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事件 |
平成
27年
(ワ)
2504号
不正競争行為差止等請求事件
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原告全秦通商株式会社 同訴訟代理人弁護士 今中利昭 同 田上洋平 同 加藤明俊 被告株式会社全功 同訴訟代理人弁護士 生沼寿彦 同 平野悠之介 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/10/13 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,原告に対し,732万5413円及びこれに対する平成26年8月9日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを100分し,その94を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,その営業上の施設又は活動に,別紙被告標章目録記載1ないし3の標章を使用してはならない。 2 被告は,前項記載の標章を付した看板,パンフレット,名刺,請求書,領収書,封筒,便箋その他の営業表示物件を廃棄せよ。 3 被告は,インターネット上のアドレス「http://www.zenshin.gr.jp」において開設するウェブサイトから,別紙被告標章目録記載3の標章を抹消せよ。 4 被告は,「zenshin.gr.jp」のドメイン名を使用してはならない。 5 被告は,原告に対し,1億1880万円及びこれに対する平成26年8月9日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告の別紙原告標章目録記載の各標章(以下「原告各標章」といい,それぞれを「原告標章1」,「原告標章2」などという。)を営業表示として用いる原告が,被告に対して下記請求をした事案である。 記 T 被告がその経営するパチンコ店,パチスロ店(以下「パチンコ店等」という。)に別紙被告標章目録記載1ないし3の標章を使用する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当することを理由とする,@同法3条1項に基づく同標章の使用差止請求,A同条2項に基づく同標章を付した看板等の廃棄請求,B同条2項に基づくアドレス「http://www.zenshin.gr.jp」において開設されるウェブサイトからの同目録記載3の標章の抹消請求 U 「zenshin.gr.jp」のドメイン名(以下「本件ドメイン」という。)の使用が同条1項1号又は13号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基づく差止請求 V 平成23年12月17日から平成26年8月8日までの間の別紙被告標章目録記載の各標章(以下「被告各標章」といい,それぞれを「被告標章1」,「被告標章2」などという。)及び本件ドメインの使用行為が同法2条1項1号の不正競争に該当することを理由とする不法行為に基づく1億1880万円の損害賠償請求並びにこれに対する不法行為の日の後である平成26年8月9日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求 1 判断の前提となる事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定できる事実) (1) 当事者等 ア 原告は,その前身となる個人事業を法人化して昭和60年に株式会社として設立されたパチンコ店,書店の経営等を主な目的とする株式会社である。 イ 被告は,平成23年2月16日に設立されたパチンコ店,ゲームセンター,各種娯楽施設の経営等を目的とする株式会社である。なお,被告は,後記(4)イの別件訴訟の結果を踏まえて,平成26年6月25日,その商号を「株式会社全秦」から現在の商号に変更した。 ウ P1は,原告の代表取締役であった者であり,その在任中である平成23年2月16日に被告を設立し,現在,被告の代表取締役を務めている。なお,P1は,平成24年2月10日に原告の取締役を解任されて代表取締役の地位を失っている。 (2) 原告各標章の使用 平成3年当時,原告のほか,訴外株式会社ソフィア(以下「訴外ソフィア」という。),訴外全本金属興業株式会社(以下「訴外全本金属」という。),訴外株式会社全本(以下「訴外全本」という。)及び訴外日新開発株式会社(以下「訴外日新開発」という。)の4社(以下,これらの会社を合わせて「訴外ソフィアら」という。)の代表取締役であったP1は,原告及び訴外ソフィアらを「全秦グループ」として VI(ヴィジュアル・アイデンティティー)システムを導入する方針を打ち出した(甲3,甲4,甲5の1ないし3)。 そして原告は,同年7月,「全秦グループ」のシンボルマークが新しくなったとして,「人・夢・ネットワーク」(原告標章3)のスローガンの下,全秦の「Z」をデザイン化して制作された原告標章1やグループ名のロゴタイプである原告標章7を発表すると同時に,同じく「Z」をデザイン化した原告標章1の色違いの標章を原告及び訴外ソフィアらのマーク(コーポレートマーク,原告のそれは原告標章2)として,同じロゴタイプを使用した社名や原告標章3に類する各社のスローガン(コーポレートスローガン,原告のそれは原告標章4。)と共に列挙する新聞広告を掲載した(甲4)。 原告各標章は,平成24年1月頃まで,上記全秦グループの共通の営業表示として,広告,テレビCM,パンフレット等に使用されてきた。 (3) 被告各標章の使用 ア 被告は,既に原告がパチンコ店を開業していた島根県隠岐郡隠岐の島町(以下「隠岐の島」という。)において,平成23年9月12日に廃業したパチンコ店を買い受け,その店舗を改修して,同年12月17日,パチンコ店「ゼンシン隠岐」(現在の店舗名は「ゼンコウ隠岐」である。)を開業し,さらにその後,隣接地にパチスロ店を開業し(「スロットゼンシン隠岐」,以下「ゼンシン隠岐」と併せて「被告2店舗」という。),平成26年8月6日頃まで,その営業に被告標章11ないし13を使用した。 そのほか,被告は,後記(4)イの訴訟の結果を踏まえて,商号を「株式会社全秦」から現在の商号に変更した平成26年6月25日頃まで,被告標章7ないし9を,その営業上の活動に使用していた。 イ 被告は,平成24年6月6日,訴外ソフィアから,同社が取得し業務に使用していた建物(岡山県津山市河原町29番地3,以下「本件建物」という。)を譲り受け,同所を本店所在地として登記して営業の拠点としていたが,本件建物の壁面には被告標章2,6が掲げられていた。 被告は,平成26年6月25日,上記アの経緯で商号を変更すると共に,本店所在地を本件建物から移転登記し,本件建物入口にあった社名を外し,営業の拠点も他に移転した(甲38,甲44,甲46,甲48)。 しかし,その後もP1が代表取締役を務める訴外ソフィア,訴外全本及び訴外日新開発が本件建物に営業所を置き,P1は同建物において業務を行い,また本件建物入口には訴外ソフィアの社名プレートが掲げられている(甲41,甲44ないし甲46)。 ウ 平成26年10月頃から,アドレス「http://www.zenshin.gr.jp」のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)にホームページが開設されたが,同ホームページには,訴外ソフィアらの社名と共に,被告標章3ないし5及び7が記載されている(甲41)。 (4) 別件訴訟及び仮処分等 ア ゼンシン隠岐が開店した当時,被告代表者のP1は,原告の代表者でもあったが,被告によるゼンシン隠岐開業による原告との競業行為を問題とされ,平成24年2月10日に原告の取締役を解任されて原告代表取締役の地位を失った。その後,上記(2)の「全秦グループ」として称されていたグループは,原告を中心とするP1以外の者が代表者を務める会社のグループと,訴外ソフィアらのP1が代表者を務める会社のグループとに分裂して対立するようになり,以後,後記イの訴訟等の紛争継続につながっている。 イ すなわち原告は,平成24年,岡山地方裁判所津山支部において,原告各標章を含む複数の営業表示の主体が原告であることを前提に,P1が設立した被告(当時の商号は「株式会社全秦」。)及び訴外ソフィアらに対して不正競争行為差止等請求事件(同支部平成24年(ワ)第99号。以下「別件訴訟」という。)を提起し,@被告が原告各標章と同一又は類似する標章(被告標章4ないし8,同10ないし13,及び「株式会社全秦」)を被告が使用する行為が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争であるなどと主張して,被告に対しては同各標章の使用差止め及びこれを付した看板,インターネット上のウェブサイト等の営業表示物件の廃棄と共に,「株式会社全秦」の商号の使用差止及び商号の抹消登記手続を求め,A訴外ソフィアらが「Z」をデザイン化した各社のコーポレートマーク及び各社のコーポレートスローガンを使用する行為が同号の不正競争であるなどと主張して,訴外ソフィアらに対してはその使用差止め及び当該標章を付した看板等の営業表示物件の廃棄を求め,また同時期,被告及び訴外ソフィアらを債務者として同内容の仮処分申立事件(同支部平成24年(ヨ)第12号。以下「別件仮処分」という。)を申し立てた。 同支部は,平成25年12月25日,別件訴訟につき被告に対する請求を全部認容したが,訴外ソフィアらに対する請求は,同各社のコーポレートマーク及びコーポレートスローガンが原告を識別させるものとはいえないなどとして,いずれも棄却し,別件仮処分につき,訴外ソフィアらを債務者とする申立てについては被保全権利が認められないとし,被告を債務者とする申立てについては,被保全権利は認められるが必要性が認められないとして,いずれも却下した(甲42の1,甲43の1。以下,訴訟事件の判決を「別件一審判決」といい,仮処分申立事件の決定を「別件原決定」という。)。 別件一審判決に対し,原告は控訴せず,被告だけが広島高等裁判所岡山支部に対して控訴したが,平成26年6月19日,同裁判所は,一部使用していなかった標章(原告標章2)の廃棄請求を除いたほか,別件一審判決を維持して控訴を棄却した(同支部同年(ネ)第33号,甲42の2)。また,別件仮処分については,同日,原告(債権者)は別件原決定のうち被告を債務者とする申立ての却下決定に対する部分だけを抗告し,同支部はこれを受け,改めて被告に対する原告(債権者)申立てのとおりの仮処分命令を発令した(同支部同年(ラ)第9号,甲43の2)。 ウ 間接強制 原告は,別件仮処分決定に基づく保全執行として間接強制の申立てを行い,平成26年10月27日,支払予告決定を得た(岡山地方裁判所津山支部平成26年(ヲ)第2号間接強制申立事件,甲44)。 エ 被告の商号変更等 被告は,別件訴訟の控訴審及び別件仮処分の抗告審の判断が出た後の平成26年6月25日,その商号を「株式会社全秦」から「株式会社全功」に変更し,本店所在地を,本件建物の所在地から「岡山県津山市田町10番地4」に移転し,その旨の移転登記もした(甲48)。 (5) 本件訴訟等 原告は,当庁において,平成27年3月16日,本件訴えと共に,訴外ソフィアらに対し,原告標章1,3,5,6及び7が原告の営業表示として周知であるとして,訴外ソフィアらがこれらの標章と同一又は類似する標章を使用する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争であるとして,その使用差止め等を求める訴訟を提起した(当庁平成27年(ワ)第2505号)。他方,訴外ソフィアらは,岡山地方裁判所津山支部において,平成27年2月23日,原告本社建物で事業を行う原告の関連会社及び原告の持ち株会社である株式会社ゼンシンに対し,上記各標章が訴外ソフィアらの周知営業表示であるとして,その使用の差止め等を求めて訴えを提起した(なお,同事件は,岡山地方裁判所に回付された後,当裁判所に移送された(当庁同年(ワ)第6189号)。)。両事件は併合され,平成28年7月21日,両事件の原告は,いずれも他方に対して上記標章の使用の差止めができなとして,いずれの請求も棄却する判決が言い渡された。(当裁判所に顕著な事実) (6) 原告各標章と被告各標章との類否 被告標章2ないし13は,以下のとおり原告各標章と同一ないし類似である。 すなわち,被告標章2は,原告標章1と同7とを結合したものと同一である。 被告標章3は原告標章7と,被告標章4は原告標章1と,被告標章5は原告標章3と,被告標章10は原告標章2と,被告標章13は原告標章4とそれぞれ同一である。 被告標章6は原告標章1,7の組合せに,被告標章7は原告標章6に,被告標章8は原告標章7に,被告標章9は原告標章5に,被告標章11及び12はそれぞれ原告標章5ないし7に,いずれも類似する。 2 争点 (1) 原告各標章は周知の営業表示か(争点1) (2) 被告標章1と原告標章1との類否(争点2) (3) 被告は被告各標章及び本件ドメインを使用しているか(争点3) (4) 混同のおそれの有無(争点4) (5) 不正競争防止法2条1項13号の不正競争の成否(争点5) (6) 原告の損害の有無及びその額(争点6) |
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争点についての当事者の主張
1 争点1(原告各標章は周知の営業表示か) (原告の主張) 原告は,平成3年7月18日から現在に至るまで,原告各標章を,パチンコ・パチスロ営業において使用し,また原告の広告,テレビCM,パンフレット,社章,名刺,請求書,領収書等にも使用している。 原告が,原告各標章の作成及びそれを用いた広告,テレビCM,パンフレット,社章,名刺,請求書,領収書等に費やした費用は,平成3年から平成24年1月1日に至るまで,記録に残るものだけでも1億7264万7654円(ほぼ除く消費税)を超えるものである。また,原告が運営するパチンコ店の新聞折込広告にはいずれも原告標章1,2及び7あるいは「ZENSHIN」の標章が付され,同一の経営主体に係る営業であると需要者に認識されている。 このように原告各標章は,原告による強力な宣伝広告の下,原告において継続的に使用され,原告の商品等表示として,遅くとも平成23年1月までには需要者の間に広く認識されるに至ったものである。 (被告の主張) 原告各標章が,納入業者など取引者において周知であったこと,津山市及び周辺地域の需要者の間において周知のものであったことについては争わないが,その余については争う。 原告が隠岐の島において経営するパチンコ店「ラスベガス隠岐店」(以下「原告店舗」という。)は,あくまで「ラスベガス」という名称が隠岐の島の需要者の間で他店舗と識別するための標章として認識されているものであって,「全秦グループ」,「ゼンシングループ」,「ZENSHIN GROUP」(原告標章5ないし7)という原告及び訴外ソフィアらの企業グループを表す原告各標章が原告店舗の標章として広く認識されているわけではないから,原告各標章が隠岐の島の需要者間において周知性を獲得していたかは甚だ疑わしい。 なお原告各標章が周知であるとしても,それらは原告及び訴外ソフィアらによって,全秦グループ全体を表すものとして継続的に使用されてきたものであり,需要者には全秦グループ全体を表す標章として認識されている。 2 争点2(被告標章1と原告標章1との類否) (原告の主張) 原告標章1は,鈍角三角形の一辺を曲線とした艶紅色の図形と同図形を180°回転させた図形を並べた図形からなるものであり, 「ZENSHIN」の頭文字である「Z」を図案化したものであり,原告標章1の上下に2本の直線を追加すると,「Z」との文字が下記のとおり浮かび上がる。 これに対し,被告標章1は,原告標章1を構成する2つの三角形状の図形にそれぞれ3本の白線を追加したものにすぎず,被告標章1の上下に2本の直線を追加しても,原告標章1と同様に「Z」との文字が下記のとおり浮かび上がる。 (原告標章1) (被告標章2) 以上から,原告標章1と被告標章1は,外観において類似するため,両標章は類似する。 (被告の主張) 原告の主張は争う。 被告標章1は,3本のストライプが入ることによって,原告標章1と比べて需要者に与える印象が大幅に変わっている。そして,3本のストライプが重要な相違点であるから,被告標章1は,原告標章1と上半分がピンクと赤の違いだけである原告標章2とも異なる識別性を有するというべきである。 原告は,原告標章1の上下に2本の直線を追加すると「Z」との文字が浮かび上がることを前提に,原告標章1と被告標章1とが類似すると主張しているが,上下に2本の直線を追加すれば「Z」の文字が浮かび上がるなどということは,需要者にとっては明らかでない。 原告標章1と文字からなる原告標章2が商標登録されている中で,被告が出願した被告標章1が,平成24年7月13日付けで商標登録されているが(商標登録第5507617号),これは特許庁が,被告標章1には原告標章1とは異なる識別性があると判断したからである。 3 争点3(被告は被告各標章及び本件ドメインを使用しているか) (原告の主張) (1) 被告標章1ないし9の使用 被告は,遅くとも平成23年12月17日から,被告標章1ないし9を現在まで使用している。 被告標章2,6については,本件建物の外壁に設置され使用されている。 建物に標章を付している場合は特段の事情がない限り建物の所有者が付しているものと認められるところ,本件建物は平成26年6月24日までの被告の本店所在地であり,現在も被告が事業活動に使用し,かつ所有して客観的な使用態様は,別件訴訟における口頭弁論終結時と何ら異ならないから,被告が外壁に被告標章2,6を設置して使用しているといえる(甲48)。 被告標章3ないし5及び7については,被告が同年10月頃に開設した本件ウェブサイトで使用されている。 被告標章5については,同年1月1日の津山朝日新聞紙上の新春の挨拶広告中において使用されている。同広告中には被告の商号の記載はないが,被告代表者を「全秦グループ代表取締役」と表記し,「事業本部」として,当時の被告本店所在地を記載しているのであるから,被告が全秦グループの標章を使用すると共に,被告標章5を使用していることは明らかである。 (2) 被告標章10ないし13の使用 被告は,被告標章10ないし13を平成23年12月17日から平成26年8月8日まで使用していた。 なお,被告標章12,13については,被告が隠岐の島において経営する被告2店舗にて使用されていたものである。 (3) 本件ドメインの営業表示としての使用 本件ドメインのうち,「jp」の部分は国別コードトップレベルドメイン,「gr」の部分は属性型セカンドレベルドメインであり,日本レジストリサービスにおいて登録されている多数のドメイン名に共通する要素であるから,商品又は営業を表示する機能は有しない。そうすると,本件ドメイン中,「zenshin」は「gr.jp」の部分と切り離され,それ自体で商品又は営業表示となり得るものである。 そして,本件ウェブサイトにおいて,被告の商号そのものは記載されていないものの,被告の営業である「パチンコ店」が記載されて被告がウェブサイト開設の主体と認められると共に,被告標章3ないし5及び7が本件ウェブサイトにおいて使用されていることからすれば,本件ドメインは被告の営業を表示するものとして使用されていることは明らかである。 このような被告の本件ドメインの使用は,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」の使用に該当する。 (被告の主張) (1) 被告標章1について 被告は,平成24年頃から平成27年4月4日までの間,被告標章1を使用していたが,現在は使用していない。 (2) 被告標章2ないし6及び10について 被告は,被告標章2ないし6及び10は使用したことがない。 (3) 被告標章7ないし9について 被告は,被告標章7ないし9を平成26年6月25日頃まで被告2店舗の営業上の活動に使用していたことは認めるが,その余は否認する。 (4) 被告は,被告標章11ないし13を平成26年8月6日頃まで隠岐にある被告の営業施設で使用していたことは認めるが,その余は否認する。 (5) 本件建物の壁面設置による被告標章2,6の使用について 被告は,本件建物を所有しているが,本店所在地は別の場所に移し,現在は本件建物において事業活動を一切行っていない。本件建物はもはや被告の営業上の施設とはいえないから,本件建物に被告標章2,6が掲げられていることをもって被告がこれらを使用しているとはいえない。 (6) 本件ドメインの営業表示としての使用 本件ドメインにおけるホームページを開設したのは訴外ソフィアらであり,本件ウェブサイトにおいて,被告標章3ないし6及び7を表示しているのは訴外ソフィアらであるから,被告は,本件ドメインの使用主体ではない。 4 争点4(混同のおそれの有無) (原告の主張) 原告は,隠岐の島においてパチンコ店である原告店舗を運営しているが,その広告に原告標章1,7を使用すると共に,店舗にも,原告標章1,2及び7を使用している。 これに対し,被告は隠岐の島において,被告2店舗を運営して被告各標章を使用しているから,原告の営業と混同を生じるおそれがあることは明らかである。 (被告の主張) 原告の主張は争う。 原告が隠岐の島で運営する原告店舗は,名称の一部である「ラスベガス」が需要者の間に広く認識されているのであって,被告の運営する被告2店舗と営業の混同を生じるおそれはない。 5 争点5(不正競争防止法2条1項13号の不正競争の成否) (原告の主張) 被告が,本件ドメインを使用して開設した本件ウェブサイト上で,周知である原告営業表示と同一又は類似する標章を用いていること,本件ウェブサイトの開設を別件訴訟における被告の敗訴後に行っていることに照らせば,被告が,原告の原告各標章が有する営業表示の顧客吸引力にフリーライドして,不正の利益を得る目的ないし原告に損害を与える目的があることは明らかである。 したがって,被告による本件ドメインの使用は,不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当する。 (被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。 本件ドメインを使用して本件ウェブサイトを開設したのは,被告ではなく,訴外ソフィアらである。 6 争点6(原告の損害の有無及びその額) (原告の主張) (1) 原告の受けた損害額(不正競争防止法5条2項又は3項) ア 被告の平成23年12月17日から平成26年8月8日までの間の売上高は,パチンコゼンシン隠岐において35億7075万6282円,スロットゼンシン隠岐において14億6800万0019円の合計50億3875万6301円である。 イ 上記アの期間の被告の売上高から景品の仕入高を控除した額は,パチンコゼンシン隠岐については4億8174万5739円,スロットゼンシン隠岐については1億8479万5609円の合計6億6654万1348円である。 なお,被告の限界利益を算出するに当たり,被告のパチンコ及びパチスロ営業において変動費と認められるのは,景品(商品)の仕入高のみであり,他に控除すべき費目は存在しないから,上記金額が被告の受けた利益の額となる。 ウ したがって,被告の上記不正競争行為により原告が受けた損害の額は,不正競争防止法5条2項の適用により,6億6654万1248円と推定される。 また,被告各標章の使用により原告が受けるべき金銭の額は,売上高の10%を下らないから,被告の上記不正競争行為により原告が受けた損害の額は同法5条3項の適用による5億0387万5630円(消費税込み)を下らない。 (2) 弁護士費用相当の損害 本件訴訟は,不正競争防止法に基づく専門的な事件であり,法律専門家たる弁護士に依頼しなければ訴訟提起及び追行が困難であることなどを勘案すれば,被告の不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用は1億3000万円を下らない。 (3) 請求のまとめ 原告は被告に対し,主位的に不正競争防止法5条2項,予備的に同条3項の適用を前提に,損害賠償として上記損害額の内金1億1880万円(不正競争行為による損害額1億円,弁護士費用相当額の損害1000万円,消費税分880万円)及びこれに対する不法行為の日の後である平成26年8月9日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を請求する。 (4) 不正競争防止法5条2項,3項の適用に対する被告の主張に対する反論 被告による被告各標章を使用したパチンコ店の営業は,原告の営業と現実に混同を生じていたから,不正競争防止法5条2項の推定が覆滅する旨の被告の主張は失当であり,また予備的請求原因である同条3項の関係でも損害不発生の抗弁が認められる余地はない。 ア 原告各標章の顧客吸引力について 原告は,パチンコ・パチスロ営業において原告各標章を使用し,加えて新聞折込広告を行っており,当該広告にはいずれも原告標章1,2及び7あるいは「ZENSHIN」の標章が付されていたのであるから,原告各標章には顧客吸引力があり,原告店舗が原告のグループに属し,原告が経営主体である店舗と需要者に認識されている。そして原告のパチンコ店の名称「ラスベガス」や「パチンコ」は,原告標章5ないし7と強く結びついているから(甲49),需要者間に,原告の営業と被告の営業との間に現実の混同が生じていた(甲50の1ないし3)。 イ 需要者のパチンコ店等を選択する際の基準について 被告は,需要者はパチンコ店等がどのようなグループに属しているかということを基準に店舗を選択して選んでいない旨主張するが,需要者は,被告が主張するようなサービスを重視して店舗を選んでおり,このようなサービスを画一的に受けられることを期待して店舗の営業表示を重視している。一般に,品質等保証機能が含まれる同じ営業表示を有する店舗は同一のサービスを受けられると期待するものであり,このような信用を化体しているのが原告各標章に他ならない。 ウ 被告店舗が既存店を承継したことについて 被告が顧客を承継したようにいう「パーラー隠岐」は廃業したのであり,廃業後,被告店舗が開業するまでの間,3か月の休業期間があったのであるから,「パーラー隠岐」の顧客が被告店舗に承継されたわけではない。 (被告の主張) (1) 原告主張のうち(1)アの事実は認める。 (2) 原告の主張(1)イのうち被告の売上高から景品(商品)仕入高を控除した金額は認めるが,同額が被告の受けた利益であるとの主張は争う。不正競争防止法5条2項にいう利益を算出するに当たり,被告のパチンコ及びパチスロ営業において変動費と認められるのは,景品(商品)の仕入高以外にもある。 (3) 原告の主張(1)ウは争う。 (4) 原告の主張(2),(3)は争う。 (5) 不正競争防止法5条2項の推定の覆滅について 以下のような事実関係の下では,原告の営業と被告の営業とは現実に混同していないから,被告による被告各標章の使用と原告との損害との間には因果関係がなく,不正競争防止法5条2項の推定は覆滅される。 ア 本件建物における被告標章2,6の使用について 本件建物は,被告が唯一経営するパチンコ店等である被告2店舗の後方支援業務しか行っておらず,隠岐の島におけるパチンコやパチスロマシンの需要者に対して何らの意味も持たないから,本件建物外壁に被告標章2,6を使用していることと原告の損害とは因果関係はない。 イ 原告各標章の顧客吸引力について パチンコ店等の需要者である遊戯者にとって,パチンコ店等を経営する企業名を意識するのは,当該企業がパチンコ専門誌やテレビなどのメディアで強力に宣伝広告されている場合に限られる。 原告の運営するパチンコ店等の売上規模は平成25年において,ランキングでは232位,平成26年では400位のランキングにすら入っていないし,原告の経営するパチンコ店等は,店舗名も統一されておらず,店舗の造作や雰囲気に統一感がなく,しかも原告各標章の使用態様に一貫性がなく,広告宣伝の規模や頻度も貧弱である。さらに,原告が運営するパチンコ店等だけではなく,P家の兄弟が個人経営するパチンコ店等でも同様に全秦グループの表示である原告各標章が使われていることから,パチンコ店等に関してみた場合,全秦グループのグループ名,ひいては原告各標章の顧客吸引力は乏しい。 隠岐の島の需要者にとって,原告各標章は原告店舗の顧客吸引力の源泉となってはおらず,「ラスベガス」という名称が顧客吸引力の源泉となっているから,被告が隠岐の島において被告標章目録記載の標章を使用して被告2店舗でパチンコ店及びパチスロ店の運営を行ったとしても,原告が運営する店舗であると誤認混同して来客する需要者はいない。原告指摘に係る混同の例は,パチンコ店等の需要者によるものではない。 ウ 需要者である遊戯者のパチンコ店等を選択する際の基準について 需要者である遊戯者は,店舗の場所,機種,交換率,出玉への期待感などを基準に店舗を選択しているのであり,どの企業グループに属するかなどは重視していない。 エ 被告店舗が既存店を承継したことについて 被告店舗は,もともと隠岐の島で原告店舗に比して高いシェアを有していた既存のパーラー隠岐を買収して,3か月の営業休止後,被告店舗として営業を再開したものであるところ,時間的・場所的な近接性・連続性から,パーラー隠岐当時の顧客が被告店舗に来店しているだけであり,営業の混同により原告店舗の顧客が被告店舗に奪われているわけではない。 (6) 不正競争防止法5条3項の損害不発生の抗弁 上記(5)のアないしエの事情によれば,原告各標章の顧客吸引力は全く認められず,被告各標章を使用することは被告の売上げに寄与していないから,不正競争防止法5条3項の原告が受けるべき金額の率は限りなくゼロに近い数字である。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(原告各標章は周知の営業表示か) (1) 原告各標章が,納入業者など取引者において周知であったこと,津山市及び周辺地域において周知であったことは当事者間に争いがないが,被告は,隠岐の島において原告各標章が周知であったことを争っている。 (2) しかしながら,証拠(甲4ないし甲29,枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,@P1が原告及び訴外ソフィアらを「全秦グループ」とする VI システムを導入した平成3年7月以降,平成24年1月頃まで,日本海新聞,山陰新聞,津山朝日新聞,産経新聞(中国・四国版)及び山陰中央新報等において,「全秦グループ」として,「Z」をデザイン化して制作された原告標章1,「人・夢・ネットワーク」(原告標章3)のスローガン及び原告標章7のグループのロゴタイプを掲げると共に,原告標章1と同じ形をした色違いの原告及び訴外ソフィアらのコーポレートマーク,各社のコーポレートスローガン及び同じロゴタイプを使用した各社の社名を列挙する広告が掲載されたこと,A同様の記載が「全秦グループ」の会社案内のパンフレット等にも使用されたこと,B「全秦グループ」及び各社の VIが使用され,「全秦グループ」がアミューズメント,ソフトウェア等の産業に関わる企業グループであることをメッセージとして視聴者に訴え,また画面上に原告標章1と7を組み合わせた標章を大きく映し出すという企業イメージのテレビCMが,岡山県,鳥取県,島根県において長年放映されるなどしてきたこと,以上の事実が認められ,また上記各県には,「ラスベガス」,「ローマ」など店舗名は異なるものの,原告各標章を表示しているパチンコ店等が複数存在しているのであるから,被告が隠岐の島においてパチンコ店を開業した平成23年12月までには,認定のとおりの宣伝広告活動がされた岡山県,鳥取県及び島根県においては,原告各標章は,上記「全秦グループ」の営業表示として周知となり,そのグループの構成員である原告の営業表示としても周知となっていたものと認められる。 (3) そして,隠岐の島が離島地域であるとしても,テレビ,新聞等の上記宣伝広告活動は隠岐の島にも及んでいたはずであるし,隠岐の島の住民らも本土との交流はあるはずだから,隠岐の島においてだけ原告各標章が周知でないということは考え難い上,証拠(甲33)によれば,隠岐の島において営業する原告店舗においては,「ラスベガス」との店名のほか,原告標章7,あるいは原告標章1と同7を組み合わせた標章が店舗外側に目立つ態様で掲げられていたことも認められるから,隠岐の島において原告が経営する施設が原告店舗のみであり,当該施設から直接原告各標章の全部が認識されないとしても,隠岐の島においても,原告店舗の存在と相俟って,原告各標章は,原告ないしは「全秦グループ」の営業表示として周知であったと認められるというべきである。 2 争点2(被告標章1と原告標章1との類否) 原告は,原告標章1の上下に2本の直線を追加すると,「Z」との文字が浮かび上がり,被告標章1も,原告標章1を構成する2つの三角形状の図形にそれぞれ3本の白線を追加したものにすぎず,同様に「Z」の文字が浮かび上がるもので,両者は類似する旨主張する。 しかし,標章の上下に2本の直線を追加すると「Z」の文字が浮かび上がるといったことは,需要者が容易に認識し得るものではないことからすれば,この点が類否に影響を及ぼすものではない。 原告標章1は,一辺を曲面の凹面で切り取られた赤色の鈍角三角形2つが上下に凹面が来るように点対称に配置された旗のようなマークであり,被告標章1は,原告標章1に,対置する底面に平行な3本の白い線を各鈍角三角形部分に入れたものであるので,確かに,外周の形態及び色は類似しているといえるが,本体である鈍角三角形に縞模様が入っているか否かは需要者が容易に区別し得るものであり,相当異なる印象を与えるものであるから,原告標章1と被告標章1を全体として見比べると,相当異なるものであることは一見して明らかである。 したがって,被告標章1は,原告標章1とは類似しないというべきである。 3 争点3(被告は被告各標章及び本件ドメインを使用しているか)について (1) 被告各標章の使用について ア 被告標章1について 上記2のとおり,被告標章1は原告標章1に類似しないので,その使用事実の有無を判断するまでもない。 イ 被告標章2,6について 原告は,被告が,その事業活動に使用し,所有する本件建物の壁面に被告標章2,6(甲37,甲38)を掲げていることをもって,被告がこれを営業表示として使用している旨主張する。 確かに,被告は,本件建物に本店を置いて営業拠点としていたが,上記第2の1(3)イの経緯で,平成26年6月25日には本件建物から本店を移転させ,被告の商号も変更した上,本件建物入口にあった「株式会社全秦」の社名プレートを除去しているから,もはや本件建物を事業活動に使用していない。 しかも,被告は,本件建物から本店を移転すると同時に,商号を「ゼンシン」の音を含まない現商号に変更しているし,また全秦グループとの関係でも,被告代表者と代表者を共通する訴外ソフィアらが,新聞広告(甲45)に見られるように,全秦グループを称して原告に対抗しているものの,被告は,同グループに属することを表示することを避けていることが認められるから,被告の商号と直接の結び付きのない原告標章2,6の外壁看板をもって,被告の営業を表示しているとはいえない。なお,被告代表者であるP1が,本件建物に出入りしている事実は被告も否定しないところであるが,本件建物には,被告と代表取締役を同じくする訴外ソフィア,訴外全本及び訴外日新開発が業務を継続している以上,被告代表者であるP1が同所において業務を行うことは当然であって,これをもって,被告が事業活動を営んでいるということはできない。 したがって,被告は,平成24年6月頃から平成26年6月25日までの間,被告標章2,6を使用したということができるが,現在使用している事実は認められないというべきである。 ウ 被告標章3,4について 原告は,被告が所有する本件建物の壁面の標章(甲38)をもって,被告が被告標章3,4を使用している旨主張するが,指摘に係る標章は被告標章2であり,これから結合標章である被告標章2を構成する被告標章3及び同4が使用されているということはできない。 また,原告は,被告標章3,4が,本件ドメイン下の本件ウェブサイトにおいて使用されていると指摘する(甲41,甲56)ところ,本件ウェブサイトには同標章が使用されている事実は認められるが,後記(2)のとおり,本件ドメインによる本件ウェブサイトを開設しているのは,被告ではなく訴外ソフィアらであるから,これをもって被告が使用しているとはいえない。 そのほか,被告による被告標章3,4の使用の事実を認めるに足りる証拠はない。 エ 被告標章5について 原告は,平成26年1月1日付けの津山朝日新聞の新聞広告の記載(甲45)に被告標章5が使用されており,当該広告には「事業本部」として被告の本店所在地が記載されていることをもって,被告が被告標章5を使用している旨主張する。 指摘に係る新聞広告には,被告ソフィアらの代表取締役であるP1の新年の挨拶文の中で被告標章5が使用されており,「全秦グループ 代表取締役 P1」の記載の下に「事業本部」として,当時の被告の本店所在地である本件建物所在地が記載されていることが認められる。 しかし,同広告中に被告の社名は記載されていないことに加え,訴外ソフィア,訴外全本及び訴外日新開発の所在地として本件建物所在地が記載されていること(甲45)からすれば,本件ウェブサイトを見る者が「事業本部」の記載から被告を表示していると認識することは困難であり,これから被告が被告標章5を使用しているとはいえない。 また,原告は,本件ウェブサイトにおける記載(甲41)も指摘するが,後記(2)記載のとおり,本件ドメインによる本件ウェブサイトを開設しているのは,被告ではなく訴外ソフィアらであるから,これをもって被告が使用しているとはいえない。 そのほか,被告による被告標章5の使用の事実を認めるに足りる証拠はない。 オ 被告標章7ないし9について 被告が被告標章7ないし9を平成26年6月25日頃まで被告2店舗の営業上の活動に使用していたことは,当事者間で争いがないが,その後に被告が同標章を使用している事実を認めるに足りる証拠はない。なお,ゼンシン隠岐の開業が平成23年12月17日であることは当事者間に争いがないから,上記標章の使用期間は,結局,同日から平成26年6月25日ということになる。 カ 被告標章10について 被告が被告標章10を使用している事実を認めるに足りる証拠はない。 キ 被告標章11ないし13について 被告が被告標章11ないし13を平成23年12月17日から平成26年8月6日まで被告2店舗において使用していたことは当事者間に争いがないが,同月7日,8日の使用については,被告2店舗における上記各標章の取り外しの事実を認めるに足りるものもないことからすれば,継続していたものと認められる。 (2) 本件ドメインの営業表示としての使用 原告は,本件ウェブサイトの記載には,被告の営業であるパチンコ店が記載されているとして,本件ドメイン下に本件ウェブサイトを開設したのは被告である旨主張する。 しかしながら,被告が本件ウェブサイトを開設し,維持していることを認めるに足りる証拠はない。 かえって証拠(甲41)によれば,本件ウェブサイトには,トップページにおいて,被告標章3ないし5の記載があるものの,被告の社名については記載がなく,「ZENSHIN GROUP」の記載に並べて訴外ソフィアらの社名とコーポレートマークが記載され,訴外ソフィアらの企業名が記載されている頁には代表者としてP1が記載されていること,代表者挨拶文の中には「金属リサイクル,アミューズメントの二本柱」との記載があることが認められるから,このような本件ウェブサイトの記載内容からすれば,本件ウェブサイトを開設し,維持している者は「ZENSHINGROUP」を構成する訴外ソフィアらであると認めるのが相当である。 これらの代表者の挨拶文の「アミューズメント」との記載やトップページに記載されている「すべてをエンターテインメントに」というスローガン(甲41)をもって,パチンコ店等を経営する被告が開設したものであるとする原告主張は採用できない。 したがって,本件ドメインが営業表示として使用されているか否かにかかわらず,その使用を被告がしている事実は認められない。 4 被告標章の使用についてのまとめ 以上を整理すると,原告の周知営業表示と類似する営業表示を被告が使用した期間及びその使用態様は以下のとおりである。 (1) 平成24年6月頃から平成26年6月25日までの間,被告標章2,6を本件建物の外壁看板として使用 (2) 平成23年12月17日から平成26年6月25日までの間,被告標章7ないし9を営業上の活動に使用 (3) 平成23年12月17日から平成26年8月8日までの間,被告標章11ないし13を被告2店舗において使用 5 争点4(混同のおそれの有無) パチンコ店等の運営を業とする被告が,本件建物の外壁に被告標章2,6を掲げ,その営業活動に被告標章7ないし9を使用し,さらに被告2店舗に被告標章11ないし13を使用する行為は,これら被告標章が周知営業表示である原告各標章のいずれかと,類似ないし同一のものであり,とりわけ被告2店舗の近隣には,原告標章1,7を広告に使用し,原告標章1,2及び7を外壁や幟等に使用している原告の経営する店舗(甲22,甲26,甲29の1,甲32ないし甲34,甲54(枝番を含む。))が存するのであるから,被告による上記被告標章の使用により,被告の営業と原告の営業とで混同を生ずるおそれがあるといえる。 6 争点5(不正競争防止法2条1項13号の不正競争の成否) 上記3(2)のとおり,本件ウェブサイトを開設したのは被告ではなく,訴外ソフィアらと認められるから本件ドメインを被告が使用しているということはできない。 したがって,その余の点を判断するまでもなく,被告について不正競争防止法2条1項13号の不正競争を認める余地はない。 7 争点6(原告の損害の有無及びその額) (1) 被告の故意又は過失 上記検討してきたところによれば,被告は,上記4の限度で認定される不正競争により原告に生じた損害発生について過失があることは明らかである (2) 被告の売上額及び利益額 ア 被告の平成23年12月17日から平成26年8月8日までの間の売上高は,パチンコゼンシン隠岐において35億7075万6282円,スロットゼンシン隠岐において14億6800万0019円の合計50億3875万6301円であること,その期間の被告の売上高から景品の仕入高を控除した額は,パチンコゼンシン隠岐については4億8174万5739円,スロットゼンシン隠岐については1億8479万5609円の合計6億6654万1348円であることは当事者間に争いがない。 イ 被告は,被告の限界利益を算出するに当たり,被告のパチンコ及びパチスロ営業において変動費と認められるのは,景品(商品)の仕入高以外にあるように主張するが,パチンコ店等の営業内容からすると,不正競争防止法5条2項の利益を算定するに当たり,上記以外に控除すべき経費はないというべきである。 (3) 不正競争防止法5条2項の推定について ア 被告は,原告と被告との営業に現実の混同は生じていないから,不正競争防止法5条2項の推定は覆滅する旨主張するところ,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(前記第2の1判断の前提となる事実を含む。 。 ) (ア) 本件建物における被告標章2,6の使用について 本件建物は岡山県津山市内に所在し,隠岐の島所在の被告店舗との関係では,同店舗の後方支援業務しか行っておらず,本件建物外壁における被告標章2,6の使用は隠岐の島におけるパチンコやパチスロの需要者に認識されていない。 (イ) 被告標章7ないし9,11ないし13の使用態様について 被告の経営するパチンコ店のフラット屋根の出入口側の外壁上部に被告標章11が掲げられ,さらに出入口の上部,あるいはその庇部分には,被告標章12が掲げられている。そのほか被告は,被告2店舗の営業に際し,被告標章7ないし9及び13を使用している(甲35)。 (ウ) 原告が運営するパチンコ店等における原告各標章の使用について a 原告が運営するパチンコ店等は,岡山県,鳥取県,島根県の日本海側を中心に展開され,平成18年9月当時で,「ラスベガス」が16店,「ローマ」が3店,「Z-0ne」が2店,「フェニックス」,「スリーパー」及び「ステラ」が各1店の6系列24店であった(甲10)。 b 上記パチンコ店等の各店舗単位で出される新聞折込広告には,原告標章2と同7を組み合わせた標章が店名に付加されたものや,原告標章1及び7を組み合わせたものが使用され,また,訴外ソフィアらを含み全秦グループとして新聞広告をする際には,グループ各社を列記するほか,広告中に上記各店舗が全秦グループに属する店舗として列挙されていた(甲22,甲26,甲29の1,甲32ないし甲34,甲54の1ないし15)。 c 原告店舗は,昭和63年1月27日に「ラスベガス隠岐店」との店舗名で開業し,全秦グループが VI を開始した当初は,原告各標章を使用していなかったが,被告2店舗の開業数年前には,店舗出入口上部に原告標章1と同7を組み合わせ,あるいは原告標章7だけを掲げるなどして使用するようになった。また,その新聞折込広告(甲54の1)に原告標章を使用していることは,上記bのとおりである。 d 原告の運営するパチンコ店等の売上規模は平成25年において,全国ランキングでは232位,平成26年では400位のランキングに入っていない。 (エ) 遊戯者のパチンコ店等の選択基準 a 「月刊アミューズメントジャパン平成16年10月号」が遊戯客を対象にパチンコ・パチスロ店を選択する基準について行ったアンケートでは,提示した16項目のうち,@台ごとにデータ表示器がついている(90%) A出玉感 , (83%),B機種構成(79.6%),C無制限営業である(69%),D交換率(67.2%),E店が清潔である(66.4%),F駐車場の有無(63%),G店員の接客態度(60.4%),H店の客層(58.1%),Iイベントをやっている(57.5%)の順で重視している客が多かった。ただし,そのアンケートには,当該店舗がどのパチンコ店グループに属しているかという選択肢はなかった。(乙6) b エンタテインメントビジネス総合研究所が平成23年11月に実施したアンケートには,遊戯客が店舗を決めた理由として,上位から順に,@場所(83.4%),A好きな機種(46.9%),B交換率(39.9%),C出玉への期待感(34.2%),D貸玉料金(26.5%),E店内の清掃状態(25.1%),Fスタッフの対応(23.7%),G空調(空気)(21.5%)などが挙げられているが,当該パチンコ店がどのパチンコ店グループに属しているかは挙げられていなかった(乙7)。 c なお,上記aの「月刊アミューズメントジャパン平成16年10月号」に掲載された調査結果によれば,パチンコ店等の遊戯客の利用回数は,半数以上の者が週3日以上であり,週1日程度以上とすると,その割合は9割以上に及ぶことが認められる(乙6)。 (オ) 隠岐の島におけるパチンコ店等の競合状況 a 被告2店舗は,平成23年9月12日に廃業したパチンコ店であるパーラー隠岐を購入して平成23年12月17日に開業されたゼンシン隠岐に,さらに隣接地に開業されたゼンシンスロット隠岐の2店舗からなる(甲36,乙18の1ないし7)。 b パーラー隠岐が廃業する直前である平成23年7月1日から閉店する同年9月12日までの間の,パーラー隠岐,マンモス及び原告店舗3店間の,パチンコ台数に基づくシェア率は,平均して,パーラー隠岐が約42%,マンモスが約30%,原告店舗が約27%で,パーラー隠岐が原告より圧倒的に高いシェアを有していた。 また,同期間における店舗ごとの台の稼働率は平均して,パーラー隠岐が約35%,マンモスが約28パーセント,原告店舗が約35%であった(乙20の1ないし67,弁論の全趣旨)。 c 被告がパーラー隠岐の店舗を改修してゼンシン隠岐を開業した平成23年12月当時,別紙地図のとおり,パチンコ店等が川に沿って全部で6店舗(同じ場所にあるものも含む。)存在し,北から,平成26年4月までは現在スロットゾーンマンモスの位置にマンモス(パチンコ店等)があり,そこから約2km離れた場所に原告店舗,両者の間で原告店舗から約650mの場所に被告2店舗があり,原告店舗から川を下った場所に銀座ホールが営業していた。 さらに平成26年4月には,原告店舗と被告店舗の間に,原告店舗から100mも離れていない場所にマンモスのパチンコ店が従前の場所から移転して営業を開始した(乙3,弁論の全趣旨)。 d ゼンシン隠岐が,開業した当初,ゼンシン隠岐が原告の経営に係る店舗であると誤解する取引業者等が現に存した(甲50の1ないし3)。 イ 検討 被告が運営する被告2店舗は,原告標章2,7を外壁に掲げた原告店舗の近隣にあって競業関係にあり,しかも周知商品等表示である原告各標章5ないし7に類似する被告標章11,12を店舗の出入口に掲げていたというのであり,またその店舗名に「ゼンシン」という原告及び「全秦グループ」を他から識別する部分を含んでいたというのであるから,その開業当初は,需要者である遊戯客に原告店舗ないし原告との関係につき一定の誤認混同を生じさせたことは優に認められるといえる(上記ア(オ)dのとおり,取引業者であるが,現に誤認混同していた実例も認められている。)。 しかし,上記ア(エ)によれば,そもそもパチンコ店等の需要者である遊戯客による店舗選択は,当該パチンコ店等の経営主体がどこであるとか,どのパチンコ店グループの店舗であるかということを重視するのではなく,パチンコやパチスロの台の機能や機種,出玉感,交換率等の個別店舗の具体的営業内容そのものを主要な選択要素として決せられることが認められ,これからすると当該店舗の営業主体の誤認混同が当該店舗の選択,ひいてはその売上げあるいは損害に結び付く関係は薄弱であるということができる。 なお上記ア(エ)からは,需要者である遊戯客には,店員の接客態度や店舗が清潔に清掃されているか等のサービスについても選択時に考慮する要素としている者がいることも認められるから,それらの需要者であれば,店舗の営業主体を指し示す営業表示を手掛かりに当該店舗で受けられるサービスを期待して店舗選択をする可能性があることは否定できない。しかし,需要者であるパチンコ店等の遊戯客は,パチンコ店を極めて頻回に利用するのが一般的であるというのであるから(週1日の利用でも年間72日の利用になる。),仮に被告2店舗の需要者の利用が,被告標章の使用によりもたらされた被告店舗が原告と関係する店舗であるとの誤認混同から始まったとしても,当該店舗のサービスを実際に経験している以上,その後の継続的利用が原告と被告2店舗との関係についての誤認混同の影響によりもたらされているとは考え難いところである。 そして,そもそも原告店舗及び被告2店舗とも隠岐の島という需要者が限られた市場の中で他の4店舗とも競合している店舗であるが,被告2店舗のうち,ゼンシン隠岐がもともとあったパーラー隠岐という別店舗の営業実態を実質上承継している関係にあることからすると,被告2店舗の営業が原告店舗の顧客の誤認混同により生じた需要によって継続的に成り立っているとはおよそ考えられず,むしろその影響は極めて小さいと見る方が合理的である。 なお,本件において被告が被告標章を使用して営業を営んでいるのは隠岐の島の被告2店舗だけであり,不正競争防止法5条2項で推定されるべき原告の損害は,被告2店舗の営業の影響を受ける範囲,すなわち,その競合店となる原告店舗において生じた損害だけが問題となるというべきであるから,被告による被告各標章の使用態様のうち,隠岐の島の住民において認識されないような岡山県津山市所在の本件建物の外壁に掲げられた被告標章2,6による標章の使用は原告店舗の営業に損害を全くもたらさないことは明らかである。 したがって,このような事情を総合考慮すると,本件における被告の得た利益と原告の受けた損害の関係に不正競争防止法5条2項の推定規定の適用があるとしても,その推定は99%の限度で覆滅されるというべきである。 なお,原告は,原告店舗と被告2店舗の営業方法の類似性,さらには原告代表者としてのP1の競業避止義務違反さえ問題としているが,そこで問題とされる損害は,結局のところ,営業表示の誤認混同に由来する損害ではなく,単に原告店舗の近隣に競合店である被告2店舗が出店されたことから生じる原告店舗の売上減少の問題にすぎないから,不正競争防止法2条1項1号の不正競争により生じる損害の議論としては失当であり,上記認定を左右するものではない。 (4) 上記(1)アのとおり,被告が,被告2店舗で得た利益は合計6億6654万1348円であるから,原告において損害と推定される額は,666万5413円であると認められる。 (5) 不正競争防止法5条3項の適用による損害について 本件で問題とする原告各標章は周知商品等表示であり,これに類似する被告標章7ないし9及び11ないし13の使用の結果,現実的な誤認混同が生じた事実も認められるから,顧客吸引力が全くない商標権の場合と同様の意味での損害不発生をいう被告の主張は直ちには採用できない。 しかし,上記(2)で検討したとおり,パチンコ店等では,需要者は,主に営業表示以外の営業内容そのものの要素を選択肢として店舗を選択するというのであるから,営業表示により誤認混同が生じたとしても,そのことが店舗選択に与える影響は極めて小さく,しかも,その需要者は店舗を頻回に利用するというのであり,そのような需要者を顧客としてつなぎとめるためには,出玉であるとか交換率であるなどのパチンコそのものの営業内容によって他店と競争しなければならないといえるから,原告各標章の営業表示に顧客吸引力があるとしても,営業の場面で,これを発揮する余地は限りなく少ないというべきである。 したがって,本件において認定できる被告の不正競争に対して原告が受けるべき金銭の額は極めて少額にとどまるのが相当であり,これを認めるとしても,被告が不正競争により受けた利益に基づき認定される不正競争防止法5条2項にいう原告の損害の額を上回ることはないというべきである。 (6) 弁護士費用相当額の損害 上記認定してきたところによれば,被告の不正競争により原告の受けた損害の額は666万5413円であると認めるのが相当であるから,本件と因果関係のある弁護士費用相当額の損害は66万円を認めるのが相当である。 7 以上によれば,原告の被告に対する請求は,不正競争防止法3条1項に基づく差止請求及び同条2項に基づく廃棄請求については,口頭弁論終結時における被告による使用の事実が認められないからいずれも理由がなく,不法行為に基づく損害賠償請求については,732万5413円及びこれに対する不法行為の日の後である平成26年8月9日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 よって,原告の請求は,上記理由のある限度で認容することとし,その余の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森崎英二 |
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裁判官 | 田原美奈子 |
裁判官 | 林啓治郎 |