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事件 平成 13年 (ワ) 9310号 損害賠償請求事件
原告 株式会社ソシエテアペックス
訴訟代理人弁護士 小南明也
同 小南久美
被告 東洋トレーディング株式会社
被告 東洋コネクター株式会社
被告A
被告ら3名訴訟代理人弁護士 萩原浩太
同 冨永博之
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/07/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告らは,原告に対し,各自1億円及びこれに対する平成12年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,携帯電話機用のアンテナを製造販売する原告が,被告らが製造販売する携帯電話機用のアンテナは,原告の製造販売に係るアンテナの形態を模倣した商品であると主張して,被告らに対し,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為を理由として(被告Aに対しては商法266条ノ3第1項を理由として)損害賠償を求めているものである。これに対して,被告らは,@原告は上記アンテナの形態を自ら考案した者ではない,A原告は被告らが原告のアンテナに類似するアンテナを輸入して販売することを事前に承諾していた,などと主張して原告の請求を争っている。
1 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実,弁論の全趣旨に加えて該当部分末尾掲記の各証拠により認められる。) (1) 当事者 ア 原告は,家庭用電気製品等の製造販売を主たる目的とする株式会社であり,平成8年4月からは携帯電話機の販売及びその付属品の開発,製造販売等を行っている。
イ 被告東洋トレーディング株式会社(以下「被告トレーディング」という。)及び被告東洋コネクター株式会社(以下「被告コネクター」という。)は,ともに通信機器,光学器械の製造販売等を目的とする株式会社であり,被告両会社の代表者はいずれも被告A(以下「被告A」という。)である。
(2) 原告の製品 原告は別紙「原告製品形態図」記載の形状の携帯電話機用のアンテナ(以下「原告商品」という。)を製造し,遅くとも平成9年9月から我が国で販売している。原告商品は,別紙「原告製品形態図」の図3にあるような「2段折り収納形状」の形態を有している。(検甲1の1〜7) (3) 被告らの行為 ア 被告トレーディングは,平成9年12月初旬ころから,別紙物件目録1ないし3記載の携帯電話機用のアンテナ(以下,同目録1記載のアンテナを「イ号アンテナ」,同目録2記載のアンテナを「ロ号アンテナ」,同目録3のアンテナを「ハ号アンテナ」といい,これらを「被告商品」と総称する。)を中華民国(以下「台湾」という。)から輸入していた。
イ 被告トレーディングは,被告商品をいったん別会社に販売し,同社において輸入検査,加工,箱詰め等を行い,被告コネクターに販売していた。
被告コネクターは,被告商品を更に卸売業者に販売していた。
(4) 原告と被告コネクターとの間の取引 原告は,被告コネクターに対し,平成9年9月から同年11月にかけて,合計3544本の原告商品を販売し,被告コネクターはこれを小売店などに転売した。原告と被告コネクターとの取引は平成9年11月中旬ころ中止された。
2 本件の争点 (1) 原告商品の形態は,原告が最初に商品として開発したものか(争点1) (2) 原告商品の形態は,「同種の商品が通常有する形態」(不正競争防止法2条1項3号括弧書)に当たるか(争点2) (3) 被告商品は,原告商品の形態模倣したものか(争点3) (4) 原告は,被告トレーディングが被告商品を台湾から輸入することを平成9年9月の原告と被告コネクターとの取引開始時に承諾していたか(争点4) (5) 原告の損害額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 原告の不正競争防止法2条1項3号の請求主体該当性(争点1) 【原告の主張】 原告商品は,原告が最初に開発し,製造販売したものであり,その具体的な経過は次のとおりである。
ア 平成8年から同9年にかけて,海外の携帯電話機用アンテナとして1段折れの伸縮可能なロッド式アンテナが用いられていたが,日本ではこのようなロッド式アンテナは用いられていなかった。
原告代表者のB(以下「B」という。)は,以前からの取引先である台湾の豪昶企業股?有限公司(以下「ハオチャン」という。)において,上記の1段折れロッドアンテナ(同社の製品番号「CA-202」)を製造し,それを海外の携帯電話機の交換用アンテナとして販売していることを知った。
そこで,Bは,平成9年6月27日,ハオチャンに対して上記「CA-202」の製品について問い合わせたところ,同年7月2日,同社からファクシミリで,製品のカタログとサンプル2本を送付する旨の連絡がされた。そして,Bは,同月3日ころ,そのサンプルを受領した。
イ しかし,前記「CA-202」の製品は,海外の携帯電話機用のアンテナであったため,取付け部が大きくそのままでは使用できないという難点があった。さらに,1段折れであったため,付属アンテナのように携帯電話の中に収納することができず,携帯に不便であるという問題点があった。Bはこれらの問題点を解決する方法として,2段折りの収納形状にするという発想を得て,前記「CA-202」の製品を1段折れから2段折れに変更し,アンテナ取付金具を日本の携帯電話機のアンテナ取付け部に合致するように設計し,同年7月3日か4日ころハオチャンに対して手書きの図面を送るとともに2段折れのアンテナのサンプルを製造するように依頼した。その際,BはATI社のカタログにあった「Super Antenna」のロゴを気に入ったため,これを印字するようにハオチャンに対し併せて指示した。
ウ ハオチャンは,Bの上記依頼に応じ,2段折れの新しいアンテナに「CA-202-1」という別の商品番号を付した承認図(甲11の2)を作成し,同月8日付けのファクシミリで返送した。
Bは,上記承認図を検討し,市販されているすべての携帯電話機に装着可能かどうかテストをしたところ,一部の会社の携帯電話機には,サンプルの取付け部のねじが適合せず,装着できないことが判明した。
そこで,Bは,同月11日付けファクシミリで,ねじの寸法とアンテナ本体が上下に曲げられるように回るようにすることを内容とする仕様変更を要請するとともに,当該商品については1500本を注文予定であること,サンプルの送付を依頼することなどを連絡した。これに対し,ハオチャンは,同年8月初旬ころ,Bの指示に基づき製造したサンプルとねじの寸法を変更した同年7月31日付け承認書と添付の図面(甲13)を原告に対して送付した。これらを受領したBは,同年8月6日付けファクシミリでハオチャンに対し礼を述べるとともに,自身が同月12日から台湾を訪問し,翌13日午前にハオチャンで打合せをしたい旨を連絡した。
