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事件 平成 10年 (ワ) 21508号 損害賠償等請求事件
原告 ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エー 右代表者 【A】
原告 株式会ウエスタン・アームス右代表者代表取締役 【B】 右両名訴訟代理人弁護士 北新居良雄
同 中島 敏
同 牧野利秋
被告 株式会社東京マルイ右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 湊谷秀光 右補佐人弁理士 【D】
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/06/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの請求
一 被告は、玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書に、別紙「被告表示目録」一ないし七記載の表示を付してはならない。
二 被告は、別紙「被告表示目録」一ないし七記載の表示を付した玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書を譲渡し、引き渡してはならない。
三 被告は、別紙「被告表示目録」一ないし七記載の表示を付した玩具銃並びにそのパッケージ、広告、カタログ及び取扱説明書、並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
四 被告は、原告ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エーに対し、六四〇八万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告は、原告株式会ウエスタン・アームスに対し、六六九六万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告らが被告に対し、別紙「原告表示目録」一ないし五記載の各表示(以下、これらの各表示を、それぞれその番号に従い「原告表示一」などといい、
合わせて「原告各表示」と総称する。)がいわゆる著名商品等表示又は周知商品等表示に該当し、被告が不正競争防止法2条1項2号又は一号所定の不正競争行為を行っていると主張して、玩具銃やそのパッケージ等に別紙「被告表示目録」一ないし七記載の各表示(以下、これらの各表示を、それぞれその番号に従い「被告表示一」などといい、合わせて「被告各表示」と総称する。)を付すことの差止め及び損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実1(一) 原告ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピー・エー(以下「原告ベレッタ」という。)は、イタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカーであり、その製造・販売に係る実銃(以下「原告実銃」という。)には、原告表示一ないし四が付されているものがある。
(二) 原告株式会社ウエスタン・アームス(以下「原告ウエスタンアームス」という。)は、玩具銃の製造・販売業者であり、平成九年六月、原告ベレッタとの間で、原告ベレッタの各種商品等表示を玩具銃に付して使用することなどに関して、
全世界的な独占使用権を取得する旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。
(三) 被告は、玩具銃の製造・販売業者である(以下、被告の製造・販売に係る玩具銃を「被告玩具銃」という。)。
2(一) 被告は、平成二年六月ころから、被告表示二ないし四及び五の1を付した「ベレッタ92F」という商品名の玩具銃(スプリング式エアガン。小売価格一九〇〇円。以下「被告商品一」という。)を製造・販売し、また、そのパッケージ、広告、商品カタログ及び取扱説明書(以下、これらを総称して、「パッケージ等」という。)に被告表示一、二、四及び五の1を付して、これらを譲渡し、引き渡していた(なお、被告が現在も被告商品一の販売等をしているかどうかについては、争いがある。)。
(二) 被告は、遅くとも平成五年一月ころから、被告表示二ないし四及び五の1を付した「ステンレスタイプ・ベレッタ92F」という商品名の玩具銃(スプリング式エアガン。小売価格二五〇〇円。以下「被告商品二」という。)を製造・販売し、また、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1を付して、これらを譲渡し、引き渡していた(なお、被告が現在も被告商品二の販売等をしているかどうかについては、争いがある。また、被告は、既に平成三年一二月ころから被告商品二を製造・販売していた旨を主張する。)。
(三) 被告は、平成九年一二月ころから現在まで、被告表示六及び七を付した「M92Fミリタリーモデル」という商品名の玩具銃(スプリング式エアガン。小売価格二九〇〇円(ただし、被告は、そのほかに二六〇〇円及び一九八〇円のものがある旨を主張する。)。以下「被告商品三」といい、被告商品一ないし三を合わせて「被告各商品」という。)を製造・販売し、また、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七を付して、これらを譲渡し、引き渡している。
3 原告表示一は被告表示一と、原告表示二は被告表示二と、原告表示三は被告表示三と、原告表示四は被告表示四と、原告表示五の1は被告表示五の1と、原告表示五の2は被告表示五の2と、それぞれ同一の表示である(なお、被告表示六及び七については、それらが原告表示三及び四とそれぞれ類似する表示であるかどうか争いがある。)。
二 争点1 原告ベレッタとの関係における不正競争の成否 平成二年六月以降、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為が、いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するかどうか(なお、原告らは、同法附則3条の規定に照らし、右各行為が同法2条1項2号所定の不正競争行為に該当する旨の主張はしない。)。また、平成九年一二月以降、被告商品三に被告表示六及び七を、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為が、いずれも不正競争防止法2条1項2号又は一号所定の不正競争行為に該当するかどうか。
殊に、(1) 原告各表示が我が国において遅くとも昭和六〇年ころまでには原告ベレッタの商品等表示として著名なもの又は需要者の間で広く認識されているものとなっていたかどうか。(2) 被告表示六及び七が原告表示三及び四とそれぞれ類似しているかどうか。(3) 被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるかどうか。4) 同条項一号所定の不正競争の成否に関し、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものであるかどうか。
