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関連ワード 信義則 /  他人の営業 /  因果関係 /  損害額の推定(損害額と推定) /  不当利得 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  2条1項4号 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  推定 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 1717号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(1審被告) 株式会社アルティア
控訴人(1審被告) A
控訴人ら訴訟代理人弁護士 猪子恭秀
被控訴人(1審原告) 株式会社ペンシル
被控訴人訴訟代理人弁護士 島尾恵理
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2002/11/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人株式会社アルティアの控訴を棄却する。
2 控訴人Aの控訴に基づき,原判決主文第1ないし第3項中,控訴人Aに関する部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人Aは,被控訴人に対し,2782万3197円及び内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から,内1827万5392円に対する平成13年4月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人の控訴人Aに対するその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,被控訴人と控訴人株式会社アルティアとの間においては,控訴費用を控訴人株式会社アルティアの負担とし,被控訴人と控訴人Aとの間においては,第1審,2審を通じてこれを10分し,その4を控訴人Aの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は,第2項(1)につき,仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人ら (1) 原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1審,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 (1) 本件控訴を棄却する。
(2) 主文第3項と同旨(以下,控訴人株式会社アルティアを「被告会社」,控訴人Aを「被告A」,被控訴人を「原告」という。また,略称については原判決のそれによる。)
事案の概要
1 原告の請求及び原審の判断 本件は,各種語学教室経営を業とする原告が,同社の元代表取締役の被告A,元取締役のC(以下「C」という。)及び元従業員のD(以下「D」という。)は,被告会社(組織変更前の商号・有限会社アルティア)を設立し,原告の中核事業である後記2(1)アのALT事業の顧客,講師等を被告会社に移転し,被告会社においてALT事業を継続し,また,被告Aは,原告に対し,必要のない不動産を不当な価格で売り,Cは,被告Aの業務執行を監視すべき取締役としての義務を怠ったと主張し,被告A,C及びDに対しては債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として,被告会社に対しては不法行為若しくは不正競争防止法にいう不正競争に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として,ALT事業の移転により生じた損害若しくは損失1億9260万6628円及び前記不動産の売却による損害1827万5392円の合計額の内1億円及びこれに対する被告会社設立の日である平成9年8月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,原告の請求のうち,被告会社に対し,不法行為に基づく損害賠償として954万7805円及び内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を原告に支払うよう命じ,また,被告Aに対し,債務不履行に基づく損害賠償として2782万3197円及び内1827万5329円に対する平成9年8月25日から,内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を原告に支払うよう命じたが,被告会社及び被告Aに対するその余の請求並びにC及びDに対する請求をいずれも棄却した。これに対し,被告会社及び被告Aが控訴した。
2 基礎となる事実 基礎となる事実は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の「2 基礎となる事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の訂正等) 原判決3頁12行目から13行目にかけて,同17行目,同4頁7行目及び同17行目の各「被告C」をいずれも「C」と,同3頁14行目及び同17行目の各「被告D」をいずれも「D」と,同4頁2行目の「甲5」を「甲5の1・2」と,同5頁5行目の「甲32,33・」を「甲32ないし34。」と各改め,同4行目の「別紙」の前に「原判決」を加え,同9行目の「同C及び同D」を「C及びD」と改める。
