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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ1943営業誹謗行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成12ネ3811不正競争行為差止等請求各控訴事件 平成12ネ3812不正競争行為差止等請求各控訴事件 平成12ネ3874不正競争行為差止等請求各控訴事件 判例 不正競争防止法
平成15ワ2351不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ13013不正競争行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成12ワ11657損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  逸失利益 /  因果関係 /  利益額(利益の額) /  無形損害 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  販売数量 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 20812号 損害賠償請求事件
原告 株式会社水環境研究所
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
補佐人弁理士 安原正義
被告 青木電器工業株式会社
訴訟代理人弁護士 椎名啓一
同 門西栄一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/03/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金5920万5000円及びこれに対する平成15年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,第三者に対し,原告が製造販売する別紙目録1記載の汚泥改質機(商品名「さわやかさん」)が被告の有する特許第1862377号特許権を侵害するとの事実を告知し,又はこれを記載した文書を配布してはならない。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の,その余を原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告に対し,3億1888万1800円及びこれに対する平成15年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告が製造販売する別紙目録1記載の汚泥改質機「さわやかさん」が被告の有する特許権第1862377号を侵害するとの虚偽の事実を告知し,又はこれを記載した文書を配布してはならない。
3 被告は,別紙目録2記載のあて先に各1回ずつ別紙目録3記載の文案により表題及び当事者双方の社名と被告代表者の名は15ポイント,その他の部分は12ポイントを使用した文書を郵送せよ。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告は,原告の取引先に対して虚偽の記載内容を含む文書を送付し,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為,又は不法行為を行った,また,将来も同行為を実施するおそれがある旨主張して,同法4条又は民法709条に基づく損害金の支払,前記行為の差止め及び前記文書の送付先に対する謝罪文の送付を求める事案である。
1 争いのない事実等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は,河川,上下水道施設の研究開発,設計,施工,管理,職員研修等を主たる業務とする株式会社である。
イ 被告は,各種電気器具部品及び製品類の製造販売を主たる業務とする株式会社である。
(2) 被告の有する特許権 被告は,以下のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その請求項1ないし8記載の発明を順に「本件発明1」,「本件発明2」などといい,これらを併せて「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第1862377号 発明の名称 有機性物質を含む排水の処理方法 出願日 昭和60年5月16日 登録日 平成6年8月8日 特許請求の範囲 別紙特許公報写しの該当欄記載のとおり (3) 原告による汚泥改質機の製造販売 原告は,平成9年6月ころから現在まで,別紙目録1記載の汚泥改質機(商品名「さわやかさん」。以下「本件装置」という。)を製造,販売している。
(4) 被告による文書の送付 被告は,平成11年3月19日ころ,原告代表者が会長を務め,原告内に,事務局を置く水環境次世代技術調査会(以下「本件調査会」という。)の会員である日本鋼管株式会社(当時。以下「日本鋼管」という。),株式会社九電工(以下「九電工」という。),大成建設株式会社(以下「大成建設」という。)及び水道機工株式会社(以下「水道機工」という。)等を含め合計30社にあてて,内容証明により通知書(以下「本件通知書」という。)を送付し(以下「本件通知行為」という。),これらは同月21ないし23日の間に上記各会社に到達した(甲11,乙13)。
本件通知書には,時候の挨拶に続き,「今般,東京都中央区八重洲2丁目5番12号 株式会社水環境研究所(代表取締役社長 N氏 以下本研究所といいます。)が作成し,所轄機関に提出説明した文書によりますと,当社が現在保有する下記内水護博士発明による特許権(以下本件特許権といいます。)につき,水環境次世代技術調査会会員会社である貴社等があたかも実施権を有する旨表現された文書が存在することを当社は,知見いたしました。
当社といたしましては,本研究所に対し,本件特許権(例:本研究所の商標名“さわやかさん”の腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,本特許権に包含されるものです)の再実施権は,許諾しておりませんので,万一,貴社において本研究所から再実施権の許諾があったものと認識されておるようであれば,それは,不存在につき無効であることをご確認頂きたく念の為,通告に及ぶ次第です。従いまして,貴社におかれましても甚だご面倒と存じますが,本特許権に関する上記の内容を貴社内関係部門に周知徹底して頂きます様よろしくお願い申し上げます。」と記載されていた(甲1の1ないし7,弁論の全趣旨。なお,本件通知書中の「本件特許権」は,上記(2)記載の特許権を指す。)。
(5) 原告の被告に対する差止請求権不存在確認訴訟 原告は,平成13年8月3日,被告を相手として,東京地方裁判所に対して,本件特許権に基づく差止請求権不存在確認請求訴訟(当庁平成13年(ワ)第16388号差止請求権不存在確認等請求事件,以下「別件訴訟」という場合がある。)を提起した。東京地方裁判所は,平成14年4月24日,原告の請求を認容する旨の判決を言い渡し,被告は控訴しなかったので,同判決は確定した。
