運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 商標登録 /  他人の商品 /  類似性(類似) /  印象 /  記憶 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  共同不法行為 /  因果関係 /  利益額(利益の額) /  弁護士費用 /  デザイン /  ただ乗り(フリーライド) /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  2条1項5号 /  損害賠償 /  損害額 /  推定 /  販売数量 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (ワ) 1057号 損害賠償請求事件
原告 株式会社ソシエテアペックス
訴訟代理人弁護士 小南明也
同 小南久美
被告 株式会社オーディオテクニカ
訴訟代理人弁護士 増田利昭
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/07/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成12年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,携帯電話機用のアンテナを製造販売する原告が,被告が第三者から供給を受けて販売する携帯電話機用のアンテナは,原告の製造販売に係るアンテナの形態を模倣した商品であると主張して,被告に対し,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為を理由として損害賠償を求めているものである。これに対して,被告は,原告が自ら上記アンテナの形態を開発したことを争い,原告は外国で製造されていたアンテナを輸入して販売したにすぎないなどと主張している。
1 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 当事者等 ア 原告は,家庭用電気製品等の製造販売を主たる目的とする株式会社であり,平成8年4月からは携帯電話機の販売及びその付属品の開発,製造販売等を業として行っている。(弁論の全趣旨) イ 被告は,電気音響機器の製造販売等を目的とする株式会社である。被告は,年間売上高約150億円の大手卸業者であり,最近の携帯電話市場の拡大に伴い,携帯電話機の付属品等の販売も行っている。
ウ 株式会社フジモト(以下,単に「フジモト」という。)は,自動車用品の製造販売等を目的とする会社であり,平成5年ころからは携帯電話機用製品の製造販売を行っていた。
(2) 原告の製品 原告は別紙「原告製品形態図」記載の形状の携帯電話機用のアンテナ(以下「原告商品」という。)を製造し,遅くとも平成9年9月から我が国で販売している。原告商品は,別紙「原告製品形態図」の図3にあるようないわゆる「2段折り収納形状」の形態を有している。
(3) フジモト及び被告の取り扱う製品 フジモトは,平成9年12月ころから,別紙「物件目録」記載の携帯電話機用のアンテナ(以下「本件商品」という。)を被告に販売している。被告は,フジモトから納入を受けた本件商品を更に販売店に販売している。
(4) 原告の被告に対する警告 原告は,平成9年12月26日到達の内容証明郵便(甲2)で,被告に対し,本件商品の販売を停止するように求めた。
被告は,これに対して,同10年1月14日付けの書簡(甲3)で,原告に対し,本件商品の販売に係る請求についてはフジモトにその解決を一任しているので,同社との間で話合いをしてほしいとの趣旨の回答をし,その後も本件商品の販売を継続した。そこで,原告は,平成12年12月5日到達の内容証明郵便(甲4)で,被告に対し,再度警告をした。
2 本件の争点 (1) 原告商品の形態は,原告が最初に商品として開発したものか(争点1) (2) 原告商品の形態は,「同種の商品が通常有する形態」(不正競争防止法2条1項3号括弧書)に当たるか(争点2) (3) フジモトの製造販売に係る本件商品は,原告商品の形態模倣したものか(争点3) (4) 被告は,フジモトから本件商品を譲り受けた際に,原告商品の形態模倣した商品であることを知らず,知らないことについて重大な過失がなかったか(不正競争防止法12条1項5号)(争点4) (5) 原告の損害額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 原告の不正競争防止法2条1項3号の請求主体該当性(争点1) 【原告の主張】 原告商品は,原告が最初に開発し,製造販売したものであり,その具体的な経過は次のとおりである。
ア 平成8年から同9年にかけて,海外の携帯電話機用アンテナとして1段折れの伸縮可能なロッド式アンテナが用いられていたが,日本ではこのようなロッド式アンテナは用いられていなかった。
原告代表者のA(以下「A」という。)は,以前からの取引先である中華民国(以下「台湾」という。)の豪昶企業股?有限公司(以下「ハオチャン」という。)が上記1段折れロッドアンテナ(同社の製品番号「CA-202」)を製造し,海外向けの携帯電話機の交換用アンテナとして販売していることを,知った。
そこで,Aは,平成9年6月27日,ハオチャンに対して上記「CA-202」の製品について問い合わせたところ,同年7月2日,同社からファクシミリで,製品のカタログとサンプル2本を送付する旨の連絡がされた。そして,Aは,同年7月3日か4日ころ,そのサンプルを受領した。
イ しかし,前記「CA-202」の製品は,海外向けの携帯電話機の交換用アンテナであったため,取付け部が大きくそのままでは使用できないという難点があった。さらに,1段折れであったため,付属アンテナのように携帯電話の中に収納することができず,携帯に不便であるという問題点があった。Aはこれらの問題点を解決する方法として,2段折りの収納形状にすることを発想し,前記「CA-202」の製品につき,これを1段折れから2段折れに変更して,アンテナ取付金具を日本の携帯電話機のアンテナ取付け部に合致するように設計をした上で,同年7月3日か4日ころ,ハオチャンに対して,手書きの図面を送るとともに2段折れのアンテナのサンプルを製造するように依頼した。その際,Aは長通電子器材股?有限公司(略称「ATI」)のカタログにあった「Super Antenna」のロゴを気に入ったため,これを印字するようにハオチャンに対し併せて指示した。
