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事件 令和 3年 (ワ) 11898号 保証金返還請求事件
5
原告有限会社古谷商店
同 代表者代表取締役
同 訴訟代理人弁護士岡筋泰之
同 田頭拓也 10
被告株式 会社アーバンリグ
同 代表者代表取締役
同 訴訟代理人弁護士樽谷進
同 樽谷徹 15 主文 1 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和4年1月12日から 支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 20 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 本件は、原告が、被告との間で、被告が廃棄物処理プラント「アーバンリグ」(以 25 下「被告製品」という。)を原告の要請により製造し、原告がこれを買い受けて納 入者に販売すること等を内容とする販売代理店契約(以下「本件代理店契約」とい 1う。)を締結し、その際、本件代理店契約に関する合意に基づき、被告に対し契約 保証金300万円を支払ったところ、被告は、その後、本件代理店契約を解除した にもかかわらず、本件代理店契約終了時に返還が予定されている上記保証金を返還 しないと主張して、被告に対し、上記合意に基づく契約保証金300万円の返還及 5 びこれに対する令和4年1月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法 所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨 により容易に認められる事実) (1) 当事者等 10 ア 原告は、金属くずリサイクルなどを取り扱う有限会社である。 イ 被告は、廃棄物処理プラント「アーバンリグ」(被告製品)の製造等を行う 株式会社である。 ウ 株式会社ワンワールドは、被告の関連会社であるが別法人である(乙19)。 (2) 原告と被告とは、令和元年9月20日付けで秘密保持契約書を作成し、秘密 15 保持契約(以下、この契約書を「本件秘密保持契約書」といい、契約を「本件秘密 保持契約」という。)を締結した。本件秘密保持契約書には以下の定めがある(乙 6)。 ア 2条(秘密情報)1項 「本契約において、「秘密情報」とは、本契約の有効期間中に、本検討に関して 20 相手方から提供または開示された技術上または営業上の情報および資料(この情報 および資料にはサンプル、製造図面、分析検証データ、報告書等およびノウハウを 含む。以下、同じ。)のうち、次の各号に定めるものをいう。 (1) 電子的記録媒体、書面その他有体物…または電子メール…にて開示または提 供され、当該有体物および当該電子メールに秘密である旨が明示されているもの。 25 (2) 口頭で開示された情報の中で、秘密情報である旨が開示者により開示時に明 示され、かつ、開示日より30日以内に、その開示内容を書面化し、秘密情報であ 2る旨を表示したうえで、開示者より受領者に送付または届けられたもの。」 イ 3条(秘密保持) (ア) 1項 「甲(被告)および乙(原告)は、相手方の事前の書面による承諾を得ることな 5 く、秘密情報をいかなる第三者に対しても開示または漏洩しないものとする。」 (イ) 2項 「甲および乙は、本条に定める秘密保持義務を遵守するため、善良なる管理者の 注意をもって秘密情報を管理するものとし、当該秘密情報の全部または一部を含む 資料、記録媒体およびそれらの複写物等につき、秘密情報が不当に開示または漏洩 10 されないよう他の資料等と明確に区別を行い管理するものとする。」 ウ 4条(目的外使用の禁止) 「甲および乙は、相手方の事前の書面による承諾を得ることなく、秘密情報を本 検討以外のために一切使用してはならないものとする。」 (3) 本件代理店契約等 15 ア 原告と被告は、令和元年9月30日、被告がその販売に関わる被告製品を原 告の要請により製造し、原告はこれを買い受けて納入者に販売するものとすること 等を定めた本件代理店契約を締結した。 イ 本件代理店契約の契約書(以下「本件代理店契約書」という。)4条(契約 料の金額と内訳)1項は、本件代理店契約の代金総額を1000万円(税別)、う 20 ち、500万円を契約手数料、300万円を契約保証金、200万円を本製品(被 告製品)商標使用料及び実務諸費用とする旨定めている。
原告は、被告に対し、上記条項に基づき、令和元年10月7日、契約保証金30 0万円を含む1080万円(税込み)を支払った。 ウ 本件代理店契約書4条2項は、同条1項の契約手数料と被告製品商標使用料 25 及び実務諸費用は一切返済されない旨定め、同条3項は、同条1項の契約保証金に つき、本件代理店契約の更新時に、原告の販売実績により成果負担金として被告に 3徴収される場合がある旨定めている(甲3)。
