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事件 令和 4年 (ネ) 10051号 不正競争行為差止等請求控訴事件
令和4年12月26日判決言渡 令和4年(ネ)第10051号 不正競争行為差止等請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所平成31年(ワ)第11108号) 口頭弁論終結日 令和4年11月9日 5判決
控訴人X 10 控訴人 クリスチャンルブタン エス アー エス
控訴人ら訴訟代理人弁護士 宮川美津子
同 波田野晴朗
同 関川淳子 15 同山大蔵
控訴人ら訴訟代理人弁理士 廣中健
被控訴人 株式会社エイゾーコレクション 20 同訴訟代理人弁護士 名取勝也
同 勝田裕子
同 青木彩
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/12/26
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
25 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を310日と定める。
事実及び理由
請求
1 原判決を取り消す。
5 2 被控訴人は、原判決別紙被告商品目録記載第1の各商品を製造し、販売し、
又は販売のために展示してはならない。
3 被控訴人は、前項記載の各商品を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人Xに対し、902万円及びこれに対する令和元年5月1 9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 5 被控訴人は、控訴人クリスチャン ルブタン エス アー エスに対し、2 306万円及びこれに対する令和元年5月19日から支払済みまで年5分の割 合による金員を支払え。
6 被控訴人は、控訴人ら各自に対し、1000万円及びこれに対する令和元年 5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
15 第2 事案の概要(略称は、別途定めるほかは、原判決に従う。) 1 事案の概要 控訴人X(以下「控訴人X」という。)は、高級ファンションブランド「クリ スチャン ルブタン」(ルブタン)のデザイナーであり、控訴人クリスチャン ルブタン エス アー エス(以下「控訴人会社」という。)の代表者であった20 者である。
控訴人会社は、原判決別紙原告表示目録記載の表示(女性用ハイヒールの靴 底にパントン社が提供する色見本「PANTONE 18-1663TPG」 (原告赤色)を付 したもの(原告表示) )を使用した商品(原告商品)等を製造・販売している。

本件は、控訴人らが、被控訴人が製造及び販売している原判決別紙被告商品25 目録第1の女性用ハイヒール(被告商品)は周知又は著名な原告表示と類似す る商品であり、被告商品の販売及び販売のための展示は原告商品と混同させる 2 行為であって、不正競争防止法(不競法)2条1項1号又は2号に該当すると 主張して、被控訴人に対し、不競法3条1項及び2項に基づいて、被告商品の 製造、販売又は販売のための差止めと被告商品の廃棄を求めるとともに、不競 法4条に基づいて、損害賠償(@控訴人Xは902万円、A控訴人会社は23 5 06万円、B控訴人Xと控訴人会社の連帯債権として1000万円)及びこれ に対する訴状送達の日の翌日である令和元年5月19日から支払済みまでの 平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延 損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、原告表示は不競法2条1項1号又は2号に規定する周知又は著名10 な商品等表示に当たるものではなく、また、被告商品は原告表示と類似するも のではなく、原告表示を使用した原告商品と被告商品とは需要者において出所 の混同を生じさせるものではないと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却 したところ、控訴人らは、これを不服として控訴した。
2 「前提事実」 「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり補 、
15 正し、後記3のとおり、当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原 判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2、第3に記載のとおりであるから、
これを引用する。
(原判決の補正) 3頁21行目の「代表者である」 「代表者であった者である」 を と改める。
20 4頁25行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
「ウ 特許庁は、令和4年5月10日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」 との審決をした(乙87) 」 。
17頁25行目から26行目にかけての「自他識別機能」を「自他商品識 別機能」と改める。
25 3 当審における当事者の補充主張 控訴人らの主張 3 ア 原告表示は不競法2条1項1号又は同項2号の「商品等表示」に該当す ること 「ルブタン」ブランドは、世界有数のラグジュアリーブランドであり、
原告表示を付した女性用ハイヒール靴は、世界各国のファッション関係 5 者やセレブリティに愛用され、数多くの雑誌等で靴底の赤色が強く印象 付けられる構図で掲載され、需要者及び取引者間において原告表示は 「レッドソール」 (深紅の靴底/赤い靴底)と呼ばれて、多数の雑誌やメ ディア等で「レッドソール」が「ルブタン」ブランドの象徴的な特徴(シ グニチャー)として取り上げられている。原告商品の日本での販売実績、
10 テレビドラマや映画等での紹介、著名人による着用、受賞歴、広告宣伝 に加え、
「靴底」が「赤色」という靴は原告商品又は「ルブタン」の靴商 品であるとの認識が示されているブログ記事やツイッターの投稿が無 数にあること、本件アンケート調査結果によれば、需要者の64.77% 〜67.76%が原告表示を識別していること等に照らすと、原告表示15 は、被控訴人が被告商品の販売等を開始したと主張する平成12年10 月には、需要者間で周知、著名なものとなっており、その周知、著名性 は現在に至るまで継続していることは明らかである。
原判決は、商品の形態に関する商品等表示の該当性について、従前の 裁判例を踏襲して特別顕著性及び周知性を挙げながら、「商品に関する20 表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品 等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競 法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当であ る。」との独自の判断基準を提示した上で、原告表示が「原告赤色を靴底 部分に付した女性用ハイヒール」であることを前提とし、原告表示には25 光沢のない原告赤色をゴム製の靴底部分に付した女性用ハイヒール靴 という形態が含まれ得るとして、原告表示の「商品等表示」該当性を否 4 定したが、原判決の示す判断基準は、端的に商品等表示識別力が問題 とされてきた従前の裁判例の判断方法を逸脱する不合理なものである。
また、この点を措くとしても、控訴人らが主張する原告表示は、
「女性用 のハイヒール靴の靴底部分に付された原告赤色」という特定の商品の特 5 定の位置に使用される特定の色彩(PANTONE 18-1663TP)であり、複 数の色彩が含まれるものではないから、原判決は、その前提において誤 りがあるし、靴底の光沢や質感は、出所識別力に影響を与えるものでは なく、商品等表示性の判断に影響を与えるものではないから、この点に おいても原判決の判断は誤りである。
10 原判決は、原告赤色と似た赤色が日本国内においてハイヒール靴の靴 底の色彩として継続的に使用され、現在、一般的なデザインとなってい ることを挙げて、原告表示の特別顕著性を否定するが、原判決が認定し たカタログや商品に掲載された靴の販売数量、販売期間等は明らかでは ないし、数も少なく、さらには原告商品の模倣品であることが疑われる15 ものも含まれるものであって、こうした原告商品の顧客吸引力に便乗し た商品があることは原告表示の識別力を否定する証拠として重視され るべきではない。
控訴人らは、ハイヒール靴においてそれまで特に着目されることもな かった靴底にあえて需要者の目を惹く原告赤色を使用し、25年以上に20 わたってほぼ独占的に女性用ハイヒール靴の靴底に原告赤色を使用し てきており、原告商品は、
「レッドソール」などと呼ばれ、靴底部分の原 告赤色が視認できるように雑誌等に掲載されてきており、女性用ハイヒ ール靴の靴底部分に付された原告赤色は、十分に他の同種商品と識別し 得る特徴となっているから、原告表示には特別顕著性がある。
25 イ 被告商品の靴底に付された赤色は原告表示に類似すること 原判決は、原告商品の靴底と被告商品の靴底とを対比し、対比観察でな 5 ければ明らかとはいえない光沢や質感等のわずかな違いを重視して類似 性を否定するが、不競法2条1項1号及び2号の「類似」の判断は、いわ ゆる離隔的観察によるべきである。原告赤色と被告商品の靴底の赤色は、
時と場所を異にした状況での観察(離隔的観察)の下では、色合いはほぼ 5 同一であり、顕著な差異は認められないから、被告商品の靴底に付された 赤色は原告表示に類似するものであり、原判決の判断は誤りである。
混同のおそれがあること 取引の実情について a ハイヒールの需要者層、需要者の消費行動等10 ハイヒール靴は女性用の商品であり、その主たる購入者層は20代 から50代の、独身女性、専業主婦、無職、会社員等の様々な属性、
職業の女性である。
ハイヒール靴は、素材、ブランド、デザイン、品質等により様々で あり、安価なものは2000円程度のものもあれば、高額なものは115 0万円を超えるものもあり、千差万別であるが、一般的に、ハイヒー ル靴を含む靴商品においては、1万円以下の価格帯の商品が最も取引 量が多く、1万円を超えるものは需要者にとって高価格帯の商品であ るといえる。
「ルブタン」は、ラグジュアリーブランドであり、原告商 品の1足当たりの定価は約10万円又はそれ以上であって、需要者に20 とって高価格帯のハイヒール靴であるといえるが、被告商品の定価は、
1足当たり1万6000円から1万7000円であって、原告商品ほ どの高価格帯ではないものの、需要者にとっては被告商品もまた高価 格帯のハイヒール靴である。
需要者の購入する商品の価格帯は、状況に応じて様々に異なり得る25 ものであり、普段は低価格帯の商品を購入する人が高価格帯の商品を 自ら購入することやプレゼントとして買ってもらうことはごく一般的 6 な消費活動であるが、高価格帯の商品の購入頻度が高い消費者が低価 格帯の商品を購入することもあり、こうした消費活動は、ハイヒール 靴の購入についても当てはまる。ハイヒール靴は、仕事やプライベー ト等の様々な場面で着用される商品であり、需要者たる女性は、シチ 5 ュエーションに応じて様々なハイヒール靴を履き分けている。また、
原告商品を含むハイヒール靴は、ヒールの高さが複数種類用意されて おり、需要者は、着用する場面やコーディネートに合わせて異なるヒ ールの高さを選んでいる。
このように、需要者の消費活動からすれば、原告商品と被告商品の10 価格差にかかわらず、同じ需要者がシチュエーションに応じて、それ ぞれのハイヒール靴を購入することは容易に想定されるところである。
b ハイヒール靴の販売態様 ハイヒール靴には、@ブランド専門店、A小売業者の実店舗、Bア ウトレットモール、Cリユースショップ等の様々な流通経路があるが、
15 実店舗で販売される場合には、様々な形態及び価格で販売されており、
販売場所がブランドごとに明確に区切られていない場合も多く、この ため、顧客の中には、ブランドの差異や価格差を意識せずに、並べら れたハイヒール靴のデザイン、色のみを見て、自身が欲しいハイヒー ル靴を探す者が容易に推認されるところであり、こうした取引の実情20 は、原告商品及び被告商品の販売態様からして同様に当てはまる。
また、近時、オンライン取引の販売需要が増加しており、こうした オンライン取引では、ブランドや価格帯によって明確に流通経路が分 かれているわけではなく、様々な価格帯のブランドの製品が様々な販 売チャンネルを経由して販売されており、原告商品及び被告商品も、
25 ブランドの公式オンラインショップだけではなく、第三者の運営する 各種オンラインショップで販売されており、これらのオンラインショ 7 ップでは、明確にブランドごとに区別されることなく、原告商品と被 告商品が並べて陳列されることも容易に推認されるところである。
c ハイヒール靴の他ブランドとのコラボレーション ラグジュアリーブランドと価格帯の異なるブランドとの間でのコ 5 ラボレーションは、靴業界を含むファッション業界において日常的に 行われていて、
「ルブタン」でも、様々な靴ブランド、デザイナー等と コラボレーションしており、その際には、コラボレーション相手のロ ゴ等とともに原告表示又は原告赤色を使用してきた。
混同のおそれについて10 a 前記 のハイヒール靴の取引の実情のとおり、高価格帯のハイヒー ル靴を購入しようとする需要者が訪れる可能性がある店舗又はオンラ インショップで、原告商品と被告商品の双方が販売されていることが あり得るところであり、また、ブランド毎に区別して展示されていな い場合やブランド名が明記されてない場合等では、需要者が販売され15 ているハイヒール靴のブランド名を意識しないまま購入することもあ り得るところであり、周知な原告表示と類似する赤色が被告商品の靴 底に使用されていることや、