ウ ハオチャンは,Aの前記依頼に応じ,2段折れの新アンテナに「CA-202-1」という別の商品番号を付した承認図を作成し,同月8日付けのファクシミリで返送した。
その後,同月中旬ころハオチャンから上記承認図に基づくサンプルが送られてきたので,原告が日本で市販されているすべての携帯電話機に装着可能かどうかテストをしたところ,富士通製の携帯電話機には,サンプルの取付け部のねじが適合せず,装着できないことが判明した。
そこで,Aは,同月11日付けファクシミリで,ねじの寸法の変更とアンテナ本体が上下に曲げられるように回るようにすることを内容とする仕様変更を要請するとともに,当該商品については1500本を注文予定であること,サンプルの送付を依頼することなどを連絡した。これに対し,ハオチャンは,同月31日ころ,ねじの部分の寸法を修正した図面を原告に対して送付した。その後,Aはハオチャンからサンプルを受領したので,同年8月6日付けファクシミリで礼を述べるとともに,自身が同月12日から台湾を訪問し,翌13日午前にハオチャンで打合せをしたい旨を連絡した。
この8月13日の打合せにおいて,Aは,ハオチャンに対して,口頭で2段折れアンテナ2000本の正式な注文を行った。
エ ところが,原告において,サンプルのねじの寸法について更に問題点が見つかったため,Aが同月19日付けファクシミリで変更を要請したところ,ハオチャンは,同月21日付けファクシミリで,この要請には応じられないが,もし2000本の注文で1本当たり0.5米ドルのコスト負担に応じてくれるならば寸法の変更に応ずる旨を返答した。
これに対して,Aは,同月22日付けファクシミリで,0.5米ドルは高すぎて応じられないが0.1米ドルであれば応ずる旨を返答し,更に,1500本の追加注文をする旨,宣伝用サンプルを直ちに送付してほしい旨を連絡した。ハオチャンは,Aの提案する金額で注文に応ずる旨を回答し,サンプルについては同月26日に送付する旨を連絡した。そこで,Aは,同日,1500本を2000本に変更して追加の発注を行った。
オ ところが,同月29日になってもハオチャンから上記サンプルが送付されないため,Aは,同日付けファクシミリをもってハオチャンに対し,問い合わせをするとともに最初に注文した2000本の代金送金のための銀行口座を教えてほしい旨を連絡した。また,このころ,原告は,ハオチャンから200本のサンプルの送付を受けてこれを受領した。
そして,Aは,同年9月5日付けファクシミリをもって,最初の注文と次の注文に係る代金の支払方法につき,銀行電信為替送金の方式で行いたい旨連絡した。
カ 以上のような経緯を経て,同月26日にハオチャンから最初の注文の2000本が原告に送付され,原告は本格的に原告商品の販売を開始した。 なお,原告は上記2000本以外にサンプルとして既に200本の納品を受けていたため,原告が市場で実際に販売を開始したのは,同年8月末である。
キ 上記のとおり,原告商品は,原告が開発したものであり,ハオチャンに対しては,その製造を委託していたにすぎない。
【被告の主張】 本件の2段折れアンテナが開発・販売された経緯は以下のとおりであり,原告の主張は事実に反する。
ア 咸徳金属股?有限公司(以下「シンタク」という。)は,1995年(平成7年)以降,台湾において1段折れのアンテナを製造,販売していた。シンタクのアンテナは接続部分の内部にバネ等の回転機構を設けることにより,アンテナ部分を360度回転可能としていることを特徴とするものであり,シンタクは,当該考案につき台湾と米国において実用新案登録を受けている。
イ シンタクは,上記の1段折れのアンテナをさらに発展させて,1997年(平成9年)初めころまでに,折れ曲がる部分を2つ持ったアンテナ,すなわち,いわゆる2段折れのアンテナを開発した。そして,同年1月に,欧米向けに輸出した。
同年6月には,同じく2段折れのアンテナにつき,携帯電話との接続部分を日本の携帯電話機に適合するように改良して,日本向けに製造・販売していた。
シンタクは,同年5月21日,楕円形内に「S.G」のアルファベットを配したマークについて,中国において商標登録を受けた。また,同日,菱形に「SG」,SとGとの間に稲妻形の文様にあるマークについて,台湾において商標登録を受けた。そして,シンタクは,輸出用商品の多くにこの「S.G」のマークを付していた。
以上のとおり,シンタクは,1997年(平成9年)1月以降,2段折れのアンテナを製造・販売していたものであり,そこには「S.G」のマークが印字されていた。
ウ シンタクは,1997年(平成9年)8月19日,ハオチャンから,2段折れアンテナ(製品番号「CA-202-1」)2000本の注文を受けた。
この注文票(訂購単)によると,同年8月19日に発注され,同月21日からシンタクから出荷し,同月25日納期(締め切り)で,同年9月20日に代金を現金で支払うという約定であった。なお,この注文は,後にハオチャンから1500本の追加を受け,合計3500本となった。
その後,シンタクは,ハオチャンから,同年9月12日に500本,同年10月8日に1万本,同月16日に5000本,同月22日に2420本,同年11月8日に2万本,同月19日に1万1000本,同月27日に2500本,同月28日に1000本の各注文を受けている。
このように,「CA-202-1」はシンタクが製造販売していた2段折れのアンテナであり,ハオチャンはこれをシンタクから買い受けたものである。
なお,この「CA-202-1」は,ハオチャンないし原告における型番であり,シンタクにおいては,「ST-0639」という型番が付されていた。
エ 以上のとおり,本件の2段折れアンテナに関しては,ハオチャンは,終始,シンタクからその製品を購入し,原告に輸出していたにすぎない。したがって,ハオチャンは,原告商品の製造販売会社ではなく,原告は原告商品の形態を自ら考案した者ではない。
なお,台湾では,シンタクのほかに聯芝企業肢?有限公司も,また,原告商品と同一又はこれに類似する携帯電話機用の2段折れアンテナを1997年(平成9年)4月3日ころまでに設計,開発していたのであるから,この点からも,原告の不正競争防止法2条1項3号に基づく本訴請求は理由がない。
