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事件 令和 4年 (ワ) 16072号 不正競争防止法に基づく差止請求事件
5
原告 FutureTechnology株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
被告 ARAK国際貿易株式会社 10 (以下「被告ARAK」という。)
被告 RUIYINGJAPAN株式会社 (以下「被告RUIYING」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 勝部環震 15 本荘振一郎 太田和磨
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/02/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 請求1 被告ARAKは、別紙物件目録記載の商品を輸入し又は譲渡してはならない。
2 被告ARAKは、その占有に係る前項記載の商品を破棄せよ。
3 被告RUIYINGは、別紙物件目録記載の商品を譲渡してはならない。
25 4 被告RUIYINGは、その占有に係る前項記載の商品を破棄せよ。
第2 事案の概要等11 事案の要旨本件は、原告が、別紙物件目録記載の商品(以下、これらを総称して「本件商品」という。)に、その品質及び内容について誤認させるような表示をし、これを譲渡等した被告らの行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)25 条1項20号所定の不正競争に該当すると主張して、同法3条1項に基づき、
被告ARAKに対し、本件商品の輸入及び譲渡の差止めを、被告RUIYINGに対し、本件商品の譲渡の差止めを、それぞれ求めるとともに、同条2項に基づき、被告らに対し、本件商品の破棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(特記しない限り枝10 番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア 原告は、雑貨商品の企画、製造、販売に関する事業等を行う株式会社である。原告は、本件商品と市場において競合する非たばこ加熱式スティックである「The Third」(以下「原告商品」という。)を販売して15 いる。
イ 被告ARAKは、衣装品、食料品、日用品雑貨の輸出入及び販売等を行う株式会社である。
被告RUIYINGは、電子商取引に関する事業、動産及び不動産の販売及び管理等に関する事業、雑貨等製造輸入販売事業等を行う株式会社で20 ある。
(2) 被告らによる本件商品の販売等本件商品は、一般消費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式スティック(機器に挿入し、加熱して発生する煙等を吸引するための商品)である(甲1)。
25 被告ARAKは、「コバト正規販売元」を名乗り、本件商品を中華人民共和国から輸入し、日本国内で販売している。
2被告RUIYINGは、「コバト公式ショップ」又は「コバトショップ」との名称のオンラインストアを運営し、本件商品を日本国内で販売している。
(3) 本件商品のパッケージ等の表示ア 本件商品のパッケージには、表面に「ニコチン0mg」、裏面に「コバト5 は茶葉を主原料としたニコチンフリー製品です」と記載されている(甲3)。
イ 本件商品のパッケージの底面に記載された二次元バーコードに記録されているURLにより表示されるウェブページには、「天然茶葉が原料だからニコチンゼロ」 「ニコチン0mg…」 「Q、 、 コバトはタバコですか? Aコバトはタバコ葉を使用せず、茶葉を使用しているため、タバコではあり10 ません。また、ニコチンは含まれておりません。、
」「Q 有害な成分は入っていますか? A コバトでは…有害な成分はございません…。、
」「コバトにはニコチンを含みません…。」との記載がされている(以下、前記ア記載の表示と合わせて「本件表示」という。甲1の1、3)。
3 争点15 (1) 不競法2条1項20号の不正競争の成否(争点1)(2) 差止め等の必要性(争点2)4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(不競法2条1項20号の不正競争の成否)について(原告の主張)20 ア 本件商品にはニコチンが含まれていること本件商品のニコチン含有量について、定量下限(その分析方法及び目的とする精度において、具体的な量を正確に測定できる最小値。甲28)を0.1ppm(ppmは100万分の1を意味し、例として1g当たり1μgと同等である。)とするガスクロマトグラフィー質量分析法により分析25 したところ、0.1ないし0.4ppmのニコチンが検出された。当該分析結果の精度を疑わせるような事情はない。
