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事件 |
令和
1年
(ワ)
11484号
損害賠償請求事件
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5 原告 株式会社サンファミリー 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 徳村初美 同 奥村太朗 10 同 藤澤泰子 同 中村優子 被告 株式会社グローバル・ジャパン 同代表者代表取締役 15 同訴訟代理人弁護士 萩原達也 同訴訟復代理人弁護士 鯛翔伍 同補佐人弁理士 木戸基文 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2022/12/08 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、498万5736円及びこれに対す20 る令和2年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。 25 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は、原告に対し、2184万3000円及びこれに対する令和2年1月8日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
5 1 本件は、別紙原告商品目録記載の女性用下着(以下「原告商品」という。) を販売する原告が、別紙被告商品目録記載の女性用下着 (以下「被告商品」とい う。)を販売する被告に対し、被告商品は原告商品の形態を模倣した商品であり、 被告による被告商品の販売は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争(商品形態 模倣行為)に該当すると主張して、同法4条に基づき、損害賠償金2184万3010 00円及びこれに対する前記行為の後である訴状送達の日の翌日(令和2年1月8 日)から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分 の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実及び弁論の全趣旨によ り容易に認定できる事実である。なお、以下において枝番号のある証拠で枝番号の15 記載のないものは全ての枝番号を含む。) (1) 当事者 原告は、カタログによる日用品雑貨の卸売及び小売を業とする株式会社である。 被告は、美容用品、健康関連商品の開発、販売等を業とする株式会社である。被 告代表者は、平成24年10月20日まで原告の従業員であった。 20 (2) 原告商品及び被告商品の販売 原告は、平成30年2月1日から、原告商品の販売を開始した(甲1)。 被告は、平成30年12月頃から、被告商品の販売を開始した。 3 争点 (1) 原告商品の形態は不正競争防止法2条1項3号において保護される商品の25 形態に当たるか否か(争点1) (2) 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品に該当するか否か(争点2) 2 (3) 損害額(争点3) 4 当事者の主張 (1) 原告商品の形態は不正競争防止法2条1項3号において保護される商品の 形態に当たるか否か(争点1) 5 (原告の主張) ア 原告商品の形態 原告商品の形態は、 A アンダーバストにバストアップをサポートする着圧部を設け、 B 腹部にアンダーバストの着圧部から下腹部の着圧部に向け、腹筋に沿って縦に10 1本、横に左右3本の着圧部とアンダーバスト、腹筋、下腹部の着圧部に挟まれた 左右4本の生地のたるんだ部分を設け、 C 腹筋部から脇腹、腰にかけて着圧部を設け、 D 背中に交差した着圧部を設けた女性用下着 である。 15 イ ありふれた形態ではないこと 被告は、原告商品の形態は、同種の商品と同一の特徴を有するありふれた形態で あると主張するが、以下のとおり、被告の指摘する商品の形態は、いずれも原告商 品の形態とは異なっており、全体としての形態が相違しているから、原告商品の形 態はありふれたものではなく、不正競争防止法2条1項3号において保護される商20 品の形態に当たる。 (ア) エクスレンダー、MONOVO マッスルプレス 原告商品の構成態様 A と異なり、アンダーバストにバストアップをサポートする 着圧部がない。原告商品の構成態様 B と異なり、縦に3本の線があるが、これは生 地の編み方を変えて横向きのしわを寄せることで作られた弛みであり、横に2本の25 線があるが、これも着圧部ではなく、生地のたるんだ部分もない。構成態様 C と異 なり、腰にかけての着圧部はなく、構成態様 D に係る交差した着圧部の位置も異な 3 っている。 (イ) モアプレッシャー 原告商品と異なり男性用下着である。原告商品の構成態様 A と異なり、アンダー バストにバストアップをサポートする着圧部がない。構成態様 B と異なり、横に左 5 右2本の着圧部があり、生地のたるんだ部分の数と形状が異なる。構成態様 C と異 なり、腰にかけての着圧部はなく、被告が指摘するのは単に生地を折り返して縫製 した部分である。構成態様 D と異なり、背中に交差した着圧部はない。 (ウ) エーユードリーム 原告商品の構成態様 A と異なり、アンダーバストにバストアップをサポートする10 着圧部がない。