関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 周知性 / 広く認識 / 需要者 / 市場占有率 / 特段の事情 / 混同行為 / 出所表示性(出所表示) / 印象 / 混同のおそれ(混同) / 表示の使用 / 誤認混同 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 共同不法行為 / 利益額(利益の額) / 侵害 / 代理人 / 代表者 / 有用性 / 商品表示性 / 混同のおそれ(混同) / 品質等誤認表示(誤認) / 損害賠償 / 推定 / 販売数量 / |
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事件 |
平成
14年
(ネ)
5718号
不正競争行為差止等請求各控訴事件
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1審原告 株式会社大景 訴訟代理人弁護士 雨宮眞也 同 小幡葉子 同 本山健 同 大久保 敦1審被告 株式会社ラックス 1審被告 ラックス工業株式会社 両名訴訟代理人弁護士 田原昭二 同 北河隆之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/31 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1審被告らの控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消す。 1審原告の1審被告らに対する請求をいずれも棄却する。 1審原告の控訴を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
(1審原告) 1 原判決中,金員請求に関する部分を次のとおり変更する。 2 1審被告らは,1審原告に対し,各自1億4106万6230円及びこれに対する平成10年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告らの負担とする。 (1審被告ら) 主文第1,2,4項と同旨 |
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事案の概要
1審原告は,自社製品の流通用ハンガーに付された「JS」及び「RK」の表示が,1審原告の業務に係る商品であることを表示する商品表示として需要者の間に広く認識されており,1審被告らが不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争を行っていると主張して,ハンガー及び広告に別紙表示目録記載の各表示(以下,これらの各表示をその番号に従い,「本件表示1」〜「本件表示31」といい,併せて「本件各表示」という。)を使用している1審被告らに対し,その使用差止め,ハンガーに付された本件各表示の抹消及び損害賠償を求めている事案である。 原判決は,1審被告らの本件表示1ないし23及び25ないし31について不正競争の成立を肯定し,本件表示24について不正競争の成立を否定し,1審被告らに対する不正競争の成立を肯定した上記各表示に係る使用差止め,表示の抹消及び損害賠償の一部,すなわち,1審被告株式会社ラックス(以下「1審被告ラックス」という。)につき5048万0018円及びこれに対する附帯金員,1審被告ラックス工業株式会社(以下「1審被告ラックス工業」という。)につき672万4182円及びこれに対する附帯金員を認容し,その余の請求をいずれも棄却した。これに対し,1審原告及び1審被告らの双方が控訴した。 1 前提となる事実 (1) 1審原告は,株式会社三景(以下「三景」という。)を中心とする三景グループに属し,衣料の包装資材及びハンガー等の製造・販売業者である。 (2) 1審被告ラックスは,ハンガーの製造・販売業者であり,1審被告ラックス工業は,ハンガーの製造・販売,フィルム包装資材の加工販売及び婦人服付属品の加工販売等を営んでいる。 (3) 1審原告は,流通用ハンガーを,洋服製造業者等(以下「アパレルメーカー」という。)に販売しており,その販売するハンガー及び広告に本件各表示を使用している。 (4) 1審被告らは,本件各表示を付した流通用ハンガー(以下,1審被告らの製造・販売に係るハンガーを「1審被告らハンガー」という。)を製造し,これらをアパレルメーカーに販売し,また,広告に本件各表示を使用している(ただし,本件表示24の使用の事実については争いがある。)。 (5) これまでの経緯 ア 昭和55年2月,三景グループの関連会社として,株式会社三景ハンガー(以下「三景ハンガー」という。)が設立され,流通用ハンガー及び包装資材の販売を主たる業務として営業を開始した。三景ハンガーは,昭和56年3月,社名を株式会社東京ジョイナー(以下「東京ジョイナー」という。)に変更した。 イ その後(その時期については争いがある。),東京ジョイナーと1審被告ラックスとの間で,1審被告ラックスが東京ジョイナーに対し,流通用ハンガーを継続的に製造して供給することを内容とするハンガーの継続的供給契約(以下「本件供給契約」という。)が締結され,東京ジョイナーは,本件供給契約に基づき,1審被告ラックスが製造する流通用ハンガーを購入して,これを株式会社レナウン(以下「レナウン」という。),株式会社レナウンルック(以下「レナウンルック」という。)等のアパレルメーカーに販売していた。 ウ 昭和59年1月,東京ジョイナーは,三景グループの関連会社である株式会社サン企画に吸収合併され,さらに,平成7年4月,株式会社サン企画は三景に吸収合併され,三景のサン企画事業部として事業を行うことになった(以下,「株式会社サン企画」及び三景の「サン企画事業部」を総称して「サン企画」ともいう。)。平成8年12月,三景は,サン企画事業部の取扱業務のうち,ハンガー及び包装資材関係の営業を,1審原告に譲渡し,本件供給契約における東京ジョイナーの契約上の地位及び流通用ハンガーの販売業務は,1審原告に引き継がれた。 エ 1審原告は,1審被告ラックスに対し,平成9年4月16日到達の内容証明郵便をもって,本件供給契約を解除する旨の意思表示をした。 2 1審原告の主張 (1) 「JS」及び「RK」の表示の商品表示としての出所表示機能 流通用ハンガーに付された「JS」及び「RK」の表示には,出所表示機能がある。