関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 周知性 / 市場占有率 / 商品等表示 / 普通名称 / 出所識別機能 / 出所表示性(出所表示) / 類似性(類似) / 外観 / 模倣 / 差止請求(差止) / 著名表示(著名性) / 代理人 / 識別力 / 損害賠償 / |
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事件 |
平成
15年
(ネ)
366号
不正競争行為差止等請求控訴事件
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控訴人 PCフレーム協会 控訴人 株式会社ピー・シー・フレーム 控訴人ら訴訟代理人弁護士 安原正之 同 佐藤治隆 同 小林郁夫 同 鷹見雅和 補佐人弁理士 福田武通 同 福田賢三 同 福田伸一 被控訴人 斜面受圧板協会 被控訴人 株式会社エスイー 被控訴人 日本ゼニスパイプ株式会社 被控訴人 吉佳株式会社 被控訴人ら訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同 宮嶋学 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/05/22 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人ら (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人日本ゼニスパイプ株式会社,同吉佳株式会社及び同株式会社エスイーは,いずれも,別紙製品目録2記載の受圧板につき,その製造も販売もしてはならない。 (3) 被控訴人らは,いずれも,前項記載の受圧板の製造・販売のために同受圧板を展示することをしてはならない。 (4) 被控訴人らは,いずれも,第2項記載の受圧板に「クロスタイプ」,「セミスクエアタイプ」,「スクエアタイプ」のいずれの名称も付してはならない。 (5) 被控訴人日本ゼニスパイプ株式会社,同吉佳株式会社及び同株式会社エスイーは,連帯して,控訴人株式会社ピー・シー・フレームに対し,2896万2000円を支払え。 (6) 訴訟費用は第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら 主文と同旨 |
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事案の概要等
1 控訴人PCフレーム協会は,後記PCフレーム工法などの工法の普及等を目的として設立されたいわゆる権利能力なき社団である。控訴人株式会社ピー・シー・フレームは,後記PCフレームを開発し,これを用いたPCフレーム工法による斜面の安定化工事を業として行ってきた。 PCフレームとは,プレストレストコンクリート(圧縮軸力を付与した高強度コンクリート)製の斜面受圧板のことである。複数のPCフレームを,アンカーを用いて斜面の上方から隣接状に施工し(逆打ち工法),その押圧力により斜面(法面)を安定化させ,養生するのが,PCフレーム工法である。 被控訴人斜面受圧板協会は,PUC受圧板工法(アンカーと受圧板を組み合わせて使用し,斜面の安定化を図るという点では,PCフレーム工法と共通する工法である。)の普及等を目的として設立されたいわゆる権利能力なき社団である。 被控訴人日本ゼニスパイプ株式会社,同株式会社エスイーは,このPUC受圧板の販売等を行っており,同吉佳株式会社は,PUC受圧板を用いて工事をする者から,工事施工高に応じて金員を徴収している。 2 控訴人らは,その製品である別紙製品目録1記載のPCフレーム(以下,「控訴人製品」ないし「PCフレーム」という。)の形状及びその名称(「クロスタイプ」,「セミスクエアタイプ」及び「スクエアタイプ」。以下,まとめて「本件各名称」という。)が,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の「商品等表示」に該当し,控訴人らの「商品等表示」としての周知性及び著名性も獲得しているとし,さらに,被控訴人らの製品である別紙製品目録2記載のPUC受圧板(その用途は上記のとおり,PCフレームと同じである。以下,まとめて「被控訴人製品」ないし「PUC受圧板」という。)の形状が,控訴人製品と類似しており,しかも,被控訴人らは本件各名称を被控訴人製品に使用しているとして,不正競争防止法2条1項1号ないし2号を根拠に,被控訴人ら全員に対して,被控訴人製品への本件各名称の使用及び被控訴人製品の展示を禁止する裁判,被控訴人日本ゼニスパイプ株式会社,同株式会社エスイー及び同吉佳株式会社に対して,被控訴人製品の製造・販売を禁止し,損害賠償を命じる裁判を求めて,訴えを提起した。 3 原判決は,PCフレームとPUC受圧板に共通する基本的形態は,いずれも不正競争防止法2条1項1号ないし2号の「商品等表示」に該当せず,また,本件各名称が,控訴人らの商品等表示として周知ないし著名であったとは認められないとして,控訴人らの請求をすべて棄却した。 |
