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事件 平成 11年 (ネ) 3084号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人(原審原告) 株式会社 映廣企画 右代表者代表取締役 A右訴訟代理人弁護士 金田充男
被控訴人(原審被告) 大日本印刷株式会社 右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 赤尾直人
同 相馬功
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/03/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
一 控訴人 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙第二物件目録記載の煙草吸い殻入れ用袋を製造販売してはならない。
3 被控訴人は、その製造販売に係る煙草吸い殻入れ用袋に「ポケット吸いがら入れ」又は「ポケット吸殻入れ」の表示を使用してはならない。
4 被控訴人は、その占有に係る原判決別紙第二物件目録記載の煙草吸い殻入れ用袋を廃棄せよ。
5 被控訴人は控訴人に対し、金七五〇万円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
7 仮執行の宣言 二 被控訴人 主文と同旨
当事者の主張
当事者双方の主張は、後記一及び二のとおり、当審における主張を付加するほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張 1 争点1(控訴人製品の形態は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について (一) 原判決は、控訴人製品の形態が、全体を見ると名刺に近いものであり、その形態はありふれたものであって、特徴的なところは認められないとしたが、それは誤りである。
すなわち、控訴人製品は、名刺、カードのような扁平な一枚の紙片ではなく、煙草の吸い殻を入れる袋である。そして、袋の一般的形態としては、左右両側辺のうちの一辺及び底側辺を貼り付け、上側辺を開口とした四辺形のもの、並びに上側辺開口部に折返し舌片を備えた封筒形のもので、これを折り返すことにより内容物がこぼれないようにすることができるものがあるが、これらの形態の袋の大きさを単に縦幅九五ミリメートル、横幅六五ミリメートルにしたのみでは、いずれもありふれた形態であるにすぎない。しかしながら、控訴人製品は、不燃性に優れた材料で造られ、周囲は接着して開口を設けず、デザイン、投入機能、消火機能等のバランスを考慮して上辺から約一三ミリメートル離れた箇所に上辺と平行な切込みを設けて、吸い殻投入口である開口としたものであり、該切込みの形状及び配置位置上、切込みから上側が折返し舌片の用を果たすようにしたものである。この形態は、一見してこれまでの袋とは異なる特異な形態として認識されるものであることは明らかであり、特徴ある新規な形態として創作されたものであって、その新規な形態の袋の大きさを名刺の大きさとしたものである このように、控訴人製品は、その大きさは名刺の大きさに近いものであっても、これまでの袋とは異なった箇所に投入口が設けられていることが一見して明らかであり、しかも、その投入口の上側を折り返しやすくするという極めて特異な形態の袋として構成したものであるから、その形態はありふれたものであって、
特徴的なところは認められないとした原判決の判断は誤りである。
控訴人製品の形態が、煙草の吸い殻入れ用袋として特徴のある形態であることは、マスコミが控訴人製品を取り上げたこと、大手需要者が控訴人製品を採用し、かつ、継続して使用しているのみならず、関連需要者が大手需要者に倣って採用したことによっても明らかである。
なお、原判決は、控訴人製品の発売以前の吸い殻入れに控訴人製品のような形態のものがなく、その後も被控訴人製品を除いては同様の形態のものがなかったことを認定しながら、控訴人製品の形態に特徴的なところが認められず、その形態の識別力が乏しいと判断するが、意匠登録の判断基準において、一見して単純な形状と見られるものであっても、それぞれの業界の事情を考慮して、一概に創作性・審美性なしと判断されるものではないとされており、単純な四辺形に形成されたと思われる意匠が登録された実例もあるところ、審美性があるということは、いい換えれば特徴的なところがあるということであって、このことからも、控訴人製品の形態に特徴的なところが認められないとした原判決の判断は誤りである。
