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事件 平成 14年 (ワ) 8337号 不正競争行為差止等請求事件
原告 カメヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士 櫻林正己
同 楠井嘉行
同 北薗太
同 川端康成
同 西澤博
被告 株式会社日本香堂
訴訟代理人弁護士 浅岡輝彦
同 三森仁
同 中久保満昭
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/06/01
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載1ないし4若しくは6ないし8の各表示をし、又はその各表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
2 被告は、別紙被告表示目録記載1ないし4若しくは6ないし8の各表示の付された商品パッケージ、ポップ、商品パンフレット、商品しおりを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成14年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をし、又はその各表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
2 被告は、別紙被告表示目録記載の各表示の付された商品パッケージ、ポップ、商品パンフレット、商品しおりを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成14年9月3日(不正競争の後である本件訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告に対し、日本経済新聞(全国版)及び読売新聞(全国版)並びに別紙謝罪広告対象業界紙目録記載の業界紙の各最終面に、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の要領で各1回掲載せよ。
事案の概要
1 被告は、その販売するろうそく、及びその広告であるポップ、商品パンフレット、商品しおりに、燃焼時に発生するすすの量が90%減少していること、火を消したときに生じる消しにおいが50%減少していることを趣旨とする別紙被告表示目録記載の各表示をしていた。
原告は、被告の販売するろうそくのすすの量が90%減少していること及び消しにおいが50%減少していることは虚偽の事実であるとした上で、被告の販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することは、商品の品質について誤認させるような表示をし若しくはその表示をした商品を譲渡等すること(不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争)又は競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し若しくは流布すること(同法2条1項14号所定の不正競争)に当たると主張し、同法2条1項13号又は14号、3条1項に基づく差止め(前記第1、1)、
同法3条2項に基づく廃棄(前記第1、2)、同法4条に基づく損害賠償の支払(前記第1、3)、同法7条に基づく謝罪広告の掲載(前記第1、4)を請求している。
2 基礎となる事実(証拠を摘示した部分以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は、ろうそくの製造、加工、仕入、販売等を目的とする株式会社であり、昭和2年に創業し、昭和21年に株式会社として設立された。(弁論の全趣旨) 被告は、薫物、線香、焼香等の製造、販売等を目的とする株式会社であり、昭和17年に設立され、昭和62年からろうそくの販売を行っている。(ろうそくの販売開始時期は弁論の全趣旨により認められる。) (2) 競争関係 原告及び被告の販売地域は日本全国に及んでおり、ろうそくの販売において、原告と被告は競争関係にある。
(3) 被告の商品 ア 被告は、従前から、「毎日ローソク」という商品名のろうそくを販売していた(以下、被告の「毎日ローソク」という商品名のろうそくを「被告従来商品」という。) イ 被告は、平成11年ころから、「プレミアム 毎日ローソク」という商品名のロウソクの販売を開始した。当初の「プレミアム 毎日ローソク」は、「消しにおいすっきり」と表示されていただけであった。その表示の趣旨は、火を消した時のにおいが従来の商品よりも減少しているということであった(以下、「消しにおいすっきり」と表示されていただけであった、当初の「プレミアム 毎日ローソク」を「被告旧商品」という。) ウ 被告は、平成13年10月ころから、商品パッケージに別紙被告表示目録記載1、2などの表示をした「プレミアム 毎日ローソク」の販売を開始した(以下、商品パッケージに別紙被告表示目録記載1、2などの表示をした「プレミアム 毎日ローソク」を「被告新商品」という。)。
エ 被告は、平成14年9月20日出荷分から、商品パッケージに別紙被告表示目録記載1、2の表示に代えて、「油煙極少」、「消しニオイ減少」と記載した「プレミアム 毎日ローソク」の販売を開始した(以下、商品パッケージに別紙被告表示目録記載1、2の表示に代えて、「油煙極少」、「消しニオイ減少」と記載した「プレミアム 毎日ローソク」を「被告新々商品」という。)。(弁論の全趣旨) オ 被告従来商品、被告旧商品、被告新商品、被告新々商品は、いずれも神棚、仏壇用のろうそくであり、主に量販店で販売される商品である。(当事者間に争いがない。) (4) 被告による表示等 ア 被告新商品の表示 (ア) 被告新商品の商品パッケージの正面の上部には別紙被告表示目録記載1、2の表示がされ、下部には同目録記載5の表示がされている。(甲第1号証の1、検甲第1号証の1ないし3) (イ) 被告新商品の商品パッケージの後面の上部には別紙被告表示目録記載6の表示がされている。ただし、その表示の後に「(当社比)」と記載されている。(甲第1号証の2、検甲第1号証の1ないし3) (ウ) 被告新商品の商品パッケージの上面には、別紙被告表示目録記載1の表示がされている。ただし、その表示の下に「(当社比)」と記載されている。
(甲第1号証の3、検甲第1号証の1ないし3) イ ポップの表示 被告新商品を宣伝するポップには、別紙被告表示目録記載2ないし4及び8の表示がされている。(甲第5号証、検甲第4号証) なお、上記ポップには、「消し臭い50%カット!」と記載されているが、これは、同目録記載2の表示と「臭い」の文字が平仮名か漢字かの点で異なるだけであるから、上記ポップには、同目録記載2の表示がされていると認めるのが相当である。
ウ 商品パンフレットの表示 被告新商品の商品パンフレット(4頁構成)の1頁目の上部には別紙被告表示目録記載1、2の表示がされ、下部には同目録記載5の表示がされている。
ただし、上部の同目録記載1、2の表示の下には「(当社比)」と記載されている。同商品パンフレットの2頁目には、同目録記載8の表示がされている。(甲第6号証) エ 商品しおりの表示 被告の商品しおりには、別紙被告表示目録記載2の表示がされている。
(甲第4号証の1) なお、上記商品しおりには、「油煙90%、消しにおい50%カット。」と記載されているが、その趣旨は、同目録記載1、2の表示の趣旨と同じであり、少なくとも「消しにおい50%カット」という部分において同目録記載2の表示と重なっているから、上記商品しおりには、少なくとも同目録記載2の表示がされていると認めるのが相当である。
オ 新聞広告の表示 業界紙である石鹸日用品新報、東京石鹸商報及び洗剤日用品粧報の被告新商品の広告には、別紙被告表示目録記載1、2の表示がされている(甲第7号証の1の1ないし3、第7号証の3及び4の各1、2)。
業界紙である生活産業新聞の被告新商品の広告には、同目録記載1、2及び7の表示がされている。(甲第7号証の2) なお、上記新聞広告には、「油煙を90%カット!」と記載されているが、これは、同目録記載1の表示と「を」の文字の有無が異なるだけであるから、
上記新聞広告には、同目録記載1の表示がされていると認めるのが相当である。
カ テレビコマーシャルの表示 被告新商品のテレビコマーシャルには、別紙被告表示目録記載1、2の表示がされている。(甲第8号証の1ないし7、検甲第5号証) キ 被告新商品の譲渡等 被告は、前記ア(ア)ないし(ウ)記載の表示をした被告新商品を譲渡し、
引き渡し、譲渡若しくは引渡しのため展示しており、また、前記イないしカ記載の表示をした広告であるポップ、商品パンフレット、商品しおり、新聞広告、テレビコマーシャルにより、宣伝広告を行っている。(甲第9号証(後記第4、6記載の採用することができない部分を除く。以下、同じ。)、弁論の全趣旨) (5) 別紙被告表示目録記載の表示の趣旨 ア 「油煙90%カット」の趣旨 「油煙」とは、一般に「すす」と呼ばれているもので、ろうそくが不完全燃焼の状態になったときに燃焼しきれなかった炭素粒子(カーボン)のことをいう。(甲第9号証、弁論の全趣旨) 別紙被告表示目録記載の表示における「油煙90%カット」とは、ろうそくの燃焼時に発生するすすの量が90%減少しているという趣旨である。
イ 「消しにおい50%カット」の趣旨 別紙被告表示目録記載の表示における「消しにおい50%カット」とは、ろうそくの火を消したときに生ずる消しにおいが50%減少しているという趣旨である。
3 争点 (1) 被告新商品の燃焼時に発生するすすの量が90%減少しているということは虚偽か。
(2) 別紙被告表示目録記載8の表示は虚偽か。
(3) 被告新商品の火を消したときに発生する消しにおいが50%減少しているということは虚偽か。
(4) 被告が、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をすること若しくはその各表示をした商品を譲渡等することは、商品又はその広告に商品の品質について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等すること(不正競争防止法2条1項13号)に当たるか。
(5) 被告が、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(不正競争防止法2条1項14号)に当たるか。
(6) 損害額 (7) 差止め、謝罪広告の必要性
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(すすの量が90%減少していることの虚偽性)について (1) 原告の主張 ア 乙5すす実験 被告は、被告新商品の燃焼時に発生するすすの量が90%減少していることを裏付けるために、乙第5号証記載の油煙量の測定実験(以下「乙5すす実験」という。)を行った。
乙5すす実験においては、ろうそくの芯を切りそろえているところ、ダルマなどの小型ろうそくでは、芯の長さが通常は平均10mmであるのに、2mmにカットするなど極端に短くしており、これは、ろうの燃焼量を減少させてすすの捕集量の測定を行い、意図する結果を出そうとしたものと推察される。
実際のろうそくの燃焼において、ろうそく先端のろうの量は脈動するから、被告が安定燃焼状態と主張する測定時の状態は、実際のろうそくの使用状態において短時間しか現出しない。ろうそくが実際に使用される状態では、十分な予燃焼時間の後、炎がそれ相当に大きくなっていることが通常であるが、その場合のすすの発生状況は、炎の小さなときとは全く異なる。
乙5すす実験においては、二酸化炭素濃度が実際のろうそくの使用状態と異なるが、実際の使用状態において生じないような二酸化炭素濃度の環境条件を設定しても、そこから実際の使用状態に合致した実験結果が出るはずはなく、そのような環境条件における実験に基づいて表示の正当化をすることはできない。
イ 甲27実験 原告は、被告が行った乙5すす実験を追試するために、財団法人三重県環境保全事業団(以下「環境保全事業団」という。)に依頼して甲第27号証記載の実験(以下「甲27実験」という。)を行ったところ、すすのカット率は、ダルマ、豆の小型ろうそくについては90%以上、1.5号ろうそくについては80%強、7.5号ろうそくについては40%強、10号ろうそくについては90%以上、30号ろうそくについては80%弱であり、3号ろうそくについては被告従来商品の方が性能的に優れていた。