(2) 原告商品の形態と「同種の商品が通常有する形態」(争点2) 【被告の主張】 伸縮自在のロッドアンテナに2段折れ部分を設けるという,原告商品の備える「2段折り収納形状」は,古くからラジオ,ポータブルテレビその他の無線通信機器用のアンテナとして広く用いられていた。とりわけ,実願昭58-9514号(実開昭59-118303号)のマイクロフィルムには,原告商品と全く同一の「2段折り収納形状」のロッドアンテナが記載されている。原告商品との違いは,対象が携帯電話機ではないという点であるが,携帯電話機にしろ,ラジオ,ポータブルテレビにしろ,いずれも携帯型の無線通信機である点で同じであるから,それに用いられるアンテナは,同種の商品である。
また,携帯電話機用アンテナにおいても,平成3年ころ既に2段折れの構造が用いられている(実開平3-22410号〔乙12〕など。乙5〜14参照)。
したがって,原告の主張する「2段折り収納形状」は,同種商品において,その機能においても形態においても,決して斬新でも特異でもなく,同種の商品(ないし機能・効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態であるから,不正競争防止法2条1項3号の保護は及ばない。
【原告の主張】 携帯電話機用アンテナの分野における「同種の商品」の形態としては,携帯電話機用付属アンテナとしてアンテナ本体部分が細い金属線で構成され,先端部分に突起が取りつけられたものがほとんどである。
同種の商品として「通常有する形態」とは,その商品分野において一般的な形態,すなわちありふれた形態を意味するが,原告商品における「2段折り収納形状」がありふれたものであるとは到底いえない。
被告の指摘する各証拠は,いずれも実用新案公報又はそのマイクロフィルムであって,その図面に記載されたアンテナと同じ商品が市場において流通していたことを立証するものではなく,ましてや,その形態が携帯電話機用アンテナとして通常有する形態であることの立証には役立たないものである。
しかも,上記各証拠に示されているアンテナ等を個別にみれば,原告商品と形態を異にするものであるか,そもそも携帯電話機用アンテナと無関係なアンテナの取付構造などであって,本件とは無関係なものである。
(3) フジモトによる形態模倣の成否(争点3) 【原告の主張】 ア 形態の実質的同一性 原告商品とフジモトの製造販売に係る本件商品とを比較すると,その形態(客観的形状)はほとんど同一である。
別紙「模式図」は,原告商品の側面部を模式的に示したものであるが,原告商品では,上部接続具Aは,下部接続具の上端部Bとほぼ同じ形状に構成しており,曲線状に二重にくびれた形状が見て取れる。また,この二重にくびれた形状と上方(図では左方)へ行くほど細く構成された釣鐘状キャップCとの調和は,見る者に対して美感を生じさせている。
原告は,上記のような具体的な形状をもって「2段折り収納形状」と表現したものであるところ,本件商品の形状はこれとほぼ同じものである。
イ フジモトの模倣の意図 フジモトは,原告が原告商品を市場に供給し,それがヒット商品として消費者に受け入れられたのを知ると,直ちに原告商品と客観的な形状を同じくする本件商品を製造し,平成9年12月3日から販売を開始した。
フジモトが原告商品に依拠して本件商品を製造販売したことは,フジモトが「アンテナ君ナイン」という商品を発売した当時に商品パッケージの裏面に印刷された使用説明書において,原告商品のパッケージ裏面に記載された使用説明書と全く同じ文言,図面が使用されていることからも明らかである。
【被告の主張】 ア 形態の実質的同一性 (ア) 長さについて 原告商品と本件商品の長さを比較すると,伸張状態での長さが大きく異なるほか,収縮状態では長さの比が大きく縮まり,さらに収縮状態から屈折状態にすると,わずかながら長さの比が増加している。このような点を考えると,原告商品と本件商品では,その長さが異なり,本件商品は原告商品の寸法を単純に等倍したものではない。
(イ) 幅の比について 本件商品は,長さの点では,アンテナの状態を問わず原告商品よりも長かったにも関わらず,その横幅は若干とはいえ幅が狭いことが分かる。そうすると,本件商品は,全体的にみると原告商品よりも細身でスッキリとした印象を与える形態を有していることが分かる。
(ウ) 全体の構成について 原告商品と本件商品の構成を比較すると,天金,ロッドアンテナ,2段折れ金具,抜け止めを有する接続金具部分を備えるという基本的な部分では共通する。
しかし,各部の形態をみると,本件商品のロッドアンテナは6段式であること,接続金具の抜け止め部分(携帯電話との接続時に携帯電話本体外側に現れる部分)は原告商品に比べると緩やかで,ロッドアンテナ,2段折れアンテナから連続した形態となっていること,上記抜け止め部分は側面に彩色もされず,ロッドアンテナ,2段折れ金具部分との色彩のコントラストはないことといった際立った相違点がある。
(エ) まとめ 以上のように,原告商品と本件商品は,その長さにおいても幅においても客観的に異なり,全体的な印象が異なるばかりでなく,構成要素の具体的形態,色彩,コントラスト等においても顕著な違いがある。したがって,原告商品と本件商品は,その商品の形態において実質的に同一とはいえない。
イ フジモトの模倣の意図 フジモトは,平成5年ころから,シール型の携帯電話機用アンテナを製造販売するようになった。その後,平成9年に,加藤製作所が新たな携帯電話機用アンテナのアイディアを持ち込んできたので,フジモトではこのアンテナの設計,開発を進め,電波研究の権威であるBから電波受信機能等につき種々のアドバイスを得た。その過程で,加藤製作所は,平成9年8月8日付けで本件商品の設計図面を作成するに至った。フジモトは,本件商品の製品化に向けて準備を進め,本件商品の発売前である平成9年11月25日,実用新案登録出願を行った。
以上のような経緯で,本件商品はもともとフジモトにおいて独自に開発を進めていたものであり,フジモトには模倣の意図はなかった。
(4) 被告の本件商品譲受時の善意・無重過失(争点4) 【被告の主張】 ア 不正競争防止法12条1項5号にいう善意・無重過失の意義 不正競争防止法12条1項5号にいう「善意」とは,自らが譲渡,展示,輸出入を行う譲受け商品の形態模倣商品であることを知らないことをいい,「重過失」とは,取引上当然払うべき通常の注意義務を尽くせば,容易にそれが他人の商品の形態を模倣した商品であることを知ることができたのに,その注意義務を著しく怠った場合を指すと解すべきである。
イ 被告の善意・無重過失 本件では,原告から被告あてに警告状が送付されているが,それはあくまでも原告の一方的な主張であり,それに対して,被告としてはフジモトによる善処を求め,かつフジモトによる説明を聴くなどの後記のような調査を経て,本件商品は模倣商品でないという認識を得たものであるから,被告は善意であり,少なくとも重過失はない。