3イ 本件表示が本件商品の品質及び内容について誤認させるような表示であること(ア) 判断基準ある表示が、不競法2条1項20号所定の「商品…の品質、内容…に5 ついて誤認させるような表示」であるか否かは、当該表示に接した需要者における認識が、真でないことを真とみなしたものか否かによって判断されるべきである。
また、ある商品におけるニコチンの含有量が問題となる場合には、より粗い精度である定量下限を1ppmとする分析によってニコチンが検10 出されていなくても、その時代におけるより精密な精度である定量下限を0.1ppmとする分析によってニコチンが検出されていれば、ニコチンが含まれていると判断すべきである。
(イ) 本件表示についてのあてはめa 本件表示は、総じて本件商品にはニコチンが含まれないことを示す15 ものである。また、本件表示のうち、「天然茶葉が原料だからニコチンゼロ」という表示は、本件商品にニコチンが含まれないということに加え、それは茶葉が原料であることによるものであるとの理由を明示するものである。
b しかし、前記ア及び(ア)のとおり、本件商品は、定量下限を0.1p20 pmとする分析により、0.1ないし0.4ppmのニコチンが検出されているから、ニコチンが含まれているといえる。そうすると、本件表示に接した需要者は、本件商品にニコチンが含まれないという、
真でないことを真とみなした認識を有することになる。
また、被告らの主張によれば、本件商品にニコチンが含まれている25 理由は茶葉が原料であることに起因するというのであるから、本件表示に接した需要者は、本件商品にニコチンが含まれない理由は茶葉が4原料であることによるという、真でないことを真とみなした認識を有することになる。
(ウ) まとめしたがって、本件表示は、本件商品の品質及び内容について誤認させ5 る表示に当たる。
ウ 被告らの主張について(ア) 公的機関等による規制の状況等についてa 不当景品類及び不当表示防止法31条所定の協定又は規約(以下「公正競争規約等」という。)が締結、設定されていないことについて10 被告らは、非たばこ加熱式スティックの分野において、公正競争規約等が締結、設定されていないことを自己に有利な事情と捉えているが、公正競争規約等が締結、設定されていれば、それに従う限り、客観的事実に反する表示が許容されるというだけであり、公正競争規約等が締結、設定されていない非たばこ加熱式スティックの分野におい15 て、客観的事実に反する表示が許容されることはない。
b 農薬残留基準について農薬残留基準は、農作物・食品ごとに設定されるものであるところ、
茶葉については、個別の基準値が指定されていないから、茶葉におけるニコチンの農薬残留基準は、一律基準である0.01ppmが適用20 される。
(イ) 食品表示基準等において微量の含有成分の量を0(ゼロ)と表示することが許容されているとの主張についてニコチンが有害な物質であるということは現代において周知の事実であるから、ニコチンが含まれているか否かは、需要者における大きな関25 心事である。そして、食品表示基準は、0と表示することが許容される栄養成分の量及び熱量に係る基準を定めるものであって、有害物質につ5いてまで0と表示することを許容しているものではない。
そうすると、食品表示基準に0と表示することを許容するような定めがあるからといって、「ニコチンゼロ」等との本件表示を見た需要者は、
本件商品に、栄養成分でも熱量でもない有害物質であるニコチンが含ま5 れていないとは認識しない。
(ウ) 非たばこ加熱式スティック業界における認識について非たばこ加熱式スティックの市場シェアは、概ね、原告(原告ブランド及び原告によるOEM製造品を含む。)が87.6パーセント、被告らが9.5パーセント、その他が3パーセントである。そして、原告は、
10 品質管理を徹底し、定量下限を0.1ppmとするガスクロマトグラフィー質量分析法でもニコチンが検出されないことを確認した上で、原告商品に「ニコチンゼロ」との表示をしている。このように、非たばこ加熱式スティック業界において9割近い市場シェアを持つ原告が品質管理に採用している定量下限を0.1ppmとするガスクロマトグラフィー15 質量分析法は、当該業界におけるニコチンの分析に係る事実上の標準的な分析方法であるといえる。
また、原告は、非たばこ加熱式スティックの営業に際し、定量下限を0.1ppmとするガスクロマトグラフィー質量分析法によるニコチンの分析結果を客先に提供しており、当該商品を取り扱う業者は、定量下20 限を0.1ppmとするガスクロマトグラフィー質量分析法によるニコチンの分析が業界標準であると認識している。
エ 小括以上によれば、被告らが、本件商品、その広告、取引に用いるウェブページに本件表示をし、本件表示をした本件商品を需要者に販売し、引き渡25 し、販売及び引渡しのために本件商品を展示し、輸入し、ウェブサイト上で提供する行為は、不競法2条1項20号所定の不正競争に当たる。