被告は、原告に対し、契約保証金を成果負担金として徴収する旨の通知はしてい ない。 エ 本件代理店契約書24条(秘密保持)には以下の定めがある(甲3)。 5 「1甲(被告)または乙(原告)は、お互いに本契約における取引等で得た事 項を第三者に漏洩してはならない。 2 甲は乙に提供する「本製品」製造の技術ノウハウと知識を日本において、乙 に提供することと使用させることを保証する。乙は自身で甲の提供する「契約製品」 製造の技術ノウハウと知識を使用する。乙は該当技術ノウハウ或いは知識或いは設 10 備を第三者に提供してはならない。」 (4) 本件代理店契約の終了 ア 被告は、原告に対し、令和3年5月25日、本件代理店契約を解除する旨の 通知をした。 イ 本件代理店契約は、遅くとも令和3年9月30日までに終了した。 15 (5) 被告は、原告に対し、契約保証金300万円を返還していない(ただし、被 告は、原告に対する本件代理店契約書4条に基づく契約保証金の返還債務の発生に ついては争っていない。)。 (6) 被告は、令和5年2月20日第1回弁論準備手続期日において、原告に対し、 次のア及びイの請求権を自働債権として、原告の被告に対する契約保証金返還債権 20 と対当額で相殺する旨の意思表示をした(顕著な事実)。 ア 本件代理店契約及び本件秘密保持契約(以下、これらを総称して「本件各契 約」という。)に係る原告の秘密保持義務違反、善管注意義務違反及び秘密情報の 目的外使用禁止義務違反の債務不履行(民法415条)に基づく損害賠償請求権 イ 原告が不正の利益を得る目的又は被告に損害を加える目的で被告の営業秘密 25 を使用した不正競争行為(不正競争防止法2条1項7号)による同法4条に基づく 損害賠償請求権 42 争点 (1) 本件各契約に基づく原告の秘密保持義務違反等の有無(争点1) (2) 原告による被告の営業秘密の使用の有無(争点2) (3) 原告の債務不履行又は不正競争行為による被告の損害(争点3) 5 第3争点に関する当事者の主張 1 本件各契約に基づく原告の秘密保持義務違反等の有無(争点1) (被告の主張)
原告は、被告に対し、本件代理店契約に基づき、被告の代理店業務で得た情報を 第三者に漏洩してはならず、販売代理店としての業務以外に被告の製品の技術、ノ 10 ウハウ、知識等を用いてはならないとの秘密保持義務(本件代理店契約書24条) を負う。また、原告は、被告に対し、本件秘密保持契約に基づき、秘密保持義務、 善管注意義務(本件秘密保持契約書3条)、及び、秘密情報を目的外使用してはな らないとの義務(同4条)を負う。
被告が原告に提供した情報、資料のうち、少なくとも、@被告製品の図面(乙1 15 2の図面。ただし、図面のうち数枚は乙12のものと異なる可能性がある。)、A
被告製品の操作マニュアル(乙13)、及び、B製品の検査結果(乙14と同様の もの)(以下、順に「本件情報@」、「本件情報A」及び「本件情報B」といい、 これらを総称して「本件各情報」という。)は、原告が本件各契約に基づき秘密を 保持すべき秘密情報に当たる。被告は、本件秘密保持契約書2条1項に従った秘密 20 情報の特定をしていないが、本件各情報が被告の秘密情報であることは、被告と原 告との間で当然の前提とされていた。 ところが、原告は、被告製品の図面等の被告の秘密情報を用いて模倣し、被告製 品と同種の油化炭化装置である「パイロリナジー」(以下「原告製品」という。) を製造して、令和4年3月1日から販売している(乙17、18)。 25 したがって、原告には、本件各契約に基づく秘密保持義務、善管注意義務ないし 秘密情報の目的外使用禁止義務に違反した債務不履行がある。 5(原告の主張) 本件各情報については、本件秘密保持契約書2条1項に従った秘密情報の特定が されていないし、原告と被告との間で、本件各情報が秘密情報であることが当然の 前提とされていた事実もない。したがって、本件各情報は、原告が秘密保持義務、 5 善管注意義務及び目的外使用禁止義務を負うべき秘密情報に当たらない。また、本 件各情報は、本件秘密保持契約書2条2項各号所定の公知情報にも該当する。 なお、原告は、本件訴訟前に、本件各情報の図面(乙12)及び操作マニュアル (乙13)の提示を受けたことはない。また、乙第18号証の図面は、乙第12号 証の図面とは酷似していないし、原告が第三者から入手したものであって、秘密情 10 報であることは明示されていないから、原告がこれを取得したことは上記各義務違 反(債務不履行)にはなり得ない。 したがって、原告は、本件各情報に関し、本件各契約上の秘密保持義務等に違反 していない。 2 原告による被告の営業秘密の使用の有無(争点2) 15 (被告の主張) (1) 本件各情報は、以下のとおり、被告の営業秘密に該当する。 ア 秘密管理性