「ルブタン」の過去のコラボレーションの 実績等を踏まえると、需要者において、被告商品を原告商品と誤認混 同するおそれや、控訴人らと緊密な営業上の関係又は同一の商品化事20 業を営むグループに属する関係を有する者の販売する商品であると誤 認混同するおそれがある。なお、前記 のとおり、多種多様な販売チ ャンネル、販売態様、価格で販売されているハイヒール靴の取引の実 情の下では、原告商品と被告商品の間のブランド名、価格、素材等の 差異は、誤認混同のおそれを否定するものとはいえない。
25 b 原判決は、@原告商品と被告商品の価格の相違や素材等の差異、A 原告商品のような高級ブランドを購入する需要者は、商標等によって 8 その商品の出所を確認するのが通常であり、原告商品及び被告商品は、
ともに中敷きや靴底にブランド名が付されているから、需要者はこう したロゴにより出所の違いを十分に確認する、B原告商品のような高 級ブランドを購入する需要者は、自らの好みに合った商品を厳選して 5 購入しており、旧知の靴であれば格別、現物の印象や履き心地等を確 認した上で購入するのが通常であるとして、こうした取引の実情を踏 まえて混同のおそれを否定した。
しかし、@については、価格差があっても、同じ出所識別表示が使 用されていれば、少なくとも、被告商品が控訴人らからのライセンス10 商品又は控訴人らとの間で何らかの提携関係を有する商品と誤認混同 するおそれ(以下、「広義の混同」ということがある。)があるし、前 記 のとおり、同じ商品であっても様々な価格で取引されている取引 実態があることから、価格が異なったとしても需用者が出所を誤認す るおそれはある。
15 また、Aについては、原告商品、被告商品のロゴは、直角の角度か ら数センチ程度の近距離で確認しなければほとんど目視できないほど の大きさ、位置、表示されていることから、需要者は、中敷きや靴底 に付されたロゴを十分に認識、把握することはできず、原告表示の周 知著名性、原告商品と被告商品の類似性、高級ブランドと価格帯の異20 なるブランドとのコラボレーションを展開することがあることに鑑み ると、広義の混同のおそれがあることは否定できない。
Bについては、アパレル業界におけるEC市場の浸透という実態を 無視した前時代的判断というほかなく、原告商品についても、近年、
公式オンラインショップで年間約2800万円もの売上があり、実店25 舗で実物を確認せずにECサイト上で商品画像を視認するのみで購入 する顧客が相当数いることは明らかである。また、ハイヒールを購入 9 する際には、靴の形状、外観に加え、どのような洋服と合うか、どの ような機会に履くのが最適な靴であるかによって商品購入を選択して おり、履き心地を確認し、それからデザインを選ぶという購入行動は 一般的ではない。
5 したがって、原判決の判断は誤りである。
エ 小括 以上によれば、原告表示の周知性著名性は明らかであって、原告表示 は、不競法2条1項1号又は2号に規定する「商品等表示」に該当するも のであり、被告商品の靴底に使用された赤色は原告表示と類似しており、
10 被告商品の販売等により誤認混同のおそれがあるから、被控訴人が被告商 品を製造、販売又は販売のための展示をする行為は、不競法2条1項1号 又は2号に規定する不正競争行為に当たるというべきである。
被控訴人の主張 ア 原告表示は不競法2条1項1号又は同項2号の「商品等表示」に該当す15 るとはいえないこと 原告表示は、商品の美感を向上させる目的で取引上普通に採択、使用 されているデザイン手法の範疇において、特定位置(靴底)に付される、
ありふれた単一の色彩(赤色)であって、特別顕著性を有するものでは なく、また、原告表示は、女性用ハイヒール靴の需要者間において、特20 定人の業務に係る商品であることを表示するものとして広く認識され るに至っているものではなく、同様の特徴を備える商品が多数の事業者 により製造、販売されている実情を踏まえると、自他商品の出所識別表 示として機能することは事実上困難であることは明らかであって、不競 法2条1項1号又は同項2号の「商品等表示」には該当しない。
25 原告表示のように極めて広範かつ一般的なデザインについて不競法 2条1項1号又は同項2号の「商品等表示」の該当性が認められれば、
10 女性用ハイヒール靴の靴底を赤色に彩色することは事実上困難となり、
デザインの選択の自由が過度に制限され、かえって公正な競争が阻害さ れることになる。
不競法2条1項1号の「商品等表示」の周知性は、被疑侵害物品の需 5 要者を基準として判断されるべきところ、本件アンケートは、原告商品 のような高級ブランド品の需要者となり得るような者を主眼にした対 象者及び対象地域の選定がされており、また、質問の選択肢において、
被控訴人のような手頃な価格帯のブランド品のブランド名を記載して いないことから、本件アンケートの調査結果は、被告商品の需要者間に10 おける周知性を立証し得ない。
前記 のとおり、赤い靴底の女性用ハイヒール靴が控訴人に限らず、
手ごろな価格帯のブランドを含む他の事業者から多数販売されており、
需要者間においてもそれが広く認識されている状況において、本件アン ケートの調査結果によっても、靴底が赤いハイヒール靴の出所が控訴人15 のみであると広く認識されているとは到底いえず、まして著名性が認め られないことは当然である。
イ 被告商品の靴底に付された赤色は原告表示と類似するものとはいえな いこと 原告商品は、最低8万円を超える高級ブランド品で、赤色のラッカー塗20 装をした革製靴底の商品であり、それに加えて、靴底の曲線的な形状、靴 の形状、ヒールの高さその他形態上の顕著なデザイン性を有するものであ るのに対して、被告商品は、手ごろな価格帯であり、赤いゴム底であって、
原告商品と靴底の質感、光沢等の相違を含めて全体的な印象に顕著な差異 があるので、離隔的観察の下でも、需要者が被告商品の購入に際して当該25 商品を目視により確認すれば、容易に差異を認識し得るものであることは、
原判決が適切に説示するとおりである。
11 また、後記ウ のとおり、需要者は、靴底の赤色のみに着目して商品を 購入するのではなく、靴全体のデザイン、履き心地、価格、ブランド名、
商品に付されたロゴ等を確認した上で商品の出所を識別して商品を購入 するのであるから、靴底の赤色によって一般需要者誤認混同するおそれ 5 はなく、被告商品の靴底に付された赤色が原告表示と類似するものとはい えない。
混同のおそれはないこと 不競法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」の判断に当たっては、
需要者が当該商品を購入する際に混同を生じさせるおそれがあるか否か10 によって判断されるべきところ、以下のとおりの取引の実情に鑑みれば、
