関連ワード | 需要者 / 類似性(類似) / 記憶 / 差止請求(差止) / 過失 / 逸失利益 / 侵害 / 代理人 / 代表者 / 品質誤認惹起表示(2条1項13号) / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
10年
(ワ)
10756号
営業妨害差止等請求事件
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反訴原告 エフアイエス株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 山上和則 同 西山宏昭右補佐人弁理士 【B】 反訴被告 フイガロ技研株式会社 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 同 池下利男右補佐人弁理士 【D】 同 【E】 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2000/01/20 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 反訴原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は反訴原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、反訴原告の請求はその余について判断するまでもなくいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日 平成一一年一一月九日) |
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追加 | |
事実及び理由第1請求1反訴被告は、文書又は口頭で、反訴原告がSB-50などのSBシリーズを販売することが別紙特許目録記載の特許権若しくは出願中の特許又は実用新案権若しくは出願中の実用新案を侵害し又は侵害するおそれがある旨を、需要者その他取引関係者に告知したり、流布してはならない。 2反訴被告は、反訴原告に対し、金1470万円及びこれに対する平成10年10月17日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要(争いのない事実等)1反訴被告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有していた。 発明の名称ガスセンサ出願日昭和61年12月23日(特願昭61-314648号)出願公開日昭和63年7月2日(特開昭63-159745号)出願公告日平成7年5月31日(特公平7-50053号)登録日平成8年2月26日特許登録番号第2024441号特許請求の範囲別紙特許公報該当欄記載のとおり2反訴原告は、平成8年4月25日、特許庁に対し、本件特許権の無効を求める無効審判請求を申立てたところ(乙29)、特許庁は、平成10年6月17日、本件発明は進歩性を欠如するとして、本件特許権を無効とするとの審決をなし、同審決は、確定した。 3反訴原告は、SB-50等のSBシリーズ名でガスセンサを製造・販売している。 (反訴原告の請求)本件は、反訴原告が、反訴被告に対し、反訴被告が不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争を行ったとして、その差止めと損害賠償を求めた事案である。 反訴原告が、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争として主張するのは、次の事実である。 (1)反訴被告が、反訴原告の取引先に対し、反訴原告がSB-50を販売することは、@本件特許権を侵害する、A別紙特許目録2記載の出願中の特許を侵害するとして、「エフアイエスを訴えており、エフアイエスのセンサは使えなくなる。」「エフアイエスを訴えているので、エフアイエスはもうすぐ潰れる。」などと申し述べた事実。 (2)反訴被告が、反訴原告の取引先に対し、反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、別紙特許目録3ないし11記載の特許権、実用新案権、又は出願中の特許若しくは実用新案を侵害するとして、「エフアイエスのセンサは使えなくなる」「エフアイエスはもうすぐ潰れる。」などと申し述べた事実。 (争点)1反訴被告は、反訴原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したか(不正競争防止法2条1項13号該当性)。 2差止請求の必要性。 3反訴被告は、不正競争を行った際、故意又は過失があったか。 4反訴原告が、反訴被告の不正競争により被った損害とその額。 第3争点に関する当事者の主張1争点1(不正競争防止法2条1項13号該当性)について【反訴原告の主張】(1)ア反訴被告は、下記(ア)ないし(ケ)記載の反訴原告の取引先に対し、反訴被告補佐人弁理士【D】作成の乙19の文書(以下単に「乙19」という。)を配布した際、反訴原告がSB-50を販売することは、本件特許権及び別紙特許目録2記載の出願中の特許を侵害するとして、「エフアイエスを訴えているので、エフアイエスのセンサは使えなくなる。」、「エフアイエスを訴えているので、エフアイエスはもうすぐ潰れる。」などと申し述べ、反訴原告の営業上の信用を害した。 (ア)矢崎計器株式会社(イ)松下精工株式会社(ウ)松下電器産業株式会社(エ)松下電工株式会社(オ)三菱電機株式会社(三田製作所)。同所に対する乙19の配布は、平成7年ころなされた。 (カ)同会社(群馬製作所)(キ)株式会社デンソー。同社に対する乙19の配布は、平成6年ころなされた。 (ク)シャープ株式会社(ケ)神栄株式会社イしかしながら、本件特許権は、本来無効な特許権であった。また、本件特許権は、公知の技術をその内容とするものであるから、その権利範囲も実施例に限定して解釈すべきところ、SB-50は、実施例と異なる構造を有するものであるから、本件発明の技術的範囲に属さないものであった。 また、別紙特許目録2記載の出願中の特許は、駆動回路に関する特許であり、SB-50自体とは関係がない。 さらに、上記ア(ア)ないし(ク)の各社に対し、乙19が配布された当時、反訴原告と反訴被告との間に訴訟はなかったにもかかわらず、反訴原告は、上記各社に対し、「エフアイエスを訴えている。」と述べ、法的措置の迫真性を演出した。 したがって、反訴被告が行った、ア記載の反訴原告の営業上の信用を害する事実の告知は虚偽であり、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争に該当する。 (2)ア反訴被告は、下記(ア)ないし(ウ)記載のとおり反訴原告の取引先に対し、反訴被告補佐人弁理士【D】作成の乙20の2、乙21、22の各文書(以下各書証番号のみで示す。)を配布した際、反訴原告が、SBシリーズのガスセンサを販売することは、別紙特許目録3ないし11記載の特許権、実用新案権、又は出願中の特許若しくは実用新案を侵害するとして、「エフアイエスを訴えているので、エフアイエスのセンサは使えなくなる。」、「エフアイエスを訴えているので、エフアイエスはもうすぐ潰れる。」などと申し述べて、反訴原告の営業上の信用を害した。 (ア)平成10年7月23日、矢崎計器株式会社に対し、乙20の2を配布。 (イ)平成10年8月初旬ころ、松下精工株式会社に対し、乙22を配布。 (ウ)平成10年8月中旬ころ、三洋電機株式会社に対し、乙21を配布。 イしかしながら、別紙特許目録3ないし11記載の特許権、実用新案権、又は出願中の特許若しくは実用新案は、いずれも回路に関するものであり、ガスセンサ自体とは関係がない。それにもかかわらず、反訴被告は、乙20の2、乙21、22において、「SB」という反訴原告が長年にわたって自己の商品番号に冠してきた符号を表示し、あたかも反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、上記各権利を侵害しているかのごとき紛らわしい表現をして、ア記載の反訴原告の営業上の信用を害する事実を告知した。 したがって、反訴被告が行った、ア記載の反訴原告の営業上の信用を害する事実の告知は虚偽であり、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争に該当する。 