関連審決 |
審判1996-12485 |
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関連ワード | 商標登録 / 登録商標 / 需要者 / 他人の営業 / 記憶 / 差止請求(差止) / 過失 / 侵害 / 代理人 / 品質誤認惹起表示(2条1項13号) / 競争関係 / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
8年
(ワ)
10120号
不正競争防止法に基づく差止等請求事件
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原告 武蔵ホルト株式会社 訴訟代理人弁護士 又市義男 被告 株式会社ソフト九九コーポレーション 訴訟代理人弁護士 松村信夫 訴訟復代理人弁護士 和田宏徳 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/04/24 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、「原告がその製造販売するカーペイントに使用している『カラータッチ』及び『COLOR TOUCH』の各標章は、別紙商標権目録記載の被告の登録番号第1656534号の商標権を侵害する」旨を、カーペイントの取引業者、需要者、その他の取引関係者に対して告知し又は流布してはならない。 2 被告は、原告に対し、金2500万円及びこれに対する平成8年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、株式会社日本経済新聞社発行の日本経済新聞の全国版朝刊経済面に、別紙謝罪広告目録の「一、体裁」の項記載のとおりの体裁で、同目録「二、広告文」の項記載のとおりの広告を、1回掲載せよ。 |
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事案の概要
本件は、被告が商標権を有していた登録商標を付した製品を販売していた原告が、被告に対し、その商標登録が無効であったにもかかわらず、原告製品が同商標権を侵害している等の虚偽の事実を告知又は流布したとして、不正競争防止法2条1項13号、3条、4条、7条に基づき、同告知、流布の差止めと損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠の掲記がないものは当事者間に争いがない。) (1) 原告は、自動車補修用塗料、自動車補修用各種用品、クリーナー等を製造、販売する株式会社、被告は、自動車ボディワックス、クリーナー、カーペイント等を製造、販売する株式会社である。 原告と被告とは、自動車補修用塗料等の製造、販売において、互いに競争関係にある。 (2) 被告は、次の商標権を有していた(以下「本件商標権」といい、その商標を「本件商標」という。)。 ア 登録番号 第1656534号 イ 出 願 日 昭和53年3月18日(商願昭53-18312号) ウ 出願公告日 昭和58年6月1日(商公昭58-45136号) エ 登 録 日 昭和59年2月23日 オ 指定商品 商品区分第3類 つや出し剤、その他本類に属する商品 カ 商標の構成 「カラータッチ」との文字からなる商標であり、具体的構成は別紙商標権目録記載のとおりである。 (3) 本件商標権の更新登録に係る経緯 ア 本件商標権は、平成6年7月28日、商標権の存続期間の更新登録がなされた(以下「本件更新登録」という。)。 イ 原告は、平成8年7月24日、本件更新登録について無効審判を請求し、特許庁は、平成10年12月16日、本件商標は商標権者によって更新登録の出願前3年以内に日本国内において、指定商品中『自動車用塗料』について使用されていたものとは認められないから、本件商標権の存続期間の更新登録は、平成8年法律第68号による改正前の商標法19条2項ただし書の規定に違反してなされたものであるとして、同更新登録を無効とする旨の審決をした(平成8年審判第12485号、乙26)。 ウ 被告は、東京高等裁判所に同審決の取消しを求める訴訟を提起し、同裁判所は、平成11年9月22日、同請求を棄却する旨の判決を言い渡した(平成11年(行ケ)第52号審決取消請求事件、乙27。以下「本件東京高裁判決」という。)。 同判決の理由の概要は、被告が、平成5年3月ころ、「タイヤペイント」「TIRE PAINT」と大きく表示した上、本件商標の「カラータッチ」及び被告の社名「SOFT 99 corporation」の文字を小さく表示したラベルを付したタイヤペイント商品を200本製造し、取引先である株式会社ナニワに対し95本を、株式会社サンクリエイティブDIYに対し商品キャンペーンの景品用として15本をそれぞれ販売した事実を認定したものの、同商品は、単に試作用として一回のみ製造されただけの商品でその後反復製造されず、かつ、一般の市場には流通しなかった商品であるとして、商標権者によって更新登録出願前3年以内に日本国内において、指定商品中『自動車用塗料』について使用されていたものとは認められないとした前記審決の判断は正当であるとするものである。 エ 被告は、同判決に対し上告受理の申立てをしたが、最高裁判所第一小法廷は、平成12年1月27日、同申立てを上告審として受理しない旨の決定をし(平成11年(行ヒ)第215号)、本件更新登録を無効とする上記審決は確定した(乙28)。 (4) 被告は、原告に対し、平成8年5月24日付け書面により、原告がその販売している自動車補修用筆塗り塗料(以下「原告製品」という。)に「COLOR TOUCH」、「カラータッチ」の各標章を使用する行為は、本件商標権を侵害するものであるとして、原告製品、その包装、パンフレット、広告宣伝及び取引書類から同標章をすみやかに抹消するとともに、今後一切同標章を使用しないように警告し(甲5の1。以下「本件警告書」という。)、同書面は、同月27日、原告に到達した(甲5の2)。 (5) 被告は、平成8年6月25日、原告に対して、本件商標権の侵害を理由として、原告製品の譲渡等の差止め等と損害賠償を求める訴え(当庁平成8年(ワ)第6551号商標権侵害差止等請求訴訟。以下「前訴」という。)を提起したが、上記のとおり、本件更新登録を無効とする審決が確定したことに伴い、平成12年2月29日、同訴訟を取り下げた。 2 争点 (1) 虚偽事実の告知、流布行為の有無 (2) 故意、過失の有無 (3) 損害の発生及び額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(虚偽事実の告知、流布)について 〔原告の主張〕 (1) 被告は、平成8年6月25日、前訴を提起したが、それと前後する時期に、原告の取引先に対し、原告製品は本件商標権を侵害するものであり、その取扱いを中止すべき旨を盛んに告知し言い触らした。具体的な告知行為は、次のとおりである。 ア 当時、被告の取締役東京営業部長であったAは、平成8年6月27日、 原告の最大の取引先の1つであるエンパイヤ自動車株式会社(以下「エンパイヤ自動車」という。)の営業推進部を訪れ、本件警告書を提示して、原告製品は、本件商標権を侵害する製品なので、その販売を停止して欲しい旨の申入れをした。 イ 当時、被告の西日本営業部販売部長であったBは、平成8年6月5日、 原告の最大の取引先の1つである株式会社オートバックスセブンのカーライフ商品部を訪れ、本件警告書を提示して、上記アと同趣旨の申入れをした。 ウ 被告の営業社員は、平成8年6月ころ、原告の重要な取引先の1つである株式会社アイエーの各店舗及び本社営業部商品課を訪れ、本件警告書を提示して、上記アと同趣旨の申入れをした。 エ 被告の営業社員は、平成8年6月以降、原告の有力取引先の石橋刷子製造株式会社(以下「石橋刷子製造」という。)の卸先の各小売会社を訪れ、上記アと同趣旨の申入れをした。 オ 被告の営業社員は、平成8年6月以降、株式会社イエローハット(当時の商号は、株式会社ローヤル)の卸先の各小売会社を訪問し、上記アと同趣旨の申入れをした。 カ 被告の営業社員は、平成8年6月から7月にかけて、原告のその他のほとんどの取引先を回り、上記アと同趣旨の申入れをした。 以上の事実は、原告が、上記ア〜カの各取引先のほか、浪速工業株式会社、ジプロ株式会社、株式会社菱和、SPK株式会社等から、原告製品の返品を受けたことからも明らかである。 (2) 前記第2、1、(3)記載のとおり本件更新登録を無効とする審決が確定したから、上記被告の行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たる。 〔被告の主張〕 (1) 原告の主張事実のうち、被告の取締役東京営業部長であったAが、平成8年6月27日、エンパイヤ自動車の営業推進部を訪れたことは認めるが、その余の事実は否認する。 (2) 原告は、被告が本件商標権侵害を理由として原告製品の販売停止を申し入れたことにより、取引先から返品を受けた旨主張する。 しかし、自動車部品の卸売店とメーカーとの間で日常茶飯事に商品の返品は行われており、原告が返品を受けたと主張する原告製品の数量等からみても、上記日常取引において行われている返品である可能性が高い。 なお、原告がジプロ株式会社から返品を受けたとされる送り状(乙37の1〜6)の日付は平成8年5月29日であって、ジプロ株式会社がその卸先の小売会社から返品を受けたのはそれより以前であるから、本件警告書が同年5月24日付けであることからすると、同返品は、被告の原告製品の販売停止申入れとは関係がないことは明らかである。 2 争点(2)(故意、過失の有無)について 〔原告の主張〕 (1) 登録商標の使用の事実を認定するに足りる「商品」とは、一般の流通市場において取引の対象となり得るような流通性を有するものでなければならないことは当然であり、講学上も同様の見解が採られている。 原告は、被告が本件商標を付したタイヤペイント商品を200本製造したとの本件東京高裁判決の認定事実を認めるものではないが、仮に、判決の認定した事実を前提としても、被告がこれらの商品を現実の流通に置こうとする意思がなかったことは明らかであるから、このような本件商品の存在をもって本件商標権の更新登録をしようとすること自体、商標法に違反することが明らかであって、被告は本件商標の更新登録無効事由を承知しており、仮に同更新登録無効事由を知らなかったとしても、そのことについて過失があるというべきである。 (2) 被告は、平成7年11月9日、指定商品を第2類の「塗料、染料、顔料、 印刷インキ(「謄写版用インキ」を除く。)」として、「COLOR TOUCH」の文字からなる商標の登録出願をし、平成9年7月11日にその登録を得ているが、同商標は、本件商標の英文字表記にすぎないものであって、本件商標権の更新登録に問題がなければ、新たに同商標の登録を得る実益は何ら存在しないというべきであるから、被告がこのような新しい商標登録を取得したこと自体、被告において本件商標権の更新登録に無効事由があることを認識していたことを示すものである。 〔被告の主張〕 原告の主張は争う。 被告が本件商標を付したタイヤペイント商品200本を製造、販売したにもかかわらず、事後に、特許庁の審決及び本件東京高裁判決によって、同商品が、登録商標の使用の事実を認定するに足りる「商品」(商標法2条3項)に当たらないと判断されることは、当事者にとって予想が困難であり、また、一般にも登録商標の使用を認定するに足りる「商品」の流通性の有無の判断基準については、過去の裁判例や専門家の見解も分れており、一義的な判断が困難であることなどの事情からすれば、少なくとも、原告が、被告の本件商標権侵害を理由とする申入れがなされたと主張する時期において、被告が、本件商標権に更新登録無効事由が存在するということを知らなくても、そのことについて、被告に過失があったとすることはできない。 3 争点(3)(損害の発生及び額) 〔原告の主張〕 被告が原告の各取引先に対して行った前記1〔原告の主張〕(1)記載の行為により、原告は、平成8年6月から平成9年12月までの期間に、各取引先から合計7万5000本の原告製品の返品を受けた。 原告製品の1本当たりの粗利益は、平均160円であるから、原告は、上記返品により、1200万円の損害を被った。 また、原告は、各取引先から、平均して年6回の再注文を受けて原告製品を納品しており、上記返品をした各取引先から1年間注文を得られなかったことにより7200万円の損害を被っている。 原告は、被告に対し、以上の損害のうち2500万円を請求する。 〔被告の主張〕 原告の主張事実は否認する。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)(虚偽事実の告知、流布)について 原告は、被告が平成8年6月から7月にかけて原告の取引先に対し本件警告書を示しながら原告製品の販売停止を申し入れ、具体的には争点(1)に関する〔原告の主張〕の(1)ア〜カのとおりの事実を行ったと主張するところ、乙40(原告の専務取締役であるCの陳述書)、石橋刷子製造の東京支店長である証人D証言中には、同主張に沿う供述がある。 (1) しかし、乙40の内容は、いずれも、被告の営業社員が、原告の取引先であるエンパイヤ自動車、石橋刷子製造、株式会社アイエー、株式会社オートバックスセブン等に対し、本件警告書を示すなどして、原告製品は本件商標権を侵害するものであるから販売を停止して欲しいとの申入れをしたということを、原告の取引先等の常務、支店長(D)、社員から聞いたというものであって、陳述書作成者であるC自身が、本件商標権侵害に係る申入れを聞いたというものではない。しかも、エンパイヤ自動車及び石橋刷子製造以外の取引先については、Cが取引先の社員から申入れがあったことを聞いたというものでさえなく、「当社が確認した」というに止まっている。また、乙40に記述されている被告社員の申入れの際の発言内容等は具体性を欠いており、乙40は、申入れがあったとされる平成8年6月から約4年5か月後に、もっぱらCの記憶に基づき作成されていることからみても、 信用性に乏しいといわざるを得ない。また、乙40中には、Cがエンパイヤ自動車の商品部長(当時)のEから、同社のF常務が原告のA東京営業部長から、本件警告書を示されて原告製品は本件商標権を侵害するとの申入れを受けたことを聞いた旨の記載部分があるが、甲45(E作成の陳述書)において、Eはそのような記憶はない旨陳述しており、甲55(A作成の陳述書)において、Aもそのような話をしたことはない旨陳述していることが認められることに照らして、乙40中の上記部分はにわかに信用できない。 証人Dの証言中には、石橋刷子製造が原告製品を卸していた小売店に対し、原告製品は本件商標権を侵害するものであるとの情報が流れたので、小売店から石橋刷子製造への返品があり、被告の営業社員が小売店にカラータッチは自分たちの商標であると言っているのを耳にしたとの供述部分があるが、この内容も小売店の社員等から聞いたものにすぎない上、D自身が直接小売店から聞いたというのは一社にすぎず、その申入れの際の発言内容も具体的なものではない。 以上のとおりであるから、乙40及び証人Dの証言によっては、「被告の営業社員が、原告の取引先に対し、原告製品は本件商標権を侵害するものであるとの申入れをした」との原告主張事実を認めるに足りないものというべきである。 (2) また、原告は、被告の営業社員による行為によって、取引先から原告製品の返品を受けたと主張し、証拠として返品伝票を提出するが、それによれば、各取引先から次のとおり原告製品の返品を受けたことが認められる。 ア エンパイヤ自動車(乙32の1〜6) 平成8年8月1日 17品目、1品目当たり1〜5個 平成8年12月6日 18品目、1品目当たり1〜4個 イ 株式会社オートバックスセブン(乙33の1〜3) 平成9年6月5日 21品目、1品目当たり1〜7個 ウ オートバックス坂戸店(乙33の4〜6) 平成8年7月24日 16品目、1品目当たり1〜4個 エ 石橋刷子製造(乙34の1〜6) 平成8年11月19日 18品目、1品目当たり2〜9個 平成9年6月23日 18品目、1品目当たり1〜5個 オ 株式会社ローヤル(乙35の1〜6) 平成8年9月5日 18品目、1品目当たり3〜14個 平成8年10月18日 18品目、1品目当たり5〜20個 カ 浪速工業株式会社(乙36の1〜6) 平成9年2月17日 36品目、1品目当たり1〜4個 キ ジプロ株式会社(乙37の1〜6) 平成8年5月29日 36品目、1品目当たり1〜5個 ク 株式会社菱和名古屋支店(乙38の1〜3) 平成8年10月22日 70品目、1品目当たり1〜5個 ケ SPK株式会社名古屋営業所(乙39の1〜4) 平成8年11月7日 42品目、1品目当たり1〜6個 (3) しかしながら、甲56の1〜3、57によれば、原告製品は、各自動車メーカー別(一部の外車を含む。)、色別に200色以上の品目があること、被告が石橋刷子製造に納品した各種自動車補修用塗料は、商標権侵害や商品の瑕疵等の被告側に起因する事情が存するか否かに関わらず、平成8年4月から6月の間に限っても、数回にわたり、各品目ごとに数個ないし十数個程度の商品が返品されていることが認められるから、こうした自動車補修用塗料が日常的に返品されている実情に照らすと、原告が受けた上記(2)の返品の事実の回数、数量の程度は、上記日常的な返品の程度を超えるものとはいえず、この返品の事実から、直ちに、被告の営業社員が原告の取引先に対し、原告製品は本件商標権を侵害するものであるなどの申入れをしたことを推認することはできない。その他、原告の同主張を認めるに足りる証拠はない。 2 以上によれば、被告に不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為の事実があったこと又はそのおそれがあることを認めることはできないから、原告の請求はその余の争点について判断するまでもなくいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 阿多麻子 |
裁判官 | 前田郁勝 |