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関連審決 無効2011-800252
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事件 平成 26年 (ワ) 10534号 契約金返還等請求事件

原告 株式会社サーナアルファ (以下「原告サーナアルファ」という。)
原告A@ (以下「原告A@」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 権藤龍光
被告 KAATSUJAPAN株式会社
同訴訟代理人弁護士 根本浩
同 友村明弘
同 津城尚子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/05/27
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告サーナアルファの本件訴えのうち,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認請求に係る訴えを却下する。
2 原告サーナアルファのその余の請求及び原告A@の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告サーナアルファに対し,同原告によるVRC加圧方法と称する施術(以下「VRC法」という。 )の実施が,被告が同原告に提供した不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密を,不正競業その他の不正の利益を得る目的で, 1 又はその保有者に損害を加える目的で,使用又は開示する行為にあたることを理由として,同原告がVRC法を実施することの差止めを求め,又は,損害賠償を請求する権利を有しないことを確認する。
2 被告は,原告サーナアルファに対し,304万9570円及びこれに対する平成26年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告A@に対し,728万2608円及びこれに対する平成26年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 事案の要旨 本件は,(1) 原告サーナアルファが,被告に対し,同原告によるVRC法の実施は,被告が同原告に提供した不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たらないとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告が同原告に対して同法3条1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めるとともに,同原告が被告と締結した契約(後に定義する原告サーナアルファ契約)は,錯誤により無効(民法95条)である旨主張して,不当利得返還請求権に基づき,同原告が上記契約に基づいて被告に支払った金員相当額合計304万9570円及びこれに対する平成26年10月29日(訴状送達の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2) 原告A@が,被告に対し,同原告が被告と締結した各契約(後に定義する原告A@各契約)は,いずれも錯誤により無効(民法95条)である旨主張して,不当利得返還請求権に基づき,同原告が上記各契約に基づいて被告に支払った金員相当額合計728万2608円及びこれに対する平成26年10月29日(訴状送達の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる事実) 2 (1) 当事者 ア 原告サーナアルファ(従前の商号は,「株式会社アポロン」であったが,平成23年12月26日,現在の商号に変更した。)は,平成21年5月29日,目的を「スポーツ施設の運営及びスポーツ技術の指導」などとして設立され,以後,「Therapy sana」,「セラピーサーナ」,「サーナ治療院」,「サーナ鍼灸治療院」,「スタジオサーナ」などの屋号で,整体,マッサージ,鍼灸等を行うアンチエイジングサロン(鍼灸院,スタジオ)を営んできた株式会社である(甲8,13,41,53,乙2,4,5,原告サーナアルファ代表者)。
イ 原告A@は,肩書住所地において,平成14年7月から「じねん堂鍼灸療院」の屋号で鍼灸院を営んできた個人事業者(であると同時に,整骨院に勤務する者)である(甲9,47,乙1,原告A@本人)。
ウ 被告(従前の商号は,「株式会社サトウスポーツプラザ」であったが,平成24年4月2日,現在の商号に変更した。)は,「加圧トレーニングに関する資格取得のための指導及び資格保有者の育成,指導,管理」,「加圧トレーニング関連製品の開発及び販売事業」などを目的する株式会社である(弁論の全趣旨)。
なお,「加圧トレーニング」とは,被告の指導・資格認定に係るトレーニング方法を意味し,「加圧筋力トレーニング」と称されることもある(ただし,その内容がいかなるものであるかについては,必ずしも,各当事者の認識が一致しているものではない。)。
(2) 株式会社ベストライフの特許権 ア 株式会社ベストライフ(以下「ベストライフ」という。)は,発明の名称を「筋力トレーニング方法」とする特許第2670421号(平成5年11月22日出願,平成9年7月4日設定登録,平成25年11月22日存続期間満了)の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。 )を有していた。本件特許の特許請求の範囲(登録時のもの)の記載は,別紙「特許請求の範囲」記載1のとおりである(甲1,弁論の全趣旨)。
3 イ ベストライフは,AA(以下「AA」という。)の請求に係る特許無効審判(無効2011-800252号)において,平成24年5月7日,本件特許の特許請求の範囲を別紙「特許請求の範囲」記載2のとおり訂正することを内容とする訂正請求(以下「本件訂正」という。 なお,同別紙記載2における下線部は,訂正箇所を示す。)をした。特許庁は,同年10月17日,本件訂正を認める,審判請求は成り立たない旨の審決をした。AAは,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴訟(同裁判所平成24年(行ケ)第10400号)を提起したが,同裁判所は,平成25年8月28日,AAの請求を棄却する旨の判決をした。上記判決は,その後,最高裁判所がAAの上告を受理しない旨の決定をしたことにより確定し,これに伴って上記審決及び本件訂正も確定した(甲24,弁論の全趣旨)。
ウ 被告の代表者であるAB(以下「AB」という。)は,本件特許の特許請求の範囲(訂正の前後を問わない。)の請求項1ないし3記載の各発明(以下,これらを併せて「本件特許発明」という。 )の発明者であり,ベストライフの株式の大半を保有している。ベストライフは,本件特許権につき,被告に実施許諾するとともに,被告が第三者に再実施許諾することを許諾していた。
(3) 原告サーナアルファと被告との契約等 原告サーナアルファの代表者であるAC(以下「AC」という。)は,被告との間で,平成21年5月18日,設立手続中であった同原告のために「法人契約加圧トレーニングインストラクター養成講習」に関する契約( 以下「原告サーナアルファ契約」という。)を締結し,同月29日に同原告が成立したことにより,同契約は,同原告と被告との間のものとして効力を生じた(甲2,13,弁論の全趣旨)。
なお,ACは,原告サーナアルファ契約の締結に先立つ平成19年9月11日,被告との間で,個人で加圧トレーニングに関する契約(以下「個人契約」という。)を締結した。
(4) 原告A@と被告との契約 4 ア 原告A@と被告は,平成14年2月1日,「加圧筋力トレーニング指導者養成講習」に関する契約(以下「原告A@契約1」という。)を締結し(なお,同原告が同年1月19日に被告に支払った103万5300円が受講料金〔税込〕に充当された。),原告A@は,同契約に基づき,同講習を受講して,被告から加圧筋力トレーニングに関する「指導者」の資格の認定を受けた(甲4,弁論の全趣旨)。
イ 原告A@と被告は,平成18年1月22日,「加圧筋力トレーニング統括指導者養成講習」に関する契約(以下「原告A@契約2」という。)を締結し,原告A@は,同契約に基づき,被告に対し,受講料金(税込)184万9050円を支払い,同講習を受講して,被告から加圧筋力トレーニングに関する「統括指導者」の資格の認定を受けた(甲5の1・2,弁論の全趣旨)。
