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事件 平成 11年 (ネ) 3424号 不正競争行為差止請求控訴事件
控訴人 協立エアテック株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士永野周志
被控訴人 エアコンスター株式会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 牛久保秀樹
同 南惟孝
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/02/17
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における新請求を棄却する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人1 控訴の趣旨 原判決を取り消す。
被控訴人は、原判決添付の別紙被告物件目録記載の各物件を販売してはならない。
被控訴人は、控訴人に対し、金二六五六万九六七〇円及びこれに対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 当審における新請求の趣旨 被控訴人は、控訴人に対し、金二六五六万九六七〇円及びこれに対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人 主文と同旨
当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 当審における控訴人の主張の要点1 控訴人製品(控訴人の製造販売する空調ユニットシステム。品名・型式「VAV・CAV・ファス一体型FP形」。フレキシブルダクトが合計六本、八本、一〇本接続されるタイプの形状は、順に原判決添付の別紙原告物件目録4ないし6記載のとおりであり、それぞれの本体部分の形状は、順に原判決添付の別紙原告物件目録1ないし3記載のとおりである。)の形態の商品表示性及び周知性について(一) 商品表示が法的保護の対象とされる理由に即すると、商品の形態における商品表示性の有無は、商品全体の形態が需要者にもたらす当該商品の認識像が他の商品と区別することができるものであるか否かによって決定されるものと解される。
したがって、商品を構成する個々の部品や装置がすべてありふれたものであっても、それらを組み合わせた場合に、組み合わせた全体として特定のイメージや印象を抱かせる特徴的な形態となるのであれば、商品表示性を有するものと解すべきである。
この立場に立ってみた場合、控訴人製品は、控訴人が被控訴人製品の開発より前の平成三年末に開発した空調ユニットシステム(商品名「FASU」。以下「FASU」という。)とともに、直方体のミキシングチャンバー(控訴人製品の場合)あるいはチャンバー(「FASU」の場合)の左右側面に複数のフレキシブルダクトが左右対称的に接続された形態(蟹型の形態)であり、この形態は、商品全体として、需要者に蛸、蜘蛛その他の動物を連想させているものである。このことは、
控訴人製品や「FASU」に接した需要者の大半が蛸や蜘蛛等を連想していることからも明かである。
よって、控訴人製品の形態に特異性がないとし、控訴人製品の商品表示性を否定した原判決は、控訴人製品の形態の商品表示性についての認定を誤ったものである。
(二) 原判決は、控訴人製品について、ミキシングチャンバーの直方体の形態が、
チャンバーに要求される機能を果たすために通常選択される形状であると認定した。しかし、直方体という形状は、チャンバーの唯一無二の形態でもなければチャンバーに求められる調和空気の分配・送風機能を果たすうえで技術的に最も合理的な形態でもない。したがって、原判決の上記認定は、誤っている。
(三) ミキシングボックスに接続されるダクトの本数は、設置場所の具体的な状況や吹出口との位置関係に応じて異なってくるが、それは当該商品を購入した後に使用状況や使用環境等に応じて需要者によってなされる事後的な形態の変更である。
例えば、五本のダクトが接続されたために事後的に当初の形態と異なる形態となっても、それは、その製品に予定されている形態の変更であって、形態の変化が予定されており、その変化には法則性があるから、需要者は、五本のダクトが接続されたものも六本のダクトが接続されたものと同一のものとして認識することができる。事後的な形態の変更は需要者にとってはあらかじめ予測される範囲内にある。
要するに、商品が購入された後に当該商品の使用状況や使用環境等に応じて商品に加えた形態の変更により生じる事後的な形態、特に需要者自身により当該商品に加えられた形態の変化により生じる事後的な形態は、商品の形態商品表示性の有無とは無関係である。