2 争点 (1) 被告による本件通知行為が,不正競争防止法2条1項14号に該当するか。又は不法行為を構成するか。
(2) 原告は,被告に対して,差止めを求めることができるか。
(3) 被告による本件通知行為と原告の損害と間に因果関係があるか。また,原告の損害額は幾らか。
(4) 原告は,被告に対して,謝罪文の送付を求めることができるか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(被告の本件通知行為が,不正競争防止法2条1項14号に該当するか。又は不法行為を構成するか。)について (原告の主張) ア 本件通知書の記載の理解 本件通知書には,本件装置の使用が被告の有する本件特許権を侵害することが記載されていると,一般に理解される。
イ 本件通知書の記載内容の虚偽 本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属さないことは,東京地方裁判所平成13年(ワ)第16388号差止請求権不存在確認等請求事件における判決(以下「別件訴訟判決」という。)で確認されている。したがって,本件通知書の内容は虚偽であり,これにより,原告の営業上の信用が害された。
ウ よって,被告の本件通知行為は,不正競争防止法2条1項14号に該当し,また,不法行為を構成する。
(被告の反論) 本件通知行為は,以下のとおり,不正競争防止法2条1項14号に該当することはなく,また,不法行為にも該当しない。
ア 本件通知書の記載内容は,以下のとおり,虚偽とはいえない。
本件通知書には,本件特許権の再実施権を原告に許諾したことはない旨が記載されているにすぎず,本件装置を使用することが本件特許権を侵害する旨は記載されていない。また,本件通知書を読んだ者は,本件通知書の記載から,本件装置を使用することが本件特許権を侵害する旨が書かれた書面であると解することはない。
そして,被告が,原告に対し,本件特許権の再実施権を許諾していないことは真実であるから,本件通知著の記載内容が虚偽であるとはいえない。
仮に,本件通知書中の「例:本研究所の商標名“さわやかさん”の腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,本特許権に包含されるものです」との記載部分につき,これを読んだ者が,本件装置を使用することが本件特許権を侵害することを述べた趣旨と理解するとしても,以下の理由から,上記記載は虚偽とはいえない。
すなわち,原,被告間で覚書を取り交わして本件特許権の実施権を取得していることに照らすならば,原告は,自ら腐植土を用いた水運用システムが本件特許権の技術的範囲に属することを自認しているということになる(乙10の2)。また,本件通知書を送付した後,被告は,本件特許権に侵害するとして,原告に対して,本件装置の製造,販売の差止訴訟を提起する意図を有していなかったにもかかわらず,原告において,差止請求権不存在確認訴訟を提起していることに照らすならば,原告は,自ら腐植土を用いた水運用システムが本件特許権の技術的範囲に属することを自認しているといえる。したがって,本件通知書の前記記載は虚偽とはいえない。
イ 原告と被告とは,以下のとおり,競争関係にない。
原告と被告とは,平成10年10月12日,国の公共下水道処理施設の建設事業に関し,被告が,原告に対し,本件特許権の実施を許諾すること,原告以外の第三者に対し,本件特許権の使用実施を許諾しないこと,被告が原告に許諾する本件特許権は譲渡不能かつ再実施権不許諾とすることを合意した。したがって,原告と被告は,本件特許権の実施に関して契約当事者の関係に立ち,競争関係に立つとはいえない。
(2) 争点(2)(差止請求の可否)について (原告の主張) 被告は,別件訴訟判決後も判決の結果を受け入れることを拒否し,本件装置が,現実の使用態様により本件特許権を侵害する旨流布している。
したがって,将来も原告の営業上の利益侵害されるおそれがあるから,本件装置を使用することが本件特許権を侵害する旨の事実の告知又はこれを記載した文書の配布を差し止める必要性がある。
(被告の反論) 争う。
(3) 争点(3)(被告の本件通知行為と原告の損害との間の因果関係の有無,及び原告の損害額)について (原告の主張) 本件通知行為により,多くの会員が本件調査会から退会し,又は,原告との取引を中止するなどし,その結果,原告は,以下の損害を被った。
ア 原告が既に受注を予定していた本件装置につき,その販売が不可能になったことによる損害(以下「損害A」という。) 5320万円 原告の販売先に対する営業活動の結果,本件装置の採用がほぼ予定されていたにもかかわらず,本件通知行為により,採用がされなかった。
その内訳は,別紙目録4のとおりであり,その販売価格の合計は1億5200万円である。
本件装置の販売により得られる利益率は,販売価格の35パーセントであるから,原告は利益と同額の損害を被った。その額は,合計5320万円(1億5200万円×35パーセント=5320万円)である。
イ 本件装置について,従前どおり営業活動が行われた場合に得られた利益相当額の損害(以下「損害B」という。) 1億6275万円 本件通知行為後,九電工及び日本鋼管は,それぞれ別紙目録5及び6記載のとおり,排水処理施設建設工事を受注した。
両社は,本件通知行為以前には,積極的に本件装置を取り扱い,また本件装置の存在により役所から排水処理施設建設工事の受注を得てきたが,本件通知行為以後は本件装置の取扱いを中止した。しかし,両社が本件通知行為前と同様に本件装置を取り扱っていれば,別紙目録5及び6記載の排水処理施設につき,当然本件装置が採用されたはずである。したがって,原告は,本件装置の販売時に得られたはずの利益相当額の損害を被った。
九電工の受注した施設に納入できたはずの本件装置については,別紙目録5のとおり,販売価格合計が2億5000万円であり,利益率が35パーセントであるから,原告の被った損害は,合計8750万円(2億5000万円×35パーセント=8750万円)となる。
また,日本鋼管の受注した施設に納入できたはずの本件装置については,別紙目録6のとおり,販売価格合計が2億1500万円であり,利益率が35パーセントであるから,原告の被った損害額は,7525万円(2億1500万円×35パーセント=7525万円)となる。
したがって,原告の損害は,合計1億6275万円(8750万円+7525万円=1億6275万円)である。
ウ コンサルタント料相当額の損害(以下「損害C」という。) 7392万3800円 (ア) 原告は,コンサルタント業務を行ってコンサルタント料収入を得ていた。原告の平成11年度(同年7月から翌年6月まで,以下同様である。)から13年度までの実績は,以下のとおりである。
a 平成11年度 注文主2,受注件数2,受注金額661万円 b 平成12年度 注文主5,受注件数5,受注金額4165万2000円 c 平成13年度 注文主2,受注件数2,受注金額1050万円 d 受注金額の合計 5876万2000円 (イ) しかし,本件通知行為がなければ,平成11年度から13年度まで,以下の実績を上げられたはずであった。
