関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 顧客吸引力(グッドウィル) / 周知性 / 広く認識 / 商標登録 / 需要者 / 地域的範囲 / 特段の事情 / 普通名称 / 他人の営業 / 類似性(類似) / 外観 / 観念 / 印象 / 記憶 / 連想 / 混同のおそれ(混同) / 表示の使用 / 適用除外 / 普通に用いられる方法 / 識別表示 / 差止請求(差止) / デザイン / 代理人 / 識別力 / 混同のおそれ(混同) / 損害賠償 / 推定 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
15年
(ワ)
19002号
商号使用差止等請求事件
|
---|---|
原告 株式会社セイジョー 同訴訟代理人弁護士 齊藤誠 同 藤本純 被告 有限会社石崎メディカル 同訴訟代理人弁護士 影山 光太郎 同 石橋武征 |
|
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/05 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
1 被告は,その営業について,「成城調剤薬局」なる表示を使用してはならない。 2 被告は,東京都世田谷区(以下省略)所在の店舗に掲げた看板中の「成城調剤薬局」なる表示を抹消せよ。 3 被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成15年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
|
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 当事者 原告は,薬局,薬店の経営,医薬品等の製造販売,スーパーマーケットの経営等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨) 被告は,薬局の経営等を目的とする有限会社である。(争いがない) (2) 原告の営業行為 原告は,昭和26年,肩書地(当時は,東京都世田谷区(以下略))に「成城薬局」という名称で薬局を開設し,昭和44年に商号を現商号に変更し,「セイジョー」という営業表示(以下「原告表示」という。)を使用して,関東,東海一円に180店舗(平成16年1月31日現在)のドラッグチェーンを展開している。(甲11,13) 原告は,以下のとおり,被告が「成城調剤薬局」を開設している東京都世田谷区成城に3つ,周辺の東京都調布市に1つの店舗を開設している。(甲6,乙1) 名称 住所 ア 「セイジョー薬局」 東京都世田谷区(以下略) イ 「くすりセイジョー成城二番店」 同(以下略) ウ 「ビューティーストアセイジョー」 同(以下略) エ 「セイジョー調剤薬局1号店」 東京都調布市(以下略) (3) 被告の行為 被告は,平成15年4月ころ,東京都世田谷区(以下略)に「成城調剤薬局」という営業表示(以下「被告表示」という。)を使用した調剤薬局(以下「被告薬局」という。)を開設した。(争いがない) 被告薬局は,前記(2)アないしウの店舗からそれぞれ約70m,約200m,約110mの距離に位置する。(乙1) 2 事案の概要 本件は,原告表示「セイジョー」を使用してドラッグチェーンを展開する原告が,被告表示「成城調剤薬局」を使用して調剤薬局を経営している被告に対し,原告表示が周知であるところ,被告表示が原告表示に類似し原告の営業と混同を生じさせていると主張して,不正競争防止法2条1項1号,3条に基づき,被告表示の使用の差止め及び被告表示の抹消を請求するとともに,民法709条に基づき,使用料相当額である1000万円の損害賠償を請求する事案である。 3 本件の争点 (1) 原告表示の周知性の有無 (2) 被告表示と原告表示との類似性 (3) 被告の営業と原告の営業との混同のおそれの有無 (4) 不正競争防止法12条1項1号の適否 (5) 損害の有無及び額 |
|
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告表示の周知性の有無)について 〔原告の主張〕 原告表示は,被告が被告表示を用いて営業を開始した平成15年4月ころ以前において,薬局を利用する一般需要者において十分に広く認識され,ドラッグチェーンのブランドとして十分に周知性があった。 (1) 周知性を基礎づける事実 ア 原告は,昭和44年以来長年にわたり,原告表示を使用して薬局の営業を行い,平成16年1月31日現在,関東エリアにおいて「くすりセイジョー」の名称のドラッグチェーンとして180店舗を展開している。その結果,被告薬局が開設された平成15年4月当時,原告の店舗を利用する顧客だけでも年間延べ3356万9000人(平成14年10月から平成15年9月までの年間延べ来店客数)に達している。 イ 原告は,新聞折り込み広告という宣伝媒体を使用してこれまで40年間にわたり一般に宣伝してきている。原告は,被告薬局開設当時,1回に162万部の新聞折り込み広告を月数回行っていた。 ウ 原告は,被告薬局開設当時,月1回,郵送によるダイレクトメール送付しているが,平成15年3月は,7万9771通を送付した。 (2) 周知性の場所的範囲 原告表示は,原告が店舗展開している関東一円において,上記(1)の事実により周知となっている。 そして,被告が被告薬局を開設した場所の周辺においては,さらに,「セイジョー薬局」,「くすりセイジョー成城二番店」及び「ビューティーストアセイジョー」の3店舗を展開している。このうち「セイジョー薬局」は,昭和26年11月29日に「成城薬局」という名称で開設され,その後昭和44年5月から「くすりセイジョー成城店」,平成11年3月から現在に至るまで「セイジョー薬局」という名称で調剤業務を行っている。これらの点からも,被告が被告薬局を開設した場所は,原告の営業範囲であることは明らかであり,この地域における一般の需要者において原告表示に周知性が認められる。 (3) 周知性の認識対象 一般需要者にとって「くすり」とか「薬局」という名称は,その業態において当然に調剤を含むものであることは常識である。原告の需要者を市販医薬品等を安価に求めようとする消費者層であると決めつけるのは明らかに恣意的である。 原告の需要者層と被告の需要者層が重複しないということはない。 〔被告の主張〕 原告表示には,周知性が認められない。 (1) 原告表示の識別力 原告は,原告表示の周知性につき,ドラッグチェーンを展開する「くすりセイジョー」を強調するが,仮に「くすりセイジョー」が周知であったとしても,原告表示が周知であるとは限らない。 原告表示は成城の地名に由来し,被告表示の「成城」と称呼を共通にしているが,「セイジョー」という称呼からは,「清浄」,「正城」,「正常」,「星条」など多くの言葉が想起されるため,その識別力は極めて低い。 成城地区に居住する消費者層にとって,「セイジョー」という称呼や「成城」という表示を含む店舗・営業所等はあらゆる業態にわたり多数存在しているため,かかる消費者は,「セイジョー」以外の要部や,表示とは別の事実から,当該営業を認識していると考えられる。ところが,原告表示から「セイジョー」を除くと何も残らないから,原告表示だけでは周知性はない。 (2) 周知性の地域的範囲 仮に,原告主張のとおり,関東一円で原告表示が周知であるなら,関東一円での混同事例が発生するはずであるところ,そのような事例がないことに照らせば,原告の主張は,店舗が近接しているために生じた混乱を周知性及び類似性に基づく混同とすり替えるものである。結局,原告が周知性の地域的範囲として主張するのは,「セイジョー薬局を中心に,周囲約1.5キロメートル程度」と考えられるが,これはあまりに狭きに失し,不正競争防止法2条1項1号の「広く」に該当せず,周知性の要件を充たさない。 (3) 周知性の認識対象 原告の需要者層は,市販医薬品,医薬部外品,化粧品,日用品等を安価に買い求めようとする消費者層であるのに対し,被告の需要者層は,99%以上が近接する成城ささもと小児科・アレルギー科の通院患者であり,両者の需要者層は重複していない。したがって,被告の需要者層において原告表示の周知性は認められない。 2 争点(2)(被告表示と原告表示との類似性)について 〔原告の主張〕 被告表示は,原告表示に類似する。 (1) 被告表示は,「成城」と「調剤」と「薬局」という言葉に分解できるが,この中で「調剤」も「薬局」という言葉も,いずれも薬局に関連する普通名詞として使用されるものであって,識別力が認められない。