この8月13日の打合せにおいて,Bは,ハオチャンに対して,口頭で2段折り収納形状のアンテナ2000本の正式な注文を行った。更に,その後もBはハオチャンとの間で電話で数回やり取りを行った。
エ ところが,原告において,サンプルのねじの寸法について更に問題点が見つかったため,Bが同月19日付けファクシミリで変更を要請したところ,ハオチャンは,この要請には応じられないが,もし1本当たり0.5米ドルのコスト負担に応じてくれるならば,寸法の変更に応ずる旨を返答した。
これに対して,Bは,同月22日付けファクシミリで,0.5米ドルは高すぎて応じられないが,0.1米ドルであれば応ずる旨を返答し,更に,1500本の追加注文をする旨,宣伝用サンプルを直ちに送付してほしい旨を連絡した。ハオチャンは,Bの提案する金額で注文に応ずる旨を回答し,サンプルについては同月26日に送付する旨の連絡をした。
オ ところが,同月29日になっても,ハオチャンから上記サンプルが送付されないため,Bは,同日付けファクシミリをもって,ハオチャンに対し,問い合わせをするとともに最初に注文した2000本の代金送金のための銀行口座を教えてほしい旨を連絡した。また,このころ,原告は,ハオチャンから200本のサンプルの送付を受けてこれを受領した。
原告は,サンプルを受領した直後の同年9月初旬からサンプル品の提供及び試験販売を開始した。このサンプル品の提供を受けた者の中には,被告コネクターも含まれる。
カ 原告は,同年9月5日付けファクシミリをもって,最初の注文と次の注文に係る代金の支払方法につき,銀行電信為替送金の方式で行いたい旨連絡した。
なお,このファクシミリにおいては,追加注文の支払についてはL/Cを開設したいのでそれに応じてほしい旨の連絡もしている。
キ 以上のような経緯を経て,同月24日ころにハオチャンから最初の注文分2000本が原告に送付され,原告は本格的に原告商品の販売を開始した。原告は,被告コネクターに対しては,同月25日付けで200本の原告商品を供給している。
ク 上記のとおり,原告商品は,原告が開発したものであり,ハオチャンに対しては,その製造を委託していたにすぎない。
【被告らの主張】 ア 不正競争防止法2条1項3号は,自ら資本・労力を投下して独自の形態を作り上げた者を保護する趣旨であるから,同号にいう「他人の商品の形態」とは自ら開発した商品の形態をいい,輸入した商品の形態は含まれないと解されるところ,原告は原告商品を開発したものではなく,他人が開発した商品を単に輸入したにすぎないから,これについて同号の保護を受けることはない。
すなわち,原告が原告商品の形態を着想したと主張する平成9年(1997年)7月ころ,2段折れロッドアンテナは既に咸徳金属股?有限公司(以下「シンタク」という。)などの台湾の企業において製造販売されていた。原告は,ハオチャンが台湾の他の業者から購入した2段折れロッドアンテナを輸入したにとどまるから,不正競争防止法2条1項3号に基づいて,被告らに対して損害賠償を請求することはできない。以下,その理由を詳述する。
(ア) 台湾における2段折れアンテナの製造販売 シンタクは,1997年(平成9年)1月から5月までの間に,原告商品と同一形態の2段折れアンテナを製造販売していた。そして,同年8月ころ,上記アンテナをハオチャンに販売した。この事実は,本件原告が訴外株式会社オーディオテクニカを相手として提起した当庁平成13年(ワ)第1057号事件(以下「オーディオテクニカ訴訟」という。)における証人Cの証言(同人の証人尋問調書〔甲60〕。特に4〜5頁,16〜18頁参照)により認められる。
また,被告Aは,1996年(平成8年)初めころ,台湾を訪問した際に,聯芝企業股?有限公司のショーウインドーに原告商品と同様の形態を有する2段折れ収納形状の携帯電話用アンテナが展示されているのを見た。被告Aが同社の従業員に確認したところによれば,そのアンテナはヨーロッパに輸出されているということであった。
(イ) 開発経過についての原告の主張の変遷 Bは,本件原告が訴外株式会社フジモトを相手として提起した当庁平成10年(ワ)第15228号事件(以下「フジモト訴訟」という。)において提出した陳述書(乙8)で,@平成9年1月ころから,感度がよく携帯に便利な携帯電話用のアンテナを考え始め,その中で2段折れにするという発想に至ったこと,A「試作品を多数作って見て,実験をし,これなら大丈夫であるという確信をもったため,B本件アンテナに『スーパーアンテナ』という名前を付け,商品製造に踏み切ることにしました。」C「私は平成9年6月ころに本件アンテナの仕様を記載した手書きの図面をハオチャン社にファクシミリで送信し,その承認図を翌7月8日にファクシミリで受け取っております。」と述べている。
しかし,本件訴訟では,原告は,@原告代表者(B)はハオチャンにおいて1段折れロッドアンテナを製造販売していることを知り,そのカタログとサンプルを7月3日ころに受領した。ABは7月初めころアンテナを「2段折れ」にするという発想に至り,原告商品の基本的な構想が出来上がった,と主張している。
すなわち,Bは,フジモト訴訟の陳述書では「試作品を多数作って見て,実験をし,これなら大丈夫であるという確信をもった」と述べているのに対し,本件訴訟では,この点に全く触れておらず,また,上記陳述書では「平成9年6月頃に,本件アンテナの仕様を記載した手書きの図面をハオチャンにファクシミリで送信し」たと述べているのに対し,本件訴訟では原告は同年7月上旬に2段折れにするという発想に至ったと主張している。
上記のとおり,原告は,2段折れアンテナの開発に関する核心部分である上記陳述書の「試作品を多数作って見て,実験をし,これなら大丈夫であるという確信をもった」という陳述内容が事実と異なることを認めている。このように,Bが原告商品の開発に至る重要な事実について虚偽の陳述をしていることから考えても,原告は真に原告商品を開発したものとはいえない。
(ウ) ハオチャンの設計図面の作成経過 原告が,Bの2段折れアンテナの手書きの図面に基づきハオチャンにより作成されたと主張するアンテナの承認図(甲11の2)は,シンタクが既に作成していた2段折れアンテナの設計図面(甲53)に基づいて作成されたものである。
このことは,上記2通の設計図面に示されている伸縮性アンテナの根元部に,シンタクのロゴである「Super Antenna」の文字が印字されていること,Bは前記のとおりサンプルができた後に「スーパーアンテナ」という名称を付けることにしたと述べており,ラフスケッチを作成した段階で「Super Antenna」のロゴを入れるようにハオチャンに指示したとは考えられないこと,上記2通の図面は,各部材の構成,特に,アンテナが取付け部を中心に360度回転できるようになっている点においても共通していることからうかがわれる。