ウ 原告A@と被告は,平成21年4月27日,加圧トレーニング用の器具(加圧マスターミニ)の取扱い資格及び同器具の買取りに関する契約(以下「原告A@契約3」という。)を締結し,同契約に基づき,被告は,同原告 に対し,同取扱い資格を認定するとともに,同器具を引き渡し,同原告は,被告に対し,58万円4325円(ただし,その趣旨が同器具の代金に限られるのか,同取扱い資格認定に対する対価〔受講料金〕を含むのかについては,争いがある。)を支払った(弁論の全趣旨)。
エ 原告A@と被告は,平成23年9月12日,「加圧トレーニング特定資格者養成講習」に関する契約(以下「原告A@契約4」という。)を締結し,同契約に基づき,同原告は,被告に対し,受講料金(税込)42万円を支払った(弁論の全趣旨)。
3 争点 (1) 原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することについて,確 5 認の利益が認められるか(争点1) (2) 原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立するか(争点2) ア 被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるACの意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか(争点2-(1)) イ 原告サーナアルファの代表者であるACに重過失があったか(争点2-(2)) ウ 相殺の抗弁が認められるか(争点2-(3)) エ 同時履行の抗弁権が認められるか(争点2-(4)) (3) 原告A@の被告に対する不当利得返還求請求権は成立するか(争点3) ア 被告との契約に係る原告A@の意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか(争点3-(1)) イ 原告A@に重過失があったか(争点3-(2)) ウ 消滅時効が成立するか(争点3-(3)) エ 相殺の抗弁が認められるか(争点3-(4)) オ 同時履行の抗弁権が認められるか(争点3-(5))
争点に対する当事者の主張
1 争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することについて,確認の利益が認められるか)について 【原告サーナアルファの主張】 (1) 被告は,原告サーナアルファを宛先の一つとして,「貴殿らがVRCなる名称で当社製品『加圧マスター』及び『加圧マスターミニ』に類似する模倣品の販売を始めた」,「AB氏,当社又は当社グループの許諾なく,製作,販売」しているなどとする平成25年7月19日付け「警告状」(以下「本件警告状」という。 )を内容証明郵便により送付した(甲12)。被告は,本件警告状により,「知的財 6 産権等に対する一切の侵害行為の停止」を要求していること,同警告状には,VRC法の開発者であるADについて,「2007年まではAB氏と共同で研究を行っており」などの記載もあることに鑑みると,原告サーナアルファが実施しているVRC法について,被告が,不正競争防止法2条1項7号に抵触するとして,被告が原告サーナアルファに対し,後日,訴え等を提起するおそれがある。
(2) 原告サーナアルファが実施しているVRC法は,加圧トレーニングとは,原理も施術方法も異なる別の方法である。
VRC法は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)の委託を受けて国際宇宙ステーション日本実験棟の運用などを業とする有人宇宙システム株式会社で職務を行っていたAD博士を開発者として,株式会社ライフサポートにおいて開発した方法であり,もとは宇宙飛行士の健康管理などを目的に研究された方法である。
これに対し,加圧トレーニングは,もともとは,健康なスポーツマンらが筋力増強のために利用していた方法である。
加圧トレーニングが比較的長時間血流を阻害し,その間に筋力トレーニング等をすることで負荷を与えて成長ホルモンの分泌を促すことを原理としているのに対し,VRC法は,短時間(たとえば1分間)血流を阻害し,それを一気に開放することにより,血管を血流が駆血することによる効果によるものであり,その効果は,交換神経の活動を活性化させることによるものである。
このように,加圧トレーニングとVRC法とでは,その運用の知識・技術が全く異なっている。
【被告の主張】 原告サーナアルファの本件訴えのうち,同原告が,被告に対し,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求するとの部分は,即時確定の利益を欠き,不適法である。
被告は,同原告に対し,同原告の行為が不正競争防止法2条1項7号所定の営業 7 秘密の不正使用又は不正開示に当たるなどと主張した事実はなく,また,そのような主張に基づいて同原告が行っている事業について差止めや損害賠償を求めた事実もない。
したがって,本件は,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対して確認判決を得ることが必要かつ適切な場合ではない。
2 争点2(原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立するか)について (1) 争点2-(1)(被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるACの意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について 【原告サーナアルファの主張】 ア 原告サーナアルファ契約及びこれに先立つ個人契約 (ア) 個人契約 ACは,鍼灸師,理学療法士として,総合病院等でリハビリテーション業務(以下「リハビリ」という。 )に従事していたところ,平成19年頃までに,リハビリ等の医療類似行為にも加圧トレーニングが有効であると聞き,被告やその関係者から,加圧トレーニングは,国家資格の範囲内で医療類似行為に実施が可能であること,加圧トレーニングについては,本件特許権があること,加圧トレーニングには,資格制度があり,資格を取らなければ,加圧トレーニングを実施できないことにつき,説明を受けた。
そこで,ACは,被告との間で,平成19年9月11日,個人契約を締結し,同年12月までに「筋力アップクンEXトレーナー養成講習」の受講を完了し,同月12日,被告から「筋力アップクンEXトレーナー資格」の登録を受けた。
(イ) 原告サーナアルファ契約 ACは,平成21年頃,被告から,法人の従業員に加圧トレーニングを使用した医療類似行為をさせるためには,法人契約が必要であるとの説明を受けたことから, 8 平成21年5月18日,設立中の原告サーナアルファのため,被告との間で,法人契約として,原告サーナアルファ契約を締結した。
同原告は,被告に対し,同契約に基づき,資格者の登録料ないし更新料,トレーニングに使用する器具の代金(以下,これらを併せて「登録料等」という。 )として,別紙原告らの主張金額の【原告サーナアルファルファ分】の登録料等@ないし同Lに対応する金員(合計304万9570円)を支払った。なお,登録料等@及び同Bに対応する金員は,加圧トレーニング用の器具である「筋力アップクンEX」の代金として,支払ったものである。
イ ACの錯誤 (ア) ACは,原告サーナアルファのために,被告との間で原告サーナアルファ契約を締結ないし更新する際,次の(イ)ないし(エ)の錯誤(いずれも動機の錯誤であり,(イ)及び(ウ)が加圧トレーニングについての本件特許権の効力が及ぶ範囲に関するもの,(エ)が加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関するものである。)に陥ったものであり,これらの錯誤は,いずれも黙示に被告に表示されており,意思表示の重要部分に係るものである。
(イ) 本件錯誤1-1 ACは,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,これが及ぶとの錯誤(以下「本件錯誤1-1」という。 )に陥り,その結果,原告サーナアルファ契約を締結してしまった。
ACは,ABの著作である「加圧トレーニングの奇跡」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)を読み,「加圧」(ACは,当時,本件特許発明が対象とする加圧トレーニングと従前のバラコン法の単なる加圧とを区別していなかった。)がリハビリ等の医療類似行為に顕著な効果があるものの,「加圧」については,本件特許権が存在することから,同特許権に関する実施許諾がないと利用できないと信じた。また,ACが,被告や被告の認定に係る指導者資格(統括指導者)を有する長谷川慶造に問い合わせたところ,リハビリ等の医療類似行為についても 9 本件特許権の効力が及ぶなどと説明を受けたことから,これらについても,被告の実施許諾が必須であると誤信した。ACは,被告との間で個人契約を締結するに際し,明示的にリハビリ等の医療類似行為にも本件特許権の効力が及び,被告と契約しないとこれらの実施ができない旨認識していたことなどを表明したわけではないが,上記のとおり,本件書籍を読んで契約に至ったこと,ACが鍼灸師として契約することを表示しており,リハビリ等の医療類似行為に利用する目的で被告と契約を締結しようとすること,医療類似行為としてであっても,被告と契約を締結しない限り,加圧トレーニングを実施できないと誤信したために,個人契約の締結に至ったことは,その経緯からみて被告にも明らかであった。
