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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ10721損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ワ18865営業差止等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 信義則 /  他人の営業 /  外観 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  有用性 /  営業上の情報 /  非公知性 /  営業秘密 /  2条1項7号 /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  競争関係 /  営業誹謗 /  虚偽の事実 /  不正の利益を得る目的(図利目的) /  損害賠償 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 3030号 不正競争行為の差止等請求事件
平成 15年 (ワ) 230号 損害賠償請求事件
第1・第2事件原告 クマリフト株式会社
訴訟代理人弁護士 淺野省三
同 齋藤朋彦 第1事件被告 有限会社エスエスケイエンジニアリング 第2事件被告 A
被告ら訴訟代理人弁護士 渡辺正之
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/05/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して、金523万0492円及びこれに対する第1事件被告有限会社エスエスケイエンジニアリングについては平成15年1月18日から、第2事件被告Aについては同月23日から、各支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1・第2事件を通じてこれを3分し、その2を原告の、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
〔第1事件〕 1 請求の趣旨 (1) 被告有限会社エスエスケイエンジニアリング(以下「被告会社」という。)は、別紙目録1ないし3記載の者に対し、面会を求め、電話をし又は郵便物を送付するなどして、昇降機の据付、保守点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結又は締結方の勧誘等同契約に付随する営業行為をしてはならない。
(2) 被告会社は、昇降機の据付、保守点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結をしようとし又は同契約に付随するサービスの提供を求めて同被告宛来所あるいは電話連絡をしてくる別紙目録1ないし3記載の者に対し、昇降機の据付、
点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結又は締結方の勧誘等同契約に付随する営業行為をしてはならない。
(3) 被告会社は、原告に対し、金2613万2500円及びこれに対する平成15年1月18日(平成15年1月14日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告会社の負担とする。
(5) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
〔第2事件〕 1 請求の趣旨 (1) 被告Aは、原告に対し、金2613万2500円及びこれに対する平成15年1月23日(第2事件訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告Aの負担とする。
(3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 当事者 ア 第1、第2事件原告(以下「原告」という。)は、各種昇降機の製造、
販売、保守点検及び代理店業務等を業とする株式会社である。
イ 被告会社は、昇降機の販売、設計、施工及び保守管理等を業とする有限会社である。
ウ 被告Aは、被告会社の代表取締役である。
(2) 原告と被告会社間の契約関係等 ア 原告の保守点検等請負業務 原告は、原告が製造・販売した昇降機の管理者等(原告の顧客に当たることから、以下、「顧客」ということがある。)との間で、当該昇降機の据付工事請負契約(アフターケアとして、昇降機の設置・引渡後3か月間は月に1回の割合で無料で保守点検を行う。)を締結し、あるいはその後当該昇降機の保守点検、修理、検査及び改修工事の請負契約(以下、当該昇降機の据付工事請負契約も含めて、「保守点検等請負契約」という。)を締結し、昇降機の据付、保守点検、修理、検査及び改修工事(以下「保守点検等請負業務」という。)を行っていた。
原告は、自らが保守点検等請負業務を行うことができない地域については、被告会社等他の業者に保守点検等請負業務を委託し、顧客に対する保守点検等請負業務を履行していた。
イ 原告と被告会社間の基本契約 原告と被告会社は、平成10年8月21日、主に茨城県内及び福島県内(ただし、平成12年10月以降は主に福島県内に変更された。)を対象として、
原告が保守点検等請負業務を被告に委託する旨の委託契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
ウ 本件基本契約に基づく関係 原告は、本件基本契約に基づいて保守点検等請負業務を委託するために、被告会社に対し、原告の有する顧客情報(@顧客の名称ないし現場名、A顧客の住所ないし現場住所、B保守点検額(月額)、C年間保守点検回数。以下「本件顧客情報」という。)を次のような方法で示した。
原告は、原告従業員に営業活動を行わせて、顧客又は顧客が建物等の建築を依頼したゼネコン、工務店又は商社との間で、原告製造の昇降機の売買・据付工事請負契約を締結する。原告は、被告会社に対し、昇降機の据付及びアフター点検を委託するときは据付時に、アフター点検のみを依頼した場合にはアフター点検依頼時に、本件顧客情報のうち上記@及びAの情報を開示する。
また、原告は、被告会社に対し、アフター点検時に、その後の保守点検等請負契約を原告と締結するよう顧客を勧誘すること、その際、保守点検額や年間保守点検回数等を交渉し、見積書案を作成して原告に送付することを依頼していた。原告は、送付された見積書案を検討の上、最終的に保守点検額と年間保守点検回数を決定して、顧客との間で正式に契約を締結する。また同時に、被告会社に対して当該顧客に関する保守点検等請負業務の委託を行い、その際、本件顧客情報のうち上記B及びCを開示する。
エ 本件基本契約の終了 被告会社は、平成14年2月、原告に対して、本件基本契約を同年3月末日をもって解約する旨申し入れ、原告は、被告会社に委託していた保守点検等請負先の引継ぎを行うことによって黙示に解約の申入れに応じ、本件基本契約は、同年3月末日をもって合意解除された。
(3) 被告会社の競業行為 ア 被告会社は、本件基本契約がいまだ存続していた平成14年2月ころから、原告の顧客に対し、面会を求め、電話をし又は郵便物を送付するなどして、原告との保守点検等請負契約を解除し、新たに被告会社と保守点検等請負契約を締結するように勧誘を行った。
イ(ア) 被告会社は、勧誘を行うに当たり、原告から示された本件顧客情報を使用した。
(イ) 被告会社は、勧誘を行うに当たり、原告と顧客の間の保守点検等請負契約よりも低額の保守点検等請負業務の料金を示した。
ウ(ア) 被告会社による勧誘の結果、別紙目録1ないし3記載の顧客のうち48件の顧客(別紙目録4@)が被告会社の顧客となった。