したがって、ミキシングチャンバーに接続されるダクトの本数について、ミキシングチャンバーに接続されるダクトの本数は、設置場所の具体的状況、吹出口との位置関係により左右されるものであって、あらかじめ自由に選択できるものとはいえないとした原判決の認定は、誤っているものである。
(四) これまでに、控訴人製品あるいは「FASU」と形態が同一である同一の種類の商品は、販売されたことはなかった。一方、控訴人は、積極的に「FASU」の宣伝広告を行ったこと、全国的規模で、自らあるいは代理店や販売店等の販売商社を通じて「FASU」の販売を行ってきたことなどによって、現在では「FASU」と直接に競合する商品はなく、「FASU」の独占的販売状態が形成され、その形態は、全国的に周知となっている。控訴人製品は、このような商品識別力を有する「FASU」を基礎とするものであるから、控訴人製品も商品識別力を獲得しているものである。
2 控訴人製品と被控訴人製品(原判決添付の別紙被告物件目録4ないし6記載の空調装置。それぞれの本体部分の形状は、順に原判決添付の別紙被告物件目録1ないし3記載のとおりである。)との混同について(一) 需要者は、控訴人製品について、控訴人製品の形態のデザインそれ自体(デザインそれ自体の意匠権的価値)に着目して商品選択を行うのではなく、控訴人製品の機能に着目して商品選択を行うとしても、控訴人製品の形態には商品表示性があるので、需要者は、直方体のチャンバーの左右両側面に複数のフレキシブルダクトが左右対称的に接続された形態(蟹型の形態)をもって、風量バランス調整機能と調和空気の分配・送風機能との二つの機能をもった空調ユニットシステム、すなわち、控訴人製品を認識する。したがって、商品の形態が控訴人製品の形態と同一であれば、需要者は、それが控訴人製品であるのかそれ以外の商品であるのかを区別することができず、混同を生ずるのである。
要するに、混同は、商品選択の基準(購入動機)とは異なる次元で発生する問題であって、控訴人製品が商品の形態デザインそれ自体の意匠権的価値に着目して取引されるものではないということは、控訴人製品について混同が生じないことを何ら根拠づけるものではない。
(二) 原判決は、控訴人製品や被控訴人製品のような商品は、店頭で並べて販売されることはなく、主としてビルの建設工事を請け負った設計会社、建設会社又は空調設備会社が、空調製品の製造販売業者に対して、カタログ、パンフレット等から、販売会社や製品の機能等を詳細に検討した上で発注される商品であるとの事情を理由に、控訴人製品の形態的な特徴から、控訴人製品と出所等の混同を招く事態を想定することができないと判断している。しかし、原判決は、販売商社が被控訴人製品を取り扱う場合を全く判断しておらず、しかも販売商社が被控訴人製品を取り扱う場合には、取引上の具体的な種々の事情により混同を生じ得ることを看過している。
3 不正競争防止法2条1項3号にいう「最初に販売された日」について 控訴人製品は、「FASU」の改良品や部分的な手直し品でなく、新たに開発された製品であり、形態の面でも、控訴人製品と「FASU」とは、定風量装置(CAV)と可変定風量装置(VAV)とがミキシングチヤンバーの後面に接続されている二本の角状の突起が形成されているか否かで外観的に区別することができるのであり、この差異は、わずかな形態上の変更を加えたものではない。控訴人製品と「FASU」とは、同一形態ではない。
したがって、控訴人製品についての模倣禁止期間の起算日を「FASU」が最初に販売された平成四年三月であるとした原判決は、誤っている。
そして、不正競争防止法2条1項3号模倣行為を禁止するのは、模倣行為を禁止することにより、先行開発者が投下した開発費用や労力の回収の終了を可能ならしめて個性的な商品開発や市場開拓のインセンティブ(動機付け)を与えることにあるから、このような立法趣旨に即して解釈すると、模倣禁止期間の起算点は、新商品を開発するために先行開発者がそれの開発に投下した開発費用等の回収が可能となる時より後でなければならず、本件でいえば、不正競争防止法2条1項3号にいう「最初に販売された日」とは、控訴人製品が最初に出荷された平成九年三月一〇日ころがそれに該当するものとするべきである。
4 不法行為に基づく損害賠償(選択的追加的請求)について 控訴人は、某空調設備会社が品川インターシティの空調設備の発注先を控訴人に発注することを期待して、その判断材料として、同会社に、当時秘密情報であった控訴人製品に関する技術情報を開示した。ところが、某空調設備会社は、控訴人から開示された右技術情報に基づいて、被控訴人に、品川インターシティA棟の空調工事を発注し、控訴人製品のとおりに被控訴人製品を製造するように指示し、被控訴人は、これを受けて、某空調設備会社を介して入手した当該技術情報に基づいて、被控訴人製品を製造した。そのため、控訴人は、品川インターシティのA棟について控訴人製品の受注を受けられたであろう機会を不当に奪われた。某空調設備会社の右行為は、不法行為に該当し、被控訴人の行為は、右会社との共同不法行為に該当する。
