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関連審決 審判1996-2011
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ネ5555不正競争による損害賠償等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ10073損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成14ワ1943営業誹謗行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ラ10006不正競争仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ3056損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 他人の営業 /  印象 /  差止請求(差止) /  不当利得 /  ライセンス /  侵害 /  代理人 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 11657号 損害賠償等請求事件
原告 同和鑛業株式会社
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
同 柳 誠一郎
被告 バイエル・アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士 花岡巌
同 阿部正幸
補佐人弁理士 小田島 平吉
同 江角洋治
同 小田嶋 平吾
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,原告に対し,金650万円及びこれに対する平成12年7月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,全国において発行される日本経済新聞に,縦2段,横9センチメートル以上の大きさで,別紙「謝罪広告」記載の広告を掲載せよ。
事案の概要
原告は,磁気信号記録用金属粉末の製造・販売等を事業目的とする株式会社であり,被告は,ドイツに本拠を置く世界有数の化学企業である。本件は,被告が,平成6年3月17日付け書簡をもって,原告の顧客である訴外ソニー株式会社に,原告の製造・販売する磁気信号記録用金属粉末(以下「原告製品」という。)は被告の有する日本国第1733787号特許(以下「被告特許」という。)を侵害すると考える旨告知したことは,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たると主張して,原告が,被告に対し,同法4条に基づき損害賠償を求めるとともに,同法7条に基づき謝罪広告の掲載を求めている事案である。
1 前提となる事実関係(末尾に証拠を掲げた事実のほかは,当事者間に争いがない。) (1) 原告は,業として磁気信号記録用金属粉末を製造・販売する株式会社であり,他方,被告は,ドイツの本社を置く世界有数の化学会社であり,世界各国において磁気信号記録用粉末に関する特許出願をしている。したがって,原告及び被告は,不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係」にある。
なお,訴外ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)は,原告が製造する磁気信号記録用金属粉末を購入した上,同粉末を用いてビデオテープを製造し,これを販売している。
(2) 平成5年5月26日ころ,原告は,被告から,原告製品が被告特許及びこれに対応する米国特許,欧州特許等の外国特許を侵害していると考えるので,この点についての回答を求める旨の同日付け英文書簡(甲2)を受け取った。
近藤惠嗣弁護士(本件訴訟における原告代理人でもある。)は,当時,原告の代理人として,同年7月8日付け英文書簡(甲3)において,原告としては,前記特許侵害の根拠が見出せない旨及び被告が原告製品を分析しているのであれば分析結果等の情報を提供して欲しい旨の返答をした(本件に関する事実関係においては,近藤弁護士は,すべて原告の代理人として行動しているが,以下,代理人たる旨の記載を省略して,単に「近藤弁護士」という。)。
(3) 同年8月から12月初旬にかけて,被告と近藤弁護士の間で4回にわたり英文書簡のやり取りがあった(甲4〜11)。
そのなかで,被告は,同年8月2日付け書簡(甲4)において,「両会社間の適切な解決方法を見つけるため,我々は,まず同和社にのみ接触し,テープ製造業者には接触しないこととしました。」と述べた上,前記特許侵害の根拠として,ソニー及び米国スリーエム社によって製造され,米国及び欧州において購入された磁気テープに用いられている原告製品を撮影したとの電子顕微鏡写真を送付するなどした(甲6,8,10)。
これに対し,近藤弁護士は,当該写真が原告製品を対象に撮影したものであるか疑問であるし,当該写真においても非侵害の根拠となる空孔が示されている旨を返答するなどし(甲7,9,11),両者の見解は平行線をたどった。
(4) 被告は,同年12月21日付け英文書簡(甲12)において,原告には話し合いにより解決する意思がないと認めるので,米国における原告の顧客に直接接触せざるを得ない旨を通知した。
これに対し,近藤弁護士は,相互の情報の交換によって特許権非侵害の事実が明らかになると考えるので,話し合いの場を持ちたい旨を提案し(甲13),さらに,原告製品の電子顕微鏡写真は開示するが,企業秘密の保護のため,被告が求める原告製品のサンプルの開示には応じられない旨を回答した(甲15)。
(5) 被告は,平成6年3月に,ソニー記録メディア事業本部資材部長甲宛てに同月17日付けで被告会社特許部長乙外1名の名義の英文書簡(甲1の1,2)を送付した。同書簡の内容(日本語訳)は,別紙「ソニー宛て書簡」記載のとおりであるが,その概要は,次のようなものである(以下,これを「本件書簡」という。)。
「標記の当社の日本の特許とその外国対応特許を御確認下さい。問題となっている特許権の特許番号及び存続期間満了日のリストと,日本第1733787号特許,欧州第15485号特許及び米国第4290799号特許の写しを添付しますので,御覧下さい。当社は,上記の特許の権利範囲に属する顔料を含有するテープが貴社により製造・販売されていることを承知しております。そのようなテープの例として,米国で入手可能なソニー・メタルMPビデオ8P6があります。当社は,当該テープの販売が,問題となっている当社の特許権を侵害するとの見解を有しております。当該テープに含まれる顔料を貴社が同和鉱業株式会社から購入したことを示す確定的な証拠を,当社が保有していることに,御留意下さい。また,当社は既に同和鉱業と連絡をとり,友好的な解決のために数多くの試みを行ったことも併せてお知らせします。‥‥‥このような場合の当社の通常の方針は,まず初めに顔料の製造者と連絡をとることです。本件では,そのような方法により解決することが不可能なようですので,当社としては,テープ製造者である貴社と連絡をとるより他に方法がありません。至急,貴社の見解をうかがいたく,お待ちしています。」 (6) 被告は,その後,更に,同年4月11日付け及び同月26日付けでソニー記録メディア事業本部資材部長甲宛てに,本件書簡に関連する内容の英文書簡を送付した。これらの書簡に対し,ソニーは,平成6年4月に,被告会社特許部長乙外1名宛てに,同月27日付けでソニー契約・ライセンス部アシスタントゼネラルマネジャー,丙名義の英文書簡(乙2)を送付し,材料供給業者と当該事案について協議中であるから,時間の猶予がほしい旨を述べた。ソニーは,同年5月に,被告会社の前掲乙外1名宛てに,同月11日付けで前掲丙名義の英文書簡(乙3)を送付したが,その内容は,近藤弁護士から本件事案の背景及び原告の立場等の説明を受けたが,これによりソニーは,被告特許は有効でなく,原告製品が被告特許を侵害してはいないと信じていること,及び,原告の立場には十分な理由があると思われ,ソニーとしては,被告と原告との間で本件事案が迅速かつ友好的に解決されることを期待していることを,述べるものであった。
これに対して,被告会社の前掲乙外1名は,ソニーの前掲丙宛てに,同年6月3日付け英文書簡(乙5)を送付したが,同書簡には,「貴殿の回答を読むと,当方としては,ソニーがすべての責任を同和に移そうとしているような印象を受けます。しかしながら,貴殿は,特許侵害についてはソニー自身も責任を負うことに留意しなければなりません。」「当方は,今回,バイエル社と友好的な関係にある国際的企業として知られるソニーと折衝することに決めました。当方としては,ソニーがバイエル社と率直かつ誠実な交渉を行う用意があると信じています。
もしソニーにおいて,自己の使用している顔料が特許侵害をしていないと信ずるのであれば,本件事案を近藤弁護士に任せきりにするのではなく,そのように信ずる理由をバイエル社に直接説明すべきです。」という記述がある。
被告からの上記書簡(乙5)に対して,ソニーの前掲丙は,被告会社の前掲乙外1名宛てに,同月15日付け英文書簡(乙6)を送付したが,同書簡の内容は,本件事案につき被告が近藤弁護士と引き続き交渉することを提案し,交渉の進展のためにソニーとしてできることがあれば連絡してほしい旨を述べるものであった。