(二) 原判決は、控訴人製品が平成八年四月までに、新聞、雑誌等で取り上げられて紹介されたこと、企業や公共団体等に多数納入されたことを認定しながら、控訴人製品の取引が、需要者による宣伝広告の効果等の慎重な検討を経て行われ、単に形態を見ただけで取引が行われているものではないこと、控訴人による、
控訴人製品についての宣伝広告活動が十分でないこと、控訴人製品を取り上げた新聞等の紹介内容が十分ではないことを認定し、さらに、控訴人製品の形態に特徴的なところが認められないことを総合して、控訴人製品の需要者が、形態により控訴人製品の出所を識別していたとまで認めることはできないとした。
しかしながら、需要者がある種の商品を採用するに当たっては、商標、
デザイン等のみならず、諸般の事情を慎重に検討してその採否を決定することは当然のことである。
また、控訴人は、控訴人製品について一般の宣伝広告はしていないが、
控訴人製品の周知性を伝播するための営業努力を地道に行っていた。すなわち、原判決の認定するように、「日本を美しくする会」を結成し、自治省消防庁、日本専売公社等に働きかけてその後援を獲得し、自治省の委託を受けた公明選挙連盟に採用されたことなどに起因してマスコミにも取り上げられ、さらに、煙草業界、森林保護業務を司る各種機関、JRに採用され、また、国体や京浜急行のイベントが開催されるごとに採用されて、これが定着している。そして、これらの需要者やその関係諸団体には控訴人製品の形態は周知となっているものである。
さらに、控訴人製品の使用状態における態様は、昭和四六年八月三〇日付フクニチ新聞、同年一二月二三日付熊本日日新聞、昭和四七年四月三〇日付北海道新聞、同年七月五日付朝日新聞、同月二一日付新潟日報、同年一一月一七日付讀賣新聞、同日付サンケイ新聞、同日付中国新聞、同日付愛媛新聞、同日付大分合同新聞、昭和四八年三月三一日付琉球新報にそれぞれ掲載され、紹介されている。
のみならず、控訴人製品は各需要者から広く配布されており、需要者は、右新聞記事により、あるいは控訴人製品の多くに記載されている控訴人の商号等により、控訴人製品の出所を認識することができるものである。
したがって、控訴人製品の需要者が、形態により控訴人製品の出所を識別していたとまで認めることはできないとした原判決の判断は誤りである。
2 争点2(「ポケット吸いがら入れ」という表示は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について 原判決は、「ポケット吸いがら入れ」という表示が、控訴人製品の用途、
形状を普通に用いられる方法で表現したもので、それ自体が出所の識別機能を備える表示であるとは認められないとし、さらに、控訴人製品の取引が特に「ポケット吸いがら入れ」という表示に注目して行われているものではなく、控訴人が控訴人製品につき需要者に向けて宣伝広告をしたことがなく、新聞等に常に「ポケット吸いがら入れ」という名称が紹介されているわけではなく、昭和四九年以降においては、控訴人製品が雑誌・新聞に取り上げられたことがないとして、「ポケット吸いがら入れ」という表示が、昭和四七年頃及びそれ以降現在まで、控訴人の商品表示として周知であったとは認められないとした。
しかしながら、需要者が控訴人の取り扱う何種類かの宣伝広告媒体の中から控訴人製品を選択する場合において、控訴人製品に「ポケット吸いがら入れ」との呼び名が付され、かつ、それが既に市中に配布されていたり、複数の新聞によってその呼び名で紹介されているようなとき、あるいは取引を反復して行うようなときには、その呼び名を指定して取引を行うことが当然であるから、需要者は、「ポケット吸いがら入れ」という表示に注目して取引を行うものである。
また、控訴人が控訴人製品について一般の宣伝広告はしていないが、控訴人製品の周知性を伝播するための営業努力を地道に行っていたことは前記のとおりであり、これにより「ポケット吸いがら入れ」の名称を付した控訴人製品が一般人に知られる基礎が確立されたものである。
さらに、控訴人製品を紹介した新聞は、全部ではないとしても、殆どが、
「ポケット吸いがら入れ」の名称を表示して、かつ、写真入りで、控訴人製品を紹介している。なお、昭和四九年以降、控訴人製品が雑誌・新聞に取り上げられなくなったのは、控訴人製品が市中でよく見かけるものとなったからである。
したがって、原判決が、「ポケット吸いがら入れ」という表示が、昭和四七年頃及びそれ以降現在まで、控訴人の商品表示として周知であったとは認められないとした判断は誤りである。
二 被控訴人の主張 1 争点1(控訴人製品の形態は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について (一) 控訴人は、控訴人製品が煙草の吸い殻を入れる袋であり、かつ、これまでの袋とは異なる特異な形態として認識されるから、控訴人製品の形態がありふれたものであって、特徴的なところは認められないとした原判決の判断が誤りであると主張するが、商品の形態とは、物の外観の態様、すなわち、形状、模様、色彩、質量感、光沢感等によって判断され、性能等の実質的内容は問題とされないものである。そして、控訴人製品の外観は、名刺に近い大きさ、形状のありふれた形態の袋にすぎず、これが、携帯用吸い殻入れとして使用されたとしても、何ら識別機能を発揮するものではない。控訴人製品の上辺から約一三ミリメートル離れた箇所の上辺と平行な切込みも、商品の形態に即するならば、単に一本の細い直線にすぎないものであって、これが控訴人製品の際立った形態としての特徴を裏付けることはあり得ない。控訴人は、該切込みの開口に基づく技術的機能を主張するが、そのような機能自体は、控訴人製品の形態上の識別機能と関係するものではない。
控訴人は、マスコミが控訴人製品を取り上げたこと、需要者が控訴人製品を採用し、継続して使用していることを、控訴人製品が煙草の吸い殻入れ用袋として特徴のある形態であることの根拠として主張するが、マスコミ報道は、各宣伝広告主体が「クリーン運動」を介して控訴人製品を頒布したことを主眼とするもので、控訴人製品の形態は部分的に紹介されているにすぎず、また、控訴人製品が一定の取引業者に継続的に販売されたことと、その形態上の特徴点とは基本的に無関係であって、継続的取引の事実の有無が、控訴人製品の形態上の特徴点を裏付けるものではない。
さらに、控訴人は、意匠登録の判断基準において、単純な形状と見られるものであっても、それぞれの業界の事情を考慮して、一概に創作性・審美性なしと判断されるものではないとも主張するが、控訴人製品は、他の携帯用吸い殻入れと、切込みの有無で相違するにすぎず、かつ、その切り込みの存在は、何ら意匠の創作性を表すものではない。
したがって、控訴人製品の形態がありふれたものであって、特徴的なところは認められないとした原判決の判断に誤りはない。
(二) 控訴人は、控訴人の地道な営業努力によって、複数の取引業者及びその関係諸団体に控訴人製品の形態が周知となっていると主張するが、該主張は、控訴人製品が該取引業者・関係諸団体において知られているとするものにすぎない。
特定の商品につき取引が行われた場合に、当該取引業者に当該商品の形態が知られることは当然であるが、このような事実から、取引を行うに至っていない業者の間にまで当該商品の形態が知られることにはならない。
また、控訴人は、控訴人製品の形態が周知であることの根拠として、控訴人製品がマスコミに取り上げられたことを主張するが、マスコミは、控訴人製品が所定の宣伝広告を伴いながら、「クリーン運動」に供され、各宣伝広告主体において一般消費者に頒布するという形態の特異性に注目して報道したものであって、
マスコミ報道されたことが、控訴人製品が一般消費者間、取引業者間において周知となっていることを示すものではない。なお、新聞記事において、控訴人製品の開口状態を撮影した写真が掲載されていても、該写真においては、控訴人が主張する切込みによる特徴点を格別印象付けているわけではない。
したがって、控訴人製品の需要者が、形態により控訴人製品の出所を識別していたとまで認めることはできないとした原判決の判断に誤りはない。
2 争点2(「ポケット吸いがら入れ」という表示は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について 控訴人は、原判決の「特に『ポケット吸いがら入れ』という表示に注目して取引が行われているものではない。」との判断に対し、需要者が控訴人製品の取引を行うときには、その呼び名を指定して取引を行うことが当然であるから、需要者は、「ポケット吸いがら入れ」という表示に注目して取引を行うものであると主張するが、右の原判決の説示における「注目」が、格別の印象を与える識別機能に対する着目を意味していることが明らかであるのに対し、控訴人主張の「注目」は、聴覚又は視覚による一般的な認識を意味しているにすぎない。
また、控訴人自身による控訴人製品についての普及活動は、広範、かつ、
長期的な宣伝広告活動と同程度の周知性を裏付けるものとならないことは明白であり、該普及活動や主張の新聞記事によっても、精々、控訴人製品を取り扱った者及び当該記事を判読した者に控訴人製品が知られたに止まり、「ポケット吸いがら入れ」の名称を付した控訴人製品が一般人に知られる基礎が確立されたということはできないものである。
さらに、控訴人主張の新聞記事の中に、「ポケット吸いがら入れ」という名称の存在を特定して紹介したものではないものがあることは原判決の説示のとおりである。
したがって、原判決が、「ポケット吸いがら入れ」という表示が、昭和四七年頃及びそれ以降現在まで、控訴人の商品表示として周知であったとは認められないとした判断に何ら誤りはない。
当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。
その理由は、控訴人の当審における主張に対し後記二のとおり判断するほかは、原判決事実及び理由欄の「第三 争点に対する判断」と同じであるから、これを引用する。
二 控訴人の当審における主張について 1 争点1(控訴人製品の形態は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について (一) 商品の形態自体が商品表示となるような場合、その形態とは、専ら商品の外観の態様、すなわち外見をいうものと解すべきところ、かかる趣旨における控訴人製品の形態は、前示(原判決一二頁八行目の「原告製品の形態は、」から同頁末行の「〇・二ミリメートルである」まで)のとおりであって、その形状、縦横の寸法及びその比率、厚み等から見て全体的には名刺に近く、一方の面に前示切込みによって形成された直線が表されているものである。かかる形態は、一般的に見て、ありふれた何ら特徴的なところのないものであるのみならず、同種商品である携帯用吸い殻入れ(乙第一号証の二、甲第二九号証の二、第三〇号証)と全体的な形状が類似しており、さらに、上辺から約一三ミリメートル離れたところに前示切込みによって形成された直線が表されている点も、視覚的にはさほど目立たず、内容物の投入口の上部に折返し舌片を設けた通常の態様の袋と類似したものであって、控訴人製品の際立った形態上の特徴点というまでには至らない。
控訴人は、煙草の吸い殻を入れる袋である控訴人製品が、これまでの袋とは異なった箇所に投入口が設けられていることが一見して明らかであり、しかも、その投入口の上側を折り返しやすくするという極めて特異な形態の袋として構成したものであると主張するが、前示切込みの奏する効果、機能は格別、形態としてみる限り、右のとおりであって、控訴人製品が、同種商品と比較し、それ自体が商品表示となるような特有の形態的特徴を具備するものということはできない。
控訴人は、マスコミが控訴人製品を取り上げたこと、需要者が控訴人製品を採用し、継続して使用していることを、控訴人製品が煙草の吸い殻入れ用袋として特徴のある形態であることの根拠として主張するが、本件において提出された各新聞記事(昭和四六年八月三〇日付フクニチ新聞、同年一二月二三日付熊本日日新聞、昭和四七年四月三〇日付北海道新聞、同年七月五日付朝日新聞、同月二一日付新潟日報、同年一一月一七日付讀賣新聞、同日付サンケイ新聞、同日付中国新聞、同日付愛媛新聞、同日付大分合同新聞、昭和四八年三月三一日付琉球新報、甲第八ないし第一九号証、なお、甲第五号証は刊行物の種類名称及び発行年月日が不明である。)において、控訴人製品につき、それが同種商品と比較して独自の際立った形態的特徴を有するとの観点から報じているものは見当たらず、他にマスコミが控訴人製品を取り上げたことが、控訴人製品が煙草の吸い殻入れ用袋として特徴のある形態であることの具体的な根拠となることを示すような証拠はない。また、
同様に、需要者が控訴人製品を採用し、継続して使用していることが、控訴人製品が煙草の吸い殻入れ用袋として特徴のある形態であることの具体的な根拠となることを示す証拠もない。
さらに、控訴人は、意匠登録の判断基準において、一見して単純な形状と見られるものであっても、それぞれの業界の事情を考慮して、一概に創作性・審美性なしと判断されるものではないとも主張するが、意匠登録における創作性・審美性の判断基準が、直ちに、不正競争防止法2条1項1号の適用に関して、それ自体が商品表示となるような形態的特徴の有無の判断基準となるものではなく、かつ、意匠登録における一般的な基準はともあれ、控訴人製品自体に特段の形態的特徴が認められないことは前示のとおりである。
(二) 控訴人との間で、控訴人製品の取引をした需要者や、これらの需要者の関連業者等であって、控訴人製品を現実に取り扱ったものが、控訴人製品の形態それ自体を知るに至ることはたやすく推認されるところである。
しかしながら、控訴人製品の需要者が、控訴人製品を採用するに当たっては、その宣伝広告媒体としての効果や費用等についての慎重な検討を経て取引を行うものであって、単に控訴人製品の形態を見ただけで取引をするものではないと認められることは、前示(原判決一七頁六行目の「右(一)の認定事実」から一八頁八行目の「できる。」まで)のとおりであり、このことに、前示のとおり、控訴人製品自体に特段の形態的特徴が認められないこと、前掲各新聞記事(甲第八ないし第一九号証)中に、控訴人製品に係る前示(原判決一二頁八行目の「原告製品の形態は、」から同頁末行の「〇・二ミリメートルである」まで)の形態を正確に特定して報じたものは見当たらず、かつ、各記事に掲載された写真からもこの点が明確となるものとは認められないこと、控訴人が控訴人製品に係る宣伝広告を需要者に向けてしたことがないこと(控訴人の自認するところである。)を併せ考えると、
控訴人製品の取引をした需要者や、その関連業者等であって、控訴人製品を現実に取り扱ったものが、控訴人製品の形態それ自体を知るに至ったからといって、控訴人製品の出所を、その形態自体によって識別するに至っているものと認めることはできない。そして、このことは、控訴人が控訴人製品を納入した需要者が多数であっても変わるところはない。
控訴人は、控訴人製品が各需要者から広く配布されており、需要者は、
右新聞記事により、あるいは控訴人製品の多くに記載されている控訴人の商号等により、控訴人製品の出所を認識することができると主張するが、控訴人製品が各需要者から広く配布されていることは、その主張のとおりであるとしても、前示の事情に照らせば、需要者が、たとえ、右新聞記事や控訴人製品の多くに記載されている控訴人の商号等を目にしたところで、控訴人製品の出所を、その形態自体によって識別するに至るものと認めることはできない。
2 争点2(「ポケット吸いがら入れ」という表示は、昭和四七年頃には、控訴人の商品表示として周知であったか)について 「ポケット吸いがら入れ」という表示が、控訴人製品につき、その用途、
形状を普通に用いられる方法で表現したものであり、それ自体として、出所の識別機能を備える表示であると認められないことは前示(原判決二〇頁七行目から同頁一〇行目まで)のとおりであり、控訴人のした「ポケット吸いがら入れ」との構成からなる商標の登録出願に対し、登録査定がされたこと(甲第二四号証)は、右認定判断を直ちに左右するものではない。
控訴人は、控訴人が控訴人製品の周知性を伝播するための営業努力を地道に行ったことにより「ポケット吸いがら入れ」の名称を付した控訴人製品が一般人に知られる基礎が確立されたものであると主張するが、控訴人の営業活動等により、控訴人製品が新聞等によって取り上げられたことがあり、各需要者に多数採用されたことはそのとおりであるとしても、前示(原判決二一頁二行目から二二頁六行目まで)のとおり、それによって、昭和四七年頃及びそれ以降現在に至るまで、
「ポケット吸いがら入れ」という表示が控訴人の商品表示として周知であったと認めることはできない。
この点に関し、控訴人は、需要者が控訴人製品の取引を行うときには、その呼び名を指定して取引を行うことが当然であるから、需要者は、「ポケット吸いがら入れ」という表示に注目して取引を行うものであると主張するが、控訴人製品の取引において、単に当該取引の目的物(控訴人製品)を指定するために「ポケット吸いがら入れ」との表示を用いるというだけでは、前示のとおり、それ自体として出所の識別機能を備えるとは認められない該表示が、控訴人の商品表示として周知となるに至るものではない。
また、前掲各新聞記事(第八ないし第一九号証)のうち、昭和四六年八月三〇日付フクニチ新聞(甲第八号証)、昭和四七年四月三〇日付北海道新聞(甲第一〇号証)及び同年七月五日付朝日新聞(甲第一二号証)を除くものには、記事中に「ポケット吸いがら入れ」との表示が記載されているが、かかる新聞報道がなされたからといって、直ちに、「ポケット吸いがら入れ」との表示が控訴人の商品表示として周知となるともいえない。
なお、控訴人は、昭和四九年以降、控訴人製品が雑誌・新聞に取り上げられなくなったのは、控訴人製品が市中でよく見かけるものとなったからであると主張するが、その控訴人製品が市中でよく見かけるものとなったとの主張が、「ポケット吸いがら入れ」との表示が控訴人の商品表示として周知となったとの趣旨を含むものとすれば、該主張を認めるに足りる証拠はない。
三 以上によれば、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法61条67条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 清水節