(エ) ハオチャンによる他社への2段折れアンテナ(サンプル)の提供 ハオチャンのシンタクに対する1997年(平成9年)8月19日付けの注文(乙2の1)は,サンプル品の注文であると思われるが,原告がハオチャンに注文した内容に対応しておらず,ハオチャンが原告以外の業者から受けた注文をシンタクに取り次いだ分を含むことが,明らかである。
このことは,原告がハオチャンに対して原告商品の製造を委託したという事実とは明らかに矛盾する。
イ 仮に,Bが2段折れアンテナを着想したとしても,原告商品の具体的な形態をどこまで考案していたかは疑問である。
そもそも,Bが原告商品を自ら開発したとするならば,その開発の過程で作成しているはずのスケッチ,図面等が相当数存在してしかるべきであるが,それらは証拠として全く提出されていない。特に,ハオチャンの承認図(甲11の2)のもとになったとされる手書きの図面が証拠として提出されていない。したがって,Bが考案したという2段折れアンテナの形態は全く不明である。
Bが,仮に,「2段折れ」というアイデアを考えついたとしても,それは単なるアイデアにすぎないから,そのことから直ちに商品の具体的形状についても考えていたということにはならない。Bは,具体的な商品の形態について,ハオチャンに相談したとも考えられる。そこで,ハオチャンはさらにシンタクに相談したところ,シンタクでは既に2段折れアンテナを製造していたので,直ちにハオチャンに商品を供給することができ,ハオチャンから原告にサンプルとして送付されたと考えられる(もっとも,ハオチャンは原告に対して自社で製造した製品であるかのように述べていた可能性がある。)。
そうすると,原告は,仮に携帯電話用アンテナを「2段折れ」にすることにつき何らかのアイデアを持っていたとしても,そのアイデアを具体的な形態を有する製品にするための労力や時間,資本を投下したとは認められないから,不正競争防止法2条1項3号の請求主体に当たらない。
(2) 原告商品の形態と「同種の商品が通常有する形態」(争点2) 【被告らの主張】 ア 不正競争防止法2条1項3号の趣旨は,先行者の商品開発に伴う費用,労力,リスク等の負担を保護するというものであるから,先行者が商品の開発に当たって,費用,労力,リスク等をほとんど負担していない場合には,上記規定の保護は及ばないと解される。その旨を規定するのが同号の「同種の商品が通常有する形態」という文言である。すなわち,特段の特徴もない同種の商品に共通するごくありふれた形態の場合,その商品開発に要する費用,労力,リスク等の負担は皆無に近いのであるから,同号による保護に値しないのである。
イ この点について原告商品の形態をみるに,トランシーバーの分野では,実開平3-22410号公報(乙13)にあるように,2段折り収納形状のアンテナは原告が原告商品を開発したという平成9年7月より前から市場に存在していた。この当時携帯電話はさほど普及しておらず,トランシーバーと携帯電話は無線通信手段として共通することから,その購入者も重なっていた。したがって,トランシーバーと携帯電話は,競合関係にある市場分野に属する同種の商品であるといえる。現に,原告がそうであるように,トランシーバーと携帯電話は同一の業者が取り扱う商品である。
ウ そして,上記公報の図面にあるアンテナと原告商品とは,多段式で収納可能である点,根本で2段折れになっている点を含めてその形態は全く同一であり,単にその大きさが異なるのみである。また,機能についても,携帯時にアンテナがじゃまにならない点,付属アンテナの感度が悪い点を克服できるという意味で共通する。原告も認めるように,伸縮可能な1段折れロッドアンテナは既に存在していたのであり,原告商品は1段目の折り曲げ部をもう一つ追加したにすぎない。
したがって,原告商品は,前記公報の図面にあるアンテナの寸法を小さくして携帯電話に転用することで開発が可能なものであり,その開発に要する費用,労力等は皆無に等しい。
エ 以上によれば,不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らし,原告商品の形態は「同種の商品が通常有する形態」ということができるから,同号の保護は及ばないというべきである。
【原告の主張】 ア 被告らは,携帯電話とトランシーバーが不正競争防止法2条1項3号にいう「同種の商品」であると主張する。
しかし,同じ通信手段であっても,トランシーバーはアマチュア無線の手段として特に国家から許可を得た者のみが利用することができるのに対し,携帯電話機は許可を要することなく誰でも用いることができる。また,その通話方法も異なり,携帯電話機では送信者と受信者が同時に話すこともできるが,トランシーバーでは送信者と受信者は交互にしか話すことができない。したがって,両者を「通信手段」という範疇に包括して比較することは極めて不合理である。すなわち,トランシーバーと携帯電話機は,明らかに機能面・効用面で相違しているのであって,両者は到底「同種の商品」とはいえない。
被告らは「平成9年当時携帯電話はさほど普及していなかった」と主張するが,その当時,携帯電話機は,日本はもちろん世界中で商品として広く市場に流通しており,携帯電話機用アンテナも様々な種類のものが市場に出ていた。さらに「トランシーバーと携帯電話は無線通信手段として共通することから,その購入者も重なっていた」「トランシーバーと携帯電話は,競合関係にある市場分野に属する同種の商品である」という主張については,具体的な事実の指摘やこれを裏付ける証拠が全くない。
イ 被告らは,実開平3-22410号公報(乙13)を提出し,トランシーバー用アンテナにおいて,2段折れ収納形状が「通常有する形態」であると主張する。
しかし,上記公報の図面にあるアンテナが,実際に市場に供給されていたのか,それがありふれた形態といえるのかについては,上記書証からは全く不明であり,「通常有する形態」であることの立証にはならない。被告らの主張は失当である。
ウ 以上から明らかなように,原告商品の形態は「同種の商品が通常有する形態」ではない。
(3) 被告らによる形態模倣の成否(争点3) 【原告の主張】 ア 形態の実質的同一性(客観的要件) 原告商品と被告商品を比較すると,その形態(客観的形状)は実質的に同一である。
(ア) イ号アンテナについて 原告商品とイ号アンテナは,その形態はもちろん,サイズ(太さ,長さ)が全く同じである。
(イ) ロ号アンテナについて ロ号アンテナは,アンテナ本体部(1段目)及びアンテナ部材を伸長した場合に現れるアンテナ部材(2段目から5段目)の長さを変更した以外は,イ号アンテナと同じである。
(ウ) ハ号アンテナについて ハ号アンテナは,アンテナ部材を5段式から7段式に変更し,それに伴ってアンテナ本体部(1段目)及び各アンテナ部材の太さを太くしたこと以外は,イ号アンテナと同じである。
模倣の意図(主観的要件) 前記のとおり,イ号アンテナと原告商品は,形態はもちろん,そのサイズ(太さ,長さ)が全く同じであり,被告らが原告商品を模倣したことは明らかである。