a 平成11年度 受注件数2,大型受注件数2,受注金額9950万円 b 平成12年度 受注件数4,大型受注件数6,受注金額2億6600万円 c 平成13年度 受注件数5,大型受注件数10,受注金額4億3250万円 d 受注できたはずの受注金額の合計 7億9800万円 (ウ) したがって,原告は,本件通知行為により,(ア)と(イ)との差額である,受注額7億3923万8000円に対応するコンサルタント料収入を得ることができなかった。
原告のコンサルタント料は,受注金額の10パーセントであるから,原告は,7392万3800円のコンサルタント料収入を得られず,同額の損害を被った。
無形損害(以下「損害D」という。) 2900万8000円 (ア) 本件通知行為後の,九電工及び日本鋼管を除いた本件調査会会員による本件装置の販売実績は,以下のとおり合計6台である。
a 東レエンジニアリング株式会社(以下「東レエンジニアリング」という。) 5台 平成11年度 2台 平成12年度 1台 平成13年度 2台 b その他の会員 1台 平成11年度 1台 平成12年度及び13年度 各0台 また,非会員による本件装置の販売実績は,平成11年度4台,平成12年度4台,平成13年度0台である。
(イ) 原告は,昭和60年の創業以来,腐植活性汚泥技術等の水処理技術の建設に関するコンサルタントとして高く評価されてきたほか,本件調査会を設立し,その会員は,平成10年には32社に増加し,営業活動は全国に及んでいた。
しかし,本件通知行為により,会員が本件調査会から退会したり,又は本件装置の販売の取りやめたりし,その結果,本件装置の販売機会が減少した。
また,原告は,会員からの情報が得られなくなったほか,非会員に対する営業的信用も失った。
これらの本件通知行為による影響がなければ,以下のとおり,本件装置を合計43台販売できたはずである。
a 東レエンジニアリング 11台(実績に基づく数値) 平成11年度 3台 平成12年度 4台 平成13年度 4台 b プラントメーカー 18台(各社年1台の予測) 平成11年度 4台 平成12年度 7台 平成13年度 7台 c ゼネコン 14台(各社年1台の予測) 平成11年度 3台 平成12年度 5台 平成13年度 6台 (ウ) 上記のとおり,本件通知行為がなかった場合に本件装置の販売増加が見込まれた台数は37台となり,その販売価格合計は,4億1440万円(1120万円×37台=4億1440万円)である。
前記のとおり,原告の得られる利益は,販売価格の35パーセントであるから,原告の被った損害は,1億4504万円(4億1440万円×35パーセント=1億4504万円)である。
原告は,無形の損害として,この20パーセントに相当する2900万8000円(1億4504万円×20パーセント=2900万8000円)を請求する。
損害額のまとめ よって,原告の被った損害の額は,合計3億1888万1800円(5320万円(損害A)+1億6275万円(損害B)+7392万3800円(損害C)+2900万8000円(損害D)=3億1888万1800円)となる。
(被告の反論) 以下のとおり,本件通知行為と原告の損害との間には因果関係がない。
ア 損害Aについて (ア) 原告が損害Aに関して主張する排水処理施設について,本件調査会員は,本件通知行為以前に,本件装置の採用を「ほぼ予定」していたにとどまり,その採用を決定していたわけではなかった。したがって,本件装置が販売されなかったとしても,本件通知行為と因果関係がある損害はない。
(イ) 本件装置を組み込んだ地方公共団体が運営する小規模下水処理施設における排水浄化システムは,本件発明の技術的範囲に属するものである。したがって,被告が本件調査会会員に再実施権を許諾していない以上,前記システムおいて,本件調査会会員が本件特許権を実施することはできない。しかし,本件装置そのものは,前記の排水浄化システムに組み込まれる排水脱臭処理装置ないし汚泥改質処理装置にすぎず,本件特許権を侵害しないから,本件装置を販売することに何の問題もない。したがって,本件通知行為と本件装置の販売の減少とは何の因果関係もない。
(ウ) 九電工は,本件通知書の記載内容について原告からの説明を受け,被告とも接触して,本件通知書の趣旨についての説明を受けているのであるから,本件通知書の趣旨を十分に理解していたことは明らかである。九電工は,本件特許権の再実施権を有しないため,本件装置を購入しなかったにすぎない。ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。)は,本件通知書を受け取っておらず,本件装置の購入を当初から予定していなかった。また,大成建設は,被告から廃水浄化装置を購入しており,水道機工は,原告から本件装置の購入についての営業活動を受けた形跡がない。さらに,清本鉄工株式会社(以下「清本鉄工」という。)については原告自ら本件通知行為と因果関係がないことを認めている。
イ 損害Bについて 九電工と日本鋼管の受注した排水処理施設建設工事において,当然に本件装置が採用されたはずであるとはいえない。したがって,本件通知行為と損害との因果関係はない。
ウ 損害Cについて 原告主張に係るコンサルタント業務の内容は不明である。本件通知行為と損害との因果関係はない。
エ 損害Dについて 原告は,将来の販売見込みを損害として主張しているのであって,本件通知行為と本件調査会会員の退会との間には因果関係はない。
(4) 争点(4)(謝罪文書送付の要否)について (原告の主張) 本件通知行為の結果本件調査会を退会した会員は,いまだ本件調査会に復帰していない上,原告も会員からの信用回復を得ていない。原告の技術的,営業的信用の回復を図るには,被告が,本件通知書のあて先に対し,別紙目録3記載の謝罪文を送付することが必要である。
(被告の反論) 争う。
争点に対する判断
1 争点(1)(被告の本件通知行為が,不正競争防止法2条1項14号に該当するか。又は,不法行為を構成するか。故意,過失の有無)について (1) 事実認定 証拠(甲2ないし8,10,21,35),当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 本件調査会の概要 原告代表者は,平成5年,次世代の水環境に関する研究,開発の実用化等の啓蒙普及を目的に掲げて,本件調査会を結成した。本件調査会は,本件通知行為当時,日本鋼管,九電工,大成建設等の約30社の会員から構成されていた。
イ 本件装置の納入に至るまでの流れ 本件装置は,農業集落排水処理施設又は漁業集落排水処理施設など,主として,市町村が運営する小規模下水処理施設に設置される。本件装置は,腐植土をペレット化したものを内蔵している培養機であり,活性汚泥をより活性化させ,有用な微生物の繁殖を促して悪臭物質の分解をするという効用を持つとされる。
下水処理施設の建設に当たっては,まず一般指名競争入札により設計会社を決定し,設計会社が詳細設計図面の作成,機器類の性能,寸法などが明記された仕様書を作成し,数量計算と概算工事費を算出する。そして,地方公共団体がこれらに基づき工事金額を算出し,一般指名競争入札により施工業者を決定する。施工業者は,発注者である地方公共団体により公開された設計内容に合致した建造物,機器類を納入する義務を負う。仮に,工事の発注後に機器類等を変更する場合には,これによって生ずる改造工事の費用を施工業者において負担する必要がある。
したがって,下水処理施設に,その一部として本件装置を納入するためには,設計段階で採用される必要がある。そのため,本件調査会の会員たる設計会社ないし施工業者は,地方公共団体に対して,本件装置を採用するよう営業活動を行うことになる。原告は,本件調査会会員を通じて,本件装置を販売することが可能となる。
ウ 被告による本件通知書の送付 被告は,平成11年3月19日ころ,本件調査会の会員合計30社にあてて,内容証明郵便により本件通知書を送付した。本件通知書には,「 当社といたしましては,本研究所に対し,本件特許権(例:本研究所の商標名“さわやかさん”の腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,本特許権に包含されるものです)の再実施権は,許諾しておりませんので,万一,貴社において本研究所から再実施権の許諾があったものと認識されておるようであれば,それは,不存在につき無効であることをご確認頂きたく念の為,通告に及ぶ次第です。従いまして,貴社におかれましても甚だご面倒と存じますが,本特許権に関する上記の内容を貴社内関係部門に周知徹底して頂きます様よろしくお願い申し上げます。」と記載されていた。
エ 本件通知書についての本件調査会の会員の理解について 本件通知書について,会員企業がどのように理解したかについて,原告が聴取した結果は,以下のとおりである。
(ア) 九電工 原告の技術部課長であるTは,平成14年12月20日,九電工を訪問し,同社の福岡支店営業部課長であるM及び営業本部営業一部課長であるOと面談した。その際,Mは,Tに対し,本件通知書について,内容の細かい点については理解できなかったが,特許権侵害に対する警告文書であると判断した旨述べた。
(イ) 水道機工 原告代表者は,平成14年5月14日,水道機工営業本部課長のHから,以下のとおりの回答を得た。すなわち,水道機工は,佐賀県伊万里市井手野地区農業集落排水処理施設に本件装置を納入することになっていたが,本件通知書を受領したため,同地区に本件装置を納入するのは危険であると判断し,伊万里市の担当者を訪問し,本件通知書を見せ,本件通知書によれば本件装置には特許権侵害の問題が生じる可能性がある旨説明したところ,担当者から,本件装置から他の装置へ機種を変更するよう指示された,との回答を得た。
オ 被告が前提としている見解について (ア) 原告は,平成11年5月10日,被告に対し,本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属すると解する根拠について,説明を求める書面を送付した。
(イ) これに対し,被告は,同月13日,原告に対し,被告は,水処理系内に置かれた本件装置の運用方法が,腐植土を用いた水運用システムの基本特許技術に包含されていると考えている旨を回答した。
(ウ) 原告は,被告に対し,同年6月11日到達の内容証明郵便により,本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属するのか不明であり,その点を明らかにされたいとの内容の書面を送付した。
(エ) これに対し,被告は,同月24日,原告に対し,被告は,特定の商品である本件装置自体を問題としているのではなく,本件装置を組み込んだ排水処理体系の運用方法が本件特許の技術的範囲に含まれることを問題としていること,原告が発行している「第三の処理法」と題する冊子及び「液体解臭機における排水処理設備の臭気除去について」と題する技術説明書などによっても,本件装置が組み込まれた排水処理体系が,本件特許に基づく既存施設の体系と同一のものとして扱われていることが明らかである,などとの回答をした。
カ 本件通知行為に対する原告の措置 (ア) 刑事告訴 原告は,平成11年10月5日,本件通知行為が偽計業務妨害に該当するとして,被告を刑事告訴した。この刑事告訴については,平成13年6月29日,不起訴処分となった。
(イ) 別件訴訟の提起 原告は,平成13年8月3日,当庁に対し,原告による本件装置の製造販売行為につき,被告が本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴えを提起した。この訴訟において,被告は,原告の主張について,全く争わなかった。そして,平成14年4月24日,別件訴訟判決が言い渡され,被告が控訴しなかったので,同判決は確定した。
別件訴訟判決においては,本件装置をその取扱説明書の記載に従って使用する限り,本件発明1の「前記培養システムが,調整工程並びに培養工程とからなり」との構成要件,及び「かつ該培養システムを含む廃水循環系に含まれる細菌群が,土壌性偏性嫌気性細菌群と,フェノール又は/及びフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を産出するように順馴された土壌性通性嫌気性細菌群又は該順馴された土壌性通性嫌気性細菌と土壌性好気性細菌とよりなる細菌群とが共存する細菌群であり」との構成要件をそれぞれ充足せず,本件装置を実行する方法が,本件発明1の技術的範囲に属さないこと,したがって,本件装置を製造販売する原告の行為が,本件特許権の間接侵害にも当たらない旨認定されている。
そして,本件発明2ないし8は,いずれも本件発明1を前提とするものであるから,同様に解することができる。
キ 別件訴訟判決後の被告の態度 被告は,平成14年5月21日,原告に対し,原告が別件訴訟判決で主張したとおりに,本件装置の有底ケースの内部が好気状態に保たれるもので,偏性嫌気性細菌が顕在することがなければ,本件装置を使用することは本件特許権を侵害しないが,別件訴訟判決は,本件装置の現実の使用方法についてまで判断をしておらず,実際の本件装置の使用状況が本件特許権を侵害する可能性があると表明している。
(2) 判断 前記争いのない事実等及び上記認定を基礎として判断する。
ア 本件通知書の記載についての会員一般の通常の理解について (ア) 当裁判所は,以下のとおり,本件通知書の記載内容,形式,その前後の経緯,送付先の状況等に照らして,本件通知書を受け取った会員は,本件通知書は,本件装置を使用することが本件特許権を侵害するとして,警告するための書面であると理解するものと判断する。
すなわち,@本件通知書は,その冒頭で,原告が本件特許権を有していることが記載され,文中で,原告の商標名である「さわやかさん」を挙げて,その腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,被告が有する本特許権に包含されるものですと記載され,さらに,結語として,「従いまして,貴社におかれましても甚だご面倒と存じますが,本特許権に関する上記の内容を貴社内関係部門に周知徹底して頂きます様よろしくお願い申し上げます。」と記載されていること,A本件通知書が内容証明郵便によって送付されていること,B本件通知書の名あて人は,いずれも地方公共団体の下水処理施設等に本件装置を納入する本件調査会会員であること等の経緯を総合すると,本件通知書を読んだ本件調査会会員は,本件通知書は,同会員が本件装置を使用した場合には本件特許権の侵害行為となるので,特許権を侵害しないよう警告する趣旨が記載された書面であると理解するのが通常であると解される。
