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事件 |
平成
28年
(ネ)
10079号
損害賠償等請求控訴事件
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控訴人 アルファクラブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 小沢征行 秋山泰夫 吉岡浩一 小野孝明 御子柴一彦 山崎篤士 上枝賢太郎 笠井陽一 外海周二 尾剛 東卓 西原秀隆 佐藤良尚 小林多希子 阿部博昭 石黒英明 遠藤洋一 清水洋介 1稲田康男 被控訴人Y 同訴訟代理人弁護士 園部秀雄 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/12/21 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴人の当審における拡張請求をいずれも棄却する。 3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1463万0951円及びうち1163万0951円に対する平成27年1月12日から,うち300万円に対する平成28年9月2日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(控訴人は,当審において 原審における1163万0951円の損害賠償請求を このように拡張した ) , , 。。 3 被控訴人は,控訴人の互助会会員に係る情報を使用して,当該会員に対し,互助会契約の解約及び解約手数料の返還並びに解約手数料の返還を請求する訴えの提起を勧誘してはならない。 4 被控訴人は,控訴人の互助会会員及び被控訴人が葬儀施行契約の締結を勧誘締結する相手方に対し 別紙虚偽事実目録記載の趣旨の事実を記載した文書を配布 , ,送付若しくは展示し,又は,同事実を口頭で伝達,陳述若しくは流布してはならない(控訴人は,当審において,上記請求を追加した。)。 5 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 |
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事案の概要(略称は,審級による読替えをするほか,原判決に従う。)
1 本件は,冠婚葬祭業やその互助会業等を営む控訴人が,控訴人やその代理店との間で雇用契約や業務委託契約を締結して控訴人のために稼働していた被控訴人 2が,控訴人の営業秘密を使用し,虚偽の事実を互助会会員に告げる等して互助会契約の解約,解約手数料の返還及び解約手数料の返還を請求する訴えの提起を働きかけたことが,@不正競争防止法2条1項7号,A不法行為又は債務不履行に当たると主張して,損害賠償金1163万0951円及びこれに対する平成27年1月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,同法3条1項に基づき,互助会会員に係る情報を使用して互助会契約の解約等の勧誘をすることの差止めを求めた事案である。 原判決は,@控訴人主張の営業秘密は,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に当たらないと判断して,同法に基づく損害賠償請求及び差止請求をいずれも棄却し,また,A被控訴人の行為は,不法行為又は債務不履行に当たらないと判断して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求をいずれも棄却した。 そこで,控訴人がこれを不服として控訴したものである。なお,控訴人は,当審において,別紙虚偽事実目録記載の虚偽事実の告知が,@不正競争防止法2条1項15号,A不法行為又は債務不履行に当たると主張して,300万円の損害賠償請求をするとともに,同法3条1項に基づき,上記虚偽事実の告知等の差止請求を追加的に併合した。 2 前提事実 以下のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決4頁3行目の「さがみ葬祭会館黒磯」を「さがみ葬斎会館黒磯」と改める。 (2) 原判決5頁14行目の「当支部」 「宇都宮地方裁判所大田原支部」 を と改め,以下も同様とする。 3 争点 (1) 被控訴人による控訴人の営業秘密の不正使用の有無(争点1) (2) 被控訴人による控訴人に関する虚偽事実の告知等の有無(争点2) 3 (3) 被控訴人による不法行為又は債務不履行の成否(争点3) (4) 控訴人の損害額(争点4) (5) 差止めの必要性の有無(争点5) |