被告は、平成30年頃に情報セキュリティ管理規定(乙15。以下「本件規定」 という。)を定めたところ、本件各情報は本件規定にいう「機密情報」に当たる。 20 被告は、本件規定に従い、本件各情報を管理している。 本件情報@の図面(紙媒体)は、鍵付きのキャビネット内に保管され、鍵は被告 代表者と被告の管理部門責任者が所持している上、同キャビネットは被告事務所内 の防犯カメラで常時撮影している。印刷した図面は被告代表者のみが所持し、被告 代表者の許可なく複製や持出しをすることは禁止されており、被告の販売代理店に 25 も提供していない。また、図面の電子データにはパスワードを設定して、アクセス 権者を被告代表者と技術部スタッフ2名に限定している。 6本件情報A及び本件情報Bは、被告代表者の許可なく複製や持出しをすることが 禁止されているが、被告製品の納入先や被告の販売代理店には提供されており、被 告の営業スタッフもこれらの情報にアクセスすることができる。 イ 有用性 5 本件情報@は、これによって被告の高価な製品を制作することができるものであ り、有用性がある。本件情報A及び本件情報Bは、被告製品の仕様や性能を示す情 報であり、有用である。 ウ 非公知性 本件情報@は厳格に管理され、被告と代理店契約を締結した者など限られた者だ 10 けに開示されるものである。本件情報A及び本件情報Bは、被告と守秘義務契約を 締結した者だけに開示するなど、公然と知られていない情報である。 (2) 原告は、被告の代理店としての業務の中で被告の営業秘密である本件各情報 を取得し、これを用いて模倣品である原告製品を製造し、被告製品に難癖をつけて
原告製品を販売している。したがって、原告は、不正の利益を得る目的で、又は、 15 被告に損害を加える目的で、被告の営業秘密を使用し、不正競争行為(不正競争防 止法2条1項7号)を行った。 (原告の主張) (1) 本件各情報は、以下のとおり、被告の営業秘密に該当しない。 ア 秘密管理性 20 本件各情報は、本件秘密保持契約書2条1項に従った特定がされておらず、情報 にアクセスした者が、当該情報が営業秘密であると認識し得るようにしていなかっ た。原告は、本件情報@の図面を、被告から直接提示されておらず、第三者に開示 しないよう伝えられたこともない。本件情報Aについて、原告は本件訴訟前に被告 から提示を受けておらず、被告の役員であったP1から口頭でレクチャーなどはあっ 25 たが、秘密である旨の特定はなかった。本件情報Bに関し、原告は、被告から油の 分析結果のデータの提示を受けたことはあるが、秘密情報であることを示す表示は 7なかった。 また、本件各情報にアクセスできる者が制限されていたことを示す証拠もない。 特に、本件情報A及び本件情報Bについては、被告は、秘密保持契約を締結してい ない者にも開示していた。 5 なお、被告が平成30年頃に作成したとする本件規定は、施行日や作成日の記載 がなく、その頃に作成されたとの主張は不自然である。 したがって、本件各情報の秘密管理性は存在しない。 イ 有用性
被告製品は、故障、事故により現在は機能しておらず、経済的利益を生み出さな 10 いし、被告製品の機能である「過熱水蒸気を用いることでプラスチック混合ゴミ等 を炭化油化する」との発想及びそれを実現する技術は長年研究されてきたものであ り、被告独自のものではない。したがって、本件各情報の有用性は存在しない。 ウ 非公知性 本件情報@の図面については、装置の構造が非常に簡単であり、公知情報である 15 装置の外観・材質と、一般的な焼成炉などのノウハウを組み合わせることにより容 易に再現できるもので、特殊性はない。被告製品の機能である「過熱水蒸気を使用 した熱分解」は長年研究され、技術が公開もされている。したがって、本件各情報 の非公知性は存在しない。 (2) 原告が、被告の営業秘密である本件各情報を用いて模倣品である原告製品を 20 製造し、被告製品に難癖をつけて原告製品を販売しているとの事実は否認する。原 告に不正競争行為はない。 3 原告の債務不履行又は不正競争行為による被告の損害(争点3) (被告の主張)