1審被告らは,ハンガーメーカー数社の商品カタログに,社名と関連がないローマ字の1字又は2字の組合せからなる表示が多数使用されていることを根拠に,一般に,流通用ハンガーに付されたローマ字に出所表示機能がないと主張する。しかし,本件で問題となっている流通用ハンガーの商品表示は,記号と番号からなるものであるところ,1審被告ら引用に係る「T」の表示を共にハンガーに使用している東京ハンガー株式会社(以下「東京ハンガー」という。)及びタイヨーカラーハンガー株式会社(以下「タイヨーカラーハンガー」という。)においても,番号まで重複しているものは一つしかなく,当該重複している商品は,それぞれ形状が異なるので識別が可能である。流通用ハンガー業界において,記号と番号からなる商品表示は厳密に尊重されており,たまたま記号が重複しているように見えたとしても,それらは製造・販売業者と代理店関係にある場合や,対象需要者が異なる店頭用ハンガーであるためなどの理由によるものである。また,ローマ字が社名と関連がないとしても,商品識別機能ないし出所表示機能には影響がない。 (2) 「JS」及び「RK」の表示の周知性 以下のとおり,我が国において,「JS」及び「RK」の表示は,遅くとも平成7年3月ころまでには,いずれも1審原告の業務に係る商品であることを表示する商品表示として需要者の間に広く認識されているものとなり,現在に至っている。 ア 「JS」及び「RK」の表示は,上記のとおり,商品識別機能ないし出所表示機能を有する1審原告の商品表示である。流通用ハンガーは,アパレルメーカーがその製造した洋服を出荷するに当たり使用するハンガーであり,商品の特質からその形状に固有の名称を付けることができないため,ハンガーの販売業者は,自社製品と他社製品を識別するため,それぞれに独自の記号と番号を付し,それを商品表示とするのが業界慣行である。そして,「JS」のJは東京ジョイナーの頭文字,Sはサン企画の頭文字であり,また,「RK」は,原告の得意先であるレナウンの喜多方工場(以下「レナウン喜多方工場」という。)の頭文字であるから,1審原告の業務に係る商品表示であることが明らかであり,1審原告は,流通用ハンガーの売買において,本件各表示を付したハンガーを,遅くとも東京ジョイナー時代の昭和56年ころから使用している。 イ 1審原告は,昭和56年3月から,商品カタログ,パンフレット及び業界紙における広告等において,「JS」及び「RK」の表示を用いて商品の販売努力を積み重ねてきており,また,1審原告が属する三景グループ企業は,年商2000億円に達する日本最大の服飾副資材等の総合商社であり,その販売力を背景に持つことからも,少なくとも1審被告らが本件各表示の使用を開始した平成7年3月以前において,「JS」及び「RK」の表示は,1審原告の業務に係る商品表示としてアパレル業界に広く認識されていた(甲40〜59)。 すなわち,1審原告は,「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーを掲載した商品カタログを,昭和59年1月に1000部,昭和63年2月に1000部,平成3年10月に3000部,平成4年7月に10000部,平成5年9月に5000部等をそれぞれ作成し,エンドユーザーである全国のアパレル関連企業及び下請協力工場等に広く配布した(甲4〜11)。また,1審原告(当時のサン企画)は,アパレル関連企業はもとより広く繊維業界全般において購読されている繊研新聞(現在発行部数約20万部)に,平成4年2月,平成5年等,「JS」の表示を付したハンガーの宣伝広告を出した(甲12〜16)。しかも,平成4,5年当時,東京地区における流通用ハンガーの販売量は年間約1億本と推定されるが,そのうち「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーの販売量は約1200万本(市場占有率12パーセント)に達していた。なお,以上は,東京地区の事情であるが,平成8年に日本百貨店協会が発表した資料によると,流通用ハンガーの普及率が東京で82パーセントであるのに対して,大阪では25パーセントであり,東京の普及率が圧倒的であるので,東京地区での周知性は全国レベルのものということができる。 ウ 「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーの販売量は,平成7年は1377万9384本,平成8年は1448万4437本,平成9年は1653万7101本で,この3年間の平均は約1500万本程度であり,国内の市場占有率は約10パーセント強であった。1審原告は,平成7年当時には老舗的存在であり,パンフレットや業界新聞により上記表示の宣伝,広告をして,その周知性を更に高め,現在においても,展示会等による宣伝,広告を継続している。 (3) 1審被告らの本件各表示の使用 ア 1審被告らは,「JS」及び「RK」の表示が1審原告の業務に係る商品であることを表示する商品表示として需要者の間に広く認識されているものであることを知りながら,共同して,故意に,本件各表示を付した1審被告らハンガーを,アパレルメーカーに販売した。すなわち,1審被告らハンガーの販売経路は,1審被告ラックスが製造,仕入れをし,これを1審被告ラックス工業に対して販売し,1審被告ラックス工業が,更に他に販売するというものであるから,1審被告らは,1審被告らハンガーの製造・販売を共同して行っていたことになる。 イ 1審被告ラックスは,遅くとも平成2年には,1審被告ラックス工業を通じて,本件表示24を付した1審被告らハンガーを,株式会社富士商事(以下「富士商事」という。)等に対して販売していた。1審被告らが作成した商品カタログには,本件表示24を表示した1審被告らハンガーが掲載されている。 (4) 混同 一般に,流通用ハンガーの売買は,その受発注において製造者名を表示することなく,ハンガーの記号と番号の表示のみで行われている。そして,その流通経路は,大きく分けると1審原告のように自社で生産(下請工場での生産も含む。)している業者が直接販売する経路と,自社生産はせず生産販売業者から商品を仕入れ販売代理店として商品を販売する経路がある。