そして,ACは,その誤信を維持したまま,被告との間で,原告サーナアルファ契約を締結したものであり,ACの個人契約と同一の動機で契約を締結する意思であったことは被告にも明らかであって,原告サーナアルファ契約の締結の動機としての本件錯誤1-1は,被告に黙示に表示されていたといえる。
(ウ) ACは,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が,実際には,加圧下での自発的運動を伴わない加圧と除圧の繰り返しを行うだけのバラコン法等によって広く実施されていた方法であって,本件特許発明の技術的範囲に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(以下「本件錯誤1-2」という。)に陥り,その結果,原告サーナアルファ契約を締結してしまった。
ACが,個人契約を締結するに至った動機の一つは,本件書籍中に,加圧と除圧の繰り返しや受動的な関節の運動を伴う程度のものであるにもかかわらず,これがABの発明(本件特許発明)であるかのごとき記載があったため,これを真実と誤信したことによる。ACは,本件書籍を読んだことを表示して,被告との間で個人契約を締結し,被告の担当者からも医療類似行為にも本件特許権の効力が及ぶと聞き,リハビリ等への応用の全てにつき許諾が必要であると理解したのであって,少なくとも黙示にその動機が表示されたことは明らかである。
そして,ACは,被告との個人契約における動機を維持したまま,原告サーナア 10 ルファ契約の締結に至ったもので,被告に対し,個人契約における上記動機が表示されていたといえる以上,原告サーナアルファ契約についても,被告に対し,同一の動機により締結したことが表示されていたというべきである。
(エ) 本件錯誤2 ACは,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることはできないにもかかわらず,分泌させることができるとの錯誤(以下「本件錯誤2」という。)に陥り,その結果,原告サーナアルファ契約を締結してしまった。
ACが,被告と個人契約の締結に至ったのは,本件書籍に「加圧トレーニングにより成長ホルモン290倍」との趣旨の記載があったことによるものである。ACは,被告に対し,同契約締結に際し,本件書籍を読んで契約を締結したことを表明しており,上記記載を見て契約しようとしたことは,被告においても容易に理解できる。すなわち,ACは,加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されるものと誤信し,これを動機として,個人契約の締結に至ったものであり,その動機は,被告に黙示に表示されていたといえる。
そして,被告に対し,個人契約における上記動機が表示されていたといえる以上,原告サーナアルファ契約についても,被告に対し,同一の動機により締結したことが表示されていたというべきである。
ウ まとめ 原告サーナアルファが,被告に対し,原告サーナアルファ契約に基づき支払った金員は,前記アのとおり,合計304万9570円となり,原告サーナアルファ契約は,上記イのとおり,錯誤により無効であるから,原告サーナアルファは,被告に対し,上記金員につき不当利得返還請求権を有する。
【被告の主張】 ア 原告サーナアルファ契約について 原告サーナアルファ契約が締結された事実,同原告が被告に対し,登録料等とし 11 等@ないし同Lに相当する金員を支払った事実(ただし,同@については,「筋力アップクンEX」を販売した代金として,同Bについては,平成22年5月17日,「筋力アップクンEX」を販売した代金として,被告は,受領したものである。)は,いずれも認めるが,その余は,不知。
イ 錯誤の主張について (ア) 原告サーナアルファの錯誤の主張は,不知ないし否認する。
原告サーナアルファ契約に係る申込み及び更新の意思表示の重要部分において,原告サーナアルファの代表者であるACに錯誤はない。
原告サーナアルファ契約は,加圧トレーニングに基づき正しい指導をすることができる指導者の養成及び認定をすることを主たる目的とする契約であって,同契約の締結に際し,被告が,ACに対し,医療行為又は医療類似行為について加圧トレーニングを用いることが本件特許権の侵害となるなどという説明をした事実はない。
また,ACが,鍼灸師として原告サーナアルファ契約を締結することを表示した事実もない。
以下,原告サーナアルファの主張に係る錯誤ごとに詳述する。
(イ) 本件錯誤1-1について 原告サーナアルファ契約は,法人契約であるところ,法人契約では,法人の従業員等が被告の実施する法人契約加圧トレーニングインストラクター養成講習を受講した後,被告から従業員インストラクターとして認定登録され,当該従業員等は,従業者インストラクターとして,加圧トレーニングを第三者に指導及び施術することが可能となる。仮に,原告サーナアルファが主張するように,医療類似行為のみに使用する目的で,加圧トレーニングを指導,施術したのであれば,従業者インストラクターは,医療類似行為に係る有資格者でなければならないが,原告サーナアルファの従業者インストラクターには,単なる「ダンサー」や「スポーツインストラクター」など上記資格を有しない者が複数存在していた。このような事実からも, 12 ACが加圧トレーニングを医療行為及び医療類似行為以外の目的で使用する動機を有していたことは明らかである。
原告サーナアルファは,「アンチエイジング効果・ダイエット効果」等をうたい,自らが営むスタジオで顧客に対し,加圧トレーニングを指導・施術し,現に医療類似行為以外の目的で加圧トレーニング方法を指導,施術しているのであって,原告サーナアルファ契約締結時及び更新時に,同原告が主張するような動機をACが有していなかったことは明白である。
(ウ) 本件錯誤1-2について 本件書籍には,加圧トレーニングの全てに本件特許権の効力が及ぶなどとは記載されていないし,契約の締結又は資格の取得を求めるような記載もない。
したがって,本件書籍を読んだことをACが個人契約の締結時に表明していたとしても,契約締結の動機が表示されていたことにはならない。加圧トレーニングは,必ずしも加圧下での運動を必須の要素とするものに限られず,ACが望んだというリハビリ等の知識・技術も含まれていたもので,ACの原告サーナアルファ契約の申込み及び更新の意思表示につき,何ら錯誤は存在しない。
(エ) 本件錯誤2について 原告サーナアルファ契約についての契約書には,成長ホルモンに関する記載は一切存在せず,成長ホルモンに関する事項は,一般人にとって,同事項に係る錯誤がなかったら,意思表示をしなかったであろうと考えられる程度に重要な内容とはいえない。したがって,仮に,本件書籍を読んで契約に至ったことをACがその個人契約の際に表明していたとしても,同原告の主張に係る動機が被告に対して明らかにされていたとか,当該動機が表示されていたとはいえない。
(2) 争点2-(2)(原告サーナアルファの代表者であるACに重過失があったか)について 【被告の主張】 ア 本件錯誤1-1及び同1-2について 13 仮に,原告サーナアルファの代表者であるACにおいて,本件特許権の効力の及ぶ範囲について何らかの誤認があったとしても,同原告の事業を遂行する過程で契約を締結する際に当然調査検討すべき事項を怠ったことによるものであり,そのことについてACには,重大な過失がある(民法95条ただし書)。すなわち,原告サーナアルファ契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであるところ,合理的な事業者であれば,本件特許権の効力が及ばない範囲については,自ら又は専門家に依頼するなどして,特許公報や特許法69条の規定等を調査,検討し,適宜の評価をすることは容易であるから,ACには,重大な過失がある。
イ 本件錯誤2について 仮に,原告サーナアルファの代表者であるACに本件錯誤2があったとしても,本件書籍における成長ホルモンが約290倍との記載は,研究成果(乙6)を紹介したものにすぎず,加圧トレーニングを実施すれば,かかる効果が必ず得られることを保証したものではない。ACがこの点を誤認したのであれば,それは,重大な過失に基づくものというべきである。