被告には、被告製品の4.8トン装置(URB−50)1台の売却機会喪失によ 25 り1億7500万円の損害が生じる。したがって、原告の債務不履行又は不正競争 行為による被告の損害は300万円を超えるものである。 8(原告の主張) 争う。相当因果関係のある損害は発生していない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各契約に基づく原告の秘密保持義務違反等の有無(争点1)について 5 (1)被告は、原告が、本件代理店契約に基づく秘密保持義務(本件代理店契約書 24条)、並びに、本件秘密保持契約に基づく秘密保持義務、善管注意義務(本件 秘密保持契約書3条)、及び、秘密情報の目的外使用禁止義務(同4条)に違反し て、被告の秘密情報である本件各情報を使用して原告製品を製造販売している旨主 張する。 10 (2) 本件秘密保持契約に基づく義務違反について 本件秘密保持契約における「秘密情報」というためには、本件秘密保持契約書2 条1項に定めるとおり、契約有効期間中に相手方から提供又は開示された情報及び 資料であって、開示又は提供された有体物及び電子メールに秘密である旨が明示さ れているもの、もしくは、口頭で開示された情報の中で、秘密情報である旨が開示 15 者により開示時に明示され、かつ、開示日より30日以内に、その開示内容を書面 化し、秘密情報である旨を表示したうえで、開示者より受領者に送付又は届けられ たものであることを要すると解される。 しかし、被告が本件秘密保持契約に基づき秘密が保持されるべき秘密情報である 旨主張する本件各情報について、同項に従った特定が行われていないことは当事者 20 間に争いがないから、本件各情報は、本件秘密保持契約における「秘密情報」には 当たらず、原告が本件秘密保持契約に基づく秘密保持義務、善管注意義務(本件秘 密保持契約書3条)、及び、秘密情報の目的外使用禁止義務(同4条)を負うこと はないというべきである。 したがって、原告に本件秘密保持契約に基づく義務違反がある旨の被告の主張は 25 採用できない。 (3) 本件代理店契約に基づく義務違反について 9
被告は、本件各情報が本件代理店契約書24条の秘密保持義務の対象となる旨主 張する。しかし、原告と被告とは、本件代理店契約を締結するに伴い、それに先立っ て本件秘密保持契約を締結したものであるから(乙19、証人P1、同P2)、本 件代理店契約書24条にいう「秘密」は、本件秘密保持契約における「秘密情報」 5 と同様に解するのが契約当事者の合理的意思に合致するというべきである。 前記(2)のとおり、本件各情報は本件秘密保持契約における「秘密情報」に当たる とは認められないから、本件代理店契約書24条の秘密保持義務の対象となる「秘 密」に当たるともいえない。 したがって、原告に同条に基づく秘密保持義務違反があるとの被告の主張は採用 10 できない。 (4) 被告は、本件各情報が被告の秘密情報であることは、被告と原告との間で当 然の前提とされていた旨主張し、被告がこれを裏付けるものとする証拠(乙11、 19、証人P1)がある。 しかし、日本製鉄株式会社担当者と原告担当者P2との間の電子メール(乙11) 15 は、日本製鉄株式会社担当者が被告製品の購入検討のために、サンプルテストで専 用の治具を製造し、フランジから排ガス採集を行うことを希望したのに対し、P2 が、装置へのカスタムを行うことなく物資を装置へ投入し、稼働させて処理の可否 や物資収支を確認するテストは守秘契約が必要でないが、それ以外については守秘 契約の締結が必要というのが被告側の見解である旨を説明した内容にすぎず、本件 20 各情報が被告の秘密情報である旨を原告担当者が認識していたことを明らかにする ものではない。また、P1の証言及び陳述書(乙19)によっても、本件各情報が 秘密情報である旨を被告が原告に説明したことをうかがわせる具体的事情は明らか でなく、その他被告の前記主張を裏付ける証拠はない。そうすると、原告と被告と が、本件各情報が被告の秘密情報であることを当然の前提としていた旨の被告の前 25 記主張は採用できない。 2 原告による被告の営業秘密の使用の有無(争点2)について 10 (1) 被告は、原告が、代理店としての業務の中で被告の営業秘密である本件各情 報を取得し、不正の利益を得る目的で、又は、被告に損害を加える目的で、これを 使用している旨主張する。 そこで、まず、本件各情報が営業秘密に当たるかを検討する。 5 (2)本件各情報が被告の営業秘密であるというためには、本件各情報が、秘密と して管理され(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって (有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)が必要である(不正競争防止 法2条6項)。そして、秘密管理性が認められるためには、秘密としての合理的な 管理方法が採られており、管理の意思が客観的に認識可能であることを要すると解 10 される。 