したがって,識別性を有する言葉としては「成城」という名称のみであり,この「成城」という言葉と原告表示とは発音において全く同じであり,被告表示は,原告表示に類似する。 (2) 被告は,「セイジョー」というのは地名に由来する称呼であって識別力がないとするが,失当である。 原告は,「セイジョー」というカタカナの名称を薬に関するブランド名として一般に周知を図っているものである。また,原告表示は,たまたま原告の創業の地である「成城」という地名から発したものであっても,これを原告表示に変えてそれ自体全く独自のブランドとしての名称としたものであり,単なる地名とは異なり,これ自体が識別性を有するものとして商標登録がなされているものである。 したがって,原告表示は,単なる地名としての「成城」とは全く異なるものである。 〔被告の主張〕 被告表示は,原告表示に類似しない。 (1) 原告表示と被告表示との共通部分は,「セイジョー」という称呼のみであり,「成城」という地名に由来する称呼に格段の識別力はない。そのため,共通部分から識別力のない部分を除くと要部は残らない。よって,名称全体を比較すべきである。 (2) 原告表示と被告表示は,被告表示には「調剤」,「薬局」という部分が付加されている点,カタカナの「セイジョー」と漢字の「成城」で外観及び観念が異なる点で相違する。このような相違点からすれば,通常の注意力を有する需要者,とりわけ成城近隣に住む需要者であれば,両者を区別できるといえ,両者に類似性は認められない。 3 争点(3)(被告の営業と原告の営業との混同のおそれの有無)について 〔原告の主張〕 被告表示の使用は,営業主体の混同を生じさせている。 (1) 原告表示は成城の地名を淵源としており,前記2〔原告の主張〕のとおり被告表示と類似しているとともに,原告及び被告は全く同一の業務を行うものであるから,被告表示の使用は,営業主体の混同を生じさせる。 類似のものか否かを判断するに当たっては,単に形式的なものだけでなく,印象,記憶,連想等を含めて全体的に類似のものとして受け取られるおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とするのであるから,一般の需要家が同じ薬という業態において端的に「成城調剤薬局」という名称を掲げたら,印象や連想からも被告薬局を原告の一支店として誤信することは明らかである。 したがって,被告表示を使用することは,原告の薬に関しての「セイジョー」というブランド名並びに「セイジョー薬局」という表示に化体された顧客吸引力を有する何らかの営業上の緊密な関係があるものと誤信させるおそれのある行為,いわゆる広義の混同を生じさせるものといえる。 (2) 現実に,被告薬局から70mも離れていない場所に,同様に処方箋を扱う原告のセイジョー薬局が存在し,両者の称呼が類似することから,処方箋を原告のセイジョー薬局に持参したつもりで,間違えて被告薬局へ持参する一般需要者も多数にのぼっている。また,一般需要者が原告の店員に,被告薬局が原告の新しくできた支店であるかと確認を求めてきた例が多数存在する。さらに,品物が誤配されたりすることも生じている。 このような状況から,一般にはかなり広範囲で被告薬局を原告の新たに開店した一支店であると誤信しているケースが存在していることが推定でき,中には,原告の一支店として被告を利用しているケースが存在していることは十分に予想される。 (3) 医院から被告薬局に処方箋がFAX送信されていると言われた患者が,間違えて原告に来訪し,調剤ができていないとのクレームがなされて混乱を招いた例も多数生じている。このような事態は,原告の信用を毀損し,また需要者に対しても重大な迷惑を及ぼすものである。製薬企業のMRが被告と原告を間違えて来訪した例も存在する。 (4) 被告薬局のすぐそばに原告のセイジョー薬局が存在し,その周辺にも原告の店舗が2店存在することは,被告の営業と原告の営業との混同が生じる現実的危険性をさらに高める。 〔被告の主張〕 被告表示の使用は,営業主体の混同を生じさせるものではない。 (1) 原告と被告の営業形態はいずれも薬局チェーンであるが,両者の営業表示を比較すると,前記2〔被告の主張〕のとおり,称呼の一部が共通するが,表記の点で,デザイン化されたカタカナと漢字の違いがあり,原告の経営する店舗にはドラッグチェーンとしていずれも共通する独自の書体で表示された名称の看板が掲げられており,被告薬局の看板の表記とは明らかに異なることから,両者が系列の関係にあるものと誤信されるおそれは少ない。 (2) さらに,原告は,ドラッグチェーンとして関東全域に営業の範囲を拡大し,主な販売商品は一般医薬品,医薬部外品,化粧品,日用品等であり,調剤が設置されている店舗は全184店舗中10数店舗にすぎない。したがって,原告の客層の中心は,処方箋を持った近隣の医療機関の患者ではなく,上記の日用品等を安く買い求める一般の買い物客である。これに対し,被告は,神奈川県内を中心に伝統的な地域密着型の薬局として数店展開し,いずれも調剤を中心としていることから,近隣の医療機関の処方箋を持った患者が大半を占める。このような両者の経営規模,営業形態,客層の差異からすると,両営業表示に混同のおそれはない。 (3) 地名に由来する「セイジョー」では識別力が弱いため,この点でも,両営業表示に混同のおそれはない。 4 争点(4)(不正競争防止法12条1項1号の適否)について 〔被告の主張〕 不正競争防止法12条1項1号では,産地,販売地といった地名の適用除外について明文の規定を欠いているが,@ 特定人の独占的使用を許すべきでなく,自他識別力がないという同号の趣旨は,地名の場合にも等しく該当すること,A 同号に相当する商標法26条1項2号では,産地,販売地についても商標権が及ばないとしており,不正競争防止法でこれと別異に解すべき理由がないことからすれば,地名も不正競争防止法12条1項1号により適用除外されるべきである。 被告は,世田谷区(以下省略)で店舗営業するところ,自己の営業表示に営業地の名称を冠することは極めて自然であり,不正競争防止法12条1項1号により同法2条1項1号の適用がない。 〔原告の主張〕 被告は,成城が地名であるとの理由から不正競争防止法12条1項1号の適用除外が本件においても該当すると主張するが,不当である。「セイジョー」という表示は,商標としても登録され,地名である「成城」とは明らかに異なるものである。 5 争点(5)(損害の有無及び額) 〔原告の主張〕 原告は,被告の行為によって,原告と同一の商号表示を行ったことについての使用料相当額1000万円の損害を被った。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 |
|
当裁判所の判断
1 争点(2)(被告表示と原告表示との類似性)について (1) ある営業表示が不正競争防止法2条1項1号所定の他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。 (2) 原告表示は,「セイジョー」の文字から構成され,被告表示は,「成城」及び「調剤薬局」の文字から構成されている。被告表示のうち,「成城」の部分は,被告薬局の所在地の地名であり,一般に何らかの営業の表示に店舗・営業所等の所在地の地名を付すことは経験則上頻繁に行われることが明らかであるから,当該営業表示中の地名部分には格別の識別力がない。また,「調剤」は,薬を調合すること,調薬を意味し(「広辞苑(第5版)」1741頁,特許法69条3項参照),「薬局」は,薬剤師が薬を調合する場所ないし店を意味するものであるから(「広辞苑(第5版)」2684頁,薬事法2条7項,同法第3章参照),「調剤薬局」は,薬剤師が薬を調合する営業を表す普通名称である。したがって,被告表示は,「成城」及び「調剤薬局」のいずれの部分からも営業主体の識別表示としての称呼,観念は生じず,「成城調剤薬局」全体として営業主体の識別表示としての称呼,観念が生じるというべきである。 (3) 両営業表示の外観は,原告表示がカタカナ表記され,「セイジョウ」ではなく「セイジョー」と語尾が長音となっているのに対し,被告表示が「成城」と漢字表記されて「調剤薬局」の文字が加わっている点において,異なっている。 両営業表示の称呼は,原告表示が「セイジョー」であり,被告表示が「セイジョウチョウザイヤッキョク」であって,一部共通する部分があるものの,音数が異なり,全体としても異なる。 