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事件 令和 2年 (ネ) 1222号 損害賠償等請求控訴事件

控訴人(一審原告) P1ことP2
同訴訟代理人弁護士 溝上哲也
被控訴人(一審被告) 株式会社 ザシティ
同訴訟代理人弁護士 中田明
同 松村幸生
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2020/11/13
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,4764万円及びこれに対する平成30年10 月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,その運営するウェブサイト(http://city.saikyou.biz/)に, 別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を,別紙掲載条件目録記載の掲載条件により, 1か月間掲載せよ。
4 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
事案の概要
以下で使用する略称は,特に断らない限り,原判決の例による。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に 認定できる事実。書証は枝番号を含む。)(1) 当事者等(甲1,45) 控訴人は,P1の屋号で,主にパチンコ店向けにホームページ制作,シス テム開発,サーバー構築,販促ツールの開発・販売等を行う個人自営業者で ある。
被控訴人は,遊技場経営等を目的とし,東京都,神奈川県,埼玉県等にお いて,14店舗のパチンコ店の企画・運営を行っている株式会社である。被 控訴人の取締役はP3,P4及びP5であって,代表取締役はP3である。
株主は2名であり,P4が120株,P5が80株を有している。
(2) 本件コンテンツ(甲5,6) 控訴人は,商品名を「モバスロ」,「モバスロ2」及び「美女コレクショ ン」と題する,パチンコ店向けの顧客誘引を目的とするゲームコンテンツ (以下,前二者を「モバスロ」といい,これと「美女コレクション」を合わ せて「本件コンテンツ」という。)を開発・販売している。
本件コンテンツは,これを導入したパチンコ店が,メールやSNSを利用 して,顧客に対し,携帯電話の画面上でスロットゲーム等をするよう促し, ゲームで「大当たり」が出た場合に表示される画面(当選画面)に,特定の 遊技機を示唆する画像や,特定の遊技機を示唆する扮装(コスプレ)をした 女性の画像を使用することで,当該遊技機がパチンコ店の推奨機種であるこ とを示し,パチンコ店に出向くよう顧客を誘引することができる。
(3) 本件講習会の実施及びその内容 埼玉県警察は,平成30年10月3日, 同県北部において営業するパチ ンコ店の管理者(店長等)を対象とした管理者講習会(本件講習会)を実施 した。
本件講習会において,埼玉県警察の担当者は,受講者に対し,風俗営業等 の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)及び同法に基づく埼玉県 条例違反となり,行政処分の対象となる広告宣伝について説明し,そのよう な広告宣伝を行わないよう注意を促した。もっとも,控訴人の商品の名称で ある「モバスロ」や「美女コレクション」が明示されることはなかった。
(4) 本件メッセージの送信及び転送等(甲7,8) 本件講習会に出席した被控訴人の深谷店店長であるP6は,平成30年1 0月3日,ライン(メッセージや画像・動画のやり取り等を行うSNSアプ リ)上の,被控訴人の経営する各店舗の店長や本社の従業員等17名が参加 するメッセージグループ(店長ライン)に,「本日の埼玉県北地域の管理者 講習の内容共有です。」として,本件講習会で指摘された事項を,「みなし 機について」及び「広告宣伝について」の各表題の下それぞれ要約したメッ セージ(本件メッセージ)を送信した。
本件メッセージの中において,「広告宣伝について」のAとして「名指し でモバスロは禁止。(機種画像を送るなら)」,同じくBとして「名指しで 美少女コレクションで機種,メーカーなどを示唆する物は禁止。」との記載 部分(本件部分)が存在した。
被控訴人の川越店店長であったP7は,本件メッセージを閲覧し,これを, 株式会社ジーズ(以下「ジーズ」という。)及び株式会社DMM(いずれも, パチンコ店を取材して,広告宣伝を雑誌やウェブ上に掲載することを業とす る取材会社である。)の担当者に転送するとともに,内容について電話で問 い合わせた。