構成態様 B と異なり、縦に3本の線、横に3本の線があるがいずれ も着圧部ではなく、生地のたるんだ部分もない。構成態様 C と異なり、腹筋部から 脇腹、腰にかけての着圧部がない。構成態様 D と異なり、背中に交差した着圧部が ない。 (エ) パワーズドクター15 原告商品と異なり男性用下着である。原告商品の構成態様 A と異なり、アンダー バストにバストアップをサポートする着圧部がない。構成態様 B と異なり、縦に3 本の線があるが、これは生地の編み方を変えて横向きのしわを寄せることで作られ た弛みであり、横に3本の線があるが、これも着圧部ではなく、生地のたるんだ部 分もない。構成態様 C と異なり、腹筋部から脇腹、腰にかけての着圧部はなく、構20 成態様 D に係る交差した着圧部の形状も異なっている。 (被告の主張) 原告商品よりも前に、エクスレンダーをはじめとするあたかも腹筋が割れて見え る加圧式ブラトップが流行しており、原告商品の形態はありふれた形態であって、 不正競争防止法2条1項3号により保護される商品の形態に該当しない。 25 平成27年に発売されたモアプレッシャーは、原告商品の構成態様 B のうちたる んだ部分の数が異なるのみで、他の構成態様は同一である。そして、たるんだ部分 4 の数は、腹直筋をモチーフにして、腹筋の割れを6つにするか8つにするかを選ぶ だけなので、改変の着想はたやすく、改変の程度は小さく、改変によって相応の形 態上の特徴がもたらされていないから、原告商品の形態と全体としての形態が同一 の商品が存在するといえる。 5 また、原告商品の特徴的な形態である「あたかも腹筋の割れを看者に感得せしめ るようにした形態」を有する同種の商品として、エクスレンダー、MONOVO マッ スルプレス、エーユードリーム、パワーズドクターなどが存在するから、原告商品 の特徴的な形態は、商品の形態全体からみて重要な意味を有する部分ではなく、あ りふれたものである。 10 (2) 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品に該当するか否か(争点2) (原告の主張) ア 形態の実質的同一性 (ア) 被告商品の形態 被告商品の形態は、原告商品の構成態様 A〜D を備えた女性用下着である。 15 (イ) 形態が実質的に同一であること 被告商品は、原告商品の基本的形態である構成態様 A〜D を全て備えている。 原告商品は、腹部に着圧部と生地のたるんだ部分を設ける(構成態様 B)ことに より、8等分に割れた腹筋を視覚的に感得させるという特徴を有するところ、被告 商品はかかる特徴が全く同一であり、両者は実質的に同一の形態であると評価でき20 る。 (ウ) 被告の主張について 被告は、原告商品と被告商品は、@色彩、Aアンダーバスト及び胸中央の伸び寸、 B着圧部の織り模様、C生地がたるんだ部分(シックスパックメイクポケット)の 立体感、Dシックスパックメイクポケットの左右の間隔、E襟ぐりの深さ、F胸元25 のひだの有無、Gパッドの形状、H縫い代の端の始末、I素材について相違点があ ると主張する。 5 しかしながら、@色彩については、本件のような販売価格の女性用下着において、 需要者が微細な色彩を重視することはなく、A伸び寸の違いがあるとしても、看者 によって視覚的に感得されるものではない。B着圧部の織り模様に違いはなく、仮 に違いがあるとしても些細なものである。C生地がたるんだ部分については、原告 5 商品も被告商品も立体感があり、違いはない。Dシックスパックメイクポケットの 左右の間隔の違いによっては割れた腹筋を視覚的に感得させる特徴に差異は生じず、 実質的に同一である。E襟ぐりの深さに差はなく、仮にあったとしても看者はその 差を視覚的に感得できない。F被告商品にも胸元にひだがあり、その差は些細なも のである。Gパッドの形状は下着の形態の要素ではなく、相違は些細なもので、H10 縫い代の端の始末は、縫い方の違いであり、形態の問題ではない。I素材の相違に よって質感等に違いはなく、視覚的に相違するものではない。 イ 依拠性 原告商品と被告商品の形態が実質的に同一であること、被告商品が腹筋の割れを 8等分にしているのに「シックスパック」という原告商品と同じ表現を使用してい15 ること、実際の腹直筋の形状とは異なること、原告商品の発売後に被告商品が発売 されたことにかんがみれば、被告商品は原告商品を模倣したものである。 原告は、平成29年初めころ、当時流行していたシックスパックトレーニング体 形を作る機器等より発想を得て、腹筋の割れたシックスパックの体形の形成に資す る下着の開発を思い立ち、まずは男性用商品の開発に着手し、同年2月27日、サ20 ンプルの作成を指示し、同年3月16日、男性用商品を参考にした女性用下着のサ ンプルの作成を指示し、同年5月1日には概ね原告商品の着圧部のデザインが完成 し、平成30年2月1日から原告商品を販売しているものであり、原告独自の着想 により原告商品を開発したものである。 ウ 小括25 以上のとおり、被告商品は、原告商品と実質的に同一の形態からなるものであり、 被告商品の形態が原告商品の形態に依拠して作出されたものであり、被告商品の販 6 売行為は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争を構成する。 (被告の主張) ア 形態の実質的同一性 原告商品と被告商品は、以下のような違いがあるので、実質的に同一とはいえな 5 い。 @色味 被告商品は、原告商品と同じくブラックとベージュの2色でカラー展開している が、被告商品はブラックの色味が青みがかった黒(色番号19-4007TPG、色 名 Anthracite)であるのに対し、原告商品は黄み赤みがかった黒(色番号19-010 303TPG、色名 Jet Black)であり、補色の近い関係にあるので、対比観察すると 色味の違いを認識できる。需要者である女性は、自分の好みが寒色系の黒か暖色系 の黒かに合わせて選択するので、色味は商品の選択に際し着目する重要なポイント である。被告商品は、寒色系が持つ収縮して小さく見せる効果を利用して、被告商 品を着ると引き締まって見えるという特徴がもたらされている。 15 ベージュについても、被告商品は黄みがかったベージュ(色番号14-1122 TPG、色名 Sheepskin)であるのに対し、原告商品は青みがかったベージュ(色番 号15-1314TPG、色名 Cuban Sand)であり、補色の近い関係にあるので、対 比観察すると色味の違いを認識できる。需要者である女性は、自分の肌色がイエロ ーベースかブルーベースかに合わせて選択するので、色味は商品の選択に際し着目20 する重要なポイントである。被告商品は、日本人に多くみられるイエローベースの 肌色に合うという特徴がもたらされている。 Aアンダーバスト及び胸中央の伸び寸 被告商品は、アンダーバストの伸び寸が51.5pであるのに対し、原告商品は、 41.5pであり、被告商品は「リブ編み」という横方向の伸縮性が大きい編み方25 で編まれており、肉眼で縦方向に畝のような編み地が見えるので、原告商品とは編 み方が違うと認識することができる。需要者は、商品の選択に際し、アンダーバス 7 トの部分を両手で持ち、横に引っ張って伸縮性の良し悪しを確認する。 また、被告商品は、胸中央の伸び寸が27.0pであるのに対し、原告商品は、 22.0pであり、被告商品は、バストの大きな方でも胸元の窮屈さを感じにくい という特徴がもたらされている。 5 B着圧部の織り模様 被告商品は、背面から脇腹にかけて着圧部の織り模様がつながっているのに対し、 原告商品は、着圧部の織り模様がずれている。被告商品では、「ウエストを全方向 からしっかりサポート」という特徴がもたらされており、着圧部の織り模様がつな がって、一体感のある縫製という特徴がもたらされている。 10 Cシックスパックメイクポケットの形状 被告商品は、生地がたるんだ部分(シックスパックメイクポケット)が立体感があ るのに対し、原告商品は、生地が引きつった感じで平らである。この差により、被 告商品は、需要者に着圧がありそうと印象付け、「憧れの割れた腹筋」を連想させ る特徴がもたらされている。また、着圧部の加圧によりはみ出したウエスト周りの15 肉をシックスパックメイクポケットに逃がすようになっているので、長時間着てい ても疲れず、ぽっちゃり体型の方も着用できるという特徴がもたらされている。 Dシックスパックメイクポケットの左右の間隔 被告商品は、シックスパックメイクポケットの左右の間隔が4.5pであるのに 対し、原告商品は、2.0pである。被告商品は、着圧部を腹直筋の左右の溝の上20 にも広く割り当てて、ウエストの引き締め効果がありそうと視覚的に感得させるも のであり、「シックスパックを作る上で大切な腹直筋などにダイレクトに刺激を与 える」という特徴がもたらされている。 また、着用時においては、被告商品は、腹部が平らになるのに対し、原告商品は、 腹部が出っ張った形状になる。 25 E襟ぐりの深さ 被告商品は、襟ぐりの深さが9.0pであるのに対し、原告商品は、11.5p 8 であり、被告商品は、襟ぐりの深さを浅くして胸元をのぞかれにくいという特徴が もたらされている。 F胸元の形状 被告商品は、胸元にひだを寄せていないのに対し、原告商品は、胸元にひだを寄 5 せており、被告商品は、バストの大きな方でも胸元の窮屈さを感じないという特徴 がもたらされている。胸元の形状は最も注意を惹く部分であるので、商品全体から みて需要者に異なる印象を与えるものである。 Gパッドの形状 被告商品は、穴あきの三角形のパッドであるのに対し、原告商品は、穴なしの丸10 形パッドであり、被告商品は、バストアップ効果を高め、バストをしっかりと包み 込むという特徴や穴から蒸れを逃がして着心地を良くしたという特徴がもたらされ ている。パッドの形状は、商品の着心地やシルエットを左右する重要なものである。 また、着用時には、被告商品はバストが自然な丸みになるのに対し、原告商品は いびつな丸みである。 15 H縫い代の端の始末 被告商品は、縫い代の端を生地に縫い付けており、原告商品とは異なり、縫い代 が肌に当たってもチクチクしにくいという特徴がもたらされている。 I素材 被告商品は、材質がナイロン95%、ポリウレタン5%であるのに対し、原告商20 品は、ナイロン70%、ポリエステル25%、ポリウレタン5%であり、原告商品 にようにポリエステルを混合させた素材は変形しにくく伸びが悪いので、被告商品 は、「全体によく伸びる素材を使用しているため、長時間の着用も楽チン」という 特徴がもたらされている。 イ 依拠性25 被告は、平成25年頃から中国の工場である廣東汕頭谷?