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事件 平成 13年 (ネ) 4767号 不正競争行為差止等請求控訴事件
甲事件控訴人兼乙・丙事件被控訴人 株式会社ソシエテアペックス
訴訟代理人弁護士 小南明也
同 小南久美乙事件控訴人兼甲事件被控訴人 株式会社パール無線
訴訟代理人弁護士 増田利昭丙事件控訴人 A
訴訟代理人弁護士 増田利昭(以下では,甲事件控訴人兼乙・丙事件被控訴人株式会社ソシエテアペックスを 「ソシエテアペックス」といい,甲事件被控訴人兼乙事件控訴人株式会社パール無 線を「パール無線」といい,丙事件控訴人Aを「A」という。)
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/12
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は,ソシエテアペックスとパール無線の間においては,ソシエテアペックスに生じた費用の15分の11と,パール無線に生じた費用の13分の11はソシエテアペックスの,ソシエテアペックスに生じた費用の15分の2とパール無線に生じた費用の13分の2はパール無線の負担とし,ソシエテアペックスとAの間においては,ソシエテアペックスに生じた費用の15分の13をソシエテアペックスの負担とし,ソシエテアペックスに生じた費用の15分の2とAに生じた費用をAの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 ソシエテアペックス (1) 原判決中,ソシエテアペックスの敗訴部分を取り消す。
(2) パール無線は,ソシエテアペックスに対し,1億円及びこれに対する平成11年12月28日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(3) 仮執行宣言 (4) パール無線及びAの各控訴をいずれも棄却する。
2 パール無線及びA (1) 原判決主文2項のうち,パール無線の請求及びAの請求を棄却するとの部分を取り消す。
(2) ソシエテアペックスは,パール無線に対し,2000万円及びこれに対する平成10年10月31日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(3) ソシエテアペックスは,Aに対し,2000万円及びこれに対する平成10年10月31日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(4) 仮執行宣言 (5) ソシエテアペックスの控訴をいずれも棄却する。
事案の概要等
1 ソシエテアペックス及びパール無線は,それぞれ,家庭用電化製品等の製造・販売等を業とする会社であり,Aは,パール無線の従業員(実質的には代表者)である。
平成9年秋ころより後,ソシエテアペックスが販売していた携帯電話用の2段折れアンテナ(その形態は,別紙原告製品形態図(1)のとおり)と,パール無線が販売していた,携帯電話用のアンテナの先端部分に付ける光るキャップ部分を組み合わせた製品が開発され(その考案者,考案時期,開発の経緯については争いがある。),これを,最終的には,パール無線が,ソシエテアペックスから,2段折れアンテナの供給を受け,これに光るキャップ部分を取り付ける加工をして,ソシエテアペックスに供給し,同社がこれを販売する,ということになった。
しかし,パール無線は,平成10年2月に受注した1万4000本の製品を,同年6月までに供給したほかは,ソシエテアペックスの追加注文に応じないで,自ら,光るキャップ部分が付いた2段折れアンテナの販売をするようになった。ソシエテアペックスも,別途部品の供給元を見つけ,この種のアンテナの販売を再開した。
2 甲事件において,ソシエテアペックスは,パール無線に対し,その製造・販売する,別紙物件目録(1)記載の携帯電話用アンテナ(以下「パール無線製品」という。)が,別紙原告製品形態図(1)記載の携帯電話用アンテナ(商品番号SA-20,以下「第1アンテナ」という。)と,同原告製品形態図(2)記載のアンテナ(商品番号SA-50,以下「第2アンテナ」という。)の形態を模倣したとして,不正競争防止法2条1項3号,4条に基づく損害賠償を,またパール無線が,同社とソシエテアペックスとの間の継続的製品供給契約に反し,正当な理由なく商品の供給を停止したことによる債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償を,選択的に請求している。
乙事件において,パール無線は,別紙意匠権目録記載の意匠権(以下,この意匠権を「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)の独占的通常実施権及び専用実施権に基づき,別紙原告製品形態図(3)(ソシエテアペックスが主張する図面)ないし別紙物件目録(2)記載(パール無線及びAが主張する図面)のソシエテアペックスの携帯電話用アンテナ(商品名SA-60,SA-61。現実の製品は,検甲第7号証ないし第10号証である。以下「第3アンテナ」という。)の製造・販売が,本件意匠権を侵害するとして,損害の賠償を求め,同時に,パール無線がソシエテアペックスに供給した第2アンテナ等の売掛金残代金の支払を求めている。
丙事件において,Aは,本件意匠権の権利者として,パール無線に独占的通常実施権ないし専用実施権を設定する前の期間につき,ソシエテアペックスに対し,上記本件意匠権侵害を主張して,損害賠償を求めている。