被告商品の購入に際して需要者が出所を誤認混同することはない。
店舗・売場の状況等 被告商品は、主に一般のOL、主婦、学生等をターゲットとした手頃 な価格帯のブランド品であり、被控訴人の店舗は、百貨店だけではなく、
15 高級ブランド品の取扱いがないファッションビルにも多数入店してい る。また、高級ブランド品を取り扱う百貨店においても、原告商品のよ うな高級ブランド品と被告商品を含む手頃な価格帯のブランド品は、陳 列、販売されるエリアが明確に分けられている。被控訴人の直営店が入 る百貨店のうち控訴人の直営店があるのは、松坂屋名古屋店とJR名古20 屋タカシマヤのみであるが、いずれも別フロアとなっている。
被告商品の売場では、被控訴人のロゴ又はブランド名が明確に表示さ れている。また、商品の中敷きや靴底にはロゴが表示され、さらには商 品を入れる靴箱や紙袋、顧客に渡す靴のお手入れ案内にも被控訴人のロ ゴ又はブランド名が明記されている。
25 このように、被告商品を扱う店舗及び売場の状況、商品等に被控訴人 のロゴ及びブランド名が明記されていることからすると、需要者が被告 12 商品を購入するに際して、被告商品と原告商品の出所について誤認混同 を生じる余地はない。
需要者の動向及び購入動機等 一般に、需要者は、靴を購入する際に、履き心地(フィット感)、色、
5 形等の靴全体のデザイン、歩きやすさ、値段、ブランド等に着目して購 入しており、店頭で試し履きをして足へのフィット感、歩きやすさ等を 確認して購入する人が大多数である。
被告商品についても、需要者は、履き心地、靴全体のデザインを気に 入って購入していくことが多く、加えて、赤い靴底の被告商品は、カラ10 ーバリエーションの1つとして陳列、販売されているにすぎず、需要者 が靴底の赤色のみに着目して被告商品を購入しているものではない。ま た、手ごろな価格帯のブランド品である被告商品のターゲットとなる需 要者においては、1足当たり3万円以内の商品を購入することがほとん どと考えられ、1足当たり8万円を超える原告商品とは明らかに需要者15 層を異にしており、一部、普段は手ごろな価格帯のブランド品を購入す るが、特別な時に原告商品のような高級ブランド品の購入を検討する需 要者層もいるとしても、原告商品を購入する需要者は、控訴人らのブラ ンドの価格帯、商品名、ブランドロゴ、商品のロゴ、商品の形状等につ いて熟知しており、そのような需要者が被控訴人の店舗、売場の状況で20 被告商品を目の前にして靴底の赤色のみからその出所を誤認混同する ことはない。
なお、控訴人らは、高級ブランドが別の名称で価格帯の異なるブラン ド(セカンドライン)を展開することや、高級ブランドがより低い価格 帯のブランドとコラボレーションすることはよくあるため、異なるブラ25 ンド名が付されていたとしても、出所を誤認するおそれがある旨主張す るが、セカンドラインはメインブランドの宣伝、顧客獲得の目的で作ら 13 れるものであるため、メインブランドとの関連性がブランド名やロゴ、
店内の表示等で分かるようになっていることが通常であり、また、コラ ボレーションの商品であっても、商品のタグ、中敷き、商品箱等でコラ ボレーション商品であることが明記されるから、需要者が、靴底の赤色 5 のみから被告商品が控訴人らのセカンドライン又はコラボレーション 商品であると誤認する可能性もない。
ECサイトにおける取引 被告商品は、自社サイトのほか、アマゾン、ロコンドで販売されてい るが、いずれのサイトでもブランド名が明記され、サイトに掲載された10 商品の写真でも、中敷き及び靴底のロゴを確認することができる。
被控訴人の年間(2021年6月1日から2022年5月31日まで) 売上高4億2400万円のうちECサイトの売上高は、3882万30 00円である(9.15%)。前記のとおり、需要者は、靴を購入するに 当たって履き心地や歩きやすさを重視しており、特に女性用ハイヒール15 靴は、ブランドによって基本となる足型が異なるため、サイズ感が異な り、足に合わないハイヒール靴を履いて歩くことは苦痛を伴うことから、
需要者は、自分の足に合うかどうかを慎重に確かめた上で購入すること が通常であるため、需要者がECサイトで女性用ハイヒール靴を購入す る際には、自分の足に合う商品を意識してリピート購入するか、又は試20 着サービス等を利用して購入することが通常である。
このように、ECサイトでも、需要者は、被告商品を購入するに際し て商品の現物を手に取って確認することが可能であるから、ECサイト における被告商品の赤い靴底の画像のみから被告商品と原告商品との 出所を誤認混同することはない。
25 エ 小括 以上のとおり、原告表示は不競法2条1項1号又は同項2号の商品等表 14 示に該当せず、また、原告表示と被告商品は類似するものではなく、誤認 混同のおそれもない。
当裁判所の判断
1 認定事実 5 引用に係る原判決の第2の1の前提事実、証拠(甲2の2、5ないし12、
13の2、13の3、14、16ないし29、30ないし41、43ないし7 9、81、83、121、122、124、126、128ないし134、1 36ないし143、145ないし157、159ないし168、170、17 1、173、177、179ないし192、194ないし203、205、210 07ないし221、223ないし244、246ないし283、285ないし 294、303、304、308、309、312、313、316、320 ないし322、345、349ないし351、353ないし420ないし46 0、461、463、473ないし479、483、498、499、507 ないし520、526、537ないし540、543ないし547、549な15 いし565、578ないし580、582ないし586、588、589、5 95ないし597、611ないし618、622ないし643、645、64 7、649ないし665、乙7ないし9、11ないし15、17ないし20、
27ないし31、40、42、43、45、56ないし60、61の2、66、
70、76、85、88、91ないし94、97ないし100)、原審における20 検証の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
原告表示の使用状況等 ア 控訴人Xは、平成3年ないし平成4年頃、控訴人会社を設立して、
「ルブ タン」のブランドを立ち上げ、現在では世界に170以上の店舗を展開し ており、遅くとも平成9年以降、靴底に原告赤色をラッカー塗装した女性25 用ハイヒールの販売を開始し、以後、女性用ハイヒール以外の靴製品の靴 底に原告赤色を付した商品を販売しているほか、男性用靴、財布、バック 15 等にも原告赤色を付した商品を販売している。
イ 原告商品は、最低でも8万円を超える高価格帯のハイヒールであり、1 0万円を超えるものも珍しくはない。
原告商品の靴底は、革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしている 5 ため、靴底の色は、いわばマニュキュアのような光沢がある赤色である。
