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事件 平成 10年 (ワ) 18253号 損害賠償請求事件
原告 株式会社中山石渠右代表者代表取締役 A右訴訟代理人弁護士 坂井秀行
同 大村 扶美枝
同 布施和基右訴訟復代理人弁護士 佐久間 篤夫
被告 株式会社聖和堂右代表者代表取締役 B
被告B
被告C
被告D右四名訴訟代理人弁護士 笠井收右訴訟復代理人弁護士 下井善廣
同 佐藤敦史
同 井手大作
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/11/13
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告らは、原告に対し、各自金六三〇万円及びこれに対する平成一〇年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告らは、原告に対し、各自金五八五四万一〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年八月二二日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が被告らに対し、被告B(以下「被告B」という。)、被告C(以下「被告C」という。)及び被告D(以下「被告D」という。)が原告の営業資料に含まれる営業秘密を不正に持ち出し、被告株式会社聖和堂(以下「被告会社」という。)が右営業秘密を使用した行為が、不正競争行為、債務不履行及び不法行為に該当すると主張して、被告らに対し、損害賠償の支払を請求した事案である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。) 1 当事者 (一) 原告 原告は、石材の加工、販売及び石工事施工請負業等を目的とする会社である。
(二) 被告ら 被告Bは、平成五年一二月一日から平成九年一月三一日まで、原告東京本社に従業員として雇用され、電話による顧客開拓活動(テレホンアポイントメント。原告では「テレアポ」と呼ばれていた。)を行う部署の責任者として勤務した。
被告Cは、平成七年一〇月一六日から平成九年一月一五日まで、原告東京本社に従業員として雇用され、主として、墓地用地を確保する業務等に従事した。
被告Dは、平成八年六月二五日から平成一〇年七月一〇日まで、原告東京本社に従業員として雇用され、主として、原告のチラシ等の宣伝広告を見て寺院を訪れた顧客の応対をする等の業務に従事した。
被告会社は、墓地・霊園の紹介、斡旋、仲介、墓石・石製品の販売及び管理等を目的とする会社であり、平成八年一二月四日、被告B及び同Cによって設立された。被告Bは被告会社の代表取締役であり、同Cは同社の取締役である。
2 本件営業資料 原告は、以下の「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、
「(予約)聖地使用契約書」、「来山者名簿」、「加工図・パース」及び「墓石原価表」の各資料(右各資料を総称して「本件営業資料」ということがある。)を作成して、営業活動を行っている。
(一) 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」 原告は、電話帳を利用し、不特定多数に無差別に架電し、墓の設置・購入予定の有無等を尋ね、顧客側に好反応(成約可能性)があれば、電話による接触を続け、最終的に契約締結に至るという方法を営業活動の一つの方法として実施している。
その際、電話帳に掲載された者に架電し、相手が、@全く無反応であれば当該電話番号を消す、A何らかの反応があった場合は、長期間ないし中期間かけて開拓すべき、「長期客」、「中期客」として当該番号にグリーン色の線を引く、
B好反応があった場合には、短期間に成約の可能性がある「短期客」としてピンク色の線を引く、というように、成約可能性に応じて電話帳に色分けしたり、書き込みしたりすることにより、「暫定的顧客名簿(電話帳抜粋)」を作成している(甲一九)。
その後、C各電話勧誘の担当者が、成約見込み客を「短期客」と「中長期」とに分けて、リストを作成する。Dその後は、右見込み客に定期的に電話して、購入計画状況等に関する詳細な情報を仕入れ、これを右リストに顧客別に整理する。その結果作成されるのが「お客様情報」である(甲四)。
(二) 「(予約)聖地使用契約書」 墓石設置に関しては、寺院、顧客及び石材店の三者が、@顧客と石材店との間の墓の建設請負契約と、A顧客と寺院との間の墓地の使用権に関する「聖地使用契約」を締結する。顧客の中には、寺院での現地見分を済ませ、契約をする意思を固めたにもかかわらず、何らかの事情で契約に踏み切ることのできない者もあり、このような顧客に原告では「(予約)聖地使用契約書」という形式で調印させていた(甲五)。
(三) 「来山者名簿」 原告の顧客獲得方法には、新聞に折り込み広告を入れ、これを見て墓に関心を持って、寺院を来訪してきた顧客を獲得する、という方法もある。原告はこのような顧客に対しては、寺院備え付けの「来山者名簿」(甲六)にその住所、氏名、電話番号を記載してもらい、後日右顧客に対して引き続いて電話勧誘を行うための資料としていた。
(四) 「加工図・パース」、「墓石原価表」 原告は、墓石の設計販売の際、顧客の参照に供するための資料として、
墓石の加工図、墓石原価を示す資料を備えていた。「加工図・パース」(甲七)は、顧客に具体的な墓石のモデルを示すためのもので、このうち、パースとは墓石の外観についての大まかなイメージ図面である。「墓石原価表」(甲八)は、契約金額の算定根拠となる墓石の原価等の資料である。
二 争点 1 本件営業資料は営業秘密に該当するか。
(原告の主張) 以下に述べるとおり、本件営業資料は、不正競争防止法上の営業秘密に該当する。
(一) 秘密管理性 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」は、被告Bが電話による顧客開拓担当の責任者としてその管理をしていた。原告東京本社事務所内のテレアポ室にある施錠されたキャビネットに収納されて管理され、同人のみが右キャビネットを解錠することができた。
「(予約)聖地使用契約書」、「来山者名簿」、「加工図・パース」、
「墓石原価表」はそれぞれファイリングされて、いずれも営業社員が席を置く原告事務室の整理棚の中か、机の中に保管されていたものであり、営業に関わる従業員のみが日常接することのできた情報であった。
(二) 有用性 本件営業資料に含まれる情報は、これを用いることにより、顧客との迅速な契約成立を可能にし、また、寺院との専属契約獲得にも資するもので、セールス活動にとって非常に有用な情報である(それまで何らの顧客情報もノウハウも持たなかった被告会社が、設立直後から着実に収入を確保することが可能となったのは、右情報を利用したからである。)。
「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」や「お客様情報」等において、成立可能性のない顧客氏名を名簿から排除することは、全く手がかりのない電話帳に基づき網羅的に電話することによって見込み客を抽出する場合に生ずるコストを削減する観点からの利点が大きい。被告会社での、平成七年一〇月一六日から同八年一一月一五日までに行われた電話による顧客開拓活動による成約率が約〇・〇一五パーセントにすぎないことに照らせば、右のような情報は保護に値する営業秘密である。
「来山者名簿」については、自宅で一方的に顧客勧誘の電話を受けた者ではなく、わざわざ寺院まで出向いた者を記載した名簿であるから、墓地購入に対する関心度が高く、成約可能性がより高い者を集積した点で、有用性が存する。
(三) 非公知性 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、「来山者名簿」及び「(予約)聖地使用契約書」に含まれる情報は、原告が独自のノウハウにより、
日常の地道な営業活動の中で、開拓、蓄積してきたものであって、墓地墓石を購入する可能性が極めて高い顧客に関する、若しくはそれらの顧客を成約に結びつけるための、情報であって一般には全く知られていなかった。
「墓石原価表」は、各石材問屋により、その石材問屋との過去の取引履歴その他の主観的事情により大幅に異なるものであり、高度の営業秘密を含むものであり、「加工図・パース」についても、パースのデザインや加工図の寸法データは各石屋が独自に決めた仕様が存在するのであるから、公知とはいえない。
(被告らの反論) 本件営業資料は、以下に述べるとおり、不正競争防止法上の営業秘密ではない。
(一) 秘密管理性 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」は、平成七年六月ころから同八年一〇月ころまでは、部屋の出窓に無造作に放置されていた。平成八年一一月ころ、原告の事務所移転に伴って、テレアポ室に、右資料を保管するキャビネットが設けられたが、依然としてキャビネットの上に無造作に放置され、キャビネットは、常に施錠されていたわけではなかった。
「(予約)聖地使用契約書」、「来山者名簿」、「加工図・パース」、
「墓石原価表」は、営業社員が席を置く事務室の施錠されていない整理棚の中か、
机の中に保管され、営業社員はいつでも接することができ、営業秘密であることが認識できるような「マル秘」の印が押されておらず、客観的に秘密として管理されていると認められる状態ではなかった。
(二) 有用性 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」に含まれた情報については、成約率は僅か〇・〇一五パーセントと極めて低く、架電された相手は、
購入の約束をしたわけではない上、顧客扱いされることすら迷惑に感じているはずだから、右情報が顧客情報として有用性があるということはできない。また、実際は潜在的顧客たり得る者であっても、電話による顧客開拓による勧誘を迷惑に感じたがために、好反応を示さなかった者も相当数いると考えられるので、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」や「お客様情報」で否定的に取り扱われている事柄が真実の情報とはいえないので、有用性はない。
「来山者名簿」に含まれた情報については、来山者は寺院や墓所の環境如何により墓地を購入するかどうか決めるから、現地を訪れたからといって直ちに成約可能性が高いとはいえないので、有用性はない。
被告会社が、設立後まもなくの間に多数の契約に至ったのは、廉価販売等や独自の交渉、広告宣伝、顧客勧誘によるものであり、右各情報とは因果関係がない。
(三) 非公知性 本件営業資料は、同業界ではほとんどの業者が保有している上、いずれも常識的な内容で類似性があるので、公知である。
「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」は、無差別電話勧誘によって作成されるが、いずれの業者も同じことを行っており、架電された人は各業者にほぼ同じ答えをしているので、架電の結果収集された情報は業者間において公知である。
「加工図・パース」や「墓石原価表」は、石材問屋に請求すれば、直ちに見積書として手に入るものであり、しかも、前者はパソコンによって容易に作成できるものである。墓所販売業者のいずれもが所有し、その内容は、極めて類似しており、公知である。
2 被告らの行為は、不正競争行為に該当するか。
(原告の主張) (一) 被告B及び同Cの不正競争行為 被告B及び同Cは、被告会社の営業活動に用いる目的で、平成八年一二月一〇日に、@「来山者名簿」、「(予約)聖地使用契約書」、「加工図・パース」、「墓石原価表」(いずれも写し)、A原告テレアポ室内キャビネットに保管されていた「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」(いずれも原本)、B原告事務室内の整理棚内ないし事務机内に保管されていた「加工図・パース」(写し)及び「墓石原価表」(写し)、C同室内前記書棚に保管されていた「(予約)聖地使用契約書」(原本)の一部、「来山者名簿」(原本)の一部を、
持ち出した。
(二) 被告Dの不正競争行為 被告Dは、原告に在職中、既に原告を退職した被告B及び同Cから、原告の保有している顧客情報や原告の営業日程表を漏洩するよう要請され、平成八年二月から同年八月まで約六か月間、原告が保管していた「来山者名簿」を夜間自宅に持ち帰り、自宅のファックス機で被告会社に送信するという方法により、情を知っている被告B及び同Cに漏洩して、被告会社に原告の営業秘密を不正に入手させた。被告Dは、右一連の行動の報酬として、被告会社が顧客と契約を成立させるごとに、一件当たり一〇万円を被告会社から受領し、少なくとも合計三〇万円の支払を受けた。
(三) 被告会社の不正競争行為 被告会社は、右(一)及び(二)のとおり、不正に取得したことを知って、
本件営業資料を使用して、営業活動を行い、短期間のうちに多くの契約を締結した。
(四) 以上のとおり、被告B、同C及び同Dの行為は、不正競争防止法2条1項4号に、被告会社の行為は、不正競争防止法2条1項5号にそれぞれ該当する。
被告らの行為は、それぞれ不法行為に該当し、被告らには、原告の営業秘密を不正に取得し、かつ、不正取得した営業秘密を使用することにつき共謀があるので、共同不法行為が成立する。
(被告らの反論) 被告B、同C及び同Dが本件営業資料を不正取得したことはない。被告Dが金三〇万円を受領したのは、不正取得の報酬としてではなく、原告において成約に至らなかった「来山者名簿」を被告会社の役に立てばと同Dが好意でファックス送信したことに対する謝礼としてである。
被告会社が顧客と契約できたのは、本件営業資料を使用したからではなく、被告らの営業努力によるものである。原告の勧誘対象層と被告会社の成約顧客とが重複したとしても、被勧誘者は、被告会社その他の競業者からの勧誘電話、折り込み広告やダイレクトメールを比較の上、家庭の事情、墓地の立地条件等の顧客側の事情や、価格等の諸条件を検討して顧客の自由意思で契約業者を決定しているのであり、あくまで契約自由の原則の範囲内のもので、何ら不正競争には当たらない。
3 債務不履行及び不法行為の成否 (原告の主張) (一) 被告B、同C及び同Dは、原告との各雇用契約に基づき、それぞれ原告の従業員として勤務する間、使用者である原告の営業上の利益を不当に侵害してはならないとの雇用契約上の付随的義務を負っていた。
それにもかかわらず、被告B及び同Cは、従業員として原告の業務に従事していた平成八年夏ころから、原告を退社して原告と業務の競合する新会社を設立する計画を立て、新会社での営業活動に不正に流用する目的で、原告が有する顧客情報を持ち出すことを企てていた。そして、被告B及び同Cは、平成八年一二月四日、被告Bを代表取締役、同Cを取締役とする被告会社(変更前の商号、株式会社聖和メモリアル)を設立し、同月一〇日、前記2(原告の主張)(一)のとおり、
本件営業資料を窃取した。
被告Dは、原告在職中に、前記2(原告の主張)(二)のとおり、「来山者名簿」に含まれる営業秘密を被告B及び同Cらに対し漏洩した。
被告B、同C及び同Dらの右各行為は、雇用契約上の付随的義務に反する行為であり、債務不履行を構成する。また、右各行為は不法行為を構成する。
(二) 被告会社は、原告の営業上の利益侵害し、原告に損害を与えることを知りながら、被告会社の営業活動に流用する不正の目的で、被告B及び同Cに前記2(原告の主張)(一)記載の、同Dに同(二)記載の各行為を行わせ、不正に取得した本件営業資料を用いて、原告の潜在的顧客を奪って原告に損害を与えた。被告会社の右各行為は、不法行為を構成する。
(三) 被告らには、原告の営業秘密を不正に取得し、かつ、不正取得した営業秘密を使用することにつき共謀があるので、共同不法行為が成立する。また、被告B、同C及び同Dらの債務不履行についても、共謀が存在するので、民法719条1項の類推適用により、連帯して損害を賠償する責任を負う。
(被告らの反論) 原告主張の事実は否認する。
4 損害の成否及び額 (原告の主張) (一) 不正競争防止法5条1項の損害 (1) 被告会社は、原告から不正取得した「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」「お客様情報」を利用することにより、別紙「成約顧客一覧表」記載の二三件の契約を締結した。その売上高は金四五九六万九五〇〇円である。
(2) また、被告会社は、本件営業資料を利用することにより、約一二〇件もの顧客との間で、大龍寺墓地使用契約を締結した。大龍寺の墓地使用契約の顧客数に、別紙成約顧客一覧表記載の顧客の平均売上高である一九八万九五二二円を乗ずると、その売上高は金二億三八七四万二六四〇円となる。
(3) よって、本件営業資料を利用することによる被告会社の売上高は、
右(1)及び(2)の合計額である金二億八四七一万二一四〇円である。
そして、墓石墓地販売業における一般的な利益率は売上高の約七割であるので、上記二億八四七一万二一四〇円の内の一億九九二九万八四九八円が、不正競争防止法5条1項所定の侵害者の得た利益として、原告の損害額と推定される。
なお、侵害者の得た利益は、純利益ではなく、売上高から実質的な仕入代金額のみを控除した金額によるべきである。
(4) したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、金一億九九二九万八四九八円の内金五〇〇〇万円及び弁護士費用八五四万一〇〇〇円の合計金五八五四万一〇〇〇円の支払義務がある。
(二) 債務不履行及び不法行為に基づく損害 (1) 前記3(原告の主張)記載の被告B、同C及び同Dの債務不履行又は被告らの不法行為により、原告は前記(一)記載の金一億九九二九万円相当の損害を被った。
(2) 前記2(原告の主張)(一)記載の被告B及び同Cの行為により、原告はその営業に必要な潜在顧客に関する情報を失い、営業上の利益を不当に侵害され損害を被った。その損害額は、同人らが持ち出した原告の営業用資料の作成費用である金一九六〇万九〇〇〇円を下らない。
(3) 前記2(原告の主張)(二)記載の被告Dの行為により、原告は「来山者名簿」により得べかりし顧客獲得の機会を奪われ、損害を被った。被告会社は、
右「来山者名簿」に基づき、E、F及びGの三名と契約をした。その売上高は金八〇五万九〇〇〇円である。これに、売上利益率七割を乗じて得られる額金五六四万一三〇〇円が、損害額である。
(4) 被告B、同Cは、右(1)及び(2)の合計金二億一八八九万九〇〇〇円の、被告Dは、右(1)及び(3)の合計金二億〇四九三万一三〇〇円の損害を、被告会社は、前記(1)ないし(3)の合計金二億二四五四万〇三〇〇円の損害をそれぞれ原告に与えた。
したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、金二億二四五四万〇三〇〇円の内金五〇〇〇万円及び弁護士費用八五四万一〇〇〇円の合計金五八五四万一〇〇〇円の支払義務がある。
(被告らの反論) 被告会社が顧客を獲得したのは、本件営業資料を利用したためではなく、
被告ら独自の営業努力によるものであるから、不正競争行為、債務不履行及び不法行為と損害との間に相当因果関係はなく、不正競争防止法5条1項も適用されない。
同条項の利益の算定は、純利益を基礎とすべきである。広告宣伝費その他の諸経費を控除すると、被告会社の利益率は非常に低く、原告主張の利益率は採用できない。
争点に対する判断
一 争点1(本件営業資料の営業秘密性)について 前記第二、一2の事実、証拠(甲四、九ないし一一、一九、二六、二八、乙五、六、枝番号の表記は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
1 秘密管理性について 平成八年一一月ころ、原告においては、原告東京本社の事務所が新宿区<以下略>に移転した後、テレアポ専用の部屋が設けられたが、同室は被告Bが責任者として管理し、同室内には施錠可能なロッカーが設置され、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」は、右ロッカー内に保管されていた。「(予約)聖地使用契約書」及び「来山者名簿」は、社員が日常業務を行っていた事務室内のH営業課長の机の引き出しに保管されていた。「加工図・パース」は、右事務室内の書棚にファイルして保管されていた。「墓石原価表」は、右事務室内の、原告東京本社の責任者でもあるI又はH営業課長の机の中に保管されていた。なお、原告においては、新規採用社員に対して、原告が保管する営業資料について、営業活動以外への使用の禁止を徹底指導していた。
以上の事実に照らすならば、本件営業資料は、原告において、秘密として管理されていたと認めることができる。
2 有用性について 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」には、同一顧客への再三にわたる電話での勧誘や事情調査を経て得られた顧客情報が記載され、前者には、@全く無反応の者、A何らかの反応があり、中、長期間にわたり勧誘すれば、
成約に至る可能性のある者(中期客、長期客)、B好反応があり、短期間のうちに成約に至る可能性がある者(短期客)かどうかの情報が、後者には、成約見込み客に定期的に電話して得られた購入計画状況等に関する情報が含まれている。ところで、原告において、無差別に行った電話帳による顧客勧誘の成約率は、約〇・〇一五パーセントと極めて低い。したがって、右各資料に含まれる成約可能性に関する顧客情報は、効率的な営業活動をするに当たって、有用な情報であるといえる。
「来山者名簿」及び「(予約)聖地使用契約書」には、顧客の住所、氏名、電話番号等の情報が記載され、前者には、原告の折り込み広告を見て、墓に関心を持って寺院を来訪した顧客に関する情報が、後者には、最終的に契約を断念した顧客に関する情報が記載されている。このような顧客は、墓に高い関心を持った顧客であり、成約に至る可能性が高いグループということができる。したがって、右資料に含まれる情報は、効率的な営業活動に当たり有用な情報ということができる。「加工図・パース」及び「墓石原価表」は、それぞれ、墓石の外観と単価等が記載され、前四者とは、有用性の範囲・程度は異なるが、一応、有益な情報といって差し支えない。
以上のとおり、本件営業資料は、いずれも、有用な情報を含んでいるということができ、特に「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」及び「来山者名簿」は、墓石販売業者の営業活動にとって活用価値の高い情報を含んでいるということができる。
3 非公知性について 「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、「来山者名簿」及び「(予約)聖地使用契約書」は、原告の独自の営業活動によって得られた事項が記載され、右認定した管理状況に鑑みると、非公知であったと認めることができる。
他方、「加工図・パース」及び「墓石原価表」は、記載された事項の性質、内容に照らして、非公知であったとはいえない。
4 以上のとおり、本件営業資料のうち、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、
「お客様情報」、「来山者名簿」及び「(予約)聖地使用契約書」は、不正競争防止法2条4項所定の「営業秘密」に該当するということができるが、「加工図・パース」、「墓石原価表」は、同法同条項所定の「営業秘密」に該当するということはできない。
二 争点2(被告らの不正競争行為)について 1 被告B及び同Cの不正競争行為 (一) 前記第二、一1の事実、証拠(甲一一ないし一四、二三、二六、二八、乙五、六)及び弁論の全趣旨によれば、後記(二)の事実が認められ、これらを総合すると、以下の事実が認められる。
被告Bは、平成五年一二月一日、原告東京本社の従業員として雇用され、電話による顧客開拓活動を行う部署の責任者として勤務し、被告Cは、平成七年一〇月一六日、原告東京本社の従業員として雇用され、墓地用地を確保する業務に従事していた。右被告らは、平成八年一一月ころから、原告を退社して、新会社を設立して、原告と同一の業務、態様で営業を行おうと決意し、その準備を始めた。そして、右被告らは、原告が管理する本件営業資料を持ち出す準備を重ね、同年一二月一〇日、@原告東京本社テレアポ室内のキャビネットから、原告が所有し、被告B自らが管理していた「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」及び「お客様情報」、A原告事務室の整理棚ないし事務机から、原告がIによって管理させていた「来山者名簿」、「(予約)聖地使用契約書」、「加工図・パース」、「墓石原価表」の全部又は一部の資料をコピー機を使用して複写して、社外に持ち出し、営業秘密を窃取した。
(二) このように推認した理由は、以下のとおりである。
(1) Jは、当初原告において、パートタイマーとして勤務していたが、被告B及び同Cに対して、独立して、原告と競業する事業を始めるよう慫慂した。そして、J自らも、原告を退社して、被告会社に移り、また、被告会社に出資して、
積極的に経営に関与したが、その後、被告Bらと意見が対立して、被告会社を退いた。Jは、このように被告B及び同Cと行動を共にしていた者であるが、被告Bらが、原告において本件営業資料をコピー機を使用して複写して、写しを搬出し、その後設立した被告会社の営業のため、右資料の一部を活用した経緯の詳細を直接知っており、前記(一)のとおり、陳述書に記載している(甲一一、二七)。
(2) 平成八年一一月ころ、被告Bは、電話による顧客開拓をしていたパートタイマーらに対して、勤務時間中に、電話による顧客開拓業務をするかわりに「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」に記された成約見込み客の情報を別のファイルに転記する作業を指示したことがあった。
(3) 原告に設置されているコピー機のコピー枚数は、平成八年一月から同年一〇月までの間は、平均して四〇〇〇枚弱から五〇〇〇枚強の間を推移していたのに比較して、同年一一月分は八八〇〇枚、翌一二月分は七二〇〇枚と極端に増加した。被告B及び同Cが退職した平成九年一月から三月までは、再び、五七〇〇枚、四六〇〇枚、四六〇〇枚と減少した。
(4) 平成八年一二月一〇日、被告B及び同Cは、ほとんどの社員が参加する原告主催の忘年会兼ゴルフ大会に参加せずに、出勤した。被告B及び同Cは、原告事務室のコピー機を使用して資料を長時間にわたって複写して会社外に持ち出した。右被告らの行為は、同日出勤したKらパートタイマーらに目撃された。被告Bは、その直後に、目撃したKらを退職させた。
(5) Lは、平成九年四月末ころから、翌一〇年一月二五日までの約九か月間、被告会社のパートタイマーとして雇用され、電話による顧客開拓業務に従事していたが、その際、被告Bから手渡された「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」には既に、氏名欄に線が引いてあったり、書き込みがされていた。
各事実が認定でき、これらの事実を総合すると、被告B及び同Cは、平成八年一一月ころから本件営業資料を持ち出す準備を重ね、同年一二月一〇日に原告に無断で、本件営業資料を持ち出したと推認するのが相当である。したがって、
右被告らの行為は、不正競争防止法2条1項4号所定の、不正の手段により営業秘密を取得する行為に該当する。
2 被告Dの不正競争行為 前記第二、一1の事実、証拠(甲六、一一、二七、乙五、二五)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
被告Dは、同Bと同Cが原告に在職中から同被告らと懇意にしており、同被告らが原告を退職した後も、被告会社にしばしば顔を出し、その業務に協力していた。
そして、被告Dは、平成九年二月ころから同年五月ころまでの間、原告が管理していた「来山者名簿」を自宅に持ち帰り、被告会社にあててファックス送信した。平成九年六月ころ、被告Dは、同Bらから、被告会社の事務所において、
「来山者名簿」のファックス送信に対する謝礼として、現金三〇万円を受領した。
したがって、被告Dの行為は、不正競争防止法2条1項4号所定の、不正の手段により営業秘密を特定の者に示す行為に該当する。
3 被告会社の不正競争行為 前記第三、二1及び2において認定した事実、証拠(甲四、六、一五、一九)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は、被告B及び同Cが原告から不正に持ち出したり、同Dを通じて入手した「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」及び「来山者名簿」を利用して営業活動を行ったものと認められる(右事実は、被告会社が、平成九年八月一一日に契約したMの氏名が「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」に、平成九年四月に契約したNの氏名が「お客様情報」に、平成九年五月二一日に契約したE、同月二五日に契約したF、同月二六日に契約したGの各氏名が「来山者名簿」に、それぞれ記載されていたことからも推認される。)。
したがって、被告会社の行為は、不正競争防止法2条1項5号所定の、不正取得行為が介在したことを知って営業秘密を使用する行為に該当する。
4 以上のとおり、被告らの行為は、不正競争防止法2条1項4号又は五号に該当する。そして、被告Bは被告会社の代表取締役であること、同Cは被告会社の取締役であること、同Dは、同Bの依頼に応じて、同Bらに協力する意図の下に不正競争行為をしたこと等の経緯に照らせば、被告らは共謀して不正競争行為を行ったと解することができる。
そうすると、被告らの不正競争行為は共同不法行為に該当するので、被告らは、これにより生じた損害については連帯して賠償する責任がある。
三 争点4(損害の成否及び額)について 不正競争行為による損害について検討する。
前掲各証拠によれば、被告会社は、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」を使用してMと、「お客様情報」を使用してNと、「来山者名簿」を使用してE、F及びGと、それぞれ契約を成立させたことを認めることができる。しかし、本件全証拠によるも、原告主張に係る別紙「成約顧客一覧表」記載の二三件の契約のうち右五名以外の契約、及び被告会社が締結した約一二〇件の顧客との大龍寺の墓地使用契約が、「暫定顧客名簿(電話帳抜粋)」、「お客様情報」、「来山者名簿」及び「(予約)聖地使用契約書」を使用した結果締結されたと認めることはできない。
結局、被告会社が契約したその他の顧客については、被告らが不正に取得した本件営業資料を使用したことによるものと認めることはできない。
そこで、被告会社が右五名の者と契約したことにより得た利益の額を算定する。
売上高(石碑工事代金額)は、以下のとおりである。
M 一一八万六五〇〇円(甲一五の四) E 二九五万〇〇〇〇円(甲一五の一) F 二四〇万〇〇〇〇円(甲一五の二) G 二七〇万九〇〇〇円(甲一五の三) N 二三〇万〇〇〇〇円(右四名の平均額とした。) 以上合計 一一五四万五五〇〇円 被告会社の第一期(平成八年一二月四日ないし同九年九月三〇日)決算報告書の損益計算書(甲四三)によれば、同期における@売上額は二三一三万一七五〇円であり、A製造原価は一〇四二万五一四四円であること、@からAを控除した額は一二七〇万六六〇六円(その割合は五四・九パーセント)であることが認められる。ところで、被告会社においては、「販売費及び一般管理費」(二八三三万八三〇一円)が計上されているが、被告会社が設立した直後の特殊な事情の下において出費した経費を、すべて控除して被告会社の利益額として算定するのは相当でないが、反面、右支出項目の中には、売上に伴って変動する支出も含まれていると解するのが合理的であるから、このような観点を考慮すると、被告会社が右各契約を締結したことによって得た利益を算定するに当たり、売上額に対する一〇パーセントに相当する金額を控除して算出するのが妥当である。
そうすると、右五名と契約したことによって得た被告会社の利益額を算定すると計算上五七〇万四六三一円の金額が得られるところ、この算定結果を基礎として総合的に判断すると、原告が被告らの不正競争行為によって受けた損害額は金五七〇万円と解するのが相当である。
11,545,500×0・549×0・9=5,704,631 また、被告らの不正競争行為と因果関係のある弁護士費用に係る損害額は、
一切の事情を考慮すると、金六〇万円が相当である。
そうすると、被告らが連帯して賠償すべき損害額は、合計金六三〇万円となる(なお、原告は、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償を求めているが、そもそも、債務不履行又は不法行為が成立するか否かの判断はさておき、被告らの債務不履行又は不法行為と因果関係を有する損害が、前記不正競争行為と因果関係を有する損害を越えるものと認めることはできない。)。
四 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は金六三〇万円及びこれに対する平成一〇年八月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 沖中康人
裁判官 石村智
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