なお,パール無線は,原審では,1億円の損害賠償を請求していたが,当審では請求額を2000万円としている。
3 原判決は,甲事件について,@パール無線製品は,第1アンテナの形態を模倣したものではない,A第2アンテナは,ソシエテアペックスの商品の形態ではなく,パール無線製品の形態は,第2アンテナの模倣ではない,B上記継続的商品供給契約において,パール無線は,1万本を超えて受注する義務を負うものではないこと,また,既に受注した分についての未履行分も,ごくわずかな割合であること,またソシエテアペックスが既に引渡しを受けた分の代金の大部分をまだ支払っていないこと等に鑑みると,債務不履行ないし不法行為は成立しない,として,ソシエテアペックスの請求をいずれも棄却した。
原判決は,乙事件及び丙事件について,パール無線の,アンテナ等の未払代金の支払請求は認容し,本件意匠権の侵害に基づく請求は,第3アンテナは,本件意匠と類似しないとして,いずれも棄却した。
当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 当審におけるソシエテアペックスの主張の要点 (1) 第2アンテナの開発,商品化に至る経緯についての理由不備・事実誤認 ア 原判決は,第2アンテナにつき,「原告会社(判決注・ソシエテアペックス)の製造に係る第1アンテナの先端に被告会社(判決注・パール無線)の製造に係るピューラントアンテナの光る先端部分を取り付けた商品である第2アンテナは,Aの創作によるものであるから,この商品の形態は,原告の商品の形態であるということができない。」(原判決23頁20行〜23行)とした。
原判決は,その前提として,Aが,平成9年8月下旬ころ,秋葉原の電気街で2段折れ式携帯電話機用アンテナ(台湾製)が販売されているのを見て,これに,パール無線の販売する,アンテナの光る先端部分を取り付ければ新しい商品になるというアイディアを着想した,との事実を認定している(原判決18頁4行〜7行等参照)。
しかし,携帯電話機用2段折れアンテナ(第1アンテナ)を初めて開発し,販売したのはソシエテアペックスであり,同社が2段折れアンテナを市場に投入したのは,平成9年9月中旬から下旬にかけてである。Aが,同年8月ころ,携帯電話機用の2段折れアンテナを見たということはあり得ない。
第2アンテナは,平成9年10月ころにおいて,パール無線の従業員であったB(以下「B」という。)が試作したものである。
イ 不正競争防止法2条1項3号にいう「形態」の模倣を理由とする請求権を取得するのはだれであるかの判断は,だれが,当該形態に係る創作活動を行ったか,によってではなく,だれが,当該形態の製品の商品化のため,労力を費やしたか,費用等の資本を投下したか,によって,決定されるべき事柄である(甲174号証)。
原判決は,デザインの創作者がAであると判断し,そのことから,客観的な証拠がないにも関わらず,同人が第2アンテナを商品として開発,商品化を進めたことまで判断している。しかし,以下の事実を考慮すると,これは誤った判断である。
(ア) Bが試作した第1サンプル(検甲第3号証)を入手したソシエテアペックスは,第1アンテナ(SA-20)をパール無線に供給し,第2サンプル(検甲第4号証)を試作させた。
ソシエテアペックス代表者C(以下「C」という。)は,第2サンプルを検証し,これを本格的に販売することにした。そこで,Cは,パール無線の担当者D(以下「D」という。)と,第1アンテナの先端部分にある円盤状部材のないアンテナ(以下「トップレスアンテナ」という。)をパール無線に供給し,同社がこれに加工したものを再度納品してもらう,という形の業務提携の成立に向けた交渉を始めた。
これと同時に,ソシエテアペックスは,業務提携先であるシーバース工業株式会社等の多数の取引先に対し,第2サンプルを見せた上,次期商品として説明し,また展示するなどした。
(イ) ソシエテアペックスは,平成9年10月16日,第2アンテナの営業用サンプル作成のため,SA-20のトップレスアンテナの製造を,台湾のハオチャン社(以下「ハオチャン社」という。)に依頼した。
同月20日より後,ソシエテアペックスとパール無線との間に,ソシエテアペックスの製品である2段折れアンテナの先端に,パール無線の製品である光るキャップ部分を取り付けることで,同社がソシエテアペックスに協力すること,販売主体はあくまでソシエテアペックスであることが合意された。
(ウ) 同年11月,ソシエテアペックスは,ハオチャン社から納入されたトップレスアンテナ220本をパール無線に納品し,営業用サンプルの製作を依頼し,出来上がった営業用サンプルを受領して,多数の販売店に説明して回った。その結果,一般消費者に非常に好評であるとの反応を知った。そこで,ソシエテアペックスは,第2アンテナを本格的に製造,販売することを決めた。
同月18日ころ,ソシエテアペックスは,トップレスアンテナ1万本の生産費用見積もりをハオチャン社に依頼した。また,トップ部分にねじ山を切る型のものについてテストするため,そのヘッド部分のサンプルを送るよう依頼した。この型のものは,パール無線から指摘された,第2アンテナの製造上の問題点を解決するために,トップレスアンテナの仕様変更をさせてできたものである。
平成9年12月6日,ソシエテアペックスは,ハオチャン社に,ねじ山を切ったトップレスアンテナ(ブラックシルバー)4000本を注文した。また,同月18日,デザイン上のバランスをとるため,発注済みの4000本について,5段式から7段式に変更するようハオチャン社に依頼し,その承諾を得た。