したがって,1審被告らが1審被告らハンガーに「JS」及び「RK」の表示を使用すると,需要者であるアパレル業者は,販売代理店から購入した場合はもちろんのこと,1審被告らから直接購入した場合であっても,流通用ハンガー業界では,どことどこが販売代理店契約をしているかは一般に明らかになっていないため,1審被告らの販売する商品を1審原告の業務に係る商品であると誤認混同してしまう。また,「JS」及び「RK」の表示は,1審原告の業務に係る商品表示として,アパレルメーカーに周知となっているから,これが付された商品であれば,それが1審被告らを含むどの業者のパンフレットに掲載されていても,需要者は1審原告の業務に係る商品であると認識する。 実際にも,1審原告の取引先である富士商事は,1審原告から従来納入されていたものと同一のマークのハンガーが納入されたことから,混同を生じ,全く疑念を抱くことなく,1審被告らに対して発注を続けていた(甲123)。また,市田株式会社,ロザース株式会社,株式会社ヨコハマスタッフ,株式会社伊太利屋,株式会社ドリアン,その他大手ハンガーメーカー各社も,1審原告以外の者から「JS」及び「RK」の表示を使用したハンガーを売り込まれると,1審原告の業務に係る商品と誤信し,少なくとも誤信するおそれがある旨を述べている(甲51,甲53-1〜6,甲55-1〜3)。 (5) 不正競争防止法2条1項1号該当性 以上のとおり,1審被告らハンガー及び広告に本件各表示を使用する行為,並びに本件各表示が付された1審被告らハンガーを譲渡し,譲渡のために展示する行為は,いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当し,1審被告らは,代表者を共通にする親子会社の関係にあるから,共同不法行為者である。 (6) 差止請求権 1審被告らは,本件各表示を付した1審被告らハンガーを製造・販売し,広告に本件各表示を使用して,不正競争を行い,さらに,今後も同様の不正競争を行うおそれがある。 1審原告は,1審被告らの上記不正競争により,営業上の利益を侵害され,又は将来侵害されるおそれがある。 よって,1審原告は,1審被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づき,本件各表示の使用差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,1審被告らハンガーに付された本件各表示の抹消を求める。 (7) 1審原告の損害 1審被告らの上記不正競争により1審原告が受けた損害の額は,不正競争防止法5条1項により,被告らの侵害行為によって受けた利益の額と推定されるところ,1審被告らの受けた利益は,原判決別紙1「原告の損害計算書」記載のとおり,平成7年度分が5971万5297円,平成8年度分が7589万2942円,平成9年度分が1億0628万2024円,合計2億4189万0263円である。 よって,1審原告は,1審被告らに対し,各自,上記損害のうち1億4106万6230円を請求する。 (8) 1審原告の許諾について 1審被告ら主張の許諾の事実はない。本件各表示を付した1審被告らハンガーの製造には,東京ジョイナーが1審被告ラックスに無償貸与したハンガー製造用金型が使用されていたところ,本件供給契約の付随合意事項として,東京ジョイナーが1審被告ラックスに対し,ハンガー製造用金型の無償貸与等を内容とする便宜供与を行うが,それによって貸与された金型は,その趣旨から当然に東京ジョイナーが発注したハンガーの製造のみに使用することとし,1審被告ラックスが,東京ジョイナーの取引先に対して直接ハンガーを販売することはしないという合意がされ,同合意により,1審被告らが本件各表示を付した流通用ハンガーを東京ジョイナーを介さず直接アパレルメーカー等に販売することは禁止されていた。 3 1審被告らの主張 (1) 「JS」及び「RK」の表示の商品表示としての出所表示機能について 流通用ハンガーに付されたローマ字には,商品特定機能はあっても,出所表示機能はないというべきである。我が国最大のハンガーメーカーである日本コパック株式会社(以下「日本コパック」という。)の商品カタログ(甲23,乙22)には,20種類もの記号が使用され,その大部分は社名との関連がないものであり,一応社名との関連がうかがわれる「C」の表示は,中央パッケージング工業株式会社(以下「中央パッケージング工業」という。)の商品カタログ(乙20)にも存在する。また,その他のハンガーメーカーの商品カタログ(乙17〜22,96)にも,社名と関連がないローマ字の1字又は2字の組合せからなる表示が多数使用されている。さらに,1審原告の商品カタログ(甲5,6)には,「T」を付したハンガーがあり,1審原告はこれをタイヨーカラーハンガーの商品表示であると主張するが,「T」を付したハンガーは,東京ハンガー(乙6),中央パッケージング工業(乙20)及び日本コパック(乙22)にも存在する。 以上の事実は,一般に,流通用ハンガーに付されたローマ字に出所表示機能がないことを裏付けるものであり,このような取引の実情の中で,「JS」及び「RK」の表示にのみ出所表示機能が存在すると認めるべき特段の事情もない。加えて,「RK」の表示は,レナウン喜多方工場向けの商品であることを示すにすぎず,1審原告の社名とは無関係であり,このような表示が出所表示機能を有することはあり得ない。 (2) 「JS」及び「RK」の表示の周知性について 「JS」及び「RK」の表示には,商品識別機能ないし出所表示機能はないから,いずれも1審原告の業務に係る商品であることを表示する商品表示として需要者の間に広く認識されていた事実はない。 ア 「JS」は,1審被告らがサン企画を通じて販売する一般向け商品に付した流通経路を示す記号であり,「RK」は,レナウン喜多方工場から注文を受けて同工場に販売する特注品に付したエンドユーザーを示す記号である。このように「JS」及び「RK」の表示は,いずれも商品管理のために流通経路又はエンドユーザーを示すものとして付されたものであるから,商品表示としての商品識別機能ないし出所表示機能はない。また,仮に,「JS」及び「RK」の表示が商品表示であるとしても,これを創案したのは1審被告ラックスであり,かつ,「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーを実際に製造していたのも1審被告ラックスであるから,「JS」及び「RK」の表示は,1審被告ラックスの業務に係る商品表示であり,原告の業務に係る商品表示ではない。 