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事件 平成 25年 (ワ) 15928号 損害賠償請求事件

原告出水商事株式会社
同 訴訟代理人弁護士小山信二郎
同 岡田隆
同 李哲芝
被告株式会社VIVIT (以下「被告会社」という。)
被告A (以下「被告A」という。)
被告B (以下「被告B」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 貝塚慶一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/05/31
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の訴えのうち,被告A及び同Bに対する別紙却下請求目録記載の各請求に係る訴えを却下する。
2 被告Aは,原告に対し,295万8798円及びこれに対する平成25年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告 Aに対するその余の請求並びに被告会社及び被告Bに対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の19,被1告Aに生じた費用の10分の9,並びに被告会社及び被告Bに生じた費用を原告の負担とし,原告及び被告Aに生じたその余の費用を被告Aの負担とする。
5 この判決は,第2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して,2000万円及びこれに対する平成25 年7月2日(被告らに対する最終の訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同B(以下,同被告ら両名を併せて「被告Aら」という。)は,別 紙営業秘密目録記載の顧客名簿の内容を用いて,顧客に対して,面会を求め, 電話をし,郵便物を送付し又は電子メールを送信する等して,酒類に関する契 約の締結,締結の勧誘又はその他営業行為等をしてはならない。
3 被告Aらは,別紙営業秘密目録記載の顧客名簿に記載する内容が記録された コンピューター内の記録媒体又はPCカード,CD-ROM,DVD-ROM 並びにフロッピーディスク等の電磁的記録媒体を廃棄し,原告に対し,同記録 媒体及び同電磁的記録媒体からの印刷物を引き渡せ。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,原告が,@原告の元従業員である被告Aらが,原告在職中に,被告 会社を設立し,原告の取引先である海外のワイン生産者らに対し,原告を中傷 した上で被告会社として取引を希望する旨のメールを送ったり,原告における 後任者に虚偽の引継ぎをしたりするなどし,原告退職後に,被告会社において, 原告と取引関係のあった海外のワイン生産者らからワインを購入した,A被告 Aらが,原告の営業秘密たる別紙営業秘密目録記載の顧客名簿(コンピュータ 2 ー内の記録媒体又はその他の電磁的記録媒体に保存された電磁的データ及びこれを出力した印刷物を含む。以下「本件顧客名簿」という。)を不正に取得・使用し,又は被告会社に開示して,本件顧客名簿に記載された顧客に対し,被告会社として営業活動を行い,被告会社も,被告Aらによる本件顧客名簿の不正開示を知ってこれを取得・使用したなどと主張して,被告らに対し,次の各請求をする事案である。
(1) 原告は,被告Aらに対し,被告Aらによる上記一連の行為が原告に対す る共同不法行為,債務不履行(原告との雇用契約の継続中は雇用契約違反, 同雇用契約の終了後は競業禁止合意違反)に該当し,また,被告Aらによる 本件顧客名簿の取得,使用又は被告会社に対する開示が不正競争防止法2条 1項4号及び7号の不正競争に該当するとして,民法709条,415条又 は不正競争防止法4条に基づき,損害賠償金の一部である2000万円及び これに対する不法行為及び不正競争行為の後でありかつ被告らに対する最 終の訴状送達日の翌日である平成25年7月2日から民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の連帯支払を求める。(上記第1の1)(2) 原告は,被告会社に対し,被告会社が被告Aらの上記一連の不法行為に ついて使用者責任を負い,また,被告会社による本件顧客名簿の取得及び使 用が不正競争防止法2条1項5号及び8号の不正競争に該当するとして,民 法715条又は不正競争防止法4条に基づき,被告Aらと同額の金員の連帯 支払を求める。(上記第1の1)(3) 原告は,被告Aらに対し,不正競争防止法3条1項に基づき,本件顧客 名簿を用いた本件顧客名簿記載の顧客に対する営業行為の差止めを求める。
(上記第1の2)(4) 原告は,被告Aらに対し,不正競争防止法3条2項に基づき,本件顧客 名簿が記録されたコンピューター内の記録媒体及びその他の電磁的記録媒 体の廃棄並びにこれらの記録媒体及 び電磁的記録媒体からの印刷物の引渡 3 しを求める。(上記第1の3)2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の 全趣旨により認められる事実) (1) 当事者 原告は,酒類,食料品,清涼飲料の輸出入・販売等を目的とする株式会社 (昭和47年10月設立,資本金5000万円)であり,被告会社は,酒類 の輸出入,卸売及び小売業等を目的とする株式会社(平成24年9月設立, 資本金800万円)である。
被告Aは,平成10年ころから平成24年9月まで,同Bは,平成14年 ころから平成24年10月まで,それぞれ原告の従業員であった者であり, 被告Aは,被告会社の設立時から,その代表取締役を務めている。
(弁論の全趣旨) (2) 被告会社の設立以前の原告の仕入・販売状況など ア 原告は,平成22年に,ワイン生産者であるE(以下「E」という。)か らワインを購入するようになり,同年及び平成23年の2年間,いずれも イン・ファイン,コンフィダンス及びヴァンソブルの3銘柄を購入した。
イ 原告は,平成16年ころ以降,ワイン生産者であるF(以下「F」という。) からワインを購入するようになり,平成23年ころからはその購入を予約 するようになった。Fのワインは非常に人気が高く,また,Fは小規模な ワイン生産者であったため,原告が購入することのできるワインは,年間 300本から480本程度であった。
ウ 原告は,平成23年,ワイン生産者であるG(以下「G」という。)から, シャトー・サミオン赤,イレルギー赤及びイレルギー白という3銘柄のワ インを購入した。このうち,イレルギー赤の生産量は年間1200本であ り,原告は,平成23年まで継続的に毎年その半分程度を購入していた。
エ 原告は,平成22年11月ころから,ワイン生産者であるH(以下「H」 4 という。)から,ワインを購入するようになり,平成23年も継続して同社 からワインを購入した。Hのワインは人気があったことから,原告は,平 成23年秋ころ,Hに対し,平成24年におけるワインの購入を予約した。
オ 原告は,平成22年及び23年に,ワイン生産者であるI(以下「I」と いう。)から,ワインを年に2回ずつ購入し,平成24年にも1回,Iから ワインを購入した。
カ 原告は,平成21年又は平成22年ころから,Mという仲買人(ネゴシ ャン)から,ワイン生産者であるJ(以下「J」という。)のワインを購入 するようになった。また,原告は,Nという仲買人から,ワイン生産者で あるK(以下「K」という。)のワインを購入し,Oという仲買人から,平 成23年までに2回,ワイン生産者であるL(以下「L」という。)のワイ ンを購入した。
(3) 被告Aらの原告での執務状況等 被告Aは,C(以下「C」という。)と共に,被告会社の貿易部の担当者と して,海外のワイン生産者からのワイン購入(仕入れ)業務に従事し,前記 (2)のワイン生産者8社(E,F,G,H,I,J,K及びL。以下「本件生 産者ら」といい,本件生産者らの生産に係るワインを「本件各ワイン」とい う。 からのワインの購入については, ) 被告Aが平成24年9月に原告を退職 するまで,被告Aが一人で担当していた。また,被告Bは,被告会社の営業 部において,国内の顧客に対する営業活動に従事していた。 甲25, ( 証人D, 被告A,被告B)(4) 被告会社の設立及び被告Aらの退職等 ア 被告Aは,原告在職中の平成24年9月3日に被告会社を設立し,同社 の代表取締役に就任した。被告会社の設立に当たっては,資本金800万 円のうち,被告Aが500万円を,被告Bが300万円を,それぞれ出資 した。(被告A,被告B,弁論の全趣旨) 5 イ 被告Aは,平成24年9月15日,原告を自己都合退職した。被告Aは, 原告の代表取締役に対し,退職理由について,父親の介護のため実家に戻 る必要があり,また,自らの健康上の理由から原告での仕事を継続するこ とができないためである旨の説明をした。被告Aは,被告会社の設立後, 被告会社の代表者として,被告会社におけるワイン生産者らからの購入等 の業務に従事している。
被告Bは,同年10月15日に原告を自己都合退職して被告会社に就職 し,被告会社の営業部長として勤務し,被告会社の国内の顧客に対するワ インの販売等の業務に従事している。
(甲3,被告A,被告B) (5) 原告の就業規則の定め 原告の就業規則(以下「原告就業規則」という。)には,次の各規定がおか れている。(甲4(枝番を含む。以下,特に断らない限り同様)) ア 32条 服務心得 従業員は,常に次の事項を守り服務に精励しなければならない。
4号 会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に洩らさ ないこと。
46条 競業およびスカウトの禁止 1項 従業員は退職後3年間当社の定款に定める目的と同一または類似 の業務を営む会社を自ら設立し,またはその会社の役員として勤務 することはできない。
3 争点 (1) 差止め,廃棄及び引渡しを求める請求(前記第1の2,3)が特定され ているといえるか(本案前の争点) (2) 不法行為の成否 ア 被告Aらの一連の行為につき,原告に対する共同不法行為が成立するか 6 (争点1) イ 被告Aらの一連の行為につき,被告会社が使用者責任を負うか(争点2) (3) 債務不履行の成否 被告Aらの一連の行為につき,原告に対する債務不履行が成立するか(争 点3) (4) 不正競争の成否 ア 本件顧客名簿の営業秘密該当性(争点4) イ 被告Aらが本件顧客名簿を不正に取得し,使用し,又は開示したか(争 点5) ウ 被告会社が,被告Aらによる本件顧客名簿の不正取得行為又は不正開示 行為を知りながらこれを取得し,又は使用したか(争点6) (5) 損害額(争点7)4 争点に関する当事者の主張 (1) 本案前の争点 [原告の主張] 前記第1の2及び3の各請求に係る本件顧客名簿の内容はいずれも明確で あるから,これらの各請求は特定されており,これらに係る訴えは適法であ る。
[被告らの主張] 上記第1の2の請求は,使用の禁止を求める本件顧客名簿の内容と接触の 禁止を求める顧客の範囲が不明確であり特定していない。また,上記第1の 3の請求は,記録媒体の廃棄及び印刷物の引渡しを求める「記録」の対象と なる本件顧客名簿の内容が,不明確であり特定していない。したがって,前 記第1の2及び3の各請求に係る訴えは,不適法な訴えとして却下されるべ きである。
(2) 争点1(被告Aらの一連の行為につき,原告に対する共同不法行為が成 7 立するか)について[原告の主張]ア 不法行為又は債務不履行を構成する被告Aらの一連の行為の詳細は,次 のとおりである。
