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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ14972不正競争行為差止等請求事件 平成17ワ22496損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 特段の事情 /  他人の商品 /  類似性(類似) /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  ただ乗り(フリーライド) /  代理人 /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  損害賠償 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 17401号 損害賠償請求事件
原告 株式会社百花コーポレーション
訴訟代理人弁護士 横山康博
同 安部井上
同 川上詩朗
被告 株式会社ティ・エム・コーポレーション
訴訟代理人弁護士 日置雅晴
同 桜木和代
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/06
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は,原告に対し,金1986万9040円及びこれに対する平成12年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,「寿司百花」なる名称の宅配鮨のフランチャイズ・チェーンを主宰する株式会社である。本件は,原告が,山梨県内で宅配鮨店「玄輝寿し」(竜王店,甲府店)を経営する被告に対し,@ 被告の商品である宅配鮨は,原告の商品である宅配鮨の形態を模倣したものであり,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為であると主張して,損害賠償を求めるとともに,A 被告の営業形態は,原告のそれを完全に模倣しており,自由競争の枠を越えた悪質・違法な模倣商法であると主張して,民法709条に基づき損害賠償を求めているものである。
1 争いのない事実等 (1) 原告は,食品の販売や宅配鮨のフランチャイズ加盟店の募集等を目的とする株式会社であり,平成8年7月ころから,「寿司百花」なる名称のフランチャイズ・チェーンを主宰するとともに自らも直営店を経営し,平成9年11月には,「寿司百花」甲府昭和店を開店した。
被告は,米穀の販売及び飲食店の経営等を目的とする株式会社であり,平成12年4月ころ,山梨県中巨摩郡竜王町内に「玄輝寿し」竜王店を,同年5月ころ,同県甲府市内に「玄輝寿し」甲府店をそれぞれ開店するなど,前記「寿司百花」甲府昭和店と同じ商圏において,「玄輝寿し」なる屋号で原告と同種の宅配鮨店を経営している。
(2) 原告は,別紙商品対照表の原告商品欄記載の各商品(以下,これらを総称して「原告商品」ということがある。)を宅配鮨として販売しており,一方,被告は,同表の被告商品欄記載の各商品(以下,これらを総称して「被告商品」ということがある。)を宅配鮨として販売している。これら各商品の形状は,別紙商品写真対応表のとおりである。
2 争点及び当事者の主張 (1) 争点1(不正競争防止法2条1項3号所定の形態模倣の成否) 〔原告の主張〕 宅配鮨は,店舗内で個々の注文を受けてその場で飲食に供する握り鮨と異なり,1つの容器に盛り付けられた1セットごとに電話等で注文を受け,宅配して提供するものであるから,1セット全体の形態を問題にしなければならない。宅配鮨における「商品の形態」とは,使用する容器,ネタ及び添え物の種類,配置等によって構成される全体としての形状,模様,色彩,光沢及び質量感などをいう。
本件において,別紙商品対照表及び別紙商品写真対応表における原告商品欄に掲げた原告商品と,これに対応する欄に掲げた被告商品とを比較すると,ネタの選択,当該ネタを用いた個々の握り鮨の個数,各種ネタを用いた握り鮨相互の配列・盛り付けなどの点において,まるでコピーしたかのように類似しているから,被告商品は,原告商品の形態模倣したものというべきであり,被告が被告商品を販売する行為は,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当する。
〔被告の主張〕 @ 原告及び被告が使用する鮨の容器は一般的な市販品であり,A 原告商品及び被告商品のネタ及び添え物は,どこの鮨店でも使用されている常識的なものであり,B 鮨の色彩・光沢は,特徴ある形・大きさを採用したり,特別に着色したりしない以上,食材である魚の切り身や卵などの自然素材が本来備えている色彩・光沢に限定されるのであり,原告商品も被告商品もその域を出ない。
そうすると,保護すべき形態として可能性が残るのは,個々の握り鮨の組み合わせと並べ方だけとなるが,被告商品における鮨の組み合わせや並べ方は,これまで伝統的に行われてきた手法に基づいたものであって,握り鮨という商品が通常有する形態の域を出ないというべきである。また,そもそも,これらの組み合わせや並べ方は,不正競争防止法2条1項3号によって保護される「形態」の範囲外にあるアイデアに類するものというべきである。
であるから,以上によれば,被告商品が有する形態は,握り鮨という商品が通常有する形態の域を出ないというべきである。
(2) 争点2(民法709条の1般不法行為の成否) 〔原告の主張〕 被告が,「寿司百花」甲府昭和店と同一の商圏において,「玄輝寿し」竜王店及び甲府店を営業するに際し,原告の営業形態に類似した営業形態を採用したことは,民法709条の1般不法行為を構成する。
すなわち,@ 原告の営業用チラシに写真で掲載されている商品のほとんど全部について,鮨ネタ,鮨の配置・盛り付け,価格及び商品番号が一致する商品が,被告のチラシにも掲載されている,A 原告のチラシに記載されているのと同一の注文,配達,集金のシステムが,被告のチラシにも記載されている,B 注文額に応じてスタンプを押し,スタンプが一定数に達したらサービスを提供するという,原告のチラシに記載されているのと同一のシステムが,被告のチラシにおいても記載されている,C 勧誘文章,注意書等についても,原告のチラシで用いられているのと同一の表現が,被告のチラシにおいても用いられている。被告が,原告と同一の商圏において,このような原告と同一の営業形態を採るのであれば,本来,原告と契約して原告傘下のフランチャイジーとして営業すべきであったにもかかわらず,原告の営業システム,商品の種類・内容・価格をそっくり模倣した営業を行ったのだから,これは,自由競争として許される範囲を超えた悪質な模倣商法というべきであり,原告に対して民法709条の1般不法行為を構成する。
〔被告の主張〕 原告は,あらかじめ弁論準備手続の終結及びそれに引き続いての口頭弁論の終結が予定されていた第6回弁論準備手続(口頭弁論終結の同じ日)において,従来の不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為を理由とする請求に加えて,被告の営業が民法709条の1般不法行為を構成する旨の請求を追加的に併合する訴えの変更を申し立てた。従来の不正競争防止法に基づく請求においては,宅配鮨という商品の形態模倣の有無が問題になっているのに対し,原告が新たに主張する一般不法行為を理由とする請求においては,実質的には営業上のノウハウの盗用が主張されているというべきであるから,追加的に申し立てられた新たな請求は,従前の請求と請求の基礎を同じくするものとはいえず,そもそも訴えの変更が許されず,そうでないとしても,時機に後れた申立てとして却下されるべきものである。
なお,原告の主張内容については,これを争う。
当裁判所の判断
1 争点1(不正競争防止法2条1項3号所定の形態模倣の成否)について (1) 不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするものであるが,他方で,当該他人の商品と同種の商品が通常有する形態を保護の対象から除外している。同規定の趣旨につき考察するに,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき,他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは,先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正な行為と評価されるべきものであり,また,このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。同規定は,このような観点から,模倣者の右のような行為を不正競争として規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたものであるが,他方,先行者において特段の資金・労力を要さずに容易に作り出せるような,特段の特徴もない同種の商品に共通するごくありふれた形態は,前記のような観点からの保護に値せず,また,同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態については,商品の形態を超えて同一の機能・効用を有する同種の商品そのものの独占を招来することとなり,複数の商品の市場における競合を前提としてその競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨そのものにも反することとなるので,これらの形態を同法の保護の対象から除外したものと解される。
(2) 本件において,まず,原告及び被告の商品である宅配鮨における「商品の形態」について検討するに,原告は,宅配鮨における「商品の形態」とは,使用する容器,ネタ及び添え物の種類,配置等によって構成される全体としての形状,模様,色彩,光沢及び質量感などをいうところ,被告商品は原告商品を模倣していると主張するのに対して,被告は,原告商品の形態は,宅配鮨が通常有する形態の域を出ないとして,これを争っている。
宅配鮨については,一般論としては,使用する容器,ネタ及び添え物の種類,配置等によって構成されるところの1個1個の鮨を超えた全体としての形状,模様,色彩及び質量感などが商品の形態となり得るものであって,容器の形状や,これに詰められた複数の鮨の組合せ・配置に,従来の宅配鮨に見られないような独自の特徴が存するような場合(例えば,奇抜な形状の容器を用いた場合や,特定の文字や図柄など何らかの特徴的な模様を描くように複数の鮨を配置した場合)には,不正競争防止法による保護の対象たる「商品の形態」となり得るものと解される。
そこで,この点を原告商品についてみると,原告商品の形態は,別紙商品写真対応表の原告商品欄に記載したとおりであるが,容器として用いられているのは,黒色の丸形の鮨桶(ただし,「193すみれ」のみは角形の箱)であり,そこに詰められている鮨については,にぎり鮨,ちらし鮨,丼物,巻鮨とも,1個1個の鮨はネタの種類や鮨の大きさ・形状を含めて従来からある一般的な内容のものであり,また,その組合せ・配置にしても,同種のネタの握り鮨・巻鮨を集め,これらを並べたもので,何らかの文字や図柄を表すような特徴ある形での配置はされていない。そして,これを他のフランチャイズ・チェーンや鮨店の宅配鮨(甲3号証〜9号証,乙2号証の1〜13)と比較すると,これら他店の商品と比べても,容器の形状や,鮨の組合せ・配置において,原告商品を他店のものと有為に識別するに足りる独自の特徴を見出すことはできず,従来から知られた伝統的な鮨の盛付け方法(乙1号証〔すし技術教科書〕)に照らしても,一般的な容器,盛付けの範疇を出るものではない。
そうすると,原告商品の形態は,同種の商品が通常有する形態というべきであるから,不正競争防止法による保護の対象外というべきであり,被告商品の形態において原告商品の形態と共通する点があるとしても,被告の行為をもって不正競争行為ということはできない。
したがって,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為をいう原告の請求は,理由がない。
2 争点2(民法709条の1般不法行為の成否)について (1) 民法709条の1般不法行為を理由とする請求は,被告主張のとおり,審理の最終段階で,原告により訴えの追加的変更として申し立てられたものであるが(このことは,当裁判所に顕著である。),一般不法行為を構成する被告の行為として原告の主張する内容は,商品形態の同一をいう点を含め,その多くが従前の不正競争防止法に基づく請求につき原告の主張する内容と重複するものであるから,原告による訴えの追加的変更に係る請求は,従前の請求との間で,請求の基礎の同一性を有するものというべきである。
また,原告による上記訴えの変更は,審理の最終段階においてされたものであるが,上記のとおり,新たに追加された不法行為を理由とする請求は,その請求原因の多くを従前の不正競争防止法上の請求における請求原因と同じくするものであり,原告は,この請求の追加に当たって新たな人証の申請等を行っておらず,既に取り調べ済みの証拠による判断を求める趣旨で,弁論準備手続の終結及びそれに引き続いての口頭弁論の終結に応じているものであって,訴訟の完結を遅延させるものでもないから,時機に後れたものとして却下することなく,追加に係る請求について判断することとする。
(2) そこで,検討するに,原告が被告による一般不法行為として主張する内容のうち,被告商品の形態が原告商品の形態と共通するという点については,前記のとおり,原告商品の形態が同種の商品が通常有する形態の範囲のものであることから,不正競争行為に該当するものではない。そして,市場における競争は本来自由であるべきところ,一定の範囲の行為についてのみ,不正競争行為としてこれを規制する不正競争防止法の趣旨に照らせば,同法において規制の対象とならない行為については,当該行為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,民法709条の1般不法行為を構成することもないというべきである。したがって,このような特段の事情の認められない本件において,商品形態の同一等を理由とする原告の一般不法行為の主張は,採用することができない。
また,原告の主張するその余の点についても,証拠(甲1号証〜9号証,乙2号証の1〜13)及び弁論の全趣旨によれば,注文・宅配・集金のシステムや,注文の際の便宜のために商品に番号を付すること(甲3,4,6,8号証,乙2号証の1,2,3,4,8,9,11),注文額に応じたスタンプの収集を通じての付加的サービスの提供(甲3号証,乙2号証の3,4,12)などは,いずれも,宅配鮨の営業を行う他のフランチャイズ・チェーンや鮨店においても見られるものであり,原告と被告のチラシにおける勧誘文章も他の業者間に見られる類似の範囲を超えるものとはいえず,同種商品の価格が同一であることは,市場における競合商品について通常見られることであるなど,いずれも,市場における自由な競争行為の範囲を超えたものと認めるには足りない。
したがって,民法709条の1般不法行為をいう原告の請求も,理由がない。
3 結論 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
商品対照表原告商品被告商品(左から,商品番号/商品名/価格を示す。)(左に同じ。)101/ゆり(5人前)/5900円101/ふじざくら(5人前)/5900円102/さくら(5人前)/4900円102/ききょう(5人前)/4900円103/ふじ(5人前)/4000円103/つばき(5人前)/4000円105/しょうぶ(4人前)/4700円105/ひまわり(4人前)/4700円106/あやめ(4人前)/3400円106/すずらん(4人前)/3400円107/きく(3人前)/3800円107/すいせん(3人前)/3800円108/ききょう(3人前)/2800円108/すみれ(3人前)/2800円110/すいせん(2人前)/2800円110/やまぶき(2人前)/2800円111/つつじ(2人前)/1900円111/たんぽぽ(2人前)/1900円112/すいれん(1人前)/1600円112/あやめ(1人前)/1600円113/うめ(1人前)/1300円113/さつき(1人前)/1300円114/ぼたん(1人前)/1000円114/きく(1人前)/1000円115/ゆうがお(6人前)/6500円115/らん(6人前)/6500円118/つばき(4人前)/4200円116/はぎ(4人前)/4200円193/すみれ/2200円119/特選玄輝/2200円109/あさがお(3人前)/2200円117/ゆり(3人前)/2200円131/ばらちらし(3〜4人前)/3500円118/ふじ(3〜4人前)/3500円138/鉄火丼(上)/1200円138/特上鉄火丼/1200円140/あなご丼/1200円140/あなご丼/1200円151/三色巻/550円151/三色巻/550円163/巻物盛合せ/3000円163/巻物盛合せ/3000円商品写真対応表101,102,103,105106,107,108,110111,112,113,114,115,116,118,119,193109,117,118,131,138,140,151,163
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之