また、原告商品の中敷きには「ルブタン」のブランドロゴが付されている。
日本における原告商品の販売実績、販売状況、売上高等 ア 控訴人会社は、遅くとも、平成10年までに、日本において原告商品の 日本での販売を開始し、平成21年9月にはルブタン日本法人を設立して、
10 平成22年2月に松屋銀座店を、同年10月に日本初の路面店を銀座にオ ープンした。
イ 原告商品は、ルブタン日本法人運営のオンラインショップのほか、路面 店(銀座店、青山店)、高級百貨店内その他の商業施設内の店舗のほか、セ レクトショップ、アウトレットモールでも販売されている。
15 原告商品は、百貨店内においては、他のブランドとは区画が分けられて 販売されていることが多いが、例えば、他のブランドと区別なく婦人靴コ ーナーの一角で販売されている百貨店(伊勢丹新宿店)では、高価格帯の ブランド靴のゾーンを示す「プレステージゾーン」において「ルブタン」 のロゴ等のプレートが設けられた区画で販売されている。また、アウトレ20 ットモールでは路面店と同じくその店が「ルブタン」ブランドで展開され る店であることが需要者に分かる店構えとなっている。
ルブタン日本法人は、
「ルブタン」ブランドの商品のみを取り扱うことが 一目で分かる専用の公式オンラインショップを開設し、原告商品を販売し ており、購入後14日以内であれば一定の条件付きであるが試着後も返品25 可能なサービスを提供している。
なお、原告商品を扱う一部のセレクトショップ(エストネーション六本 16 木店)では、ブランド名やブランドロゴが記載された看板やプレート等が ない形態でも販売されている(なお、原告商品の二次流通品もあるが、そ の点は で後述する。。
) ウ ルブタン日本法人の女性用靴の売上金額は、平成27年度は32億15 5 73万3000円、平成28年度は33億0495万4000円であり、
そのうち女性用ハイヒールの売上高は、70%ないし80%である。
なお、公式オンラインショップでの原告商品の売上高は、年間約280 0万円である。
原告商品の雑誌、メディア等の紹介、宣伝広告、受賞歴等10 ア 雑誌、メディア等の紹介 原告商品は、平成4年から令和3年までの間、各種雑誌、書籍、ウェ ブサイト等で紹介等されており、また、多くの雑誌やメディア、ファッ ション関連のニュースサイト等で、
「レッドソール」が原告商品の特徴で あると取り上げられている。
15 原告商品は、
「セックス・アンド・ザ・シティ」 (平成20年日本公開)、
「あなたは私の婿になる」(平成21年日本公開) 「抱擁のかけら」 、 (平 成22年日本公開)「TIME/タイム」 、 (平成24年日本公開)「バッ 、
ド・ティーチャー」 (同年日本公開)「ドクターX〜外科医・大門未知子 、
〜」(同年放送開始) 「Missデビル 、 人事の悪魔・椿眞子」(平成320 0年放送)「元彼の遺言状」 、 (令和4年6月現在放映中)等のテレビドラ マや映画で登場人物の衣装として使用された。
原告商品は、日本の著名人、芸能人のみならず世界的な著名人等によ って公の場で着用され、その様子が各種雑誌等で取り上げられている。
イ 宣伝広告25 控訴人会社は、原告商品について、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌その他 のマスメディアに広告を掲載することはなく、サンプルトラフィッキング 17 (雑誌編集者、スタイリスト、著名人等からの要望又は依頼に応じて、こ れらの者が雑誌の記事、メディアでの撮影等で使用するために原告商品を 貸し出すという広告宣伝方法をいう。)という手法で宣伝広告をしている。
このため、控訴人会社は、ルブタン日本法人に対し、サンプルトラフィ 5 ッキング用に原告商品を販売しているところ、平成22年度から平成29 年度までの販売金額(ルブタン日本法人の購入金額)の累計は、1億16 51万7000円(年平均約1450万円)である。
ウ 海外での受賞歴 「ルブタン」は、ザ・ラグジュアリー・インスティテュートが毎年主10 催する「ラグジュアリー・ブランド・ステータス・インデックス」にお いて平成19年から平成21年まで3年連続で1位となり、最もプレス テージのある婦人靴ブランドであると認定された。
控訴人Xは、平成20年、インターナショナル・ファッション・グル ープからFFANY賞を受賞した。
15 控訴人Xは、市場に大きな影響を与えたシューズデザイナーなどを表 彰する「フットウェア・ニュース・アチーブメント・アワード」におい て、平成17年に「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に、平成22年に 「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に、それぞれ選ばれた。
控訴人Xは、令和元年、FIT美術館が主催する年度別「クチュール・20 カウンシル・アワード・ファッション芸術賞」を受賞した。
エ 原告商品に関するブログやツイッター上の投稿内容 ブログやツイッター上の投稿においては、
「靴の裏が赤いといえば、ルブ タンでは?」 「靴底赤=ルブタンやん!」などといった、靴底に赤色を付 、
した女性用ハイヒール又は靴は「ルブタン」のブランドを指すことを示す25 多数のブログや投稿記事がある。
被告商品の形態及び販売実態等 18 ア 被告商品は、被告商品1及び2が1万6000円(税抜)、被告商品3な いし7が1万7000円(税抜)で販売されている。
被告商品は、靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため、
靴底の色は光沢がない赤色である。また、被告商品の中敷及び靴底には、
5 金色で「EIZO」のロゴが付されている。
イ 被告商品は、本社のある路面店(埼玉県草加市)、百貨店内の直営店だけ でなく、全国のセレクトショップ、靴専門小売店でも多数取り扱われ、販 売されている。
被告商品は、百貨店では、被控訴人が展開するブランド名「EIZO」10 と記されたブランドプレートやロゴパネル等で明確に区別されたエイゾ ーブランド専用の販売区画やブースで販売されており、小売店でも、同様 に「EIZO」のブランドプレート等のある区画で販売されている。
また、被告商品は、被控訴人が開設し運用するウェブサイト(「EIZO WEB SHOP」であることが明記されている。 でも販売されているほ )15 か、セレクトショップ、アマゾンといったECサイトでも販売されている。
これらのサイトでは、いずれもブランド名が明記されており、被告商品の 全体とアップした写真に商品の説明が添えられている(なお、被告商品の 二次流通品もあるが、その点は で後述する。 。
) これらのサイトの多くは、
一定の条件の下で試着した後も返品可能なサービスを提供している。
