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事件 令和 4年 (ネ) 10095号 損害賠償請求控訴事件
令和 4年 (ネ) 10112号 同附帯控訴事件

控訴人兼附帯被控訴人(一審被告) カーディナルヘルス株式会社 (以下「控訴人」という。)
同 訴訟代理人弁護士緒方延泰 飯野毅一 落合祐一
被控訴人兼附帯控訴人(一審原告) 住友ベークライト株式会 社 (以下「被控訴人」という。)
同 訴訟代理人弁護士塩月秀平 柴野相雄 井上貴宏 栗林知広 安西みなみ
同 訴訟代理人弁理士鶴崎宗雄
同 補佐人弁理士阿部豊隆
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/03/23
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人の本件控訴を棄却する。
12 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、2252万2848円及びこれに対する令和元年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、1、2審を通じ、これを4分し、その3を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、2項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 控訴の趣旨(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消しに係る部分について、被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨 (1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、3146万4427円及びこれに対する令和元年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、1、2審を通じ、控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言
事案の概要
1 事案の要旨 2 本件は、被控訴人が、控訴人による原判決別紙控訴人商品目録記載の商品(控訴人商品)の販売行為が、被控訴人商品と混同を生じさせる行為であって不正競争防止法(不競法)2条1項1号の不正競争に当たると主張して、控訴人に対し、不競法4条に基づき、不競法5条1項又は同条2項によって算定される損害賠償額として3146万4427円(ただし、主張額は訂正後の金額である3144万2347円である。)及びこれに対する不正競争行為が最後にされた日である令和元年8月29日から支払済みまで平成29年法律第44条による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は、控訴人商品の販売量の全てが被控訴人商品と誤認混同したことによるものとは考え難いことを理由として、控訴人の譲渡数量の4割については被控訴人が販売することができないとする事情があるものと判断し、不競法5条1項により算定される損害額からその4割を控除し、弁護士費用を含めて1358万3708円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求を一部認容し、
その余の請求を棄却した。
これに対し、控訴人が、敗訴部分につき不服であるとして控訴を提起し、附帯控訴人も、敗訴部分につき不服であるとして附帯控訴をした。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から認められる事実。以下「前提事実」という。)並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2ないし4に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁5行目の「すなわち、」の次に「同時点において、」を挿入する。
(2) 原判決3頁24行目の末尾に改行して「(1) 控訴人商品の販売の不正競争行為該当性(争点1)」を挿入し、同頁25行目冒頭の「(1)」を「(2)」と、同行目 3 の「争点1」を「争点2」と、同頁26行目冒頭の「(2)」を「(3)」と、同行目の「争点2」を「争点3」とそれぞれ改める。
(3) 原判決4頁1行目の末尾に改行して、次のとおり挿入する。
「(1) 控訴人商品の販売の不正競争行為該当性(争点1) (被控訴人の主張) 控訴人による控訴人商品の販売行為は、販売チャネルによらず不正競争行為に該当し、このことは、確定した別件判決が認定するとおりである。控訴人は、別件判決が、控訴人による控訴人商品の販売行為のうち、医療機器カタログやオンラインショップを経由した販売についてのみ、不正競争行為が成立する旨判断したなどと主張するが、別件判決は、誤認混同のおそれがある場合について、医療機器カタログやオンラインショップを経由して控訴人商品の形態に接した場合を例として挙げて示したもので、これらのチャネルを通じた販売にのみ、被控訴人商品と混同のおそれがあると判断したものではなく、控訴人は別件判決を曲解している。