争点
1 被告会社設立及びALT事業に関する債務不履行又は不法行為責任について (1) 被告Aは,原告に対して,債務不履行責任(商法254条の3,264条,266条)又は不法行為責任(民法709条)を負うか。
(2) 被告会社は,原告に対して,不法行為責任(民法709条,商法261条3項,78条,民法44条1項)又は不正競争防止法上の責任(不正競争防止法2条1項4号・13号,4条,5条)を負うか。
(3) 原告に損害が発生したか。被告らの行為と原告の損害との間に因果関係が認められるか。
(4) 被告らの行為によって原告に生じた損害は幾らか。 2 原告は,被告らに対し,被告会社設立及びALT事業に関して,不当利得返還請求ができるか。
3 本件契約について (1) 被告Aは,原告に対して,債務不履行責任(商法254条の3,265条,266条)を負うか。
(2) 被告Aの行為によって原告に生じた損害は幾らか。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(1)(被告Aの不法行為・債務不履行の成否) (原告の主張) (1) 責任原因 被告Aは,被告会社設立時には,既に原告の取締役を解任されていたものの,前記@ないしB事件が係属し,原告の代表取締役を詐称して業務執行に当たっていたから,取締役に準じた忠実義務・競業避止義務を負う。
(2) 違法行為 ア 被告Aは,前記義務に違反し,@ないしB事件の敗訴が濃厚となるや,被告会社を設立し,同社の代表取締役に就任した上,原告の中核事業であるALT事業の顧客,講師,固定資産(建物付属設備,車両運搬具,工具器具備品,土地,電話加入権及び保証金)及びノウハウを被告会社に移転し,同社において同事業を実施することにより,原告の売上をすべて被告会社に移転させた。よって,被告Aは,原告に対し,債務不履行責任又は不法行為責任を負う。
イ さらに,被告Aは,後述のとおり,虚偽のパンフレットを作成して不特定多数人に交付し,原告の取引先に虚偽の通知をするなど,著しく信義に反する営業妨害を行ったから,原告に対し,不法行為責任を負う。
(被告らの主張) (1) 責任原因 被告Aは,被告会社設立時には,既に原告の取締役を解任されており,商法264条,266条の適用はなく,忠実義務,競業避止義務を負わない。しかも,解任したのは原告の現代表者であるクレイグであり,自ら解任した被告Aに対して解任後の行為につき取締役として責任を追及することは矛盾しており,商法264条,266条を類推適用することは失当である。
また,クレイグは,業務執行を全く行っていないから,そもそも原告には商法264条にいう「営業」が存しない。
(2) 違法行為 被告Aが被告会社を設立した主な理由は,B事件においてみなし解散を避けるための新株発行が無効となり,原告が解散をすれば,ALT事業の継続が不可能になる点にあり,被告会社の設立はやむを得ない行為であった。そして,被告会社は,原告と営業譲渡契約を締結したこともなく,被告Aは,原告従業員を一方的に解雇して被告会社に入社させたこともない。したがって,被告Aの行為には,忠実義務違反はなく,債務不履行及び不法行為は成立しない。
2 争点1(2)(被告会社の不法行為責任又は不正競争防止法上の責任の成否) (原告の主張) (1) 違法行為 ア 被告会社は,@平成9年8月25日に設立されたにもかかわらず,同社パンフレットに,1984年(昭和59年)以来一貫して英会話カリキュラムの独自開発を重ねてきたなど,あたかも原告が被告会社に発展的に解消したかのような記載をして,不特定多数人に交付し,A原告の従前の取引先に対し,ペンシルはアルティアに変わった旨の通知をした。
イ また,被告会社の代表取締役である被告Aは,前記1の原告の主張(2)ア,イの違法行為を行った。
(2) 法律構成 ア 被告会社の前記(1)アの行為は,取引先に被告会社を実績のある原告と誤認させて事業を行おうとするものであり,自由競争の範囲を逸脱した営業妨害行為であるから,原告に対する不法行為を構成する。また,被告会社の同行為は,原告が消滅して被告会社となった旨の表明であり,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知ないし流布にあたるから,不正競争防止法上の責任を負う(不正競争防止法2条1項13号,4条)。
イ 被告Aの前記(1)イの行為については,被告会社の代表取締役である被告Aがその職務の執行につき行った行為であるから,被告会社は,商法261条3項,78条,民法44条1項による責任を負う。
(被告会社の主張) 争点1の被告らの主張のとおり,被告Aが被告会社を設立した理由は正当であり,被告会社も何ら不当な活動を行っていない。
また,前述のとおり,クレイグは業務執行を全く行っていないから,原告には不正競争防止法2条1項13号にいう「営業」が存しない。
3 争点1(3)(原告の損害の発生の有無。被告らの行為と原告の損害との因果関係の存否) 原判決「第4 争点に対する当事者の主張」の「3 争点1(3)(因果関係の有無)」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決9頁18行目冒頭に次のとおり加える。
「 原告は,被告A及び従業員なくしては事業を継続することが不可能であり,被告Aが原告における事実上の活動を停止し,従業員も原告を退社した平成9年8月25日以降は,事業を継続して収益を上げることができない状況にあったから,同日以降の得べかりし利益はそもそも存在しない。また,仮に,」 4 争点1(4)(損害額) 原判決「第4 争点に対する当事者の主張」の「4 争点1(4)(損害額)」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決10頁12行目の「別紙1」,同13行目の「別紙2」,同14行目及び同15行目の各「別紙3」,同16行目の「別紙4,5」の各前にそれぞれ「原判決」を加える。