豐隆泰針織廠との取引 を開始したところ、シックスパックが知られるようになり、シックスパックのよう 9 に見せる衣服が販売されるようになっていたことから、同工場に対し、工場ですで に製造されている商品をベースに、希望する機能やイメージを伝えたところ、平成 29年夏頃、工場から、製造機械のデータを設定した上で製造される完成品の仕様 や形状がわかる資料の提示を受けたことから、仕様等の細部の調整を経たうえで、 5 被告商品を当該工場に発注し、輸入、販売したものであるから、原告商品に依拠し たものではない。 シックスパックという呼称は一般的であり、原告商品の商品名と被告商品の商品 名は類似していないし、原告商品の発売以前から腹直筋が6つに割れて見える状態 をイメージした衣類等は多くあり、腹直筋は本来腱により8つに区画されているか10 ら、より鍛えられた印象を与えるために8つに割れて見える状態にしたものも少な くなかったのであって、被告は、原告商品を認識して被告商品を開発したのではな い。 (3) 損害額(争点3) (原告の主張)15 ア 訴状における主張額 原告商品の1枚当たりの平均売価は、約809円であり、粗利率は約50%であ る。 被告は、インターネット上の約300店舗を通じて被告商品を販売しており、1 店舗当たり、1か月に被告商品を少なくとも20枚(ブラック M、L、ベージュ M、 20 L 各5枚)販売したと考えられるから、平成30年12月から令和元年8月までの 間に少なくとも5万4000枚(300店×20枚/月×9か月)販売したと考え られる。 そうすると、不正競争防止法5条1項により推定される損害額は、2184万3 000円(809円×5万4000枚×50%)である。 25 イ 被告の主張する販売数に基づく主張額 原告は、平成30年2月1日から令和3年2月1日までの間に、原告商品を12 10 万0628枚(ブラック M6万4205枚、ブラック L5万3363枚、ベージュ M1598枚、ベージュ L1462枚)を合計9860万3541円で販売してお り、1枚当たりの平均販売価格は817円である。 原告は、平成30年4月2日、原告商品を1万1088枚輸入し、仕入れ価格は 5 372万7997円であり、通関手数料として11万9620円、関税、消費税等 として61万4428円を支払ったから、1枚当たりの費用は402円である。 そうすると、原告商品の1枚当たりの利益は、415円である。 被告によれば、被告商品の販売枚数は、少なくとも1万4265枚であり、不正 競争防止法5条1項により推定される損害額は、591万9975円(415円×10 1万4265枚)である。 ウ 推定覆滅事情 被告は、被告の営業努力を主張するが、被告商品以外に女性下着等を取り扱って おり、すでにある販路を利用したにすぎず、展示会も被告が扱う商品全般を紹介す るもので、被告商品のみを紹介するものではないし、展示会自体は通常行う営業で15 ある。 被告は、競合品の存在を主張するが、被告が主張する商品はいずれも全体として 形態が異なっており、被告商品のほかに原告商品に類似した商品はなく、競合品と いうべきものはない。 価格差は、原告商品が1980円、被告商品が1280円であるが、被告商品は20 原告商品の模倣であって商品開発に費用を要せず、その費用を価格に反映させる必 要がないから、価格差を不正競争防止法5条1項ただし書の「販売することができ ないとする事情」に含めるのは公平を害する。 (被告の主張) ア 利益の額25 不正競争防止法5条1項の「利益」は、売上から商品原価のほか、輸送、配送費 等の一切の変動費を控除した後の限界利益をいうところ、原告の主張する利益は、 11 粗利であるから相当ではない。 イ 推定覆滅事情 原告は、原告商品を通信販売カタログや広告チラシに掲載して販売していたのに 対し、被告は、被告商品をインターネット上で問屋を通じて販売し、営業交渉によ 5 り広く販路を拡大した。また、被告は、被告商品について、人気のダイエット整体 師を広告等に用い、展示会に出展するなどの販売努力をしていた。 また、原告商品の購入者層は、定期購読、閲覧するカタログ、チラシ等で商品情 報を得て購入を検討するが、インターネットサイトで販売される被告商品等と比較 検討することはなく、原告商品の販売数量は、被告商品の存在に影響されない。 10 さらに、インターネットサイトでは、被告商品と同種、同コンセプトの代替商品 が多数販売されており、インターネットで被告商品を購入した者は、被告商品がな い場合は、代替商品を購入したと考えられ、カタログ販売の原告商品を購入したと はいえない。 原告商品の小売価格が1980円であるのに対し、被告商品の小売価格は12815 0円であり、大きな差異があるから、被告商品がなければ原告商品が購入されてい たとはいえない。 以上によれば、少なくとも販売された被告商品の5割に相当する数量については、 侵害行為によって原告が販売機会を喪失した関係にはなく、被告商品がなければ同 数量の原告商品を販売することが可能であったという因果関係がなく、「販売する20 ことができないとする事情」があるといえる。 |
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当裁判所の判断
