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関連ワード 営業上の利益 /  損害額の推定(損害額と推定) /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  秘密として管理 /  営業上の情報 /  営業秘密 /  2条1項4号 /  2条1項7号 /  保有者 /  不正の利益を得る目的(図利目的) /  損害賠償 /  損害額 /  推定 /  被侵害者 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 424号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 株式会社武蔵情報システム
同訴訟代理人弁護士 伊東章
被控訴人 B
同訴訟代理人弁護士 坂下裕一
同 佐藤倫子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/22
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,350万円及びこれに対する平成14年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文第1項と同旨
事案の概要
1 控訴人は,その従業員であった被控訴人に対し,同人が業務上知り得たデータを,控訴人に無断で,第三者に漏洩したから,これは,業務上知り得た秘密を第三者に漏洩しないことを定めた雇用契約上の特約違反に当たり,また,営業秘密を不正に開示したものとして不正競争防止法2条1項4号又は7号に当たる旨主張して,主位的に,債務不履行に基づく損害賠償請求として,予備的に,不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求として,損害金350万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成14年11月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は,控訴人の本訴請求をいずれも棄却したのに対し,控訴人は,その変更を求めて本件控訴を提起した。
2 当事者の主張は,次のとおり当審における追加的な主張の要点を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 原告の請求原因」,「第3 原告の請求原因に対する被告の答弁及び主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ただし,原判決1頁25行目の「原告は」を「被控訴人は」と,同3頁9行目の「不正競争よって」を「不正競争によって」と,同10行目の「被告の損害」を「控訴人の損害」と,同13行目の「金額の額」を「金銭の額」とそれぞれ改め,同4頁17行目冒頭から19行目末尾までを削除する。) 3 当審における控訴人の追加的な主張の要点 (1) 被控訴人の不正競争行為は,不正競争防止法2条1項4号又は7号に該当する。
(2) 被控訴人の債務不履行による控訴人の損害については,不正競争防止法5条3項(平成15年法律第46号による改正後のもの,以下同じ)を類推適用すべきである。
(3) 本件においては,控訴人は,損害発生の事実を立証する必要はない。すなわち,不正競争防止法5条3項は,「当該侵害に係る営業秘密の使用」(同項3号)に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,損害額と推定している。上記規定の趣旨は,不正な手段による営業秘密侵害が発生すれば,そのこと自体により,侵害者が利益を取得し,被侵害者が損害を被ったことが推測されるから,あえて被侵害者が損害発生の事実を立証する必要がないことを定めたものと解すべきである。したがって,本件においては,不正競争防止法2条1項4号又は7号所定の不正競争行為が行われた以上,控訴人が上記推定額を請求するために,損害発生の事実を立証する必要はない。
(4) 本件においては,控訴人に現実に損害が発生している。すなわち,控訴人会社の従業員であるC(以下「C」という。)は,被控訴人から営業秘密を入手したD(以下「D」という。)から勧誘されて,Dの下で働く決意をし,平成13年1月31日,控訴人会社に対し退職届を提出したが,その後,控訴人の長時間にわたる説得により翻意したものである。また,同じく従業員であったE(以下「E」という。)は,平成14年3月31日,突然控訴人会社を退職したが,これも,被控訴人から営業秘密を入手したDの勧誘によるものと考えられる。
4 当審における被控訴人の追加的な主張の要点 (1) 控訴人は,請求原因として,損害発生の事実を主張立証すべきである。
(2) 仮に,損害発生の事実が請求原因ではなく,損害の不発生が抗弁となるとしても,本件において,控訴人に損害が発生していないことは明らかである。
すなわち,Dが控訴人会社所属のシステムエンジニアを実際に引き抜いた事実は一切ないし,その他,Dが本件データを利用して競業行為を行うなど控訴人に損害を与えた事実はないから,上記抗弁が成立するのは明らかである。控訴人会社の実質的代表者であるF(口頭弁論終結後に代表取締役となった。)は,控訴人会社所属のシステムエンジニアがDにより引き抜かれそうになった旨証言するが,そのようなことがあったとしても,これが被控訴人の行為の結果生じたものとはいえないし,引き抜かれそうになっただけでは損害といえない。
(なお,控訴人が上記引き抜きの事実を立証するためとして提出した甲13の11,甲14の5は,時機に後れて提出された攻撃防御方法として,民訴法157条により却下されるべきである。)
当裁判所の判断
