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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10051損害賠償請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成11ネ3070不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成24ワ13282不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ15343不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成22ネ10077不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 他人の商品 /  類似性(類似) /  外観 /  商業登記 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  差止請求(差止) /  過失 /  共同不法行為 /  逸失利益 /  利益額(利益の額) /  ライセンス /  ただ乗り(フリーライド) /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  損害賠償 /  損害額 /  販売数量 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 26431号 商品形態模倣行為差止等請求事件
原告 株式会社ビップ
原告 株式会社ビップビジネス
原告両名訴訟代理人弁護士 五月女 五郎
同 押金隆広
被告A
訴訟代理人弁護士 島田康男
被告 株式会社サンメイト
訴訟代理人弁護士 矢部耕三
同 深井俊至
同 岡本義則復代理人弁護士 嶋田英樹
被告 有限会社奈良農場
訴訟代理人弁護士 宇佐見 方宏
同 奥田圭一
同 宮崎良夫
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/02/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告A及び被告株式会社サンメイトは,原告らに対し,連帯して885万9033円及びこれに対する被告Aは平成13年12月21日から,被告株式会社サンメイトは同月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を,いずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を被告A及び被告株式会社サンメイトの連帯負担とし,その余を原告らの連帯負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
原告らの請求
1 被告らは,別紙物件目録記載の製品を製造し,譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸し渡しのために展示し,輸出し,輸入してはならない。
2 被告らは,その本店,営業所及び工場において占有する前項記載の製品の完成品及び半完成品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが,未だ製品として完成に至らないもの。)を廃棄し,その製造に必要な金型等を廃棄せよ。
3 被告らは,原告らに対し,連帯して2981万0521円及びこれに対する被告A及び被告有限会社奈良農場は平成13年12月21日(訴状送達の日の翌日)から,被告株式会社サンメイトは同月19日から(前同)各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 当事者 (1) 原告ら 原告株式会社ビップ(以下「原告ビップ」という。)は,平成3年4月30日に中古自動車販売業を主たる目的として設立され,商業登記簿上,平成10年8月28日付け登記をもって,おからを主原料としたリサイクル商品の製造・販売等を事業目的に加えた株式会社である。
原告ビップは,平成10年6月3日,被告A及び訴外Bと共に,発明者を訴外Bとし,発明の名称を「筒状吸収材(ペット用糞尿処理材)及びその製造方法」とする発明を特許出願した(特願平10-172282号。以下,この出願に係る発明の内容を便宜上「本件技術」ということがある。)。なお,上記出願に係る発明については,被告Aの共有持分に係る特許を受ける権利が原告ビップに譲渡された後,平成11年12月21日に公開されたが(特開平11-347404号),平成15年5月16日付けで拒絶査定を受けた。
原告株式会社ビップビジネス(以下「原告ビップビジネス」といい,原告ビップと原告ビップビジネスを併せて「原告ら」という。)は,平成10年10月6日,ペット用品,飼料の研究・開発・販売及びペット用健康器具の製造販売等を目的とする株式会社として設立された,原告ビップの関連会社である。
原告ビップビジネスは,原告ビップから上記発明に係る技術の開示を受け,これを用いておから等の食物残滓を原料とした円筒状多孔質体のペット用糞尿処理剤(猫砂)(以下「原告商品」という。)を製造し,原告ビップと共同で「エコシードV1」の商品名でこれを販売している。
(2) 被告ら 被告Aは,広島市所在の訴外株式会社エコシード(以下「訴外エコシード」という。)及び訴外株式会社安芸精器(以下「訴外安芸精器」という。)の各代表者として,これらの会社を経営していたものであるが,これらの会社が事実上倒産した後,平成10年10月1日ころから平成13年6月ころまで,原告らにおける事実上の工場長として原告商品の製造販売に携わっていた。なお,被告Aは,平成13年9月下旬ころ以後は,被告株式会社サンメイト(以下「被告サンメイト」という。)に雇用され,同被告の下で働いている。
被告サンメイトは,平成10年10月6日に設立されたペット用品の販売等を目的とする株式会社である。同被告は,平成12年3月21日ころ,原告商品につき原告らと販売総代理店契約を締結し,以後原告商品を「トップサンド21」の商品名で販売してきた。
被告有限会社奈良農場(以下「被告奈良農場」という。)は,平成12年10月19日ころから平成13年4月19日ころまで,原告商品の原料となる乾燥おからを被告サンメイトを介して原告らに納入していた。被告奈良農場は,平成13年7月ころ以後,被告Aの技術指導の下,乾燥おからを主原料とする円筒状多孔質体の猫砂を自ら製造し,被告サンメイトに納入している。そして,被告サンメイトは,原告らから猫砂の供給を受けていたときと同様に,これを「トップサンド21」の商品名で販売している(以下,被告奈良農場が製造し,被告サンメイトが販売する,おからを主原料とした円筒状多孔質体のペット用糞尿処理剤を「被告商品」という。)。
2 訴えの要旨 原告らは,被告らが原告商品と同じ円筒状多孔質体の猫砂である被告商品を製造・販売する行為は,「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡」する行為に該当すると主張して,不正競争防止法2条1項3号,3条に基づき,被告商品の製造・販売の差止等を求めるとともに(第1,1及び2),同法4条,5条に基づき,損害賠償金の支払を求めている(第1,3)。
また,原告らは,仮に被告らの行為が不正競争行為に該当しないとしても,被告らは,共謀の上,被告Aが事実上の工場長として原告ら会社に在籍した当時に得た,円筒状多孔質体の猫砂の製造に関する原告らの技術を盗用し,被告奈良農場の工場において,開発コストをかけることなく同種の猫砂(被告商品)を製造し,原告商品よりも廉価で販売しているものであり,これら一連の行為は一般不法行為(共同不法行為。民法719条,709条)に該当すると主張して,不法行為責任に基づき損害賠償金の支払を求めている(第1,3)。
さらに,原告らは,被告Aは機密を保持する旨の誓約に基づき,被告サンメイトは販売総代理店契約に基づき,上記原告らの技術を第三者に開示しない旨の秘密保持義務を負っているところ,上記被告両名はいずれもその義務に違反したと主張して,これら被告両名に対し,いずれも契約上の秘密保持義務違反を根拠に損害賠償金の支払を求めている(第1,3)。
3 前提となる事実(当事者間で争いがないか,あるいは該当箇所に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。) (1) おからを利用した製品の研究・開発 被告Aは,かねてから,おからを利用した製品の開発に取り組んでいた。
同被告が関わったおからを利用したバラ状緩衝材の製造方法(特願平7-297490号)に係る発明は,平成7年10月に特許出願され,平成10年2月に特許査定を受け,その後訴外安芸精器を権利者として設定登録された(特許第2843810号。甲12の1〜2,13の1)。
被告Aは,上記緩衝材の製造・販売を主たる目的として,平成8年2月に訴外エコシードを設立した。また,その一方で,おからを利用した猫砂(ペット用糞尿処理剤)の開発を進め,同年12月には,上記猫砂の製造・販売を主たる目的として,訴外C及び同Dと共に,訴外株式会社ネア・コーポレーション(以下「訴外ネア・コーポレーション」という。)を設立した。
なお,訴外ネア・コーポレーションは,平成9年3月,発明者を被告Aとし,発明の名称を「動物用糞尿処理・消臭材及びその製造方法」とする,円柱状の猫砂に係る発明を特許出願した(なお,訴外ネア・コーポレーションは,平成10年4月に「株式会社環境経営総合研究所」に商号変更し,同発明は,平成14年3月15日,権利者を上記環境経営総合研究所として設定登録された。丙5,9,13)。
(2) 訴外スーパーキャットによる円柱状猫砂の販売 被告Aが代表取締役を務める訴外エコシードは,遅くとも平成10年1月ころには,おからを主原料とする円柱状多孔質体の猫砂を製品化し,訴外エコラル株式会社(以下「訴外エコラル」という。)に委託して製造させた上,「エコシードプラス」の商品名で販売していた。しかし,上記猫砂には吸水力が弱いなどの難点があり,商品としての完成度は必ずしも高くなかった(証人B,乙2〜4,丙9)。
訴外Bは,平成9年12月に訴外株式会社モルテン戸河内の取締役を退任し,平成10年1月に技術顧問として訴外エコシードに入社したが,入社直後から,訴外エコシードが上記猫砂の製造を委託する訴外エコラルに常駐し,その商品としての完成度を高めることに取り組んだ(証人B)。
そのころ,訴外株式会社スーパーキャット(以下「訴外スーパーキャット」という。)は,被告Aの提案を受け,訴外エコシードから上記円柱状猫砂を仕入れて販売することを具体的に検討するようになった。そして,平成10年4月ころには訴外エコシードとの合意に達し,同年5月ころから,訴外エコシードからOEM供給を受けた円柱状猫砂を「おからサンド」の商品名で販売し始めた(乙2)。
また,訴外スーパーキャットは,平成10年5月18日ころには,訴外エコシードから,抗菌剤であるアモルデンを含有しない円柱状猫砂のサンプル及び当時訴外エコシードが開発中であった円筒状猫砂のサンプルの提供を受けた(証人B,乙1〜2)。
(3) 「共同経営契約書」(甲11)の作成 ところで,被告Aは,平成10年1月31日,訴外エコシードの代表者として,東京で開催された「全国経営者団体連合会 新春セミナー」において,おからの再生利用事業について講演した。
上記セミナーに出席していた原告ら代表者Eは,環境問題に取り組む被告Aの姿勢に共感し,名刺交換したことがきっかけとなって同被告と知り合った(甲38,丙9)。
Eは,同年2月17日,被告Aが在住していた広島市内に同被告を訪ねたが,その際,同被告から,前記緩衝材が世界パッケージ賞を受賞するなど,訴外エコシードの開発した商品はすばらしい商品である旨の説明を受けた。また,商品の開発には多額の費用がかかること,多くの人が上記商品を取り扱いたいと望んでいることなども聞かされた。
Eは,この訪問を通じて,前記緩衝材及び円柱状猫砂等の商品を原告ビップが扱うことや,当時訴外エコシードが開発中であった前記円筒状猫砂を,訴外エコシード及び被告Aの技術協力を得て同原告において製品化することを考えるようになった。
訴外エコシード及び原告ビップは,同年3月21日ころ,「共同経営契約書」と題する書面(甲11)を作成した。
上記書面においては,訴外エコシードを「甲」,原告ビップを「乙」とした上で,両者は,同日付けで「共同経営契約を締結し,今後一切の業務を共に営み,事業の発展と利益の追求を目的とし協力することを約束する。」ものとされている。その上で,下記のとおりの条項が定められ,末尾署名押印欄の「甲」の欄には被告A及び訴外Bの各署名押印が,同「乙」の欄には原告ビップ代表者E及び同人の実父であるFの署名(ないし記名)押印が,それぞれ存在する。
第1条 甲は乙に対して,商品開発・販売並びに甲の営む一切の業務を乙に対して公開し,乙の承諾を得た上でなければその業務を取り扱うことが出来ないことを受諾する。
第2条 乙が甲に対して,営業上必要とする情報並びに経営内容の公開を求めたとき,甲は速やかにその必要書類を揃え提示するものとする。
第3条第5条 (省略) また,訴外エコシード及び原告ビップは,上記共同経営契約書に引き続き,平成10年3月31日付け「特許及び販売権利に関する覚え書き」と題する書面(甲13の1)を作成した。
上記書面においては,「株式会社エコシードと株式会社ビップは,平成10年3月21日付共同経営契約書に基づき下記条項を追加することに合意した。」とされており,その上で,下記のとおりの条項が定められ,末尾署名押印欄には,原告ビップ代表者E及び訴外安芸精器代表者Aの記名押印がそれぞれ存在する。
1,平成10年3月11日,有限会社安芸精器が保有する特許(特願平7-297490,名称バラ状緩衝材の製造方法)は株式会社エコシードと株式会社ビップの共同所有とする為に,速やかに名義変更を行う。