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当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。 1 当審における控訴人らの主張の要点 (1) PCフレームの三つの形状の特徴について ア クロスタイプ 全体的に十字形状であり,十字形状の中心部には,アンカーを挿入する孔があり,その上にカバーが設けられている。十字形状の4本の脚部上面は先端方向に向けテーパー状とし,側面部は先端方向に向け先細りの形状となっている。 このように,クロスタイプの形状は,中心部を肉厚,かつ,幅広とした上,脚部を先端方向に従い厚さを薄くし,かつ,細くするものとなっている。クロスタイプを連接して斜面を加工した場合,受圧板に覆われない植生可能な空間は概略長方形状となる。 イ セミスクエアタイプ セミスクエアタイプの形状は,クロスタイプの形状を,角部を隅切り状に切った方形状の板の上にクロスタイプの脚部の各先端が方形状の板の角部に位置するように重ねたものである。セミスクエアタイプを連接して斜面を施工した場合,植生可能な空間は正四角形状となる。 ウ スクエアタイプ スクエアタイプの形状は,クロスタイプの形状と方形状の板の形状とを組み合わせたものであり,クロスタイプの脚部の先端が方形板の辺の中心部に置かれるよう重ね合わせている。スクエアタイプを連接して斜面を施工した場合,植生可能な空間部は存在しない。 (2) PCフレームの各形状が,「商品等表示」に該当することについて ア PCフレームの形状の特異性,顕著性について (ア) 原判決は,PCフレームの3タイプは,従前の在来工法で施工された面形状又は格子状の斜面を一つずつのブロックに切り取った場合の必然的形状であり,控訴人らは,単に机上の図面などからPCフレームの3形状を想像してブロック化したものにすぎない,と判断している。 しかし,PCフレームのクロスタイプの形状は,単に従来工法の格子状のものを切り取るだけのことによって作られたものではない。斜面を養生するという本来の機能はもちろん,受圧板自体が有する美観,施工後の各受圧板を連続させた美観をも考慮して,考案されたものである。 (イ) 実際にも,従来工法(現場打ちコンクリート枠工法やモルタル吹付工法)により格子状に施工された斜面の,十字形状部分を切り取っても,必然的にPCフレームの3形状になるものではない。従来工法により施工された格子状のものは,格子状の部分を含めて,上面が平らで縦・横とも同一幅で施工されているため,格子部分を切り取っても4本の各脚部の上面は平坦で,脚部の形状は同一幅,同一厚みの長方形状となるにすぎない。PCフレームのクロスタイプのように,中心部が肉厚かつ幅広で,脚部は先端部に向けテーパー状で,厚さが薄く,幅が細くなる,ということはない。 そのほか,切取り方によって,種々の形状,例えば,(ア)格子状で囲んだ内部の面状部分のみ切り取る場合(受圧板の厚さが均一な平板状となる。),(イ)格子状の外枠とその内側の面状部分とを一緒に切り取る場合(受圧板が立方体となる。),(ウ)格子状の枠のみを切り取る場合((イ)の底がないロ字状の受圧板となる。),(エ)十字の部分とその下面の面状部を切り取る場合(十字形状は長方形となる。)となり得る。しかも,(ア)〜(エ)のそれぞれの場合について,さらに多数の形状を考案することが可能である。例えば,(ア)の変形として,5角形状,6角形状,円形状等が考えられる。 (ウ) 以上述べたとおり,PCフレームの3形状を,従来工法により施工された格子状の斜面を切り取った場合の必然的な形状とすることはできない。 PUC受圧板の3形状は,PCフレームの3形状を意図的に模倣することによって考案されたものである。 イ PCフレームの形状とその機能との関係 (ア) 原判決は,PCフレームの形状は,その機能と必然的に結び付いたものであり,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう商品等表示に当たらない,と判示する。 しかしながら,斜面の受圧板の形状は,斜面の養生という機能だけではなく,周囲の環境に合うような外観であるか,植物を植えることが可能であるかなど,他の要素をも考慮しつつ,種々の形状を採用し得るものである。そのため,斜面を養生する受圧板の形状は,PCフレームの3形状には限られないのである。 (イ) 実際の製品としても,6角形状のもの,棒状のもの,4本の脚部又は8本の脚部を放射状に配した8角形状のもの,三つ又状のもの,大きさの異なる方形の板を重ねたものなどがある(甲124号証〜第142号証)。被控訴人らも,GET受圧板として,PCフレームとは異なる形状の受圧板を販売している。 ACRフレーム工法の受圧板のように,PCフレームと,商品の名称(クロスタイプ,セミスクエアタイプ)が一致し,形状も類似するものもある。