(ア) 原告が購入するはずだったワインの横取り 被告Aらは,原告が本件生産者らから購入して日本で販売する予定で あった本件各ワインを,原告に代わって被告会社が販売することができ るよう,原告在職中から画策し,@被告Aにおいて,原告在職中に,本 件生産者らに対し,原告の信用を低下させる虚偽の内容のメールを送信 した上,原告の社内に向けては,本件生産者らからのワインの購入時期 等に関する虚偽の内容の社内メールを送信するなどし,A原告を退職す る際,被告Aらにおいて,本件生産者らとの過去の取引に関する書類を 生産者ごとに綴ったファイル(シッパーファイル)を持ち出した上,被告 Aにおいて,本件生産者らの事情でワインの生産が遅れているなどとい う虚偽の引継書を作成したり,本件生産者らと行った取引に関するメー ルを含む記録を削除したりするなどし,これらの行為により,原告が本 件生産者らからワインを購入できない状態を作出した。その上で,B原 告が,被告Aの虚偽の引継書に従って本件生産者らからの連絡を待って いる間に,被告Aにおいて,被告会社として本件生産者らと連絡を取っ て,本来であれば原告が購入するはずであったワインを横取りして購入 した(以下,原告の主張する上記@〜Bの一連の行為を「本件横奪行為」 という。) (イ) 本件顧客名簿の持出し及びこれに基づく原告の顧客に対する営業 被告Aらは,本件顧客名簿を原告に無断で持ち出した上,原告を退職 した後,被告会社として,本件顧客名簿に記載された顧客に対して営業 行為を行った。 以下, ( 原告の主張するこの一連の行為を「本件営業行為」 8 という。)イ 原告の事業は,海外のワイン生産者からワインを購入するという輸入行 程(購入行程)と購入したワインを日本国内の顧客に販売する営業行程と に大きく分けられるが,日本国内の顧客は,ワインの生産者,銘柄及び稀 少性等を重要な判断要素として,原告からワインを購入するのであるから, 上記輸入行程が重要かつ独立した事業であることは明らかである。また, 原告において海外のワイン生産者らに対してワインの発注をするに当たっ ては,通常,在庫確認に半月から1か月程度,発注書の郵送からワインの 到着までに2,3か月程度をそれぞれ要するため,各生産者に対して1年 に1度又は2度程度しかワインの発注を行うことができない。このとおり, 行程に要する期間という観点からも,上記輸入行程が,原告の事業におい て重要な意味を持つことは明らかである。
さらに,原告がワインを購入している海外のワイン生産者らは,主に原 告が新規開拓した小規模な農家で,原告との信頼関係に基づき,原告を通 じてのみ日本にワインの出荷を行ってきたが,被告会社との取引開始後は 原告に対するワインの出荷を拒絶するワイン生産者が実際に複数現れてい るから,上記輸入行程に対する競業等の妨害行為は,上記営業行程に対す る妨害行為ともなる。
ウ 以上のとおり,原告の事業において上記輸入行程は極めて重要な意味を 持つ独立した事業行為であるところ,被告Aらは,原告在職中において, 本件横奪行為により原告の上記輸入行程を侵害したのであり,同加害行為 の違法性は強い。また,被告Aらは,本件横奪行為により,従前原告が取 引をしていた海外の生産者からワインを購入し,これにより原告がこれら のワインを販売することができなくする反面,本件営業行為によって,被 告会社としてこれらのワインを販売しているのであり,被告Aらによる原 告の上記営業行程に対する同加害行為が,原告に対する共同不法行為とな 9 ることもまた明らかである。
エ 被告Aらは,原告の元従業員であり,本件横奪行為及び本件営業行為と いう一連の加害行為によって,原告の利益を侵害することを当然に認識し ていた。また,被告Aは,平成24年の春ころ以降,原告からの独立を企 図していたことに加え,原告が購入する予定であったワインを被告会社と して購入し,販売するために虚偽の引継書の作成や虚偽の社内メールの送 信を行う等の確信犯的行為を行っている。したがって,被告Aらには,上 記加害行為についての故意も認められる。
[被告Aらの主張]ア 原告が主張する本件横奪行為及び本件営業行為について (ア) 本件横奪行為について 被告Aが本件生産者らからワインを購入すべく,本件生産者らと直接 又は間接に取引の交渉をした上で被告会社としてワインを購入したこと は事実である。しかしながら,被告Aが,被告会社として,原告におい て購入予約をしていたワインを購入したのは,Gのワインについてのみ であるし,この行為も含めて,被告Aの行為は全て自由競争の範囲内の 行為であって,不法行為には当たらない。
また,原告は,被告Aらが原告を退職する際に原告からシッパーファ イルを持ち出したと主張するが,そのような事実はない。被告会社にと って原告のシッパーファイルは不要であり,これを持ち出す理由がない。
さらに,原告は,被告Aが原告を退職する際に本件生産者らと行った取 引に関するメール等を削除したとも主張するが,被告Aは,原告に在籍 中,本件生産者らを含む約50のワイン生産者等との間で日常的にメー ルのやり取りをし,1日に40通ほどのメールを送受信していた。被告 Aは,原告のサーバー管理担当者から,メールを保存するとサーバーの 記憶容量が減ると言われていた上,メールの内容も事務的なものがほと 10 んどで保存しておく必要がなかったことから,定期的にメールを削除し ていたのであって,特に不当な意図はない。加えて,原告は,被告Aが 海外のワイン生産者らに虚偽の内容のメールを送信して原告に対する信 頼を低下させたとも主張するが,原告が送信したメールの内容はいずれ も真実であり,原告に対する信頼を低下させるようなものではなかった。
また,被告Bは,本件横奪行為を一切行っていない。
(イ) 本件営業行為について 原告は,被告Aらが本件顧客名簿を持ち出し,これを利用して原告の 顧客に対して営業活動を行ったと主張する。しかしながら,被告Aらが 本件顧客名簿を持ち出した事実はなく,これを利用した事実もないし, 被告会社は,原告の顧客以外の多数のワイン販売業者に対しても広く営 業活動を行っているのであって,原告の顧客は被告会社の顧客のごく一 部にすぎない。このように,被告会社は,原告の顧客を含む多くの顧客 に対して営業行為を行ったにすぎず,自由競争の範囲内の適法な行為で ある。
イ 被告Aに不法行為が成立しないこと 上記ア(ア)のとおり,被告Aが,@本件生産者らと直接又は間接に取引 の交渉をし,被告会社として本件各ワインを購入したこと,A原告がGに 購入予約をしていたワインを,被告会社として購入したことは,いずれも 事実である。
しかしながら,原告には,平成24年のワインの購入について,Eから の購入予定はなく,Iとは何らの約束も取り交わしていない。また,Fや Gが原告との取引を中止したのは飽くまでFやGの判断によるもので,被 告Aの上記各行為に起因するものではない。さらに,原告は,平成25年 以降の本件各ワインの購入について,本件生産者らや仲買人らとの間で何 らの契約も取り交わしておらず,将来の取引継続は単なる期待にすぎない 11 から,被侵害利益となり得る具体的な利益がない。このように,被告Aの 上記行為は,いずれも自由競争の範囲内の行為であるか,あるいは,原告 の利益を侵害するものではないから,原告に対する不法行為に当たらない。
また,原告が主張する本件営業行為については,被告Aらが本件顧客名 簿を持ち出した事実はないし,被告Bが,被告会社の営業活動に当たって 本件顧客名簿を用いたこともないから,やはり原告に対する不法行為には 当たらない。
ウ 被告Bに不法行為が成立しないこと 上記ア(ア)のとおり,被告Aは,原告がGに対して購入予約をしていた ワインを購入するという限度で本件横奪行為の一部を行ったが,これは, 被告Aが独断で行ったことであり,被告Bは関与していない。
また,本件営業行為について,被告Bは,原告退職後,原告の顧客を含 む国内のワインの小売店等に対し,被告会社として営業活動を行ってワイ ンを販売したにすぎず,同営業活動に当たって本件顧客名簿を用いたこと がないのはもちろん,被告Bにおいて本件顧客名簿を持ち出した事実自体 も存在しない。したがって,被告Bの上記営業活動は,自由競争の範囲内 の適法な行為である。
よって,被告Bについて,原告に対する不法行為は成立しない。
(3) 争点2(被告Aらの一連の行為につき,被告会社が使用者責任を負うか) について [原告の主張] 上記(2)の[原告の主張]のとおり,被告Aらによる本件横奪行為及び本件 営業行為は原告に対する共同不法行為に当たるし,同共同不法行為は,被告 会社においてワインを販売することを目的とし,実際にも被告会社は本件横 奪行為によって購入したワインを販売していたのであるから,明らかに被告 会社の事業の範囲及び被告Aらの職務の範囲に属すると認められる。したが 12 って,被告会社は,被告Aらの上記共同不法行為につき使用者責任を負う。
[被告会社の主張] 否認ないし争う。
被告会社が本件横奪行為等に関与した事実はない。
(4) 争点3(被告Aらの一連の行為につき,原告に対する債務不履行が成立す るか)について [原告の主張] ア 雇用契約違反 従業員は,雇用契約の期間中,付随義務である忠実義務・誠実義務の一 環として,または信義則上,競業避止義務を負う。被告Aらは,原告在職 中,原告に対してこうした競業避止義務を負っていたにもかかわらず,同 義務に違反して,本件横奪行為及び本件営業行為という競業行為を行った。
なお,被告Aらは,本件横奪行為及び本件営業行為という一連の行為のう ち,ワインを原告から横取りするという重要部分を原告在職中に行ったの であるから,被告Aらによる競業行為は,原告在職中に行われたと評価で きる。
また,被告Aらは,原告在職中の平成24年9月3日付けで,原告と競 業する被告会社を設立しているところ,その設立に当たり,被告Aが50 0万円,被告Bが300万円を出資している。
したがって,被告Aらによる上記の行為は,いずれも原告との雇用契約 に違反する。
イ 競業禁止合意違反 原告就業規則46条は,退職後3年間,原告の競業会社を設立すること, 競業会社の役員に就任すること及び他の従業員に対してスカウトを行うこ とを禁止している(以下「本件競業禁止規定」という。 。そして,被告A ) らは,原告との雇用契約の締結によって,同規定のとおり競業を行わない 13 ことを合意しているから,原告退職後も原告に対して競業避止義務を負っ ている。なお,原告は,原告就業規則を従業員の閲覧に供し,周知させて いたし,本件競業禁止規定は,退職後3年間という短い期間に限り,原告 と同一又は類似の業務を営む会社を自ら設立すること及び同社の役員にな ることという原告にとって特に不利益が大きい行為について限定して禁止 するものであるから,合理的な範囲を超えて原告を退職した従業員の職業 選択の自由を不当に制限するものとはいえない。
しかるに,被告Aらは,原告退職後,本件横奪行為及び本件営業行為を 行ったのであるから,本件競業禁止規定の定める退職後の競業避止義務に 違反することは明らかである。また,被告Aは,被告会社の代表者に就任 しており,この点においても,退職後の競業避止義務に違反する。
[被告Aらの主張]ア 雇用契約違反 以下のとおり,被告Aらの行為は,在職中の競業行為ではないし,原告 が本件生産者らからワインを購入することについて,被侵害利益となり得 る具体的な利益はないから,雇用契約違反の債務不履行は存しない。
(ア) Eについて 上記(2)[被告Aらの主張]イのとおり,原告が平成24年中にEからワ インを購入する予定はなかった。
(イ) Fについて 被告Aは,原告を退職する直前にFに連絡したにすぎないから,被告 Aの行為は,退職後の競業行為と評価すべきであるし,原告との取引を 中止したのは飽くまでFの判断によるものである。
(ウ) Gについて 被告Aの行為によって原告が平成24年度中にGからワインを購入す ることが不可能になったわけではない。
14 (エ) Hについて 被告Aは,原告を退職する直前にHに連絡したにすぎないから,被告 Aの行為は,退職後の競業行為と評価すべきである。また,原告との取 引を中止したのは,飽くまでHの判断によるものである。
(オ) Iについて 被告Aは,原告を退職する直前にIに連絡したにすぎないから,被告 Aの行為は,退職後の競業行為と評価すべきであるし,原告は,平成2 4年度中にIからワインを購入する権利を有していない。また,原告と の取引を中止したのは,飽くまでIの判断によるものである。