1(1) 当事者間に争いがない事実並びに証拠(甲1ないし4,甲6,甲7,甲9の1・2,甲10,甲11の1・2,甲12,甲13の4・6・8・10・11・13,甲14の1・2・4・5・6,乙1,2,原審証人F,同G,被控訴人本人(原審))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる(なお,控訴人の甲13の11,甲14の5の提出により,本件訴訟の完結が遅延することとなるとは認められないから,被控訴人の攻撃防御方法の却下の申立ては理由がない。)。
ア 被控訴人は,平成12年3月30日,時間給800円,「業務上知り得た秘密については,作業期間中も作業契約が終了した後も第三者に漏洩しない。」等の約定で,控訴人会社に雇用された。被控訴人は,控訴人会社所属のシステムエンジニアの月々の請求額をデータとして入力し,顧客先に対して送付する請求書を作成するなどの経理事務等に従事していた。
イ 控訴人は,コンピューターのソフトウェアの開発・企画及び販売等を目的とする株式会社である。具体的には,システム開発業務を請け負い,約70名のシステムエンジニアを顧客に派遣する人材派遣業務を行っていた。控訴人会社の業務上,優秀なシステムエンジニアを多数抱えることが重要であったことから,システムエンジニアの引き抜きを防止するため,控訴人会社所属のシステムエンジニアに関する情報,すなわち,システムエンジニアの連絡先や,システムエンジニアの売上高,報酬額,その差額である粗利益等のシステムエンジニアに関する情報(本件データ)は,人材派遣業の営業上の秘密事項であった。
本件データは,控訴人会社本社に設置されたサーバーコンピューターのデータベースに管理されており,本件データにアクセスするためには,上記サーバーコンピューターにアクセスした上,パスワード及びIDを入力する必要があった。
被控訴人を含め,控訴人会社本社に勤務する従業員5名には,事務処理の必要上,パスワード及びIDが知らされ,本件データにアクセスできるようになっていた。反面,控訴人会社所属の約70名のシステムエンジニアには,パスワード及びIDが知らされず,本件データにアクセスできないようになっていた。
ウ 被控訴人は,平成13年3月7日から同年4月6日までの間,控訴人会社本社での経理事務のほか,週3日ほど控訴人の顧客である訴外会社(株式会社富士通中国システムズ)のシステム開発業務に従事することになった。同様に,控訴人会社の従業員のG(以下「G」という。)も,同年2月24日から同年5月31日までの間,訴外会社のシステム開発業務に従事した。現場では,控訴人の委託を受けたDが,システムエンジニアとして開発業務に従事し,責任者の立場で作業を指揮していた。
被控訴人は,上記システム開発業務に従事していた期間中,Dの依頼に応じて,控訴人会社本社のデータベースに保管されていた本件データをフロッピーディスクに保存した上,3回にわたって,その内容をパソコンの画面に一時的に表示して,Dに開示した(以下「本件開示行為」という。)。Gは,本件開示行為を目撃していた。
Dは,当時,控訴人から独立して,自らシステムエンジニアを抱えてシステム開発事業を行うことを計画していた。
エ Gを含め,控訴人会社所属の4名のシステムエンジニアが,次のとおり,Dから,控訴人会社を離れてDと共に働くことの勧誘を受けた。
すなわち,Gは,上記ウのシステム開発業務に従事中,Dから上記趣旨の勧誘を受けた。
また,Hは,平成13年6月ころ,Dから上記趣旨の勧誘を受けた。
さらに,Cは,平成14年1月ころ,Dから上記趣旨の勧誘を受け,同月31日,控訴人に退職届(甲14の6)を提出したが,その後,控訴人からの説得を受けて,上記退職届を撤回した。(なお,上記退職届の提出により,同年2月1日には,Cに対する上記勧誘の事実が明らかになり,その調査の過程で,被控訴人の本件開示行為も判明した。) 加えて,Eは,平成14年3月,Dから上記趣旨の勧誘を受けた。なお,控訴人会社従業員のIは,同月,Dからの依頼に応じ,Eの連絡先等の情報をDに教えた。
オ Dによる上記勧誘にもかかわらず,控訴人会社所属のシステムエンジニアのうち,同社を離れて実際にDと共に働くことになった者はいない。また,Dによる上記C及びEに対する勧誘行為が,被控訴人の本件開示行為に基づくものであるとは認められない(なぜなら,@本件開示行為の態様は,被控訴人がDに対し,3回にわたって,本件データの内容をパソコンの画面に一時的に表示して開示したというものにすぎず,Dが本件データの内容を正確に保存し利用することができる態様ではない。ACについては,勧誘を受けたのは,本件開示行為から1年近くも経過してからであるから,同勧誘が本件開示行為に基づくものであるとは認められない。BEについても,同様の理由により,勧誘が本件開示行為に基づくものであるとは認められず,むしろ,Iから教えられた情報に基づいてDによる勧誘が行われたものとも考えられるからである。)。
カ 被控訴人は,平成14年3月31日,控訴人会社を退職した。
(2) なお,被控訴人は,原審において,「被控訴人は,請求書作成の便宜のため,独自に,取引先名,取引先担当者名,社員名,時給,勤務時間,請求書作成日,請求書郵送日等を一覧表にしたデータを個人用に作成していたところ,平成13年3月14日ころ,Dから,振り込まれた給与が少ないので確認したいと頼まれて,上記データを1回見せただけである。」旨供述し,乙第1号証にも同趣旨の記載がある。しかしながら,Dに振り込まれた給与額が少ないのであれば,Dが控訴人会社の担当者に直接問い合わせるのが自然であるのに,わざわざ被控訴人に確認を依頼したという点や,本件データが控訴人会社に存在するにもかかわらず,合理的な理由もなく,わざわざ被控訴人が個人用にデータを作成したという点など,被控訴人の上記供述内容等自体不自然といわざるを得ず,原審証人Gの証言に照らしても,採用することはできない。