(イ) また、被告による勧誘があったために、原告は、同目録1ないし3記載の顧客のうち16件の顧客(別紙目録4A)から、保守点検等請負業務の料金を見直すよう求められ、同料金の減額を余儀なくされた。
(4) 本件基本契約に基づく請求 ア 本件基本契約に基づく義務 本件基本契約に関する「取引基本契約書」(甲第1号証。以下「本件基本契約書」という。)第14条1項は、「乙(注:被告会社)は本契約及び個別契約の履行により知り得た業務上の機密を契約有効期間は勿論、その終了後といえども厳重に保持し、第三者に漏洩してはならない。」と規定している。同条項により、被告会社は、本件基本契約成立後に締結された個別の保守点検等請負契約はもちろん、本件基本契約成立前に締結されていた個別の保守点検等請負契約に関しても、その履行によって知り得た原告の業務上の機密を使用してはならない義務を負った。
したがって、被告会社は、本件基本契約第14条1項に基づき、原告に対し、本件基本契約存続中はもちろん、同契約終了後も、原告の顧客と昇降機の保守点検等請負契約を直接締結するために、本件顧客情報を使用して原告の顧客を積極的に(即ち、被告会社の方から)、又は、消極的に(即ち、顧客の方から契約を希望してくることに応じることで)勧誘してはならないという義務を負っていた。
イ 義務違反行為 被告会社が、前記(3)ア、イ(ア)記載のとおり、原告から示された本件顧客情報を使用して、原告の顧客に対し、原告との保守点検等請負契約を解除し、新たに被告会社と保守点検等請負契約を締結するように勧誘を行うことは、前記ア記載の本件基本契約に基づく義務に違反する。
(5) 不正競争防止法 ア 本件顧客情報の営業秘密性(不正競争防止法2条4項) (ア) 有用性 顧客情報は、一般的に、物やサービスの流通・提供に関わる秘密として、生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報とされる。しかも、原告は、製造・販売した各種昇降機について、その保守点検等請負業務を自ら行うことによっても利益を上げ、保守点検等請負業務を原告の重要な営業の一部としており、被告会社が原告の本件顧客情報を自ら使用して顧客を勧誘して直接保守点検等請負契約を締結した場合には、原告は一方的に顧客を奪われることとなり、その後当該顧客の保守点検等請負業務による利益を上げられなくなる。原告が誰に対して各種昇降機を製造・販売し、保守点検等請負業務を行っているかに関する本件顧客情報は、原告の死活を決するほどその営業に有用な情報である。
(イ) 非公知性 本件顧客情報は、原告がその保守点検を行うために台帳に記載して管理されていたものであり、一般には全く知られていない。原告の顧客であるか否かは、事業所の業種、事業所建物の規模等の外観などにより認識できるものではない。
(ウ) 秘密管理性 a 会社の外部にいる者が会社から秘密情報を開示された場合の秘密管理性は、会社内部において一定の管理がなされ、当該外部者との関係において厳格な管理がなされていれば足りる。
b 本件顧客情報は台帳に記載されていた。同台帳は、原告の郡山事務所の事務担当者であるBの机の上に置かれており、原告従業員以外の者が接することができないように管理されていた。
c 原告は、被告会社との本件基本契約において、本件基本契約書第14条1項記載のとおり、契約の有効期間のみならず、契約終了後も委託に際して原告が提供した情報を保持することを義務付け、第三者に漏洩することを禁じることによって、被告会社との関係において、厳格な管理をしていた。
(エ) 以上のとおり、本件顧客情報は、有用性非公知性秘密管理性が認められるから、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に該当する。
営業秘密の不正使用(不正競争防止法2条1項7号) (ア) 原告は、前記(2)ウ記載のとおり、原告の営業秘密である本件顧客情報を、被告会社に示した。
(イ) 被告会社は、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又は原告に損害を加える目的で、原告の営業秘密である本件顧客情報を使用し、前記(3)ア及びイ記載のとおり、原告の顧客に対する勧誘を行っている。そして、その結果、
前記(3)ウ記載のとおり、原告は一部の顧客との間で保険点検等請負契約を解消され、あるいは保険点検等請負業務の料金を減額することを余儀なくされた。
営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号) (ア) 被告会社は、原告の顧客に対して勧誘を行うに当たり次の事項を述べた。
a 被告会社従業員のような昇降機検査資格者が保守点検をしないと問題がある。
b 原告には昇降機検査資格者がいないので昇降機の点検ができない。
c 官公庁関係の保守点検先を原告に取り上げられ、被告会社代表者・従業員の生活が維持できない状態になっている。原告は、被告会社の保守点検先を縮小した。
d 原告が官公庁関係の保守点検を行うようになってから、昇降機の故障が続出している。
e 原告との契約を解約せずに被告会社と契約を直接結んでも問題はない。
f 原告が業務縮小で福島県いわき市方面へメンテナンスをしなくなった。原告が福島県いわき市方面から撤退した。
g 原告は設置後10年以上の製品は入れ替えをするという営業方針である。被告はそういう方針にはついていけないので原告と契約解消の運びとなった。
(イ) しかしながら、前記(ア)aないしgの記載の事実は、次のとおり、
いずれも虚偽であった。
a 前記(ア)aついて 本件における昇降機の保守点検とは、顧客が安全に昇降機を使用するために、原告が独自に行っているものにすぎず、これを行うのに昇降機検査資格は不要である。確かに、建築基準法12条2項は昇降機等で特定行政庁が指定するものの所有者は定期検査を受けなければならない旨定めており、ここにいう定期検査は昇降機検査資格者でなければならない。しかし、原告の顧客との関係で、本件において特定行政庁に該当する福島県、福島県いわき市及び茨城県は、いずれも本件基本契約において実際に対象となる原告製造の「電動ダムウェーター」を定期検査の対象としていないため、原告の顧客等が昇降機検査資格者による定期検査を受ける必要はなかった。
b 前記(ア)bについて 原告には昇降機検査資格者がいる。
c 前記(ア)cについて 原告は、被告会社がその人員不足等のために保守点検を疎かにしたため、被告会社との合意の上、一時的に被告会社の保守点検先から官公庁関係の顧客を外したにすぎない。
d 前記(ア)dについて 原告が官公庁関係の顧客の昇降機の保守点検を行って、故障が続出したというようなことはない。
e 前記(ア)eについて 原告との契約を解約せずに被告会社と直接契約を結ぶと二重契約になる。
f 前記(ア)fについて 原告が福島県いわき市方面に関して業務縮小を行ったことはない。
g 前記(ア)gについて 原告は、設置後10年以上の製品は入れ替えをするという営業方針を採ったことはない。
(ウ) 被告会社がこのような虚偽の事実を故意に原告の顧客に述べたことにより、原告の信用は毀損された。
営業上の利益侵害(不正競争防止法3条4条) 被告会社による営業秘密の不正使用あるいは営業誹謗行為により、原告は、営業上の利益侵害され、又は侵害されるおそれがある。
(6) 一般不法行為(民法709条) ア 被告会社は、本件顧客情報を利用して原告の顧客を勧誘した。
イ 被告会社は、本件基本契約により原告から原告の顧客に対する保守点検等請負業務を委託されている立場にありながら、同契約期間中、同顧客に対して、
自己と直接保守点検等請負契約を締結するよう、勧誘した。
ウ 被告会社は、原告の顧客を勧誘する際、前記(5)ウ(ア)記載の虚偽事実を告知した。