20 ウ 被控訴人の年間売上高(令和3年6月1日から令和4年5月31日まで) は、4億2400万円であるが、そのうち公式オンラインショップでの売 上高は約3882万円である。
原告商品以外の靴底が赤色の女性用ハイヒール等 ア 原告赤色と似た赤色は、ファッション関係においては国内外を問わず古25 くからあらゆる商品に採用されているところ、原告商品と同じく女性用ハ イヒールに限っても、以下のとおり、靴底が原告赤色と似た赤色の写真が 19 掲載されている。
写真家ギィ・ブルタンの写真集「GUY BOURDIN」(平成18年第1 刷発行)には、昭和54年春のシャルルジョルダンの広告写真として、
靴底が原告赤色と似た赤色の女性用ハイヒールの写真が掲載されている。
5 シューズデザイナー高田喜佐の著書「Shoe、 Shoe PARADISE」(平 成3年2月20日第1刷発行)には、
「1985クリスマス商品」として 靴底が原告赤色と似た赤色の女性用ハイヒールの写真が掲載されている。
ダイアナ株式会社(以下「ダイアナ社」という。)が展開するブランド 「TELLUS」のカタログ「Tellus collection “Autumn winter 88 89”」、
10 「AUTUMN WINTER COLLECTION 91/92 TELLUS」には、靴底が 原告赤色と似た赤色の女性用ハイヒールの写真が掲載されている。
雑誌「GLAMOROUS」平成20年10月号及び平成21年5月号に は、モーダ・クレアの靴底が赤色の女性用ハイヒールの写真が掲載され ている。
15 イ 靴底が原告赤色と似た赤色の女性用ハイヒールは、令和元年8月14日 時点において、ZOZOTOWN、ロコンド、アマゾン、楽天及びYah oo!ショッピングのウェブサイトで、少なくとも70程度のブランド又 は販売店から販売されていた。
また、令和4年9月現在でも、靴底が原告赤色と似た赤色の女性用ハイ20 ヒールは、ダイアナ社の通販サイトでは1万5950円で販売されている ほか、株式会社サン・トロペの通販サイトでは同社が展開するブランド名 「セブントゥエルヴサーティ」のハイヒールが2万0900円で、株式会 社コメックスの通販サイトでは自社ブランド「COMEX」のハイヒールが 2万5300円で、株式会社丸井が運営する通販サイトではブランド名25 「メルモ」のハイヒールが1万2980円で、それぞれ販売されている。
本件アンケートの調査結果 20 本件アンケート(「ファッションに関するアンケート」)は、控訴人Xが、
NERAエコノミックコンサルティングに依頼して、控訴人Xが商標登録出 願している本願商標(商願2015-29921)が、何人かの業務に係る 商品又は役務であると需要者に認識されているかどうか、又は使用により需 5 要者に広く認識されているかどうかを検証するために実施されたものである。
アンケートの実施方法及びその結果は、以下のとおりである。
ア 調査対象者 GMOリサーチ株式会社が維持管理するインターネットモニター会員の 中から、年齢20歳から50歳までの、東京都、大阪府及び愛知県に居住し、
10 特定のショッピングエリアでファッションアイテム又はグッズを購入し、ハ イヒール靴を履く習慣のある女性を対象とし、東京都、大阪府及び愛知県の 各都道府県をそれぞれ1000人ずつ割り付け、20歳から50歳を10年 ずつの3つの年代グループに分けて各グループが均等になるように割り付 けて回答者サンプルを抽出し、上記各都道府県のそれぞれにおいて100015 人を上回ることを目標に回収を行い、東京都1055人、大阪府1041人、
愛知県1053人の回収を得た。
イ 質問内容 @(本願商標の画像を見せて)画像のように靴底部分が赤いハイヒール 靴を販売しているファッションブランドがあることを知っているか(Q20 5)、AQ5において、知らない、わからないと回答した者につき、この画 像のように靴底が赤いハイヒール靴を見たことがあるか(Q5-1) BQ 、
5において、知っていると回答した者及びQ5-1において、見たことが あると回答した者につき、靴底が赤いハイヒール靴を見て、どのブランド が思い浮かぶか(自由回答)(Q6)、CQ6においてブランド名を思い出25 せないと回答した者につき、選択式で示したブランド名を選択する(Q7) というものである。
21 ウ 調査結果 Q5(前記@)について、知っていると回答した者は69.86%(3 都道府県の平均割合。以下同じ) 知らないと回答した者は23. 、 72%、
分からないと回答した者は6.41%。
5 Q5-1(前記A)について、見たことがあると回答した者は32. 56%、見たことがないと回答した者は67.44%。
Q6(前記B)について、ルブタンを正確に想起し回答した者は42. 43%(軽微な誤りと共にルブタンを想起した回答、誤りはあるがルブ タンを想起したと推察される回答、ルブタンと共に他のブランドを想起10 した回答を含めると、43.46%、ルブタン以外のブランドのみ想起 した回答者は4.48%、ブランド名が思い出せないと回答した者は2 4.2%、ブランド名がわからないと回答した者は7.56%、見たこ とがないと回答した者は20.32%。
Q7(前記C)について、ルブタンと回答した割合は43.96%、
15 ルブタン以外のブランド名を選択した回答者の割合は34.78%、思 い出せないと回答した割合は21.26%。
自由回答と選択式の回答を補正した結果、東京都、大阪府及び愛知県 におけるルブタンの認識度は、全サンプルの場合は51.6%、控訴人 Xの商品に限らず赤いハイヒール靴を見たことがある人に限定した場20 合は64.77%。
女性用ハイヒールを含めた靴に関する取引の実情等 ア 女性用ハイヒールの主たる需要者層は、20代から50代の女性である。
女性用ハイヒールの市場は大別すると、@高級ブランド品、A手頃な価 格帯のブランド品、B安価な無名品の3つのセグメントに分けられる。
25 イ 株式会社 TORREATEIT が令和3年8月5日から同月6日にかけて全 国の20代以上の男女500名にインターネットによる調査方法で実 22 施した「靴に関するアンケート調査」の結果によると、女性が靴を購入 するときには、履き心地(フィット感)、色・形等のデザイン、歩きやす さ、値段の4つの項目を重視している(この傾向は男性も同じであった) ことが挙げられ、また、靴を購入するときは店舗で実物を見て購入する 5 と回答した者が約8割であるが、約2割はオンラインショップで購入す ると回答しており、郵送で試着が可能なサービスもあることがその理由 として推測されるとしている。
マイボイスコム株式会社が令和3年10月1日から同月5日までの 間、インターネット調査の方法により、10代から70代の男女98710 7人(男性56%、女性44%)を対象にインターネットによる調査方 法で実施した「靴に関するアンケート調査」の結果によると、持ってい る靴の種類は83.4%がスニーカーを挙げ、ハイヒールは11.7% であったこと、購入する靴の価格帯として3000円〜7000円が過 半数であり、2万円以上は約2%程度であったこと、靴購入時に重視す15 る点としては、デザイン・色が68.3%、履き心地62.3%、サイ ズ60.5%、価格56.1%、歩きやすさ52.1%であったとされ ている。