5 争点2(不当利得返還請求の可否)について 原判決「第4 争点に対する当事者の主張」の「5 争点2(不当利得返還請求の可否)について」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁16行目の「,同C及び同D」を削り,同17行目及び同19行目の各「同被告ら」をいずれも「被告A」と改める。
6 争点3(1)(本件土地に関する債務不履行) 原判決「第4 争点に対する当事者の主張」の「6 争点3(1)(本件土地に関する債務不履行)」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決12頁5行目の「(1)」を削り,同7行目の「路線価」を「路線価に基づく価格」と改め,同16行目から同18行目まで及び同19行目の「及び同C」をいずれも削り,同末行末尾に「現に,本件土地の近隣の土地につき平成13年3月に路線価の1.43倍の価格で取引された事例がある。」を加える。
7 争点3(2)(損害額) 原判決「第4 争点に対する当事者の主張」の「7 争点3(2)(損害額)」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決13頁3行目の「と同C」及び同6行目の「及び同C」をいずれも削る。
当裁判所の判断
1 本件に関する事実経過 本件に関する事実経過は,次のとおり付加,訂正等するほか,原判決「第6 当裁判所の判断」の「1 認定事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の訂正等) ア 原判決13頁14行目の「被告D本人,同A本人,同C本人」を「D本人,被告A本人,C本人」と,同14頁16行目の「被告C」を「C」と,同18行目の「被告D」を「D」と,同15頁11行目,同16頁5行目,同6行目及び同18頁20行目の各「グレイグ」をいずれも「クレイグ」と各改める。
イ 同16頁2行目及び同12行目の各「被告C」をいずれも「C」と改め,同23行目の「別紙6」の前に「原判決」を加え,同17頁1行目の「同年7月頃」を「平成9年7月頃」と,同行目及び同4行目の各「被告D」をいずれも「D」と,同6行目の「平成9年8月25日」を「同年8月25日」と,同7行目の「被告C及び同D」を「C及びD」と,同14行目の「被告D」を「D」と各改め,同18行目の「別紙7」の前に「原判決」を加える。
ウ 同18頁4行目の「被告Dら」を「Dら」と,同23行目及び同19頁3行目の各「路線価」をいずれも「路線価に基づき算定された価格」と各改め,同頁5行目から同23行目までを削る。
2 争点1について (1) 被告Aの責任について ア 前記1の認定事実によれば,クレイグは,平成7年10月21日に原告の1人株主として臨時株主総会を開催し,同株主総会において,被告A及びCを取締役から解任する旨の決議がなされているから,被告Aは同決議後は原告の取締役の地位になかったものである。
しかしながら,被告Aは,同年11月24日に,クレイグを原告の取締役から解任する旨の登記をし,自らが原告の代表取締役に,Cがその取締役にそれぞれ就任したとの登記をなしたほか,その後も,原告の代表取締役と称して業務を遂行しており,また,@事件の訴えに応訴し,上記決議の不存在確認等を求めるA事件の訴えを提起し,これら事件の第一審判決後も,同判決を不服として控訴し,自らが原告の代表取締役であるとの主張を維持し続けていたものであるから,被告Aは,原告に対し,商法264条,266条1項5号の類推適用による責任を負うと認めるのが相当であり,同被告が同各法条の適用を否定する旨の主張をすることは信義則に反して許されない。
イ そして,前記1の認定事実によれば,被告Aは,自らの利益を図る目的のために原告で行っていたALT事業を新会社で行うことを計画して,クレイグを取締役とする取締役会の承認を得ることなく,平成9年8月25日に被告会社を設立した上,原告の代表取締役として,原告が有する動産や電話加入権等を被告会社に譲渡したり,原告が借り受けていた物件の賃借人の名義を被告会社に変更する等することにより,原告の事業を全く実体のないものとし,その後,原告と取引関係にあった各教育委員会に対し,同年9月頃以降,原告に在籍していた全役員,全社員,全講師が被告会社に移籍し,被告会社において従前原告が行っていたALT事業を承継したと説明して,被告会社にALT事業費を振り込むよう求め,また,原告の事業を被告がそのまま承継したと思わせる被告会社の宣伝のための本件パンフレットを作成し,これを用いる等して,各教育委員会に対し,被告会社との間で,新年度のALT事業に係る契約を締結するよう求めたものである。したがって,被告Aのこれらの行為は,商法264条に違反する行為であるから,被告Aは,同条及び同法266条1項の類推適用により,債務不履行に基づき原告に生じた損害を賠償する責任がある。また,被告Aのこれらの行為は,原告に対する不法行為を構成することは明らかであるから,被告Aは,不法行為に基づき原告に生じた損害を賠償する責任もある。
なお,被告らは,被告会社の設立はALT事業の継続を図るためにやむを得ない行為であった旨主張するが,そもそもALT事業は原告の事業であって被告A個人の財産ではなく,被告Aは被告会社の取締役を解任された後は円滑かつ迅速に原告の経営をクレイグに引き継ぐべき立場にあったものであり,被告らの上記の主張は採用できない。