エ その結果、原告は、48件の顧客につき契約を解除され、16件の顧客につき保守点検額の減額を余儀なくされた。また、原告の顧客との関係で、営業上の信用を害された。
(7) 被告Aの責任(有限会社法30条ノ3第1項) 被告Aには、被告会社の代表取締役として、その職務を行うに当たり、被告会社が違法行為によって他人に損害を与えることのないように注意を尽くすべき義務があった。
被告会社が原告の顧客に対する勧誘を行ったこと及び勧誘に当たって虚偽の事実を原告の顧客に述べたこと(前記(3)ないし(6))に関し、被告Aには、代表取締役としての任務懈怠につき悪意又は重過失があった。
したがって、被告Aは、有限会社法30条ノ3第1項に基づき、被告会社の不法行為(不正競争防止法に違反する行為を含む。)によって原告に生じた損害を、被告会社と連帯して賠償する責任を負う。
(8) 損害 ア 不正競争防止法に関する損害 (ア) 本件顧客情報を使用した勧誘による損害 被告会社が、原告の営業上の利益侵害することを知りながら、原告の営業秘密である本件顧客情報を使用して顧客を勧誘したことにより、原告は、前記(3)ウ(ア)記載のとおり顧客を奪われ、又は前記(3)ウ(イ)記載のとおり保守点検等請負業務の料金の減額を余儀なくされた。
原告は、顧客48件を奪われたこと(前記(3)ウ(ア))により2963万円、顧客16件について料金を減額したこと(前記(3)ウ(イ))により263万5000円の合計3226万5000円の損害を生じた。
(イ) 虚偽事実の告知による損害 被告会社が、顧客を勧誘する際、原告の営業上の利益侵害することを知りながら、前記(5)ウ(ア)記載のとおりの虚偽の事実を述べたことにより、原告はその信用を毀損された。この信用毀損によって原告が被った損害を金銭に換算すると3000万円を下らない。
イ 一般不法行為に関する損害 被告会社が、原告の営業上の利益侵害することを知りながら、本件顧客情報を使用して顧客を勧誘し、あるいは本件基本契約期間中に顧客を勧誘したことにより、原告は、前記(3)ウ(ア)記載のとおり顧客を奪われ、又は前記(3)ウ(イ)記載のとおり保守点検等請負業務の料金の減額を余儀なくされ、前記ア(ア)記載同様の算定で、3226万5000円の損害を生じた。
また、被告会社が上記勧誘の際虚偽の事実を述べたことにより、原告は、その信用を毀損され、3000万円の損害を生じた。
ウ 原告は、前記ア又はイの理由により、合計6226万5000円の損害が生じたが、その一部である2613万2500円を本件訴訟において請求する。
なお、その内訳は、顧客48件を奪われたことによる損害2963万円のうちの1481万5000円、顧客16件について料金を減額したことによる損害263万5000円のうちの131万7500円、信用毀損による損害3000万円のうちの1000万円である。
(9) よって、原告は、被告らに対し、次のとおり請求する。
ア 被告会社に対し、不正競争防止法3条1項、同法2条1項7号又は本件基本契約に基づき、別紙目録1ないし3記載の者に対し、面会を求め、電話をし又は郵便物を送付するなどして、昇降機の据付、点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結又は締結方の勧誘等同契約に付随する営業行為をすることの差止め、
及び昇降機の据付、点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結をしようとし又は同契約に付随するサービスの提供を求めて同被告宛来所あるいは電話連絡をしてくる別紙目録1ないし3記載の者に対し、昇降機の据付、点検、修理、検査及び改修工事の請負契約の締結又は締結方の勧誘等同契約に付随する営業行為をすることの差止めを求める。
イ 被告会社に対し、営業秘密利用行為あるいは本件基本契約の有効期間中の顧客勧誘行為に関し、本件基本契約、又は不正競争防止法4条、同法2条1項7号、又は民法709条に基づく損害賠償として1613万2500円、及び営業誹謗行為に関し、不正競争防止法4条、同法2条1項14号又は民法709条に基づく損害賠償として1000万円の合計2613万2500円並びにこれに対する請求の後であり不正競争及び不法行為の後である平成15年1月18日から支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める ウ 被告Aに対し、有限会社法30条ノ3第1項に基づく損害賠償として、
2613万2500円及びこれに対する不正競争及び不法行為の後である平成15年1月23日から支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)(当事者)アないしウの事実は認める。
(2)ア 請求原因(2)(原告と被告会社間の契約関係等)アの事実は認める。
イ 請求原因(2)イの事実は否認する。原告と被告Aとの間で、昭和54年ころ、原告が保守点検等請負業務を被告Aに委託する旨の委託契約が締結され、被告Aが被告会社を設立した平成元年ころに、同委託契約が原告と被告会社との間に引き継がれた(以下、原告と被告会社との間の契約を「従前の委託契約」という。)。平成10年8月21日に改めて原告と被告会社との間に委託契約が締結された事実はない。
ウ 請求原因(2)ウの事実は否認する。被告A及び被告会社は、従前の委託契約に基づく報酬を得るために営業活動によって獲得した顧客の名称・住所・昇降機の機種等のデータを、顧客名簿として独自に作成、管理し、その顧客情報に基づいて、保守点検等請負業務を行っていた。なお、本件顧客情報は、被告会社がその営業活動において開拓した顧客の情報を原告に報告した結果を、原告が集計したものにすぎない。
エ 請求原因(2)エの事実は、従前の委託契約が平成14年3月末日をもって合意解除されたという趣旨に限定して認める。なお、仮に本件基本契約の成立が認められる場合には、その契約が平成14年3月末日をもって合意解除されたことを認める。
(3)ア 請求原因(3)(被告会社の競業行為)アの事実は認める。ただし、被告会社が顧客と保守点検等請負契約を締結したのは、平成14年4月1日以降である。
イ(ア) 請求原因(3)イ(ア)の事実は否認する。被告会社は、独自に保有していた顧客情報に基づいて勧誘を行っていた。
(イ) 請求原因(3)イ(イ)の事実は認める。
ウ(ア) 請求原因(3)ウ(ア)は認める。
(イ) 請求原因(3)ウ(イ)の事実は不知。
(4)ア(ア) 請求原因(4)(本件基本契約に基づく請求)アの事実のうち、本件基本契約書が取り交わされたこと、本件基本契約書第14条1項が原告記載の文言であることは認め、その余は否認する。
原告・被告会社間で、本件基本契約書記載の内容で合意が成立したとの事実は否認する。被告会社は、原告から「ISO-9001取得のため」という理由で本件基本契約書に記名押印を求められたので応じたにすぎず、そこに記載されている義務を負うものではない。
(イ) 仮に本件基本契約書の内容で合意が成立しているとしても、本件基本契約成立前に締結されていた個別の保守点検請負等契約の履行によって知り得た顧客情報は第14条1項の対象とならないし、本件基本契約自体、契約終了日(平成14年3月末日)より後は拘束力がない。なお、被告会社は、本件基本契約成立後に原告の顧客となった者との間で保守点検等請負契約を締結していない。
イ 請求原因(4)イは争う。前記アのとおり本件基本契約書第14条1項に基づく義務は生じていない。
仮に本件基本契約書記載の内容で合意が成立しているとしても、本件基本契約書第14条1項の内容は、被告会社がもっぱら自分の利益を図ること、あるいは原告を害することを目的として「情報」を使用してはならないことを意味するから、被告会社が、独自に収集した情報に基づいて通常の営業活動を行うことは、