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争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,後記1のとおり訂正し,後記2のとおり当審における主張を追加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正 (1) 原判決7頁10行目の「痛み」を「傷み」と改める。 (2) 原判決11頁7行目の「事前相談見積書」 「葬儀事前相談見積書」 を と改め,以下も同様とする。 (3) 原判決12頁7行目の「さがみ葬祭会館黒磯」を「さがみ葬斎会館黒磯」と改め,以下も同様とする。 (4) 原判決12頁8行目の「問い合わせ」を「問合せ」と改め,以下も同様とする。 (5) 原判決17頁9行目の「争点2」を「争点3」と改める。 (6) 原判決21頁2行目の「過ぎず」を「すぎず」と改める。 (7) 原判決21ページ10行目の「争点3」を「争点4」と改める。 (8) 原判決23ページ24行目の「争点4」を「争点5」と改める。 2 当審における主張〔控訴人の主張〕 (1) 争点1(被控訴人による控訴人の営業秘密の不正使用の有無)について ア 不正競争防止法上の営業秘密として保護されるための要件である「秘密管理性」に関し,経済産業省の「営業秘密管理指針」(平成27年1月28日全部改訂)によれば,企業の規模,業態,従業員の職務,情報の性質その他の事情によって異なるものであり,企業における営業秘密の管理単位における従業員がそれを一般的 4に,かつ容易に認識できる程度のものである必要があるとされている。その上で,複数の媒体で同一の営業秘密を管理する場合については,それぞれについて秘密管理措置が講じられることが原則ではあるが,いずれかの媒体への秘密管理措置によって当該情報についての秘密管理意思の認識可能性が認められる場合には,仮にそれ以外の媒体のみでは秘密管理意思を認識し難いと考えられる場合であっても,秘密管理性は維持されることが通常であると考えられるとしている。 イ 原判決は,会員情報を記載したノート等の具体的な管理態様が明らかでないとして,会員情報の秘密管理性を否定する。 しかし,控訴人が営業担当者に会員情報を記載したノートの作成や互助会契約の申込書の写しをコピーすることを認めていたのは,営業担当者が会員情報を把握していなければ対外的な営業活動を行うことが困難であるため,営業上の必要性からやむを得ず許容していたものであること,ノートや申込書の写しに係る会員情報のソース(源)であるデータや書類の原本については,厳格な秘密管理措置が講じられていたこと,会員情報は個人情報でもあるところ,控訴人は個人情報ハンドブックをテキストとして個人情報総合研修を実施して試験を行うといった周知・教育のための措置を実施しており,被控訴人も同研修に参加して個人情報保護理解度確認テストを受けて合格していたこと,定型のマネージャー業務委託契約書において個人情報の保護について定めていること(甲3),同じく定型の本件業務委託契約書(甲4)において,会員情報及び個人情報の保護について規定していることを総合すれば,ノートや申込書のコピーに係る会員情報についても,秘密であると容易に認識し得るようにしていたといえるから,控訴人の秘密として管理されていたものであり,被控訴人もこのことを認識していた。 (2) 争点2(被控訴人による控訴人に関する虚偽事実の告知等の有無)について花園葬祭の館長として葬儀業において控訴人と競争関係にある被控訴人は,控訴人が顧客をだましている,控訴人は悪徳であるといった虚偽の事実を告知し,かかる虚偽事実の告知や週刊ダイヤモンドの記事の提示及びこれらの内容の流布により, 5控訴人の営業上の信用を害したのであるから,その行為は,不正競争防止法2条1項15号に該当し,これによって生じた控訴人の営業上の信用の毀損について,同法4条に基づき,損害賠償義務を負う。 そして,被控訴人は,本件訴訟係属中の平成27年12月17日,多数人が参集している告別式において,控訴人の互助会契約を批判し,施主側の互助会会員に対して解約を促した(甲39)。