今後開発されるA氏に関連する,特許申請は株式会社エコシードと株式会社ビップの両者にて申請するものとする。
2,株式会社ビップが株式会社エコシードの関連商品を,新規事業として始める場合には,生産及び販売の権利は株式会社ビップが保有するものとする。
但し,この新規事業により得られた利益の配分は,事業計画に基づき,両者間にて,協議する。
3,Eは平成10年3月31日までに株式会社エコシードに上記の名義変更代金として金壱千萬円を貸付けるものとする。尚,上記返済については株式会社エコシード発行の平成10年9月30日付けの手形にて返済するものとする。
4,株式会社エコシードは平成10年3月31日までに安芸精器の委任状を株式会社ビップに渡すものとする。
原告ビップは,このようにして成立した取引関係に基づき,平成10年4月ころから,訴外エコシードから緩衝材の供給を受け,これを「スーパーエコシード」の商品名で販売した。また,同年6月ころからは円柱状猫砂の供給を受け,これを「スーパーエコシードV1」の商品名で販売した(原告ら代表者E)。
(4) 「金銭貸借契約証書」(甲14の1)等の作成 原告ビップは,被告Aの求めに応じ,前記バラ状緩衝材の特許発明に係る権利の一部を同原告に譲渡する代金及びその手続費用という名目の下,平成10年3月31日,第一勧業銀行(当時)広島支店の訴外エコシード名義の普通預金口座に1000万円を,同年4月27日,同支店の被告A名義の普通預金口座に250万円を,それぞれ振り込んだ(甲13の3,甲38)。また,前記円筒状猫砂の製造機械の購入ないし設置費用という名目の下,同年4月30日,訴外エコシード名義の上記普通預金口座に1700万円を,同年5月11日,同口座に150万円を,それぞれ振り込んだ(甲13の3,甲38)。
他方,訴外エコラル,被告A及び原告ビップは,同年4月27日,発明者を訴外G,同H及び同Bとし,発明の名称を「動物用糞尿処理・消臭材及びその製造方法」とする発明を特許出願した(なお,この発明については,同年12月11日付けで,被告Aの共有持分に係る特許を受ける権利を訴外エコラル及び原告ビップが承継する旨の届出がされた上,平成11年11月9日に公開された。甲36の1〜3)。また,訴外B,被告A及び原告ビップは,前記1(1)記載のとおり,同年6月3日,発明者を訴外Bとし,発明の名称を「筒状吸収材及びその製造方法」とする発明を特許出願した(特願平10-172282号。なお,前記1(1)記載のとおり,この出願に係る発明については,被告Aの共有持分に係る特許を受ける権利が原告ビップに譲渡された上,平成11年12月21日に公開されたが(特開平11-347404号),平成15年5月16日付けで拒絶査定を受けた。)。
上記のような経緯を経て,訴外エコシード及び原告ビップは,平成10年6月11日ころ,@ 「金銭貸借契約証書」と題する書面(甲14の1)及びA 「譲渡担保設定契約書」と題する書面2通(甲14の2の1,甲14の2の2)の合計3通の同日付け書面を作成した(甲38及び弁論の全趣旨)。
上記@の書面においては,「貸主(甲)」を原告ビップ,「借主(乙)」を訴外エコシード,「連帯保証人」を被告A及び訴外安芸精器とし,原告ビップ代表取締役E,訴外エコシード代表取締役A,被告A及び訴外安芸精器代表取締役Aの署名ないし記名がされ,それぞれの代表印等が押印された上,下記のとおりの条項が定められている(甲14の1,甲38)。
第1条 甲は平成10年4月27日に金2,500,000円を渡し,乙はこれを受取借用した。
第2条 乙は元金を平成11年11月30日までに甲方に持参もしくは送金して甲に弁済しなければならない。
第3条第6条 (省略) 上記Aの書面のうち,2万円の収入印紙の貼付された「譲渡担保設定契約書」(甲14の2の1)においては,「債権者(甲)」を原告ビップ,「債務者(乙)」を訴外エコシードとした上で,下記のとおりの条項が定められており,末尾の署名押印欄には,原告ビップ代表取締役Eの署名押印及び訴外エコシード代表取締役Aの記名押印がそれぞれ存在する(甲14の2の1,甲38。なお,もう1通の「譲渡担保設定契約書」(甲14の2の2)については,収入印紙の貼付がない上,その記載内容は甲14の2の1とほとんど同一であるので,掲記は省略する。)。
第1条 甲は乙に対し,平成10年3月31日から平成10年5月11日までに金36,700,000円を渡し,乙はこれを受取り借用した。
(一) 乙は元金を平成10年8月31日までに甲方に持参もしくは送金して甲に弁済しなければならない。
(二)〜(三) (省略) 第2条 乙は,乙の甲に対する前条記載の債務の支払いを担保するため,その所有する別紙目録記載の特許権及び特許を受ける権利(以下両者を含めて特許権という)を甲に譲渡し,甲は占有改定の方法によりその引渡しを受けることとし,更に乙は甲に対して,その製造に必要な設計図,運転条件等の技術資料を開示し技術指導を行うものとする。
第3条 甲は乙より,前述の特許権の譲渡を受けるにあたり上記弁済期日まで,権利を共有することを承諾した。ただし,本件物件に対する特許料の納付等その他使用によって生ずる一切の費用は乙の負担とする。
第4条 (省略) 第5条 乙が次の各号の一つにでも該当するときは,何ら通知催告をせずに第1条の期限の利益を失い,かつ第3条の共有する権利は当然その効力を失う。
(一) 本契約条項に違反したとき (二) (省略) 第6条 前条の場合には乙は甲にただちに本件物件を現実に引き渡さなければならない。
第7条 前条により甲が本件物件の引渡しを受けたときは,甲は遅滞なく本件物件を適正価格をもって,もしくは任意に処分した代金をもって,第1条記載の元利金及び遅延損害金の弁済に充当する。もしくは乙は本件物件を甲の権利として以後保有し,甲の裁量により利用することも承諾する。
(5) 訴外エコシードの倒産 原告ビップは,前記のとおり,被告Aの求めに応じ,円筒状猫砂の製造機械の購入及び設置費用という名目下に金員を振込送金したが,平成10年6月になっても,上記機械は搬入されなかった。それどころか,同年7月ころになると,訴外安芸精器が不渡り手形を出して,訴外エコシード及び訴外安芸精器は事実上倒産し,被告Aと連絡が取れなくなった。それに伴い,前記訴外スーパーキャットは,同年9月1日からは,円柱状猫砂を製造者の訴外エコラルから直接購入することとし,これを「おからサンド」の商品名で引き続き販売した(原告ら代表者E,乙2,丙9)。
他方,原告ビップが調査した結果,訴外エコシードに多額の金員を支払ったにもかかわらず,前記バラ状緩衝材の特許発明に係る権利は既に第三者(訴外ネア・コーポレーションの後身である前記環境経営総合研究所の代表者)に対する移転手続がされており,また,上記機械の所有権は被告Aではなく第三者(訴外ニッコー)に帰属しており,同被告からこの第三者に対する代金支払いも一切されていないことが明らかとなった。このような状況の同年9月6日ころ,被告AからEに突然電話があり,同被告は,「今から私は死にます」,「最後に一度お会いしてお詫びがしたい。」などと述べた。Eらが広島市内で同被告に会ってみると,同被告は涙を流しながら,「特許権もお金もすべて騙し取られた。」,「ビップとは,緩衝材や猫砂に関するビジネスを本当に一緒にやって行きたかった。」などと説明した。Eらは,同被告の言葉を信じて同情してしまい,また,このままでは訴外エコシード及び被告Aに提供した資金を回収する機会もないまま終わってしまうとの思いもあって,「死んだつもりで恩返しがしたい」,「自分の技術を生かして(円筒状の)猫砂の開発を成功させたい。」との同被告の提案を受け入れることにし,同被告を原告ビップの事実上の工場長として雇い入れることにした(原告ら代表者E)。
このような経緯で,被告Aは,Eらと面談した翌日の同月7日ころ,妻を伴って広島市から原告ビップの所在地である静岡県富士市に転居した。
(6) 円筒状猫砂の開発・製造 被告Aは,上記の経緯により,平成10年9月ないし10月ころから,それまでおからを利用した製品の製造について何らの技術も持ち合わせていなかった原告ビップの工場長として稼働するようになった。ただし,同被告は,事実上倒産した訴外エコシード及び訴外安芸精器の代表者であり,債権者の追及を免れる必要があったことなどから,原告ビップで稼働するに際しては,同原告が用意した工場近くの住居に居住した上,同原告の社員であるIの名を名乗り,また,社会保険や医療保険の加入手続も取らないまま,事実上の社員として稼働した。
平成10年10月6日,猫砂の製造・販売を主たる事業目的として,東京都内渋谷区を本店所在地とする原告ビップビジネスが設立された。
他方,同日,かつて訴外株式会社ゼオライトジャパンに勤務し,猫砂の販売を手がけていたJ及びKは,株式会社サンメイト(被告サンメイト)を設立し,Jが代表取締役に,Kが営業担当の取締役にそれぞれ就任した。
原告らは,同年11月ころ,前記猫砂製造機械の所有者である訴外ニッコーと交渉し,代金1825万円でこれを譲り受けるとともに(原告ら代表者E,甲29の1〜3),同年12月ころには,静岡県富士宮市杉田に工場用地を賃借した。
平成11年2月,上記工場用地に原告ビップ杉田工場が完成し,原告らは,本格的な猫砂生産を開始しようとしたが,訴外ニッコーから購入した上記機械を実際に作動させてみると,この機械は緩衝材用のもので,円筒状猫砂の製造に必要なダイスや乾燥機が備わっていなかったため,同猫砂を製造することができなかった。そこで,原告らは,訴外加藤技研に注文し,約945万円の費用を支払って,円筒状猫砂の製造に必要なダイス及び乾燥機等を製作させ,ようやく円筒状猫砂の製品化にこぎ着けた(甲32の1〜2)。
原告らは,同年5月ころから,上記杉田工場で製造したこの円筒状猫砂を,先に販売していた円柱状猫砂と同じ「エコシードV1」の商品名で販売し始めた。
他方,訴外エコラルにおいても,訴外エコシードの倒産後,それ以前にサンプル商品として製品化していた円筒状猫砂の商品化に取り組んでおり,平成11年10月ころ,訴外スーパーキャットに円筒状猫砂の供給を開始した。訴外スーパーキャットは,そのころから,円筒状猫砂を「パーフェクトおからサンド」の商品名で販売し始めた。
なお,前記1(1)記載のとおり,本件技術にかかる,平成10年6月3日に出願された「筒状吸収材(ペット用糞尿処理材)及びその製造方法」の発明(特願平10-172282号)は,平成11年12月21日に公開された(特開平11-347404号)。
(7) 販売総代理店契約の締結 原告らは,上記の経緯で円筒状猫砂の販売を開始したが,さらなる販売量の拡大を必要としていたところ,平成12年2月ころ,訴外桜食品代表者上原氏の仲介で,被告サンメイトのKと面識を得た。原告ら及び被告サンメイトは,同年3月ころには,同被告が原告らの製造する円筒状猫砂のOEM供給を受け,これに自社商品名を付けて販売する旨の合意に達した。
原告ら及び被告サンメイトは,上記合意を受け,同年3月21日付けで,@「販売総代理店契約書」と題する書面,A「覚書」と題する書面(二箇条からなるもの)及びB「覚書」と題する書面(五箇条からなるもの)の3通の書面を作成した。
これらの各書面においては,原告ら両会社を「甲」,被告サンメイトを「乙」,原告らの製造するコーンスターチ,乾燥おからを主成分とする猫砂を「本製品」とした上,いずれも原告ビップ代表取締役E及び被告サンメイト代表取締役Jの記名・押印がされている(甲17)。
そして,上記@の書面においては,甲と乙は,本製品の売買に関し,下記のとおりの条項を内容とする契約を締結するものとされている。
第1条(販売総代理店指定) @甲は乙に対し,本製品の販売について日本国内の販売総代理店としての権利を与える。
A乙は,本製品を販売するに当り,甲の販売総代理店である旨を表示することができる。
第2条(乙の販売総代理店として権利) @甲は,自社工場及び,資本参加,技術貸与など,関係のある工場で生産される本製品については,すべて乙を販売代理店とする。
A前項について,乙が承諾した事項については,この限りではない。
B(省略) C甲は,乙より指定された副資材を使用し本製品を乙に供給する。
D乙は前項にて制作した本製品を自己の名と計算において販売することができる。
第3条第6条 (省略) 第7条(代金の支払) 甲,乙との代金支払の際,第三者(商社など)が介入する場合は甲,乙それぞれが,その第三者と支払の条件を協議決定する。
第8条(売買価格) @本製品の売買価格は,甲,乙協議の上,別に定めるものとする。
A本製品の売買に前項の第三者が帳合いとして介入する場合は,その帳合い料を含め甲,乙協議する。
第9条(秘密保持) 甲および乙は,本契約および個別契約により知り得た双方の営業上,技術上の秘密(情報)を第三者に開示または漏洩してはならない。
第10条(損害賠償) 甲または乙が,本契約または個別契約の条項に違反し,他の当事者に損害を与えたときは,違反した当事者は損害を蒙った当事者に対し,その損害を賠償するものとする。
第11条(契約解除) 乙につき次の各号に該当する事由が生じた時は,甲は何らかの通知催告を要せず直ちに本契約を解除することができるものとする。
@本契約または個別契約に違反し,甲が相当の期間を定めて是正を催告したにもかかわらず当該期間内に是正がなされないとき。
A〜G(省略) 第12条(省略) なお,上記第7条及び第8条を受けて,原告ら及び被告サンメイトの間で,原告らが同被告に円筒状猫砂をOEM供給するに際しては,前記訴外桜食品を帳合いとして介入させ,同訴外会社に3%のいわゆるマージンを支払う旨の合意がされた。
また,上記Aの書面においては,甲と乙は,甲乙間で取り交わされた上記販売総代理店契約書の第2条,第3条について,下記の内容の覚書を交換するものとされている。
一,乙の指定する副資材にて,甲が製造した本製品を乙は,副資材が甲の工場に納品された月から3ヶ月間毎月最低保証数量として700〜800ケース仕入れることとする。
二,前項の期間3ヶ月については,3ヶ月が終了した時点で再度,甲乙にて期間を延長するかどうかを協議する。