また,配色については,原告は原告商品の形態の特徴として主張するものではないが,原告商品の色の付け方と被告商品の色の付け方を比較すると,アンテナ本体部(1段目),アンテナ先端部の円盤状部材,アンテナ取付具上部のキャップ部分にそれぞれ彩色した点で酷似しており,このことからも被告らの模倣の意図は客観的に裏付けられる。
さらに,前記1(4)のとおり,被告コネクターは原告から原告商品を購入しており,同被告の代表者である被告Aは原告商品が人気商品として消費者に受け入れられたことを知った。そこで,被告らは原告との取引を中止した上で平成9年12月初旬から被告商品の販売を開始した。
以上の事実から,被告らの模倣の意図は明らかである。
【被告らの主張】 ア 形態の実質的同一性(客観的要件) (ア) イ号アンテナについて 原告商品とイ号アンテナは,形態及びサイズがほぼ同様であることは,認める。
(イ) ロ号アンテナについて ロ号アンテナは,本体部(1段目)の長さ,アンテナ部材各部の長さが異なる以外はイ号アンテナとほぼ同様であることは,認める。
(ウ) ハ号アンテナについて ハ号アンテナは,イ号アンテナの各部材の太さを太くしたものであることは,認める。
模倣の意図(主観的要件) イ号アンテナと原告商品について,配色の場所が同じであることは,認める。しかし,被告らが原告商品の形態模倣する意図を有していたことは,否認する。
原告商品もイ号アンテナもアンテナ部材を折り畳んだ際,外部に表出するのが本体部(1段目)と先端部の円盤状部材であるため,ここに配色することになる。また,本体部2段目以降は,伸縮に伴う摩擦によりメッキ塗装が剥離するので彩色するには適さない。このようなことから彩色する場所は自ずと本体部(1段目)と先端部の円盤状部材に限定されるのであり,原告商品と被告商品の彩色箇所が共通である点は,何ら模倣であることを示すものではない。
また,被告コネクターが原告から原告商品の供給を受けた後でこれを中止し,同被告が被告商品の販売を開始したことは認めるが,その理由は後記(4)【被告らの主張】アに記載のとおりであり,原告の主張は失当である。
(4) 原告による被告商品の輸入についての承諾(争点4) 【被告らの主張】 ア 被告コネクターは,平成9年初めころから原告と取引をしていた。そのため,被告コネクターの代表者の被告Aと原告代表者のBは,しばしば連絡を取り合っていた。そのようななかで,同年9月ころ,Bは,被告Aに対し,「台湾で製造されている2段折れアンテナを輸入したいが,どの程度売れるか分からない。また,原告だけでは販売力が十分でないので,販売を手伝ってほしい。」と要請した。被告トレーディングも台湾のメーカーから売込みを受けて2段折れアンテナに関心を持ち,輸入する段取りをしていたため,被告AはBにその旨を話した上,「自社の輸入の手はずが整うまで御社の販売を手伝いましょう。」と述べて,上記申入れを承諾した。その際,Bは,「輸入の場合には代金が前払いになるので,原告としては資金繰りが苦しい。被告トレーディングが輸入することができるようになった場合には,原告にも商品を分けてほしい。」と述べており,原告は被告トレーディングが将来2段折れアンテナを輸入した場合には,自ら輸入することはやめ,同被告から購入する意向を示した。
その後,平成9年11月ころから,原告の被告コネクターに対する供給が需要に追いつかなくなり,被告トレーディングにおいて輸入する手はずが整ったことから,原告に対し取引中止を申し出たところ,原告からは特に異議が出なかった。
以上の経過によれば,原告は,被告らが原告商品と同種同形態の2段折れアンテナを台湾から輸入することについて,被告コネクターとの取引開始時に承諾していたというべきである。
イ 実際,原告の資金繰りは苦しく,輸入のために必要なインボイスは原告名で発行するが,実際の送金はシーバース工業株式会社が行っていたほどである。
また,原告は,平成9年12月ころ,原告商品について,他社が類似品を販売しているとして,取引先等に注意を喚起する内容の文書を送付しているが(乙1),被告らは同年11月ころから被告商品を輸入し,同年12月ころには既に販売を開始していたにもかかわらず,上記警告文書には被告らの名前は入っていない。このことからみても,原告は被告らの行為が原告の権利を侵害するものとは考えていなかったことは,明らかである。
【原告の主張】 ア 被告らは,原告が被告らに対し,原告商品と同種同形態の商品を台湾から輸入することにつき,被告コネクターとの取引開始時に承諾していた旨主張するが,そのような事実は存しない。
このことは,原告が被告らに送付した警告状(甲1の1)に対する被告トレーディングの回答(甲2,3)において,承諾を受けたとの点に全く言及されていないことからも明らかである。
すなわち,仮に被告らの主張する承諾の事実が存在していたならば,回答の際に,自己の行為を正当化する理由として当然言及しているはずである。しかるに,上記回答(甲3)には,「貴社よりの文面を関係各所及び当社内でも慎重に検討しました結果,当社でも貴社と同時期に同様の商品を考案し台湾に製作を依頼してそれらを輸入し販売しています。」と記載するにとどまり,承諾の事実については記載されていない。
イ 前記の原告による承諾を基礎づけるものとして被告らが主張する事実については,平成9年初めころから原告が被告コネクターから携帯電話機用のアクセサリーを購入するという取引関係があったことは認めるが,その余の事実は,すべて否認する。 原告商品は,原告が開発し,最初に販売したものであるから,平成9年9月当時原告が製造を委託したハオチャン以外の業者によりこれが台湾で製造されていた事実はもちろん,台湾のメーカーが日本の販売業者に売込みをかけていたという事実もない。
また,原告と被告コネクターとの取引は被告コネクターの担当者(D)を介してのものであり,平成9年9月の時点では原告代表者のBと被告Aは全く面識がなかった。両者が会ったのは,同年10月末ころから同年11月ころにかけての1度だけである。その際,被告AはBに対して,原告商品と同様のアンテナを製造させてほしいと要請したが,Bは原告商品を自ら開発したことから即座にこの要請を拒絶した。
なお,原告が取引先等に配布した文書(乙1)に,被告らの名称が入っていないことは事実であるが,それは原告が被告コネクターに対して原告商品を販売したことによる売掛金債権を有していたためである。すなわち,平成9年12月の段階で被告らの名称を入れた警告文を出した場合に,被告コネクターから売掛金の支払を拒絶されることを恐れたため,あえて上記文書に被告らの名称を入れなかったのである。原告が被告らの行為を問題視していたことは,同年12月30日,被告コネクターから売掛金の入金があったことを確認した後,平成10年3月9日到達の内容証明郵便(甲1の1,2)で被告トレーディングに警告をしていることからも明らかである。