1 原告商品の形態は不正競争防止法2条1項3号において保護される商品形態 に当たるか否か(争点1)について (1) 原告商品の形態25 原告商品(甲1〜7、11)は、別紙原告商品目録記載の女性用下着であり、そ の構成態様は、以下のとおりである。 12 A アンダーバストにバストアップをサポートする着圧部を設け、 B 腹部にアンダーバストの着圧部から下腹部の着圧部に向け、腹筋に沿って縦 に1本、横に左右3本の着圧部とアンダーバスト、腹筋、下腹部の着圧部に挟まれ た左右4本の生地のたるんだ部分を設け、 5 C 腹筋部から脇腹、腰にかけて着圧部を設け、 D 背中に交差した着圧部を設けた女性用下着。 (2) 同種の商品の形態 被告の主張する同種の商品の形態は、以下のとおりである。これらのうち、少な くともモアプレッシャーは原告商品の販売開始前から存在している。 10 ア エクスレンダー、MONOVO マッスルプレス(甲16、乙18、19 、2 1) A アンダーバストに細い線が入っており、 B 腹部に縦に3本の生地のたるんだ線、横に2本の線を設け、 C 腹筋部から脇腹にかけて着圧部を設け、 15 D 背中に交差した着圧部を設けた女性用下着。 イ モアプレッシャー(甲15、乙20) A 胸部と腹部の間に着圧部を設け、 B 腹部に腹筋に沿って縦に1本、横に2本の着圧部と胸部、腹筋、下腹部の着 圧部に挟まれた左右3本の生地のたるんだ部分を設け、 20 C 腹筋部から脇腹、腰にかけて着圧部を設け、 D 背中に V 字型に着圧部を設けた男性用下着。 ウ エーユードリーム(乙22) A アンダーバストに着圧部を設けず、 B 腹部に縦に3本の着圧部、横に3本の線とアンダーバスト、縦方向、下腹部25 の着圧部に挟まれた左右6本の生地のたるんだ部分を設け、 C 腹筋部から脇腹にかけて着圧部を設け、 13 D 背中に交差した着圧部を設けた女性用下着。 エ パワーズドクター(甲17、乙23) A 胸部と腹部の間に着圧部を設け、 B 腹部に縦に3本の生地のたるんだ線、横に3本の線を設け、 5 C 腹筋部から脇腹、腰にかけて着圧部を設けず、 D 背中に交差した着圧部を設けた男性用下着。 (3) 原告商品の形態がありふれた商品形態であるかについて 原告商品の形態と前記(2)の各商品の形態とを対比すると、モアプレッシャー及 びパワーズドクターは、男性用下着であって、そもそも需要者が異なる別種の商品10 であり、特に構成態様 A に係る胸部及びアンダーバストの形状が大きく異なる。 また、エクスレンダー、MONOVO マッスルプレス、エーユードリーム、パワー ズドクターは、いずれも、構成態様 B に係る腹部の形状について縦に3本の着圧部 ないし線を設けており、縦に1本のみ着圧部を設ける原告商品とは大きく外観が異 なる。 15 そして、これらの相違は、商品の正面視において一見して明らかであり、需要者 の注意を惹く特徴的な部分といえ、商品全体としての印象が異なるから、原告商品 は、同種の商品とは異なる形態を有しているものであり、原告商品の形態はありふ れたものとはいえない。 被告は、「腹筋の割れを看者に感得せしめるようにした形態」が同種の商品にあ20 りふれており、腹直筋をモチーフにして腹筋の割れを6つにするか8つにするかを 選ぶ程度であれば改変の着想はたやすく、改変の程度は小さく、改変によって形態 上の特徴がもたらされないと主張する。 しかしながら、腹筋の割れを表現する形態は多様であり、被告の主張する同種の 商品は、前記のとおりいずれも原告商品とは大きく異なる形状を採用しているか25 ら、原告商品の形態と同種の商品の形態との相違の程度が小さく、形態上の特徴が もたらされていないとはいえない。 14 そうすると、原告商品の形態はありふれたものではなく、不正競争防止法2条1 項3号において保護される商品形態に当たるというべきである。 2 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品に該当するか否か(争点2)につ いて 5 (1) 形態の実質的同一性について ア 被告商品 被告商品(甲4、9、11、12)は、別紙被告商品目録記載の女性用下着であ り、その構成態様は、原告商品の構成態様 A〜D と共通している。 イ 原告商品と被告商品の形態の対比10 原告商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、両者は、構成態様 A〜D が共 通し、原告商品と被告商品から受ける商品全体としての印象が共通することによ り、商品全体の形態が酷似している。 もっとも、原告商品と被告商品とは、色彩(色味)において相違し、被告におい ては、部分的な形状や素材の差異もあると主張するが、以下のとおり、これらの相15 違は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違に とどまる。 (ア) 色彩(色味) 原告商品は、ブラックであるのに対し、被告商品には、ブラック及びベージュの 2色がある(甲11、12)。 20 なお、原告は、ベージュの商品も販売しているが、その販売開始は被告商品の販 売開始よりも後である(甲30)から、原告商品の色彩はブラックであることを前 提に検討すべきである。 別紙原告商品目録及び被告商品目録の写真のとおり、原告商品と被告商品のベー ジュとでは、色彩において明らかな外観上の差異を生じるが、ブラックやベージュ25 は、原告商品及び被告商品のような女性用下着において一般的なカラーバリエーシ ョンであり、証拠(甲3〜5、7)によれば、同一の商品名で複数のサイズが選択 15 可能に用意されているのと同様にブラックとベージュが選択可能なもの(いわゆる 色違い)として用意されていることがしばしばあると認められるのであって、この ように一般的に用意されている色彩は、原則として、その相違が形態の実質的同一 性の判断に強い影響を与えないものと考えられる。