(エ) 平成10年1月,ソシエテアペックスは,ねじ山の長さを3oから5oに変更するよう,ハオチャン社に指示した。また,既に納入された1500本について,ねじ山が斜めに切られていた不良を発見したので,切り直しをさせるため,これを返送した。
平成10年2月上旬,ソシエテアペックスは,東京ビックサイトで開催されたギフトショーにおいて,第2アンテナのサンプルを展示出品し,同月末から発売を開始する旨公表した。
以上のとおり,ソシエテアペックスは,平成9年10月から一貫して,第2アンテナの販売主体として,その商品化に向けて行動してきた。これに反する原判決の判断は,証拠の採否,その評価,経験則の適用を誤っている。
ウ 原判決は,Bが,パール無線のアルバイト店員という立場にあったことから,その職務と関係なく,アンテナの形態又はその意匠を創作することは一般に想定しがたい,として,意匠法15条3項,特許法35条を掲げる。
しかし,この職務発明の規定を引用する点については,全く意味不明である。Bは,パール無線のアルバイト店員だから,パール無線の職務と関係なく,アンテナの形態又はその意匠を創作することは一般に想定し難い,ということができるかどうかと,職務発明の規定は全く関係がない。Bが第2アンテナを着想した当時,同人はアルバイト店員にすぎず,その主な職務は接客であったからこそ,自己の職務に属しない範囲で意匠創作を行ったのである。
(2) 第2アンテナの形態模倣を理由とする不正競争防止法違反について ア 原判決は,第2アンテナの形態をもってソシエテアペックスの商品の形態ということはできず,また,パール無線の製品の形態は,Aないしパール無線が独自に開発したものであるから,第2アンテナの模倣であるということはできない,と判示する。
しかし,前記のとおり,第2アンテナを開発,商品化したのはソシエテアペックスであるから,前記判示には,その前提事実に誤りがある。
イ 不正競争防止法2条1項3号における商品の実質的同一性の判断は,意匠における類似性判断と異なり,只乗り防止という観点から取引の実情との関連においてなされるべきものである。
第2アンテナの形態(別紙原告製品形態図(2))と,パール無線の製品(別紙物件目録(1))は,キャップ部分の透明比率等,細部が異なるものの,実質的に同一である。
(3) 債務不履行又は不法行為の成否について ア 原判決は,この点について,以下のように説示している。
(ア) 「原告(判決注・ソシエテアペックス)と被告(判決注・パール無線)の間では,平成9年12月末ころ,代金額の点を除き製作物供給契約書(乙5)に記載された内容の継続的供給契約が成立し,同10年2月にはこの契約に基づき1万4000本の第2アンテナの発注がされた。」(原判決24頁24行〜25頁1行) (イ) 「上記契約の12条によれば,この契約書の契約条項は原被告間の第2アンテナに関する個々の取引契約に共通に適用されるものであって,個別の契約は,原告が被告に対し注文書を発行し,被告がこれを承諾することにより成立するとされている。」(原判決25頁4行〜7行) (ウ) 「そして,同10条によれば,原告は被告に対し1年の契約期間中最低1万本の製品を発注することを保証すると されている。これによれば,被告会社においては,原告が最低発注数として保証する1万本の限度では,受注義務を負うというべきである。
そうすると,被告は平成10年2月原告からの1万4000本の注文に応じて同年6月までに合計1万3319本のアンテナを原告に納品したのであるから(なお,この681本の数量不足が債務不履行又は不法行為に当たるかどうかは,次項で検討する。),既にこの注文に応じた時点で上記契約上の1万本の受注義務は果たしているものであって,その後にされた2万本の追加注文については,上記契約により受注義務を負うものではなく,これに応ずるかどうかは,通常の商取引における注文に対するのと同様,被告において任意に選択することができたものというべきである。」(原判決25頁7行〜18行) (エ) 「原告から追加注文を受けた時点では,被告は下請けのモスト(判決注・有限会社モストのこと。以下「モスト」という。)との間での紛争から同社との取引を停止したため,従来同社から納品されていた光るアンテナのキャップ部分及びその中の発光回路につき不足を来し,原告の追加注文に係る第2アンテナを供給することは事実上不可能な状態であった。」(原判決25頁19行〜23行) (オ) 「以上によれば,被告が2万本の追加注文を拒絶したことは,契約上の義務に違反するものではなく,また,ことさら原告会社に損害を与えることを意図して行った行為ということもできないから,債務不履行に該当せず,不法行為を構成するということもできない。」(原判決25頁24行〜26頁1行) (カ) 「不足分681本については,原告会社の注文に係る1万4000本の第2アンテナの供給契約全体との関係においては,微細な一部分としてその不足は債務不履行を構成しないというべきであり,加えて,被告会社においてこの不足分681本につき履行遅滞があり,また,原告会社においてそれにより具体的な損害を被ったとの事実は,いずれも認めるに足りない。また,このような不足分681本をめぐる経緯並びに原告会社及び被告会社の対応に照らせば,原告会社の681本の納品不足が不法行為を構成するということもできない。」(原判決26頁26行〜27頁8行) しかし,原判決の上記認定には,事実認定の誤り,上記継続的供給契約(以下「本件供給契約」という。)の解釈に関する誤りがある。