このことからすると,被控訴人は,今後も別紙虚偽事実目録記載の趣旨の事実を記載した文書を配布,送付若しくは展示し,又は,同事実を口頭で伝達,陳述若しくは流布して,控訴人の営業上の信用を害するおそれがあることから,同法3条1項に基づき,差止めを求める。 (3) 争点3(被控訴人による不法行為又は債務不履行の成否)についてア 被控訴人主張の二重価格問題について(ア) 葬儀費用の比較は,提供される役務やグレード等を個別に対比・評価しなければ論じられない。例えば,ユニクエスト社の「小さなお葬式」の家族葬では,備付けの祭壇の前にカーテンを引き,そのカーテンの前の経机の上に位牌や香炉等を置き,その周りに生花のスタンドを立てるだけであり,祭壇を用いる控訴人の葬儀に比べて格式の低い葬儀となっている。 「小さなお葬式」の費用はあくまで葬儀のみを対象とする葬儀費用であるが,控訴人の互助会では,月掛金を支払えば,葬儀に代わって,互助会会員やその家族の結婚式についても役務の提供を受けられる。結婚式にも利用できるという互助会契約の利便性の高さは,費用の多寡を比較するに当たり,当然に考慮されるべきである。また,互助会契約であれば,互助会の葬儀場で優先的に葬儀の施行を受けることができる。 このように,互助会においても,「小さなお葬式」においても,事前に契約で定まっている基本プランにおいて提供される役務のみで葬儀を営むことが可能であり,追加される役務の内容や提供役務のグレードアップの具体的な内容を比較検討しないで,費用の多寡を論じても無意味である。 6 したがって,控訴人の葬儀とユニクエスト社の「小さなお葬式」の葬儀を比べた場合,追加費用を含めた合計葬儀費用は,控訴人が「小さなお葬式」の2倍以上の価格差があることをもって「二重価格問題」とするのは,事実の裏付けを欠く一方的なものである。 (イ) 以上のとおり,被控訴人主張の二重価格問題を直ちに認めることはできない。そして,「小さなお葬式」を営むユニクエスト社は,控訴人の属するアルファクラブグループの別会社によって買収されたが,控訴人とユニクエスト社の間に資本関係はなく,両者は別法人として独立して葬儀場を営んでいるのであって,控訴人は,ユニクエスト社の下請けとして,控訴人の葬儀場で「小さなお葬式」の葬儀を施行しているにすぎない。したがって,控訴人とユニクエスト社とは事業主体が異なり,競業関係にあるのだから,アルファクラブグループが買収したユニクエスト社の「小さなお葬式」を通じて葬儀を申し込んだ非互助会会員が低額な料金で控訴人から役務の提供を受けることができるのに,控訴人がそのことを秘して,非互助会会員よりも高い対価を要求される互助会契約を勧誘締結しているのは不当であるという「二重価格問題」の存在は,認められない。 イ 社会的相当性の逸脱・債務不履行について (ア) 被控訴人が互助会会員に係る情報を使用して互助会契約の解約等の勧誘をしたこと及び虚偽事実の告知等をしたことは,社会的相当性を逸脱し,不法行為又は債務不履行に当たる。 (イ) 前記アのとおり,「小さなお葬式」を申し込んだ非互助会会員よりも互助会会員が高い対価を要求されているという意味での二重価格問題が直ちに認められるものではない。控訴人と競争関係にある「小さなお葬式」について説明しないで互助会契約を勧誘締結したからといって,互助会会員をだましたとか,控訴人が悪徳であることにならないのは当然である。したがって,「だました」「悪徳である」といった被控訴人の発言は,事実に反する虚偽の言説である。 (ウ) 原判決は,被控訴人の上記発言は,意見ないし評論であり,かつ,意見な 7いし評論としての域を逸脱したものとまではいえないとする。 しかし,被控訴人は,互助会契約の解約を働きかけた際に,ユニクエスト社の買収や互助会会員に不当な負担が生じるといった事実関係を告げ,これを踏まえて控訴人が「悪徳である」と述べたのであるから(甲28),単なる意見ないし評論の域を超えるものである。また,「小さなお葬式」で安く葬儀を出せるのに,高い互助会契約を締結させてお客をだましていると言って,これに符合する内容の週刊ダイヤモンドの記事を説明しているのであるから(甲40,41),単なる意見ないし評論の域を超える虚偽の言説といわなければならない。 (エ) 被控訴人は,平成25年10月30日に控訴人を退職し,翌11月には,葬儀業において控訴人と競合する花園葬祭の館長に就任した。そして,被控訴人は,同月以降,多数の会員宅を訪問し,週刊ダイヤモンドの記事,「小さなお葬式」のウェブページのコピー等を提示して,上記記事の二重価格問題が存しないことを知りながら,自らが獲得した互助会会員を含む多数の互助会会員に対して,互助会契約の解約の働きかけを行った。