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事件 令和 5年 (ネ) 10014号 不正競争行為差止等請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/09/13
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和5年9月13日判決言渡

令和5年(ネ)第10014号 不正競争行為差止等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第4104号)

口頭弁論終結日 令和5年7月12日

5 判 決




控 訴 人 シーメンス アクチエンゲゼ

ルシヤフト

10


同訴訟代理人弁護士 鈴 木 秀 彦

丸 山 悠



被 控 訴 人 C K D 株 式 会 社

15


同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己

城 山 英 紀

同訴訟代理人弁理士 富 澤 孝

同補佐人弁理士 安 田 宗 丘

20 主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 控訴人のために、この判決に対する上告及び上告受

理申立てのための付加期間を30日と定める。

25 事実及び理由

第1 控訴の趣旨


1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載の各製品を製造し、譲渡し、引き

渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回

線を通じて提供してはならない。

5 3 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

4 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録記載の各製品の製造に用いられる金型

その他の製造機具を廃棄せよ。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

10 本件は、原判決別紙原告製品目録記載の各製品(以下「原告製品」という。)を

販売する控訴人が、原判決別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告製品」とい

う。)を販売する被控訴人に対し、原告製品の形態は控訴人の商品等表示として需

要者の間に広く認識されているものに該当し、被控訴人が被告製品を製造又は販売

する行為は、上記商品等表示類似商品等表示を使用するものであるから不正競

15 争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当する旨主

張して、被控訴人に対し、不競法3条1項及び2項に基づき、被告製品の製造等の

差止め並びに被告製品及びその製造等に用いられる金型その他の製造機具の廃棄を

求める事案である。

原判決は、原告製品の形態は不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当せず、

20 また、仮に原告製品の形態が商品等表示に該当するとしても、需要者において原告

製品と被告製品の誤認混同が生じないことは明らかであるから、被控訴人の行為は

同号の不正競争行為に該当するものと認めることはできないとして、控訴人の請求

を棄却した。控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。

2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張

25 次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1及び2並びに

第3に記載のとおりであるから、これらを引用する。


(1) 原判決4頁12行目末尾に「原判決は、この点について、商品の形態が取引

の際に出所表示機能を有するものではないと認められる場合には、特定の出所を表

示するものとして特別顕著性又は周知性があるとはいえないと説示しており、従来

の裁判例で用いられている確立した規範とは論理が逆転している。」を加える。

5 (2) 原判決5頁9行目及び9頁11行目の各「市場シェア」をいずれも「中圧B

ガス供給用のガスバルブ市場におけるシェア」と改める。

(3) 原判決5頁16行目から17行目にかけての「きたのであるから」を「きた

ため、中圧Bのガス遮断弁の需要者に原告製品を知らない者はおらず、控訴人の商

標等が付されていなくとも、製品の形態からそれが控訴人の製品であることを覚知

10 するのであるから(甲10)」と改める。

(4) 原判決6頁12行目の末尾に「本来、商品の識別標識機能を有しない商品の

形態が例外的に保護されるのは、需要者が、当該商品の形態に基づいて商品を選択

するという実態を前提とするものであり、高い機能及び信頼性を求めて製品の形態

を重視しない専門業者を需要者とする本件はそのような前提を欠くから、商品の形

15 態を「商品等表示」として保護すべき場合に当たらない。」を加える。

(5) 原判決6頁18行目の「別紙対比表の」を「別紙対比表に」と改める。

(6) 原判決6頁26行目の「原告製品を」を「原告製品と」と改める。

(7) 原判決9頁2行目の末尾に「また、不競法2条1項1号商品等表示の使用、

譲渡、譲渡のための展示等、不正競争行為に該当する行為を類型化していることか

20 らすると、法は、譲渡時のみならず、広く需要者が商品に接する時点で混同が生じ

得る場合にも保護を及ぼす趣旨と解されるから、仮に、商品の譲渡時には出所の混

同が生じないとしても、これをもって直ちに混同のおそれが否定されるものではな

く、需要者が商品に接する時点で混同が生じ得るのであれば、混同のおそれがある

というべきである。」を加える。

25 (8) 原判決9頁25行目の「照らせは」を「照らせば」と改める。

(9) 原判決9頁25行目の末尾に改行して、以下を加える。


「控訴人はドイツの代表的な企業の一つとして、被控訴人は我が国のプライム市

場に上場しているバルブ業界では有数の企業であって、いずれも本件製品の事業分

野における有力な製造会社であり、それぞれ独立した事業体であること、また、両

社がこの事業分野において完全な競争関係にあり、その結果、グループ関係などな

5 く、資本関係も提携関係もないことは、業界では周知の事柄である。そもそも、被

告製品は、需要者からの開発依頼に応じ、原告製品の互換品・代替品として製造販

売されるようになったものであって、被告製品と原告製品との間で広義の混同が生

じるおそれもない。」

第3 当裁判所の判断

10 1 認定事実

前記前提事実、証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実は、次のとおり訂正

するほかは、原判決10頁4行目から12頁23行目までに記載のとおりであるか

ら、これを引用する。

(1) 原判決10頁16行目の「アクチュエータ」の次に「(供給ガスの遮断、圧

15 力制御及び空燃比制御に使用する弁の制御装置)」を加える。

(2) 原判決10頁23行目の「とその制御装置」を削除する。

(3) 原判決11頁4行目の「旧製品」を「被告旧製品」と改める。

(4) 原判決11頁5行目の「原告製品の市場シェアは推定で100%近く」 「原


告製品は、中圧Bガス供給用のガスバルブ市場において圧倒的なシェア」と改める。

20 (5) 原判決12頁20行目の「中圧b」を「中圧B」と改める。

2 争点3(混同のおそれの有無)について

事案に鑑み、まず、被告製品の販売等が原告製品と混同を生じさせる行為に該当

するかについて検討する。

(1) 前記認定事実(訂正して引用する原判決第4の1)によると、原告製品及び

25 被告製品は、いずれも、都市ガスのうち比較的高圧であり、主として事業の用途に

使用される中圧Bガスを用いるボイラー又はバーナーの自動遮断弁(中圧Bのガス


遮断弁)である。その需要者は、当該ボイラー又はバーナーの販売等を業とする専

門事業者であって、日本国内には約30社が存在する。したがって、原告製品と被

告製品の需要者は共通しているといえる。

もっとも、中圧Bのガス遮断弁に不具合が生じた場合には、これを用いたボイラ

5 ー又はバーナーを設置する工場や商業施設の稼働等に多大な支障が生じるおそれが

あることから、中圧Bのガス遮断弁の需要者は、製品自体の安全性及び信頼性を重

視し、製品内部の動作や構造についても詳細な情報を要求して、二、三年をかけて

テストを繰り返しながら導入の採否を検討するというのであり、このような製品の

性質からすると、需要者は、製品の製造元及び販売元が誰であり、その者自体の信

10 用や、購入後のサポート体制等も熟慮した上で購入を決定するものと考えられる。

実際に、被告製品を購入するには、専用システム又は文書により、製造者名、型式、

型番、品番及び価格を特定して発注し、発注後も、検品、配管への接続、電気的接

続作業、調整、試運転等を要するものとされているところである。他方で、原告製

品が紹介されているホームページや被告製品が紹介されているカタログにおいても、

15 特段、製品の形態につき言及され又は強調されているということはない。

このような中圧Bのガス遮断弁の製品の性質、これを踏まえた需要者及び販売者

の製品導入に至る過程、これらの諸要素と製品の形態自体の関係等に照らすと、需

要者は、取引に際して、当該製品の安全性及び信頼性のほか、その出所(製造元及

び販売元)についても慎重に確認した上で製品を購入するといえ、仮に、需要者が、

20 製品の形態から特定の出所を想起し得るとしても、相応の期間と調整を要する取引

の過程において、容易にその取引先すなわち出所(製造元及び販売元)を識別する

に至るといえるから、製品の形態から想起し得る出所自体が需要者の購買行動に与

える影響は極めて限定的というべきである。このような取引の実情の下においては、

被告製品が、その形態によって、需要者をして、被告製品は控訴人が製造した製品

25 であると誤信するおそれがあるとか、被告製品を製造又は販売する者と控訴人との

間に許諾その他の緊密な関係があると誤信するおそれがあると認めることはできな


い。

(2) 控訴人は、@原告製品は20年以上の長きにもわたって「シーメンスのガス

バルブ」という唯一無二の存在として需要者に認知され、市場におけるシェアが推

定で100パーセント近くを維持してきたことなどからすれば、業界の事情に精通

5 した需要者は、被告製品を見て原告製品の無断コピー品であるとの印象を持つし、

事情にそれほど精通していない需要者は、被告製品を見て、控訴人と被控訴人とが

何らかの緊密な関係にあるとか、被控訴人が控訴人から許諾を受けている等の印象

を受けるおそれがある、A不競法2条1項1号が種々の行為類型を定めているのは、

譲渡時のみならず、広く需要者が商品に触れることで混同が生じ得る時点にも保護

10 を及ぼす趣旨と解されるから、仮に、商品の譲渡時には出所の混同が生じないとし

ても、これをもって直ちに混同のおそれが否定されるものではなく、需要者が製品

に触れることで混同が生じ得るのであれば、混同のおそれがあるというべき旨主張

する。

しかし、上記@については、原告製品が需要者の間でよく知られた製品であった

15 としても、前記(1)のとおり、中圧Bのガス遮断弁の需要者にとって、製品の形態か

ら想起し得る出所自体がその購買行動に与える影響は極めて限定的というべきであ

るから、被告製品の形態が、需要者をして、被告製品を製造又は販売する者と控訴

人との間に許諾その他の緊密な関係があると誤信するおそれがあるとは認められな

い。上記Aについては、被控訴人のいかなる行為をもって「広く需要者が商品に触

20 れることで混同が生じ得る時点」が生じるとする趣旨か判然としないが、その点を

措くとしても、前記(1)のとおり、需要者は、取引に際して、当該製品の安全性及び

信頼性のほか、その出所(製造元及び販売元)についても慎重に確認した上で製品

を購入するといえ、仮に、需要者が、製品の形態から特定の出所を想起し得るとし

ても、相応の期間と調整を要する取引の過程において、容易にその出所を識別する

25 に至るといえるから、そのことのみをもって混同のおそれがあると認めることはで

きない。控訴人の主張はいずれも採用することができない。


(3) 以上のとおり、被告製品の販売等により、需要者が被告製品を原告製品と誤

混同するおそれがあるものとは認められないから、その余の争点について判断す

るまでもなく、被控訴人が被告製品を販売等することは、不競法2条1項1号の不

正競争行為に該当するとはいえない。したがって、控訴人の請求は、その余の争点

5 につき検討するまでもなく理由がない。

3 結論

よって、控訴人の請求にはいずれも理由がなく、これらを棄却した原判決は相当

であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判

決する。

10 知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官

15 本 多 知 成




20 裁判官

遠 山 敦 士




25 裁判官

天 野 研 司