イ 原判決が,パール無線の供給義務を否定し,注文に応じるか否かについては,その自由が尊重されると判断するについては,第2アンテナの開発,商品化を進めた者は,パール無線である,との認識が根底にあると解される。
しかし,前記のとおり,第2アンテナの販売に向けて,資金,労力を費やし,具体的な商品化を進めたのは,ソシエテアペックスである。また,販売主体も,ソシエテアペックスであることが,当初から前提となっていた。
ウ そもそも,継続的供給契約においては,基本契約を締結した上で,個別契約が繰り返されることが通常であり,個別契約の締結条項があるからといって,供給義務が認められない,ということになるものではない。
確かに,本件供給契約10条には,「発注保証」と記載されているだけで,「受注保証」とは記載されていない。しかし,これにより「受注保証」もなされたと解釈することができるかどうかを決めるに当たっては,当事者の合理的意思を考慮する必要がある。
本件供給契約の10条は,パール無線の要望により入れられたものであり,1年間で1万本の発注を受ければ,パール無線としては損害が出ないという計算に基づくものであった。これに対し,ソシエテアペックスは,台湾のメーカーにトップレスアンテナを製造させ,輸入し,製品を宣伝して販売することを考えており,1年間で1万本を売れば,投下資本が回収できるというものではなかった。
現実に,ソシエテアペックスは,平成9年10月以降,第2アンテナの販売に向けて,多大な資金と労力をつぎ込んできた。
このように,ソシエテアペックスとパール無線とでは,負っているリスクの大きさ,本件供給契約への信頼,依存度が大きく違っていたのである。
エ 本件供給契約において,ソシエテアペックスに対し,一方的に競業契約を禁止する条項(20条)が入っており,加えて,第2アンテナのキャップ部分の供給元は,事実上パール無線だけであった。パール無線が,1万本を超えた数の追加注文に応じる義務がないとすると,ソシエテアペックスは,本件供給契約の有効期間である1年間は他社製品の取扱ができず,他方,パール無線は,その間に,自分の製品を販売してソシエテアペックスの取引先をすべて奪うことができるという不合理な結果となる。
オ 本件供給契約の29条では,「甲(判決注・パール無線)が本製品を商業的に生産することが著しく困難又は不可能と判断した場合その旨を生産中止3か月前までに乙(判決注・ソシエテアペックス)に連絡し,乙の最終発注量及び以後の対策について甲乙協議するものとする。」と定められている。
本件供給契約当時は,生産中止以外の事由に基づく供給停止は考えられなかったため,供給停止に関する条項は,このようなものになった。しかし,その趣旨からは,生産中止以外の事由でも,信義則上,3か月程度前には連絡することが要求されているものというべきである。仮に,モストとの取引が急に中止になり,生産ができなくなったのであれば(現実には,これは単なる口実にすぎない。),少なくともその時点で,ソシエテアペックスと誠実に協議する義務があったというべきである。しかし,パール無線はこれを怠った。
カ 継続的供給契約では,当事者の契約に対する信頼を保護するため,供給の停止,発注の停止には,正当事由が必要である。
本件では,パール無線に,何ら正当事由は存しない。逆に,パール無線は,事前の連絡を全くせず,また,ソシエテアペックスの再三の要求にもかかわらず,協議にすら応じなかった。これは,パール無線は,第1アンテナのいわゆるデッドコピー(トップレスアンテナ)を株式会社フジモト(以下「フジモト」という。)から大量に仕入れ,第2アンテナの販売を自ら開始したためである。
原判決は,パール無線の供給停止の理由について,誤った認定をし,また,その違法目的を裏付ける客観的事実について全く言及していない。
パール無線は,平成9年3月の時点で,フジモトからトップレスアンテナのサンプル提供を受け,ソシエテアペックスからの追加発注を拒絶した時期とほぼ同時期に,フジモトから大量のトップレスアンテナの納品を受けている。これらの事実からは,パール無線は,遅くとも平成9年4月ないし5月の時点で,第2アンテナの競合品の製造を計画していたものと推認される。そのころ,モストに代わる光るキャップ部分の供給先も見つけていたはずである。
(4) 681本の数量不足によりソシエテアペックスに生じた損害の算定の誤りについて ア 原判決は,次のとおり説示している。
(ア) 「1万4000本のうちの681本という数量は,注文数全体の5パーセントに満たない割合である上,原告会社(判決注・ソシエテアペックス)の販売数量に照らせば軽微な数量である。上記注文に係る商品についての最終的な納品は平成10年6月ころに行われているが,原告会社は,当時,被告会社(判決注・パール無線)に対して,上記納品につき681本の不足があることを指摘してその納品を求めるといったことをしないまま,2万本の追加注文を行っているものであり,この追加注文が拒絶された後に,特に前記不足分を問題としてその履行を求めるといったこともしていない。原告の注文において,1万4000本という数量に特別の意味があって,この数量の商品がそろわないと特別の支障が生ずるといった事情は存在せず,681本の納品不足によって原告会社が殊更損害を被ったといった事情も認められない。」