【原告サーナアルファの主張】 被告の主張は,否認又は争う。
原告サーナアルファの代表者であるACが錯誤に陥ったことにつき,同人に重過失はない。
(3) 争点2-(3)(相殺の抗弁が認められるか)について 【被告の主張】 仮に,原告サーナアルファの錯誤に係る主張が認められ,原告サーナアルファ契約が無効と判断される場合,同原告は,同契約が有効であることを前提として得た利得を被告に対して返還するべき義務を負う。
被告は,原告サーナアルファ契約に基づき,原告サーナアルファの従業員に対して法人契約加圧トレーニングインストラクター養成講習を行うとともに,同原告の 14 従業員を従業者インストラクターとして,同原告を法人契約加圧トレーニングインストラクターとして認定登録しているから,同原告は,当該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である168万円の利得を得ている。
また,被告は,原告サーナアルファ契約に基づき,同原告の従業員について,少なくとものべ9年分の従業者インストラクターとしての登録を更新しているから,同原告は,少なくとも当該更新料金相当額である119万9050円の利得を得ている。
被告は,原告サーナアルファに対し,平成27年10月20日の第8回弁論準備手続期日において,被告が同原告に対して有する上記(合計287万9050円)の不当利得金債権を自動債権として,同原告の本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
【原告サーナアルファの主張】 被告の主張は,争う。
原告サーナアルファが被告から被告主張の役務の提供を受けたことについて,被告主張の額の利得があることの立証はない。
(4) 争点2-(4)(同時履行の抗弁権が認められるか)について 【被告の主張】 原告サーナアルファは,被告に対し,「筋力アップクンEX」の代金として,平成22年3月1日に7万4760円,同年5月17日に9万5760円の合計17万0520円を支払ったが,被告は,同原告に対し,既に「筋力アップクンEX」を引き渡しているから,上記代金に相当する17万520円の不当利得金については,同原告が被告に筋力アップクンEXを引き渡すまで,その支払を拒絶する(同時履行の抗弁権)。
【原告サーナアルファの主張】 被告の主張は,争う。
3 争点3(原告A@の被告に対する不当利得返還求請求権は成立するか)につ 15 いて (1) 争点3-(1)(被告との契約に係る原告A@の意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について 【原告A@の主張】 以下のとおり,原告A@と被告との各契約(下記ア(ア)ないし(エ)。以下,これらを併せて「原告A@各契約」という。)は,いずれも錯誤により無効であるから,被告は,原告A@各契約に基づいて同原告が被告に支払った金員につき,法律上の原因なく利得しており,同原告は,これと同額の損失を受けている。
ア 原告A@各契約 (ア) 原告A@契約1 原告A@は,被告の認定に係る加圧筋力トレーニングの指導者の資格を取るため,平成14年1月19日,原告A@契約1に係る申込みをすることとし,講習料の名目で103万5300円を被告に支払った。原告A@は,同年2月1日から同月3日にかけて,被告において実施された講習に参加した。
原告A@契約1は,約1年ごとに更新されており,原告A@は,被告に対し,原告A@契約1の更新料として,別紙原告らの主張金額の【原告A@分】の「支払項 更新料@ないし同Jに対応する金員の支払をした(なお,同欄の更新料Eないし同Jに対応する金員の支払は,同欄の更新料Aないし同Fに対応する金員の支払と一緒に行った。)。
(イ) 原告A@契約2 原告A@は,医療類似行為に関する国家資格(鍼灸師)を有しているところ,被告から,医療行為等に加圧トレーニングを指導する資格は,今後医師のみになっていくとの説明があったため,医師らを資格対象者とする「加圧筋力トレーニング統括指導者」の資格取得を決意し,平成18年1月22日,原告A@契約2に係る申込みをすることとしたが,これに先立って,資格取得費用として,184万9050円を被告に支払った。
原告A@契約2は,約1年ごとに更新されており,原告A@は,被告に対し,原 16 告A@契約2の更新料として,別紙原告らの主張金額の【原告A@分】の「支払項 の更新料@ないし同Fに対応する金員の支払をした(なお,同欄の更新料Aないし同Fに対応する金員の支払は,同欄の更新料Eないし同Jに対応する金員の支払と一緒に行った。)。
(ウ) 原告A@契約3 原告A@は,平成21年4月27日,被告から,加圧トレーニングに用いる器具である「加圧マスター」などが販売されたことから,その買取り及びその取扱い資格を取得するため,被告との間で,原告A@契約3を締結し,被告に対し,58万4325円を支払った。
(エ) 原告A@契約4 平成23年に被告における准統括指導者の資格が特定資格者制度に移行されることになったため,原告A@は,同年9月12日,被告との間で,原告A@契約4を締結し,被告に対し,講習料として,42万円を支払った。
イ 原告A@の錯誤 (ア) 原告A@は,平成14年7月に「じねん堂鍼灸療院」を開設したが,これに先立つ平成13年ころ,加圧トレーニングが運動療法及びリハビリテーションなどの医療類似行為に応用されると聞き,被告から,加圧トレーニングは,国家資格の範囲内で医療類似行為に実施が可能であること,加圧トレーニングには特許権があること,加圧トレーニングには資格制度があり,資格を取らなければ加圧トレーニングを実施できないことなどの説明を受けた。
原告A@は,被告との間で原告A@各契約を締結する際,原告サーナアルファの代表者であるACと同様の錯誤(次の(イ)ないし(エ)の錯誤)に陥ったものであり,これらの錯誤は,いずれも黙示に被告に表示されており,意思表示の重要部分に係るものである。
(イ) 本件錯誤1-1 原告A@は,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,こ 17 れが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)に陥り,その結果,原告A@各契約を締結してしまった。
原告A@は,被告の代表者であるABの講演会において,加圧トレーニングがリハビリ等の医療類似行為に効果があることや,加圧トレーニングにつきABを発明者とする本件特許権が存在し,加圧トレーニングを医療類似行為に利用するには,被告との契約が必須であるとの説明を受けた。また,原告A@は,原告A@各契約の申込みの際に,被告に対し,同原告が鍼灸師として同契約を締結することを表示していた。したがって,原告A@が,リハビリ等の医療類似行為に利用する目的で被告と原告A@各契約を締結しようとしており,医療類似行為としてであっても,被告と同契約を締結しない限り,加圧トレーニングを実施できないと誤信していたこと(原告A@が本件錯誤1-1に陥っていたこと)は,契約に至った経緯から被告にも明らかであって,原告A@各契約の締結の動機としての本件錯誤1-1は,被告に黙示に表示されていたといえる。
(ウ) 本件錯誤1-2 原告A@は,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が,実際には,加圧下での自発的運動を伴わない加圧と除圧の繰り返しを行うだけのバラコン法等によって広く実施されていた方法であって,本件特許発明の技術的範囲に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-2以下)に陥り,その結果,原告A@各契約を締結してしまった。
ABの講演のうち,医療類似行為への応用について述べた部分は,本件書籍に記載されていることと同一であったが,リハビリ等は,加圧と除圧の繰り返しで,受動的な関節運動を伴う程度のものであり,本件特許発明の技術的範囲に属さないものであったにもかかわらず,ABが行った講演では,これらにも本件特許権の効力が及ぶ旨強調されていた。また,原告A@は,前述のとおり,原告A@各契約の締結の際に,ABの講演を聴いて同契約の締結に至ったことを表明した。したがって,原告A@が加圧と除圧の繰り返しなどの方法についても本件特許発明の技術的範囲 18 に属するものと誤信していたこと(原告A@が本件錯誤1-2に陥っていたこと)は,被告にとっても明らかであって,原告A@各契約の締結の動機としての本件錯誤1-2は,被告に対し,黙示に表示されていたといえる。
(エ) 本件錯誤2 原告A@は,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることはできないにもかかわらず,分泌させることができると誤信し(本件錯誤2),これを動機として,原告A@各契約の締結に至ったもので,その動機は黙示に表示されていた。