なお、原告が7.5号、10号、30号の大型ろうそくについて頭部をカットしたのは、ろうそくの頭部先端と検体(アルミホイル)との距離を乙5すす実験と同一にするためである。
ウ 甲30実験 乙5すす実験においては、芯やろうそく頭部のカット、予燃焼時間の短縮、高濃度の二酸化炭素など、実際のろうそくの使用状態と異なる条件が設定されているので、原告は、これらを実際の使用状態と同じ条件にして乙5すす実験を追試するために、環境保全事業団に依頼して甲第30号証記載の実験(以下「甲30実験」という。)を行ったところ、カット率が90%に達するものは一つもなく、
被告新商品よりも被告従来商品の方がすすの発生量が少ないという結果が19例中10例であった。
なお、甲30実験における希釈率は乙5すす実験における希釈率と同じである。
エ 甲43実験 原告は、乙第27号証記載の実験(以下「乙27実験」という。)の結果を受けて、甲30実験と同様の実験を、より精度を高めるために各条件について20回行い、その結果は甲第43号証記載のとおりであった(以下、甲第43号証記載の実験を「甲43実験」という。)。ほとんどの事例において検体(アルミホイル)にはごく微量のすすが付着するのみであり、極端な事例を除外して比較すれば、すすのカット率はほとんど生ぜず、カット率が90%などという測定結果は出てこない。被告のテレビコマーシャルのような、ろうそくの上にかざした検体に見る見るうちにすすが付着していく状態は生じない。
オ 甲46実験 原告は、乙32実験の追試などをするために甲第46号証記載の実験(以下「甲46実験」という。)を行った。
甲46実験においては、60ないし70%前後のカット率が測定された。なお、3号ろうそくは、大幅にろうが流れてろうそくが崩れてしまい、追試できなかった。
乙32実験の実験方法は、最初からろうそくの頭部を切りそろえ、かつ芯も通常の長さである15ないし20mmよりも短く10mmにカットしている。
そこで、実際の使用条件により近づけるため、乙32実験の方法により10分間測定した後、更に同時間燃焼させて測定した結果、約47%のカット率が測定された。なお、被告従来商品については、5回しか実験しなかったので、いずれも平均値を採用してカット率を算出した。さらに、例えば7.5号では全部燃焼するまでに約3時間30分を要することなどから、ろうそくの燃焼時間として10分間は短いと考えられたので、50分間燃焼させたところ、約54%のカット率が測定された。このような測定結果によれば、被告が乙32実験において設定した条件の方が、通常の使用状態に近いと思われる条件よりもカット率が高く測定される傾向が見られた。
乙32実験の方法は、毎分40ないし85回という相当の回転数で回る回転台に燃焼するろうそくを載せるというものであり、実際のろうろくの使用状態とは異なる。また、乙32実験の方法は、頭部をカットし、通常15mmないし20mmある芯の長さを10mmに切りそろえるというというものであり、このような方法によると、被告新商品についてだけ、燃焼初期の炎の小さい時間が長くなり、すすの発生が抑制される。したがって、乙32実験の方法を採用した場合でも、燃焼時間を長くした場合の測定結果を重視すべきである。
乙32実験の方法は、10分間燃焼した際に排出される極めて微量のすすの重量測定によるものであり、0.001mgを基本的な測定単位とするものであって、測定誤差がどれだけ生じるかについて正確な予測ができないという懸念もある。
カ 虚偽性 いずれにせよ、90%というような当業者において驚くべきカット率は測定できない。不完全燃焼状態においては、比較的高いカット率が測定されることもあるが、カット率は、使用状態に応じて変化し、これに、被告新商品の発売前の実験による明確な裏付けがないこと、原告の提出した実験結果は、環境保全事業団という第三者も関与したものが含まれていることも合わせ考えれば、すすの発生量が90%減少した旨の表示は、事実の基礎を欠く虚偽のものであることが明らかである。
(2) 被告の主張 ア 乙5すす実験 (ア) 被告は、被告の研究室において、すすが、実験者の作業方法や炎の状態等の変動要因に極力影響されることなく短時間で安定的に発生捕集できるように条件を設定し、被告従来商品と被告新商品の7種類すべてのサイズのろうそくのそれぞれについて、すすの発生状況を比較する実験(乙5すす実験)を行った。その結果によれば、被告新商品のすすのカット率は90%以上である。
(イ) ろうそくの芯の長さは検体ごとにばらつきがあるので、統一された短い予燃焼時間で安定した燃焼状態を生じさせるために、被告は乙5すす実験に先立ちろうそくの芯の長さを切りそろえた。当初の芯の長さが通常の使用状態と異なっても、燃焼状態が安定するまでの予燃焼時間に相違が生ずるにすぎず、着火後、
燃焼状態が安定し、炎の大きさ及び芯の長さが安定する際の芯の長さは、着火時に芯を切りそろえると否とにかかわらず同じであるから、着火時に芯を切りそろえたことをもって、ろうそくの実際の使用状態と異なった条件が設定されているということはできない。被告がすすの捕集を行っているときの芯の長さはほぼ一定しており、これは着火時に芯を短くカットすると否とにかかわらない。
(ウ) 7.5号以上のろうそくは、ろうそくの頭部の山型になっている部分のろうの量が多いため、燃焼開始後、これが溶けて安定した燃焼状態が得られるまでには相応の時間を要するところ、頭部の大きさは検体ごとに異なるため、安定した燃焼状態が得られるまでの時間は、同一サイズのろうそくであっても検体ごとに異なる。このため、統一された一定の短い予燃焼時間で安定した燃焼状態が得られるように、7.5号以上の大型のろうそくについては、頭部の山型となっている部分をカットしている。原告は、自ら設定した実験条件においても頭部をカットしており、その必要性を認めているのであるから、ろうそくの頭部をカットしていることは非難されることではない。
(エ) 被告は、炎の大きさ及び形状が安定し、炎が伸びておらず丸い形状で一定しており、炎の先が割れておらず、芯の長さが安定した段階を、安定燃焼状態と考えている。被告が安定燃焼状態とする状態は、一般のろうそくの使用状態において最も頻繁に生ずる状態である。
被告は、各号数のろうそくの燃焼状態が安定するまでの時間を調べて予燃焼時間を設定している。原告が安定燃焼状態の例として提出する写真は、ろうそくの上部が外周まで全面的に溶けて十分な大きさのすり鉢状態が形成されていたとしても、炎が異常に長く伸びており、到底安定燃焼状態と評価することはできない。原告とは、ろうそくのどのような燃焼状態をもって安定燃焼状態と評価するかについて意見が相違するというほかはない。
(オ) 被告が二酸化炭素濃度を基準として酸素供給量を調整している理由は、一定時間、安定的に不完全燃焼状態を発生させるためである。すすは、酸素、
原料、エネルギーの燃焼の3要素のバランスの崩れにより不完全燃焼が生じた際に発生するから、一定の不完全燃焼の生ずる環境条件を設定し、同1条件下で比較実験を行うことは、ろうそくのすすの発生量を比較する実験方法として適切である。
不完全燃焼の生ずる条件を設定せずに十分な酸素供給を行い、完全燃焼に近い状況にあれば、すすはほとんど発生せず、完全燃焼に近い状態で実験を行えば、短時間で比較検証可能な量のすすを捕集することは不可能である。
(カ) 商品の品質を検証し、その性能の優劣を見極めるための実験として、実際の使用状態と異なる劣悪な条件を設定して実験を行う方法(虐待実験)は、広く行われており、被告は、被告従来商品と被告新商品の性能を短時間で効率的に検証するために適切な実験方法として虐待実験を採用したものである。実際のろうそくの使用状態での実験では、すすの捕集量が微量であるため、捕集器具及び計測器具の精度等の限界から比較検証が困難であるにすぎず、微量でも比較検証が可能であれば、実際の使用状態において実験を行っても被告従来商品と被告新商品の機能の差異は明白であると考えられる。このことは、すす及び消しにおいの発生を抑制するメカニズムから当然のことと考えられる。
微量の発生物質を量的に比較する場合に精度の高い相応の測定手段が存在しないために虐待実験を実施している例は枚挙に暇がなく、通常の使用状態と同一の環境条件で実験を行わない限り実験方法として不適切であるかのように述べる原告の主張は、商品の性能実験において広く採用されている実験方法を否定するに等しい。
イ 乙27実験 甲30実験を追試するため、甲30実験と同じ条件で乙27実験を行ったところ、19の測定のうち12の測定において、すすの発生量について90%を超えるかほぼ90%のカット率が測定され、カット率が90%であるという測定結果が得られなかった甲30実験とは大きく異なる結果が得られた。
ウ 甲30実験 甲30実験の設定条件の問題点は次のとおりである。(甲第30号証記載の測定結果(1)ないし(19)の各結果を導き出す前提となった各測定を、以下、「測定(1)」のように番号により特定する。) (ア) 甲30実験の測定(9)、(10)、(12)、(14)について これらの測定においては、ファンネル内の二酸化炭素濃度が低すぎ、
炎が完全燃焼に近い状態となり、すすの発生量が被告従来商品、被告新商品ともごく微量であるため、比較検証が困難であった。測定可能なすすの量を生じさせるためには、ある程度安定的に不完全燃焼状態を生ずる条件を人為的に設定した上で比較するほかないが、測定(9)、(10)、(12)、(14)が対象とした豆、
ダルマ、1.5号の小型ろうそくについて安定的に不完全燃焼状態を生ずるには、
ファンネル内の二酸化炭素濃度を約4.5%から5.5%程度に設定する必要がある。ところが、ファンネル内の二酸化炭素濃度は、測定(10)において平均1.63%、測定(14)において平均2.57%であり、被告の実験によれば、このような濃度で甲第30号証に記載された量のすすが捕集されることはあり得ない。
(イ) 甲30実験の測定(19)について 甲30実験の測定(19)においては、すすの捕集中に炎の先端がアルミホイルに触れ、アルミホイルにすすが付着した。このような状態では、炎のアルミホイルに触れた部分だけ急激に温度が低下して不完全燃焼を生じ、アルミホイルにすすが付着するが、一般消費者がろうそくの炎をアルミホイルに触れさせて使用するわけではないから、このような実験では、通常の使用状態において発生する不完全燃焼状態におけるすすの発生量を比較するための実験として不適切である。
(ウ) 甲30実験の測定(1)、(4)について 乙27実験において甲30実験の測定(1)、(4)を追試したところ、カット率が90%であるという測定結果は得られなかったが、いずれも50%前後のカット率が測定されており、被告新商品の機能的優位性は明らかである。カット率が低くなっている原因としては、検体数が少ないことによる実験上の誤差、
検体によるばらつきその他いくつかの要因が考えられるほか、甲30実験により捕集されたすすの量に対する希釈率が不適切であったことも想定される。
被告は、微量のすすの発生量を数値化して比較検証する方法として、
捕集したすすを溶媒で希釈し、すすを含む溶液が光をどの程度遮蔽するかを検証し、その結果得られた遮蔽率を比較検証することですすの発生量を比較する方法を考案し、その方法に基づいて被告従来商品と被告新商品のすす発生量についての比較検証を行った。この方法による場合、すすが多量であれば遮蔽率が高く、逆に少量であれば遮蔽率が低くなるが、すすが一定量を超えると、すすの量がいくら増加しても遮蔽率は100%となって、すすの量の差異が遮蔽率の差異となって現れない不都合が生じる。逆にすすを希釈しすぎると、溶媒中に存在する極微量のすすの量の差異が遮蔽率の算定に当たって大きな誤差を招くという不都合を生ずる。そこで、被告は、このような不都合を避けるため、すすがより多く捕集される被告従来商品の遮蔽率が100%をぎりぎり切る最低限の希釈率を各号ごとに検証の上決定し、同一号数間では同一の希釈率を適用して遮蔽率のデータを集め、その平均値の比較からカット率を算定したものである。したがって、捕集量が微量であれば、それぞれの捕集量に応じた希釈率を適用しなければ適切な実験結果は得られないのであって、捕集量の異なる原告の実験に、被告が開示した希釈率をそのまま適用しても適切な実験結果は得られない。甲30実験におけるすすの捕集量からすると、希釈のし過ぎであることが強くうかがわれる。