さらに,上記Bの書面においては,甲と乙は,甲乙間で取り交わされた上記販売総代理店契約書の第1条及び第2条について,下記の内容の覚書を交換するものとされている。
一,現在,甲が自社商品として本製品を販売している得意先については,今後乙がすべて,帳合いとして介入する。
但し,乙の契約成立後,株式会社ビップ,株式会社VIPビジネス又はビップグループでのテストケース販売モニター(猫砂販売)については対象外とする。
また,その対象外店(モニター店)については乙の承諾を得て認めるものとする。
二,前項にて取引が開始された場合,乙の帳合い料は,別に定めるものとする。
三,甲が本製品を販売するにあたり,平成12年3月時点で進行中の商談についてはすべて乙に報告しその後,乙に販売を委託する。
四,甲より販売の委託を受けた乙は,自己の責任と計算によって販売する。
五,乙は甲より,販売についての経緯等の報告を求められたとき,速やかにこれを実行する。
(8) 「トップサンド21」の販売 被告サンメイトは,前記販売総代理店契約に基づき,平成12年4月21日ころから,原告らから供給された円筒状猫砂を「トップサンド21」の商品名で販売し始めた。
同被告の販売努力により,「トップサンド21」の販売数量は伸びていき,同年5月末ころには,原告らの杉田工場の生産能力では,被告サンメイトからの注文量に応じきれなくなった。そこで,原告ビップは,猫砂の原材料となるおからの新たな供給元を探し初め,同年7月末ころには,被告サンメイトに対して,乾燥おからの供給元を探してくれるよう依頼した。同被告はこの依頼に応じ,被告奈良農場を新たな供給元として探し出した上で原告ビップに紹介した。被告奈良農場は,同年10月19日から,被告サンメイトを介して乾燥おからを原告らに納入し,原告らはこれを原材料として円筒状猫砂を製造した上,被告サンメイトに供給するようになった。ただし,被告奈良農場が原告らに乾燥おからを納入するに際しては,同被告から被告サンメイトに対し,いわゆるマージンを支払うことになっていた(証人K及び被告奈良農場代表者L)。
このような経緯を経て,トップサンド21の販売数量は概ね順調に伸びていき,平成12年12月ころには,原告らは,静岡県富士市五貫島に新たな工場を建設することを決定した。そして,翌平成13年3月には,同所に新工場(以下「五貫島工場」という。)が完成し,円筒状猫砂の生産能力は大幅に増大したが,前記杉田工場で生産した分については,訴外桜食品が帳合いとして入ったのと同様に,この五貫島工場で生産した分については,訴外ユニバース開発が帳合いとして入ることになった(乙13)。
(9) 被告Aと被告奈良農場 前記のとおり,被告奈良農場は,平成12年10月19日から,被告サンメイトを介して原告らに乾燥おからの供給を開始し,同年11月には,約1億2000万円の費用をかけて,群馬県勢多郡富士見村に工場を新設すべくその基礎工事に着手した(被告奈良農場代表者L)。
ところで,被告奈良農場が原告らに乾燥おからを納入するに際しては,原告ビップの杉田工場に直接納入していたが,被告奈良農場の代表者Lは,おからの品質に問題が生じて同工場を訪れた機会に,そこで「I」と呼ばれ,工場長として働いていた被告Aと知り合った。それ以後,同被告とLは,被告奈良農場が乾燥おからを納入した際には,必ず電話で連絡を取り合って,おからの品質を確認し合う関係となった(丁1)。
被告Aは,原告らの工場長として働く境遇に必ずしも満足しておらず,事実上の倒産状態にあった訴外エコシード及び訴外安芸精器を再建したいと考えており,平成13年3月ころには,Lに対し,約5000万円の設備投資で猫砂の製造が可能になるから,乾燥おからを供給するにとどまらず,自ら猫砂を製造することを考えてみてはどうかと提案した(被告奈良農場代表者L)。
(10) 原告らと被告サンメイトの関係悪化 前記五貫島工場が本格的に稼働を開始すると,その生産量は被告サンメイトの販売量を上回るようになったが,平成13年4月ころ,原告らが同被告の了承を得ずに訴外中屋商事株式会社に猫砂を販売した事実が,同被告の知るところとなった。同被告は,上記中屋商事に対する販売は,前記販売総代理店契約の締結に際し,原告らと同被告の合意に基づき定められた例外(原告らが同被告を介さずに猫砂を直接販売できる販売先)には当たらないと認識していたため,原告らに対して不信感を抱くことになった(乙13)。
他方,原告らにおいても,被告サンメイトが販売元のみならず製造元も同被告である旨の表示をしてトップサンド21を販売していることや,五貫島工場の設備投資額及び生産力を前提にすると,同被告に対する従前の販売価格及び販売数量では採算ベースに乗らないことなどを問題であると考えており,これらの点の改善を申し入れる原告らと,自分の側に特に問題はないと認識する被告サンメイトとの間で,平成13年5月から6月にかけて,何度かファクスのやり取りがされた(乙13)。
このような状況の中,同年6月29日に,原告ら及び被告サンメイトの間で,前記訴外桜食品及び訴外ユニバース開発を交えて会談する機会が持たれたが,結論を得ることはできなかった。
同年7月に入り,被告サンメイトが総販売代理店の例外とは認識していない訴外日幸商事の営業担当者が,同被告の取引先に対し,トップサンド21のパッケージコピーを同封した上,この商品と中身は同じであるので是非御用命頂きたいとの言葉を添えてエコシードV1を送付した事実が,同被告の知るところとなった。同被告は,上記事実について問いただす内容のファクス文書を原告らに送付し,抗議の意思を表明した。これに対し,原告らは,上記日幸商事にエコシードV1を販売した事実は認めたものの,トップサンド21のパッケージコピーを同封した事実はあずかり知らぬところであり,今後とも同被告の承諾なしにトップサンド21を販売するつもりはない旨の返答をした(乙13)。
(11) 被告奈良農場及び被告サンメイトによる猫砂の製造・販売 平成13年5月ころ,従前供給を受けていた業者からの供給で足りるようになったなどの理由により,乾燥おからの供給に関する原告らと被告奈良農場の取引関係が終了した。
他方,同年6月ころ,被告Aは,原告らのもとを出て行方が分からなくなり,同月5日には,原告らには何も知らせないまま,静岡地方裁判所富士支部に自己破産を申し立て(同庁平成13年(フ)第133号・破産申立事件),同月28日に破産宣告及び破産手続廃止の決定を受けた(なお,この破産事件の申立書の債権者一覧表においては,原告ビップが残高4500万円の借入金の債権者として記載されており,その借入金の使途は「運転資金」と記載されている。甲18の2参照)。
そのころ,被告奈良農場は,被告Aの前記提案に従って自ら円筒状猫砂を製造することを決意し,同年7月中旬ころには,被告Aの技術指導の下,群馬県勢多郡富士見村所在の前記工場において,猫砂製造のラインを完成した。また,同年8月には,円筒状猫砂のサンプル品製造に成功して,被告Aがこれを被告サンメイトに持ち込んだ。なお,被告奈良農場は,被告Aに対し,猫砂製造に係る技術の供与等に対する報酬として,合計500万円を支払った(証人K及び被告奈良農場代表者L)。
被告サンメイトは,同年9月末ころには,原告らのもとを出奔していた被告Aを雇用するとともに,被告奈良農場との間で,同被告が製造する円筒状猫砂を被告サンメイトが仕入れて販売する旨の契約を締結し,この猫砂を従前と同じ「トップサンド21」の商品名で販売し始めた。ちなみに,被告奈良農場が被告サンメイトに猫砂を卸売りする価格は,原告らが被告サンメイトに卸売りする価格より概ね2〜3割低い価格であった(証人K,被告奈良農場代表者L及び弁論の全趣旨)。
(12) 原告らと被告サンメイトの関係断絶 平成13年3月から同年11月にかけての原告らの被告サンメイトに対する猫砂の販売額は,下記のとおりであり,とりわけ同被告が被告奈良農場から猫砂を購入するようになった同年9月以後,販売額は激減した(甲20)。
販売合計額 平成13年3月 616万5528(円) 同年 4月 688万5788 同年 5月 535万7128 同年 6月 902万2031 同年 7月 655万2580 同年 8月 299万3197 同年 9月 77万0057 同年10月 0 同年11月 0 なお,同年9月以後の販売額が極端に減った主たる原因は,被告サンメイトからの注文量が減ったことであるが,同被告が被告奈良農場から仕入れた円筒状猫砂を「トップサンド21」として販売していることに気付いた原告らが,被告サンメイトからの注文を,到底採算の合わない僅かな注文量であることを理由に断り,同被告への出荷を事実上停止したことにもよる(原告ら代表者E)。
原告らは,平成13年10月1日付け内容証明郵便(甲22の1)をもって,被告サンメイトに対し,同被告は前記販売総代理店契約に基づき最低保証数量を仕入れる義務を負うところ,被告Aから猫砂を購入することを企て,上記義務に違反したものであるから,上記販売総代理店契約を解除する旨を通知した。これに対し,被告サンメイトは,同月9日付け内容証明郵便(甲22の2)をもって,同被告は原告らが主張する義務を負うものではなく,原告らの契約解除は理由がなく無効である旨の返答をした。
また,原告らは,同月1日付け(10日差し出し)内容証明郵便(甲23の1)をもって,被告奈良農場に対し,同被告がトップサンド21(円筒状猫砂)を製造し,販売する行為は,当時出願公開中であった「筒状吸収材(ペット用糞尿処理材)及びその製造方法」の発明(特開平11-347404号)に抵触する旨の警告をした。これに対し,被告奈良農場は,同月19日付け内容証明郵便(甲23の2)をもって,同被告としては,上記発明(本件技術)の内容を検討した結果,何ら権利侵害の問題は生じないと考えている旨の返答をした。
原告らは,平成13年12月4日,被告らが原告商品と同じ円筒状多孔質体の猫砂である被告商品を製造販売する行為は,「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡」する行為に該当すると主張し,不正競争防止法2条1項3号,3条に基づき,被告商品の製造・販売の差止等を求めて,東京地方裁判所に仮処分を申し立てた(当庁平成13年(ヨ)第22195号事件)。さらに,同月10日,前記第1,1〜3の各裁判を求めて,本件訴訟を提起した。
4 争点 (1) 不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成否 ア 原告ビップは,同号に基づく請求の主体足り得るか(争点1ア) イ 円筒状多孔質体の猫砂である原告商品の形態が,同号により保護される「形態」に該当するか(争点1イ) ウ 被告商品が,原告商品の形態を「模倣した商品」といえるか(争点1ウ) (2) 被告A及び被告サンメイトによる秘密保持義務違反の有無(争点2) (3) 被告らによる共同不法行為の成否(争点3) (4) 原告らの損害額(争点4)
当事者の主張
1 争点1ア〜ウ(不正競争行為の成否)について (1) 原告らの主張 ア 原告ビップの請求主体適格 訴外Bは,平成10年1月ころに被告Aが経営する訴外エコシードに入社し,専属研究員として,円柱状のものも円筒状のもの(原告商品)も含むすべての猫砂の研究開発を委託された。同人は,訴外エコシードが独自の研究施設を持っていなかったことから,同じ広島県にある訴外エコラルの工場に常駐し,円柱状猫砂の改良や円筒状猫砂の開発・試作を行っていた。このような状況の中,訴外Bによって発明されたのが円筒状猫砂の製造技術に係る本件技術であり,そのことは,平成10年6月3日出願に係る特許出願明細書に同人が発明者として記載されていることに照らし,明らかである。
そして原告ビップは,平成10年3月21日,バラ状緩衝材及び猫砂商品開発・販売全般につき,訴外エコシードとの間で共同経営契約を締結し(甲11),被告Aの金員詐取が発覚する同年7月ころまでの間に,合計3900万円以上の資金を被告Aないし訴外エコシードに提供した。被告Aの説明によれば,上記資金の名目は,バラ状緩衝材特許(特許第2843810号)の名義変更等の手続費用及び訴外ニッコーからの猫砂製造機械購入代金等ということであったが,その後の原告らの調査により,上記3900万円の資金がこれらの目的のために使用された事実はないことが確認されている(被告Aも,本訴において,これらの資金を訴外エコシードの運転資金として費消したことを事実上認めている。)。このような客観的状況に照らせば,上記資金の大半が,実際には,訴外Bが平成10年3月ころから同年6月ころにかけて手掛けていた円筒状猫砂の開発資金に使われたことは明らかである。
以上のとおり,原告ビップは,訴外エコシードとの共同経営契約に基づき,合計3900万円以上の資金提供を行い,これらの資金は,実際に原告商品を製造する上での基本技術となる本件技術の開発に使用されたのであるから,同原告は,実質的に,訴外Bと共に原告商品の商品化につき自ら開発を行った者であるということができ,不正競争防止法2条1項3号の請求主体性を十分に有する。
イ 被告らの主張に対する反論 ところで,被告らは,原告商品を含む円筒状猫砂を開発したのは被告Aであると主張し,原告ビップの請求主体性を否定する。
しかしながら,被告Aは,訴外エコシードが同年4月ころ既に多重債務状態に陥っていたこともあり,当時,同社の代表取締役として資金繰りやスポンサー探しに奔走し,訴外Bから,日々の研究過程や研究結果につきファクシミリ等で報告を受けていたにとどまるのであって,自ら円筒状猫砂の開発に携わる物理的状況にはなかった。また,同被告は,訴外エコシードが事実上倒産した後,原告ビップが同人を工場長として雇用した際も,発明者及び開発者であれば当然知っていて然るべき猫砂の押出成形及び乾燥に関して具体的な実施技術を有しておらず,これらの部分については,原告らが新たに訴外加藤技研に合計945万円もの費用を支払って開発を委託せざるを得なかった。加えて,円柱状猫砂及び円筒状猫砂(本件技術)の特許出願は,いずれも,被告Aが他の共同出願人が記載されていない弁理士への委任状を複数作成した上(甲35の2の1〜3参照),原告ビップに対しては,被告A以外に訴外エコラル及び訴外Bが共同出願人であることを秘し,他方,訴外エコラル及び訴外Bに対しては,被告A以外に原告ビップが共同出願人であることを秘して,それぞれ委任状を作成させ,いわば原告ビップと訴外B及び訴外エコラルの双方を騙す形で,被告A主導の下に行われたものである。それにもかかわらず,被告Aは,出願に際し,自らを上記各発明の発明者として記載していない。