控訴人は,同月23日ころ,取引先からの情報提供により,被控訴人以外 のパチンコ店に本件部分の内容が流布していることを知った。
2 控訴人の請求と訴訟の経過 控訴人は,被控訴人に対し,P6が,本件講習会において,名指しで「モバ スロ」及び「美女コレクション」を利用した広告,宣伝は禁止されるとの説明 がなされた旨の本件メッセージを被控訴人の他の店長らに送信した行為,及び これを閲覧したP7が当該メッセージを社外の第三者(取材会社)に転送した 行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は 流布する」不正競争行為(平成30年法律第33号による改正前の不正競争防 止法〔以下「不競法」という。〕2条1項15号。令和元年7月1日の改正法 施行後は21号であるが,以下,同改正前の号による。)に該当し,あるいは, P6及びP7が,真偽の確認をせず,また外部拡散の防止等をせず,虚偽の情 報を送信,転送したことは,不法行為に当たり,被控訴人に使用者責任が成立 すると主張して,不競法4条,又は民法709条,715条1項に基づき,損 害賠償金(逸失利益)4764万円及びこれに対する平成30年10月3日 (本件メッセージの送信の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44 号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求めるとともに,不競法14条に基づき,ウェブサイトへの謝罪文の掲 載を求めている。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。
3 争点(1) 控訴人と被控訴人は不競法2条1項15号の「競争関係」にあるか(2) 本件部分の内容が不競法2条1項15号の「虚偽の事実」に当たるか(3) 本件メッセージの送信行為及び転送行為等が 不競法2条1項15号 の 「告知又は流布」に当たるか(4) 不法行為責任及び使用者責任の有無(5) 損害の発生及びその額(6) 信用回復措置の必要性4 争点に関する当事者の主張 次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第2の3に記載のとおり であるから,これを引用する。
(原判決の補正)(1) 原判決6頁20行目の「著しく」の次に「客の」を加える。
(2) 原判決6頁25行目の「生活安全課」を「生活安全局」に改める。
(3) 原判決9頁11行目の「乗せられ」を「載せられ」に改める。
5 当審における控訴人の主張(1) 争点(1)(控訴人と被控訴人は不競法2条1項15号の「競争関係」にあ るか)について 次のことからも,控訴人と被控訴人は,不競法2条1項15号の「競争関 係」にあるといえる。
ア 不競法1条に照らすと,同法は,事業者間の公正な競争の確保を趣旨 とするものであって,そもそも競争関係が存する場合に限定されていな い。したがって,不競法2条1項15号において,告知者が競争上不当 な利益を得ることまで要件とするべきではない。同号の「競争関係」は 緩やかに解するのが相当である。
イ 誹謗者が,一体となって事業を行っているグループ会社の一員である 場合は,グループを構成する他の会社の行っている事業と,誹謗の相手 方の事業との間において,その需要者又は取引者を共通にする可能性が ある場合には,「競争関係」にあると判断されるべきである。
シティグループは,株主構成及び役員構成に照らすと,実質的に同一 の会社というべきであり,訴外シティコミュニケーションズのウェブサ イトの記載内容に照らすと,一体となって事業を行っているということ ができる。
(2) 争点(2)(本件部分の内容が不競法2条1項15号の「虚偽の事実」に当 たるか)について 本件部分の記載は,不競法2条1項15号の「虚偽の事実」に当たるとこ ろ,原審の判断手法は誤っている。
ア 不競法2条1項15号の「虚偽の事実」に当たるか否かの判断に際し ては,本件部分の記載が端的に虚偽であるか否かが判断されなければな らない。すなわち,埼玉県警察の担当者の説明と,本件部分の記載を対 比して,埼玉県警察の担当者が本件講習会で,@ 控訴人の商品「モバス ロ」の名称を示して機種画像を送るなら禁止と説明したか否か,A 控訴 人の商品「美女コレクション」の名称を示して機種,メーカーなどを示 唆するものは禁止と説明したか否かが判断されなければならない。
イ しかし,前記前提事実(3)(4)のとおり,本件講習会において,控訴人 の商品の名称である「モバスロ」及び「美女コレクション」は,いずれ も明示されなかったにもかかわらず,本件部分では,「名指しでモバス ロは禁止。(機種画像を送るなら)」,「名指しで美少女コレクション で機種,メーカーなどを示唆する物は禁止。」と記載された。