よって、控訴人は、不法行為を選択的に主張し、被控訴人に対し損害賠償を求める。
二 当審における被控訴人の反論の要点1 控訴人製品の形態の商品表示性周知性について(一) 控訴人製品又は「FASU」製品の形態の特徴とは、直方体の箱に複数のダクトの接着する口がついているということである。チャンバーとは英語で「直方体の箱」との意味もあるのであり、排気するダクトの本数は、建築側の依頼により決まることであり、フレキシブルなダクトは、狭い天井を通るために、他の空調用ダクトにおいても通常利用されていることである。右形態は、商品の有する通常の形態に属するものである。
(二) 控訴人は、直方体の形態は唯一無二の形態ではなく、技術的に最も合理的な形態でもないと主張する。しかし、被控訴人が主張し、原判決も認定しているのは、控訴人製品の形態が、「商品の出所を示すような」特徴ある商品の形態をしておらず、通常の形態の一つであるということであって、控訴人製品の形態が唯一無二の形態であり、技術的に最も合理的な形態であるかどうかとは関係のないことである。
(三) 控訴人は、排気ダクトの本数について、事後的な形態の変更であって、商品の形態商品表示性の有無とは無関係である旨主張しているが、建物の設計者は、
ビル建築の設計に合わせて空調設備を確定するのであり、部屋数、空調設備の数、
空調の送風口の数にそってダクトの数は限定されるのである。たかだか空調機のイメージから設計が規定されるなどということは全くあり得ないことであり、控訴人の主張は失当である。
(四) 控訴人は、「FASU」と同種商品は存在しないなどとして、原判決の認定を批判している。しかし、そもそも、控訴人の主張する商品の形態なるものは、直方体の箱と、注文者の希望により定まる数本のダクト、天井をはわせるフレキシブルなダクトという形態である。それは、冷温風を混合して排出する際における、通常想定される形状でしかなく、同様の形態の商品が全く存在しないなどとの主張は、暴論である。
従来から、被控訴人の会社だけをみても、VAV、CAVの製作により冷温風の混合、排出装置を製造販売していた。他の会社では、実際に、混合空気を数本に分配する製品を製造販売していた。出口が一本であるか数本であるかということは、
建築上の必要性に従って決まることであり、そこには何らの独創性もない。そして、実際にも、控訴人製品と同様の形態を有する商品が販売されており、控訴人製品において独占的販売状態が形成されているとか、その形態が「FASU」しかないとの認識が業界に形成されているなどという事実は一切存在しない。
2 控訴人製品と被控訴人製品との混同について 本件のような空調システムは、一般顧客が直接購入するものではなく、本格的なビル工事に当たり、設計事務所と建設業者の専門家が選定して採用される製品である。採用に当たっては、製品名が特定されるとともに、製造業者も当然、専門家によって確認される。そのため、控訴人の主張する「FASU」製品なるものと、被控訴人の製品名である「ミキシング分配チャンバー」とが形態の類似性によって混同されるという余地は一切ないのである。
控訴人は、販売商社が介在するために、専門業者においても、控訴人製品と被控訴人製品とを混同するなどと主張しているが、そのようなことは専門業者間において考えられないことである。各商品の選択、設置に当たっては、採用対象となる商品の製造会社のリストがゼネコンや設計監理事務所に提出され、厳密なチェックがなされ、商品の出所は、右製造会社のリストのところでチェックを受けるのである。したがって、商品の出所について混同の発生する余地はない。
3 不正競争防止法2条1項3号にいう「最初に販売された日」について 控訴人は、起算点をずらすために、控訴人製品と「FASU」とは異なるとし、
起算点は、控訴人製品の出荷日を当てるべきであると主張している。
しかし、控訴人製品と「FASU」の形態上の相違は、CAV、VAVのシステムを装着する二本の突起があるか否かにすぎず、控訴人製品は、「FASU」に、
ごくわずかの形態上の変更を加えたものにすぎないのである。
また、製作経過をみても、控訴人製品は、控訴人の独自開発により創作されたという性格の製品ではなく、先行商品であった「FASU」と被控訴人の製品とを一体化してシステムを製作したいという訴外設計会社品川設計室の設計思想と指示に基づき、製作されるに至ったものである。したがって、起算点は、「FASU」の製品の製作時期とされるべきである。
4 不法行為に基づく損害賠償(選択的追加的請求)について(一) 不法行為に基づく請求は、控訴審において突然なされたものであり、時期に遅れたものとして却下されるべきである。
(二) 前記のとおり、控訴人製品は、先行商品であった「FASU」と被控訴人の製品とを一体化してシステムを製作したいという訴外設計会社品川設計室の設計思想と指示に基づき、製作されるに至ったものであり、そのために、被控訴人は、控訴人に、CAV、VAVのシステムを送付したり、貸与したりさえもしてきたのである。しかも、その開発は、品川駅東口開発事業にともなう品川インターシティA棟、B棟、C棟のビルに向けて行われ、共通の設計に基づき共通の寸法により製作されることが予定されていたのであり、このことは、控訴人においても当然のこととして了解して開発し受注したものである。しかも、被控訴人が受けた設計会社からの指示は、企業情報の開示などというものではなく、製品の満足すべき性能上の基準が示されたというにすぎないものであったのである。本件において、不法行為が発生する余地はない。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
一 不正競争防止法2条1項1号に基づく請求について1 控訴人商品の形態は、原判決添付の別紙原告物件目録記載のとおりであり、これを具体的に表現すれば、次のとおりである。
@ 直方体の箱状のミキシングチャンバーの背面に、VAVとCAVとがそれぞれ接続される二つの開口部が並行状態に設けられている。
A ミキシングチャンバーのVAV及びCAV開口部に、VAVとCAVがそれぞれ接続されている。
B ミキシングチャンバーの正面に、フレキシブルダクトを接続することが可能な開口部が設けられている(なお、フレキシブルダクトの接続が不必要であるときは蓋で覆われている。)。
C ミキシングチャンバーの左側面及び右側面に、フレキシブルダクトを接続する開口部が合計六個、八個又は一〇個設けられている。
D フレキシブルダクトは、折り曲げ状態にしたがって、穏やかに曲がった形状である。
E 控訴人商品の全体形状は、ミキシングチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、ミキシングチャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、蟹の形状をしている。
2(一) 右を前提にすると、原判決が控訴人商品の形態について認定した事項、すなわち、@控訴人製品を構成する個々の装置、すなわち、ミキシングチャンバー、
VAV、CAV及びフレキシブルダクトの形状は、いずれも、直方体や円筒状であって、特異なものとはいえないこと、Aミキシングチャンバーの形態については、
風量バランス調整を行うため、ある程度の容量を必要とすること、また、ミキシング構造を設けたため、縦長にせざるを得ないこと等に照らすと、チャンバーに要求される機能を果たすために通常選択される形状であるといえること、Bフレキシブルダクトの形状については、空調製品の設置場所の物理的な制約を受けることなくダクトを天井裏に配置するため折り曲げ可能にしたことに照らすと、ダクトに要求される機能を果たすために通常選択される形状であるといえること(なお、フレキシブルな構造は、ダクトの一般的な構造の一つであることは争いがない。)、Cまた、控訴人製品は、ミキシングチャンバーとフレキシブルダクトがユニット化され、単に接続するだけで空調製品が完成するようにした点で工夫がされているが、
形態上の特異性があるとはいえないこと、Dさらに、ミキシングチャンバーに接続されるダクトの本数は、設置場所の具体的状況、吹出口との位置関係により左右されるものであって、あらかじめ自由に選択できるものとはいえないことを、優に認定することができる。
(二) 右認定の下では、控訴人製品の形態は、これを構成する個々の部品や装置の形態がすべてありふれたものであるのみでなく、全体としての形態をみても、この種機器を製造するに当たって通常予想される形態選択の範囲を全く出ておらず、特徴的な形状であるとはいえないから、これに商品表示性を認めることはできないものというべきである。
(三) 控訴人は、控訴人商品又は「FASU」は、直方体のミキシングチャンバー(控訴人商品の場合)あるいはチャンバー(「FASU」の場合)の左右側面に複数のフレキシブルダクトが左右対称的に接続された形態(蟹型の形態)であり、この形態は、商品全体として、需要者に蛸、蜘蛛その他の動物を連想させているものであるなどとの理由で、控訴人製品に商品表示性があると主張する。
しかしながら、直方体の左右側面に複数のダクトを左右対称的に接続するという形態は、チャンバー、フレキシブルダクトともども天井裏に設置されるこの種商品において、通常予想される選択の範囲内の形態であることは明白であるから、仮に同形態が需要者に蛸、蜘蛛その他の動物を連想させるとしても、これをもって商品識別機能があると認めることはできない。