(5) 原告の損害額(争点5) 【原告の主張】 ア 原告の営業上の利益侵害(その1) 被告らが被告商品を販売する行為は,原告に対する不正競争行為を構成する。すなわち,被告トレーディングと被告コネクターは,輸入会社と販売会社の関係に立つが,代表者が共通で実質的に同一の会社といえるから,共同不法行為者として,原告に対して連帯して損害賠償責任を負う。
被告らの不正競争行為によって,原告はこれにより原告商品をより多く販売できたにもかかわらず,それができなかったことにより,営業上の利益侵害された。
原告は,原告商品の販売開始時である平成9年9月から3年間は不正競争防止法2条1項3号により独占的利益を与えられているが,前記のとおり,被告らはその期間内の同年12月から同11年初めころまで被告商品の販売を継続していたのであるから,この間原告の営業上の利益侵害したことは明らかである。
被告らは,後記のとおり被告商品の販売により利益を得ているところ,その利益の額は原告が受けた前記の損害の額と推定される(不正競争防止法5条1項)。
被告らが被告商品を販売することにより得た利益の額は,次のとおりである。
(ア) 販売価格(卸値) 2000円 被告商品の標準価格は,6800円ないし7300円であるが,実際の小売価格は約4000円である。小売価格は通常卸値の倍額程度に設定されていると推測できるから,被告商品の卸値(被告コネクターの第三者に対する供給価格)は2000円を下らない。 (イ) 経 費 400円 被告商品は台湾で製造されたものであるが,その購入価格は1本当たり300円程度と推測される。
さらに,パッケージ代,流通経費などの費用が必要となるが,それらは高く見積もっても,1本当たり100円程度である。
したがって,被告商品1本当たりの経費は400円である。
(ウ) 利益(1本当たり) 1600円 販売価格から経費を控除すると,被告商品1本当たりの利益(粗利)の額は1600円となる。
(エ) 利益(被告商品全体) 被告らは,被告商品を少なくとも10万本は販売したはずであるから,被告商品の販売により被告らが得た利益の額は,1億6000万円を下らない。
〔計算式〕 1,600(円)×100,000(本)=160,000,000(円) イ 原告の営業上の利益侵害(その2) 原告は,被告コネクターが第三者に販売した被告商品の本数と同数の原告商品を販売できないという損害を被った。
すなわち,被告らの不正競争行為がなければ,被告コネクターは平成9年11月以降も従前どおり原告から原告商品の供給を受け,それを第三者に転売するという販売形態をとらざるを得なかったから,被告ら(特に,被告トレーディング)が第三者に販売した被告商品の販売本数は,原告が被告コネクターに販売したであろう原告商品の販売本数と一致する。したがって,被告らの不正競争行為がなければ,原告はそれによって販売された被告商品の本数と同数の原告商品を被告コネクターに供給することができたはずである。これによる原告の得べかりし利益の喪失は,被告らの不正競争行為と相当因果関係の範囲内にある損害である。
原告の損害額を計算すると,原告の被告コネクターに対する原告商品1本当たりの販売価格は2400円であり,原告商品の経費は1本当たり約500円である。
そうすると,原告商品1本当たりの利益(粗利)は1900円となるが,上記のとおり被告商品の販売本数は10万本を下らないから,原告の得べかりし利益の額(損害額)は1億9000万円となる。
〔計算式〕 1,900(円)×100,000(本)=190,000,000(円) ウ 弁護士費用相当額 本件訴訟における弁護士費用相当の損害の額は300万円を下らない。
エ まとめ よって,原告は,被告トレーディング及び被告コネクターに対しては不正競争行為(不正競争防止法2条1項3号,民法719条1項)に基づき,被告Aに対しては被告両会社の意思決定に関与した者として取締役の第三者に対する責任(商法266条ノ3第1項)に基づき,連帯して,前記ア及びウの合計である1億6300万円又は同イ及びウの合計である1億9300万円の内金である1億円及びこれに対する平成12年12月6日(内容証明郵便の到達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【被告らの主張】 原告の主張は,争う。
当裁判所の判断
1 争点1(原告の不正競争防止法2条1項3号の請求主体該当性)について 本件において,原告は,「2段折り収納形状を特徴とする原告商品の形態を最初に考案したのは原告であり,台湾のハオチャンに原告商品の製造を委託していた。」と主張するのに対し,被告らは,「シンタク等の台湾の業者は,原告よりも先に2段折れ式の携帯電話用アンテナを開発製造していたものであり,ハオチャンは,シンタクからこれを購入して,原告に輸出していた。」と主張している。そこで,1997年(平成9年)当時の台湾における携帯電話機用アンテナの開発製造の状況について,まず検討する。
(1) 「前提となる事実関係」(前記第2,1)記載の各事実に証拠(甲18,28〜30,42の1,2,43,53,60〜62,64〜68,70の1,2,検甲1の1〜7,乙2の1〜17,3,11,14)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 台湾のアンテナ業界の状況 シンタクはラジオやコードレスフォンなどの機器に用いられる各種アンテナの製造販売,輸出を主な業務とする台湾の会社である。シンタクは,台湾のアンテナ業界で約15年の歴史を有し,創設者で1997年(平成9年)当時代表者の地位にあったC(以下,単に「C」という。)は,業界の先駆者として同業者から敬意を表される存在であった。シンタクは台湾において「S.G」を自己の商標として商標登録を受けていたが,このほか,シンタクの商品の名称として,「Super Antenna」の名称が周知であり,他の業者が「Super Antenna」の名称を使用する際には,Cの許諾を得てこれを使用していた。
台湾において,アンテナを取り扱っている業者としては,そのほかに長通電子器材股?有限公司(ATI),聯芝企業股?有限公司などがある。
イ シンタクにおける携帯電話機用アンテナの開発 (ア) シンタクは,1993年(平成5年)ころから,ノキア社製やエリクソン社製の携帯電話機用の1段折れアンテナを自社で製造し,台湾で販売するほか,ヨーロッパ,米国や中国等に向けて輸出していた。
(イ) シンタクでは,1996年(平成8年)ころから2段折れの携帯電話機用のアンテナの開発を進め,同年8月に,ノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナの設計図を作成した(以下,この設計図を「ノキア機用2段折れアンテナ設計図」という。当該設計図の写しを,その後の1997年(平成9年)5月20日に中国の新洸公司に対して送付したのが,甲53の1枚目である。)。そして,1997年(平成9年)1月ころから,携帯電話機用の2段折れアンテナを,ヨーロッパ,米国及び中国向けに輸出していた。その形状は,別紙「写真1」(甲42の1)のとおりである。