(2) 被告会社の責任について 上記(1)のとおり,被告Aの行為は,原告に対する不法行為をも構成するものであり,これらの行為は被告会社の代表取締役の職務の執行につき行われたものであるから,被告会社は,原告に対し,商法261条3項,78条,民法44条1項に基づき,被告Aの行為によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。
(3) 原告の損害について ア 前記1の認定事実によれば,原告は,被告Aの前記(1)の一連の行為により,被告会社が設立された平成9年8月25日以降に原告の事業から得られるはずであった収益を奪われたものと認められる。被告らは,原告は同日以降継続して収益を上げることは不可能であり,得べかりし利益は存在しない旨主張するが,被告Aは原告の経営を円滑かつ迅速にクレイグに引き継ぐべき立場にあり,この引継がなされていれば同日以降も原告が事業を継続し収益を上げることは可能であったと認められるから,被告らの上記の主張は採用できない。
しかしながら,他方,損害と認められる平成9年8月25日以降の得べかりし利益の範囲についてみると,原告は,平成10年10月1日に解散したものとみなされており,同日までしか事業を行うことができないから,同日までの得べかりし利益をもって損害と認めるのが相当である。
イ 原告は,原判決別紙1の売上高から原判決別紙2ないし5の経費のみを控除したものをもって損害と主張するが,本件全証拠を検討しても,原告の収益全体は明らかではなく(甲第14号証によれば,平成9年3月31日決算期の当期利益は57万円余にすぎないことが認められる。),ALT事業の維持・拡大に貢献した被告Aらの役員報酬その他の経費が控除されていないから,同主張を直ちに採用することはできない。
そこで,商法266条4項を類推適用し,被告会社のALT事業に係る利益(営業利益)をもって原告の損害額と推定するのが相当である。そして,乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば,平成9年8月25日から同10年7月31日までの間(341日間)の被告におけるALT事業による売上高は2億2807万8959円,ALT事業以外の事業による売上高は57万6314円であり,同期間の被告の営業利益は合計で809万9326円であることが認められるから,かかる事実を前提にすると,被告会社のALT事業による同利益は,次のとおり,平成9年8月25日から同10年7月31日までの間は807万8912円(円未満切り捨て。この項につき,以下同じ。),翌8月1日から10月1日までの間は146万8893円の合計954万7805円であると推認され,他に特段の反対証拠のない本件においては,同金額をもって原告の損害額と推認すべきである。したがって,上記954万7805円の損害につき,被告Aは,債務不履行又は不法行為に基づき,被告会社は,不法行為に基づき,それぞれ損害賠償債務を負う。
(計算式) 8,099,326×228,078,959÷228,655,273=8,078,912 8,078,912÷341×62=1,468,893 8,078,912+1,468,893=9,547,805 ウ 次に,上記の損害賠償債務の遅延損害金について検討する。
不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生時に遅滞に陥り遅延損害金請求権が発生すると解されるところ,被告会社の上記利益はその経費を控除して初めて確定できるものであり,本件各証拠によっても,各経費を支出した時期が明らかではないから,遅延損害金の始期に関する限り,上記利益,すなわち原告の損害は各期間のそれぞれ末日に発生したものとして扱うのが相当である。したがって,上記の損害賠償債務のうち,不法行為に基づく損害賠償債務は,平成9年8月25日から同10年7月31日までの間の損害807万8912円については同年7月31日から遅延損害金が発生し,同年8月1日から10月1日までの間の損害146万8893円については同年10月1日から遅延損害金が発生することとなる。
他方,債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であり,民法413条3項により,債務者が請求を受けた時に初めて遅滞に陥ると解されるところ,本件記録によれば,原告は,被告Aに対し,本件訴状により債務不履行に基づく上記の損害賠償を請求し,本件訴状は平成12年9月7日に被告Aに送達されているから,上記の損害賠償債務のうち,被告Aの債務不履行に基づく損害賠償債務については翌8日から遅延損害金が発生することとなる。
エ 被告Aは,原告に対する新株発行無効による払込金800万円の返還請求権と上記認定の損害に係る本訴請求債権との相殺を主張するが,本訴請求債権のうち,不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は,民法509条により許されないし,債務不履行に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺も,当該債務不履行が不法行為をも構成することから,同条の類推適用により許されない。
3 争点2について 原判決「第6 当裁判所の判断」の「3 争点2について」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決23頁25行目の「,同C及び同D」を削る。
