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関連ワード 信義則 /  他人の営業 /  法人成り /  差止請求(差止) /  過失 /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  有用性 /  非公知性 /  営業秘密 /  2条1項4号 /  2条1項5号 /  2条1項9号 /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  不正取得行為 /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 13897号 不正競争防止法に基づく差止等請求事件
原告 ファインシステム株式会社
訴訟代理人弁護士 有馬賢一
被告 小畑機械株式会社
被告A
上記2名訴訟代理人弁護士 泉 裕二郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告両名は自ら又は第三者をして、
@ 別紙営業秘密目録記載の情報の全部又は一部を第三者に開示してはならない。
A 別紙営業秘密目録記載の原告の取引先に対し、面会を求め、架電し、又は書面を送付してはならない。
2 被告両名は、別紙営業秘密目録記載の情報の全部又は一部を記載したノート・カード・台帳類を廃棄せよ。
3 被告両名は、原告に対し、連帯して金300万円及びこれに対する平成14年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、@被告Aは、原告の営業秘密(不正競争防止法2条4項)である別紙営業秘密目録記載の顧客情報(以下「本件顧客情報」という。)を記載した「実績管理台帳」と題する名簿(以下「本件台帳」という。)を不正に持ち出し、これを被告小畑機械株式会社(以下「被告小畑機械」という。)に不正に開示した(同法2条1項4号)、A被告小畑機械は、被告Aの不正取得行為を知り、又は重大な過失によりこれを知らないで本件顧客情報を取得し、
使用し(同法2条1項5号)、あるいは、原告からの警告により被告Aの不正取得行為を知って本件顧客情報を使用した(同法2条1項9号)、B被告らは、原告の営業上の信用を害する虚偽の陳述を告知した(同法2条1項14号)として、被告らに対し、上記@ないしBの行為について、同法3条1項、2項に基づき、本件顧客情報の使用の差止め、廃棄を求めるとともに、上記Bの行為について、同法4条5条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、通信機器及び事務機器の販売並びにリース等を業とする株式会社である。
イ 被告小畑機械は、コンピューター、ワードプロセッサー、ファクシミリ、複写機、家庭用電気機械器具の販売等を業とする株式会社である。
ウ 被告Aは、平成8年10月から平成10年2月まで、営業担当の従業員(以下「営業職」という。)として原告に勤務していたが、平成11年6月、被告小畑機械に就職し、現在、同被告の販売事業部長である(乙3、被告A本人)。
(2) 被告Aは、平成13年10月ころ、原告在職中に同被告が担当してリース契約の成立に至った顧客十数軒の情報を被告小畑機械の従業員に告知し、被告小畑機械の従業員は、これらの顧客に対し、事務機の販売やリース等の営業活動を行った(乙4、被告A本人)。
(3) 原告は、平成13年11月15日到達の書面で、被告小畑機械に対し、被告Aが原告の営業秘密である本件顧客情報を無断で持ち出し被告小畑機械に開示した旨告知し、その使用の停止を求める旨警告した。
2 争点 (1) 本件顧客情報は、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか。
(2) 被告Aの行為は、不正競争防止法2条1項4号にいう不正競争行為に当たり、被告小畑機械の行為は、同法2条1項5号又は9号にいう不正競争行為に当たるか。
(3) 被告らは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為(不正競争防止法2条1項14号)をしたか。