イ 三景は,裏生地のメーカーとして大きなシェアを有しているが,ハンガー業者としてのシェアはわずかであり,アパレル業界においてその知名度も低く,三景グループの影響力によって「JS」及び「RK」の表示が1審原告の業務に係る商品表示としてアパレル業界に広く認識されていた事実はない。1審被告らが販売した,「JS」及び「RK」の表示を付した流通用ハンガーの販売本数と国内の市場占有率は,平成7年は788万2823本(1.23パーセント),平成8年は708万1508本(1.10パーセント),平成9年は459万5339本(0.79パーセント)であり,当時,1審原告は,上記流通用ハンガーをすべて1審被告ラックスから仕入れていたから,1審原告が販売した上記流通用ハンガーの販売本数と国内の市場占有率も,上記数値とほぼ等しいか,又はこの数値を上限とする。 さらに,1審原告の商品カタログには,「JS」及び「RK」の表示以外の記号と番号からなる表示が多数掲載されているが,そのうち「JS」及び「RK」の表示以外のものは,1審原告が販売代理店として販売している他社のハンガーであって,商品カタログ上は自社商品と他社商品の区別は全く付けられていない。したがって,需要者がこの商品カタログを見て,「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーが1審原告の業務に係るハンガーであると識別するはずがない。 (3) 1審被告らの本件各表示の使用について ア 1審被告らが,本件各表示(ただし,本件表示24を除く。)を付した1審被告らハンガーを販売し,また,自社の広告に本件各表示を使用していることは認める。 イ 1審被告ラックスが,平成2年ころから,本件表示24を付した1審被告らハンガーを,富士商事等に対して販売していた事実はない。 1審被告ラックス工業は,レナウンルックの依頼により,スカート用品専用ハンガーとして「898」という商品名のハンガー(以下「898ハンガー」という。)を開発し,1審被告ラックス工業が製造し,レナウンルック専用ハンガーとしてレナウンルックに直接納品していたが,同ハンガーには「JS」は付されていない。上記商品名「898」もレナウンルックにより命名されたものである。レナウンルックは,平成元年1月から,自社婦人服製品のプレス仕上げ加工業者である富士商事に対し,婦人服に使用するための898ハンガーを供給していたが,平成8年ころ,レナウンルックから直接富士商事に納入するよう指示があり,1審被告ラックス工業は,以後「JS」の付されていない898ハンガーを直接富士商事に販売していた。また,サン企画から1審被告ラックスに対し,898ハンガーを購入して販売したいという引き合いがあり,1審被告ラックス工業を通じ,2,3回程度のサンプル販売を行い,その際,途中から「JS」を伝票に記載したことがある。しかし,898ハンガーには使用上の難点があり,レナウンルック及びその関係会社以外での使用が大変難しいため,その後,継続的な取引は行われていない。 (4) 混同について 流通用ハンガーは,アパレルメーカーが洋服の輸送用に使用するハンガーであり,需要者はアパレルメーカーであって,一般消費者に対して店頭で展示販売される商品ではなく,アパレルメーカーが各社の商品カタログに基づき購入する商品であり,この点において,一般消費者を需要者とし,需要者が実物を見て購入する商品とは異なる。そして,需要者のうち大手アパレルメーカーは,新しい既製服の流通用ハンガーを必要とする場合,当該既製服にフィットしたハンガーをハンガーメーカーに特注するのが通常であり,商品カタログから流通用ハンガーを選択することはしない。これに対し,資力のない又は販売数量の少ないアパレルメーカーは,既存の流通用ハンガーを採用することになるが,この場合の採用過程は,@アパレルメーカーがハンガーメーカーを含む出入りの業者の商品カタログから当該既製服に合うハンガーを選択し,A選択したハンガーの実物をサンプルとして業者から取り寄せ,B取り寄せたサンプルのハンガーを当該既製服に試用し,支障の最も少ないハンガーを選択する,というものである。したがって,アパレルメーカーは,流通用ハンガーを特注するか,又は各社の商品カタログの中から,「このハンガー」と指定して購入するのであるから,1審原告の商品カタログに掲載されている「JS」及び「RK」の表示を付した流通用ハンガーと1審被告ラックスの商品カタログに掲載されている同様のハンガーを混同して購入することはない。また,アパレルメーカーが販売代理店から購入する場合であっても,1審被告らと取引関係にある販売代理店は,独自の商品カタログを作成せず,1審被告ラックスの商品カタログを使用して販売しており,アパレルメーカーは,1審被告ラックスの商品カタログに掲載されているハンガーを注文するのであるから,アパレルメーカーが1審原告の業務に係る商品と混同する可能性はない。 加えて,「RK」の表示が付されたハンガーは,レナウン喜多方工場以外には出荷されない特注ハンガーであり,需要者はレナウン喜多方工場に限られるから,「RK」の表示が付された1審被告らハンガーと1審原告の業務に係る「RK」の表示が付されたハンガーとを混同するおそれは全くない。 (5) 不正競争防止法2条1項1号該当性について 以上のとおり,1審被告らには,1審原告主張に係る不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当する行為はない。 (6) 差止請求権について 1審原告の差止請求権の主張は,争う。 (7) 1審原告の損害について ア 1審原告の損害の主張は,争う。 イ 仮に,1審被告らに不正競争が成立するとしても,1審被告ラックスが本件各表示を付した1審被告らハンガーを製造・販売したことによる損益の明細は,原判決別紙2「平成7,8,9年度 ラックスJS,RKハンガー該当損益明細表W」記載のとおりであり,そのうち本件各表示を付した1審被告らハンガーの売上金額から差し引かれるべき仕入金額及び技術料等の売上原価の明細は,原判決別紙3「平成7,8,9年度 ラックス売上仕入詳細及び損益明細表」のとおりである。 以上の諸経費を差し引くと,1審被告ラックスは,全体として赤字であり,利益はなかったものである。 ウ 同様に,1審被告ラックス工業が本件各表示を付した1審被告らハンガーを製造・販売したことによる損益の明細は,原判決別紙4「平成7,8,9年度レナウンルック及びその他売上損益明細表[」記載のとおりである。 