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事件 令和 3年 (ワ) 11152号 損害賠償請求事件
5
原告 株式会社アイメシア
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 神田 知宏
同訴訟復代理人弁護士 在原 一志 10
被告 株式会社00H (以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 P1 15 被告 P1
上記両名訴訟代理人弁護士 幸田 勝利
同 大黒 光大
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2023/03/16
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 20 1 被告らは、原告に対し、連帯して60万円及びこれに対する令和3年7月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
25 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告らは、原告に対し、連帯して154万円及びこれに対する令和3年7月3日 から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
事案の概要
5 1 本件は、ウェブサイト作成、運営、保守等の事業を営む原告が、被告会社及 びその代表取締役である被告P1に対し、被告P1がインターネット上のウェブサ イトにおいて、別紙投稿記事目録記載の各「投稿内容」欄のとおりの投稿(以下当 該目録記載の「番号」欄の順に従い「本件投稿1」などといい、総称して「本件各 投稿」という。)をした行為が、被告会社と競争関係にある原告の営業上の信用を10 害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為(不正競争防止法(以下「不競法」と いう。)2条1項21号)に該当し、当該行為により原告が信用毀損等の損害を被 ったと主張し、被告P1に対しては不競法4条に基づき、被告会社に対しては会社 法350条に基づき、連帯して損害賠償金154万円及びこれに対する最終投稿が 行われた日である令和3年7月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合によ15 る遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定で きる事実。枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。) (1) 当事者 原告は、ウェブサイト作成・運営・保守、検索エンジン最適化サービス (以下20 「SEO」という。)及び誹謗中傷サイト監視・対策・コンサルティング等の事業 を営む株式会社である(甲2の3)。
被告会社は、ホームページの企画・制作、販売促進に関する情報・資料の収集、
企画及び販売事業等を営む株式会社であり、被告P1は、被告会社の代表取締役で ある(甲5の3)。
25 (2) 原告による被告会社に対する営業行為等 ア 原告の従業員による被告会社への電話 原告の従業員は、令和3年7月2日、被告会社に対して営業目的で電話をし、被 告P1がこれに対応した(弁論の全趣旨)。
イ 原告から被告会社に対する書面の送付 原 告 は、被告会社に宛てて 令和3年7月2日付け 書面(以下「本件 書面」 と い 5 う。)及び資料(以下「本件資料」といい、これと本件書面を総称して「本件書面 等」という。)を送付し、同月3日、被告P1はこれを受け取った(乙2、弁論の 全趣旨)。
本件書面は、原告の会社名、住所及び電話番号のほか、原告がインターネット上 での風評被害等の対策業務をしていること、昨今インターネット上での誹謗中傷等10 の投稿があることを企業が把握していながら放置している場合は、投稿内容を容認 していると見られ、責任が問われるようになってきていること、数ある口コミサイ トの中でも「転職会議」と題するウェブサイトが注目されていること、当該サイト は元社員等が投稿者となり閲覧者からの信頼性が高いため、一方的に書き込まれた 内容がその企業の全てだと判断されてしまうこと、その結果ウェブサイト上での二15 次被害が続出していること、同封した資料を見てほしいこと、原告のサービスの詳 細等について営業担当者が説明すること等が記載されている。