2 原告ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否 殊に、原告ウエスタンアームスが、原告ベレッタと共に原告各表示の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているグループを構成する者に当たり、被告各表示を被告各商品に付する等の行為が、原告ウエスタンアームスとの関係においても不正競争防止法2条1項2号又は一号所定の不正競争行為に該当するかどうか。
3 原告らの差止請求の可否 殊に、被告は現在、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を付してこれを販売し、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1を付してこれらを譲渡し、引き渡しているかどうか。被告は、玩具銃及びそのパッケージ等について被告各表示を付し、これを譲渡し、引き渡すことについて、現在行っている以外にもこれを行うおそれがあるかどうか。原告らは、被告が玩具銃及びそのパッケージ等に被告各表示を付すことによって、営業上の利益を現に侵害され、又は将来侵害されるおそれがあるかどうか。
4 原告らの損害賠償請求の可否及びその損害額三 争点に関する当事者の主張1 争点1(原告ベレッタとの関係における不正競争の成否)について(原告ベレッタの主張)(一) 原告各表示は、以下に詳述するとおり、我が国において、遅くとも昭和六〇年(一九八五年)ころまでには、いずれも原告ベレッタの商品であることを表示するもの(商品等表示)として著名なもの、又は需要者の間に広く認識されているものとなり、現在に至っている。
(1) 原告ベレッタは、世界で最も古く、かつ、最も著名な銃器メーカーであり、その武器製造の歴史は一五世紀後半にさかのぼる。狩猟用銃、高級ライフル、
護身用ピストルなどの小型銃器を民間向けに製造・販売し、二〇世紀初頭には政府調達用銃器の分野に参入して飛躍的発展を遂げ、最近では原告実銃がイタリア政府のみならずアメリカ政府やフランス政府の制式けん銃として採用されるなど、輝かしい歴史と実績を誇っており、今日、原告実銃は、ヨーロッパや北米大陸諸国ばかりでなく、我が国を含め広く世界中に広まっている(ちなみに、原告ベレッタの平成七年における総売上高は一億五三九〇万ドルであり、また、平成八年に我が国に輸入された原告ベレッタ製の散弾銃は一二三二丁であり、同年に我が国に輸入された全散弾銃数の三六・二パーセントを占めている。)。
(2) 原告表示一は、創始者の名前に由来する原告ベレッタの商号の要部であり、一五世紀の創業以来現在に至るまで、原告実銃の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示二は、原告ベレッタを飛躍的に発展させた中興の祖【E】の名前に由来するものであり、遅くとも一九一五年から現在に至るまで、原告実銃(ベレッタM1915量産型等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示三は、同人のイニシャル「PB」を横書きして二重の横長楕円で囲んだ独創性のある図形であり、遅くとも一九一九年から現在に至るまで、原告実銃(M1919ポケット・サイズ・ピストル等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示四は、三本の矢を二重円で囲んだ独創性のある図形と同人の名前を結合させて一体的にしたものであり、遅くとも一九五八年から現在に至るまで、原告実銃(M70S等)の本体に刻印されるなどして使用されている。
原告表示五の1及び2は、いずれも一九八五年に米軍制式けん銃として採用され、原告ベレッタの名を世界的に高めたけん銃の名称であり(以下、このけん銃を「M92F」という。)、数字と欧文字との組合わせが独創的なものである。
(3) 我が国においては、実銃の所持が規制されており、原告各表示が刻印されている原告実銃が市場において多数流通するようなことはない。しかし、実銃の所持が禁止されている国においては、銃砲愛好者は、実銃に代えて模擬弾を発射できる玩具銃を所持するほかなく、また、実銃所持の規制が緩やかな国においても、実銃使用は容易に許されないから、銃砲愛好者は、日常的には玩具銃を購入してその発射で代替させている。玩具銃は、青壮年向けに、決して安価とは言えない価格で販売されており、これらの需要者は、実銃自体に関心を寄せ、当該実銃メーカーの製造する実銃の性能の優秀性、当該実銃メーカーの信用性を化体したものとして、
玩具銃を購入するものであって、玩具銃関係雑誌に実銃に関する記事が多数掲載されていることなどに照らしても、実銃と玩具銃の関心層及び需要者層は、重複・共通するものといえる。
(4) 前記の原告ベレッタの実銃製造販売における輝かしい歴史と実績、原告各表示の使用の継続性、原告各表示自体の独創性に加え、我が国において、原告実銃が種々の報道や玩具銃関係の各雑誌(その主要なものの発行部数は、合計で毎月三〇万部を超える。)の記事等によって広く紹介されたり(殊に、M92Fは、米軍制式けん銃として採用されたことを機に大いに注目を浴びた。)、小説や映画(「007」シリーズ等)などで取り上げられた結果、原告各表示は、いずれも遅くとも昭和六〇年(一九八五年)ころまでには、原告ベレッタの商品であることを表示するものとして、日本国内の実銃需要者及び玩具銃愛好者の間において著名なものとなり、少なくとも広く認識されているものとなって、現在に至っている。最近においても、原告各表示を題号に含めたビデオ映画が製作・販売されたり、原告実銃を紹介するためにのみ独立の文庫本が刊行されていることなどは、その証左である。
(5) 被告は、我が国において、実銃の所持が原則として禁止され、実銃が市場で流通していないことを理由に、実銃は不正競争防止法の保護の対象となる「商品」に該当せず、それに付された表示が商品等表示として著名性周知性を具備し得るものでもないと主張する。しかし、「商品」とは、市場で金銭と交換される、
業務の目的物である有体動産をいい、「商品」かどうかの判断に当たって、我が国の市場での流通量の多寡が問題とされるものでもない。実銃は、我が国においてその所持に公的許可を要するというだけであり、流通性が否定されているわけではなく、商標法上も商品として取り扱われていること(商標法施行規則別表第一三類参照)などに照らせば、不正競争防止法上の「商品」に当たるというべきである。また、ある表示がある者の商品等表示として著名又は周知であることを認定する上でも、我が国においてその商品が実際に販売され、あるいは多数販売されていることを要するものではない。
(二) 被告表示六は原告表示三と、被告表示七は原告表示四とそれぞれ類似する。
(三) 被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、「商品等表示」としての「使用」に当たる。
被告は、被告各商品に被告各表示を付すのは、どの実銃をモデル化したかを示しているにすぎない旨を主張する。しかし、原告実銃において、原告各表示は、いずれも原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されている。そして、被告各商品は、プラモデルやミニチュアカーとは異なり、原告実銃を実物大でそのまま模したものであり、被告は、原告各表示と同一の表示を、原告実銃に付された原告各表示と同一の位置、同一の態様で被告各商品に付しているのであって、単に説明的に記載しているのではない。このような場合にまで、被告各商品に被告各表示を付すことが商品等表示としての使用に当たらないということはできない。被告自身、現に自らが被告玩具銃に使用している表示について、玩具銃等を指定商品として商標登録出願をしたり、原告ベレッタ以外の実銃メーカーから、そのマークを付した玩具銃を製造するについての許諾を得るなどしていることなどからすれば、被告各表示を被告各商品に付することが商品等表示としての使用に当たることを認識していたものというべきである。
玩具の商品分野においては、実物を模した玩具を製造・販売するに当たって、実物の形態やそれに付された表示の使用について、実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立しており(昭和四一年には、模型メーカーである田宮模型が、自動車メーカーである本田技研から許諾を得て、その自動車の模型を製造・販売していた。)、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付すことが、商品等表示としての使用に当たることは明らかである。
(四) 被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同(不正競争防止法2条1項1号)を生じさせるものである。
同条項一号所定の「混同」とは、取引者、需要者をして、商品の出所が同一であると誤信させること(いわゆる狭義の混同)のみならず、ある商品等表示と同一又は類似の表示が商品に付された結果、その商品が当該商品等表示の主体と組織上、
営業上関連のある者の業務に係る商品であると誤認させること(いわゆる広義の混同)をも含むものである。
前記のとおり、実銃と玩具銃の関心層及び需要者層は、重複・共通しており、実銃に対して最も密接な関連性を有する商品は、玩具銃といえる。そして、原告ベレッタは、実銃のみならず、衣服類、くつ類、かばん類、帽子、ナイフ、ライター、
装飾品等にまで商品分野を拡大し、これらの商品を自ら販売し、又は他社にライセンスを付与して販売している(なお、原告ベレッタの平成一〇年における実銃以外の商品の売上高は、九〇億一一〇〇万リラである。)。玩具銃についても、昭和六〇年(一九八五年)から昭和六二年(一九八七年)までイタリア企業に、昭和六一年(一九八六年)から平成三年(一九九一年)までアメリカ企業にそれぞれライセンスを付与して製造・販売させ、最近では、原告ウエスタンアームスと共同して世界的なライセンス活動を開始している。平成五年(一九九三年)及び平成六年(一九九四年)には、実銃から稼働機構を除去した模型銃を製造し、日本で販売したこともある。
このような事情の下においては、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付した場合には、需要者は、原告らの許諾を得て右表示が付されているものと認識し、その結果、被告各商品が、原告らと組織上、営業上関連のある者の業務に係る商品であるとの誤認を、需要者に生じさせることは明らかである。
実銃は、我が国において、狩猟用のものを除き店頭販売されることはなく、また、通常、玩具銃と並べて販売されることもないが、それらの事実は、混同の認定の妨げとなるものではない。
(五) よって、平成二年六月以降、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当し、また、平成九年一二月以降、被告商品三に被告表示六及び七を、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも同条項二号又は一号所定の不正競争行為に該当する。
(被告の主張)(一) 不正競争防止法は、商取引における不公正な競争行為を廃除し、公正な取引秩序の維持確立を目的とするものであるから、不正競争防止法の保護の対象となる「商品」とは、商取引の目的物として取引市場において転々流通し得べきものをいう。我が国においては、実銃は、その所持が一部の例外を除いて固く禁じられており、市場で流通するものではなく、流通する可能性もない(なお、官給品の調達のための国家機関と銃器メーカー等との取引は、ここでいう流通には当たらない。)。したがって、実銃は不正競争防止法の保護の対象となる「商品」に該当せず、それに付された表示が商品等表示として著名性周知性を具備し得るものでもない。
商標法施行規則別表には、「機関銃」や「けん銃」についての規定があるが、それは類別の国際的統一の要請から設けられたものにすぎず、不正競争防止法上の「商品」の概念を左右するものではない。
三本の矢を図案化した表示や、数字の前に「M」の文字をつけた表示は、何ら独創性がなく、また、原告ベレッタは、我が国において原告実銃につき何ら営業活動及び宣伝活動をしたことがないのであるから、原告各表示が原告ベレッタの商品等表示として著名性周知性を具備しているとは到底いえない。
(二) 被告表示六は原告表示三と、被告表示七は原告表示四とそれぞれ類似していない。
(三) 被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、自他商品の識別力を持つ態様で用いるものではなく、「商品等表示」としての「使用」に当たらない。
被告各商品は、実銃を実物大で忠実にモデル化した玩具銃であることから、対応する原告実銃におけるのと同じ位置に被告各表示が付されているものである。パッケージ等に製造者である被告の名称を記して販売していることからも明らかなように、被告各商品に被告各表示を付すことは、何ら自己の商品を他人の商品と識別させるものではなく、どの実銃をモデル化したかを示しているにすぎない。自他商品の識別という点からすれば、同種の商品について複数の競業者が同じ商標を付すということはあり得ないはずであるが、実際、同じ原告実銃を模し、「ベレッタ」あるいは「BERETTA」という表示を付した玩具銃は、製造販売業者、価格、機能を異にしたものが市場に数多く存在している。
なお、被告自身、現に自らが被告玩具銃に使用している表示について、玩具銃等を指定商品として商標登録出願をしたのは、防御的なものにすぎず、被告各表示を被告各商品に付することが商品等表示としての使用に当たることを認識していたものではない。
(四) 被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものではない。
被告各商品は、我が国において流通せず、所持することができない原告実銃をモデルとした玩具銃である。玩具銃は、四〇年にわたる歴史の中で玩具の分野において固有のジャンルを形成し、そのマーケットが長年にわたって築き上げられており(昭和三五年から平成九年までの間をみても、合計で一〇〇〇種類を優に超える玩具銃が発売され、その出荷数量も合計で三〇〇〇万丁を超える。現在でも年間約二〇〇万丁が出荷されている。)、需要者も、玩具銃にどの実銃をモデルにしたものかを示す意味で、実銃や実銃メーカーの名称、マーク等が付されることを当然のことと認識している。そして、玩具銃は、現に実銃や実銃メーカーの名称等のみならず、製造した玩具メーカーの名称が付されて販売されている。
原告ベレッタの最近の商品カタログには、実銃以外の商品が掲載されているが、
いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーであり、
一般的な衣服等ではない。イタリア企業及びアメリカ企業にライセンスを付与して製造・販売したという玩具銃についても、日本に輸入されていないか、輸入されていたとしてもわずかな量であって、一般に知られるには至っていない。原告ベレッタが日本で販売した模型銃(実銃から稼働機構を除去したもの)についても、二〇万円以上もする高価なものであり、小学校の中ないし高学年以上を対象とした玩具銃である被告各商品とは、目的、機能、購買層が異なり、その販売数量も極めてわずかである。
したがって、実銃や実銃メーカーの名称等が付されているからといって、その玩具銃が当該実銃メーカーの商品あるいは当該実銃メーカーと親会社子会社の関係ないしは系列関係にある会社により製造された商品と誤認されるおそれは皆無であり、いわゆる広義の混同を生じさせるものではない。
(五) よって、平成二年六月以降、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当せず、また、平成九年一二月以降、被告商品三に被告表示六及び七を、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七をそれぞれ付す行為、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも同条項二号又は同条項一号所定の不正競争行為に該当しない。
2 争点2(原告ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否)について(原告ウエスタンアームスの主張)(一) 不正競争防止法2条1項1号及び二号所定の「他人」には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれる(最高裁第三小法廷昭和五九年五月二九日判決・民集三八巻七号九二〇頁参照)。
原告ウエスタンアームスは、原告ベレッタとの間の本件ライセンス契約が発効した平成九年六月二〇日以降、右契約に基づき、玩具銃の分野で、全世界において原告ベレッタの各種商品等表示を使用し、かつ、第三者にサブライセンスを付与する権限を有し、原告ベレッタと共に当該商品等表示の商品化事業を共同で遂行する立場にある。したがって、原告ウエスタンアームスは、原告ベレッタと共に、右商品等表示の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束した、使用許諾者及び許諾を受けた使用権者のグループを形成している。
(二) 原告各表示は、原告ベレッタと原告ウエスタンアームスとで構成される原告らグループの商品であることを表示する標章に当たる。そして、原告各表示が遅くとも昭和六〇年(一九八五年)ころまでには原告らグループの商品等表示として著名なもの又は需要者の間に広く認識されているものとなっていること、被告表示六及び七が原告表示三及び四とそれぞれ類似していること、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たり、原告らグループの商品と混同を生じさせるものであることは、争点1に関する原告ベレッタの主張と同様である。
(三) したがって、争点1に関する原告ベレッタの主張(五)に記載のとおり、
本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日以降、被告各表示を被告各商品に付する等の行為は、原告らグループの商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用するものとして、原告ウエスタンアームスとの関係においても、不正競争防止法2条1項2号又は一号所定の不正競争行為に当たるというべきである。
(被告の主張)(一) 原告ウエスタンアームスは、単に原告ベレッタから名称及びマークの独占使用の許諾を受けたにすぎず、原告ベレッタと共に当該商品等表示の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束していると評価するに足りる事実は、何ら存在しない。
(二) 原告ウエスタンアームスは、原告ベレッタから許諾を得る以前には、被告と同様、ほしいままに原告ベレッタの表示、マークを付した玩具銃を製造・販売していたにもかかわらず、原告ベレッタから許諾を得るや、一転して、被告を含む業界他社に対し原告ベレッタの表示等の使用差止を求めてきたものである。このような原告ウエスタンアームスの行為は、明らかにクリーンハンドの原則に反するばかりでなく、不正競争防止の名の下に、公正な競争秩序を破壊し、自らの独占的利益を計ろうとするものであって、許されないというべきである。
3 争点3(原告らの差止請求の可否)について(原告らの主張) 被告は、現在、被告商品三に被告表示六及び七を付してこれを販売し、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七を付してこれらを譲渡し、引き渡しているのみならず、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を付してこれを販売し、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1を付してこれらを譲渡し、
引き渡して、不正競争行為を行っている。そして、さらに今後、右行為以外にも、
被告玩具銃及びそのパッケージ等について被告各表示を付し、これらを譲渡し、引き渡して、右と同様の不正競争行為を行うおそれがある。
原告らは、被告の右不正競争行為により、原告各表示の持つ出所識別機能品質保証機能を害され、原告各表示についての商品化事業の展開が妨げられるものであって、営業上の利益を現に侵害され、又は将来侵害されるおそれがある。
よって、原告らは、不正競争防止法3条1項に基づき、被告に対し、玩具銃及びパッケージ等について被告各表示を付し、被告各表示を付した玩具銃及びパッケージ等を譲渡し、引き渡すことの差止めを求めるとともに、同法二項に基づき、被告各表示を付した玩具銃及びパッケージ等並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版の廃棄を求める。
(被告の主張) 被告は、現在、被告商品一及び二を販売していない。
また、玩具の分野における玩具銃のジャンルは、日本において四〇年に及ぶ歴史を持ち、独自の展開を遂げており、被告玩具銃及びパッケージ等に被告各表示が付されていることによって、原告各表示の出所識別機能品質保証機能が害されることはなく、原告らの営業上の利益侵害され、又は侵害されるおそれはない。
4 争点4(原告らの損害賠償請求の可否及びその損害額)について(原告らの主張)(一) 被告は、故意又は重大な過失により、平成二年六月以降、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1をそれぞれ付し、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡して、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を行い、また、平成九年一二月以降、被告商品三に被告表示六及び七を、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七をそれぞれ付し、右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡して、同条項二号又は一号所定の不正競争行為を行った。
したがって、被告は、不正競争防止法4条に基づき、原告らに対し、右各行為によって生じた損害を賠償する義務を負う。
(二) 被告は、被告商品一を、平成二年六月から本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日まで四四万丁、同日以降六万丁、販売した。その小売価格は一九〇〇円、卸売価額は小売価格の六割であり、その卸売価額の合計額は、平成二年六月から平成九年六月二〇日までが五億〇一六〇万円(一九〇〇円×〇・六×四四万)、同日以降が六八四〇万円(一九〇〇円×〇・六×六万)である。
被告は、被告商品二を、平成二年六月から平成九年六月二〇日まで八万丁、同日以降二万丁、販売した。その小売価格は二五〇〇円、卸売価額は小売価格の六割であり、その卸売価額の合計額は、平成二年六月から平成九年六月二〇日までが一億二〇〇〇万円(二五〇〇円×〇・六×八万)、同日以降が六八四〇万円(二五〇〇円×〇・六×二万)である。
被告は、被告商品三を、平成九年一二月以降、少なくとも二〇万丁販売した。その小売価格は二九〇〇円、卸売価額は小売価格の六割であり、その卸売価額の合計額は、三億四八〇〇万円(二九〇〇円×〇・六×二〇万)である。
(三) 原告ベレッタは、玩具銃について原告各表示の使用料を受けとっているところ、その金額は、玩具銃の卸売価額の六パーセントであるから、被告の不正競争行為に対し通常受けるべき金銭の額は、六四〇八万円(被告各商品の卸売価額総額一〇億六八〇〇万円×〇・〇六)である。したがって、原告ベレッタは、不正競争防止法5条2項に基づき、同額を自己が受けた損害の額としてその賠償を請求する。
(四) 被告の本件ライセンス契約発効の日である平成九年六月二〇日以降の被告各商品の卸売価額の総額は、四億四六四〇万円であるところ、被告の純利益(税引前利益)率は三〇パーセントを超えるから、被告は、同日以降、一億三三九二万円(四億四六四〇万円×〇・三)を利得したものと推定され、このうち被告が原告各表示と同一又は類似の被告各表示の使用によって受けた利益は、その半分の六六九六万円であると考えられる。したがって、不正競争防止法5条1項により、原告ウエスタンアームスが受けた損害の額は、六六九六万円と推定される。
(五) よって、原告ベレッタは、六四〇八万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告ウエスタンアームスは、六六九六万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ被告に対して求める。
当裁判所の判断
一 争点1(原告ベレッタとの関係における不正競争の成否)について1 甲第一号証、第二号証の一及び二、第三号証ないし第六号証、第七号証の一及び二、第八号証、第九号証、第一三号証ないし第二六号証、第三一号証、甲三二号証の一及び二、第三三号証、第三八号証の一ないし八、第三九号証の一及び二、乙第一号証ないし第四号証、第三二号証の一、三ないし七及び一一、第三三号証の二ないし四、第三四号証の一及び二、第三五号証の一ないし八、第三六号証の四、第三七号証の三ないし五、第三八号証の二及び三、第三九号証の三ないし六、第四〇号証の一及び二、第四一号証の二、第四二号証の二及び三、第四三号証の二ないし四、第四四号証、第四五号証、第四七号証ないし第六〇号証、第六一号証の一ないし三、第六二号証ないし第六四号証、検甲第一号証ないし第九号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 我が国においては、実銃の所持が一部の例外を除いて禁止されており、M92Fは、一般に流通することがなく、所持することもできないものである。
(二) モデルガンは、実銃の外観に似せて作られた、実銃としての機能を有しない玩具であり、我が国では、昭和三〇年代後半ころから販売が開始された。当初はほとんどが金属製であったが、次第にプラスチック製のものも製造・販売されるようになり、さらには、単に実銃の外観を模しただけでなく、空気やガスの圧力によって実際にプラスチック製の弾丸を発射できる機能が付加されたもの(従前の外観を模しただけのモデルガンと区別する意味で、「エアーソフトガン」、「エアースポーツガン」などと称されている。)なども製造・販売されるようになった。我が国においては、原告ウエスタンアームス及び被告を始め、イマイ、MGC、ガレージガンワークス、グンゼ産業、KSC、啓平社、コクサイ、サンエイ、サン・プロジェクト、鈴木製作所、タニオ・コバ、タイトー、タナカ、デジコン、東京CMC、ハドソン産業、ファルコントーイ、フジミ模型、マルシン工業、マルゼンなどの多数の玩具銃メーカーが存在し、各玩具銃メーカーが各実銃メーカーの製造・販売に係る各種実銃をモデルとして各種各様のモデルガンをそれぞれ製造・販売している。
(三) これらのモデルガンは、いずれも現実に存在する実銃を基に、これを実物大で、その形態や実銃本体に刻印された表示までも忠実に再現したものである。ただし、同じ実銃をモデルにしたものであっても、材質や重量、リアルさの程度、射弾性能(エアソフトガンの場合)、玩具としての対象年齢等において種々の違いがあり、それに応じて販売価格も様々である。最近では、射弾動作のメカニズムまで含めて、そのリアルさが競われている。
モデルガンの商品名については、ほとんどの場合、商品名の全部又は一部に基になった実銃の名称やその製造者名が用いられており、それによってモデルとされた実銃が特定されている。そのため、メーカーは異なるが商品名は同じというものも、数多く存在する。
モデルガンは、実銃の外観を忠実に再現するという性質上、その本体に当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付されることは少ない。しかし、モデルガン本体にメーカーを示す表示が併せて付されているものもあり、また、モデルガン本体にメーカーを示す表示がなくても、そのパッケージ等には、必ず基になった実銃を特定する表示とともに当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付されている。
(四) 月刊GUN、月刊コンバットマガジン、月刊アームズマガジンなどの銃関係の専門雑誌には、原告実銃を始めとする実銃や射撃に関する記事、写真のほか、
モデルガンの紹介記事や宣伝広告が当該モデルガンの写真と共に掲載されているが、モデルガンに関する記事や広告においては、まずそのモデルガンを製造したメーカー名のほか、それがどの実銃をモデルにしたものかがモデルガンの商品名や当該実銃自体の名称をもって明確に示された上、当該実銃の外観や質感、射弾動作メカニズムがいかにリアルに再現されているかという点や、装弾数、命中精度等の射弾性能の点が主に記述されている。我が国で製造販売されているモデルガンについての情報を一覧できるような形で編集したカタログも出版されているが、これにも当該モデルガンを製造したメーカー名、商品名等が掲載されている。
(五) 原告実銃をモデルとしてその外観を実物大で模した玩具銃についても、原告ウエスタンアームスを始め、多数の玩具銃メーカーによってかなり以前から製造販売されている。これらのモデルガンの多くは、他のモデルガンと同様、基になった原告実銃の形態や実銃本体に刻印された表示までもが忠実に再現されており、それ自体日本製でありながら、原告実銃と同様に「MADE IN ITALY 」という表示もされている。
(六) 被告各商品は、いずれも原告実銃であるM92Fの外観を模したスプリング式エアガンであり、その商品名の全部又は一部は、基となった実銃の名称及びその製造者たる原告ベレッタの名称に由来する。そして、M92Fとほぼ同一の形状を有するとともに、M92Fに付されている表示と同一の表示が、M92Fにおけるのと同様の位置に付されており、被告商品一及び二においては、スライド側面やグリップ側面中央部分に付された表示(原告表示二ないし四及び五の1)はもちろんのこと、「MADE IN ITALY 」という表示や、フレーム側面の製造番号と思われるアルファベットと数字からなる七桁の番号までもが、忠実に再現されている。もっとも、被告商品三については、スライド側面やグリップ側面中央部分にM92Fに付されている表示と同一の表示(原告表示三及び四)が付されているわけではなく、スライド側面には「MARUI Co.Ltd. 」や「MADE IN JAPAN 」の表示と共に被告表示六が付され、グリップ側面中央部分には被告表示七が付されているが、被告表示六及び被告表示七の外観や、フレーム側面にアルファベットと数字からなる七桁の番号が付されていることから、M92Fの外観から受けるのと同様の印象を与えている。
被告各商品のパッケージ及び取扱説明書には、いずれも被告各商品の外観を示す写真や図面、その商品名を示す「92F Beretta 」(被告表示一及び五の1)又は「M92F」(被告表示五の2)の表示が随所に付されているが、それとともに、被告各商品がエアガンであることやその対象年齢が一八歳以上であること、エアガンとしての機能・性能、使用方法の説明、製造者を示すMARUI」ないし「東京マルイ」の表示等も、併せて記載されている。
なお、被告表示四については、被告各商品のパッケージ及び使用説明書において、被告各商品の外観を示す写真中に付随的に写っているものの、それ自体が単独で付されていることはない。
(七) 原告ウエスタンアームスは、被告各商品と同様、原告実銃をモデルとしてその外観を実物大で模し、原告実銃の形態や実銃本体に刻印された表示までもが忠実に再現された玩具銃を製造販売していたところ、平成九年六月、原告ベレッタとの間で、原告ウエスタンアームがモデルガンの分野において原告ベレッタの商号及び商標等を独占的に使用できる旨の契約を締結した。そして、それ以降、自らの製造販売に係る原告実銃の外観を模した玩具銃を「パーフェクトバージョン」などと称し、「パーフェクト”92”新登場!」、「パーフェクト・ベレッタ!激人気 更に過熱!」などと広告宣伝して、これを製造販売しているが、そのパッケージ等においては、従前と同様、それが玩具銃であることやその対象年齢、玩具銃としての機能・性能、使用方法の説明、製造者を示す「WESTERN ARMS」や「MADE IN JAPAN 」の表示等も、併せて記載されている。
(八) 原告ベレッタは、これまで玩具銃を製造・販売したことはなく、現在も製造・販売していない。もっとも、原告ベレッタは、平成五年及び平成六年に、実銃から発砲機能、稼働機構を除去した模型銃を製造し、我が国において輸入販売したことがあるが、右模型銃は、あくまでも観賞用に商品化されたものであり、その価格は約三〇万円に上り、実銃そのものを利用するというその製造過程に照らしても、実銃の外観に似せて作られた玩具銃とは性質を異にするものであって、その輸入数量も平成五年五一丁、平成六年八四丁と僅少である。
また、原告ベレッタは、実銃のほか、ガンケース、ナイフ、狩猟用のコートやベスト、シャツ及び帽子、射撃競技用のベストや靴、色メガネ、シャツ、帽子及びバッグ、並びに実銃のケア用品等の商品につき、「Beretta」等の表示を付してこれを販売しており、これらの商品は、我が国にも輸入されているが、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーの類であり、主に実銃所持者を販売対象とするものであって、その販売数量も多くない。
2(一) 右認定の事実を前提に、まず、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるかどうかについて検討する。
(二) 不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示・・・・として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争と規定しているが、同号の趣旨は、人の業務に係る商品の表示について、同表示の持つ標識としての機能、すなわち、商品の出所を表示し、自他商品を識別し、その品質を保証する機能及びその顧客吸引力を保護し、もって事業者間の公正な競争を確保するところにある。そうであればこそ、同号は、他人の周知の商品等表示と同一若しくは類似の「商品等表示」を使用する行為を不正競争行為としている。すなわち、同号の不正競争行為というためには、単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし、そのような態様で用いられていない表示によっては、周知商品等表示出所表示機能、自他商品識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害することにはならないからである。このことは、同法11条1項一項一号において、商品の普通名称又は同一若しくは類似の商品について慣用されている商品等表示普通に用いられる方法で使用する行為については、同法2条1項1号所定の不正競争行為として同法の規定を適用することが除外されていることからも、明らかというべきである。
また、同法2条1項2号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為」を不正競争と規定しているが、同号の趣旨は、著名な商品等表示について、その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに、その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止するところにあり、それ故に、同号は、自己の「商品等表示」として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用する行為を不正競争行為としている。すなわち、同号の不正競争行為というためには、単に他人の著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし、そのような態様で用いられていない表示によっては、著名な商品等表示顧客吸引力を利用し、出所表示機能及び品質表示機能を害することにはならないからである。このことは、同法11条1項1号において、商品の普通名称又は同一若しくは類似の商品について慣用されている商品等表示普通に用いられる方法で使用する行為については、同法2条1項2号所定の不正競争行為として同法の規定を適用することが除外されていることからも、明らかである。
(三) 一般に、模型は、一定の対象物(例えば、自動車、航空機、船舶、建築物、兵器等)について、本物の備えている本質的機能(例えば、自動車、航空機、
船舶等にあっては運送能力、建築物にあっては居住可能性、兵器にあっては殺傷能力)を有さず、単に、その外観を縮尺ないし原寸で模すものである。模型は、本物の外観を忠実に模すところに有意性が存するものであり、外観上本物にどれだけ近づくことができたかによって、模型自体やその製作者の技術に対する評価が下されることから、模型の製作に当たっては、本物の形状のみならず、色合いや質感、それに付されている模様やマークに至るまで、精巧かつ緻密に再現することが行われている(この点は、図鑑や写真集の場合と同様である。)。また、同一の対象物について、複数の異なる製作者により、いくつかの模型が製作されることも、当然に生じ得る。
このような模型は、古代における墳墓の副葬品に既にその原形が見られるように、古くから人類によって製作されてきたものであり、模型の有する右のような特徴は、長年にわたって広く社会的に認識されてきた。また、本物の備える機能を有さず、外観のみを忠実に模したものであるという模型の本質的特徴から、一般に、
模型の需要者は本物のそれとは異なるものであり、模型の製造販売の主体も、本物のそれとは異なるのが通常である。
そして、模型の形状や模型に付された表示が本物のそれと同一であったとしても、模型の当該形状や表示は、模型としての性質上必然的に備えるべきものであって、これが商品としての模型自体の出所を表示するものでないことは、広く社会的に承認されているものである。右の点は、模型が、航空機や建築物のプラモデルやミニチュアカーのように縮尺されたものであるか、あるいはモデルガンのように原寸大のものであるかによって、何ら異なるものではない。
(四) 本件においては、前記認定の事実関係によれば、被告各商品は、我が国においては、市場において流通することがなく、所持することも一般に禁じられている実銃であるM92Fを対象に、その外観を忠実に再現したモデルガンであり、実銃の備える本質的機能である殺傷能力を有するものではなく、実銃とは別個の市場において、あくまで実銃とは区別された模造品として取引されているものであって、その取引者・需要者は、原告実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数のモデルガンの中から、その本体やパッケージ等に付された当該モデルガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのモデルガンとしての性能や品質について評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。したがって、原告実銃において原告各表示が原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されており、また、被告各商品に原告実銃に付されている原告各表示と同一ないし類似の被告各表示が付されているとしても、被告各表示は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。
また、前記認定の事実関係によれば、被告各商品のパッケージ等に被告各商品の外観を示す写真や図面、その商品名を示す表示が付されていても、それは、当該モデルガンがどの実銃を対象とし、どのような外観を有するのかという当該モデルガンの内容を説明するために使用されているにすぎず、右パッケージ等に表示された被告各表示(被告各商品の外観を示す写真の中に付随的に写っているものを含む。)は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。
(五) 原告らは、昭和四一年には田宮模型が本田技研から許諾を得てその自動車の模型を製造・販売していたことを例に挙げ、玩具の商品分野において、実物を模した玩具を製造・販売する際、実物の形態やそれに付された表示の使用について、
実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立していた旨を主張し、その証拠として甲第二七号証ないし第三〇号証を提出する。
しかし、甲第三〇号証によれば、田宮模型がグッドイヤー社製のタイヤを装着したF1カーを模型化するに当たり、グッドイヤーの名前の入ったミニチュアタイヤを装着することについて、初めて事前にグッドイヤー社に対してその承諾を求めたことがうかがえるが、他方、同号証には、田宮模型の担当者が本田技研に対してF1カーの模型化のための協力を依頼した結果、車の写真を撮影したり、本田技研の技術者から説明を受けるなどの取材が行われた旨の記載や、田宮模型の担当者がポルシェに対しそのスポーツカーの模型化のための取材を申し込んだ際にも、その車の製造工程を写真に収めるなどしたものの、寸法等のデータを得ることができなかったので、ポルシェのスポーツカーを数千万円で購入し、これを分解して必要なデータを収集した旨なども記載されているものであり、これらの記載に照らせば、むしろ、模型メーカーは実物メーカーに対し、模型化に必要な資料収集についての協力を求めていたにすぎないものと認められ、同号証は、原告ら主張のような慣行があったことを認めるに足りるものではない。
また、甲第二七号証は、玩具とは全く関係のない分野で使われている有名ブランドを玩具のブランドとして使うことについての記載であって、模型に実物の形態やそれに付された表示を使用する場合を想定したものではないし、甲第二八号証は、
これに記載された当事者間の一つの合意を示したにすぎず、甲第二九号証も、商品化許諾基本契約についての契約書ひな形にすぎない。前記認定のとおり、原告ウエスタンアームス自身、原告ベレッタとの間でその商号及び商標等のモデルガンの分野における独占的使用契約を締結する以前から、被告各商品と同様、原告実銃の形態やそれに付された表示を再現したモデルガンを製造販売していたことなどを併せみれば、いずれも原告ら主張のような慣行が確立していたことを認めるに足りるものではない。
したがって、甲第二七号証ないし第三〇号証によっても、原告らの主張するような慣行が確立していると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(六) 原告らは、被告が現に被告玩具銃に使用している表示について、玩具銃等を指定商品として商標登録出願をしたり、原告ベレッタ以外の実銃メーカーからそのマークを付した玩具銃を製造することについての許諾を得るなどしていることなどから、被告が被告各表示を被告各商品に付することが商品等表示としての使用に当たることを認識していた旨を主張する。しかし、商品等表示としての使用に当たるかどうかは、あくまでその表示の使用が客観的に出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様かどうかによって決せられるべきものであって、仮に被告がこのような認識を有していたとしても、そのことから直ちに被告各表示が出所表示機能、
自他商品識別機能を有する態様で使用されていると認められるものではない。また、現に被告玩具銃に使用している表示につき玩具銃等を指定商品として商標登録出願をすることは、その表示の使用差止等の請求に対する防衛手段としての意味を持ち得るものであり、実銃メーカーからそのマークを付した玩具銃を製造するについての許諾を得ることも、それによって当該実銃の模型化に必要な資料を入手するという目的のために行ったということがあり得ることなどを併せ考えれば、被告の右のような行動をもって、被告各表示を被告各商品に付することが商品等表示としての使用に当たるものと認めることもできない。
(七) 以上のとおり、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することが「商品等表示」としての「使用」に当たるということはできない。
3 前記のとおり、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付することは、「商品等表示」としての「使用」に当たるとはいえず、不正競争行為行為に該当しないと解されるが、加えて、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、原告ベレッタの商品と混同を生じさせるものでもなく、この点からも、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為には、該当しない。
すなわち、前記認定の事実関係、殊に、被告各商品が一般に流通することがなく、所持することもできない実銃の外観を再現したモデルガンであり、その基となった実銃とは別個の市場において、あくまで本物と区別された模造品として取引されているものであること、原告ベレッタはこれまで玩具銃を製造・販売したことがないこと、原告ベレッタが我が国において販売した模型銃は、観賞のために実銃から発砲機能、稼働機構を除去した高価なものであり、玩具銃とは性質を異にし、その輸入数量も僅少であること、原告ベレッタが実銃のほかに「Beretta」等の表示を付して販売している商品は、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーの類で、主に実銃所持者を販売対象とするものであり、その販売数量も多くないことなどの事実関係に加え、およそ実銃メーカーが玩具銃を製造販売し、玩具銃メーカーが実銃を製造販売していることをうかがわせる証拠はないこと、かつて国外の玩具銃業者が原告ベレッタからライセンスを受けて玩具銃を製造販売したことがあったとしても、その玩具銃が我が国において販売されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのようなライセンス生産の事実が我が国において一般に知られていることをうかがわせる証拠もないことなどを併せみれば、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示が付されているからといって、その玩具銃が原告ベレッタ若しくはその子会社又はそのライセンシーの製造に係るものであると誤認されるおそれがあるものとは認められず、したがって、広義の混同を生じさせるものではない。
4 また、原告らの提出に係るすべての証拠を総合しても、我が国において、原告各表示が、実銃の分野を超えて広く原告ベレッタの商品であることを表示するもの(商品等表示)として著名なものであると認めることはできず、被告各商品及びそのパッケージ等に被告各表示を付する行為は、この点からも、不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争行為に該当しない。
5 したがって、平成二年六月以降、被告商品一及び二に被告表示二ないし四及び五の1を、そのパッケージ等に被告表示一、二、四及び五の1をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為、平成九年一二月以降、被告商品三に被告表示六及び七を、そのパッケージ等に被告表示五の2、六及び七をそれぞれ付す行為、並びに右の各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し、引き渡す行為は、いずれも不正競争防止法2条1項1号又は二号所定の不正競争行為に該当するということはできない。
二 以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一二年三月二一日)
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 中吉徹郎
裁判官 長谷川浩二
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