控訴人の主張は、控訴人商品の販売行為に関して、被控訴人が差止請求権を一部有しないとするものであって、別件判決と明確に矛盾し、実質的に別件訴訟で慎重に審理判断された争点を蒸し返すものであって不当である。
(控訴人の主張) 控訴人による控訴人商品の販売行為の全てが不正競争行為に該当するものではない。別件判決は、医療従事者が、医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて被控訴人商品の形態と極めて酷似する控訴人商品の形態に接した場合に、商品の出所が被控訴人商品と同一であると誤認するおそれがあると判断した。すなわち、特定の販売チャネル(医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて被控訴人商品の形態と極めて酷似する控訴人商品の形態に接した場合)を経由した販売行為について誤認混同のおそれがあると判断したものであって、控訴人による控訴人商品の販売行為が全て不正競争行為に該当するとしたものではない。
4 別件判決が、控訴人商品の販売について一律に差止めを認めたことは過剰差止めであるものの、混同のおそれがある取引態様のみを切り出して判決主文で特定することの技術的困難性により、一部のおそれをもって全体につき差止めを認めるという判断は、差止請求訴訟においては一定程度首肯し得る。他方、不法行為に基づく損害賠償請求は、個々の販売態様における、日々の不法行為の積み上げとして、合算され請求されるものであるから、個々の販売態様について事実認定もせず不正競争行為性を概括的に認定することは、許されない。それにもかかわらず、原判決は、
販売態様ごとの不正競争行為該当性を評価することもなく、控訴人による控訴人商品の販売行為について、全て不正競争に該当するとの概括的認定を行っており、不当である。」 (4) 原判決4頁2行目冒頭の「(1)」を「(2)」と、同行目の「争点1」を「争点2」と、同頁9行目冒頭の「(2)」を「(3)」と、同行目の「争点2」を「争点3」と、同頁4〜5行目及び同頁15行目の各「被告製品」を「控訴人商品」とそれぞれ改める。
(5) 原判決5頁1行目の「原告提出」を「後記【控訴人の主張】イのとおり、
控訴人は、被控訴人商品の多くはカテーテルとのセット販売であり、また、販売先によって販売価格が異なるという取引の実情があるにもかかわらず、セット販売に係る割り付け計算や販売先ごとの販売実績の合算を経た二次資料しか提出していないと主張するが、被控訴人提出」と改める。
(6) 原判決5頁21行目の「被告主張に係るプロセス」を「後記【控訴人の主張】エ(ア)の控訴人主張に係るプロセス」と、同6頁5行目の「被告商品」を「後記【控訴人の主張】エ(イ)の控訴人主張に係る控訴人商品」と、同頁13行目の「獲得していたこと、」を「獲得していたこと及び」とそれぞれ改め、同頁14行目の「鑑みれば、」の次に「控訴人商品における」を挿入し、同行目の「被告商品に与える」を「需要者に与える」と、同頁18行目の「被告の新型商品の販売数量については」を「後記【控訴人の主張】エ(オ)の控訴人主張に係る控訴人商品から形状 5 を変更した控訴人の新型商品の販売数量が控訴人商品の販売数量を大きく凌駕しているとする点については」とそれぞれ改める。
(7) 原判決7頁18行目の「損害はなく、又は」を「損害は生じていない。また、」と改め、同8頁13行目の「改良を重ねた結果、」の次に「@カテーテルと控訴人商品との接続部分を確実に固定するセイフティーロック機能が備えられ、A一旦排液ボトルに貯留された排液が患者の体内に逆流しないようにする逆流防止弁が取り付けられ、Bカテーテルをボトルから抜かずにチューブをずらすことでボトル内にたまった空気を外に逃すことができるようにするための連結チューブにキャップが取り付けられ、C集液ポートがY字となっており、同時に2本のカテーテルを接続できるとの」を挿入する。
3 当審における当事者の補充主張 争点3(本件不正競争行為と因果関係のある損害の発生の有無及び被控訴人の損害額)について (1) 不競法5条1項による損害額の算定について (被控訴人の主張) ア 控訴人商品の販売数量について 控訴人は、控訴人商品を2万0073個販売した。
原判決は、控訴人商品の販売数量を1万4377個と認定したが、その根拠とされる販売数量データ(乙11)について、控訴人担当者の陳述書(乙24)をみても、控訴人の基幹システムからどのような操作過程により抽出されたのか不明であり、販売数量を実際より少なく見せるために何らかの加工を行った可能性を否定することができない。控訴人は、原審において受発注書、納品書等が存在しないと回答した後に、納品書(乙16)を提出するなど不可解な対応をしており、控訴人の主張及び乙11は信用できない。
イ 被控訴人商品の単位数量当たりの利益額について 控訴人は、原判決が甲13(被控訴人従業員の陳述書)のみにより利益額を認定 6 したかのような主張をするが、原判決は、甲12〜17(同陳述書のほか、被控訴人の購買システム等に係る証拠)をもって認定しており、控訴人の主張は原判決を曲解するものである。なお、甲13別紙1の売上高一覧等は十分信用に値する。