同条同項に反しない。また、被告会社は、本件基本契約締結日以降終了日までに原告の顧客となった者との間では保守点検等請負契約を締結していないし、被告会社が本件基本契約締結日前に原告の顧客となった者との間で保守点検等請負契約を締結したのは本件基本契約終了後のことであるから、本件基本契約書第14条1項に反する行為はない。
(5)ア(ア) 請求の原因(5)(不正競争防止法)ア(ア)は、争う。
(イ) 請求原因(5)ア(イ)は争う。被告会社が主に取り扱ってきた原告製造の昇降機は、「電動ダムウェーター」といわれる配膳や荷物運搬用の小型昇降機であるため、事業所の業種、事業所建物の規模等の外観などにより、ユーザーであるか否かが判明する。したがって、「公然と知られていない」に該当しない。
(ウ)a 請求原因(5)ア(ウ)aは争う。 b 請求原因(5)ア(ウ)bの事実のうち、原告が台帳を作成していたこと、原告の郡山事務所の事務担当者がBであることは認めるが、台帳の管理方法等については不知。
c 請求原因(5)ア(ウ)cは争う。原告と被告会社の間において、本件基本契約書記載の内容については合意されていない。
また、本件基本契約書第14条1項は、顧客情報を営業秘密として指定・特定等していない。図面や仕様書等に関する「貸与目的完了後又は甲が指示したとき、遅滞なく甲に返却しなければならない」(同条2項)という規定と同様の規定を顧客情報について定めようとすれば容易にできたにもかかわらず、そのような規定を置かなかった。なお、被告らは、その作成保持していた顧客名簿について原告から提出を求められたり点検されたりしたことはないし、個別契約の終了した顧客について顧客名簿からの削除や原告への名簿の引渡等を求められたこともなかった。
さらに、原告は、原告が保有管理する顧客名簿(台帳を含む。)等への閲覧などのアクセス行為について、管理の定めを設けておらず、アクセスできる者を制限したり、コピーを禁止したりしていなかった。被告らは、自由に顧客名簿を作成・管理することができた。
イ(ア) 請求原因(5)イ(ア)の事実は否認する。
(イ) 請求原因(5)イ(イ)の事実は否認する。
ウ(ア) 請求原因(5)ウ(ア)記載の事実を述べたか否かは次のとおりである。
a 請求原因(5)ウ(ア)aの事実に関しては否認する。
b 請求原因(5)ウ(ア)bの事実に関しては否認する。ただし、被告会社は、原告が無資格の新人に作業を行わせていた事実と、原告の保守点検について顧客からクレームがあり被告会社が対応した事実を指摘したことはある。
c 請求原因(5)ウ(ア)cの事実に関しては、原告が被告会社の取り扱っていた保守点検先を取り上げた事実及びそれにより被告会社が倒産の瀬戸際に追い込まれた事実を指摘したことは認め、その余は否認する。
d 請求原因(5)ウ(ア)dの事実に関しては否認する。ただし、原告の修理が不十分で、被告会社に修理依頼があった事実を説明したことはある。
e 請求原因(5)ウ(ア)eの事実に関しては否認する。原告との保守点検等請負契約が期間満了となった後は被告会社に依頼してもらいたい、被告会社との間で保守点検等請負契約を締結することになったときは、原告との保守点検等請負契約の延長や更新をしないことについて、被告会社から原告に話をするので手間はとらせない旨述べたことはある。
f 請求原因(5)ウ(ア)fの事実に関しては否認する。ただし、福島県いわき市内の顧客に、原告が70ないし80キロメートル離れた郡山の営業所から人を派遣して対応することとなったという事実を指摘したことはある。
g 請求原因(5)ウ(ア)gの事実に関して、原告が、設置後10年以上経ったものは修理できるものでも機械全体の入れ替えをするように言うばかりで、顧客の要望に十分応えていなかったので、その事実を指摘したことは認めるが、その余は否認する。
(イ) 請求原因(5)ウ(イ)は、被告会社の述べたことが虚偽であるという点について争う。
(ウ) 請求原因(5)ウ(ウ)は、被告会社が虚偽の事実を故意に原告の顧客に述べたとの事実は否認し、原告の信用が毀損されたことについては不知。
エ 請求原因(5)エは争う。
(6) 請求原因(6)(一般不法行為)のうち、請求原因(5)ウ(ア)記載の事実に関しては前記(5)ウ(ア)のとおりであり、その余は否認、不知ないし争う。
(7) 請求原因(7)(被告Aの責任)の事実は否認し、主張は争う。
(8)ア 請求原因(8)(損害)アの事実は不知であり、主張は争う。
イ 請求原因(8)イの事実は不知であり、主張は争う。
ウ 請求原因(8)ウは争う。
理 由1 請求原因(1)アないしウの事実は当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)について検討する。
(1) 請求原因(2)アの事実は当事者間に争いがない。
(2) 請求原因(2)イについて検討する。
甲第1号証、証人Cの証言及び被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果によれば、原告と被告会社は、平成10年8月21日、保守点検等請負業務を被告会社に委託する旨の本件基本契約を締結した事実が認められる。
被告らは、平成10年8月21日に改めて原告と被告会社との間に委託契約が締結された事実はない旨主張し、乙第1号証(被告Aの陳述書)には、本件基本契約書は、原告が、ISO-9001取得のため必要だと言って記名押印を求めてきたもので、契約書記載の条項について何らの説明もなく、条項の読み合わせも確認も一切なかった旨の記載部分がある(なお、甲第19号証によれば、「ISO」とは国際標準化機構のことであり、「ISO-9001」は、同機構が発行している品質システムについての規格の一つで、設計、開発、製造、据付及び付帯サービスにおける品質保証モデルであることが認められる。)。しかし、乙第1号証中、
被告代表者が甲第1号証の内容を理解しないまま記名押印したかのような趣旨の部分は、甲第1号証(本件基本契約書)の記載態様及び前掲各証拠と対比して信用することはできず、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) 請求原因(2)ウについて検討する。
ア 甲第6号証、第8号証の2、第9号証、第22、第23号証、第26、第27号証の1、2、乙第1、第2号証、証人Cの証言、被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、各種昇降機の製造販売、保守点検並びに代理店業務等を行っている。
原告は、建物等の建築を依頼したゼネコン、工務店あるいは商社に対して各種昇降機の販売勧誘を行い、昇降機の販売契約を締結し、さらに据え付けた昇降機の保守点検等請負契約を締結していた。原告は、日本全国を網羅するように営業所・出張所を設置していなかったため、顧客方あるいは現場によっては、予め委託契約を締結していた外部の業者(以下「協力業者」という。)に、昇降機の据付や保守点検等請負業務を行わせていた。原告は、協力業者に対し、販売契約のみ締結している顧客について、アフターサービスとしての無料点検の際に、保守点検等請負契約を原告と顧客の間で締結するよう勧誘して欲しいと依頼していた。
(イ)a 被告Aは、昭和45年に昇降機も取り扱う菱電株式会社いわき営業所の所長となり、福島県において原告製昇降機の販売も扱っていた。被告Aは、東北地方において原告製昇降機を取り扱っていた株式会社東北クマリフト(後に原告に合併(平成6年10月4日登記)。以下「東北クマリフト」という。)の当時の代表者Dから、福島県浜通り地区(福島県の東側3分の1程度の区域)が営業的にも保守管理的にも手薄なのでその地区で東北クマリフトの下請をして欲しいとの依頼を受け、昭和54年5月に菱電株式会社を退職して個人事業主となり、福島県浜通り地区において、原告製昇降機の販売、据付、保守点検等の下請業を開始した。