(イ) この点について,被告は,@本件通知書は,本件特許権の再実施権を原告に許諾していないという事実のみが記載され,「例:本研究所の商標名“さわやかさん”の腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,本特許権に包含されるものです」との記載部分は単なる例示にすぎない旨,A本件装置を組み込んだ廃水処理の運用方法が本件特許権の技術的範囲に含まれることを指摘している旨主張し,それに沿う証拠として乙7及び15を提出する。しかし,前記のとおり,本件通知書の記載内容,文章の構成等からして,本件通知書には,本件装置を使用する場合,本件特許権を侵害することになる趣旨が記載されていると理解すべきことは明らかであり,この点の被告の主張は採用の限りでない。 イ 本件通知書の記載内容が虚偽か否かについて (ア) 別件訴訟判決において,本件装置の取扱説明書の記載に従い本件装置が使用される場合には,本件装置を実行する方法が,本件発明の技術的範囲に属さないこと,及び,本件装置を製造,販売する行為が,本件特許権の間接侵害に当たらないことが判断されている。したがって,本件装置の使用が本件特許権を侵害するものということはできず,本件通知書の記載は虚偽であるといえる。
(イ) この点について,被告は,原,被告間で覚書を取り交わして本件特許権の実施権を取得していることからすると,原告代表者自らが,原告の腐植土を用いた水運用システムが本件特許権に包含されることを自認していると理解できるから(乙10の2),本件通知書の記載は虚偽でない旨主張する。
しかし,乙10の2(協議事項議事録)には,原告代表者の発言として,原告のシステムが被告のソフトに抵触するかもしれないから,特許になってから売買しようと発言した旨が記載されているにすぎず,この記載から,原告代表者が,原告の開発,採用したシステムが被告の特許権に抵触する旨を認めたと解することは到底できない。また,原告が被告から本件特許権の実施権を得たことがあったとしても,紛争を回避する意図で実施権を得ることもあり得るのであるから,これをもって,本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属することを認めたことになるともいえない。この点の被告の主張は採用できない。
また,被告は,本件通知書を送付した後に,原告に対して,本件特許権侵害を理由として,本件装置の製造,販売の差止訴訟を提起する意図を有していなかったにもかかわらず,原告において,差止請求権不存在確認訴訟を提起していることに照らすならば,原告は,自ら腐植土を用いた水運用システムが本件特許権の技術的範囲に属することを自認しているということになる旨主張する。
しかし,原告が,本件通知書が送付されたことを知った後に,差止請求権不存在確認訴訟を提起したことは,紛争を解決する合理的な行動であるというべきであり,この点の被告の主張は主張自体失当である。
ウ 原告と被告との競争関係の有無 原告,被告は,共通する業務を行っていること,後に2(1)エで判示するとおり,本件装置が採用される代わりに被告の製品が採用された例があったことに照らすと,原,被告は,相互に代替可能な同種の装置を製造,販売しているものと認められ,原告と被告とは正に競争関係に立っているというべきである。
この点について,被告は,本件特許権の実施に関して契約を結ぶなどの事実に照らすと,原,被告は,競争関係に立たないと主張する。しかし,本件特許権の実施という点において,原,被告が契約を結んだことがあったとしても,原,被告間の競争関係を否定する根拠にはなり得ない。
エ 被告の故意過失の有無 他人の行為が,自己の有する特許権を侵害しているとの内容を記載した警告書を送付するに当たっては,あらかじめ,他人が現に実施し,又は将来実施しようとする行為等について,十分な事実調査を尽くし,自己の特許権を侵害しているか否かを吟味して,侵害しているとの確証を得た上で,警告書を発すべき注意義務がある。このような注意義務を尽くすことなく,その記載内容に事実誤認等を含む警告書を送付した場合,その作成,送付した者に,過失があるものというべきは当然である。
上記の観点から,被告の故意,過失の有無について検討する。
本件においては,本件通知書の名あて人は,いずれも地方公共団体が設置する下水処理施設等に本件装置を納入する本件調査会会員たる企業30社であり,また,地方公共団体は,特許権紛争に巻き込まれることを嫌う傾向が極めて強く,このような警告がされれば,本件装置を製造,販売する原告の営業に対して,重大な損害を与えることが容易に予想される状況であったといえる。
そして,本件通知書には,その冒頭で,原告が本件特許権を有していること,文中で,原告の商標名である「さわやかさん」を挙げて,その腐植土を用いた水運用システム基本特許技術は,被告が有する本特許権に包含されること,結語部分で,名あて人において,本特許権に関する内容を周知してほしい旨の意思を持っていることが記載されていることから,本件通知書の趣旨が,本件装置を使用した場合には本件特許権の侵害行為となると事実を指摘した上での警告書であることが明らかである。
しかるに,被告は,@本件装置を使用することが本件特許権を侵害することについて,あらかじめ,事実調査及び法的な観点からの検討を行った形跡は全くなく,A原告から,本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属すると解する根拠につき,釈明を求められても,合理的な説明をせず(この点,被告は,本件装置を組み込んだ排水処理体系の運用方法が本件特許の技術的範囲に含まれると回答しているが,具体的な実施方法を調査した上での根拠ある回答ではない。),B原告から提起された,差止請求権不存在確認を求める訴訟においても,原告の主張のすべてを認め,本件装置を使用することが本件発明の技術的範囲に属さないことを争わなかった。このような事実経緯を総合すれば,被告には,原告の営業に重大な影響を及ぼすおそれのある本件通知書を作成,送付するに当たり,原告の権利,利益を侵害することがないように,当然尽くすべき注意義務を怠った過失があったものと認めることができる。
したがって,被告は,本件通知行為により原告に生じた損害を賠償する義務を負う。
2 争点(2)(差止請求の可否)について 被告は,前記(1)オ及びカ記載のとおり,本件通知行為及び別件訴訟判決の後も,本件装置を使用することが本件特許権を侵害しないことは認めるかのように述べる一方で本件特許権を侵害を構成するおそれがある旨述べているほか,本件訴訟においても原告の主張を争っている。そして,基本的な態度を明確にしない被告の対応振りに照らすと,被告が,将来においてもなお,本件装置を使用する行為が本件特許権を侵害する旨の陳述,流布を行うおそれは,依然として存在すると認められる。
よって,原告は,被告に対し,本件装置が本件特許権を侵害する旨の事実の告知又はその旨の事実を記載した文書の配布の差止めを求めることができる。