しかし,これら両者は,材質が異なり(ACRフレーム工法の受圧板は鋼板製),全く競合しない。 (ウ) PCフレームの形状は,クロスタイプの形状を基本とし,セミスクエアタイプ及びスクエアタイプはいずれも方形状の板の上面にクロスタイプの形状が重ねられている,いずれも特徴のある形状である。これは,受圧板の機能により必然的かつ不可避的に得られるような形状ではない。 ウ PCフレームの形状の周知著名性 プレストレストコンクリート製の斜面受圧板は,控訴人ピー・シー・フレームが世界で初めて開発した。PCフレームないしPCフレーム工法に関する特許等も登録されている。 控訴人らは,PCフレームを世界で初めて上市し,昭和61年12月以来,カタログ配布,技術説明会の開催,雑誌・書籍の掲載を通じて,継続的に宣伝し,永年にわたって,PCフレームを排他的,独占的に販売してきた。現在でも,市場占有率は6割を下らない。他方,プレキャスト・プレストレストコンクリート製の斜面受圧板の分野で,PCフレーム以外の商品が初めて市場に現われたのは,PUC受圧板が発売された平成11年2月に至ってのことである。 以上により,PCフレームの3形状は,控訴人らの商品であることを示すものとして,周知著名性を獲得している。 (3) 本件各名称について ア 原判決は,本件各名称が普通名称化しており,使用により出所表示機能を獲得したとはいえない,と判断している。 原判決は,平成8年度版の建設省土木工事積算基準では,PCフレームの種類を示すものとして,本件各名称が用いられていたのに,平成9年度版においては,「PCフレーム」の文言が「プレキャストコンクリート板」に変更され,その種類を示すものとして本件各名称が使用されていることを,上記判断の根拠の一つとしている。 しかし,プレキャスト・プレストレストコンクリート製受圧板の分野におけるPCフレーム以外の商品は,PUC受圧板がその最初であり,その登場時期は平成11年2月である。建設省土木積算基準が変更されたからといって,本件各名称が,PCフレーム以外のプレキャスト・プレストレストコンクリート板に用いられるようになった,ということはあり得ない。 そして,現在でも,プレキャスト・プレストレストコンクリート板は,PCフレームとPUC受圧板だけである。 平成9年までに,プレストレストコンクリート板以外の受圧板で,本件各名称を採用したものはある。しかし,このことをもって,本件各名称が,普通名称化した,とすることはできない。 イ 財団法人経済調査会の「積算資料」及び財団法人建設物価調査会の「建設物価」では,本件各名称が,PCフレームの固有の名称として使用されている(甲第143号証)。これも,本件各名称が普通名称化していないことの証左である。 2 被控訴人の反論の要点 (1) 控訴人らの主張する(ア)〜(エ)の具体的形状は,必ずしも明確ではない。しかし,少なくとも,アンカーを配設するという受圧板の性質を無視した,机上の空論であることは明らかである。 例えば,(ア)のように面状部分を切り取っても,その部分には,アンカーを配設する部分がないため,受圧板として機能しないことは明らかである。その外の(イ)〜(エ)の形状も,技術的な実現可能性を欠く。 (2) プレキャスト・プレストレストコンクリート板製の斜面受圧板は,PUC受圧板が発売されるまでは,PCフレーム以外に存在しなかった,との控訴人らの主張は,要するに,PUC受圧板以外の製品は,PCフレームと競合しないので,その形状がいかなるものであるかは,本件においてPCフレームの形状がありふれたものであるか否かの判断とは関係がない,との趣旨であろう。 しかし,プレキャスト・プレストレストコンクリート板ではない受圧板であっても,それらが用いられるのは,いずれも法面の安定化工法においてであり,需用者も共通している。PCフレームの形状がありふれたものであるか否か,出所識別機能を有するか否かの判断において,受圧板全般においてどのような形状が採用されているかを斟酌すべきであることは,当然である。 PCフレームの形状は,斜面受圧板としてありふれたものであり,これが控訴人らの商品を示すものとして周知著名であるということはあり得ない。 (3) GET受圧板は,鋳鉄製品であり,プレキャスト・プレストレストコンクリート製の受圧板とは,受圧板の形状に関する技術的制約が全く異なる。PCフレームないしPUC受圧板と形状が異なってくるのは,技術上当然である。 (4) 本件各名称が普通名称化していないとして,控訴人は縷々反論する。しかし,本件各名称は,いずれも,「PCフレーム」という個性的な名称に付加する形で,控訴人製品をその型により区別するために使用されているにすぎない。本件各名称それ自体に,出所を表示するものとして周知性ないし著名性はない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第4 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。 