そして、被告商品のブラックや 5 ベージュは、一般的な下着に採用されている色彩と特段異なるものとは認められ ず、上述のとおり、原告商品と被告商品とで全体的な形状に差異がないため、色彩 がブラックであるかベージュであるかは、単なる色違いと認識され、商品全体の形 態に与える変化に乏しく、形態の実質的同一性の判断に与える影響は極めて小さい ものというべきである。 10 (イ) アンダーバスト及び胸中央の伸び寸 証拠(乙5、6)によれば、原告商品は、被告商品よりもアンダーバスト及び胸 中央部において伸縮性が低いこと、生地の編み方が異なることが認められる。 もっとも、証拠(甲1〜7、9、11、12、乙5、6)によれば、生地の編み 方の違いは外観上、詳細に確認しても判別が容易ではない程度にとどまり、伸縮性15 の差異も商品が陳列され、あるいは着用された状態ではごくわずかであり、最大限 引き伸ばした状態でも5〜10p程度であって、これらの差異が商品全体の形態に 与える変化はほとんどなく、商品全体からみると些細な相違にとどまる。 (ウ) 着圧部の織り模様 証拠(乙7)によれば、原告商品は背中で交差する着圧部の端部と脇腹付近の着20 圧部の端部との間に段差様のずれがあるのに対し、被告商品はずれがなく連続して いることが認められるが、外観上、見えにくい脇腹部分の差異であり、着圧部の端 部自体がそれほどはっきりとした模様になっているわけでもないから、商品の全体 の形状に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまる。 (エ) シックスパックメイクポケットの形状25 証拠(乙8、15)によれば、原告商品よりも被告商品の方が、シックスパック をイメージした部分の生地のたるみが大きく、袋状になっており、その部分のしわ 16 はやや少ないことが認められるが、両者ともたるんでいることに変わりはなく、前 記(イ)の伸び寸と同様に、その差異の程度は外観上、それほど明確に区別されるも のとはいい難く、商品全体からみると些細な相違にとどまる。 (オ) シックスパックメイクポケットの左右の間隔 5 証拠(乙9、24)によれば、原告商品より被告商品の方が、腹筋に沿った縦の 着圧部(左右の生地がたるんだ部分の間隔)が広く、腹部の着圧が強いことが認め られる。 しかしながら、前記(ウ)のとおり、着圧部の端部は外観上はっきりしたものでは なく、着圧部の幅も一見して明確なものとはいえず、証拠(甲1〜7、9、11、 10 12、乙2)によれば、商品が陳列状態であっても着用状態であっても、腹部の形 態の差異はほとんど生じないことが認められ、これらの差異が商品全体の形態に与 える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまる。 (カ) 襟ぐりの深さ 被告は、乙10の写真を根拠に原告商品より被告商品の方が襟ぐりが浅いと主張15 するが、他の写真(甲11、12、乙3〜6、8、9、12)では、そのような差 異を確認することができず、証拠(乙14)によれば、被告において比較した商品 のサイズが異なる可能性があるから、襟ぐりの深さについては、被告主張の差異が あるとは認められない。 (キ) 胸元の形状20 被告は、乙11の写真を根拠に原告商品は胸元にひだを寄せているが、被告商品 はひだを寄せていないと主張するが、同写真によっても、被告商品の胸元にもしわ があり、証拠(甲11、12、乙3〜6、8、9)によれば、原告商品と被告商品 の胸元のしわの形状に顕著な相違は認められないから、被告主張の差異があるとは 認められない。 25 (ク) パッドの形状 証拠(乙12)によれば、原告商品のパッドは円形であるのに対し、被告商品の 17 パッドは辺が曲線の三角形で蒸れ防止用の穴が開いていることが認められる。 パッドは、商品の内部に装着されるものであるところ、証拠(甲11、12、乙 3〜6、8、9、11、24)によれば、パッドの形状の差異は、原告商品と被告 商品の形態にほとんど差異をもたらしていないことが認められるから、パッドの形 5 状の差異が商品全体の形状に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違 にとどまる。 (ケ) 縫い代の端の始末 証拠(乙13)によれば、原告商品の縫い代はやや立ち上がった状態であるのに 対し、被告商品の縫い代は比較的平坦であることが認められる。 10 もっとも、縫い代は、商品全体からみてかなり細かい部分であり、着用時に内側 となり外部からは隠れる部分であるから、外側の形状ほどには需要者の注意を惹く 部分ではないと考えられる上、特段、特徴的な形状の縫い代の端の始末ではないこ とからすれば、商品全体の形状に与える変化はほとんどなく、商品全体からみると 些細な相違にとどまる。 15 (コ) 素材 証拠(乙14)によれば、原告商品はナイロン70%、ポリエステル25%、ポ リウレタン5%であるのに対し、被告商品はナイロン95%、ポリウレタン5%で あることが認められるが、ナイロンが大半を占めていることに変わりはなく、外観 上の差異は認められないところ、ポリエステルが含まれていることによる需要者が20 認識可能な具体的な形態の差異を認めるに足りる証拠はない。 ウ 以上によれば、被告商品の形態は、原告商品の形態と実質的に同一であるも のと認められる。 (2) 依拠性 証拠(甲1、19、乙28、29)によれば、原告商品は、平成29年12月225 2日に商品名及び仕様が確定し、平成30年2月1日以降、カタログ通販により販 売されていたものであり、被告商品は、同年7月21日以降に発注され、同年11 18 月6日以降に輸入され、同年12月頃から販売されたものであることが認められる から、原告と同業者である被告において、原告商品に依拠して被告商品を製作する ことは可能であったといえる。 また、前記(1)のとおり、被告商品の商品全体の形態は原告商品と酷似し、被告 5 商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一である。他方で、前記1のとおり、腹 直筋(シックスパック)をイメージした下着は、他社においても複数販売されてい るものの、いずれも、原告商品とは商品全体の印象が異なり、被告商品のように原 告商品と酷似したものはない。 さらに、被告は、平成29年夏頃、中国の製造業者に希望する機能やイメージを10 伝えて当該業者がすでに製造している商品(サンプル)を基にデザインを完成させ た旨の主張をするものの、その経緯についての説明は具体性に乏しく、その後商品 の発売までに1年以上が経過していることも不自然である。デザインの創作過程を 裏付ける指示書や提案書その他の製造業者とのやり取りに係る証拠はなく、被告代 表者が供述するように製造業者に抽象的に機能やイメージを電話で伝えただけで、 15 偶然に原告商品に酷似した被告商品が製作されたとは考え難い。 被告は、被告商品の開発に関する客観的証拠は乙26の2〜4及び乙27の1の データのみであるとしており、乙26の2〜4は検品の際の資料、乙27の1は被 告商品の仕様に係る資料であるとする(被告代表者)が、いずれも作成時期が記載 されておらず、いつ被告に対して提供されたデータであるのか特定することができ20 ない。 これらの事情を総合考慮すると、被告商品は、原告商品に依拠して作り出された ものと認められる。 (3) 小括 以上によれば、被告商品は、原告商品の形態に依拠して作り出された実質的に原25 告商品と同一の形態の商品といえるから、被告商品は原告商品の形態を模倣した商 品(不正競争防止法2条1項3号)に該当するものと認められる。 19 3 被告の故意、過失(重過失)について 前記2(2)のとおり、被告は、被告商品を製作するより前に原告商品の形態を知 ることができたところ、被告は、中国の製造業者に希望する機能やイメージを電話 で伝えて被告商品のデザインを完成させたというのであるから、被告商品が原告商 5 品と実質的に同一の形態となったのは、被告が原告商品を知って原告商品に依拠し たからであると推認される。 被告は、原告商品を知らずに中国の製造業者に商品のイメージを伝えて当該業者 の既存商品を基に被告商品のデザインの提案を受けた旨主張し、被告代表者もこれ に沿う供述をするが、具体的に当該業者にいかなる依頼をして提案を受けたのかあ10 いまいである上、当該業者が被告の依頼以前にすでに被告商品と同様の形態の商品 を製造していたとか、具体的な商品デザインを有していたという事情が認められる わけでもないのに、被告の電話での抽象的な依頼によって、ほとんどデザインの修 正を行うことなく、原告商品と酷似した被告商品のデザインを完成させたというの は、原告商品がデザインの完成に至るまで何度もデザインの修正を経ている(甲115 9)ことを踏まえれば、にわかに信用し難いものといわざるを得ない。 そうすると、被告は、中国企業をして故意に原告商品の形態を模倣した被告商品 を製作させ、輸入したものであり、輸入の際に被告商品が原告商品の形態を模倣し た商品であることを知っていたものと認められる。 4 損害額(争点3)について20 (1) 不正競争防止法5条1項により推定される損害額 ア 原告商品の単位数量当たりの利益の額 証拠(甲27〜29)によれば、原告が平成30年4月に輸入した原告商品(商 品コード 0-24325-001 のシックスパックシェイプインナーM 及び商品コード 0-2432 5-002 のシックスパックシェイプインナーL)の仕入れ値は、1万1088枚で3725 2万7997円であり、輸入に係る通関手数料、運搬料等は、11万9620円、 関税、消費税、地方消費税は、61万4428円であるから、経費の合計は446 20 万2045円であると認められる。また、証拠(甲24の7)によれば、当該原告 商品と同種商品11万6914枚の売上総額は、9543万2759円であると認 められる。そうすると、原告商品の単位数量当たりの利益の額は、413 円(≒ (9543万2759円/11万6914枚×1万1088枚-446万2045 5 円)/1万1088枚)と認められる。 原告は、平成30年4月に輸入した原告商品と異なる商品コード、商品名の商品 も含めた売上から単位数量当たりの利益の額を算出しているが、原告が明らかにし ている経費は、前記輸入した原告商品に係るもののみであり、その余の商品の経費 は明らかではないから、採用できない。 10 また、被告は、原告主張の売上額から商品原価のほか、輸送、配送費等の一切の 変動費を控除すべきと主張するが、前記のとおり、通関手数料のほか、運搬料等も 経費として算入されており、これらのほかに具体的に計上すべき変動経費があると は認められないから、前記認定を妨げるものではない。 イ 被告商品の譲渡数量15 証拠(乙33)によれば、被告商品の譲渡数量は1万6096枚であると認めら れる。 