(ウ) シンタクは,1997年(平成9年)5月20日,中国の新洸公司にノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナを販売するに際して,新洸公司に対して,ノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し(甲53の1枚目)及び各部品の設計図等(甲53の2枚目〜9枚目)を送付した。
ウ シンタクとハオチャンの間の取引 (ア) ハオチャンで携帯電話機用のアンテナの販売等を担当していたE(以下,単に「E」という。)は,1997年(平成9年)8月ころ,シンタクが2段折れアンテナを製造販売していることを聞いて,シンタクのCに対して,その事実の有無,当該アンテナの形状等について確認を求めた。
Cは,Eに対し,ノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し(甲53の1枚目と同様のもの)をファクシミリで送付した。これを見たEは,シンタクの製造販売する2段折れアンテナを購入することに決め,同月19日,同ファクシミリ文書に表示されていたノキア社製の携帯電話機(NOKIA 8110)用の2段折れアンテナを,サンプルとして2000本購入した。このアンテナは,同月21日,シンタクから出荷され,同月25日,ハオチャンに納入された。
ハオチャンは,携帯電話機用の2段折れアンテナを日本向けに輸出することを考えていたが,シンタクから購入した上記アンテナはヨーロッパにおける携帯電話機用の仕様であったため,日本の機種に適合するようにねじの部分を修正する必要があった。
そこで,ハオチャンでは,シンタクからファクシミリにより送付を受けた上記書面(甲53の1枚目と同様のもの)を書き写した上で,ねじの部分の寸法に変更を加えた図面(乙3)を作成し,これにEが「NOTE:修改尺寸」と記載した上,「E 822」と署名及び日付を付して,同月22日,シンタクに送付した。
(イ) ハオチャンは,1997年(平成9年)8月22日,上記のとおり寸法の修正を依頼した日本向けの2段折れアンテナをシンタクに継続的に注文することとし,同年9月中旬から11月下旬にかけて合計約5万3000本のアンテナを購入した。そのアンテナの形状は,別紙「写真2」(甲42の2)のとおりであり,購入本数は下記のとおりである。
9月12日 500本 (乙2の2) 10月8日 1万本 (乙2の3) 10月16日 5000本 (乙2の4) 10月22日 2420本 (乙2の5) 11月4日 1000本 (乙2の6) 11月8日 2万本 (乙2の7) 11月19日 1万1000本 (乙2の8) 11月27日 2500本 (乙2の9) 11月28日 1000本 (乙2の10) なお,ハオチャンとシンタクとの間の上記2段折れアンテナの取引は,少なくとも1998年(平成10年)3月まで継続された。
エ 原告商品の形状 原告商品の具体的な形状とシンタクからハオチャンが購入した上記アンテナの形状(別紙「写真2」)を対比すると,両者は同一である。
(2) オーディオテクニカ訴訟におけるC証人の証言内容の信用性について 前記(1)における認定事実に関する,オーディオテクニカ訴訟におけるC証人の証言内容(証人調書が甲60として提出されている。)については,次に述べるように,同証人が第三者的立場にあり,証言内容が一貫しており,書証の内容等の客観的な証拠にも符合していることから,十分に信用できるものというべきである。
ア Cの証人としての適格性・証言態度 すなわち,Cは,シンタクにおける携帯電話機用アンテナの開発及びハオチャンとの取引について,シンタクの代表者として関与したものであるが(Cは,2000年にシンタクの代表者(台湾でいう「薫事長」)の地位を辞し,現在は妻のFが代表者を務めているが,1997年当時は代表者であった。甲61),シンタクと被告との間には特段の利害関係が存在しないのであるから(両者の間に過去及び現在において取引があった事実も認められない。),Cは第三者的な証人としての立場にあると評価できる。また,Cの証言内容をみると,一部記憶違い等により証言が混乱した場面がみられたものの,重要な部分については一貫している。
イ ノキア機用2段折れアンテナ設計図の作成時期 甲53の1枚目(1997年(平成9年)5月20日に新洸公司に対して送付したノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し)を子細に検討すると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図については,次の点を指摘することができる。
同設計図には,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されている。これらの部品については,このうち従前の1段折れアンテナと異なるのは,Fの「UPPER STAND METAL」の部分である。各部品には@からFまでの番号が付されているところ,その順序は時計回りに@ABCFDEとなっており,数字の順序になっていないが,これは,上記のとおり,@からEまでの部品が1段折れアンテナにも共通して用いられる部品であるのに対して,Fの部品が2段折れアンテナに特有の部品であるためである。すなわち,同設計図は,1段折れアンテナの設計図と2段折れアンテナの設計図とを兼ねたものであって,このため,まず,両者に共通する部品につき,図面における位置に従って時計回りに@からEの番号を付し,次に2段折れアンテナのみに用いる部品にFの番号を付すことにより,1段折れアンテナの場合には@ないしEの部品を,2段折れアンテナの場合には@ないしFの部品を用いることとして,部品の取扱いを簡便にして過誤を防止したものである。このことは,設計図の中央やや右下に「7.SELECTED BY ORDER」と記載され,Fの部品が2段折れアンテナが注文された場合に限って選択される部品であることが明らかにされていることからも容易に分かることである。このように,同設計図が1段折れアンテナを基本形態とし,2段折れアンテナを取引先の注文があった場合に選択される,いわばオプション形態として扱っていることに対応して,同設計図に記載された部品のうちねじ(Cの「SCREW」)の部品数としては,1段折れアンテナの場合に使用される数である「1」が記載されている。
同設計図の下欄の「DIAGRAM NUMBER ST8508006」という記載は,中華民国暦85年(西暦1996年)8月に開発された6番目の製品であることを示すものであり,その右の「DIAGRAM NAME ST-0599」(甲53の1枚目に「DIAGRAN」とあるのは「DIAGRAM」の誤記と認められる。)という記載は,シンタクにおける当該製品の型式番号を意味している。これによれば,ノキア機用2段折れアンテナ設計図は,1996年(平成8年)8月に作成されたものであることが分かる。なお,「DIAGRAM NUMBER」は,取引先によりデザインの一部や部品のサイズに変更が加えられた場合には,当該番号の後ろにA,B,Cといった符号が付されたり,新たな番号となることがある。