6(被告らの主張)ア 本件商品のニコチン含有量について本件商品のニコチン含有量に係る定量下限を0.1ppmとした場合の分析結果について、その信頼性が担保されていることの立証はされていな5 い。
仮に本件商品が0.1ppm以上のニコチンを含有しているとしても、
これは、茶葉に元々0.011ないし0.694ppm程度含まれているニコチンに由来するものである。
イ 本件表示は本件商品の品質及び内容について誤認させるような表示に当10 たらないこと(ア) 判断基準不競法2条1項20号所定の「誤認させるような表示」に当たるか否かは、不当に顧客を誘引し他の競争者よりも優位に立とうとする表示を行い、他の事業者との関係で不正な利益を得ているか(他の事業者の利15 益が害されるおそれがあるか)によって判断されるべきである。
そして、後記(イ)ないし(エ)の各事情を踏まえると、本件表示が、不当に顧客を誘引し他の競争者よりも優位に立とうとし、他の事業者との関係で不正な利益を得ようとするものでないことは、明らかである。
(イ) 公的機関等による規制の状況等20 a 微量のニコチンを含有する非たばこ加熱式スティックについての表示を規制する法令等がないこと非たばこ加熱式スティックについて、「ニコチンレス」等の表示が禁止されるニコチン含有量の水準を定めている法令等は存在しないし、
公正競争規約等も存在しない。
25 b ニコチンの含有量が1ppm以下の電子たばこについて公的機関等による取締りが行われていないこと7電子たばこも非たばこ加熱式スティックも、加熱によって発生した成分を吸引して体内に取り込むという性質は共通しているから、電子たばこのニコチン含有量に係る公的機関等による規制の状況も本件商品に関して同様に考慮し得るものである。
5 厚生労働省及び消費者庁は、平成22年、電子たばこのカートリッジに1ppm以上のニコチンを含有する商品に対する取締りを行った。
しかし、その後は、ニコチンについて定量下限を1ppmとする分析結果しか公表していない電子たばこ及び加熱式たばこ類似商品が大量に販売されているにもかかわらず、上記の取締りが実施されて以降、
10 厚生労働省及び消費者庁により、1ppm以下のニコチンが検出されたことを理由とする取締りが行われたことは、公表されていない。ましてや、1ppm以下のニコチンが検出されたことを受けて、その取締りが行われたことは公表されていない。
また、一般電子たばこ工業会の加盟企業は、各社が販売する電子た15 ばこにニコチンが一切含まれていないことの根拠として、定量下限を1ppmとする分析においてニコチンが検出されていない旨の結果を公表しているものの、定量下限を0.1ppmとする分析結果を公表している企業はない。
c 食品中の残留農薬に係るニコチンの基準値は2ppmであること20 食品中の農薬残留基準において、ニコチンの基準値は2ppmと定められている。農薬残留基準は、健康に対する影響の有無を考慮して定められたものであることからすると、2ppm以下のニコチンによる健康への影響はないと判断されているといえる。また、農薬残留基準は、ニコチンを含有する食品をそのまま経口摂取することを前提と25 しているのに対し、非たばこ加熱式スティックは、加熱による発生した成分を吸引して使用することから、仮にスティックそのものに2p8pmのニコチンが含まれていたとしても、直ちに身体へ影響を及ぼすことになるといえるかは不明である。
さらに、厚生労働省が平成25年に設置した「たばこの健康影響評価専門委員会」においても、ニコチンについて、1ppmを超えない5 非常に低い濃度については、生理活性(生命現象に関与し、影響を与えること)と関係がない可能性があるとの指摘がされている。
(ウ) 非たばこ加熱式スティック等におけるニコチン含有量に係る分析結果の表示の状況等a 非たばこ加熱式スティック及び電子たばこを製造、販売する事業者10 は定量下限を1ppmとする分析結果を公表しているにとどまること我が国において、ニコチンが含まれていない旨が表示された非たばこ加熱式スティックや電子たばこの販売業者は、定量下限を1ppmとする分析結果を公表しているにとどまり、定量下限を0.1ppmとする分析結果を公表している業者は見受けられない。
15 b 非たばこ加熱式スティックを製造、販売する事業者がニコチン含有量の分析に一般的に利用できる定量下限は1ppmであること非たばこ加熱式スティックを製造、販売する事業者が、一般的に利用できる分析機関においてニコチンの含有量の分析を依頼しようとする場合、現在においても、定量下限を0.1ppmとする分析は精度20 が確保できない上、この精度で一般的に分析が可能な機関は存在しない。
(エ) 微量の含有成分の量を0と表示することが許容されていること食品表示基準3条1項は、特定の栄養成分の量又は熱量が一定の量に満たない場合に0と表示することを、同7条は、特定の栄養成分又は熱25 量の量が基準値に満たない場合に含まない旨の表示をすることをそれぞれ許容しており、実際にそのような表示がされた商品が販売されている。