両営業表示から生じる観念は,原告表示からは,「正常」,「性状」,「清浄」等のほか,地名の「成城」が生じる可能性もある(「広辞苑(第5版)」1469頁)。被告表示からは,「成城にある調剤薬局」という観念が生じる。 原告は,ドラッグストアとして,新聞折り込み広告やダイレクトメール等の媒体により「セイジョー」という営業表示を需要者の視覚に訴えて宣伝し,医薬品や化粧品,日用品等を販売している(甲7ないし10)。また,医療機関の処方箋を受け付けて薬を調合する業務も行っている(甲6,8,12)。他方,被告も,被告薬局において医療機関からの処方箋を受け付けて薬を調合するという営業を行っているが,大部分は近接する成城ささもと小児科・アレルギー科からの処方箋に基づく調剤である(乙6,7)。このような取引の実情の下において,取引者又は需要者が上記のとおりの相違点が認められる両営業表示を観察した場合,両営業表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両営業表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるということはできない。 (4) 上記のとおり,取引者又は需要者が原告表示と被告表示とを全体的に類似のものと受け取るおそれがあるということはできない以上,両表示は類似しない。 2 争点(4)(不正競争防止法12条1項1号の適否)について (1) 前記1(2)のとおり,被告表示のうち,「成城」の部分は,被告薬局の所在地の地名であり,「調剤薬局」の部分は,被告が営む営業の普通名称である。 (2) そして,一般に,調剤薬局に限らず,ある地域に店舗等を開設して一定の営業を行う場合,当該営業の普通名称に当該店舗等の所在地の地名を組み合わせた営業表示を採用することは,経験則上頻繁に行われることである。現に,東京都世田谷区成城の地において,成城ファーマシー,成城外科,成城歯科室,成城コーポ等,それぞれの営業の普通名称に「成城」という地名を冠した営業表示を採用している店舗等が多数存在する(乙1)。 そうすると,営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示は,本来的に特定人の独占になじまないものであって,特段の事情がない限り,その使用は自由であるというべきである。その趣旨は,商品又は営業の普通名称を普通に用いられる方法で使用する行為を不正競争防止法2条1項1号に掲げる不正競争の適用除外とする同法12条1項1号の規定と同旨である。もっとも,かかる営業表示であっても,特定人がそれを長年にわたり使用し続けることにより,需要者において当該特定人の営業を表示するものとして広く認識されるに至っている場合においては,当該営業表示を当該特定人の独占にかからしめることが不当とはいえず,もはや同法12条1項1号の趣旨を及ぼすことができない特段の事情があるというべきである。 したがって,上記のような特段の事情がない限り,営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示を普通に用いられる方法で使用する行為は,同法12条1項1号の趣旨に照らし,同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないと解すべきである。 (3) 本件において,被告は,調剤薬局を東京都世田谷区成城の地で開設し,「調剤薬局」という営業の普通名称に,被告薬局の所在地である「成城」の地名を冠した被告表示を使用しているものであり,上記のような特段の事情を認めることもできない。 そして,証拠(甲1,6,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告表示を被告が経営する薬局の名称とし,店舗前の看板,店舗入口等に,普通に用いられる方法,すなわち一般取引上普通に行われる態様で被告表示を使用していることが認められる。 (4) よって,被告の行為は,不正競争防止法12条1項1号の趣旨に照らし,同法2条1項1号所定の不正競争行為に当たらないものというべきである。 3 結論 以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
---|---|
裁判官 | 上田洋幸 |
裁判官 | 宮崎拓也 |