3 争点(3)(被告の本件通知行為と原告の損害との間の因果関係の有無,及び,原告の損害額)について (1) 事実認定 証拠(甲6,8ないし11,15,16,20,21,24,26ないし28,乙14(枝番号のあるものは,枝番号を省略した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
本件通知を受け取った本件調査会所属の会員企業がどのような対応を採ったかの状況は,以下のとおりである。
ア 九電工の対応 (ア) Tは,M及びOから以下の内容を聴取した。
a 九電工が工事の受注に成功し,当初の計画段階から本件装置を納入する予定であったにもかかわらず,本件通知書を受領したことで他社製品に変更して納入した件数は3件である。地方公共団体は,紛争に巻き込まれることを嫌うため,特許権に関する紛争になっている本件装置を納入することはできないと考え,機種の変更をした。また,本件通知書受領後は,本件装置の営業活動も自粛した。
b 本件装置の営業活動自粛後に,九電工が受注した下水処理施設工事で,本件装置を納入できた可能性のある物件は合計13件である。これらの物件について,営業活動を行い,設計段階で採用されれば,九電工が最終的に受注した物件であるから,本件装置を納入できたはずである。しかし,実際には,営業活動を行っておらず,設計段階でも採用されていないため,上記13件のうち本件装置を何台納入できたかどうかということについては,回答できない。
(イ) なお,原告は,前記(ア)aの3件について,九電工から本件装置を採用したい旨の連絡を受け,その設置に関連する打合せを行っている。
イ 日本鋼管の対応 Tは,平成14年12月27日,日本鋼管を訪問し,同社水処理プラント営業部水処理第1営業部長である一井信治と面談し,以下の内容を聴取した。
(ア) 日本鋼管は,本件装置を販売すべく,特に公共下水道分野において営業活動を行っていたが,本件通知書を受領したため,しばらく営業活動等を中止することとした。
(イ) その後,本件装置について,訴訟提起が検討される等,問題の決着が長期化することが明らかになったため,特許権侵害で訴訟となっている装置を公共工事に使用するのは好ましくないという理由で,建築が計画されていた物件の設計に本件装置を織り込む話は,地方公共団体から仕様書で要求された物件以外は,すべて白紙撤回した。その結果,営業活動も立ち消えとなった。
ウ 水道機工等の対応 (ア) 原告代表者は,平成14年5月14日,Hから以下の内容を聴取した。
佐賀県伊万里市井手野地区農業集落廃水処理施設の工事では,当初から本件装置が設計内容に含まれており,水道機工もこの内容に沿って本件装置を納入する予定であった。しかし,本件通知書を受領したため,井手野地区に建設予定の処理施設に本件装置を納入することは危険であると判断し,伊万里市の担当者を訪問し,本件通知書を見せ,本件通知書によれば本件装置が,本件特許権を侵害する可能性がある旨説明した。その結果,担当者から機種を変更するよう指示があり,水道機工はそれに従った。施設建設地では,既に土木建設工事が終了し,装置の設置予定位置には本件装置の形状,寸法に合わせた基礎ができ上がっており,配管の位置についても,本件装置に合わせて貫通穴が設けられていた。
(イ) 原告代表者は,平成13年10月ころ,伊万里市宿地区における農業集落排水処理施設の建設工事を,本件調査会員であるユニチカが受注したこと,及び同工事の計画に本件装置と同種の他社の装置が織り込まれていることを知った。そこで,原告代表者は,これを本件装置に変更できないかと考え,ユニチカ環境事業本部部長であるKに対してその旨申し出た。
これに対し,Kは,宿地区の工事内容については既に設計が完了しており,現時点での機種変更は困難であるし,その意思はないこと,伊万里市においては,井手野地区の排水処理施設で他社製品が採用されており,2件目も同一メーカーの装置を設置することは自然な流れであること,機種変更作業を行う時間的余裕がないことなどを理由に原告代表者の申入れを拒絶した。
(ウ) 原告代表者は,平成14年8月下旬,伊万里市農村整備課のFから以下の内容を聴取した。
平成11年3月ころ,水道機工から,本件装置について特許権侵害に関する文書が送付されたので,同市井手野地区の排水処理施設建設工事では他社製品を使用したい,機種の変更に伴う基礎工事等の修正作業は水道機工の責任で行うとの申入れがあったので,これを許可した。その後,平成13年に建設した同市宿地区の排水処理施設建設工事では,使用する装置が井手野地区の施設のものと同一メーカーのものである方が維持管理の都合上も好ましいと考え,井手野地区のものと同じ装置を採用した。
エ 大成建設等の対応 原告業務部長であるSは,平成12年2月3日,大成建設土木営業部長のGから電話を受け,以下の内容を聴取した。なお,大成建設は,本件通知書の受領後,本件調査会を退会した。
大成建設は,福岡県筑穂町内野地区の農業集落廃水処理施設の建設工事を一括して受注したが,その工事内容には本件装置の設置が含まれている。大成建設は,本件装置を設置する予定であったが,被告社員のUから電話があり,大成建設が本件装置を使用することは,本件特許に抵触するので留意されたい旨の説明を受けた。原,被告間で本件特許に関し,刑事事件となっていると聞いており,本件装置の使用により原,被告間の紛争に巻き込まれることを懸念し,前記工事における本件装置の使用を見合わせ,他社製品を使用することにした。
また,Sは,平成14年12月18日,福岡県筑穂町水道課から,前記施設においては,被告から装置を購入している旨の回答を得た。
なお,前記の筑穂町における工事については,九電工の営業活動により,計画段階で本件装置の採用が決定しており,原告は,九電工からその旨の連絡を受けていた。
オ 事業報告の記載内容 本件調査会の平成10年度事業報告(乙14)には,建設部会において,立山エンジニアリング株式会社と関わりたくないため,本件調査会を退会することにより関係を解消したいという意見で一致したこと,平成11年3月末をもって,建設部会の会員が全員退会することになり,建設部会が当分の間休会することになったこと,建設部会長から,内部分裂ではなく,立山エンジニアリング株式会社との関係を清算したいための退会であり,今後も本件調査会と友好関係を保ちたい旨の申出があったこと等が記載されている。
(2) 判断 前記争いのない事実等及び上記認定を基礎に,被告の本件通知行為と原告に生じた損害について判断する。
ア 損害Aについて (ア) 本件通知行為と本件装置が販売できなかったこととの因果関係について a 九電工及び水道機工の受注分について 九電工及び水道機工による排水処理施設等建設工事の受注分については,前記(1)認定のとおり,本件通知行為を契機として,各処理施設に納入する機械を本件装置から他のメーカーの機種に変更しているのであるから,これらの機種の変更は,本件通知行為に基づくものであったというべきである。
そして,前記の本件装置の納入の流れからすれば,各排水処理施設等の設計段階において本件装置の納入が計画に織り込まれれば,最終的に本件装置が下水処理施設等に設置される可能性が高く,前記各社の受注分については,前記(1)のとおり,既に本件装置の設置が設計段階で織り込まれており,また,受注工事を施工するのは,九電工及び水道機工であり,いずれも本件調査会の会員であるから,工事の段階で機種が変更されることはない。そうすると,九電工及び水道機工が受注した各処理施設については,本件通知行為がなければ,本件装置を販売できたと認められる。