(4) 被告らが原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件顧客情報は、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか)について 【原告の主張】 本件顧客情報は、秘密管理性有用性非公知性を備えており、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たる。
(1) 秘密管理性 ア 本件台帳は、原告代表者の妻が管理する机の引き出しに厳重に保管されている。同机の引き出しには錠が付いており、施錠するとすべての引き出しが施錠され、物理的に開くことができない構造となっている。机の鍵は、原告代表者及びその妻のみが所持している。
イ 原告代表者は、被告Aを含む従業員に対し、営業秘密(顧客情報その他)を他社・他人へ開示したり、自ら利用することを禁じる旨訓示し、個別に指導する措置を執っていた。
ウ 原告は、従業員の退職時に、@顧客情報等の社内秘密を他人・他社に開示しない、A退職後も原告の顧客が錯覚するような偽称行為となる販売行為及び営業行為をしない、B在職時の顧客の資料及び情報、社内秘密を利用して営業活動又は販売活動をしないとの内容の誓約書(甲9)を徴求している。被告Aについては、同人が平成10年1月16日早退した後無断欠勤を重ね、留守がちで電話が通じなかったり、原告代表者の不在時に事務所に来訪して退職の意を伝えるなど誓約書の提出を回避する挙に出たため、誓約書を徴求することができなかったが、これは、被告Aが、原告の営業秘密管理の一環として退職時に誓約書を取ることを認識していたが故の行動であった。
エ 原告は、営業職が退職する時、当該社員が業務上知った営業秘密事項(相手方社名・所在地・リース料等)を記載した資料ノートを回収しており、被告Aが退職した時も、平成10年3月10日、同被告から資料ノート(甲14〜16)を回収した。
オ 原告は、前記イ〜エのとおり、社内規則に基づき、従業員が退職後も原告の顧客情報等の営業秘密を利用した営業活動・販売活動をすることを禁じており、被告Aも、上記制約を受けることを黙示的に承認していた。また、原告の業種・業態及び顧客情報等の営業秘密の利用、外部への開示による原告の業績や営業活動への支障の重大性を考慮すると、被告Aは、信義則上、退職後もコピー機器等の大部分のリース期間である5年間は、リース契約に関し、顧客情報たる秘密を利用した営業活動の制約を受けると解すべきである。
(2) 有用性 販売会社がリース契約による事務機器販売を促進するに当たり、本件台帳に記載された機種やリース料・納期・納入日等の本件顧客情報は極めて有用である。
(3) 非公知性 本件顧客情報は、原告の企業活動に伴って収集されるもので、一般に知られないものであることは明白である。
【被告らの主張】 本件顧客情報は、秘密管理性有用性非公知性のいずれも備えておらず、
不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」には当たらない。殊に、次の事情によれば、本件顧客情報が秘密として管理されていた事実はないというべきである。
(1) 被告Aは、資料ノートを常時携帯し、自宅から顧客に電話を掛けるために自宅に持ち帰っていたが、これについて原告から注意を受けたことはない。また、
原告は、平成9年12月に退職した従業員Bからは資料ノートを回収しなかった。
(2) 被告Aの知る範囲で、原告従業員が、原告代表者から、「顧客に関する情報を他に漏らしてはならない」などと言われたことはない。
(3) 被告Aは、原告主張の誓約書(甲9)が存在することも知らされていなかった。被告Aは、退職後、原告代表者から何度か電話連絡を受け、失業保険の受給に必要な書類に原告の署名捺印を受けているが、その際も「誓約書に署名して欲しい」といった依頼は一切受けていない。
(4) 原告と被告Aの間には、契約法上も法解釈上も、原告が主張するような退職後の競業避止義務が認められる余地はない。
2 争点(2)(被告Aの行為は、不正競争防止法2条1項4号にいう不正競争行為に当たり、被告小畑機械の行為は、同法2条1項5号又は9号にいう不正競争行為に当たるか)について 【原告の主張】 被告らは、被告Aが在職中に本件顧客情報を自己の手帳に書き写して社外へ持ち出したこと及び当該情報を被告小畑機械の従業員に教えたことを認めている。