「『ハイヒールのサイズ選びが不安』お悩み解消Q&Aコーナー」と題 するウェブページには、
「サイズが合わない靴は、身体への負担も大きく20 なりますし、靴も傷みやすくなります。足が痛くなって履くのがイヤに なって、靴箱で眠っているという靴もあるのではないでしょうか?」、
「靴のサイズは、ブランドやメーカーによってもサイズ感が異なります。
メーカー、ブランドごとに基本の足型があり、合うなと思ったら同じメ ーカーの靴はサイズ感が合いやすいです。 、
」 「靴はデザインも機能も多25 様ですが、まずは、靴のサイズ。靴売り場にシューフィッターさんがい らっしゃいますから、実際のサイズ、長さと幅(周囲)を測ってもらい 23 ましょう。
・・・そして、足の形によって、合う靴合わない靴などがあり ますので、かたちを教えてもらってください。それを試しに履いてみま す。履くだけではなく歩いてみましょう。」との記載がある。
ウ 近年、衣服や靴等のファッション関係は、インターネット上で運営され 5 ている販売サイト(ECサイト)での販売需要が高まっており、中には、
一定期間内であれば、試着後に返品することも可能であることを宣伝文句 として謳うウェブサイトもある。これらのウェブサイトにおいては、ブラ ンド名、ハイヒールの全体とアップの角度で撮影した画像に加えて、商品 の説明が添えられて販売されている。
10 また、インターネット上では、
「未使用品」「中古品」として、原告商品 、
が定価よりも安く販売されていることがあり、一部には、フリーマーケッ トやオークションでも女性用ハイヒールは流通していることがあるが、ブ ランド名、ハイヒール全体とアップの角度で撮影した画像に加えて、商品 の状態について詳細な説明が添えられている。
15 エ 近時では、高価格帯のブランドが、価格帯の異なるブランドとコラボレ ーションした商品を販売することもある。これらの商品は、それぞれのブ ランドのシグニチャーをコラボレーションし、それぞれのブランドのロゴ が商品に付されている。
「ルブタン」ブランドでも、フランス、イギリス、インドのデザイナー20 とコラボレーションをしたり、映画に登場する女性キャラクター等をイメ ージしたコラボレーション商品を製作したり、また、ルイ・ヴィトンやプ ロハンドボール選手が運営するアスリート向けブランド、アメリカの歌手 が運営するブランドとコラボレーションを行っており、そのうちいくつか の商品は日本でも実際に販売された。
25 2 争点4(混同の有無)について 事案に鑑み、まず、被告商品の販売等が原告表示を付した原告商品との混同 24 を生じさせる行為(不競法2条1項1号)に該当するかについて検討する。
ア 原告表示は、「女性用ハイヒール靴底にパントン社が提供する色見本 「PANTONE 18-1663TPG」 (原告赤色)を付したもの」であり、この原告 表示は、女性用ハイヒール(原告商品)に付されることから、需要者は、
5 ハイヒールを購入する女性の一般消費者であり、主たる需要者層は、20 代から50代の女性であるといえる(前記1 ア)。また、被告商品も、女 性用ハイヒールであるから、主たる需要者層は原告商品と同じである。
イ 一般的に、女性が靴を購入するときは、履き心地(フィット感)、色・形 のデザイン性、歩きやすさ、値段といった点に着目して取引がされるもの10 であり(前記1 イ 及び ) 靴を購入するときは実店舗で複数の靴を試 、
着して自分にフィットするものを選択して購入することがほとんどであ る(前記1 イ 。同調査結果によると約8割が実店舗で試着すると回 答。 。特に、女性用ハイヒールは、サイズの合わない靴を選択すると身体 ) 等に負担がかかるものであるから、実店舗での試着が勧められているとこ15 ろである(前記1 イ )。実際、原告商品及び被告商品も、公式オンライ ンショップで販売されており、試着サービスもあるが、その売上高は、全 体のごくわずかを占めるにとどまる(前記1 ウ、 ウ)。
なお、購入の着目点に値段が挙げられていることからすると、特に高級 ブランド品を志向する者は、ハイヒールのブランドにも着目して購入する20 ことがあると認められる。
ウ 女性用ハイヒールの市場は、大別して、@高級ブランド品、A手ごろ な価格帯のブランド品、B安価な無名品の3つのセグメントに分けられ るとされている(前記1 ア)ところ、原告表示が付される原告商品は、
最低でも8万円を超える高価格帯のハイヒールであり、10万円を超え25 るものもある(前記1 イ)から、市場種別でいえば、@の高級ブラン ド品の市場に分類されるものであって、靴底は革製で、光沢のあるラッ 25 カー塗装の赤色であり、中敷には「ルブタン」のブランドロゴが付され ている(前記1 イ)。
原告表示が付された原告商品は、主として、路面店や高級百貨店内の 直営店、アウトレットモールで販売されているが、これらの店舗では、
5 その店舗又は区画が「ルブタン」ブランドの商品であることが一見して 分かる販売形態がとられている(前記1 イ)。なお、原告商品は、一部 のセレクトショップ、ルブタン日本法人以外の店舗が運営するECサイ ト等で販売されていることもある(前記1 イ、 ウ)が、商品の画像 (全体像とアップ)とともに商品の詳細な説明が添えられている(前記10 1 ウ)。
他方、被告商品は、1万6000円から1万7000円(いずれも税 抜き)のハイヒールであり(前記1 ア)、前記の市場種別でいえば、手 ごろな価格帯のブランド品に分類されるものであって、靴底はゴム製で、
光沢のない赤色であり、中敷及び靴底には金色で「EIZO」のブラン15 ドロゴが付されている(前記1 ア)。
被告商品は、埼玉県内の路面店、百貨店の直営店、全国のセレクトシ ョップ、靴専門小売店のほか、公式オンラインシップでも販売されてい る(前記1 イ)が、百貨店、小売店では、
「EIZO」のブランドプレ ート等がある区画で販売されており、公式オンラインショップは「EI20 ZO」のショップであることが明記されている(同) また、
。 被告商品は、
セレクトショップやECサイトでも販売されているが、これらのサイト では、いずれもブランド名が明記され、商品の画像とともに商品の説明 が添えられている(前記1 イ、 ウ)。
このように、被告商品と原告商品は、価格帯が大きく異なるものであ25 って市場種別が異なる。また、女性用ハイヒールの需要者の多くは、実 店舗で靴を手に取り、試着の上で購入しているところ、路面店又は直営 26 店はいうまでもなく、百貨店内や靴の小売店等でも、その区画の商品の ブランドを示すプレート等が置かれていることが多いので、ブランド名 が明確に表示されているといえ、しかも、それぞれの靴の中敷きにはブ ランドロゴが付されていることから、仮に、被告商品の靴底に付されて 5 いる赤色が原告表示と類似するものであるとしても、こうした価格差や 女性用ハイヒールの取引の実情に鑑みれば、被告商品を「ルブタン」ブ ランドの商品であると誤認混同するおそれがあるといえないことは明 らかというべきである。
また、普段は被告商品のような手ごろな価格帯の女性用ハイヒールを10 履く需要者の中には、場面に応じて原告商品のような高級ブランド品を 購入することもあると考えられるが、こうした需要者は、原告商品が高 級ブランド(控訴人らが主張するように「ルブタン」がラグジュアリー ブランドであり、日本だけではなく世界中の著名人や芸能人が履くとい うイメージがあればなおさらである。 であることに着目し、
) 試着の上で15 慎重に購入するものと考えられるから、被告商品が原告商品とその商品 の出所を誤認混同されるおそれがあるとはいえない。
なお、原告商品及び被告商品ともに、公式オンラインショップだけで はなく、二次流通品を含め、ECサイトで販売されていることもあり、
原告商品の二次流通品の中には価格帯が大きく下げられて販売される20 こともあるが、公式オンラインショップでの売上げ実績は全体の売上げ 規模からして僅少であって(そのことは、需用者の多くが実際に商品を 試着して購入していることを示すものである。 、それぞれのブランド専 ) 用のサイトであるし、また、公式オンラインショップ以外のサイトでは、
商品の画像だけではなく、商品の詳細な説明において、ブランドや靴の25 状態が説明されているから、こうした流通形態があり、仮に、被告商品 の靴底に付されている赤色が原告表示と類似するものであるとしても、
27 被告商品が原告商品と誤認混同のおそれがあるとはいえない。
エ 加えて、近時では、高価格帯のブランドが価格帯の異なるブランドとコ ラボレーションした商品が販売されることもあるが、その商品にはそれぞ れのブランドのロゴが付されており(前記1 エ) その商品がコラボレー 、
5 ション商品であることが需用者にとって一目で分かるようになっている (そうでなければ、コラボレーション商品として企画し、販売する意味は ないともいえよう。 。そうすると、仮に、被告商品の靴底に付された赤色 ) が原告表示に類似するとしても、被告商品にはそうしたコラボレーション 商品であることを示すようなロゴはないから、需要者が、被告商品が控訴10 人らのライセンス商品又は控訴人らとの間で何らかの提携関係を有する 商品であると誤認混同するおそれがあるともいえない。
これに対して、控訴人らは、前記第2の3 ウ aのとおり、被告商品も 原告商品と同じ高価格帯の商品であることを前提として、店舗又はオンライ ンショップで原告商品と被告商品の双方が販売されていることがあり得ると15 し、ブランド毎に区別して展示されていない場合等では、需要者が販売され ているブランド名を意識しないまま購入することがあり得る旨主張する。
しかし、原告商品は最低でも8万円、10万円を超えるものも少なくない のに対して、被告商品は、1万6000円から1万7000円の価格帯であ るから、これだけの価格差がある商品形態において、仮に店舗又はオンライ20 ンショップで原告商品と被告商品が並べて陳列されており、一部店舗でブラ ンド毎に区別して展示されていないことがあるとしても、実店舗では、靴の デザイン性だけではなく、実際に手に取って試着することが多く、ECサイ トでは、ブランド名や商品の状態が詳細に説明されているといった取引の実 情に鑑みれば、需要者が、被告商品の靴底に原告赤色と類似する色を使用し25 ているからといって、被告商品の出所が「ルブタン」のブランドであると誤 認混同するとはいえない。したがって、控訴人らの主張は理由がない。
28 以上のとおり、仮に、被告商品の靴底に付された赤色が原告表示に類似す るとしても、原告表示を付した原告商品であると誤認混同するおそれ(広義 の混同を含む。 があるとはいえないから、
) 原告表示が不競法2条1項1号に 規定する「他人の商品等表示」に該当するか否かについて判断するまでもな 5 く、被告商品の販売等が同号の「不正競争」に当たるとはいえない。
そうすると、被告商品の販売等が不競法2条1項1号の「不正競争」に当 たることを前提とした控訴人らの請求は、その前提を欠くものであるから、
その他の争点について判断するまでもなく理由がない。
3 争点2(原告表示の周知著名性)について10 前記1の認定事実によれば、控訴人Xは、会社を設立以後、全世界に店舗 を展開して、原告表示を付した高価格帯の女性用ハイヒール(原告商品)を 販売し、数多くの著名人や芸能人に愛用され、また、日本でも、平成10年 以降は路面店等のショップで販売が開始されて、年間30億円を超える売り 上げを誇り、数多くの雑誌、メディア等で原告表示は「レッドソール」とし15 て取り上げられ、一定の需要者には「靴底が赤い」女性用ハイヒールは「ル ブタン」のブランドを指すものと認識されているといえる。
しかし他方で、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品以外にも少な からず我が国においては流通しており(前記1 ) 女性用ハイヒールの靴底 、
に赤色を付した商品形態を控訴人らが独占的に使用してきたものとはいえな20 い。
また、本件アンケートは、東京都、大阪府、愛知県に居住し、特定のショ ッピングエリアでファッションテム又はグッズを購入し、ハイヒール靴を履 く習慣のある20歳から50歳までの女性を対象としたものであるが、本件 アンケート結果によると、靴底が赤いハイヒール靴を見たことがないものを25 含め、原告表示を「ルブタン」ブランドであると想起した回答者は、自由回 答と選択式回答を補正した結果で51.6%程度にとどまる(なお、本件ア 29 ンケート調査結果では、赤いハイヒール靴を見たことがある人に限定して認 識率を評価するのが適切であるとするが、本件アンケート調査は、主要都市 で、しかも、ファッション関係にそれなりに関心のあるハイヒール靴を履く 習慣のある女性を対象としたものであり、その当否についても疑義がある上、
5 そこから更にこうした限定を付すことは明らかに相当でない。 。この結果に ) よれば、原告表示は、一定程度の需要者に商品出所を認識されているとはい えるが、それが著名なものに至っているとまでは評価することができない。
そうすると、原告表示が不正競争防止法2条1項2号に規定する「他人の 著名な商品等表示」であるとはいえないから、そうであることを前提とした10 控訴人らの請求は、その前提を欠くものというべきであり、その他の争点に ついて判断するまでもなく理由がない。
4 結論 以上によれば、控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却されるべきで ある。
15 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がな いから棄却することとして、主文のとおり判決する。