9これは、そのような表示をしても「消費者が安全に摂取し、及び自主的かつ合理的に選択」(食品表示法4条1項柱書)できると判断されたことによるものである。このように、需要者は、日常生活において、ある商品につき特定の成分の含有量が「0である」又は「含まない」と表示さ5 れているからといって、当該成分が一切含まれていないわけではないことを認識している。
そして、前記アのとおり、本件商品のニコチン含有量は、日常的に飲んでいるお茶に含まれている量と大差なく、食品表示基準において0と表示することが許容されている栄養成分等と同様に、需要者の身体及び10 精神に害悪が生じない量(日常生活において無意識に摂取している量)であるから、「0である」等と表示しても「消費者が安全に摂取し、及び自主的かつ合理的に選択」できるものである。
(オ) 小括したがって、本件表示は、本件商品の品質及び内容について誤認させ15 る表示に当たらない。
ウ 原告の主張について原告は、「その時代におけるより精密な精度」である定量下限を0.1ppmとする分析結果をもって、ニコチンを含んでいるか否かを判断すべきと主張する。しかし、茶葉を原料とする非たばこ加熱式スティックについ20 て、既に定量下限を0.01ppmとする測定が可能となっているから、
定量下限を0.1ppmとする測定は、原告が主張するところの「その時代におけるより精密な精度」による測定とはいえない。
また、原告は、原告商品について、定量下限を0.1ppmとする条件でニコチンが検出されないという分析結果が得られていると主張するが、
25 これは、原告商品に0.1ppm以上のニコチンが含まれていないことを意味するにとどまるのであって、他の証拠によっても一切ニコチンが含ま10れていないことが立証されているとはいえない。
したがって、定量下限を0.1ppmとする分析によるニコチン検出の有無は、非たばこ加熱式スティックにニコチンが含まれているか否かを判断する分水嶺にはならず、他の事業者との関係で不正な利益を得ているか5 (他の事業者の利益が害されるおそれがあるか)を判断する基準とならない。
(2) 争点2(差止め等の必要性)について(原告の主張)原告は、本件商品と市場において競合する原告商品を販売しているから、
10 被告らによる「不正競争によって、営業上の利益侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(不競法3条)に当たる。
したがって、被告ARAKに対し、本件商品の輸入及び譲渡の差止めを、
被告RUIYINGに対し、本件商品の譲渡の差止めを求めるとともに、被告らに対し、本件商品の破棄を求める必要がある。
15 (被告らの主張)争う。
第3 当裁判所の判断1 争点1(不競法2条1項20号の不正競争の成否)について(1) 本件商品のニコチン含有の有無及びその量について20 証拠(甲4)によれば、一般財団法人日本食品分析センターが、本件商品について、ガスクロマトグラフィー質量分析法により、定量下限を0.1ppmとする条件でニコチンの含有量を分析し、0.1ないし0.4ppmのニコチンを検出したとの結果が得られたことが認められるところ、本件全証拠によっても、当該分析結果の信用性を疑わせる事情は何ら認めることがで25 きない。
したがって、本件商品には、0.1ないし0.4ppmのニコチンが含ま11れていると認められる。
(2) 本件表示は本件商品の品質及び内容について誤認させるような表示に当たるかについてア 前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認5 められる。
(ア) ニコチンについてa ニコチンは、中枢神経系への作用等により、身体及び精神の機能に影響を及ぼすものであること、禁煙時のイライラの症状の緩和など禁煙治療の補助として使用されるものであること、毒性が強いこと等か10 ら、専ら医薬品として使用される成分と指定されており、これを含有する物については、人が経口的に摂取する目的で使用される場合、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律所定の医薬品に当たるとされている。そのため、薬理効果の期待できない程度の量で、専ら着色、着香等の目的で使用されているなどの場合15 を除き、ニコチンを含む物を販売等する行為は、同法に違反するとされる(甲22、乙1、10の4)。
b 葉たばこには、約1万5000ppm(1g当たり15mg)のニコチンが含まれており、紙巻たばこ1本当たりのニコチン含有量は約10mgである(乙8の1)。
20 ニコチンは、たばこ以外にも、ナス科の植物であるジャガイモ、トマト、トウガラシのほか、茶葉、野生のキノコ、カリフラワー、各種ハーブなどからも検出されている。茶葉に含まれるニコチンについては、@世界の主要な茶の産地で生産された荒茶試料を分析したところ、