また、本件資料は、前記「転職会議」のウェブサイトのページの一部を印刷した ものであり、被告会社の名称、住所及び「評判・社風・社員の口コミ(10件)」 の記載のほか、投稿者が、被告会社の「良い点」及び「気になること・改善したほ20 うがいい点」として書き込んだ内容が記載されている。
(3) 被告P1による投稿行為 被告P1は、令和3年7月2日及び3日、「jpnumber 電話番号検索」と題する ウェブサイト(以下「本件サイト」という。)において原告の電話番号を検索した 場合に表示されるページ(以下「本件ページ」という。)に、匿名で、本件各投稿25 を投稿した(以下「本件各投稿行為」という。)。
(4) 本件各投稿の削除 本件各投稿は、令和3年8月7日頃削除された(甲7)。
3 争点 (1) 不正競争行為の成否(争点1) ア 競争関係の有無(争点1-ア) 5 イ 摘示事実の虚偽性(争点1-イ) ウ 本件各投稿に記載された事実が原告の営業上の信用を害するか否か(争点1 -ウ) (2) 被告P1の故意・過失及び被告会社の責任(争点2) (3) 損害の発生及びその額(争点3)10 第3 当事者の主張 1 不正競争行為の成否(争点1) 〔原告の主張〕 (1) 競争関係の有無(争点1-ア) 原告の事業と被告会社の事業は、ウェブサイトの作成、運営、SEOなどで共通15 しており、原告と被告会社とは競争関係にある。
被告P1は、被告会社の代表取締役であることから、原告と競争関係にある。
(2) 摘示事実の虚偽性(争点1-イ) ア 本件投稿1 被告P1は、本件投稿1において、原告について「特定商取引法に関する知識は20 なく」「何度も何度も電話してくる」と記載した。当該記載について、一般読者の 普通の注意と読み方を基準にすると、原告について、特定商取引法(以下「特商 法」という。)が禁じる再勧誘禁止に違反して何度も電話する会社であるとの事実 が摘示されたものと読み取ることができる。
原告は、リストを使用して電話での営業をしているため、電話先から拒否された25 場合、同じ相手に再度電話することはない。
よって、本件投稿1に記載された上記摘示事実は虚偽である。なお、被告らが主 張する原告の従業員からの被告会社に対する電話のうち、令和3年1月のものは否 認し、同年7月2日に電話をした事実自体は認める。
イ 本件投稿2及び3 被告P1は、原告について、本件投稿2において「自分でネットに企業の誹謗中 5 傷を書いて、それをネタにネットの誹謗中傷対策しますというマッチポンプ」と、
本件投稿3において「自前で悪評判を立てた上で対策しますという、うさんくさい 営業」と記載した。
当該各記載された事実について、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、
原告が、事前に営業先の悪評をあらかじめインターネット上に書き込んだ上で、当10 該営業先に対し、当該書き込みに対する対策を行うよう促す営業をしているとの事 実が摘示されたものと読み取れる。
しかし、原告は、このような手法の営業をしていないため、本件投稿2及び3に 記載された前記事実は虚偽である。
(3) 本件各投稿に記載された事実が原告の営業上の信用を害するか否か(争点15 1-ウ) 本件投稿1に記載された事実は、一般読者に原告が法令に違反した営業活動をし ているとの評価を生じさせ、本件投稿2及び3に記載された事実は、一般読者に原 告が詐欺的な営業行為をしているとの評価を生じさせる。したがって、これらの事 実は、いずれも原告の社会的評価を低下させ、原告の営業上の信用を害するもので20 ある。
〔被告らの主張〕 (1) 競争関係の有無(争点1-ア) 原告のウェブサイトや本件書面の各記載内容等に照らせば、原告は、専らインタ ーネット上の誹謗中傷対策を中心業務として行っている。
25 被告会社は、コンピュータと周辺機器の導入設置、コンピュータのハードウェア ・ソフトウェア・ネットワークシステムの導入指導及び維持管理を主な業とし、そ の他わずかにホームページ作成等を行っている会社である。
