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関連ワード 他人の営業 /  類似性(類似) /  印象 /  差止請求(差止) /  過失 /  因果関係 /  代理人 /  代表者 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 4644号 損害賠償等請求事件
原告 有限会社エル・カンパニー
訴訟代理人弁護士 春名一典
同 野垣康之
被告 株式会社ナチュラルウェルネス代表者代表取締役 新渡英夫
訴訟代理人弁護士 水戸守 巖
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/04/10
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、「日本メディカルカイロプラクティック専門学院」の生徒らに対し、別紙@C′DE記載の事実を告知し、又は流布してはならない。
2 被告は、原告に対し、金2750万5655円及びこれに対する平成11年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
5 この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は「日本メディカルカイロプラクティック専門学院」の生徒らに対し、同学院長であるAが業務上横領をしたなどと虚偽の事実を流布したり、原告に対し同学院が被告の経営であるなどと主張するなどして、原告の同学院の経営を妨害してはならない。
2 被告は、原告に対し、金3639万0155円及びこれに対する平成11年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告が競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽事実の告知、流布を行ったとして、不正競争防止法に基づきその差止めと損害賠償請求をした事案である。
1 争いのない事実等(文末に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、平成9年1月17日に設立された有限会社であり、主として、
カイロプラクティック療術院とカイロプラクターを養成する学校の経営を業務内容としている(甲14)。
イ 被告は、平成8年1月24日に設立され、カイロプラクティック教育等を主たる目的とする株式会社であり、「日本カイロプラクティックドクター専門学院東京校」の名称で、カイロプラクターを養成する学校を経営している(甲13)。
原告代表取締役であるAは、被告設立当初から被告の取締役に就任し、
取締役として登記されていた。
(2) 平成9年4月、大阪市<以下略>所在の「山中ビル」1階において、「日本カイロプラクティックドクター専門学院大阪校」の名称でカイロプラクターを養成する学校(以下「大阪校」という。)が開校され、その学院長にAが就任した。
その際、大阪校は、被告に対し、生徒1人当たり、入学時に金10万円、
卒業時に金10万円の合計金20万円を負担金(ロイヤリティないしフランチャイズ料)として支払うこととなった(甲22、23。以下、この負担金の約定を含むAないし原告と被告との大阪校の運営に関する契約を「本件契約」という。なお、本件契約の主体については争いがあり、原告は、原告と被告との契約と主張し、被告は、Aと被告との契約と主張している。)。
(3) 被告は、平成11年4月3日及び18日、Aに対し、負担金を、@入学生30人未満の場合、生徒1人につき金20万円、A入学生30人以上40人未満の場合、生徒1人につき金30万円、B入学生40人以上50人未満の場合、生徒1人につき金40万円、C入学生50人以上の場合、金50万円に増額する旨の意思表示をした。
(4) 原告及びAは、被告に対し、平成11年4月21日付け内容証明郵便によって、被告による一方的な負担金増額の通告は両者間の信頼関係を破壊するものであるとして、本件契約を解除する旨の意思表示をするとともに、Aが被告の取締役を辞任する旨の意思表示をし、同内容証明郵便は、同月23日、被告に到達した(甲4の1〜2)。
(5) 原告は、平成11年4月23日以降、大阪校を「日本メディカルカイロプラクティック専門学院」と改称した。これに対し、被告は、同年5月、大阪市に「日本カイロプラクティックドクター専門学院大阪校」(以下「被告校」という。)を開校した。
(6) 被告取締役で東京校の校長でもあるBは、平成11年4月28日、大阪市所在の新阪急ホテルアネックスにおいて、大阪校の生徒31人に対する説明会を開催した(以下「本件説明会」という。)。本件説明会後、生徒23人が大阪校を退学し、このうち18人が被告校に入学したが、原告は、退学した生徒らに対し、入学金等合計金3639万0155円を返還した(甲15、証人B、原告代表者本人)。
2 争点 (1) 被告には、不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」があるか。 ア Bは、平成11年4月28日、本件説明会において、大阪校の生徒約31人に対し、次の各発言(以下併せて「本件発言」といい、各発言を「本件発言@」のように表記する。)を行ったか。
@ Aは業務上横領をしている。
A 「日本カイロプラクティックドクター専門学院名古屋校」(以下「名古屋校」という。)は、フランチャイズ料の値上げを承諾している。
B 大阪校の講師Cでは教えるのは無理だ。
C 将来「手技療法士」が法制化された時、被告校の卒業生はその資格を認定されるが、大阪校の卒業生は認定される保証はない。
D 大阪校は被告の事業の一部として運営されている。
E 大阪校の入学金等は被告が管理運営すべきである。
イ 仮に、アの各発言が認められる場合、本件発言は、不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当するか。
(2) Aは商法264条の競業避止義務違反があり、原告は不正競争防止法によって保護されないか。
(3) 損害賠償請求権の存否 ア 被告に故意又は過失があるか。
損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告には「虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」があるか)について 【原告の主張】 Bは、平成11年4月28日、本件発言を行ったが、これは、次のとおり、
いずれも虚偽の事実を告知し、又は流布する行為である。
(1) Aが業務上横領をしている事実はないから、本件発言@は虚偽の事実の告知である。
(2) 名古屋校がロイヤリティの値上げを承諾していないのは、被告も認めており、このことは、被告が名古屋校を相手に訴訟(東京地方裁判所平成11年(ワ)第18986号)を提起していることからも明らかである。よって、本件発言Aは虚偽の事実の告知である。
(3) C講師は、指導力もあり、生徒からの評判も良いから、本件発言Bは虚偽の事実の告知である。
(4) 国家資格は、どこの学校を出ていても、国家が実施する資格試験に合格すれば付与される性質のものであるから、大阪校の卒業生に資格は認定されないという点には全く根拠がなく、本件発言Cは虚偽の事実の告知である。
(5) 大阪校は開校当初から原告が運営しており、被告の事業の一部として運営されていないから、本件発言Dは虚偽の事実の告知である。
(6) 原告が大阪校を運営している以上、入学金等も原告が管理運営するべきであるから、被告がこれを管理運営すべきであるという本件発言Eは虚偽の事実の告知である。
【被告の主張】 本件発言は、次のとおり、虚偽の事実の告知、流布に当たらない。
(1) 本件発言@について 大阪校は、被告が独立の法人格を認めたことがない事業組織の一部であり、一営業所に相当するものであるから、Aが大阪校の入学金その他の収益を原告の収益とする行為は、同人の横領行為にほかならず、本件発言@は正当な事実の発言である。
(2) 本件発言Aについて 名古屋校は、平成11年4月28日時点では、ロイヤリティの値上げを承諾していた。
(3) 本件発言Bについて Bは、大阪校の学院長であるA自身が授業を行っていると信じていたところ、生徒から「C先生の授業は教科書を読むだけだ」との苦情があったため、大阪校を卒業したばかりで実際の施療経験も浅いCが教えるのは無理があるとの意味を含めて説明したものであり、本件発言Bは虚偽の事実を告知したものではない。
(4) 本件発言Dについて 被告は、競争原理の導入が経済効率に優れていること、被告の経理費用を削減できることを主な理由として、大阪校の経理について基本的に独立採算制を採用したが、これは、大阪校が独立して有限会社(原告)を設立し、運営し得ることを意味するものではなく、本件発言Dは虚偽の事実の告知ではない。
(5) 本件発言Eについて 大阪校の生徒は、被告の経営するカイロプラクター養成事業の生徒であり、生徒から支払われる入学金等は当然被告に帰属するから、本件発言Eは虚偽の事実の告知ではない。
2 争点(2)(競業避止義務)について 【被告の主張】 (1) 平成7年10月中旬ころ、現被告代表取締役であるDがカイロプラクター養成学校を設立することを発案し、これにE(前被告代表取締役)、A、Fなど14名が賛同し、前記事業目的のため、出資金合計4800万円を出資した。前記出資金は、半額を事業運営資金に充当し、残り半分は、これら14名が発起人になって被告を設立するための資本金に充てることとし、各出資額に応じて株式を割り当てることになった。
(2) 前記15名の間では、カイロプラクター養成学校経営を目的とする組合類似の契約として、被告を中心として東京校、札幌校、大阪校、名古屋校の4校を開校して事業展開する旨の合意が成立し、東京校以下4校の経営については、被告の株主総会、取締役会など会社の機関を通じて基本的意思決定、学校の設置、開校、
教務指導、原告会社への活動資金負担、宣伝広告、各校への講師の派遣、授業の監督等が行われる体制とされた。
ただし、4校の経理については、各校が独立採算制を採ることとされたが、それは、競争原理の導入及び本部機構である被告の経費削減を目的としており、被告を中心として事業展開するという前記合意と矛盾するものではない。
(3) 大阪校の生徒は、被告の経営するカイロプラクター養成事業の生徒であるから、生徒から支払われる入学金等は当然被告に帰属し、経理上の独立採算制をもって、入学金その他の収益の帰属までがAに認められるものではない。また、被告は、Aから、競業避止義務のある被告の営業の部類に属する取引をすることの開示を受けておらず、その承認もしていない。
(4) Aは、被告の取締役でありながら、無断で原告のために被告の営業の部類に属する取引をしたものであり、商法264条3項により、Aが行った取引は被告のためにしたものとみなされる。仮に、右主張が認められないとしても、Aは、本来、被告に帰属すべき入学金等の収益を原告の収益として着服し、被告が本来得られた入学金等の得るべき利益相当分の損害を与えた。
(5) 以上のように、Aは、被告の取締役でありながら、被告に無断で被告と同一の部類の取引をなす原告を設立、運営してきたものであり、Aの前記行為は、取締役の競業避止義務(商法264条)に反するものである。不正競争防止法は経済活動における自由な競争秩序の保護を目的としているものであるから、商業活動の基本秩序を定めた商法の競業避止義務に違反するような企業は、不正競争防止法による保護の対象とならない。本件発言は、Bが、大阪校の生徒からAの前記不法行為に対する説明を求められ、被告の正当な業務として行った説明にすぎない。
【原告の主張】 Aは、平成8年ころ、Dの「税金のことを考えたら有限会社にした方がいいんだよ。」という勧めに従って原告を設立した。大阪校はAが経営しているもので、被告から学院長の就任を委任されたものではなく、Aは、被告から給料、役員報酬、東京への交通費等の費用を一切交付されていない。
3 争点(3)(損害賠償請求権の存否)について (1) 同ア(被告に故意又は過失があるか)について 【原告の主張】 被告は、新たに開校した被告校に大阪校の生徒を引き抜く目的で、平成11年4月28日、Bを大阪に派遣して、大阪校の生徒らを集めて、虚偽の事実である本件発言を告知した。
【被告の主張】 Bは、平成11年4月28日時点において、原告の存在を認識していなかったのであるから、本件発言に当たり、原告の業務妨害をすることの故意も、その認識もなかった。
(2) 同イ(損害額)について 【原告の主張】 Bの本件発言を聞いて大阪校を退学した生徒は23人に上り、原告は、退学した生徒に対して、既に受け取っていた入学金等合計3639万0155円を返還せざるを得なかった。よって、原告は、本件発言により、合計3639万0155円の損害を被った。
【被告の主張】 原告の主張事実は否認する。
当裁判所の判断
1 争点(1)(虚偽の事実を告知し、又は流布する行為)について (1) 同ア(本件発言の有無)について ア 本件発言@について 証拠(甲3、9)によれば、大阪校生徒のGは、本件説明会に参加した際、Bが、Aは業務上横領となる行為を行った旨発言したのを聞いたと陳述していること、Bは、平成11年5月12日、名古屋市のホテルで、名古屋校の生徒に対しても説明会を開いたが、その録音テープには、「大阪の先生(A)は私の取締役なんです。役付きなんです。普通で言えば業務上横領をしているわけなんです。」「大阪の方の先生に関しては、明らかに刑事事件で、告訴すると。」という部分があることが認められ、これらの事実に照らせば、Bは、本件説明会においても、Aは業務上横領をしていると発言したもの(本件発言@)と推認できる。
この点につき、証人Bは、本件説明会において「業務上横領」という言葉を使ったかどうか分からないと証言するが、他方、同証人は、被告の取締役として大阪校を任されていたAが自分の利益のために事業を行うことは横領ではないかと思うという意味合いの発言はしたと認めていること、Bの陳述書(乙7)にも、
Aの行為は犯罪行為であると思うと回答したという部分があることを考慮すれば、
証人Bの証言及び同人の陳述書のうち、前記認定に反する部分は採用することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
イ 本件発言Aについて 証拠(甲3)によれば、Bは、本件説明会において、「昨年末、各校が東京校本部へ支払うロイヤリティの見直しをすることに決めて札幌校、名古屋校、
大阪校に打診し、すべて承諾済みとなっていた。」と発言したことが認められ、これによれば、Bが、名古屋校が負担金(ロイヤリティないしフランチャイズ料)の値上げを承諾した旨発言したこと(本件発言A)が認められる。
ウ 本件発言Bについて 証拠(甲3、乙7、証人B)によれば、Bは、平成11年4月22日、
大阪校で自ら講義を行い、学生から「C先生の授業とはずいぶん違うんですね。」という質問があったのに答えて、「C先生は、大阪校を卒業したばかりで、実際の施療経験も浅いから、教えるのは無理がある。」と述べたことが認められる。
これらの事実によれば、上記発言に至る経緯はともかくとして、Bが、
大阪校講師のC講師にはカイロプラクター養成専門学校で授業をすることは無理であるという趣旨の発言をしたこと(本件発言B)が認められる。
エ 本件発言Cについて 証拠(甲3、乙7、証人B)によれば、Bは、本件説明会において、
「東京校は『手技療法士』という分野を作ろうとしている。本校を卒業していればすぐに認定される。しかし、日本メディカルカイロプラクティック専門学院(大阪校)の卒業生には何の保証も認定もない。」と発言したことが認められる。
これによれば、Bの発言に、将来「手技療法士」の資格が法制化されるとの趣旨が含まれていたと認めることはできないけれども、「手技療法士」なる資格が、被告校の卒業者にはすぐに認定されるが、大阪校の卒業者には認定される保証はないという趣旨の部分があったこと(以下、前記認定に係る発言を「本件発言C′」という。)は認められる。
オ 本件発言D、Eについて 証拠(乙7、証人B)によれば、Bは、本件説明会において、大阪校は、ナチュラルウェルネスの事業の一部として運営されていると述べたこと、その際、生徒から「大阪校の入学金はすべて東京校の方で管理しているんではないでしょうか。」という質問があったのに対し、「本来であればナチュラルウェルネスで管理するはずである。」と答えたこと(本件発言D、E)が認められる。
以上によれば、Bは、本件説明会において、本件発言@〜B、C′、D、
Eを行ったものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 同イ(本件発言は、不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当するか)について ア 本件発言@について (ア) 「業務上横領」は刑法上の犯罪(刑法253条)であり、本件発言@は、原告代表者であるAが業務上横領という刑法上の犯罪行為をしているという趣旨の発言であるから、原告の営業上の信用を低下させるものに他ならない。
そこで、本件発言@が虚偽の事実に該当するかどうかについて検討する。
a 前記争いのない事実等と証拠(甲1、6の1〜2、10の1〜3、16、22、23、乙2の1〜15、6、証人B、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(a) 被告は、カイロプラクター養成学校を作るため、B、A、DらH整体専門学院の卒業生15名の出資により平成8年1月設立された株式会社であり、出資金の半分が東京校の事業運営資金に、残半分が被告の株式に充てられた。
Aは、当初から被告の取締役に就任していたが、被告から取締役報酬を受けたことはなかった。被告においては、毎年1回、12月に熱海又は伊豆で株主による集会が開かれていたが、招集通知が文書で行われたことはなく、平成11年までは、取締役会又は株主総会の議事録が作成されたこともなかった。
(b) 被告においては、株主が専門学校事業を行う時には「日本カイロプラクティックドクター専門学院」という同一の名称を用いることになっていたが、「日本カイロプラクティックドクター専門学院」東京校、札幌校、名古屋校、
大阪校のうち、被告が経営主体となっていたのは東京校のみであり、札幌校はIが個人で経営し、名古屋校はFが設立した名駅カイロプラクティック有限会社が経営し、4校はそれぞれ独立採算により経営されていた。
(c) Aは、平成8年秋ころ、Dから、税金などを考えたら個人経営より有限会社にした方がいいと勧められ、平成9年1月、100%出資により原告を設立した。大阪校は、平成9年4月開校されたが、その設立費用は、Aが銀行から1000万円の融資を受けて出捐し、大阪校の教室賃貸料、設備備品の費用、講師料や従業員等の人件費、大阪校の税金もすべて原告が賄っており、赤字は原告の他の業務による収益により補填されていた。
(d) 大阪校は、被告に対し、人数分の負担金を支払い、教材費を支払っていたが、決算書を被告に送ったことはなかった。被告は、「日本カイロプラクティックドクター専門学院」の入学案内及びパンフレットを作成し、各校の分も含めて教材を業者に発注していたほか、専門学校誌等の広告を行っていたが、地方の広告(大阪)は大阪校で行っていた。被告から大阪校に対して授業や技術指導が行われたことは、平成11年4月23日にBが大阪校に突然現れて授業を行うまでは一度もなく、被告から大阪校に指導マニュアル等が送られて来たこともなかった。
b 前記認定事実によれば、被告(東京校)と大阪校には、「日本カイロプラクティックドクター専門学院」という同一の名称を使用すること、各校が被告に対し、入学生の数に応じた約定の負担金(ロイヤリティ)を支払い、被告を通じて教材を購入すること、被告が「日本カイロプラクティックドクター専門学院」の入学案内・募集要項を作成し、全国的な広告宣伝を行うこと以外の関係はないことが認められ、証人Bの証言のうち、これに反する部分は前記認定に照らし採用することができない。
以上によれば、大阪校の事業は原告の事業であって、被告の事業の一部として運営されているとはいえないものと認められ、Aが原告を設立して大阪校の事業を行い、原告が生徒から納付された入学金、授業料を受領することが、被告に対するAの業務上横領であるという趣旨の本件発言@は、虚偽の事実の告知に当たるというべきである。
(イ) なお、証人Bは、大阪校から平成9年4月入学生及び10月入学生のロイヤリティが入金されていないことも、Aの業務上横領の根拠である旨証言する。しかし、証拠(甲22、23)によれば、本件契約においては、生徒が5人未満の場合には負担金(ロイヤリティ)の支払を免除することになっていたこと、大阪校の生徒数は平成9年4月入学生が1人、同年10月入学生が1人、平成10年4月入学生が14人、同年10月入学生が19人、平成11年4月入学生が48人と推移していたことが認められ、平成9年4月入学生及び10月入学生については、生徒が各1人であるためロイヤリティの支払が免除されたものと推認される(この点について、証人Bは、平成9年分が払われていない事情は分からないが、請求はしたと思うという曖昧な証言に終始している。)。
よって、本件発言@を、大阪校から平成9年4月入学生及び10月入学生分のロイヤリティの支払がないことがAの業務上横領であるという趣旨に解したとしても、本件発言@は、虚偽の事実の告知というべきである。
イ 本件発言Aについて 本件発言Aは、名古屋校はロイヤリティの値上げに同意しているが、大阪校は値上げに同意していないという趣旨の発言であり、それ自体は、原告の営業上の信用を害する事実の告知とはいえない。
ウ 本件発言Bについて 本件発言Bは、大阪校の講師の質が低いという趣旨であるが、カイロプラクター養成学校(大阪校)の経営を業としている原告にとって、講師の評判は重要であり、いったん講師の質が低いという評判が立てば、生徒が退学したり、他校に転校するのは経験則上明らかであるから、本件発言Bは、原告の営業上の信用を害するものといえる。
Aの陳述書(甲22)には、C講師は指導力もあり、生徒からの評判も良いとの部分がある。しかしながら、証拠(乙7、B)によれば、C講師は大阪校を卒業して間がなく実際の施療経験が浅いこと、Bが大阪校で授業を行った時、生徒からBに対し、C講師の授業は教科書を読むだけであるという苦情があったことが認められ、前記Aの陳述部分によっても、本件発言Bが虚偽の事実の告知であるとは認められず、他にこのことを認めるに足りる証拠はない。
エ 本件発言C′について (ア) 本件発言C′は、被告校を卒業すれば、被告が作ろうとしている「手技療法士」の資格が当然に認定されるが、大阪校を卒業しても前記資格が認定される保証はないというものであり、将来カイロプラクターを目指す生徒としては、被告校を卒業すれば何らかの資格が認定されるが、大阪校を卒業しても資格が得られる保証がなければ、大阪校を退学して被告校に転校するのは経験則上明らかであるから、本件発言C′は、原告の営業上の信用を害するものといえる。
(イ) そこで、本件発言C′が虚偽の事実に当たるかどうかについて検討する。
証拠(甲22、23)によれば、カイロプラクティックについては、現在、国家試験に基づく資格は存在しないことが認められ、Bが言及した「手技療法士」という資格も、国家試験に基づいて与えられる資格を意図するものであったとまでは認められない。
しかしながら、「手技療法士」なる名称は、これを聞いた大阪校の生徒らに対し、「理学療法士」(厚生大臣の免許を受けて、医師の指示のもとに、理学療法を行うことを業とする者〔広辞苑第5版2789頁〕)、「作業療法士」(厚生大臣の免許を受けて、医師の指示のもとに作業療法を行うことを業とする者〔同1056頁〕)、「視能訓練士」(厚生大臣の免許を受けて、医師の指示の下に、斜視や弱視など視機能に障害のある人に対し、機能回復のための矯正訓練やこれに必要な検査を行うことを業とする人〔同1207頁〕)などと同じく、国の機関により認定される資格・免許であるかのような印象を与えるものであり、本件発言C′全体を考慮すると、将来カイロプラクティックに関し、厚生大臣等の国の機関により「手技療法士」という資格が法制化される見込みがあり、その際、被告校を卒業していれば前記資格が当然与えられるが、大阪校を卒業しても前記資格が認定される保証はないという誤認を生じさせるものといえる。
そして、いわゆる国家資格とは、国の機関が管理して行う試験に合格した者に与えられる資格であり、いかなる学校を卒業しているかが合否に影響するものではないから、被告校を卒業していれば「手技療法士」の資格が当然に与えられるが、大阪校「日本メディカルカイロプラクティック専門学院」の卒業生には何の保証も認定もないという本件発言C′は、虚偽の事実の告知に当たるというべきである。
オ 本件発言D、Eについて 本件発言D、Eは、それ自体では原告の営業上の信用を害するものとは認められないが、これを本件発言@と併せて評価した場合、聞く者に対し、「Aは、本来被告が管理するべき授業料を自分の収益にしている。したがって、業務上横領をしている。」という印象を与え、原告の営業上の信用を害するものといえる。
前記アで認定した事実及び証拠(証人B、原告代表者本人)によれば、
「日本カイロプラクティックドクター専門学院」東京校、大阪校、名古屋校、札幌校は、それぞれ独立採算制で経営されており、各校は、各校に生徒から納入された授業料等によって各校で必要となる費用を賄っており、大阪校に納入された入学金が東京校で管理されたこともないこと、被告(東京校)と他の3校(大阪校、名古屋校、札幌校)との間には、「日本カイロプラクティックドクター専門学院」という同一名称を用いること、大阪校、名古屋校、札幌校が被告に入学生の数に応じた負担金(ロイヤリティ)を支払うこと、被告を通じて教材を購入すること、全国的な広告宣伝を被告において行うこと以外の関係はないことが認められ、これらの事実を考慮すれば、Aが被告の取締役であることをもって、大阪校が被告の事業の一部として運営されているとはいえないし、大阪校の生徒の入学金を本来被告が管理すべきであるともいえない。
よって、本件発言D、Eは虚偽の事実の告知というべきである。
カ 以上によれば、本件発言のうち、本件発言@、C′、D及びEは不正競争防止法2条1項13号にいう「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当する。なお、前記事実関係によれば、
原告と被告とは、同一名称を用いてカイロプラクターを養成する学校を経営し、原告が被告に一定の負担金を支払う旨の関係があったものであるが、負担金の増額をめぐる紛争に起因して本件説明会当時は、原告と被告との関係は断絶状態にあったものであるから、両者は競争関係にあるというのを妨げないものというべきである。
2 争点(2)(競業避止義務)について 前記争いのない事実等と前記1で認定した事実によれば、被告は、カイロプラクターを養成する学校を経営する目的で、Aほかが共同出資して設立され、被告自体は直接には「日本カイロプラクティックドクター専門学院」東京校を経営したが、出資者が専門学校事業を行う際は同一名称を使用し、被告に入学生の数に応じた負担金(ロイヤリティ)を支払い、教材は被告を通じて購入することとされ、全国で東京校を含む4校が独立採算制で経営されることになり、その一つである大阪校はAが学院長に就任して営業してきたものであり、Aは被告設立時の出資者の一人で現在代表取締役であるDから、税制上の理由により大阪校を有限会社にした方が有利だと勧められて原告を設立したものである。
前記事実によれば、Aが被告とは独立採算で大阪校としてカイロプラクター養成学校を経営することは、被告の設立当初から予定されていたものであり、大阪校の営業は被告との間で利益の衝突を招くような性質のものではなく、このことは、大阪校が有限会社になっても実質的に変わらないと考えられる。そうすると、
実質的に見れば、被告の取締役であったAが被告と同種の事業を営む有限会社である原告を設立しその代表取締役に就任するについて、被告の取締役会の承認を受けなかったことをもって、取締役の競業避止義務に反したものとはいえない。仮に、
大阪校を有限会社にするについては、商法264条1項により取締役会の承認を得るべきであったといえるとしても、前記1、(2)、アで認定した事実によれば、被告においては、そもそも、取締役会又は株主総会等の実体を備えた会合が開かれていたとは認められないのである。また、前記争いのない事実等記載のとおり、Aは本件説明会が行われる前に被告の取締役を辞任したものであるから、その後の原告の営業活動、取引行為については商法264条に基づく競業避止義務を負うものではない。
以上によれば、「原告は競業避止義務に違反して活動する企業であるから不正競争防止法による保護の対象とはならず、Bによる本件説明会における本件発言は被告の正当な業務行為である」との被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(損害賠償請求権の存否)について (1) 同ア(被告には故意又は過失があるか)について 前記認定事実及び証拠(証人B)によれば、Bは、大阪校が被告とは独立採算で経営されており、被告が大阪校の設立費用、運営費用を支払ったことはなく、大阪校から経営報告や決算書の送付を受けたこともないこと、大阪校から被告に対して支払われる金員は、生徒1人当たりのロイヤリティと教材費以外にはなく、授業料や入学金は原告において受領していることを認識していたことが認められるから、Bには、本件発言@、D及びEを行ったことに、少なくとも過失があるというべきである。
また、Bは、現時点ではカイロプラクティックについて国家試験に基づく資格は存在しておらず、将来、かかる資格が法制化されることも不確実であるにもかかわらず、「手技療法士」という国家資格と紛らわしい名称の資格名を挙げ、被告校を卒業していれば同資格が当然に認められるが、大阪校を卒業しても同資格が認定される保証はないと述べたものであるから、本件発言C′を行ったことについて、少なくとも過失があるというべきである。
以上によれば、被告の取締役であるBには、本件発言@、C′、D及びEを行ったことに過失があるから、被告は、民法715条に基づき、本件発言@、C′、D及びEにより原告が被った損害を賠償する責任を負う。
(2) 本件発言と生徒の退学との因果関係 ア 証拠(甲15、24、25、証人B、原告代表者本人)によれば、平成11年4月入学生49名のうち14名が平成11年4月28日から同年5月18日までの間に大阪校を退学し、うち9名が被告校に入校したこと、このほか、平成11年4月入学生2名が平成11年5月10月ころから大阪校を欠席するようになり連絡が取れなくなったが、これらの2名については、平成11年10月25日、後記平成10年10月入学生5名と同じく、弁護士を通じて、原告との間で授業料の返還について示談が成立したことが認められる。これらの事実に加え、平成10年4月入学生は入学者14名に対し退学者は1名にすぎないこと(甲21)を考慮すると、本件発言が行われた日から半月以内に14名が退学し、そのほかに2名が退学するということは通常では考えられず、平成11年4月入学生16名の退学と本件発言の間には因果関係があると認めるのが相当である。
また、証拠(甲15、24、25、原告代表者本人)によれば、平成10年10月入学生19名のうち5名が、本件発言後、大阪校を退学する意思を表明したこと、原告は、これらの生徒が平成10年10月から平成11年4月までは大阪校の授業を受けていることから、授業を受けた分を差し引いて返還すると申し出たところ、生徒らは、授業料全額の返還を求めて弁護士を依頼した上で交渉し、平成11年10月25日、平成10年10月入学生5名と原告との間で示談が成立したことが認められる。これらの事実に加え、平成10年10月入学生の退学者5名が全員被告大阪校に入校していること(証人B)によれば、平成10年10月入学生5名の退学と本件発言の間には因果関係があると認められる。
イ これに対し、証拠(甲15、原告代表者本人)によれば、平成11年4月入学生のうち2名は、本件発言後、4月30日と4月28日に大阪校を退学する意思を表明したが、いったん翻意して大阪校に戻った後、平成11年7月17日に再び退学の意思を表明したことが認められる。このような経緯に照らせば、本件発言と前記2名の退学との間には因果関係を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(3) 損害額 ア 証拠(甲15、原告代表者本人)によれば、原告は、平成11年4月28日から同年5月18日までに退学した平成11年4月入学生14名に対し、同人らが入学決定時に納入した入学金、2年分の授業料、施設費、実験実習費計178万5000円(1名宛て)を全額返還したことが認められる。
また、証拠(甲25)によれば、原告は、平成11年10月25日に示談が成立した平成11年4月入学生2名及び平成10年10月入学生5名について、
それぞれ53万4375円、23万4687円、23万4687円、112万7187円、53万4375円、113万8672円、82万3672円を返還したことが認められる。
これによれば、原告が本件発言により退学した生徒に返還した授業料等の合計は、2961万7655円であることが認められる。
イ 他方、証拠(甲26、27)によれば、大阪校の事業に係る費用のうち、入学する生徒の数により変動する経費は、講師料のみであり、大阪校の事務局及び教室の賃料、電気代、広告宣伝費、消耗品費、減価償却費といった費用については 生徒数の変動に関係なく、恒常的に必要となる費用であると認められる。
また、証拠(甲26、27)と弁論の全趣旨によれば、大阪校では、生徒約10人に講師が1名付く体制となっているため、上記認定の生徒21人の減少により、原告は少なくとも2年間講師2名分の講師料の出捐を免れたこととなったと認められるところ、大阪校における講師料は、1日1人1万2000円であり、講師は1か月に4日、夏休み期間を除く11か月来ることが認められる(甲27)から、
大阪校が生徒21人の減少により出捐を免れた講師料は、計211万2000円(12,000×4×11×2×2=2,112,000)であるといえる。
ウ 以上の認定によれば、原告が本件発言により被った損害額は、前記アの2961万7655円から前記イの211万2000円を控除した2750万5655円となる。
4 以上によれば、原告の請求は、主文掲記の限度において理由がある。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