0.011ないし0.694ppm(乾物重当たり)のニコチンが検25 出されたこと、A外部からの汚染が限りなく低い茶の培養細胞から0.03ppm(乾物重当たり)のニコチンが検出されたこと、B茶葉に12含まれるニコチンが1ppm(乾物重当たり)以下であれば、茶樹自身が生合成した内因性由来のものと考えられることが報告されている。
(乙26)c 厚生労働省が平成25年に設置した「たばこの健康影響評価専門委5 員会」において、ニコチンについて、0.1ないし1ppm程度の非常に低い濃度では、生理活性とは関係がない可能性があるとの指摘がされている(乙8の1)。
(イ) ニコチンを含有する非たばこ加熱式スティックについての表示を直接規制する法令等について10 非たばこ加熱式スティックについて、「ニコチンレス」等の表示をすることを禁止したり、このような表示が許容されるニコチン含有量の基準を定めたりする法令等はなく、公正競争規約等も存在しない(当事者間に争いがない。。
)(ウ) 電子たばこに係る公的機関による取締りの有無等について15 a 独立行政法人国民生活センター(以下、単に「国民生活センター」という。)は、平成22年8月18日付けで、「電子タバコの安全性を考える」と題し、定量下限を1ppmとする条件での電子たばこのカートリッジ中のニコチンの含有量検査において、ニコチンを含まない旨の表示がされている複数の商品にニコチンが含まれていることが認20 められる旨を報告した(乙1)。これを受けて、厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長は、各都道府県衛生主管部(局)長等に対し、
ニコチンを含有する電子たばこについて、監視指導の徹底を図ってほしい旨の依頼を発出したほか、消費者庁長官は、一般電子たばこ工業会会長に対し、団体会員への周知指導を要請するとともに、団体会員25 以外の電子たばこ製造販売事業者に対しても可能な限り周知し、必要な措置の実施を強く働き掛けるよう申し入れた(乙10)。
13b 平成27年5月21に開催された前記(ア)cの「たばこの健康影響評価専門委員会」の第6回会合において、定量下限を0.1ppmとする条件で電子たばこのカートリッジを分析した結果、103銘柄中48製品で1ppm以下のニコチンを含有していることが報告された5 (乙8)。
c 国民生活センターは、平成30年6月、電子たばこ用のリキッドにニコチンが含まれていないかとの相談に対し、定量下限を0.1ppmとする条件で分析し、ニコチンは検出されなかったとの結果を公表した(甲26)。
10 その後、国民生活センターは、令和元年11月、電子たばこのリキッドにニコチンが含まれていないか調べてほしいとの相談に対し、当該リキッドに含まれるニコチン濃度の定量を行ったところ、その濃度は1ppm未満であったとの結果を公表した(乙11の2)。
また、国民生活センターは、令和3年10月、電子たばこのカート15 リッジにニコチンが含まれていないか調べてほしいとの相談に対し、
定量下限を1ppmとする条件で分析し、ニコチンは検出されなかったとの結果を公表した(乙11の1)。
d 厚生労働省や消費者庁等により、平成22年よりも後に、1ppm以下のニコチンが検出されたことを理由として、電子たばこの取締り20 が行われたことは公表されていない(弁論の全趣旨)。
(エ) 食品中のニコチンの規制について厚生労働大臣は、食品中に残留する農薬などが、人の健康に害を及ぼすことのないよう、農薬について残留基準を定めている(食品衛生法13条1項)。当該残留基準は、人が摂取しても安全と評価された量の範囲25 で食品ごとに定められており、農薬等が残留基準の値を超えて残留する食品の販売等は禁止される(同条2項)。なお、一部の食品について残留14基準が定められている農薬等が、当該残留基準が定められていない食品に残留する場合には、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める量である0.01ppm(一律基準)を超えて農薬等が残留する食品の販売等が禁止される5 (同条3項。乙19)。
この点、ニコチンは、とうもろこし等の合計53食品について、いずれも残留基準の値が2ppmと定められているものの、茶葉については残留基準の値が定められていない(乙20)。
(オ) 他の同種商品に係る広告の記載及びニコチンの含有量10 a 原告は、原告商品に係る広告において、「加熱式たばこ専用ノンニコチンスティック」「0mg、 nicotine」「国産茶葉を配合」、 、
「お茶の産地、福建省の茶葉と国産の茶葉を…ブレンド」 「茶葉でき、
ているので、一般的な紙巻きタバコと違います。」と記載している(甲6)。
15 なお、原告商品については、定量下限を0.1ppmとする条件でのガスクロマトグラフィー質量分析法による分析の結果、ニコチンが検出されなかった(甲7、31ないし33)。
b 原告が製造し、株式会社VUENが販売する「NICOLESS」との名称の非たばこ加熱式スティックに係る広告には、「ニコチンがゼ20 ロ」 「、 「正山小種(紅茶の一種)」を使用した独自製法により、ニコチン0mgを実現」と記載されているとともに、定量下限を1ppmとしたガスクロマトグラフィー質量分析法による分析の結果、ニコチンが検出されなかった旨の分析試験成績書が掲載されている(甲47、
乙13の1)。
25 なお、当該商品については、定量下限を0.1ppmとする条件でのガスクロマトグラフィー質量分析法による分析の結果においても、
15ニコチンが検出されなかった(甲17)。
c このほか、茶葉を原料とする他の複数の非たばこ加熱式スティックに係る広告において、「ニコチン0」「ニコチン0mg」等と記載され、
ているとともに、定量下限を1ppmとする条件でのガスクロマトグ5 ラフィー質量分析法による分析の結果、ニコチンが検出されなかった旨の分析試験成績書が掲載されている(乙13の2、13の4、13の5)。
イ 前提事実及び前記アの各認定事実に基づき、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤認させるような表示に当たるか否かについて検討する。
10 (ア) 判断基準について不競法2条1項20号は、商品や役務に、その品質や内容を誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等することにより、
需要者の需要を不当に喚起するとともに競争上不当に優位に立とうとすることを防止する趣旨の規定であるといえるから、本件表示が本件商品15 の品質及び内容について誤認させるような表示に当たるか否かは、本件表示によって、本件商品についての需要者の需要を不当に喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことになるか否かによって判断すべきと解される。
(イ) 本件表示の目的について20 本件商品は、一般消費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式スティックであり(前提事実(2))、本件商品に係る広告においては、本件商品はたばこであるか否か、有害な成分が入っているか否かについての質問及び回答が掲載されている(前提事実(3))。このような事実に照らすと、本件表示の目的は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示25 すためのものではなく、本件商品が含有する成分は茶葉と同様であって、
たばこのように身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を16含有していないことを示すためのものと認められる。
(ウ) 本件商品に含まれているニコチンの由来について前記(1)のとおり、本件商品には、0.1ないし0.4ppmのニコチンが含まれている。
5 この点に関し、本件商品の原料である茶葉には、茶樹自身が生合成した内因性由来のニコチンが含まれており、その量が1ppm以下であれば、この内因性由来のものと考えられることが報告されているところ(前記ア(ア)b)、本件商品のニコチン含有量はその範囲内にある。
そして、本件商品において検出されたニコチンが別途添加されるなど10 したものであることをうかがわせる証拠はない。
これらの事情によれば、本件商品のニコチンは、原料である茶葉そのものに含まれていた内因性由来のものであると認められる。
(エ) 微量のニコチンが身体に与える影響等についてニコチンに関し、とうもろこし等の53食品については残留基準の値15 が2ppmと定められているものの、茶葉には、残留基準の値が定められていないことから、一律基準である0.01ppmが適用されることになる(前記ア(エ))。
しかし、ニコチンは、身体及び精神の機能に影響を及ぼす物質であるものの、微量なニコチンについては、生理活性がない可能性が指摘され20 ている(前記ア(ア)a、c)。また、茶葉には、茶樹自身が生合成した内因性由来の1ppmを下回る程度のニコチンが含まれているにもかかわらず(前記ア(ア)b)、一般社会において、ニコチンに係る特段の措置が講じられることなく、飲用、食用として経口摂取することを前提とする態様で取引されていることは、顕著な事実である。そして、本件証拠上、
25 ニコチンに係る残留基準に関し、茶葉ととうもろこし等の53食品との間で特段の差異を設ける必要があるとの事情は認められない。これらの17事情に照らすと、茶葉については単に明示的に残留基準の値が定められていないだけであって、ニコチンの含有量が2ppmを下回る茶葉については、人が摂取しても安全であると評価されているものと考えることができる。