原告において、上記営業秘密たる情報を無断で転記して社外に持ち出すことは厳禁とされており、上記持ち出しは原告の承認なく行われたのであるから、被告Aの行為が不正競争防止法2条1項4号に該当することは自明であり、被告小畑機械の行為は、同法2条1項5号に該当する。
また、被告小畑機械が、被告Aにおいて上記営業秘密を無断で持ち出したことを知らないで開示を受けていたとしても、前記第2、1、(3)記載の警告後に被告小畑機械が上記営業秘密を使用する行為は、同法2条1項9号に該当する。
【被告らの主張】 被告Aが被告小畑機械の従業員に教えた原告の取引先は、いずれも被告Aが実際に訪問して手帳(乙4)に記録していた顧客情報である。被告Aは、本件台帳を見たことはなく、これを書き写すことはあり得ない。被告らの行為は不正競争行為に当たらない。
3 争点(3)(被告らは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為〔不正競争防止法2条1項14号〕をしたか)について 【原告の主張】 被告小畑機械の営業社員らは、原告の取引先に対し、社名や担当者名をことさら名乗らず、原告しか知らないはずのファックスの設置場所・機器名・リース料・リース期間等を述べることにより、電話を掛けている主体が原告であるとの虚偽の事実を黙示的に表示した。同社員らは、原告の取引先が新規リース契約に関する面談ではなく、既存機種のメンテナンス・消耗品の注文を行った場合には電話を切るため、原告は、電話の対応が悪いとして取引先の信用を失い、場合によっては取引先を失うことになる。他方、同社員らは、原告の取引先から面談の承諾が取れた場合には、来訪して原告から被告小畑機械へ契約を切り換えさせ、取引先の誤信を惹起させるため、原告は、営業活動に支障が生じ、場合によっては取引先を失うことになる。このように、原告は、被告らの行為により営業上の信用を害されており、被告らの行為は、不正競争防止法2条1項14条にいう不正競争行為に当たる。
【被告らの主張】 原告の主張する「営業主体に関する虚偽の告知」とは、被告らが原告であるかのように装い、原告の取引先に電話を掛けたというものである。被告らは、この事実を否定するが、仮に、原告主張のような事実が存在したとしても、被告らは電話で原告を誹謗中傷する事実などは一切述べておらず、取引先を訪問する際には、
被告小畑機械から来たと名乗っているのであるから、被告らの行為により原告の営業上の信用が害されたとはいえない。したがって、原告主張の事実が存在したとしても、それは不正競争防止法2条1項14号にいう不正競争行為に当たらない。
4 争点(4)(被告らが原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について 【原告の主張】 原告は、被告らの上記3【原告の主張】の信用毀損行為により、取引先に対する信用を毀損されたものであり、その損害は金300万円を下らない。
【被告らの主張】 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件顧客情報は、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか)及び争点(2)(被告Aの行為は、不正競争防止法2条1項4号にいう不正競争行為に当たり、被告小畑機械の行為は、同法2条1項5号又は9号にいう不正競争行為に当たるか)について (1) 前記第2、1の争いのない事実等と、証拠(甲8の1〜3、甲10〜16、18、乙3〜5、原告代表者本人、被告A本人)を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 原告は、平成4年4月に原告代表者が「ファインシステム」の屋号で発足した個人企業を前身とし、平成7年2月に法人成りしたOA機器、通信機器、事務機器、周辺機器及び保守メンテナンス等のリース及び販売を行う会社である。被告Aは、平成8年10月、営業職として原告に入社し、後記のとおり、平成10年2月末日付けで原告を退社扱いとなるまで、営業等の職務に従事した。被告Aの在職当時、原告の従業員は、原告代表者の妻、B及び被告Aの3名であったが、Bは、平成9年12月、被告Aに先立ち原告を退職した。
イ 原告の業務の流れ及びそれに伴う内部文書の作成は、次の経過により進められる。
(ア) 営業職が、職業別電話帳又は原告固有の資料に基づき、営業目標となる企業に電話を掛ける。
