訟物が異なるものの,訴訟経済の観点から,一審被告の上記主張は信義則に反するものといわざるを得ない。」 (4) 原判決7頁10行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「なお,営業誹謗行為においては,侵害警告の事案であれ,プレスリリースの事案であれ,典型的な違法行為であることから事実上過失が推定される。 一審被告は,一審原告が本件製品を輸入,販売していたことを示す事実は多数存在し,一審原告が本件製品の譲渡の申出を行っていることを裏付ける事実も多数存在していた上,これらの事実に基づき譲渡の申出が行われていたと判断したことは,譲渡の申出に関する法律解釈としても,極めて合理的なものであった旨主張する。 しかし,一審原告が本件製品を輸入,販売していたことを示す事実は存在しない。 一審被告が本件プレスリリース時に本件特許権を侵害していると判断した根拠は,一審原告のウェブサイトの記載のみであり(甲5),同ウェブサイトの記載(乙2)から認められる事実も,一審原告がエバーライト社の製品(LEDを含む。)を取り扱っていること,同社のウェブサイトのトップページのリンクを貼っていることのみである。一審原告が本件製品の譲渡の申出を行っていたと判断することが合理的なものであったとはいえない。 5 また,一審被告は,先行訴訟及び本件訴訟を通じて,一審原告が,自らが取り扱っている白色LED製品に関して,度重なる一審被告からの要請を拒絶し,何ら実質的な情報を開示・提供しなかったのであり,一審原告に問い合わせても有益な情報が得られる見込みがなかったと主張する。しかし,一審原告は,エバーライト社製の白色LEDについての取扱実績がない旨主張しているのであり,加えて,エバーライト社の製品の流通経路まで明確にしている(甲10ないし12)。その上,一審原告の取り扱っているエバーライト社の製品も明らかにしており,一審原告が一審被告の要請を拒絶した事実はない。」 (5) 原判決8頁18行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「不正競争防止法2条1項14号の該当性その他の要件事実の立証責任は,一審原告にある。したがって,本件プレスリリースに記載されている事実が虚偽であること,すなわち,一審原告が本件製品の輸入,販売等のいずれも行っていないという事実について,裁判所の心証が,十分な確信を得る状態に至らない限り,不正競争防止法2条1項14号該当性は否定されなければならない。一審原告は,エバーライト社製のLED「全般」を一般的に取り扱っていることを自らのウェブサイトで積極的に表明していたのであるから,上記表明にもかかわらず,例外的に販売していなかった製品があると一審原告が主張する際には,少なくとも,過去に一審原告が取り扱ったエバーライト社製のLEDの種類を全て客観的な証拠をもって示し,そのいずれにも本件製品が含まれていないという程度の立証が行われる必要があるが,一審原告は,何らそのような立証はしていない。」 (6) 原判決9頁9行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「一審原告は,遅くとも平成16年から継続して7年以上の長期間にわたり,エバーライト社の白色LED製品を,自らのウェブサイトにおいて,一審原告が取り扱う製品として掲載してきた。そして,本件製品は,一般照明,装飾用照明,表示器,電飾等,幅広い用途に使用される製品である(甲6,7)。 一審原告は,顧客の「ニーズに合わせた」製品を, 「豊富な製品ラインアップ」か 6ら提供する「技術商社」なのであるから,その提供する製品ラインアップのうちには本件製品を含む様々な白色LED製品が含まれると理解するのが合理的であり,また,一審原告がエバーライト社製品を取扱製品として対外的に表示しているにもかかわらず,本件製品を含むエバーライト社の主力商品である照明ないしバックライト用LED(白色LED)を一度たりとも販売したことがないなどとは,およそ考えられない。 以上によれば,エバーライト社製の特定の製品として本件製品が具体的には記載されていなかったとしても,エバーライト社製白色LEDの有力な一種類である本件製品が実際に一審原告によって譲渡されたであろうことは十分に示されている。」 (7) 原判決11頁16行目末尾に次のとおり加える。 「現在のように,社会のIT化が進む前は,ウェブサイトの代わりに製品カタログが用いられるのが通例であった。当時から商社ではなく製造メーカーが,商社が扱う製品のカタログを準備し印刷していたが,このことを理由に,商社が当該カタログを用いて譲渡の申出をしたとは認められないとされることはなかったであろう。 