ウ 以上のとおり,本件部分は,前記@Aいずれについても,控訴人の商 品名が受講者に明示されていなかったにもかかわらず,「名指しで」示 されたと記載された点において虚偽である。それ以外の記載においても, @の場合は機種画像を送れば禁止,Aの場合は機種,メーカーを示唆す れば禁止との条件が付されていたにすぎず,使い方によっては禁止され ない場合があると読み取れるとしても,その記載によって埼玉県警察が 控訴人の商品が禁止対象となると示したことが否定されるものではなく, 本件部分が全体として客観的事実に反するものであったことに変わりは ない。
これに対し,埼玉県警察の本件講習会の担当者の説明内容とP6の立 場ないし理解を対比するという原審の判断手法は,誤りである。
(3) 争点(4)(不法行為責任及び使用者責任の有無)について P6及びP7の行為は不法行為を構成し,被控訴人には使用者責任が成立 する。
ア P6の行為について P6は,あえて「名指しで」という事実と異なる表現を選択し,虚偽 のメッセージを店長ラインに送信したのであるから,注意喚起のために は受け手が誤解して控訴人の信用が毀損されても構わないという認識で あったというべきである。
また,店長ラインの利用については全くルールが定められておらず, いわゆる社内の情報を除き,外部から取得した公開情報については,そ のグループ外に転送することが許容されていたと考えるのが自然である。
したがって,送信内容が外部に漏洩することは,P6において容易に 予見できたというべきであるから,P6は,外部流出を防止する措置を とるべき義務を負っていたところ,この義務を怠ったというべきである。
イ P7の行為について P7は,本件メッセージを取材会社に転送したが,転送先のジーズの 担当者であるP9(以下「P9」という。)は,単なる情報の共有であ り,P7から外部に出さないよう要望されたことはなかったと述べてい る。
P7は,店長ラインに掲載された内容を外部に告知する際は,内容が 事実であるかを確認した上で告知するか,真偽不明であれば少なくとも 第三者への伝達を禁止して告知する義務を負っていたところ,この義務 を怠ったというべきである。
当裁判所の判断
1 認定事実 次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1(原判決14 頁17行目から21頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用す る。
(原判決の補正) (1) 原判決14頁19行目の「甲2ないし4,22」を「甲2〜4,35〜 41,45,46」に改める。
(2) 原判決14頁20行目から15頁7行目までを次のとおり改める。
「ア 訴外シティコミュニケーションズは,不動産の売買,交換又は賃貸借 等の業務,経営コンサルタント業務,労働者派遣事業等を目的とする株式会 社である。その取締役はP5,P4及びP3であり,代表取締役はP5及び P4である。(甲2) 訴外シティコミュニケーションズは,自社の会社概要において,被控訴人 告及び訴外シティデザインを含む7社をグループ会社(シティグループ)と して紹介している。(甲4) イ 訴外シティデザインは,広告デザインの企画及び制作並びに広告代理 業務,コンピュータソフトウェアの開発,販売及び保守,インターネットの ホームページの企画,制作及び保守,情報処理・情報提供サービス,映像・ 音声等のウェブコンテンツ及びデジタルコンテンツの企画,制作,翻訳,編 集及び配信等を目的とする株式会社である。その取締役はP5及びP8であ り,代表取締役はP5である。(甲41) 訴外シティデザインは,シティグループで運営する店舗内で使用するディ スプレイや販促物のデザイン制作を行っているほか(甲22〔3頁〕),ゴ ルフ関連のアプリ「みんなのスイング」及び算数計算アプリ「クイズ!せん ごくさんすう」等を制作するなどしている。(甲38,46) ウ 他のグループ会社の事業内容は,インターネットカフェ・マンガ喫茶 等の企画・運営,サウナ&カプセルホテル等のスパ事業の企画・運営,アニ ソンカラオケカフェ等サブカルチャー事業の企画・運営,スクールの運営, 不動産賃貸及び管理等である。(甲4) エ 訴外シティコミュニケーションズと被控訴人の本店所在地は同一であ るが,これと訴外シティデザインの本店所在地は異なる。(甲2,41,弁 論の全趣旨) オ 訴外シティコミュニケーションズのウェブサイトには,「沿革」にお いて,各グループ会社が設立された時期が記載され,「業績・財務情報」に おいて,グループ全体のものと思われる売上高,経常利益,店舗数及び社員 数等が記載されている。