また,同設計図に記載された2段折れアンテナには,ロッドアンテナ最外筒部分(伸張したアンテナを折り畳んで収納する部分)にシンタクの商品表示として台湾で知られている「Super Antenna」のロゴが印字されている。
ウ 新洸公司への設計図(甲53)の送付時期 甲53の1枚目(新洸公司に対して送付されたノキア機用2段折れアンテナ設計図の写し)を見ると,下欄の「DATE」欄に「MAY.20.1997」と記載されているが,これは当該書面が1997年(平成9年)5月20日に送付されたことを意味している。また,下欄の「DRW」欄に「05/20/1997」,「CHECK」欄に「05201997」と,それぞれ記載されているが,これらの記載からも,同書面が同日シンタクから新洸公司に送付されたことが分かる。
なお,甲53の2枚目〜9枚目は各部品の部品表,規格表及び設計図であるが,これらの書面においては,「圖號」の欄に「DIAGRAM NUMBER」に対応する番号が,「機種」の欄に「DIAGRAM NAME」に対応する番号が記載されることとなっている。部品の設計図の一部(甲53の5枚目〜8枚目)に「圖號」欄の番号が,甲53の1枚目の「DIAGRAM NUMBER」の番号よりも先行する番号のものがあるが,これは,部品のなかには従前の1段折れアンテナに用いられていたのと同一の部品が用いられているものがあるためと考えられる。また,デザインの一部や部品のサイズに変更が加えられたために「圖號」欄の番号が「DIAGRAM NUMBER」の番号から変更されているものもある(甲53の4枚目,9枚目)。
エ ハオチャンとの取引について ハオチャンからシンタクに送付された書面(乙3)を見ると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図及びその写しである甲53の1枚目におけるのと同様に,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されているが,そこでも各部品に付された番号は,時計回りに@ABCFDEとなっている。このように部品に付された番号の順番が一致していることからも,ハオチャンからの送付書面(乙3)が,シンタクから送付を受けた書面(甲53の1枚目と同様のもの)を書き写したものであることが明白に分かる。
また,前記認定のとおり,ハオチャンの送付書面(乙3)には,「NOTE:修改尺寸」と記載した上,「E 822」と署名及び日付が付されており,この記載からは,ハオチャンにおいてシンタクから送付を受けた書面に記載された2段折れアンテナにつき,ねじの部分の寸法変更を依頼したことが分かる。
上記のとおり,C証人の証言内容については,同証人が第三者的立場にあることや,証言内容が書証の記載内容等と符合していることなどから,十分に信用できる。
原告は,台湾で発行されている電気通信分野の雑誌(「MBT」,「International Wireless」等)への2段折れアンテナの広告の掲載時期についてのC証人の供述に曖昧な点があることなどを指摘して,同証人の証言全体が信用できないと主張する。
しかしながら,この点については,雑誌の種類のみならず,写真がカラーか白黒か,広告か取材記事かなどの違いによって,雑誌広告ないし記事の内容や掲載写真の締切り時期が異なることが認められるのであり,この点についての供述の一部に同証人の記憶違いに基づく誤りがあったとしても,同証人の証言全体の信用性が減殺されるということはできない。 (3) 原告主張の事実経過等について 原告は,前記第2の3(1)の【原告の主張】欄記載の事実経過により自ら原告商品を開発した旨主張するので,念のため,その主張に係る事実につき判断を加える。
ア 原告が2段折れアンテナを着想したとの主張について 原告は,「原告代表者のBは,平成9年6月27日,ハオチャンに対して1段折れアンテナにつき問い合わせをし,その結果,同年7月3日か4日ころ,上記アンテナのサンプルが送付されたので,それを見て2段折りの収納形状にするという発想を得て,ハオチャンに対して手書きの図面を送るとともに,2段折れアンテナのサンプルの製造を依頼した。」旨主張している。
この点に関しては,同年6月27日原告がハオチャンに対して問い合わせをしたこと,ハオチャンがこれに応じてサンプルを送付する旨回答していることは客観的事実として認定できるものの,それ以外の点については,フジモト訴訟におけるBの陳述書(乙8)以外の証拠が存在しないところ,同陳述書には,「平成9年1月頃から,伸縮可能なロッド式アンテナを使用すれば,感度を上げることが出来るが,付属アンテナのように携帯電話の中に収めることが出来ず,携帯に不便であるという悩みをいかに解決するかということで色々と考えはじめました。その中で,二段折れにするという発想に至り,本件アンテナの基本的構想が出来上がりました。」「私は,平成9年6月頃に,本件アンテナの仕様を記載した手書きの図面をハオチャンにファクシミリで送信し」というように,上記主張と明らかに食い違う内容の記載もある。Bが自ら携帯電話用アンテナを2段折れにする旨着想したのであれば,その具体的経過について言い分が大きく変遷することは考えにくく,こうような食い違いはBの陳述書の信用性について疑問を抱かせるものである。
そして,何よりも,原告の主張を裏付けるために最も重要な証拠であるはずの,ハオチャンに対して送信したBによる手書きの図面は,本件訴訟において,原本はもちろん,写しないし控えの書面も,一切書証として提出されていない。
イ 2段折れアンテナの設計図面(甲11の2,甲13)について 原告は,「Bが7月3日か4日ころハオチャンに指示した内容に基づいてハオチャンのEは同月8日承認図(甲11の2)を作成した。そして,その後のファクシミリ等でのやり取りを経て,ハオチャンは上記承認図のねじの部分を修正したものとして,7月31日に承認書添付の図面(甲13)をBに対して送付した。」旨主張する。
原告の主張に従えば,この2つの図面は,原告の指示に基づきハオチャンが作成した原告商品の製造用の図面ということであるから,それに沿った体裁・内容を備えている必要がある。