数年後、Dから茨城県北部における営業及び保守管理も依頼され、福島県浜通り地区と茨城県北部において、原告製昇降機の販売、据付及び保守点検等の下請を行うようになった。東北クマリフトが原告に合併された後は、原告の協力業者として、
従前同様、昇降機の販売や保守点検等請負業務を行っていた。
被告Aは、当初は一人で業務を行っていたが、昭和60年4月から被告Aの長男と2人で行い、平成元年には、被告会社を設立して会社組織で業務を行うようになった。さらに、平成12年4月以降は従業員1名と共に3名で業務を行うようになった。なお、被告Aは昭和59年に昇降機検査士の資格を得、被告Aの長男も平成4年には昇降機検査士の資格を得た。
b 被告Aあるいは被告会社は、設計事務所、建築会社あるいは電気工事会社を回って営業活動を行い、設計事務所等から見積依頼を受けたときには、予め東北クマリフトや原告から受け取っていた価格表等を参考にしながら設計価格を見積もり、東北クマリフトや原告の了解を受けた上で、顧客との間で交渉を行い、東北クマリフトあるいは原告と顧客との昇降機販売契約を成立させた。そして、昇降機販売契約と同時に、あるいは昇降機販売契約後のアフターサービスとしての無料点検の際に、その後の東北クマリフトあるいは原告と顧客との保守点検等請負契約を成立させ、その後の保守点検等請負業務を、東北クマリフトあるいは原告からの委託契約に基づいて行っていた。東北クマリフトや原告が昇降機販売契約を締結した顧客や、東北クマリフトや原告が他社製昇降機の保守点検を委託された顧客に関して、当該顧客の住所あるいはその現場が被告Aあるいは被告会社の担当区域内にあるときは、東北クマリフトあるいは原告からの委託を受けて、据付や保守点検を行い、販売契約のみで保守点検等請負契約を締結していない顧客に対しては、勧誘の上、東北クマリフトあるいは原告と顧客との保守点検等請負契約を成立させて、
委託を受けて被告Aあるいは被告会社が保守点検等請負業務を行っていた。その他、被告Aあるいは被告会社従業員は、顧客となった会社の社長が亡くなったときの弔電等の対応、ゴルフ等のつきあい、各種団体の役員となることなどの顧客とのつながり確保のための活動も行っていた。
被告Aあるいは被告会社は、原告製昇降機販売契約や保守点検等請負契約の見積価格等の了解を得る段階で、東北クマリフトあるいは原告に対して、当該顧客の名称ないし現場名(本件顧客情報@)、当該顧客の住所ないし現場住所(本件顧客情報A)、保守点検額(本件顧客情報B)及び年間保守点検回数(本件顧客情報C)を報告した。また、東北クマリフトあるいは原告が締結し、その履行を委託してきた顧客に関する本件顧客情報については、被告あるいは被告会社は、
東北クマリフトや原告から、委託の際に、当該顧客に関する本件顧客情報の提示を受けた。
イ 以上のとおり、原告と被告Aあるいは被告会社は、それぞれ営業活動を行い、本件顧客情報を得、被告Aあるいは被告会社が福島県浜通り地区及び茨城県北部で据付・保守点検等の委託業務を行うに必要な限りで、本件顧客情報を互いに提示していたということができる。
ウ 原告は、原告従業員が営業活動を行い、本件顧客情報はすべて原告が被告Aあるいは被告会社に開示したと主張し、その旨述べる原告従業員Cの陳述書(甲第23号証)がある。しかし、甲第6号証(平成14年2月13日の被告Aと原告側関係者との打合せ議事録)では、原告側関係者は、被告Aあるいは被告会社が昇降機の販売等の営業活動によって顧客を獲得したとの被告Aの発言を否定していないし、証人Cの証言においても、同証人は同趣旨の被告代理人の指摘を否定しておらず、また、甲第23号証で述べられている原告の従業員が行ったという営業活動の内容はあいまいかつ抽象的であるから、甲第23号証中の上記記載部分は信用することができない。
(4) 請求原因(2)エについては、被告らは、従前の委託契約が平成14年3月末日をもって合意解除されたという趣旨で認めているところ、前記(2)のとおり、本件基本契約の成立が認められるから、本件基本契約は平成14年3月末日をもって合意解除されたものということができる。
3(1) 請求原因(3)のうち、被告会社が、本件基本契約がいまだ存続していた平成14年2月ころから、原告の顧客に対し、面会を求め、電話をし、又は郵便物を送付するなどして、原告との保守点検等請負契約を解除し、新たに被告会社と保守点検等請負契約を締結するよう勧誘した事実((3)ア)、勧誘に際し、原告と顧客との間の保守点検等請負契約よりも低額の保守点検額を示した事実((3)イ(イ))、勧誘の結果別紙目録4@記載の顧客が被告会社と保守点検等請負契約を締結した事実((3)ウ(ア))は、当事者間に争いはない。
(2) 請求原因(3)イ(ア)について検討するに、前記2(3)で認定したとおり、原告と被告会社は、それぞれ本件顧客情報を入手し、また、相互に必要な範囲で本件顧客情報を提示していたのであるから、被告会社は、原告からのみ本件顧客情報を提示されたということはできない。
(3) 請求原因(3)ウ(イ)について検討するに、甲第22号証、第27号証の1によれば、原告は、被告会社から原告の保守点検額よりも低額の保守点検額を示して勧誘を受けた原告の顧客から、保守点検額を見直すように求められ、別紙目録4Aの顧客については、料金の減額している事実が認められる。
4(1) 請求原因(4)アのうち、本件基本契約書が取り交わされたこと、及び同契約書第14条1項には、「乙(注:被告会社)は本契約及び個別契約の履行により知り得た業務上の機密を契約有効期間は勿論、その終了後といえども厳重に保持し、
第三者に漏洩してはならない。」との規定があることは、当事者間に争いはない。
(2) しかしながら、本件基本契約書第14条1項の規定によって、いかなる義務が被告会社に課せられたことになるのかについては当事者間に争いがあるので、これについて検討する。
ア 甲第1号証、第6号証、第22、第23号証、乙第1、第2号証、被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(ア) 東北クマリフトや原告と被告Aあるいは被告会社の間では、昇降機の保守点検等請負業務を被告Aあるいは被告会社に委託する旨の契約を、当初は口頭で行っていた。この口頭の契約において、本件基本契約書第14条1項のような、
機密を厳重に保持し、第三者へ漏洩しないことという合意がなされたことはうかがわれない。
(イ) 原告は、ISO取得のためと称して契約書を作成の上、被告会社に提示した。被告会社が、契約書の条項に異議を述べたり、訂正を求めたりしたことはうかがわれない。
原告と被告会社は、平成10年8月21日付けで、委託契約の内容を明記した原告作成の上記契約書を本件基本契約書として取り交わし、それぞれ記名押印した。
本件基本契約書(「甲」は原告を指し、「乙」は被告会社を指す。)は、1条において「この契約は、甲乙間で締結するすべての個々の取引契約(以下「個別契約」という)に対して、共通に適用するものとする。」、2条において「個別契約は、原則として甲が乙に対し文書又は口頭にて発注し、乙がこれを承諾することによって成立する。」、3条において「甲が乙に対し発注するものは甲の製品にかかわる据付・点検・修理・検査・及び改修工事とする。」、14条1項において前記(1)のとおり、同条2項において、「乙は、甲より貸与を受けた図面、仕様書、規程・規格等(以下貸与書類という)の取扱いについては、特に慎重を期し、その保管管理については一切の責を負うと共に、貸与目的完了後又は甲が指示したとき、遅滞なく甲に返却しなければならない」、22条において、「基本契約および個別契約の規定に関し、疑義を生じたときは、商習慣によるほか、甲乙協議して解決する。」、23条において「この契約の有効期間は平成10年8月21日より平成11年8月20日までとする。但し期間満了の一ヶ月前までに甲乙いずれか一方より文書による何らかの申出のないときは、同1条件で更に一ヶ年継続され、その後もこの例によるものとする。」と規定する。