控訴人は、直方体という形状は、チャンバーの唯一無二の形態でもなければチャンバーに求められ調和空気の分配・送風機能を果たすうえで技術的に最も合理的な形態でもない旨主張する。
しかしながら、直方体という形状は、一般に、その中に他の物を収容する役割を有する物の形状として社会一般において最もよく選択される形状、あるいは、少なくともその一つであることは当裁判所に顕著であり、チャンバーという機器についてみても、これがその例外に当たると考えさせる資料は、本件全証拠を検討しても見出し得ない。このような状況では、むしろ逆に、チャンバーの形態が直方体ではなく、例えば円盤形であったり五角形であったりする方が、かえって特徴的なものとして、商品表示性が認められる可能性が生ずるものというべきである。
控訴人は、フレキシブルダクトの本数について、商品が購入された後に当該商品の使用状況や使用環境等に応じて商品になした形態の変更により生じる事後的な形態、特に需要者自身により当該商品に加えられた形態の変化により生じる事後的な形態にすぎず、商品の形態商品表示性の有無とは無関係である旨主張する。
ダクトの本数が当該商品の使用状況や使用環境等に応じて変わるものであることは、控訴人主張のとおりである。そして、それゆえにこそ、この種商品においては、ダクトの本数についての需要者の種々の要求に答えるために種々のものを用意する必要が生ずるのであり、さらに、そのことからして、ミキシングチャンバーの左側面及び右側面に、フレキシブルダクトを接続する開口部が合計六個、八個又は一〇個設けられているという被控訴人製品の形態に格別の特徴を見出すことができないことになるのである。
控訴人は、「FASU」についての自らの営業努力によりこの種商品における「FASU」の独占的販売状況が形成され、その形態は全国的に周知となっていると主張する。
しかし、仮にそうであるとしても、控訴人主張の形態が、それ自体、その商品として、格別の特徴のないもので、商品表示性を有しないことが前認定のとおりである以上、形態の同一あるいは類似自体を根拠に不正競争防止法2条1項該当性を主張することは許されないものというべきである。このような場合に右のような主張が許されるとすれば、ある商品につき何らかのいきさつで生じた独占的状態の下で、その商品の出所としての周知性をいったん獲得した者は、同法条が目的とする出所の混同の排除を超えて、当該商品一般についての独占の継続をも保障されることになりかねないのであり、このような事態は、むしろ、不正競争防止法がその実現を目指す公正な競争を妨害するものという以外にはないからである。
被控訴人の行為の中に、単に自己の商品の形態を控訴人のものと同一あるいは類似とするとの限度を超えて、不当に被控訴人製品の信用を利用するため、混同のおそれがあるときに採るべき混同防止の手段を怠ったり、混同を生じやすくする行為に出たりする要素が含まれているとすれば、前記法条該当性の主張を控訴人に許すべきであると解することが可能であるが、本件全証拠によっても右要素を認めることはできない。
控訴人の主張は、いずれも採用できない。
3 以上によれば、控訴人の不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないことが明らかである。
二 不正競争防止法2条1項3号に基づく請求について1 不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品形態を模倣した商品の譲渡行為等を他人の商品が最初に販売された日から三年間に限って不正競争行為としているものであり、不正競争防止法における事業者間の公正な競争等を確保する(1条)という目的に鑑みれば、開発に時間も費用もかけず、先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売して、投資に伴う危険負担を回避して市場に参入しようとすることは、公正とはいえないから、そのような行為を不正競争行為として禁ずることにしたものと解される。このような不正競争防止法2条1項3号の立法趣旨からすれば、「最初に販売された日」の対象となる「他人の商品」とは、保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するのであって、このような商品形態を具備しつつ、若干の変更を加えた後続商品を意味するものではないものと解すべきである。