以上の事実を総合すれば,被告Aが円筒状猫砂の開発主体である旨の被告らの上記主張が虚偽であることは,自ずから明らかである。
また,被告らは,平成10年5月18日ころには,既に円筒状猫砂のサンプル商品が訴外エコシードから訴外スーパーキャットに納入されているから,原告ビップは同猫砂を最初に市場の流通に置いたものではないと主張する。
しかしながら,猫砂のように形態が小さく,流通可能な状態で販売するために一定量以上の大量生産が不可欠な商品の場合には,微量のサンプル提示のみでは,不正競争防止法の予定する商品の商品化が完成したとはいえない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
ウ 原告商品の形態模倣 原告商品と被告商品は,@ 1ピースあたりのサイズが,全長平均約4〜10ミリメートル,幅平均約3〜4ミリメートル,重量平均約0.8グラム程度であること,A 色調は原料である乾燥おからの色である薄黄色であること,B 中心部分が空洞の円筒(パイプ)状の形態をしていること,C 上記空洞部分のサイズも直径約1.3ミリメートル程度であること,D 表面全体に発泡による細かな気泡を無数に含む多孔質体であることなど,形態を構成する諸点において全く同一であるか,あるいは酷似している。
このうち原告らが特に強調したいのは,円筒状(上記B,C)及び多孔質体(同D)の形態に関する点である。従来,おから等の植物性繊維を主原料とする吸収材(猫砂)においては,無定型片又は円柱形状のものが主流であったが,本件技術を実施した原告商品においては,円筒状(中空状)の形状を採用したことにより,吸収に直接関与しない中心部を省いて重量を軽くするとともに,吸収材の表面積を増加させ,単位重量あたりの吸収効率を高めることに成功した。また,吸収材の乾燥も容易となり,製造工程における乾燥コストが低減したほか,製品使用時におけるカビ発生等の問題も生じにくくなった。さらに,化学薬品等の発泡剤を用いず,原料の混合物に連続的に水を供給しながら,加熱・混練して簡便に自然発泡させる手法を採用し,吸収性等に優れた多孔質体の表面を形成することに成功した。
このように,円筒状かつ多孔質体の点は,原告商品の商品としての形態及び機能の上で最も特徴的な点である。国内外の多数の猫砂製品を一覧すれば分かるとおり(甲6参照),木,紙,おからを原料とした他の猫砂商品にも多孔質体のものは散見されるが,原告商品及び被告商品のように発泡により多数の気泡を含有したものは稀であるし,多孔質体の商品の多くは,顆粒状ないし円柱状の形態のものである。発泡による多数の気泡を含有した多孔質体で,かつ円筒状の形態を有しているのは,原告商品と被告商品の他にない。両者の類似の程度は,他商品との類似の程度と質的・量的に完全にレベルを異にしている。
以上によれば,被告商品が,原告商品の「形態‥‥‥を模倣した商品」(不正競争防止法2条1項3号)であることは明らかというべきである。
(2) 被告Aの主張 ア 猫砂開発の主体及び経緯 本件技術を開発したのは,訴外エコシードの代表取締役を務めていた被告Aである。同被告は,訴外エコシードにおいて,平成9年9月ころには,おからを主原料とする押出成型法による円柱状猫砂の製品化に成功した。また,平成10年1月ないし2月ころには,円筒状猫砂の開発にも成功した。そのことは,被告Aとともに円筒状猫砂の開発に携わった訴外Bが,同年1月20日付けで,円筒状猫砂の製造に必要な中空状のダイスを金型屋に発注したことを示す文書(丙2)が存在することに照らし,明らかである。
原告ビップは,このようにして開発された本件技術及び円筒状猫砂に興味を持ち,被告Aから説明を受けた上,本件技術を実施した円筒状猫砂の製造販売を事業として行うことを決めた。ただし,原告ビップはそれまで猫砂を製造販売したことはなく,技術に関する知識・経験が全くなかったので,工場施設の設計・設営,製造機械の設計・設置等,現実に猫砂を製品化するのに必要な作業に関しては,被告A及び訴外エコシードに全面的に依存することになった。それゆえ,原告ビップは,訴外エコシードが事実上倒産した後も,同社との提携関係が消滅し,被告Aとの関係が絶えることは得策でないと判断して,経済的に窮地に陥っていた同被告を引き取ったのである。ただし,その際も,原告ビップは,本件技術の開発及び猫砂の製品化を被告Aに担当させたにすぎず,経営や事業計画に関与させたことはない。他方,被告Aにおいても,負債を返済するために事業を行う場所を求めたにすぎず,原告ビップとの間で正式な雇用契約を締結したわけではない。そして,被告サンメイトの紹介で被告奈良農場を知った後は,原告らとの契約関係が事実上終了したこともあり,被告奈良農場が円筒状猫砂を製造するに際し,技術上の援助を行い,工場設備の設置に協力した。
以上の経緯から明らかなとおり,円筒状猫砂の開発主体はあくまで被告A及び訴外エコシードである。原告ビップは,訴外エコシードから,既に開発済みであった本件技術を実施して同猫砂を製造し,これを販売することにつき許諾を受けたライセンシーの1つにすぎない。したがって,原告らは,円筒状猫砂の形態模倣を根拠とする不正競争防止法2条1項3号の請求主体となり得るものではない。
それと同時に,被告奈良農場は,本件技術の開発者である被告A及び訴外エコシードの助言に基づき同技術を実施し,円筒状猫砂を製造しているのであって,原告商品の形態模倣してこれを製造しているのではない。
イ 原告らの主張に対する反論 原告らは,原告ビップ自らが原告商品を開発し,商品化した旨を繰り返し主張するが,その実質は,単に原告ビップの杉田工場に猫砂製造設備が設置され,そこで原告商品が製造されたことをいうものにすぎない。
原告主張に係る上記の事実は,原告ビップが円筒状猫砂の開発主体であるか否かと直接結びつくものではないし,それどころか,被告Aが主張するとおりの事実関係,すなわち,原告ビップが訴外エコシードの実施許諾を受けてライセンシーとして同猫砂を製造販売していたことと両立し得るものである。上記工場の製造設備及び製造工程の設計・設置が被告Aの指導により行われたことはさておいても,同工場にこれらの製造設備が設置されたこと自体をもって,原告ビップの請求主体性を根拠付けようとするかのような原告らの主張は,それ自体失当というほかない。
また,原告らは,本件技術の特許出願明細書に訴外Bが発明者として記載されていることを指摘し,このことを根拠に同技術の開発主体は被告Aではなく訴外Bであると主張している。しかしながら,原告らが指摘する上記記載の存在は,原告らの立証命題である原告ビップが円筒状猫砂の開発主体である事実とむしろ矛盾するものである。結局,原告らは,原告ビップが「自ら」原告商品を開発したことについては,何ら立証し得ていないのであって,原告らの上記主張に理由のないことは明らかである。
ウ 不正競争防止法2条1項3号の適用がないことについて そもそも,猫砂は猫等ペットの排泄物を吸収するための商品であるから,吸収効率を高めるため表面積の大きな形態を採ることになる。したがって,その形態は機能と不可分一体であり,形態自体に技術思想(機能)を離れて独立した意味はない。不正競争防止法2条1項3号は技術思想の独占を認めるものではないから,原告商品のような形態の猫砂については,同号の適用はないというべきである。
仮にそのようにいえなくても,同号は,同種商品が「通常有する形態」を保護の対象から除外するところ,円筒状かつ多孔質体という被告商品の形態は,猫砂としての機能と不可分一体になっており,その形態は同種商品が「通常有する形態」に該当するというべきである。したがって,このような形態は同号の規制対象とはならず,いずれにせよ,本件において同号の適用はない。
エ 最初の販売日からの3年の経過 原告らの主張を前提にしても,原告商品の販売が開始されたのは平成11年5月ころである。したがって,口頭弁論終結時(平成15年11月6日)においては,同商品が最初に販売された日から既に3年を経過している。この観点からも,不正競争防止法2条1項3号に基づく原告らの差止請求は理由がない。
(3) 被告サンメイトの主張 ア 猫砂開発の主体及び経緯 被告Aは,円柱状猫砂に係る「動物用糞尿処理・消臭材及びその製造方法」の発明の発明者であり(第2,3(1)参照),当然のことながら,おからの猫砂の製造技術を有していた。そして,被告Aが経営していた訴外エコシードは,平成9年当時,おからを利用したバラ状緩衝材及び円柱状猫砂を既に製品化して販売しており,これら商品の製造技術について十分なノウハウを蓄積していた。
ところで,被告Aは,猫砂ではないが円筒状の製品をかつて押出成型機で製作した経験があり,自分が発明した円柱状猫砂の形状を円筒状に変える構想をかねてから有していた。しかるに,平成10年1月に訴外エコシードに入社してきた訴外Bが,上記構想と同様に猫砂の形状を円柱状から円筒状に変えることを提案してきた。そこで,被告Aは,訴外安芸精器が以前訴外Bが役員をしていた訴外モルテン戸河内から仕事をもらったことがあり,同人に恩義を感じていたこともあって,同人を発明者として円筒状猫砂にかかる「筒状吸収材及びその製造方法」の発明を特許出願した(第2,1(1)参照)。
そして,訴外エコシードは,遅くとも平成10年1月後半ないし2月初旬には,円筒状猫砂のサンプルを完成していた。そのことは,同猫砂製造のための金型図面(丙2)が同年1月20日付けで作成されていることや,訴外スーパーキャットのM社長が,同年1月ころ,被告Aから訴外エコシードにおいて既に中空(円筒)形状の猫砂を開発したことを聞かされ,同年4月ころには訴外エコラルで実際の製造方法等につき説明を受けた上,同年5月にサンプル商品の送付を受けたと陳述していること(乙2)に照らし,明らかである。
このように,訴外エコシードの代表取締役である被告Aと,同社の従業員である訴外Bとが,平成10年1月以後,訴外エコシードにおいて円筒状猫砂の開発を行ったものであり,訴外エコシードが同猫砂の開発・商品化の主体であることは明らかである。原告ビップは,円筒状の形状を有する猫砂を自ら開発し,市場の流通に置いたものではなく,不正競争防止法2条1項3号の請求主体たり得ない。
イ 原告らの主張に対する反論 原告らは,被告A及び訴外エコシードに合計3900万円以上もの資金を提供したことや,それにもかかわらず,原告ビップの杉田工場で原告商品を実際に製品化するに際しては,約5か月の期間と約945万円もの追加費用を使って,円筒(中空)部分のサイズの具体的設定等につき,試行錯誤を繰り返すことが必要だったことを強調し,これらを根拠に同商品は原告ビップが独自に開発したものであると主張する。
しかしながら,そもそも開発資金を提供したことと不正競争防止法2条1項3号の請求主体性とは,直接の関係はない。資金提供によって請求主体性が認められるならば,ベンチャーキャピタルや投資銀行等にも請求主体性が認められることになってしまう。その意味において,原告らの上記主張は失当というべきである。その点をさておいても,上記のとおり,円筒状猫砂は,原告ビップが訴外エコシードとの提携関係に入る前に既に商品化されていた。同原告は,訴外スーパーキャットと同様,訴外エコシードが同猫砂を売り込む対象として選んだうちの1社にすぎない。原告らが投じた上記の資金も,猫砂の製造販売に関する技術・経験を全く有していなかった原告らが訴外エコシードの許諾を受けて,既に同社が開発を終え,商品化していた円筒状猫砂を生産するため,自社製造ラインを設置する費用として使われたものにすぎない。本件技術の公開公報(甲7の2)の実施例記載にかかる部分に,原告商品と同一のサイズの猫砂の作り方が開示されているにもかかわらず,約5か月間の期間と約945万円もの費用をかけなければ猫砂を製造できなかったこと自体が,原告らが猫砂の開発・製造について何ら知識や経験を有していなかったことの証左にほかならず,原告らが円筒状猫砂の開発者ではないことを物語るものというべきである。
また,原告らは,仮に訴外エコシードから訴外スーパーキャットに対し,平成10年5月18日ころに円筒状猫砂のサンプル商品が納入されたとしても,猫砂のように形態が小さく,流通可能な状態で販売するために一定量以上の生産が不可欠な商品の場合には,微量のサンプル提示のみでは,不正競争防止法の予定する商品の商品化が完成したとはいえないと主張する。
しかしながら,近代的な自動製造設備により大量生産した場合であっても,手動機械を用いて少量生産した場合であっても,円筒状猫砂が完成し商品化された事実には何ら変わりがないのであって,不正競争防止法上の商品化の概念を原告らが主張するように限定して解釈すべき根拠は見出せない。大量生産が可能でなければ商品化されたとはいえない旨の原告の上記主張は,それ自体失当というべきである。その点をさておいても,前記のとおり,証拠上(乙2),訴外スーパーキャットのM社長が平成10年4月ころ訴外エコラルを訪問した際,円筒(中空)形状の猫砂及びその製造設備を見せてもらい,製造方法の説明を受けた事実が認められるところ,その際に提示された円筒状猫砂は,機械から出てきた百キロ前後の量のものである。百キロ前後の円筒状猫砂が製造できるということは,機械を作動させ続ければ,数十トン単位の猫砂が製造できるということであって,商品化は優に完成していたというべきである。原告らの上記主張は理由がない。
ウ 通常有する形態 原告らは,原告商品と被告商品の形態が共通する点として,@ 1ピースあたりのサイズは,全長平均約4〜10ミリメートル,幅平均約3〜4ミリメートル,重量平均約0.8グラム程度であること,A 色調は原料である乾燥おからの色である薄黄色であること,B 中心部分が空洞の円筒(パイプ)状の形態をしていること,C 上記空洞部分のサイズが直径約1.3ミリメートル程度であること,D 表面全体に発泡による細かな気泡を無数に含む多孔質体であることなどを指摘する。