したがって、原告の事業と被告会社の事業は全く異なり、原告と被告らは競争関 係に立たない。
(2) 摘示事実の虚偽性(争点1-イ) 5 ア 被告P1は、業務中に他者から営業目的の電話がかかるとその対応のために 時間等をとられ、業務の支障となることから、被告会社のウェブサイトにおいて、
営業目的での電話を断る旨を告知していた。
被告P1は、令和3年1月7日又は同月14日、原告の従業員である旨を名乗る 者からの電話を受けた。
10 被告P1は、当該従業員に対し、被告会社のウェブサイト上の前記記載に言及し、
特商法17条の再勧誘禁止の規定を指摘した上で、営業電話には非常に迷惑をして いるので二度とかけてこないように申し向けた。
それにもかかわらず、同年7月2日、別の原告の従業員が再び被告会社に営業目 的の電話をかけ、被告P1に対し、資料が届いているかなどと確認してきた。
15 被告P1は、一度目の電話において二度と被告会社に対し営業目的の電話をしな いよう伝えたにもかかわらず、原告が再度営業目的で電話をかけ、かつ届いていな い資料が届いているか等の手慣れた会話をすることから、他の業者が原告の悪質な 営業に引っかからないようにする目的で、本件投稿1を投稿した。
イ 被告P1は、翌日の令和3年7月3日、本件書面等を受け取り、そこに記載20 された口コミサイトを確認した。当該サイトでは、被告会社の元従業員と述べる者 が書き込みを行っていたが、書き込みの時期と被告会社が従業員を雇用していた時 期とが異なり、書き込まれた内容も事実と異なっていた。
被告P1は、当該書き込みについて、原告が営業手段として意図的に行った可能 性が高いと判断し、原告について、営業電話で資料が届いているかなどと印象を与25 え、その直後に書面及び資料を送りつけ、その内容を見た業者の不安を煽り、原告 に依頼するよう企図する悪質な会社であると考えた。
そこで、被告P1は、原告に対する警告の意味と他の業者が原告の悪質な営業に 引っかからないようにする目的で、本件投稿2及び3を行った。
(3) 本件各投稿に記載された事実が原告の営業上の信用を害するか否か(争点 1-ウ) 5 否認ないし争う。
2 被告P1の故意・過失及び被告会社の責任(争点2) 〔原告の主張〕 ア 被告P1の故意・過失等 被告P1は、被告会社と原告とが同業者であることを認識した上で、自ら本件各10 投稿行為をしており、故意又は過失が認められる。仮に、被告P1が原告の従業員 からの電話を迷惑電話だと判断したとしても、本件各記事の内容等に照らすと、本 件各投稿を行うことが正当化されるものではない。
イ 被告会社の責任 被告P1は、被告会社の業務上使用するメールアドレスを使用して契約したイン15 ターネット回線を使用して、本件各投稿行為をした。被告会社のウェブサイトには 営業目的の電話を原則拒否し、迷惑電話であると判断した場合は本件サイトを含む 口コミサイトに迷惑電話である旨を登録することが記載されており、被告P1は原 告の各従業員からの電話を迷惑電話と判断して本件各投稿を行ったというのである から、本件各投稿行為は、被告会社の業務として行われたといえる。
20 したがって、被告会社は、代表者である被告P1がその職務を行うについて第三 者に加えた損害として、原告に対し損害賠償責任を負う。
〔被告らの主張〕 ア 被告P1の故意・過失等 被告らは、業種にかかわらず営業目的の電話全般を迷惑電話と位置づけ、原則拒25 否し、その上で営業目的の電話をする場合には有料制にしていること、悪質な営業 電話は迷惑電話として本件サイトを含む口コミサイトに登録すること等を被告会社 のウェブサイトに記載するなどして周知している。
それにもかかわらず、原告は、料金を支払わず2度にわたり被告会社に対し電話 をかけてきた。また、被告P1が確認したところ、本件サイト及びその他の口コミ サイトには、既に被告ら以外の者によって、原告の営業を非難する口コミ投稿がさ 5 れていた。このような背景事情の下、被告P1は、原告に対する警告の意味と他の 業者が原告の悪質な営業に引っかからないようにするため等の目的で本件各投稿を 行った。被告P1は、原告が被告会社と競争関係にある会社であると認識しておら ず、競争会社を貶める目的や誹謗中傷する目的は一切なかった。