さらに,カタログに記載されている特定の製品の仕様書にたどり着くためには,商社の店舗を訪れるだけでは足りず,カタログを店舗の棚などから出してきてもらい,さらにカタログの頁をめくるという作業が必要だったのは,IT化が進む前の時代でも同様である。IT化が進むことにより,紙で印刷されたカタログが,ウェブサイト上に掲載されるようになり,さらに,紙のカタログの頁をめくる代わりに,リンクをたどることになれば,むしろ顧客は,店舗に行く必要もなく,また,商社の店員にカタログを出してくるように頼むことなく,ボタンを数度押すだけで,顧客の製品情報へアクセスできるようになっているのである。このように社会のIT化により顧客の製品購入へのアクセス方法が容易化されているにもかかわらず,従前であれば,譲渡の申出と評価されていた行為を,社会のIT化によって実質的に置き換えたにすぎない行為について,譲渡の申出が認められなくなるというのは不合理である。」 7 (8) 原判決13頁3行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。 「不正競争防止法2条1項14号違反が問題となる典型的事例である第三者に対する侵害警告の事案とプレスリリースのウェブサイトへの掲載行為とを比較した上で,プレスリリースのウェブサイトへの掲載行為一般に関して,より重い注意義務を課するのは妥当ではない。 白色LED製品は,最終製品としてユーザーに販売される照明製品や液晶ディスプレイ等の構成要素の一つであるため,そのLED製品の流通経路や日本国内の輸入販売元を明らかにすることは極めて困難である。加えて,このような状況のもとで,一審被告が一審原告に問い合わせを行い,又は警告書を送付したところで,有益な情報が得られる見込みはなかった。一審原告は,先行訴訟及び本件訴訟を通じて,自らが取り扱っている白色LED製品に関して,度重なる一審被告からの要請を拒絶し,何ら実質的な情報を開示・提供しなかった。 一審原告又は一審原告の取引関係者等の第三者に対する問い合わせなどは,一審原告が取り扱う具体的な製品を特定するための調査として何ら有益ではなく,このような調査をしていないからといって,一審被告の注意義務違反が認められるべきではない。 本件で問題となった白色LED製品の性質,特性,流通経路などを考慮に入れれば,たとえ一審原告のウェブサイトの記載によっては,本件製品の販売等を一審原告が行っていることが認められないとしても,@入手が困難な本件製品を実際に入手した上で分析し,構成要件充足性を検討したことや,A先行訴訟を提起するに当たって,一審原告のウェブサイトの記載等の事情を精査したことで,一審被告の注意義務は果たされている。」 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,一審被告による本件プレスリリースの掲載については,一審被告に不正競争防止法4条の過失があるとは認められないから,一審原告の一審被告に対する同条に基づく損害賠償請求は理由がなく,また,一審被告による先行訴訟の提 8起等が不法行為を構成するものではないから,一審原告の一審被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求も理由がない,と判断する。その理由は,次のとおりである。 1 争点1(一審被告による本件プレスリリースの掲載が,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか,また,一審被告に同法4条の故意又は過失があるか)について (1) 本件プレスリリースの記載内容 「台湾 Everlight 社製白色LEDに対する新たな特許侵 本件プレスリリースには,害訴訟について」との見出しの下,第1段落において,一審被告が,一審原告を相手方として,エバーライト社が製造する本件製品を,一審原告が輸入,販売等したとして,本件特許権に基づいて侵害の差止め及び損害賠償を求める2件の訴訟(先行訴訟)を提起したことが記載されている。一審被告が一審原告を相手方として先行訴訟を提起したこと自体は客観的な事実であり,エバーライト社が製造した本件製品を一審原告が輸入,販売等する旨の記載は,先行訴訟における一審被告の主張内容をそのまま説明するにとどまる。本件プレスリリースの読み手が,見出し及び第1段落のみに接した場合,一審原告が本件製品を輸入,販売等したことを理由に本件特許権を侵害するとして一審被告が先行訴訟を提起した旨を公表するものであると理解するとしても,本件プレスリリースに記載された内容に虚偽の事実があると認めることはできない。 