(イ) 同企業から、訪問して商談をする日時の承諾(以下「アポイント」という。)が取れると、営業職が「顧客(見込)リスト」と題するカードに、当該顧客の会社名、所在地、電話番号、ファックス番号、業種、代表者名、訪問日時を記載する。
(ウ) アポイントの日時に、原告代表者が営業職と共に顧客を訪問する。
原告と顧客との間で成約に至ると、顧客がリース予審書、申込書に記名捺印し、営業職が帰社後、「顧客(見込)リスト」に、契約内容、リース物件の機種、月額リース料、リース期間、設置予定日時を記載する。
(エ) リース会社の予審が通ると、営業職が「設置依頼書」に、設置日、
会社名、代表者、設置場所、住所、電話番号、ファックス番号、回線状況等を記載する。
(オ) 原告代表者と営業職が同行の上、顧客立会いのもとで機械の搬入・検収を行う。検収後、顧客からリース本契約書に記名捺印をもらう。
(カ) 原告代表者は、営業職に「顧客(見込)リスト」及び「設置依頼書」の所持を許さず、これらの文書を提出させる。経理事務を担当する原告代表者の妻がこれらの文書及びリース申込書を集約し、「実績管理台帳」(本件台帳)に、@契約日、A会社名、B代表者、C所在地、D電話番号、E機種、Fリース料、G納期、H納入日、I専用局線、Jリース会社、K備考、L担当者、Mヘルパーを手書きで記載する。
ウ 「顧客(見込)リスト」、「設置依頼書」及び本件台帳(以下、この3点を併せて「本件各文書」という。)は、原告代表者の妻が管理する事務机の右側に設けられた三段引出しの最下段に保管されている。この机は、右上端に設けられた鍵を施錠すると、引出しがすべて開かなくなる構造となっており、鍵は原告代表者及びその妻が身に付けている。本件各文書には営業秘密であることを示す標識が付されておらず、原告には本件各文書の管理を徹底すべきことを内容とする文書は存在しない。
エ 原告は、営業職には、原則として本件各文書の閲覧、利用をさせず、持ち出しを禁止し、個々の営業職に対しては、各人が営業活動の中で接触した顧客の情報をB5版の大学ノート(資料ノート)に記載させ、このノートに基づいて営業活動を行わせていたが、原告代表者の妻が本件各文書に記入する際などに、他の従業員が本件各文書を見ることはあった。被告Aは、原告在職中、自分の資料ノート(甲13〜16)を常時携帯し、帰宅後も自宅から顧客に電話をしていたが、これについて原告から注意を受けたことはなかった。また、被告Aは、自分がリース契約を成約させた顧客59軒について名称、住所・電話番号、機種、リース料、契約年月日、担当者名を、資料ノートから私物の手帳(乙4、以下「本件手帳」という。)に書き込んで所持していた。
オ 被告Aは、平成10年1月16日、長男の病気を理由に早退し、その後無断欠勤を続けたので、原告は、同年2月末日付けで被告Aを退社扱いとした。被告Aは、同年3月10日、原告代表者の不在時に原告の事務所を来訪し、社会保険証、事務所の鍵及び資料ノート4冊(甲13〜16)を返還した。当時、被告Aは、長男の介護のため留守がちであったが、住居や電話番号は在職時と同じであり、所在不明の状態ではなかった。しかし、原告が被告Aに対し、退職後の顧客情報開示の禁止等を定めた誓約書(甲9)に署名捺印を求めたことはなく、被告Aが同年6月か7月ころ離職票の手続のため原告に書類を送付した時も、原告は、上記誓約書を徴求することなく、被告Aに書類を返送した。
カ 被告Aは、平成11年6月、被告小畑機械に就職した。被告Aは、平成13年10月ころ、原告在籍時に納入した機器が入替時期を迎える頃であると考え、部下である被告小畑機械の従業員5名に本件手帳を見せ、同手帳記載の顧客に対する営業活動を指示した。被告小畑機械の従業員は、本件手帳に記載された顧客のうち約35軒に電話をかけ、10軒からアポイントを取って訪問し、4軒につきリース契約を成立させた。
(2) 上記(1)で認定した事実によれば、本件台帳には、原告の仲介によりOA機器のリース契約を締結した顧客の情報(名称、住所、電話番号等)のほか、当該顧客が前回締結した契約の内容(契約日、機種、リース料、納入日等)が記載されていることが認められる。証拠(甲12)によれば、OA機器のリース契約の営業に当たり、前回契約が満了時にある顧客を知ることは新規契約の成約率を高める要素であり、この意味で、前回契約及び現在の機器の使用状況に関する顧客情報が重要であることが認められ、被告Aも、本人尋問において、前回契約に関する情報を知っていれば営業上有利になることを認めている。そうすると、本件台帳に記載された本件顧客情報は、少なくとも有用性を有するものと認められる。