また,「ブランド紹介」において,被控訴人のブラ ンドである「THE CITY」及び「BELLE CITY」とともに,訴外シティデザイ ンのブランドである「シティ デザイン」及び「スマイルアップ」が掲載さ れている。そして,「組織図」において,代表取締役が管理部門と営業部門 を統括するものとされ,営業部門の中に,被控訴人の事業は「パーラー事業 部」として,訴外シティデザインの事業は「デザイン事業部」として位置付 けられている。(甲35〜37,39)」(3) 原判決19頁18行目の「記憶で」を「記憶であるが」に改める。
2 争点(1)(控訴人と被控訴人は「競争関係」にあるか)について(1) 不競法2条1項15号の「競争関係」 同号は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し, 又は流布する行為を不正競争行為と定める。その趣旨は,他人に対する不当 な攻撃により,その者の競争条件を不利にしておいて,自ら営業上の競争に よって有利な地位に立とうとすることが許されない点にあると解される。
上記の趣旨に照らすと,「競争関係」については,現実の商品販売上の具 体的競争関係があることは要しないものの,同種の商品を扱い,あるいは同 種の役務を提供するなど,相手方の商品等を誹謗したり,信用を毀損したり するような虚偽の事実を告知することによって,相手方を競争上不利な立場 に立たせ,これによって告知者が競争上不当な利益を得るような関係の存在 が必要であると解する。
(2) 控訴人と被控訴人の関係 控訴人は,パチンコ店向けの販促ツールの開発・販売等を行う事業者であ り,被控訴人は,パチンコ店の企画・運営を行う株式会社であるから(前記 前提事実(1)),被控訴人は控訴人の商品を購入する顧客という立場にあり, 同種の商品を取り扱ったり,同種の役務を提供したりするという関係にはな い。また,控訴人の需要者・取引者は主にパチンコ店等の経営者である一方, 被控訴人の需要者・取引者は一般顧客であって,被控訴人が他のパチンコ店 に販促ツールを販売するといった事実は認められないから,両社の顧客は共 通しない。
(3) 控訴人の主張について ア 控訴人は,被控訴人が訴外シティコミュニケーションズを筆頭とする シティグループのグループ会社であり,同グループを構成する会社であ る訴外シティデザインが控訴人と競合する事業を行っていることから, 控訴人と被控訴人は競争関係にあると主張する。
確かに,訴外シティコミュニケーションズ,訴外シティデザイン及び 被控訴人その他の会社は,「シティグループ」というグループ会社を形 成し,訴外シティコミュニケーションズの代表取締役(P5及びP4) がグループの管理部門と営業部門を統括し,営業部門の中にはパーラー 事業部として被控訴人が,デザイン事業部として訴外シティデザインが それぞれ位置付けられていること(前記1で補正の上引用した原判決 「事実及び理由」第3の1(1)オ),被控訴人の取締役はP3,P4及び P5であり,代表取締役はP3であるところ(前記前提事実(1)),訴外 シティデザインの取締役はP5及びP8であり,代表取締役はP5であ ることからすると(前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」 第3の1(1)イ),被控訴人と訴外シティデザインとの間には,人的,資 金的なつながりの存在を推認することができる。
しかし,被控訴人と訴外シティデザインは,事業内容を異にしており (前記前提事実(1),前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」 第3の1(1)イ),実質的に同一の会社であるとまでは認め難い。また, その点を措くとしても,訴外シティデザインが取り扱っている商品のう ちゴルフ関連のアプリ「みんなのスイング」及び算数計算アプリ「クイ ズ!せんごくさんすう」は,いずれも,パチンコ業界と直接関連するも のということはできず,控訴人と被控訴人との間で,需要者又は取引者 を共通にするものとも認め難い。
以上によれば,被控訴人が事実を告知することによって,控訴人を競 争上不利な立場に立たせ,これによって被控訴人が競争上不当な利益を 得るような関係が存するということはできないというべきである。
イ また,控訴人は,被控訴人が自らの店舗の顧客に対し,メール等で店 舗情報を配信するサービスを行っているのであるから,被控訴人の店舗 の競合店が控訴人の販促ツールを導入することを阻止すれば被控訴人の 利益となるとも主張する。
