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事件 令和 6年 (ネ) 10024号 不正競争防止法に基づく差止請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/09/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和6年9月25日判決言渡

令和6年(ネ)第10024号 不正競争防止法に基づく差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第16072号)

口頭弁論終結日 令和6年6月24日

5 判 決



控 訴 人 Future Technology株式会社



同訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎

10 同 金 森 毅



被 控 訴 人 ARAK国際貿易株式会 社




15 被 控 訴 人 RUIYING JAPAN株式会社



上記2名訴訟代理人弁護士 勝 部 環 震

同 本 荘 振 一 郎

同 太 田 和 磨

20 主 文

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

25 1 原判決を取り消す。

2 被控訴人ARAK国際貿易株式会社は、原判決別紙物件目録記載の商品を輸



1
入し又は譲渡してはならない。

3 被控訴人RUIYING JAPAN株式会社は、原判決別紙物件目録記載

の商品を譲渡してはならない。

4 被控訴人らは、その占有に係る前各項記載の商品を破棄せよ。

5 第2 事案の概要

1 事案の要旨

? 原判決別紙物件目録記載の商品(以下「本件商品」という。)は、一般消

費者向けの茶葉を原料とする非たばこ加熱式スティックであり、そのパッケ

ージの表面及び裏面並びに底面に記載されたバーコードに記録されたURL

10 に係るウェブページには「ニコチン0mg」「茶葉を主原料としたニコチン

フリー製品」「天然茶葉が原料だからニコチンゼロ」「ニコチンを含みませ

ん」などの表示(以下「本件表示」という。)がある。

? 本件は、本件商品と市場で競合する非たばこ加熱式スティックを販売する

控訴人(1審原告、以下「原告」という。)が、本件商品を輸入販売する被

15 控訴人ARAK国際貿易株式会社(1審被告、以下「被告ARAK」とい

う。)及び本件商品を販売する被控訴人RUIYING JAPAN株式会

社(1審被告、以下「被告RUIYING」という。)に対し、被告らが、

本件商品にその品質及び内容について誤認させるような本件表示をして譲渡

等した行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項20号

20 所定の不正競争に該当すると主張して、不競法3条1項に基づき、被告AR

AKに対しては本件商品の輸入及び譲渡の差止めを、被告RUIYINGに

対しては本件商品の譲渡の差止めを、それぞれ求めるとともに、同条2項に

基づき、被告らに対し、本件商品の破棄を求める事案である。

? 原審は、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤認させるような表

25 示に当たると認めることはできないから、被告らの行為は不競法2条1項

0号の不正競争に当たらないなどとして、原告の請求をいずれも棄却した。



2
これに対し、原告が原判決を不服として本件控訴を提起した。

2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張

前提事実、争点(不競法2条1項20号の不正競争の成否、差止め等の必要

性)及び争点に関する当事者の主張は、後記3に当審における当事者の補充主

5 張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2から4まで(原判決2

頁12行目から11頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用

する。

3 当審における当事者の補充主張

争点1(不競法2条1項20号の不正競争の成否)について

10 ? 原告の主張

国内外において茶を含む物質のニコチン含有量を分析する場合、現時点で

は、定量下限を分析可能な0.01ppm以上の値0.1ppmに設定する

ことは標準的である。また「0mg」などの本件表示に接した取引者及び需

要者の認識は、ニコチンを一切含まないというものである(甲55)。

15 以上を踏まえ、定量下限0.1ppmで分析すると、客観的には、本件商

品からニコチンが検出され、他の非たばこ加熱式スティックからニコチンが

検出されないが、本件表示に接した需要者は、本件商品はニコチンを一切含

まないと認識するから、本件商品のニコチン含有の有無及びその量に関し、

身体及び精神に与える影響との観点から、他の非たばこ加熱式スティックと

20 比較してより優れたものと認識することになる。したがって、本件表示は、

本件商品についての需要者の需要を不当に喚起し、被告らが不当に競争上優

位に立つものといえる。

? 被告らの主張

電子たばこ類似の市場における一般的な検査基準が定量下限0.1ppm

25 であるとはいえない。日本の電子たばこ類似の商品を扱う企業は、定量下限

1ppmで検査を依頼し結果を公表しており、同市場の一般的な検査基準は



3
1ppmである。各事業者が、今後、定量下限0.01ppmで受注する会

社にのみ検査を依頼するとは考えられず、最も多く検査を受注している一般

財団法人日本食品分析センターは、食用目的外の茶葉のニコチン分析におい

て定量下限0.1ppmでの検査受注を辞めている。さらに、取引者と需要

5 者の認識が同様であるとも限らない。原告の提出する陳述書(甲55)は、

卸業者名の記載がなく、回答者を誤導する説明をしており、信用性が低い。

原告の主張する本件商品と他の商品の比較による違いは、定量下限0.1

ppmの分析で、本件商品はニコチンが検出され、原告商品(The Third)

