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事件 平成 15年 (ワ) 19005号 損害賠償請求事件
原告 株式会社総合資格
訴訟代理人弁護士 木島昇一郎
同 堀裕一
同 手島万里
同 丸山央
同 島岡清美
被告 株式会社建築資料研究社
訴訟代理人弁護士 石上麟太郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/05/14
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,130万円及びこれに対する平成15年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その2を被告の,その余を原告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告の請求
被告は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成15年8月25日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原被告は,いずれも,主に建築士等の資格試験のゼミナール等の事業を行っている株式会社である。本件において,原告は,原告の講習のシステムに問題がある旨の虚偽の内容を記載したチラシを被告が配布したことにより,原告の信用が毀損されたと主張し,被告の上記行為は不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為及び不法行為に該当するものとして,被告に対し,不正競争防止法4条並びに民法709条及び715条に基づき損害賠償の請求をしている事案である。
1 争いのない事実 (1) 当事者 ア 原告は,「総合資格学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士及び宅地建物取引主任者等の資格試験のゼミナール及びそれに関連する出版等の事業を行っている株式会社である。
イ 被告は,「日建学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士及び宅地建物取引主任者等の資格試験のゼミナール及びそれに関連する出版等の事業を行っている株式会社であり,原告とは競争関係にある。
(2) 被告従業員によるチラシの配布 被告の池袋校勤務の従業員は,平成15年6月ころ,以下の記載のある「2003年度2級建築士学科試験無料解答速報のお知らせ」と題するチラシ(A4サイズで白色の上質紙。以下「本件チラシ」という。)を配布した。
「<ご注意下さい!> 最近,ある建築士講習機関の講座システムが大きな問題になっています。学科と設計のセット入学で学科が不合格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと消滅します。昨年も全国で大勢の被害者が出ています。説明は細かく聞いて,入学願書の裏書は必ず読んでから入学しましょう。」 2 争点及び当事者の主張 (1) 本件チラシの趣旨 (原告の主張) 本件チラシにおいては,「ある建築士講習機関」という表現を用いているが,以下に述べるとおり,本件チラシが原告のことを意味していることは,需用者である建築士試験の受験生には明らかである。つまり,本件チラシは原告の講座システムには「大きな問題」があり,かつそれが現実に世間で大きな問題となっており,全国で大勢の被害者を発生させているものであって,これに応募すべきではなく,被告の講座を受講すべきだと訴えているのである。
ア 本件チラシには,「学科と設計のセット入学で学科が不合格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと消滅します。」とあるが,これは本件チラシが配布された当時における原告の講座システムそのものである。
イ 本件チラシには,「昨年も」とあるが,原告は,平成14年度に設計製図の講座を受講する権利が次年度に繰越し可能となる優遇制度(スライド制度)を創設し,同年6月12日付けで平成14年度の原告の受講生に対して,このことを通知した。本件チラシにおける「昨年も」という記載は,上記のとおり,原告が平成14年度にスライド制度を創設したことと符合する。
ウ 本件チラシには,「全国で大勢の被害者」とあるが,実際には,建築士試験対策講座は原被告2社の寡占状態であり,全国規模で建築士試験の講座を持ち,受講生を有しているのは原告及び被告以外になく,このことは,建築士の受験界において周知である。
エ 本件チラシは被告池袋校において作成されたものであり,その配布対象は,首都圏在住の建築士受験生に限られると思われるところ,特に首都圏は,原告と被告の競争関係が激しい地区であり,受講生の数も拮抗している。そして受験生にとっては,原告を選択すべきか,被告を選択すべきかが毎年のように話題になっており,原被告が他業者の批判をするときは,お互いのことを指していると認識することは受験生にとって周知の事実である。
オ 被告は,本件チラシ以外にも原告に対するネガティブキャンペーンを行っており,ことあるごとに原告の営業活動を妨害してきた,本件チラシ頒布はその一環であるに過ぎない。
(被告の主張) 原告の主張は否認する。本件チラシは対象の特定性を欠くもので,原告の権利を侵害するものではない。
本件チラシにおいては,単に「ある建築士講習機関の講座システム」とするだけで,その記載から対象となった主体は何ら特定されない。単に建築士講習機関の講座というだけであれば全国に無数に存在する。実際に,被告従業員は,被告の経営する建築士講習機関以外の建築士講習機関を広く念頭に置いて,「ある建築士講習機関」という表現を用いたものである。