すなわち,被告は,平成9年12月ころ,2段折り収納形状のアンテナについて,原告から販売店あてにクレームの連絡書が届いているという話を聞いて調査を開始した。
被告がフジモトから事情を聴取したところ,「本件商品はもともとフジモトが独自に開発したものであり,原告から苦情を申し立てられるいわれはない。
本件商品については,既に実用新案登録の出願も行っており,フジモトとしては本件商品について何ら工業所有権法上の問題はないと考える。」という内容の回答を得た。
その後,原告から販売停止を求める内容証明郵便が届いたので,被告においても,営業担当及び知的財産課において実際に商品を入手しての分析,他のメーカーの動向調査,特許事務所への調査依頼を行った。その結果,被告としては,製造元であるフジモトにおいて責任をもって対応してもらうという方針を決め,しかも,2段折り収納形状のアンテナにつきフジモトの実用新案登録がされたということを聞いて,これ以上原告への対応は必要ないと判断して,本件訴訟に至ったものである。
【原告の主張】 ア 不正競争防止法12条1項5号にいう善意・無重過失の意義 不正競争防止法12条1項5号にある「他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず」の文言中の「他人の商品」か否か,「商品形態模倣」か否かは,最終的には裁判所のみが決定できる事項であるから,「他人の商品であること」「商品形態模倣であること」を確定的事実として知り得るのは,その旨の確定判決が出た時点以降に限られる。
そうすると,この「他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず」とは,当該商品につき他人が権利主張をするような係争を内包した商品であることを知らないという意味に解すべきである。
被告は,原告から警告を受けた後も,善意・無重過失であった旨主張するが,不正競争防止法12条1項5号の制定経緯,同号の趣旨,裁判例の内容に明らかに反し,失当である。
イ 被告の悪意・重過失 原告が被告に対して送付した警告状には,フジモトによる原告の2段折り収納形状の模倣,原告商品の包装に記載された商品説明等の冒用等,フジモトの模倣行為につき具体的な事実が記載されていた。
被告としては,この警告状を受け取った平成9年12月26日の時点で,フジモトの模倣行為を知ったのであるから,直ちに原告に事実関係を確認して,フジモトからの本件商品の購入を中止する等の適切な措置を執る必要があった。
しかるに,被告は上記警告書の回答において,本件商品が模倣品でないと判断した理由を全く示さず,本件の紛争についてはフジモトに対応させる旨,仮に原告の主張の正当性が認められたときは,フジモトにその全責任をとらせる所存である旨を述べたにとどまり,原告の主張の正当性が認められる可能性のあることを十分認識しながら,全く何の調査もしなかった。
被告は前記の内容の調査をした旨主張するが,被告の調査はすべてフジモト任せのものであり,何ら独自の調査をしていない。譲渡人であるフジモトが譲受人である被告に対して,模倣品であると正直に言うはずがないことは当然である。しかも,被告がフジモトから購入した本件商品の取引量は,フジモトにおける本件商品の全取引量の50%を超えている。
このような被告の立場に照らせば,被告には模倣商品に当たるかについての調査を行うに当たり,より高度な注意義務が課されていたということができ,警告状を受け取ったにもかかわらず,前記被告の主張の事実により本件商品が模倣品でないと仮に信じたというのであれば,極めて重大な過失があるというべきである。
したがって,被告は不正競争防止法12条1項5号の善意・無重過失の譲受人には該当しない。
(5) 原告の損害額(争点5) 【原告の主張】 ア 被告の不正競争行為による損害 被告が本件商品を販売する行為は,原告に対する不正競争行為に該当するところ,原告はこれにより原告商品をより多く販売できたにもかかわらず,それができなかったことにより,営業上の利益侵害された。
原告は,原告商品の販売開始時である平成9年9月から3年間は不正競争防止法2条1項3号により独占的利益を与えられているが,前記のとおり,被告はその期間内の同年12月から同11年夏ころまで原告による警告を受けたにもかかわらず,本件商品の販売を継続してきたものであるから,この間原告の営業上の利益を故意に侵害したことは明らかである。
被告は,後記のとおり本件商品の販売により利益を得ているところ,その利益の額は原告が受けた前記の損害の額と推定される(不正競争防止法5条1項)。
被告がフジモトから譲り受けた本件商品を販売することにより得た利益の額は,次のとおりである。
(ア) 売上げ 被告は,フジモトから本件商品を合計5万0632本購入し(うち2732本を返品),これを販売店に対して1本当たり2400円で販売しているので,売上額は1億1496万円である。
〔計算式〕(50,632-2,732)×2,400= 114,960,000 (イ) 仕入れ 被告は,前記の数量をフジモトから1本当たり1200円で購入し,4万8048円の値引きを受けているので,仕入額は5725万6752円である(ただし,無償供給分146本があるので,仕入額の計算においてはこれを控除する。) 〔計算式〕(50,632-2,732-146)×1,200-48,048=57,256,752 (ウ) 利 益 売上額から仕入額を控除すると,利益額は5770万3248円となる。
イ フジモトとの共同不法行為に基づく損害 被告は,前記のとおりフジモトから本件商品を購入し販売しているが,遅くとも原告から警告を受けた平成9年12月26日以降は,本件商品が原告商品の模倣品であることを知ったものであり,その後はフジモトから本件商品の供給を受けることを停止するべき義務があった。
それにもかかわらず,被告は,原告からの警告を無視し,第三者(販売店)に転売する目的で,漫然とフジモトに対する本件商品の注文を継続し,その供給を受けることで,フジモトの不正競争行為に加担し又はこれを幇助した。
フジモトの本件商品の販売数量は少なくみても約9万本であるが,前記の約5万本という被告の購入数量はその55%を占めている。
さらに,被告は,フジモトとの間で,仮に原告の本件請求が認められたときはフジモトに一切の責任を負担させるという特殊な合意をしていた。