また、原審は、甲13別紙1並びに原審で提出した原告第7準備書面における主張及び説明により利益額が認定可能であると判断し、計算鑑定人は不要としたのであり、控訴人の主張は言いがかりである。
(控訴人の主張) ア 控訴人商品の販売数量について 被控訴人が主張する2万0073個との数量は、極めて粗い推計に基づくものにすぎない。控訴人商品の販売数量は1万4377個であり、原判決の認定は正当である。
イ 被控訴人商品の単位数量当たりの利益額について 被控訴人の主張する利益額は不当に高額である。ところが、原判決は、被控訴人の提出した陳述書(甲13)に記載された変動費の合計額をもって、被控訴人商品の単位数量当たりの利益額を認定した。甲13別紙1の表中、費用項目部分は全て黒塗りされており、結局のところ、原判決の認定には証拠の裏付けがない。
本件においては、控訴人が、被控訴人の主張する利益率が不自然であり、不当に高額であると主張している以上、計算鑑定人を採用して、原資料の取調べを行った上で利益率の認定を行うべきところ、これを行わず、被控訴人の主張のみをもって利益率認定を行った点において、原判決には、認定の方法、認定事実に誤りがあるというべきである。
(2) 推定の覆滅について (控訴人の主張) 控訴人による控訴人商品の販売行為は、次のとおり、被控訴人商品と誤認混同させるおそれがあるものではなかったが、この点について原判決は誤った判断をした。
ア 控訴人商品は、84の病院等に現実に販売されたが、そのうち78の病院等 7 に対しては、事前に営業担当者が控訴人商品の説明をしており(乙17)、病院等が、被控訴人商品と誤認して発注したなどということがなかったことは明らかである。この販売経路における実際の流れは次の@〜Dのとおりであり、いわゆる打ち消し表示が存在する場合と同様に、誤認混同の具体的危険がないというべきである。
@ 控訴人又は販売代理店の営業担当者が、医療従事者に対し、控訴人商品の現物を提供又は提示して、被控訴人商品よりも安価で高性能であることを明示して控訴人商品への切替えを働きかけ、カタログ(乙5)を基に、その機能や使用上の注意の説明をした(乙17、34〜39、42)。
A 医療従事者が、受領した控訴人商品を、有効性、安全性を確認するために臨床試用した(乙18、32〜40)。
B 臨床試用の結果、被控訴人商品から切り替えるかたちで、控訴人商品の採用が決定された(乙17)。
C 採用決定をした者が、病院の発注担当者に対して、控訴人商品の購入を指示し、担当者が、販売代理店に控訴人商品を発注した。発注に当たっては、販売代理店に対し、メール又はファックスにより(システム上発注がされる病院等を除く。、
)製品名、カタログ番号、メーカー名を伝えた(乙32〜40)。
D 発注を受けた販売代理店は、病院に対し、控訴人商品を納品し、納品書をメール、ファックス又はメールにより交付した(乙41、42・21〜22頁)。納品書及び控訴人商品の梱包されている箱や袋には、控訴人名や商品名が記載されていた(乙41、42・23頁)。その後、医療従事者が実際に控訴人商品を使用した。
需要者誤認混同していないことは、その他の被控訴人商品を使用している病院からの誤発注が存在しなかったことからも裏付けられる。
ウ 控訴人商品は、控訴人が製造販売するカテーテルとしか接続できない構造となっているが、控訴人商品を被控訴人のカテーテルに接続できなかったことによるクレームは存在せず、これは、誤認による発注がなかったことを裏付けるものであ 8 る。上記クレームの不存在について、原判決は、控訴人商品用のコネクタを使用すれば控訴人商品を被控訴人商品用のカテーテルに接続できるからであるなどと認定したが、控訴人商品用のカテーテルは、コネクタが装着された状態で販売されているものであるから(乙43・1頁)、控訴人商品を被控訴人商品と誤認して発注した病院等が、控訴人商品用のコネクタのみ持っていたなどという想定が現実的ではない。そもそも、病院等が、被控訴人商品と誤認して控訴人商品を購入してしまったのであれば、販売代理店やメーカーに苦情を入れるはずであり(乙43・6〜7頁)、原判決の上記認定には誤りがある。
エ 控訴人商品を新規購入した病院が、控訴人商品と被控訴人商品を誤認混同しなかったことは、陳述書のとおりである(乙17、44)。
オ 控訴人商品の販売時に、販売代理店と病院等との間でやり取りされた見積書、
発注書、納品書(乙45〜50)の記載を踏まえても、病院等が控訴人商品と被控訴人商品を誤認混同する現実的危険性はなかった。
(被控訴人の主張) 控訴人が主張する各事実は、以下のとおり、いずれも、被控訴人が譲渡数量の一部に相当する数量を販売することができないとする事情として考慮すべきではない。
それにもかかわらず、このような事情を考慮して、数字的な根拠を示すこともないままに、損害額を40%も減額した原判決は失当である。