そこで,本件チラシにおける「建築士講習機関」というのは,どの機関の講座なのかを特定するためには,本件チラシのその他の記述部分すなわち原告主張の表現を借りれば「その講座システムに大きな問題があり,かつそれが現実に世間で大きな問題となっており,全国で大勢の被害者を発生させているものであって,これに応募すべきではないもの」という事実から特定する以外にないのであるが,原告のいうように,チラシの内容が事実無根であるというのであれば,本件チラシを見た需要者において,「ある建築士講習機関」が原告のことであると認識することは不可能である。
しかも,本件チラシは,郵便でのダイレクトメールとファクシミリによる送信がほとんどであり,配布時における四囲の状況等を加味したとしても,対象を特定することはできないものである。
(2) 本件チラシの配布枚数 (原告の主張) 本件チラシは,二級建築士試験を受験しようとする者に対して配布されたものであるが,被告とほぼ同程度と考えられる原告の営業実績から考えて,被告は3000枚程度の本件チラシを配布したものと考えられる。
仮に3000枚という配布枚数が認められないとしても,被告の主張する110枚という配布枚数は,あまりに過少というべきである。本件チラシは被告池袋校作成に係るものであるが,被告池袋校が勧誘対象とする者は500名程度は存在すると合理的に考えられるところ,チラシ配布に要する費用はわずかなものであり,チラシや学校案内は勧誘対象の者全員に配布するというのが通常の経営判断であることからすれば,少なくとも500名以上の建築士受験生に対して本件チラシが配布されたものというべきである。
(被告の主張) 原告の主張は否認する。被告の従業員が配布した枚数は,ダイレクトメールと直接配布分が約50部,ファクシミリでの送信が約60部の合計約110枚にすぎない。
被告は,そもそも,勧誘対象の者全員に同一のダイレクトメールを送付するような営業方法は採用しておらず,本件チラシのようなダイレクトメールによる営業活動の対象となる者は,@直接訪問したり,電話をかけることができない場合で,かつA日建学院に入学するかどうか判断を保留している者に限られる。しかも,そうしたダイレクトメールは全国に130校ある被告の各支店別に行うのが原則であり,本件チラシも池袋校のみで作成配布したにすぎない。したがって,110枚という配布枚数は何ら不自然なものではない。
(3) 原告の損害 (原告の主張) ア 被告が配布した本件チラシの内容は事実無根であり,また全国で大勢の被害者発生と極めて刺激的な文言を使用して原告の信用を毀損し,営業妨害を図ったものである。本件チラシは,被告のアンケートに応じた受験生,被告の受講生(現在及び過去),その他被告が把握している受験生に広く配布されたものであり,その被害は甚大である。
原告の受けた信用毀損の損害は,500万円を下回ることはない。
弁護士費用としては100万円が相当である。
(被告の主張) 原告の主張は,否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件チラシの趣旨)について 前記争いのない事実に証拠(甲1ないし9)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1) 原告は,「総合資格学院」の名称で,主に一級建築士,二級建築士等の資格試験の講習機関の経営等の事業を行っており,被告は,「日建学院」の名称で,同様に主に一級建築士,二級建築士等の資格試験の講習機関の経営等の事業を行っており,原告と被告は競業関係にある。
建築士試験対策の講座を全国に展開している講習機関としては,原告と被告があるのみであり,建築士試験対策講座の事業分野については,事実上原告と被告の2社による寡占状態となっている。毎年,この両社による受講者の獲得競争が行われており,特に首都圏においては,建築士試験受験者の数も多く,原告と被告の受講生の数も拮抗しているため(平成15年における二級建築士試験対策講座の受講者数は,原告が893名,被告は1450ないし1650名),原告及び被告は,受講生獲得のための激しい営業活動を展開している。
これらの事情が,すなわち,建築士試験対策の講習機関の業界が事実上,原告及び被告の2社による寡占状態となっていること,首都圏において双方の受講生の数が拮抗していること,原被告双方による激しい受講生獲得競争が行われていることは,建築士試験の受験業界及び受験生の間では周知の事実となっている。
(2) 建築士試験(一級,二級)は,学科試験と設計製図試験とに分かれており,受験生はまず学科試験を受験し,合格者のみが次の設計製図試験に進むことができることとされている。そして,翌年のみ,設計製図試験の不合格者は学科試験が免除され,設計製図試験を受験することができるとされている。さらに,平成14年度から試験制度が変更され,従来認められていなかった学科試験問題の持ち帰りが許されることになるとともに,試験も相対試験から絶対試験へと衣替えしたため,同年度からは受験生は早期にかなりの確度で学科試験の合否が分かるようになった。
(3) 原告は,こうした試験制度の変化に対応すべく,平成14年度から,学科試験対策講座と設計製図試験対策講座をセットで申し込んだ受講生を対象として,学科試験の得点が基準点に達しないことが予想される場合に,原告の設計製図講座を受講する権利を次年度に繰越すことができる(ただし,次年度に受講しないと,権利は失効する。)こととする制度を導入することを決め,平成14年6月12日付けで原告の二級建築士試験対策講座の受講生に対して告知した。
