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事件 平成 11年 (ワ) 29128号 不正競争行為差止請求事件
原告 株式会社ルシアン右代表者代表取締役 A右訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 株式会社リバコ右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 田中秀一
同 志知俊秀
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/07/18
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は、別紙標章目録一又は二の標章を付した婦人用下着を輸入し、譲渡し、
引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示してはならない。
事案の概要
本件において、原告は、フランスの婦人用下着メーカーであるリズシャルメル社の製造に係る婦人用下着を、従前原告が輸入して国内において販売していたところ、被告は、リズシャルメル社に不当に働きかけて、同社から原告への製品供給を中止させ、原告に替わって同社の製品を輸入して国内で販売することとなったものであるが、右製品には原告の著名な商品等表示と同一の標章が付されていると主張して、被告に対して、不正競争防止法2条1項2号3条1項又は不法行為による営業権侵害を理由として、被告による前記標章の付された婦人用下着の輸入・販売の差止めを求めている。
一 前提となる事実等(証拠を付記した事実以外は、当事者間に争いがない。) 1 原告は、婦人服、婦人用下着等のメーカーであり、外国製婦人用下着の輸入も手がけている。
2 被告は、外国製婦人用下着の輸入販売を主たる業務としている会社である。
3 原告は、平成四年ころからリズシャルメル社の婦人用下着を輸入、販売している(甲一、七、四九等)。
4 リズシャルメル社の婦人用下着には、別紙標章目録一又は二の標章(以下、
「本件標章一」「本件標章二」といい、これらを総称して「本件各標章」という。)が付されている。
5 被告は、平成一二年からリズシャルメル社の我が国における輸入代理店となった。
二 当事者の主張 1 原告の主張 (一) 原告は、平成四年ころからリズシャルメル社の婦人用下着を輸入、販売しているが、当時日本では、同社の下着はほとんど無名であった。原告は婦人用下着の老舗メーカーとしての経験、信用、取引関係等を駆使し、宣伝広告をして、リズシャルメル社の下着の日本市場への浸透のための努力をした。同社の下着は高級品であることから、日本市場への浸透は容易でなかったが、原告の企業努力により、リズシャルメル社の下着は、バブル崩壊による消費低迷期をも乗り越えて、日本の多数のデパート及び専門店約一六〇店で販売されるに至ったもので、本件各標章は、原告の販売に係る下着の標章として我が国において著名である。すなわち、
リズシャルメル社は高級下着のブランドとして取引者及び需要者の間で広く知られるに至っており、また、原告が八年以上の間我が国におけるリズシャルメル社の輸入総代理店であることも、取引者及び需要者の間で広く知られている。
(二) 被告は、リズシャルメル社の下着が日本において原告の経営努力により成功し、本件各標章が原告の輸入に係る婦人用下着の商標として我が国において周知となっているのに目を付け、リズシャルメル社に働きかけ、原告がリズシャルメル社の輸入総代理店であることを知りながら、同社に原告への供給を中止させ、平成一一年一二月末をもって原告との輸入代理店契約関係を終了させる旨の通知を同年九月二八日付けで原告に送付させた上(右解約通知は正当な理由のないもので無効である。)、新聞等を用いて平成一二年より被告が我が国におけるリズシャルメル社の輸入総代理店となったことなどを宣伝したり、平成一一年一〇月に開催した被告の受注展示会においてリズシャルメル社の製品を原告の価格よりも二〇ないし三〇パーセント低い価格で顧客に提示して多数の発注を受けた。
(三) 被告が輸入販売しようとしている商品には、原告が輸入販売する商品の表示として著名な商品等表示である本件各標章が付されている。したがって、被告の右行為は、不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争行為に該当する。
(四) 被告の右行為は、同時に、原告の、リズシャルメル社の輸入代理店としての営業権を侵害する行為であり、債権侵害として、不法行為を構成する。
(五) よって原告は被告に対し、不正競争防止法3条1項に基づき、又は不法行為を理由として、被告に対して、右行為の差止めを求める。
2 被告の主張 (一) 本件各標章は、原告の商品等表示とはいえないし、ましてや原告の著名な商品等表示といえない。下着を含むリズシャルメル社の製造する被服に付された商標については、リズシャルメル社が商標権を有しているものであり、被告は、同社の許諾を得て真正商品を輸入販売しているものであるから、原告から差止めを求められる理由はない。
(二) 被告は、リズシャルメル社に原告への商品供給を中止させるような働きかけを行ったことはない。もともとリズシャルメル社は原告に対して不信感を抱いていたものである。すなわち、リズシャルメル社は、@ 平成九年一二月にマネージャーのC氏を同社の日本での販売状況の調査や新規取引先候補の探索に来日させ、その結果、原告の販売政策が満足のいかないものであると考え、A 平成一〇年(一九九八年)には、同年六月一一日付け書面等により、原告に対して、リズシャルメル社の下着の販売に更に人的資源を投入しなければ、原告との取引続行が不可能である旨を警告していたところ、B 同年九月には、リヨンで開催された見本市において、写真撮影が禁止されていたにもかかわらず、原告のスタッフが日本にまだ紹介されていないリズシャルメル社の商品を隠しカメラで写真撮影していることが判明するという事件が発生した。右@ないしBのようなことが重なり、リズシャルメル社は、原告との取引を中止したものである。