原告A@は,ABの講演において,成長ホルモンが290倍分泌されたとの発言を聞いた。また,原告A@は,原告A@各契約の締結の際に,ABの講演を聴いて同契約の締結に至ったことを表明した。したがって,原告A@が,加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されると誤信していたこと(原告A@が本件錯誤2に陥っていたこと)は,被告にとっても明らかであって,原告A@各契約の締結の動機としての本件錯誤2は,被告に対し,黙示に表示されていたといえる。
ウ まとめ 原告A@が,被告に対し,原告A@各契約に基づき支払った金員は,前記アのとおり,合計728万2608円であり,原告A@各契約はいずれも上記イのとおりのとおり,錯誤により無効であるから,原告A@は,被告に対し,上記金員につき不当利得返還請求権を有する。
【被告の主張】 ア 原告A@各契約について (ア) 原告A@契約1について 原告A@契約1の締結に先立つ平成14年1月19日に,原告A@から被告に対し,加圧筋力トレーニング指導者講習の受講料金の名目で103万5300円の金員の支払があったこと,被告が原告A@から別紙原告らの主張金額の【原告A@分】 更新料@ないし同Dに対応する各金員を受領したことは,認め 19 る。また,同欄の更新料Eないし同Jに対応する金員については,加圧筋力トレーニング統括指導者養成講習の更新料の名目で(すなわち,原告A@契約2の更新料として)受領したという限度で認める。その余の原告A@の主張は,否認ないし争う。
(イ) 原告A@契約2について 原告A@契約2については,平成18年1月22日に原告A@から被告に対し,加圧筋力トレーニング統括指導者の資格取得費用として184万9050円の金員の支払があったことは,認める。また,別紙原告らの主張金額の【原告A@分】の 更新料@ないし同Fに対応する金員については,原告A@契約2の更新料として受領した限度で認める。その余の原告A@の主張は,否認する。
(ウ) 原告A@契約3について 原告A@が,被告に対し,原告A@契約3に関し,加圧マスターミニという加圧トレーニングで用いる器具の購入代金として58万円4325円を支払った事実は認めるが,その余は否認する。当時,原告A@は,統括指導者の資格を有していたため,講習代金は免除されており,被告は,上記金員を上記器具の代金として受領したものである。
(エ) 原告A@契約4について 原告A@が,被告に対し,平成23年9月12日,42万円を支払った事実は認めるが,その余は否認する。被告は,上記金員を加圧トレーニング特定資格者養成講習の受講代金として受領した。
イ 原告A@の錯誤について (ア) 原告A@の錯誤の主張は,不知ないし否認する。
原告A@各契約に係る申込み及び更新の意思表示の重要部分において,同原告に錯誤はない。
原告A@各契約は,加圧トレーニングに基づき正しい指導をすることができる指導者の養成及び認定をすることを主たる目的とする契約であって,各契約の締結に 20 際し,被告が,同原告に対し,医療行為又は医療類似行為について加圧トレーニング方法を用いることが本件特許権の侵害となるなどという説明をした事実はない。
また,同原告が,鍼灸師として原告A@各契約を締結することを表示した事実もない。
以下,原告A@の主張に係る錯誤ごとに詳述する。
(イ) 本件錯誤1-1について 原告A@は,現に,医療類似行為以外の目的で加圧トレーニングを指導したり,施術しており,原告A@各契約の締結時及び更新時には,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為のみに使用するという動機を有していなかった。少なくとも,同原告が原告A@各契約を締結又は更新する際の意思表示に関し,その内容中の重要部分に錯誤がなかったことは,明白である。また,そもそも,同原告が受講したとする講演会については,何ら特定されておらず,その立証もない。
なお,原告A@は,「AB氏が講習をしていた際の講習(音声を文字起こししたもの)」で始まる書面(甲18)は,同原告が,平成14年2月1日ないし同月3日に,被告代表者であるABによる被告の加圧筋力トレーニング指導者養成講習を受講した際の録音を反訳したものである旨主張するが,かかる講演は,同原告と被告が原告A@契約1を締結した後,同原告が受講したものである。
したがって,上記書面(甲18)は,原告A@主張の錯誤を裏付けるものではない。
(ウ) 本件錯誤1-2について 被告において,加圧トレーニングの全てに本件特許権の効力が及ぶなどと説明したことはない。原告A@が受講したとする講演会については,何ら特定されていないし,仮に,同原告が,原告A@各契約締結の際に,被告に対し,被告代表者であるABの講演を聴いて契約に至った旨表明していたとしても,同原告の主張に係る内容の動機が表示されていたことにはならない。加圧トレーニングは,必ずしも加圧下での運動を必須の要素とするものに限られず,同原告が望んだと主張するリハ 21 ビリ等の知識・技術も含まれていたものであるから,同原告の原告A@契約の申込み及び更新の意思表示につき,何ら錯誤は存在しない。
(エ) 本件錯誤2について 原告A@各契約についての契約書のいずれにも,成長ホルモンに関する記載は一切存在せず,同ホルモンに関する事項は,一般人にとって,同事項に係る錯誤がなかったら,意思表示をしなかったであろうと考えられる程度に重要な内容とはいえない。また,原告A@が受講したという講演会については,何ら特定されていないし,少なくとも,被告において,加圧トレーニングが成長ホルモンを290倍分泌させるものであることを約束するような講演を行ったことはない。したがって,仮に,同原告が,原告A@各契約締結の際に,被告に対し,被告代表者であるABの講演を聴いて契約に至った旨表明していたとしても,同原告の主張に係る動機が被告に対して明らかにされていたとか,当該動機が表示されていたとはいえない。
(2) 争点3-(2)(原告A@に重過失があったか)について 【被告の主張】 ア 本件錯誤1-1及び同1-2について 仮に,原告A@において,本件特許権の効力の及ぶ範囲について何らかの誤認があったとしても,同原告は,その事業を遂行する過程で契約を締結する際に当然調査検討すべき事項を確認しなかったことによるものであり,そのことについて同原告には,重大な過失がある(民法95条ただし書)。すなわち,原告A@各契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであるところ,合理的な事業者であれば,本件特許権の効力が及ばない範囲については,自ら又は専門家に依頼するなどして,本件特許の特許公報や特許法69条の規定などを調査,検討し,適宜の評価をすることは,容易であったといえるから,同原告には,重大な過失がある。
イ 本件錯誤2について 仮に,原告A@に本件錯誤2があったとしても,本件書籍における成長ホルモン 22 が約290倍との記載は,研究成果(乙6)を紹介したものにすぎず,加圧トレーニングを実施すれば,かかる効果が必ず得られることを保証したものではない。同原告がこの点を誤認したのであれば,それは,重大な過失に基づくものというべきである。
【原告A@の主張】 被告の主張は,否認又は争う。
原告A@が錯誤に陥ったことにつき,同原告に重過失はない。
(3) 争点3-(3)(消滅時効が成立するか)について 【被告の主張】 不当利得返還請求権は,その発生と同時に行使することが可能であるところ,原告A@が,被告に対し,平成14年1月19日に支払った103万5300円,同年12月30日及び平成16年1月19日の各日に支払った各20万7060円に関する不当利得返還請求権については,その発生(各支払日)から10年が経過しており,消滅時効が完成している。
被告は,平成27年8月25日の本件第7回弁論準備手続期日において,同時効を援用する旨の意思表示をした。
【原告A@の主張】 被告の主張は,争う。
(4) 争点3-(4)(相殺の抗弁が認められるか)について 【被告の主張】 ア 原告A@契約1について 仮に,原告A@の錯誤に係る主張が認められて,原告A@契約1が無効と判断される場合,原告A@は,同契約が有効であることを前提として得た利得を被告に対して返還するべき義務を負う。
しかるところ,同原告は,原告A@契約1に基づき,加圧トレーニングについての講習を受講し,加圧筋力トレーニング指導者の資格者として認定登録されている 23 から,当該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である103万5300円の利得を得ている。また,同原告は,加圧筋力トレーニング指導者としての登録を更新されているから,更新料相当額である82万8240円の利得を得ている。