イ 被告会社の責任10 本件投稿は、被告P1が被告会社の職務として行ったものではないため、被告会 社は会社法350条に基づく責任を負わない。
3 損害の発生及びその額(争点3) 〔原告の主張〕 ア 無形損害15 本件投稿により、原告には、信用の低下、企業価値の低下、商品価値の低下及び 潜在的な顧客の喪失といった不利益が生じた。原告が営業上の信用を回復させ、維 持する費用を考慮すれば、当該損害は100万円を下らない。
イ 調査費用 原告は、本件各投稿の投稿者を特定するために、弁護士に調査を依頼し、発信者20 情報開示請求手続等を行い、その費用として税込44万円を支払った。
インターネット上での発信者を特定するための調査には、一般に発信者情報開示 請求の方法をとる必要があるところ、短期間のうちに必要な保全処分を行った上で 適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要である。発信者情報開示請求のために 被 害者が弁護士に委任して支払った費用は、社会通念上相当な範囲で投稿者による違25 法な行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
弁護士費用 原告は、弁護士に委任して本件訴訟を提起しており、上記アの損害の1割に相当 する10万円の損害を被った。
エ 合計 上記ア〜ウを合計すると、原告の被った損害額は154万円を下らない。
5 〔被告らの主張〕 ア 無形損害 本件各投稿が行われた本件サイトは、誰もが匿名で投稿することができる口コミ サイトであり、本件サイトの閲覧者は、そこに投稿された内容について必ずしも信 用性が高い情報であるとは受け取らない。
10 本件各投稿は、わずか3件に過ぎず、かつ本件サイトに掲載された期間は約1か 月程度であるため、本件各投稿に記載された情報の流通範囲は限定的である。
さらに、本件各投稿以前に、既に口コミサイト上で原告の営業を非難する書き込 みがされていたことから、原告の社会的評価は、本件各投稿の時点で既に一定程度 低下していたとも考えられる。
15 以上より、本件各投稿行為により原告に新たな無形損害が発生したとはいえず、
仮に発生したとしても、その額はわずかである。
イ 調査費用 原告は、インターネット上の誹謗中傷対策業務を専門的かつ中心業務として行い、
本件各投稿から本件訴訟提起に至るまで、短期間で手際良く手続が進められている。
20 本件サイト上の投稿は、投稿対象電話番号、投稿時刻、削除理由等を指摘の上で 削除依頼を行えば、速やかに無料で投稿が削除され得る。すなわち、本件各投稿は 容易に削除可能な状態であり、調査費用をかけてまで発信者情報開示手続をとる必 要性の乏しいものであった。
したがって、原告が本件各投稿の投稿者を特定するために要した調査費用は、本25 件各投稿行為と相当因果関係のある損害とはいえない。仮に、損害に含まれるとし ても、原告が主張する費用は全て弁護士費用であり、一般的な水準に照らして高額 にすぎる。
弁護士費用 前記アのとおり、本件では無形損害が発生していないため、弁護士費用も発生し ない。また、前記イのとおり、原告が請求する調査費用は全て弁護士費用であるか 5 ら、調査費用と別に弁護士費用が発生するものではない。
当裁判所の判断
1 認定事実 前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの各事実 が認められる。
10 (1) 被告会社の事業等について 被告会社のウェブサイトには、被告会社の事業内容として、ウェブサイト企画・ 開発・運営・保守・コンサルティング等と記載されている。また、当該ウェブサイ トには、被告会社の事業である「ホームページ制作」の説明の中で、SEO対策の 必要性及びSEO対策業務を被告会社が代行すること等が記載されている。(甲515 の1、5の2)。
(2) 本件サイトについて 本件サイトは、検索項目欄に電話番号を入力した上で検索すると、当該電話番号 の詳細情報として、電話番号の基本情報、電話番号の事業者の詳細情報(名称、業 種、住所、問い合わせ先、公式サイト等)、地図情報に加え、不特定多数の者が20 「口コミ掲示板」として当該電話番号に係る事業者等について投稿した内容が掲載 される。本件サイトにおいて投稿を行う際、投稿者を特定するための名前やメール アドレスの記載は任意とされている(甲1、乙8)。
(3) 被告P1による令和3年1月14日の投稿 被告P1は、令和3年1月14日、本件サイト上の本件ページにおける「口コミ25 掲示板」に、「匿名さん」として、「アイメシアとか名乗る会社の超迷惑営業電話 下調べもなしにかけてくるとはぬるい営業ですね」との内容を投稿した(甲1)。
(4) 本件各投稿行為等 ア 被告P1は、令和3年7月2日、原告の従業員からの電話に対応した後、本 件ページに、本件投稿1を投稿した。
イ 被告P1は、令和3年7月3日、本件書面等を受け取った後、本件ページに、
5 同日午後4時43分頃本件投稿2を、同日午後6時30分頃本件投稿3をそれぞれ 投稿した。
ウ 本件ページには、原告の会社名、住所、公式サイト、地図が記載された上、
「口コミ掲示板1ページ目」として、本件各投稿のほか、前記のとおり、被告P1 が令和3年1月14日に行った投稿が掲載されている。本件ページの「電話番号…10 の基本情報」には、令和3年4月15日から同年7月20日までを期間として、
「アクセス回数 176」、「検索回数 516」と記載されている。
同年1月から7月までの間に、本件ページの口コミ掲示板に、前記4件の投稿以 外の原告に係る口コミが投稿された事実は認められない(甲1、弁論の全趣旨)。
エ 本件各投稿に係る通信15 被告P1は、「00h@〈以下略〉」又は「00h@〈以下略〉」との電子メールアドレ スを登録して契約した通信を利用して、本件各投稿行為を行った(甲4、弁論の全 趣旨)。
(5) 原告の行動等 原告は、本件の原告訴訟代理人に委任の上、本件各投稿の削除及び本件各投稿に20 係るIPアドレス等の開示を求める仮処分の申立てを行い、本件サイトの管理者か ら本件各投稿に係るIPアドレス等の開示を受けた後、本件各投稿に係る経由プロ バイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起し、発信者情報の開示を受けた(甲 3、4、6、7) 原告は、同代理人に対し、前記各手続に係る費用としてそれぞれ税込19万9525 80円を支払った(甲6)。
(6) その他の事情 ア 被告会社は、そのウェブサイトにおいて「営業のお電話をいただく皆様へ」 として、営業目的の電話を固く断っていること、なお電話を希望する場合は有料制 としていること、被告会社において迷惑と判断した場合は、情報共有のため本件サ 5 イトを含む電話番号の検索サイトにその旨を登録すること等を掲載している(乙 7)。
イ 本件サイトに投稿された投稿は、本件サイトの管理者に宛てて投稿対象電話 番号、投稿日時、削除理由等を記載して連絡をした場合、管理者において削除等す ることが可能であり、その場合に費用は発生しない(乙3)。
10 ウ 本件資料に印刷された被告会社についての書き込みのうち、証拠上その内容 が確認できるもの(2件)には、いずれも「在籍時から5年以上経過した口コミで す。」との記載があり、投稿日は、「2017.12.07」及び「2016.0 8.27」と記載されている(乙2)。
2 争点に対する判断15 (1) 不正競争行為の成否(争点1) ア 競争関係の有無(争点1-ア) (ア) 前記前提事実(1)及び認定事実(1)によれば、原告と被告会社は、いずれも ウェブサイトの作成(企画・開発)、運営及び保守業務、並びにインターネット上 の検索エンジンの最適化サービス(SEO対策)等の同種の事業を行っている。し20 たがって、両社は営業活動上需要者や取引先を共通にする可能性があるといえるこ とから、競争関係にあると認められる。また、被告P1は、被告会社の代表取締役 であるから、その職務に関して原告と競争関係にあるといえる。
(イ) 被告らは、原告の事業と被告会社の事業が全く異なり競争関係に立たない 旨主張する。しかし、不競法2条1項21号における競争関係は、需要者又は供給25 者を共通にする可能性があるなど、将来現実化し得る潜在的な競争関係であれば足 りると解されるところ、前記(ア)のとおり、被告会社の登記事項証明書及びウェブ サイトに記載された被告会社の事業内容(甲5)と原告の事業内容とが重複してい ることから、当該主張は採用できない。