その結果,互助会契約の解約と訴訟提起に賛同する170名から委任状を集めることができ,被控訴人訴訟代理人がこれらの者を代理して,宇都宮地方裁判所大田原支部に既払いの月掛金の返還を求める訴えを提起した。このような被控訴人による働きかけは,社会的相当性を逸脱する違法なものである。 (オ) 被控訴人との間の本件業務委託契約は,平成22年10月31日に終了したが,同契約では,契約終了後も本件合意の効力が存続する旨合意されていた。そして,被控訴人は,同契約終了後,アシストクルー株式会社との間で再委託契約を締結し,本件業務委託契約と実質的に相違のない業務を行った。したがって,上記合意の効力は,退職後も少なくとも2年間は継続するというべきである。そして,被控訴人と個人的関係がある場合であっても,会員情報が上記合意の対象となることは明らかであるから,会員情報を使用して互助会契約の解約等を働きかけることは,合意違反であり,債務不履行が成立する。 8(4) 争点4(控訴人の損害額)について被控訴人による互助会会員に対する違法な働きかけ,すなわち,被控訴人による@不正競争防止法2条1項15号あるいはA不法行為又は債務不履行に当たる行為によって,控訴人は,営業上の信用の毀損による損害を被った。違法な働きかけが多数の互助会会員に対してなされ,これらの者を通じて控訴人の信用をおとしめる虚偽の事実がさらに広い範囲に流布される可能性があり,被控訴人もその流布を認識認容していたことからすれば,控訴人の被った営業上の信用の毀損による損害の金銭評価は,300万円を下らない。控訴人は,かかる損害について,当審において請求を拡張する。 〔被控訴人の主張〕(1) 争点1(被控訴人による控訴人の営業秘密の不正使用の有無)について控訴人の主張は,否認し,争う。控訴人の会員情報の管理体制に照らすと,手控えとして残る会員情報は,営業秘密には該当しない。 (2) 争点2(被控訴人による控訴人に関する虚偽事実の告知等の有無)について控訴人の主張は,否認し,争う。被控訴人は,控訴人と競争関係になく,被控訴人が虚偽の事実を告知したこともない。 (3) 争点3(被控訴人による不法行為又は債務不履行の成否)についてア 控訴人の主張は,否認し,争う。 イ ユニクエスト社の「小さなお葬式」と控訴人の基本プランとでは,生花(祭壇花)の有無という相違があり,この点を考慮すれば,二重価格問題はなおのこと明らかである。また,被控訴人が控訴人において稼働していた当時,両者の祭壇についてグレードの相違はなかった。さらに,結婚式に係る役務の提供を受けられる点が葬儀に関する二重価格問題を正当化するものではないし,互助会会員が「小さなお葬式」の顧客よりも優先的に葬儀の施行を受けられるという事実は存しない。 ウ 被控訴人が互助会会員に告げた事実は,いずれも虚偽ではなく,被控訴人は互助会契約に関する事実及び当該事実を前提とする意見ないし論評を告げたにすぎ 9ない。 (4) 争点4(控訴人の損害額)について 控訴人の主張は,否認し,争う。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,@控訴人主張の営業秘密は,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当しないので,不正競争防止法2条1項7号,3条及び4条に基づく差止め及び損害賠償請求はいずれも理由がなく,A被控訴人が「虚偽の事実」を告知又は流布したとはいえないから,当審において追加された同法2条1項15号,3条及び4条に基づく差止め及び損害賠償請求はいずれも理由がなく,B被控訴人につき,不法行為又は債務不履行は認められないので,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求は,当審における追加請求部分を含めていずれも理由がないものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 争点1(被控訴人による控訴人の営業秘密の不正使用の有無)について (1) 会員情報について ア 控訴人は,会員情報の記載された資料原本について,施錠した倉庫への保管やパスワードの設定等により,厳重に管理していたと主張するが,そもそも会員情報の具体的内容が定かでない上に,上記資料原本を厳重に管理していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。 