2 これを本件についてみると、控訴人が保護を求めている商品形態の構成の中心が「FASU」においても採用されていたものであることは、その主張自体から明らかであるから、「最初に販売された日」の対象となる「他人の商品」は、控訴人商品ではなく、「FASU」ということになると考えるのが合理的である。そうすると、被控訴人製品が販売されたのは、平成九年八月以降であり、「FASU」が最初に販売された日である平成四年三月より三年を経過していることは明らかであるから、本件について、もはや被控訴人製品が不正競争防止法2条1項3号に該当するか否かを論ずる余地はないことになる。
3 この点について、控訴人は、控訴人製品は、「FASU」の改良品や部分的な手直し品でなく、新たに開発された製品であり、形態の面でも、控訴人製品と「FASU」とは、定風量装置(CAV)と可変定風量装置(VAV)とがミキシングチヤンバーの後面に接続されている二本の角状の突起が形成されているか否かで外観的に区別することができるのであり、この差異は、わずかな形態上の変更を加えたものではないなどと主張する。
しかし、仮に控訴人主張のとおり、控訴人製品が「FASU」の改良品や部分的な手直し品でないというのであれば、このような場合、控訴人が、控訴人製品に固有の形態として不正競争防止法2条1項3号による保護を求め得るのは、控訴人製品の商品形態のうち、「FASU」の形態と共通する部分を除外した部分に基礎をおくものでなければならないことは、同法の前記立法趣旨に照らし明らかというべきである。
甲第一号証、第四号証、弁論の全趣旨によれば、控訴人製品は、「FASU」に、温度コントロール機能を具備させるため、@「FASU」のチャンバーの内部に空気を混合させるためのミキシング構造を設け、A「FASU」のチャンバーにVAV(可変定風量装置)とCAV(定風量装置)を接続し、かつ、単一のユニット化した商品であり、控訴人製品の、先行商品である「FASU」との形態上の相違点は、チャンバーが若干縦長になっている点、及びチャンバーの背面にVAVとCAVが接続されている点のみであり、その他の形態は、「FASU」と同じであると認められる。
「FASU」に比べチャンバーが若干縦長になっているという形態は、極めてありふれたものであるし、VAV及びCAVの形状は、いずれも円筒形であって特異なものではなく、これを「FASU」に接続した形態も、接続に伴う必然的な形態であり、いずれも、不正競争防止法2条1項3号括弧書きにいう「当該他人の商品と同種の商品が通常有する形態」に当たることは明らかである。
結局、控訴人の主張は、一方で「FASU」の形態の保護を求めつつ、他方で控訴人製品を最初に販売した日を保護の起算日とせよという極めて矛盾したものというほかないのである。
4 以上のとおりであり、控訴人の不正競争防止法2条1項3号に基づく請求は、
いずれにせよ、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。
三 不法行為に基づく損害賠償(選択的主張の追加)について 控訴人は、某空調設備会社が、控訴人から開示された秘密情報である控訴人製品の技術情報を被控訴人に漏泄し、被控訴人は、この情報に基づいて、控訴人製品のとおりに被控訴人製品を製造したことを前提に、某空調設備会社と被控訴人に共同不法行為が成立する旨主張する。
しかしながら、控訴人が秘密情報と主張する、控訴人製品についての技術情報がどのようなものか、控訴人の主張自体明らかでない。
そのうえ、甲第一二九号証によれば、控訴人が品川インターシティへ控訴人製品を納入したときの責任者自らが、控訴人製品が開発された直接の契機は、品川インターシティの動きであったことを認めており、その品川インターシティの動きをみると、甲第一〇一号証、乙第七号証ないし第九号証及び弁論の全趣旨によれば、品川インターシティの設計会社である品川設計室は、平成六年九月ころ、控訴人の「FASU」と被控訴人のVAVを一体化接続することにより品質の向上と施工の合理化を図ることを計画して、これを控訴人及び被控訴人に打診し、そのための実験を推進し、控訴人と被控訴人とは、そのころ、相互に資材を送付し合ったり、情報交換をしたりしていることが認められ、右認定の事実の下では、控訴人は、品川インターシティに設置すべき空調設備についての打診を受けた当時、いまだ控訴人製品についての構想を有しておらず、その後の設計会社等との打ち合せの過程で具体的になっていったものであるということができる。このような事情の下では、当時、控訴人製品についての秘密の技術情報が存在したとも、設計会社を通じて秘密情報が被控訴人に漏泄されたとも認めがたい。
したがって、控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求が、失当であることは明らかである。
四 以上のとおり、控訴人の請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであり、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充