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事件 平成 10年 (ワ) 15228号 不正競争行為差止請求事件
原告 株式会社ソシエテアペックス
訴訟代理人弁護士 小南明也
訴訟復代理人弁護士 小南久美
被告 株式会社フジモト
訴訟代理人弁護士 玉木賢明
補佐人弁理士 下山 冨士男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,5166万0180円及びうち1000万円に対する平成11年2月3日から,うち4166万0180円に対する平成12年3月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告の請求
被告は,原告に対し,1億5000万円及びうち1000万円に対する平成11年2月3日から,うち1億4000万円に対する同12年3月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,携帯電話機用のアンテナを製造販売する原告が,被告の製造販売する携帯電話機用のアンテナは,原告の製造販売に係るアンテナの形態を模倣した商品であると主張して,被告に対し,不正競争防止法(以下,単に「法」という。)2条1項3号所定の不正競争行為又は一般不法行為(選択的併合)を理由として損害賠償を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 原告は,家庭用電器製品等の製造販売を主たる目的とする株式会社であり,携帯電話機の付属品の開発,製造販売等も行っている。
被告は,自動車用品の製造販売を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,別紙原告商品形態図記載の携帯電話機用のアンテナ(以下「原告商品」という。)を製造し,販売している。
(3) 被告は,別紙物件目録記載の携帯電話機用のアンテナ(以下「被告商品」という。)を製造し,平成9年11月26日ころから販売している。
2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 原告商品の形態は,原告が最初に商品として開発したものか。
(原告の主張) 原告商品は,原告が最初に開発し,製造販売したものであり,その経過は次のとおりである。
ア 携帯電話機のアンテナについては,従来から,その感度が弱い場合には電波が届いていても通信を受信できず,通話することができないという問題点が指摘されていた。原告は,平成9年1月ころから,携帯電話機用アンテナの開発に着手し,上記の問題点を解決するために,従来から存在する伸縮可能なロッド式のアンテナを採用して感度のアップを図るとともに,収納できず携帯に不便であるという短所を,2段折れにするという発想を得て解決し,原告商品の開発に成功した。
そこで,原告は,原告商品の製造を,従来からの取引先である台湾のHAO CHARNG ENTERPRISE CORPORATION(以下「ハオチャン社」という。)に委託した。
イ 原告は,平成9年6月ころに,原告商品の仕様を記載した手書きの図面をハオチャン社にファクシミリで送信し,その承認図が同年7月8日に返送された。
その後,ハオチャン社から上記承認図に基づくサンプルの製品が送られてきたので,原告でテストをしたところ一部の携帯電話機に装着できないことが判明したため,直ちにハオチャン社に対し仕様変更を依頼した。それから約1週間後に仕様を変更した図面とそのサンプルが原告に送られてきたため,再度テストをしたところ問題がなかったので,ハオチャン社に対して,正式に製造の発注をした。
ウ ハオチャン社は,これを受けて原告商品の製造を本格的に始め,平成9年8月末ころ,最初の製品200本を原告に納品した。原告は,同年9月1日,販売開始に先立って,約200本の無償サンプルを用意し,取引先,販売店の担当者に交付して,実際に使用してもらったところ,好評を得て,その日のうちに成約に至った販売店もあった。そこで,原告は,同年9月初旬以降,原告商品に「超高感度スーパーアンテナ」等の標章を付して大々的に販売するようになった。なお,平成10年1月以降は発注量が増加し,ハオチャン社だけでは製造が追いつかないため,台湾のインハオ金属工業にも原告商品の製造を委託するようになった。
エ なお,原告が原告商品を販売する以前に,台湾を含め日本国外で2段折り収納形状を有する携帯電話機用アンテナが販売されていたことは,なかった。
(被告の主張) 原告商品と同一又は類似の携帯電話機用のアンテナは,平成5年の時点で既に台湾のインハオ金属工業により販売されていた。この製品の輸出対象国は日本にとどまらず,世界各国であり,現にこの製品は,世界各地に供給販売され,モトローラ社等の有名メーカーの携帯電話機用に用いられて,普遍的な存在になっていた。
そうすると,原告は,国外では広く知られていた形態のアンテナを,たまたま日本において流通に置いたというにとどまり,自ら商品の形態を開発したものではない。原告は,有限会社インターマート(以下「インターマート」という。)がハオチャン社から輸入したアンテナをインターマート及びシーバース工業株式会社(以下「シーバース」という。)を介して購入したものである。仮に,原告がハオチャン社から直接製品を輸入した事実が認められるとしても,ハオチャン社自身はインハオ金属工業の商品の形態模倣した者であって,原告はその模倣者の地位を承継したにすぎない。したがって,模倣者である原告が,被告に対し,形態模倣を理由に権利を行使することは許されない。