そして,控訴人は,会員獲得等の営業活動の便宜のため,上記資料原本に記載された会員情報について,個々の担当者がノートに転記し,あるいは,互助会契約の申込書の写しを保管することを許容しており(乙5),本件全証拠によっても,控訴人が,これらノート類について,いかなる管理措置を講じていたかは不明である。 また,控訴人の業務において,個々の担当者が,日常的に顧客の情報を管理保管する具体的な必要性があったか疑問である。さらに,被控訴人の退職時に,上記ノートの回収や廃棄を命じたとも認め難い。 10 以上のとおり,会員情報の記載された資料原本を秘密として管理していたことを認めるに足りる的確な証拠がない上,個々の担当者の作成保管するノート等については秘密として管理されていたとは到底いうことができない。 したがって,会員情報は,従業員等に対し秘密として管理されていることを明らかにするような態様で管理されていたとは認め難く,不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に当たるとはいえない。 イ 控訴人の主張について 控訴人は,経済産業省の「営業秘密管理指針」(平成27年1月28日全部改訂)を援用して,秘密管理性は,従業員が一般的に,かつ容易に認識できる程度のものであれば認められるし,いずれかの媒体への秘密管理措置によって当該情報についての秘密管理意思の認識可能性が認められる場合には,仮にそれ以外の媒体のみでは秘密管理意思を認識し難いと考えられる場合であっても,秘密管理性は維持されると主張する。 なるほど,控訴人と被控訴人との間の試用期間雇用契約書(甲1),雇用契約書(甲2),マネージャー業務委託契約書(甲3)及び業務委託契約書(甲4)においては,会員情報の守秘義務が定められていた。また,控訴人は,一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)からプライバシーマークの付与を受け,役職員を対象とした研修を実施しており,被控訴人も,「個人情報保護ハンドブック」(甲14)をテキストとして使用した研修を受講し,個人情報保護理解度確認テストを受け,個人情報の利用目的に明示的な同意が必要であることや個人情報ファイルの施錠保管に関する質問に正解していることが認められる(甲13の1〜3)。 しかし,前記アのとおり,そもそも会員情報の具体的内容が定かでない上に,控訴人は,個々の担当者が会員情報を記載したノートを作成して保管することを日常的に許容し これに対しては特段の秘密管理措置を講じていなかったのであるから , ,仮に,資料原本が控訴人の主張する態様で管理されていたとしても,当該措置は実 11効性を失い,形骸化していたといわざるを得ず,もはや秘密管理性は認められないというべきである。 よって,控訴人の上記主張は理由がない。 (2) 葬儀事前相談見積書について葬儀事前相談見積書(甲24)は,顧客から,葬儀費用について事前相談があった場合,実施する施行項目を葬儀事前相談見積書に係るエクセルシートに入力して作成されるものであり,個々の施行項目の提供金額と必要な葬儀費用の合計金額を明らかにするものである。 葬儀事前相談見積書(甲24)に記載された葬儀費用の具体的明細については,見積書の性質上,顧客に交付することが予定され,その第三者への公開が特に禁止されたものではないし,その記載内容についても秘密として管理されているとは認め難い。 したがって,葬儀事前相談見積書は,従業員等に対し秘密として管理されていることを明らかにするような態様で管理されていたとは認め難く,営業秘密には当たらない。 (3) 小括以上のとおり,控訴人が営業秘密であると主張する会員情報及び葬儀事前相談見積書に記載された情報は,いずれも秘密管理性が認められず,不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」であると認めることができないから,同法2条1項7号,3条及び4条に基づく控訴人の差止め及び損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 2 争点2(被控訴人による控訴人に関する虚偽事実の告知等の有無)について(1) 被控訴人主張の二重価格問題についてア 認定事実原判決26頁3行目から27頁16行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 12イ 判断前記ア認定事実によれば,平成25年頃に控訴人の葬斎会館で同様の葬儀を施行した場合,GG02コースの会員は,総額71万4000円(税込)の費用を要するのに対し,「小さなお葬式」の家族葬プランに申し込んだ者は,58万4100円(税込)で足りた(差額12万9900円)ということになる。 そうすると,控訴人の互助会会員が互助会契約に基づき控訴人の葬儀場での葬儀を施行する場合の費用よりも,非会員である者が「小さなお葬式」を通じて控訴人の葬儀場での同様の葬儀の施行を申し込んだ場合の方が,安価であるということになるから,被控訴人主張の二重価格問題は,このこと自体あるいは控訴人の経営方針の当否等の評価はさておき,存在しているものということができる。 ウ 控訴人の主張について(ア) 控訴人は,仮に,ユニクエスト社と契約を締結していない互助会の会員等が「小さなお葬式」による葬儀を希望したとしても,控訴人が当該会員等に対して「小さなお葬式」の葬儀を提供する余地はないから,当該会員等において,互助会契約による葬儀と「小さなお葬式」による葬儀との競合ないし選択の問題は生じないと主張する。 しかし,被控訴人が主張する二重価格問題とは,契約形態の違いにより,控訴人による同様の役務の提供が異なる価格で行われることを問題視するものであるところ,控訴人の互助会会員等であっても,互助会契約を締結したまま,別途「小さなお葬式」に申し込んで控訴人の葬祭会館で葬儀を施行することは可能であると解されるから,控訴人の上記主張は失当である。 (イ) 控訴人は,葬儀費用の比較は,提供される役務の内容やグレード等を個別に対比・評価しなければならず,互助会契約による場合と「小さなお葬式」による場合とでは,祭壇のグレードが相違するなどと主張する(甲48,51)。 しかし,被控訴人は,控訴人に在籍していた当時,グレードの異なる複数の祭壇はそもそも用意されていなかった旨陳述し(乙5),また,控訴人において,「小 13さなお葬式」によって施行する場合,備え付けられた祭壇の前にカーテンを引いて,その前に経机と生花スタンドを置くという取扱いを厳格に実施していたと認めるに足りる的確な証拠はなく,上記主張立証を考慮しても,前記イの判断を左右するには足りないというべきである。 (ウ) 控訴人は,互助会契約の場合,結婚式にも利用できるという利便性の高さがあり,また,優先的に葬儀の施行を受けられるので,葬儀費用の多寡を単純に比較するのは不当であると主張する。 しかし,本件では,同一グループに属する控訴人とユニクエスト社において,契約形態の相違によって,同様の役務の提供を受けながら,葬儀費用に価格差が生じることの当否が問題となっているのであるから,控訴人主張の点によっては,上記結論は左右されないというべきである。 (エ) 控訴人は,基本プランにおいて提供される役務のみで葬儀を営むことが可能であり,追加される役務の内容や提供役務のグレードアップの具体的な内容を比較検討しないで,費用の多寡を論じても無意味であると主張する。 しかし,週刊ダイヤモンドの記事(甲23)は,30人規模の平均的な葬儀を念頭にした大手4社に対する覆面調査の結果に基づくものであることがうかがえ,その価格比較が明らかに不当であるとはいえない。そして,控訴人の互助会会員が互助会契約に基づき葬儀を施行する場合と非会員の「小さなお葬式」による葬儀の家族葬プランを基に比較した場合であっても,価格差が認められるのであるから,控訴人の主張は上記結論を左右するものではない。 (2) 不正競争防止法2条1項15号の成否について 控訴人は,被控訴人が,@控訴人は,「小さなお葬式」の葬儀によって安い金額で葬儀を施行できるのに,より高い互助会契約の勧誘締結を行っている,A控訴人は,上記行為により顧客をだましている,B控訴人は,上記行為を行っている悪質業者である,C控訴人は,上記行為により不当な利益を得ているといった,控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布していると主張する。 14 前記@について,被控訴人が,控訴人の互助会契約に基づき葬儀を施行するよりも「小さなお葬式」を通じて施行したほうが安くできる旨や,市場価格よりも手頃な値段で冠婚葬祭に係る役務を受けることができるという控訴人の互助会契約のメリットは実情に反することなどを告げたこと(引用に係る原判決の事実及び理由の第3の2(2)ク)からすれば,@の趣旨の発言を行ったものと推認される。しかし,前記(1)認定のとおり,二重価格問題が存在することに照らせば,前記@の趣旨の発言内容が「虚偽の事実」に該当するとはいえない。