【反訴被告の主張】(1)乙19に基づく虚偽事実の告知についてア反訴被告では、当時業務日誌を作成していなかったので、各担当者の記憶にのみ頼らざるを得ないところ、乙19は、平成7年10月2日に作成された文書であるから、それ以前に乙19を配布することはあり得ない。 したがって、平成6年ころ株式会社デンソーに対して乙19を配布したというのは間違いであり、渡したかどうかも分からない。 また、反訴被告が、三菱電機株式会社三田製作所に対し、乙19を配布した際、 反訴原告と訴訟が行われていることについて話題にのぼったことは誤りであった。 真実は、その際、三菱電機株式会社三田製作所の担当者から、三菱を訴えるつもりかと質問され、そのつもりはないと答えたにすぎない。 イ反訴被告は、平成10年11月27日付準備書面(第五回)において次のとおり主張した。 反訴被告が、平成6年ころ株式会社デンソーに対し、平成7年ころ三菱電機株式会社三田製作所に対し、乙19を配布したことは認める。矢崎計器株式会社に対し同文書を配布した事実はない。その他の各社に対する配布は営業担当者の記憶が定かでないため、不知。反訴被告が、株式会社デンソー及び三菱電機株式会社三田製作所に対し、乙19を配布した際、反訴原告と訴訟が行われていることについて話題にのぼったことはある。 しかし、上記主張のうち反訴原告の主張事実を自白した部分は、真実に反し錯誤によるものであるから撤回する。 ウ反訴被告が、乙19を配布した際、反訴原告がSB-50を販売することは、 別紙特許目録2記載の出願中の特許を侵害すると述べたことはない。 (2)乙20の2、乙21、22に基づく虚偽事実の告知についてア反訴被告は、平成10年7月23日、矢崎計器に対し乙20の2を、同年8月初旬ころ松下精工に対し乙22を、同月中旬ころ三洋電機に対し乙21を、それぞれ配布した。 イしかし、これらの文書は、その記載内容から明らかなように、そして反訴原告も自認するように、ガスセンサ自体に関する資料ではない。したがって、反訴被告が、これらの文書を配布した際、反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、別紙特許目録3ないし11記載の特許権、実用新案権、又は出願中の特許若しくは実用新案を侵害するというような見解を述べてはいないし、そのようなことを述べるはずもない。 反訴被告が、ア記載のとおり、乙20の2、乙21、22を配布したのは、反訴被告の上記取引先が同種の他社製品の採用に関して資料提供を求めてきたことに応じ、SBシリーズの反訴原告のガスセンサをバッテリー駆動させるときには、別紙特許目録3ないし11記載の特許権、実用新案権、又は出願中の特許若しくは実用新案に抵触しないようにすればよいとの趣旨で情報提供したにすぎない。 2争点2(差止請求の必要性)について【反訴原告の主張】反訴被告は、本件特許権の無効審決が出された後も、乙20の2、乙21、22を配布して、反訴原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知しているから、反訴被告の不正競争を差止める必要性がある。 【反訴被告の主張】争点1についての反訴被告の主張のとおり、反訴被告が、乙20の2、乙21、 22を配布して反訴原告のSBシリーズのガスセンサが別紙特許目録3ないし11記載の特許権等を侵害すると告知したことはないから、それらの文書に基づく虚偽事実告知の差止めの必要はない。 また、反訴被告が、乙19を配布した当時、本件発明は出願公告されており、本件特許権が有効であることが、当然の前提であった。したがって、本件特許権が無効となった現在において、反訴被告が、需要者その他取引関係者に対し、反訴原告がSB-50を販売することは、本件特許権を侵害すると告知することはあり得ない。 よって、反訴原告の差止請求は、その必要性がない。 3争点3(故意又は過失)について【反訴原告の主張】(1)反訴被告が、訴訟が存在しないのに、その存在をちらつかせて、反訴原告のSB-50の採用を顧客に思いとどまらせようとする行為は、故意そのものである。 (2)また、本件特許権の無効理由は、実質的には特許要件である新規性の規定(特許法29条1項3号)により特許が受けることができないものであって、反訴被告が本件特許を有効と考えたことについては過失が十分に認められる。 すなわち、本件発明の要旨は、「複数のリードにセンサ本体を結合したガスセンサにおいて、前記リードを同一面内で同じ方向へベースを貫通させて、その一端側を外部ピンに兼用すると共に、リードの他端側にセンサ本体を結合したことを特徴とする、ガスセンサ」というものであるところ(なお特許請求の範囲に「リードフレーム」とあるのは「リード」の趣旨である。)、これらの構成は、本件発明の特許出願前に頒布されてた「『NationalTechnicalReport』vol.29No.3Jun.1983p95-97」(乙3)に記載された発明と同一である。 したがって、本件発明は「公知」であって、反訴被告が本件特許権を有効と考えたことについては過失が十分に認められる。 なお、乙3は、反訴被告と同じ半導体ガスセンサを製造していた競合会社である松下電機産業株式会社の技術レポートであるから、反訴被告は同レポートの存在を知っていたはずである。 【反訴被告の主張】本件特許権は、進歩性欠如を理由に無効となったが、反訴被告は、乙19を配布した当時、本件特許権の有効性を信じていた。なお、反訴原告は、本件特許権は、 実質的には新規性のない発明であると主張するが、失当である。 反訴被告の補佐人弁理士【D】は、乙19を作成した際、パトリス(財団法人日本特許情報機構の特許関連情報サービス)を用いて先行特許・実用新案の調査を十分に行ったのであるから、反訴被告が、その調査を元に本件特許権を有効であると信じたことに過失は存しない。 また、本件特許権は、昭和61年12月23日出願を行い、拒絶理由通知を受けることなく、平成7年2月7日公告決定がなされ、特許異議の申立を受けずに、平成7年11月14日登録査定がなされて一旦有効な特許権として成立している。しかも、無効審判においても、専門家の報告書が提出されるなど、その有効性を信じるにつき十分な根拠が存したのである。 したがって、反訴被告が、乙19を配布した際、本件特許権が有効であると信じたことに過失は存しない。 4争点4(損害及びその額)について【反訴原告の主張】反訴原告は、反訴被告の不正競争により、得意先との商談が中止、延期し、次の損害を被った。 (1)逸失売上額ア矢崎計器株式会社金1億円イ松下精工株式会社金3000万円ウ三菱電機株式会社金700万円エシャープ株式会社金1000万円合計金1億4700万円(2)反訴原告の純利益率10パーセント(3)逸失利益金1470万円【反訴被告の主張】争う。 反訴原告が指摘する取引先は、現在でも反訴原告のSB-50の納入を継続しているから、どのように反訴原告が損害を被ったのか、その根拠が不明である。 第4当裁判所の判断1争点1(不正競争防止法2条1項13号該当性)について(1)乙19に基づくものについてア当事者間に争いのない事実及び証拠(調査嘱託の結果、乙30)によれば、反訴被告は、乙19を、@平成7年ころ神栄株式会社に対し、A平成7年10月ころ三菱電機株式会社(三田製作所)に対し、B平成7年10月から12月までの間に株式会社デンソーに対し、C平成9年9月ころ矢崎計器株式会社に対し、それぞれ配布したことが認められる。 なお、株式会社デンソーに対する乙19の配布については、平成6年ころ配布したことで一旦自白が成立しているものの、反訴被告は、その自白を撤回しており(前記第3、1【反訴被告の主張】(1)イ)、乙19の作成時期が平成7年10月2日であること、また、株式会社デンソーの担当者(【F】)は、乙19を平成7年10月から12月までの間に受け取ったと報告していること(乙28の3)からすると、その自白は真実に反するものであり、反訴被告は錯誤に基づきその自白をしたものと推認されるから、反訴被告の自白の撤回は認められる。 反訴原告は、上記以外の者にも反訴被告は乙19を配布したと主張するが、同事実を認めるに足る証拠はない。 イ乙19は、弁理士【D】(反訴被告補佐人)が反訴被告の専務取締役宛てに作成した「FISCOセンサSB-50について」と題する報告書である(FISとは、反訴原告を指すものと認められる。)。 同文書には、「結論」として、次の記載があることが認められる。 「1SB-50センサのピン配置は、貴社特公平7-50053を侵害する。 2SB-50センサの駆動回路は、貴社特公平6-105234を侵害する。 