(カ) Jについて 被告AがJのワインを購入するために仲買人に連絡をしたのは,原告 を退職する前日であるから,被告Aの行為は,退職後の競業行為という べきであるし,また,仲買人の元には,Jのワインの在庫が十分にあり, 被告会社がJのワインを購入しても,原告はJのワインを購入すること ができた。したがって,原告には,被侵害利益となり得る具体的な利益 がない。
(キ) Kについて 被告AがKのワインを購入するために仲買人に連絡をしたのは,原告 を退職した後の平成24年10月4日であり,被告Aに在職中の競業避 止義務違反はない。
(ク) Lについて 被告AがLのワインを購入するために仲買人に連絡をしたのは,原告 を退職した後の平成24年10月1日であり,被告Aに在職中の競業避 止義務違反はない。
イ 競業禁止合意違反 原告就業規則は,労働基準法106条1項に反して従業員に周知されて 15 いなかったから,就業規則としての効力が認められない。また,本件競業 禁止規定は,競業についての場所的な限定がない上,対象となる職種も極 めて広範であるなど,制限の程度が極めて強力である反面,被告Aらは制 限の代償たる経済的な給付を一切受けていないから,本件競業禁止規定は, 被告Aらの職業選択の自由を不当に制限するものとして,公序良俗に反し 無効である。
したがって,被告Aらには退職後の競業避止義務はなく,退職後の競業 について競業禁止合意違反となる余地はない。
5 争点4(本件顧客名簿の営業秘密該当性)について [原告の主張] 本件顧客名簿は,次のとおり,不正競争防止法上の営業秘密に当たる。
有用性 本件顧客名簿には,顧客の連絡先や担当者名等に加え,当該顧客への商 品の販売履歴(商品名・数量・金額等)も含まれており,原告は本件顧客 名簿に基づいて営業活動を行っているのであるから,本件顧客名簿には当 然に有用性がある。
秘密管理性 @本件顧客名簿を使用するためのシステムは,外部のパソコンからは起 動できず,原告に備え付けられたパソコンから起動する必要がある。そし て,A同システムへのログイン時には,原告から従業員に対して個別に配 布された専用のID及びパスワードを入力する必要がある。さらに,B本 件システムにログインした従業員が閲覧又は印刷することができる本件顧 客名簿の範囲は,従業員ごとに異なる設定がされ,とりわけ「請求先マス タ」画面については,原告従業員のうち,営業担当者による閲覧及び印刷 ができないように設定されている。
このように,原告は,本件顧客名簿の財産的価値に鑑みてこれを厳格に 16 管理しており,本件顧客名簿に接する従業員も,本件顧客名簿が秘密に管 理されていることを容易に認識することができる。
したがって,本件顧客名簿には,秘密管理性がある。
非公知性 本件顧客名簿は,長年の営業活動の中で原告が独自に蓄積してきた公然 と知られていない情報であるから,本件顧客名簿に非公知性があることは 明らかである。
[被告らの主張] 本件顧客名簿は,次のとおり,不正競争防止法上の営業秘密には当たらない。
有用性がないこと 原告の顧客の名称,住所や電話番号等の連絡先は,顧客のウェブサイ ト等で容易に確認することができるし,顧客への商品の販売履歴につい ても,顧客のウェブサイト等を見れば,当該顧客がどのような商品を取 り扱っているのか,つまり,どのような商品を購入しているのかが容易 に分かる。
したがって,本件顧客名簿に特段の有用性はない。
秘密管理性がないこと 原告の本社事務所内の営業事務担当者の座席がある場所に設置されて いた棚の上には,過去1〜2年分の納品書(顧客の名称,住所・電話番 号等の連絡先,購入商品等が記載されたもの)を顧客名ごとに整理した ファイルが置かれていた。また,同じく営業事務担当者の座席がある場 所に設置されていたロッカーの中には,顧客の注文書(顧客の名称,住 所・電話番号等の連絡先,担当者名,注文する商品等が記載されたもの) を送付された日ごとにまとめたファイルが,施錠されない状態で保管さ れていた。このように,本件顧客名簿の重要部分を構成する顧客の名称, 17 住所・電話番号等の連絡先,担当者名,購入商品などの情報は,原告の 本社事務所の従業員であれば,誰でも自由に閲覧できる状態にあったか ら,本件顧客名簿へのアクセスが制限されていたとはいえない。
さらに,原告の本社事務所内で稼働していた従業員が,パソコンから 原告のシステム内の本件顧客名簿を閲覧する場合,パスワードを入力す る形式となっていたが, 「納品先マスタ」画面と「請求先マスタ」画面は, 原告の本社事務所内の全従業員が閲覧できる状態にあった。加えて,上 記のとおり,原告の本社事務所内には,納品書や注文書をまとめたファ イルが,誰でも自由に閲覧可能な状態で置かれており,本件顧客名簿に アクセスする者が,これを秘密であると認識することは困難な状況にあ った。
よって,本件顧客名簿が秘密として管理されていたとはいえない。
非公知性がないこと 本件顧客名簿の中核を構成するワインの小売店やレストラン等の顧客 の名称,その所在地,電話番号,ファックス番号,メールアドレス等は, インターネット上の検索サイトなどを利用することにより,極めて容易 に入手することができ,顧客のウェブサイト等でも容易に確認すること ができる。また,顧客への商品の販売履歴についても,上記アのとおり, 顧客のウェブサイト等を見れば,当該顧客がどのような商品を取り扱っ ているのか,つまり,どのような商品を購入しているのかが容易に分か る。
したがって,本件顧客名簿に,非公知性はない。
(6) 争点5(被告Aらが本件顧客名簿を不正に取得し,使用し,又は開示した か)について [原告の主張] ア 被告Aらは,原告に無断で,本件顧客名簿を原告のシステム上から不正 18 に取得した上,不正に使用し,又は被告会社に開示し,あるいは,原告か ら示された本件顧客名簿を,不正の利益を得る目的等により使用し,又は 被告会社に開示した。
イ 被告Aらは,本件顧客名簿等を持ち出していないとか検索サイト等を利 用して顧客の連絡先等を入手したなどと主張するが,被告Aらが,面識の ない原告の顧客に対し,被告会社として営業を行ったこと,被告Aらが主 張するような方法で顧客の連絡先(担当者名を含む。)を入手することは不 可能であること等に照らせば,被告Aらが原告から本件顧客名簿を持ち出 したことは明らかである。
[被告Aらの主張]ア 被告Aらが本件顧客名簿を持ち出した事実はないから,被告Aらによる 本件顧客名簿の不正取得や不正使用等はあり得ない。被告Aらが本件顧客 名簿を持ち出していないことは,被告会社が行った次の営業活動の内容か らも明らかである。
(ア) 被告会社は,営業開始後,挨拶状の一斉送付をしていない。
(イ) 被告Bは,被告会社の営業開始後,まず,取引対象になりそうな国 内の有力なワインの小売店を選定し,営業用のダイレクトメールを郵送 した。その後,当該小売店に電話連絡をして,被告会社を設立したこと を伝え,営業用のメールを送ってもよいかどうかを問い合わせ,承諾を 得られた小売店に対し,営業用のメールを送信した。
ダイレクトメールを送付する小売店の選定は,ワイン関連の検索サイ ト,ショッピングポータルサイトのワインショップ一覧及びワインの専 門雑誌に載っていた小売店のリストを利用して行い,各小売店の住所や 連絡先電話番号は,上記の検索サイト等を利用してたどり着いた各小売 店の詳細ページや,ワイン専門雑誌の小売店リストの記載を利用して入 手した。また,営業用メールを送付する際に必要となる各小売店のメー 19 ルアドレスは,電話連絡した際,先方から教えてもらったり,各小売店 の詳細ページやホームページ等に表示されているメールアドレスに送っ てよいかどうかを確認したりすることによって,入手した。
(ウ) また,被告Bは,被告会社で購入する予定のワインの銘柄と, 「ワイ ンショップ」や「酒屋」という言葉をキーワードにして,検索エンジン の「グーグル」を利用して検索し,当該ワインを取り扱っている小売店 を見つけ出し,そこにダイレクトメールを郵送するという方法を採った。
送付先の小売店の住所や連絡先電話番号は,検索結果に基づいて小売店 の個別のホームページを閲覧して入手し,メールアドレスは,上記(イ) と同じ方法で入手した。
(エ) 被告Bは営業活動の過程で,本件顧客名簿を一切利用していない。
被告Bが営業活動のために連絡した国内の小売店等の数は,現在まで に約380店舗に及んでいるが,このうち被告Bが原告に在職している ときに関わりのあった小売店等は,50店舗程度にすぎない。この事実 からも,被告Aらが本件顧客名簿を持ち出したことがなく,被告会社の 営業活動にもこれを使用していないことが明らかである。
イ 原告は,被告Aらが本件顧客名簿を持ち出したと主張し,その根拠とし て,被告Bが,面識がない原告の顧客の担当者宛に,事前の連絡もなく, いきなりメールで連絡をしたなどと主張するが,そのような事実はなく, 原告の上記主張は,明らかに事実に反している。
また,原告は,被告Aらが受注書のデータを持ち出したことを根拠に, 被告Aらが退職時に本件顧客名簿を持ち出したとも主張するが,被告Aら が受注書のデータを持ち出した証拠として原告が提出する甲31の営業用 文書の電磁データ(ワードファイル)は,被告Aらが退職した時より2年 以上も前に,被告Aが自宅で書類作成作業を行う目的で,自宅にメール送 信したものであって,被告Aらが退職時に持ち出したものではないから, 20 原告の主張には理由がない。このことは,受注書の元データが原告の社内 で最後に印刷されたのが,被告Aらの退職より2年以上前であることから も明らかである。
? 争点6(被告会社が,被告Aらによる本件顧客名簿の不正取得行為又は不 正開示行為を知りながらこれを取得し,又は使用したか)について [原告の主張] 被告会社は,被告Aらが本件顧客名簿を不正に取得したことを知りながら, 被告Aらから本件顧客名簿を取得した上で使用し,又は被告Aらによる本件 顧客名簿の開示が不正開示行為であることを知りながら,被告Aらから本件 顧客名簿を取得し,又は使用した。
[被告会社の主張] 否認する。
被告会社は,原告が主張するような不正取得や不正使用に及んでいない。
? 争点7(損害額)について [原告の主張] 原告は,被告Aらの本件横奪行為及び本件営業行為並びに被告らの不正競 争行為等によって,以下の損害を被った。
ア 平成24年の売上が減少したことによる損害 被告Aらの本件横奪行為により,原告は平成24年に本件生産者らから ワインを購入して販売することができなくなり,これによって本来得るこ とができたはずの売上が得られなくなったため,次のとおり合計535万 5606円の損害をこうむった。
(ア) E 42万0720円 被告Aは,原告在職中の平成24年6月,Eに対し,原告の名義で, コンフィダンス2009(240本)及びヴァンソブル2010(36 0本)の購入を予約していたが,被告らは,被告会社としてこれらのワ 21 インを購入し,顧客に販売した。その結果,原告は,平成24年におい て,Eからこれらのワインを購入することができなくなった。なお,被 告らは,原告が平成24年にコンフィダンス2010を購入したことを 理由に,原告がコンフィダンス2009を購入できなかったことによる 損害を被っていないと主張するが,このような主張には理由がない。
コンフィダンス2009の一本当たりの粗利益は763円,ヴァンソ ブル2010の一本当たりの粗利益は660円(ヴァンソブル2009 と同額で算出)であるから,原告は,平成24年分の売上損害として, 少なくとも次の@Aの合計額である42万0720円の損害を被った。
@ コンフィダンス2009 763円×240本=18万3120円 A ヴァンソブル2010 660円×360本=23万7600円(イ) F 58万0638円 被告Aは,原告在職中の平成24年6月,Fに対し,原告の名義で, サヴニエール?ランクロ”2010(420本),サヴニエール?ランクロ” 2010マグナムボトル(6本)を予約していたが,被告らは,被告会 社としてこれらのワインを購入し,顧客に販売した(甲7の1)。その結 果,原告は,平成24年において,Fからこれらのワインを購入するこ とができなくなった(甲15,甲26)。