以上の諸経費を差し引くと,1審被告ラックス工業は,全体として赤字であり,利益はなかったものである。 (8) 1審原告の許諾 1審原告は,1審被告らに対し,次のとおり,「JS」及び「RK」の表示を付した流通用ハンガーの第三者への販売を許諾していた。 1審被告ら両者の当時の代表取締役であったA(以下「A」という。)は,昭和58年9月末から10月初めころ,サン企画の常務取締役であったB(以下「B」という。)から,東京ジョイナー時代の不良在庫(約2500万円相当)の半分(約1200万円相当)を1審被告ラックスの負担で処理できないかとの相談を受けた際,その協力を申し出た。その際,Bは,Aに対し,前渡金で製造したハンガーを自由に販売できる旨を述べた。昭和58年11月ないし12月ころ,AがBと共にレナウンルックの担当責任者であったCとJSイカリR金型に関して話し合った際,同人も,レナウンルック向け金型で製造するハンガーを他社に販売することを発言し,1審被告らが「JS」及び「RK」の表示を付した1審被告らハンガーを第三者へ直接販売することを承諾していた。そして,1審被告ラックスは,昭和61年6月から株式会社カトレアに対し,同年9月から株式会社ロコに対し,平成5年3月から株式会社ジョイ企画に対し,同年12月から東京ハンガーに対し,それぞれ「JS」及び「RK」の表示を付した1審被告らハンガーを直接販売してきたが,サン企画の業務部長や営業課長は,上記事実を十分承知していたにもかかわらず,何ら異議を述べなかった。また,1審被告ラックスは,本件各表示を付した1審被告らハンガーを製造するための金型費用を賄うため,サン企画から「前渡金」名目で金型費用を借り受けていたが,サン企画は,前渡金返済のために,1審被告ラックスが本件各表示を付した1審被告らハンガーを他社に販売することを積極的に勧めていた。さらに,1審被告ラックス工業は,昭和61年5月ころ,レナウンルックの要請に応じて,レナウンルック及びその関係会社に対し,スカート用吊り紐テープを製造・販売することを目的として,A,B及び当時サン企画財務部長であったDらが発起人となって設立された会社であったところ,当時から,サン企画は,レナウンルックが1審被告ラックス工業から「JS」及び「RK」の表示を付した1審被告らハンガーを仕入れることを認めていたものである。 |
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当裁判所の判断
1 「JS」及び「RK」の表示の商品表示としての出所表示機能について (1) 「JS」及び「RK」の表示について,1審原告は,流通用ハンガーの商品表示は,記号と番号からなるものであるところ,流通用ハンガー業界において,記号と番号からなる商品表示は厳密に尊重されており,これらの表示には出所表示機能があると主張し,1審被告らは,多くのハンガーメーカーにより社名と関連がないローマ字の1字又は2字の組合せからなる表示が多数使用されているから,流通用ハンガーに付されたローマ字に出所表示機能がないと主張する。 (2) 「JS」及び「RK」の表示は,いずれもローマ字の2字の組合せからなる,それ自体簡単な構成の標章であり,このような標章は,取引上も商品の記号・符号等として一般に採択,使用されているものであって,これを特定人の独占的使用にゆだねるのは相当でないから,特段の事情のない限り,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有しないか,希薄な表示というべきである。しかしながら,そのような表示であっても,当該表示が独特の工夫をこらすなどして需要者に特別な印象を与えるものである場合や取引の実情,使用の事実等によっては,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するに至る場合もあり得るというべきであるから,「JS」及び「RK」の表示について,上記の諸点について検討する。 (3) 上記第2の1の前提となる事実と証拠(甲4〜24,30〜34,55-3,60,153〜160,乙51,52,154〜181,183,185,検甲1〜45,検乙1〜31〔ただし,検甲3,8,11,19,28,30,検乙3,28は欠番,乙号書証の枝番省略〕,原審証人D,同E,原審における1審被告ら代表者A)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア 1審原告は,三景を中心とする三景グループに属し,衣料の包装資材及びハンガー等の製造・販売業者である。1審被告ラックスは,ハンガーの製造・販売業者であり,1審被告ラックス工業は,ハンガーの製造・販売,フィルム包装資材の加工販売及び婦人服付属品の加工販売等を営んでいる。 昭和56年ころ,三景グループの関連会社である東京ジョイナーと1審被告ラックスとの間で,1審被告ラックスが東京ジョイナーに対し,流通用ハンガーを継続的に製造して供給することを内容とする本件供給契約が締結され,東京ジョイナーは,本件供給契約に基づき,1審被告ラックスが製造する流通用ハンガーを購入して,これをレナウン,レナウンルック等のアパレルメーカーに販売していたが,上記第2の1(5)の経緯により,本件供給契約における東京ジョイナーの契約上の地位及び流通用ハンガーの販売業務は,1審原告に引き継がれた。 1審原告は,1審被告ラックスに対し,平成9年4月16日到達の内容証明郵便をもって,本件供給契約を解除する旨の意思表示をしたが,1審被告らは,本件各表示(なお,本件表示24の使用の事実については争いがあるが,この点はさておく。)を付した1審被告らハンガーを製造し,これらをアパレルメーカーに販売し,また,自社の広告に本件各表示を使用している。 イ ハンガーには,アパレルメーカーが製品を百貨店,洋品店等の販売店へ納品する際に使用する流通用ハンガー,百貨店,洋品店等で製品の展示に使用する店頭用ハンガー(「ディスプレー用ハンガー」ともいわれる。),クリーニング用ハンガー,家庭用ハンガー等があるが,流通用ハンガーと店頭用ハンガーを兼ねるものもあり,両者は,必ずしも明確に区別されているものではない。 ウ 我が国において,ハンガーメーカーは,日本コパック,サンワ株式会社(以下「サンワ」という。),株式会社コーベル(以下「コーベル」という。)