よって,本件通知行為と,原告が九電工及び水道機工が工事を受注した排水処理施設等(九電工につき福岡県北野町南部地区,同県新吉富村八つ並・吉富地区及び鹿児島県屋久町原地区,水道機工につき佐賀県伊万里市井手野地区)において本件装置を販売できなかったこととの間には因果関係があるというべきである。
b 大成建設受注分について 前記(1)エのとおり,大成建設は,同社が受注した福岡県筑穂町内野地区の処理施設の建設工事について,本件装置の納入を予定していたものの,Uからの電話を受け,また,原,被告間で本件特許に関し,刑事事件となっていると聞き,本件装置の使用により,原,被告間の紛争に巻き込まれることを懸念し,前記工事における本件装置の使用を見合わせ,他社製品を使用することにした。そして,原,被告間の本件特許に関する紛争は,本件通知行為を契機として生じたものである以上,本件通知行為と大成建設の前記工事における採用機種の変更との間には相当因果関係があるというべきである。
c ユニチカ受注分について 佐賀県伊万里市井手野地区の処理施設の建設工事において,本件装置の設置が予定されていたものの,本件通知行為の結果機種が変更されたのは前記(1)ウ(ア)記載のとおりである。また,本件通知行為と機種の変更との間に因果関係が認められることは,前記a記載のとおりである。そして,前記(1)ウ(イ)及び(ウ)記載のとおり,ユニチカのK及び伊万里市のFによれば,ユニチカが受注した佐賀県伊万里市宿地区の排水処理施設に原告以外の会社の機械が採用されたのは,同市井手野地区の排水処理施設で採用された会社の装置と同じものを採用することが便宜であることを理由とするものであるから,同市井手野地区の処理施設の建設工事において本件装置が採用されていれば,同市宿地区の処理施設の建設工事においても本件装置が採用されていたはずであるということができる。
よって,本件通知行為とユニチカに対し本件装置を販売できなかったこととの間には相当因果関係があると認められる。 d 清本鉄工受注分について 原告は,清本鉄工が受注した宮崎県延岡市島浦地区の処理施設工事に本件装置の納入が予定されており,その逸失利益が損害Aに含まれる旨主張する。
しかし,Tは,前記施設の件について,その後の調査により,本件通知行為とは関係がないことが判明した旨陳述しているから,本件通知行為との因果関係があるとは認められない。
(イ) 損害額について a 上記(ア)で認定したとおり,九電工,水道機工,大成建設及びユニチカが受注した各処理施設につき原告が本件装置を販売できなかったことによる逸失利益が損害として認められる。
甲21及び弁論の全趣旨によれば,原告は,@九電工が受注した福岡県北野町南部地区,同県新吉富村八つ並・吉富地区及び鹿児島県屋久町原地区の排水処理施設における,それぞれ,A-12125,A-10115及びA-08115との型番の付された本件装置を,A水道機工が受注した佐賀県伊万里市井手野地区の排水処理施設における,A-12125との型番の付された本件装置を,B大成建設が受注した福岡県筑穂町内野地区の排水処理施設における,A-10115との型番の付された本件装置を,Cユニチカが受注した佐賀県伊万里市宿地区の排水処理施設における,A-12150との型番の付された本件装置を,それぞれ販売できたものと認められる。すなわち,原告は,A-12125を2台(九電工分及び水道機工分各1台),A-10115を2台(九電工分及び大成建設分各1台),A-08115(九電工分)及びA-12125(ユニチカ分)を各1台販売できたものと認められる。
b そして,甲19によれば,前記の各本件装置による販売利益は,以下のとおりであることが認められる。
(a) A-12125(九電工分及び水道機工分各1台) 原告が本件調査会会員である東レエンジニアリングに本件装置(A-12125)を販売した利益が812万3000円であるから,原告が,本件調査会会員である九電工及び水道機工に対して本件装置を販売できた場合,同額の利益を得られたものと認められる。
そして,本件では,原告は,A-12125を2台納入できたはずであったと認められるから,その利益は合計1624万6000円となる。
(b) A-10115(九電工分及び大成建設分各1台) 九電工分に係る利益額を検討する。甲19によれば,原告は,日本興水工業株式会社に対しては,本件装置を定価のおおむね62パーセントの価格で販売しているが,甲19によれば九電工に販売する場合の販売価格がいずれも定価の52パーセントであることが認められるから,これに基づき原告の利益を算定すべきである。そして,A-10115の定価は,1950万円であるから,九電工への販売価格はその52パーセントに当たる1014万円となる。そして,諸費用が合計347万9000円であるから,その差額の666万1000円が原告の得られた利益であるというべきである。
大成建設分に係る利益額を検討する。原告が,本件調査会の会員でない日本興水工業株式会社に本件装置(A-10115)を販売した利益率は43.7パーセントである。大成建設は,前記施設の建設工事施工時には,本件調査会の会員ではなかったことから(甲11),原告が大成建設に対し本件装置(A-10115)を販売していれば,上記同率で算定した利益が得られたものと推認される。そして,その額は,852万1000円と認められる(甲19)。
以上を合計すると,1518万2000万円となる。
(c) A-08115(九電工分1台) 甲19によれば,原告が本件調査会員である九電工に対してA-08115を販売した際の利益額は446万1000円であり,同じく本件調査会会員である東レエンジニアリングに販売した際の利益額は461万1000円であると認められる。本件では,本件調査会会員である九電工に販売することが予定されていたのであるから,原告は,少なくとも446万1000円の利益を得られたものというべきである。 (d) A-12150(ユニチカ分1台) 甲19によれば,原告がユニチカに対し別の種類の本件装置を定価のおおむね68パーセントの価格で販売しているから,A-12150についても,同程度の価格で販売できたものと認められる。 A-12150の定価は,2500万円であるから,ユニチカへの販売価格はその68パーセントに当たる1700万円となる。そして,諸費用が合計383万4000円であるから,その差額の1316万6000円が原告の得られた利益であるというべきである。
(e) 以上(a)ないし(d)を合計すると,4920万5000円(1624万6000円+1518万2000円+461万1000円+1316万6000円=4920万5000円)となり,原告の損害Aに関する主張はこの限度で理由がある。
ウ 損害Bについて 原告は,損害Bとして挙げられた施設について,それぞれ本件調査会会員である九電工及び日本鋼管が最終的に受注しており,本件装置が採用される可能性が極めて高かったといえ,これらについての逸失利益も本件通知行為と因果関係のある損害である旨主張する。