他方で,本件プレスリリースの第2段落において,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーによる,特許権を無視した日本市場での行動は目に余るものがあり,日本市場での一審被告の特許権への侵害行為に対する対抗措置の一環として,平成23年8月にエバーライト社製白色LEDを取り扱っていた別会社に対する訴訟を提起した旨とともに,上記別会社が上記白色LEDが一審被告特許の権利範囲であることを認めて販売等を中止した旨が記載されており,第1段落においてエバーライト社が台湾最大のLEDアッセンブリメーカーであると紹介されていることを併 9せ考えると,上記別会社が,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーが一審被告の特許権を侵害していることに関わりを有していたと読み取れる。その上で,先行訴訟が上記別会社に対する訴訟に続くものであり,一審原告に対しても販売等の中止等を求める旨が記載されている。このように,見出しの下,第1段落と第2段落を併せ読むと,これらの記載は,一審原告を上記別会社と同列に扱った記載となっており,先行訴訟が上記の対抗措置の一環に含まれるものであり,一審原告が,エバーライト社製の本件製品を輸入,販売等することにより本件特許権を侵害しており,少なくともその点において,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーによる特許権を無視した侵害行為に関わりを有しているということを意味していると認められる。特に,第2段落では,上記別会社が,一審被告の提訴直後,一審被告の特許権侵害を認めて販売等を中止したと記載されているため,読む者をして,一審原告も上記別会社と同様の侵害行為を行っているものと思わせる記載内容となっている。 (2) これに対し,一審原告は,エバーライト社製の本件製品を輸入,販売等したことはないから,一審被告の本件プレスリリースの掲載が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為(虚偽事実の告知流布)に該当すると主張して,同法4条に基づき損害賠償を請求している。 本件の事案の内容に鑑み,まず一審被告が本件プレスリリースをしたことに過失があるかどうかについて判断する。 ア 認定事実 証拠(甲6〜11,24〜26,乙2の1〜3,5〜7,8の1〜7,9,12及び13の各1・2,14,18,19の1〜11)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 一審原告の事業内容及びエバーライト社との取引関係 一審原告は,FAシステム事業,半導体デバイス事業,情報通信事業,施設事業,ソリューション事業及び海外事業を展開する技術商社であり,半導体製品について 10は,複数の仕入先メーカーからこれを仕入れて顧客に販売するとともに,独自の製品開発も行っている。 エバーライト社はLEDパッケージメーカーであり,一審原告がその製品を取り扱う製造メーカーの一つである。エバーライト社の主力商品は,平成20年から平成23年にかけてみると,白色LED製品であるが,有色LED製品も製造販売していた。 一審原告は,本件プレスリリースが掲載される以前から数年にわたり,エバーライト社の製品をE&E社等から仕入れて顧客に販売していた(ただし,本件製品については,これを販売したことを認めるに足りる証拠はない。 。 ) E&E社は,平成10年9月に,台湾上場企業のエバーライト社及びエピスター社より出資を受けて設立された日本法人であり,日系メーカー向けサポート窓口の役割を果たしており,ウェブサイトやパンフレットにおいて,主要取引先の一つとして一審原告を挙げている。 (イ) 一審原告のウェブサイトの記載 a 平成23年頃,一審原告のウェブサイトのトップページ(http://www.tachibana. co.jp)にある, 「製品情報」のボタンをクリックすると,製品情報のページ(http:// www.tachibana.co.jp/products)に移動し,このページには, 「取り扱い製品」として,「FA(Factory Automation), 」「情報通信」「施設」「海外」 , ,といった項目とともに「半導体デバイス」の項目があり,その項目の下には「取り扱いメーカー」との記載がある。 b この「半導体デバイス」の部分をクリックすると,半導体デバイスのページ(http://www.tachibana.co.jp/products/devices)に移動し,このページには,「規格品からユーザー仕様まで,ニーズに合わせた半導体やデバイス製品を豊富な製品ラインアップから提供いたします。またASIC開発などで培った技術力で,オリジナルICなどの半導体製品を開発しています。」との記載があり,「取り扱いメーカー」として「半導体」にはエバーライト社を含む14社の社名が記載され, 「デバ 11イス」には13社の社名が記載されている。 