イ 原告A@契約2について 原告A@は,原告A@契約2に基づき,加圧トレーニングについての講習を受講し,加圧筋力トレーニング統括指導者の資格者として認定登録されているから,当該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である184万9050円の利得を得ている。また,同原告は,加圧筋力トレーニング統括指導者としての登録を更新されているから,更新料相当額である256万5693円の利得を得ている。
ウ 原告A@契約4について 原告A@は,原告A@契約4に基づき,加圧トレーニングについての講習を受講し,加圧筋力トレーニング特定資格者として認定登録されているから,当該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である42万円の利得を得ている。
エ 被告は,原告A@に対し,平成27年10月20日の第8回弁論準備手続期日において,被告が同原告に対して有する上記アないしウ(合計669万8283円)の不当利得金債権を自動債権として,同原告の本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
【原告A@の主張】 被告の主張は,争う。
原告A@が被告から被告主張の役務の提供を受けたことについて,被告主張の額の利得があることの立証はない。
(5) 争点3-(5)(同時履行の抗弁権が認められるか)について【被告の主張】 原告A@契約3は,被告が原告A@に「加圧マスターミニ一式」(加圧マスターミニ本体及び空圧式加圧ベルト)を引き渡すこと,その代金を同原告が被告に支払うことを定めた有償の双務契約であるところ,被告は,同契約に基づき,平成21 24 年8月2日,同原告に対し,「加圧マスターミニ一式」(加圧マスターミニ本体及び空圧式加圧ベルト)を引き渡した。
被告は,原告A@契約3が錯誤により無効であることを理由とする58万4325円の不当利得金につき,同原告が被告に「加圧マスターミニ一式」を引き渡すまで,その支払を拒絶する(同時履行の抗弁権)。
【原告A@の主張】 被告の主張は,争う。
当裁判所の判断
1 争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することについて,確認の利益が認められるか)について 原告サーナアルファは,同原告によるVRC法の実施は,被告が同原告に提供した不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たらないとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告が同原告に対して同法3条1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めている。
一般に,確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ適切な場合に限り,許されると解すべきである。
証拠(甲12,33)によれば,被告は,原告サーナアルファに対し,弁護士を通じ,内容証明郵便により,平成25年7月19日付け本件警告状及び同年8月29日付け通告書(以下「本件通告書」という。 )を送付し,被告の「知的財産権等に対する一切の侵害行為及び妨害行為を停止」するよう求めたことが認められる。
しかし,上記証拠によれば,本件警告状及び本件通告書には,被告が原告サーナ 25 アルファに提供したとされる営業秘密に関する記載は何ら存在せず,同原告によるVRC法の実施が不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たる旨の記載も存在しないのであって,被告が,本件警告状又は本件通告書により,同原告に同法2条1項7号及び3条1項に基づく差止請求権や同法2条1項7号及び4条に基づく損害賠償請求権を主張したとみることは,困難であり,ほかに,被告が,同原告に対して,同法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を主張するおそれが,現に存在していると認めるべき事情は見当たらない。
そうすると,現に,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ適切であるということはできないから,確認の利益は,これを肯定することができない。
したがって,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認請求に係る同原告の訴えは,不適法である。
2 争点2(原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立するか)について (1) 争点2-(1)(被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるACの意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について ア 原告サーナアルファ契約の内容について 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,原告サーナアルファ契約は,原告サーナアルファが「法人契約加圧トレーニングインストラクター」として,被告から認定を受け,また,同原告の従業員が「従業者インストラクター」として認定,登録を受けることを目的とした講習に関する契約であって,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾することや,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものではなく,また,同 26 原告が同契約に基づいて被告に支払った合計304万9570円の金員は,登録料等(インストラクターの登録料,更新料,トレーニング器具の代金)であって,本件特許権の再実施許諾の対価や,成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための対価とはされていないことが認められる。
イ 原告サーナアルファの主張に係る錯誤について (ア) 本件錯誤1-1及び同1-2について 原告サーナアルファは,同原告の代表者であるACが,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,これが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)や,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-2)に陥ったため,原告サーナアルファ契約を締結してしまった旨主張する。
しかし,上記アのとおり,原告サーナアルファ契約は,そもそも,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容とするものではない。
また,同原告の主張は,同原告が,加圧トレーニングを鍼灸師や理学療法士などの有資格者が行う医療類似行為としてのみ実施し,医療行為や医療類似行為以外の行為としては実施しないことを前提とするものであるところ,証拠(甲8,41,53,乙2,4,5,8の1・2,原告サーナアルファ代表者)によれば,同原告は,専ら医療類似行為を行っていたものではなく,筋力トレーニングとしての加圧トレーニングの効果を利用した施術のメニューを用意し,実際にも,加圧による筋力トレーニングと鍼を組み合せて実施していたことが認められる上,被告から資格認定を受けた同原告の「従業員インストラクター」には,ダンサーやスポーツインストラクターなど,医療類似行為に係る資格を有しない者が複数存在していたことも認められるところであって,同原告の上記前提が成り立たないことは,明らかである(なお,証拠〔甲43〕によれば,本件書籍には,加圧・除圧を繰り返す旨の記載があることが認められるが,このような方法の実施の全てに本件特許権の効力 27 が及ぶとか,このような方法の全てが本件特許発明の技術的範囲に属するなどとする記載があるか否かは明らかでない。)。
そうすると,ACが,本件特許権の効力が医療類似行為に及ばないとの認識や,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が本件特許発明の技術的範囲に属さないとの認識を有していたとしても,それゆえに,同人において,原告サーナアルファ契約を締結し,あるいはこれを更新しなかったであろうということにはならないというべきである。
したがって,本件錯誤1-1及び同1-2は,いずれも要素の錯誤とは認められない。
(イ) 本件錯誤2について 原告サーナアルファは,ACが,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることはできないにもかかわらず,分泌させることができると誤信し(本件錯誤2),これを動機として,原告サーナアルファ契約の締結に至ったもので,その動機は表示されていた旨主張する。
しかし,前記アのとおり,原告サーナアルファ契約は,そもそも,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容とするものではない。
ところで,証拠(甲43)によれば,本件書籍には,「成長ホルモンが約290倍に!」などの記載があることが認められるが,このような記載をもって,具体的な条件や個人差を問うことなく,加圧トレーニングにより,常に,成長ホルモンが290倍分泌されることが理解されるものではない(なお,証拠〔甲14,32〕によれば,ABの著作に係る「加圧トレーニングQ&A」には,「成長ホルモンの分泌は加圧トレーニングをして15〜30分後にピークになり,運動負荷や個人差にもよるが,加圧前と比べると約100〜300倍に分泌量は上昇する。」などの記載,被告の発行に係る「加圧筋力トレーニングQ&A」には,「運動して15分後には,成長ホルモンは運動前の平均値から100倍以上増加するのです。」など 28 の記載があることが認められる。)。そうすると,ACが,個人契約の締結に際して,被告に対し,本件書籍を読んだことを伝えていたとしても,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることができる旨ACが信じていたことが表示されたということはできないというべきであり,ましてや,原告サーナアルファ契約の締結やその更新に際して,そのような表示が被告に対してされたということは困難である。
したがって,原告サーナアルファ契約につき,原告サーナアルファの代表者ACの動機が表示されているといえない以上,原告サーナアルファの本件錯誤2の主張は認められない。
(2) 争点2-(2)(原告サーナアルファの代表者であるACに重過失があったか)について 事案に鑑み,念のため,ACの重過失についても検討しておく。
既に認定説示したところによれば,原告サーナアルファ契約は,原告サーナアルファの代表者であるACによって,営利を目的とする事業を遂行する同原告のために,被告との間で締結されたものであることが認められるから,同原告ないしACにおいて,同契約が,実質的に本件特許権の再実施許諾に関する契約と同視されるべきであるとか,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることができることを前提とする契約であるというのであれば,同原告の代表者であるACとしては,取引の通念に照らし,同契約を締結ないし更新する際に,本件特許権や本件特許発明がどのようなものか,また,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果がどのようなものかについて,調査・検討することは,必要不可欠であったといえる。すなわち,本件特許権の効力の及ぶ範囲や本件特許発明の技術的範囲がいかなるものか(本件特許が無効とされる可能性がどの程度あるかということを含む。)について調査し,本件特許権が同原告の事業にどのように有用であるかを検討し,あるいは,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果について調査し,加圧トレーニングが同原告の事業にどのように有用であるかを検討す 29 ることは,当然であり,仮に,自らこれを行うことが困難であったとしても,専門家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは十分可能であったというべきである。そうすると,本件錯誤1-1及び同1-2など本件特許権や本件特許発明に関するACの認識の誤りや,本件錯誤2など加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関するACの認識の誤りがあったとしても,それは,事業を遂行する過程で契約を締結等する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるものであって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。
(3) 小括 以上のとおりであるから,原告サーナアルファ契約が錯誤により無効であるとは認められず,原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は,成立しない。
3 争点3(原告A@の被告に対する不当利得返還請求権は成立するか)について (1) 争点3-(1)(被告との契約に係る原告A@の意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について ア 原告A@各契約の内容について (ア) 前記前提事実,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告A@契約1は,原告A@が「加圧筋力トレーニング指導者」として,被告から認定を受けることを目的とした講習に関する契約であって,本件特許権の再実施許諾の趣旨を含むが,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものではなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った金員は,受講料金(税込)103万5300円(本件特許権の再実施許諾料を含む。)であって,成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための対価とはされていないことが認められる。
また,前記前提事実,証拠(甲5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告A@契約2は,原告A@が「加圧筋力トレーニング統括指導者」として,被告から認 30 定を受けることを目的とした講習に関する契約であって,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものではなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った金員は,受講料金(税込)184万9050円(本件特許権の再実施許諾料を含むとは認められない。)であって,本件特許権の再実施許諾の対価や,成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための対価とはされていないことが認められる。
なお,原告A@契約1及び同2については,それぞれ1年ごとの更新料が支払われており,原告A@契約1に基づき1回目ないし5回目の更新料として合計103万5300円,原告A@契約2の1回目の更新料として16万440円,原告A@契約1に基づき6回目ないし11回目の更新料及び原告A@契約2の2回目から7回目の更新料の合計額として合計219万8193円を支払ったこと,原告A@契約1に基づく更新料には本件特許権の再実施許諾料が含まれることが認められ,原告A@契約2に基づく更新料には本件特許権の再実施許諾料を含むとは認められない。
(イ) 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告A@契約3は,被告が原告A@に加圧マスターミニという加圧トレーニング用の器具を売り渡し,同原告が被告にその代金58万4325円を支払うという売買契約であって,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾することや,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものと認めるに足りる証拠はなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った58万4325円は,売買代金であって,これに本件特許権の再実施許諾の対価や成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための対価が含まれていると認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば, 原告A@契約4は,原告A@が「加圧トレーニング特定資格者」として,被告から認定を受けることを目的とした講習に関する契約であって,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾すること 31 や,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものと認めるに足りる証拠はなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った42万円は,受講料金であって,これに本件特許権の再実施許諾の対価や成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための対価が含まれていると認めるに足りる証拠はない。
イ 原告A@の主張に係る錯誤について(ア) 本件錯誤1-1及び同1-2について 原告A@は,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,これが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)や,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-2)に陥ったため,原告A@各契約を締結してしまった旨主張する。
しかし,上記アのとおり,原告A@契約3及び同4は,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容とするものではない。
また,同原告の主張は,同原告が,加圧トレーニングを鍼灸師が行う医療類似行為としてのみ実施し,医療行為や医療類似行為以外の行為としては実施しないことを前提とするものであるところ,証拠(乙1,原告A@本人)によれば,同原告は,専ら医療類似行為を行っていたものではなく,筋力トレーニングとしての加圧トレーニングの効果を利用した施術のメニューを用意し,これを実施していたことが認められるところであって,同原告の上記前提が成り立たないことは,明らかである。
そうすると,同原告が,本件特許権の効力が医療類似行為に及ばないとの認識や,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が本件特許発明の技術的範囲に属さないとの認識を有していたとしても,それゆえに,同原告において,原告A@各契約を締結し,あるいはこれを更新しなかったであろうということにはならないというべきである。
32 したがって,本件錯誤1-1及び同1-2は,いずれも要素の錯誤とは認められない。
(イ) 本件錯誤2について 原告A@は,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることはできないにもかかわらず,分泌させることができると誤信し(本件錯誤2),これを動機として,原告A@各契約の締結に至ったもので,その動機は黙示に表示されていた旨主張する。
しかし,前記アのとおり,原告A@各契約は,そもそも,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容とするものではない。
この点,原告A@は,ABの講演において,加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されたとの発言を聴いたことが原告A@各契約締結の動機となった旨主張する(なお,原告サーナアルファと異なり,原告A@は,当初,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関する認識をあえて請求原因としていなかった〔平成26年11月28日の第1回口頭弁論期日に陳述した同年4月28日付け訴状(8頁)及び同年8月12日付け訴状訂正書(11頁)〕にもかかわらず,後日,これを主張するに至った〔平成27年10月20日の第8回弁論準備手続期日に陳述した同年9月15日付け準備書面8(5頁)〕という経緯がある。)。証拠(甲18,40,原告A@本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告A@契約1の締結後,同原告が聴いたABの講演(平成14年2月1日実施)において,同人が,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関連して,「成長ホルモン300倍」という論文に言及したことがうかがわれるものの,同原告が,同契約の締結に先立って,ABの講演で「加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌された」旨の発言を聴いた事実が認められるものではなく,ほかに同契約の締結に先立って同原告がABから同発言を聴いたと認めるに足りる証拠はない。
また,仮に,同原告が,原告A@各契約の締結ないし更新に際して,被告に対し, 33 ABの講演を聴いたことを伝えていたとしても,そのことのみをもって,直ちに同原告が加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることができる旨信じていた旨,被告に表示されたことにはならない。
したがって,原告A@各契約につき,原告A@の動機が表示されているとはいえない以上,原告A@の本件錯誤2の主張は認められない。
(2) 争点3-(2)(原告A@に重過失があったか)について 事案に鑑み,念のため,原告A@の重過失についても検討しておく。
既に認定説示したところによれば,原告A@各契約は,いずれも,営利を目的とする事業を遂行する同原告が被告との間で締結したものであり,このうち,原告A@契約1及び同2には,本件特許権の再実施許諾に関する条項が含まれることが認められるところ,同原告において,同契約以外の原告A@各契約についても,実質的に本件特許権の再実施許諾に関する契約と同視されるべきであるとし,また,原告A@各契約がいずれも加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることができることを前提とする契約であるというのであれば,同原告としては,取引の通念に照らし,原告A@各契約を締結ないし更新する際に,本件特許権や本件特許発明がどのようなものか,また,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果がどのようなものかについて,調査・検討することは,必要不可欠であったといえる。すなわち,本件特許権の効力の及ぶ範囲や本件特許発明の技術的範囲がいかなるものか(本件特許が無効とされる可能性がどの程度あるかということを含む。)について調査し,本件特許権が同原告の事業にどのように有用であるかを検討し,あるいは,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果について調査し,加圧トレーニングが同原告の事業にどのように有用であるかを検討することは,当然であり,仮に,自らこれを行うことが困難であったとしても,専門家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは十分可能であったというべきである。そうすると,本件錯誤1-1及び同1-2など本件特許権や本件特許発明に関する同原告の認識の誤りや,本件錯誤2など加圧トレーニングの成長ホルモンに対 34 する効果に関する同原告の認識の誤りがあったとしても,それは,事業を遂行する過程で契約を締結等する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるものであって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。
(3) 小括 以上のとおりであるから,原告A@各契約が錯誤により無効であるとは認められず,原告A@の被告に対する不当利得返還請求権は,成立しない。
結論
以上によれば,原告サーナアルファの本件訴えのうち,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認請求に係る訴えは,不適法であるから,これを却下することとし,原告サーナアルファのその余の請求及び原告A@の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
35 裁判官天野研司36 (別紙)特許請求の範囲1登録時【請求項1】筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。
2訂正後【請求項1】筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。
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裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
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