しかし,上記@で原告らが指摘する猫砂1ピースあたりのサイズは,この種の商品で一般的に採用されているサイズであり,何ら特徴的なものではない。
また,重量はそもそも形態ではない。上記Aについては,色調が薄黄色であるのは,原料である乾燥おからの色に由来するものであり,これも何ら特徴的なものではない。薄黄色の同種商品は多数存在するのであって(甲6参照),薄黄色であることが不正競争防止法上保護の対象となる形態に該当するものではない。上記Bについては,猫砂の中心部に空洞を空け,円筒状とすることは,原告らも認めるように,重量軽減,吸収効率の向上,乾燥コストの低減等の課題解決のため採用される技術である。このように技術と不可分に結びついた形態は,不正競争防止法上保護される形態に該当しないか,あるいは,同種商品が通常有する形態に該当するというべきである。上記Cについては,円筒状のピースを形成する場合,空ける空洞の直径が大きすぎるとピースが壊れやすくなる。したがって,空洞部分のサイズが直径約1.3ミリメートル程度になることも,ピースが壊れやすくならないようにとの技術的要請に基づくものである。そうすると,この点も,上記Bで述べたのと同様の理由により,不正競争防止法上保護の対象とならない形態であるか,あるいは同種の商品が通常有する形態というべきである。上記Dについては,発泡による細かな気泡を無数に含む多孔質体であることは,顕微鏡で見ないと確認できず,肉眼では観察できないレベルの事柄であるから,商品の外観を形成する要素ではなく,不正競争防止法上の「形態」に該当しない。以上のとおり,原告ら主張にかかる諸点は,いずれも外観である形態に属しない事項であるか,あるいは同種の商品が通常有する形態である。
さらにいえば,植物繊維であるおからを原料に押出成型方式を用いて猫砂を製造する場合,角がなくて壊れにくい,ピース間に隙間が空きすぎず,排泄物が隙間から下に落ちずにスムーズに吸収されるなどの理由により,押出成形の断面は円形が最適である。また,ピースの長さが短すぎると多孔質部分の露出量が減り,消臭性及び吸水性が悪化する一方で,長すぎるとピース間の隙間から排泄物が落ちやすくなり,吸収率が低下する。したがって,各ピースの長さは自ずから一定のサイズを採ることになる。さらに,表面積を大きくして消臭性及び吸水性を向上させる,重量あたりの吸収率を上げるという機能・効用を追及すると,円柱状の猫砂に穴を空け,円筒状にする着想に至ることになる。以上を総合すれば分かるとおり,上記の機能・効用を有するおからを主原料とする猫砂を製造しようとすれば,色調はおからの色である薄黄色,サイズが全長4〜10ミリメートル,幅約3〜4ミリメートル,中心部分が空洞の円筒状の形態,空洞部分の直径が約1.3ミリメートル程度という形態に不可避的に収斂していく。
したがって,この観点からも,原告らが「形態」として主張する諸点が,不正競争防止法上保護の対象となる「形態」に該当しないものであることが明らかである。被告商品が上記のような形態を具備しているのは,猫砂としての機能・効用を追及した結果の表れであり,原告商品の形態模倣したことによって,このような形態になったわけではない。
エ 最初に販売された日から3年の経過 被告サンメイトは,原告ビップが平成11年4月12日に円筒状猫砂を訴外あさ動物病院に販売した事実を示す証拠(乙17の1〜2)を入手した。また,原告ら自身の主張によっても,原告らは円筒状猫砂である原告商品を同年5月ころから販売している。
したがって,仮に原告商品が不正競争防止法上保護に値する「形態」を備えているとしても,口頭弁論終結時(平成15年11月6日)において,同商品の最初の販売日から3年以上が経過しており,同法2条1項3号に基づく原告らの差止請求には理由がない。
(4) 被告奈良農場の主張 不正競争防止法2条1項3号に基づく原告らの請求に対する被告奈良農場の主張は,被告サンメイトの主張と同一であるから,同被告の主張をすべて援用する。
2 争点2(秘密保持義務違反の有無) (1) 原告らの主張 ア 被告Aの秘密保持義務 原告らは,Eをはじめとする原告らの取締役及び社員全員が取り交わした平成10年12月1日付け「機密保持に関する約定書」と題する文書(甲16)を書証として提出した。この文書は,訴外エコシードが事実上倒産し,行方の分からなくなった被告Aが原告らの前に現れ,原告ビップの社員として働くことになった際(第2,3(4)〜(5)),円筒状猫砂開発に従事するに当たり,その開発にまつわる企業秘密を保持するために,被告Aを含む原告ら取締役及び社員全員で作成したものである。同文書においては,原告ビップを甲,ビップグループ全社員を乙とした上で,下記のとおりの条項が定められ,これらの条項に引き続いて,原告ら代表取締役Eほか合計6名の取締役の記名押印と,当時原告ビップの社員であった被告A(A)ほか合計7名の社員の記名押印がされている。
1、甲の保有する発明である「筒状吸収材及びその製造方法」、平成11年12月21日、公開された(平成10年特許願172282)を乙に於ける技術上の検討のため、甲は乙に上記の技術(以下、「本情報」という)を開示するものとする。
2、乙は本情報に関して、次の定める事項を遵守するものとする。
(1)、本情報を甲に承諾を得ず、前条記載の目的以外に使用しないこと。
(2)、甲が開示する本情報に関する資料類を、複写し使用しないこと。
(3)、関連事業者といえども、社外に対して本情報を開示し、漏洩し、
もしくは示唆しないこと。ただし、業務の必要上、予め甲の書面による承諾を受けた場合はこの限りではない。
3、乙は、本情報に関わる自己の責に帰すべき事由により本情報を漏洩したときは、甲が被った一切の損害について賠償しなければならないものとする。
4、(省略) 5、(省略) また,原告ビップが被告A宛に作成した文書として,平成10年11月1日付け「労働条件通知書」と題する文書(甲15の6)も存在する。同文書最下段の「その他」の欄には,「業務上機密に属するものは,在職中は勿論,退職後といえども一切これを他に公表しない」との一文が定型文言で記載されている。
上記各文書の存在に照らし,被告Aが原告らに対して秘密保持義務を負うこと及び同義務違反があった場合に損害賠償責任を負うことは明らかである。
イ 被告サンメイトの秘密保持義務 第2,3(7)記載のとおり,被告サンメイトは原告らとの間で,平成12年3月21日付けで販売総代理店契約を締結したところ,同日付け販売総代理店契約書(甲17)には下記の各条項がある。
第9条(秘密保持) 甲および乙は,本契約および個別契約により知り得た双方の営業上,技術上の秘密(情報)を第三者に開示または漏洩してはならない。
第10条(損害賠償) 甲または乙が,本契約または個別契約の条項に違反し,他の当事者に損害を与えたときは,違反した当事者は損害を蒙った当事者に対し,その損害を賠償するものとする。
上記各条項の記載に照らし,被告サンメイトが原告らに対して秘密保持義務を負うこと及び同義務違反があった場合に損害賠償責任を負うことは明らかである。
秘密保持義務の対象 上記ア,イの秘密保持義務の対象となる「秘密」とは,円筒状猫砂である原告商品の製造・商品化にかかる基本技術(発想)及び実施技術(商品化に耐え得る質の猫砂の具体的製造技術)である。
上記基本技術の内容は,訴状添付の技術目録「1.技術の内容」記載のとおりであるが,以下にこれを引用する。
「乾燥した植物性繊維を主成分とする原材料を,室温において,コーンブレンダーによって予め分散・混合し,この混合物を押出成形機に供給し,ホッパーから混合物を投入し,該混合物に連続的に水を供給しながら,加熱し,混練して,所定の押出速度で,加熱した吐出部から円筒状に吐出するパイプ形状金型ダイスを用いて吐出させ,所定の外径及び内径を有する吐出物を切断し,温風等で乾燥することにより,チップ状の筒状かつ多孔質体形態の吸収材(ペット用糞尿処理材)を確保することを特徴とする製造技術である。
また,上記技術においては,筒状吐出物の外径及び内径は,円筒状に吐出するパイプ形状金型ダイス形状を選択することによって変更でき,また,その長さも,押出成形機の押出速度と切断速度とを調整することにより任意に変更選択することができる特徴を有する。」 また,上記実施技術の内容は,@ 商品の具体的形態(とりわけ円筒(中空)部分のサイズ)の設定,A 上記@と不可欠に関連する押出成形部(とりわけダイス部)の設計,B 原料内異物の効率的除去法,押出成形機内の温度・圧力・押出速度の設定等からなる,上記@の形態を前提とした連続成形技術,C 原料の配分比率,発泡性の調整等からなる,ピースの吸水性・凝固性の確保,D 吸水性を確保した上での難壊性・軽量性の確保,E 乾燥の方法・程度の選択,防かび剤の種類・配合量の選択等からなるカビ防止の技術,以上である。
特許出願に係る本件技術を用いて円筒状猫砂を製造するといっても,出願明細書の記載に基づき直ちに製品が製造できるわけではない。本件技術を商品製造可能な技術として実施するためには,上記@〜Eのような,より詳細な具体的技術が必要であるところ,被告Aは,原告ビップに雇用された当初これらの具体的技術を有しておらず,同原告が訴外ニッコーから購入した猫砂製造機械を用いても,円筒状猫砂を製造できなかった。そこで,原告らは,平成10年12月ころから翌平成11年2月ころまでは,原告ら取締役のNと前記訴外加藤技研を中心として,上記Nを配置換えせざるを得なくなった平成11年2月ころからは同年5月ころまでは,被告A及び原告ビップの現工場長・Iをも参加させて,約945万円の費用を投じて上記@,Aの押出成形技術を独自開発するとともに,上記B〜Eについても製品化に耐え得るレベルの技術として確立した。このようにして,原告らは,上記@〜Eの具体的実施技術を取得・保有するに至った。
(2) 被告Aの主張 ア 秘密保持義務について 被告Aは,同被告が原告ビップの社員として原告主張に係る秘密につきこれを保持する義務を負うことを否認する。
前述したとおり,被告Aは,技術開発や製品開発を業とするものであり,開発した製品の製造販売に関するライセンス事業を営んできた。同被告にとって,原告ビップはライセンシーであり,顧客である。同被告は,訴外エコシードの代表者として,本件技術に関するライセンス契約に基づき,対価を得て原告ビップに技術指導し,同原告のもとで原告商品の製品化に成功した。同被告は,このようにしてライセンサーとしての義務を果たしたにすぎず,同被告が原告ビップの社員になったから(そもそも,そのような事実はない。),猫砂の開発・製造に従事したわけではない。
原告らは,甲16(「機密保持に関する約定書」と題する書面)をもって,被告Aが原告ら主張にかかる前記実施技術(商品化に耐え得る質の猫砂の具体的製造技術)についても原告ビップに帰属させた上,同原告の承諾を得ることなく他社に漏洩しない旨誓約したことの根拠にしているが,甲16号証にはそのような記載はない。また,そもそも,被告Aは同号証の成立を否認しているのであって,そこに押印された「A」の印影は,同被告によって押捺されたものではないし,同被告の印章による印影でもない。
イ 原告ら主張にかかる秘密について 原告らは,秘密保持義務の対象となる「秘密」とは,円筒状猫砂である原告商品の製造・商品化に係る基本技術(発想)及び実施技術(商品化に耐え得る質の猫砂の具体的製造技術)であると主張する。
しかしながら,上記基本技術についてみると,原告らの主張する内容は,本件技術に係る特許出願明細書の【0015】段落をそのまま引き写したものである。上記出願の内容は,平成11年12月21日に公開特許公報(甲7の2)を通じて公開されており,原告らが秘密が漏洩したと主張する平成13年3月ころには,既に「秘密」といえる性質のものでなかったことは明らかである。
また,上記実施技術については,原告はその具体的内容を十分特定して明らかにしておらず,主張自体失当というべきであるが,その点をさておいても,原告主張にかかる@の点(商品の具体的形態)は上記公開公報の【0017】段落に記載があり,同Aの点(押出成形部の設計)については,関連技術の各公開公報(乙8〜10)にこの点に関する技術が記載されている。また,同B〜Eの各点(連続成形技術,ピースの吸水性・凝固性の確保,難壊性・軽量性の確保,カビ防止の技術)については,本件技術に係る上記公開公報の【0017】〜【0023】に具体的技術が記載されている。したがって,これらの点が「秘密」であることなど,あり得ないというべきである。
(3) 被告サンメイトの主張 原告らが秘密保持義務の対象となる「秘密」であると主張する,原告商品の製造・商品化に係る基本技術(発想)は,公開特許公報(甲7の2)に開示された公知技術であるから,そもそも「秘密」には該当しない。
また,原告らの主張する実施技術(商品化に耐え得る質の猫砂の具体的製造技術)については,原告らは,円筒状猫砂の商品化には上記公知技術のほか,さらに詳細な具体的実施技術が必要である旨主張するのみで,その内容を十分に特定しておらず,主張自体失当というべきである。仮に主張自体失当でない場合には,当該主張は否認する。原告ら主張にかかる@〜Eの諸点については,いずれも本件技術に係る公開公報(甲7の2)の実施例に記載されているか,あるいは同公報及びその他の公知文献の記載から当業者が当然に実施できるものであり,公知技術にすぎない。すなわち,@の点(商品の具体的形態)は上記公開広報の【0017】段落に記載があり,同Aの点(押出成形部の設計)については,被告Aが発明者の1人である関連技術の各公開公報(乙8〜10)が開示するところに基づき当業者が当然に実施できる。また,同B〜Eの各点(連続成形技術,ピースの吸水性・凝固性の確保,難壊性・軽量性の確保,カビ防止の技術)については,本件技術に係る上記公開公報(甲7の2)の【0017】〜【0023】に記載されている。
上記のとおり,原告らが「秘密」であると主張する内容は,いずれも公知技術であって,原告らが独自開発したものでもなければ,原告らの営業上ないし技術上の秘密にも該当しない。被告サンメイトは,平成12年3月21日付けで締結した販売総代理店契約(甲17参照)に違反する行為をしていない。それどころか,原告らの方こそ,上記契約に違反して原告商品を直接顧客に販売したり,平成13年9月以後,被告サンメイトの発注に応じず,原告商品の供給を停止したりしている。同契約に違反する行為をしているのは,被告サンメイトではなく原告らである。
3 争点3(共同不法行為の成否) (1) 原告らの主張 ア 被告Aの不法行為 被告Aは,訴外エコシードが事実上倒産した後の平成10年10月1日ころ,原告らの温情により原告ビップに技術者として雇用されて入社した際,同人が修得した技術の全てについて専ら原告らのために活用することを誓約し(甲15の2),同年12月1日付けの機密保持誓約にも参加して,その後原告らが訴外加藤技研と共に開発した円筒状猫砂の実施技術(商品の具体的形態,押出成形部の設計,連続成形技術,ピースの吸水性・凝固性の確保,難壊性・軽量性の確保,カビ防止の技術)を原告ビップに帰属させ,上記技術を同原告の承諾を得ることなく他社に漏洩しないことを誓約した(甲16)。
また,被告Aは,平成12年3月から平成13年3月までは,原告ビップ杉田工場の,平成13年3月以後は原告ビップビジネス五貫島工場の工場長として,上記技術の開示を受け,また原告ら工場において同技術を秘密として管理する責任者の地位にあった。
しかるに,被告Aは, @ 平成13年3月ころ,原告ら工場の工場長の地位にありながら,上記労働条件(甲15の2)及び機密保持誓約(甲16)に違反し,原告商品の製造販売を通じて親密な関係となったK及びLに,同商品の模倣商品である被告商品の製造販売を働きかけ, A まず,被告Aが原告商品の製造技術の管理責任者であることを承知の上で上記働きかけに応じた被告奈良農場と共謀の上,平成13年3月ころから同年7月ころまでは,原告商品の押出成形技術を漏洩して,茨城県所在の訴外池貝鉄工所で秘密裡にテストを繰り返して押出成型機を設計・製造し, B 原告ビップに無断で同原告を退職して失踪した後の同年7月中旬ころからは,建設中の被告奈良農場の工場に直接赴き,原告ビップとの労働条件及び機密保持誓約に違反して,原告ら工場内に存在する製造機械と実質的に同一の製造機械を設置する技術指導を行って,同月末ころには被告商品の製造ラインを完成させた。
C また,同年8月以後は,被告奈良農場の工場の事実上の管理責任者として,被告商品のテスト生産を指導し,被告奈良農場に原告商品の製造・商品化技術を漏洩した上, D 被告商品が完成した平成13年8月上旬以後は,原告商品と実質的に同一である被告商品を被告サンメイトに持ち込み,原告らと被告サンメイトが原告商品に関する販売総代理店契約を締結していることを熟知していたにもかかわらず,被告商品の購入をKに働きかけ, E 被告Aが原告商品の製造技術の管理責任者であったことを承知の上で上記働きかけに応じた被告サンメイトと共謀の上,以後継続的に同被告に被告商品を供給し,これを「トップサンド21」の商品名で販売させ,原告らによる原告商品の販売を妨害し, F そのころから,被告サンメイトの従業員として雇用され,被告サンメイト及び被告奈良農場の間を頻繁に行き来して原告商品の製造・商品化技術を継続的に漏洩し,被告サンメイト及び被告奈良農場と共謀して,被告商品を大量に製造販売している。
イ 被告サンメイトの不法行為 被告サンメイトは,平成12年3月21日以後,原告らと原告商品につき販売総代理店契約を締結し,同商品を「トップサンド21」の名称で販売してきた業者であるが,被告Aが原告商品の製造技術を管理する管理責任者であること及び被告奈良農場が被告Aから同技術の漏洩を受けて原告商品と実質的に同一の被告商品を製造していることを熟知した上,自らが原告らと秘密保持条項を含む販売総代理店契約を締結しているにもかかわらず, @ 平成13年3月から同年8月ころまでは,被告奈良農場をして,被告Aから,原告商品の製造技術の漏洩を積極的に受けさせ, A 被告Aの働きかけを直接受けて同人を雇用した同年8月ころ以後は,被告A及び被告奈良農場と共に,被告商品の製造販売を積極的に行い,原告らによる原告商品の販売を妨害しているものである。
ウ 被告奈良農場の不法行為 被告奈良農場は,平成12年10月19日から同13年4月19日まで,被告サンメイトを介して原告らに原告商品の原材料である乾燥おからを継続納入した業者であるが,被告Aが原告商品の製造技術を管理する管理責任者であること及び原告らと被告サンメイトが原告商品に関する販売総代理店契約(OEM供給契約)を締結していることを熟知した上, @ 被告Aから,原告商品の製造技術の漏洩を積極的に受け, A 上記漏洩を受けた技術に基づき,原告商品の模倣商品である被告商品を積極的に製造し,被告サンメイトに販売して,原告らによる原告商品の販売を妨害しているものである。
エ 被告ら間の共謀ないし客観的関連共同性 被告らは,従前の原告らとの取引関係を通じて,被告Aが原告商品の製造技術につき管理責任を負う工場長の地位にあったことを熟知していたものであり,かかる地位にある被告Aから上記技術の開示・漏洩を受けることが,原告ビップとの関係において少なくとも商慣習上の不法行為に該当することを知っていたか,あるいは知らないことにつき重大な過失があったことは明白である。したがって,上記ア〜ウの各不法行為につき,客観的関連性が充足されることは明らかである。
なお,被告奈良農場が,原告らと被告サンメイトの間に円筒状猫砂のOEM供給販路が確立していることを熟知しながら,被告Aの働きかけに応じ,被告奈良農場の工場に多額の設備投資をして,同一の円筒状猫砂の製造に着手していること,その後,被告サンメイトが現実に被告奈良農場から仕入れた被告商品の販売業者となっていることからすれば,被告ら3名が被告商品の製造販売計画に当初から関与していたことは明らかというべきである。したがって,原告らは,被告らの共謀成立時期について,主位的には平成13年3月,予備的には同年8月上旬を主張する。
上記に加え,被告サンメイトについては,原告ら,被告A及びKが立案した秘密保持義務条項を含む販売総代理店契約を締結していたのであるから,被告Aが管理する原告商品の製造技術が原告らの保有する職務上の開発技術に該当することは十分承知していたはずである。したがって,かかる地位にある被告Aから上記技術の漏洩を受けてこれを取得することが,共同不法行為を構成することを知っていたのは当然であり,仮に知らなくてもそのことにつき重大な過失が存在することは明白であるから,少なくとも被告Aと被告サンメイトの間に,共謀ないし行為の客観的関連性が認められることは明らかというべきである。
さらに,仮に百歩譲って,被告サンメイト及び被告奈良農場が被告Aから上記技術を開示された際,それが不法行為に該当することを知らなかったとしても,原告らは,平成13年10月,被告らに対して技術盗用禁止等の警告通知を行い,同通知は同月23日までに到達しているのであるから(甲22の1〜2,23の1〜3各参照),少なくとも同日以後の被告らの行為については,故意の存在が肯定されるのは明らかであり,被告らの間に共謀ないし行為の客観的関連性が充足されることになる。
以上のとおりであり,共謀ないし強い関連共同性の上になされた被告らの上記一連の行為は,自由競争の範囲を完全に逸脱した違法な経済行為であり,一般不法行為(民法709条,719条)を構成する。
(2) 被告Aの主張 原告らは,被告Aが原告ビップの社員として,原告らの工場において,原告商品の製造技術を管理する責任者としての地位にあったことを前提として,被告Aが上記技術を漏洩したことを理由に,同被告に関する不法行為の成立を主張する。
しかしながら,前述したとおり,被告Aが原告ビップに雇用され,その社員になった事実はない。原告商品の製造技術を管理する権限や責任を与えられたこともない。同被告は,訴外エコシードの代表者として,本件技術に関するライセンス契約に基づき,対価を得て原告ビップに技術指導し,同原告のもとで原告商品を製品化したにすぎない。
また,被告Aが顧客(ライセンシー)である原告らの秘密を漏洩した事実もない。そもそも,原告らは,猫砂製造に関する知識・経験が全くなく,工場の設置,設備費の負担,材料の調達等を行っただけで,同被告に開示すべき技術を持ち合わせていなかった。原告商品は,あくまで被告Aの技術力に基づき製品化が可能になったものである。したがって,被告Aが原告らから猫砂製造に関する何らかの技術の開示を受け,これを被告サンメイト及び被告奈良農場に漏洩することなどあり得ない。
また,原告らは,被告らが共謀の上,被告奈良農場を原告ビップに替わる製造業者としてその工場に円筒状猫砂の製造ラインを設置し,そこで生産された猫砂を被告サンメイトが販売することにより,原告商品の販売を妨害している旨を主張する。
しかしながら,原告らの主張する上記の事実関係は否認する。被告Aは,前述のとおり,自ら開発した製品の製造技術をライセンスすることを業としてきたものである。被告Aは,原告ビップに技術指導したのと同様に,顧客(ライセンシー)の1つである被告奈良農場にも技術指導を行い,同被告の製造する猫砂製品が被告サンメイトに購入してもらえるようになったことに伴い,被告サンメイトに籍を移して技術顧問という形で販売に協力するようになったものにすぎない。
なお,被告Aは,被告奈良農場及び被告サンメイトの各不法行為の成否に関しては,これら両被告による認否・反論をそれぞれ援用する。
(3) 被告奈良農場の主張 被告奈良農場が平成12年10月から同13年4月まで,被告サンメイト名義で原告らに乾燥おからを継続納入してきた事実は認めるが,原告ら主張にかかるその余の事実関係はすべて否認する。
被告奈良農場は,原告らの主張する被告Aの地位・責任や,原告らと被告サンメイトとの間の販売総代理店契約の存在は知らない。原告らが主張するOEM供給販路が確立した事実自体存在しないし,被告奈良農場は,当然のことながらそのような事実の存在を認識していなかった。
なお,被告A及び被告サンメイトに関する部分については,これら両被告の主張をそれぞれ援用する。
(4) 被告サンメイトの主張 原告らが主張する被告Aの不法行為の成立に係る事実関係については,被告Aが原告のもとを出た後,被告サンメイトと被告奈良農場の間を行き来したこと,被告サンメイトが平成13年9月ころ被告Aを顧問とし,その後従業員として雇用したこと,現在,被告サンメイトが被告奈良農場から被告商品を購入してこれを販売していることは認める。
しかしながら,被告Aが原告らの従業員であったことや,原告らに対して秘密保持義務を負うことなどを含め,その余の事実関係はすべて否認する。既に述べたとおり,原告商品を製造する技術は,公開特許公報等を通じて公知の技術となっており,同技術に関して秘密保持の対象となるような「秘密」は既に存在しなかった。したがって,押出成形技術の漏洩といった事実も存在しない。
被告奈良農場の不法行為の成立に係る事実関係については,被告奈良農場が平成12年10月から同13年4月まで,被告サンメイト名義で原告らに乾燥おからを継続納入してきた事実及び被告奈良農場が平成13年8月以後被告商品を製造し,これを被告サンメイトに販売している事実は認めるが,その余は否認する。
被告サンメイトの不法行為の成立に係る事実関係については,被告サンメイトが原告らと平成12年3月21日付けで販売総代理店契約を締結した事実及び原告らからOEM供給を受けた猫砂を「トップサンド21」の商品名で販売した事実は認めるが,その余は否認する。
既に述べたとおり,原告商品の製造技術は公知技術であり,原告らが独自に開発したものではなく,営業上・技術上の秘密にも該当しない。また,被告サンメイトは,上記販売総代理店契約に違反する行為はしていない。他方,原告らは販売総代理店である被告サンメイトの発注に応じず,原告商品を顧客に直接販売している。上記契約に違反しているのは,原告らの方である。
4 争点4(原告らの損害額) (1) 原告らの主張 被告サンメイトは,平成12年3月の販売総代理店契約締結後,円筒状猫砂の販売量を順調に伸ばし,原告らに対して原告商品の増産を一貫して要求してきたものであるが,平成13年7月以後は,それまでの販売実績に基づき月額約1200万程度の発注を約束していた。しかるに,被告奈良農場から原告商品と全く同じ円筒状猫砂の供給を受け,販売するようになった同年8月ころからは,原告らに対する注文量を激減させ,上記1200万円との差額分を原告らに逸失させて,損害を発生させている。平成13年7月から同年11月までの被告サンメイトに対する販売額及び逸失利益額(損害額)は,それぞれ下記に示すとおりである(甲20)。
販売合計額(円) 逸失利益額(円) 平成13年 7月 655万2580 544万7420 同年 8月 299万3160 900万6840 同年 9月 77万0058 1122万9942 同年10月 0 1200万 同年11月 0 1200万 (合計)4968万4202(円) そして,原告らが被告サンメイトにOEM販売する円筒状猫砂の利益率は,平均して約60%であるから,原告らは平成13年7月から同年11月までの4か月間に限っても,2981万0521円(4968万4202×0.6=2981万0521)の得べかりし利益を損失したことになる。
原告らは,現時点においては,上記2981万0521円を損害として主張し,@ 被告らに対して不正競争行為(不正競争防止法2条1項3号)及び一般不法行為(民法709条,719条)に基づき,A 被告サンメイトに対して販売総代理店契約違反に基づき,B 被告Aに対して機密保持義務違反に基づき,上記金員の支払(上記@の場合は連帯して)を求める。
(2) 被告らの主張 損害に関する原告らの上記主張は,すべて争う。
なお,被告サンメイトが原告らに対し,平成13年7月以後,月額約1200万程度の猫砂の発注を約束していた事実は存在しない。