(3) 秘密管理性について ア 他方、上記(1)で認定した事実によれば、原告は、営業職には、在職中も原則として本件台帳を含む本件各文書の閲覧及び使用をさせず、持ち出しを禁止し、本件各文書を原告代表者の妻が管理する施錠可能な事務机の引出しに保管していたことが認められる。しかし、原告代表者の妻が本件各文書に記入する際などに、他の従業員が見ることはあったほか、この引出しが原告代表者又は同人の妻が席を離れる時は常に施錠されていたなど、厳重に管理されていたことを裏付ける証拠もないから、上記事実によって、直ちに原告代表者及び同人の妻以外の者が本件各文書にアクセスできない状況にあったと評価することはできない。かえって、上記(1)で認定した事実によれば、原告は、被告Aら営業職に対し、在職中、同人らが営業活動において接触した顧客の情報を資料ノートに記載させ、営業職が資料ノートを自宅に持ち帰って営業活動をすることを許していたことが認められ、原告において、営業職が資料ノートの記載を他に移記することを禁じていたことを示す証拠もないから、原告が本件顧客情報を特定した上で、それを外部に漏洩することを明示的に禁止していたものとは認められない。
イ この点につき、原告は、原告では、代表者が従業員に対し、原告の顧客情報などの営業秘密を開示又は利用してはならないと訓辞していた旨主張し、原告代表者作成の陳述書(甲12、以下「原告陳述書」という。)及び原告代表者本人尋問の結果中には、これに沿う部分がある。しかし、上記陳述部分及び供述は、被告A本人尋問の結果及び同被告作成に係る陳述書2通(乙3、5)にこれに反する陳述部分があること、並びに、原告代表者自身が、本人尋問において、朝礼での訓示の内容として、営業成績を上げるためには情報が重要であり、自分が集めた情報は仲間でも他人に漏らしてはならないし、他人が持っている情報が分かれば、その者よりも先に行って(契約を)取ったらよいという、原告の上記主張とは相反する趣旨の供述をしていることに照らし採用することができず、他に、原告が営業秘密の保持について従業員に訓辞していたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ また、原告は、従業員が退職する時は、在職時に知り得た秘密を他人に開示しない等規定した誓約書を徴求していると主張し、原告陳述書及び原告代表者本人尋問の結果にはこれに沿う部分がある。しかし、原告が提出した誓約書(甲9)は作成者欄が白紙の雛型であり、原告には、被告Aの他にC、B、Dという従業員が在籍し、同人らは全員被告Aより前に退職したにもかかわらず(原告代表者本人、被告A本人)、元従業員の署名がある誓約書は提出されていない。また、原告代表者は、本人尋問において、Bから誓約書を徴求していないことを自認する一方、元従業員1名から平成8年ころに誓約書を取ったと供述するが、上記供述を裏付ける証拠はない。これらの各事情に加え、原告が被告Aの退職後に誓約書の作成を求めた形跡はないこと(上記(1)、オ)を考慮すると、原告陳述書の上記陳述及び原告代表者本人尋問中の上記供述はいずれも採用できず、他に、原告が従業員の退職に際し、退職後に勤務中知り得た顧客情報を開示、使用しない等の義務等を定めた誓約書を徴求していたことを示す証拠はない。
エ さらに、原告は、原告では、営業職が退職する時は資料ノートを回収していたと主張し、原告陳述書及び原告本人尋問の結果にはこれに沿う部分がある。
しかし、これらの陳述部分及び供述は、原告がBの退職時に資料ノートを回収しなかったこと(原告代表者本人、被告A本人)、原告が他の退職者から資料ノートを回収したことを裏付ける証拠もないことに照らし採用できず、他に原告が営業秘密管理の一環として退職者から資料ノートを回収する措置を執っていたことを認めるに足りる証拠はない。
オ 以上によれば、原告は、個々の営業職が営業活動によって得た契約実情等の情報を本件台帳に集約して管理していたものの、各営業職に対し、同人らが得た情報(同情報は、本件台帳記載の情報を含むものである。)に関し、秘密保持義務を課すなどして、秘密として管理していたと認めることはできない。