サヴニエール?ランクロ”2010及びサヴニエール?ランクロ”20 10マグナムボトルの一本当たりの粗利益は,いずれも1363円(サ ヴニエール?ランクロ“2009の粗利益と同額で算出)であるから,原 告は,被告らの行為により,平成24年分の売上損害として,少なくと も,次の@及びAの合計額である58万0638円の損害を被った。
@ サヴニエール?ランクロ”2010 1363円×420本=57万 2460円 A サヴニエール?ランクロ”2010マグナムボトル 1363円×6 22 本=8178円(ウ) G 146万9280円 被告Aは,原告在職中,Gに対し,原告の名義で,シャトー・サミオ ン赤2010(480本),イルレギー白2011(480本)及びイル レギー赤2010(480本)の購入を予約していたが,被告Aらは, 被告会社としてこれらのワインを購入し,顧客に販売した。その結果, 原告は,平成24年において,Gからこれらのワインを購入することが できなくなった。
シャトー・サミオン赤2010,イルレギー白2011及びイルレギ ー赤2010の一本当たりの各粗利益は,順に1373円,880円及 び808円(それぞれ,シャトー・サミオン赤2009,イルレギー白 2010及びイルレギー赤2009の各粗利益と同額で算出)であるか ら,原告は,被告らの行為により,平成24年分の売上損害として,少 なくとも,次の@〜Bの合計額である146万9280円の損害を被っ た。
@ シャトー・サミオン赤2010 1373円×480本=65万9 040円 A イルレギー白2011 880円×480本=42万2400円 B イルレギー赤2010 808円×480本=38万7840円(エ) H 48万8160円 被告Aは,原告在職中の平成23年秋ころ,Hに対し,原告の名義で, クレークソ2010(180本),アミルカル・リフソーレ2011(1 80本)及びアイ・ツゥ2010(360本)を予約していたが,被告 らは,被告会社としてこれらのワインを購入し,顧客に販売した。その 結果,原告は,平成24年において,Hからこれらのワインを購入する ことができなくなった。
23 クレークソ2010,アミルカル・リフソーレ2011及びアイ・ツ ゥ2010の一本当たりの各粗利益は,順に537円,579円及び7 98円(それぞれ,クレークソ2009,アミルカル・リフソーレ20 09,アイ・ツゥ2009の各粗利益と同額で算出)であるから,原告 は,被告らの行為により,平成24年分の売上損害として,次のとおり, 少なくとも,48万8160円の損害を被った。
@ クレークソ2010 537円×180本=9万6660円 A アミルカル・リフソーレ2011 579円×180本=10万4 220円 B アイ・ツゥ2010 798円×360本=28万7280円(オ) I 126万2478円 原告は,平成23年にはIから年2回ワインを購入し,購入したワイ ンである「キュヴェ・ド・レゼルヴ・ブリュット 白」 「エクストラ・ , ブリュット?キュヴェ・マリー=カトリーヌ“白」 「ロゼ , ブリュット」 及び「ミレジメ ブリュット 白」を販売することにより252万49 55円の粗利益を得た。被告らは,本来であれば原告が購入する予定で あったこれらのワインを,被告会社として購入し,顧客に販売した。
その結果,原告は,平成24年にIからこれらのワインを1回しか購 入することができず,少なくとも,126万2478円(原告が平成2 3年に得た粗利益の2分の1)の損害を被った。
(カ) J 75万6162円 原告は,平成23年において,Jから購入した「シャトー・プティ= ボック 赤(サンステノフ)」等を販売することにより,75万6162 円の粗利益を得ていたが,被告らは,本来であれば原告が購入する予定 であった同ワインを,被告会社として購入し,顧客に販売した。
その結果,原告は,平成24年にJから同ワインを購入することがで 24 きず,少なくとも,75万6162円の損害を被った。
(キ) K 19万8648円 原告は,平成23年において,Kから購入した「サンテイム 赤」を 販売することにより,19万8648円の粗利益を得ていたが,被告ら は,本来であれば原告が購入する予定であった同ワインを,被告会社と して購入し,顧客に販売した。その結果,原告は,平成24年にKから 同ワインを購入することができず,少なくとも,19万8648円の損 害を被った。
(ク) L 17万9520円 原告は,平成23年において,Lから購入した「シャトー・クシー 赤 (モンターニュ・サンテミリオン) を販売することにより17万952 」 0円の粗利益を得ているところ,被告らは,本来であれば原告が購入す る予定であった同ワインを,被告会社として購入し,顧客に販売した。
その結果,原告は,平成24年にLから同ワインを購入することができ ず,少なくとも,17万9520円の損害を被った。
イ 平成25年以降における売上の減少による損害 原告がワインを購入しているのは,いずれも主に原告が自ら開拓した小 規模生産者からであり,原告との信頼関係に基づき,原告を通じてのみ日 本にワインの出荷を行っている場合が多い。したがって,原告と海外のワ イン生産者らとの間には,書面による取引基本契約書等が存在しなくとも, 特別な問題が発生しない限りは,将来的にも継続的に原告を通じてのみ日 本にワインを出荷する旨の暗黙の合意が存在していた。にもかかわらず, 原告は,被告らの行為により,平成25年以降,本件生産者らからワイン を購入して販売することができなくなり,そのために,平成25年及び同 26年において,次のとおり,合計1019万0844円の売上減少によ る損害を被った。
25 (ア) F 133万1906円 原告は,平成23年に,Fから購入したワイン(サヴニエール“ラン クロ”白)を販売して66万5953円の粗利益を得ており,被告らの 行為がなければ,平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずで ある。したがって,原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2 年分である133万1906円の損害を被った。
(イ) G 92万2736円 原告は,平成25年以降,Gからシャトー・サミオン赤及びイレルギ ー白については購入することができているものの,最も希少性が高く生 産本数が少ないイレルギー赤については,購入できていない。
原告は,平成23年に,Gから購入したイルレギー赤2009を販売 して46万1368円の粗利益を得ており,被告らの行為がなければ, 平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずである。したがって, 原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2年分である92万2 736円の損害を被った。
なお,被告らは,原告がイレルギー赤の代替品としてイレルギー赤ド メーヌ・ブラナを購入しているから原告に損害は発生していないと主張 するが,両ワインはそもそもワイナリーを異にするものであり,代替品 となるものではないから失当である。
(ウ) H 61万7632円 原告は,平成23年に,Hから購入したワインを販売して30万88 16円の粗利益を得ており,被告らの行為がなければ,平成25年以降 も毎年同額の粗利益を得られたはずである。したがって,原告は,少な くとも平成25年及び平成26年の2年分である61万7632円の損 害を被った。
(エ) I 504万9910円 26 原告は,上記ア(オ)のとおり,平成23年に,Iから購入したワイン を販売して252万4955円の粗利益を得ており,被告らの行為がな ければ,平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずである。し たがって,原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2年分であ る504万9910円の損害を被った。
(オ) J 151万2324円 原告は,上記ア(カ)のとおり,平成23年,Jから購入したワインを 販売して75万6162円の粗利益を得ており,被告らの行為がなけれ ば,平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずである。したが って,原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2年分である1 51万2324円の損害を被った。
(カ) K 39万7296円 原告は,上記ア(キ)のとおり,平成23年に,Kから購入したワイン を販売して19万8648円の粗利益を得ており,被告らの行為がなけ れば,平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずである。した がって,原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2年分である 39万7296円の損害を被った。
(キ) L 35万9040円 原告は,上記ア(ク)のとおり,平成23年に,Lから購入したワイン を販売して17万9520円の粗利益を得ており,被告らの行為がなけ れば,平成25年以降も毎年同額の粗利益を得られたはずである。した がって,原告は,少なくとも平成25年及び平成26年の2年分である 35万9040円の損害を被った。
無形損害 原告は,被告Aらが本件横奪行為の一環として海外のワイン生産者らに 虚偽の内容のメールを送信したため,海外のワイン生産者らとの関係にお 27 いて,信頼低下等の無形損害を被っており(甲14,甲15,甲18,甲 19),その損害額は445万3550円を下らない。
また,原告は,被告Aらの本件横奪行為により,国内の顧客から注文を 受けていたワインを購入できなくなったため,同ワインを注文した顧客に 謝罪を行った。これにより,原告は,国内の顧客との関係において,信頼 低下等の無形損害を被っており,その損害額は1000万円を下らない。
エ 以上のとおり,原告は,被告らの行為により,合計1554万6450 円の粗利益を上げることができなくなるという財産的損害及び1445万 3550円の無形損害を被ったのであって,原告の損害額は,合計300 0万円を下らない。そこで,原告は,被告らに対し,同損害額の一部であ る2000万円(内訳は,売上損害1554万6450円と無形損害の一 部である445万3550円)の連帯支払を求める。
[被告らの主張]ア 平成24年の売上が減少したことによる損害について (ア) E 原告は,平成22年と23年に,いずれもイン・ファイン,コンフィ ダンス,ヴァンソブルをセットで購入したが,これは,原告がEに対し て,イン・ファインの購入を希望したところ,Eから,コンフィダンス とヴァンソブルもセットで購入してほしいと要請されたためである。と ころが,平成24年には,原告が取引上重要なワインと考えていたイン・ ファインが出荷される予定がなかったため,原告は,平成24年にはE からワインを購入する予定はなかった。したがって,原告に損害は生じ ていない。また,平成24年は,平成23年と異なり,Eの目玉ワイン であるイン・ファインの出荷がなく,イン・ファイン抜きで販売しなけ ればならない状況にあったから,イン・ファインとセットで販売するこ とができた平成23年と同様の売上利益を確保できたと推認することは 28 できない。
これらの点を措くとしても,次のとおり,原告の主張する損害はいずれも認められない。
a コンフィダンス2009 原告がコンフィダンス2009を購入できなかったとしても,原告 は,その後速やかにEからコンフィダンス2010を別途購入して販 売することにより利益を確保している。このように,原告が平成24 年にEからコンフィダンスを購入できなかった事実はないから,原告 が主張する損害が認められる余地はない。原告の主張は,コンフィダ ンス2009を購入できなかった以上,その後にコンフィダンス20 10を購入・販売して利益を得たにもかかわらず,コンフィダンス2 009の購入・販売による逸失利益が残っているというものであるが, 原告がワインの販売利益を二重に取得することとなって不当である。