(原判決26頁7行〜17行) (イ) 「1万4000本の注文に係る第2アンテナについて,681本の不足分を含めて原告会社においてそのころ代金の全額を弁済し,あるいは弁済の提供をしたといった事情は何ら認められず,かえって原告会社は,被告会社から納品を受けた1万3319本についても,その大部分(9421本)の代金(本件反訴請求に係る代金)をいまだ支払っていないものであるから,仮に不足分681本を含めた原告会社の注文に係る1万4000本につき契約上一応の履行期が定められているにしても,この不足分につき平成10年6月ころには納品及び代金支払の双方の履行期が到来した後,双方未履行のまま特にこの点を問題とすることなく年月を経過したものと認められる。」(原判決26頁17行〜26行) (ウ) 「以上の事情を総合すれば,この不足分681本については,原告会社の注文に係る1万4000本の第2アンテナの供給契約全体との関係においては,微細な一部分としてその不足は債務不履行を構成しないというべきであり,加えて,被告会社においてこの不足分681本につき履行遅滞があり,また,原告会社においてそれにより具体的な損害を被ったとの事実は,いずれも認めるに足りない。」(原判決26頁26行〜27頁5行) イ ソシエテアペックスは,第2アンテナについて,取引先から大量の注文を受けており,そのため,パール無線に対し,平成10年6月に2万本の追加注文をした。他方,パール無線は,第2アンテナの競合品の製造に着手し,パール無線製品を市場に供給している。
681本の納品不足による「損害」とは,納品不足に対応する数量をソシエテアペックスが販売できなかったことによる,得べかりし利益の喪失であり,その損害賠償の範囲が,控訴人が喪失した得べかりし販売利益相当額であることは,明らかである。原判決が,681本につき具体的な損害を被ったことに対する立証を要求しているのは,誤りである。
ウ ソシエテアペックスは,681本につき,未履行であることをパール無線に告げている。その後,第2アンテナの受注を要求する過程で,681本の履行について,殊更に強調することはしていないが,当然これを求める意思を有していた。
エ ソシエテアペックスが,9421本の代金を支払っていないのは,パール無線に供給停止という債務不履行があり,これによる損害が拡大するのを防止するためである。上記不払いに違法性はない。
(5) 本件意匠と第3アンテナの類否について ア 原判決は,「仮に被告(判決注・パール無線)の主張に従えば,それぞれ異なる意匠として登録されている前記登録意匠(甲100,134〜139)の先端のキャップ部分を2段折れのアンテナに装着すると,本来類似しないはずのこれらの意匠がすべて類似することになるという不合理な結果を来すこととなる。」(判決書30頁23行〜31頁1行)との説示の前提として,「2段折れのアンテナ部分は原告が販売した第1アンテナにより,先端の光るキャップ部分は被告が販売したピューラントアンテナにより,本件意匠の意匠登録出願時に公知となっていたものであり,加えて携帯電話用アンテナに関しては,アンテナ先端のキャップ部分のみが異なる複数の意匠がそれぞれ別個の意匠として既に知られていたのであるから,本件意匠の出願時には,2段折れのアンテナ部分と組み合わせるべき先端のキャップ部分としては複数の異なる意匠のものが存在したものである。このような点を考慮すれば,本件意匠は,2段折れのアンテナ部分に本件意匠において表されている具体的な先端キャップ部分を組み合わせた構造のものとして,理解すべきである。」(判決書30頁14行〜23行)と判示している。
イ 原判決も説示するとおり,本件意匠は,いずれも公知のものである,先端の光るキャップ部分(その意匠も数多く存在していた)と,2段折れアンテナを組み合わせたものであり,創作性の程度は極めて低い。仮に本件意匠が保護されるべきであるとしても,その範囲は極めて狭くなり,本件意匠の図面に記載されている公知の「2段折れアンテナ」に,同図面に記載されている公知の「キャップ」を組み合わせたもののみに限定されるべきである。
ロッドアンテナの先端部分に,光るキャップを取り付けるという組合せ自体に係るアイディアは,技術的思想であり,意匠権で保護されるべきものではない。しかも,この組合せ自体,公知である(甲第133号証)。
ウ パール無線の摘示する本件意匠の特徴も,単に共通点を恣意的に抜き出したものにすぎない(ただし,第3アンテナは,キャップの内部ではなく,表面にカットが施されている点で,本件意匠とは異なる。)。
2 パール無線,同Aの主張の要点 (1) 本件意匠と第3アンテナの類否について 原判決は,本件意匠の要部は,「2段折れのアンテナ部分と先端の光るキャップ部分を組み合わせたという全体的な構成のみならず,先端のキャップ部分の構成,すなわち,それを覆っているカバーを通して見える内部の形状,カバー上端部分の形状,カバー部分とそれ以外の部分との比率等の細部の具体的構成」(原判決30頁6行〜10行)にあり,2段折れアンテナ部分と先端の光るキャップ部分を組み合わせたという基本的な構成部分にはない,とした。
原判決が上記のように判断すべき根拠として挙げているのは,@2段折れアンテナと先端の光るキャップ部分は,それぞれ既に公知であり,加えて,アンテナ先端部分のみ異なる意匠がそれぞれ別の意匠として存在していたから,本件意匠も,2段折れアンテナのアンテナ部分に,本件意匠において表されている具体的な先端キャップを組み合わせた構造のものとして理解すべきである,A要部が上記基本的構成部分にあるとすると,それぞれ異なる意匠として登録されている登録意匠(甲第100号証,第134ないし第139号証)の先端キャップ部分を2段折れアンテナに装着すると,本来類似しないはずのこれらの意匠がすべて類似することになるのは不合理である,ということである。しかし,原判決のこの認定は誤りである。
ア 携帯電話用アンテナにおいて,2段折れアンテナと光るキャップ部分のいずれもが公知であったとしても,2段折れのアンテナの先端に光るキャップ部分を組み合わせた形態は,本件意匠以前には存在しなかった。各部が公知であるからといって,それらを組み合わせた構成が要部にならないなどということはあり得ない。本件意匠における先端の光るキャップ部分と2段折れのアンテナ部分との組合せによって,それまでにない独自の形状及び美感が生じているものであり,「2段折れアンテナ部分と先端の光るキャップ部分を組み合わせた全体的な構成」にこそその要部があると認定すべきである。
イ 単なる棒状アンテナであれば,ありきたりすぎて,アンテナ部分は意匠の類否判断の対象とはならない。したがって,非類似とされる先端キャップ部分を棒状アンテナと組み合わせたものは,それぞれ非類似となる。しかし,2段折れアンテナは,携帯用電話のアンテナとしては特殊であり,類否判断の対象となる。したがって,2段折れアンテナと光るキャップ部分を組み合わせたものは,両者の組合せ自体によって,類似,非類似が判断される。単なる棒状アンテナと組み合わせれば,非類似となる登録商標(甲第100号証,第134号証〜第139号証)も,2段折れアンテナと組み合わされれば,類似と判断されることもあり得るのである。
結局,本件意匠の類似範囲に入るか否かは,(a)「2段折れアンテナ部分」と,(b)その先端に接着された円筒状のトップピースで,その上部は,内部の視認が可能な透明部材で形成され,その頂面はゆるやかな球面状をなし,内部にダイヤカットが施されているもの,であるか否かによって決まる,と解すべきである。
以上の観点に立った場合,第3アンテナは,いずれも本件意匠と類似している。
(2) ソシエテアペックスの主張(2)(第2アンテナの形態模倣を理由とする不正競争防止法違反)に対して ア 原判決は,Aが,第2アンテナを商品として開発し,その商品化を進めたとは認定していない。原判決が認定したのは,Aにおいて,携帯電話用の2段折れアンテナに,発光式の先端キャップ部分を取り付けることを着想し,これを具体化したサンプルを製作し,パール無線において,これを商品として開発した,との事実であり,これにより,パール無線製品の形態は,A及びパール無線の製作,開発に基づくものであるから,ソシエテアペックスの商品形態模倣に当たらない,と結論づけたものである。
原判決は,不正競争防止法2条1項3号にいう「形態」の模倣を理由に請求権を取得するのは,形態の創作者であって,当該形態の商品の開発者ではないなどとしてはいない。そして,Aが第2アンテナの形態の創作者であるから,ソシエテアペックスはその模倣を理由に請求することができない,などと説示しているものでもない。
イ 2段折れアンテナ(第1アンテナの形態)は,そもそも台湾の咸コ金屬股?有限公司(以下「シンタク社」という。)が製造,販売していたものである。ソシエテアペックスも,ハオチャン社を介して,シンタク社の2段折れ式アンテナを輸入していたにすぎない。ソシエテアペックスが,2段折れアンテナを開発,製造したという事実はない(乙第32号証〜第37号証)。
(3) ソシエテアペックスの主張(3)(債務不履行又は不法行為の成否)に対して ア 本件供給契約の発注保証条項は,買主(ソシエテアペックス)がそれ以上の発注義務を負うことはない,ということを定めているものにほかならない。そうすると,買主に1万本以上の発注義務を負わせない,とされている以上,売主(パール無線)にも1万本以上の受注義務を負わせない,ということになるのは,契約内容の合理的解釈として,当然のことである。
イ また,パール無線としても,供給を続ければ,瑕疵担保責任,製造物責任及び工業所有権に関する紛争を解決する義務等を負うのであるから,本件供給契約条項中,ソシエテアペックスが競合禁止義務を負うとしても,偏頗ということにはならない。
パール無線が受注しないことにより,ソシエテアペックスの投下資本が回収不能になったとしても,それは,ソシエテアペックスの事業を遂行するに当たっての検討不足を物語るものにすぎない。
1年で1万本という数字は,当時のパール無線の生産能力からも,能力の最大限を超えるものであった。
ソシエテアペックスの資金,労力の投下も,商品の販売を行うに当たって,通常よく行われる程度の営業努力にすぎない。
当裁判所の判断
当裁判所も,パール無線の,アンテナ等の売掛代金の請求のみは理由があり,パール無線のその余の請求及びAの請求,並びにソシエテアペックスの請求は,いずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 本件第2アンテナの形態の考案者について (1) ソシエテアペックスは,平成9年8月下旬ころ,Aが2段折れアンテナを秋葉原で見たとの原判決認定事実の反対証拠として,当審において甲第176号証ないし第184号証,第190号証ないし第194号証を提出する。
これらは,台湾における電子部品(携帯電話を含む無線通信機器等)の製品紹介の雑誌であり,広告も掲載している。これによると,台湾において,シンタク社製の,携帯電話用の2段折れアンテナの広告は,平成9年11月号で始めて掲載されたとの事実を一応推認することができる(甲第178号証)。
しかし,製品紹介の広告を掲載する以上,その時点では,注文に応じるため,2段折れアンテナの生産体制がある程度整っているとも推認されるから(上記広告は,将来の販売開始を予告するものではない。),その前段階として,試作品,サンプル品も含めて,同種の製品が業界関係者に出回っていることは自然なことである(本件でも,第2アンテナの販売開始に先立つこと数か月前に,そのサンプルが製作され,ソシエテアペックスは,それを取引先等に頒布するなどしている(C本人尋問の結果,弁論の全趣旨)。)。そして,上記広告がなされる数か月前に,当時既に携帯電話の一大市場であった日本の,しかも秋葉原に,2段折れアンテナの試作品ないしサンプル品が持ち込まれることは,十分あり得ることである。
したがって,上記各証拠及びこれから認定できる事実を併せ考慮しても,平成9年8月以前に,携帯電話用の2段折れアンテナが市場に出回っていたとの認定を覆すには足りない。
(2) 付言すると,仮に,上記形態を考案したのがBであったとしても,Bのパール無線における職務は,接客だけではなく,製品を作るということも含んでいたものであり(甲第50号証,A証言等),そうすると,職務に関連して考案したことになるから,結局は,ソシエテアペックスとの関係では,パール無線側が,上記形態を考案したことになるというべきである。
2 第2アンテナの形態模倣を理由とする不正競争防止法違反について (1) 甲第55号証ないし第89号証,原審でのソシエテアペックス代表者C本人尋問の結果によれば,ソシエテアペックスは,平成9年10月ころから,第2アンテナを製造・販売するため,その部品であるトップレスアンテナを,ハオチャン社に大量に発注し,製造ないしデザイン上の理由から,2度にわたり仕様変更をさせ,他方でサンプル品を取引先等に見せてその市場性を測るなど,積極的に行動してきた事実を認めることができる。しかし,ソシエテアペックスの上記努力が,既に開発された商品を,量産・販売することに当然に伴う範囲を超えるものであったことは,本件全証拠を検討しても認めることができない。
ソシエテアペックスは,平成9年11月ころ,パール無線に供給したトップレスアンテナ220本分の代金を全額受領している一方,加工済みのものについてはその引取りと代金の支払をしているものの,未加工のアンテナについてはその引取りも代金の支払(買戻し)もしていない(乙第28号証,A証言,C本人尋問の結果)。また,パール無線は,自ら第2アンテナの形態の製品を自ら販売する意図を放棄していたものではない(A証言)。これらの事実の下で,ソシエテアペックスが,自ら提唱してその費用で試作品を作成させた,と認めさせるに足りる資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことができない。
(2) 前記のとおり,第2アンテナの形態はパール無線側が考案したものである。
(3) 以上のとおりであるから,第2アンテナの形態の商品を,ソシエテアペックスが自ら開発,商品化したと認めることはできない。したがって,第2アンテナの形態をもって,ソシエテアペックスの商品の形態ということも,パール無線製品が第2アンテナの模倣であるということもできない,とした原判決の判断に誤りはない。
3 債務不履行ないし不法行為の成否について (1) 本件供給契約に係る契約書(乙第5号証)には,1年間で最低1万本の発注をしなければならないという,ソシエテアペックス側の発注義務は明記されている(10条)。しかし,パール無線の側の受注義務,特に,1万本を超える本数の発注を受けた場合,これについても受注義務を負うか否かについては,契約書(乙第5号証)の文言からは明らかでない。したがって,この点にいては,これを巡る他の四囲の事情を考慮して,決定すべきである。
(2) 第2アンテナの販売に関する,ソシエテアペックスの業務は,トップレスアンテナを第三者から購入し,パール無線にこれを供給して,その製品である光るキャップ部分を取り付けさせ,自らが販売するというものである。そして,このような業務形態において,ソシエテアペックスが発注義務を負うのは,1万本についてであり,パール無線の側からみれば,1万本の限度内では受注できることが明らかであるものの,1万本を超える部分については,受注できるかどうか分からない,というのが上記10条の内容である。そうであるとすれば,ソシエテアペックスに発注義務が課せられている1万本の限度においては,パール無線にも受注義務があるものの,それを超える部分については,原則的には,パール無線に受注義務はないと考えるのが合理的であり,1万本を超える部分につきパール無線に受注義務を認めるためには,それを正当化するに足りる特別の事情が認められなければならない,というべきである。
(3) ソシエテアペックスは,第2アンテナの販売に向けて,多大な労力,資本を投下したものであり,追加発注を拒絶されると,これらを回収できない,と主張する。
ソシエテアペックスが,パール無線の行為から,合理的な根拠により追加発注に応じてもらえるに違いないと信じた上,部品確保等の理由から,既に量的ないし価格的に過大な発注をしたり,製造に向けて相当額の設備投資をしたりした等の事情が認められれば,それは,上記特別の事情として,パール無線の受注義務を根拠づけるものとなるであろう。しかし,仮に,ソシエテアペックスが1万本を超える発注に応じてもらえるであろうと信じていたとしても,それが合理的な根拠によるものであったことは,本件全証拠によっても認めることができず,ソシエテアペックスが投下した労力や資本が,ハオチャン社に対する部品の代金及びパール無線に対する代金(実質は加工代)の支払,一定範囲の宣伝活動等,第2アンテナという商品を販売することに当然伴う範囲を超えるものであったことも,本件全証拠によっても認めることができない。また,前記のとおり,本件第2アンテナの形態を考案したものが,ソシエテアペックスであるとは認められず,ソシエテアペックスがその開発に多額の資本を投下したとも認められない。