前記各図面(甲11の2,甲13)を見ると,ノキア機用2段折れアンテナ設計図及びその写しである甲53の1枚目におけるのと同様に,@からFまでの部品から構成される2段折れアンテナが表示されているが,そこでも各部品に付された番号は,時計回りに@ABCFDEとなっており,数字の順序になっていない。前記のとおり,シンタクにおけるノキア機用2段折れアンテナ設計図では,Fの「UPPER STAND METAL」の部分が取引先の注文により選択的に付加される,いわばオプション部品として扱われているために,各部品にこのような順序で番号が付されているものである。しかし,前記各図面(甲11の2,甲13)が,原告主張のようにBないしその指示を受けたハオチャンの発想により独自に作成されたものであるならば,当初から2段折れアンテナとして着想され,そのための図面として作成されたのであるから,このように各部品に数字の順序と異なる順番で番号を付する必要はないはずである。したがって,この点に照らせば,前記各図面が,シンタクの作成したノキア機用2段折れアンテナ設計図ないしその写しである甲53の1枚目を書き写したものであることは,明白というべきである(なお,原告は,甲53について,本件訴訟提起後に作成された文書であると主張するが,上記のような部品に付された番号の順序に照らせば,ハオチャンの作成図面(甲11の2,甲13,乙3)がシンタク作成の図面(ノキア機用2段折れアンテナ設計図,甲53の1枚目)に基づくことなく,独自に作成されたということは考えられないものであり,ハオチャンとの取引に先立って,シンタクにおいて甲53の1枚目が作成されていたことは,明らかである。)。
また,前記各図面(甲11の2,甲13)の2段折れアンテナには,ロッドアンテナ最外筒部分に「Super Antenna」のロゴが印字されている。前記のとおり,「Super Antenna」のロゴは,台湾においてシンタクの商品の表示として広く知られたものであったことに照らせば,この点も前記各図面がシンタクの作成したノキア機用2段折れアンテナ設計図ないしその写しである甲53の1枚目を書き写したものであることを裏付けるものである(原告は,BがATI社が用いていた同じロゴを見て,これを気に入り印字するように指示した結果記載されたものであると主張しているが,前記認定事実に照らし,信用できない。)。
ウ その他 前記各図面(甲11の2,甲13)の作成経過及び原告とハオチャンとの交渉経過に関しては,ハオチャンのE作成の証明書(甲47の1,2),同人が通訳を介して原告代理人の質問に答えている状況を録画したビデオテープ(甲54)及びそれを反訳した書面(甲55)が証拠として提出されているが,これらの証拠は,被告らの反対尋問を経ていない上に,内容をみてもビデオテープについては通訳が不正確である部分,誘導尋問により質問の意味をよく理解しないまま供述している部分が多く見られ,原告主張の事実を認めるに足りるものではない。
エ まとめ 以上によれば,Bが2段折れアンテナを着想し,その製造をハオチャンに依頼し,さらにハオチャンがシンタクに製造委託をした旨の原告主張の事実は,本件の証拠関係に照らし認めることができない。
なお,本件において認定される前記事実関係に照らせば,Bにおいて2段折れアンテナを携帯電話機用のアンテナとして用いるという発想を独自に得た上で,その具体的形状につきハオチャンに問い合わせないし相談をしたところ,携帯電話機用の2段折れアンテナをシンタクにおいて製造販売していることを知っていたハオチャンが,原告に対し,商品の具体的形状として,シンタクの製品を書き写した書面を送付したという可能性も考えられる(なお,ハオチャンは,原告に対してそれがシンタクの製品であることを告げず,自ら作図した書面である旨の虚偽の説明をしていた可能性もある。)。しかし,いずれにしても,Bにおいて,2段折れアンテナの具体的形状を自ら発想し,これを商品化したということはできない。
(4) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨等について 不正競争防止法2条1項3号の趣旨につき考察するに,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態について,他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは,先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正な行為と評価されるべきものであり,また,このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から,模倣者の上記のような行為を不正競争として規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが,同規定の趣旨と解するのが相当である。これによれば,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
本件においては,前記認定のとおり,原告はシンタクが開発製造した2段折れアンテナを購入した台湾のハオチャンからこれを輸入し,日本で販売したにすぎないから,原告は自ら原告商品を開発し,商品化して市場に置いた者ということができない。
なお,前記のとおり,本件においては,2段折れアンテナを携帯電話機用のアンテナとして用いるという発想自体については,Bが独自に着想して,その具体的形状につきハオチャンに問い合わせないし相談をしたという可能性も存在するが,不正競争防止法2条1項3号は単なるアイデアを保護の対象とするものではないから,仮にB自身がそのような発想を得たものであるとしても,原告はこれを商品の形態として具体化するための労力,時間や資本を投下しておらず,原告商品の具体的形状がシンタクが先行して製造販売していた製品に由来するものである以上,原告が同号に基づく請求の主体となり得るということはできない。
したがって,原告は,原告商品に関して,不正競争防止法2条1項3号に基づいて損害賠償を請求することができないというべきである。
2 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
原告製品形態図別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3物件目録1別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ(イ号アンテナ)第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3物件目録2別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ(ロ号アンテナ)第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3物件目録3別紙の図面で示される携帯電話機用アンテナ(ハ号アンテナ)第1図伸縮アンテナ部材をアンテナ本体から引き出し,延伸した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第2図第1図の状態から,伸縮アンテナ部材をアンテナ本体に収納した状態((1)は正面図,(2)は側面図)第3図2段折り収納形状図1図2図3(別紙)写真1写真2
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一