このように,被告はフジモトと極めて緊密な関係にあり,フジモトの不正競争行為を単に認識していたにとどまらず,これを積極的に利用する意思をも有していた。
仮に,被告がフジモトに対する本件商品の注文を停止していたのであれば,フジモトも被告に対し販売することができず,その販売数量は大幅に減少していたはずであり,原告の損害額もまたその分減少していたこと,すなわち相当因果関係のあることは明白である。
よって,被告がフジモトから供給を受けた本件商品に関し,フジモトの販売によって原告が被った損害についても,被告は共同不法行為者(少なくとも幇助者)として責任を負うべきである(民法719条)。
フジモトは被告に対する本件商品の販売により利益を得ているところ, その利益の額は原告が受けた前記の損害の額と推定される(不正競争防止法5条1項)。
フジモトが被告に対して本件商品を販売することにより得た利益の額は,本件商品1本当たりの利益が600円で,販売数量は4万7900本であることから,2874万円となる。
弁護士費用相当額 本件訴訟における弁護士費用相当額の損害は300万円を下らない。
エ まとめ よって,原告はアないしウの合計である8944万3248円の内金として5000万円及びこれに対する平成12年12月6日(催告日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】 原告の主張は,否認し,争う。
特に,フジモトとの共同不法行為に基づく請求は,一般不法行為に関する要件である@権利侵害(違法性),A損害の発生,B権利侵害と損害との因果関係,C故意・過失及び共同不法行為の要件であるフジモトとの間の行為の客観的共同性についての具体的な主張を欠くものである。仮に,被告がフジモトから本件商品を譲り受けたことを不正競争行為と主張しているとすれば,不正競争防止法2条1項3号は「譲受け」を不正競争行為として規定していないから,被告の行為が教唆・幇助等の積極的な態様のものでない限り,一般不法行為に基づく責任を負わないところ,被告の本件商品の譲受行為は,原告の主張に従っても上記の積極的態様のものとは評価することができないから,原告の上記主張はそれ自体失当である。
当裁判所の判断
1 争点1(原告の不正競争防止法2条1項3号の請求主体該当性)について 本件において,原告は,「2段折り収納形状を特徴とする原告商品の形態を最初に考案したのは原告であり,台湾のハオチャンに原告商品の製造を委託していた。」と主張するのに対し,被告は,「台湾のシンタクは,原告よりも先に2段折れ式の携帯電話機用アンテナを開発製造していたものであり,ハオチャンは,シンタクからこれを購入して,原告に輸出していた。」と主張している。そこで,1997年(平成9年)当時の台湾における携帯電話機用アンテナの開発製造の状況について,まず検討する。
(1) 「前提となる事実関係」(前記第2,1)記載の各事実に証拠(甲16,44,46,52〜54,69,70,84,87〜92,乙1,2,43〜45,49〜58〔書証のうち枝番号のあるものについては,その記載を省略する。〕,証人C)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 台湾のアンテナ業界の状況 シンタクはラジオやコードレスフォンなどの機器に用いられる各種アンテナの製造販売,輸出を主な業務とする台湾の会社である。シンタクは,台湾のアンテナ業界で約15年の歴史を有し,創設者で1997年(平成9年)当時代表者の地位にあったC(以下,単に「C」という。)は,業界の先駆者として同業者から敬意を表される存在であった。シンタクは台湾において「S.G」を自己の商標として商標登録を受けていたが,このほか,シンタクの商品の名称として,「Super Antenna」の名称が周知であり,他の業者が「Super Antenna」の名称を使用する際には,Cの許諾を得てこれを使用していた。
台湾において,アンテナを取り扱っている業者としては,そのほかに長通電子器材股?有限公司(ATI),聯芝企業股?有限公司などがある。
イ シンタクにおける携帯電話機用アンテナの開発 (ア) シンタクは,1993年(平成5年)ころから,ノキア社製やエリクソン社製の携帯電話機用の1段折れアンテナを自社で製造し,台湾で販売するほか,ヨーロッパ,米国や中国等に向けて輸出していた。
(イ) シンタクでは,1996年(平成8年)ころから携帯電話機用の2段折れのアンテナの開発を進め,同年8月に,ノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナの設計図を作成した(以下,この設計図を「ノキア機用2段折れアンテナ設計図」という。当該設計図の写しを,その後の1997年(平成9年)5月20日に中国の新洸公司に対して送付したのが,乙58の1である。)。そして,1997年(平成9年)1月ころから,携帯電話機用の2段折れアンテナを,ヨーロッパ,米国及び中国向けに輸出していた。その形状は,別紙「形態写真1」(乙45の写真@)のとおりである。
(ウ) シンタクは,1997年(平成9年)5月20日,中国の新洸公司にノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナを販売するに際して,新洸公司に対して,ノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し(乙58の1)及び各部品の設計図等(乙58の2〜9)を送付した。
ウ シンタクとハオチャンの間の取引 (ア) ハオチャンで携帯電話機用のアンテナの販売等を担当していたD(以下,単に「D」という。)は,1997年(平成9年)8月ころ,シンタクが2段折れアンテナを製造販売していることを聞いて,シンタクのCに対して,その事実の有無,当該アンテナの形状等について確認を求めた。
Cは,Dに対し,ノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し(乙58の1と同様のもの)をファクシミリで送付した。これを見たDは,シンタクの製造販売する2段折れアンテナを購入することに決め,同月19日,同ファクシミリ文書に表示されていたノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナを,サンプルとして2000本購入した。このアンテナは,同月21日,シンタクから出荷され,同月25日,ハオチャンに納入された。