(三) 被告は、以前扱っていたブランドの関係で、平成一二年からリズシャルメル社と取引関係を持つに至った。被告は、リズシャルメル社と原告との間の具体的な取引の経緯は知らないが、平成一一年当時のリズシャルメル社の説明では、同社は原告との間では輸入代理店契約について契約書を交わしておらず、原告に日本での独占的販売権を与えたこともなく、原告との取引には以前から不満があっていずれ原告との取引は止めたいとのことであった。その後、リズシャルメル社から、
平成一一年一二月末限りで原告との取引を止めるので、それ以後被告と取引したいと要請されたので、これを受け容れたものである。右のとおり、リズシャルメル社が原告との取引を中止したのは、原告自身の問題に起因するもので、被告には何ら関わりがない。被告は、債権侵害に当たる行為をしていない。
当裁判所の判断
一 不正競争防止法に基づく差止請求について 1 不正競争防止法2条1項2号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為」を不正競争と規定しているが、同号の趣旨は、著名な商品等表示について、その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに、その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止するところにある。同号所定の不正競争行為に対して同法3条4条に基づき差止め及び損害賠償を求め得る主体については、当該著名商品等表示に化体された信用・名声を自らの信用・名声とする者、すなわち当該著名商品等表示により取引者又は需要者から当該商品の製造者若しくは販売元又は当該営業の主宰者として認識される者と解するのが、相当である。けだし、著名商品等表示の冒用により、信用・名声の希釈化等により損害を受けるのは、右の者であるからである。著名表示が企業グループとしての表示である場合には、中核企業はもちろんのこと、当該企業グループに属する企業であれば、
不正競争防止法上の請求の主体となり得るし、フランチャイズ契約により結束した企業グループにおいては、フランチャイズチェーンの主宰者たるフランチャイザー及びその傘下のフランチャイジーが、請求の主体となり得る。しかし、単に流通業者として当該著名商品等表示の付された商品の流通に関与しただけの者は、これに含まれないというべきである。
2 これを本件についてみるに、原告の主張するところは、原告は、輸入総代理店としてフランスの婦人用下着メーカーであるリズシャルメル社から婦人用下着を輸入してこれを我が国において販売してきたが、この間の原告の企業努力により、
右下着に付された本件各標章は、原告の輸入販売するリズシャルメル社の商品を表す商品等表示として著名となっているというのである。そうすると、原告の主張自体によっても、本件各標章はフランスのリズシャルメル社に由来する商品であることを示す表示として取引者・需要者の間で認識されていたのであって、原告の商品であることを示す表示として知られていたものではないと解されるところ、証拠(甲一ないし四、七ないし三七、四一、乙四、五、検甲一、二)によれば、(1) リズシャルメル社は、フランスのリヨンに本社を置く、一九五〇年に創業されたファンデーションメーカーで、その製品は、ディテールに凝った手工芸的レースや縫製技術により定評があり、フランスにおいてパリ市内のデパートでは必ず大きなコーナーが設けられているほどの人気を博しているほか、世界三〇か国以上において広く親しまれていること、(2) リズシャルメル社の製品を採り上げた新聞雑誌の記事においても、右内容を記載するにとどまるものがほとんどであり、原告について言及した記事や原告自身により掲載された雑誌等の広告においても、原告は我が国における輸入代理店として紹介されているに過ぎないこと、(3) 原告が輸入販売した婦人用下着には、上段に本件標章一(「LISE CHARMEL」)、下段に「FRANCE」と記載された下げ札が付されており、原告については「輸入発売元潟泣Vアン」と表示されているに過ぎないこと、(4) 本件各標章は、いずれもリズシャルメル社の社名をフランス語により表示した標章であるが、殊に本件標章一は、リズシャルメル社の社名のロゴとして同社の使用するレターヘッド等にも用いられていること、の各事実が認められる。これらの事情を総合考慮すると、本件各標章は、リズシャルメル社の製造販売にかかる商品を示すものとして取引者及び需要者の間で認識されているものであって、原告の商品を示すものとして認識されているものではないと認めるのが、相当である。
また、フランチャイズ契約により結束した企業グループ等においてはグループを構成する各企業が不正競争防止法上の請求の主体となり得るにしても、本件における原告は、単なる輸入代理店であって、リズシャルメル社との間で結束した企業グループを結成しているとまでは認められない。加えて、証拠(甲三九ないし四三、乙三ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、(1) リズシャルメル社は、平成一一年一二月末をもって原告との取引を停止し、平成一二年からは被告を我が国における新たな輸入代理店としたこと、(2) これに伴って、被告はリズシャルメル社から本件各標章の付された婦人用下着を輸入して販売していること、の各事実が認められる。原告はリズシャルメル社による輸入代理店契約の解除の効力を争うが、右解除の効力のいかんにかかわらず、リズシャルメル社から輸入代理店としての地位を否定されている原告が、リズシャルメル社の真正商品に付された本件各標章の使用について、不正競争防止法上の請求の主体となり得ないことは、明らかというべきである。
3 以上によれば、不正競争防止法2条1項2号3条1項に基づき被告に対して婦人用下着の輸入販売等の差止めを求める請求は、理由がない。
二 不法行為(債権侵害)を理由とする差止請求について 1 本件において、原告は、被告はリズシャルメル社に不当に働きかけて、同社から原告への製品供給を中止させ、原告に替わって同社の製品を輸入して国内で販売することとなったと主張し、被告の右行為は不法行為(債権侵害)として原告の輸入代理店としての営業権を侵害するものであるから、右不法行為に対する差止めとして、被告によるリズシャルメル製品の輸入販売の差止めを求めることができると主張している。
しかし、不法行為に対する救済としては、金銭賠償を原則とするものというべきである(民法709条参照)。仮に、不法行為に該当する法益侵害行為が現在行われており、将来にわたって同様の侵害行為が反復継続されるおそれが明らかに認められるときに、一定の要件の下にその差止めを請求することができる場合があると解し得るとしても、本件において原告の主張する被害法益の内容(輸入代理店としての営業権)は、生命身体のような普遍的な法益ではなく、これに対する侵害が不正競争防止法所定の不正競争行為に該当する場合に、同法の規定により差止めが初めて認められる経済上の利益に過ぎないものである。このような点を考慮すると、右のような経済上の利益については、不正競争防止法所定の不正競争行為に該当しない侵害行為についてまで、事後における損害賠償請求に加えて、不法行為を理由とする事前の差止請求を認めるべきものとは解されない。加えて、本件においては、以下に述べるとおり、被告の行為が債権侵害として原告に対する不法行為を構成すると認めることもできないから、いずれにしても、原告の不法行為を理由とする差止請求は、理由がない。
2(一) すなわち、債権は、排他性を有さず、債務者の意思を媒介として成立する権利であるから、被侵害利益としては弱いものであり、第三者による債権侵害が成立するためには、侵害行為に強い違法性が認められることを要するというべきである。原告のリズシャルメル社に対する権利は、同社の製品の供給を受けることを内容とする債権と考えられるが、第三者である被告による右債権の侵害が成立するためには、原告の主張するように、被告が原告を害する意図をもってリズシャルメル社に働きかけ、あるいは両者が通謀するなどして、原告に対して不当に製品の供給停止をさせることを要するものというべきである。
(二) 原告は、被告は、原告がリズシャルメル社の輸入総代理店であることを知りながら、原告を害する意図でリズシャルメル社に積極的に働きかけ、同社に原告への供給を中止させたと主張する。しかし、本件において、被告がリズシャルメル社に積極的に働きかけ、あるいは両者が通謀して、原告への製品の供給を停止させたことを認めるに足りる証拠はない。なるほど、甲五二(原告の従業員成山正博の陳述書)には、もともと被告が取り扱っていたベルギーの「デヴェ」製品の生産をリズシャルメル社に依頼することにより、同社に対して強い立場に立った被告代表者が、その立場を利用してリズシャルメル製品の輸入元となるべく、リズシャルメル社特にマネージャーのC氏に取り入ったものと思う旨の記載があるが、右は憶測をいうものに過ぎず、これを裏付ける客観的な証拠はなく、右記載は採用できない。かえって、右甲五二末尾に添付された報告書(原告従業員神山啓一の自筆の報告書)、甲四一ないし四三、乙三ないし五などの証拠によれば、(1) リズシャルメル社は、以前から、原告によるリズシャルメル製品の販売数量、価格政策(従前の、原告によるリズシャルメル社の婦人用下着の日本国内販売価格は、ブラジャーで一万数千円前後、ショーツで一万円弱と、高額である。)や、原告が同製品の販売拡張等のために十分な人的資源を投下していないことなどについて不満を有しており、原告に対して、原告がこれらの点について改善をしない場合は取引を続けることが不可能である旨を警告したことがあったこと、(2) この間、リズシャルメル社は、マネージャーを日本に派遣して市場や販売店、新たな提携先等の調査をさせたこと、(3) 平成一〇年九月にフランスのリヨン市で開催された見本市で、原告従業員の同伴した女性が、写真撮影が禁止されていたにもかかわらず、リズシャルメル社の商品を隠しカメラで写真撮影し、これを見とがめたリズシャルメル社の従業員により取り押さえられたことなどが認められる。これらによれば、従来からリズシャルメル社が原告に対して抱いていた不満が、リヨン市の見本市における事件を契機として高じて、それが一因となってリズシャルメル社が原告との輸入代理店契約を解除して製品供給を停止したものと推認することができる。
(三) 右によれば、本件では、原告主張のように、被告が原告を害する意図でリズシャルメル社に積極的に働きかけたことを認めるには足りないから、被告が債権侵害を構成する行為を行ったということはできない。
三 以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一二年五月一一日)
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 中吉徹郎