そこでまず、秘密管理性について検討すると、本件各情報が記載された文書には、 いずれも被告の秘密情報であることを明らかにする表示はなく、むしろ株式会社ワ ンワールドの資料であるかのような表示がある(乙12〜14)。また、前記1の とおり、本件秘密保持契約の定めに従った秘密情報としての特定が行われた事実や、 15 原告と被告との間で本件各情報が秘密情報であることが前提とされていた事実は認 められない。加えて、本件情報@は、原告が被告から直接取得したものではなく第 三者から入手したものであるが(争いがない。)、P1の証言からしても図面のど の部分が秘密情報かがあいまいであり、また、本件情報A及び本件情報Bは、被告 の主張によっても、被告製品の納入先や販売代理店には提供され、被告の営業スタッ 20 フもアクセスすることができたというのであって、本件各情報は、それ自体、秘密 情報としての認識可能性が低いと考えられる。その一方、原告が被告の秘密情報で ある旨を認識可能であったことを根拠付ける具体的事情は見当たらない。そうする と、本件各情報につき、被告による管理の意思が客観的に認識可能であったとは認 められない。 25 また、管理方法につき、被告は、平成30年頃に本件規定を定め、本件各情報を 本件規定の「機密情報」として管理していた旨主張し、これを裏付けるものとする 11 証拠(乙15、16、19、証人P1)がある。しかし、本件規定には、作成日や 施行日の記載がなく、同年当時の代表取締役はP3であったと考えられる(甲2、 証人P1)にもかかわらず、「代表取締役社長」として令和3年2月に就任したP 4氏が記載されているなど、作成時期に関し不自然な点がある。仮に本件規定が平 5 成30年頃に作成されたとしても、本件各情報が本件規定に沿って管理されていた 旨のP1の証言は、その内容が抽象的である上、客観的な裏付けを欠くから、本件 各情報の具体的管理状況は明らかとはいえず、本件規定に従って「機密情報」とし て管理されていたことを認定することはできないし、他に被告の前記主張を裏付け る証拠はない。したがって、本件各情報が秘密として合理的な管理方法が採られて 10 いたともいえない。 (3) 以上のとおり、本件各情報は、秘密として管理されていたとはいえず、被告 の営業秘密とは認められないから、原告が被告の営業秘密を使用して不正競争行為 を行った旨の被告の主張は理由がない。 3 被告の令和4年6月17日付け文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」 15 という。)について
被告は、証明すべき事実を、「原告が、被告製品の技術、ノウハウ、営業秘密を 用いて原告製品を製造販売していること」及び「原告が、令和4年2月頃から本件 申立てまでの間に、原告製品複数台を販売し、少なくとも1億円を超える売上げを 得ていること」とし、文書の表示を、@原告製品の設計図面、組立図、部品図、フ 20 ロー図、回路図、A令和4年2月から本件申立てまでの間における、原告製品の製 造販売数、販売価格、販売先を記載した帳簿類及び伝票類並びにこれらの文書に関 連する書類の一切として、文書の提出命令を求める本件申立てをした。 しかし、前記1及び2のとおり、本件各情報が被告の秘密情報ないし営業秘密に 当たるとは認められず、前記証明すべき事実を明らかにする必要性がないから、本 25 件申立てを却下する。 4 小括 12 以上によれば、原告は、被告に対し、本件代理店契約の終了に伴う、同契約に関 する合意に基づく契約保証金300万円の返還債権を有するところ(前記前提事実 (3)ないし(5))、被告の原告に対する、@本件各契約に基づく原告の秘密保持義務 違反等の債務不履行による損害賠償請求権、又は、A原告の不正競争行為による不 5 正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権はいずれも認められないから、これらを 自働債権とする被告の相殺の抗弁は認められない。 したがって、原告が、被告に対し、本件代理店契約に関する合意に基づく契約保 証金300万円の返還及びこれに対する令和4年1月12日(訴状送達の日の翌日) から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は 10 理由がある。 第5 結論 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 15 裁判長裁判官 武宮英子 20 裁判官 阿波野右起 25 13 裁判官 島田美喜子 14
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2023/08/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容