本件基本契約書には、従前の契約に関しても本件基本契約書記載の各条項の適用がある旨の規定はない。また、「業務上の機密」の使用に関しては特段の条項はない。さらに、「業務上の機密」について具体的に何を指すのか明らかではない。
本件基本契約書以外に、原告と被告会社の間で、本件顧客情報の取扱いや、被告会社が作成保管していた本件顧客情報を記載した顧客名簿等の取扱いについて、何らかの合意がなされたことはうかがわれない。
イ 以上の事実によれば、本件基本契約書第14条1項の規定は、そこに記載された範囲で被告会社に機密保持等の義務を課すものではあるが、その記載の範囲を超えて、「原告の顧客と昇降機の保守点検等請負契約を直接締結するために、本件顧客情報を使用して、原告の顧客を積極的に(即ち、被告会社の方から)、又は消極的に(即ち、顧客の方から契約を希望してくることに応じることで)勧誘してはならない」との義務を被告会社に負わせた趣旨であるということはできない。
被告会社には「本件顧客情報を使用して顧客を勧誘してはならない」との義務があるとの原告の主張は、本件基本契約書の各条項や原告と被告会社との契約書作成及び記名押印に至る経緯等に鑑みて、これを認めることはできない。
(3) 請求原因(4)イについては、前記(2)のとおり、原告主張の義務が被告会社に課せられていたと認めることはできないから、その義務違反行為があったすることはできない。
5(1) 請求原因(5)アについて検討する。
ア 請求原因(5)ア(ア)については、甲第9号証、第23、第24号証、乙第1、第2号証によれば、原告は、昇降機の製造販売のみならず保守点検等請負業務も行い、同業務によっても利益を得ていたことが認められるから、保守点検等請負業務の履行においては、顧客の名称ないし現場名、顧客の住所ないし現場住所、保守点検額、年間保守点検回数といった本件顧客情報が原告の営業に有用な情報であるということができる。
イ 請求原因(5)ア(イ)については、甲第23、第24号証によれば、本件顧客情報が非公知であったことが認められる。
被告は、事務所の外観等によりユーザーであるか否かが判明すると主張するが、事務所の外観等により本件顧客情報の内容が判明するとは考えられず、本件顧客情報が公知となったということはできない。
ウ 請求原因(5)ア(ウ)について (ア) 甲第9号証、第22ないし第24号証、乙第1、第2号証、証人Cの証言、被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、昇降機販売契約、保守点検等請負契約を締結した顧客について、顧客の名称ないし現場名、顧客の住所ないし現場住所、保守点検額、年間保守点検回数といった本件顧客情報を、協力業者ごとにまとめて、台帳を作成していた。被告会社に委託していた顧客に関する台帳は、原告の郡山事務所にて保管していた。同台帳は、事務担当者であるBの机の上に置かれ、事務所に人がいなくなるときは事務所を施錠するという方法で管理されていた。
しかし、原告において、台帳そのものを施錠できる保管場所に置いていたとか、台帳の内容が秘密である旨明示されていたという事実をうかがわせる証拠はない。
また、前記2(3)で認定したとおり、原告と被告会社は、本件基本契約の履行に必要な限りで、互いに本件顧客情報を提示し、それぞれ顧客名簿を作成していた。
さらに、被告会社が本件基本契約を解除する旨通知した際、原告が、被告会社に対し、本件顧客情報が「営業上の秘密」に該当する旨述べたり、被告会社が作成保管する、本件顧客情報を記載した文書等を廃棄するよう求めたりしたことをうかがわせる証拠もない。
(イ) 以上からすれば、本件顧客情報は客観的に秘密であることが認識できるような状態で管理されていたとは言い難く、秘密として管理されていたということはできない。
(ウ) 原告は、本件顧客情報を記した台帳が原告の郡山事務所に置かれ、第三者が事務所内に侵入できないようになっていたから秘密管理性がある、あるいは、本件基本契約書第14条1項により秘密管理性が認められる、と主張する。しかし、本件基本契約書第14条1項は、前記4(2)イ記載のとおり、被告会社に機密保持等の義務を課すものではあるが、何が機密に当たるかを定めたものではないから、同条項を根拠として本件顧客情報の秘密管理性を認めることはできないし、台帳を施錠できる事務所内に置いていたというだけでは秘密として管理していたということはできない。
(2) 請求原因(5)イについては、本件顧客情報を営業秘密ということができない以上、検討する必要をみない。
(3) 請求原因(5)ウについて検討する。
ア 甲第2号証、第3号証の1、2、第4ないし第7号証、第8号証の1ないし6、第9号証、第10号証の1ないし4、第11、第12号証、第16、第17号証、第21ないし第25号証、証人Cの証言及び被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、昇降機の中でも電動ダムウェーター(小型貨物運搬用で、人間を運ぶことはできない。)を主に扱っているが、同機は、扉のロックを1段式とするものであった。平成13年4月、宮城県気仙沼市の原告製昇降機を使用していた現場において、扉のロックの調整が悪かったため関係のない階で扉が開いてしまい、従業員が昇降路に落下して負傷するという事故が発生した。原告は、その原因がロックを一段式にしていたためとその調整の不備にあると判断し、安全サイドにロックがかかるという2段式を採用することとするとともに、従前の1段式のロックが簡単に開かないような調整をすること、及び順次2段式のロックに交換することを、各協力業者に依頼し、そのための部品を送付した。そして、その依頼が実施されているか否かを確認するため、原告は、従業員を顧客方へ派遣し、点検等を行った。
(イ) 被告会社は、部品の送付を受けたものの、具体的な作業マニュアルがないことなどを理由に、すぐには調整あるいは交換等に着手せず、平成13年6月ないし8月に原告から更に要請されたことを受けて、ようやく着手した。
(ウ) 原告従業員は、平成13年9月、10月に福島県いわき市において、
被告会社の保守点検等の実情を点検したところ、清掃状態が原告の満足できる状態ではない、使用上の注意や故障・修理の連絡先電話番号等が記載されたステッカー等が貼付されていない、1段式のロックの調整が不十分である、2段式ロックへの交換が遅れているなどの問題点があると認識した。そこで、原告従業員は、それらをまとめて同年10月10日付けの「いわき市安全品質パトロール結果報告」と題する文書(甲第2号証)を作成し、原告に提出した。
(エ) 原告は、この報告を受けて被告会社と協議し、平成13年10月に福島県浜通り地区の官公庁関係約80台について、被告会社との個別契約を解消し、
原告自らが保守点検等を行うこととした。平成12年10月に当時約240台あった被告会社の担当する原告の顧客の昇降機のうち、既に茨城県北部の約80台については原告の担当へと移管されており、さらに上記約80台についても原告の担当へと移管された結果、被告会社の担当先は約80台となった。その結果、平成13年10月までは原告との関係で月額100万円程度の収入等があったが、これが同年11月以降は月額20万円ないし65万円となったため、被告会社では、従業員への給料の支払さえままならなくなった。
(オ) 被告会社は、平成14年2月12日付けで、本件基本契約を同年3月31日までとしてもらいたいとの希望を原告に対して通知する一方で、同年2月ころから、原告の顧客に対して、平成14年3月末に本件基本契約を解除し、翌4月1日より独立する旨記載した「リフト保守管理についてのお願い」と題する文書(甲第8号証の1)、ダムウエーター所有者(管理者)各位宛で、被告Aの経歴について記載した「経歴書」と題する文書(甲第8号証の2)、「点検仕様書」と題する文書(甲第8号証の4)、同年4月1日付けの「点検契約書」と題する文書(甲第8号証の5)などを配布するとともに、原告の顧客約30名程度には、原告と原告の顧客との保守点検等請負契約における保守点検額よりも低額の保守点検額を記載した見積書を提示するなどして、被告会社と昇降機の保守点検等請負契約を締結するよう勧誘を行った。なお、被告会社には被告A、同人の長男、及び従業員の3名しかいないため、被告Aも直接顧客に対する勧誘行為を行い、後記(カ)記載のことを述べた。
(カ) 被告会社は、原告の顧客を被告会社と直接契約するよう勧誘する際、
次のようなことを述べた。
a 原告が被告会社の取り扱っていた保守点検先を取り上げた。
b 被告会社がその結果倒産の瀬戸際に追い込まれた。
c 原告が昇降機の保守点検等については昇降機検査資格が必要であるにもかかわらず、そのような資格のない新人に行わせている。
d 原告の行う保守点検等について顧客から被告会社に対しクレームがあったため、被告会社が対応した。
e 原告の修理は不十分で、被告会社に修理依頼があった。
f 原告は福島県いわき市から撤退する。
g 原告は、昇降機設置後10年以上経ったものは修理できるものでも機械全体の入れ替えを勧める。
h 原告との契約を維持したまま、被告会社との間で保守点検等請負契約を締結しても問題ない(原告との契約はそのまま無効となる)。その後の処理は被告会社にて行う。
(キ) しかしながら、a、c、f、g及びhについては、次のとおり虚偽かあるいは必ずしも正確なものではなかった。
aについては、確かに原告が被告会社の取り扱っていた保守点検先を原告に移管させた。しかし、原告が被告会社から顧客を移管させた理由は、原告製の昇降機に人身事故を発生させるような不具合が見つかったため、原告が原因を解明し、その解決方法として調整や部品交換を指示したにもかかわらず、被告会社が作業マニュアルがない等の理由で数か月にわたってこれを放置し、原告の再三の要請を受けてようやく調整・交換作業に着手した、といった被告会社側の怠慢によるものである。この理由を知らない顧客が「保守点検先を取り上げた」ということのみ聞くならば、原告が自己の都合のみで被告会社の営業利益を奪ったかのように受け取りかねないから、被告会社の供述は、必ずしも正確なものということはできず、
原告の営業上の信用を害するものであった。
cについては、本件基本契約において実際に対象となる昇降機「電動ダムウェーター」は、建築基準法12条2項による特定行政庁(本件の場合、福島県、福島県いわき市及び茨城県)による定期検査の指定が規定されていなかったのであるから、昇降機検査資格を有する者による定期検査を受ける必要はなかった。
したがって、昇降機の保守点検等について、昇降機検査資格が必要であるとの被告会社の供述は、虚偽である。
fについては、福島県いわき市には、平成14年当時、原告の営業所も出張所もなかったが、そのことは、原告が福島県いわき市から撤退することを意味しておらず、郡山事務所から人を派遣して業務を継続することが可能であり、実際に、原告は福島県いわき市から撤退していない。したがって、撤退したとの供述は虚偽である。
gについては、原告は昇降機設置後10年経過したものにつき入れ替えを求めているわけではないから、虚偽である。
なお、hについては、原告との保守点検等請負契約を維持したまま被告会社と保守点検等請負契約した場合に、原告との契約が当然無効となることはない。無効となる、というのは、被告会社の誤解にすぎない。ただし、これは「競争関係にある他人の営業上の信用を害する」事実の告知には該当しない。
(ク) 原告の顧客のうち、別紙目録4@の顧客は、平成14年4月1日付けで被告会社と昇降機の保守点検等請負契約を締結した。原告は、これらの顧客との保守点検等請負契約が合意解除されたものとして扱った。
イ 以上認定の事実によれば、被告会社は、原告がさしたる理由もなく被告会社から保守点検先の顧客を取り上げたかのように述べた点、原告製の昇降機が昇降機検査士資格を有する者による検査を必要とするところ、原告が同資格を有しない者に違法な保守点検を行わせているかのように述べた点、原告が福島県いわき市から撤退するかのように述べた点、原告が昇降機設置後10年経過した場合には入れ替えを強要するかのように述べた点において、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を原告の顧客に対して告知したものということができ、その結果、原告の営業上の信用が毀損され、原告の営業上の利益が害されたものと認められる。
被告Aの陳述書(乙第1、第2号証)中には、原告の顧客に述べた内容について趣旨が違うなどと述べる部分があるが、被告会社が原告の顧客に送付した書面の内容や原告従業員が顧客から聞き取った内容からすれば、これらの陳述書の記載を信用することはできない。他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
6 請求原因(6)について検討する。
(1) 請求原因(6)アについては、前記5(3)アで認定した事実によれば、本件顧客情報、とりわけ保守点検額の情報を利用して、原告の顧客に対し、被告会社との直接の保守点検等請負契約を締結するよう勧誘したことが認められる。
(2) 請求原因(6)イについて検討する。
ア 甲第1号証によれば、本件基本契約は、原告が、原告製の昇降機を購入したすべての顧客方(現場)において、自ら昇降機を据え付け、あるいはその後の保守点検等を行うことが困難であるため、協力業者にこれを委託する旨の契約であって、協力業者は、原告と当該顧客との間の契約の履行のために、本件基本契約に基づき、保守点検等請負業務を行うにすぎない。このような本件基本契約の性質からすれば、本件基本契約に明示に規定されていなくとも、協力業者は、契約有効期間中は、原告の顧客に対し原告との保守点検等請負契約を解消し、協力業者と直接に契約を締結するよう勧誘してはならない、とりわけ、前記(1)記載のような、保守点検等請負業務を実際行っている顧客先に対して、保守点検額を低額にする旨示した上で勧誘をしてはならないという、信義則上の義務があるというべきである。
イ 被告会社が、本件基本契約により原告から原告の顧客に対する保守点検等請負業務を委託されている立場にありながら、同契約期間中の平成14年2月に、
原告の顧客に対して、被告会社と直接保守点検等請負契約を締結するよう勧誘していた事実、その際、約30件の顧客に対しては、原告との保守点検等請負契約の保守点検額よりも低額の保守点検額を記載した見積書を提出していた事実が認められることは、前記5(3)ア(オ)記載のとおりである。
ウ したがって、被告会社が、本件基本契約の有効期間中に、原告の顧客に対し、直接被告会社と保守点検等請負契約を締結するよう勧誘した行為は、違法なものというべきである。
(3) 請求原因(6)ウについては、前記5において認定判断したとおり、被告会社が一部虚偽事実を告知したと認められる。
(4) 請求原因(6)エについては、甲第22号証によれば、被告会社の勧誘の結果、別紙目録4@記載の48件の顧客が原告との保守点検等請負契約を解除し、別紙目録4A記載の16件の顧客が原告に保守点検額の再考を促し、原告がこれを減額したことが認められる。また、被告会社の虚偽事実の告知により、原告の営業上の信用が害されたということができる。
7 請求原因(7)について検討する。
被告Aは、有限会社である被告会社の代表取締役として、被告会社が原告の顧客に対し、本件基本契約有効期間中に勧誘を行わないよう、また、勧誘において虚偽の事実を述べることのないよう注意すべき義務を有していたというべきところ、
前記5(3)ア(オ)ないし(キ)記載のとおり、自ら勧誘を行い、また原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したものである。
したがって、被告Aは、有限会社法30条ノ3の規定に基づく責任を負うというべきである。
8(1) 請求原因(8)ア(不正競争防止法に関する損害)について検討する。
ア 本件顧客情報が、不正競争防止法2条4項の「営業秘密」に該当することを前提とする本件請求原因(8)ア(ア)(本件顧客情報を使用した勧誘による損害)については、前記5(1)ウで述べたとおり、本件顧客情報が「営業秘密」に該当しない以上、認められない。
イ 請求原因(8)ア(イ)(虚偽事実の告知による損害)について 前記5(3)認定のとおり、被告会社は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を原告の顧客に対して告知し、その結果、原告の営業上の信用が毀損され、原告の営業上の利益が害されたものである。また、前記5(3)ア(ク)及び6(4)の認定によれば、原告の顧客のうち48件の顧客が原告との保守点検等請負契約を解消(原告は解除と扱った。)して被告会社と保守点検等請負契約を締結した上、原告は、16件の顧客との間で保守点検等請負契約の料金を減額することを余儀なくされたものであるが、これらも、被告会社による虚偽事実の告知の影響があったものと推認される。
ただし、この点に関し、甲第4号証、第22号証によれば、原告との保守点検等請負契約を解除した48件中の27件のうち、原告が保守点検先を縮小すると言われたため被告会社と契約したと述べた者が1件あるほかは、原告に昇降機検査資格者がいないと言われた(1件)、原告がいわき市から撤退すると言われた(2件)と述べている者も含めて、昇降機設置当初からの被告会社とのつきあいを理由とするか、独立に当たって保守点検料を減額すると言われたことを理由として、被告会社と契約した旨述べていること、また、原告が保守点検額を減額した16件中の9件のうち、昇降機検査士の資格が必要だが原告には検査資格者がいないと言われた者が3件、原告が福島県いわき市から撤退すると言われた者が2件、原告は設置後10年経過した昇降機の交換を主張すると言われた者が1件であるが、
いずれも被告会社より原告の保守点検額より低額の保守点検額の見積等を提示されていること、被告会社と契約をせず、また原告との契約において保守点検額を減額しなかった顧客で、原告がいわき市から撤退すると言われた者が1件、原告に保守点検先を移管させられたと言われた者が1件であることが認められる。そうすると、原告が顧客を失った原因あるいは原告が保守点検額の減額を余儀なくされた原因としては、被告会社による虚偽事実の告知の存在よりも、むしろ、顧客と被告会社との従前からのつきあいや、被告会社が保守点検額を減額すると言ったことが大きかったものと推認される。
以上の事実も考慮すれば、被告会社の虚偽事実の告知により原告が被った信用毀損による損害としては、100万円が相当であると認める。
(2) 請求原因(8)イについて ア 甲第10号証の1ないし4、第11、第12号証、第20号証の1、2、
第24ないし第26号証、第27号証の1、2、第28号証、証人Cの証言及び被告会社代表者兼被告A本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、顧客が民間の場合は、保守点検等請負契約の契約期間を1年とし、自動更新の規定により当該契約が更新することとしていた。顧客が官公庁の場合は、1年ごとに保守点検等請負契約を締結していた。1年間の保守点検等請負契約の保守点検額につき、年額で支払うか、月額で支払うか、その支払の時期(前払か後払か)等、あるいは保守点検額の受領方法について顧客が原告の銀行口座に振り込むか、原告従業員が顧客方を訪問して集金するかなどは、顧客ごとに異なっていた。なお、協力業者に委託している場合には、その保守点検額のうち約半額を当該協力業者に支払っていた。
(イ) 昇降機の保守点検は、必ずしも当該昇降機の製造会社との間で行う必要はなく、被告会社も原告からの委託を受けて原告製昇降機以外の昇降機を保守点検することがあった。
(ウ) 別紙目録4@記載の顧客(被告会社との間で平成14年4月1日付けで保守点検等請負契約を締結した顧客)と原告との間の保守点検等請負契約は、同日において契約が解除されたものと扱うこととなり、同日以降は、原告が直接保守点検等請負業務を行い、保守点検額を全額受領することとなっていたところ、これができないこととなった。
イ 上記認定を基に、被告会社が本件基本契約の有効期間内に原告の顧客を勧誘し、顧客が本件基本契約の終了日の翌日である平成14年4月1日付で被告会社との間で保守点検等請負契約を締結したことによって、原告に生じた損害を検討すると、この損害は、原告と顧客との間の1年間の保守点検等請負契約の残存月数(消費税導入に伴う契約書書き直し後である、甲第20号証の1、2を基準とする。毎年4月に契約更新している場合は、自動更新規定の存在により契約更新がなされたものとする。)に、保守点検額(年額)を12で除した金額を乗じた金員とみるのが相当であり、その算出結果は、別紙目録5@のとおり、総計368万7567円となる。
ウ 次に、別紙目録4A記載の顧客(原告が保守点検額を減額した者)と原告との間では、被告会社が提示した見積書を踏まえて顧客から減額を求められた原告が即座に対応して金額を変更したものと推測される。
被告会社が本件基本契約の有効期間内に、原告と顧客との間の保守点検等請負契約における保守点検額よりあえて低い金額を見積もりとして提示したことにより、原告に生じた損害は、1年間の保守点検等請負契約の残存月数に、保守点検額減額分(年額)を12で除した金額を乗じた金員というべきであり、その算出結果は、別紙目録5Aのとおり、総計54万2925円となる。
エ なお、原告は、損害の算定に当たっては、昇降機の税法上の耐用年数(17年)等を基準として、各顧客に昇降機を販売した日から耐用年数までの期間は従前の保守点検額を受け取ることができたのであるから、被告会社との間で保守点検等請負契約を締結した顧客については、耐用年数残年数に従前の保守点検額(年額)を乗じた金額が、原告が保守点検額の減額を余儀なくされた顧客については、
耐用年数残年数に従前の保守点検額(年額)から変更後の保守点検額(年額)を引いた金額を乗じたものが、損害であると主張し、その算定に関して甲第27号証の1、2を提出する。
しかし、原告と顧客との保守点検等請負契約は1年間の契約であり、顧客は保守点検等請負契約を必ず原告あるいは原告の協力業者と締結しなければならなかったものではない。また、原告は、耐用年数経過後であっても、保守点検等請負業務を行う以上は保守点検額を受領していたのであって、税法上の耐用年数を基準としていたわけではない。
したがって、原告の主張は採用できない。
オ 以上からすれば、原告は、被告会社が、本件基本契約の有効期間内に原告の顧客を勧誘し、またその際原告と顧客との間の保守点検額よりもあえて低い金額を提示したことにより、原告に生じた損害は、423万0492円であると認められる。
カ 被告会社が虚偽事実の告知をしたことによる損害については、不正競争による損害として前記(1)イにおいて評価しており、更に不法行為として加算すべき損害はない。
(3) したがって、被告会社は、虚偽事実の告知につき不正競争防止法4条、同法2条1項14号に基づき100万円の、本件基本契約有効期間中の原告の顧客への勧誘行為につき民法709条に基づき423万0492円の損害賠償義務を負い、
被告Aは有限会社法30条ノ3第1項に基づき連帯してその支払義務を負う。
9 よって、原告の請求は、主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条64条本文、65条1項本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美