一方,控訴人は,「被控訴人が,訴外会社の開発業務に従事中,Dに対し,ほぼ毎週3回程度,更新された本件データをフロッピーディスクに保存して交付した。」旨主張し,Gの陳述書(甲9の1,2)には,これに沿う内容の陳述記載があるが,原審証人Gは,「上記陳述記載は,被控訴人がDに本件データを見せていたとの趣旨であり,フロッピーディスクを渡すところは見ていない。」旨証言しているから,フロッピーディスク交付の事実までは認めることはできない。
2 上記認定の事実を前提に判断する。
(1) 主位的請求について 控訴人と被控訴人との間の雇用契約において,被控訴人が業務上知り得た秘密は作業期間中及び作業契約の終了後でも第三者に漏洩しない旨の特約が成立していることは,当事者間に争いがない。
しかるに,前記認定のとおり,被控訴人は,業務上知り得た秘密である本件データを第三者であるDに漏洩したことが認められるから,被控訴人には,上記特約の債務不履行があるというべきである。
しかしながら,民法上の債務不履行について,民法の特別法である不正競争防止法5条3項の規定が適用ないし類推適用される余地はないというべきであるから,控訴人の損害に関する主張は,それ自体失当である。したがって,控訴人の主位的請求は理由がない(なお,後記(2)のとおり,本件開示行為により控訴人には損害が発生していないものと認められるから,この観点からも,主位的請求は理由がない。)。
(2) 予備的請求について ア 本件データが,控訴人会社本社に設置されたサーバーコンピューターのデータベースに管理され,それにアクセスするためには,被控訴人を含めた5名の本社勤務の従業員のみに知らされていたパスワード及びIDが必要であったことは,当事者間に争いがないから,本件データは,秘密として管理されていたものと認められる。
また,本件データは,前記認定のとおり,控訴人の人材派遣業務に有用な営業上の情報であると認められるばかりでなく,その情報の内容に照らして,公然と知られていないものと認められる。
したがって,本件データは,不正競争防止法2条4項所定の「営業秘密」に該当するものというべきである。
イ しかしながら,被控訴人が,本件開示行為当時,不正の競業その他の不正の利益を得る目的,ないしは営業秘密保有者に損害を加える目的を有していたことまで認めるに足りる的確な証拠はない(前記認定のとおり,本件開示行為の態様は,被控訴人がDに対し,3回にわたり,本件データの内容をパソコンの画面に一時的に表示して開示したというものにすぎないことも考慮すれば,なおさら上記図利加害の目的を認めるに足りない。)。したがって,本件開示行為が,不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正開示に該当するということはできない(なお,被控訴人は,もともと本件データを業務上使用していたのであるから,本件データは,窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段により取得されたものではないので,本件開示行為は同項4号には該当しない。)。
ウ また,仮に,被控訴人のDに対する本件データの漏洩が,不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用若しくは開示に当たるとしても,本件においては,控訴人に損害の発生はあり得ないものというべきである。
すなわち,不正競争防止法5条3項は,同法2条1項7号所定の不正競争により営業上の利益侵害された者は,当該侵害に係る営業秘密の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨規定する。同規定によれば,営業上の利益侵害された者は,損害の発生について主張立証する必要はなく,営業上の利益侵害の事実と受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが,侵害者は,損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して,損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。けだし,同規定は,不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であって,損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があるとすることは,不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかなく,同規定の解釈として採り得ないからである。
しかるに,前記認定事実によれば,@本件開示行為の態様は,被控訴人がDに対し,3回にわたって,本件データの内容をパソコンの画面に一時的に表示して開示したというものにすぎず,Dが本件データの内容を正確に保存し利用することができる態様ではないこと,A控訴人会社所属の4名のシステムエンジニアが,Dから,控訴人会社を離れてDと共に働くことの勧誘を受けたものの,上記勧誘にもかかわらず,控訴人会社所属のシステムエンジニアのうち,実際に控訴人会社を離れてDと共に働くことになった者はいないこと,BDによるC及びEに対する上記勧誘行為が,被控訴人の本件開示行為に基づくものであるとは認められないことが明らかであるところ,これらの事実によれば,本件開示行為により控訴人には損害が発生していないものと認められる。したがって,本件において,被控訴人が不正競争防止法5条3項に基づき損害賠償責任を負うことはないというべきである。
3 結論 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人
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