そして,甲21(Tの陳述書)にはこれに沿う記載があり,また,前記のとおり,本件通知行為後,九電工及び日本鋼管は,本件装置についての営業活動を自粛していたことが認められ,このことが,本件装置の販売に影響を与える可能性がないとはいえない。しかし,前記の実際の工事における本件装置の採用の経過及びMの供述によれば,本件装置を販売するためには,工事の設計段階においてその計画に織り込まれることが必要であるところ,損害Bとして挙げられている施設の工事においては,いずれも営業活動がなされず,本件装置の設置工事が当初か設計計画に含まれていなかったのであるから(甲21),仮に営業活動がなされた場合に,実際にどの程度の数の施設工事において本件装置が採用されたかどうかは必ずしも明らかであるとはいえない。
また,損害Bとして挙げられた施設のうち,九電工が受注した施設について,Mは,本件装置の営業を行い,設計に織り込むことができさえすれば,九電工が最終的に受注しているため,本件装置が設置されたはずである旨述べる。しかし,九電工が最終的な工事を受注した場合であっても,本件装置が必ず設計に含まれているか否かは不明であることに照らすと,本件調査会の会員が工事を最終的に受注したことをもって,直ちに本件装置が採用されたはずであるということはできない。
以上のとおり,具体的な損害の発生及びその額について明らかではないから,損害Bに係る原告の主張については理由がない。ただし,上記の事実経緯は,後記オ(イ)の無形損害の算定に当たって考慮すべき事情になり得るものと解される。
エ 損害Cについて 原告は,本件通知行為がなければ,コンサルタント料が得られたはずである旨主張し,甲21(Tの陳述書)にはこれに沿う記載がある。
しかし,本件通知行為がなかったとした場合に,原告の主張するとおり,原告がコンサルタント業務を受注できたことを認めるに足りる客観的な証拠はなく,コンサルタント料収入が,顧客との継続的取引により一定額生ずるような性質のものではなく,顧客から受注を受けて初めて生じる性質のものであることにも照らすと,本件通知行為がなければ,コンサルタント業務を獲得できたかどうかは必ずしも明らかではない。
なお,甲30(原告代表者の陳述書)には,本件通知行為の影響で,日本鋼管が,福岡県の宝満川処理場で行われる予定であった本件装置に用いられている技術を公共下水道に使用することについての実証実験に参加しなかった旨が,また,甲32(Sの陳述書)には,当時日本鋼管水エンジニアリング本部長であったJに聴取結果を行った結果,本件通知行為,及びその後の原,被告間の本件特許権をめぐる紛争が最大の理由となり,日本鋼管が前記の実証実験に参加することを見合わせた旨が,さらに,甲32には,仮に実証実験ができれば,前記処理場及び鳥栖市の終末処理場についての実設備設計を受注できたはずである旨が,それぞれ記載されている。
しかし,実証実験が成功するか否か,また,仮に実験が行われたとしても,実際に原告に対し実設備設計を発注する段階にまで計画が進展したか否かについて,これらを認めるに足りる客観的な証拠はないので,上記各陳述記載をもっても,なお,上記の認定を覆すには足りるものということはできない。
よって,損害Cについての原告の主張は採用することができない。ただし,上記の事実経緯は,後記オ(イ)の無形損害の算定に当たって考慮すべき事情になり得るものと解される。
オ 損害Dについて (ア) 原告は,仮に,本件通知行為がなければ,会員らは,本件調査会から退会することはなく,原告が本件装置を販売できたはずである旨主張して,原告の従来の実績どおりの販売利益があったとして,同額を基準とする損害を請求をする。そして,甲21(Tの陳述書)にはこれに沿う記載があり,また,大成建設の元社員であり,本件調査会の元建設部会部会長であったLの陳述書(甲33)にも,本件通知行為当時,本件装置及びこれに用いられている技術等について,積極的に営業活動等がされており,その効果が,次第に現れてきたことなどの記載がある。
しかし,本件全証拠によるも,建設部会の会員が,本件通知行為が契機となって,本件調査会から退会したと認めることはできない。また,甲6によれば,本件通知行為後の平成11年3月に退会した会員の場合でも,例えば,三井造船株式会社や日本ヒューム管株式会社のように,退会前から休会していたような事情や,三菱レイヨンエンジニアリング株式会社のように,会費を納めなかったような事情によるものもある。さらに,甲6では,明らかに,被告の要請によって退会したと記載されているのは株式会社エステムのみであって,他の会員については,「経営都合」とか「文書による」と記載されるにとどまる。そうすると,本件通知行為後に本件調査会を退会した会員のすべてが,本件通知書を受け取ったことを契機として,退会したとは認め難い。
のみならず,そもそも,本件通知行為がなければ,原告の主張するとおりに本件装置の販売がされたはずであることを認めるに足りる客観的な証拠もないから,原告が主張する販売数量の予測に基づいて,損害を受けたと認定することはできない。
(イ) ところで,前記のとおり,@本件通知書は,本件装置の使用が本件特許権侵害に当たると十分に読みとることができる趣旨が記載されていること,A下水処理施設等の設置を発注する地方公共団体は,この種の特許権紛争に関与することを嫌う傾向が極めて強く,このような警告がされれば,原告に対して,重大な損害を与えることが容易に予想されること,Bそのような状況の下では,本件通知行為が,実際に本件通知行為後に退会した会員の判断に影響を与えたであろうことも否定できないこと,C九電工や日本鋼管のように,本件調査会を退会していない会社であっても,本件通知行為後は,本件装置の営業活動を萎縮させる結果を導いたといえること,D本件装置の販売に当たっては,本件調査会会員による営業活動が重要な役割を担っていたこと,E本件通知行為後及び別件訴訟判決後の被告の対応からして,本件通知書の発送は,合理的な理由があるものとは到底解し難いこと等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件通知書の発送により,原告に対して信用等の毀損があったものと認められ,その損害額は1000万円と評価するのが相当である。
損害額のまとめ 以上によれば,被告が原告に対し賠償すべき損害額の合計は,5920万5000円(4920万5000円+1000万円=5920万5000円)となる。
4 争点(4)(謝罪文送付の要否)について 原告は,本件通知行為により低下した技術的,営業的信用の回復を図るには,被告が,本件通知書のあて先に対し,謝罪文を送付することが必要である旨主張する。しかし,別件訴訟判決により本件特許権により本件装置の製造販売を差し止めることができないことが確認され,これを受けて本件装置の営業活動が再開される動きがあること,本判決の理由において,本件通知行為の性質,内容,その違法性の有無につき詳細に判示していることなどに照らすと,前記の損害賠償のほかに,原告の信用回復のために謝罪文の送付が必要であるとまでは認められない。
結論
よって,原告の請求は,主文掲記の限度で理由がある。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 神谷厚毅
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