なお,仮に原告に損害が生じているとしても,原告が国内の顧客に ワインを販売するに際しては日本郵便を利用しているので,送料相当 額6000円(12本当たりの送料が300円であるから,計算式は 240本/12本×300円)を減額すべきである。
b ヴァンソブル2010 原告は,ヴァンソブル2010についての損害を算定するに当たり, 平成23年の仕入単価である6.98ユーロで計算しているが,必ず しも前年と同じ金額で購入することができるわけではなく,実際,被 告会社の平成24年の仕入単価は7.10ユーロである。したがって, その差額である4412円(計算式は,次のとおり)を,原告主張の 損害額から減額すべきである。
計算式:(7.10ユーロ-6.98ユーロ)×360本×10 2.13円(=被告会社が同ワインを購入した時点での 29 ユーロ円の為替レート) また,原告は日本郵便を利用しているので,上記aと同様,原告主 張の損害額からさらに送料相当額9000円(360本/12本×3 00円)を減額すべきである。
(イ) F 原告は,サヴニエール“ランクロ”2010(420本)についての 損害額を算定するに当たり,平成23年の仕入単価である10.5ユー ロで計算しているが,必ずしも前年と同じ金額で購入することができる わけではなく,実際,被告会社の平成24年の仕入単価は12.5ユー ロである。したがって,その差額である10万0279円(計算式は, 次のとおり)を,原告主張の損害額から減額すべきである。
計算式:(12.5ユーロ-10.5ユーロ)×420本×119. 38円(=被告会社が同ワインを購入した時点でのユーロ 円の為替レート) また,原告は,ワインを発送する際に日本郵便を利用しているので, 上記(ア)aと同様,原告主張の損害額からさらに送料相当額1万065 0円((420本+6本)/12本×300円)を減額すべきである。
(ウ) G ワイン生産者の中には,同一国で複数の輸入業者と取引をする者もい るから,被告会社がGからワインを購入したことによって,ただちに原 告がGからワインを購入することが不可能となったわけではない。した がって,原告に損害はないし,仮に原告が平成24年中にGからワイン を購入することができなかったとしても,被告Aの行為との間に因果関 係もない。
仮に原告に損害が生じているとしても,原告の損害額の算定には次の 2点で疑義がある。
30 a 原告は,損害額を算定するに当たり,仕入単価をシャトー・サミオ ン赤については11ユーロ,イレルギー赤については7ユーロ(いず れも平成23年の仕入単価)として計算しているが,必ずしも前年と 同じ金額で購入することができるわけではない。実際,被告会社の平 成24年の仕入単価は,シャトー・サミオン赤が11.3ユーロ,イ レルギー赤が7.5ユーロである。したがって,その差額である4万 3038円(計算式は,次のとおり)を,原告主張の損害額から減額 すべきである。
計算式:(11.3ユーロ-11ユーロ)×480本+(7.5ユ ーロ-7ユーロ)×480本×112.08円(=被告会 社がこれらの各ワインを購入した時点でのユーロ円の為 替レート) b 原告は,ワインを発送する際に日本郵便を利用しているので,上記 (ア)aと同様,原告主張の損害額からさらに送料相当額3万6000 円((480本+480本+480本)/12本×300円)を減額 すべきである。
(エ) H 上記(ア)と同様の理由で,原告が,平成24年において平成23年と 同様の利益を得られたとはいえない。
また,原告は日本郵便を利用しているので,上記(ア)aと同様,原告 主張の損害額から送料相当額1万8000円(720本/12本×30 0円)を減額すべきである。
(オ) I 原告は,平成24年にIからワインを購入することについて,Iとの 間で,何らの契約も取り交わしていない。また,原告は,Iとスポット 的に取引をしているにすぎず,何度か取引をしたからといって,今後も 31 Iとの取引を継続できるとは限らないから,原告に損害は生じていない。
(カ) J,K,L 原告は,これらのワインを,いずれも仲買人から購入しているところ, 仲買人は,ワインの卸売業者であって,取り扱うワインを販売するため に多数の輸入業者と取引をする。したがって,被告会社が仲買人から購 入したからといって,そのことにより直ちに原告がその仲買人から購入 することができなくなるものではない。
加えて,Kのワインについて,原告は「N」という仲買人から購入し ているのに対し,被告会社は「P」という全く別の仲買人から購入して いるのであって,被告会社がKのワインを購入したことが,原告におけ るKのワインの購入に何の影響も及ぼしていないことは明らかである。
イ 平成25年以降における売上の減少による損害について (ア) F,G,H,Iについて 原告は,平成25年以降のワインの取引について,各ワイン生産者と の間で何らの契約も取り交わしておらず,将来の取引継続は単なる期待 にすぎない。原告が過去に複数回にわたって特定の生産者からワインを 購入していたとしても,販売の好不調にはワインの出来不出来が大きく 影響するため,購入者の多くはでき上がったワインの品質を確認してか ら購入しており,他方,ワイン生産者らも自分たちのワインを大切にし てくれる業者を求めて取引業者を変更することが多々ある。したがって, 原告が今後も継続してこれらのワイン生産者らからワインを購入できる かどうかは全く不確実なのであって,原告に損害は発生していない。
なお,Gについて,原告は,イレルギー赤を購入することができなく なったと主張するが,仮にイレルギー赤を購入することができなかった としても,原告はその代替品として「イレルギー赤ドメーヌ・ブラナ」 を購入しており,これによってイレルギー赤を購入することができなか 32 ったことによる損失をてん補している。
(イ) J,K,Lについて 原告は,これらのワインをネゴシャンと呼ばれる仲買人から購入して いるところ,仲買人を通じて購入する場合,生産者との関係は希薄であ り,当該ワインの評判や価格などを考慮して購入の是非を決するので, 取引継続への期待は保護に値しない。
前記ア(カ)のとおり,仲買人は,多数の輸入業者等と取引をするので, 被告会社が取引を申し入れたからといって,そのことにより原告がその 仲買人と取引ができなくなることはないし,特に,Kのワインについて は,原告の仕入先である仲買人と被告の仕入先である仲買人が別であっ て,被告会社がKのワインを購入したことは,原告のワインの購入に何 ら影響しない。
無形損害について 被告らの行為によって原告の信頼が低下した事実はなく,原告に無形損 害は生じていない。
原告は,被告Aが原告の取引先であるワイン生産者らに送ったメールを 問題とするが,同メールの内容は,被告Aが原告を退職して新たな会社を 設立し,新たな会社での取引を希望していることを伝えるもので,原告を ひぼう中傷するものではないから,原告に「信頼の低下」と評価するほど の実害が生じることはない。実際,原告は,現在も,甲13のメールの送 信先であるワイン生産者(Q)や甲14のメールを送信してきたワイン生 産者(R)と取引を継続しているのであって,原告に信頼の低下という実 害が発生していないことは明らかである。
また,原告は,Gのワインを納品できなかったことについて国内の顧客 に謝罪したため,原告の信頼が低下したとも主張するが,ワインの取引に おいて,予定していたワインがワイン生産者の都合で顧客に納品できなく 33 なることはしばしばあり,納品の約束を一度履行できなかったからといっ て,信頼の低下と評価するほどの実害が生じることはない。
当裁判所の判断
1 本案前の争点について 原告は,本件顧客名簿が原告の営業秘密であるとしてこれを用いた営業行為 等の差止め,本件顧客名簿が記録された記録媒体及び電磁的記録媒体の廃棄並 びにこれらの媒体からの印刷物の引渡しを求めるが,本件顧客名簿は,別紙営 業秘密目録記載のとおり,「原告業務に使用するコンピューターの記録媒体内 に記録された原告作成にかかる顧客名簿(顧客の『納品先コード』 『請求 or , 納品』 『納品先名』 『フリガナ』 『敬称』 『郵便番号』 『都道府県』 『住所』 , , , , , , , 『ビル・建物名』 『部署名』 『部署名フリガナ』 『電話番号』 『FAX番号』 , , , , , 『役職』 『内線』 『担当者』 『担当者フリガナ』 『メールアドレス』 『備考』 , , , , , 等の記入欄があるもの(以上『納品先マスタ』画面, 『請求先マスタ』画面等) 」 ) というものであって,単に上記のような項目を並べたにすぎず,顧客名やその 各項目に係る具体的内容は何ら記載されていないから(なお,甲8の「請求先 マスタ」等を見ても,その具体的内容はやはり判然としない。 ,営業秘密の内 ) 容が何ら特定されていないといわざるを得ず,ひいては,差止め・廃棄及び引 渡しの対象が具体的に特定されているとは認められない。
したがって,本件顧客名簿を用いた営業行為等の差止め,本件顧客名簿が記 録されたコンピューター内の記録媒体及び電磁的記録媒体の廃棄並びにこれ らの媒体からの印刷物の引渡しを求める訴え(前記第1の2及び3の各請求に 係る訴え)は,不適法として却下すべきである。
2 争点1(被告Aらの一連の行為につき,原告に対する共同不法行為が成立す るか)について (1) 証拠等(各項末尾に掲記する。)によれば,次の事実が認められる。
ア 原告によるワインの購入予約 34 被告Aは,原告の業務として,本件生産者らに対し,以下のとおり,原 告名でワインの購入予約をした。
(ア) E(平成24年6月ころ) コンフィダンス2009 240本 ヴァンソブル2010 360本 (イ) F(平成24年6月ころ) サヴニエール“ランクロ”2010 420本 サヴニエール“ランクロ”2010 マグナムボトル 6本 (ウ) G(平成24年9月12日以前) シャトー・サミオン赤2010 480本 イレルギー白2011 480本 イレルギー赤2010 480本 (エ) H(平成23年秋ころ) クレークソ2010 180本 アミルカル・リフレーソ2011 180本 アイ・ツゥ2010 360本 (乙15〜17,21)イ 本件生産者ら等に対するメールの送信 被告Aは,平成24年9月15日に原告を自己都合退職したところ(前 記第2,2(4)イ),同月5日から同年10月4日にかけて,原告の取引先 (仕入れ先)である本件生産者らや仲買人らに対し,次のとおり,原告を 退社して被告会社を設立したことや今後は被告会社としてワインの購入を 継続したいことなどを通知・表明するメールを送信した。
(ア) Eに対するメール(平成24年9月8日送信) 「私は出水商事を退職し,自身でワインの輸入・販売会社を立ち上げ ました。」 35 「貴ワイナリーと出水商事の取引の始まりの段階から,まずは私は貴 方にコンタクトを取り,貴社との取引関係と,日本市場での貴ワイナリ ーのブランドを発展させてきました。ですから私は私達の関係の進展の 全てを把握しています。」 「残念ながら出水商事には私の後継者がおりません。このようなわけ で,私は貴社のワインをヴィヴィットを通して輸入・販売し続けたいの です。」 「以下のワインを予約したことを覚えています。
2010ヴァンソブル360本及び2010ヴァンソブル“コンフィ ダンス”240本 私はこの予約したワインを引き取り,改めて私の会社ヴィヴィットを 通して貴方と取引をしたいのです。」(イ) Fに対するメール(平成24年9月11日送信) 「私は出水商事を退職し,自身でワインの輸入・販売会社を立ち上げ ました。」 「貴ワイナリーと出水商事の取引の始まりの段階から,まずは私が貴 方にコンタクトを取り,そして貴社との取引関係と,日本市場での貴ワ イナリーのブランドを発展させてきました。ですから,私は私達の関係 の進展の全てを把握しています。」 「残念ながら出水商事には私の後継者がおりません。このようなわけ で,私は貴社のワインをヴィヴィットを通して輸入・販売し続けたいの です。」 「以下のワインを予約したことを覚えています。