ア 控訴人商品の取引の実情 (ア) 被控訴人商品の形態が周知であり、控訴人商品の外観が被控訴人商品の外観に酷似していたからこそ、需要者は控訴人商品を購入するプロセスに入ったのであり、控訴人の主張する取引プロセス自体が控訴人商品の販売に寄与したということはない。なお、一般に、医療従事者は、数多くの医療機器を使いこなさなければならないため、よく似た形状や名称の製品を混同してしまい、被控訴人に対し、他社製品に関する問合せやクレームを入れることが実状としてあり、実際に、被控訴人が被控訴人商品の営業のために訪問した病院において、看護師から被控訴人商品が 9 問題なく使用できている旨のコメントをもらい、詳細を確認したところ、サンプルとして提供されていた控訴人商品についてのコメントであったという事態も生じていた(甲18)。
(イ) 控訴人は、控訴人商品の新規販売全てについて同じプロセスを経ていることについて客観的な証拠を提出していない。控訴人が提出した陳述書(乙32〜40)は、全て一般的な実情を述べるもので、控訴人商品の取引の実情に関し参考になるものではなく、乙34を除き、控訴人商品の販売先により作成されたものではない。
(ウ) したがって、控訴人の主張する控訴人商品の取引の実情は、損害額を減じる事情として考慮すべきではない。
イ 控訴人商品と被控訴人商品の性能上の相違 控訴人は、周知性のある被控訴人商品の外観デッドコピーし、採算を考慮せずに控訴人商品を廉価に販売していたのであり、需要者は、被控訴人商品と誤認混同した上で、被控訴人商品の販売価格よりも安価であることに惹かれて控訴人商品を購入した可能性が高い。
そもそも、控訴人が、控訴人商品を被控訴人商品と酷似した形態にしたのは、需要者の誤解を誘発するためであり、被控訴人が長年の経営努力で培ってきた被控訴人商品に対する信用力にフリーライドするものである。仮に、控訴人において、需要者は控訴人商品の独自の性能に着目しているとの認識を有していたのであれば、
被控訴人が控訴人商品の販売中止を求めた際、控訴人はすぐに控訴人商品の販売を中止して外観を変更するのがビジネスとして当然であったにもかかわらず、控訴人は、被控訴人からの求めを無視して控訴人商品の販売を継続しており、被控訴人商品の外観に似ているからこそ需要者が控訴人商品を購入しているという自覚を有していたことは明らかである。また、控訴人商品に需要を喚起するだけの付加価値があるのであれば、適正な価格で販売すればよかったにもかかわらず、控訴人は、採算を考慮せず、控訴人商品を廉価で販売した。
これらの事情からすれば、控訴人商品の独自の性能には顧客吸引力がなく、控訴 10 人商品の形態のうち、周知な被控訴人商品の形態と酷似する部分こそが、控訴人商品の販売に寄与したといえる。
したがって、控訴人商品と被控訴人商品との間に性能上の相違があるとしても、
これを、損害額を減じる事情として考慮すべきではない。
ウ 控訴人商品における商品名、登録商標、社名等の記載 控訴人商品の外観は、周知性のある被控訴人商品のデッドコピーであり、その外観を目にした者は、直ちに被控訴人商品と結び付け、商品名、登録商標、社名等の記載には注意しない可能性が高い。また、前記のとおり、需要者が控訴人商品を選択する大きな考慮要素は、被控訴人商品に比較して安価であることにあり、仮にこれらの記載を認識したとしても、被控訴人からライセンスを受けた商品と誤認する可能性が高い。
したがって、控訴人商品に、商品名、登録商標、社名等の記載があることを、損害額を減じる事情として考慮すべきではない。
エ 控訴人商品がGPO推奨商品であること 控訴人商品がGPOに推奨商品として採用される等したのは、需要者である医療従事者に周知であった被控訴人商品と酷似した外観をもって、被控訴人商品の信用力にフリーライドすることにより、需要者からの信頼を得たからであり、かつ、被控訴人商品よりも不当に安価な価格設定をしていたためである。
したがって、控訴人商品がGPO推奨商品であることを、損害額を減じる事情として考慮すべきではない。
オ 控訴人商品の後継新型商品の販売実績と損害額 被控訴人商品とは外観の異なる控訴人の新型商品の売上げが、一定程度上がっていることが事実であるとしても、それは、被控訴人商品と酷似した商品を販売したことによって、この分野における控訴人の知名度が上昇したことが寄与したものにすぎない。
したがって、控訴人商品の後継である新型商品の販売実績をもって、損害額を減 11 じる事情として考慮すべきではない。
カ 控訴人の主張に対する反論 (ア) 控訴人は、誤認混同のおそれがなかった旨の主張を繰り返すが、別件判決と矛盾するもので不当である。また、控訴人がその裏付けとして提出する陳述書は、
控訴人の販売実績の一部を示すにすぎず、誤認混同がなかったことの証拠となるものではない。仮に一部の医療機関が、控訴人商品の製造ないし販売主体が控訴人であると認識して購入していたという事情があったとしても、これらの医療機関が、
不競法2項1項1号所定の混同に陥って控訴人商品を購入し、またそのおそれがあった可能性を否定するものでもない。そして、誤認混同のおそれが認められる以上、
かかる事情をもって、損害額を減じる事情として考慮することはできない。
(イ) 控訴人が提出する陳述書は内容の大部分が重複し、作成日が未記入であるなど、信用性に乏しい。また、商品購入の決定権限を有する者が作成したものであるか不明であり、本件との関連性も不確かである。さらに、その内容を踏まえても混同のおそれがあるとの別件判決の認定を覆すものではない。