しかし,上記のような関係を競争関係と評価し得るとしても,それは 被控訴人と他の競合するパチンコ店との間に存するのであって(被控訴 人の競合店が控訴人の提供する販促ツールの使用を控えることにより, 被控訴人が有利となる。),控訴人と被控訴人との間に存するものとい うことはできない(被控訴人の競合店が控訴人の提供する販促ツールの 使用を控えることにより,控訴人の売上が減少するとしても,これを控 訴人と被控訴人との間の競争関係ということはできない。)。
(4) 本件メッセージの送信と転送 本件メッセージの送信と転送は,控訴人と被控訴人間の競争関係を前提と して,控訴人に対し,被控訴人が有利な立場に立つという関係にはない。そ の理由は,原判決「事実及び理由」第3の2(3)に記載のとおりであるから, これを引用する。
(5) まとめ 以上によれば,控訴人と被控訴人との間に不競法2条1項15号の「競争 関係」があるとは認められない。
3 争点(2)(本件部分の内容が「虚偽の事実」に当たるか)について(1) はじめに 不競法2条1項15号の「虚偽の事実」とは,客観的事実に反する事実を いうが,本件メッセージの受け手が本件部分を読んだ場合,本件講習会にお いて,埼玉県警察の担当者が,本件講習会において,「モバスロ」や「美女 コレクション」の商品を特定して,これらを用いて特定の機種を示唆する宣 伝を行った場合は行政処分の対象となり得る旨の説明がなされたと理解する ものと認められる。しかし,担当者は,商品名を特定しておらず,その点に おいて,客観的事実と齟齬が生じているといえる。
ところで,本件メッセージは,P6が認識した事実を表現したものである ところ,そこには,P6の主観や告知の意図も加わる結果,必ずしも,客観 的事実を正確に表現しきれなかったり,齟齬が生じたりすることがあり得る。
しかし,だからといって,本件メッセージ(P6が認識した事実であり,受 け手によって認識される事実)が直ちに虚偽の事実となるとはいえない。
そこで,次に,P6が本件メッセージの本件部分に相当する事実を認識す るに至った経緯や,これを店長ラインによって告知した経緯を検討すること とする。
(2) P6が本件講習会において認識した事実その1(「モバスロ」について) 前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3)のとおり, 埼玉県警察の担当者は,本件講習会において,店舗からメールでスロット ゲームの配信を行い,そのスロットゲームに当選した者に対して,待受画面 をプレゼントするという形で画像を送り,それにより機種を示唆するような 行為が禁止されることなどを説明したが,その際,特定のコンテンツの名称 は挙げなかったものの,規制の対象となる当選画面の例を映写した。
前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の1(2)のとおり, 「モバスロ」は,顧客のメールやラインのアドレス宛にメッセージ及びス ロットゲームに誘導する画像等を送信し,顧客がスロットゲームをして大当 たりが出た場合に特典として携帯電話用待受画像等を含む当選画面を表示さ せることを特徴とする集客用コンテンツであり,当選画面に出てくる特定の アニメのキャラクターを見た顧客が,それに関連する機種が当日の推奨機種 であると推測し,パチンコ店に出向くことを期待するものであり,担当者の 上記説明に該当するものである。それだけではなく,P6は,担当者が映写 した当選画面が,「モバスロ」の当選画面と酷似していたため,担当者の説 明が,「モバスロ」を利用して機種を示唆する広告を送信した場合,処分の 対象になる旨を説明しているものと認識した。
(3) P6が本件講習会において認識した事実その2(「美女コレクション」 について) また,前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の1(3)の とおり,埼玉県警察の担当者は,本件講習会において,「モバスロ」と同様 にゲームをして,当選した者に対し,女性が機種を連想させるようなコスプ レをしている画像を送って販促するものも禁止されることを説明した。
前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の1(2)のとおり, 「美女コレクション」は,同様に顧客のメールやラインのアドレス宛てに メッセージ及びゲームに誘導する画像等を配信し,当選画面に「本日の登場 美女はこの方々」等の文字及び女性の写真を表示させることを特徴とする集 客用コンテンツであり,当選画面における女性の服装や所持品等により,特 定の機種を示唆することができ,写真を見た顧客が,示唆された機種が当日 の推奨機種であると推測して,パチンコ店に出向くことを期待するものであ り,担当者の上記説明に該当するものであった。