5 公的機関等において、ニコチン含有量が1ppm以下の電子たばこが流通していることを把握しているにもかかわらず、その取締りがされていないことに加え、国民生活の安定及び向上に寄与するため、総合的見地から国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うことを目的とする国民生活センターが、電子たばこのリキッドにニコチンが含まれてい10 ないか否かを調べてほしいとの相談に対し、その濃度が1ppm未満であったとの結果や、定量下限を1ppmとする条件での分析では検出されなかったとの結果を公表していること(前記ア(ウ)c、d)も、これを裏付けるものといえる。
(オ) 他の同種商品に係る広告の記載及びニコチンの含有量の実情について15 本件商品以外の茶葉を原料とする複数の非たばこ加熱式スティックに係る広告には、「ニコチン0」等と記載されているとともに、定量下限を1ppmとする条件でのガスクロマトグラフィー質量分析法による分析の結果、ニコチンが検出されなかった旨の分析試験成績書が掲載されている(前記ア(オ)c)。
20 また、原告商品及び原告が製造する「NICOLESS」との名称の非たばこ加熱式スティックに係る広告には、いずれも、茶葉を原料としていることからニコチンを含有していないと解することのできる記載がされている。そして、両製品については、定量下限を0.1ppmとする条件でのガスクロマトグラフィー質量分析法による分析の結果、ニコ25 チンが検出されなかったことが認められる。(前記ア(オ)a、b)しかし、定量下限は、その分析方法及び目的とする精度において、具18体的な数量を正確に計量できる最小値であるから(甲28)、ある定量下限を採用した分析において、分析対象成分についての具体的な含有量が示されていなかったり、「検出せず」とされていたりしても、当該成分が全く含まれていないことを意味するものではなく、当該定量下限を下回5 る量が含まれていることを完全に否定できるものではない(乙45)。
そうすると、原告商品を含む茶葉を原料とする複数の非たばこ加熱式スティックについて、定量下限を1ppm又は0.1ppmとする分析においてニコチンが検出されていないとの結果が得られていたとしても、
これらの商品は、いずれも茶葉を原料としているものである以上、当該10 定量下限を下回る量の内因性由来のニコチンが含まれている可能性を当然に否定することはできない。
(カ) まとめ前記(イ)ないし(オ)のとおり、@本件表示は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示す目的のものではなく、本件商品が含有する成分15 は茶葉と同様であって、本件商品に身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を含有していないことを示す目的のものと考えられること、A本件商品が含有するニコチンは、茶葉そのものに含まれていた内因性由来のものであって、その含有量は、人が摂取しても安全と評価されており、生理活性がない可能性も指摘されている水準にとどまるこ20 と、B茶葉を原料とする他の複数の非たばこ加熱式スティックに係る広告においても、定量下限を1ppmとした分析によりニコチンが検出されなかったことを根拠として「ニコチン0」との記載がされているところ、これらの商品にも当該定量下限を下回る量の内因性由来のニコチンが含まれている可能性を当然に否定することはできないことを指摘する25 ことができる。
以上の点に照らせば、本件表示に接した需要者は、本件商品が、ニコ19チン含有の有無及びその量に関し、身体及び精神に与える影響との観点から、他の非たばこ加熱式スティックと比較してより優れたものであると認識するものではないというべきである。
したがって、本件表示が、本件商品についての需要者の需要を不当に5 喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことになるものであるということはできず、よって、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤認させるような表示に当たると認めることはできない。
2 小括以上によれば、被告らの行為が、不競法2条1項20号の不正競争に当たる10 と認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対する不競法3条1項及び2項に基づく本件商品に係る差止請求及び破棄請求はいずれも理由がない。
第4 結論以上の次第で、原告の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することと15 して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官20國 分 隆 文裁判官25間 明 宏 充20裁判官5 バ ヒ ス バ ラ ン 薫21(別紙)物 件 目 録商品名:ccobato(コバト) メンソール商品名:ccobato(コバト) ストロングミント商品名:ccobato(コバト) ブルーベリー商品名:ccobato(コバト) ピーチ以上22
事実及び理由
全容