3これらの特許は公告中であるが、SB-50センサの構造や駆動回路は、これらの特許をさらに限定しても侵害となり、権利行使が可能である。」また、同文書の「理由」には、「従って、SB-50センサが特公平7-50053を侵害することは明らかである。」、「従って、SB-50センサを用いて、 ヒータをデューテイ比あるいはパルス駆動すれば、特公平6-105234の侵害となる。」、及び「SB-50センサやそれを用いたCO検出装置は貴社の特許を侵害し、侵害訴訟を含む権利行使が可能な段階に有る旨、報告致します。」という記載がある。 以上のように、乙19には、SB-50が反訴被告の有する特公平7-50053(本件特許権)を侵害するとの記載があることから、反訴被告は、同文書を、アで認定した4社に配布した際、SB-50が本件発明の技術的範囲に属することを理由に、反訴被告がSB-50を販売することは、本件特許権を侵害する旨の発言をしたものと認められる。 また、反訴被告が、株式会社デンソー及び三菱電機株式会社(三田製作所)に対し、乙19を配布した際、「反訴被告は反訴原告を訴えている」という趣旨の発言をしたことは、当事者間に争いがない(前記第3、1【反訴被告の主張】(1)イ。なお、反訴被告は、その自白を撤回しているが、この事実が真実に反すると認めるに足る証拠はない。)ウ(ア)反訴原告は、株式会社デンソー及び三菱電機株式会社(三田製作所)以外の者に乙19を配布した際にも、反訴被告は、「反訴被告は反訴原告を訴えている」と発言したと主張するが、この事実を認めるに足る証拠はない。乙30(神栄株式会社の担当者の陳述書)には、乙19の交付を受けた際、反訴被告から反訴原告を訴えていると聞いたとの記載があるが、同人は、当裁判所の調査嘱託に対しては、「乙19の交付を受けた際、反訴被告から反訴原告を訴えているとの話はなかったと思います。」との趣旨の回答をしていることからすると、乙30の同記載部分を信用することはできない。 (イ)反訴原告は、乙19を配布した際、反訴被告は配布先に対し「エフアイエスはもうすぐ潰れる」と発言したと主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。 (ウ)反訴原告は、乙19を配布した際、反訴被告は、反訴原告がSB-50を販売することは別紙特許目録2記載の出願中の特許(特公平6-105234号)を侵害すると述べたと主張する。 しかし、乙19の記載のうち特公平6-105234号の特許に係る部分は、 「SB-50センサを用いて、ヒータをデューテイ比あるいはパルス駆動すれば、 特公平6-105234の侵害となる。」との記載からも明らかなように、SB-50自体が同特許に係る発明の技術的範囲に属するという趣旨の記載でない。 したがって、反訴被告が乙19の同記載部分を引用して、反訴原告がSB-50を販売することは、特公平6-105234号の特許を侵害すると発言したとは認められない。 エ反訴被告が、乙19を配布した際に、配布先に対し、反訴原告がSB-50を販売することは本件特許権を侵害すると発言することは、反訴原告の営業上の信用を害する事実の告知であると認められる。 他方、反訴被告が、株式会社デンソー及び三菱電機株式会社に対し、乙19を配布した際、反訴原告を訴えていると述べたのみでは、その発言を聞いた者に反訴原告の言い分が正しいとの認識が生じるとはいえないから、反訴原告に対する社会的評価の低下を招くものではなく、反訴原告の信用を害する事実の告知であるとは認められない。 オ前記第2(争いのない事実)2記載のとおり、本件特許権は、無効となっているから、結局、反訴被告が、乙19を配布して、反訴原告がSB-50を販売することは、本件特許権を侵害すると発言したことは、虚偽であったと認められる。 なお、反訴原告は、SB-50が本件発明の技術的範囲に属さないという理由によっても、反訴被告の上記事実の告知は、虚偽であると主張する。しかし、反訴原告のSB-50が本件発明の技術的範囲に属さないという主張は、実質的には、本件特許権が無効であることを前提としているから、結局、上記事実の告知が虚偽である理由は、本件特許権が無効であったことに尽きるものと解される。 (2)乙20の2、乙21、22についてア反訴被告が、平成10年7月23日、矢崎計器株式会社に対し乙20の2を、 同年8月初旬ころ松下精工株式会社に対し乙22を、同月中旬ころ、三洋電機株式会社に対し乙21を、それぞれ配布したことは当事者間に争いがない。 