ソニーからのこの書簡(乙6)に対して,被告会社の前掲乙外1名は,ソニーの前掲丙宛てに,同月17日付け英文書簡(乙7)をファクシミリにより送信した。同書簡には,「当方からの1994年6月3日付け書簡において強調したように,ソニーは,本件特許侵害事案につきソニー自身も責任を負うことを認識し,ソニー自身の利益のために,友好的な和解により現在の状態を終わらせるすべての努力をしなければなりません。ご承知のように,バイエル社は,貴社により販売された多量の特許侵害品をよく知っており,更に遅延することなく本件を早急に解決したいと考えています。したがって,当方は,遅くとも1994年7月1日までに適切な和解案を送付して下さるようにお願いいたします。」という記述がある。
被告からの上記書簡(乙7)に対して,ソニーの前掲丙は,被告会社の前掲乙外1名宛てに,同月23日付け英文書簡(乙8)を送付したが,同書簡には,「ソニーは,最も妥当な方法で,この係争中の問題の最終的な解決を促進するためにバイエル社及び/又は同和と協力する用意があります。しかしながら,実際のところ,ソニーは,同和の材料を使用する当社の製品が本件特許の有効なクレームによってカバーされるかどうかを決定する立場にはありません。ソニーは,残念ながら,同和の材料を貴社の特許クレームと対比して分析する技術的背景を有しておらず,それゆえ貴社の特許の主張の技術的価値を判断するには貴社の同和との議論に頼るほかありません。貴社に説明したように,同和は既に貴社との真剣な技術的な議論を始めたいとの希望を表明しています。それゆえ,最初に本件の技術的な見地を議論するよう同和及び貴社に求めることがソニーにとって公正な要求であると信じていましたし,今も信じています。当社は,同和とバイエル社との間の議論に加わらないこと又はこの段階で貴社との議論を開始しないことによる当社自身の危険を十分に認識しています。しかしながら,繰り返しますが,当社は,問題(特許侵害)の存在を知って,本件において更に行動をとらなければなりません。上記のことを踏まえると,当社は,7月1日までに和解の提案をするという貴社の要求を,非常に残念ながら,断らなければなりません。」との記載がある。
ソニーからの上記書簡(乙8)に対して,被告会社の前掲乙外1名は,ソニーの前掲丙宛てに,同月29日付け英文書簡(乙9)をファクシミリにより送信した。同書簡には,「貴社は,貴社が同和の材料を利用しているソニー製品がバイエル社の特許の有効なクレームによりカバーされるかどうかを決定する立場にないと主張しています。しかしながら,貴社も後に分かることになるでしょうが,特許侵害している顔料を使用している当該テープ製品をソニーが製造し,販売する活動もまた明らかにバイエル社の特許の侵害を構成します。したがって,もしソニーが妥当な解決に達するように協力することを真に希望するのであれば,当社は,貴社に対し,ソニーが使用していた及び/又は使用している同和の顔料を開示し,なぜその顔料の使用がバイエル社の特許を侵害していないと考えるのかを説明されるように要請します。」「バイエル社は,ソニーに対し,同和に依存しないで,自己の責任において行動されるように望みます。当社は,バイエル社との率直な交渉のためのこの問題におけるソニーの積極的な態度が,ソニーとバイエル社の双方にとって有益であることは明らかであると信じています。」との記載がある。
被告からのこの書簡(乙9)に対して,ソニーの前掲丙は,被告会社の前掲乙外1名宛てに,同年7月1日付け英文書簡(乙10)を送付し,ソニーが使用している顔料を同和からバイエル社に示す用意があるので,同和と議論してほしい旨を伝えた。
(7) その後,被告は,平成7年(1995年)1月9日,ソニーの系列会社である米国法人ソニー・エレクトロニクス・インク社(SONY Electronics Inc. )を相手に,被告の有する米国第4290799号特許に基づく侵害訴訟を米国デラウェア州地区裁判所に提起した。
被告は,さらに,平成9年(1997年)7月8日,ソニー及び原告を相手として,同様の特許侵害訴訟を同裁判所に提起し,これらの事件は併合されて,現在もなお同裁判所において審理されている(CA95-8/97-401-JJF)。
(8) 一方,原告は,平成7年2月16日,被告を相手に,被告特許に基づく差止請求権等の不存在確認を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(当庁平成8年(ワ)第2803号事件)。平成12年1月25日,同裁判所は,ソニー・メタルMPビデオ8P6等に使用されている磁気信号記録用金属粉末の製造・販売につき,被告特許に基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する旨の判決(甲20)を言い渡した。同判決に対しては,被告が控訴したが,その後,同年11月21日,被告の控訴取下により,前記一審判決が確定した。
また,原告は,被告特許につき無効審判を請求したが,特許庁が「審判請求は成り立たない」旨の審決をしたことから(平成8年審判第2011号事件),東京高等裁判所にこの審決の取消訴訟を提起していたところ(東京高裁平成9年(行ケ)第320号事件),同裁判所は,平成12年7月4日,特許庁の前記審決を取り消す旨の判決(甲21)を言い渡し,同判決は,上告及び上告受理期間の経過により,同年8月17日に確定した。
2 争点及び当事者の主張 本件における争点は,被告がソニーに対して本件書簡を送付した行為が,不正競争防止法2条1項13号所定の虚偽事実の告知行為又は流布行為に該当するかどうか,という点である。
原告は,被告が,原告の顧客であるソニーに対し,結果的に被告特許を侵害するとは認められなかった原告製品が同特許を侵害する旨虚偽の告知をして,原告に多大な経済的・社会的打撃を与えたのであるから,このような行為が前記不正競争行為に当たるのは明らかである旨主張する。
これに対し,被告は,本件書簡は,特許権者の正当な権利行使の一環であるとし,そもそも,ソニーは,米国での訴訟の経過が示すとおり,純粋な第三者ではなく,侵害訴訟の当事者になり得る立場にあるのだから,このようなソニーに対して特許権侵害を警告する行為は,その後の司法判断の結果たまたま特許権侵害が認められなかったとしても,それが違法になるものではなく,実質的に考えても,もとはといえば原告の対応に問題があったのだから,原告との交渉に進展が見られなかった以上,被告が原告製品を用いてビデオテープを製造・販売するソニーに直接接触したのはやむを得ない行為であると,主張する。
当裁判所の判断
1 不正競争防止法2条1項13号は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為を不正競争行為の一類型として規定する。これは,営業者にとって重要な資産である営業上の信用虚偽の事実を挙げて害することにより競業者を不利な立場に置くことを通じて,自ら競争上有利な地位に立とうとする行為は,不公正な競争行為の典型というべきであることから,これを不正競争行為と定めて禁止したものである(平成5年法律第47号による改正前の不正競争防止法(昭和9年法律第14号)においても,1条1項6号に同様の規定が置かれていた。)。
上記立法趣旨にかんがみれば,競業者に特許権等の知的財産権を侵害する行為があるとして,競業者の取引先等の第三者に対して警告を発し,あるいは競業者による侵害の旨を広告宣伝する行為は,その後に,特許庁又は裁判所の判断により当該特許権等が無効であるか,あるいは競業者の行為が当該特許権等を侵害しないことが確定した場合には,不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するというべきである。
しかしながら,他方,特許権等の知的財産権を行使する行為は,正当行為として許されるものであるところ,特許法は,物の発明について,その物を生産する行為のみならず,その物を使用し,あるいは譲渡する行為等をも,発明の実施としているから(特許法2条3項1号),特許権者は,その競業者が当該特許権を侵害する製品を製造し,これを譲渡している場合において,その譲受人が業として当該製品を使用し,あるいは再譲渡しているときには,特許権者は,競業者たる譲渡人のみならず,譲受人に対しても,その行為が特許権を侵害するとしてその責任を問うことが可能である。そこで,競業者が特許権侵害を疑わせる製品(以下「侵害被疑製品」という。)を製造販売している場合において,特許権者が競業者の取引先に対して,競業者が製造し販売する当該製品が自己の特許権を侵害する旨を告知する行為が,虚偽の事実の告知として不正競争行為に該当することがあるかどうかが,問題となる。
このような場合において,特許権者が競業者の取引先に対して行う前記告知は,競業者の取引先に対して特許権に基づく権利を真に行使することを前提として,権利行使の一環として警告行為を行ったのであれば,当該告知は知的財産権の行使として正当な行為というべきであるが,外形的に権利行使の形式をとっていても,その実質がむしろ競業者の取引先に対する信用を毀損し,当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてされたものであるときには,当該告知の内容が結果的に虚偽であれば,不正競争行為として特許権者は責任を負うべきものと解するのが相当である。そして,当該告知が,真に権利行使の一環としてされたものか,それとも競業者の営業上の信用を毀損し市場での競争において優位に立つことを目的としてされたものかは,当該告知文書等の形式・文面のみによって決すべきものではなく,当該告知に先立つ経緯,告知文書等の配布時期・期間,配布先の数・範囲,告知文書等の配布先である取引先の業種・事業内容,事業規模,競業者との関係・取引態様,当該侵害被疑製品への関与の態様,特許侵害争訟への対応能力,告知文書等の配布への当該取引先の対応,その後の特許権者及び当該取引先の行動等,諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
2 これを本件についてみると,本件においては,@ 被告は,当初,原告との交渉を行ったが,交渉が進展しないことから,ソニーに本件書簡を送付したものであること,A 本件書簡等のソニー宛ての書簡において,被告は,本件特許及び対応外国特許の内容を示した上で,ソニー自身の行為が特許権侵害に該当するので,自身の行為についての対応として自らの判断により交渉に応じてほしい旨を繰り返し述べていること,B ソニーは原告製品を用いてビデオテープを自ら製造販売しているのであって,単に侵害被疑製品の流通に関わるか又はこれを使用するだけの者とは異なること,C ソニーは,世界有数の大企業であり,高度の技術陣を擁し,特許権侵害訴訟に対処する能力・経験を十分に有すること,D ソニーは,被告宛ての書簡(乙8)において,特許侵害の有無について被告と直接議論しないことによる自身の危険を十分に承知していると述べていること,E 現に,被告は,ソニー・エレクトロニクス・インク社及びソニーを相手として,米国において訴訟を提起していること,といった事情が存在するものであって,これらの事情に照らせば,被告がソニーに対して本件書簡を始めとする一連の書簡を送付したのは,真にソニーに対して本件特許等の権利を行使することを前提として,訴訟提起に先立って直接の交渉を持つために行ったものと認めるのが相当である。
そうであれば,被告がソニーに本件書簡等を送付した行為は,権利行使の一環として正当行為と評価すべきものであって,単に市場において優位な立場に立つことを目的として第三者に対して虚偽の陳述を行った行為と同視することはできず,結局のところ,不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
なお,被告がソニーに送付した本件書簡を始めとする書簡においては,本件特許のみならず,米国第4290799号特許等の対応外国特許をも挙げて,原告製品がこれらの権利を侵害する旨が記載されていたものであるところ,本件特許については,前記のとおり,原告と被告との間で,原告製品について本件特許に基づく差止請求権等が存在しないことを確認する判決が確定しているが,前記米国特許等については,特許の有効性や原告製品が技術的範囲に属するかどうかの司法判断は示されておらず,現に米国特許についてこの点が米国裁判所において審理されているところである。被告によるソニーに対する特許侵害の指摘は,米国において販売されていたビデオテープについてされていたのであるから,ソニー宛ての書簡においては,前記米国特許の侵害が重要な比重を占めていたものというべきところ(現にその後被告は米国特許に基づいてソニー及び関連会社に対する特許権侵害訴訟を提起している。),当該米国特許の侵害の点についての本件書簡の記載は,現時点においては,いまだこれを虚偽の事実ということはできない。したがって,この点からも,本件書簡の送付をもって,直ちに不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
3 よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
追加
(別紙「謝罪広告」)謹告弊社は,1994年3月17日付けのソニー株式会社宛の書簡において,同和鑛業株式会社の製造販売する磁気信号記録用金属粉末が特許第1733787号を侵害する旨告知致しましたが,この告知は事実に反することが判明致しました。ここに,弊社は,右告知を撤回し,右告知により,同和鑛業株式会社にご迷惑をお掛け致しましたことを陳謝致します。
****年*月*日ドイツ連邦共和国レーフェルクーゼンバイエル・アクチェンゲゼルシャフト(別紙)ソニー宛て書簡省略
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之