等,比較的大手のものだけでも十数社が存在し,その製造するハンガーを,ローマ字の1字ないし3字と1桁ないし4桁の数字の組合せからなる表示又は数桁の数字のみからなる表示等(以下,これらの表示を「ハンガー表示」という。)により区別し,当該表示をハンガー本体や商品カタログ等に記載して使用しているが,組み合わされるローマ字は,社名と関連のないものも多く,各社各様であり,業界全体を通じてはもとより,各社ごとの一定のルールも存在しない。例えば,国内最大のハンガーメーカーである日本コパックは,「CQ」,「CAC」,「CB」,「CQB」,「J」,「GM」,「BS」,「SP」,「QV」,「Y」,「NW」,「NWC」,「LH」,「OHS」,「C」,「NO」,「V」,「RV」,「G」,「A」,「CL」,「OC」,「T」,「CK」,「BH」,「SC」,「PH」,「MB」,「NH」,「NQ」,「ETB」,「BY」の32種類を,業界第2位のハンガーメーカーであるサンワは,おおむね「NO」の後に3桁の数字を付しているが,一部に「HC」,「HR」,「HG」,「HS」,「SK」の表示を,関西の有力なハンガーメーカーであるコーベルは,「HW」,「HB」,「HG」,「B」,「HK」,「HF」,「HC」,「HS」,「HR」,「FT」,「FC」,「KD」,「KA」,「KR」,「RC」,「RG」,「RB」,「RS」,「OW」,「OB」,「OK」,「OS」,「OR」の23種類を,中堅のハンガーメーカーである中央パッケージング工業は,「HC」,「HG」,「NO」,「US」,「T」,「E」,「J」,「YS」,「HW」,「CP」,「SBH」,「PH」,「HK」,「HB」,「A」,「B」,「C」,「KC」,「LT」,「S」,「L」,「K」,「CN」,「GP」,「P」,「F」,「HH」,「SK」,「LF」,「G」,「BL」,「HS」,「JC」,「BH」,「OP」,「FEH」,「FRH」,「NC」の38種類をそれぞれ使用している。「C」の表示は,日本コパックが創業以来四十数年にわたって使用している代表的な標章で,社名との関連もうかがわれるが,上記のとおり,中央パッケージング工業もこれを使用し,また,「J」,「G」,「T」及び「BH」の表示は,日本コパックと中央パッケージング工業が共に使用し,「HR」,「HG」及び「SK」の表示は,サンワとコーベルが共に使用し,「HW」,「HB」,「HG」,「B」,「HK」,「HC」及び「HS」の表示は,コーベルと中央パッケージング工業が共に使用している。流通用ハンガーは,一般に,黒色の合成樹脂を金型で成形して製造され,上記ハンガー本体の表示は,補強バーや肩部の凹溝,裏面等に上記成形時に金型により刻印されるが,いずれも字体は通常の活字体で,特に着色もされておらず,目立たないものであって,当該ハンガーに接した者が一見して判読できるほど明りょうなものではない。 エ 流通用ハンガーの需要者は,アパレルメーカーであり,アパレルメーカーが流通用ハンガーを必要とする場合,商品である既製服の保管や輸送の際に,型崩れ,しわ,当たり等が生じないようにするため,当該既製服にフィットしたハンガーをハンガーメーカーに特注するか,既存の流通用ハンガーから採用する。アパレルメーカーが既存の流通用ハンガーから採用する場合,@アパレルメーカーがハンガーメーカーを含む出入りの業者の商品カタログから当該既製服に合うハンガーを選択し,A選択したハンガーの実物をサンプルとして業者から取り寄せ,B取り寄せたサンプルのハンガーを当該既製服に試用し,支障の最も少ないハンガーを選択するのが取引の実情である。 オ 1審原告提出に係るJS-120ハンガー(トップハンガー,検甲1)の補強バー凹溝には「120(843)」,JS-130ハンガー(同,検甲2)の肩部凹溝には「JS130」,JS-210(同,検甲4)ハンガーの補強バー凹溝には「210」,JS-305(同,検甲5)ハンガーの肩部凹溝には「JS-305M」,JS-306ハンガー(同,検甲6)の肩部凹溝には「JS-306」,JS-310ハンガー(同,検甲7)の補強バー凹溝には「310」,JS-320ハンガー(同,検甲9)の補強バー凹溝には「JS-320」,JS-330ハンガー(同,検甲10)の補強バー凹溝には「JS-330-2」,JS-410ハンガー(ボトムハンガー,検甲12)のバー凹溝には「JS-410」,JS-411ハンガー(同,検甲13)のバー凹溝には「JS-411」,JS-411Bハンガー(同,検甲14)のバー凹溝には「JS-411B」,JS-415ハンガー(同,検甲15)のバー凹溝には「JS-415」,JS-430ハンガー(トップハンガー,検甲17)の補強バー凹溝には「JS-430」,JS-610ハンガー(同,検甲18)の肩部裏面には「JS610」,JS-848ハンガー(いかり型ボトムハンガー,検甲20)のサイズチップ取付リブに「PS」(ただし,「PS」は樹脂材料「Polystyrene」の略称であると認められる。),JS-856ハンガー(トップハンガー,検甲21)の肩部裏面には「JS-856」,JS-857ハンガー(トップハンガー,検甲22)の肩部裏面には「JS-857 1」,JS-860ハンガー(トップハンガー,検甲23)の肩部凹溝には「JS-8606」,JS-898ハンガー(ボトムハンガー,検甲24)のバー凹溝には「JS 898」,JS-912ハンガー(トップハンガー,検甲25)の肩部裏面には「JS-912-2」,JS-913ハンガー(トップハンガー,検甲26)の肩部裏面には「JS-913-1」,JS-951ハンガー(トップハンガー,検甲27)の肩部裏面には「JS-951」,RK-2ハンガー(ボトムハンガー,検甲29)のバー凹溝には「RK-2」,RK-5ハンガー(トップハンガー,検甲31)の肩部凹面には「RK-5」との刻印がある。これらの刻印は,いずれも字体は通常の活字体で,特に着色もされておらず,目立たないものであって,当該ハンガーに接した者が一見して判読できるほど明りょうなものではない。 カ 1審原告の昭和59年1月ないし平成3年10月作成の商品カタログ(甲4〜6,乙7)及び平成4年7月ないし平成9年5月作成のパンフレット(甲7〜11)には,本件各表示を含む,「JS」と3桁の数字をハイフン記号「-」で連結した表示が記載されているが,「RK」の表示は,甲4の5枚目上部の見出しに「JS-RK-1流通用」,9枚目右欄上から2番目のハンガー表示に「JS-RK-1」,11枚目上部の見出しに「JS-RK-2」として,甲5の「用途別INDEX」の品番「JS-420」の右肩の「RK-2」の付記として記載されているにすぎない。