そして,被控訴人が,AないしCの発言をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。 (3) 小括 よって,被控訴人が不正競争防止法2条1項15号の行為をしたとは認め難いから,同法2条1項15号,3条及び4条に基づく控訴人の差止め及び損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 3 争点3(被控訴人による不法行為又は債務不履行の成否)について (1) 認定事実 以下のとおり訂正するほかは,原判決28頁26行目から32頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決29頁9行目の「さがみ葬祭会館」を「さがみ葬斎会館」と改め,以下も同様とする。 イ 原判決30頁3行目の「痛み」を「傷み」と改める。 ウ 原判決31頁9行目の「問い合わせ」を「問合せ」と改める。 (2) 不法行為又は債務不履行の成否について 被控訴人の行為が不法行為又は債務不履行に該当するか否かは,被控訴人の行為の目的,被控訴人が用いた手段・行為態様及び控訴人が受けた打撃の程度等を総合して判断すべきである。当裁判所も,以下のとおり,被控訴人の行為は不法行為又は債務不履行に当たるとはいえないと判断する。その理由は,以下のとおり訂正するほかは,原判決32頁3行目から39頁6行目までに記載のとおりであるから, 15これを引用する。 ア 原判決33頁7行目の「前記(2)エ」を「引用に係る原判決の事実及び理由の第3の2(2)エ」と改める。 イ 原判決33頁8行目の「前記(2)オ」を「同オ」と改める。 ウ 原判決35頁3行目から4行目にかけての「前記(1)ウ」を「前記(1)イ」と改める。 エ 原判決35頁7行目の「前記(2)ク」を「引用に係る原判決の事実及び理由の第3の2(2)ク」と改める。 オ 原判決35頁13行目の「前述のとおり」から14行目の「認められる。」までを「二重価格問題を伝えて謝罪するためというのであって,前述のとおり被控訴人には図利加害目的が認められず,互助会契約に関する事柄は公共の利害に関するものであるから,専ら公益を図る目的にあったと認められる。」と改める。 カ 原判決35頁20行目の「(なお,」から21行目の「できる。)」までを削る。 キ 原判決36頁8行目の「前記(2)コ」を「引用に係る原判決の事実及び理由の第3の2(2)コ」と改める。 ク 原判決37頁8行目の「問い合わせ」を「問合せ」と改める。 ケ 原判決37頁23行目の「既に」から24行目の「少なくとも」までを「同種の条項を一部無効と判断した判決が紹介されていて(甲23),同種の訴えを棄却した判決(甲35の1・2)を考慮しても,」と改める。 コ 原判決38頁10行目の「ことは,当裁判所に顕著な事実である」を「(弁論の全趣旨)」と改める。 サ 原判決38頁14行目の「これまで」から19行目の末尾までを以下のとおり改める。 「被控訴人は,退職後ほどなくして,自らが担当していた約130名の互助会会員の自宅を訪問するなどして働きかけて,互助会契約の解約を促すなどし,最終的 16には約170名の会員が互助会契約を解約して解約払戻金に係る別訴を提起するに至り,控訴人は少なからぬ打撃を被ったのであるから,被控訴人の本件行為は,控訴人と継続的な雇用ないし委託関係にあったこと及び本件行為の経緯,態様等に鑑みれば,行き過ぎとも考えられる。 しかし,被控訴人による互助会会員等への働きかけは,在職中にされたものではなく,週刊誌でも取り上げられた二重価格問題(契約形態の違いにより,控訴人による同様の役務の提供が異なる価格で行われることを問題視するもの)を背景としてなされた意見ないし論評の域にとどまっていること,前記のとおり被控訴人が図利加害目的を有していたとは認め難く,被控訴人が使用したとされる顧客情報は不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しないことからすれば,被控訴人の本件行為が不法行為上違法であるとか,退職従業員の負う債務の不履行であるとまではいえず,また,信義則に反するとまでいうこともできない。」4 結論したがって,不正競争防止法2条1項7号,3条及び4条,不法行為又は債務不履行に基づく差止め又は損害賠償請求を理由がないものとしていずれも棄却した原判決は相当であり,当審における拡張請求も理由がないから棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 古河謙一 |
裁判官 | 鈴木わかな |