ハオチャンは,携帯電話機用の2段折れアンテナを日本向けに輸出することを考えていたが,シンタクから購入した上記アンテナはヨーロッパにおける携帯電話機用の仕様であったため,日本の機種に適合するようにねじの部分を修正する必要があった。
そこで,ハオチャンでは,シンタクからファクシミリにより送付を受けた上記書面(乙58の1と同様のもの)を書き写した上で,ねじの部分の寸法に変更を加えた図面(甲70)を作成し,これにDが「NOTE:修改尺寸」と記載した上,「D 822」と署名及び日付を付して,同月22日,シンタクに送付した。
(イ) ハオチャンは,1997年(平成9年)8月22日,上記のとおり寸法の修正を依頼した日本向けの2段折れアンテナをシンタクに継続的に注文することとし,同年9月中旬から11月下旬にかけて合計約5万2000本のアンテナを購入した。そのアンテナの形状は,別紙「形態写真2」(乙45の写真E)のとおりであり,購入本数は下記のとおりである。
9月12日 500本 (乙50) 10月8日 1万本 (乙51) 10月16日 5000本 (乙52) 10月22日 2420本 (乙53) 11月8日 2万本 (乙54) 11月19日 1万1000本 (乙55) 11月27日 2500本 (乙56) 11月28日 1000本 (乙57) ハオチャンは,シンタクから,上記2段折れアンテナを取引の開始から全期間を通じて合計約10万本購入している。
エ 原告商品の形状 原告商品の具体的な形状とシンタクからハオチャンが購入した上記アンテナの形状(別紙「形態写真2」)を対比すると,両者は同一である。
(2) C証人の証言内容の信用性について 前記(1)における認定事実に関するC証人の証言内容については,次に述べるように,同証人が第三者的立場にあり,当法廷における証言態度が落ち着いた信頼するに足りるものであったこと,証言内容が書証の内容等の客観的な証拠に符合していることから,十分に信用できるものというべきである。
ア Cの証人としての適格性・証言態度 すなわち,Cは,シンタクにおける携帯電話機用アンテナの開発及びハオチャンとの取引について,シンタクの代表者として関与したものであるが(Cは,2000年にシンタクの代表者(台湾でいう「薫事長」)の地位を辞し,現在は妻のEが代表者を務めているが,1997年当時は代表者であった。甲84),シンタクと被告との間には特段の利害関係が存在しないのであるから(両者の間に過去及び現在において取引があった事実も認められない。),Cは第三者的な証人としての立場にあると評価できる。また,Cの当法廷での証言態度をみると,一部記憶違い等により証言が混乱した場面がみられたものの,重要な部分については一貫している。
イ ノキア機用2段折れアンテナ設計図の作成時期 乙58の1(1997年(平成9年)5月20日に新洸公司に対して送付したノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し)を子細に検討すると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図については,次の点を指摘することができる。
同設計図には,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されている。これらの部品については,このうち従前の1段折れアンテナと異なるのは,Fの「UPPER STAND METAL」の部分である。各部品には@からFまでの番号が付されているところ,その順序は時計回りに@ABCFDEとなっており,数字の順序になっていないが,これは,上記のとおり,@からEまでの部品が1段折れアンテナにも共通して用いられる部品であるのに対して,Fの部品が2段折れアンテナに特有の部品であるためである。すなわち,同設計図は,1段折れアンテナの設計図と2段折れアンテナの設計図とを兼ねたものであって,このため,まず,両者に共通する部品につき,図面における位置に従って時計回りに@からEの番号を付し,次に2段折れアンテナのみに用いる部品にFの番号を付すことにより,1段折れアンテナの場合には@ないしEの部品を,2段折れアンテナの場合には@ないしFの部品を用いることとして,部品の取扱いを簡便にして過誤を防止したものである。このことは,設計図の中央やや右下に「7.SELECTED BY ORDER」と記載され,Fの部品が2段折れアンテナが注文された場合に限って選択される部品であることが明らかにされていることからも容易に分かることである。このように,同設計図が1段折れアンテナを基本形態とし,2段折れアンテナを取引先の注文があった場合に選択される,いわばオプション形態として扱っていることに対応して,同設計図に記載された部品のうちねじ(Cの「SCREW」)の部品数としては,1段折れアンテナの場合に使用される数である「1」が記載されている。
同設計図の下欄の「DIAGRAM NUMBER ST8508006」という記載は,中華民国暦85年(西暦1996年)8月に開発された6番目の製品であることを示すものであり,その右の「DIAGRAM NAME ST-0599」(乙58の1に「DIAGRAN」とあるのは「DIAGRAM」の誤記と認める。)という記載は,シンタクにおける当該製品の型式番号を意味している。これによれば,ノキア機用2段折れアンテナ設計図は,1996年(平成8年)8月に作成されたものであることが分かる。なお,「DIAGRAM NUMBER」は,取引先によりデザインの一部や部品のサイズに変更が加えられた場合には,当該番号の後ろにA,B,Cといった符号が付されたり,新たな番号となることがある。
また,同設計図に記載された2段折れアンテナには,ロッドアンテナ最外筒部分(伸張したアンテナを折り畳んで収納する部分)にシンタクの商品表示として台湾で知られている「Super Antenna」のロゴが印字されている。
ウ 新洸公司への設計図(乙58の1〜9)の送付時期 乙58の1(新洸公司に対して送付されたノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し)を見ると,下欄の「DATE」欄に「MAY.20.1997」と記載されているが,これは当該書面が1997年(平成9年)5月20日に送付されたことを意味している。また,下欄の「DRW」欄に「05/20/1997」,「CHECK」欄に「05201997」と,それぞれ記載されているが,これらの記載からも,同書面が同日シンタクから新洸公司に送付されたことが分かる。