(4) 本件チラシは,「2003年度2級建築士学科試験無料解答速報のお知らせ」と題するもので,その内容からして二級建築士の試験受験者ないし受験希望者を配布対象とするものであるが,同チラシ右下部分に「<ご注意下さい!>」との見出しのもとに「最近,ある建築士講習機関の講座システムが大きな問題になっています。学科と設計のセット入学で学科が不合格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと消滅します。昨年も全国で大勢の被害者が出ています。説明は細かく聞いて,入学願書の裏書は必ず読んでから入学しましょう。」との文章が記載されている(甲1)。
上記の各事実を総合すると,本件チラシにいう「ある建築士講習機関」とは原告の経営する「総合資格学院」を意味するものであり,このことは,本件チラシ配布当時において需要者である建築士試験受験生,建築士試験受験業界の関係者には明らかであったものと認められる。
この点,被告は,「ある建築士講習機関」はそもそも原告の経営する「総合資格学院」のみを意味するものではないし,需要者の側においてもそのように特定することはできないと主張する。しかしながら,建築士試験受験対策の講習機関の業界が,原告と被告の2社による寡占状態にあり(被告自身,自ら配布しているチラシ〔甲9〕の中で,全体の受験生の90パーセントが原告の経営する講習機関か被告の経営する講習機関に通っていることを認めている。),原告と被告の間で毎年激しい受講生の獲得競争が行われているといった事情に加え,本件訴訟において,被告は,原告の経営する講習機関以外のどの講習機関が上記「ある建築士講習機関」に該当するのかを明らかにしていないことに照らせば,本件チラシにおける「ある建築士講習機関」が原告の経営する講習機関を意味することは,明らかというべきである。さらに,上記の各事実によれば,本件チラシを受け取った受験生や受験業界関係者が,本件チラシにおける他の記載と併せて読めば,「ある建築士講習機関」が原告の経営する講習機関を意味するものと容易に認識することができたというべきである。
2 争点(2)(本件チラシの配布枚数)について 前記争いのない事実に証拠(甲10ないし12,乙1ないし3)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件チラシは,平成15年4月中旬に,二級建築士試験の願書受付会場で被告が行ったアンケートの結果に基づき,池袋校が担当することになる地域に居住しているアンケート回答者(約2700名)のうちで,主として訪問,電話での営業が困難な者でかつ被告の開設する講座を受講する可能性のある者に対し,ダイレクトメールと直接配布で約50枚,ファクシミリ送信で約60枚,合計110枚配布されたものと認められる。
原告は,被告の池袋校の規模や被告の営業活動の方法から考えて,少なくとも500枚以上は配布していたはずである旨の主張をするが,これを裏付ける証拠はなく,かえって,甲10号証によって認められる原告が本件チラシを入手した際の状況に照らせば,本件チラシはアンケート回答者すべてではなく,対象者を絞って配布されたものと推認されるところであり,原告の主張は採用することができない。
3 争点(3)(原告の損害) (1) 本件チラシは,原告の経営する建築士試験講習機関の講座システムについて,システムに大きな問題があり,かつそれが現実に世間で大きな問題となっており,平成14年にも全国で大勢の被害者を発生させているものであってこれに応募すべきでないことを訴える内容のものであり,かつ,かかる内容を訴えたチラシであることは,本件チラシを受け取った建築士試験の受験生及び受験関係者には容易に認識し得たものである。
そして,本件全証拠によっても,原告の経営する建築士試験講習機関の講座システムに大きな問題があることや,平成14年に全国で大勢の被害者が出ていた事実を認めることはできず,本件チラシの記載が真実のものであると認めることはできない(被告も,本件訴訟において,内容が真実であるとの主張は,していない。)。
(2) そうすると,本件チラシの配布行為は,競争関係にある原告の信用を低下させる虚偽の事実を告知する行為と認められる。したがって,被告の従業員による本件チラシの配布行為は,不正競争防止法2条1項14号に該当する(併せて不法行為にも該当する。以下同様。)というべきである。
(3) 以上述べたところに,弁論の全趣旨を総合すると,被告は,本件チラシの内容が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を含むものであることを知りながら,これを配布したものと認められるから,被告は,上記不正競争行為(不法行為)によって原告が受けた損害を賠償する責任がある。
そして,被告の本件チラシの配布枚数や本件チラシの記載内容等の本件において認められる一切の事情を斟酌すると,原告の営業上の信用が害されることで原告が被った損害は,100万円と認めるのが相当である。
(4) 原告が,本件訴訟を遂行するにあたり,その訴訟活動を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であるところ,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を考慮すると,被告による不正競争行為(不法行為)と相当因果関係のある弁護士費用は30万円をもって相当と認める。
4 結論 以上のとおりであるから,原告の被告に対する請求は,被告に対し,130万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成15年8月25日から支払済みまでを求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 松岡千帆
裁判官 大須賀寛之