原告は、被告商品の譲渡数量が5万4000枚であると主張するが、証拠(乙2 8〜32)によれば、被告が輸入した被告商品は1万7700枚であったことが認 められるから、被告商品の販売数量がこれを上回ることは考え難く、うち、令和220 年2月3日に納品された1500枚は、本件訴状送達日より後に納品されたもので あるから、被告が販売していないと主張しているものであって、これを差し引いた 1万6200枚は、前記譲渡数量と整合するものである。原告が被告商品を多数販 売した卸売先として20社を挙げて調査嘱託をした結果においても、およそ原告の 主張するような多数の譲渡数量を窺わせる販売数の回答はなく、むしろ、被告主張25 の譲渡数量に沿う少数の販売数の回答にとどまっていることからすれば、被告商品 の譲渡数量が1万6096枚を超えるものとは認められない。 21 ウ 販売することができないとする事情 (ア) 市場の非同一性 証拠(甲1〜9)によれば、原告商品は、通販カタログや広告チラシに掲載され て販売されているのに対し、被告商品は、通販カタログにも掲載されているが、主 5 にインターネット上の通販サイトで販売されていたことが認められる。 被告は、インターネットの通販サイトで被告商品を購入しようとする者は、被告 商品がない場合でも、カタログ販売の原告商品を購入したとはいえないと主張する が、インターネットの通販サイトで被告商品を購入しようとする者のうち、通販カ タログを見ない者がどの程度存在するのかは明らかではなく、部分的に販売するこ10 とができないとする事情に当たり得るとしても、この点から市場が完全に異なると まではいえないというべきである。 他方で、証拠(甲1〜9)によれば、原告商品の小売価格は1980円である が、被告商品の小売価格は1280円であり、明らかな価格差がある。 原告は、原告商品の模倣である被告商品には商品開発の費用を要しないから、価15 格差を販売することができないとする事情に含めるのは公平を害すると主張する が、販売することができないとする事情は、被告の不正競争と原告商品の販売減少 との因果関係を阻害する事情であるから、被告商品が廉価であることが当該事情に 当たることは明らかである。 (イ) 競合品の存在20 前記1(2)のとおり、原告商品及び被告商品と同様に腹直筋(シックスパック) をイメージした商品が複数存在しており、エクスレンダー、MONOVO マッスルプ レス及びエーユードリームは、女性用下着として、原告商品及び被告商品と同種の 競合品ということができる。 原告は、これらの他社商品は、いずれも全体として原告商品や被告商品と形態が25 異なっており、競合品に当たらないと主張するが、原告商品や被告商品と当該他社 商品は、商品としての形態の相違が需要者に認識できる程度に異なっているにすぎ 22 ず、構成態様 B の具体的な形状以外はおおむね共通する類似商品であって、証拠 (甲1〜9、乙18)によれば、いずれもトレーニング効果や腹部の引き締め効果 を謳っている商品であって、市場において競合する商品であることは明らかであ る。 5 また、競合品は、証拠(乙18)によれば、エクスレンダーだけで販売枚数が7 0万枚を超えているとされているのであって、原告商品の累計販売枚数が12万0 628枚(甲24の7)であることと比較すると、原告商品の市場におけるシェア は低く、市場における競合品は、原告商品よりもはるかに多いものといえる。 そうすると、被告商品が存在しなかったとすれば、相当数の需要者が原告商品で10 はなく競合品を購入したものと考えられるから、競合品の存在は、原告が譲渡数量 の一部を販売することができないとする事情に当たるというべきである。 (ウ) 被告の営業努力 被告は、営業交渉により広く販路を拡大し、人気のダイエット整体師を広告等に 用い、展示会に出展するなどの販売努力をしたと主張する。 15 しかしながら、営業交渉や展示会の具体的な内容は明らかではなく、通常行われ る営業活動と異なるものとは認められず、ダイエット整体師の広告がどの程度販売 に結び付いているのかも不明であるから、これらの営業努力を販売することができ ないとする事情に当たるということはできない。 (エ) 以上によれば、本件においては、原告が譲渡数量の一部を販売することが20 できない事情があり、25%の推定覆滅を認めるのが相当である。 エ 損害額 以上によれば、被告の不正競争行為による原告の損害額は、498万5736円 (=413円×1万6096枚×0.75)と認められる。 (2) 遅延損害金の起算日及び利率25 被告は、本件訴状送達日(令和2年1月7日)以降は被告商品の販売を停止した 旨主張し、同日以前に被告による被告商品の販売に係る不正競争が行われ、損害も 23 発生したといえ、不正競争の損害賠償金の遅延損害金の起算日をその後である令和 2年1月8日とする原告の主張には理由がある。 また、これを前提とすれば、平成29年法律第44号による改正前の民法所定の 年5分の利率が適用されることになるから、遅延損害金利率に係る原告の主張には 5 理由がある。 |
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結論
以上によれば、原告の請求は、被告に対し、不正競争防止法4条に基づく損害賠 償金498万5736円及びこれに対する令和2年1月8日から支払済みまで年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 10 よって、原告の請求は上記の限度で認容し、その余の請求については理由がない からこれを棄却することし、主文のとおり判決する。 |