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事件 令和 6年 (ネ) 1775号 違約金請求控訴事件
令和7年1月23日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 令和6年(ネ)第1775号 違約金請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所令和5 年(ワ)第829号) 口頭弁論終結日 令和6年11月6日 5判決
控訴人(一審原告) 株式会社エイチ・エム・グループ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 神田孝 10 同井嶋倫子
被控訴人(一審被告) 株式会社リアルクリエイティブ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 南石知哉 15 同訴訟代理人弁護士 富井和哉
同訴訟復代理人弁護士 川内康雄
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2025/01/23
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙マニュアル等目録記載20 1の書類(複写物)を返還せよ。
3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
25 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、2000万円及びこれに対する令和5年3月4 日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、英語学習教室の役務の提供に関する広告、価格表若しくは取引 書類に原判決別紙被告標章目録記載1及び2の各標章を付して展示し、頒布し、
又はこれらを内容とする情報に同標章を付して電磁的方法により提供してはな 5 らない。
4 被控訴人は、原判決別紙チラシ目録記載のチラシから、前項の各標章を抹消 せよ。
5 被控訴人は、原判決別紙マニュアル等目録記載の書類、データ並びにこれら を印字した紙媒体及び複製した電磁的記録を控訴人に返還せよ。
10 6 被控訴人は、原判決別紙マニュアル等目録記載1ないし4及び7ないし12 のマニュアルに記載された営業手法及び教育手法を用いて、英語学習教室の宣 伝広告、英語学習教室への入会勧誘及び教育指導をしてはならない。
7 被控訴人は、原判決別紙マニュアル等目録記載13ないし34記載の書類及 びこれらの複製を英語学習教室の経営のために使用してはならない。
15 8 被控訴人は、控訴人に対し、457万5054円及びこれに対する令和5年 3月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
9 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
10 仮執行宣言
事案の概要
20 以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。
1 本件は、本件商標権を有し、被控訴人との間で個別指導塾のフランチャイズ 契約(本件契約)を締結していた控訴人が、被控訴人に対し、以下の各請求を する事案である。
(1) 被控訴人による本件契約上の競業避止義務違反(債務不履行)に基づく、
25 違約金(約定の損害賠償予定額)2000万円及びこれに対する遅延損害金 の支払請求(前記第1の2) (2) 被控訴人による被告標章の使用が本件商標権の侵害であることを前提とす る下記アないしウの各請求 ア 商標法36条1項に基づく被告標章の使用の差止請求(前記第1の3) イ 同条2項に基づく本件チラシからの被告標章の抹消請求(前記第1の4) 5 ウ 民法709条、商標法38条2項に基づく損害金237万5054円及 びこれに対する遅延損害金の支払請求(前記第1の8)(後記(3)と選択的) (3) 被控訴人による被告標章が付された本件チラシの配布行為が、不競法2条 1項1号の不正競争(混同惹起行為)に該当することを前提とする、不競法 4条5条2項に基づく損害金237万5054円及びこれに対する遅延損10 害金の支払請求(前記第1の8)(前記(2)ウと選択的) (4) 被控訴人が控訴人から提供された受験指導に関するノウハウ(営業秘密) を不正の利益を得る目的で使用したことが、不競法2条1項7号(営業秘密 不正使用)の不正競争に当たることを前提とする下記アないしウの各請求 ア 不競法3条1項に基づく物件1ないし4及び同7ないし12に記載され15 た営業手法及び教育手法の使用の差止請求(前記第1の6) イ 不競法3条1項に基づく物件13ないし34及びその複製の使用の差止 請求(前記第1の7) ウ 不競法4条5条3項3号に基づく損害金220万円(使用料相当額) 及びこれに対する遅延損害金の支払請求(前記第1の8)20 (5) 本件契約の終了に伴う返還請求権に基づく本件マニュアル等並びにこれら を印字した紙媒体及び複製した電磁的記録の返還請求(前記第1の5) 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、これを不服とする控訴 人が本件控訴を提起した。
2 前提事実は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第2の325 (4頁21行目から8頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引 用する。
(1) 原判決5頁9行目の「同年10月5日に」の後に「JR奈良駅前(賃借物 件)に」を加える。
(2) 原判決5頁11行目から同頁12行目にかけての「前記の本件教室の開校 の頃に、賃借物件のフロアを本件教室とLHとで折半する形で」を「前記の 5 本件教室の開校に合わせて、賃借物件の同一フロアに隣接してLHを開設す ることとし、」に改める。
(3) 原判決5頁18行目から同頁19行目にかけての「Wam」を「「個別指 導Wam」(以下、個別指導塾である「個別指導Wam」についても単に 「Wam」という。)」に改める。
10 3 争点は、原判決「事実及び理由」欄第2の4(8頁12行目から同頁19行 目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当事者の主張は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第3 (8頁20行目から13頁25行目まで)に記載のとおりであるから、これを 引用する。
15 (1) 原判決10頁25行目の「原告の本件商標」から同頁26行目の「いない ため」までを「被告標章を一切営業に用いていないため」に改める。
(2) 原判決12頁9行目及び同頁13行目の「本件商標」を「被告標章」にそ れぞれ改める。
(3) 原判決12頁21行目の「本件商標を不正に使用したこと」を「本件商標20 と同一又は類似する被告標章を使用したこと」に改める。
(4) 原判決13頁14行目冒頭から同頁15行目末尾までを「被控訴人は、被 告標章を使用することで控訴人の本件商標権を侵害しており、かかる侵害行 為の差止めや本件チラシからの被告標章の抹消を求める必要がある。」に改 める。
25 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第4の1(14頁1行 目から15頁24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決14頁6行目から同頁7行目にかけての「被告が開校したLHの塾 長の委託を受けた」を「同年8月に被控訴人が開校したLHの運営の委託を 5 受け、塾長に就任した」に改める。
(2) 原判決14頁14行目の「本件契約に至り、これに基づき」を「本件契約 を締結し、本件マニュアル等の交付を受け」に改める。
(3) 原判決14頁25行目の「訴訟」を「関連事件に係る訴訟」に改める。
(4) 原判決15頁20行目の「父親役の男性」を「父親役を演じる控訴人の従10 業員」に改める。
2 争点1(競業避止義務違反の有無)について 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第4の2(15頁25 行目から17頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決16頁12行目の「LHに係る事業」を「従来から営んできたLH15 に係る事業」に改める。
(2) 原判決16頁13行目の「(そのように」から同頁15行目の「いうべき である。)」までを削る。
(3) 原判決16頁20行目冒頭から同頁24行目末尾までを次のとおり改める。
「また、控訴人は、当審において、被控訴人が本件契約締結以降に営んでい20 るLHに係る事業は従来から営んでいたものとは異なり、控訴人提供に係る 個別指導塾の指導方法を導入した新たな業態であるから、本件許容条項を理 由に競業避止義務違反であることを免れない旨を主張する。しかし、前記認 定のとおり、被控訴人経営のLHは従来から英語ないし英会話の指導のみな らず、中高生の学校生活に必要な英語知識の指導や受験指導を行っていたも25 のであるところ、証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、そもそもP1は 本件マニュアル等の存在すら知らされておらず、本件教室との間でWamの 指導ノウハウ等の共有はされていなかったことが認められるから、LHにお いて、本件契約締結以降、控訴人主張の指導方法を導入したとは認められず、
他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。そして、仮に、被控訴人の営 むLHに係る事業の内容が、本件契約締結後に控訴人の事業の影響を受けて 5 変更された部分があるとしても、控訴人が指摘する変更点(設備の使用、保 護者への勧誘方法及び合格実績の表示)は、後記5の争点4で判示するとお り営業秘密に該当するものでもなく、学習塾一般に見られるものであって、
同業者であれば控訴人とは関係なく改善改良が試みられ得るものと考えられ るから、上記変更点があることを理由に被控訴人が従来から営んでいたLH10 に係る事業を引き続き行うことが競業避止義務違反に当たるということはで きないというべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用できない。」 3 争点2(本件商標権侵害の有無)について 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第4の3(17頁2行15 目から18頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決17頁21行目の「被告標章1」を「被告標章」に改める。
(2) 原判決17頁24行目の「認めるに足りる証拠もない」の後に「(なお、
控訴人は、当審において、本件教室が閉校してから2年近く経過した時点で もLH内には本件チラシが残されていたこと、本件チラシは初期ロットでも20 大量に印刷されていたことなどの事情を指摘するが、本件契約終了後に本件 チラシが他で配付されていた事実をうかがわせる証拠もない以上、これらの 事実をもって直ちに被控訴人がLHの見学者・相談者等に対し本件チラシを 交付していたとの事実を認めるのは困難である。)」を加える。
4 争点3(不競法2条1項1号の不正競争(混同惹起行為)該当性)について25 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第4の4(18頁2行 目から同頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決18頁6行目の「被告標章1」を「被告標章」に改める。
(2) 原判決18頁8行目末尾に改行して次のとおり加える。
「この点に関し、控訴人は、P1が本件チラシを交付する際、Wamは既に 閉校となっているので無料授業のプレゼントはできない旨を説明しただけで 5 は、Wamとの混同を防止することにはならない旨を主張する。しかし、P 1が本件チラシを交付したのは、本件入会案内を交付してLHについての説 明をした本件相談1の終了間際であって本件チラシを用いてLHについての 説明をしたわけではないし、また、求められて本件チラシを交付した際、主 張に係る説明のみでなく、被控訴人は本件チラシの記載事項のうちWamに10 関する事項は無関係ないし事実と異なる旨の説明も加えており、これにより 混同を生じるおそれは打ち消されているといえるから、控訴人の上記主張は、
採用できない。」 5 争点4(不競法2条1項7号の不正競争(営業秘密不正使用)該当性)につ いて15 原判決19頁6行目末尾に改行して次のとおり加えるほか、原判決「事実及 び理由」欄第4の5(18頁12行目から19頁20行目まで)に記載のとお りであるから、これを引用する。
「この点に関し、控訴人は、本件マニュアル等については、原審及び別件訴 訟において、不競法2条6項に規定する営業秘密に該当することを前提とし20 て閲覧等制限の決定がされているところ、本件相談2におけるP1の説明は 本件マニュアル等の内容に沿うものであって、控訴人の営業秘密を不正に使 用したことが明らかであるなどと主張する。しかし、そもそもP1は本件マ ニュアル等の存在すら知らされておらず、本件教室との間でWamの指導ノ ウハウ等の共有はされていなかったというのであるから、本件相談2におい25 て用いた情報は同人の英語指導の経験等に基づく知見に属する範囲のものに すぎないというべきである。したがって、控訴人が指摘する点を踏まえても、
上記判断は左右されない。」 6 争点7(本件マニュアル等の返還請求の可否)について 証拠(甲70、71)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件契約の 終了後も本件マニュアル等のうち原判決別紙マニュアル等目録記載1の書類 5 (物件1)につき、関連事件に係る訴訟目的のため複写し、これを被控訴人代 理人事務所において保管していることが認められる(本件契約終了後、それ以 外の本件マニュアル等を被控訴人が保管している事実をうかがわせるものはな く、被控訴人がWamを既に閉校している以上、これらは廃棄されたものと推 認される。)。
10 そして、前記前提事実(3)エのとおり、本件契約では、その終了の効果として、
「被控訴人は、本件契約により貸与若しくは供与された機材、マニュアル、そ の他の資料、書類等の原本及びコピーについて直ちに控訴人に返却し、又は控 訴人の指示に基づき破棄する等の措置をとらなければならない。」との規定 (13-6条3項)が置かれているから、本件契約が令和3年8月31日に終15 了した以上、被控訴人は、現物が存在している本件マニュアル等の一部である 物件1の複写物を控訴人に対して直ちに返却すべき義務を負うことになる。こ の点、被控訴人は、物件1を訴訟目的のために保管しているとして上記規定に 基づくマニュアル等の返却義務を争うが、判決の確定すなわち訴訟の終了によ り、上記規定に基づくマニュアル等の返却義務も確定する関係にあるから、訴20 訟目的のために保管していることは上記規定に基づく返却義務を免れる理由に なり得ない。
したがって、被控訴人は本件マニュアル等のうち物件1の複写物について、
これを控訴人に返却する義務があるというべきである。
7 以上によると、控訴人の請求は、本件マニュアル等の返還請求のうち物件125 の複写物の返還を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれ も理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の請求を全部棄却 した原判決は一部相当ではない。よって、原判決を一部変更することとして (仮執行宣言は相当でないから、これを付さない。)、主文のとおり判決する。