c 上記「半導体」に記載された社名のうち「エバーライト・エレクトロニクス社」の部分をクリックすると, 半導体製品一覧」との表題のあるページ 「(http://www.tachibana.co.jp/products/devices/makers/index.html#everlight)に移動し,このページには,上記14社のロゴ,社名,ウェブサイトへのリンク及び紹介文が掲載され,このうちエバーライト社については,同社のウェブサイトのトップページ(http://www.everlight.com/)へのリンクとともに紹介文として, 「照明・車載,LEDバックライト,電飾看板等,省エネ・ECOに貢献して今後も伸び続けるLED市場。エバーライト・エレクトロニクスは,世界でもトップクラスの生産能力と豊富なLED製品群で,発展する市場の様々なニーズにお応えします。」と記載されている。なお,上記14社のうち,LED関連の製品を挙げているのは,エバーライト社と株式会社光波の2社のみである。 d 一審原告のウェブサイトのトップページ(http://www.tachibana.co.jp)にある, 「お問い合わせ」のボタンをクリックすると,お問い合わせのページ(http://www.tachibana.co.jp/contact)に移動し,このページには,一審原告が展開する事業ごとに電話,ファックス及び電子メールによる問い合わせ先が記載され,同ページ内の「メールでのお問い合わせ」の部分をクリックすると, 「法人のお客様 メールでのお問い合わせ」の電子メールフォームのページ(https://www.tachibana.co.jp/contact/mail/corp.php?contact_kind=6)に移動し,顧客は,この電子メールフォームに,氏名,返信先メールアドレス,電話番号,ファックス番号,会社名等を入力した上で, 「お問い合わせ内容」欄に問い合わせ内容を記入することができるようになっている。 e 過去には,一審原告のウェブサイト内に,上記各ページとほぼ同じ内容のページのほか,エバーライト社についてのページ(http://www.tachibana.co.jp/products/ devices/everlight/ なお,平成19年7月の時点においては,URLが異なっていた。)が存在し,このページには,同社のロゴ,社名及びウェブサイトの 12トップページ(http://www.everlight.com/)へのリンクと共に「台湾ナンバーワンのLEDパッケージメーカ」と記載され,これに続き,製品案内として, 「アプリケーション」に「屋内外サインボード」「各種信号灯」「車載関連(インテリア・エ , ,クステリア), 」「携帯端末バックライト」「DVD/STB/TV」との記載, , 「製品」に「砲弾型LED全般」「面実装タイプ LED全般」「IrDA」「フォトカ , , ,プラ」「フォトリンク」との記載があり,さらに, , 「お問い合わせ」として「このメーカーに関するお問い合わせはこちらより承っております。 との記載があった 」 (なお,エバーライト社は,遅くとも平成16年8月頃から,一審原告のウェブサイトにおいて,取引先として掲載されており,平成19年7月及び平成20年2月の時点においても,具体的な記載は異なるものの,同趣旨の記載があった。。 ) (ウ) エバーライト社のウェブサイトにおける記載 エバーライト社のウェブサイトのトップページ(http://www.everlight.com/)には,「Products」というボタンがあり,これをクリックすると「Products」のページに移動し,ここには,「Visible LED Components」 「Lighting Solutions 」 , ,「Infrared LED,Sensors,Couplers」「LED Digital Displays」との項目がある。 , こ の 中 の 「 Visible LED Components 」 を ク リ ッ ク す る と , Visible LED 「Components」のページに移動し, 「Low-Mid Power LED」 ここには, 「High Power ,LED」「LED Lamps」「Super Flux LEDs」「SMD LEDs」「Flash LEDs」と , , , ,の項目がある。 次に,この中の「Low-Mid Power LED」をクリックすると「Low-Mid Power LED」のページに移動し,ここには, 「5050(0.2w)」のほか,4種類のパッケージについての項目がある。 さらに,この中の「5050(0.2w)」をクリックすると, 「5050(0.2w)」のページに移動し,ここには, 「Product」として,本件製品のうち,別紙物件目録記載2の製品に該当する製品番号を含む九つの製品が記載され, 「Datasheet」の欄の下にあるPDFファイルのアイコンをクリックすると,その製品に対応する詳細なデータ 13シートがPDF形式で表示される。 (エ) 一審被告による本件製品の分析 一審被告は,平成23年9月頃,エバーライト社製の本件製品及び本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料を分析し,本件製品が本件特許発明の技術的範囲に属することを確認した上で,同年10月4日に先行訴訟を提起し,同月5日に本件プレスリリースを掲載した。 (オ) 訴外A社によるエバーライト社製品の一審原告からの購入 訴外A社の担当者が,平成24年9月頃,一審原告に対し,メールでエバーライト社製の有色LEDの購入打診をしたところ,一審原告の担当者からすぐにメールで返信があり,各有色LEDについて見積もりが提示され,訴外A社がこの有色LEDを発注したところ,一審原告からエバーライト社製の有色LEDの納品を受けた。 イ 上記認定事実に基づく過失についての判断 特許法2条3項1号は,物の発明について,その物の生産,譲渡,輸入又は譲渡等の申出をする行為を,実施行為と定義している。 本件においては,一審原告がE&E社等を経由してエバーライト社から本件製品を輸入,販売したことを認めるに足りる証拠はない。また,上記認定事実によれば,一審被告も,本件プレスリリース当時,一審原告による本件製品の輸入,販売を立証し得る直接的な証拠を有していたわけではない。 しかし,譲渡等の申出については,製品のカタログやパンフレット等を示して販売の申出をする行為がその典型的な例であると解されており,製品のカタログ等については,商社や代理店等がこれを作成する場合があるとしても,製造メーカーがこれを作成し,販売会社がそのカタログを利用して譲渡の申出をする場合等が多いと推認される。 そして,現代の社会においては,カタログだけではなく,インターネットのウェブサイトに製品を掲載してこれを宣伝広告し,販売することも多いことからすれば, 14仮に一審原告のような商社が,自社のウェブサイトに,取扱製品と同製品の販売に必要な情報を直接掲載し,その販売をする趣旨の記載をしていれば,同製品について,譲渡等の申出をしていることになると解されるところである。また,そうでなくとも,一審原告のような商社が,自社のホームページにおいて,特定の複数の製造メーカーを紹介した上で,その製品を販売する旨を記載し,その趣旨で当該製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,同サイトにおいて各製品の種類と仕様等の販売に必要なデータが説明されている場合にも,製造メーカーのウェブサイトを利用する形での同製品について譲渡の申出をしているものと解される。すなわち,商社がそのウェブサイトにおいて製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼るだけで,同メーカーのウェブサイトに掲載されている製品のすべてについて常に譲渡の申出をしていると解することはできないけれども,その商社と製造メーカーとが取引関係にあることが記載され,当該商社に問い合わせれば当該製造メーカーの製品を購入することができる趣旨の記載があり,かつ,製造メーカーのウェブサイトには,製品の種類や仕様等の販売に必要な情報が開示されているなどの状況があれば,製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,これを利用している場合でも,製造メーカー作成のカタログを利用する場合と同様に,製造メーカーのウェブサイト掲載の製品について,譲渡の申出をしていると解される。 これを本件についてみるに,一審原告のウェブサイトは,商社である一審原告が,「半導体 規格品からユーザー仕様まで,ニーズに合わせた半導体やデバイス製品を豊富な製品ラインアップから提供いたします。 との記載とともに, 」 エバーライト社を含めた複数の取扱メーカーの名称を列記し,これによりこれらの製造メーカーと一審原告とが取引関係にあることを示した上で,各メーカー紹介のページの中でで,エバーライト社の事業内容がLEDパッケージ等であること等を個別に紹介し,その上でエバーライト社のウェブサイトにリンクを貼り,そのウェブサイトにおいて同社が製造販売する各製品とその製品の詳しい仕様をみることができるようになっているというものである。LEDパッケージは,製品の部品として購入されるも 15のであるから,これを購入するのは,製造メーカーやその代理店等の取引業者であると推認されるところ,一審原告のウェブサイトを見た取引業者は,一審原告が商社としてエバーライト社の製品(その主力は,前記認定のとおり白色LED製品であり,本件製品はその一部である。を取り扱っており, ) 一審原告に問い合わせれば,エバーライト社から白色LED製品等を購入することができると理解するものであり,また,製品の詳細については,リンクが貼られているエバーライト社のウェブサイトから,その詳しい仕様も見ることができるものである。そして,一審原告のウェブサイトにおいては,エバーライト社の製品について,一部取扱ができない製品がある等の記載はない。 上記の状況によれば,一審被告は,一審原告のウェブサイト及びこれとリンクされているエバーライト社のウェブサイトを見て,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている白色LED製品等を取り扱っており,取引業者からその商品を購入したいとの申込みがあり,価格等の条件が合致すれば,これを販売すると理解したものであり,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている本件製品を含む白色LED製品について譲渡の申出をしていると理解したとしても,無理からぬところである。 そして,一審被告は,その後本件製品と本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料等を分析し,本件特許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属することなどを確認した上で,先行訴訟を提起し,本件プレスリリースを掲載したのであり,一審被告が本件プレスリリースを掲載したとしても,一審被告には過失があったものとは認められない。 なお,本件特許発明の請求項1については,その後訂正がなされているものの,一審原告は,本件訴訟において,仮に一審原告が本件製品の譲渡等をしていたとしても,本件製品は本件特許権を侵害するものではないから,一審被告による本件プレスリリースの掲載は,不正競争行為に当たる,等の主張はしていないのであるから,本件の不正競争行為の過失の判断において,本件製品が本件特許発明の訂正後 16の請求項1の技術的範囲に属するか否かに関し,これ以上詳しく判断する必要はない。 ウ 一審原告の主張について 一審原告は,単に商社がメーカーのカタログを店舗に備え置いているだけで,譲渡の申出が認められるとは限らない(カタログの内容や備え置きの態様や利用態様により個別に判断されるべき問題である。,第三者(エバーライト社)の行為や顧 )客の行為(クリック行為)を,一審原告の行為と評価することができる法的・事実的根拠など存在しない,と主張する。 確かに,商社がメーカーのカタログを店舗に備え置いただけで,常に譲渡の申出があると認められるわけではなく,カタログの内容やその備え置きの態様及び利用態様により,個別に決められるべきであるというのは,一審原告主張のとおりである。しかし,一審原告のウェブサイトの記載からは,一審原告がエバーライト社と取引関係にあり,エバーライト社のウェブサイトに詳細に記載されているLED製品を販売すると理解することができるのであるから,一審被告が,一審原告のウェブサイト及びこれとリンクされているエバーライト社のウェブサイトを見て,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている白色LED製品等を取り扱っており,取引業者からその商品を購入したいとの申込みがあれば,これを販売すると理解し,一審原告が,エバーライト社のウェブサイトに掲載されている本件製品を含む白色LED製品について譲渡の申出をしていると判断したとしても,無理からぬところであるのは前記認定のとおりである。 また,一審原告は,一審被告が一審原告による本件製品の輸入,販売及び譲渡の申出があったと主張することは,事実上先行訴訟の蒸し返しである,先行訴訟と本件訴訟とは訴訟物が異なるものの,訴訟経済の観点から,一審被告の上記主張は信義則に反する,と主張する。 しかし,先行訴訟と本件訴訟とは訴訟物が異なるものであり,のみならず,先行訴訟の被告であった一審原告が本件訴訟を提起しているものであって,先行訴訟の 17原告であった一審被告は,本件訴訟において被告としてその防御活動をしているにすぎず,積極的に先行訴訟の蒸し返しを行っているわけではない。また,本件訴訟では,一審被告の本件プレスリリースが不正競争行為に当たるか否かのみならず,その行為に過失があるのか,あるいは正当行為として違法性阻却事由があるのかなども争点になるのであり,一審被告のこれらの主張が信義則に反するということもできない。 エ 結論 以上によれば,一審被告の本件プレスリリースの掲載については,一審被告が,一審原告のウェブサイトから,一審原告が本件製品について譲渡等の申出をしていると判断したことは無理からぬところである。