また,1審原告の上記商品カタログには,ハンガー表示として,「JS」,「RK」以外に,「S」,「H」,「C」,「K-HG」,「T」,「R-N」,「R」,「H-I」,「W」,「O」,「NM」,「NO」,「NC」,「NA」,「NR」,「NRW」,「NV」,「M」,「HG」,「HC」,「HS」,「HR」,「HK」,「CP」,「MA」,「F」,「HB」,「KU」,「TF」などのローマ字と数字等の組合せからなる表示も使用されている。 1審原告の上記パンフレット(甲7〜11)には,「JS」,「RK」を含むハンガー表示とともに当該ハンガーの図ないし写真が掲載されているが,ハンガー表示として「T」,「S」,「K」等と数字等の組合せ及び数字のみからなる表示を使用したハンガーも掲載されている。 キ 「JS」の表示は,東京ジョイナーのジョイナー(JOINNER)の頭文字「J」とサン企画の頭文字「S」に由来し,「RK」の表示は,レナウン喜多方工場に由来し,いずれも1審被告らの代表取締役であったAが創案したものである。 しかしながら,上記由来について,1審原告の商品カタログや広告等に記載はなく,これらの由来が需要者に知られていたとは認められない。 1審原告の主張によれば,アパレル関連企業はもとより広く繊維業界全般において購読されているという繊研新聞(現在発行部数約20万部)について見ると,同新聞の平成4年2月13日付け15面(甲12),平成5年6月17日付け1面(甲13)及び平成6年12月14日付け1面(甲15)には,サン企画の広告が掲載されているが,「JS」,「RK」の表示は記載されていない。 同新聞の平成6年7月12日付け12面(甲14)には,サン企画の広告が掲載され,その中に「好評発売中・検針器対応型」との見出し,「JS-415」の表示とともにボトムハンガーの図が掲載されているが,上記「JS-415」の表示は,通常の活字体からなるもので,特に目立つものではない。 また,同新聞の同年12月6日付け1面(甲16)にも,サン企画の広告が掲載され,その中に「『検針器対応』新発売」との見出し,「JS-415」の表示とともにボトムハンガーの図が掲載されているが,上記「JS-415」の表示も,上記同様,特に目立つものではない。 (4) 以上によれば,我が国においては,ハンガーメーカーは,比較的大手のものだけでも十数社が存在し,それぞれ多数の流通用ハンガーを製造・販売しているが,その需要者であるアパレルメーカーが流通用ハンガーを採用する場合,@アパレルメーカーがハンガーメーカーを含む出入りの業者の商品カタログから当該既製服に合うハンガーを選択し,A選択したハンガーの実物をサンプルとして業者から取り寄せ,B取り寄せたサンプルのハンガーを当該既製服に試用し,支障の最も少ないハンガーを選択するのが取引の実情であるところ,流通用ハンガーにおいては,ローマ字の1字ないし3字と1桁ないし4桁の数字の組合せからなる表示又は数桁の数字のみからなるハンガー表示が使用され,組み合わされるローマ字は社名と関連のないものも多く使用されるなど,当該表示に一定のルールは存在せず,しかも,上記ハンガー本体の表示は,いずれも目立たないものであるから,一般に,流通用ハンガーにおいて,各商品を特定するための記号と番号としての意味を有し,その限りでは取引上の有用性が存在するものの,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を果たすものとして使用されているものとは認め難い。 このことは,1審原告の使用するハンガー表示においても異なるところはなく,「JS」の表示は,東京ジョイナーのジョイナー(JOINNER)の頭文字「J」とサン企画の頭文字「S」に由来し,「RK」の表示は,レナウン喜多方工場に由来するものであるが,これらの由来が需要者であるアパレルメーカーに広く知られていたとは認められず,1審原告提出に係る「JS」及び「RK」の表示を使用したハンガー(検甲1〜31〔ただし,検甲3,8,11,19,28,30は欠番〕)においても,本体の表示は,目立たないものであり,その商品カタログ(甲4〜6,乙7)及びパンフレット(甲7〜11)には,「JS」及び「RK」の表示以外に,ローマ字の1字ないし3字と数字の組合せからなる表示又は数字のみからなるハンガー表示が多数掲載され,かつ,「JS」の表示が使用された広告に格別のものは認められず,「RK」の表示が使用された広告にも格別のものは認められないのである。 そうすると,「JS」及び「RK」の表示が,独特の工夫等により需要者に特別な印象を与えるものということはできず,また,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するに至る格別の取引の実情,使用の事実等の特段の事情も認められないのであるから,結局,上記各表示は,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有しないか,希薄なものというほかない。 (5) 原告は,流通用ハンガー業界において,記号と番号からなる商品表示は厳密に尊重されており,たまたま記号が重複しているように見えたとしても,それらは生産販売業者と代理店関係にある場合や,対象需要者が異なる店頭用ハンガーであるためなどの理由によるものであり,また,ローマ字が社名と関連がないとしても,商品識別機能ないし出所表示機能には影響がないと主張する。しかしながら,1審原告の商品カタログ(甲5,6)には,「T」を付したハンガーがあるが,「T」を付したハンガーは,東京ハンガー(乙6),中央パッケージング工業(乙20),日本コパック(乙22),タイヨウカラーハンガー株式会社(乙161)及び有限会社サンコ(乙162)にも存在するほか,乙155ないし181,185によれば,1審原告の商品カタログ(甲4〜6)に記載された上記(3)カの各ハンガー表示のうち,「S」,「C」,「W」,「HG」,「HC」,「HS」,「HR」,「HK」,「F」及び「HB」の表示は,他社のハンガー本体や商品カタログにも使用されていることが認められ,また,「J」,「G」,「T」及び「BH」の表示は,日本コパックと中央パッケージング工業が共に使用し,「HR」,「HG」及び「SK」の表示は,サンワとコーベルが共に使用し,「HW」,「HB」,「HG」,「B」,「HK」,「HC」及び「HS」の表示は,コーベルと中央パッケージング工業が共に使用していることは上記のとおりであるところ,これらの業者の間に1審原告主張のような特別の関係があると認めるに足りる証拠はなく,また,店頭用ハンガーと流通用ハンガーが必ずしも明確に区別されているものではないことは上記のとおりであるから,需要者が異なるということもできない。