(エ) 甲30実験の追試を行った際にファンネル内の二酸化炭素濃度を測定した結果は乙第29号証記載のとおりであるが、これによれば、原告の設定した条件下での実験方法によっても、捕集器具の影響で、二酸化炭素濃度は大気中と大きく異なっている。
エ 乙32実験 通常の使用状態に近い状態、すなわちろうそくの炎に風が当たる状態で発生するすすを回収し、カット率を検証するため、乙第32号証記載の実験(以下「乙32実験」という。)を行ったところ、いずれも90%を超えるカット率が確認された。
オ 甲43実験 原告は、甲43実験において、ろうそくの実際の使用状態に近い条件設定である甲30実験と同じ条件下で20回にわたって実験を行った結果、ほとんどの事例において、検体(アルミホイル)にごく微量のすすが付着するのみであった旨主張する。しかし、そうであるとすると、甲30実験、甲43実験のような方法により量的な比較検証を正確に行うことは極めて困難であるといわざるを得ず、このことは、甲30実験について設定された条件が被告従来商品と被告新商品を比較するための実験条件として不適切であることを端的に物語る。被告が虐待実験を採用した理由の一つはこの点に存する。
カ 虚偽性 被告新商品は、燃焼時に発生するすすの量が90%減少しており、その旨の表示は虚偽ではない。
2 争点(2)(別紙被告表示目録記載8の表示の虚偽性)について (1) 原告の主張 ア 甲10実験、甲11実験 被告のテレビコマーシャルでは、炎が安定するようにろうそくの回りにホヤ(風防)を置いて、炎から1ないし3cm離して検体をかざしたところ、被告従来商品は見る見るうちにすすが付いていくのに、被告新商品は全くすすが付かない状態であることが示されている。原告は、甲第10号証記載の実験(以下「甲10実験」という。)、甲第11号証記載の実験(以下「甲11実験」という。)において、ろうそくの炎に検体(甲第10号証ではタイル、第11号証では金網にセラミックを円形に付けたもの)をかざしたところ、検体を炎から1ないし3cm離した状態では、被告従来商品、被告新商品ともすすの付着が確認されなかったが、
検体を炎の中に入れたところ、被告従来商品、被告新商品ともすすが付着した。
イ 甲35実験 被告は、別紙被告表示目録記載8の表示の実験を、インターネット上で公開した方法(被告の平成15年1月24日付け準備書面3別紙3記載の方法)により行っていると主張する。そこで、原告は、インターネット上で公開された方法による実験を追試するために、甲第35号証記載の実験(以下「甲35実験」という。)を行ったところ、すすの付着は全く目視することができなかった。
ウ 甲47実験 原告は、被告が平成16年1月21日付け準備書面10別紙1で開示したテレビコマーシャル撮影時の実験方法に基づいて追試を行うために甲第47号証記載の実験(以下「甲47実験」という。)を行ったところ、被告新商品だけではなく、被告従来商品についても、すすの付着は目視できなかった。被告が、テレビコマーシャルを始めとして、業界紙、パンフレット、店頭のポップで大々的に報道した比較実験結果、すなわちろうそくに検体をかざしても被告新商品はすすの付着が目視できないのに、被告従来商品は見る見るうちにすすが付着する様子は、虚偽のものと思われる。
エ 虚偽性 したがって、別紙被告表示目録記載8の表示は虚偽である。
(2) 被告の主張 ア 甲10実験、甲11実験 甲10実験のようにタイルをろうそくの芯近くまで近づけ(甲第10号証「Bの条件」)、又は甲11実験のように金網にセラミックを円形につけたものを炎の中に入れれば(甲第11号証「テスト1」)、炎の中に挿入した部分のみ温度が急激に減少し、不完全燃焼状態が生じてすすが付着することは当然である。一般消費者が実際にろうそくを使用する際、炎の中にタイルやセラミックを入れて使用するわけではないから、甲10実験、甲11の実験方法は、ろうそくからのすすの出方について被告従来商品と被告新商品の性能を比較するための実験方法として不適切なことは、同実験において設定された他の環境条件を検討するまでもなく明らかである。
また、甲10実験においてタイルをろうそくの炎の先から約1cm離し30秒間あてた場合(甲第10号証「@の条件」)、及び甲11実験において金網にセラミックを円形につけたものを炎の上約1cm又は約3cmにセットし30秒以上待った場合(甲第11号証「テスト2」、「テスト3」)、いずれも、目視ですすの付着は認められなかったとされている。しかし、仮にそのような結果が得られたとしても、それは、原告の設定した環境条件下で、30秒間捕集しても目視で確認できないほど微量のすすしか発生していないこと、すなわち完全燃焼に近い燃焼状態であることを明らかにしているにとどまり、微量ではあるが必ず発生しているすすを定量的に比較したわけではないから、原告の上記実験方法では、そもそも被告新商品と被告従来商品の性能を比較したことには全くならない。
さらに、すすは、様々な要因でろうそくに不完全燃焼状態が生じた時に発生するものであることに鑑みれば、完全燃焼状態に近い状態で短時間燃焼実験を行って捕集したすすを目視で比較しても無意味なことは明白である。
したがって、原告が行った甲10実験及び甲11実験は、その細かな設定条件を問題にするまでもなく、実験方法自体が、被告新商品と被告従来商品の機能の比較を行う上で全く不適切な実験方法であることが明らかである。
イ 被告の実験方法 被告は、別紙被告表示目録記載8の表示の実験を、インターネット上で公開した方法(被告の平成15年1月24日付け準備書面3別紙3記載の方法)により行っている。
また、被告は、テレビコマーシャルにおいて行っている実験を、被告の平成16年1月21日付け準備書面10別紙1で開示した方法により行っている。
被告のテレビコマーシャルにおいて行われている実験は、検体を炎の先から1ないし3cm離す方法などではないから、原告の主張は、その前提において大きな誤りがある。
ウ 虚偽性 したがって、別紙被告表示目録記載8の表示は虚偽ではない。
3 争点(3)(消しにおいの50%減少の虚偽性)について (1) 原告の主張 ア 消しにおいの意義 ろうそくの火を消した際には、パラフィン類の気化したもののにおい、
芯の燃えかすで生じるにおい、パラフィン類に添加された脂肪酸その他の物質のにおいがし、一般消費者がこれらをかぎ分けるなどということはあり得ないから、
「消しにおい」とは、パラフィン類の臭気に限らず、これらのすべてのにおいをいう。
イ 甲18実験 原告が環境保全事業団に依頼して嗅覚測定法によって行った実験(以下「甲18実験」という。)によれば、臭気濃度、臭気指数のいずれも、被告従来商品、被告旧商品、被告新商品の順に高くなっており、被告新商品は、被告従来商品と比べても消しにおいが低いとはいえない。
においは人間の感覚であるから、嗅覚測定法による官能試験が正確な測定方法である。
ウ 乙5消しにおい実験 乙第5号証記載の消しにおい成分量の測定実験(以下「乙5消しにおい実験」という。)は、パラフィン類の気化したものだけがろうそくの消しにおいであるという実験の前提が誤りであること、においの成分は極めて微量な微粒子であるからフィルター(ろ紙)によって補集できず、重量測定だけでにおいの原因となる物質の量を測定することはできないこと、フィルター(ろ紙)は水分を含み重量が一定でないにもかかわらずその乾燥手順が採られていないこと、ウェーバー・フェヒナーの法則によれば、官能的ににおいが半減するためにはにおいの原因物質が9割以上減少しなければならず、においの強さがにおいの原因となる物質の重量に正比例することはないことなどの事情から、その結果は信頼性がない。
乙5消しにおい実験に使用された白煙発生装置という被告独自の装置は、ろうそくの炎を遮って燃焼中のろうそくのパラフィン成分を集めているにすぎないから、ろうそくの炎を消したときの消しにおいの原因となる物質の量を測定しているものではない。
エ 甲33実験 原告は、乙5消しにおい実験を追試するとともに、被告が同実験で使用した白煙発生装置によるのではなく、炎の吹き消しにより発生したパラフィン成分の量を測定するために、環境保全事業団に依頼して甲第33号証記載の実験(以下「甲33実験」という。)を行った。それによると、消しにおいのカット率は、白煙発生装置による場合、ダルマにつき29%、3号ろうそくにつき13%であり、
それ以外の被告新商品ではおおむね40ないし59%であり、吹き消しによる場合、発生するパラフィン成分の量について、被告新商品の方が被告従来商品より減少しているという結果を得ることはできなかった。
オ 甲34実験 乙5消しにおい実験においてフィルターを通過した気体についてもパラフィン臭は感じられ、消しにおいはフィルターによって100%捕集されているわけではない。原告が環境保全事業団に依頼して行った甲第34号証記載の実験(以下「甲34実験」という。)によれば、白煙発生装置から生じた気体をフィルターなしで捕集したものと、フィルターを通過した上で捕集したものは、臭気濃度及び臭気指数は異なったが、臭気強度はいずれも4で、においは強かった。これはウェーバー・フェヒナーの法則が当てはまっている。
カ 乙28実験 においの原因成分について、官能試験によらないでパラフィンというごく限られた成分の重量比だけで議論する手法は不相当である。
ピペットで炎を吹き消した場合でも、捕集方法を適宜工夫すれば、甲第33号証に記載されたようににおいの成分を捕集することは可能である。
実際のろうそくの使用状態と全く異なる方法によってパラフィン成分を採取している被告の実験を正当化することはできない。
乙28実験は、予燃焼をファンネル内で行っているため、高温や酸素不足から、ろうだれや炎が割れるなどの現象が生じたものと思われる。甲33実験では、ろうだれや炎が割れるという現象は生じていない。
キ 虚偽性 したがって、消しにおいが50%減少した旨の表示は、虚偽である。
(2) 被告の主張 ア 消しにおいの意義 ろうそくの火を消した際、芯から白煙が立ち昇るが、この白煙は、ろうそくの成分であるパラフィン類が芯に吸い込まれ、芯から気化したが燃焼せず空気中に放出されることにより生ずるものであり、パラフィン類独特の臭気を発する。
被告は、このパラフィン類の臭気を「消しにおい」と呼んでいる。
原告も、そのホームページ(乙第23号証の1、2)において、「キャンドルの炎を消すと、白い煙りが出て臭いがします。これは、火によって気化して燃えたパラフィンの臭いです。」と記述しており、消しにおいについて一般消費者からの改善要望がしばしば見られることから、被告のみならず原告においても、消しにおいがパラフィン類の臭気であることは共通の理解となっている。被告は、この消しにおいの正体であるパラフィン類の発生量が50%抑制されることを指して「消しにおい50%カット」と表示したものであって、原告の主張するように、消しにおいをもって、消火時に発生するすべてのにおいの総和と解すべき必然性はなく、原告の主張は、自らのホームページの記述とも矛盾するものである。
イ 乙5消しにおい実験 (ア) 被告は、被告の研究室において、パラフィン類が燃焼せず気化した際に生ずる消しにおいが、実験者の作業方法や炎の状態等の変動要因に極力影響されることなく短時間で安定的に発生捕集できるように条件を設定し、被告従来商品と被告新商品の7種類すべてのサイズのろうそくそれぞれについて、消しにおいの発生状況を比較する実験(乙5消しにおい実験)を行った。その結果によれば、被告新商品の消しにおいのカット率は50%以上である。
(イ) 乙第8号証によれば、ろうそくの火を消したときに漂う白煙について、フィルター(ろ紙)で捕集したものと、瓶に回収したものの双方をガスクロマトグラフィー分析にかけて波形を比較検討すると、その波形はほぼ一致しているから、フィルター(ろ紙)による捕集の際にフィルター(ろ紙)を透過している物質はほとんどなく、仮に透過する物質が若干量存在したとしても、それは消しにおいのカット率の算定に影響を与えるような数字として現れない。
また、フィルター(ろ紙)の含水率の相違が消しにおいの捕集量に影響するかについてみると、フィルター(ろ紙)の中で最も高温となる(したがって最も多く水分が蒸発する)部位の温度は約70℃であるところ、フィルター(ろ紙)を70℃で、捕集時間(最大60秒)を大幅に上回る5分間加熱した際のデータをとっても、蒸発量は最大で0.0009gにすぎない。そして、乙5消しにおい実験において、水分が蒸発したためフィルター(ろ紙)全体の重量が減少している分につき、被告新商品においてのみ、実際はもっと多く消しにおいが発生していると仮定し、乙5消しにおい実験における被告新商品についての測定重量の各平均値に0.0009gを加えたとしても、これがカット率の算定に及ぼす影響は極めて軽微であり、消しにおいが50%カットされるという結論を左右するものではない。実際は、水分は、被告新商品に使用したフィルター(ろ紙)からのみ蒸発するのではなく、被告従来商品に使用したフィルター(ろ紙)からも蒸発するのであるから、上記の仮定は、実際にはあり得ない不利な条件設定を行った場合であっても、消しにおいを50%カットしたという被告新商品の優位性の結論に影響がないことを意味するものである。
ウェーバー・フェヒナーの法則は、一定の範囲の刺激強度にしか当てはまらないものである上、そもそも人間の官能を数値化することには困難を伴うのであって、原告の主張するような官能試験が商品の機能性を数値化して検証する方法として妥当か否かは判断の分かれるところであり、官能試験が消しにおいの測定方法として唯一絶対の基準であるかのごとき前提に立った主張は誤りである。
(ウ) 被告は、においの成分量とにおいの強さが正比例するという前提に立っているわけではなく、消しにおいの原因物質であるパラフィン類の発生量を独自の技術によって半減させたことを指して、消しにおいを50%カットした旨表示したものであるから、表示内容と商品の有する機能との間には何らの齟齬はない。
原告がその実験方法として妥当性を主張する臭気判定士による官能試験では、あらゆるにおいの総和の強弱を一定の尺度で判定し得るにすぎず、特定のにおいのみを取り出してその官能の度合いの減少を数値化することは不可能である。
(エ) ろうそくを消したときに生ずる白煙は、熱により溶けて芯に吸われて気化し、本来であれば炎の中に入って分解され燃焼していくはずのパラフィン類が、炎がなくなることで、分解される前の気化した状態のまま大気中に放出され拡散していくことにより生じる。被告は、このような白煙発生のメカニズムに着目し、特殊な添加剤を加えることなどのノウハウを開発してパラフィン類の気化自体を抑制し、消しにおい成分の発生を減少させている。このような白煙発生のメカニズムに鑑みると、白煙発生装置によって検証された効果は、吹き消し方を全く同じにすることが可能であるという前提に立てば、吹き消す方法によった場合もその効果が同様に現れるはずである。しかし、吹き消す方法によった場合には、吹き消し方を一定にすることが困難であり、吹き消し方の相違によって実験結果にばらつきが出ることから、そのような不都合を排除し、同1条件下で白煙を機械的に捕集するための装置として白煙発生装置を考案したものであり、同装置を使用した捕集方法は、消しにおい成分の発生量の比較検証方法として適切なものである。
ウ 乙28実験 甲33実験を追試するため、甲33実験と同じ条件で乙第28号証記載の実験(以下「乙28実験」という。)を行ったところ、甲第33号証に記載されたような実験結果は全く得られなかった。
エ 甲33実験 甲33実験の設定条件の問題点は次のとおりであり、このような方法によっては正確な対比実験を行うことはできない。
(ア) 甲33実験の実験方法は、予燃焼時間が長いこと及び複数のろうそくを同時に燃焼させていることから、フィルターの温度が高温となり、フィルターからの水分の蒸発量が増える反面、消しにおいの原因となる成分の捕集量が極めて微量であるため、フィルターからの水分の蒸発量が実験結果に大きな影響を及ぼしている。乙第15号証記載の実験により明らかなとおり、フィルターの温度を、5分間、100℃に保った場合、水分蒸発量は1.6mgとなるが、甲第33号証記載の消しにおい成分の測定値はこれを下回る場合もあるほど微量であり、極めて微量の水分蒸発量も捕集量との関係では無視することができない。この点の手当をしなければ、甲33実験の条件は妥当性を欠く。
(イ) 乙第28号証記載のとおり、ピペットで吹き消す方法によった場合、捕集できる消しにおい成分の量は、極めて微量であり、甲第33号証の「消しにおい測定結果」(9)ないし(11)記載の捕集量は、消しにおい成分のみの捕集量としてはあり得ない数値である。
(ウ) 甲33実験の実験方法では、豆のサイズのろうそくは随時ろうだれを起こしている状態となり、3号及び30号は着火後捕集完了までの間に3回以上ろうだれを起こすなど、ろうだれを頻繁に発生した。ろうだれを生じた状態は、燃焼状態としては通常と異なりイレギュラーな状態であるから、このような燃焼状態が頻繁に出現する実験方法は妥当性を欠く。ろうだれが頻繁に生ずる原因としては、一度に複数のろうそくを至近距離で同時に燃焼させることによって通常以上の熱が加わりろう溶けを促進してしまうこと、ファンネル内が高温となりその余熱によってろうが溶けやすくなることなどの原因が考えられる。
(エ) 甲33実験の実験方法では、一度に複数のろうそくを至近距離で同時に燃焼させることにより、酸素の供給量が減少して炎が大きくなり、炎の先端が割れて予燃焼中にすすが発生し、このすすが、目視でも分かる程度に大量にフィルターに付着しており、これが実験結果に影響を及ぼしている。
(オ) 甲33実験のような吹き消しの方法によった場合、炎を消した際に、消しにおい成分の白煙がファンネルの外に逃げてしまう。
(カ) ファンネル外で甲33実験の予燃焼を再現した結果を撮影した写真が乙第34号証の各写真であり、これによれば、ファンネル外で予燃焼を行っても、ろうそくの炎の割れ、ろうだれなどが多数発生している。したがって、甲33実験の実験方法は、捕集されたすすの重量を測定する以前の捕集の段階に大きな問題があり、予燃焼をファンネルの内で行うかどうかにかかわりなく、甲33実験の実験データは信頼に足りるものではない。
オ 甲18実験 消しにおいとは、ろうそくを消したときに生ずるパラフィン類独特のにおいをいうところ、甲18実験は、においの質を一切問わず、あらゆるにおいの強さの総計を人間の嗅覚で判定する嗅覚測定法による官能試験にすぎないのであって、消しにおい、すなわち消火時に気化したパラフィン類が燃焼せずに生ずる白煙そのものの量を定量的に比較するものではないから、このような実験方法は、被告従来商品と被告新商品の消しにおいに関する性能を比較する実験方法として不適切である。このことは、甲第18号証の「用語解説」に「このように嗅覚測定法は、
臭気全体の強さを評価するものであり、一方機器分析法を採用している悪臭防止法においては、悪臭中の特定の原因物質(指定22物質)ごとに、臭気の強さと気中濃度との関係をもとにして濃度規制を行うものであり、この点で両者に相違がある。」と記載されていることからも明らかである。
カ 虚偽性 したがって、被告新商品は、火を消したときに発生する消しにおいが50%減少しており、その旨の表示は虚偽ではない。
4 争点(4)(品質誤認表示)について (1) 原告の主張 別紙被告表示目録記載の各表示は、いずれも虚偽であるから、被告が、その販売するろうそく及びその広告に同目録記載の各表示をすること若しくはその各表示をした商品を譲渡等することは、商品又はその広告に商品の品質について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等すること(不正競争防止法2条1項13号)に当たる。
(2) 被告の主張 別紙被告表示目録記載の各表示は、いずれも虚偽ではないから、被告が、
その販売するろうそく及びその広告に同目録記載の各表示をすること若しくはその各表示をした商品を譲渡等することは、商品又はその広告に商品の品質について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等すること(不正競争防止法2条1項13号)に当たらない。
5 争点(5)(原告の営業上の信用を害する虚偽事実)について (1) 原告の主張 別紙被告表示目録記載の表示をした被告の広告には、「当社比」という記載がないものがある上、「当社比」という記載も、他の表示部分の大きさに比べて申し訳程度に小さく付記されているにすぎず、被告新商品の商品パッケージにおいては、商品を立てた状態で陳列したときに最も目に付く正面部分には記載されていない。業界の事情に詳しくない多くの一般消費者には、現在の各社の商品の性能がかなり拮抗していると受け止められていると推測され、また、ろうそくの市場において原告の商品(カメヤマローソク)が5割以上の占有率を有している。このことから、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという趣旨の表示は、一般的な従来のろうそく製品と比較した場合、被告新商品には、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという優位性がある反面、原告を含む同業他社のろうそく製品が、被告新商品の10倍の油煙が発生し、2倍以上の消しにおいが発生するものと受け止められる。被告は、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという趣旨の表示をすることにより、このような商品の優位性が被告新商品に存在するように誇示するとともに、事実に反して、原告を含めた同業他社の従来のろうそく製品が著しくその性能において劣っていることを示しているので、これは、原告を含めた同業他社に対する営業誹謗行為である。なお、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという趣旨の表示により被告新商品と比較される原告の商品は、圧倒的な市場占有率を有する原告の主力商品である「カメヤマローソク」のうち、被告新商品の号数に対応する号数の商品である。
したがって、被告が、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(不正競争防止法2条1項14号)に当たる。
(2) 被告の主張 被告新商品について行われてきた、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという趣旨の表示は、すす及び消しにおいの減少率を相対的に示した表示であるから、比較の対象となる商品の存在を前提とすることは、その記載自体から客観的に明白である。被告新商品「プレミアム 毎日ローソク」は、被告従来商品である「毎日ローソク」に、商品の優位性を示す「プレミアム」の語を付した新商品であるから、その商品名自体からして、被告新商品に付された、すすの量が90%減少している、消しにおいが50%減少しているという趣旨の表示が、被告従来商品と比較した場合の相対的表示であることは、容易に推測される。その上、被告新商品には、商品パッケージの裏面の別紙被告表示目録記載6の表示の後に「(当社比)」という記載が目立つ配色で明確にされており、商品パッケージの上面の同目録記載1の表示の後にも「(当社比)」という記載がされている。さらに、販売促進用のポップ、商品パンフレット及び店頭に設置するスウィングにおいて、同目録記載1、2の表示の真下に「当社比」との記載が明確にされ、ポップ及び商品パンフレットの同目録記載8の表示にも「当社商品比較」と明確に記載されており、テレビコマーシャルにおいて、視聴者に対し被告新商品の機能的優位性を視覚的に最も印象づける燃焼実験のシーンにおいて、終始「当社比」の表示が画面左上に明確に表示されている。これらの広告態様に鑑みれば、別紙被告表示目録記載の各表示が、被告従来商品と比較した場合の相対的表示であることは客観的に明らかである。
したがって、被告が、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載の各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(不正競争防止法2条1項14号)に当たらない。
6 争点(6)(損害額)について (1) 原告の主張 原告は、被告の不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争又は同法2条1項14号所定の不正競争によって信用を毀損されたものであり、その損害は金銭に換算すると3000万円を下回ることはない。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
7 争点(7)(差止め、謝罪広告の必要性)について (1) 原告の主張 ア 別紙被告表示目録記載の表示の付された被告新商品は未だに販売されており、同目録記載の表示の付されたポップ等もいまだに使用されているから、差止め、廃棄を求める必要性がある。
イ 被告の不正競争は、商品しおり、ポップ、商品パンフレットや業界紙の広告を使用して行われただけでなく、平成14年1月以降、全国ネットの視聴率の高い番組の出演者を起用したテレビコマーシャルを再三放映するという強力な手法により行われた。また、被告は、本訴提起後も、上記広告を行う前の実験結果さえまともに開示できない状態であり、被告の不正競争は、単に何らかの過誤や誤解によってされたものではなく、明白な不正競争の意図をもってされたものと思われる。
したがって、原告の営業上の信用を回復するためには、被告に対し、損害賠償とともに、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を命ずる必要がある。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
被告は、前記第2、2(3)エ記載のとおり、平成14年9月20日出荷分から、商品パッケージに別紙被告表示目録記載1、2の表示に代えて、「油煙極小」、「消しニオイ減少」と記載した被告新々商品の販売を開始したから、差止め、廃棄を求める必要性はない。
謝罪広告を命ずる必要性もない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(すすの量が90%減少していることの虚偽性)について (1) 弁論の全趣旨によれば、別紙被告表示目録記載のすすの量が90%減少している旨の表示は、それを見た一般消費者によって、ろうそくの通常の使用状態においてすすの量が90%減少している趣旨と認識されるものと認められる。そこで、ろうそくの通常の使用状態において、被告新商品のすすの量が、少なくとも被告従来商品のすすの量に比べて90%減少していることが認められるか否かについて検討する。
(2) 乙5すす実験 ア 被告は、乙5すす実験に基づき、被告新商品のすすのカット率が90%以上である旨主張するから、乙5すす実験について検討する。
イ 被告は、ろうそくの安定燃焼状態について、炎の大きさ及び形状が安定し、炎が伸びておらず丸い形状で一定しており、炎の先が割れておらず、芯の長さが安定した段階であるとし、そのような状態は一般のろうそくの使用状態において最も頻繁に生ずる状態であると主張する。
しかし、甲第32号証及び弁論の全趣旨によれば、一般のろうそくの使用状態において最も長時間持続し、燃焼が安定している状態は、ろうそくの上部が外周まで全面的に溶けてすり鉢状の窪みが形成された状態であり、その状態においては、溶けてすり鉢状の窪みにたまったろうの量が増減するのに伴い、炎の長さも若干伸縮するが、炎の長さは、縮んだときでも相当程度の長さになっていることが認められる。このような事実に鑑みると、被告が安定燃焼状態として主張するところの、炎が伸びておらず丸い形状で一定している状態は、いまだ、上記のような状態に達しておらず、ろうそくの燃焼が十分に行われておらず、一般のろうそくの使用状態において最も頻繁に生ずる状態であるとはいえず、ろうそくの安定燃焼状態ということはできないものというべきである。
ウ 被告は、乙5すす実験において、被告新商品の芯の長さを、それぞれ、
ダルマ2mm、豆4mm、1.5号8mm、3号10mm、7.5号15mm、10号15mm、30号10mmに切っている。乙第13号証の1ないし7によれば、被告新商品の本来の芯の長さは、ダルマ9mm、豆12mm、1.5号11mm、3号12mm、7.5号20mm、10号15mm、30号20mmであることが認められるから、乙5すす実験は、芯を本来の長さよりも短く切って行われたものと認められる。そして、被告は、統一された短い燃焼時間で安定した燃焼状態を生じさせるために、芯の長さを切りそろえた旨主張する。さらに、被告は、当初の芯の長さが通常の使用状態と異なっても、燃焼状態が安定するまでの予燃焼時間に相違が生ずるにすぎず、着火後、燃焼状態が安定し、炎の大きさ及び芯の長さが安定する際の芯の長さは、着火時に芯を切りそろえると否とにかかわらず同じであるから、着火時に芯を切りそろえたことをもって、ろうそくの実際の使用状態と異なった条件が設定されているということはできない旨主張し、また、被告がすすの捕集を行っているときの芯の長さはほぼ一定しており、それは、着火時に芯を短く切りそろえると否とにかかわらない旨主張する。
しかし、前記イ記載のとおり、被告の主張する安定燃焼状態は、ろうそくの燃焼が十分に行われておらず、ろうそくの一般の使用状態における安定燃焼状態と異なるから、被告の主張する安定燃焼状態を生じさせるために芯を短く切りそろえたとすれば、それは、ろうそくの実際の使用状態と異なった条件が設定されているというべきである。
また、被告は、前記のとおり、当初の芯の長さが通常の使用状態と異なる場合に、燃焼状態が安定するまでの予燃焼時間に相違が生ずるとしているが、乙第13号証の1ないし7によれば、芯を短く切りそろえたものも、通常の芯の長さのものも、同じ予燃焼時間を経た時点における炎の長さはそれほど変わらないともみることができる。仮にそうであるとすると、いかなる基準をもって、芯を切りそろえたものが安定燃焼状態に達し、通常の芯の長さのものが未だ安定状態に達していないということを判断するのか明らかでないともいえる。
弁論の全趣旨によれば、芯を短く切った場合は、芯が長い場合に比べて、燃焼するろうの量が少なくなるものと推認され、たとえ予燃焼時間をおいた後であるとしても、芯を短く切ったものは、そうでないものに比べ、ろうの燃焼量が少なく、すすの発生量も少ないものと推認される。
エ 被告は、一定時間、安定的に不完全燃焼状態を発生させるため、二酸化炭素濃度を基準として酸素供給量を調整しているとし、完全燃焼に近い状況にあれば、すすはほとんど発生せず、短時間で比較検証可能な量のすすを捕集することは不可能である旨主張する。そして、弁論の全趣旨によれば、乙5すす実験においてろうそくが燃焼する際の二酸化炭素の濃度は、大気中の二酸化炭素の濃度に比べて相当程度に高濃度であることが認められる。
しかし、二酸化炭素濃度の高い不完全燃焼状態におけるすすの発生の状況が、完全燃焼に近いろうそくの通常の燃焼状態におけるすすの発生の状況と同じであるとは、直ちには認められない。不完全燃焼の状態においてすすの発生量が少なければ、完全燃焼に近い通常の使用状態においてもすすの発生量が少ないであろうという程度のことは推測されるとしても、不完全燃焼の状態において測定されたすすのカット率の数字が、完全燃焼に近い通常の使用状態にそのまま当てはまると認めるに足りる証拠はない。したがって、仮に二酸化炭素濃度の高い不完全燃焼状態においてすすの量が90%カットされたとしても、通常の使用状態においてすすの量が90%カットされることが認められるとはいえない。
オ 被告は、商品の品質を検証し、その性能の優劣を見極めるための実験として、実際の使用状態と異なる劣悪な条件を設定して実験を行う方法(虐待実験)は、広く行われており、被告従来商品と被告新商品の性能を短時間で効率的に検証するために適切な実験方法として虐待実験を採用したものである旨主張する。
弁論の全趣旨によれば、一般に、商品の品質を検証し、その性能の優劣を見極めるための実験として、実際の使用状態と異なる劣悪な条件を設定して実験を行う方法(虐待実験)が行われる場合のあることは認められる。しかし、本件において、二酸化炭素濃度の高い状態でのすすのカット率が、通常の使用状態でのカット率と等しいと認めるに足りる証拠はないから、実際の使用状態と異なる劣悪な条件を設定して行った実験の結果によるカット率をもって、通常の使用状態におけるカット率と認めることはできない。
被告は、すす及び消しにおいの発生を抑制するメカニズムから、被告従来商品と被告新商品の機能の差異は明白である旨主張するが、本件において、すすの発生を抑制するメカニズムは必ずしも明らかにされているとは認められないし、
また、そのメカニズムから、二酸化炭素濃度の高い状態でのすすのカット率と通常の使用状態でのすすのカット率が同じであると認めるに足りる証拠もない。
(3)ア 甲第27号証によれば、原告が乙5すす実験を追試するために環境保全事業団に依頼して行った甲27実験において、すすのカット率は、ダルマ、豆の小型ろうそくについては90%以上、1.5号ろうそくについては80%強、7.5号ろうそくについては40%強、10号ろうそくについては90%以上、30号ろうそくについては80%弱であり、3号ろうそくについては被告従来商品の方が性能的に優れているという結果が得られたことが認められる。
甲第30号証によれば、原告が乙5すす実験を追試するために環境保全事業団に依頼して行った甲30実験は、芯の長さ、予燃焼時間、酸素の供給量などの条件が、乙5すす実験よりも実際の使用状態に近い状態とされていたが、カット率が90%に達するものは一つもなく、被告新商品よりも被告従来商品の方がすすの発生量が少ないという結果が19例中10例であったことが認められる。
また、甲第43号証によれば、甲30実験と同様の実験を各条件について20回行った甲43実験において、カット率が90%という結果は得られなかったことが認められる。
イ 被告は、甲30実験を追試するために甲30実験と同じ条件で乙27実験を行ったところ、19の測定のうち12の測定において、90%を超えるかほぼ90%のカット率が測定されたとする。そして、甲30実験、甲43実験につき、
ファンネル内の二酸化炭素濃度が低すぎ、比較検証が困難であり、測定可能なすすを生じさせるためには、ある程度安定的に不完全燃焼状態を生ずる条件を人為的に設定した上で比較するほかないとし、さらに、甲30実験の追試を行った際のファンネル内の二酸化炭素濃度は、大気中の二酸化炭素濃度と大きく異なると主張する。
しかし、前記(2)エ記載のとおり、二酸化炭素濃度の高い不完全燃焼状態でのすすのカット率と通常の使用状態でのすすのカット率が同じであるとは認められないから、安定的に不完全燃焼状態を生ずる条件における測定を前提とする被告の主張は、採用することができない。
(4) 被告は、ろうそくの炎に風が当たる状態で発生するすすを回収する乙32実験を行ったところ、90%を超えるカット率が測定されたとする。
しかし、甲第46号証によれば、原告が乙32実験を追試するために行った甲46実験において、カット率は、60ないし70%にとどまったことが認められる。
乙32実験の実験方法は、ろうそくの頭部を切りそろえていること、通常は15ないし20mmの長さの芯を10mmに切っていること、毎分40ないし85回回転する回転台に燃焼するろうそくを載せることなどの点で、実際の使用状態と異なる条件の下に行われており、乙32実験の結果をもって、通常の使用状態においてカット率が90%を超えると認めることはできない。
(5) 甲第9号証によれば、ろうそくの燃焼時に発生するすすの量を減少させることは、ろうそくの製造業者の課題であったことが認められ、甲第6号証及び弁論の全趣旨によれば、被告もすすの量を減少させるために製品の改良に努めていたことが推認される。そして、甲27実験、甲30実験、甲46実験は、被告の行った実験を追試することに主眼があり、必ずしもろうそくの通常の使用状態におけるすすの減少量を正確に測定したものとはいえない面があるが、原告又は原告の依頼を受けた環境保全事業団によるこれらの実験の結果中にも、被告新商品のすすの発生量が被告従来商品のすすの発生量に比べて少ないことを示すデータが存在することが認められるから、カット率の数字を別とすれば、被告新商品のすすの発生量は、
被告従来商品のすすの発生量に比べて減少していることが推認される。しかし、前記(1)ないし(4)の認定によれば、被告新商品を被告従来商品と比べた場合のカット率が90%であることは認められない。
したがって、別紙被告表示目録記載の表示のうち、すすの量が90%減少している旨の表示は、虚偽であると認められる。
2 争点(2)(別紙被告表示目録記載8の表示の虚偽性)について (1) 別紙被告表示目録記載8の表示は、測定の条件として「3号ローソクを使用:測定時間30秒」と記載されているのみであり、その他の条件設定については記載されていないから、同表示は、それを見た一般消費者によって、3号ろうそくを通常の状態で30秒間燃焼させて得られた結果を示したものと認識されると認められる。そこで、ろうそくの通常の使用状態において、同表示のような結果が得られるかについて検討する。
(2) 甲第10、第11号証によれば、甲10実験、甲11実験において、ろうそくの炎に検体(甲第10号証ではタイル、第11号証では金網にセラミックを円形に付けたもの)をかざし、検体を炎から1ないし3cm離した状態では、被告従来商品、被告新商品ともすすの付着が確認されなかったが、検体を炎の中に入れたところ、被告従来商品、被告新商品ともすすが付着したことが認められる。
被告は、別紙被告表示目録記載8の表示の実験を、インターネット上で公開した方法(被告の平成15年1月24日付け準備書面3別紙3記載の方法)により行っていると主張するところ、甲第35号証によれば、原告がその方法を追試するために行った甲35実験において、すすの付着は全く目視することができなかったことが認められる。
被告は、テレビコマーシャル撮影時の実験方法を、平成16年1月21日付け準備書面10別紙1で開示しているところ、甲第47号証によれば、原告がその方法による実験を追試するために行った甲47実験において、被告新商品だけではなく、被告従来商品についても、すすの付着は目視できなかったことが認められる。
(3) 被告は、一般消費者が実際にろうそくを使用する際、炎の中にタイルやセラミックを入れて使用するわけではないから、甲10実験、甲11実験の実験方法は、ろうそくからのすすの出方について被告従来商品と被告新商品の性能を比較するための実験方法として不適切である旨主張する。また、甲10実験、甲11実験において、目視ですすの付着が確認できなかったとしても、微量ではあるが必ず発生しているすすを定量的に比較したわけではないから、被告新商品と被告従来商品の性能を比較したことにはならない旨主張する。
しかし、甲第10、第11号証によれば、甲10実験、甲11実験は、別紙被告表示目録記載8の表示の結果が実際に得られるか否かを確かめるために行われ、検体を炎から1ないし3cm離した場合には検体にすすが付着せず、検体を炎に入れたときに初めて検体にすすが付いたことを明らかにしたものである。それらの実験は、被告新商品と被告従来商品の性能を単に比較するために行われたものではなく、すすを定量的に比較したものでもないから、被告の主張は、失当というべきである。
さらに、被告は、甲10実験、甲11実験について、すすは、様々な要因でろうそくに不完全燃焼状態が生じた時に発生するものであることに鑑みれば、完全燃焼状態に近い状態で短時間燃焼実験を行って捕集したすすを目視で比較しても無意味である旨主張する。しかし、前記(1)記載のとおり、別紙被告表示目録8記載の表示は、それを見た一般消費者によって、ろうそくを通常の使用状態で燃焼させて得られた結果を示したものと認識されると認められるから、通常の使用状態において、同表示の結果が得られることが認められなければ、同表示は虚偽といわざるを得ず、被告の上記主張も採用することができない。
(4) 被告は、別紙被告表示目録記載8の表示の実験の方法、及びテレビコマーシャル撮影時の実験方法を開示するが、それらの方法に従った場合に同目録記載8の表示の結果やテレビコマーシャルに撮影された結果が得られることを具体的に裏付ける証拠はない。
したがって、同目録記載8の表示は、虚偽であるものと認められる。
3 争点(3)(消しにおいの50%減少の虚偽性)について (1) 弁論の全趣旨によれば、ろうそくを消した際には、パラフィン類の気化したもののにおい、芯の燃えかすで生じるにおい、パラフィン類に添加された脂肪酸その他の物質のにおいがするものと推認される。しかし、乙第23号証の1、2(原告のホームページ)には、「ローソクを消すと白い煙をだして臭いのは、火によって蒸発して燃えていたロウが火を消されたために、蒸発したロウだけが白い煙となってでるからで、臭いのもこのロウの匂いです。」、「キャンドルの炎を消すと、白い煙りが出て臭いがします。これは、火によって気化して燃えたパラフィンの臭いです。」と記載されており、この記載と弁論の全趣旨によれば、消しにおいの大半は、気化したパラフィンのにおいであると認められる。したがって、消しにおいの減少を検討するに当たって、消しにおいの大半を占める気化したパラフィンのにおいの減少を検討することは、意味があるものと認められる。
(2) 別紙被告表示目録記載の消しにおいが50%減少している旨の表示は、単に消しにおいが50%減少している旨記載されているだけで、消しにおいの意味についての記載や条件の限定は何らされていないから、それを見た一般消費者によって、ろうそくの通常の使用状態において、人間の感じる消しにおいの強さが50%減少している趣旨と認識されるものと認められる。そこで、ろうそくの通常の使用状態において、被告新商品について、人間の感じる消しにおいの強さが、少なくとも被告従来商品に比べて50%減少していることが認められるか否かについて検討する。
(3) 甲18実験 ア 甲第18号証によれば、原告が環境保全事業団に依頼して嗅覚測定法によって行った甲18実験において、臭気濃度、臭気指数のいずれも、被告従来商品、被告旧商品、被告新商品の順に高くなっており、被告新商品は、被告従来商品と比べても消しにおいが低いとはいえないという結果が出たことが認められる。
イ(ア) 被告は、甲18実験は、においの質を一切問わず、あらゆるにおいの強さの総計を人間の嗅覚で判定する嗅覚測定法による官能試験にすぎないのであって、消しにおい、すなわち消火時に気化したパラフィン類が燃焼せずに生ずる白煙そのものの量を定量的に比較するものではないから、このような実験方法は、被告従来商品と被告新商品の消しにおいに関する性能を比較する実験方法として不適切であると主張し、甲第18号証の「用語解説」の「このように嗅覚測定法は、臭気全体の強さを評価するものであり、一方機器分析法を採用している悪臭防止法においては、悪臭中の特定の原因物質(指定22物質)ごとに、臭気の強さと気中濃度との関係をもとにして濃度規制を行うものであり、この点で両者に相違がある。」という記載をその主張の根拠として挙げる。
(イ) しかし、甲第23号証(群馬県衛生環境研究所環境科学部大気課作成のホームページ)には、次の趣旨が記載されている。
すなわち、悪臭防止法は昭和46年に制定され、においの測定については、分析機器を用いる機器測定法が定められたが、その後、においは人間の嗅覚で直接感じるものであるため、分析機器によるにおいの測定結果と人間の感覚とが一致しないケースが多々生じていた。これを受けて、平成7年に悪臭防止法は改正され、においの測定方法として、人間の嗅覚を用いる方法である嗅覚測定法が追加された。嗅覚測定法は、@低濃度であること、A多成分であること(一つのにおいでも多くの成分が含まれており、通常の人間は、そのにおいの成分一つ一つを嗅ぎ分ける力は弱いが、どんなに多くの成分が含まれていても、それらを逃すことなく全部まとめて感じることができる。一方、分析機器を用いると、においの成分を知ることができるが、全部まとめるとどれ程のにおいになるかは知ることができない。)、B相互作用を有することというにおいの三つの特徴をうまく反映した測定方法として、多くの自治体で導入され始めている。しかし、人間の嗅覚を用いるため、測定精度や結果の客観性などについて、分析機器を用いる機器測定法以上に細心の注意を払わなければならない。嗅覚測定法は、嗅覚検査に合格した嗅覚パネラー6名以上により、三点比較式臭い袋法により行う。元のにおいを何倍に薄めたかによりにおいを数値化したものが臭気濃度であり、例えば、元のにおいを10倍に薄めたとき、においを判別できなくなったら、臭気濃度は10であり、100倍に薄めたとき、においを判別できなくなったら、臭気濃度は100となり、臭気濃度が大きいほど、元のにおいが強いことになる。嗅覚測定法により求めた臭気濃度を、「『臭気指数』=10×log『臭気濃度』」の式により臭気指数に変換して表示する。人間の感覚強度(においの感じ方)は刺激量(においの量)の対数に比例するといわれるから、臭気濃度を臭気指数に変換すると、人間の感覚とよく一致する結果になる。これをウェーバー・フェヒナーの法則という。
(ウ) また、甲第18号証の「用語解説」には、臭気濃度と臭気指数の説明、嗅覚測定法の説明が記載され、嗅覚測定法の説明の後に、上記の被告指摘の記載がされ、更にその後に、次のように記載されている。
すなわち、「環境庁では、悪臭の機器分析の補完法として活用されている嗅覚測定法について、従来より地方自治体に対し報告書を送付する等によりその普及に努めてきたところであるが、さらに本判定試験の信頼性の向上を図り、もって悪臭防止行政の推進に資するものとするため、当該試験を実施する者(オペレーター)の知識及び技術の水準について、公益法人が行う審査・証明事業を民間技能審査事業として環境庁長官認定するための規程を、平成4年度環境庁告示第91号『嗅覚を用いる臭気の判定試験に関する知識及び技能の審査・証明事業の認定に関する規程』として整備した。その後、上記環境庁告示91号に代わって平成7年に環境庁告示第63号『臭気指数の算定の方法』が制定され、さらに、平成8年4月の悪臭防止法の改正施行に伴い、臭気判定試験の総括等の一連の測定業務に従事する者として『臭気判定士』制度が定められた。」 (エ) 上記(イ)の甲第23号証の記載によれば、嗅覚測定法は、特定のにおいだけではなく、においのすべての強さを明らかにする測定法であることが認められる。本件で問題となっているろうそくの消しにおいは、前記(1)認定のとおり、
様々なにおいを含み、そのうち大半が気化したパラフィンのにおいであることから、消しにおいの減少を検討するに当たって、気化したパラフィンのにおいの減少を検討することに意味があるとされているものであり、消しにおいの減少の検討は、パラフィンのにおいのみをその他のにおいから厳密に区別してその減少を検討することが目的ではない。したがって、嗅覚測定法がパラフィンのにおいのみを測定するものでないことをもって甲18実験を不適切であるとする被告の主張は、採用することができない。
また、被告が指摘する甲第18号証の記載は、嗅覚測定法と機器分析法の相違を指摘するものであるが、上記(イ)、(ウ)の甲第18号証、第23号証の記載によれば、悪臭防止法は、機器分析法だけでは人間の感覚と一致しない場合があることから嗅覚測定法を採用したことが認められ、嗅覚測定法の客観性、正確性を確保するために測定方法などが工夫されていることが認められ、甲18実験も、
平成7年環境庁告示第63号に基づいて実施されていることからすれば、甲18実験が嗅覚測定法を採用したことをもって不適切であるとする被告の主張も採用することができない。
前記(2)のとおり、別紙被告表示目録記載の消しにおいが50%減少している旨の表示は、人間の感じる消しにおいの強さが50%減少している趣旨と認識されるものと認められる。そうであるとすれば、同表示の消しにおいとは、臭気指数に近いものを意味すると認めるのが相当であり、同表示は、臭気指数が50%減少していることを意味すると認めるのが相当である。
(4) 乙5消しにおい実験 ア(ア) 乙5消しにおい実験は、フィルターによって採取された物質がパラフィンの気化したものであること、その量が50%以上減少することにより消しにおいも50%以上減少することを前提とする。
また、被告は、消しにおいの原因物質であるパラフィン類の発生量を独自の技術によって半減させたことを指して、消しにおいを50%カットした旨表示したものであると主張する。
(イ) しかし、甲第23号証及び弁論の全趣旨によれば、ウェーバー・フェヒナーの法則は、悪臭防止法施行規則により、悪臭防止法に規定された臭気指数の計算にも使われていることが認められ、相当程度の信頼性があるものと推認される。同法則によれば、においが半減するためには、においの原因物質が9割以上減少しなければならないはずであるから、たとえパラフィンの気化したものの量が50%減少したとしても、必ずしも消しにおいが50%減少するとは認められない。
被告は、ウェーバー・フェヒナーの法則は、一定の範囲の強度にしか当てはまらないものであると主張する。そして、被告が証拠として提出する乙第18号証(「生化学辞典(第2版)」1997年(平成9年)9月11日発行)には、「この関係をフェヒナーの法則あるいはウェーバー・フェヒナーの法則といい、精神物理学の基本法則として知られている.しかし,この法則は,ある範囲の刺激強度にしかあてはまらず,しかもすべての感覚の種類に適用できるわけでもない.むしろ、S.S.Stevens(1961)による関係式E=k(I-I0)n の方が広い適用範囲をもつ.ここで,Eは感覚量,Iは刺激の強さ,I0は閾刺激の強さ,kは比例定数,nは感覚の種類と刺激方法で決まる定数である.」と記載されている。しかし、仮に、消しにおいにウェーバー・フェヒナーの法則が当てはまらず、関係式E=k(I-I0)n によるとしても、消しにおいの原因となる成分の量が50%減少したことによって消しにおいも50%減少することが明らかであるとはいえない。
前記(3)イ(イ)、(ウ)記載のとおり、悪臭防止法においては、においが人間の感覚に訴えるものであることから、においの程度を明らかにするために、機器分析法の他に嗅覚測定法を採り入れ、測定の正確性を多角的に確保しようとしている。そして、前記(3)イ(エ)認定のとおり、別紙被告表示目録記載の消しにおいが50%減少している旨の表示は、臭気指数が50%減少していることを意味するから、単に原因物質の重量が50%減少したことをもって、消しにおいが50%減少したとすることはできないというべきである。
イ(ア) 乙5消しにおい実験は、においの成分をフィルターで採取し、その重量を計測することによって、においの成分の量を明らかにしようとするものである。
(イ) しかし、乙5消しにおい実験は、0.0001gを単位とし、150程度を最大として測定された数値であり、その測定数値が極めて小さいことからすると、誤差による影響もあり得るところであり、その結果の信頼性は必ずしも高いものとは認められない。
ウ(ア) 被告は、乙第8号証によれば、ろうそくの火を消したときに漂う白煙について、フィルター(ろ紙)で捕集したものと、瓶に回収したものの双方をガスクロマトグラフィー分析にかけて波形を比較検討すると、その波形はほぼ一致しているから、フィルター(ろ紙)による捕集の際にフィルター(ろ紙)を透過している物質はほとんどなく、仮に透過する物質が若干量存在したとしても、それは消しにおいのカット率の算定に影響を与えるような数字として現れないと主張する。
(イ) しかし、ガスクロマトグラフィーの波形が一致したことからは、消しにおい中の特定の成分だけがフィルターに捕集されることはなかったということが分かるとしても、ろうそくから消しにおいとして発生した物質のすべてがフィルターに捕集されることが直ちに裏付けられるとはいえない。
甲第34号証によれば、原告が環境保全事業団に依頼して行った甲34実験において、乙5消しにおい実験の白煙発生装置から生じた気体をフィルターなしで捕集したものとフィルターを通過した上で捕集したものは、臭気濃度及び臭気指数は異なるが、臭気強度はいずれも4であるという結果が得られたことが認められ、消しにおいの原因となる物質の一部はフィルターを通過していることが推認されるから、この点からも、被告の上記(ア)の主張は、採用することができない。
エ(ア) 乙5消しにおい実験は、消しにおいを発生させるために白煙発生装置を使用するものであり、被告は、白煙発生のメカニズムに鑑み、吹き消し方の相違によって実験結果にばらつきが出る不都合を排除し、同1条件下で白煙を機械的に捕集するための装置として白煙発生装置を考案したものである旨主張する。
(イ) しかし、乙5消しにおい実験の白煙発生装置は、燃焼中のろうそくの炎を遮って白煙を発生させる装置であるから、同装置による白煙の発生状況は、
炎を消した際の白煙の発生状況と同一であるとは認められない。乙第6号証は、被告の出願した特許(特願平11-282995)の公開特許公報(特開2001-107077)であるが、同公報によれば、同特許の特許請求の範囲は、「パラフィンワックス、ステアリン酸等のろうそく形成用成分に、テトラヒドロ メチルアビエテート アンド ジヒドロ メチルアビエテート(Tetrahydro Methylabietate and Dihydro Methylabietate)、イソプロピルミリステート(Isopropyl Myristate)、アルファ アミルシンナミック アルコール(α Amylcinnamic Alcohl)、イソ ボルニル シクロヘキサノール(Iso Bornyl Cyclohexanol)、トリエチル シトレート(Tri Ethyl Citrate)を添加混合してなることを特徴とするろうそく。」というものであり、発明の詳細な説明の欄には、これらの添加物により消しにおいが抑制される理由について、「上記添加物を添加混合することによって炎を消したときに生ずる異臭(消し匂い)の気散を抑制する作用機能は必ずしも明らかではないが、これらの添加物が高沸点であり、沸騰しないように抑えることにより気化しようとする蒸気圧を抑制し、成分の蒸発を抑制する効果があることによるものと考えられる。」(段落番号【0006】)と記載されている。この記載によると、消しにおいは、パラフィンが気化しようとする際の圧力(蒸気圧)と密接な関係があるものと推認されるところ、蒸気圧は、温度によって左右されることが推認され、温度は、ろうそくの炎の燃焼中と炎が消えた後とで異なることが明らかであるから、炎の燃焼中と炎が消えた後とで蒸気圧が異なり、消しにおいも異なることが推認される。この点からも、白煙発生装置による白煙の発生状況が、炎を消した際の白煙の発生状況と同じであるとは認められない。
オ したがって、乙5消しにおい実験の結果をそのまま採用することはできない。
(5) 甲33実験 ア 原告は、乙5消しにおい実験を追試するとともに、被告が同実験で使用した白煙発生装置によるのではなく、炎の吹き消しにより発生したパラフィン成分の量を測定するために、環境保全事業団に依頼して、甲33実験を行った。甲第33号証によれば、甲33実験において、乙5消しにおい実験と同様の白煙発生装置による場合は、消しにおいのカット率は、ダルマにつき29%、3号ろうそくにつき13%であり、それ以外の被告新商品ではおおむね40ないし59%であったこと、これに対し、吹き消しによる場合は、発生するパラフィン成分の量について、
被告新商品の方が被告従来商品より減少しているという結果を得ることができなかったことが認められる。
前記(4)エ(イ)記載のとおり、白煙発生装置による白煙の発生状況は、炎を消した際の白煙の発生状況と同じであるとは認められず、吹き消しによる場合の方が、実際に炎が消されたときの消しにおいに近いものと推認される。甲33実験において、上記のとおり、吹き消しによる場合は、発生するパラフィン成分の量について、被告新商品の方が被告従来商品より減少しているという結果を得ることはできなかったから、この点からしても、被告新商品は、被告従来商品に比べて消しにおいが減少しているとは認められない。
イ 被告は、甲33実験を追試するため、甲33実験と同じ条件で乙28実験を行ったところ、甲第33号証に記載されたような実験結果は全く得られなかったと主張し、甲33実験の問題点を主張するが、次のとおり、その主張は、いずれも採用することができない。
(ア) 被告は、甲33実験の問題点として、予燃焼時間が長いこと及び複数のろうそくを同時に燃焼させていることから、フィルターの温度が高温となり、
フィルターからの水分の蒸発量が増える反面、消しにおいの原因となる成分の捕集量が極めて微量であるため、フィルターからの水分の蒸発量が実験結果に大きな影響を及ぼしている旨主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、予燃焼はファンネルの外で行われたことが認められるし、仮に複数のろうそくを同時に燃焼させたことにより測定結果に影響を与えるほどにフィルターが水分を含んでいるのであれば、一本のろうそくを燃焼させた場合にもフィルターの水分が測定結果に影響を与えることが考えられるところであり、複数のろうそくを同時に燃焼させた場合の結果の正確性のみが疑われるわけではないはずである。
(イ) 被告は、ピペットで吹き消す方法によった場合、捕集できる消しにおい成分の量は、極めて微量であり、甲第33号証の「消しにおい測定結果」(9)ないし(11)記載の捕集量は、消しにおい成分のみの捕集量としてはあり得ない数値であると主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、吹き消す方法によった場合も、相当程度の白煙が芯から立ち上るのを目視できることが認められ、消しにおい成分が全く捕集されないということはあり得ないはずであり、甲第33号証には、吹き消しによる場合は、白煙発生装置による場合よりも捕集量が少ないものの、消しにおい成分が捕集されたことが記載されているから、甲第33号証の「消しにおい測定結果」(9)ないし(11)記載の捕集量が、消しにおい成分のみの捕集量としてあり得ない数値であると一概にいうことはできない。
(ウ) 被告は、甲33実験の方法ではろうだれを頻繁に発生し、そのような燃焼状態が頻繁に出現する実験方法は妥当性を欠く旨、甲33実験の方法では酸素の供給量が減少して炎が大きくなり、炎の先端が割れて予燃焼中にすすが発生し、それが実験結果に影響を及ぼしている旨、ファンネル外で予燃焼を行っても、
ろうそくの炎の割れ、ろうだれなどが多数発生する(乙第34号証)旨主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、甲33実験の際には、ろうだれや炎を割れをほとんど生じなかったことが認められ、ろうだれ等を起こすかどうかは、
実験を行う際の室温などの条件に左右されることも考えられるから、乙28実験、
乙第34号証に撮影された実験の際にろうだれが発生したとしても、それによって、甲33実験の方法が不適切であるとはいえない。
(エ) 被告は、甲33実験のような吹き消しの方法によった場合、炎を消した際に、消しにおい成分の白煙がファンネルの外に逃げてしまうと主張する。
しかし、甲33実験では、吸引装置を作動させると同時に炎を吹き消していることから、吹き消しの場合のみ、消しにおい成分の白煙がファンネルの外に逃げてしまうとは考えにくく、被告の主張は採用することができない。
(6) したがって、被告新商品の消しにおいの臭気指数が被告従来商品に比べて50%減少しているとは認められず、被告新商品について、人間の感じる消しにおいの強さが50%減少しているとは認められないから、別紙被告表示目録記載の消しにおいが50%減少している旨の表示は、虚偽であると認められる。
4 争点(4)(品質誤認表示)について (1)ア(ア) 前記1(5)、3(6)のとおり、別紙被告表示目録記載のすすの量が90%減少している旨の表示及び消しにおいが50%減少している旨の表示は、いずれも虚偽であると認められるところ、別紙被告表示目録記載1ないし4、6、7の表示は、上記の趣旨の表示であるから、これらの表示は虚偽であると認められる。
(イ) ところで、別紙被告表示目録記載5の表示は、油煙が少ないこと、
消しにおいがすっきり、さわやかであること、仏壇、神棚をよごさないことをその趣旨とし、カット率の数値等については言及していない。
前記1(5)認定のとおり、被告新商品は、カット率の数字を別にすれば、被告従来商品に比べてすすが減少していることが推認され、それによって、被告従来商品に比べて仏壇、神棚をよごすことが少ないと推認されるから、同目録記載5の表示のうち、油煙が少ないこと、仏壇、神棚をよごさないことは、虚偽であるとは認められない。
また、前記3(5)ア記載のとおり、被告新商品は、被告従来商品に比べて消しにおいが減少しているとは認められないが、甲第9号証、乙第6、第7号証及び弁論の全趣旨によれば、被告新商品は、被告の出願に係る特許(特願平11-282995)の実施品であることが推認され、同特許は、ろうそくの消しにおいの気散の抑制の他に、添加物が熱によって気化して空気中に拡散したとき、空気中に漂う種々の臭い分子を捕捉し、部屋全体の空気を爽やかにすることを作用効果とするから、被告新商品は、消しにおいが減少しているとはいえないとしても、部屋全体の空気を爽やかにする作用効果があるものと推認され、そのことに照らすと、