4 争点3について 前記1認定のとおり,被告Aは,平成8年3月25日,原告に負担していた4400万円の貸金債務の支払に代えて,当時の路線価に基づく価格が2572万4608円にすぎなかった本件土地の所有権を原告に移転させているところ,前記1の認定事実に照らせば,被告Aが当時原告の取締役ではなかったと主張することは信義則に反するといえるから,商法265条1項を類推適用して,本件契約は利益相反取引に該当するというべきである。そして,被告Aが,同取引をする際,クレイグを取締役とする取締役会の承認を受けていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Aは,原告に対し,商法266条1項5号,同265条1項に基づき,同取引によって生じた原告の損害について,賠償する責任を負うというべきである。
そこで,損害額についてみると,前記1認定のとおり,平成8年当時の路線価に基づく本件土地の価格は2572万4608円であり(乙6),また,平成10年に原告の代表者取締役と称して当時の路線価に基づく価格である2504万4768円に近似した2500万円で本件土地を被告会社に売り渡していることによると,上記2572万4608円をもって平成8年3月25日当時の本件土地の価格と認めるのが相当である。これに対し,被告Aは,本件土地の価値は路線価をかなり上回る旨主張し,近隣土地の取引事例を挙げるが,被告Aの主張する近隣土地の取引事例が仮に実際にあったとしても,あくまで一つの事例にすぎず,前記認定を左右するものではない。そして,損害額は,被告Aの貸金債務4400万円と本件土地の当時の価格2572万4608円の差額である1827万5392円であると認められる。
なお,上記の債務不履行に基づく損害賠償債務は,債務者が履行の請求を受けた時に初めて遅滞に陥るものであるところ,本件記録によれば,被告Aは,平成13年4月11日の原審第4回弁論準備手続期日において初めて原告から同債務の履行の請求を受け,同日同債務につき遅滞に陥ったものと認められるから,被告Aは,原告に対し,その翌日である同月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
結論
1 被告会社に対する請求について 被告会社は,原告に対し,争点1の原告の得べかりし利益に関する損害につき,不法行為に基づく損害賠償として954万7805円及び内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。したがって,原告の被告会社に対する請求は,この限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,被告会社の控訴は理由がないから主文第1項のとおり棄却することとする。
2 被告Aに対する請求について 被告Aは,原告に対し,争点1の原告の得べかりし利益に関する損害につき,不法行為に基づく損害賠償として954万7805円及び内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに債務不履行に基づく損害賠償として954万7805円及びこれに対する平成12年9月8日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払義務を負い,争点3の本件土地の取引に関する債務不履行に基づく損害賠償として1827万5392円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
これに対し,原告は,争点1の損害につき,債務不履行に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償を選択的併合の態様で請求しており,原判決は債務不履行に基づく損害賠償請求として954万7805円及び内807万8912円に対する平成10年7月31日から,内146万8893円に対する同年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求を認容した。しかし,前記のとおり債務不履行に基づく損害賠償債務の遅延損害金の発生時期は平成12年9月8日であるから,原判決の上記部分の内954万7805円及びこれに対する平成12年9月8日から支払済みまでの遅延損害金の請求を認容した部分は相当であるが,平成12年9月7日以前の遅延損害金請求を認容した部分は不当であるので,この部分に関しては当審に移審している不法行為に基づく損害賠償賠償債務の遅延損害金請求として改めてその支払を命ずることとする。
また,原判決は,争点3の損害につき,債務不履行に基づく損害賠償として1827万5392円及びこれに対する平成9年8月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の請求を認容したが,前記のとおり遅延損害金の発生時期は平成13年4月12日であるから,原判決の上記部分のうち1827万5392円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまでの遅延損害金の請求を認容した部分は相当であるが,平成13年4月11日以前の遅延損害金請求を認容した部分は不当である。
よって,原判決主文第1ないし第3項中被告Aに関する部分を主文第2項のとおり変更することとする。
(当審口頭弁論終結日 平成14年10月11日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 黒野功久
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