イ 摘示事実の虚偽性(争点1-イ) (ア) 本件投稿1の内容は、「アイメシア 特定商取引法に関する知識はなく、
5 コンプライアンス担当者はおらず…何度も何度も電話してくる…さらに電話の人間 は嘘丸出し営業トーク」と記載し、原告について、特商法に関する知識がなく、コ ンプライアンス担当者がおらず、営業対象先に対し何度も電話をかけ、電話をした 従業員が事実に反した話をするという事実を指摘するものである。当該記載を閲覧 した本件ページの閲覧者は、原告が、法令を遵守せず営業対象先に何度も電話をか10 け、かつ営業担当者が事実に反する話をする営業活動を行う会社であると読み取る ものといえる。
被告P1による令和3年1月14日の投稿、本件各投稿及び本件書面等の各内容 等(前記前提事実(2)(3)及び認定事実(3)(4))を踏まえると、原告が、営業対象先 に係るインターネット上の口コミサイトの記事を印刷し、SEO対策の重要性や原15 告の業務を紹介する文書と共に営業対象先に送付し、同じ頃に営業対象先に電話を した上で当該文書等に言及して原告への依頼を促す等の営業活動を行っていること、
被告会社に対し、同月及び7月に営業目的で2回電話をし、本件書面等を送付した ことが認められるものの、原告が法令を遵守せずに営業の電話をし、また原告の従 業員が事実に反する話をして営業活動を行ったとはいえず、本件投稿1の前記記載20 は事実に反するといえることから、その虚偽性が認められる。
(イ) 本件投稿2の内容は、「自分でネットに企業の誹謗中傷を書いて、それをネ タにネットの誹謗中傷対策しますというマッチポンプ詐欺の会社」と記載し、原告 について、営業対象先を誹謗中傷する内容の記事を予めインターネット上に書き込 む等した上で、当該企業に対し、当該書き込みを契機としてその対策業務を行う原25 告への依頼を促す旨の営業活動を行っているという事実を指摘するものである。当 該記載を閲覧した本件ページの閲覧者は、原告がこのような詐欺的な営業活動を行 う会社であると読み取るものといえる。
しかし、本件証拠に照らし、原告が、自ら営業対象先を誹謗中傷する書き込み等 をし、その対策等を理由に営業活動を行ったとはいえず、本件投稿2の前記記載は 事実に反するといえるから、その虚偽性が認められる。
5 (ウ) 本件投稿3の内容は、「自前で悪評判を立てた上で対策しますという…営 業を行う詐欺会社」と記載し、原告について、自ら相手方の悪評判を立てた上で、
当該評判を契機としてその対策業務を行う原告への依頼を促す旨の営業活動を行う という事実を指摘するものであり、本件投稿2と同様に当該記載は事実に反する。
(エ) したがって、本件各投稿に記載された事実は、いずれも事実に反し虚偽で10 あると認められる。
(オ) 被告らの主張について 被告らは、被告P1が本件各投稿をした目的は、原告の営業が悪質であることか ら、原告に警告を発したり、他の業者が原告の営業に引っかからないようにするた めであるなどと主張する。
15 しかし、本件資料に係る口コミサイトの記載について、書き込みの時期(平成2 8年及び平成29年)と、原告の被告会社に対する架電の時期(令和3年1月及び 7月)が相当程度離れていること(前記認定事実(3)(4)及び(6)ウ)等を踏まえる と、原告が営業手段として自ら当該口コミサイトの記載を行ったとは認められない。
前記(ア)の原告の営業手法及び被告会社に対する営業行為を前提としても、本件各20 投稿の前記内容が全体として事実に反することに変わりはなく、被告らが主張する 目的により本件各投稿行為が正当化されるものではない。このことは、被告会社が そのウェブサイトにおいて営業目的の電話を固く断り、迷惑であると判断した場合 に は 本 件サイト等にその旨を登録すること等を記載していた( 前記 認定事 実 (6) ア)としても、同様である。
25 ウ 本件各投稿に記載された事実が原告の営業上の信用を害するか否か(争点1 -ウ) 本件各投稿で指摘された前記イの各事実は、その内容に照らせば、原告の社会的 評価を低下させるものといえるから、いずれも原告の営業上の信用を害すると認め られる。