(4) そうすると、本件顧客情報は、秘密管理性を欠き、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たらないから、その余について判断するまでもなく、被告Aの行為は、不正競争防止法2条1項4号にいう不正競争行為に該当せず、被告小畑機械の行為は、不正競争防止法2条1項5号又は9号にいう不正競争行為に該当しない。
なお、原告は、被告Aが、雇用契約終了後の競業避止義務に基づき、退職後5年間は、原告在職中に知り得た本件顧客情報を利用して営業活動を行うことを信義則上禁じられると主張する。しかし、従業員の競業避止義務は、原則として雇用契約の終了とともに消滅するものというべきであり、雇用契約終了後の競業避止義務は、法令に別段の定めがある場合、若しくは、当事者間に特約がある場合に合理的な範囲内でのみ認められると解するのが相当である。原告と被告Aの間に雇用契約終了後の競業避止義務を定めた特約の存在が認められないことは上記(3)ウ、エのとおりであり、本件顧客情報が不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に該当するものではないことは上記のとおりである。よって、被告Aに、原告に対する雇用契約終了後の競業避止義務を認めることはできない。
2 争点(3)(被告らは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為〔不正競争防止法2条1項14号〕をしたか)について 原告は、被告小畑機械の従業員が、原告が電話を掛けているかのごとく偽って顧客に電話を掛けたと主張し、このような行為が不正競争防止法2条1項14号に該当すると主張するので、以下検討する。
証拠(甲4、5の1・2、甲6、7、12、乙3〜5、原告代表者本人、被告A本人)によれば、被告小畑機械の従業員は、本件手帳に記載された顧客に電話を掛けてアポイントを取る段階では、社名や担当者名を名乗らずにリース物件の入れ替えのため面談を求め、その際、本件手帳に記載された前回契約時の機種やリース料などを確認していたが、アポイントが取れて顧客を訪問する段階では、胸部に被告小畑機械の社名が入ったジャンパーを着用し、同被告の社名入りの名刺を出して交渉を進めていたことが認められる。
不正競争防止法2条1項14号にいう「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」といえるためには、虚偽の事実、すなわち客観的真実に反する事実を告知又は流布することを要するが、本件手帳に記載されたリース料や機種などの情報は、当該顧客が締結した前回リース契約の内容を示すものであるから、これを確認する行為が客観的真実に反する事実を告知する行為といえないことは明らかである。もっとも、被告小畑機械の従業員が自社名を名乗らずに、電話で前回契約の内容を顧客に確認した場合、電話を受けた顧客が会話の相手を原告の担当者と誤信する可能性があり、そのためアポイントが取れる確率が高くなることは否定できない。しかし、被告小畑機械の従業員は、アポイントが取れて顧客を訪問する段階では、身元を明らかにして交渉を進めるのであるから、同従業員の言動により、顧客が原告の営業活動に関する評価を低下させることはないし、アポイントが取れない場合は、結局誰が電話を掛けてきたのか顧客は確定できないのであるから、そのような言動が、直ちに、原告の営業活動に関する外部評価を現に低下させ、また低下させるおそれがあるとはいえない。よって、
同法2条1項14号にいう「営業上の信用を害する」という要件も満たさないというべきである。
そうすると、被告小畑機械の従業員の電話による営業活動が、不正競争防止法2条1項14号に該当する行為ということはできず、他に、被告小畑機械又は被告Aが、原告を誹謗中傷するなど、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布したことを認めるに足りる証拠はない。
3 以上によれば、争点(4)について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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