1 PCフレームの形状が,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の「商品等表示」に該当するか否かについて (1) PCフレームとPUC受圧板に共通する形状(以下「本件各形状」という。)は,@全体的に十字形状であり,十字形状の中心部にはアンカーを挿入する孔があり(完成時には,これにカバーが設けられる。),十字形状の4本の脚部上面及び側面は,いずれも先端方向に向けテーパー状(先細り状)の形状となっている形状(クロスタイプ),Aクロスタイプの形状のものを,角部を隅切り状にカットした方形状の板の上に,クロスタイプの脚部の各先端がその方形状の板の角部に位置するように重ねた形状(セミスクエアタイプ),Bクロスタイプの形状のものを,方形状の板の上に,クロスタイプの脚部の先端がその方形板の辺の中心部に置かれるよう重ね合わせた形状(スクエアタイプ),である。 (2) クロスタイプの形状のプレストレストコンクリート製の受圧板の形状について考察する。 まず,受圧板内部に埋め込む鋼材を2群とし,かつ,この鋼材を折り曲げたりせず,互いに直交させて十字型に配置する構成は,用いる鋼材の数を少なくしつつ,かつ最も単純な構造で,上下左右方向に満遍なく受圧板の強度を高めることができるものであると認められる。 4本の脚部の長さを等しくし(すなわち上下左右を対称とし),脚部の交点,すなわち中心にアンカーを固定する孔部を設けることは,アンカー接合部から各端部までの距離が等しくでき,受圧板に掛かる荷重を均等にできる点で優れている。上下左右対称にして中心部にアンカー接合部を設けると,簡単に,個々の部分が必要十分な強度を持った受圧板とすることができる。また,このような上下左右対称の形は,そうでないものに比べ,整然と斜面に並べることがより容易であると認められる。 中心部から周辺部に向かうほど,脚部を薄く細くする点は,中心部に近いほど,アンカーによる引っ張り力と受圧板各部が受ける地面からの反発力が集中するから,厚くする必要があるのに対し,周辺部ではそのようなことはないから中心部ほど厚くする必要はなく,したがって,端部に過剰な強度を持たせることを避けるという観点から,優れていると認められる。 そうすると,クロスタイプの形状は,プレストレストコンクリート製の受圧板の機能上必然的に要求される要素,すなわち,受圧板そのものの強度を均一に高めること,斜面からバランスよく力を受けることができること,敷設作業も単純化できること,過剰な強度を持つ部分を作らないため無駄がなく,製造コスト等で有利であること等を,直截に反映させて導き出すことができる,最も基本的で,かつ単純な形状の一つである,ということができる。 スクエアタイプ,セミスクエアタイプは,養生する地盤の強度(許容地耐力)が足りない場合,接地面積を増やすために,クロスタイプに,方形状(セミスクエアタイプでは角を隅切りしている。)の板を組み合わせた形状であるから,プレストレストコンクリート製の受圧板の機能上最も基本的な形状であるクロスタイプに,別の機能上の要求に応じるための構成を付加することによって,自然に導き出すことができる。この方形状の板部分を正方形とすることも,連接させて斜面を覆っていくという受圧板の使用態様上,最も基本的な形状ということができる。この方形状の板部分とクロスタイプの部分の位置関係を変えて,現場で設置した場合に地面が露出するものと露出しないものとの二種類とすることも,設置地面の許容地耐力の強弱に応じて異なる要求に応じるために自然に生まれる発想である。結局,これらもまた,受圧板の機能から要求される要素から当然に導き出される形状の一つということができる。 (乙第13号証,第14号証) (3) 控訴人らは,受圧板の形状として,本件各形状以外にも様々なものがあり得る,と主張し,これに沿う証拠を提出する。確かに,本件各形状は,アンカーに固定され,斜面を押圧することにより,その安定化を図るという受圧板の機能からは,これらしかあり得ないとまでは認められない。これら以外にも,多様な形の受圧板があり得ると認められ,現に,実際に工事に用いられているものもある。 (甲124号証ないし第142号証)。 しかし,他の機能上の要求を考慮したり,用いる材料の特徴を反映させたり,あるいは美観上の要求を優先させるなどすれば,異なった形状を採り得ることは当然であるものの,そのことは,本件各形状が,機能上要求される要素から導き出される基本的な形状の一つであるとの上記認定を妨げるものではない。 (4) 以上の観点からしても,上記PCフレームとPUC受圧板に共通する形状が,プレストレストコンクリート製の受圧板の機能上要求される要素から当然に導き出される,すなわち,機能と必然的に結び付いた形状であり,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の商品等表示に該当しないとした原判決の判断には,何ら誤りはないというべきである。 (5) 控訴人らは,PCフレームの形状が,控訴人らの製品であることを示すものとして,周知著名である,と主張する。 