(ウ) 控訴人は、本件について、打ち消し表示が存在する場合と同様に、誤認混同の具体的危険がないと主張するが、具体的にどのように打ち消し表示を行ったのか明らかではない。少なくとも、控訴人商品又はそのカタログを見ても、被控訴人商品ではない旨の注記はない。
当裁判所の判断
1 争点1(控訴人商品の販売の不正競争行為該当性)について 当裁判所も、控訴人による控訴人商品の販売は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当すると認める。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中の第3の1に記載するとおりであるから、これを引用する。
原判決9頁16行目の冒頭の「1」を削り、同行目の「前提事実(前記第2の2(2))」を「前提事実の(2)」と改め、同頁17行目の末尾に改行して、次のとおり加える。
12 「なお、控訴人は、控訴人による控訴人商品の販売行為のうち、需要者が、特定の販売チャネル(医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて被控訴人商品の形態と極めて酷似する控訴人商品の形態に接した場合)を経由したときに限り、不正競争行為に該当する旨主張する。
そこで検討するに、不競法2条1項1号が他人の周知の商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用することを不正競争と定めた趣旨は、周知な商品等表示の主体である他人の商品又は営業との混同を生じさせる具体的な危険性がある行為を禁止することにより、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得することを防止し、もって周知な商品等表示が有する営業上の信用を保護し、事業者間の公正な競争を確保することにある。そして、
同号の「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」に当たると解されるために、
現実に混同が生じたことを要するものではなく、混同のおそれがあれば足り(最高裁昭和44年(オ)第912号同年11月13日第一小法廷判決・裁判集民事97号273頁参照)、また、同行為は、他人の周知の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と上記他人とを同一の商品又は営業の主体として誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含するものと解される(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁、最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857頁参照)。
本件についてみると、被控訴人商品の形態は、約34年間の長期間にわたり継続的かつ独占的に使用されてきたことにより、需要者である医療従事者にとって、被控訴人商品の出所を表示するものとして認識されるに至り、控訴人商品の販売が開始された平成30年1月頃の時点において、不競法2条1項1号所定の周知の商品等表示に該当するものであったと認められるところ、控訴人は、周知の商品等表示 13 である被控訴人商品の形態と酷似した形態を有し、かつ、被控訴人商品と同一目的において、同一の使用方法により使用される控訴人商品を、被控訴人商品と同一の需要者に対し販売しており、需要者は、控訴人又はその販売代理店から控訴人商品の実物を伴う説明を受けたり、カタログやオンラインショップに掲載された控訴人商品の写真等を見たりすることによって、控訴人商品が被控訴人商品と同一又はほぼ同一の形態であると認識し、被控訴人商品の形態に化体された被控訴人の営業上の信用により購入動機を形成し、控訴人商品を購入していたものと推認される。これらの事情を総合すると、控訴人商品の形態を認識した需要者をして、被控訴人商品と混同させるおそれや、被控訴人商品の主体である被控訴人と、控訴人との間に何らかの緊密な営業上の関係が存すると誤信させるおそれが具体的に存していたというべきである。そして、控訴人商品の販売がいかなる販売経路によるものであったとしても、需要者は、控訴人商品を購入するに当たり、周知の商品等表示である被控訴人商品の形態と酷似した控訴人商品の形態を認識することができるから、混同のおそれが存することは、販売経路によって異なるとはいえない。
また、差止請求がされる場合と損害賠償請求がされる場合において、不正競争行為の成立する範囲を別異に理解すべき理由はない。
そうすると、控訴人の上記主張は採用できない。」 2 争点2(故意又は過失の有無)について 当裁判所も、控訴人は本件不正競争行為につき、少なくとも過失があったものと認める。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中の第3の2に記載するとおりであるから、これを引用する。