そして,一審被告は,その後本件製品と本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料等を分析し,本件特許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属することなどを確認した上で,先行訴訟を提起し,本件プレスリリースを掲載したのであり,一審被告が本件プレスリリースを掲載したとしても,一審被告には不正競争防止法4条の過失があったものとは認められない。 よって,一審原告による同法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。 2 争点2(一審被告による先行訴訟の提起等が,不法行為を構成するか)について 一審原告は,一審被告が,事実的及び法律的根拠を欠く先行訴訟を提起し,さらに,何らの調査を行うこともなく,先行訴訟を維持するとともに,控訴の提起,上告受理の申立てまで行ったことは,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き,一審原告に対する違法な行為として不法行為を構成する旨主張する。 そこで,検討するに,先行訴訟は,一審被告が,一審原告に対し,一審原告による本件製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出が本件特許権を侵害すると主張して,侵害行為の差止め等を求めるものであるところ,前記のとおり,一審被告は,敗訴の確定判決を受けたことが認められる。 18 このような場合において,先行訴訟の提起が相手方である一審原告に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。 前記認定のとおり,一審被告は,先行訴訟提起前に,本件製品を実際に入手した上で,本件製品及び本件製品に使用されているLEDチップの構造,構成材料を分析したうえで,本件製品が本件特許発明の技術的範囲に属するものであると考え,また,一審原告のウェブサイトに,一審原告が取り扱う半導体製品の製造メーカーの一つとしてエバーライト社が掲げられ,同社の白色LED製品を取り扱っているとの記載があり,同社のトップページへのリンクが貼られ,同社のウェブサイトにおいて本件製品が掲載されていたことから,一審被告は,先行訴訟を提起するに当たって,一審原告のウェブサイトの記載や取引関係を根拠として,一審原告が少なくとも本件製品の譲渡の申出をしていると判断したと考えられる。 そうすると,一審被告が,先行訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるとか,一審被告が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したということはできず,先行訴訟の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまでは認められない。 したがって,一審被告による先行訴訟の提起は,一審原告に対する違法な行為とはいえず,不法行為を構成しない。 また,控訴の提起及び上告受理の申立て等の一審被告の訴訟活動についても,そもそも,その前提となる先行訴訟の提起が一審原告に対する違法な行為ということができないのは上記のとおりであるし,本件特許権侵害に係る一審原告の実施行為 19の有無について上級審の判断を求めようとすることが違法であるとはいえない。 以上によれば,先行訴訟の提起,控訴の提起,上告受理の申立て等の一審被告の訴訟活動が一審原告に対する違法な行為として不法行為を構成する旨の一審原告の上記主張は採用することができず,一審原告の一審被告に対する上記不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 |
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結論
以上によれば,一審原告の請求は,いずれも理由がないから全部棄却すべきところ,これを一部認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決中一審被告の敗訴部分を取り消した上で,同取消部分に係る請求を棄却することとし,また,本件附帯控訴は理由がないから,棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂一 |
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裁判官 | 大寄麻代 |
裁判官 | 岡田慎吾 |