では検出されなかったことであるが、両商品には茶葉の内因性由来のニコチ

10 ンが含まれている以上、比較方法及びそれに基づく主張は誤っている。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、原告の請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断す

る。その理由は、後記2のとおり当審における当事者の補充主張に対する判断

を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3(原判決11頁20行目

15 から20頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用するが、そ

の要旨は、次のとおりである。すなわち、「本件表示が本件商品の品質等誤認

表示(不競法2条1項20号)に当たるか否かは、本件表示が、本件商品につ

いての需要者の需要を不当に喚起し、被告らが不当に競争上優位に立つことに

なるか否かにより判断すべきである。本件商品は、客観的には、定量下限を0.

20 1ppmとする分析結果において0.1〜0.4ppmのニコチンを含有する

ものの、茶葉のニコチン含有量が1ppm(乾物重当たり)以下であれば、茶

樹自身が生合成した内因性由来のものと考えられるとの報告や、0.1〜1p

pm程度の非常に低い濃度のニコチンであれば生理活性とは関係ない可能性が

あるとの指摘があり、農薬残留基準においてトウモロコシ等の53食品のニコ

25 チンの値が2ppmと定められ、茶葉との間で特段の差異を設けるべき必要性

が認められないことも踏まえると、茶樹自身が生合成した内因性由来の1pp



4
mを下回る程度のニコチンは、人が摂取しても問題はないと評価されていると

考えられる。公的機関等による監視、規制等においても、ニコチン含有量1p

pm以下の電子たばこの取締りはされておらず、茶葉を原料とする他の同種商

品(非たばこ加熱式スティック)の広告では「ニコチン0」などとともに、定

5 量下限1ppmでの分析結果としてニコチンが検出されなかった旨の記載があ

る。他方、定量下限0.1ppmとする分析結果によりゼロであったとしても、

当該定量下限を下回る量のニコチン成分が含まれている可能性はある。本件表

示は、ニコチンの含有量を科学的な正確さをもって示す目的のものではなく、

身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分が含有されていないこと

10 を示すためのものである。これらの事情を考慮すると、本件表示に接した需要

者において、本件商品におけるニコチン含有の有無及び量に関して、身体及び

精神に与える影響の観点から他の同種商品より優れたものと認識するものとは

いえないから、本件表示が、需要者の需要を不当に喚起し、被告らが不当に競

争上優位に立つことになるものとは認められず、原告の請求は理由がない。」

15 2 当審における当事者の補充主張について

? 原告は、国内外において茶を含む物質のニコチン含有量を分析する場合、

現時点では、定量下限を0.1ppmに設定することが標準的であるなどと

主張する。

しかしながら、一般財団法人日本食品分析センターは、原審令和5年7月

20 7日付け調査嘱託に対する同月24日付け回答書において、加熱式たばこ等

で「ニコチン0」を表示するために管理しなければならないニコチンの値に

ついては、法的基準や業界団体の基準を含む公の設定がないため、同財団は、

加熱式たばこ等の原料中のニコチンの分析試験においては、分析試験機関と

して十分な精度を確保することができる定量下限1ppmで受託しており、

25 一方、茶葉が食用目的で用いられる場合は、食品衛生法において食品として

の茶葉のニコチン残留農薬基準値が0.01ppmと設定されているため、



5
精度を確保することができる定量下限0.1ppmで受託しているが、加熱

式たばこ等に用いられる茶葉など、茶葉が食用目的以外に用いられる場合に

は、食品衛生法上の規制を受けないため、定量下限1ppmのみで受託して

いる旨を回答している。また、前記引用した原判決のとおり、茶葉を原料と

5 する他の同種商品の広告においても定量下限1ppmでのニコチン含有量の

分析結果が掲載されていることなどに照らすと、本件のような茶葉を原料と

する非たばこ加熱式スティックのニコチン含有量の分析において、定量下限

を0.1ppmに設定することが標準的と認めることは困難というべきであ

る。

10 よって、原告の前記主張を採用することはできない。

? 原告は、「0mg」などの本件表示に接した取引者及び需要者は、本件商

品にはニコチンを一切含まないと認識する(甲55)などと主張する。

しかしながら、前記のとおり、本件商品は、茶葉を原料とする非たばこ加

熱式スティックであり、本件表示の目的は、本件商品の含有する成分が茶葉

15 と同様であって身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量の成分を含有

していないことを示すことである。本件商品のニコチン含有量は0.1〜0.

4ppmであり、定量下限1ppmとする分析結果では含有量がゼロとなる

ところ、前記引用した原判決のとおり、定量下限1ppmとする分析結果に

よりゼロとなる程度のニコチンの含有量は身体及び精神に悪影響を与えるよ

20 うな程度の量ではないと考えられているから、本件表示における「ニコチン

ゼロ」「ニコチン0mg」等は、本件商品の品質及び内容について誤認させ

るような表示であるということはできない。本件表示に接した需要者は、本

件商品が身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量のニコチンを含有し

ていないことを示しているものと認識することができるのであって、当該認

25 識には誤りはないから、本件表示が本件商品の品質及び内容について誤認

せるような表示であるということはできず、不競法2条1項20号該当性は



6
認められないというべきである(仮に科学的な正確さをもって含有量を示す

ことを目的とする表示であれば、定量下限0.1ppmとする分析結果によ

ってニコチン含有量が「ゼロ」であったとしても、分析の際の定量下限の設

定を変更し、より精度の高い分析をした場合にはニコチンが含有されている

5 ことが判明する可能性がある以上、原告商品においても「ニコチンゼロ」

「ニコチンレス」(甲6)等と表示することはできないはずである。原告の

提出する証拠〔甲55〕は、各商品について定量下限0.1ppmとするニ

コチン含有量の分析結果を比較して卸売業者の認識を質問した結果にすぎず

(定量下限1ppmとする分析結果の比較に基づいた場合には、回答は異な

10 るものになると考えられる。)、前記のとおり、定量下限を0.1ppmに

設定することが標準的であるとは認められない以上、当該証拠は、本件表示

の不競法2条1項20号該当性に関する前記認定判断を左右するに足りるも

のではない。)。

よって、原告の主張を採用することはできない。

15 ? 原告は、定量下限0.1ppmで分析すると、客観的には、本件商品から

ニコチンが検出され、他の非たばこ加熱式スティックから検出されないが、

本件表示に接した需要者は、本件商品はニコチンを一切含まないと認識し、

他の商品より優れたものと認識することになるなどと主張する。

しかしながら、前記のとおり、本件表示は、本件商品が身体及び精神に悪

20 影響を与えるような程度の量のニコチンを含有していないことを示すことを

目的とするものと認められ、定量下限を1ppmとする分析結果においてニ

コチンが検出されなかった非たばこ加熱式スティック商品(原告商品もこれ

に含まれる。)は、いずれも身体及び精神に悪影響を与えるような程度の量

のニコチンを含有するものではないという意味において同等である。本件表

25 示は、本件商品のニコチン含有量を、科学的正確性をもって示すことを目的

とするものではなく、定量下限を1ppmとする分析結果によりニコチンが



7
検出されないレベルの各非たばこ加熱式スティック商品の中で、さらにニコ

チンの含有量に差があったとしても、これにより本件表示が需要者に対し本

件商品を他の商品よりも「優れたもの」と認識させるような表示になるとい

うことはできない。本件商品が前記レベルを満たす商品である以上、「ニコ

5 チンゼロ」「ニコチンフリー」等の表示をすることは社会通念上許容される

と考えられるから、本件表示は、本件商品についての需要者の需要を「不当

に」喚起するものということはできず、本件表示により被告らが「不当に」

競争上優位に立つことになるとも認められない。

よって、原告の前記主張を採用することはできない。

10 3 小括

以上によれば、原告の本件請求は、いずれも理由がない。そして、当事者の

主張に鑑み、本件記録を検討しても、上記認定判断を左右するに足りる的確な

主張立証はない。

第4 結論

15 よって,これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却す

ることとして、主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部



20




裁判長裁判官

清 水 響



25




8
裁判官

5 菊 池 絵 理




裁判官

10 頼 晋 一




9