原判決9頁18行目を削り、同頁19行目の「前提事実(前記第2の2(2)」 )を「前提事実の(2)」と改める。
3 争点3(本件不正競争行為と因果関係のある損害の発生の有無及び被控訴人の損害額)について (1) 損害の発生について 14 訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の第3の1のとおり、控訴人による控訴人商品の販売は、不競法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。そして、
控訴人商品は、被控訴人商品と同一目的において、同一の方法により使用されるものであって、しかもほぼ同一の形態を有するただ2つの商品であり、競合関係にあることが明らかであるから(甲2、弁論の全趣旨)、控訴人商品が販売されたことにより、被控訴人商品の売上げが減少したものと推認される。
そうすると、本件不正競争行為により、被控訴人に損害が生じたと認められる。
(2) 不競法5条1項による損害額の算定 ア 控訴人商品の販売数量 証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、平成30年1月から令和元年8月29日までの間、控訴人の販売代理店に対し、控訴人商品を、合計1万4377個販売したことが認められる(返品分を除く。。なお、控訴人商品の販売数 )データ(乙11)をみると、令和元年10月に控訴人商品が10個販売された旨の記載があるが、これは、同年8月29日までに販売されたものについて、何らかの事情により、同年10月に計上されたものと推認される。また、同データにおいて、
平成30年1月及び同年2月に計上された販売数量はゼロである。
被控訴人は、控訴人商品の販売数量は2万0073個であり、乙11は信用できないと主張する。しかしながら、被控訴人の主張する控訴人商品の販売数量は、別件訴訟において控訴人が主張していた市場シェアに係る数値(被控訴人商品95%、
控訴人商品3%。甲6)を用い、平成30年1月から令和元年8月29日までの間の被控訴人商品の販売数量(48万個)を元にして、同期間に医療機関等に販売された控訴人商品の数量を1万5158個と推定し、これに、同日より後に控訴人の販売代理店が医療機関等に販売した数量4916個(乙6)を合計したものであるところ、上記市場シェアや平成30年1月から令和元年8月29日までの被控訴人商品の販売数量について、これを裏付ける客観的な証拠がなく、被控訴人の主張する控訴人商品の販売数量の推計が合理的であるということはできない。他方、控訴 15 人商品の販売数データ(乙11)は控訴人の基幹システムから抽出されたものに基づくものであり(乙24)、何らかの加工がされたり、改ざんがされたりしたことをうかがわせる具体的な事情はない。
そうすると、上記のとおり、控訴人商品の販売数量は1万4377個であると認めるのが相当である。
イ 被控訴人の単位数量当たりの利益額 (ア) 証拠(甲10、12〜17)及び弁論の全趣旨によると、@被控訴人が平成30年1月から令和元年8月29日までの間に、販売した被控訴人商品(単体で販売したものに限る。)の数量は1万1422個であり、その売上高は2535万1921円であること、A上記被控訴人商品の製造・販売に要した原料費、変動加工費(燃料費、電力料、消耗用品費)及び営業直接費(容器荷造費、販売運送費等)の合計額が908万5333円であること、B原料費及び変動加工費は、被控訴人商品の製造のために直接要した費用であり、営業直接費は、被控訴人商品の出荷及び運送のために直接要した費用であることが認められる。なお、被控訴人従業員の陳述書(甲13)の別紙 1 の売上高一覧等は、被控訴人の社内システム上のデータをエクセルファイル形式で出力したものに基づいて作成されたものであり(甲13)、その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情は見当たらない。
そうすると、被控訴人商品一個当たりの限界利益額は、1424円(=(2535万1921円-908万5333円)÷1万1422個。1円未満四捨五入)である。
(イ) 控訴人は、これに対し、被控訴人商品の売上高に関する資料はカテーテルとのセット販売についての割り付け計算や販売先ごとの販売実績の合算を経た二次資料でしかないこと、被控訴人商品の限界利益については他にも控除すべき経費が存在するはずであること、被控訴人の主張する被控訴人商品の限界利益額が不当に高額であることを主張する。
しかしながら、甲13別紙1は被控訴人の社内システム上のデータに基づくもの 16 であるところ、「コード」欄記載の商品コードは「90253300」及び「90253600」であり、これは、原判決別紙被控訴人商品目録記載の被控訴人商品の製造番号(「SBバックチューブなしセット(廃液ボトル及び吸引ボトル)」が「MD-53300」 「SBバックチューブなしセット(低圧品) 、 (廃液ボトル及び吸引ボトル)」が「MD-53600」)と対応関係にあるものと推認されるから、
甲13別紙1記載の数値は、カテーテルとのセット販売に係る被控訴人商品を含むものではなく、単体で販売された被控訴人商品のものに限定されると認めるのが相当である。