当裁判所の判断
1 争点1(不正競争行為の成否)について 不正競争防止法2条1項3号がいわゆる形態模倣行為を不正競争行為として規定した趣旨は,他に選択肢があるにもかかわらず,他人が資金や労力を投下して開発・商品化した商品の形態をことさらに模倣し,これを自らの商品として市場に置くことは,先行者の開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正と評価されるべきものであるばかりか,このような行為を許容すると,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺しかねないことから,上記行為を規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると解される。このような立法趣旨に照らせば,同号に基づく請求の主体となり得る者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
ところで,原告らは,原告商品の形態を構成する諸点として,@ 1ピースあたりのサイズは,全長平均約4〜10ミリメートル,幅平均約3〜4ミリメートル,重量平均約0.8グラム程度であること,A 色調は,原料である乾燥おからの色である薄黄色であること,B 中心部分が空洞の円筒(パイプ)状の形態をしていること,C 上記空洞部分のサイズも直径約1.3ミリメートル程度であること,D 表面全体に発泡による細かな気泡を無数に含む多孔質体であること,を挙げた上で,上記のうち円筒状(上記B,C)及び多孔質体(同D)の点を特に強調し,被告商品の形態が原告商品のそれを模倣したものであることは明らかであるとして,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成立を主張している。
原告らの主張する上記@〜Dの諸点については,これらの特徴を組み合わせた形態が同法2条1項3号にいう「形態」に該当し得るものといえるが,これらを組み合わせた形態につき,原告らが最も強調する円筒状の形状(上記B,C)に着目してみると,前記第2,3(2)記載のとおり,訴外スーパーキャットは,平成10年5月18日ころには,訴外エコシードから,抗菌剤であるアモルデンを含有しない円柱状猫砂のサンプル及び当時エコシードが開発中であった円筒状猫砂のサンプルの提供を受けた事実が認められる。原告ら申請に係る証人Bは,このころ,訴外エコラルで猫砂の商品としての完成度を高めることに取り組んでいたところ,円柱状猫砂だけでなく,当時開発中であった円筒状猫砂のサンプルをも訴外スーパーキャットに発送することを直接見聞した旨明確に証言しており(同人の証人尋問調書30〜31頁),上記円筒状猫砂のサンプルは,訴外エコシードから製造委託を受けた訴外エコラルにおいて,すなわち,原告ビップのあずかり知らないところで開発され,サンプル提供できる程度に商品化されたもので,商品の形態としてはこの時点で既に完成していたものと認められる。そうすると,円筒状の形態を有する猫砂を開発し,市場で流通可能な状態にまで商品化した主体は,原告ビップではなく(原告ビップビジネスは,当時設立されていない。),訴外エコシード及び訴外エコラルと認められる。原告らは,訴外エコシードが事実上倒産した後,同社の代表取締役であった被告Aの技術指導の下で,円筒状猫砂である原告商品を開発したものである。上記の経緯に照らせば,原告らが訴外エコシードから猫砂販売事業につき営業譲渡を受けてその業務を承継したといった事情もなく,単に同社の技術成果を事実上保持していた被告Aから指導を受けたというにとどまる本件においては,原告らをもって円筒状の猫砂の形態を自ら開発した者ということはできない。
そうすると,原告らはいずれも,本件において形態模倣の対象とされる商品である円筒状猫砂を自ら開発・商品化して市場に置いた者ということはできず,不正競争防止法2条1項3号の請求をなし得る者ということができない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,本訴における原告らの請求中,差止請求(第1,1,2)は理由がなく,また,損害賠償請求(第1,3)のうち同号を理由とする請求も理由がない。
この点につき,原告らは,平成10年3月ころから同年6月ころにかけて原告ビップが被告A及び訴外エコシードに提供した資金の大半が,訴外Bが訴外エコラルで手掛けていた円筒状猫砂の開発資金に使われたことは明らかであるとして,このことを理由に,原告ビップは,実質的に訴外Bとともに原告商品の商品化につき自ら開発を行った者といえるから,上記形態につき不正競争防止法2条1項3号の請求の主体となり得ると主張する。
しかしながら,被告サンメイトが指摘するとおり,開発資金の提供は,不正競争防止法2条1項3号の請求をなし得る主体と直接の関係はない(また,原告ビップの提供した資金が円筒状猫砂の開発資金に使われたことを,認めるに足りる証拠もない。)。平成10年3月ころから同年6月にかけての時点においては,原告ビップビジネスはいまだ設立されておらず,また原告らも自認するとおり,原告ビップも猫砂の製造販売に関する知識・経験を何ら有しておらず,被告Aからの提案を受け,自らが猫砂を製造販売しようと準備を進めていたにすぎないのであって,円筒状猫砂の形態の発案には一切関わっていない。したがって,原告らを上記請求の主体となり得る者と認めることはできない。原告らの上記主張は,採用できない。
2 争点2(秘密保持義務違反の有無)について (1) 本件の事実関係 前記の前提となる事実(第2,3記載)に,証拠(証人I,証人K,原告ら代表者E,被告奈良農場代表者L,検甲1〜2,甲2〜8,10〜18,20,22〜23,29〜30,32,35〜36,乙1〜5,11〜13,丙1〜3,9,丁1。ただし,枝番号は省略)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
@ 被告Aが代表取締役を務める訴外エコシードは,遅くとも平成10年1月ころには,おからを主原料とする円柱状多孔質体の猫砂を製品化し,訴外エコラルに委託して製造させていた。
訴外スーパーキャットは,同年5月ころから,訴外エコシードから円柱状猫砂のOEM供給を受け,これを「おからサンド」の商品名で販売し始めた。また,同月18日ころには,訴外エコシードから,抗菌剤であるアモルデンを含有しない円柱状猫砂のサンプル及び当時エコシードが開発中であった円筒状猫砂のサンプルの提供を受けた。
A 被告Aと原告ら代表者Eは,平成10年1月31日に開催された「全国経営者団体連合会 新春セミナー」で知り合い,Eは,訴外エコシードが製品化したバラ状緩衝材及び円柱状猫砂を原告ビップが扱うことや,当時開発中であった円筒状猫砂を同原告において製品化することを考えるようになった。
訴外エコシード及び原告ビップは,同年3月21日ころ,「共同経営契約書」(甲11)による契約を締結した。
原告ビップは,このようにして成立した取引関係に基づき,同年4月ころから,訴外エコシードから緩衝材の供給を受け,これを「スーパーエコシード」の商品名で販売した。また,同年6月ころからは円柱状猫砂の供給を受け,これを「スーパーエコシードV1」の商品名で販売した。
B 原告ビップは,被告Aの求めに応じ,平成10年3月31日から同年5月11日にかけて,合計約3100万円を訴外エコシード名義の普通預金口座等に振り込み,また被告Aに現金を手渡すなど,合計約3900万円の資金を訴外エコシード及び被告Aに提供した。
訴外エコシード及び原告ビップは,上記資金提供の事実を明確にするため,同年6月11日付けで,「金銭貸借契約証書」と題する書面(甲14の1)及び「譲渡担保設定契約書」と題する書面2通(甲14の2の1,甲14の2の2)の合計3通の書面を作成した。
C 平成10年7月になると,訴外安芸精器が不渡り手形を出し,訴外エコシード及び訴外安芸精器は事実上倒産した。原告ビップは,上記資金提供の際に被告Aから説明を受けていた猫砂製造用機械の引き渡しも受けないまま,同被告と連絡が取れなくなった。
このような状況のなか,同年9月6日ころ,被告AからEに突然電話があり,同被告は,「今から私は死にます」,「最後に一度お会いしてお詫びがしたい。」などと述べた。Eらが広島市内で同被告に会ってみると,同被告は,涙を流しながら,「特許権もお金もすべて騙し取られた。」,「ビップとは,緩衝剤や猫砂に関するビジネスを本当に一緒にやって行きたかった。」などとそれまでの経緯を説明した。Eらは,同被告の言葉を信じて同情してしまい,また,このままでは提供した資金を回収する機会もないまま終わってしまうとの思いもあって,「死んだつもりで恩返しがしたい」,「自分の技術を生かして(円筒状の)猫砂の開発を成功させたい。」との同被告の提案を受け入れ,同被告を原告ビップの事実上の工場長として雇い入れることにした。それに伴い,被告Aは,その翌日の同月7日ころ,妻を伴って広島市から原告ビップの所在地である静岡県富士市に転居し,以後,債権者の追及を避けるため原告ら社員である「I」の名を名乗って,原告ら会社の事実上の工場長として働き始めた。
D 原告らは,平成10年11月ころ,前記猫砂製造機械の所有者と改めて交渉し,代金1825万円でこれを譲り受けた。また,平成11年2月には,静岡県富士宮市内に原告ビップの杉田工場が完成し,原告らは,上記機械を設置して猫砂生産を開始しようとしたが,同機械には円筒状猫砂の製造に必要なダイスや乾燥機が備わっていなかったため,これを製造することができなかった。そこで,原告らは,訴外加藤技研に注文し,約945万円の費用を支払って,円筒状猫砂の製造に必要なダイス及び乾燥機等を製作させ,ようやく円筒状猫砂を製品化した。
原告らは,このようにして上記杉田工場で製造した円筒状猫砂を,同年5月ころから,先に販売していた円柱状猫砂と同じ「エコシードV1」の商品名で販売し始めた。
E 原告ら及び被告サンメイトは,平成12年3月21日,被告サンメイトが原告らの販売総代理店となり,原告らの製造する円筒状猫砂の供給を原則として独占的に受け,これを「トップサンド21」の商品名で販売する旨の契約(甲17)を締結した。
「トップサンド21」の販売数量は順調に伸びていき,同年5月末ころには,前記杉田工場の生産能力では,被告サンメイトからの注文量に応じきれなくなった。そこで原告ビップは,猫砂の原材料となるおからの新たな供給元を探し初め,同年10月19日からは,被告サンメイトから紹介された被告奈良農場から乾燥おからの供給を受けるようになった。ただし,この乾燥おからの納入に際しては,被告奈良農場から被告サンメイトに対し,いわゆるマージンが支払われていた。
F 被告奈良農場は,このようにして,平成12年10月19日から被告サンメイトを介して原告らに乾燥おからの供給を開始し,同年11月には,約1億2000万円の費用をかけて,群馬県勢多郡富士見村に工場を新設すべくその基礎工事に着手した。
被告奈良農場は,原告ビップの杉田工場に直接乾燥おからを納入していたので,被告奈良農場の代表者Lは,同工場を訪れた際,そこで工場長として働いていた被告Aと知り合い,それ以後,電話で連絡を取り合う関係となった。
被告Aは,原告らの工場長として働く境遇に必ずしも満足しておらず,事実上の倒産状態にあった訴外エコシード及び訴外安芸精器を再建したいと考えており,平成13年3月ころには,Lに対し,5000万円の設備投資で猫砂の製造が可能になるから,乾燥おからを供給するにとどまらず,自ら猫砂を製造することを考えてみてはどうかと提案した。
G 原告らは,平成13年3月,静岡県富士市五貫島に新たな工場(五貫島工場)を完成し,その生産量が被告サンメイトの販売量を上回るようになったが,平成13年4月ころ,原告らが同被告の了承を得ずに訴外中屋商事株式会社に猫砂を販売した事実が同被告の知るところとなった。同被告としては,上記中屋商事は販売総代理店契約の締結に際して定められた例外(原告らが販売総代理店である同被告を介さず猫砂を直接販売できるとされた販売先)には当たらないと認識していたため,原告らに対して不信感を抱くことになった。
平成13年5月ころ,従前から供給を受けていた業者からの供給で足りるようになったとの理由により,被告奈良農場の原告らに対する乾燥おからの供給が終了した。
他方,被告Aは,同年6月ころ,原告らのもとを出て行方が分からなくなり,原告らには何も知らせないまま,同月5日,静岡地方裁判所富士支部に自己破産を申し立て(同庁平成13年(フ)第133号・破産申立事件),同月28日には破産宣告及び破産手続廃止の決定を受けた。
H 前記のとおり,被告サンメイトは,原告らに対し,販売総代理店である同被告を通さず顧客に直接原告商品を販売しているのではないかとの不信感を抱いていたが,他方,原告らにおいても,被告サンメイトが製造元までも同被告である旨の表示をしてトップサンド21を販売していることや,五貫島工場の設備投資額及び生産力を前提にすると,同被告に対する従前の販売価格及び販売数量では採算ベースに乗らないことなどを問題であると考えていた。
平成13年6月29日,原告ら及び被告サンメイトの間で会談の機会が持たれたが,双方の見解は平行線をたどり,結論を得ることはできなかった。
同年7月に入ると,被告サンメイトが総販売代理店の例外とは認識していない訴外日幸商事の営業担当者が,同被告の取引先に対し,トップサンド21のパッケージコピーを同封した上,この商品と中身は同じであるので是非御用命頂きたいとの言葉を添えて,エコシードV1を送付した事実が同被告の知るところとなった。同被告は,上記事実について問いただす内容のファクス文書を原告らに送付し,抗議の意思を表明した。これに対し,原告らは,上記日幸商事にエコシードV1を販売した事実は認めたものの,トップサンド21のパッケージコピーを同封した事実はあずかり知らぬところであり,今後とも同被告の承諾なしにトップサンド21を販売するつもりはない旨の返答をした。
I 平成13年7月ころ,被告奈良農場は,被告Aの前記提案に従って自ら円筒状猫砂を製造することを決意し,同月中旬ころには,約5000万円の設備投資をして,被告Aの技術指導の下,群馬県勢多郡富士見村所在の前記工場において,猫砂製造のラインを完成した。また,同年8月には,円筒状猫砂のサンプル品製造に成功して,被告Aがこれを被告サンメイトに持ち込んだ。なお,被告奈良農場は,被告Aに対し,猫砂製造に係る技術の供与等に対する報酬として合計500万円を支払った。
被告サンメイトは,同年9月末ころには,原告らのもとを出奔していた被告Aを技術顧問として雇用した。また,被告奈良農場との間で,同被告が製造する円筒状猫砂を被告サンメイトが仕入れて販売する旨の契約を締結し,この猫砂を従前と同じ「トップサンド21」の商品名で販売し始めた。ちなみに,被告奈良農場は,原告らが被告サンメイトに卸売りする価格より概ね2〜3割低い価格で,被告サンメイトに猫砂を卸売りしていた。
J 前記五貫島工場が新設された平成13年3月から同年11月にかけての原告らの被告サンメイトに対する猫砂の販売額は,下記のとおりである。
販売合計額 平成13年3月 616万5528(円) 同年 4月 688万5788 同年 5月 535万7128 同年 6月 902万2031 同年 7月 655万2580 同年 8月 299万3197 同年 9月 77万0057 同年10月 0 同年11月 0 上記のとおり,被告サンメイトが被告奈良農場から猫砂を購入するようになった平成13年9月以後は,原告らの被告サンメイトに対する猫砂の販売額は激減した。その主たる原因は,被告サンメイトからの注文量が減ったことであるが,同被告が被告奈良農場から仕入れた円筒状猫砂を「トップサンド21」として販売していることに気づいた原告らが,被告サンメイトからの注文を,採算の合わない僅かな注文量であったことなどを理由に断り,同被告への出荷を事実上停止したことにもよる。
(2) 被告A及び被告サンメイトの秘密保持義務違反の有無 原告らは,原告らと被告Aの間に秘密保持義務契約が存在したと主張し,被告Aに対して,同契約上の義務違反を理由とする損害賠償を請求するとともに,被告サンメイトは販売総代理店契約に基づく秘密保持義務に違反したものであるとして,被告サンメイトに対して同契約上の義務違反を理由とする損害賠償を請求している。
上記(1)において認定した事実関係によれば,被告Aは,平成10年7月に訴外エコシード及び訴外安芸精器が倒産した後,債権者の追及をおそれて身を隠していたところを,同年9月,原告ら代表者Eに懇願して,原告らの下において事実上の従業員として雇用され,円筒状猫砂の開発業務に従事していたものである。訴外エコシードに対して多額の債権を有していた原告ビップが前記倒産により損失を被ったにもかかわらず,原告らが被告Aを事実上の工場長として処遇したのは,専ら,同被告が円筒状猫砂の製造上の技術を有しており,円筒状猫砂の開発に同被告の技術知識等が必要であったからであり,現に,被告Aは,平成11年2月ころには,原告らの下において,円筒状猫砂の製品化に成功している。このような,平成10年9月以降被告Aが原告らの下において稼働するに至った経緯及び原告らの下における被告Aの役割に照らせば,同年9月ないし翌11年2月ころに,原告らと被告Aとの間に,同被告が円筒状猫砂の製品化についての技術情報を,専ら原告らの利益のために利用し,同情報を第三者に漏洩しない旨の合意が成立していたことは,十分に認め得るところである。
原告らは,原告ビップが被告A宛に作成した平成10年11月1日付け「労働条件通知書」(甲15の6)に,「業務上機密に属するものは,在職中は勿論,退職後といえども一切これを他に公表しない」との一文が定型文言で記載されていること,及び,原告らの取締役と被告Aを含む社員全員により平成10年12月1日付け「機密保持に関する約定書」(甲16)が作成されていることを指摘する。上記約定書(甲16)については,これを作成した際の事情等につき,必ずしも明確でない点もあるが,上記認定の事実関係の下においては,同約定書の存在は,原告らと被告Aとの間に,同被告が円筒状猫砂の製品化についての技術情報を,専ら原告らの利益のために利用し,同情報を第三者に漏洩しない旨の合意が存在したことを裏付ける事情のひとつと認めるのが相当である。
この点につき,被告A及び被告サンメイトは,原告らが「秘密」の内容として主張する円筒状猫砂の製造・商品化に係る基本技術及び実施技術は,公開特許公報等により公開されていた情報と同一であるから,秘密保持義務の対象となるものではないとして,原告らの主張を争っている。
しかしながら,原告らにおいては,自らこのような公開文献等から円筒状猫砂の製造技術を知る能力を有していなかったし,また,被告Aによる実施技術ないし製造ノウハウが円筒状猫砂の製造のために有益なものであったと認められること(現に,原告らは,被告Aの技術指導の下においてようやく原告商品の製造・商品化に成功したものであり,その後,被告Aの技術指導により被告奈良農場が被告商品の製造に成功したことからも,このことは認め得る。)に照らせば,原告らとしては,被告Aとの間で原告ら主張の内容につき秘密保持契約を締結することは,実際にも意味のあることであり,被告Aは秘密保持義務を負っていたものと認められる(なお,被告Aが円筒状猫砂の製造状の技術を有し,原告ビップに技術指導をしていたこと自体は,被告Aの自認するところであり,被告サンメイトも争っていない。)。また,仮に,被告Aの有していた技術情報につき,客観的にはその主要な部分が公開文献等から入手可能な情報であったとしても,原告らと被告Aがそのような情報につき,秘密保持契約を締結することは可能であり,原告らとしては,被告Aが原告らの業務への専従義務及び競業避止義務を含めた義務を負担することを明確にする趣旨で,被告Aとの間でそのような取り決めをすることには意味があったものと認められる。
そして,前記認定のとおり,原告らが被告Aの技術指導の下でようやく原告商品の製造・商品化に成功した経緯及び原告らと被告サンメイトとの間では円筒状猫砂の製造は専ら原告らにおいて行い,被告サンメイトは専らこれを販売するものとされていることなどに照らせば,原告らと被告サンメイトとの間の平成12年3月21日付け販売総代理店契約(甲17)に秘密保持条項(同契約第9条)として,「甲および乙は,本契約および個別契約により知り得た双方の営業上,技術上の秘密(情報)を第三者に開示または漏洩してはならない。」と定められているのも,被告Aとの間の秘密保持契約と同様,被告サンメイトが,円筒状猫砂の製造技術を第三者に開示して円筒状猫砂を製造させることにより,原告らを排除して円筒状猫砂販売事業を遂行することのないように,原告らとしては被告サンメイトが競業避止義務を含めた義務を負担することを明確にする趣旨で,被告サンメイトが円筒状猫砂の製造上の実施技術ないし製造ノウハウを含めた技術情報を第三者に漏洩しないことを取り決めたものと認めることができる。
そうすると,前記(1)において認定のとおり,被告Aは,原告らの下において,事実上の工場長として稼働していたにもかかわらず,自ら持ちかけて被告奈良農場に原告商品と実質的に同一の円筒状猫砂を製造させ,原告らと販売総代理店契約を締結していた被告サンメイトにこれを販売させ,自らも同被告に雇用されて円筒状猫砂の製造販売に従事し,原告らに経済的打撃を与え続けているものであり,被告Aのこのような行為は,原告らとの間の秘密保持契約に違反するものと認めることができる。
また,前記(1)において認定した事実関係は,@被告奈良農場は,被告サンメイトの紹介により原告らに円筒状猫砂の原料となる乾燥おからを納入するようになったところ,当該納入については被告奈良農場から被告サンメイトに対してマージンが支払われていた,A平成13年5月ころ,被告奈良農場から原告らへの乾燥おからの供給が終了したが,同年6月ころから,原告らと被告サンメイトとの間で,原告商品の販売につき紛争が生じた,B同年6月,被告Aは,原告らのもとから出奔して,自己破産を申し立て,破産宣告を受けた,C同年7月ころ,被告奈良農場は,新たに約5000万円の設備投資をして被告Aの指導の下で円筒状猫砂の製造ラインを完成し,同年8月にはサンプル品を被告サンメイトに持ち込んだ,D同年9月に,被告サンメイトは,被告Aを雇用するとともに,被告奈良農場から円筒状猫砂の納入を受けて販売する契約を締結したが,被告奈良農場からの仕入額は,原告らからの原告商品の仕入額よりも概ね2〜3割低い価格であった,というものであり,これによれば,被告サンメイトは結果として原告らから供給を受けていたときよりも低価格で商品の納入を受けられるようになったこと,また,被告奈良農場は,猫砂について独自の販路を有するわけでもないのに多額の設備投資をして円筒状猫砂の製造ラインを完成したことが指摘される。このような経緯に照らせば,被告サンメイトは,遅くとも,被告Aが原告らのもとから出奔した平成13年6月までには,被告Aと意を通じて,同被告の技術指導の下において被告奈良農場に円筒状猫砂を製造させ,同被告から製品の納入を受けることを計画していたものであり,被告奈良農場に対して,製造した猫砂を被告サンメイトが販売することを事前に確約することにより,製造ラインの整備に踏み切らせたものと認定するのが相当である。
原告らと被告サンメイトとの間の販売総代理店契約における秘密保持条項の趣旨は,必ずしも条項自体において明確ではないが,前記のとおり,被告サンメイトが原告らを排除して,円筒状猫砂を第三者に製造させることのないように,被告サンメイトに競業避止義務を負わせる趣旨を含むものと解すべきであるから,上記のような被告サンメイトの行為は,同契約上の義務に違反するものと認められる。
以上によれば,被告A及び被告サンメイトは,いずれも契約上の秘密保持義務に違反したものと認めるのが相当である。
3 争点3(共同不法行為の成否)について (1) 被告A及び被告サンメイトの不法行為の成否 前記2(1)において認定した事実関係によれば,被告A及び被告サンメイトの上記行為は,いずれも契約上の秘密保持義務に違反するとともに,一般不法行為(共同不法行為。民法709条,719条)を構成するものというべきである。
(2) 被告奈良農場の不法行為の成否 しかしながら,前記2(1)において認定した事実関係によれば,被告奈良農場については,@被告奈良農場は,原告らとの間で,円筒状猫砂の製造に関する秘密保持義務を負担するような契約を締結していたものではなく,A原告らと被告A及び被告サンメイトとの間の前記秘密保持契約の内容を知悉していたものでもないこと,B被告奈良農場は,円筒状猫砂を被告サンメイトに納入することについて,原告らとの間で,これを差し控えるべき契約上の義務を負うものではないこと,C被告奈良農場が円筒状猫砂の製造を行うようになったのは,被告A及び被告サンメイトの働きかけによるものであって,むしろ受動的な立場から製造に踏み切ったものであり,Dしかも,円筒状猫砂の製造に踏み切ったのは,原告らに対する乾燥おからの供給が終了した後のことであること等の点が,指摘されるところであり,このような経緯に照らせば,被告奈良農場の行為が,原告らに対する不法行為を構成するとまではいえない。
原告らは,被告奈良農場は,被告A及び被告サンメイトと意を通じて,当初から原告らに替わって円筒状猫砂を製造するつもりで一連の行為をしたもので,被告奈良農場の行為は不法行為を構成すると主張するが,被告奈良農場については上記のような事情を認定できるにとどまるから,同被告の行為が不法行為を構成する旨の原告らの主張は,これを認めるに足りる証拠がなく,採用できない。
4 争点4(原告らの損害額)について 証拠(甲20)及び弁論の全趣旨によれば,原告ら五貫島工場が新設された平成13年3月から同年11月にかけての原告らの被告サンメイトに対する猫砂の販売額は,下記のとおりと認められる。
販売合計額 平成13年3月 616万5528(円) 同年 4月 688万5788 同年 5月 535万7128 同年 6月 902万2031 同年 7月 655万2580 同年 8月 299万3197 同年 9月 77万0057 同年10月 0 同年11月 0 したがって,被告サンメイトが被告奈良農場から猫砂を購入するようになった平成13年9月以前の6か月間(同年3月〜8月)の平均販売額は,下記に示すとおり,616万2708円と算出される(ただし,1円未満切り捨て)。
(616万5528+688万5788+535万7128+902万2031+655万2580+299万3197)÷6 ≒ 616万2708(円) 被告A及び被告サンメイトの契約上の義務違反ないし不法行為がなければ,平成13年9月から同年11月までの間も,毎月平均して上記616万2708円程度の販売があったものと認めるのが相当であり,原告らが被告サンメイトに原告商品を販売する際の利益率は,50%を下回らないと認めるのが相当であるから,上記期間に原告らに生じた損害の額は,下記に示すとおり,885万9033円と認めるのが相当である(ただし,1円未満切り捨て)。
(616万2708×3-77万0057)×0.5 ≒ 885万9033(円) これが本件において,被告A及び被告サンメイトの債務不履行ないし不法行為によって原告らに生じた損害の額と認めるのが相当というべきである(なお,原告らは,平成13年7月以後,被告サンメイトが月額1200万円分の猫砂の購入を約したとして,これを前提に損害額を主張するが,被告サンメイトがこのようなことを約したことを裏付ける証拠はないから,原告らの上記主張は採用することができない。)。
5 結論 以上によれば,原告らの請求は,被告A及び被告サンメイトに対して,契約上の義務違反ないし不法行為を理由に,連帯して885万9033円の損害賠償を求める限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 青木孝之
裁判官 吉川泉
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