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事件 平成 11年 (ネ) 1014号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人(原告) 株式会社大阪冠婚葬祭互助会 右代表者代表取締役 A右訴訟代理人弁護士 桐畑芳則
同 松村信夫
同 和田宏徳
被控訴人(被告) 株式会社栄光堂セレモニーユニオン 右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 増田淳久
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2000/12/01
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人が株式会社大阪冠婚葬祭互助会利用契約を締結している顧客を施主として、後日、控訴人と当該顧客との右利用契約を当該顧客に解約させることを企図し、かつ、これを秘して葬儀等の葬祭業務を請け負って施行し、もって右顧客をして控訴人との右利用契約を解約せしめてはならない。
三 被控訴人は、控訴人が株式会社大阪冠婚葬祭互助会利用契約を締結している顧客に対して「被控訴人が控訴人と提携している。」あるいは「被控訴人から冠婚葬祭の役務の提供を受けるにあたっては、顧客が控訴人に支払った右契約に基づく積立金が利用できる(あるいは、右積立金を差し引かせてもらう)。」旨の誘引、
表示を行ってはならない。
四 被控訴人は、原判決別紙目録(一)記載の謝罪広告を同目録(二)記載の方法で掲載せよ。
五 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。また、略称については原判決のそれにより、引用する法令については、当審口頭弁論終結時のものによる。)
事案の概要
一 前提となる事実(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。) 1 原告は、冠婚葬祭の施行請負を業とする株式会社であり、主として結婚式、披露宴及び葬儀の施行を中心とした業務を行っている。
被告は、仏壇仏具の販売、葬儀、結婚式の請負などを業とする株式会社である。
2 原告は、昭和四一年五月から、互助会利用契約の制度を導入している。互助会利用契約とは、顧客が互助会に加入して会員となり、毎月一回一定額を積み立てていくもので、会員は、加入者証の発行を受け、冠婚葬祭の事由が生じた際、積立額に応じた規模と価額の役務の提供を受けること、又は追加支払をすることによって積立額を超える規模と価額の役務の提供を受けることができる。原告の場合、
提訴時における積立額は、毎月一回一口当たり二〇〇〇円(積立回数六〇回で最高二口まで加入できる。)で、当時の会員数は約八四万二七七〇口であった。
3 冠婚葬祭を業務とする全国の業者では、上部組織として、社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(以下「互助協会」という。)を組織しており、原告及び被告も右互助協会に加盟している。
互助協会は、同一営業区域内での業者間で、会員が他業者に対して冠婚葬祭の役務の提供を依頼した場合でも、その積立金を、役務の提供を行った業者が、
当初から自己の会員として積み立てていた積立金としてそのまま使うことができる(以下「移籍」という。)という業者間の取決めをすることを禁止している。これは、かような取決めが行き過ぎると、互いに他業者の会員を横取りするという弊害が生じることから、これを防止することを目的としている。
しかしながら、原告と被告は、互助協会の指導にかかわらず、暗黙の合意のもとで事実上移籍を認めてきた。
4 原告は、平成六年三月二二日到着の内容証明郵便で、被告に対して今後移籍を認めない旨の通知をした。
二 原告の主張 1 請求原因1(不正競争防止法2条1項12号【品質等誤認惹起行為】該当性) (一) 原告と被告は、以前、相互の会員が相手方会社に葬儀の施行を委託する際には、自己の会社の積立金全額を相手方会社の葬儀費用の一部に充当すること(移籍)を認めていたが、被告の営業妨害行為等の不誠実な行為があったため、原告は、被告に対し、前記一4のとおり、平成六年三月二二日到着の内容証明郵便をもって、右のような移籍を認めないことを通知した。
そこで、右通知以降、原告の会員が被告に葬儀を委託する場合には、
「移籍」が認められないため、原告との互助会利用契約を解約し、その解約返戻金をもって右葬儀費用に充当しなければならず、その際には一定の解約手数料を控除され、積立金全額の返還を受けることができなくなった。
(二) ところが、被告は、その従業員である寝台部営業職員をして、遺体搬送を行った先の原告の互助会会員に対して、強引に被告に葬儀を委託するよう勧誘させ、同会員が原告の互助会に入会している旨の話を聞き出すと、「当社は全日本冠婚葬祭互助協会の会員であり、大阪冠婚葬祭互助会と提携関係にあります。」「大阪冠婚葬祭互助会の掛け金は当社でも使えます。」「同じ互助会ですから、積立金は利用でき、葬儀費用から差し引かせていただきます。」等々、前記(一)と異なる虚偽の事実を申し述べ、当該顧客をして、同顧客が何らの負担を負うことなく、原告との互助会会員契約において積み立てた積立金を被告施行の葬儀料金の一部にそのまま充当できる旨の誘引、表示を行っている。
(三) 右行為の法的評価 被告は、その提供する役務(葬儀施行)の質又は内容(@ 葬儀費用の支払方法に関する取引条件、A 提供される葬儀サービスの内容)に関して、誤認(@ 顧客は、実際には、原告における互助会利用契約の積立金を葬儀費用の一部に充当することができず、顧客が充当を望むとすれば、原告との互助会利用契約を解除し、積立金から手数料を控除した解約返戻金を受領して、これを被告に支払わなければならないにもかかわらず、かような手続きを行うことなく積立金全額が葬儀費用に充当し得るという誤認、A 被告と原告とは提携関係にあるので、被告において葬儀を受託しても、原告が提供するものと同じ内容の葬儀が提供されるであろうとの誤認)を生ぜしめる事実(「当社は大阪冠婚葬祭互助会と提携関係にあります。」「大阪冠婚葬祭互助会で積み立てた会費はそのまま使えます。」)を表示しており、右行為は、不正競争防止法2条1項12号に該当する。
2 請求原因2(独占禁止法19条2条9項、一般指定八項〔欺瞞的顧客誘引〕該当性及び景表法4条1号、二号〔不当表示〕該当性) (一) 右1(一)、(二)に同じ (二) 右行為の法的評価 被告は、自己の提供する役務(葬儀施行)の内容又は取引条件(@葬儀費用の支払方法、A 提供される葬儀サービスの内容)に関して、実際のものより著しく有利優良であるとの誤認(前記1(三)の@、Aと同様の誤認)を生じせしめる事実を表示しており、右行為は、競争者の顧客を不当に誘引し、競争者間の役務の価格、内容をめぐる公正な競争を阻害するから、独占禁止法19条2条9項、一般指定八項及び景表法4条1号又は二号に該当する。
3 請求原因3(独占禁止法19条2条9項、一般指定一五項〔競争者に対する取引妨害〕該当性) (一) 原告と互助会利用契約を締結している顧客は、将来、冠婚葬祭の施行が必要になったときには、原告にその施行を委託し、その費用の全部又は一部に充てる趣旨で毎月一定額の積立金を積み立てているのであるから、これらの顧客は原告に対して将来の冠婚葬祭の委託を予約しているものであるといえる。また、仮にそうでないとしても、少なくともこれらの顧客は原告の互助会利用契約を締結することによって、将来冠婚葬祭の委託契約を締結しようとしているものである。
現に、原告は、互助会利用契約を締結した顧客から、冠婚葬祭の依頼があったときには積極的にこれに応じ、会員契約で定められた価格で冠婚葬祭サービスを提供するなどのサービスを行っており、そのため多数の互助会会員から冠婚葬祭の依頼を受けてきたのである。
これに対して、被告は、右の顧客らに対して「被告は原告と提携関係にある。」「原告で積み立てた積立金は被告の施行する葬儀にもそのまま使用できる。」等々の偽計を用いて、自己と葬儀施行委託契約を締結させているのであるから、まず、この点において、被告は、競争者である原告とその顧客との葬儀施行委託取引を妨害している。
(二) 被告は、右顧客から互助会加入を示す加入者証を預かり、葬儀が終了した後になって顧客に対して「未入金になっている。」等々言って、被告の社員が同伴し、被告の所有車両を使って右顧客を原告本社に連れていき、預った右加入者証を渡して原告との互助会契約を解除させ、その返戻金をもって葬儀費用の一部に未収金分といって充当させている。
すなわち、被告が顧客から加入者証を預かった上、事後に原告との互助会利用契約を解約するよう慫慂する行為(ときには、被告が車を用意し、顧客と同行して解約させている行為)は、明らかに顧客に原告との互助会の利用契約を解約させて、その返戻金をもって自己の顧客に対する葬儀費用請求債権の満足を得ようとするものである。
(三) 右行為の法的評価 被告のこのような行為は、自己と競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、偽計その他の方法により、その取引を不当に妨害するものであり、その結果、競争事業者である原告と被告との間の正常な競争関係を阻害しているのであるから、独占禁止法19条2条9項、一般指定一五項の「競争者に対する取引妨害」に該当する。
4 請求原因4(民法709条該当性) 仮に、右主張がいずれも認められないとしても、被告の右1ないし3の行為は、競争者間の工業上又は商業上の善良な慣習、取引秩序に反する不正競業行為である。
原告は、被告の右のごとき違法行為によって営業上の利益(法的利益)を侵害されており、その結果、被告は後述のような無形損害を被った。
被告は、右行為につき、故意又は過失がある。
よって、被告の前記1ないし3の所為は不法行為(民法709条)に該当する。
5 差止請求(控訴の趣旨二、三項)の請求原因について (一) 控訴の趣旨第二、三項の差止請求の請求原因は、前記1、2、3の各事実である(選択的併合)。
請求原因1を理由に差止請求ができることは、不正競争防止法3条に明示されている。
(二) 請求原因2又は3(独占禁止法違反行為、景表法違反行為)を理由に差止請求ができる根拠は、次のとおりである。
(1) 右のような、独占禁止法違反行為、景表法違反行為に対しては、公正取引委員会による警告、勧告、排除命令等の排除措置が設けられており、公正取引委員会によるかような権限の発動によって防止することができる。
しかし、独占禁止法や景表法に違反する行為は、単なる行政法規違反にとどまるものではなく、民法上も公序良俗に反する違法性が存在する。
けだし、独占禁止法、景表法は、市場における公正かつ自由な競争秩序を維持発展させることを目的としているものの、ここにいう市場は、抽象的、観念的なものではなく、私人間の取引行為の集積によって形成されるものであり、究極的には、独占禁止法自体が目的とする「公正かつ自由な競争」も私人間における公正かつ自由な取引という私益が集積したものにほかならない。
その証拠に、独占禁止法は、措置請求を行う権利を認め(独占禁止法45条1項)、また独占禁止法違反行為を行った事業者に対して、被害者が損害賠償請求権を有することを定めて私益保護を図っている(独占禁止法25条)。
また、独占禁止法3条後段の不当な取引制限に該当するカルテルを締結して、価格の維持、引き上げを図った事業者に対して、被害者が民法709条ないし独占禁止法25条に基づいて損害賠償請求権があることを肯定した裁判例等がある。これらの裁判例からも、独占禁止法違反行為、景表法違反行為が民事上も違法性を有することは明らかである。
(2) 民事上の違法行為によって被害を被った者にいかなる請求権を認めるかは法解釈上の問題であり、一定の財産的利益の侵害に対して差止請求権を認めるか否かは、侵害行為の違法性の程度、被侵害利益の内容、侵害を回避するための方法としての必要性の程度の相関関係において決定されるものと解せられるが、本件のごとき、独占禁止法違反行為、景表法違反行為が反覆継続されることにより特定人の営業上の利益が現に侵害され、将来も侵害される危険性が高い場合には、当然、差止請求権が認められるべきである。
本件では、被告の行う欺瞞的顧客誘引や不当表示等は、専ら原告の顧客に対して行われており、また競争者に対する取引妨害も原告に対してなされている。これによって被害を被っているのは専ら原告である。
また、被告による前記のごとき独占禁止法違反行為、景表法違反行為はすでに長期間にわたり執拗に繰り返し行われており、今後も継続される可能性が極めて高い。
さらに、公正取引委員会は、私人の措置請求についても当該違法事実を審査し、適切な排除措置をとるか否かについて広範な裁量権を有しているため、
原告が被告の本件違反行為に対して措置請求を行ったとしても、直ちに適切な排除措置が行われるか否かは疑わしい。
また、被告の前記独占禁止法違反行為、景表法違反行為によって、原告は現に次々と積立金員のみならず互助会契約をした顧客を失っているのであって、かような原告の営業上の損失は、事後的な損害賠償請求によっては回復することが困難である。
以上のような事実に鑑み、前述のように被告の独占禁止法違反行為、
景表法違反行為に対して原告は差止請求権を有していると解するべきである。
6 謝罪広告(控訴の趣旨四項)の請求原因について (一) 控訴の趣旨四項の謝罪広告の請求原因は、前記1ないし4の各事実である(選択的併合)。
その法的根拠は、請求原因1については不正競争防止法第7条であり、
請求原因2、3、4については、民法710条723条である。
(二) なお、本件では、被告の請求原因2、3の独占禁止法及び景表法違反行為によって、原告会員が互助会利用契約に基づき積み立てた積立金が被告と原告会員との葬儀施行委託契約に基づく葬儀費用の一部に充当されなければならないのに、原告が理由もなくその充当を拒んでいるとの誤認を原告会員に生ぜしめ、その結果、原告会員と原告との間の信頼関係が著しく破壊される等の非財産的損害が生じているのであるから、民法710条、同723条により信用回復措置として謝罪広告が認められるべきである。
三 被告の主張及び反論 1 請求原因1、2について (一) 被告は、原告会員等に対して、原告と被告とは提携関係にあるとか、
原告での積立金はそのまま使用できるとか、原告と被告とは同じ互助会の会社であるから、積立金は利用できるので葬儀代金から差し引かせていただきますと告げて、被告へ葬儀施行を委託するよう勧誘又は誘引したことはない。
被告の寝台車乗務員や葬儀部門担当者は、業務遂行時は常に会社所定のブレザーを着用し、かつ、ブレザーの上着胸部分には顔写真付き会社名入りのネームプレートをつけており、原告の社員と見間違えることはないし、寝台車での遺体搬送中又は搬送先において、原告会員等に、原告と被告とは提携関係にあるとか、
同じ互助会の会社だからといった見え透いた虚言を弄して勧誘、誘引することはあり得ないし、そのような行為をする必要もない。
(二) 葬儀の施行には、職域、町内会、労働組合、老人会等が複数関与することがしばしばあり、故人や喪主、遺族等が原告と互助会利用契約を締結し、加入していたとしても、どの葬儀会社により葬儀の施行を委託するかは、加入者の意思によって決まるとは限らない。他の遺族、親族の意見や職域、町内会等の取決め等によって、別の葬儀会社に決まることも往々にしてある。
そもそも原告と互助会利用契約を締結して加入しているからといって、
原告が排他的独占的に葬儀実施権を有しているわけではない。通産省が互助会加入者の解約について解約の自由を認め、これを互助会側に通達の形で励行するように再三告示しているが、これは、原告のように、互助会加入者については常に冠婚葬祭を施行する専属実施権があるかのように考え、ユーザーの自由選択権や利益を無視し、拘束しようとする態度の業者がいることに問題があるとして警告しているものである。
(三) 被告は、喪主、遺族、親族等から、故人又は遺族が原告の互助会に加入しており積立金を有しているがこの分を差し引いてもらえないかとか、右積立金をどうしたらよいかという質問を受け、相当額を葬儀の段階では差し引かせてもらうが、互助会契約での積立金は、そのままにしておき別の機会に使用することもできるし、解約することもできると説明すると、原告会員等の中に解約システムを知って解約をする人がいたにすぎない。
なお、互助会の仕組や内容、特に積立金だけで世間並の葬儀を実施しようとすれば大幅に追加支出の必要になることを知って、互助会加入の継続にメリットのないことを悟り、解約を考えるユーザーの出てくることは珍しいことではなく、被告の責任ではない。
2 請求原因3について (一) 原告との間で互助会利用契約を締結しているからといって、原告に対し将来の冠婚葬祭の委託を予約しているとか、事実上予定しているとはいえない。
けだし、葬儀社の選定は、喪主、遺族、親族の意向のほか、町内会、職域、労働組合、老人会等の意向で決まることもあるからである。
また、自社での葬儀の施行を勧誘、誘引するとしても、それはあくまでも自社での葬儀の質、内容などをアピールするものである。葬儀の施行は、単なる物品の販売と異なり、精神世界での消費者に対する満足感の付与やサービスが役務の内容として必要不可欠な要素となるのであって、葬儀社の過去の実績や遺体搬送時の心遣いなどもかなりのウェイトを占めるのであるから、仮に金銭的な利益の供与を示して誘引しても、成功する確率は低く、むしろ、互助会の積立金相当額の値引きを誘引材料とすることは、遺族等の反発を誘うこともあり、そのようは方法はとり得ない。
被告は、二〇数社の会社、職域団体、労働組合等と割引施行の特約店指定の契約をし、また、各種カード会社(約八〇社)とも提携して割引制度を実施し、さらには、多種の町内会、老人会等とも割引実施の特約店契約をしている。このため、原告と互助会利用契約を締結していることから原告の互助会における特典を利用するよりも、被告に葬儀施行を委託したほうがメリットが大きいとして、被告と葬儀施行の委託契約をするケースもあるのである。
確かに、遺族らが被告による葬儀の施行を望み、決定した後施行条件の話の中で、原告の互助会に加入していること、積立金があることなどに話が及び、
積立金相当額を葬儀代金からいったん差し引くということになることはあるが、これは原告会員等との葬儀施行の委託契約に限ったことではない。
(二) 被告が原告の会員等から互助会の加入者証を預かったことはあるが、
これは、原告との互助会利用契約の解約を希望した会員等が、自分は仕事があって解約に出向くことができないので、被告において代わりに解約をしてきてほしいと特に頼まれて加入者証を被告の担当者に預けたという場合だけであり、原告との互助会利用契約の解約を慫慂するために預かったということはない。
3 請求原因4(不法行為)について 被告が商業上の善良な慣習や取引秩序に反して不正競業行為を行ったことはないし、右違法行為を犯して営業上の利益を得たこともない。
4 原告の主張5、6について 被告は、その前提となる違反行為を犯していないから、これらの請求は理由がない。
当裁判所の判断
一 原告及び被告の営業形態及び本件紛争に至る経緯事実 証拠により認定できる事実は、原判決「事実及び理由」中の第四の一1(原判決三四頁一〇行目から同四七頁五行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四一頁九行目の「一方」から末行の「つながりがある」までを「一方、大半の病院では何らかの形で葬儀業者とつながりがあり、遺族が特に指定しないと、病院が葬儀業者に連絡して遺体の搬送を依頼することになることもある。」に、同四二頁末行から同四三頁初行の「町会又は自治会」を「町会員又は自治会員」に、同頁一〇行目「連合」を「同連合町会」に、同四四頁初行「支部長」を「支部」に、同四六頁一〇行目の「五月」を「四月」に、それぞれ改める。)。
二 請求原因1、2について 1 原告は、被告が平成七年五月中旬頃から、原告会員等に対し、原告会員自身又はその家族の葬儀施行を委託するよう勧誘するに当たって「被告は原告と提携しているので積立金はそのまま利用できる。同じ互助会なので積立会費は利用でき、葬儀代金から積立金相当額を差し引く。」旨、虚偽の事実を告げており、これらの被告の勧誘行為が不正競争防止法2条1項12号(誤認表示)、独占禁止法19条2条9項、一般指定八項(欺瞞的顧客誘引)、景表法4条1項1号、二号(不当表示)に該当すると主張する。
2 原告も被告も、互助会利用契約の制度を取り入れており、加入契約を締結している会員が冠婚葬祭の役務の提供を求めたときには、その積立額に応じて役務を提供すること、原告と被告とは営業地域が重なること、互助協会の指導にもかかわらず、互いに会員の移籍を容認してきたこと、原告は、平成六年三月二二日に到着した内容証明郵便をもって、同日以降会員の移籍を認めない旨被告に通知したことは、前記一(引用に係る原判決該当部分)のとおりである。
3 原告実施のアンケートの結果等 (一) 原告が、互助会利用契約の解約に訪れた原告会員等に「栄光堂葬祭施行分会員解約状況アンケート」(甲三の14ないし43、45、46)を実施したところ、
原判決別添一覧表(以下「一覧表」という。)記載の四六名の解約者(原告会員等)のうち一〇名(一覧表番号15ないし18、23、27、28、36、41、42)が、「当社の会費の説明及び証券はどのようにしましたか。」という質問に対して、「(イ)提携しているので使えますと云い証券を引き上げた。」という回答肢を選択していることが認められる。
(二) また、原告が、右の原告会員等に、被告社員から原告との互助会利用契約に基づき原告会員が積み立てた積立金の使用についてどのような説明を受けたかについての報告書の提出を求めたところ、一四名(一覧表番号1、5、
6、10、16、21、24、29、32ないし34、40、43、45)の解約者(原告会員等)が、
「被告社員は被告が施行した葬儀にも使用できるので差し引く」旨の説明をしたと記載し、その多くは、「被告社員が証券を持ち帰った。」と記載していることが認められる(甲九の1ないし13)。
(三) さらに、「葬式の説明時に椛蜊繩・婚葬祭互助会に加入している旨告げると、同じ互助会ですし又提携しているので椛蜊繩・婚葬祭互助会の会費は使用できます、との説明を私(氏名)が受けました。」と記載された原告宛の文書に、
一五名(一覧表番号6、9、10、14、16、24、29、31ないし34、40、43、45、46)の解約者(原告会員等)が署名押印していることが認められる(甲一三の2ないし16)。
(四) 以上のように、一覧表記載の解約者四六名のうち二七名(一覧表番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46)は、原告が実施したアンケート等において、被告社員が「原告と被告は提携しているので、被告に葬儀施行を委託しても、原告との互助会利用契約に基づく積立金が利用できる。」という趣旨のことを告げた旨回答している。
(五) また、甲一七(Cの陳述書)及び甲一八(Dの陳述書)にも、「一覧表の番号33と34の各葬儀に際し、被告社員から『互助会(原告)の掛金は被告で使える』と言われて、葬儀を被告に任せることとし、証券も被告社員が預かって帰った。」との記載がある。さらに、原審証人Eの証言及び同人の報告書(甲八)中にも、「原告渉外部相談課長の職にあるEが互助会利用契約の解約者から前記のようなアンケート(甲三)の質問事項について聴取し、会員等から同様の苦情を聞いた。」との供述部分があり、原審証人Fの証言中にも、「原告の互助会利用契約に加入していたFが、妻の葬儀(一覧表番号14)に際して、遺体を病院から自宅へ搬送した被告の社員から葬儀費用の見積書をもらう際に、原告互助会の利用契約を使えるかどうか尋ねたところ、使えると言われ、加入者証も渡した。」旨の供述部分がある。
4 右アンケートの結果等の信用性 しかし、前記甲三のアンケートに関しては、解約理由やアンケートに対する回答の具体的説明部分はいずれも、顧客から聞きとって、原告の社員が記載したものであり、回答者の回答が正確に記載されているかどうかの保証はなく、質問内容が正確に回答者に伝えられたかどうかも不明である。しかも、右回答者が記載した事情説明書等(乙三二の1ないし11)によれば、右のアンケート回答者の中には、後述のとおり、宗派上の理由や、町内会の取決め等の理由で被告に葬儀の施行を委託した者もいることが認められるし、その他、被告が実施した互助会に関するアンケートの結果(乙八ないし一一、一二の1、3、一五ないし二三)、解約者らが作成した陳述書や被告担当者が解約者から聴取した書面(乙三一の1ないし13)には、右原告実施のアンケート結果と異なる内容が記載されていることが認められるから、これらの諸点に照らすと、右アンケート結果の信用性は、相当減殺されているというべきである。
また、乙二六によれば、被告は、平成八年一月から三月にかけて、原告・被告以外の互助会(堺互助会、京阪互助会、ベルコ互助会、セレモニー互助会、日本セレモニー互助会、扇屋互助会、互助会セルビス)に加入している者の葬儀を施行し、葬儀代金総額から右各互助会での積立金相当額を差し引いた金額を請求していることが認められるところ、扇屋互助会を除く他の互助会とは特段合意書を交わしていないにもかかわらず、これらの互助会との間で本件と同様の紛議が生じている形跡は窺われない。甲一六には、同業者間の会合の際、被告の営業方法に関し他の同業者から苦情が出たとの記載があるが、その内容は互助会利用契約の解約に関するものではないから、右認定を左右するものではないし、甲二六の1ないし3も、同契約の解約に関し苦情があったことを示すものではない。
5 被告による虚偽事実の告知行為の有無及びその時期について (一) 不正競争防止法2条1項12号は、正当な努力によらずして、自己の不利条件の減少、有利条件の増大を図り、不当に競業上の有利な地位を獲得しようとする行為を規制することを目的としており、独占禁止法19条2条9号及び一般指定八項も同趣旨に基づく規定であることからすると、右の各規定が規制の対象としているのは、未だ取引するか否か決まっていない段階における誘引となるべき行為というべきである。
(二) そこで、被告が原告会員に対して原告との互助会利用契約による積立金を被告の施行する葬儀費用に利用することができる等と告げた事実の有無及びその時期について検討するに、前記のアンケートの結果等(甲三、一七、一八)によれば、原告の互助会利用契約の会員等であった者で被告に葬儀を施行させた者の中で、葬儀に際して、被告社員から原告の積立金を利用できる旨告げられた例があったことは否定できないところである。しかし、前記認定の二七名の解約者(一覧表の番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46)が、被告社員から原告と被告とは提携しているので被告に葬儀施行を委託しても、原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金が利用できる等告げられた時期は、本件証拠上、必ずしも明確ではない。
(三) ところで、葬儀の施行をどの業者に委託するかは、故人や遺族の意向のほか、故人の宗旨、宗派によっては、特定の業者を指定している者もあり、また、町内会や自治会内に特定の業者に委託する旨の取決めがある場合にはその取決めに従うのが通常であるところ、被告は、前記一(引用に係る原判決の該当部分)のとおり、創価学会から葬儀施行の指定業者に指定されているし、また、喜連西連合振興町会(大阪市<以下略>)、長原振興町会(同区<以下略>)、新池島自治会(大阪府東大阪市<以下略>)と覚書を交わしており、事実上、右町会又は自治会内における葬儀については被告が葬儀を施行することになっていることが認められる。
また、故人の入院先の病院の斡旋がある場合にも、これに従うことが多かったことが認められる。
(四) そうすると、前示のとおり、一覧表に記載された四六名の解約者(原告会員等)のうち二七名(一覧表番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46)は、被告社員が原告と被告とは提携しているので被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づく積立金が利用できる等告げた旨回答しているが、右回答者のうち一九名(一覧表番号6、9、15、16、18、23、28、29、31ないし34、36、40ないし43、45、46)については、被告への葬儀の依頼は、故人の入院先の病院や町会、あるいは身内からの斡旋によってされたことが認められるから(甲三)、右のように告げられる前に被告に葬儀を委託することを決めていた可能性が高いと考えられる。
また、乙二九及び三二によれば、一覧表番号10、14、16、17、29の葬儀についても、故人の宗旨、宗派又は町会、自治会の取決めに従って被告に施行を委託したことが認められるので、これらの葬儀に関しては、原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができる旨被告が告げる前から、既に被告に葬儀施行を委託することが事実上決まっていたというべきである(原告は、右乙二九、三二は甲一三の3ないし6の陳述書の内容に反すると主張するが、右陳述書は本文のほとんどを原告で作成し、それに加入者が必要な部分のみを記入しているもので、
必ずしもそのまま措信することはできない。)。
6 誤認表示(不正競争防止法2条1項12号)、欺瞞的顧客誘引(独占禁止法19条2条9項、一般指定八項)、不当表示(景表法4条1号、二号)各該当性について (一) 葬儀施行をどの業者に委託するかは、提供される役務の内容、代金額が重要な要素となるのであって、被告に葬儀施行を委託した場合に原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができるかとか、原告会員等は何らの手続をしなくてとも被告と原告との間で清算がされるかとかいうことは、葬儀代金の支払方法に関する事項であって、あくまでも二次的なものにすぎないと考えられる。
現に、一覧表番号20、27、35、39、42の葬儀については、原告との互助会利用契約に基づく積立金相当額を差し引いていない葬儀代金総額が請求書に記載されているのであって(しかも、番号27、42は、原告と被告とは提携しており、原告との互助会利用契約に基づく積立金が利用できると告げられたと、前記アンケートに回答している。)、このことからすると、原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができるということは、必ずしも被告に葬儀施行を委託した理由とはなっていないことを示しているというべきである。
確かに、甲一七、一八によれば、一覧表番号32及び33の解約者(原告会員等)は、被告が執拗に葬儀施行の委託を勧誘し、その勧誘の中で、被告と原告とは提携しており被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づく積立金は利用することができると告げたというが、このことから直ちに、被告が営業方針として、被告に葬儀施行を委託するかどうか決まっていない段階で、原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができることをセールスポイントの一つとして、勧誘をしていたということはできないし、他にそのような事情を認めるに足りる証拠はない。しかも、前記のとおり、被告と原告とは提携しており、被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができる旨告げられたとする解約者(原告会員等)の中にも、葬儀代金総額から右積立金相当額を差し引いた金額を取りあえず支払い、後日右契約を解約して得た返戻金を利用するなどして残金を支払う意図であった者(証人G、同F)がいることからすると、「被告と原告とは提携しており、被告が葬儀を施行しても原告における積立金は利用できる。」旨告げること自体が、原告会員等に何らの手続をせずとも被告と原告との間で積立金が清算されると誤認させ、被告に葬儀施行を委託することを決意させるほどの有効な方法であったとまではいい難い。
(二) また、原告は、被告が、原告の互助会会員に対し、原告とは提携関係にあると述べることによって、被告に葬儀の施行を委託しても、原告が提供するものと同じ内容の葬儀が提供されるであろうとの誤認を生ぜしめるとも主張するが、
右のとおり、「被告と原告とは提携している。」と告げることがあったと認められても、そのことにより、原告の主張する誤認を生ぜしめることを認めるに足る証拠はないし、営業方針として、そのような勧誘をしていたと認めることもできない。
(三) 以上を総合すると、本件において、被告がその営業方針として、被告に葬儀施行を委託することが決まる前に、被告と原告とは提携しており、被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づく積立金を利用することができると告げて勧誘行為をしていると認めることは困難である。
したがって、原告の前記1の主張は採用できない。
三 請求原因3について 1 原告は、原告と互助会利用契約を締結している顧客は、将来の冠婚葬祭の委託を予約しているものであるところ、被告は、これらの顧客に対して、「原告で積み立てた積立金は被告における葬儀施行にも使用できる。」等の偽計を用いて自己と葬儀委託契約を締結させることにより、原告と右顧客との葬儀施行委託取引を妨害し、また、葬儀終了後に費用の未納を理由にして原告との互助会利用契約を解約させることにより、原告と顧客間の右互助会利用契約の維持を妨害しているのであって、これら一連の被告の行為は、独占禁止法19条2条9項、一般指定一五項の取引妨害行為に該当すると主張する。
2 葬儀施行委託取引の妨害の有無について たしかに「解約申込書」(甲三の1ないし46)によれば、一覧表記載の四六名の加入者が原告との互助会利用契約を解約したのはいずれも被告に葬儀の施行を委託したためであると認められる。また、原告との間で、互助会利用契約を締結したからといって、将来の冠婚葬祭の委託を予約したとまではいえないものの、右契約の締結をした顧客のうち相当数は、将来、特段の事情がない限り、葬儀の施行を原告に委託する予定であったことは容易に推測できる。
しかし、前記二で説示したとおり、被告が葬儀施行前に「原告で積み立てた積立金は、被告における葬儀施行にも使用できる。」旨の文言を用いて右原告の顧客との葬儀委託契約を締結したとの事実は認め難い上、その多くは、故人の遺体を病院から搬送する時点で既に病院等の斡旋で葬儀の施行を被告に委託していた可能性を否定できないのであって、右申込書によれば、葬儀施行後その代金を清算する際に、被告から説明を受けて原告への解約手続をとっていることが明らかである(同申込書の葬儀施行日と返金予定日あるいはアンケート第六問を参照)。さらに、故人の宗旨、宗派又は町会、自治会の取決めに従って別の業者に葬儀の施行を委託することが予定されている者も相当数認められ、中には、一覧表番号9の顧客のように、原告に葬儀の施行を委託することを希望していたものの、電話番号が分からず、やむなく遺体を搬送した被告に委託したというケースも存することが認められる。
原告との右利用契約を解約した顧客の中には、葬儀施行当日に右の解約ができることを被告に教えられたとする者も二、三あるが、後記原告の約款(甲二)をみても、原告と右利用契約を締結した加入者は葬儀等を原告に委託することを義務付けられてはいないのであるから、右のような被告の行為が直ちに不公正な取引方法に当たるとは認められない。
以上によると、被告が、原告とその顧客との葬儀施行委託取引を妨害しているとはいえない。
3 互助会利用契約の継続の妨害の有無について 甲二によれば、原告の約款(平成三年一二月以降適用分)には、役務の内容は「冠婚葬祭のいずれの場合にも一人契約一二万円迄一回に限り利用でき」(2条)、解約は「加入者の申出により自由にできる」(6条2項)旨が定められていることが認められ、一人当たりの加入口数が二口までであったことは原告の自認するところでもある。
このように、積立額がさほど高額ではない原告の互助会利用契約において、予定していた葬儀等がすでに現実のものとなった以上、加入者がその積立金を葬儀費用に充当することを考えるのは生活上当然のことともいえるのであって、遺族から葬儀施行の委託を受けた被告が、右積立金のあることを知って、その解約返戻金を葬儀代金に充当することを教えたからといって、そのこと自体を欺瞞的な取引方法であるとか、競業者に対する取引妨害であるとかということはできない。
また、被告の社員が原告の顧客から互助会加入者証を預かることがあったと認められるが、これをもって直ちに、被告が原告との互助会利用契約を解約を慫慂する意図を有していたということはできない。
4 そして、右以上に、被告が原告の右利用契約加入者に対し妨害的な行為をしたとまでは認めるに足りる証拠はなく、被告が、葬儀施行後に、葬儀費用の未納を理由に原告との互助会利用契約を解約させて、原告と右顧客との葬儀委託契約の締結を妨害し、あるいは原告と顧客間の右互助会利用契約の維持を妨害したとの事実を認めることはできない。
四 請求原因4(不法行為)について 前記一ないし三に認定、説示したところに照らすと、被告が、競争者間の工業上又は商業上の善良な慣習、取引秩序に反する不正競業行為をしたということはできない。
結論
以上の次第で、請求原因1ないし4の事実はいずれもこれを認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも失当として棄却を免れない。
よって、右と同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一二年七月一二日)
裁判長裁判官 鳥越健治
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三
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