ソシエテアペックスは,同社だけが一方的に競業禁止義務を負わされている(本件供給契約20条)不公平を,受注義務があると解する1つの根拠としている。しかし,光るキャップ部分は,パール無線以外に供給元がなく,また,第2アンテナの形態は,パール無線側の考案に係るものであるとの事実を前提とすると,20条は,契約自由の原則の範囲を超えた不公平なものである,とまでは,いうことができない。
その他本件全証拠を検討しても,本件供給契約上,1万本を超える分について,パール無線に受注義務があるとすべき根拠となる特別の事情を認めることはできない。
(4) ソシエテアペックスは,継続的供給契約において,供給を拒むためには,正当事由が必要であるにもかかわらず,パール無線は,自ら光るキャップ部分付きの2段折れアンテナを販売するために,その準備を先行させた上で(甲第170号証ないし第173号証),ソシエテアペックスに対する供給を拒んだものであって,何ら正当事由はない,また,モストとの間で生じた問題が,供給停止の理由であるとしても,本件供給契約29条の趣旨からは,今後の取引について協議すべきであったのに,パール無線はこれに応じなかった,と主張する。
しかし,1年間で1万本を超える分について,パール無線が受注義務を負うものではないことは,前記認定のとおりである。そもそも,パール無線は,前述のとおり,もともと第2アンテナの形態の製品を自ら販売する意図がなかったわけではなく,本件供給契約においても,これを禁じる条項は存在しない。したがって,パール無線が,別途,部品を調達し,その製造上の問題を克服するなどして,自社で商品を販売したとしても,本件供給契約に基づく供給義務を履行している以上,これを違法とすることできない。
また,以上のとおりの本件供給契約の解釈からは,29条は,受注義務を負っている分あるいは既に受注した分について,その生産ができなくなった場合の規定であると解すべきであって,本件の場合には当てはまらないというべきである。
4 681本の数量不足によりソシエテアペックスに生じた損害の算定の誤りについて 前記認定のとおり,パール無線には,2万本の追加注文に応じる義務はないから,この点についてパール無線の債務不履行はなく,したがって,ソシエテアペックスが,9421本分の代金を支払わなかったことの違法性が,パール無線が追加注文に応じなかったことにより阻却されることはない。
そうだとすると,681本の未履行について,パール無線の債務不履行があるとすることはできないというべきである。
5 本件意匠と第3アンテナの類否について (1) パール無線は,本件意匠と他の意匠との類否判断において決め手となるべき本件意匠の要部は,(a)「2段折れアンテナ部分」と,(b)その先端に接着された円筒状のトップピースで,その上部は,内部の視認が可能な透明部材で形成され,その頂面はゆるやかな球面状をなし,内部にダイヤカットが施されているものとの組合せ自体にある,解すべきであると主張する。そして,抽象的に本件意匠の特徴を抜き出せば,パール無線の主張のとおりのものとなる。しかし,パール無線の上記主張を採用することはできない。
(2) 2段折れアンテナと光るキャップ部分を組み合わせた構成の意匠においても,意匠の美感,印象は,最終的には意匠全体によって決まるものであるから,一般的にいえば,アンテナ本体部分の形状(太さ,長さ,段数,2段に折れる部分の位置等),アンテナ支持部の形状,先端部の形状いかんにより,異なった美感,印象を看者に与え得ることは当然である。本件意匠と第3アンテナの意匠との関係においても,アンテナ本体部分のみに着目すれば両者が類似しているといい得る場合であっても,他の部分のみに着目すれば両者間に類似性が認められず,その結果,全体として看者に異なる美感,印象を与えるということも,当然あり得る。この場合,第3アンテナの意匠は,本件意匠に類似しないことになる。
2段折れアンテナと光るキャップ部分を組み合わせたということ自体が,意匠の側面においても圧倒的に重要な力を持ち,その結果,これら二つの構成要素の双方又は一方の形態が相当程度異なっても,共通した美感,印象が発揮されると考えさせる何らかの特別な事情があれば,別に考える余地があるかもしれない。しかし,上記事情は,本件全証拠によっても認めることができない。また,意匠法は,2段折れアンテナと光るキャップ部分を組み合わせるというアイディア自体を保護するものではない。
したがって,2段折れアンテナと光るキャップ部分を組み合わせた形状が,本件意匠以前に存在しなかったとしても,これを特別扱いし,先端の光るキャップ部分の構成における相違には着目しなくてよい,とすることはできない。
(3) 原判決は,本件意匠を,2段折れのアンテナ部分と先端の光るキャップ部分を組み合わせたという全体的な構成のみならず,先端の光るキャップ部分の構成にも着目して観察し,本件意匠と第3アンテナ(イ号ないしニ号)の類否を判断したものであり,その手法にも結論にも誤りはない。
6 結論 以上検討したところによれば,原判決は相当であって,控訴人らの本件各控訴はいずれも棄却すべきであり,本件各控訴は理由がない。そこで,これらをいずれも棄却することとし,控訴費用の負担について民事訴訟法67条1項,61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久
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