上記説明の際,特定のコンテンツの名称は挙げず,規制の対象となる当選 画面の例を映写することもなかったが,P6は,以前,店長として出席した 会議の中で,「美女コレクション」が発売されると聞いたことがあり,その 商品の特徴から,担当者が説明する集客用コンテンツは,「美女コレクショ ン」であり,パチンコ店がこれを利用して,機種を示唆する宣伝を行った場 合,処分されるものと認識した。
(4) 本件メッセージを作成,送信する必要性 P6が本件メッセージを送信した相手(情報の受け手)は,店長ラインの 構成員である。店長ラインの構成員は被控訴人の経営する各店舗の店長や本 社の従業員等17名であり(前記前提事実(4)),パチンコ店の業務を円滑 に遂行する上で,どのような広告宣伝行為が警察による規制の対象となるの かを理解しておかなければならず,本件講習会で説明された内容を迅速かつ わかりやすく共有する必要性が高かったというべきである。
そのような受け手の性質に照らすと,伝えられる情報の内容として重要な のは,どのような広告宣伝行為が警察による規制の対象となるかという点で ある。
そこで検討するに,本件講習会において「モバスロ」や「美女コレクショ ン」という具体的な商品名が明示されることはなかったものの(前記前提事 実(3)),埼玉県警察の担当者の説明内容は,前記(2)及び(3)で説明したP 6の認識したとおりであって,「モバスロ」と「美女コレクション」を例に して説明するというものであったということができる。
そうすると,P6としては,店長ラインの構成員との間で広告宣伝の規制 対象となる行為を迅速に,かつ,わかりやすく共有する目的で,「モバスロ」 や「美女コレクション」を用いて,特定の機種を示唆するような形式の広告 宣伝行為が禁止されることになった旨を伝えなくてはならず,端的に「名指 しでモバスロは禁止。(機種画像を送るなら)」,「名指しで美少女コレク ションで機種,メーカーなどを示唆する物は禁止。」と表現したものといえ る。
以上を総合すると,P6による本件メッセージの本件部分をもって,「虚 偽の事実」に当たるということはできない。
(5) P7による本件メッセージの転送について 前述したとおり,本件メッセージの本件部分が虚偽の事実ということはで きないので,P7の転送についても,これを虚偽の事実の告知又は流布とい うことはできない。
(6) まとめ 以上のとおり,P6が店長ラインに送信し,P7が取材会社に転送した本 件メッセージは,「虚偽の事実」に当たらない。
4 争点(4)(不法行為責任及び使用者責任の有無)について 当裁判所も,P6が本件メッセージを店長ラインに送信した行為及びP7が 本件メッセージを取材会社に転送した行為は,いずれも,不法行為を構成する ものではなく,そのため被控訴人に使用者責任は成立しないと判断する。その 理由は,原判決「事実及び理由」第3の4(原判決24頁1行目から25頁7 行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
これに対し,控訴人は,ジーズの担当者であるP9が,P7から外部に出さ ないよう要望されたことはなかったと述べている旨主張する。
しかし,社内の共有内容を業務上の理由から取引先等に連絡する場合は,情 報管理を慎重にするよう依頼するのが通常であること,控訴人が根拠とする通 話記録(甲42〜44)は,令和2年4月の通話内容が記録されたものである ところ,本件メッセージが転送されたのは平成30年10月であって,相当程 度の期間が経過しており,記憶が減退していてもおかしくないこと,P9は, 被控訴人担当者からの質問に対して,P7からの電話については覚えていない という内容の回答をしているのであって,P7からの要望があったことを否定 しているわけではないこと(乙8)に照らし,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。
5 小括 以上のとおりで,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれ も理由がない。
結論
よって,以上の判断と同旨の原判決は相当であるから,本件控訴を棄却する こととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 倉地康弘
裁判官 三井教匡
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