原判決が認定した,控訴人協会の構成員が,PCフレーム工法を開発して,控訴人らが初めてプレストレストコンクリート製の斜面受圧板を市場に投入したこと,昭和61年12月ころ以降,控訴人らが独占的にプレストレストコンクリート製の斜面受圧板を販売してきたこと,その間,控訴人らは,PCフレーム工法のカタログを配布し,多数回にわたり技術説明会を開き,雑誌・新聞等において広告や記事が掲載されてきたこと,同種製品(PUC受圧板)は,平成11年2月ころまで現われなかったことに加え,現在でも,PCフレームは相当程度高い市場占有率を有していること(弁論の全趣旨)に鑑みれば,PCフレームの3形状を採用したプレストレストコンクリート製の斜面受圧板の形状を見て,その限りでは,控訴人らの製品であると認識する当業者は,現在でも決して少なくないと認めることができる。 しかし,控訴人らが,プレストレストコンクリート製の斜面受圧板を独占的に販売してきたことは,控訴人らがPCフレーム工法に関して特許権等を有しており(甲第88号証等,弁論の全趣旨),他者が同種の斜面受圧板を製造・販売することが制限されていたためと認められる。特許権等の知的財産権の存在により独占状態が生じ,これに伴って周知性ないし著名性が生じるのはある意味では当然のことであり,これに基づき生じた周知性だけを根拠に,不正競争防止法の適用を認めることは,結局,知的財産権の存続期間経過後も,第三者によるその利用を妨げてしまうことに等しい。そのような事態が,価値ある情報の提供に対する対価として,その利用の一定期間の独占を認め,期間経過後は万人にその利用を認めることにより,産業の発達に寄与するという,特許法等の目的に反することは明らかである。 もっとも,このように,周知性ないし著名性が知的財産権に基づく独占により生じた場合でも,例えば,知的財産権の存続期間が経過し,第三者の同種競合製品が市場に投入されて相当期間経過するなどして,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお控訴人製品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情が認められるなどのことがあれば,不正競争防止法2条1項1号,2号を適用する余地はあろう。しかし,本件では,そのような事情は一切認められない。 機能と必然的に結び付いた形状であっても,その出所表示としての周知著名性があるときは,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の周知著名性の要件を充足するという観点に立ったとしても,本件における上記状況の下では,これを認めることはできないというべきである。 2 本件各名称について (1) 原判決認定のとおり,本件各名称の構成は,ごくありきたりの英語を二つないし三つ連結させただけのものにすぎず,それ自体,何ら特異性はなく,出所表示機能に乏しいものである。 その使用の実態を見ても,本件各名称は,専ら,「PCフレーム」という言葉とともに用いられ,PCフレームの商品の形状別の種類を示す名称として,PCフレームという言葉と使用されてきている。これは,控訴人ら自身においても,同様である。 (甲第2号証ないし第6号証,第87号証,第123号証,第143号証,乙第1号証) 結局,本件各名称それ自体が,商品の出所を示すものとして広く用いられ,自他商品の識別力を有するに到ったとは認めることができない。 (2) 控訴人らは,本件各名称が普通名称化したとの原判決の認定を論難する。 しかし,そもそも,本件各名称が出所表示機能を獲得したとはいえない以上,これにつき,不正競争防止法2条1項1号ないし2号を適用する余地はない。このことは,本件各名称が普通名称化したか否かとは無関係である。 もっとも,平成7年ころから,RCクロアブロック工法の受圧板について,「クロスタイプ」,「スクエアタイプ」の名称が使われ,平成9年ころからは,ACRフレーム工法の受圧板について「クロスタイプ」,「セミスクエアタイプ」の名称が使われ,平成11年ころから,PUC受圧板について本件各名称が使われていることに,本件各名称がもともと特異性のない記述的な語であることを併せ考慮すると,これらが現在では普通名称化しているとの判断に誤りがあるとは認められない(なお,上記各工法の受圧板も,PCフレームとは構造が異なるものの,用途や受圧板としての機能には基本的に差がないと認められるから,これらについて本件各名称が使用されたことは,同じ受圧板という商品分野において,本件各名称が普通名称と認識されるか否かについて,当然に斟酌すべき事情である。)。 3 以上検討したところによれば,控訴人らの請求は理由がないことが明らかであり,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。そこで,これを棄却することとし,控訴費用の負担について民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |