関連ワード | 顧客層 / 差止請求(差止) / 因果関係 / 代理人 / 営業秘密 / 2条1項4号 / 損害賠償 / |
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事件 |
平成
12年
(ネ)
5926号
損害賠償,営業行為差止等請求控訴事件
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控訴人 A 控訴人 B 控訴人 株式会社レイテック 3名訴訟代理人弁護士 三浦修 被控訴人 株式会社千代田テクノル 訴訟代理人弁護士 篠田暉三 同 野原泰 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/06/20 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人ら (1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
本件は、被控訴人が、控訴人らに対し、控訴人A及び同Bが被控訴人に在職中被控訴人の営業秘密である顧客情報を不正に取得し、同業の被控訴人会社を設立した上、控訴人らがこれを利用して営業活動をしている行為は、不正競争防止法2条1項4号又は5号所定の不正競争行為に該当する旨主張して、営業行為の差止め等及び損害賠償を求めている事案である。 原審は、差止め等請求の全部と損害賠償請求の一部を認容したため、控訴人らが不服を申し立てた。 当事者間に争いのない事実等、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決の訂正 原判決10頁1行目の「本件顧客情報に記載された」を「本件顧客情報である」に、12頁1行目の「被告」を「控訴人会社」に、それぞれ改める。 2 控訴人らの主張 (1) 控訴人Bが、Cに指示して同控訴人の個人所有のパソコンに本件顧客情報を複写させたことはない。すなわち、原審における控訴人B本人の供述のとおり、 当該複写が行われたとされる平成9年3月13日当時、被控訴人の社屋内には、控訴人Bの個人所有のパソコンは存在しなかった。この点について、原判決は、原審証人Cの証言の信用性のみを認め、原審における控訴人B本人の供述を排斥するが、原審証人Cは被控訴人に雇用されている者であって中立的な立場にないこと、 同証言を裏付けるというパソコンの操作履歴(甲42)は事後的に変更可能なものにすぎないことを看過した認定といわなければならない。 また、控訴人A及び同Bは、同月30日に異動の辞令を受けるまで退職を考えていなかったから、同月13日ころに被控訴人の主張するような本件顧客情報の複写を指示したとは考えられない。 (2) 控訴人会社がダイレクトメール配布先のデータを作成するに当たっては、 控訴人A及び同Bの長年の営業経験に基づく知識を活用しつつ、顧客の業種ごとに、インターネットによるデータ検出、電話帳のハローページ、日本放射線技術学会員名簿その他の各種名簿、病院要覧等に基づいて基礎データを作成した上、データが整理される都度ダイレクトメールを送付したものであり、本件顧客情報を利用したものではない。このことは、以下の諸点から明らかである。 ア 原判決は、控訴人会社が送付したダイレクトメールの中には、宛名ラベルの印刷文字に手書きで番地やビル名を加筆したものがあるところ、この加筆部分とラベルに記載されている町名等とは、控訴人BがCに入力させたデータでは別のフィールドに属するとのデータの共通性を一つの根拠として、不正競争行為の認定をする。しかし、被控訴人の主張するような秘密情報の盗用が行われたとすれば、 被控訴人のデータとすべて同じラベルが作成されているはずであるのに、このような手書きのラベルは3件(*株式会社、*クリニック、*医院)しかなく、これをもって被控訴人の顧客情報と控訴人会社のダイレクトメールとのデータの共通性をいうことはできない。かえって、被控訴人の作成した顧客目録記載の名称と控訴人会社のダイレクトメールの送付先の名称とを比較すると、「株式会社」を「(株)」としているもの、「医療法人」等の肩書きを省略しているものなど一致しない名称が多数存在する。 イ また、原判決は、控訴人らがインターネットによりデータを入手したとするダイレクトメールの送付先の一部(*株式会社、*株式会社、*株式会社、*株式会社)は、当該ダイレクトメールの送付当時、いまだホームページを開設していなかったことも指摘するが、控訴人らは、これらのデータの入手方法についての資料を既に廃棄していたため、正確なデータの入手方法を特定することができずに誤解を生むような主張となったにすぎない。実際には、上記のとおり、営業経験上獲得した知識に基づいて、電話帳等により確認して得たデータである。原判決の指摘する上記の点は、原審における控訴人A本人の供述の信用性に影響を及ぼすものではない。 ウ 被控訴人の主張立証に係る控訴人会社によるダイレクトメールの送付先と、被控訴人の作成した原判決別紙顧客目録とを照合すると、顧客目録の連続する事業所番号のうち断続的に1、2社を選定してダイレクトメールを送付したとの結果となっている(乙24)。仮に、控訴人会社が盗用に係る顧客情報を利用してダイレクトメールを送付したのであれば、このような結果とならないはずである。 エ さらに、原判決は、控訴人会社のダイレクトメールの送付先には被控訴人の顧客が多く含まれていること、その送付時期も契約更新時期に集中していること、料金前払い等の有利な条件で契約を締結することのできる可能性がある顧客の占める割合が高いことも指摘するが、控訴人A及び同Cが長年にわたって被控訴人の営業の仕事に携わり、被控訴人の営業先、契約周期、契約先の種別ごとの支払方法等を熟知しており、業界における孤立を避けるためにあえて被控訴人の得意先を選別してダイレクトメールを送付したことからすると、原判決の指摘する上記諸点は、当然のことにすぎず、不正競争行為を推認させるものではない。 3 被控訴人の主張 (1) 控訴人らは、原審証人Cの証言の信用性を論難するが、同証言を裏付けるパソコンの操作履歴(甲42)を含めて、何ら作為を疑わせるところはない。また、控訴人らは、控訴人A及び同Bは平成9年3月30日の異動の辞令を受けるまで退職を考えていなかった旨主張するが、遅くとも同月上旬には当該異動について口頭で本人に伝えられていた。 (2) 控訴人らは、ダイレクトメールの送付先のデータの作成に当たっては控訴人A及び同Bの長年にわたる営業経験に基づく知識を活用した旨主張するが、被控訴人の顧客は、事業所数で1万4000か所以上に及んでおり、個別の顧客の正確な情報を知っていることはあり得ない。例えば、ダイレクトメールの宛名ラベルに手書きで加筆された部分には、「*工場品質保証課」(甲47の2)とか「*ビル2F」(甲47の3)等の記載があるが、このような情報は被控訴人の顧客情報によらない限り加筆することはできないはずである。 また、控訴人らは、ダイレクトメールの宛名ラベルの手書きによる加筆が3件しかないことを前提とした主張をするが、本訴において被控訴人が当該3件の事例を提出したのは、たまたま当該ダイレクトメールを受け取った顧客がこれを提供してくれたから入手することができたものにすぎず、この3件以外に同様のラベルの記載がなかったわけではない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する請求は、原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決の訂正 (1) 原判決33頁末行の「MOS」を「『MOS』と呼ばれる被控訴人の基幹電算システム(以下「MOS」という。)」に、同42頁8行目及び10行目の「担当部所」を「担当部署」に、同46頁3行目の「事業所(合計二五七九か所)」及び52頁末行の「約二六〇〇か所の事業所」を「別表二記載の事業所を含む多数の事業所」にそれぞれ改め、同30頁2行目及び43頁8行目の「同C」並びに49頁10行目、50頁5行目及び末行の「証人C」の次に「(一、二回)」を加える。 (2) 原判決55頁8行目〜56頁5行目を下記のとおり改める。 このような再契約の拒否又は単価の値引きないし契約周期の変更が、個別の契約先である顧客のどのような意向に基づいて、どのような経緯でされたのかを逐一明らかにするだけの的確な証拠はないが、これらの被控訴人の顧客に対しては、概ねその契約が満了する1か月半ないし半月前に、控訴人会社から控訴人会社とのガラス線量計モニタリングサービス契約を勧誘するダイレクトメールの送付があったことは前示のとおりである上、証拠(甲15の1〜8、甲34、44)によれば、当該ダイレクトメールは、被控訴人の料金表と対比させて「ローコスト」を積極的に宣伝する内容のものであったことが認められる。加えて、証拠(甲34、 44、45、原審証人D、同E)によれば、被控訴人の営業内容は、放射線利用事業者の事業主が、放射線業務従事者の個人線量当量の測定を法令上義務付けられていることに伴い、放射線を取り扱う作業者及び放射線に被曝する可能性のある業務に携わる作業者の受けた放射線量を測定するサービスを提供するというものであること、当該測定サービス業務に関する全国シェアは、被控訴人が約55パーセント、これに長瀬ランダウァ株式会社ほかを加えた計4社で約98パーセントのシェアを占めるという極端な寡占状態にある業態であったところに、控訴人会社が新規参入したものであることが認められる。そうすると、被控訴人の上記測定サービス業務は、全国各地の特定顧客層の大半を対象とし、かつ、景気の影響等による需要や価格の変動が生じにくい特殊な性格のものであったということができ、実際にも、上記の減収が生じた平成9年10月〜12月当時、控訴人会社以外の同業他社から特に積極的な顧客の獲得競争が行われたとか、被控訴人のサービスの単価の引下げを求める顧客からの圧力が特に強まっていたなどの事情は一切うかがわれないにもかかわらず、控訴人会社からのダイレクトメールの送付を受けた被控訴人の顧客において、被控訴人との契約を中止したり、要求により被控訴人が値引きに応じた事業所が続出したことは前示のとおりである。 以上の事実に証拠(甲34、37の1)を総合すると、被控訴人の顧客の中には、自らの放射線部門の廃止など控訴人らと関係のない事情によって再契約の拒否等をしたような事業所が含まれている余地は否定することができないとしても、被控訴人に生じた上記減収の主な原因は控訴人らの前記不正競争行為にあったといわざるを得ないのであり、当該不正競争行為との間に相当因果関係がある被控訴人の損害は、250万円を下らないものと認めるのが相当である。 2 控訴人らの当審における主張に対する判断 (1) 控訴人らは、控訴人BがCに指示して同控訴人の個人所有のパソコンに本件顧客情報を複写させたことはない旨主張するが、本件顧客情報を控訴人Bの指示に基づいて同人の個人所有のパソコンに複写した旨を明確かつ具体的に証言する原審証人Cの証言(1、2回)が信用するに足りるものであることは、原判決の判示するとおり(49頁10行目〜50頁9行目)であって、控訴人らの主張するように、単に同証人が被控訴人に雇用されている立場にあり、また、パソコンの操作履歴(甲42)を改ざんすることが一般論として可能であるというだけで、その証言の信用性を否定することはできないというべきである。控訴人らが当審において提出した乙29、30はこの点の判断を何ら左右するものではなく、他の上記証言の信用性を疑わせるような事情は見いだせない。 また、控訴人らは、控訴人A及び同Bは、平成9年3月30日に異動の辞令を受けるまで退職を考えていなかったから、同月13日ころに被控訴人の主張するような本件顧客情報の複写を指示したとは考えられない旨主張するが、甲51によれば、控訴人A及び同Bは、同月上旬には、被控訴人の常務取締役本部長Eから、上記異動の件を口頭で伝えられていたことが認められるところであり、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (2) 次に、控訴人らは、ダイレクトメールの送付に当たって本件顧客情報は利用していない旨主張し、その根拠についてるる述べるが、まず、当該送付先が顧客目録記載の連続する事業所番号の断続的な一部にすぎない旨主張する点については、被控訴人としては控訴人会社によるダイレクトメールの送付先の事業所から連絡がない限りこれを知り得ないのであるから、被控訴人が把握して集計した送付先(甲18〜25(枝番を含む。)参照)と顧客目録とを照合して、重複の程度をうんぬんすること自体、そもそも意味が乏しいといわざるを得ない上、控訴人らにおいて、本件顧客情報を利用しつつ、営業上有利な事業所を選択してダイレクトメールを送付したことが強く推認されること(原判決46頁7行目〜47頁5行目参照)に照らせば、被控訴人が把握して集計したダイレクトメールの送付先と顧客目録との重複が部分的、断片的にすぎないとしても、上記認定を何ら左右するものとはいえない。 次に、控訴人らは、本件顧客情報と控訴人会社のダイレクトメールとのデータの共通性を示すものとして指摘された手書きのラベルは3件しかない旨主張するが、これも、たまたま被控訴人が入手して本訴において証拠(甲47の1〜3)として提出されたものが3件であったというにすぎないから、前記認定を左右するものでない。かえって、例えば、甲47の1と甲48の1を対比すれば明らかなように、被控訴人会社が*医院に送付したダイレクトメールの宛名ラベルに印刷された住所である「*郡*町大字*字*」との記載は、Cが控訴人Bの個人パソコンに複写した本件顧客情報のデータの「フィールド10」の情報と完全に一致し、上記宛名ラベルで手書きにより加筆された「808-1」との番地の記載は、本件顧客情報のデータの上では別のフィールドの情報として分類されていたことが明らかであり、 このような符合が偶然の一致であるとは考え難い。しかも、控訴人らは、これらの情報は電話帳等から得た旨主張するが、平成9年当時のNTT電話帳において、上記*医院の住所は単に「*808-1」と記載されているにすぎず(甲52の2)、 上記のような宛名ラベルの情報が、本件顧客情報以外からどのように入手可能であったのかについては、何ら合理的な主張立証がない。同様のことは、*株式会社及び*クリニックに対して送付されたダイレクトメールの宛名ラベルの記載においても妥当するものである(甲47の2、3、甲48の2、3)。そうすると、控訴人会社が送付したダイレクトメールの宛名ラベルの一部が手書きにより加筆されたものは3件しか証拠として提出されていないとしても、被控訴人の有していた本件顧客情報と控訴人会社がダイレクトメールに利用した情報とのデータの特異な共通性を推認させるに足りるものというべきである。 上記のほか、控訴人らの主張するところは、前記認定を何ら左右するものではない。 3 結論 以上のとおり、被控訴人の控訴人らに対する請求は、原判決が認容した限度で理由があるから、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。 よって、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |