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事件 平成 9年 (ワ) 11649号 損害賠償等請求事件
平成 9年 (ワ) 12381号 売買代金請求事件
平成 10年 (ワ) 8042号 同請求事件
第一事件原告 マイタケプロダクツインコ ーポレーテッド 右代表者 【A】 第一事件・第二事件原告(第二事件反訴被告) 株式会社サン・メディカ 右代表者代表取締役 【B】 右二名訴訟代理人弁護士 苗村博子
同 長澤哲也 第一事件・第二事件被告(第二事件反訴原告) 株式会社ベルダ 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 岩坪 哲
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/12/14
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 第一事件被告は、第一事件原告らに対し、金一一九四万五一〇六円及びこれに対する平成一二年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第一事件原告らのその余の第一事件の請求を棄却する。
三 第二事件被告は、第二事件原告に対し、金一〇三万九二九〇円及びこれに対する平成九年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
四 第二事件原告のその余の第二事件の請求を棄却する。
五 第二事件反訴被告は、第二事件反訴原告に対し、金三一八万四五五四円及びこれに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 訴訟費用は、第一事件、第二事件(本訴・反訴)を通じてこれを一〇分し、その一を第一事件被告の、その九を第一事件原告らの負担とする。
七 この判決は、第一項、第三項及び第五項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
【第一事件】 1 第一事件被告は、舞茸の抽出物又は同原末を用いた栄養補助食品について、別紙表示目録二ないし五記載の各表示、その他別紙表示目録一記載の表示と同一の表示を付加して表示する標章を使用し、又は、これを使用した栄養補助食品を販売若しくは頒布し、又は販売頒布のための展示をしてはならない。
2(一) 第一事件被告は、文書又は口頭で、同被告の販売する舞茸製品が同事件原告らの従来製品販売に係る舞茸製品を改良し高品質化に成功した製品である旨を需要者その他取引関係者に陳述したり、配付してはならない。
(二) 第一事件被告は、別紙印刷物目録一、二記載の印刷物の記載中、同被告の販売する舞茸製品が同事件原告らの従来製品販売に係る舞茸製品を改良し高品質化に成功した製品である旨の記載を抹消せよ。
3 第一事件被告は、同事件原告らに対し、金一億〇〇五〇万円及びこれに対する平成一二年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
【第二事件】 (本訴請求) 第二事件被告は、同事件原告に対し、金三四二万四九四六円及びこれに対する平成九年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(反訴請求) 主文第五項同旨
事案の概要
一 争いのない事実等 【第一事件】 1 当事者 (一) 第一事件原告マイタケプロダクツインコーポレーテッド(以下「原告マイタケプロダクツ」という。)は、栄養補助食品を販売する米国デラウェア州の会社であり、第一事件原告・第二事件原告兼第二事件反訴被告株式会社サン・メディカ(以下「原告サン・メディカ」という。)を日本における総代理店として、マイタケ(舞茸)の成分の抽出物をエキス状にした栄養補助食品(商品名「D-fraction」、以下「本件商品」という。)及びマイタケの成分の抽出物を錠剤にした栄養補助食品(商品名「Grifron」、以下「グリフロン」という。)を輸出している。
(二) 原告サン・メディカは、原告マイタケプロダクツが製造する本件商品等の栄養補助食品を日本で販売すること等を目的として設立された株式会社であり、平成八年七月以降、本件商品を原告マイタケプロダクツから輸入して日本で販売している。
(三) 第一事件被告・第二事件被告兼第二事件反訴原告株式会社ベルダ(以下「被告」という。)は、食料品、化粧品、医薬品の販売、卸し及びこれらの代理店業を目的とする会社である。
被告及びその実質的な前身である訴外株式会社コスモメディカル(以下「コスモメディカル」という。)は、平成八年九月ころから、原告サン・メディカから本件商品を仕入れて、日本国内で販売していた。
2 原告らの標章及び本件商品 (一) 原告マイタケプロダクツは、平成八年(一九九六年)一〇月二九日、
アメリカ合衆国において、「MAITAKE D-FRACTION」の商標登録(登録番号二〇一二五七一)を受けた(以下「本件米国商標」という。)。
(二) 原告マイタケプロダクツは、別紙表示目録一記載の表示(以下「原告表示」という。)を商品表示として本件商品のラベルに付しているところ、原告表示は、本件米国商標のうち、「MAITAKE」を除く部分をロゴ化したもので、赤字の活字調でアルファベットの大文字「D」を縦方向に圧縮し、縦線及び曲線中央部分を太く表示したものの下に、イタリック調の黒字で小さくアルファベット小文字「fraction」をあしらった構成を有する。
3 被告商品及び被告商品表示 (一) 被告は、平成九年一〇月から、別紙表示目録二記載の表示(以下「イ号表示」という。)を付して、マイタケの抽出成分をエキス状にした栄養補助食品(商品名「スーパーDフラクション・エキス」、以下「被告商品1」という。)の販売を開始するとともに、同目録三記載の表示(以下「ロ号表示」という。)を付して、マイタケの原末その他を三角形のタブレット状にした健康補助食品(商品名「スーパーDフラクション・タブレット」、以下「被告商品2」という。)の販売を開始した。
(二) また、被告は、平成一〇年四月から、別紙表示目録四記載の表示(以下「ハ号表示」という。)を付して、マイタケの抽出成分をエキス状にした栄養補助食品(商品名「マイタケ・スーパーDフラクション・エキス」、以下「被告商品3」という。)の販売を開始し、別紙表示目録五記載の表示(以下「ニ号表示」という。)を付して、マイタケの原末その他を三角形のタブレットにした栄養補助食品(商品名「マイタケ・スーパーDフラクション・タブレット」、以下「被告商品4」という。)の販売を開始した(以下、被告事件1ないし4を併せて「被告商品」という。)。
4 本件印刷物配布 被告は、被告商品1、2の販売に当たり、本件商品の卸先、顧客に対し、
別紙印刷物目録一、二記載の広告チラシ(以下「本件印刷物1」等といい、両者を併せて「本件印刷物」という。)を配付した。
(一) 本件印刷物1には、「『D-フラクション』の高品質化に成功!従来を超えた『スーパーD-フラクション・タブレット』&『スーパーD・フラクション・エキス』」という見出し書きがある。
(二) 本件印刷物2には、「D-フラクションエキス・グリフロンマイタケ製品の国内生産への移行のお知らせ」とか、「従来のD-フラクションエキス(液状)、グリフロンマイタケ(錠剤)を一〇月一日より『スーパーD-フラクション・エキス』(液状)と『スーパーD-フラクション・タブレット』(錠剤)に切り替えさせて頂くことになりました。品質、内容量等に関し従来の製品よりさらに充実した製品となっております」との記載がある。
5 原告らは、@被告がイ号ないしニ号表示を用いることは、不正競争防止法2条1項1号に該当する、A被告の本件印刷物配布は、原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為として、不正競争防止法2条1項13号に該当する、B被告は、イ号及びロ号表示の使用を開始する前一年以内に原告マイタケプロダクツと実質上同一体である原告サン・メディカの代理店、若しくは原告マイタケプロダクツの日本における総代理店である原告サン・メディカの代理店として、原告マイタケプロダクツの復代理人であったものであり、被告がイ号ないしニ号表示を使用することは、不正競争防止法2条1項14号に当たるとして、被告に対し、イ号ないしニ号表示の使用差止め、本件印刷物1、2中の前記4(一)、(二)の記載の抹消を求めるとともに、被告商品1ないし4の販売により平成九年一〇月から平成一二年三月までに被った損害の賠償として金一億〇〇五〇万円及びこれに対する平成一二年四月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した。
【第二事件】 1 原告サン・メディカは、被告に対し、次のとおり、本件商品等を販売した(以下「本件売買契約」という。)。
@ 平成九年七月二九日 本件商品(単価三六〇〇円) 四三二個 金一五五万五二〇〇円(消費税七万七七六〇円) A 平成九年九月一日 本件商品(単価三六〇〇円) 四三二個 金一五五万五二〇〇円(消費税七万七七六〇円) B 平成九年九月一一日 グリフロン(単価二九四〇円) 二四〇個 金七〇万五六〇〇円(消費税三万五二八〇円) 合計 金四〇〇万六八〇〇円(うち消費税相当額一九万〇八〇〇円) 2 被告は、平成八年九月から平成九年六月にかけて、原告サン・メディカ代表取締役の【A】(以下「【A】」という。)に対し、コンサルタント料として合計金五五七万〇二一〇円を支払った。
3 被告は、@前記2のコンサルタント料の支払は、【A】の詐欺によるものであり、商法261条3項、民法44条に基づき、原告サン・メディカに対して金五五七万〇二一〇円の損害賠償請求権を有する、A本件売買契約の解除により、在庫分(グリフロン二三〇本・金七一万〇〇一〇円、本件商品八七本・金三二万八八六〇円)について金一〇三万八八七〇円の代金返還請求権を取得したと主張し、平成九年一〇月八日、同日現在の買掛残金四〇〇万六八〇〇円について、右@の損害賠償請求権のうち金二三八万五六五六円を自働債権として相殺する旨の意思表示をするとともに、その残額から、Aの反対債権額金一〇三万八八七〇円及び送金手数料四二〇円を控除した金五八万一八五四円を原告に支払った。
4(本訴請求) 原告サン・メディカは、被告に対し、本件売買契約残代金三四二万四九四六円及びこれに対する最終支払日の後である平成九年一一月一日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(反訴請求) 被告は、原告サン・メディカに対し、前記3の代表取締役【A】の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち前記相殺後の残金三一八万四五五四円及びこれに対する前記2のコンサルタント料の最終支払日の後の日である平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を請求した。
二 争点 【第一事件】 1 イ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか。
(一) 原告表示は、原告らの商品等表示として出所識別機能を獲得し、周知といえるか。
(二) イ号ないしニ号表示は、原告表示に類似するか。
(三) 「Dフラクション」は、不正競争防止法11条1項1号の「普通名称」といえるか。
(四) (三)が認められる場合、イ号ないしニ号表示は、それを普通に用いられる方法で使用したものといえるか。
2 被告によるイ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項14号に該当するか。
(一) 被告は、被告商品販売開始の前「一年以内」に、原告マイタケプロダクツの代理人であったか。
(二) イ号ないしニ号表示は、本件米国商標に類似するか。
(三) (二)が認められる場合、被告がイ号ないしニ号表示を使用することに、不正競争防止法2条1項14号の「正当な理由」があるか 3 本件印刷物配布行為は、不正競争防止法2条1項13号に該当するか。
本件印刷物1、2の記載は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実といえるか。
4 損害額 【第二事件】 1 被告の【A】に対するコンサルタント料の支払は、【A】の詐欺に基づくものか。
2 被告は、原告サン・メディカに対し、本件売買契約の債務不履行解除に基づき、代金返還請求権を有するか。
争点に関する当事者の主張
《第一事件》 一 争点1(イ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか)について 1 同(一)(原告表示は、原告らの商品等表示として出所識別機能を獲得し周知といえるか)について 【原告らの主張】 原告表示は、遅くとも平成九年九月ころには、需要者の間で、原告らの商品等表示として周知性を獲得していた。
原告表示を付した本件商品は、原告サン・メディカにより、平成八年七月から日本国内で販売されるようになったが、同年九月一一日、株式会社東京放送(以下「TBS」という。)が、同系列各テレビ局を通じて全国で放映した番組「スペースJ」の「ガン治療最前線」特集の中で大々的に取り上げ紹介し、原告表示を映像の中で映し出し、商品名を紹介したため、健康食品に関心のある視聴者一般に強い人気を呼び、本件商品の売れ行きは一挙に約一〇倍にも伸びた。本件商品は、その後も、株式会社講談社が出版する著名な写真週刊誌「フライデー」同年一一月一日号にも原告表示を付した商品の写真付きで紹介された。また、原告サン・メディカは、平成九年三月以降、同年九月ころまでの間だけでも五十数回にわたって、本件商品を写真付きの広告で全国に広告しており、平成九年二月から一〇月の間だけでも一三〇〇万円以上の広告宣伝費をかけてきた。
なお、株式会社雪国まいたけ(以下「雪国まいたけ」という。)が「MDーフラクション」という商品名で、株式会社ファンケル(以下「ファンケル」という。)が「マイタケエキスDフラクション」という商品名で、それぞれマイタケエキスのソフトカプセルを販売しているが、これらの商品は、ソフトカプセルに封入したマイタケエキス錠剤であって、本件商品やイ号商品のように、液体をスポイトで服用する形態の商品ではない。また、両社とも通信販売を販路としており、本件商品の販路とは全く別であるから、直ちに本件商品と混同されることはない。両社は宣伝力もあり、大規模な広告を出したり、通信販売カタログに商品名を記載していることにより、本件商品表示の呼称がより周知になるという波及効果も生じさせているところである。
【被告の主張】 仮に、「Dフラクション」の呼称の使用が不正競争防止法11条1項1号に該当しないとしても、同表示は、原告の出所表示として周知性を獲得していない。
(一) 原告らは、日本国内において、本件商品の販売を平成八年七月に開始したが、その後の売上数量は、被告を介しての部分を含め、同年九月から平成九年八月までの年間累計でわずか八七四六万円(総売上個数一万一一七〇個)にすぎない。月間当たりの出荷量はほとんどが一〇〇〇個以下である。すなわち、本件商品は、健康食品市場においては、販売開始から間もない新規商品であって、平成九年九月ころには、試験的供給の域を出ていなかった。
(二) TBSのテレビ番組あるいは「フライデー」の記事は、化学物質たる「Dフラクション」の発見者である神戸薬科大学【D】教授(以下「【D】教授」という。)の功績の紹介を中心に、同物質の効能・用途の説明を行ったものであり、原告の商品表示あるいは同表示が原告の出所を表示することを需要者にアピールしておらず、原告表示の周知性を裏付けるものではない。「フライデー」の記事には、「Dフラクション(マイタケが含有する多糖体・ペプチドグリカン・マクロファージなどの細胞性免疫のネットワークを動かし、がん細胞の増殖を止める物質)」と記載され、同呼称が特定の営業者を示す出所表示ではなく、特定の化学物質を指すものであることが明記されている。ちなみに、「フライデー」の記事は、
被告が講談社に取材要請をなし、取材協力費を出費して掲載に至ったものであり、
これを原告の周知性の根拠として被告の誤認混同行為あるいは不正競争防止法2条1項1号違反を主張することは許されない。
(三) 原告サン・メディカが平成八年七月から平成九年六月末までに日本国内で掛けた広告宣伝費は三一五万円にすぎず、この程度の宣伝広告実績により日本国内に本件商品表示あるいはその商品が周知されたとはいえない。これに対し、被告が平成八年一〇月から平成九年七月までに本件商品の広告に掛けた宣伝広告費は約六一〇万円である。仮に、原告表示が需要者の間で周知性を獲得したとすれば、その大半は被告の宣伝広告活動によるものである。原告が周知性を根拠に、被告の誤認混同行為あるいは不正競争防止法2条1項1号違反を主張することは背信的である。
(四) 本件商品と同様の成分・効能を有する同種商品は、次のとおり、他のメーカーによっても取り扱われている。
@ 雪国まいたけ 商品名「MDフラクション」 平成九年三月発売開始(錠剤タイプのものはそれ以前から取り扱われている。) A ファンケル 商品名「マイタケエキスDフラクション」 平成九年九月発売開始 しかも、雪国まいたけは、原告が宣伝広告を開始した平成九年三月以降、夕刊フジ、産経新聞、健康産業新聞、毎日新聞、読売新聞において「MDフラクション」を自己の商品表示として宣伝広告を行い、同年四月一二日には読売新聞において、同年五月四日には朝日新聞において(いずれも全国版)、見開き全面広告を行うなど、極めて網羅的かつ効果的な広告を実施した。このように、原告らが原告表示の周知性獲得を主張する平成九年九月より約半年前には、「Dフラクション」を商品表示中に含む同種商品が、他の営業主体によって市場に供給され、かつ宣伝広告され、需要者に認識されており、「Dフラクション」と称呼される語に、
原告らの商品表示としての自他識別力がなくなっていたことは明白である。
2 同(二)(イ号ないしニ号表示は、原告表示に類似するか)について 【原告らの主張】 (一) イ号及びロ号表示の赤字部分が「D」のイタリック体と読めることは、表示自体から明らかであり、赤字でかつ中央部分を膨らませて表記してある点も原告表示と同様であるから、原告表示とイ号及びロ号表示の外観は極めて類似している。
また、イ号及びロ号表示の称呼は、イ号及びロ号物件の各ラベル及びパッケージに商品名として「スーパーDフラクション」の表記があることを考慮すると、イ号表示が「スーパー・ディー・フラクション・エクストラクト」、ロ号表示が「スーパー・ディー・フラクション・タブレッツ」である。このうち、「スーパー(SUPER)」は日本語で「超」を意味する一般用語であり、「エクストラクト(EXTRACT)」は「抽出」又は「抽出物」を意味する一般用語であり、「タブレッツ(TABLETS)」は「錠剤」を意味する一般用語であるから、イ号及びロ号表示の要部は、いずれも「D」と「FRACTION」の部分にあるというべきであり、イ号及びロ号表示は、全体として原告表示に類似している。
(二) ハ号表示は、ロゴタイプの「D」に「SUPER」及び「FRACTION」「EXTRACT」に加え、「MAITAKE」と表記したものである。「MAITAKE」は一般名称である「マイタケ」を意味するから、ハ号表示の要部が「D」と「FRACTION」にあることはイ号表示と同じである。ハ号表示の要部と原告表示を比較すると、称呼、観念が同一であり、外観においても、「MAITAKE」の部分は黒で書かれており、独立しているように見えるので、全体として、ハ号表示は原告表示と明らかに類似している。
また、ニ号表示は、ハ号表示の構成中の「EXTRACT」の部分が「TABLETS」に代わっているだけで、他の部分は全く同一であるところ、「タブレッツ(TABLETS)」は「錠剤」を意味する一般用語であるから、ニ号表示の要部は、ロ号表示と同じく「D」と「FRACTION」の部分にあり、ニ号表示も原告表示に類似している。
(三) なお、本件商品のパンフレットは、被告が製作を担当したものであるが、被告は、右パンフレットをデザインしたのと同じデザイナーを起用して被告商品の表示及びパンフレットを製作している。このことは、本件商品の潜在的購入者をして、被告商品が本件商品と誤認混同を生じさせる一要素となるものである。
【被告の主張】 (一) 原告表示の外観は、縦方向に圧縮され極端な幅広に表現された活字調の「D」を配し、その直下に「D」の下辺部分と近接させて、同字体同大の「fraction」の文字を配したものである。具体的構成は、「fraction」はイタリック体で表され、「D」の字の幅方向の長さと略同一長さで配置されている。
別紙表示目録一では省略されているが、原告表示の実際の使用態様を見ると、これら一連の文字の上側ラベル上辺は、青色の帯となり、白抜きで「Grifron-pro」と表され、その下部の「D」との間に「MAITAKE」の細身の赤色文字が大書され、「MUSHROOM」の青色文字と二段書きに表されている。ラベルの下辺は赤色の帯であり、内容量が欧文字で白抜きで表されている。背景部分は白色である。
(二) これに対し、イ号及びロ号表示では、原告が「D」と主張する赤色装飾文字が中央に配され、これと重なるように「SUPER」の文字が配されており、これらとやや離間して下側に「FRACTION」の文字が、更にその下部に線を挾んで「EXTRACT」「TABLETS」の文字が配されている。
具体的構成は、右赤色装飾文字は、歪曲された左弦の三日月様の図形に、
その下端から上方に突き出た歪んだ棒線を途中で途切れさせ、上端に達しないようにした態様であり、「SUPER」の文字は、ゴシック体の黒色文字であるとともに、右棒線と重なるように配され、これらをもって一塊の文字図形グループとされている。他方、前記「FRACTION」及び「EXTRACT」「TABLETS」の文字グループがその下部に独立して配されている。被告商品のラベルの上下端は細幅の白色の帯であり、
右各文字図形グループの背景色は、やや濃いめの肌色である。なお、右各文字図形の上部には黒色の極小のゴシック体で内容量が示されている。
また、ハ号及びニ号表示のうち、原告が「M」と称する部分は、字幅は均一でなく乱れており、右半分と左半分の楔形は対称でなく、右半分の楔形は左下から右上にかけて幅細となりつつ途切れており、かろうじて「M」を毛筆で走り書きした印象を有するという、デフォルメされた形態で表されている。ハ号及びニ号表示のうち、原告らが「M」と称する部分と「D」と称する部分は、他の構成文字とは明らかに異なる極端にデフォルメされた文様であって、字の大きさも他の構成文字とは顕著に異なっており、仮に中央部の赤色装飾文字が「D」の観念を生ずるとしても(ただし、被告は前記のとおりこれを争う。)、一見して、左上の装飾文字と右下の装飾文字が際立って看者の目に飛び込む結果、「MD」の観念だけを生じるものである。
(三) 以上のとおり、原告表示及びイ号ないしニ号表示は、@赤色で表した「D」の文字(ないしはこれをかたどった図形)と「フラクション」と称呼される欧文字が表示中に含まれていること、A両表示とも、典型的なゴシック体や活字体ではなく「ロゴ化」されていることという二点のみが共通し、他の構成態様はことごとく相違している。
しかし、不正競争防止法上の外観類似とは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象記憶連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準に判断されるものであるところ(最判昭和五八年一〇月七日民集三七巻八号一〇八二頁、最判昭和五九年五月二九日民集三八巻七号九二〇頁)、原告表示とイ号ないしニ号表示は、字体、字の大きさ、配列、他の構成要素、背景色等の、看者に印象付けられる標章の構成要素がことごとく相違しており、外観上、イ号ないしニ号表示から原告表示が連想されるものではない。したがって、イ号ないしニ号表示の使用は、原告表示と類似するものとはいえない。
3 同3(「Dフラクション」は、不正競争防止法11条1項1号の「普通名称」といえるか)について 【被告の主張】 「Dフラクション」は、次のとおり、「マイタケの菌糸体あるいは子実体から特定の方法により分離抽出された特定の構造式を有する多糖質タンパク複合体」の一般名称であり、同称呼を普通に用いられる方法で使用する行為に対しては、不正競争防止法11条1項により、同法2条1項1号3条は適用されない。
(一) 「Dフラクション」は、【D】教授のグループにより、複数の分離過程を経て抽出され、その効能が確認された「マイタケの菌糸体あるいは子実体から抽出された特定の構造式を有する多糖質タンパク複合体」に対し、その分画の過程にちなんで命名された「化学物質の名称」であるが、化学物質の名称は、その物質を特定するための普通名称であり、当該物質を原材料あるいは主成分とする商品の商標中に表示されている限り、商品の原材料等を記述的に表示するための使用方法にすぎない。
【D】教授は、「各種の真菌、主として担子菌からβ1・3グルコピラノシドを主鎖とし、これに1・6結合したグルコースの分枝鎖を持つ多糖が分離され、この多糖に抗腫瘍性が存在する」との知見を前提に、「担子菌に属するマイタケの人工栽培子実体から多糖を抽出し、その化学組成及び抗腫瘍活性について」検討を行い、その工程で得られた多糖質タンパク複合体たる「画分」を、一九八七年(昭和六二年)までに、「Dフラクション」と命名した。
【D】教授は、この「Dフラクション」、すなわちマイタケ子実体から抽出された多糖質タンパク複合体が免疫賦活化機能が高く、経口投与によって抗腫瘍性活性を示すことに関する論文を、マウスによる試験結果等の知見とともに、日本薬学会、日本化学療法学会の学会誌に発表し、あるいは、一般需要者向けの著作物による紹介を行った。その結果、他の研究者の論文においても「Dフラクション」が化学物質の名称として援用され、研究者以外の者によってもこの用法に従い使用されるに至り、遅くとも平成七年末までには日本国内の消費者に知られることとなった。
(二) また、原告、被告あるいは雪国まいたけ等が実施してきた各種パブリシティ活動によって、遅くとも平成九年九月以前には、「Dフラクション」は「マイタケから抽出された多糖質タンパク複合体」であることが、取引者のみならず消費者にも周知となった。原告らが提出する記事あるいは宣伝広告においても、「Dフラクション」なる称呼で呼ばれる語は、「原告の商品表示」としてではなく、
「特定の化学物質の名称」として紹介されている。その他、他の刊行物においても、「Dフラクション」なる称呼を有する語が「特定企業の商品表示」ではなく、
「マイタケから抽出された多糖質タンパク複合体の名称」として紹介され、消費者の目に触れている。
(三) 現在、市場で販売されているマイタケ抽出エキス加工食品は、本件商品、被告商品のほか、
@「マイタケMDーフラクション・エキス(タナベ)」 「マイタケMDーフラクション(タナベ)」(田辺製薬商事) A「マイタケ スーパーDーフラクション・エキス」 「マイタケ スーパーDーフラクション・タブレット」(ラボナ) B「マイタケ スーパーDーフラクション・エキス」 「マイタケ スーパーDーフラクション・タブレット」(健美舎) C「マイタケ スーパーDーフラクション・エキス」 「マイタケ スーパーDーフラクション・タブレット」(東洋メディコ) D「MDフラクション」(雪国まいたけ) 等があり、多数が、その商標中に「Dフラクション」の語(「ディーフラクション」の称呼)を使用している。原告らに「ディーフラクション」の称呼の独占を許すことは、前記各商品の商標中「Dーフラクション」の文字を抹消すべきことを意味する。しかしながら、右各商品は、等しく物質「Dーフラクション」を主原料とするものであって、右のような独占は許されない。
【原告らの主張】 「Dフラクション」あるいは「D-fraction」という語が、「マイタケの抽出物又は原末を用いた栄養食品」の一般名称を指す用語として、当業界で通用していた事実はない。
(一) 普通名称といい得るためには、すべての需要者、取引者間において共通認識されたものであることまでは要しないとしても、少なくとも相当範囲の需要者、業者間で使用されている呼称である必要がある。また、ある名称が普通名称であるか否かは、当該名称と商品の関係、商品の製造業者と販売業者との関係、それが商品の標識として使用された期間の長短、その商標が使用される時代における当該名称の用語、意義などに照らし全体的総合的に決定されなければならない。
右基準に従って原告表示を見ると、「D-fraction」という語が、本件商品の普通名称、すなわち、マイタケの抽出物又は同原末を用いた栄養補助食品を表すものとして、需要者である消費者や、これを扱う栄養補助食品の取扱業者の間で用いられた形跡はない。確かに、「D」の部分はアルファベットのDを指し、四番目という意味にとれなくはなく、「fraction」の部分は、英語で「画分」を意味するが、化学、薬学上の学術用語として、特定物質を精製、抽出すること又はした物を指す語として、化学、薬学分野の専門家に知られていたにすぎず、栄養補助食品の需要者、取引者の間で、広く商品の一般名称として知られていた事実はない。のみならず、化学、薬学の専門家であっても、「D-fraction」の語から「四番目の画分」という意味を連想できたとしても、これがマイタケを一定の方法で精製、抽出した化学物質を指すものとして認識されているわけではない。
(二) 被告は、「Dフラクション」という名称が、マイタケを一定の方法で精製、抽出した化学物質を表現する名称として、【D】教授により命名されたと主張する。
しかし、【D】教授は、論文の中で、マイタケのエキスを抽出し、出てくる画分を説明する際に、「D-fraction」という仮称を用いてその性質等を説明していたにすぎず、「Dフラクション」なる名称を特定の構造式を有する物質を指すものとして、学会誌等に発表した形跡はない。また、【D】教授は、別の論文では、「D-fraction」を「D画分」と日本語訳しており、これは、この論文中の実験におけるD画分(四番目の画分)を英語で「D-fraction」という普通名辞をもって仮称していたことを示すものである。
しかも、【D】教授は、平成一〇年三月二〇日に発売された著書「がんに挑む舞茸」では、当該特定物質をMDフラクションと称しており、命名したという本人が何通りもの名称を使っていること自体、当該特定物質に定まった名称が付けられていないことを証するものである。
なお、健康食品の中には、「プロポリス」「キトサン」のように、当該健康食品に含まれる原材料ないし主成分を商品表示的に表現しているものがあるが、「Dフラクション」という言葉は、これらの化学物質名と異なり、「イミダス」のような現代用語辞典にも紹介されていない。「Dフラクション」が特定の化学物質名として定着したものではなく、まして周知のものでないことは、この点からも明らかである。
4 同(四)((三)が認められる場合、イ号ないしニ号表示は、それを普通に用いられる方法で使用したものといえるか) 【原告らの主張】 (一) 不正競争防止法11条1項1号にいう「普通に用いられる方法」とは、一般の注意を惹くに足る書体あるいは図案をもって表示するものではなく、単に商品の普通名称を表示したにすぎないものをいい、ロゴ化して用いられる場合には、普通使用には当たらない。
イ号ないしニ号表示は、「D-fraction」をロゴ化し、一般の注意を喚起するような文字及び色を用いており、普通に文字を使用する方法で「D-fraction」と表示するものではないから、商品表示の普通名称として、普通に用いられる方法で使用しているものではない。よって、不正競争防止法11条1項1号適用除外の対象にはならない。
(二) 被告は、原告らが特殊なロゴや付加語を用いている場合であっても、
被告が別のロゴや付加語を用いているのであれば、適用除外の対象になると主張する。しかし、イ号ないしニ号表示は、文字の構成、配し方、色合いまでことごとく原告表示に類似しており、この点からも、不正競争防止法11条1項1号適用除外の主張をすることはできない。
【被告の主張】 原告らが特殊なロゴをもって普通名称を使用したり付加語を使用している場合には、被告も同じロゴを使用したり同じ付加語を使用していて初めて不正競争防止法11条1項1号にいう「普通に用いられる方法」での使用に当たらないとして適用除外から除かれる。これに対し、原告らの表現形態が何ら特殊でない場合や、原告らが特殊なロゴや付加語を用いている場合には、適用除外の対象となる。
原告表示とイ号ないしニ号表示のロゴは、前記二の【被告の主張】のとおり、ロゴの構成、字体、文字の配列、大きさも全く異なり、到底「同一のロゴ」とはいえない。なお、原告表示は、活字調の「D」の文字とイタリック体の「fraction」とを近接させており、一見して「Dフラクション」と読めるものであって、何ら特殊なロゴではなく、また、これに商標出願中であることを示す表示として慣用されている「TM」の文字を付加しているだけであり、その意味でも使用方法の特殊性が否定される。
二 争点2(被告によるイ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項14号に該当するか)について 1 同(一)(被告は、被告商品販売開始の前「一年以内」に、原告マイタケプロダクツの代理人であったか)について 【原告マイタケプロダクツの主張】 (一) 直接の代理店関係の存在について (1) 原告マイタケプロダクツと被告との間の取引は、平成八年九月ころ、
被告及びコスモメディカルの専務取締役であった【E】(以下「【E】」という。)が、米国ニュージャージー州の原告マイタケプロダクツ本社事務所に同社代表者【A】を訪ね、本件商品の販売代理店にさせて欲しいと申し出たことを契機に開始されたものであるが、当時、テレビ番組で本件商品が紹介されることが決まったため、被告(当時はコスモメディカル)の名で輸入承認を取る時間的余裕がなく、原告サン・メディカを輸入代理店、被告を販売代理店として本件商品を日本国内に受け入れ、販売することになったものであり、原告マイタケプロダクツと被告の間には、被告が平成九年一〇月に一方的に右取引関係を破棄するまで、直接の販売代理店契約があったことは明らかである。
(2) 原告サン・メディカは、原告マイタケプロダクツと株主が共通であり、完全な子会社ではないが、実質的には一体のものである。原告マイタケプロダクツの代表者で八九パーセントの株式を有する【A】は、原告マイタケプロダクツの日本子会社を設立しようとしたが、米国では、子会社を設立すると、連結財務諸表の提出などその会計処理が複雑化することから、当時同社の会計処理を担当していた米国公認会計士から「子会社設立は難しい」と言われ、やむなく、原告サン・メディカを設立し、本件商品の輸入承認だけを取得することにしたもので、原告サン・メディカは実質的に原告マイタケプロダクツの一部門である。
(二) 不正競争防止法2条1項14号所定の「代理人」とは、民法総則に規定されるような正確な代理法律関係をいうものではなく、およそ外国で商標に関する権利を有する者から、その商標に関する商品や役務の取引につき、代理権や代表権を付与された者をいい、具体的には、販売代理店、輸入代理店、さらにフランチャイズ・システムの加盟点や商標権のライセンシーも含むものと解される。
被告は、本件商品の販売元、すなわち原告マイタケプロダクツの販売代理店として、原告ら内部で扱われていただけでなく、本件商品を販売するに当たり、宣伝活動として、本件商品は米国法人である原告マイタケプロダクツが製造したものであり、被告がその日本における販売元であることを積極的に公表していた。このことは、被告が、原告サン・メディカの単なる顧客として本件商品を購入していたものではなく、日本における販売元として、ユーザー及び販売店に再販売する目的で、原告サン・メディカを通して原告マイタケプロダクツから本件商品を反復継続して購入し、かつ、本件商品に本件米国商標を使用して日本においてユーザー及び販売店に再販売していたことを示すものであり、被告が不正競争防止法2条1項14号にいう「代理人」に該当することは明らかである。
(三) 不正競争防止法2条1項14号にいう「一年以内」とは、代理人関係が消滅してから一年以上を経過してから、元代理店が同盟国登録商標類似の商標を用いて競争行為を始める場合を除外する趣旨である。被告のような解釈を採るのであれば、同盟国登録商標を有する者に一年以内に紛争を決着せよということになり、本条は何ら実効性を持たないものとなってしまい不当である。
【被告の主張】 (一) 被告は、原告サン・メディカから健康食品を仕入れ、これをユーザー又は薬局等に販売していたが、ユーザー又は薬局には自己の名において販売しており、同原告との関係では顧客にすぎないのであるから、まして、原告マイタケプロダクツとの関係では代理人関係には立たない。
原告マイタケプロダクツは、原告サン・メディカが商社あるいは輸入エージェントにすぎないことを前提に主張を展開するが、不正競争防止法2条1項14号は、パリ条約同盟国商標権者の代表者あるいは代理人による同盟国商標の無断使用行為を、日本法による商標登録あるいは日本国内での周知性を前提とせずに禁止したものであり、属地主義の原則の例外規定であるから、その適用範囲はおのずから制限的に解釈されるべきであり、平成八年法律第六八号による改正前の商標法15条4号の要件に即し、「代表者」は法人たる商標所有者の代表者、「代理人」は商標所有者から何らかの代理権を授与されたものを指すと解すべきである。したがって、本件では、輸入元である原告サン・メディカが日本国内における本件商品の展開につき原告マイタケプロダクツから授権を受けた「代理人」に該当することはあっても、被告は、自己の判断及び出捐による宣伝広告及び販売を行っており、
原告マイタケプロダクツから代理権を授与されたものではないから、本条の代理人性は否定される。
(二) 被告は、平成九年九月末日をもって原告サン・メディカとの取引を完全に終了しており、平成一〇年一〇月一日以降、本件米国商標と同一又は類似の商標を使用する行為は、もはや一四号の要件を満たさない。かつて外国商標権者の代理人若しくは代表者であったという一事のみにより、これらの者をして、不正競争防止法2条1項14号の適用を受けない他の当事者との関係で競争上永久に不利な地位に置かれることを甘受させるべき合理的根拠は存しない。右の理由からも、同号に基づく原告の差止請求は、もはやその根拠を欠く。
2 同(二)(イ号ないしニ号表示は、本件米国商標に類似するか)について 【原告マイタケプロダクツの主張】 本件米国商標は、「MAITAKE D-FRACTION」の英文字からなるが、そのうち、「MAITAKE」の部分はマイタケを示す一般用語にすぎないから、本件米国商標の要部は「D-fraction」の部分である。イ号及びロ号表示の要部は、前記一、2【原告らの主張】のとおり、「D-fraction」の部分であり、イ号及びロ号表示と本件米国表示の要部の称呼、観念は全く同一であるから、本件米国商標とイ号及びロ号表示は、全体として類似している。
また、ハ号表示は、イ号表示に「MAITAKE」を付加して「MAITAKE SUPER D FRACTION EXTRACT」という英文字を組み合せた表示であり、ニ号表示は、ロ号表示に「MAITAKE」を付加して「MAITAKE SUPER D FRACTION TABLETS」という英文字を組み合せた表示であり、イ号及びロ号表示と比較しても、更に本件米国標章に類似している。
【被告の主張】 本件米国商標は、同字体、同じ大きさをもって「MAITAKE D-FRACTION」の文字を横一列に並べたものである。これに対し、イ号ないしニ号表示は、前記一、
2の【被告の主張】記載のとおりであり、本件米国商標とは、原告表示との対比以上に異なっており、本件米国商標と類似しない。
3 同(三)(不正競争防止法2条1項14号にいう「正当な理由」の存在)について 【被告の主張】 (一) 仮に、被告が原告マイタケプロダクツの「販売代理人」に該当するとしても、被告が平成九年九月独自の販売を開始したのは、同原告の次のような欺瞞的商法への対抗手段としてであり、【D】教授の定義に従った「Dフラクション」を含む商品を市場に供給することにより、同称呼で表されるマイタケ抽出多糖質タンパク体の有効性及び同称呼を商標中に有する栄養補助食品に対する市場の信頼を維持する目的によるものであり、不正競争防止法2条1項14号にいう「正当な理由」に基づくものである。
(1) 原告マイタケプロダクツは、平成八年七月に健康商品の販売を開始して以後、雪国まいたけから、国内産のマイタケを主原料とする商品の供給を受けていた。しかし、同原告は、平成九年三月ころ、「Dフラクション」の発見者であり、技術指導等の協力を得ていた【D】教授からの中止要請を無視し、安価な材料によりコスト削減が図れるとして、中国産マイタケの導入を強行した。しかし、中国産マイタケにより製造された本件商品は粘度が高く、備え付けのスポイトで吸えない上に妙な味し、化学構造も【D】教授が特定した「Dフラクション」の構造式を有するかどうか不明であった。その結果、小売販売先である株式会社コープこうべあるいは神戸薬科大学の研究室等に消費者からの苦情が殺到した。
(2) 被告は、平成八年九月から平成九年六月にかけて、後記第二事件被告の主張のとおり、原告サン・メディカ代表者により、「【D】教授に対するコンサルタント料」名下に少なくとも二三八万円の金員を着服された。
(3) また、そのころ、原告マイタケプロダクツ代表者【A】が、【D】教授の研究室の研究データ等を同教授の許可を得ずに米国の雑誌等で用いたことが判明した。さらに、【A】が【D】教授に対し、ジョージタウン大学でDフラクションの研究を行おうと持ちかけたことから、【D】教授が協力企業から研究費名目で三五〇〇万円の資金を提供してもらい【A】に託したところ、原告マイタケプロダクツ側と大学側の話がまとまっておらず、企業側からクレームを付けられた。
(4) その結果、【D】教授及び被告は、原告らと共に事業を行うといかなるトラブルが起こるか分からないという不信感を覚え、【D】教授は原告らとの協力関係を解消し、被告は同教授の協力を得て、国産マイタケを用いた製品による独自の事業展開を行うことを決意し、原告マイタケプロダクツとの取引を解消した。
(二) 原告マイタケプロダクツは、独自の解釈により「正当な理由」を狭くとらえているが、失当である。ひとえに代理人の努力によって商標に信用が化体したところ、開拓した顧客を保持しておくためには同盟国商標権者の商品の品質では困難であるために、他の者からの商品を仕入れる必要があり、契約関係を終了せざるを得なかったというような場合も正当理由の存在する例と解せられ、本件は、正にこの場合に該当する。また、原告マイタケプロダクツ主張のような「正当な理由」の解釈との関連でも、次のとおり、正当な理由がある。
(1) 「Dフラクション」は、もともと【D】教授の論文中にマイタケから抽出された物質の名称として引用され、その後、原告らを含む複数のメーカーによって、ガン細胞の増殖防止に役立つマイタケからの抽出物(タンパク多糖体)として一般消費者に紹介されたことにより、客観的に、原告らや被告の扱う健康食品の有効成分ないし原材料を示す言葉として普通名称化した。
(2) 被告は、原告ら、被告及び他のメーカーの広告並びに書籍、記事等に接することにより、「Dフラクション」をもってマイタケに含まれる有効成分の普通名称であると認識し、被告商品の包装箱やパンフレットにその旨記載するに至った。もとより、被告は、原告マイタケプロダクツが本件米国商標の登録を得ている事実を本訴に至るまで知らなかった。
(3) 被告は、原告が我が国において「Dフラクション」を普通名称として使用したことから、これを商標として独占する意思がないと信じたのであり、右は、原告自身が「我が国においてはその商標に関する権利を取得する意思がないことを信じさせた場合」あるいは「その商標が本人のものであることを知らなかった場合」に他ならない。
【原告マイタケプロダクツの主張】 (一) 不正競争防止法2条1項14号にいう「正当な理由」とは、例えば、
商標権者がその商標を放棄したことなど、我が国においてはその商標に関する権利を取得する意思がないことを信じさせた場合、商標権者から代理権、代表者を与えられる以前から自己のものとしてその商標を使用していたような場合、これらの者が直接商品を扱っていなかったためにその商標が本人のものであることを知らなかった場合等、これらの者が権利者から承諾を得ないで敢えてその権利に係る商標と同一若しくは類似の商標の使用等をすることについて、それ相当の無理からぬ事由がある場合をいうと解されている。被告は、原告らとの間でいろいろな確執があったことを主張しているが、そのような事実は右「正当な理由」には該当しないから、被告の右主張は、主張自体失当である。
(二) 本件商品の原材料を中国産マイタケに切り替えるに際しては、【D】教授も十分承知し、原告マイタケプロダクツに協力してくれていたものである。本件商品は、その品質も含め、日本の消費者に十分に受け入れられており、品質に問題はない。本件商品は、一九九七年(平成九年)六月、FDA(米国食品医薬品局)の新薬臨床試験を行うについての承認申請を行い、厳しい品質、品質管理審査にも合格して同年一一月その承認を受けたものであるから(承認番号IND五四五八九)、品質は保証されている。
また、被告は、【A】が【D】教授へのコンサルタント料名目で金員を着服したとか、【A】が【D】教授にジョージタウン大学での研究を持ちかけたことからトラブルが生じたとかいった事実を主張するが、これらは、事実無根か又は事実を曲解したものである。
(三) 被告は、本件米国商標の登録を知らなかったとも主張するが、原告マイタケプロダクツ代表者の【A】は、被告の役員であった【E】が初めてニュージャージー州の事務所に訪ねてきた時から、度々本件米国商標が登録されていることを告げており、被告代表取締役の【C】(以下「【C】」という。)も、本件米国商標の存在を承知の上で、原告サン・メディカが日本において「D-fraction」の商標登録出願をする際には、【A】の相談に乗り、東京在住の弁護士を紹介した上で、同弁護士との二回にわたるミーティングにも参加していたのであるから、被告は、本件米国商標の存在を熟知していた。
三 争点3(本件印刷物配布行為は、不正競争防止法2条1項13号に該当するか)について 【原告らの主張】 (一) 被告商品1は、マイタケの抽出物の主要成分であり、免疫効果を高める有効成分である活性βーグルカンが、本件商品と比較して一〇分の一程度しか含まれておらず、被告商品2は、原告の同種商品であるグリフロンと比較して、活性βーグルカンの量には差異がないにもかかわらず、本件印刷物1、2は、本件商品が被告商品1、2より劣るような表現をしている。各表現は、虚偽の内容をもって原告らの営業上の信用を毀損する内容が記載されているといわざるを得ない。
(二) 被告は、βーグルカンとはセルロースを代表とする「グルコースがβ結合した多糖類」にすぎず、その多寡は健康食品の効能とは何ら関係がないと主張する。確かに、βーグルカンには活性βーグルカンと不活性βーグルカンがあり、免疫効果を高めるのは活性βーグルカンだけであるが、活性βーグルカンは、それだけを経口投与しても効果はない。しかし、本件商品には、活性βーグルカンがタンパク質との結合体として含まれており、このようなタンパク質との結合体であれば、経口投与、すなわち栄養補助食品として用いても免疫効果が高められる。
【被告の主張】 (一) 本件印刷物は、現在使用されていないから、不正競争防止法2条1項13号に基づく差止請求には理由がない。
(二) 本件印刷物のうち、前記第二、一、4、(一)及び(二)の記載は、原告らを名指しするものではなく、前記一、2の【被告の主張】のとおり、同種商品を扱う複数の競合メーカーが存在する状況下において、原告らのことを示唆するものでもあり得ないから、同記載をもって、原告らに対する営業誹謗行為とはいえない。
仮に、これが原告らの製品を指すものであるとしても、本件商品は、前記二、3の【被告の主張】のとおり、過去に消費者からクレームを付けられた経緯があり、その品質が被告商品1、2と比較して劣ることは明らかであるから、本件印刷物1、
2の記載は虚偽の記載ではない。
なお、本件印刷物1には、「この度、神戸薬科大学【D】研究室のご協力を得まして、従来、米国で生産されておりましたマイタケ製品を当社独自で国内で生産することになりました。」との記載があり、読みようによっては、「米国で生産していた原告らの製品を、被告は国産化することに成功した。」とも解することができるが、これは何ら虚偽ではない。仮に、被告製品が、原告らの製品を国産に切り替えたものでないとしても、右事実は、原告らに対する営業誹謗行為ではない。本件商品の効能が低いとか、品質が悪いとかの事実を告知するものではないからである。
(三) 原告らは、本件商品のほうが被告商品1、2より活性βーグルカンの含有量が一〇倍多いと主張するが、βーグルカンとは、セルロース(繊維素、紙や木の皮の主成分)を代表とする「グルコース(ぶどう糖)がβ結合した多糖類」のことにすぎず、その多寡は健康食品の効能とは何ら関係がない。
四 争点5(損害額)について 【原告らの主張】 1 被告は、平成九年一〇月から平成一二年三月までの間に、被告表示を付した被告商品を少なくとも二億円販売した。右期間における右被告商品の仕入原価は多くとも一億円を超えず、被告商品の販売に必要であった販売費及び一般管理費は多くとも売上高の七・五パーセントである一五〇万円を超えない。したがって、被告は、被告表示を付した被告商品の販売により、九八五〇万円の利益を得た。
2 さらに、被告が本件商品の品質が劣るかのように記載した本件印刷物を配付した行為により、原告らは営業上の信用を失墜し、これにより被った損害額は少なくとも金二〇〇万円を下らない。
3 よって、原告らは、被告の不正競争行為により、少なくとも一億〇〇五〇万円の損害を被った。
【被告の主張】 1 被告商品の平成九年一〇月から平成一一年一二月一〇日までの純売上高は一億七四四四万七二〇〇円であり、総売上二億九一三八万〇五五八円に対し、五八・九パーセントである。
2 これに対し、被告商品の販売に直接関わる経費(いわゆる変動経費)は、
以下のとおりである。
@ 右期間の商品仕入れ 七二〇五万二八七五円 A 宣伝広告費 二一一二万九一八四円 B 運賃 二九四万二一一四円 C 業務委託費 三一五万九五二八円 (Dフラクションの開発者であり、被告商品の企画開発・生産に関するアドバイザーである【D】教授に対するコンサルタント料) D 旅費交通費 九一〇万六八五三円 E 通信費 二五〇万六六五六円 (右期間の被告の通信費〔大半が、被告の取扱商品に関するメーカーとの受発注・顧客対応電話等〕のトータルを、総売上に対する被告商品の売上比率で配賦したもの。) F 右@〜E合計 一億一〇八九万七二一〇円 3 さらに、被告は、被告商品の売上による利益獲得のため、
@ 平成一〇年七月三一日までは、六六〇八万〇八八五円 A 平成一〇年八月一日から平成一一年七月三一日までは、三七六一万七〇〇三円、
B 平成一一年八月一日から同年一一月三〇日までは、九九九万二六四四円 の販売費・一般管理費を要している。
4 よって、被告商品の販売により被告が受けた実際の利益の額は、1の純売上高(一億七四四四万七二〇〇円)から2の変動経費(一億一〇八九万七二一〇円)を控除し、さらに3の合計額を総売上高に対する被告商品の売上比率(五九・八パーセント)で配賦した金額(六七九八万六九三八円)を控除した額であるが、
右は四四三万六九四八円の赤字である。したがって、被告が被告商品1、2の販売によって実際に受けた利益は、ゼロである。
《第二事件》 一 争点1(被告の【A】に対するコンサルタント料の支払は、【A】の詐欺に基づくものか)について 【被告の主張】 1 被告は、平成八年九月、原告サン・メディカの代表取締役である【A】の薦めにより、同原告から本件商品の仕入れを開始した。
2 右取引開始に当たり、【A】は、被告に対し、本件商品は開発者である神戸薬科大学の【D】教授の協力下に販促活動を勧めることにより差別化が達成でき、これが被告に多大な利益をもたらすとし、ついては、
@ 【D】教授の継続的なアドバイスを得るために、被告において、被告の売上げの五パーセントに相当する金員を同教授に対するコンサルタント料として拠出してもらいたい、
A ただし、右のうち二・五パーセントに相当する金員を【D】教授に対するコンサルタント料として支払い、残余の二・五パーセントを仲介手数料として【A】個人が領収することを承諾してもらいたい(具体的には、「アメリカの慶応スクールに通っている【A】の息子が日本の大学に行くことになり金がかかるので、【D】教授に支払うべき五パーセントのうち半分を【A】が取ることを承諾して欲しい」) 旨持ちかけた(【A】は、同教授に支払うコンサルタント料を被告から預り、自ら【D】教授に交付すると称した)。
3 被告はこれを了承し、前記第二、一【第二事件】2のとおり、平成八年九月から平成九年六月にかけて、合計五五七万〇一二〇円を【A】に支払ったが、平成九年七月、【D】教授が【A】あるいは原告サン・メディカから、一切コンサルタント料を受領していないことが判明した。すなわち、【A】は、【D】教授にコンサルタント料を支払う意思がないにもかかわらず、これがあるように原告を欺罔し、【D】教授に対するコンサルタント料の名目で被告から金員を詐取したものである。
4 原告サン・メディカは、商法261条3項、民法44条により、【A】の不法行為について損害賠償義務を負う。
【原告サン・メディカの主張】 1 被告は、【A】との間でコンサルタント契約を締結し、平成一〇年六月まで売上高の五パーセントに当たる金員をコンサルタント料として支払っていたが、
このコンサルタント料は、【A】が被告に対し、アドバイス、資料作成、資料提供等の業務を提供することへの対価として支払われたものであり、【A】と被告の間には、コンサルタント料の半額を【D】教授に提供するという約束は一切なかった。
2 被告は、【A】の不法行為による損害賠償を原告サン・メディカに請求できる理由について、何ら具体的な主張をしていない。
二 争点2(被告は、原告サン・メディカに対し、本件売買契約の債務不履行に基づき、代金返還請求権を有するか)について 【被告の主張】 原告サン・メディカは、本件商品の開発者である【D】教授の反対を押し切って原料であるマイタケを日本産から中国産に変更し、最終販売先(コープこうべ)を通じてユーザーからクレームを受けた。このため、被告に販売された商品についても同様の品質劣化が懸念され、薬理活性が低いことも予想された。そこで、
被告は、平成九年一〇月八日、在庫品のグリフロン二三〇本(消費税を付加して七一万〇〇一〇円)、本件商品八七本(消費税を付加して三二万八八六〇円)について、原告サン・メディカとの本件売買契約を解除し、右代金額合計一〇三万八八七〇円の代金返還請求権を取得した。
被告は、原告サン・メディカに対し、右在庫商品を返品したが、原告サン・メディカが受領を拒絶したため、現在被告において保管している。
【原告サン・メディカの主張】 被告と原告サン・メディカの間で、同原告が国内産のマイタケを原料として使用することが条件となっていた事実はない。仮に、そのような条件があったとしても、被告代表者【C】は、平成八年一二月ころ、【A】より、原料として中国産のマイタケを使用する考えであることを聞かされていたにもかかわらず、その後も平成九年九月まで本件商品を継続的に購入していたのであるから、被告は右条件変更を追認したものであるし、中国産のマイタケを使用した場合に、商品の品質が日本産の原料のみを使う場合に比べて劣ることもないから、右事実は原告サン・メディカの債務不履行を構成しない。よって、被告は、原材料の一部が中国産であることを理由に本件売買契約を解除することはできない。
当裁判所の判断
【第一事件】 一 本件商品の開発、販売及び宣伝広告の経緯について 1 【D】教授による研究 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 【D】教授は、京都大学農学部を経て、神戸薬科大学微生物化学研究室において長年キノコからの抽出物の抗腫瘍、抗高血圧等の機能について研究を行い、その過程で、マイタケの菌糸体あるいは子実体から得られる分離抽出物の免疫賦活化作用に注目して研究を続けてきた。同教授は、昭和四九年(一九七四年)、
「舞茸の代替療法域」と題する論文を発表し、マイタケの熱水抽出多糖体を「MTー1」等と仮称したが、昭和六二年(一九八七年)、社団法人日本薬学会の機関誌「Chemical and Pharmaceutical Bulletin Vol.35 No.3」に発表した論文では、
マイタケ子実体からの熱水抽出多糖体に「MTー1」「MTー2」の仮の名称を付した(乙一三、一七、二三)。
(二) 【D】教授は、昭和六三年、「Chemical and Pharmaceutical Bulletin Vol.36 No.5」に「グリフォラ・フロンドーサ(マイタケ)子実体抽出物の経口投与による抗腫瘍作用について」と題する論文を発表し、「マイタケの果肉から得られる酸不溶性、アルカリ溶性、熱水抽出重合体(約30%のタンパク質を含む多糖体:Dフラクション)が、ラットに対する経口投与により突発性・遺伝性腫瘍に対する抗腫瘍作用を示すことが明らかになった」との見解を述べるとともに、
「βー1・6結合を有するグルコースを主鎖(直鎖)とし、βー1・3結合を分枝鎖とし、βー1・6結合5個に対し、βー1・3結合5〜7個が結合して成る重合体」に「Dフラクション」と命名した(乙三、一三)。
(三) 【D】教授は、平成二年(一九九〇年)八月、日本化学療法学会において、「マイタケ子実体抽出物の経口投与による抗腫瘍機作」と題する発表を行い、その発表が学会誌に掲載された。その要旨は、マイタケ子実体より熱水抽出したD画分(フラクション)を経口投与し、遅延型過敏症反応(DTH反応)が増強されるか否か検討した結果、footpad試験より腫瘍抗原に特異的に働くTdhの誘導が増大されたり、spleen細胞中からanti-Lyt-2モノクロナール抗体の処理によりCTLを除去したLyt-2-spleen細胞による腫瘍中和反応(Winn assay)が増強されることが認められ、以上の結果は、腫瘍増殖抑制が起こっていることを推定させる、というものであった(乙四)。
(四) 【D】教授は、平成七年三月二九日から三一日に行われた日本薬学会で、「マイタケのD-Fractionによるリンパ球の変動と腫瘍細胞の破壊像」と題する講演を行い(乙四六)、平成一〇年三月二〇日発行の著書「がんに挑む舞茸」において、マイタケから抽出されたがん抑制物質を「MDーフラクション」と呼称した(甲二九)。
2 本件商品の商品化 証拠(甲一四、三九、乙一八、原告マイタケプロダクツ代表者、被告代表者)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告マイタケプロダクツ代表者で原告サン・メディカの代表取締役でもある【A】は、一九九一年(平成三年)、【D】教授の論文を知り、マイタケが健康食品として有望であると考えて、米国デラウェア州に原告マイタケプロダクツを設立し、一九九三年(平成五年)、アメリカにおいて、本件商品及びグリフロンの販売を開始した。また、【A】は、平成七年九月一八日、原告マイタケプロダクツの商品を日本に輸出することを目的として、原告サン・メディカを設立し、原告サン・メディカは、平成八年二月一日、食品衛生法に基づく健康食品の輸入許可を得た。
(二) 被告代表者【C】は、平成八年六月ころ、日本農業新聞の【F】から本件商品「Dフラクション」の存在を聞いて興味を持ち、情報を収集したところ、
Dフラクションの開発者が【D】教授であり、これをアメリカで商品化している会社が原告マイタケプロダクツであることを知った。そこで、【C】は、平成八年九月ころ、コスモメディカル専務取締役の【E】を原告マイタケプロダクツに派遣し、【A】と面会の上、同社として、グリフロン及び本件商品の日本における輸入総代理店になる希望があることを伝えた。
(三) 【A】は、平成八年九月六日、【C】及び【E】と赤坂東急ホテルで面談し、本件商品を取り上げたTBSの報道番組「スペースJ」の放映が同月一一日に決定したことを伝えるとともに、右番組に対する視聴者からの反響により本件商品の注文が急増することが予想されるが、原告サン・メディカでは商品販売の態勢が整っていないので、コスモメディカルに個人消費者向けの直販を扱うための代理店になって欲しいと提案した。また、【A】は、日本への輸入許可を持つ原告サン・メディカを通して商品を卸すことを希望したので、商品売買契約は被告と原告サン・メディカとの間で締結されることになった。【A】は、面談当日、TBSの担当者に【E】を日本の代理店として紹介し、同月一〇日には、商品の問い合わせ先として被告の電話番号をTBSに知らせた。
3 宣伝・広告 後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。
(一) TBSの報道番組「スペースJ」は、平成八年九月一一日放映の「ガン治療最前線」特集中で、原告表示を画面上に映し出した上で本件商品を紹介した(甲一四)。この番組には、一般視聴者から大きな反響があり、放映翌日から、被告に問い合わせの電話が数百本単位であった。
(二) 平成八年一〇月一六日付け日刊ゲンダイは、「新起業のタネ発見!」と題して、「まいたけエキス」の紹介記事を掲載した。同記事には、「いま、アメリカのがん患者が大事にしているのはそのエキス『D・fraction』だ。それ自体が商品名となっているマイタケエキス。」「がんの代替療法(オルタナティブ)、D・フラクション」、「輸入総発売元ベルダ」という記載がある(乙一一の1)。
(三) 写真週刊誌「フライデー」平成八年一一月一日号は、「全米で大ブームの絶大効果『マイタケ』が”がん細胞”の増殖を止める」と題して、見開き頁で、本件商品の紹介広告を掲載した。右広告頁には、原告表示をラベルに付した本件商品の写真が掲載され、「マイタケというキノコから抽出して精製した健康食品『Dフラクション』が、米国で売れています。・・」、「ちなみに【D】教授は、
昨年権威ある米国代替がん治療学会から『学会賞』を受賞した。これは、Dフラクション(マイタケが含有する多糖体・ペプチドグリカン、マクロファージなどの細胞性免疫のネットワークを動かし、がん細胞の増殖を止める物質)が、がんの抑制に対して代替療法的に使えることが認められたことによる。」「このDフラクションは、93年にニュージャージー州にあるマイタケ・プロダクト・インク社が商品化したものだけが本物で、日本の健康食品売り場には『日本製のまがい物』が並んでいる。本物を入手するには、輸入代理店から購入するのが今のところ唯一の方法である。」という記載がある(甲一五、乙一一の2)。
(四) 平成九年一月一六日付け日本農業新聞は、「森の妙薬きのこ(6)」という連載記事でマイタケを取り上げ、【D】教授の研究を紹介した。同記事には、
「βーグルカンを分類して調べたところ、Dフラクションと名付けられた抽出物に、高い生理活性が見られることが分かった。」という記載がある(乙一一の3)。
(五) 平成九年二月二〇日付けスポーツニッポンに掲載された本件商品の広告には、「マイタケに含まれるDーフラクションという物質がガンを抑える働きをするというのだ。」いう記載があり、広告主は「株式会社ベルダ」とされている(乙一一の5)。
(六) 「週刊現代」平成九年三月一五日号は、「日本人が開発して世界が認めた『がんに効くクスリ』3」という記事を掲載し、がんの代替療法に使用される栄養補助食品として、「Dフラクション」を紹介した(乙一一の6)。
(七) 原告サン・メディカは、平成九年三月から九月ころまでの間に、健康食品業界紙「ヘルスライフビジネス」「健食流通新聞」、健康情報誌「さわやか元気」「壮快」「安心」「健康」、一般週刊誌「週刊ダイヤモンド」「週刊現代」「週刊新潮」、「日経ビジネス」「週刊朝日」、「サンデー毎日」「週刊読売」「エコノミスト」「週刊文春」「プレジデント」、スポーツ新聞等に、合計五〇数回にわたり、原告表示をラベルに付した本件商品の写真及び原告表示を掲載して広告宣伝を行った。これらの広告では、マイタケの有効成分を「βグルカン」とし、
「総輸入元・販売元サン・メディカ」としていた(甲一〇の1〜58)。
(八) 雪国まいたけは、平成九年三月ころから八月ころまでに、夕刊フジ、
産経新聞、読売新聞、毎日新聞、健康産業新聞等において、マイタケから抽出した成分を用いた健康補助食品である「MDフラクション」の広告を行い(乙七の1〜21)、同年四月一二日付け読売新聞、同年五月四日付け朝日新聞には、カラー全面広告を出した(乙8の1、2)。これらの広告には、「神戸薬科大学の【D】教授がマイタケの有効成分を抽出したのが『Dフラクション』。免疫系の機能を向上させ、動物実験ではがん細胞の増加を抑制、アメリカでは臨床にも使われている。」(乙七の1)、「まいたけのエッセンスである『Dフラクション』(乙七の4〜7)、「まいたけにはビタミン・ミネラル・食物繊維の他、健康を維持するために重要な免疫系を正常に保つ多糖体『Dフラクション』が含まれています。」(乙七の8〜21)などの記載がある。
(九) 月刊健康情報誌「さわやか元気」平成九年四月一日号は、「高脂血症、糖尿病、子宮筋腫にまで効くマイタケ抽出エキス『Dーフラクション』の免疫パワー」と題する記事を掲載し、本件商品を紹介したが、その際、原告マイタケプロダクツが販売する健康食品の名称を「Dフラクション」、マイタケに含まれる物質の名称を「Dーフラクション」とした(乙11の7)。「さわやか元気」同年七月二日号は、再びマイタケの紹介記事を掲載し、同記事には、「これ(ガンへの有効性)は、マイタケに含まれる『Dフラクション』と呼ばれる独自の多糖体で、これを効果的に抽出したものが『Dーフラクション・エキス』です」との記載がある。
これらの記事ではいずれも問い合わせ先は被告とされている(乙一一の13)。
(一〇) 「週刊読売」平成九年四月一三日号、同年五月四日号掲載の本件商品の広告には、「【D】教授が発見したのは、マイタケに含まれるDーフラクション(ベータ・グルカン)と呼ばれる多糖体で、生体の免疫システムを活性化したり調整する機能を持つ。」「お問合せ・株式会社ベルダ」の記載がある(乙一一の8、9)。
(一一) 「財界」平成九年五月一三日号にも、「輸入代理店(ベルダ)」として本件商品の広告が掲載され、その中で、Dーフラクションは、「マイタケが含有する多糖体Dーフラクション」という物質名と、原告マイタケプロダクツの商品名という両方の意味で使用されていた(乙一一の10)。
(一二) 平成九年六月五日付け「日本農業新聞」の記事には、「がん細胞増殖を抑制しているのは体に備わっている免疫機構で、Dーフラクションは免疫機構を活性化させる。」という記載がある(乙一一の12)。
(一三) 平成九年六月二六日付け健康産業流通新聞は、マイタケの薬効を取り上げ、【D】教授のインタビューを掲載した。同教授は、「多糖体の中のβグルカンが薬効の鍵」「マイタケのβグルカンは、熱水で抽出するわけですが、四番目に精製された物質が腫瘍に対して最も強いことからDフラクションと名付け、これは、九五%のグルコースと約五%の蛋白質で構成され、まいたけの実子体には〇・一%から〇・二%しか含まれないものです」と述べている(甲一〇の23)。同年七月一日付け健食流通新聞は、同年七月一日にも「マイタケ・D・フラクション米学会で研究発表」という記事を掲載し、Dーフラクションには癌の増殖、転移、再発のリスクを軽減する可能性があると思うとする【D】教授の談話を紹介するとともに、原告マイタケプロダクツがDフラクションを商品化し、日本の現地法人である原告サン・メディカが、日本での需要に積極的に対応する体制を整えていると伝えた(甲一〇の37)。
(一四) 「安心」平成九年七月号は、「ガンが改善と日米の医師から報告続々、糖尿病、高血圧にも有効と話題集中の《マイタケ》」と題する記事を掲載し、
【D】教授の談話を紹介した。【D】教授は、マイタケの免疫増強作用と抗腫瘍作用の中心になっているのが、Dフラクションと呼ばれる物質である旨述べた(乙一一の14)。
(一五) 産経新聞平成九年七月二一日付け朝刊は、「マイタケエキスがん本当に効くの?」という見出しで、マイタケエキスの制がん作用について、人間の免疫力を活性化することでがん細胞を壊すとの【D】教授の説明と、がん治療の効果に疑問を呈するキノコ研究学者の意見を併記した記事を掲載した(乙一一の15)。
(一六) 「元気生活」平成九年一〇月号は、特集「マイタケを食べよう」という記事を掲載し、【D】教授のマイタケ研究成果を紹介した。同記事には、「Dフラクションと名付けた成分が抗腫瘍活性をもっとも強く示したのです。Dフラクションとは特殊な結合をした糖たんぱくで細胞の免疫のネットワークを動かし、ガン細胞の増殖を止める働きなどがあるといわれています。」「Dフラクションを効率よく摂るためには、ひとつ注意していただきたい点があります。Dフラクションは水溶性なので、煮汁が残ってしまう煮物よりも、炊き込み御飯や汁物・シチューなどにすると、無駄なく摂ることができます。それから、DフラクションはビタミンCと一緒に摂取すると吸収が高められるといわれています。」という文章がある。また、同誌には、ファンケルが発売した商品名「マイタケエキスDフラクション」の広告が掲載され、その中には「マイタケの子実体より熱水抽出された高分子多糖体、Dフラクション」との記載もある(乙九)。
4 原告マイタケプロダクツは、平成八年九月一七日、原告表示について商標登録出願をした。これに対し、特許庁審査官は、平成一一年四月六日付けで、商標法3条1項3号4条1項16号を適用して拒絶査定をしたが、その理由は、いわゆる健康食品を取り扱う業界において、マイタケの子実体から抽出した多糖質タンパク体で、抗腫瘍作用を有する物質を「D-fraction」と表すことが知られている実情に照らせば、原告表示をその指定商品中、前記多糖質タンパク体を有する商品に使用するときは、単に商品の原材料を表示するにすぎない、というものであった(甲59)。
二 争点1(イ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか)について 1 同(一)(原告表示は、原告らの商品等表示として出所識別機能を獲得し、
周知といえるか)について 前記一で認定した事実によれば、本件商品は、平成八年秋以降、テレビや著名な週刊誌という影響力の大きいマス・メディアにおいて、ガン予防に効果のある健康食品として取り上げられ、原告サン・メディカ及び被告により、相当の発行部数を有する雑誌、新聞等を通じて集中的に宣伝広告されたこと、これらの広告では、常に原告表示を付した本件商品の写真が掲載されていたことが認められる。
また、証拠(甲一〇の1〜58)によれば、これらの広告には、問い合わせ先を原告サン・メディカとする場合、被告とする場合、両者を併記する場合の三種類があるが、一般週刊誌に掲載された広告には、「お申し込み・お問い合わせはフリーダイヤルで」との記載の下にフリーダイヤルの電話番号を明記し、「輸入・販売元潟Tン・メディカ」と記載したものが多く、問い合わせ先又は輸入元を被告とする場合でも、広告文中において、本件商品が原告マイタケプロダクツにより米国で製造された商品であることが明記されていたことが認められる。
右によれば、原告表示は、平成九年秋ころには、原告らの商品を表す表示として、需要者である健康食品に興味を持つ一般消費者の間で、出所表示機能を獲得し、周知となったものというべきである。
2 同(二)(イ号ないしニ号表示は、原告表示に類似するか)について (一) 原告表示 原告表示は、活字調の「D」を縦方向に圧縮し、縦線と曲線中央部分を太く強調した赤文字の下に、「D」の幅にほぼ収まる範囲で、黒字のイタリック体で「fraction」と記した外観を有しており、「ディー・フラクション」の称呼を生じる。そして、前記一のとおり、本件商品の宣伝広告において、マイタケから抽出された「Dーフラクション」という名称の物質が免疫増強作用、抗腫瘍作用があるとされていることを考慮すれば、原告表示は、需要者に対し、「Dーフラクションという名称の、マイタケから抽出した物質、又は右物質を利用した健康食品」という観念を生ずるものといえる。
(二) イ号表示・ロ号表示 (1) イ号表示は、「D」を筆描き状にデフォルメし、縦線を細く、曲線部分を太く強調した赤文字の下に、「D」の幅にほぼ収まる範囲で、黒字の細ゴシック体の「FRACTION」及び下線を配置し、その下に極小文字で「EXTRACT」を配置し、
さらに「D」の縦中央部に懸るように黒字の細ゴシック体で「SUPER」と記した外観を有しており、これらの文字の大きさ、太さ、形状を考慮すると、イ号表示の外観のうち看者の注意を惹く部分は、デフォルメされた「D」の赤文字及びその下の「FRACTION」の黒文字であると認めるのが相当である。
また、ロ号表示は、「FRACTION」の下の小文字が「TABLET」である点以外は、イ号表示と同一の外観を有しており、右外観中、看者の注意を惹く部分は、イ号表示と同じく、デフォルメされた「D」の赤文字及びその下の「FRACTION」の黒文字であるといえる。
(2) イ号表示は、「スーパー・ディー・フラクション・エクストラクト」の称呼を生じ、ロ号表示は、「スーパー・ディー・フラクション・タブレット」の称呼を生じるが、「スーパー」が「超」を表す一般用語であり、「エクストラクト」「タブレット」が英語で「抽出物」「錠剤」を意味する一般用語であることを考慮すると、その要部は「ディー・フラクション」にあるというべきである。そして、右「ディー・フラクション」という部分からは「Dーフラクションという名称の、マイタケから抽出した物質又は右物質を利用した健康食品」という観念を生じるというべきである。
(3) 以上によれば、イ号表示及びロ号表示は、原告表示と外観、称呼、観念類似し、全体として、原告表示と類似するものといえる。
(三) ハ号表示・ニ号表示 (1) ハ号表示は、「M」を筆描き状にデフォルメした黒字の後に、ゴシック体の黒色極小文字「AITAKE」を続けたものの下に、「D」を筆描き状にデフォルメし、縦線を細く、曲線部分を太くした赤字の前に、ゴシック体の赤色極小文字「SUPER」を配置したものを組み合わせ、その下に「MD」の幅にほぼ収まる範囲で、黒字の細ゴシック体で「FRACTION」と記して下線を引き、その下に、さらに小さく「EXTRACT」と記した外観を有しており、文字の大きさ、太さ、形状等を考慮すると、看者の注意を惹く部分は、デフォルメされた「M」の黒文字と「D」の赤文字の組み合わせ部分、並びにその下の「FRACTION」の黒文字であると認められる。
また、ニ号表示は、「FRACTION」の下の極小文字が「TABLET」である以外はハ号表示と外観が同一であり、看者の注意を惹く部分は、デフォルメされた「M」の黒文字と「D」の赤文字の組み合わせ部分、並びにその下の「FRACTION」の黒文字であると認められる。
そして、ハ号表示、ニ号表示において、「M」の黒文字と「D」の赤文字がほぼ同じ大きさで設けられ、特殊な字体と併せて、看者に強い印象を与えることを考慮すると、ハ号表示、ニ号表示は、外観において、原告表示と類似していないと見るのが相当である。
(2) 前記(1)の文字列によれば、ハ号表示は「マイタケ・スーパー・ディー・フラクション・エクストラクト」の称呼を生じ、ニ号表示は「マイタケ・スーパー・ディー・フラクション・タブレット」の称呼を生じるが、ハ号表示及びニ号表示においては、黒文字の「M」と赤文字の「D」が強調されていることに加え、
「スーパー」が「超」を表す一般用語であり、「エクストラクト」「タブレット」が英語で「抽出物」「錠剤」を意味する一般用語であることを考慮すると、「エム・ディー・フラクション」との称呼も生じるものと認められる。
(3) ハ号表示、ニ号表示からは、「マイタケの成分であるDーフラクションを使用した健康食品」という観念を生じるものと考えられる。
(4) このように、ハ号及びニ号表示は、原告表示とは観念において類似するといえるが、外観、称呼において異なるところがあり、しかも、後記のとおり、
原告表示とハ号及びニ号表示に共通する「Dフラクション」の部分はマイタケから抽出される物質の普通名称と認められることを考え併せると、需要者が両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとは認められず、ハ号及びニ号表示は原告表示とは類似しないというべきである。
(四) 以上によれば、被告が自己の商品表示としてイ号及びロ号表示の使用を使用することは、不正競争防止法2条1項1号に該当するが、ハ号及びニ号表示を使用することは、これに該当しない。
3 同(三)(「Dフラクション」は、不正競争防止法11条1項1号の「普通名称」といえるか)について 不正競争防止法11条1項1号にいう「商品若しくは営業の普通名称」とは、取引者・需要者において特定の商品又は役務を指す一般的名称として認識され通用しているものをいい、その名称が物質の名で表示されているときは、それが特定の物質を指すものと一般に認識される程度に表示されていれば足りるものと解すべきである。
前記一で認定した事実によれば、【D】教授は、昭和六二年、マイタケから熱水抽出される多糖体で抗腫瘍性のある物質を「Dフラクション」と命名し、以後、学会発表及び論文において、特定の化学物質の名称として使用していたこと、
原告サン・メディカ及び被告は、平成八年九月以降、日本国内で、テレビ、雑誌、
新聞等を通じて集中的に本件商品の宣伝活動を行い、その中で「Dーフラクション」を本件商品の商品名として使用するとともに、マイタケから抽出された免疫機能増強作用を有する化学物質の名称として使用していたこと、マイタケは、平成九年初めころから健康食品業界で一種のブームとなっただけでなく、一般記事にも取り上げられるようになり、その際、「Dフラクション」も、マイタケから抽出された免疫力増強作用及び抗腫瘍作用を持つ物質として紹介されたこと、平成九年三月ころから、原・被告以外の会社も、マイタケの熱水抽出物を含む健康食品を販売するようになり、大々的な宣伝広告を行ったが、その宣伝広告では、「Dフラクション」という物質の効用に重点が置かれていたことが認められる。
そうであれば、遅くとも被告商品の発売が開始された平成九年一〇月ころには、需要者である健康食品に関心のある一般消費者の間では、「Dフラクション」とは、マイタケから熱水抽出され、免疫活性化機能を有する物質の名称を表すものと認識されていたと推認されるから、「Dフラクション」は、マイタケに含まれる物質を指す普通名称になっていたと認めるのが相当である。
4 同(四)((三)が認められる場合、イ号ないしニ号表示は、普通名称普通に用いられる方法で使用したものといえるか)について 不正競争防止法11条1項1号にいう「普通に用いられる方法」とは、普通名称等の使用の態様が、一般取引上普通に行われる程度のものであることをいい、普通名称又は慣用表示であっても、これを極めて特殊な字体で表したり、特別の図案を施したりして、特定の商品を指示するに足るよう技巧を施して使用することは、同号にいう「普通に用いられる方法」とはいえないと解するのが相当である。
イ号表示、ロ号表示は、前記2のとおり、筆描き状にデフォルメした赤字の「D」の下に、黒字の細ゴシック体の「FRACTION」及び下線を配置したところに看者の注意を惹く部分があり、普通名称となった「Dフラクション」に特殊なロゴ化を施したものといえるから、普通名称を「普通に用いられる方法」で使用するものとはいえない。
5 以上によれば、イ号表示及びロ号表示は、不正競争防止法11条1項1号所定の適用除外の対象にはならない。
三 争点2(被告によるイ号ないしニ号表示の使用は、不正競争防止法2条1項14号に該当するか)について 1 同(一)(被告は、被告商品販売開始前の「一年以内」に、原告マイタケプロダクツの代理人であったか)について 不正競争防止法2条1項14号は、パリ条約(商標法4条1項2号に規定するパリ条約)同盟国等の商標権者のためにその者の「代理人若しくは代表者」として国内において商標権に関する商品ないし役務の取引をなす者による無断の商標使用行為という信義則違背行為を不正競争行為と規定したものであるところ、同号の趣旨が、外国の商標所有者の信頼を広く保護するところにあることを考慮すれば、同号にいう「代理人」の意義は、法律上の代理権の存否を要件とすることなく広く解されるべきであり、同盟国商標権者との間に特定商品の包括的な代理店関係を有する者に限ることなく、何らかの基礎となる代理関係があれば足りるものと解するのが相当である。
前記一の事実によれば、被告は、平成八年九月ころ、原告サン・メディカとの間で、本件商品に関する継続的売買契約を締結したものであり、原告マイタケプロダクツとの関係では本件商品の一顧客にすぎないともいえる。しかし、証拠(原告マイタケプロダクツ代表者、被告代表者)によれば、被告と原告マイタケプロダクツの間では、平成八年九月ころ、本件商品の販売ルートについて、関東以北の一般消費者に対する直販及び直販以外の販売ルートを被告が担当し、関西方面への直販を原告サン・メディカが担当する旨の取り決めがなされていたこと、被告は、本件商品の宣伝広告において、本件商品が原告マイタケプロダクツが米国で製造した商品であることを強調するとともに、自ら「輸入代理店」「輸入総発売元」「発売元」と称しており、原告マイタケプロダクツも、被告を日本の代理店として紹介していることが認められ、少なくとも、被告と原告マイタケプロダクツの間では、日本国内における本件米国商標に係る商品(本件商品)の販売の一部について、被告に販売代理権を付与する旨の合意が形成されていたものと推認される。
したがって、被告は、同号にいう「代理人」に該当し、原告らとの代理関係を終了させた平成九年一〇月から一年に達する時期までの行為については、不正競争防止法2条1項14号の対象となり得るものといえる。
この点につき、原告マイタケプロダクツは、同号にいう「一年以内」とは、代理人関係が消滅してから一年以上を経過してから、元代理人が同盟国登録商標類似の商標を用いて競争行為を始める場合を除外する趣旨であると主張する。
しかし、同号が「一年以内」という期間を定めた趣旨は、代理人等の関係が終了した後も余りにも長くこれらの代理人等を拘束することは、代理人等でなかった者が商標の選定について何らの拘束を受けないのに比して酷である上、法的安定性を害することにもなりかねないとの理由によるものと解されるから、同号にいう「一年以内」の意義について、同原告の主張のような解釈を採ることはできない。
2 同(二)(イ号表示ないしニ号表示は、本件米国商標に類似するか)について 本件米国標章の外観は、黒字の活字体で「MAITAKE D-FRACTION」の文字を横一列に並べたものである。
これに対し、イ号表示は、「D」を筆描き状にデフォルメし、縦線を細く、曲線部分を太くして強調した赤文字の下に、「D」の幅にほぼ収まる範囲で、
黒字の細ゴシック体の「FRACTION」及び下線を配置し、その下に極小文字で「EXTRACT」を配置し、「D」の縦中央部に懸るよう黒字の細ゴシック体で「SUPER」と記した外観を有しており、ロ号表示は、「FRACTION」の下の小文字が「TABLET」であるイ号表示とほとんど同一の外観を呈している(前記二、2、
(二))。また、ハ号表示は、「M」を筆描き状にデフォルメした黒字の後に、ゴシック体の黒色極小文字「AITAKE」を続け、その下に、「D」を筆描き状にデフォルメし、縦線を細く、曲線部分を太くした赤字の前に、ゴシック体の赤色極小文字「SUPER」を配置したものを組み合わせ、その下に「MD」の幅にほぼ収まる範囲で、黒字の細ゴシック体で「FRACTION」と記して下線を引き、その下に、更に小さく「EXTRACT」と記した外観を有し、ニ号表示は、「FRACTION」の下の小文字が「TABLET」である点を除き、ハ号表示と外観を同一とするものである(前記二、
2、(三))。
以上によれば、イ号ないしニ号表示は、いずれも本件米国標章とは外観において著しく異なるものであり、本件米国商標とは類似するものとは認められない。
3 よって、その余について判断するまでもなく、原告マイタケプロダクツの不正競争防止法2条1項14条に基づく請求は理由がない。
三 争点3(本件印刷物配布行為は、不正競争防止法2条1項13号に該当するか)について 不正競争防止法2条1項13号にいう「他人の営業上の信用を害する」とは、他人の営業によって提供される商品や役務の社会的評価など、営業活動に関する外部的評価を低下させることをいい、「虚偽の事実」とは、客観的真実に反する事実をいうものと解される。そこで、以下検討する。
1 本件印刷物1について 本件印刷物1中の「『D-フラクション』の高品質化に成功!従来を超えた『スーパーD-フラクション・タブレット』&『スーパーD-フラクション・エキス』」という記載は、右印刷物中の「マイタケに豊富に含まれている『Dーフラクション』という有効成分の存在が明らかにされています。」「当社の『スーパーD-フラクション・タブレット』及び『スーパーD-フラクション・エキス』は、『D-フラクション』の生みの親であり、薬用キノコ研究では世界的に有名な、神戸薬科大学【D】教授の指導の下に開発された画期的商品です。」などの記載と併せて判断すると、被告商品1、2が従来品に比べてマイタケに含まれる物質「Dフラクション」を高品質化し、右有効成分の効果を高めたものであるという趣旨に理解できる。ことに、被告が、平成九年一〇月に被告商品1、2の販売を開始するまでは、
本件商品を販売していたことを考慮すると、本件印刷物1を読んだ需要者の中には、これを、被告商品1、2が従来品である本件商品と比較して品質が高いという趣旨と受け取る者も相当の割合で存在するものと推認される。
そこで、被告商品1、2が本件商品と比較して品質が高いことが「虚偽の事実」に該当するかについて検討する。日本食品分析センターによる分析試験成績書(甲一三の1〜4)によれば、被告商品1に含まれる活性βグルカンの含有量が本件商品の一〇分の一であり、被告商品2に含まれる活性βグルカンの量がグリフロンより多いことが有意とはいえないという結果が出たことが認められる。しかしながら、本件商品と被告商品1、2の健康補助食品としての効能を比較するには、
その有効成分である「Dフラクション」の量及び活性値を比べる必要があるところ、日本食品分析センターの分析試験で分析の対象とされている「βグルカン」とは、グルコースがβ結合した多糖体のことをいい、βグルカンの含有量をもって、
【D】教授の定義に係る「Dフラクション」、すなわち「βー1・6結合を有するグルコースを主鎖(直鎖)とし、βー1・3結合を分枝鎖とし、β1・6結合5個に対し、β1・3結合5〜7個が結合して成る重合体」の量を比較することはできないというべきである(乙一三、乙一七)。
したがって、日本食品分析センターによる分析に基づき、被告商品1、2が本件商品と比較して品質が高いということが虚偽の事実であるとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2 本件印刷物2のうち、「D-フラクションエキス・グリフロンマイタケ製品の国内生産への移行のお知らせ」「従来のDーフラクションエキス(液状)、グリフロンマイタケ(錠剤)を一〇月一日より『スーパーD-フラクション・エキス』(液状)と『スーパーD-フラクション・タブレット』(錠剤)に切り替えさせて頂くことになりました。」という記載は、被告が、原告マイタケプロダクツ製造に係る本件商品及びグリフロンの取り扱いを中止し、国内産の製品を扱うようになったことを表すものといえる。しかるところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成九年一〇月から、本件商品及びグリフロンの販売を停止し、国内産の製品である被告商品1、2の販売を開始した事実が認められるから、表示された内容が虚偽の事実とはいえない。
また、本件印刷物2のうち、「品質、内容量等に関し従来の製品よりさらに充実した製品となっております」との記載は、商品の切り換えを行うに当たり用いられる定型句というべき表現であり、直ちに、従来製品である本件商品の品質が悪いという印象を与え、原告の商品に対する評価を低下させるものとはいえない。
3 以上によれば、原告らの不正競争防止法2条1項13号に基づく請求は理由がない。
四 結局、前記一ないし三によれば、被告の行為のうち、イ号表示及びロ号表示を商品等表示として使用したことについては、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するが、ハ号表示及びニ号表示の使用並びに本件印刷物1、2の配布については、不正競争行為に該当しないというべきである。
前記第二、一【第一事件】、3の事実の弁論の全趣旨によれば、被告は、平成一〇年四月以降、被告商品1、2にかかる営業表示をハ号表示、ニ号表示に変更し、本件訴訟の口頭弁論終結時において、自己の商品等表示としてイ号表示及びロ号表示を使用していないことが認められるところ、将来再びイ号表示及びロ号表示を使用するおそれを裏づける証拠もないから、不正競争防止法3条に基づきイ号表示及びロ号表示の使用差止めを認めるべき理由はない。一方、平成九年一〇月から平成一〇年三月までのイ号表示及びロ号表示使用については、前記認定事実に照らせば被告に過失があったものというべきであるから、被告は、原告らが被った損害についての賠償義務を免れない。
五 争点4(損害額)について 1 不正競争防止法5条1項は、不正競争行為によって営業上の利益侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその不正競争行為により利益を受けているときは、侵害者が得た利益の額をもって被害者が受けた損害の額と推定する旨規定するところ、同項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額等から侵害者において当該侵害行為たる不正競争行為に必要であった諸経費を控除した額をいうものと解するのが相当である。
2 証拠(乙四一)によれば、平成九年一〇月から平成一〇年三月までの六か月間における被告商品1、2の売上高は、代理店に対するものが金七〇四万二一九九円、個人顧客に対する直販が金二一〇五万一六一八円であり、その総額は金二八〇九万三八一七円である。
3 他方、被告の平成九年八月一日から平成一〇年七月三一日までの損益計算書(乙四三の1)によれば、この間における被告の総売上高は一億四四〇七万六四五六円と認められるから、平成九年一〇月から平成一〇年三月までの六か月間の売上高は、その二分の一である金七二〇三万八二二八円と推定するのが相当である。
前記1のとおり、この間における被告商品1、2の売上高は、金二八〇九万三八一七円であるから、平成九年一〇月から平成一〇年三月までの六か月間において、被告商品1、2の売上高が被告の総売上高に占める割合は三九・〇パーセントといえる。
そして、右損益計算書(乙四三の1)によれば、被告の平成九年八月一日から平成一〇年七月三一日までの売上原価は金四八四二万二二四二円であることが認められるから、商品仕入高のうち被告商品1、2に対応する部分は、その二分の一である金二四二一万一一二一円の三九・〇パーセントである金九四四万二三三七円と推認される。
4 次に、被告は、販売費及び一般管理費として、「役員報酬」「給料手当」「賞与」「法定福利費」「広告宣伝費」「運賃」「容器包装費」等の諸経費を計上しているが、これらの経費の中には、被告製品1、2の製造、販売とは関連性のない経費や、売上額に応じて増減するものとは必ずしもいえない経費が多数含まれており、利益額の算定に当たり、これらの経費相当分を控除する必要はないといえる。販売費・一般管理費のうち、広告宣伝費、運賃、容器包装費、業務委託費、旅費交通費については、被告商品の販売に必要であり、その売上額に応じて増減する性質を有する費用であると考えられるが、その余は右のような性質のものとは認められない。
証拠(乙四三の2)によれば、被告の平成九年八月一日から平成一〇年七月三一日までの広告宣伝費は金一二一四万七三五八円、運賃は金二七八万五三三六円、容器包装費は金四万四七〇四円、業務委託費は金九一八万四五九一円、旅費交通費は金一〇二二万九六七四円であると認められ、その合計は金三四三九万一六六三円となる。このうち、平成九年一〇月から平成一〇年四月までの半年分に対応するものは、右費用の合計金一七一九万五八三一円であると推定され、これらの経費のうち、被告商品1、2に対応する部分は、その三九・〇パーセントである金六七〇万六三七四円と推定するのが相当である。
5 以上によれば、平成九年一〇月から平成一〇年三月までの被告商品1、2にかかる利益の額は、売上高金二八〇九万三八一七円から、売上原価金九四四万二三三七円及び販売費・一般管理費金六七〇万六三七四円を控除した金一一九四万五一〇六円と認められる。したがって、右金額が被告の不正競争行為により原告らが被った損害の額と推定される。
【第二事件】 一 争点1(被告の【A】に対するコンサルタント料の支払は、【A】の詐欺に基づくものか)について 1 証拠(甲五一、乙一三、一八、二〇、三三、被告代表者、原告マイタケプロダクツ代表者〔後記採用しない部分を除く。〕)によれば、次の事実が認められる。
(一) 【C】は、平成八年九月初旬、【A】との間で、被告が原告サン・メディカから購入する際の本件商品及びグリフロンの仕入価格を、小売価格の三〇パーセントとすることにいったん合意したが、数日後、【A】から、仕入価格を小売価格の三五パーセントにして欲しいとの要望があり、これを承諾した。さらに、その数日後、【A】は、仕入価格を小売価格の四〇パーセントにして欲しいと提案したが、【C】はこれを断った。
(二) 【A】は、平成八年九月一一日の「スペースJ」放映後、【C】に対し、仕入価格三〇パーセントに加え、【D】教授へのコンサルタント料として販売価格の五パーセントを負担して欲しいと要請した。その際、【A】は、被告が【D】教授に直接コンサルタント料を支払った場合には、同教授の所得税として総合課税されるが、アメリカ在住の【A】の口座を通せば、被告が二〇パーセント源泉徴収すれば、それ以上課税されることがないと説明し、コンサルタント料の支払方法は、いったん被告が【A】の口座にコンサルタント料を振り込んだ後、【A】がこれを【D】教授に支払う形を採りたいと提案した。【C】は、被告からのコンサルタント料なら、【D】教授も警戒して受け取らないが、何年も前から付き合いのある【A】からなら受け取るのももっともだと思い、【A】の申し出に異議を唱えず従うこととした。その二、三日後、【A】は、【C】に対し、息子が慶応大学に入学して金がかかるので、【D】教授へのコンサルタント料の半分、すなわち販売価格の二・五パーセントを【A】が取ることを了解して欲しいと頼み、【C】は「まあ、結構です」と返答した。
(三) 【C】と【A】は、平成八年九月一七日、神戸薬科大学の【D】教授の研究室を訪れた。【C】は、【D】教授への謝礼として三〇〇万円を持参したが、【A】が自分から渡すと言うので、教授室の外に出て待機していたところ、
【A】から、【D】教授は企業からの謝礼は受け取らないが、個人から大学への一〇〇万円の寄付であれば後日受け取ると伝えられた。そこで、【C】は、翌週、
【A】、【F】とともに神戸薬科大学を訪れ、大学への寄付として【D】教授に一〇〇万円を渡した。
(四) 【C】は、平成八年九月分から、コンサルタント料として仕入価格の五パーセントを【A】の口座に振り込んでいた。同年一二月初旬ころ、【A】は、
「【C】さん、心配しなくていいよ、ちゃんと【D】先生には渡してるよ。今までバイオボタニカの分もロイヤリティを払っていて、それに上乗せした分は全部ベルダから行っていると【D】先生に話しているから心配しなくていいよ。」と言った。被告は、経理処理のため、平成九年一月一日、【A】との間で、コンサルティング契約書(甲五一)を作成した。
(五) 【D】教授と【A】の関係は、平成九年三月ころ、【A】が、【D】教授の反対にもかかわらず原材料を日本産から中国産に切り替えたことや、神戸薬科大学からジョージタウン大学への研究員の派遣及び共同研究の計画が頓挫したこと等から悪化し、絶縁状態となった。【A】は、平成九年五月、【D】教授の講演中の発言等が営業妨害行為に当たるので、同教授に対し法的措置を取りたいとして、【C】に日本の弁護士の紹介を依頼し、【C】同行の上、被告の顧問弁護士の事務所で数回打ち合わせをした。その際、【A】は、「ベルダさんも【D】先生に個人的にお金を払っているのに、【D】先生が裏切るのはひどい」と発言し、コンサルタント料の話や、被告が【D】教授への接待費、学会の渡航費用、ホテル代を負担した話をした。
(六) 【C】は、平成九年七月中旬ころ、【D】教授からの電話を受け、同教授が【A】と絶縁状態になった事情を聞いた。その際、【C】が【D】教授に対し、被告からのコンサルタント料が支払われているかどうか尋ねたところ、同教授が、一銭も受け取っていないと答えたので、【C】は、【A】への信頼を完全に喪失した。【C】は、一週間後、【D】教授の研究室を訪ねて協議し、【D】教授から、雪国まいたけを紹介するから新しい製品を作ったらどうかと提案され、自社商品を製造、販売する方が良いと判断した。
(七) 被告は、【A】に対し、平成九年七月分以降のコンサルタント料の支払を停止し、同年一〇月八日、原告サン・メディカからの買掛金と平成八年九月分から平成九年六月分のコンサルタント料の二分の一を相殺する旨をファクシミリで通知した。
以上の事実が認められ、原告マイタケプロダクツ代表者本人の供述中、右事実に反する部分はこれを採用することはできない。
2 原告サン・メディカは、被告と【A】の間では、被告が【A】を通じて【D】教授にコンサルタント料を支払う旨の合意はなかったと主張し、原告マイタケプロダクツ代表者(原告サン・メディカ代表取締役)【A】も、【C】から【A】個人に対する五パーセントのコンサルタント料支払の申し出があったと供述する。しかし、金銭を支払う側である【C】としては、自社(被告)が支払うべき金額が低い方が望ましいのが通常であり、【C】の方から自発的に【A】個人へのコンサルタント料の支払を申し出るのは経験則に反するというべきであるから、この点に関する【A】の供述は不自然であり、採用できない。
また、平成九年一月一日付けコンサルティング契約書(甲五一)は、被告と【A】を当事者とする契約書であり、条項中に【D】教授の名前は一切表われないが、右契約書が、被告が【A】の口座に金員を振り込む際の経理処理上作成された書類であること(原告マイタケプロダクツ代表者、被告代表者)に照らせば、その条項中に【D】教授の名前が表われないのはいわば当然であり、この契約書の存在をもって、被告と【A】の間に、【D】教授に対するコンサルタント料の支払に関する合意がなかったとすることはできない。
2 前記1の事実によれば、【A】は、被告に対し、【D】教授へのコンサルタント料として本件商品の小売価格の五パーセントを負担するよう要求し、支払方法として、被告が【A】の口座に金員を振り込み、【A】がそこから【D】教授に支払うことを提案したこと、【A】は、平成八年九月以降、被告から振り込まれたコンサルタント料を【D】教授に支払ったことはないが、被告には、折りに触れて、【D】教授にコンサルタント料を交付している旨の発言をしていることが認められる。右事実によれば、【A】は、当初から【D】教授にコンサルタント料を支払う意思がなかったにもかかわらず、専ら、被告をして自己の口座に金員を振り込ませる意図で、【D】教授へのコンサルタント料と称して、被告に金員交付を依頼したものと推認され、原告マイタケプロダクツ代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用することができない。
なお、前記1の事実によれば、【C】は、【D】教授へのコンサルタント料の半分(販売価格の二・五パーセント)を【A】が受領することを承諾していたことが認められるが、前記1の経緯に鑑みれば、【C】の右承諾も、【D】教授に五パーセントのコンサルタント料を支払うことが前提となっているものと推認されるから、被告からの商品の効能に関する問い合わせに【A】が回答していたこと(甲五二の1、2、原告マイタケプロダクツ代表者)を考慮しても、被告がコンサルタント料として支払った金額全体(販売価格の五パーセント)について、【A】の不法行為が成立するというべきである。
前記1の事実によれば、【A】は、原告サン・メディカと被告との継続的売買契約締結の交渉に当たり、売買代金額を定める過程において、【C】にコンサルタント料支払の話を持ち出したものであり、会社の代表取締役としての職務を行うにつき、被告に損害を加えたということができる。したがって、原告サン・メディカは、被告に対し、商法261条3項78条2項、民法44条1項に基づき、
被告が【A】に支払ったコンサルタント料合計金五五七万〇二一〇円の損害賠償義務を負っていたところ、前記第二、一、〔第二事件〕3のとおり、右金員のうち金二三八万五六五六円を自働債権として被告が相殺をしたことにより、右相殺後の金額である金三一八万四五五四円について損害賠償義務を負うことになったものというべきである。
二 争点2(被告は、原告サン・メディカに対し、解除による代金返還請求権を有するか)について 1 証拠(乙一二、被告代表者)によれば、平成九年一〇月八日、消費者からコープこうべに対し、平成九年九月末に購入した本件商品がネバネバで異様に甘く、スポイドで吸えないという苦情があったことが認められるが、被告は、コープこうべに本件商品を販売したことはなく、右苦情の出た商品は原告サン・メディカからコープこうべに直接納入されたものと認められる(被告代表者)から、右苦情の存在をもって、原告サン・メディカが被告に売却した本件商品に品質劣化が存在したと推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
しかも、証拠(乙三〇、被告代表者)によれば、被告は、平成九年三月から四月ころ、消費者から、本件商品の粘度が高くスポイトで吸えないという苦情を数件受け、【A】に苦情を申し立てたこと、これに対し、【A】は、本件商品には中国産の原材料を使っているが、中国産はDフラクションの量が一定せず、一部のロットでDフラクションの量が少なくなったので、補うため粉末を入れたところ粘度が高くなった、しかし品質には問題がないと回答し、同年四月一〇日付けで、
「Dフラクション製造ロット番号027025についてのご説明」と題して、本件商品の一部の製造ロットに粘度が高いものがあるが、製品の品質、効力には問題がない旨記載した文書を取引先、顧客に送付したほか、被告宛にも送付したこと、被告が顧客に右説明を伝えたところ、顧客から商品の交換等の要請はなく、その後同種苦情はなくなったことが認められる。右事実によれば、被告は、平成九年四月時点で、本件商品の中に粘度が高いものがあることを了承し、その後、同年一〇月まで、特に異議を述べることなく本件売買契約を継続していたと推認される。そうすると、本件商品に対し消費者から苦情があったことをもって、原告サン・メディカに債務不履行があったということはできない。
2 被告は、原告サン・メディカが中国産の原材料を用いた商品を販売したことが、同原告の債務不履行に当たると主張するが、原告サン・メディカと被告との間で、本件売買契約に当たり、本件商品の原材料として日本産のマイタケを用いる旨の約定があったことを認めるに足りる証拠はない。
かえって、前記1で認定した事実及び証拠(被告代表者)によれば、
【C】は、平成八年一二月ころから、【A】が中国産の原材料の使用を検討していることを聞いており、平成九年四月には、中国産の原料が実際に用いられていることを了知していたことが認められ、被告は、中国産の原材料が用いられていることを認識しながら、本件売買契約を継続していたものと推認されるから、同年一〇月八日時点で、原材料が中国産マイタケであることを理由に、原告サン・メディカに債務不履行があるとして、本件売買契約を解除することはできないというべきである。
3 以上によれば、被告が平成九年一〇月八日になした本件売買契約の解除の意思表示によって解除の効力が生じたとは認められない。そうすると、被告は、原告サン・メディカに対し、本件売買契約に基づき、売買残代金三四二万四九四六円から前記相殺に供されたコンサルタント料相当の損害賠償内金二三八万五六五六円を控除した残額である金一〇三万九二九〇円を支払うべき義務を負う。
以上の次第であるから、第二事件反訴請求は理由があるが、第一事件及び第
二事件本訴の各請求は、主文掲記の限度において理由がある。
(口頭弁論終結日 平成一二年七月三日)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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