また、限界利益から控除すべき変動費については、前記(ア)で認定したものの外に、控訴人が指摘する経費が、本件において、被控訴人商品の製造販売に直接的追加的に必要となる費用として支出されたと認めることはできない。
さらに、控訴人は、被控訴人の主張する限界利益額が不当に高額であると主張するが、被控訴人商品の限界利益率は約64.2%(=(2535万1921円-908万5333円)÷2535万1921円)であり、これは、株式会社TKCが公表した令和元年11月決算〜令和2年1月決算における製造業(他に分類されないプラスチック製)の限界利益率64.3%(甲7)とほぼ同等であるから、不当に高いということはできない。
なお、被控訴人商品の限界利益については、本件に提出された証拠から上記のとおり認定がされるのであって、本件記録を精査しても、同様の認定判断を行った原審に証拠の採否に係る違法があったとは認められない。
損害額の推定 以上のとおり、平成30年1月から令和元年8月29日までの控訴人商品の販売数量は1万4377個であり、これに被控訴人商品の単位数量当たりの利益(限界利益)1424円を乗ずると、不競法5条1項により、被控訴人の損害額は2047万2848円(=1万4377個×1424円/個)と推定される。
譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被控訴人が販売することができな 17 いとする事情の有無 (ア) 不競法5条1項ただし書により、不正競争行為による譲渡数量の全部又は一部に相当する数量につき、被侵害者が「販売することができないとする事情」がある場合には、同項による損害額の推定は、その数量に応じた額の限度で覆滅される。
そして、同項所定の「販売することができないとする事情」とは、不正競争行為と被侵害者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいうものと解される。
(イ) 控訴人は、同項所定の「販売することができないとする事情」又はその他の推定覆滅事由として以下の@〜Cの点を指摘する。
@ 控訴人及び控訴人商品の販売代理店は、控訴人商品の使用の安全性確保等の観点から、控訴人商品を初めて購入する病院等に対しては控訴人商品の事前説明を行い、サンプルを提供しており、医療機関側も積極的に製造販売者等からの情報提供を受け付けている。実際に、控訴人は控訴人商品を84施設に販売したが、うち78施設についてはあらかじめ営業担当者が訪問して控訴人商品の説明を実施するなどしており、加えて、販売代理店と医療機関等との間でやり取りされた見積書、
発注書等から明らかなとおり、医療機関等は控訴人商品や控訴人の名称等を特定して控訴人商品を購入している。このような販売態様では、控訴人商品を被控訴人商品と誤認混同させる具体的なおそれは存在せず、医療機関等が誤認して発注したことはなかった。
このことは、被控訴人商品及び控訴人商品は、それぞれ対応するカテーテルとしか接続できないものであるところ、控訴人商品を被控訴人のカテーテルに接続できなかったことによるクレームが一切存在しないことや、被控訴人商品を使用している他の医療機関からの誤発注がなかったことからも明らかである。また、控訴人従業員及び医療従事者の作成した陳述書(乙17、44〜50)にも、医療機関側に誤認混同がなかった旨記載されている。
A 控訴人商品は、その性能上の優位性ゆえに医療従事者に需要されたものである。控訴人商品から形状を大きく変更した控訴人商品の後継の新型商品の販売数量 18 が控訴人商品の販売数量を大きく凌駕していることは、控訴人商品が形状によってではなく機能等によって需要されたことを示す。
B 控訴人商品の吸引ボトル部分に控訴人の商標と商品名が明瞭に記載されていること、控訴人は、売上規模が世界トップ10以内の世界的大企業の日本子会社であり、医療機器業界において著名な存在であることから、控訴人商品は、被控訴人商品との誤認混同によってではなく、控訴人の医療機器メーカーとしての信用力・ブランド力も大きく寄与して需要されたものである。
C 控訴人商品は、控訴人の営業努力によって複数のGPOに推奨商品として採用されたものであるのに対し、被控訴人商品は採用されず、控訴人商品を購入した84施設のうちGPOに加盟する24施設は、GPO推奨商品であるがゆえに控訴人商品を購入したものといえる。
(ウ) 前記(イ)@について 控訴人は、営業担当者が訪問して控訴人商品の説明を実施して販売するという態様においては、需要者である医療従事者に誤認混同が生じておらず、誤認混同の具体的なおそれがないと主張するが、控訴人による控訴人商品の販売行為が、その販売経路にかかわらず不競法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するのは、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の第3の1で判示したとおりである。控訴人は、需要者である医療従事者が、誤認混同して控訴人商品を購入したことはなく、
そのことは、控訴人商品を被控訴人商品用のカテーテルと接続できなかったことによるクレームが存在しないこと等により裏付けられる旨の主張をするが、前記のとおり不競法2条1項1号所定の不正競争行為は、現実に混同が生じたことを要件とするものではないところ、控訴人の主張は、現実に混同が生じた場合のみを不正競争行為と評価することを前提とするものであり、採用できない。
また、需要者である医療機関等の担当者が、現実に控訴人商品と被控訴人商品を誤認混同しなかったという事実が認められたとしても、控訴人商品と被控訴人商品が市場において強い競合関係にあり、控訴人又はその販売代理店が、需要者である 19 医療機関等の担当者に対し、被控訴人商品から控訴人商品への切替えを促すという方法により控訴人商品を販売していたことからすれば(甲2、弁論の全趣旨)、控訴人商品の販売が行われなければ、控訴人商品の販売数量と同じ数量の被控訴人商品が販売されたものと推認するのが相当であり、控訴人による控訴人商品の販売という不正競争行為により、被控訴人には、控訴人商品が販売された数量と同数の被控訴人商品を販売することができなかったことによる逸失利益が生じたと認めるのが相当である。
そうすると、上記誤認混同の不存在は、不正競争行為である控訴人による控訴人商品の販売と被控訴人商品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情には当たらないから、前記「販売することができないとする事情」に当たらない。
(エ) 前記(イ)A〜Cについて 証拠(甲2、乙5、14、15)及び弁論の全趣旨によれば、カテーテルの接続方法(セイフティーロック機構の有無)、逆流防止弁の有無、カテーテルの接続数及び自然排液可能な連結チューブか否かといった点で、被控訴人商品と控訴人商品とが異なる機能を有することが認められる。しかしながら、控訴人商品が被控訴人商品に比して顕著に優れた機能を有し、これが控訴人の売上げに貢献しているといった事情を認めるに足りる証拠はない。控訴人は、被控訴人商品とは形状の異なる控訴人の新型商品の販売数量が、控訴人商品の販売数量を大きく凌駕するという事実は、控訴人商品が機能等によって需要されたことを裏付けるものであると主張するが、新型商品は控訴人商品とは形状が異なるのであるから、新型商品を販売することは被控訴人商品との関係において不正競争行為に当たらないというにすぎず、
このことをもって、控訴人商品が形状ではなく機能等によって需要されたと認めることはできない。
次に、控訴人は、控訴人の医療機器メーカーとしての信用力・ブランド力が控訴人商品の売上げに寄与したと主張するものの、控訴人商品が販売開始された平成30年1月頃の当時、被控訴人商品を含む整形外科に係る商品分野において、被控訴 20 人商品が周知性を有していたのに対し、控訴人は、同分野において必ずしも信用力・ブランド力が高いとはいえない状況にあったことに照らすと、控訴人の信用力・ブランド力が控訴人商品の購買動機の形成に寄与したと認めることはできない。
また、控訴人商品が複数のGPOに推奨商品として採用され、控訴人商品を購入した施設の一部がそのGPOに加盟していたことが認められたとしても、控訴人商品がGPOに推奨商品として採用された経緯は明らかではなく、また、GPO推奨商品として採用されたことが需要者の購買動機の形成に寄与したことを認めるに足りる証拠がない。
そうすると、控訴人の主張する前記(イ)A〜Cの事情は、「販売することができないとする事情」に当たるとはいえない。
(オ) その他本件に表れたその余の事情を踏まえても、「販売することができないとする事情」があると認めることはできない。
そうすると、不競法5条1項により算定される被控訴人の損害額は、前記ウのとおり2047万2848円である。
(3) 不競法5条2項による損害額の算定 前記(2)アのとおり、平成30年1月から令和元年8月29日までの間の控訴人商品の販売数量は1万4377個である。
そして、仮に被控訴人が主張するとおり控訴人商品の単価が1900円、控訴人商品の限界利益率が65%であるとしても、不競法5条2項に基づいて推定される損害額は1775万5595円(=1万4377個×1900円×65%)であるから、不競法5条1項により推定される損害額よりも少ない。
そこで、本件においては、同項により損害額が算定されることとなる。
(4) 弁護士費用 事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件の不正競争行為に係る不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は205万円と認めるのが相当である。
21 (5) 損害額 合計2252万2848円である。
4 結論 以上の次第で、被控訴人の請求は、2252万2848円及びこれに対する令和元年8月29日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、被控訴人の請求を1358万3708円及びこれに対する遅延損害金の限度で一部認容し、その余を棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 勝又来未子