そして,ハンガー表示は,組み合わされるローマ字は社名と関連のないものも多く使用されるなど,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を果たすものとして使用されているものと認め難いことは上記のとおりであり,1審原告の上記主張は採用し難い。 2 「JS」及び「RK」の表示の周知性について (1) また,「JS」及び「RK」の表示が,希薄ながら,商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するとしても,本体の表示は,目立たないものであり,その商品カタログ(甲4〜6,乙7)及びパンフレット(甲7〜11)には,「JS」及び「RK」の表示以外に,ローマ字の1字ないし3字と数字の組合せからなる表示又は数字のみからなるハンガー表示が多数掲載され,かつ,「JS」の表示が使用された広告に格別のものは認められず,「RK」の表示が使用された広告にも格別のものは認められないことは上記のとおりであり,これらの表示について,他の多数のハンガー表示と比較して格別の宣伝広告等が行われたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,「JS」及び「RK」の表示が,1審原告の業務に係る商品表示として需用者の間に広く認識されていたものとは認め難い。 1審原告包装資材事業部長F作成の陳述書(甲60,152)中には,「JS」及び「RK」の表示はアパレルメーカーに周知である旨の記載があるが,同記載を裏付ける的確な証拠はない。また,アパレルメーカー作成の回答書(甲53-1〜6,甲123)には,「JS」及び「RK」の表示を1審原告の表示と認識していた趣旨の記載があるが,乙113及び乙185によれば,これらの回答書は,アパレルメーカーが自ら文面を記載したものではなく,1審原告が作成したものに署名押印したものであることがうかがわれる上,これらの記載を裏付ける的確な証拠はなく,にわかに採用し難い。 (2) 1審原告は,平成4,5年当時,東京地区における流通用ハンガーの販売量は年間約1億本と推定されるが,そのうち「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーの販売量は約1200万本(市場占有率12パーセント)に達し,平成7年ないし平成9年においては,約1500万本程度(国内の市場占有率約10パーセント強)であって,その周知性は全国レベルのものということができると主張し,甲148を提出する。しかしながら,我が国における流通用ハンガーの販売量に関する統計資料等は存在せず,乙107及び乙108によれば,平成7年ないし平成9年において,納品の際に流通用ハンガーの使用が推測される女性用衣料(スーツ,ワンピース,ジャケット,ブレザー,コート及びボトム)の国内供給数量は3億数千万着,同男性用衣料(スーツ,フォーマルウェア,ジャケット,ブレザー,コート,スラックス,パンツ,セーター及びTシャツ)の国内供給数量は2億数千万着であることが認められることなどに照らすと,甲148は信用することができず,他に,上記シェアを裏付けるに足りる的確な証拠はない。したがって,1審原告の上記シェアを理由とする周知性の主張は,採用し難い。 また,1審原告は,商品カタログ,パンフレット及び業界新聞により,「JS」及び「RK」の表示の宣伝,広告をし,現在においても,展示会等による宣伝,広告を継続していると主張するが,商品カタログ,パンフレット及び業界新聞の広告の記載内容は上記のとおりであって,特に上記表示に焦点を当てた格別の宣伝,広告であるとはいい難いし,「三景グループ展示会2003年」(甲138)も,それのみでは的確な証拠ということはできない。 (3) 不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示の周知性は,同号に該当する商品主体混同行為の差止め請求の関係では差止請求の事実審の口頭弁論終結時,上記行為による損害賠償請求の関係では損害賠償の対象である行為のされた時において具備することを要する(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁)。本件において,1審原告の主張及び本件訴訟の経過に照らせば,「JS」及び「RK」の表示の周知性は,差止請求の関係では平成15年12月24日,損害賠償請求の関係では平成7年3月ないし平成9年12月の時点において具備することを要するところ,以上検討したところによると,本件全証拠によっても,上記いずれの時点における周知性も認めることはできない。 3 結論 以上のとおり,1審原告が主張する「JS」及び「RK」の表示の商品表示性及び周知性を肯定することはできないから,その余の点について判断するまでもなく,1審原告の1審被告らに対する請求は,いずれも理由がなく棄却すべきである。 よって,これと異なる原判決は1審被告ら敗訴部分につき不当であるから,1審被告らの控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消し,1審原告の1審被告らに対する請求をいずれも棄却することとし,1審原告の控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)表示目録1JS-12025JS-9122JS-13026JS-9133JS-15027JS-9514JS-21028RK-15JS-30529RK-26JS-30630RK-47JS-31031RK-58JS-3159JS-32010JS-33011JS-37012JS-41013JS-41114JS-411B15JS-41516JS-42017JS-43018JS-61019JS-84220JS-848(イカリR)21JS-85622JS-85723JS-86024JS-898 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |