関連ワード | 模倣 / 差止請求(差止) / 過失 / 逸失利益 / 因果関係 / 損害額の推定(損害額と推定) / 利益額(利益の額) / 無形損害 / 侵害 / 競業関係 / 代理人 / 代表者 / 得べかりし利益 / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 損害額 / 推定 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
5349号
損害賠償請求事件
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原告 株式会社中村化学工業右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 村林隆一 同 深堀知子 被告 日酵化学株式会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 吉田大地 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2000/03/30 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成一一年六月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 二 原告のその余の請求を棄却する。 三 訴訟費用は、これを二〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
一 事案の概要 本件は、プラスチック製ハンガーの製造、販売を業とする原告が、競業関係にある被告に対し、被告は、原告の得意先に対して、「中村化学は潰れる。」などと虚偽の事実を告知し、また、あたかも原告が製造、販売するハンガーが被告の有する実用新案権を侵害しているかのように受け取られる虚偽の内容の広告を掲載したことにより、原告に損害を与えたとして、不正競争防止法4条、2条1項13号に基づいて、損害賠償を請求している事案である。 二 争いのない事実及び証拠により明白な事実(証拠により認定した事実は証拠を掲記する。) 1 当事者 原告は、クリーニング業者用のプラスチック製ハンガー等を製造、販売する会社であり、被告は、クリーニング用資材等の製造、販売等を業とする会社である。 原告と被告は、バーコード用ハンガー(ハンガーのフック部分根元にバーコードを装着可能な構成としたプラスチック製ハンガー)を製造、販売しており、 両者は競業関係にある。 2 被告の仮処分申立て 被告は、原告が製造、販売する別紙一記載のハンガー(以下「原告ハンガー」という。)は、被告が製造、販売するハンガーの形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法2条1項3号及び同法3条に基づいて、奈良地方裁判所にその製造、販売等の差止め及び金型の執行官保管を求める仮処分申立てをし(同裁判所平成九年(ヨ)第二七号事件)、平成九年一二月八日、同裁判所はこれを認容する仮処分決定をした(乙1)。 その後、被告は、同地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起し(同裁判所平成一〇年(ワ)第一五二号事件)、同事件は現在係属中である。 3 原告の仮処分申立て 原告代表者【A】は、平成九年七月二四日、被告が製造、販売するハンガーは【A】が有する実用新案権(第二五三五一一四号。以下「原告実用新案権」という。)の技術的範囲に属し、被告は原告実用新案権を侵害しているとして、大阪地方裁判所にその製造、販売の差止めを求める仮処分申立てをした(同裁判所平成九年(ヨ)第一九二七号事件)。【A】は、右審理中に、被告の主張に沿って申立ての一部を取り下げ、同裁判所は、平成一〇年三月二五日、残りの申立てについて、 右ハンガーの製造、販売は原告実用新案権を侵害するものではないと判断して、却下決定をした(乙2、乙7の1ないし5)。 4 被告の新聞広告 (一) 被告は、別紙被告広告一覧記載の各広告を、クリーニング業界紙である同別紙記載の各紙に全面広告として掲載した(甲1〜9。以下、同別紙記載の番号に合わせて「被告第一広告」などといい、これらの広告を併せて被告各広告」という。)。 (二) 被告各広告にはいずれも「実用新案登録済」との表示があり、被告第九広告を除き実用新案登録番号の表示はない。 三 争点 1 虚偽事実の告知・流布 (一) 被告代表者は、原告の得意先等に対し、「中村化学は潰れる。」、 「中村化学は商品の供給ができなくなる。」などと触れ回ることにより、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したか。 (二) 被告各広告を業界新聞に掲載したことは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の流布に当たるか。 2 原告が被った損害の額 四 当事者の主張 1 争点1について 【原告の主張】 (一) 虚偽事実の告知 被告代表者は、以下のとおり、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した。 (1) 被告代表者は、平成九年四月ころから平成一〇年一〇月ころまでの間、口頭にて、別紙二記載の原告の得意先に対し、「中村化学は危ない。近いうちに潰れる。」などと触れ回り、さらに「中村化学が潰れれば、ラインが止まってしまってお宅も困るだろうから、うちからハンガーを購入した方がいい。」などと言葉巧みに働きかけた。 (2) 被告代表者は、平成一〇年四月ころ、主にクリーニング用ポリ袋を製造、販売している株式会社キューセン(以下「キューセン」という。)の社長に対し、「中村化学は近く潰れる。日酵が中村を潰したる。」と述べた。 (3) 被告代表者は、東ポリ株式会社(以下「東ポリ」という。)の社長に対し、「中村は潰れるから、中村からハンガーを買っていると潰れたとき困るでしょう。」、「中村は忙しい時期になると供給ができないから、ラインが止まってしまう。」などと述べた。 (4) 被告代表者は、シキボウリネン株式会社の常務に対し、「中村は忙しい時期には供給できないので、ラインが止まってしまうが、うちはそんなことはない。」と述べた。 (二) 虚偽事実の流布 (1) 被告各広告は、同業者に対し、あたかも、原告が製造、販売するあらゆる形態のバーコード用ハンガーが、被告の実用新案権を侵害するかのような誤解を与える内容である。 被告第一ないし第八広告には小さく「(不正競争防止法第2条第1項第3号に違反)」との注意書きがあるが、専門家でなければ右条項が形態模倣禁止の規定であることを知らないのは当然であり、しかも右各広告には、奈良地方裁判所における仮処分事件の争点が掛け部の形態模倣にあったことの指摘すらない。 (2) 被告第九広告は、一般人に対し、あたかも、原告が被告の実用新案権を侵害しているかのような誤解を与える。 原告代表者【A】の被告に対する仮処分申立事件の争点は、被告の製造、販売するハンガーが原告実用新案権を侵害するか否かであり、裁判手続中に被告が製品を変更したため考案の技術的範囲に属しないことになり、結論として申立却下になったにすぎない。 (三) 被告が被告各広告を掲載するようになった以降、原告は、別紙二記載の各得意先から、「バーコード用ハンガーは売れないのでは」と言われるようになり、被告第九広告が掲載された後は、原告は得意先から「バーコードの部分の裁判で中村化学は負けた。」、「日酵化学がバーコードの実用新案を持って、それで中村化学が裁判で負けた。」と言われ、取引を断られる事態が発生した。 原告は、被告各広告に掲載された形態のバーコード用ハンガーをごく限られた取引先にしか販売しておらず、主として、掛け部の形態が異なるハンガー(旧ハンガー)を販売していたが、旧ハンガーを販売していた取引先からも、被告各広告を見て、「原告がバーコードの部分で裁判に負けたのではないか。(旧ハンガーを含めて)バーコード用ハンガーを供給できなくなったのではないか。」と言われ、約一五社の取引先を失った。 【被告の主張】 (一) 虚偽事実の告知について (1) 原告主張の事実はいずれも否認する。そもそも、被告は、機材商を介してクリーニング業者と取引を行っており、直接取引をしていない。 (2) 被告とキューセンとの間には取引は一切なく、被告代表者はキューセン代表者と仕事を始めてからの約三〇年間で二、三回会ったことがあるのみである。また、被告代表者は、平成一一年春ころ、原告が資金援助を東ポリに頼んだことを聞いたので、東ポリ社長に対し、電話でのやりとりの中で「中村は嘘ばかりついている。」、「腹が立っている。」、「潰してやりたい気持ちである。」と言った事実はあるが、原告主張のような事実はない。 (二) 虚偽事実の流布について (1) 被告各広告の中に虚偽の事実は全く存在しない。 被告各広告のうち、「一本のハンガーで両面使用可能コンベアーの右回り、左回りを問いません 実用新案登録済」との記載は、被告が有する実用新案権(第三〇三八七七四号)についてのことであり、また、「図のようにバーコードタッグを挟み込むと、水洗いでよじれたタッグも落ちません 実用新案登録済」との記載は、被告が有する実用新案権(第三〇四一二四九号)についてのことであって、いずれも虚偽ではない。 また、被告各広告のうち、「日酵化学の全面勝訴」から「奈良地方裁判所・・・勝訴いたしました」との部分には、「中村化学工業に上記写真のコピーハンガー販売差止」及び「不正競争防止法第2条第1項第3号に違反」と記載されており、正確に事実が記載されている。 さらに、被告各広告には、被告の商品である「スーパーハンガー11」の形態を大きく写真にて掲載しており、「上記写真のコピーハンガー販売差止め(不正競争防止法第2条第1項第3号に違反)の裁判」と記載され、正確に事実が記載されている。 (2) 被告第九広告中の「実用新案権も日酵化学が勝つ」「大阪地方裁判所で実用新案権を侵害しているとして【A】氏(中村化学代表者)と争っていた裁判でも日酵化学の主張が全面的に認められ」という部分についても、いずれも事実であり、原告が被告の有する実用新案権を侵害するなどという表現は全くない。むしろ、右広告の記載からは、【A】が日酵化学を相手に実用新案権侵害で大阪地方裁判所において裁判をしていた事件において、日酵化学の主張が全面的に認められたと読むことができる。 (三) 原告は、平成八年一二月中旬ころから、機材商及びクリーニング店に対し、被告が原告ハンガーを模倣していると電話したりして言い回っていた。そして、平成九年三月二五日、日本クリーニング新聞に、被告の商品である「スーパーハンガー11」の形態を模倣した原告ハンガーの写真と、「コピー商品の製造・販売、御使用は法律で禁止されています」との文章を記載した、いかにも被告が原告ハンガーを模倣したかのような新聞広告を掲載しようとした。その後も、原告は、 機材商・クリーニング店に対し、「スーパーハンガー11は近々製造できなくなる、 今中村化学と取引しないと二度と納品しない、そのとき工場のラインが止まってお宅も困りますよ。」と言って回り、全国の機材商・クリーニング店から被告に対し、毎日電話で問い合わせがあった。クリーニング店と直接取引のない被告は、原告のこれらの行為に対抗するために、被告各広告を掲載せざるを得なかったのである。 また、別紙二記載の一〇社は、被告が販売先として獲得したが、これは被告の商品がバージン樹脂を使っており強度がいいこと、挟着してタッグを止めるため脱落しないこと及びスカートのひも引掛部が多いことなどが理由であって、被告各広告とは無関係である。 3 損害 【原告の主張】 (一) 被告の言動により、別紙二記載の原告の得意先は、原告が近く倒産するものと誤信し、さらに、奈良地方裁判所で問題とされたハンガーは原告が製造する製品の一部にすぎないのに、原告のバーコード用ハンガーがすべて被告の実用新案権を侵害するものと誤解して、原告からハンガーその他の商品の納入を取り止め、別紙二の【被告商品に切替の時期】欄記載の時期から被告と取引を開始するに至った。 (二) 原告の損害 (1) 取引先の喪失による得べかりし利益の喪失(主位的主張) 原告が被告の不正競争以前に上げていたバーコード用ハンガーの売上げは、別紙三の【年間売上額】欄に記載のとおりであり、原告は、被告の違法行為がなければ、取引中止から少なくとも三年間は、得意先に対してバーコード用ハンガーを販売することができるはずであった。したがって、原告は、被告に対し、取引中止から三年間(但し、ヤングドライについては、平成一一年五月から原告と取引を再開しているので、一一か月間)に原告が得るであろう利益の額を損害賠償請求できる。 原告が右得意先に販売していたバーコード用ハンガーの営業利益は少なくとも売上高の三〇パーセントであるから、原告の得べかりし利益額は、別紙三の【3年分の売上額】欄記載の金額の三〇パーセントに相当する同【営業利益】欄記載の合計一六二七万七二五〇円である。 したがって、原告の損害は、少なくとも一〇〇〇万円は下らない。 (2) 不正競争行為により被告が得た利益(予備的主張) 原告は、被告の違法行為がなければ、取引中止から少なくとも三年間は得意先に対してバーコード用ハンガーを販売することができるはずであった。 右期間に被告が原告の得意先に対してバーコード用ハンガーを販売することにより得た、又は得るであろう利益の額は、一一四〇万四八〇〇円である。 したがって、原告の損害は少なくとも一〇〇〇万円以上である。 (3) 信用毀損(予備的主張) 仮に、原告の被った現実の損害が一〇〇〇万円に達しなくても、被告は、原告がバーコード用ハンガーを販売できないかのような虚偽の広告を掲載し、 かつ、被告代表者が原告の取引先に対し、「中村化学はしょっちゅう嘘をついて困る。」、「もう、潰してやりたい気持ちや。」と吹聴したことにより、原告の信用を毀損し、社会的信用を毀損せしめた。 そのことによって、原告に無形損害が発生しており、その損害を金銭に見積もれば少なくとも一〇〇〇万円を下らない。 【被告の主張】 いずれも争う。 |
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当裁判所の判断
一 争点1について 1 被告代表者による虚偽事実の告知について 本件全証拠によっても、被告代表者が、別紙二記載の各社、キューセン代表者、東ポリ代表者あるいはシキボウリネン株式会社専務取締役に対し、「中村化学は危ない。近いうちに潰れる。」、「中村化学が潰れれば、ラインが止まってしまってお宅も困るだろうから、うちからハンガーを購入した方がいい。」、「中村化学は忙しい時期になると(ハンガーの)供給ができなくなる。」などと述べたと認めるには足りない。 この点、証拠(証人【C】の証言)においても、原告の営業担当従業員である【C】がキューセン代表者から聞いた発言の内容は、「中村化学を潰したると日酵の社長が言うてたで。」というものであり、また、同証人が原告代表者から聞いた東ポリ代表者の発言内容も同旨のものであったということであるから(なお、 右【C】の陳述書である甲17のうち右とは異なる趣旨の部分は、同証人の証言と対比して採用できない。)、仮に、被告代表者に右のような発言があったとしても、 これは被告代表者の主観的な意思を述べたものにすぎず、「虚偽の事実」を告知したものということができないのは明らかである。さらに、同証人の証言及び甲17中には、シキボウリネン株式会社の常務取締役から、被告代表者が同社にバーコードハンガーを売り込みに来た際に「忙しい時期には原告はハンガーを供給できない。」との趣旨のことを言われた旨の供述ないし記載があるが、右発言の具体的な内容は十分に明確でない上、伝聞にすぎず、右のような発言がされたことの裏付けも欠いており、認めるには足りない。他に、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。 2 被告各広告の掲載について (一) 証拠(甲1ないし9)によれば、被告各広告は、以下のとおりの内容のものであると認められる。 (1) 被告第一ないし第三広告 被告第一広告は、最上部に「バーコードハンガーは日酵化学へ」と大書し、その下に「一本のハンガーで両面使用可能」、「コンベアーの右回り・左回りを問いません」との説明とともに「実用新案登録済」と表記し、これに並べて被告の商品である「スーパーハンガー11」の全体写真とバーコード装着部分の拡大写真を掲載して、広告中段から下段にかけて、「ご注意 日酵化学のスーパーハンガー11番のコピー商品が出回っています。現在、裁判所で販売差し止めの裁判中(不正競争防止法第2条第1項第3号に違反)です。コピー商品の販売使用は法律で禁止されていますので御使用中のクリーニング店様は御注意下さい。」などと記載されており、被告第二、第三広告もほぼ同様の内容であった。(例えば、被告第二広告の写しである別紙広告A参照) (2) 被告第四ないし第八広告 被告第四広告の内容は、最上部に「日酵化学株式会社の勝訴」と大書し、その下に「一本のハンガーで両面使用可能コンベアの右回り、左回りを問いません。」との説明とともに「実用新案登録済」と表記し、これと並べて被告の商品である「スーパーハンガー11」の全体写真とバーコード装着部分の拡大写真を掲載して、広告中段から下段にかけて、「バーコードハンガーは日酵化学へ」、「日酵化学の全面勝訴 平成9年4月より奈良地方裁判所で中村化学に上記写真のコピーハンガーの販売差し止めの(不正競争防止法第2条第1項第3号に違反)裁判をしておりましたが、平成9年12月8日に日酵化学が勝訴致しました。」、「ご注意 上記写真のコピー商品の販売を裁判所で禁止されましたので、中村化学の製造しているコピー商品を御使用のクリーニング店様は御使用なさらないように御注意下さい。」、「お願い 中村化学は今後、コピー商品の金型を執行官に保管され製造・販売はできません。」などと記載されており、被告第五ないし第七広告もほぼ同様(最上部には「日酵化学株式会社の全面勝訴」と大書されている。)の内容であった。 また、被告第八広告は、上段に「日酵化学株式会社が不正競争で全面勝訴」と大書されているほかは、被告第四広告とほぼ同様の内容であった。(例えば、被告第四広告の写しである別紙広告B参照) (3) 被告第九広告 被告第九広告の内容は、上段に「実用新案権も日酵化学が勝つ」と大書し、その下に「一本のハンガーで両面使用可能、コンベアの右回り、左回りを問いません。実用新案登録済 登録第3036047号」、「可動部@の部分を押さえながらバーコードをAの裏にはさみ込む。図のようにバーコードタックを挟みこんでもらうと、水洗いでよじれたタックも落ちません。実用新案登録済 登録第301249号」と表記し、これと並べて被告の商品である「スーパーハンガー11」の全体写真とバーコード装着部分の拡大写真が掲載され、広告中段から下段にかけて、「不正競争につづき実用新案権でも全面勝訴」、「大阪地方裁判所で実用新案権を侵害しているとして【A】氏(中村化学工業代表)と争っていた裁判でも日酵化学の主張が全面的に認められ平成10年3月25日に日酵化学が全面勝訴致しました。」、「ご注意 上記写真と同じ形のコピー商品の販売を奈良地方裁判所で禁止されましたので、中村化学の製造しているコピー商品を御使用中のクリーニング店様は御使用にならないようにご注意下さい。」などと記載されていた。(被告第九広告の写しである別紙広告C参照) (二) そこで、右各内容の被告各広告を業界新聞に掲載したことが、原告の信用を害する虚偽の事実を流布したことに当たるかを、以下、検討する。 (1) 被告第一ないし第八広告について まず、被告第一ないし第三広告の記載を見ると、「注意 日酵化学のスーパーハンガー11番のコピー商品が出回っています。現在裁判所で差し止めの裁判中(不正競争防止法第2条第1項第三項に違反)です。コピー商品の販売使用は法律で禁止されていますので御使用中のクリーニング店様は御注意下さい。」との記載あるいはこれとほぼ同一の記載がされていることからすれば、各広告にいう裁判において対象とされているのは、広告に写真が掲載されている被告の商品である「スーパーハンガー11」の「コピー商品」であること、被告が差止めの根拠として裁判上主張しているのは不正競争防止法2条1項3号違反であることが、いずれも各広告の記載から明確であるということができる。そして、前記第二の二2記載のとおり、被告は、これら第一ないし第三広告が掲載されていた時期において、原告を相手方として、不正競争防止法2条1項3号に基づいて、原告ハンガーの製造、 販売の差止め等を求める仮処分を申し立てており、結果として右仮処分申立ては認容されたことからすれば、右各広告に記載された内容は、事実と合致するものであるということができるから、これらの広告の掲載は、虚偽の事実の告知には当たらない。 次に、被告第四ないし第八広告について見ると、これら各広告には、 「平成9年4月より奈良地方裁判所で中村化学に上記写真のコピーハンガーの販売差し止めの(不正競争防止法第2条第1項第3号に違反)裁判をしておりましたが、平成9年12月8日に日酵化学が勝訴致しました。」、「ご注意 上記写真のコピー商品の販売を裁判所で禁止されましたので、中村化学の製造しているコピー商品を御使用のクリーニング店様は御使用なさらないように御注意下さい。」、「お願い 中村化学は今後、コピー商品の金型を執行官に保管され製造・販売はできません。」との記載あるいはこれとほぼ同一の記載がされており、前記第一ないし第三広告と同様に、これらの記載から、裁判において対象とされているのは同各広告に写真が掲載されている被告の商品である「スーパーハンガー11」の「コピー商品」であること、被告が差止めの根拠として裁判上主張しているのは不正競争防止法2条1項3号違反であることが、いずれも広告の記載から明確であるということができる。そして、前記第二の二2記載のとおり、平成九年一二月八日に、被告の申し立てた右仮処分を認容する決定がされているのであるから、これらの各広告に記載された事項は、虚偽の事実の告知には当たらない。 この点、原告は、専門家でなければ不正競争防止法2条1項3号が形態模倣禁止の規定であることを知らないのは当然であり、被告第一ないし第八広告には奈良地方裁判所における仮処分事件の争点が掛け部の形態模倣にあったことの指摘すらないから、これらの広告は、同業者に対し、あたかも原告の製造、販売するあらゆる形態のバーコード用ハンガーが被告の実用新案権を侵害するかのような誤解を与えると主張する。しかし、被告第一ないし第八広告には、原告ハンガーが被告の有する実用新案権を侵害することを示唆する記載はなく、前記のとおり、右各広告に記載されている裁判で対象とされているのは被告の商品である「スーパーハンガー11」のコピー商品であること、その差止めの根拠となる法条が不正競争防止法2条1項3号であることが、各広告の記載上明白であるということができ、これを直ちに理解し得ない当業者がいることをもって各広告の記載が虚偽の事実に当たるということができないのは明らかであるから、原告の主張を採用することはできない。 (2) 被告第九広告について 被告第九広告には、前記のとおり、「実用新案権も日酵化学が勝つ」と記載され、そのすぐ下に「一本のハンガーで両面使用可能。コンベアの右回り、 左回りを問いません。実用新案登録済 登録第3036047号」、「可動部@の部分を押さえながらバーコードをAの裏にはさみ込む。図のようにバーコードタッグを挾みこんでもらうと、水洗いでよじれたタッグも落ちません。実用新案登録済 登録第301249号」と記載されている。そして、さらにその下に、「不正競争につづき実用新案でも全面勝訴」、「大阪地方裁判所で実用新案権を侵害しているとして【A】氏(中村化学工業代表)と争っていた裁判でも日酵化学の主張が全面的に認められ、平成10年3月25日に日酵化学が全面勝訴致しました。」と記載されている。 右広告の各記載を見ると、ここにいう裁判が、【A】(原告代表者)と日酵化学株式会社(被告)との間の実用新案権に関する争いであること、同裁判において日酵化学株式会社が勝訴したことはいずれも看取できるものの、当該裁判が【A】と日酵化学株式会社のいずれが申し立てたものなのか、同裁判においていかなる結論が出されたのかは、広告の全体を見ても窺い知ることができず、むしろ、それらの事実を特定し得る表現を広告中に記載することを意図的に排除しているのではないかと推測されても仕方がないものである。そして、同広告中に、そこに記載されている裁判とは特段関係のない被告が有する二件の実用新案権(乙5、 6。なお、同広告中の「登録第301249号」とは、「実用新案登録第3041249号」の誤植であると思われる。)について、その内容の概略と登録番号を併記する形で記載されていることも併せ考えれば、同広告をみた取引者(クリーニング業者や機材商)は、【A】と被告との間の裁判の内容、経緯について詳細に熟知していない限り(たとえ、【A】と被告との間に、実用新案権について何らかの紛争が存することを認識していたとしても)、ごく自然に、被告第九広告に記載されている裁判は、被告が有する実用新案権に基づいて、被告が【A】に対して提起した裁判であって、被告が当該裁判に勝訴し、【A】ひいては原告は、バーコード用ハンガーの製造、販売を禁止されたものと理解するのが通常であると解される。 このように、広告全体の記載からすれば、本件第九広告は、広告を見た取引者に対し、あたかも【A】ひいては原告が製造、販売する原告ハンガーが、 被告の有する実用新案権を侵害するかのような認識を生ぜしめるものということができる。前記第二の二3記載のとおり、本件第九広告に記載されている裁判は、 【A】が、自己の有する実用新案権に基づいて、被告に対してハンガーの製造、販売の差止めを求めた仮処分申立てであったのであるから、一般に右のような認識を生じ得る本件第九広告を業界新聞に掲載する行為は、原告の信用を害する虚偽の事実を流布したものと評価するのが相当である。 3 そうすると、被告代表者による虚偽事実の告知、被告第一ないし第八広告による虚偽事実の流布に関する原告の主張はいずれも採用することができないが、 被告第九広告による虚偽事実の流布に関する原告の主張は理由がある。 二 争点2について 1 原告の逸失利益の主張について (一) 原告の得べかりし利益の喪失に関する主張について 前記認定の事実によれば、被告は、前記のとおり被告第九広告によって虚偽事実の告知をするについて、少なくとも過失があったものと認められるから、 これによって原告が被った損害を賠償する義務がある。 弁論の全趣旨によれば、原告の取引先である別紙二記載の各社が、原告との取引を打ち切り、被告との取引を開始したのは別紙二の【被告商品に切替の時期】欄記載の各月以降であると認められる。 ところで、被告第九広告が「全ドラ」に掲載されたのは、平成一〇年四月一〇日付同紙であるから、そのころ、クリーニング業者にも同広告が配付されたものと推定することができる。そうすると、それよりも以前に原告との取引を中止し、被告との取引を開始した株式会社エルゼ高槻工場(平成九年一一月)、株式会社ファッションクリーニング金井(平成九年四月)、株式会社ドイツクリーナー本社及び広島工場(平成九年七月)については、被告第九広告の掲載と原告との取引の中止との間に因果関係は認められない。また、その余の取引先が原告との取引を中止し、被告との取引を開始したのは、朝日化学山口工場、ヤングドライ砺波支社及び金沢支社については平成一〇年六月以降、水谷クリーニングについては同年七月以降、有限会社神子ランドリーについては同年九月以降、株式会社よつやドライクリーニング商会については同年一〇月以降であるから、被告第九広告の掲載時期から数か月後であり、同広告の掲載と原告との取引中止との変更の間に因果関係があると認めるのは困難である。 かえって証拠(乙8の1[株式会社ファッションクリーニング金井代表者の陳述書]、乙8の4[中本商事株式会社代表者の陳述書]、乙12[被告代表者の陳述書])によれば、これらの会社が原告から被告に取引先を変更したのは、もっぱら装着したバーコードが落ちにくいことやハンガーの形状が使いやすいことなどの理由によるものであることが窺われ、被告第九広告の掲載が取引先の変更の原因であると認めることはできない。 証人【C】は、原告の主張に沿う内容の証言をするが、右認定に反する部分は採用することができない。 よって、原告の別紙二記載の各取引先に対する取引について、得べかりし利益を喪失したことに基づく損害賠償の請求は理由がない。 (二) 被告の得た利益について 原告は、別紙二記載の取引先に被告がハンガーを販売することにより被告の得た利益額が原告の損害額と推定される旨主張するが(不正競争防止法5条1項)、前記(一)で認定判断したとおり、被告が被告第九広告を掲載したことと、別紙二記載の各社が原告との取引を中止し、被告との取引を開始したことの間に因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張も採用できない。 (三) 信用毀損について 被告は、被告第九広告の掲載により、原告の取引先を始めとするクリーニング業界の各社に、原告の製造販売するバーコード用ハンガーが被告の有する実用新案権を侵害するかのような誤解を生ぜしめ、もって、原告の信用を毀損したものと認められる。 本件に現れた一切の事情を考慮すれば、右信用毀損による損害を償うには、金五〇万円をもって相当であると認められる。 三 よって、原告の請求は、主文の限度で理由がある。 (口頭弁論終結日 平成一二年二月二二日) |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 水上周 |