なお,乙58の2〜9は各部品の部品表,規格表及び設計図であるが,これらの書面においては,「圖號」の欄に「DIAGRAM NUMBER」に対応する番号が,「機種」の欄に「DIAGRAM NAME」に対応する番号が記載されることとなっている。
部品の設計図の一部(乙58の5〜8)に「圖號」欄の番号が,乙58の1の「DIAGRAM NUMBER」の番号よりも先行する番号のものがあるが,これは,部品のなかには従前の1段折れアンテナに用いられていたのと同一の部品が用いられているものがあるためと考えられる。また,デザインの一部や部品のサイズに変更が加えられたために「圖號」欄の番号が「DIAGRAM NUMBER」の番号から変更されているものもある(乙58の4,9)。
エ ハオチャンとの取引について ハオチャンからシンタクに送付された書面(甲70)を見ると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図及びその写しである乙58の1におけるのと同様に,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されているが,そこでも各部品に付された番号は,時計回りに@ABCFDEとなっている。このように部品に付された番号の順番が一致していることからも,ハオチャンからの送付書面(甲70)が,シンタクから送付を受けた書面(乙58の1と同様のもの)を書き写したものであることが明白に分かる。
また,前記認定のとおり,ハオチャンの送付書面(甲70)には,「NOTE:修改尺寸」と記載した上,「D 822」と署名及び日付が付されており,この記載からは,ハオチャンにおいてシンタクから送付を受けた書面に記載された2段折れアンテナにつき,ねじの部分の寸法変更を依頼したことが分かる。
上記のとおり,C証人の証言内容については,同証人が第三者的立場にあることや,当法廷における証言態度,書証の記載内容等と符合していることなどから,十分に信用できる。
原告は,台湾で発行されている電気通信分野の雑誌(「MBT」,「International Wireless」等)への2段折れアンテナの広告の掲載時期についてのC証人の供述に曖昧な点があることなどを指摘して,同証人の証言全体が信用できないと主張する。
しかしながら,この点については,雑誌の種類のみならず,写真がカラーか白黒か,広告か取材記事かなどの違いによって,雑誌広告ないし記事の内容や掲載写真の締切り時期が異なることが認められるのであり,この点についての供述の一部に同証人の記憶違いに基づく誤りがあったとしても,同証人の証言全体の信用性が減殺されるということはできない。
なお,原告は,乙60号証の1ないし3は民事訴訟規則102条に違反してC証人の尋問期日の当日に提出されたものであるから,これを示してされた尋問に対する証言を証拠として採用することに異議を述べているが(第3回口頭弁論期日調書参照),同書証を示してされた尋問に対する供述は,いずれも雑誌「MBT」への雑誌広告に関するものであり,前記(1)認定のシンタクによる2段折れアンテナ開発及びハオチャンとの取引の経緯に直接関連するものではなく,同証人の供述の信用性に関する周辺事実に関するものであるから,尋問当日に前記書証が示されたことは前記認定の内容に影響するものではない。
(3) 原告主張の事実経過等について 原告は,前記第2の3(1)の【原告の主張】欄記載の事実経過により自ら原告商品を開発した旨主張するので,念のため,その主張に係る事実につき判断を加える。
ア 原告が2段折れアンテナを着想したとの主張について 原告は,「原告代表者のAは,平成9年6月27日,ハオチャンに対して1段折れアンテナにつき問い合わせをし,その結果,同年7月3日か4日ころ,上記アンテナのサンプルが送付されたので,それを見て2段折りの収納形状にするという発想を得て,ハオチャンに対して手書きの図面を送るとともに,2段折れアンテナのサンプルの製造を依頼した。」旨主張している。
この点に関しては,同年6月27日原告がハオチャンに対して問い合わせをしたこと,ハオチャンがこれに応じてサンプルを送付する旨回答していることは客観的事実として認定できるものの,それ以外の点については,Aの陳述書(甲7の12)以外の証拠が存在しないところ,同陳述書には,「平成9年1月頃から,伸縮可能なロッド式アンテナを使用すれば,感度を上げることが出来るが,付属アンテナのように携帯電話の中に収めることが出来ず,携帯に不便であるという悩みをいかに解決するかということで色々と考えはじめました。その中で,二段折れにするという発想に至り,本件アンテナの基本的構想が出来上がりました。」「私は,平成9年6月頃に,本件アンテナの仕様を記載した手書きの図面をハオチャンにファクシミリで送信し」というように,上記主張と明らかに食い違う内容の記載もある。Aが自ら携帯電話機用アンテナを2段折れにする旨着想したのであれば,その具体的経過について言い分が大きく変遷することは考えにくく,こうような食い違いはAの陳述書の信用性について疑問を抱かせるものである。
そして,何よりも,原告の主張を裏付けるために最も重要な証拠であるはずの,ハオチャンに対して送信したAによる手書きの図面は,本件において,原本はもちろん,写しないし控えの書面も,一切書証として提出されていない。
イ 2段折れアンテナの設計図面(甲7の3の1,甲30)について 原告は,「Aが7月3日か4日ころハオチャンに指示した内容に基づいてハオチャンのDは同月8日承認図(甲7の3の1)を作成した。そして,その後のファクシミリ等でのやり取りを経て,ハオチャンは上記承認図のねじの部分を修正したものとして,7月31日に承認書添付の図面(甲30)をAに対して送付した。」旨主張する。
原告の主張に従えば,この2つの図面は,原告の指示に基づきハオチャンが作成した原告商品の製造用の図面ということであるから,それに沿った体裁・内容を備えている必要がある。