消しにおいがすっきり、さわやかであるという趣旨の表示は、虚偽であるとは認められない。
したがって、別紙被告表示目録記載5の表示は、虚偽であるとは認められない。
イ 別紙被告表示目録記載1ないし4、6、7の表示は、被告新商品について、通常の使用状態ですすの量が90%減少しておらず、消しにおいが50%減少していないにもかかわらず、そのようにすすの量及び消しにおいが減少しているように誤認させるから、商品の品質について誤認させるような表示であると認められる。
(2) また、前記2(4)のとおり、別紙被告表示目録記載8の表示は、虚偽であるものと認められ、通常の使用状態で3号ろうそくに30秒間検体をかざしても、
被告新商品及び被告従来商品とも検体に目視できるほどにすすが付かないにもかかわらず、被告従来商品にのみすすが付き被告新商品にのみすすが付かないように誤認させるから、商品の品質について誤認させるような表示であると認められる。
(3) したがって、被告が、その販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載1ないし4、6ないし8の表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示することは、商品又はその広告に商品の品質について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等すること(不正競争防止法2条1項13号)に当たるものと認められる。
5 争点(5)(原告の営業上の信用を害する虚偽事実)について (1) 前記4(1)ア(ア)のとおり、別紙被告表示目録記載1ないし4、6、7の表示はいずれも虚偽であり、前記2(4)のとおり、同目録記載8の表示も虚偽である。そこで、被告がその販売するろうそく及びその広告にこれらの各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することが、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知若しくは流布すること(不正競争防止法2条1項14号)に当たるか検討する。
(2)ア 不正競争防止法2条1項14号は「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」と規定するところ、ここにいう営業上の信用を害される「他人」については、虚偽の事実の告知又は流布を受けた者が、だれであるかを認識し得る程度に特定されていることが必要であるというべきである。そして、「他人」が特定されているというためには、必ずしも氏名その他の名称が明示されていなくてもよく、特定されているか否かは、競争関係の状況、虚偽の事実の内容、告知又は流布を受ける者の意識などの諸事情を考慮して決せられるというべきである。
イ そこで、別紙被告表示目録記載の表示によって、営業上の信用を害される者として原告が特定されるかを検討する。
(ア) 甲第7号証の2、第9号証、第39号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、神棚、仏壇用のろうそくの市場において最大の占有率を有するが、その占有率は約50ないし60%であること、被告の占有率は約5%であること、ろうそくの製造業者は全国に約60存在すること、原被告の他に長年の歴史のあるろうそくの製造業者が少なからず存在することが認められる。このような認定事実によれば、確かに、神棚、仏壇用のろうそくとして原告の商品が広く流通していることは認められるが、一般消費者によって、被告以外のろうそくの製造業者として直ちに原告が想起されるとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
別紙被告表示目録記載1ないし4、6及び7の表示は、被告新商品のすすの量が90%減少していること、消しにおいが50%減少していることをその趣旨としており、その表現自体は、被告新商品の機能が優れていることを述べており、他の製造業者の商品が劣っていることを直接に述べるものではない。
甲第9号証、乙第6、第7号証及び弁論の全趣旨によれば、すすと消しにおいの減少は、ろうそく製造業者の重大な課題であり、そのために研究が重ねられていることが認められ、甲第6号証によれば、被告新商品の商品パンフレットに掲載された一般消費者に対するアンケート結果において、「ローソクをご使用される際、気になることがありますか?」という問いに対する回答は、「火が危険」が44%、「油煙が気になる」が9%、「消した後の臭い」が11%、「その他」が36%であったことが認められ、一般消費者の中に、すすや消しにおいに関心をもつ者があったことが認められる。しかし、甲第9号証及び弁論の全趣旨によれば、従来のろうそくにおいても、すすや消しにおいの減少に努力が払われていたこと、すすや消しにおいがあったとしても、実際の使用に当たって特に支障を生ずるほどのことはなかったことが認められ、前記アンケート結果によっても、すす、消しにおいを挙げた回答がそれぞれ10%程度であることも合わせ考えれば、一般消費者にとって、すすや消しにおいは、従来のろうそくの問題としても、原告の商品の問題としても、さほど強く意識されていたとは認められない。
(イ) 別紙被告表示目録記載1ないし4、6及び7の表示は、穿った見方をすれば、原告のろうそく商品について、被告新商品の10倍の油煙が発生し、2倍以上の消しにおいが発生することを意味すると解する余地がないわけではないが、前記(ア)認定のろうそく市場における競争関係の状況、表示の内容、表示を受け取る一般消費者の意識に照らすと、被告新商品の需要者である一般消費者によって、同目録記載1ないし4、6及び7の表示は、原告を特定してその営業上の信用を害する表示として受け取られるものとは認められない。
なお、同目録記載1ないし4、6及び7の表示のうち、被告新商品の商品パッケージの後面の上部の同目録記載6の表示(前記第2、2(4)ア(イ))、同商品パッケージの上面の同目録記載1の表示(前記第2、2(4)ア(ウ))、被告新商品の販売カタログの1頁の上部の同目録記載1、2の表示(前記第2、2(4)ウ)については、いずれも「当社比」という表示が付されており、被告新商品が、被告の従来の商品に比べて、すすの量が90%減少し、消しにおいが50%減少した趣旨であることが示されているから、この点からしても、それらの表示は、原告を特定してその営業上の信用を害する表示として受け取られるものとは認められない。また、同目録記載8の表示にも、「当社商品比較」という表示が付されており、被告新商品が被告の従来の商品に比べて優れている趣旨が示されているから、商品ポップ(前記第2、2(4)イ)、販売カタログの2頁(前記第2、2(4)ウ)の同目録記載8の表示は、被告新商品の需要者である一般消費者によって、原告を特定してその営業上の信用を害する表示として受け取られるものとは認められない。
(3) したがって、被告がその販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載1ないし4、6ないし8の各表示をすること又はその各表示をした商品を譲渡等することは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布すること(不正競争防止法2条1項14号)に当たるとは認められない。
6 争点(6)(損害額)について (1) 甲第9号証、第42号証(後記の採用することができない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、被告の不正競争により、原告は営業上の利益侵害され、信用を毀損されたものと認められる。
(2) 被告の不正競争の態様や、被告の不正競争が不正競争防止法2条1項13号の品質誤認表示には当たるが同法2条1項14号営業上の信用を害する虚偽事実の告知等には当たらないこと、その他、弁論の全趣旨及び証拠により認定された既述の諸事実を考慮すると、原告の受けた信用毀損による損害は、金銭に換算すると300万円に相当するものと認められる。
甲第9号証(原告代表取締役副社長作成の陳述書)には、原告は、被告の不正競争(品質誤認表示、営業誹謗行為)によって信用を毀損され、その損害は金銭に換算すると少なくとも3000万円程度に相当する旨記述されており、甲第42号証(原告常務取締役営業本部長作成の陳述書)には、被告が平成13年10月に別紙被告表示目録記載の表示の使用を開始した後、前年同期と比較しても、また、ろうそくが年間で最もよく売れるお盆時期と比較しても、被告は相当量の売上増を得ていると思う旨記述されている。
しかし、本件において、原告の受けた信用毀損による損害が3000万円に相当すると認めるに足りる証拠はないというべきであり、また、被告が平成13年10月に別紙被告表示目録記載の表示の使用を開始した後、被告の売上が増加したとしても、その増加分をもって、被告による虚偽の表示の使用により原告が被った損害に相当すると認めるに足りる証拠もないから、甲第9号証、第42号証のうち、上記部分は、採用することができない。
7 争点(7)(差止め、謝罪広告の必要性)について (1) 前記第2、2(3)エ記載のとおり、被告は、平成14年9月20日出荷分から、被告新々商品の販売を開始した。しかし、弁論の全趣旨によれば、被告は、
出荷済みの被告新商品を回収せず、現在においても、被告新商品は小売店で販売されており、別紙被告表示目録記載の表示が付されたポップ等は小売店で使用されていることが認められ、また、被告新々商品の販売開始後も、被告の商品等を、同目録記載の表示を付したものとすることは、商品パッケージ等を変えるだけで容易になし得るものと認められる。さらに、本件において、被告は、同目録記載の表示が虚偽であることについて全面的に争っている。このような事実を考慮すると、本件においては、同目録記載1ないし4、6ないし8の各表示をすること等の差止め、
及びそれらの各表示の付された商品パッケージ等の廃棄の請求を認める必要性があるものと認められる。
別紙被告表示目録記載1ないし4又は6ないし8の各表示の付された商品パッケージ、ポップ、商品パンフレット、商品しおりは、前記4(3)認定の不正競争(不正競争防止法2条1項13号)の行為を組成した物に当たるから、不正競争防止法3条2項に基づき、その廃棄の請求は認められる。
(2) 被告の不正競争の態様や、被告の不正競争が不正競争防止法2条1項13号の品質誤認表示には当たるが同法2条1項14号営業上の信用を害する虚偽事実の告知等には当たらないこと、原告の受けた信用毀損による損害の程度などに照らし、原告の営業上の信用を回復するために謝罪広告を命じる必要性があるとは認められない。
8 結論 以上によれば、原告の請求は、次の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却する。
(1) 原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項13号3条1項に基づき、被告の販売するろうそく及びその広告に別紙被告表示目録記載1ないし4若しくは6ないし8の各表示をし、又はその各表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示することの差止めを求めることができる。
(2) 原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項13号3条2項に基づき、同目録記載1ないし4若しくは6ないし8の各表示の付された商品パッケージ、ポップ、商品パンフレット、商品しおりの廃棄を求めることができる。
(3) 原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項13号4条に基づき、損害賠償として300万円及びこれに対する不正競争の後である平成14年9月3日(本件訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 守山修生