エ 小括 5 以上のとおり、被告P1による本件各投稿行為は、原告の営業上の信用を害する 虚偽の事実の告知又は流布する行為に該当し、不競法2条1項21号の不正競争に 該当する。
(2) 被告P1の故意・過失及び被告会社の責任(争点2) ア 被告P1は、自ら本件各投稿行為を行っており、その投稿内容を認識してい10 たと認められることから、本件各投稿行為について、少なくとも過失が認められる。
イ また、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告P1は、原告からの被 告会社に対する営業目的の電話や本件書面等の送付を受け、これに応じて本件投稿 を行ったと認められるから、その行為は、被告会社の職務に関する行為であるとい える。
15 したがって、被告会社は、被告P1の本件各投稿行為によって原告に生じた損害 を賠償する責任を負う。
以上より、被告P1は不競法4条に基づき、被告会社は会社法350条に基づき、
原告に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。
(3) 損害の発生及びその額(争点3)20 ア 無形損害 前記2(1)イのとおり、本件各投稿は、原告が法令を遵守せず営業対象先に架電 し、かつ営業担当者が事実に反する話をする営業活動を行う会社であるとの印象や、
営業対象先を誹謗中傷する内容の記事を予めインターネット上に書き込む等した上 で、当該企業に対し、当該書き込みを契機としてその対策業務を行う原告への依頼25 を促す旨の営業活動を行う会社であるとの印象を与えるものであり、原告の社会的 評価が一定程度低下したと認められること、本件各投稿が、一定数の不特定多数の 者に閲覧されたと推認されること、一方で、本件各投稿が掲載された期間は令和3 年7月2日又は3日から同年8月7日までの一か月余りであり比較的短期間である といえること、本件サイトの口コミの投稿は、氏名やメールアドレスの記載が任意 とされ、投稿者が特定されない形で書き込むことが可能であることから、本件サイ 5 トの口コミ掲示板に記載された情報に接した閲覧者が当該情報について信頼性が高 い情報として受け取るとまではいえないこと等を考慮すると、被告P1の本件各投 稿行為による原告の無形損害は50万円と認めるのが相当である。
なお、本件ページにおいて、被告P1による投稿以外の投稿がされたことが認め られないことは前記認定事実(4)ウのとおりである。
10 イ 調査費用 本件各投稿は匿名で行われたことから、原告が本件各投稿の投稿者を特定するた めには、本件各投稿に係るIPアドレス等の開示及び当該IPアドレスに係る発信 者情報開示の各手続を行う必要があったと認められ、また、原告がその手続追行を 法律専門家である弁護士に委任することも不相当とはいえない。
15 したがって、被告らが指摘するような原告がインターネット上の誹謗中傷対策業 務を行っていることや、本件サイトの管理者に連絡をすれば本件各投稿を削除でき る可能性があったこと(前記認定事実(6)イ)等をも踏まえ、原告が前記各手続の ために支出した費用のうち一定額を、本件各投稿行為と相当因果関係を有する損害 と認めるのが相当であり、前記各手続の難易度及び専門性や本件において認められ20 る前記無形損害の額その他の事情に照らし、本件各投稿行為と相当因果関係のある 調査費用は5万円と認める。
弁護士費用 本件事案の内容、原告に生じたと認められる無形損害の額その他諸般の事情を総 合考慮すると、本件各投稿行為と相当因果関係のある損害として認められる弁護士25 費用は5万円と認めるのが相当である。
エ 小括 以上のとおり、本件各投稿行為と相当因果関係のある原告に生じた損害の額は、
合計60万円と認められる。
3 結論 以上によれば、原告の請求は、被告らに対して、60万円の損害賠償金及びこれ 5 に対する最終の不正競争行為の日(本件投稿3の投稿日)である令和3年7月3日 から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限 度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却する こととして、主文のとおり判決する。