前記各図面(甲7の3の1,甲30)を見ると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図及びその写しである乙58の1におけるのと同様に,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されているが,そこでも各部品に付された番号は,時計回りに@ABCFDEとなっており,数字の順序になっていない。前記のとおり,シンタクにおけるノキア機用2段折れアンテナ設計図では,Fの「UPPER STAND METAL」の部分が取引先の注文により選択的に付加される,いわばオプション部品として扱われているために,各部品にこのような順序で番号が付されているものである。しかし,前記各図面(甲7の3の1,甲30)が,原告主張のようにAないしその指示を受けたハオチャンの発想により独自に作成されたものであるならば,当初から2段折れアンテナとして着想され,そのための図面として作成されたのであるから,このように各部品に数字の順序と異なる順番で番号を付する必要はないはずである。したがって,この点に照らせば,前記各図面が,シンタクの作成したノキア機用2段折れアンテナ設計図ないしその写しである乙58の1を書き写したものであることは,明白というべきである(なお,原告は,乙58の1について,本件訴訟提起後に作成された文書であると主張するが,上記のような部品に付された番号の順序に照らせば,ハオチャンの作成図面(甲7の3の1,甲30,甲70)がシンタク作成の図面(ノキア機用2段折れアンテナ設計図,乙58の1)に基づくことなく,独自に作成されたということは考えられないものであり,ハオチャンとの取引に先立って,シンタクにおいて乙58の1が作成されていたことは,明らかである。)。
また,前記各図面(甲7の3の1,甲30)の2段折れアンテナには,ロッドアンテナ最外筒部分に「Super Antenna」のロゴが印字されている。前記のとおり,「Super Antenna」のロゴは,台湾においてシンタクの商品の表示として広く知られたものであったことに照らせば,この点も前記各図面がシンタクの作成したノキア機用2段折れアンテナ設計図ないしその写しである乙58の1を書き写したものであることを裏付けるものである(原告は,AがATI社が用いていた同じロゴを見て,これを気に入り印字するように指示した結果記載されたものであると主張しているが,前記認定事実に照らし,信用できない。)。
ウ その他 前記各図面(甲7の3の1,甲30)の作成経過及び原告とハオチャンとの交渉経過に関しては,ハオチャンのD作成の証明書(甲68の1,2),同人が通訳を介して原告代理人の質問に答えている状況を録画したビデオテープ(甲78)及びそれを反訳した書面(甲79)が証拠として提出されているが,これらの証拠は,被告の反対尋問を経ていない上に,内容をみてもビデオテープについては通訳が不正確である部分,誘導尋問により質問の意味をよく理解しないまま供述している部分が多く見られ,原告主張の事実を認めるに足りるものではない。
エ まとめ 以上によれば,Aが2段折れアンテナを着想し,その製造をハオチャンに依頼し,さらにハオチャンがシンタクに製造委託をした旨の原告主張の事実は,本件の証拠関係に照らし認めることができない。
なお,本件において認定される前記事実関係に照らせば,Aにおいて2段折れアンテナを携帯電話機用のアンテナとして用いるという発想を独自に得た上で,その具体的形状につきハオチャンに問い合わせないし相談をしたところ,携帯電話機用の2段折れアンテナをシンタクにおいて製造販売していることを知っていたハオチャンが,原告に対し,商品の具体的形状として,シンタクの製品を書き写した書面を送付したという可能性も考えられる(なお,ハオチャンは,原告に対してそれがシンタクの製品であることを告げず,自ら作図した書面である旨の虚偽の説明をしていた可能性もある。)。しかし,いずれにしても,Aにおいて,2段折れアンテナの具体的形状を自ら発想し,これを商品化したということはできない。
(4) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨等について 不正競争防止法2条1項3号の趣旨につき考察するに,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態について,他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは,先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正な行為と評価されるべきものであり,また,このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から,模倣者の上記のような行為を不正競争として規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが,同規定の趣旨と解するのが相当である。これによれば,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
本件においては,前記認定のとおり,原告はシンタクが開発製造した2段折れのアンテナを購入した台湾のハオチャンからこれを輸入し,日本で販売したにすぎないから,原告は自ら原告商品を開発し,商品化して市場に置いた者ということができない。
なお,前記のとおり,本件においては,2段折れアンテナを携帯電話機用のアンテナとして用いるという発想自体については,Aが独自に着想して,その具体的形状につきハオチャンに問い合わせないし相談をしたという可能性も存在するが,不正競争防止法2条1項3号は単なるアイデアを保護の対象とするものではないから,仮にA自身がそのような発想を得たものであるとしても,原告はこれを商品の形態として具体化するための労力,時間や資本を投下しておらず,原告商品の具体的形状がシンタクが先行して製造販売していた製品に由来するものである以上,原告が同号に基づく請求の主体となり得るということはできない。
したがって,原告は,原告商品に関して,不正競争防止法2条1項3号に基づいて損害賠償を請求することができないというべきである。
2 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
原告製品形態図別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3物件目録別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ(本件商品)第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3(別紙)模式図形態写真1形態写真2
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一