2010 サヴニエール“ランクロ” 420本 2010 サヴニエール“ランクロ”マグナムボトル 6本 この予約したワインの流通から,改めて私の会社ヴィヴィットを通し 36 て貴方と取引をしたいと思います。」(ウ) Gに対するメール(平成24年9月13日送信) 「私は出水商事を退職し,自身で日本でワインの輸入・販売会社を立 ち上げました。」 「貴ワイナリーと出水商事の取引の始まり段階から,まずは私がコン タクトを取り,貴社との取引関係と,日本市場での貴ワイナリーのブラ ンドを発展させてきました。ですから,私は私達の関係の進展の全てを 把握しています。」 「残念ながら出水商事には私の後継者がおりません。このようなわけ で,私は貴社のワインをヴィヴィットを通して輸入・販売し続けたいの です。」 「以下のワインを予約したことを覚えています。
2010 シャトー・サミオン 480本 2011 エリ・ミナ 白 480本 2010 エリ・ミナ 赤 480本 私はこの予約したワインを引き取り,改めて私の会社ヴィヴィットを 通じて貴方と取引をしたいのです。」(エ) Hに対するメール(平成24年9月6日送信) 「私は出水商事を退職し,自身で日本でワインの輸入・販売会社を立 ち上げました。」 「出水商事での私達の取引関係の最初から,貴方のワインを発見し, 日本で発展させてきたのは私です。」 「私は貴方のワインを出水商事ではなく,自身の会社で販売し続けた いのです。なぜなら,出水商事には私の後継者がいないからです。」 「以下のワインを予約したことを覚えています。
2010 クレークソ 180本 37 2011 アミルカル・フィルレーソ 180本 2010 アイ・ツゥ 360本」 「これらの予約したワインの出荷を11月にしてくれることと,私の 会社と取引をすることを了承して頂けるようにお願い致します。」 (オ) Iの知人に対するメール(平成24年9月5日送信) 「私は出水商事を退職し,自身で日本でワインの輸入・販売会社を立 ち上げました。」 「フランソワ・ビリオンを見つけ,そして日本市場でのこのブランド を発展させてきたのは私であるからです。」 「私はビリオンのシャンパーニュを,出水商事ではなく私自身の会社 ヴィヴィットを通して輸入・販売し続けたいのです。また,残念ながら 出水商事には私の後継者がおりません。」 「ですから, 氏にできるだけ早くコンタクトを取り, I 状況を説明し, 私の会社ヴィヴィットを通して私と取引を続けてくれるようにお願いし て頂けますようお願い致します。」(カ) Mに対するメール(平成24年9月14日送信) 「私は出水商事を退職し,自身でワインの輸入・販売会社を立ち上げ ました。」 「貴社と出水商事との取引の始まりの段階から,まずは私が貴方にコ ンタクトを取り,そして貴社との取引関係と,日本市場でのプティ・ボ ック ブランドを発展させてきました。ですから私は私達の関係の進展 の全てを把握しています。」 「残念ながら出水商事には私の後継者がおりません。このようなわけ で,私はシャトー・プティ・ボックを私の会社ヴィヴィットを通して輸 入・販売し続けたいのです。」 「私の会社を通じて私と取引をして頂くことが可能かどうか,またシ 38 ャトー・プティ・ボック2010を提供していただけるかどうか,ご確 認頂けますようお願い致します。」 (キ) Nに対するメール(平成24年10月4日送信) 「私は出水商事を退職し,自身でワインの輸入・販売会社を立ち上げ ました。」 「サンテイムの2003か2005,もしくは2009ヴィンテージ で提供できる在庫はありますか?もしあれば,価格を教えてください。」 (ク) Oに対するメール(平成24年10月1日) 「私は出水商事を退職し,自身でワインの輸入・販売会社を立ち上げ ました。」 「貴社と取引を続けたいと思いますし,幾つか興味あるワインについ て,注文も検討したいと考えております。」 「以前と同じ条件で,私と取引をすることが可能かどうかご確認頂け ますようお願い致します。また,価格表一覧を送って頂けますようお願 い致します。」 (乙15〜22)ウ 社内メールの送信及び引継書の作成等 被告Aは,原告がGとの間で購入予約をしていたワインを被告会社にお いて購入するため,Gに対し,「秋に引き取る」とメールで連絡する一方, 原告の社内に向けては,平成24年5月1日, 「Gにワインの出荷時期を確 認したところ,今年の瓶詰は秋以降であり,到着は早くとも年末又は年明 けになる」旨のメールを送信した。また,被告Aは,原告を退社するに当 たって後任者に対する引継書(甲12及び22)を作成し,Gの事情で出 荷時期が遅れているのでGからの連絡を待つようにとの引継ぎをした。
なお,同引継書には,Eにつき「イン・ファインを餌にスタンダード・ キュヴェを販売していたので,イン・ファインがないと販売は厳しい」旨 39 が,Fにつき「蔵元からの連絡が今年はまだ来ていない」旨が,それぞれ 記載されている。また,同引継書には,Gにつき「今年の11月ころに蔵 元からのオファーが来る」旨の記載と共に, 「Cさんのメールに蔵元から連 絡が行くように手配済み」である旨の記載もあるが,被告Aは,本件生産 者らがCにメールで連絡するように手配したことは一切なかった。
(甲12,16,22,被告A,弁論の全趣旨) エ 被告会社による本件生産者らからのワインの購入等 被告Aは,原告が購入予約をしていた上記アの各ワインを被告会社が購 入することについて,各ワインの生産者ら(E,F,G,H)から了解を 取り付けた上,被告会社においてこれらを全て購入した。
また,被告Aは,上記イ(オ)〜(ク)のとおり,平成24年9月5日から 同年10月4日にかけて,Iの知人や仲買人(M,N,O)に対し,被告 会社としてのワインの購入を申し込み,I,J,K及びLのワインを購入 した(なお,Kのワインについては,Nの売値が高かったために発注を見 合わせ,後日,Pに対して発注している。 。
) (争いのない事実,甲15〜22,弁論の全趣旨) オ 被告会社が本件生産者らから購入したワインの営業及び販売等 被告Bは,被告会社の従業員として,国内の酒店等に対し,被告会社が 上記エのとおり本件生産者らから購入したワインを含むワインについて営 業活動を行った。(甲6,9,乙34,被告B)(2) 以上を踏まえて,被告A及び被告Bに原告に対する(共同)不法行為が 成立するか否かを検討する。
ア 被告会社として本件各ワインを購入した行為について (ア) E,F,G及びH 被告Aは,上記(1)のとおり,E,F,G及びHに対し,同ワイン生産 者らの日本におけるワインの市場開拓を行ったのが被告Aであり,原告 40 には被告Aの後継者がいないなどと告げるとともに,自らが原告のため に購入予約をしていたワインを被告Aが立ち上げた被告会社として購入 したいなどと申し込むメールを送信し,同ワイン生産者らの了解を得て, これらのワインを被告会社として購入したことが認められる。加えて, 被告Aが,原告在職中に,同ワイン生産者らの出荷時期等に関して,事 実と異なる内容を記載した社内メールを送信したり,虚偽の内容の引継 書を作成したりして,原告が購入予約に係るワインを購入することを妨 げる行為に及んだことも勘案すれば,被告Aは,本来は原告において購 入するはずであったワインを不当に奪取して被告会社に購入させたもの と評価できる。そして,原告は,被告Aの上記行為により,これらのワ インを購入することができなくなったのであるから,被告Aの上記行為 は原告に対する不法行為に当たるというべきである。
これに対し,被告Aらは,被告Aの上記一連の行為が自由競争の範囲 内の行為であるなどと主張するが,上記の経緯に照らして同主張を採用 することはできない。
(イ) I 原告は,被告Aらが,平成24年に1回,平成25年及び平成26年 には2回,本来は原告が購入するはずであったIのワインを横取りして 購入したために,原告が,平成24年には同ワインを1回しか購入する ことができず,また,平成25年及び平成26年には,同ワインを1回 も購入することができなかったなどと主張する。
しかしながら,原告は,その主張する平成24年における2度目の購 入並びに平成25年及び平成26年における各購入につき,特にIに対 して購入予約をしていたような事情もないから,被告Aが被告会社とし てIのワインを購入したことによって,原告が原告において本来購入で きるはずだった同ワインを購入できなくなったという関係を認めること 41 はできない。したがって,被告Aの上記行為は,原告の利益を侵害する ものではなく,原告に対する不法行為には当たらない。
この点,原告は,平成22年及び23年にIから年2回ワインを購入 しているから,被告Aが被告会社としてIのワインを購入しなければ, 特別な事情がない限り,原告は平成24年以降も年2回の購入ができた はずであるなどと主張するが,同主張に係る事実を認めるに足る証拠は ないし,かえって,原告が,継続的に取引していたワイン生産者らから, 突然取引を打ち切られることが過去に何度もあったこと(証人D)に照 らすと,原告の主張を採用することはできない。
(ウ) J,K及びL 原告は,被告Aらが,本来は原告が購入するはずであったJ,K及び Lのワインを横取りして購入したため,原告が,平成24年においてこ れらのワインを購入することができず,また,K及びLのワインについ ては,平成25年及び平成26年にも購入することができなかったなど と主張する。
しかしながら,原告は,これらのワインのいずれについても,特に購 入予約をしていたような事情もないから,被告会社がこれらのワインを 購入したことによって,原告が購入するはずだったワインを購入できな くなったという関係を認めることはできない。加えて,J,K,Lのワ インについては,いずれも卸売業者である仲買人を通じて出荷され,原 告も,仲買人を通じて購入しているところ,仲買人は,多数の購入希望 者に対して同一価格で販売するのであるから,被告会社がこれらのワイ ンを購入したとしても,そのことによって,原告がこれらのワインを購 入できなくなるものではない(現に,原告は,平成26年3月には,J のワインを購入している(甲26) ) 。。
したがって,被告Aがこれらのワインを被告会社をして購入させた行 42 為は,原告の利益を侵害するものとはいえず,原告に対する不法行為に は当たらない。
(エ) 以上によれば,被告Aには,上記(ア)のとおり,被告会社による本 件生産者からのワイン購入のうち,原告が購入予約をしていたE,F, G及びHのワインを購入した行為及び同購入に向けられた一連の行為の 限度で,原告に対する不法行為が成立すると認められる。
他方,被告Bについては,被告Aの上記行為に関与したことを認める 証拠がなく,かえって,本件各ワインの原告における購入予約及び被告 会社における購入は,いずれも被告Aが一手に担当していたと認められ るから(被告A,被告B),被告Aの上記行為について,被告Bに共同不 法行為が成立するとは認めることができない。
イ 原告が主張するその他の不法行為について (ア) 原告は,被告Aらの本件横奪行為の内容につき,上記(1)で認定した 各行為のほか,@被告Aらが,原告を退職する際,原告から本件生産者 らとの取引に係るシッパーファイルを持ち出した,A被告Aが,本件生 産者らとの取引に関するメールを削除したなどとも主張する。
しかしながら,まず,上記@について,被告Aらがシッパーファイル を持ち出したことを直接裏付ける証拠は全くない上,被告Aらが明確に これを否認していること(被告A10頁,被告B4頁など)や,原告が その業務にとって極めて重要であるはずのシッパーファイルがなくなっ ていたと主張しながら,警察に被害届を出すなどの措置を採っていない こと(証人D33頁)等に照らすと,直ちに原告の主張を採用すること はできない。
また,上記Aについては,本件で提出された全証拠によっても,被告 Aに,本件生産者らとの間で送受信したメールを全て保存しておく義務 があったとは認められず,被告Aが本件生産者らとのメールの一部を消 43 去したことが直ちに原告に対する不法行為に当たるということはできな い(なお,メール中に明らかに後任者に引き継ぐべき内容が記載されて いたのに,その内容を引き継がないまま意図的に同メールを消去したよ うな場合には,原告に対する不法行為を構成する余地もないではないが, 甲36によっても消去されたメールの内容及び文面は不明である上,原 告もその内容等について何ら具体的な主張・立証をしていない。 。した ) がって,上記Aについても,原告に対する不法行為に当たるものとはい えない。
(イ) また,原告が主張する本件営業行為については,被告Bが,被告会 社として本件各ワインについて国内の酒店等に対する営業活動を行った 結果,被告会社から本件各ワインが販売されるに至っていることは認め られるが,それ以上に,被告Aらが原告から本件顧客名簿を持ち出した ことや被告Bが本件営業活動に当たって本件顧客名簿を使用したことを 認めるに足る証拠はない(なお,上記1及び後記5のとおり,そもそも, 原告の主張する「本件顧客名簿」の内容自体が不明であり,この点でも 原告の主張は失当というほかない。 。
) そうすると,被告Bが本件各ワインについて国内の酒店等に営業活動 を行ったことは,その結果,本件各ワインが販売されるに至ったことを 含めて,正当な自由競争の範囲を逸脱する違法な行為であるとは認めら れないから,被告Bの行為が原告に対する不法行為に当たるものという ことはできない。
3 争点2(被告Aらの一連の行為につき,被告会社が使用者責任を負うか)に ついて 前記2(2)のとおり,被告Bに原告に対する不法行為は成立しないから,被 告会社が被告Bの行為につき使用者責任を負う余地はない。
他方,被告Aについては,原告において購入予約をしていたE,F,G及び 44 Hの各ワインを,被告会社をして購入させた行為及び同購入に向けられた一連 の行為(前記2(2)ア(ア))の限度で,原告に対する不法行為が成立する。し かしながら,被告Aの上記一連の行為は,被告会社の設立前後にわたっている 上,そもそも被告Aは被告会社の代表取締役であって,「被用者」(民法715 条)ではないから,被告Aの行為について被告会社が使用者責任を負う余地は ない(なお,具体的な事実関係によっては,被告Aが被告会社の職務を行うに ついて原告に加えた損害につき,被告会社に使用者責任以外の何らかの責任が 生ずることも考えられないではないが,原告はこうした点につき,一切主張・ 立証しないのであるから(第21回弁論準備手続調書参照),原告の被告会社 に対する請求を認める余地はない。 。
)4 争点3(被告Aらの一連の行為につき,原告に対する債務不履行が成立する か)について (1) 被告Aについて 原告は,被告Aらによる本件横奪行為及び本件営業行為が,原告に対する (共同)不法行為のみならず原告との関係で債務不履行にも当たると主張す るところ,上記2(2)のとおり,@原告が主張する本件横奪行為のうち,被告 Aが,原告において購入を予約していたE,F,G及びHの各ワインを被告 会社をして購入させた行為及び同購入に向けられた一連の行為について,原 告に対する不法行為が成立するものの,A原告が主張するその他の本件横奪 行為については,これを認めることができないし,B本件営業行為について は,被告Aらにおいて本件顧客名簿を持ち出し,又は,本件顧客名簿を使用 した事実をいずれも認めることができないから,本件営業行為は正当な自由 競争の範囲内の行為と解される。
したがって,上記A及びBについては,いずれも原告に対する債務不履行 が成立する余地はない。
他方,上記@の行為については,仮に被告Aに債務不履行が成立するとし 45 ても,後記6(3)のとおり,原告に被告Aの不法行為によって生じる損害を超 える損害が生じるとは認めることができないから,被告Aにつき,不法行為 に加えて,さらに債務不履行が成立するかを判断する必要はない。
なお,原告は,被告Aが,原告在籍中にもかかわらず,被告会社を設立し, かつ,被告会社に500万円を出資したことについても,雇用契約の付随義 務である競業避止義務に違反する旨主張するが,被告Aによる被告会社の設 立及び出資それ自体によって原告に損害が生じるとは認められないし,原告 も被告会社の設立及び出資によって生じた原告の損害について何ら主張・立 証しない。したがって,被告Aによる被告会社の設立及び出資について,原 告が被告Aに対し,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するとは認めら れない。
(2) 被告Bについて ア 原告は,被告Bが本件横奪行為に関与した旨や,被告Bが原告から持ち 出した本件顧客名簿を使用して被告会社の営業活動を行った旨主張するが, かかる事実がいずれも認定できないことは,上記2で判断したとおりであ る。
イ また,原告は,@被告Bが,原告在籍中にもかかわらず,被告会社の設 立に当たって300万円を出資した行為が,雇用契約に基づく付随義務と しての競業避止義務に違反し,また,A原告退職後に被告会社の従業員と して被告会社の国内顧客向け営業活動に従事した行為が,本件競業禁止規 定が定める退職後の競業避止義務に違反するとも主張する。
そこで検討するに,まず,上記@について,従業員が雇用主との雇用契 約に基づき信義則上の競業避止義務を負うとしても,競業会社への出資が 直ちに同義務に違反するとは考えられず,上記@の行為が直ちに原告との 雇用契約に基づく信義則上の競業避止義務の不履行になるとは認めること はできない。仮にこの点を措くとしても,被告Bが被告会社に出資したこ 46 と自体によって原告に損害が生じるとは認められないし,原告も被告Bの 出資自体によって生じた損害について何ら主張・立証していない。
また,上記Aの主張は,本件競業禁止規定が有効であることが前提とな るが,証拠(甲23,24,乙31〜34)によれば,原告就業規則が従 業員に周知されていたとは認められず,本件競業禁止規定を含む原告就業 規則には就業規則としての効力が生じていないというほかないから(最高 裁平成15年10月10日第二小法廷判決 裁判集民事211号1頁参照) ・ , 上記Aの行為が,原告に対する債務不履行に当たると認めることはできな い。なお,仮に本件競業禁止規定が有効であるとしても,本件競業禁止規 定が禁じるのは,競業会社の「役員として勤務すること」であり,競業会 社への就職や同会社の業務への従事それ自体を禁じる規定は見当たらない から,被告Bが被告会社に就職し,従業員として営業活動に従事したこと が,本件就業禁止規定の定める競業禁止義務に反するということはできな い。
5 争点4ないし6(不正競争の成否)について (1) 原告は,被告Aらが原告の営業秘密である本件顧客名簿を不正に取得し, 営業活動に使用し,被告会社に開示したなどと主張するが,そもそも,前記 2(2)のとおり,被告Aらが原告から本件顧客名簿を持ち出したことや本件 営業活動に当たって本件顧客名簿を使用したことを認めることはできず,そ の他,被告Aらによる本件顧客名簿の不正取得,使用及び開示を認めるに足 りる証拠はないから,原告の上記主張は失当である。
(2) なお,原告は,本件顧客名簿が原告の営業秘密に当たると主張する一方, 上記1のとおり,本件顧客名簿の具体的内容について何ら主張していないの であるから,本件顧客名簿が営業秘密に当たるとは認められない。
仮にこの点を措くとしても,本件顧客名簿が秘密として管理されていたこ と(秘密管理性)に関するとされる客観的証拠は甲8のみしかなく,その内 47 容を見ても秘密管理性を裏付けるものか判然としない上,原告の本社事務所 には,顧客の名称,住所・電話番号等の連絡先,購入商品等が記載された納 品書や注文書をまとめたファイルが,施錠等をされることもなく,誰でも自 由に閲覧可能な状態で置かれていたこと(乙33)も併せ考慮すれば,本件 顧客名簿が秘密として管理されていたこと(秘密管理性)も認めるに足りな い。
(3) 以上によれば,本件顧客名簿についての不正競争の成立は認められない。
6 争点7(損害額)について 前記のとおり,原告の主張する本件横奪行為のうち,被告Aが,原告におい て購入予約をしていたE,F,G及びHの各ワインを,被告会社として購入し た行為及び同購入に向けられた一連の行為(前記2(2)ア(ア))については, 原告に対する不法行為が成立すると認められるところ,同不法行為によって原 告に生じた損害額は以下のとおりと認められる。
(1) 平成24年の売上減少による損害 ア Eについて 42万0720円 (ア) コンフィダンス 被告Aが,原告において購入を予約していたコンフィダンス2009 (240本)を被告会社として購入し,その結果,原告は,平成24年 において,Eから同ワインを購入することができなくなったものである ところ,証拠(甲27の1,甲29の1)によれば,原告における同ワ インの一本当たりの粗利益は763円(=2160円-1397円)と 認められるから,原告の損害額は,18万3120円(計算式は,76 3円×240本)と認められる。
(イ) ヴァンソブル 被告Aが,原告において購入を予約していたヴァンソブル2010(3 60本)を,被告会社として購入し,その結果,原告は,平成24年に 48 おいて,Eから同ワインを購入することができなくなったものであると ころ,後記のとおり,原告における同ワインの一本当たりの粗利益は6 60円と認められるから,原告の損害額は,23万7600円(計算式 は,660円×360本)と認められる。
なお,ヴァンソブル2010について一本当たりの粗利益を直接示す 証拠はないが,原告がその直近にEから購入したヴァンソブル2009 の一本当たりの粗利益が660円(=1780円-1120円)であり (甲27の2,甲29の1) ヴァンソブル2010の一本当たりの粗利 , 益がこれを上回る又は下回ると認めるに足る的確な証拠はないことに照 らすと,ヴァンソブル2010の一本当たりの粗利益もこれと同額の6 60円とみるのが相当である。
この点,被告らは,ヴァンソブル2010の粗利益を計算するに当た っての仕入原価について,@被告会社における同ワインの仕入単価と同 額で,かつ,A被告会社における購入時の為替相場に従って計算すべき である旨主張する。しかしながら,上記@について,Eのような仲買人 を通さない取引においては,購入者が異なれば仕入価格も異なると認め られるし(乙36),上記Aについても,原告が被告会社と同じ為替レー トで購入するとは限らない上,被告らの主張する為替変動幅がそれほど 大きくないことも考えると,原告は平成24年においても前年並みの粗 利益を確保できた蓋然性が高いと認められる。したがって,被告らの主 張は,いずれも失当である。
(ウ) 以上に対し,被告らは,@平成24年には,原告が取引上重要なワ インと考えていた「イン・ファイン」の出荷予定がなかったため,原告 は平成24年において,Eからのワインの購入を予定していなかったの であり,被告Aが,被告会社としてEのワインを購入したことと平成2 4年における原告の売上減少との間に因果関係はない,A原告は,平成 49 24年にコンフィダンス2010を購入しているので,原告には,コン フィダンス2009を購入できなかったことによる損害は発生していな い旨主張する。
しかしながら,上記@について,原告は平成24年においてEとの間 でコンフィダンス及びヴァンソブルの購入予約をしているのであって, 原告にこれらのワインの購入予定があったことは明らかである。さらに, 被告Aが送信した上記2(1)イ(ア)のメールに対してEの担当者が返信 したメール中に,「確かに出水商事のために確保しています。 , 」 「私は喜 んでこの予約をヴィヴィットのために解放し,出水商事との取引を打ち 切らせて頂きます。」との記載があること(乙15)に照らせば,被告A が被告会社としてワインの購入を申し出たために原告の購入予約が取り 消されたものと認められる。したがって,被告らの上記@の主張は失当 である。
次に,上記Aについては,原告がコンフィダンス2009を購入でき なかったこと自体が原告の損害と認められるところ,原告がコンフィダ ンス2010を購入したからといって,そのことによってコンフィダン ス2009を購入できなかったことによる損害が回復されたことを認め るに足る証拠はない。したがって,被告らの上記Aの主張も採用するこ とができない。
イ Fについて 58万0638円 被告Aが,原告において購入を予約していたサヴニエール?ランクロ”2 010(420本)及びサヴニエール?ランクロ”2010マグナムボトル (6本)を,被告会社として購入し,その結果,原告は,平成24年にお いて,Fからこれらのワインを購入することができなくなっているところ, 後記のとおり,原告におけるこれらのワインの一本当たりの粗利益はいず れも1363円と認められるから,原告の損害額は,58万0638円(計 50 算式は1363円×(420本+6本))と認められる。
なお,サヴニエール?ランクロ”2010及びサヴニエール?ランクロ” 2010マグナムボトルについて,いずれも一本当たりの粗利益を直接示 す証拠はないが,原告がその直近にFから購入したサヴニエール?ランクロ “2009の一本当たりの粗利益が1363円(=2860円-1497 円)であり(甲27の5,甲29の3),サヴニエール?ランクロ”201 0及びサヴニエール?ランクロ”2010マグナムボトルの一本当たりの 粗利益がこれを上回る又は下回ると認めるに足る的確な証拠はないことに 照らすと,これらのワインの一本当たりの粗利益もこれと同額の1363 円とみるのが相当である。
この点,被告らは,サヴニエール?ランクロ”2010及びサヴニエール ?ランクロ”2010マグナムボトルの各粗利益を計算するに当たっての 仕入原価について,@被告会社における同ワインの仕入単価と同額で,か つ,A被告会社における購入時の為替相場に従って計算すべきである旨主 張する。しかしながら,上記ア(イ)で検討したとおり,被告らの同主張は 失当である。
ウ Gについて 146万9280円 (ア) 被告Aが,原告において購入を予約していたシャトー・サミオン赤 2010(480本),イルレギー白2011(480本)及びイルレギ ー赤2010(480本)を,被告会社として購入し,その結果,原告 は,平成24年において,Gからこれらのワインを購入することができ なくなっているところ,後記のとおり,これらのワインの一本当たりの 粗利益は,シャトー・サミオン赤2010について1373円,イルレ ギー白2011について880円,イルレギー赤2010について80 8円とそれぞれ認められるから,原告の損害額は,合計146万928 0円(計算式は1373円×480本+880円×480本+808円 51 ×480本)と認められる。
なお,シャトー・サミオン赤2010,イレルギー白2011及びイ レルギー赤2010について,いずれも一本当たりの粗利益を直接示す 証拠はないが,原告がその直近にGから購入したシャトー・サミオン赤 2009,イレルギー白2010及びイレルギー赤2009の一本当た りの粗利益がそれぞれ1373円(=2980円-1607円) 880 , 円(=1940円-1060円) 808円 , (=1960円-1152円) であり(甲27の8〜10,甲29の6,7),シャトー・サミオン赤2 010,イレルギー白2011,イレルギー赤2010の一本当たりの 各粗利益が上記各金額を上回る又は下回ると認めるに足る的確な証拠は ないことに照らすと,これらのワインの一本当たりの粗利益も,それぞ れ上記各金額と同額とみるのが相当である。
この点,被告らは,シャトー・サミオン赤2010,イレルギー白2 011及びイレルギー赤2010の各粗利益を計算するに当たっての仕 入原価について,@被告会社における同ワインの仕入単価と同額で,か つ,A被告会社における購入時の為替相場に従って計算すべきである旨 主張する。しかしながら,上記ア(イ)で検討したとおり,被告らの同主 張は失当である。
(イ) なお,被告らは,原告は,平成24年において,イレルギー赤の代 替品であるイレルギー赤ドメーヌ・ブラナを購入することによって,イ レルギー赤を購入できなかったことによる損失をてん補している旨主張 する。
この点,被告らがイレルギー赤の代替品と主張するワインは,イレル ギー赤2009ドメーヌ・ブラナ(乙12)であると解されるが,原告 が同ワインを購入したからといって,そのことによってイレルギー赤2 010を購入できなかったことによる損害が回復されたと認めるに足る 52 証拠はないから,被告らの上記主張を採用することはできない。
エ Hについて 48万8160円 被告Aが,原告において購入を予約していたクレークソ2010(18 0本),アミルカル・リフソーレ2011(180本)及びアイ・ツゥ20 10(360本)を,被告会社として購入し,その結果,原告は,平成2 4年において,Hからこれらのワインを購入することができなくなってい るところ,後記のとおり,これらのワインの一本当たりの粗利益は,クレ ークソ2010について537円,アミルカル・リフソーレ2011につ いて579円,アイ・ツゥ2010について798円とそれぞれ認められ るから,原告の損害額は,合計48万8160円(計算式は537円×1 80本+579円×180本+798円×360本)と認められる。
なお,クレークソ2010,アミルカル・リフソーレ2011及びアイ・ ツゥ2010について,いずれも一本当たりの粗利益を直接示す証拠はな いが,原告がその直近にHから購入したクレークソ2009,アミルカル・ リフソーレ2009及びアイ・ツゥ2009の一本当たりの粗利益は,そ れぞれ順に537円(=1640円-1103円),579円(=1820 円-1241円),798円(=2270円-1472円)であり(甲27 の23,25,27,甲29の17。なお,原価については甲29の17 による。 ,クレークソ2010,アミルカル・リフソーレ2011及びア ) イ・ツゥ2010の一本当たりの各粗利益が上記各金額を上回る又は下回 ると認めるに足る的確な証拠はないことに照らすと,これらのワインの一 本当たりの粗利益も,それぞれ上記各金額と同額とみるのが相当である。
この点,被告らは,クレークソ2010,アミルカル・リフソーレ20 11及びアイ・ツゥ2010の各粗利益を計算するに当たっての仕入原価 についても,Eのヴァンソブルと同様に,@被告会社における同ワインの 仕入単価と同額で,かつ,A被告会社における購入時の為替相場に従って 53 計算すべきである旨主張するものと解される。しかしながら,上記ア(イ) で検討したとおり,被告らの同主張は失当である。
オ なお,被告らは,原告の粗利益を算出するに当たっての仕入原価の証拠 である原価計算表(甲29の1,3,6,7,17)につき,原告が自ら 作成した電子データをプリントアウトしたもので,それだけでは正しい金 額であることを確認できないとも主張するが,同原価計算表の体裁等に照 らせば,原告において機械的に記入作成されたものであることがうかがわ れ,特段その信用性を疑うべき事情は認められない。
また,被告らは,原告がワインを日本国内の顧客に販売するに際して日 本郵便を利用しているにもかかわらず,上記原価計算表には顧客にワイン を送付する際にかかる送料が含まれておらず,送料相当額を減額すべきで ある旨主張する。しかしながら,原告においては,送料は原則として顧客 が負担し,一件当たりの販売価格が3万円を超える場合のみ原告が負担す ることとされているところ(被告らも明らかに争わない。 ,顧客への一件 ) 当たりの販売価格が3万円を超えたことを具体的に認めるに足る証拠はな いから,被告らの上記主張についても採用することはできない。
(2) その他の損害について ア 原告は,上記(1)のほか,平成25年及び平成26年に,原告が本件生産 者らから一部のワインを購入できなかったとして,これによる損害も被告 Aによる不法行為と相当因果関係を有する損害である旨主張する。
しかしながら,原告は,本件生産者らのいずれとも基本契約その他の継 続的購入に関する契約を交わしていたわけではないから,被告Aの行為と 平成25年以降において原告がこれらのワインを購入することができなか ったこととの間に相当因果関係があると認めることはできない。この点, 原告は,ワイン生産者らとの間で,特別な問題が発生しない限りは将来的 にも継続的に原告を通じてのみ日本にワインを出荷する旨の暗黙の合意が 54 存在していた旨主張するが,これを認めるに足る証拠はないし,かえって, 原告においては,何年も継続してワインを購入した後に生産者から急に出 荷を断られることも度々あったのであるから(証人D30頁〜32頁) む , しろそのような合意は存在していなかったものと考えられる。
そうすると,平成25年及び平成26年に原告が本件生産者らから一部 のワインを購入できなかったとしても,これを被告Aの不法行為により原 告に生じた損害と認めることはできない。
イ また,原告は,被告Aの不法行為により,ワイン生産者らとの関係で信 頼低下等の無形損害を被ったと主張するが,前記2(1)イ認定の被告Aのワ イン生産者らへの各メールの文言を見ても,特段これによりワイン生産者 らとの関係で原告に対する信頼が低下すると評価すべきような内容は含ま れていないし,現に,上記各メールを受けたワイン生産者らから原告への メール(甲14,15,18,19等)の内容を見ても,被告Aのワイン 生産者らへの上記各メールによりワイン生産者らとの関係で原告に対する 信頼が低下したとは認められず,他に原告に対する信頼の低下等の損害が 生じたことを認めるに足る証拠はない。
さらに,原告は,被告Aの不法行為により,Gからワインを購入するこ とができなくなったため,顧客に対して謝罪のファックス(甲17)を送 信することを余儀なくされ,これにより同顧客の原告への信頼が低下した とも主張する。しかしながら,同ファックスの文言を見る限り原告への信 頼の低下をもたらすほどのものとはいえない上,原告においては,予定し ていたワインについて年に数銘柄は購入できないものがあり,その際には 原告が電話等で謝罪することもあったというのであるから(証人D39頁 〜41頁),上記原告の主張を採用することはできない。
(3) 小括 そうすると,被告Aの不法行為により,原告に上記(1)の合計額である29 55 5万8798円の損害が生じたと認められる(なお,被告Aの債務不履行に 基づく原告の損害額を検討しても,不法行為に基づく損害額と何ら変わるも のではない。 。
)7 結論 以上によれば,原告の訴えのうち被告Aらに対する前記第1の2及び3の各 請求に係る部分は不適法であるからこれを却下し,前記第1の1の請求のうち, 被告Aに対する請求は主文第2項の限度で理由があるからこれを認容し,被告 Aに対するその余の請求並びに被告会社及び被告 Bに対する請求はいずれも 理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
56 (別紙)却下請求目録1被告A及び同Bは,別紙営業秘密目録記載の顧客名簿の内容を用いて,顧客に対して,面会を求め,電話をし,郵便物を送付し又は電子メールを送信する等して,酒類に関する契約の締結,締結の勧誘又はその他営業行為等をしてはならない。
2被告A及び同Bは,別紙営業秘密目録記載の顧客名簿に記載する内容が記録されたコンピューター内の記録媒体又はPCカード,CD-ROM,DVD-ROM並びにフロッピーディスク等の電磁的記録媒体を廃棄し,原告に対し,同記録媒体及び同電磁的記録媒体からの印刷物を引き渡せ。
57 (別紙)営業秘密目録原告業務に使用するコンピューターの記録媒体内に記録された原告作成にかかる顧客名簿(顧客の「納品先コード」「請求or納品」「納品先名」「フリガナ」「敬,,,,称」「郵便番号」「都道府県」「住所」「ビル・建物名」「部署名」「部署名フリ,,,,,,ガナ」「電話番号」「FAX番号」「役職」「内線」「担当者」「担当者フリガナ」,,,,,,,「メールアドレス」「備考」等の記入欄があるもの(以上「納品先マスタ」画面,,「請求先マスタ」画面等))58
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官 矢口俊哉
裁判官 廣瀬達人
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