(2) 対象となる被告商品の範囲 (原告の主張) 被告商品には,「二段折り収納形状」という特徴を有するものがすべて含まれる。具体的には,「アンテナ君ナイン」という商品名を付した製品のほか,「アンテナ君ナイン頭なし」(製品番号FP-38G,FP-38S,FP-38Pを含む。以下同じ)という商品名の商品を含む。また,アンテナ本体の色についても原告は特段の限定をしたことはないので,「金色(ゴールド)」のみならず,「シルバー」なども含む。
(被告の反論) 原告が示している原告商品が「ゴールド」に限定されることは,検甲1号証により明らかであることから,本件の対象である被告商品は「ゴールド」のものに限定される。携帯電話機用のアンテナという商品は,もともとアクセサリーとしての要素が強く,全体の色調の違い又は種類はまさに消費者が商品を購入する際の選別基準となるべきだからである。
さらに,ゴールドの商品の中で「アンテナ君ナイン頭なし」という商品は,被告商品から除外される。この「アンテナ君ナイン頭なし」の商品はアンテナの最頂部の形状が通常のもの(アンテナ君ナイン)と明らかに異なるからである。
(3) 被告商品の形態は,原告商品の形態模倣したものか。
(原告の主張) ア 原告商品と被告商品を比べるとその形態は実質的に同一である。被告商品のうちの「アンテナ君ナイン頭なし」についても,アンテナ先端部分に取り付けられた頭の部分が除かれているだけの違いであり,その形態は原告商品と実質的に同一である。
確かに,原告商品と被告商品とでは,伸縮可能な段の数,長さ等において相違があるが,これらは誰もが容易に想到できる改変にすぎず,これによって実質的な同一性が失われるわけではない。
イ 被告は,原告が原告商品を市場に供給し,それがヒット商品として消費者に受け入れられたのを知るや,直ちに本件アンテナの形態を模倣した被告商品の製造を始め,販売した。
被告が原告商品に依拠したことは,発売当初の被告商品の使用説明書の文言,図面(甲8の1)が原告商品の使用説明書のそれ(甲2)と全く同じことから明らかである。
(被告の主張) ア 法2条1項3号にいう商品の形態とは,商品の形状,模様(図柄),色彩(色相,明度,彩度等),質量感,光沢感等を含むものである。
この観点から,原告商品と被告商品の形態を比較すると,次の点で相違している。
@ 伸縮可能な段の数 被告商品は6段式であるのに対して,原告商品は5段式である。原告は,後にさらに感度を向上させるため6段式のアンテナを製造販売しているが,このことは伸縮可能な段の数が商品を差別化する要素であり,この点の相違が商品形態に重要な違いを与えることを意味している。
A 伸縮時の全体の長さ 被告商品は全長16.5pであるのに対し,原告商品は全長11.2pである。アンテナの全長は電波受信感度に影響を与えるもので,しかも受信時に伸ばして使用することが前提となっているから,伸長時の形態の違いは重要である。
B 接続部 被告商品のうち,ゴールドの製品の接続部のネジ部材は黒色であるが,原告商品の当該部は本体部と同じゴールドである。
C アンテナ基部(アンテナの下端部分) 被告商品のうち,ゴールドの製品の当該部は本体部と同じゴールドであるが,原告商品は本体部がゴールドで,アンテナ基部が幅広のサイズかつ黒色になっている。
D アンテナの直径 直径の最大部分で比較すると,被告商品は6oであるのに対し,原告商品は5oである。被告商品の方が,直径で1.2倍,断面積で1.4倍となり,一層大きいという印象を与える。
以上の相違点を勘案すれば,原告商品と被告商品とでは,外観上,外見上の印象が全く異なるから,両者の形態が実質的に同一であるということはできない。
また,前記(2) において被告商品に含まれない旨主張したゴールド以外の色の製品及び「アンテナ君ナイン頭なし」については,仮に被告商品に含まれるとしても,一層強い理由で原告商品と実質的に同一であるとはいえない。
イ 被告が被告商品の製造を開始した経緯は次のとおりである。
株式会社乙製作所(以下「乙製作所」という。)は,平成9年8月初旬ころ,被告に対し,原告商品と同様の2段折れ収納形状の携帯電話機用アンテナを製品化する話を持ちかけた。被告は,この商談に応じることとし,すぐに試作品の製造に取りかかった。そして,同年9月,試作品ができ上がったので,サンプルの製造を乙製作所に依頼した。その後,サンプルに問題がなかったことから,被告は,同年10月28日,乙製作所に対し,アンテナの製品(被告商品)の製造を発注し,同年11月20日ころ,被告商品が完成した。
以上の経緯のとおり,被告は,原告商品が最初に販売された日とされる平成9年9月1日より前の同年8月ころから,被告商品の開発に着手していたものであり,原告商品に依拠して被告商品を製造したものではない。
(原告の反論-独自開発の主張に対して) 被告が,乙製作所から製品化の話を持ち込まれ,製造を開始したという事実は認めるが,その時期については否認する。
乙製作所は,アンテナ製作会社であるが,自社の工場を持たない,いわばブローカーのような存在である。原告代表者は,以前から乙製作所の代表者の乙(以下「乙」という。)とは面識があったが,乙は,平成9年10月の中旬から下旬にかけて,原告代表者に電話をして,原告商品と同じ製品を作ったこと,この製品を400円で卸すことを一方的に伝えてきた。
この事実からすれば,平成9年8月初旬に,乙製作所から被告に対し2段折れ収納形状アンテナの製品化の話が持ち込まれ,そのころから被告商品の開発に着手していたという経過はあり得ない。
(4) 原告商品の形態は,同種の商品が通常有する形態か。
(原告の主張) 原告商品は,前記のとおり,2段折り収納形状であることに特徴を有するが,この形態は「同種の商品が通常有する形態」には当たらず,法2条1項3号で保護されるべき商品の形態である。
すなわち,原告が最初に原告商品を販売した平成9年9月より前には,携帯電話機用アンテナとしては,細い金属線で構成され,先端部分に突起が取り付けられた付属アンテナがほとんどであり,それ以外にはシールアンテナしか存在しなかった。後記において被告が指摘するアンテナ(乙1)はトランシーバー用のものであり,「同種の商品」には当たらないし,仮に,通信手段として共通するということで同種の商品に含めるとしても,トランシーバー用アンテナとして2段折り収納形状がありふれているとは到底いえない。(被告の主張) 法2条1項3号の立法趣旨は,先行者の成果にただ乗りする行為を防止する点にあるところ,原告商品には「成果」に当たるものはない。
すなわち,原告商品が最初に販売されたとされる平成9年9月以前から伸縮可能なロッドアンテナは存在していたのであり,これを2段折れにすることは投下された資本,労力の点からみて極めてわずかな改変にすぎない。原告商品の製造に当たり,特に苦労を必要としたのはアンテナの携帯電話機への取付部分であると推測されるが,これは装着時には見えないものであるから,保護に値すべき形態とはいえない。
原告商品に類似する2段折れ収納形状のトランシーバー用のアンテナは,平成9年9月以前から市場に存在していた(乙1)。携帯電話機とトランシーバーとは,同じく通信手段に用いられるものであり,相互に類似する商品であるといえるから,2段折れ収納形状を特徴とする原告商品の形態は「同種の商品が通常有する形態」(法2条1項3号)に当たる。
仮にトランシーバーと携帯電話機とが類似しないとしても,原告主張の原告商品開発に至る経過によれば,携帯電話機の付替用アンテナで本体の外面に沿って収納可能なものが,同項にいう「同種の商品」に当たると解されるところ,原告商品の特徴である2段折れの部分のヒンジ2つを近接させた形態は,携帯電話機の外面に沿った収納という機能を実現するために不可避ないし通常想起される形態であるから,同種商品が「通常有する形態」に当たるというべきである。
(5) 原告の損害額 (原告の主張) ア 原告は,原告商品につき希望小売価格を6800円に設定しているが,実際には小売店等で4980円程度で販売されている。これに対して,被告は,被告商品の希望小売価格を5800円に設定し,小売店等においては2980円で販売されている。
そのため,原告は価格の面では被告に対抗できない状態となり,被告商品の販売により,営業上の利益を著しく侵害された。
イ 被告は,故意による不正競争を行い,原告の営業上の利益侵害したものであるから,それによって生じた損害を賠償するべきところ,被告が不正競争行為によって得た利益の額は,上記営業上の利益に相当する損害の額と推定される(法4条,5条1項)。
ウ そこで,被告が得た利益の額についてみるに,次のとおりである。
@ 「アンテナ君ナイン」について この製品の卸売価格は1500円であり,被告の乙製作所からの仕入れ価格は400円である。それに加えて,パッケージなどの経費を差し引くと,製品1本当たりの粗利に相当する額は約1000円となる。
被告は,平成9年11月から同12年3月までの間に「アンテナ君ナイン」の製品を少なくとも10万本製造し,販売したはずであるから,これによって得た利益の額は1億円となる。
この利益額の算定において,後記被告主張の一般管理費については控除すべきではない。仮にこれを控除するとしても,商品の販売に実質的に必要な運賃代20円及び管理費20円の限度にとどめるべきである。
なお,原告において,被告作成の納品書,売掛帳等の証拠に基づき,上記利益額を算定した結果は,6460万6428円であった。
A 「アンテナ君ナイン頭なし」について この製品は,被告が株式会社パール無線(以下「パール無線」という。)他1社に供給しているものであるが,その供給価格は約800円と推定される。これから諸経費を差し引いても,被告は1本当たり250円の利益を得ているものと推定される。
被告は,平成10年3月から同11年9月までの間に,パール無線他1社に対して「アンテナ君ナイン頭なし」の製品を少なくとも20万本供給しているから,これによって得た利益の額は5000万円となる。
この利益額の算定において一般管理費を控除すべきでないことは,前記@におけると同様である。
なお,原告において,被告作成の納品書,売掛帳等の証拠に基づき,上記利益額を算定した結果は,1763万0700円であった。
エ 被告が,原告商品の形態模倣して,被告商品を販売する行為は,原告の営業活動を妨害する極めて違法性の強い行為であるが,被告には加害行為についての故意があり,これにより原告は得べかりし利益を喪失するという損害を被ったのであるから,この行為は同時に一般不法行為も構成する。
被告の上記一般不法行為により原告が被った損害の額を計算すると,原告商品の1本当たりの粗利相当額は2000円であり,これに被告の販売した被告商品の数量10万本を乗じると2億円となる。
なお,原告において,被告作成の納品書,売掛帳等の証拠を検討したところ,被告は「アンテナ君ナイン」だけでも9万1274本を販売したものであるから,これによる原告の得べかりし利益の喪失額だけでも1億8254万8000円である。
オ よって,原告は,被告に対し,形態模倣による不正競争に基づく損害賠償又は一般不法行為を理由とする損害賠償(選択的請求)として,1億5000万円(ただし,一般不法行為を理由とする損害賠償については一部請求として)及びうち1000万円に対する平成11年2月3日(同月4日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から,うち1億4000万円に対する平成12年3月23日(同年2月25日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張) ア 仮に,被告が損害賠償責任を負うとしても,原告主張の損害額については,争う。
被告は,平成9年12月から同12年3月までの間,被告商品を含む全取扱商品を販売するに際して計2億1567万7000円の販売管理費を要した。
このうち,被告商品に含まれるゴールドの製品に係る販売管理費は1438万2828円であり(全売上金額に占めるゴールドの製品の売上金額の割合を乗じて計算した。),この金額はゴールドの製品の売上高から控除されるべきである。
また,ゴールドの製品については,1696本の返品があるので,これに売上単価である1200円を乗じた203万5200円も売上高から控除されるべきである。
イ 不正競争防止法は,不法行為の特殊な類型として損害賠償責任を生じる不正競争行為を規定したものであるから,不正競争防止法に規定されている行為の類型については,民法の一般不法行為に関する規定は適用されないのが原則であり,ただ,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を著しく逸脱する行為についてのみ例外的に適用されると解するのが相当である。本件で,原告は,被告が被告商品を販売等する行為が不法行為であると主張するが,前記例外を基礎づける事情についての主張立証はないから,この主張はそれ自体失当である。
仮に,一般不法行為に基づく損害賠償請求権を主張することが許されるとしても,被告の行為がなければ原告主張の数量分だけ原告商品を販売することができたとする因果関係は存在しないし,原告主張の1本当たり2000円という利益額の根拠も明らかではないから,被告は損害賠償責任を負わない。
当裁判所の判断
1 争点(1) (原告商品の開発経過)について (1) 証拠(甲3の1,3の2,4,5,12,22〜25,34〜37,38の1,38の2,39,乙2,検甲1,2)によれば,原告商品の開発経過に関して,次の事実が認められる。
ア 我が国では,平成7,8年ころから携帯電話が急速に普及するようになり,それとともにカバー,ストラップ等の付属品の需要も拡大した。その当時,付属品の中で,携帯電話機に付属するアンテナは感度が悪く,ユーザーや販売業者の間ではもっと感度のよいアンテナが求められていた。平成8年ころには,平たいアンテナを携帯電話機に貼り付けた「シールアンテナ」というアンテナも発売されたが,実際にはそれほど感度が上がらず,それほど普及しなかった。
イ 原告会社では携帯電話機の販売を行っていたことから,原告代表者の甲(以下「甲」という。)は,感度のよくなるアンテナの開発を検討していたが,平成9年1月ころから,伸縮可能なロッド式アンテナを使用すれば感度を上げることができるが,付属アンテナのように携帯電話機の中に収納することができず携帯に不便であることから,この欠点をいかに解決するかという問題に直面していた。
その中で,甲はアンテナを2段折れにするという発想に至り,原告商品の基本的な構想ができあがった。
ウ 甲は,上記アンテナの試作品を製作して,実験をし,大丈夫であるとの確信を得たので,従来からの取引先である台湾のハオチャン社に製造を委託することにした。そこで,甲は,平成9年6月ころに,原告商品の仕様を記載した手書きの図面をハオチャン社にファクシミリで送信したところ,その承認図(甲3の1)が同年7月8日にハオチャン社からファクシミリで返送された。甲は,この図面をみて,これでサンプルを作ってほしいと連絡したところ,ハオチャン社から同月中旬ころ,承認図に基づいたサンプルが送られてきた。
エ 甲は,上記サンプルにつき,当時市販されていたすべての携帯電話機に装着可能かどうかテストをしたところ,サンプルの取付部分のネジが富士通の製品にだけ合わず,装着できないことが判明した。
そこで,甲は,直ちに仕様変更の設計をし,ハオチャン社に対してこれに基づく仕様変更を依頼した。それから約1週間後に,仕様を変更した図面(甲3の2)とそのサンプルが原告会社に送られてきたため,甲は再度テストをしたところ問題がなかったので,ハオチャン社に対して,正式に製造の発注をした。最初の発注は,3000本(納期は平成9年9月中旬)であったが,甲は,そのうち200本については,できるだけ早く納品するようにハオチャン社に依頼した。
オ ハオチャン社は,これを受けて原告商品の製造を本格的に始め,平成9年8月末ころ,最初の製品200本を原告に納品した。そこで,甲は,同年8月末から9月上旬にかけて,本格的な販売開始に先立ち,その200本を無償サンプルとして,自ら又は卸先の中越自動車用品株式会社を通じて,取引先,携帯電話機の販売店の担当者に交付して,実際に使用してもらった。その結果,地下の入口や建物の内部など従来の付属アンテナでは感度が悪化したり,圏外の表示が出るような場所でも,原告商品を用いれば感度が維持され,問題なく通話できることが確認された。甲は,この結果に満足したが,感度が上がることの理論的な根拠を確認したいと考え,知り合いの無線機器の専門家である丙に尋ねたところ,原告商品は従来の付属アンテナと比べ長さは同じでも太さが太いので必ず感度は上がるという回答を得た。さらに,甲は,丙のアドバイスを受けてハオチャン社に実験のデータを要求したところ,同年9月12日付けでハオチャン社の技術者作成のグラフ(甲23)が送られてきた。
カ 前記無償サンプルは配布先において好評を博し,マルイ,ヨドバシカメラ,ビックカメラ,カメラのさくらや,キムラヤ,ノジマなどの大手販売店をはじめ,秋葉原の電気街を中心とするその他の販売店との間で次々に商談がまとまり,同年9月中旬以降,原告商品の販売先は拡大していった。特に,同年12月上旬ころ,雑誌「TOKYO1週間」において「超高感度スーパーアンテナ」という名称で原告商品が紹介されたときは,原告会社に問い合わせの電話が入るなど大きな反響がみられた。
原告会社は,平成9年10月以降もハオチャン社に原告商品を発注し,納品を受けていたが,同10年1月以降は発注量が増加し,ハオチャン社だけでは製造が追いつかなくなった。甲は原告商品のOEM契約による供給先であるシーバースに相談したところ,シーバースは知り合いのインターマートから製造元として台湾のインハオ金属工業を紹介された。そこで,原告はインハオ金属工業に原告商品の製造を委託し,インターマート,シーバースを介して,これを購入することとした。当初は,インハオ金属工業がインターマートに輸出し,シーバースがインターマートから購入するという形の取引であったが,途中から,シーバースがインハオ金属工業から直接輸入する形の取引となり,信用状(LC)もシーバースの名義で作成された。そして,シーバースはインハオ金属工業に対して支払った代金をその都度原告に請求していた。
キ 原告商品が本格的に販売されるようになった平成9年10月中旬から末ころ,アンテナ製作会社である乙製作所の代表者の乙は,以前からお互いに面識のあった甲に電話をかけ「あんたのところの商品を見て,ウチでも同じ物を作るよ。
ウチでは同じ物を400円で出すからね。」と一方的に述べた。甲は,その時は乙が何のためにわざわざ電話をしてきたのかよくわからなかったが,被告が被告商品の販売を開始したのを知り,乙は原告商品の価格が高いことに対する皮肉からか,自分の方が安く作れるということを知らせてきたものと理解した。
(2) 法2条1項3号の趣旨につき考察するに,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき,他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは,先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正な行為と評価されるべきものであり,また,このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から,模倣者の右のような行為を不正競争として規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが,同規定の趣旨と解するのが相当である。これによれば,法2条1項3号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は,形態模倣の対象とされた商品を,自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
本件においては,前記認定のとおり,原告代表者の甲が原告商品の特徴である2段折れ収納形状であるアンテナを構想し,台湾のハオチャン社とのやり取りを重ねて製品化し,日本で販売を開始したというのである。
したがって,原告は自ら原告商品を開発し,商品化して市場に置いた者ということができるから,原告商品に関して,法2条1項3号所定の不正競争行為につき,損害賠償を請求し得るものである。
(3) この点に関して,被告は,台湾のインハオ金属工業は平成5年ころから原告商品に類似する携帯電話機用のアンテナを販売していた旨主張し,これを立証するためとしてカタログ,図面等を証拠として提出するが(乙4,5,8,10,18の1〜3,20の1〜3),いずれも上記事実を立証するには足らないというべきである。すなわち,カタログ(乙4,5)には原告商品と同一又は類似する2段折れ収納形状の携帯電話機用のアンテナが掲載されているが,このカタログ自体には発行日の記載がなく(乙5については作成者すら不明である。),他にこれらが平成9年8月以前に頒布されていたことを証明するに足りる証拠はない。次に,インハオ金属工業作成の図面(乙8)には,2段折れ形状のアンテナが記載され,かつDATE(日付)の欄には「FEB.2.92」と記載されているが,証拠(乙18の1)によれば,このアンテナは6インチブラウン管カラーテレビ用のアンテナであることが認められるから,被告の主張を裏付けるものではない。また,2段折れ形状のアンテナの図面(乙18の3,20の2)については,DATE(日付)の欄にそれぞれ「JUN.10.97」「97.4/3」と記載されているが,この記載が仮に正しいとしてもその日付(平成9年6月10日,同年4月3日)に図面が作成されたということを意味するにすぎず,この図面に記載されたアンテナを商品として販売した事実があるかは不明である。なお,乙10,18の1,20の3の各号証は,被告代表者及びアンテナメーカーの代表者作成の陳述書などであり,客観的な証拠とはいえない。
また,被告は原告が自らインハオ金属工業から原告商品を輸入していないことを指摘して,原告商品の開発経過に関する原告の主張が虚偽であることの1つの根拠とするが,原告がインターマートの仲介でインハオ金属工業から製品を輸入するようになったこと,その際シーバースの名義でLCの口座を開設したことは,前記(1)カ認定のとおりであるから,原告との間で直接の取引がない旨のインハオ金属工業作成の証明書(乙15)とは何ら矛盾することはなく,他に前記認定の事実を覆すに足りる証拠はない。
2 争点(2) (被告商品の範囲)について (1) 民事訴訟においては,訴訟の対象は専ら原告の申立てにより決せられるものであり(民訴法246条参照),法2条1項3号所定の不正競争行為を理由とする請求においても,被告の販売する製品のうちどの範囲の物を模倣品として差止請求ないし損害賠償請求の対象とするかは,原告の選択に任されているところであって,原告による申立ての内容が明瞭でない場合に,訴状・準備書面の記載,口頭弁論期日における原告の陳述等の訴訟行為の内容から裁判所が原告の合理的意思を解釈して,申立ての対象の範囲を判断することがあるとはいえ,訴訟の対象は,一義的には,原告の訴訟行為により確定されるべきものである。
(2) これを本件についてみると,原告は,訴状陳述の段階では,被告商品の形態につき別紙物件目録のとおりであると特定しつつ,その商品名は「アンテナ君ナイン」であると主張したが,平成11年2月4日付け訴え変更申立書において,本件で原告が対象とする被告の製造販売等に係る商品とは,「アンテナ君ナイン」という標章が付されているか否かを問わず,別紙物件目録記載の携帯電話機用アンテナと同一の形態を有するアンテナをすべて包含する趣旨であると明確に主張していることが,認められる。
そうすると,原告としては,別紙物件目録記載のアンテナと同一の形態のアンテナであればそのすべての製品について被告がこれを販売する行為について損害賠償を請求したものであって,対象製品を商品名により限定する趣旨でないことは明らかである。また,別紙物件目録をみても,同目録は図面によって被告商品の形状を特定したものであり,説明部分の記載からも商品の色彩による限定を加えたものとは解されない。したがって,原告が本件訴訟において対象とする被告商品には,ゴールド(金色)以外の色のアンテナも含まれるというべきである。
3 争点(3) (被告商品は原告商品の形態模倣した商品かどうか)について (1) 法2条1項3号は,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態模倣して,その成果にただ乗りする行為を不正競争行為と位置付けることにより,先行者の開発利益を模倣者から保護することとした規定である。この趣旨からすれば,同号にいう「模倣」には,当該商品の形態と実質的に同一のもの,すなわち,他人の商品の形態に創作性の乏しい微細な改変を加えただけの,いわゆる隷属的模倣も含まれる。そして,実質的同一性の範囲を判断するに当たっては,当該商品分野において当該商品が既存の商品と比較して商品形態において差別化の認められる特徴を確定することを通じてこれを判断するのが相当というべきである。
(2) これを本件についてみると,前記1(1) で認定したとおり,原告は,2段折り収納形状の携帯電話機用アンテナである原告商品を他者に先駆けて開発し,市場に置いたものと認められる。すなわち,証拠(甲13〜16)によれば,原告商品が販売されるまでは携帯電話機の付属アンテナが一般的に用いられていたのであって,この点からすれば,原告商品において,当該商品分野における既存商品と区別される形態的特徴は,2段折れ収納形状にあるものというべきである。
そこで,原告商品の形態と被告商品のそれを比較すると次のとおりである。すなわち,原告商品の形態は別紙原告商品形態図のとおりであり,被告商品のうち「アンテナ君ナイン」という商品名の商品の形態は,別紙物件目録のとおりである(当事者間に争いがない。)。そして,証拠(甲6,7,40〜121〔枝番号を含む。〕,乙26,検甲1,2,検乙1〜3)及び弁論の全趣旨によれば,各商品の形態の具体的な特徴は次のとおりであると認められる。
ア 原告商品 @ 全体の構成は,携帯電話機に接続する支持部と電波を送受信するアンテナ部とそれらを結合する接続部からなっている。
A 支持部はネジ部とネジ固定腰部(被告主張の「アンテナ基部」)からなり,ネジ固定腰部は太くなっており黒色に着色されている。
B 接続部は2つのヒンジからなり,接続部全体で2段に折れ曲がるようになっている。
C アンテナ部は5つの段に分かれ,伸縮可能になっている。アンテナ部の先端にはアンテナの軸よりも太くなった頭部が付いている。
D アンテナを最大に伸ばしたときの長さは,約11.2pである。
E アンテナ部で最も太い部分の直径は,約5oである。
F 全体の色彩は金色である。
イ 被告商品 @ 全体の構成は,携帯電話機に接続する支持部と電波を送受信するアンテナ部とそれらを結合する接続部からなっている。
A 支持部はネジ部とネジ固定腰部からなり,ネジ固定腰部は太くなっている。
B 接続部は2つのヒンジからなり,接続部全体で2段に折れ曲がるようになっている。ヒンジのネジ部材は黒色に着色されている。
C アンテナ部は6つの段に分かれ,伸縮可能になっている。アンテナ部の先端にはアンテナの軸よりも太くなった頭部が付いている。なお,「アンテナ君ナイン頭なし」の商品は,「アンテナ君ナイン」の頭部を切り落とし,ネジ切りを設けるという加工を施したものである。
D アンテナを最大に伸ばしたときの長さは,約16.5pである。
E アンテナ部で最も太い部分の直径は,約6oである。
F 全体の色彩は金色のほか,銀色や黒色その他の色のものもある。
(3) 前記(2) の事実によれば,原告商品と被告商品は,全体の構成並びに支持部及び接続部の形態を共通にし,特に従来の製品にはなかった2つのヒンジを連結させた2段折れの形状を備える点においても共通する。
他方で,両者の形態を対比すると,@原告商品は,アンテナ部が5段式になっているのに対し,被告商品は6段式であること,A原告商品は,伸長時の全長が約11.2pであるのに対し,被告商品は約16.5pであること,B原告商品は,アンテナの最大直径が約5oであるのに対し,被告商品では約6oであること,C原告商品では,全体の色が金色であるのに,被告商品では金色のほか,銀色や黒色など他の色のものもあること,Dその他,ネジ固定腰部及びヒンジのネジ部材の色が異なる,といった相違点があることが認められる。
上記認定の原告商品と被告商品の全体の形態の共通点,特に2段折れの形状を備える点は両製品の主要部分にかかわるものである。これに対し,上記認定の相違点のうち,@からBまでについては,アンテナを長くすれば感度がよくなること(甲22及び弁論の全趣旨により認められる。),原告は原告商品の発売後すぐにアンテナ部を6段式にした製品の開発に着手し,平成10年1月から販売を開始したこと(弁論の全趣旨により認められる。)からすれば,わずかな改変であって容易に着想可能であるといえる。Dの色彩の違いについては,些細なものであり,商品全体の形態からすれば有意な差異とはいえない。さらに,Cの色の違いについては,原告商品と被告商品では全体の形態が共通していることからすると,同一性の判断に影響するとはいえない。
被告は,「アンテナ君ナイン頭なし」の製品については,原告商品とアンテナの先端部の形状を異にするから実質的に同一ではないと主張するが,この点については商品全体の形態からすれば些細な改変であって,同一性の判断には影響を及ぼさないというべきである。
以上によれば,原告商品の形態と被告商品の形態は酷似しており,実質的に同一であるということができる。
(4) 被告商品は原告商品の販売開始から約3か月後に販売が開始されたものであること,その間に原告商品は注目を浴び,人気商品として雑誌にも取り上げられるほどであったこと,前記(1) ないし(3) のとおり原告商品と被告商品は酷似していること,原告商品のパッケージの商品説明書と被告商品のパッケージの商品説明書を比べると,表現や言葉遣いを含めてほとんど同じであること(甲2,甲8の1,2により認められる。)からすると,被告商品は原告商品に依拠して作られたものであると認められる。
被告は,原告商品の形態を知らずに,平成9年8月ころから被告商品の開発に着手していた旨主張するが,前記1(1) 認定の事実経過に照らし,この主張は採用することができない。
(5) 以上によれば,被告商品は原告商品の形態模倣した商品と認められる。
4 争点(4) (同種の商品が通常有する形態)について (1) 不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするものであるが,他方で,当該他人の商品と同種の商品が通常有する形態を保護の対象から除外している。前述のとおり,同規定は,模倣者の行為を不正競争として規制することによって,先行者の開発利益を保護することとしたものであるが,他方,先行者において特段の資金・労力を要さずに容易に作り出せるような,特段の特徴もない同種の商品に共通するごくありふれた形態は,前記のような観点からの保護に値せず,また,同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態については,商品の形態を超えて同一の機能・効用を有する同種の商品そのものの独占を招来することとなり,複数の商品の市場における競合を前提としてその競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨そのものにも反することとなるので,これらの形態を同法の保護の対象から除外したものである。
(2) 本件においては,前記認定のとおり,原告は,2段折り収納形状の携帯電話機用アンテナである原告商品を他者に先駆けて開発し,市場に置いたものである。携帯電話機用アンテナとしては,従来電話機の付属アンテナが一般的に用いられていたことからしても,2段折り収納形状がアンテナとしての機能を発揮するための不可避的な形態ということはできないし,また,携帯電話機用アンテナの分野において既存の製品に2段折り収納形状の物が存在しなかったのであるから,同形状が同種の商品の形態としてありふれたものであるということもできない。したがって,原告商品の形態をもって,「同種の商品が通常有する形態」ということはできない。
この点について,被告は原告商品に類似する2段折れ収納形状のアンテナが存在していたことの証拠として,雑誌「ラジオライフ・1996年7月号」(乙1)を提出するが,そこに掲載されているアンテナはトランシーバー用のものであるから(甲11により認められる。),原告商品の属する携帯電話機用のアンテナとは商品分野を異にするものであって,本件に適切でない。
5 争点(5) (原告の損害額)について (1) 原告は,被告の不正競争行為によって被った損害として,被告がこれによって得た利益に相当する金額の賠償を求めているので,被告の得た利益額について,以下検討する。
ア 証拠(甲40〜121〔ただし,枝番号を含む。以下同じ〕,122の6,122の21,123の10)によれば,被告は,平成9年11月から同11年9月までの間,被告商品のうち「アンテナ君ナイン」の商品を合計8万7715本販売し,売上げは1億0603万3102円であること,証拠(甲48の14,61の3,62の10,63の1,67の1,69の8,71の11,71の13,72の1,75の5,80の1,109の4,109の5,109の10,109の12,109の15,109の18,110の3,110の14,111の7,114の1,114の4,114の6〜114の8,114の11,115の7,115の10,116の3,116の6,116の11,117の13,119の1,119の3,120の1)によれば,被告は,平成10年3月から同11年9月までの間,被告商品のうち「アンテナ君ナイン頭なし」の商品を合計12万9575本(返品分を除く。)販売し,その売上げは合計で6071万8950円であることがそれぞれ認められる。
イ 次に,被告商品の製造原価については,証拠(甲125)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品のうち「アンテナ君ナイン」の製造原価としては以下に掲げる項目があり,それぞれの金額は次のとおりであることが認められる。
@ アンテナ本体の購入価格 428円 A パッケージ代 23円 B 組立代 30円 C 検査代 10円 したがって,「アンテナ君ナイン」の商品1本当たりの製造原価は上記金額を合計した491円である。
また,証拠(甲126)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品のうち「アンテナ君ナイン頭なし」の商品については,「FP-38G」「FP-38S」「FP-38P」という3種類の商品番号の商品があること,うち前二者の商品の販売数量の合計は12万2295本であり,「FP-38P」の商品の販売数量は7280本であること,これらの商品の製造原価としては以下に掲げる項目があり,それぞれの金額は次のとおりであることが認められる。
(ア)FP-38G及びP-38Sについて @ アンテナ本体の購入価格 350円 A 検査代 10円 (イ)FP-38Pについて @ アンテナ本体の購入価格 400円 A 検査代 10円 したがって,「アンテナ君ナイン頭なし」の商品1本当たりの製造原価は,FP-38G及びP-38Sの商品については360円,FP-38Pについては410円である。
ウ 証拠(乙24の1,2)によれば,被告の平成9年度(平成9年4月1日から同10年3月31日まで)の損益計算書では,売上高1億8264万6543円に対する販売費及び一般管理費が1億0382万2800円であること(割合は56.8パーセント),平成10年度(平成10年4月1日から同11年3月31日まで)の損益計算書では,売上高2億9424万8409円に対する販売費及び一般管理費が1億0996万1079円であること(割合は37.4パーセント)がそれぞれ認められる。
5条1項は,不正競争行為を行った者が当該行為により利益を受けているときは,その利益の額をもって,当該侵害行為による被害者の損害額と推定することを規定しているが,ここにいう「利益」とは,純利益を意味するものではなく,当該侵害品の販売価額から材料・工賃等の原価及び製品の販売数量に応じて変動する運搬費・広告費・保管費等の変動費用のうち侵害品の販売に対応する額を控除した金額を意味するものと解するのが相当である。
本件においては,被告においては,上記のとおりの販売費及び一般管理費を支出していることが認められるが,被告商品は原告商品を模倣したものであって開発費等は不要であったこと,被告は被告商品の他に「アンテナ君」「アンテナ君セブン」「アンテナ君テン」「クリップ君」「ジャンプアップアンテナ」といった多数の携帯電話機用商品を扱っていること(甲40〜121により認められる。),被告会社は従業員5名という小規模な企業にしては販売費及び一般管理費の内訳において役員報酬及び給料手当の占める割合が高いこと(乙24の1,2,乙25により認められる。)などの事情に,被告商品の商品分野,単価,販売数量,販売期間等の諸般の事情を総合すれば,被告商品の販売価額から原価と共に変動経費として控除すべき額としては,販売価額の15パーセントを相当と認める。
この点につき,原告は一般管理費を控除するべきでないと主張するが,たとえ他人の商品の形態を模倣した商品であっても,当該商品の販売に対応して支出した変動経費であれば,これを控除するのが相当である。なお,被告作成の原価表(甲125,126)には,原価として運賃代20円,管理費20円との記載があるが,この各費目は上記の変動経費に含まれるものとして考慮すれば足り,さらに製造原価として控除するべきではない。
エ 以上によれば,被告が被告商品のうち「アンテナ君ナイン」について得た利益の額は,売上高から製造原価及び変動経費を控除した4706万0072円と認められる。
106,033,102-(491×87,715)-(106,033,102×0.15)=47,060,072 また,被告が「アンテナ君ナイン頭なし」の商品について得た利益の額は,売上高から製造原価と変動経費を控除した460万0108円と認められる。
60,718,950-{(122,295×360)+(7,280×410)}-(60,718,950×0.15) =4,600,108 そうすると,被告は上記金額を合計した5166万0180円の利益を得たことになるが,特段の反証のない本件では,法5条1項により,この金額が被告の不正競争行為によって原告が被った損害の額と推定される。
オ なお,一般不法行為を理由とする請求については,本件全証拠によっても,被告の行為と原告の主張する得べかりし利益の喪失との間の因果関係を認めることができないから,理由のないことが明らかである。
6 まとめ 以上によれば,原告の損害賠償請求は,被告に対し,法2条1項3号所定の不正競争行為(形態模倣)を理由として5166万0180円及びうち1000万円に対する平成11年2月3日(同年2月4日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から,うち4166万0180円に対する平成12年3月23日(同年2月25日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 和久田道雄
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