イ乙20の2、乙21、22は、いずれも、弁理士【D】の作成に係る、「SBセンサ回路特許」と題する同一内容の文書である。その内容は、「SB関係の回路の特許に以下のものがあります。」との記載の下に、9件の特許(実用新案)番号又は公告番号と、それぞれの発明又は考案の内容が簡潔に記載されている。 反訴原告は、反訴被告が、乙20の2、乙21、22を配布した際、反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、同文書に記載されている上記9件の特許又は実用新案を侵害すると発言したと主張する。 しかし、証拠(乙20の2、乙21、22)と弁論の全趣旨によれば、上記9件の発明又は考案は、いずれもガスセンサ自体のものではなく、ガスセンサの回路に関するものであることが認められる。 そうすると、配布先である当業者が、上記文書を読めば、その標題、内容からして、SBシリーズのガスセンサ自体が同文書に記載されている発明又は考案の技術的範囲に属すると認識するとは認められない。したがって、反訴被告が、上記文書を配布した際、反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは、上記文書記載の特許又は実用新案を侵害すると述べたとしても、相手方にそのように思いこませることは困難であるから、結局、反訴被告が、そのようなことを述べたとは認められない。 ウなお、乙20の1によると、乙20の2を受領した矢崎計器株式会社が反訴原告に宛てて「本日フィガロ技研が見えまして、別紙資料が出されました。FisSBセンサがフィガロP.A.Tに抵触する旨の話でした。調査の上報告を下さい。」と記載したファックス文書を送付していたことが認められる。 しかしながら、乙20の2の内容を一見すれば、同文書はガスセンサ自体の発明又は考案に関する文書でないことは明らかであるから、反訴被告が、反訴原告がSBシリーズのガスセンサを販売することは同文書記載の特許又は実用新案を侵害すると述べたとしても、当業者である矢崎計器株式会社が、反訴被告が述べたことが虚偽であることについて気付かず、反訴原告に調査を依頼するファックスを送付するとは考えにくい。そして、上記ファックス文書は、「SBセンサの回路」と書くべきところを、ガスセンサの回路が乙20の2記載の発明又は考案の技術的範囲に属せば、回路を改善しない限り、その結果としてガスセンサを使用することもできないことから、回路の記載を省略して単にSBセンサと記載したとも読めることからすると、上記ファックス文書をもってしても、上記裁判所の判断を左右するものではないと考えられる。 エ反訴原告は、乙20の2、乙21、22を配布した際、反訴被告は配布先に対し「エフアイエスはもうすぐ潰れる」と発言したと主張するが、同事実を認めるに足る証拠はない。 (3)まとめ以上によれば、反訴被告が、@平成7年ころ神栄株式会社(東京支店)に対し、 A平成7年10月ころ、三菱電機株式会社(三田製作所)に対し、B平成7年10月から12月までの間に株式会社デンソーに対し、C平成9年9月ころ矢崎計器株式会社に対し、それぞれ、乙19を配布した際、反訴原告がSB-50を販売することは本件特許権を侵害すると発言したことが、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争であったと認められる。 2争点2(差止請求の必要性)について1で認定した、反訴被告が行った不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争は、いずれも、本件特許権を無効とする審決が確定するよりも前に行われたものである。 そうすると、本件特許権の無効が確定した現在において、反訴被告が、反訴原告がSB-50を販売することは本件特許権を侵害すると述べるおそれがあるとはたやすく認められず、他にこれを認めるに足る証拠もない。 したがって、上記不正競争と同種の行為の差止請求は認められない。 3争点3(故意又は過失)について(1)ア反訴原告は、本件発明は、その出願前に頒布されていた刊行物である乙3(「NationalTechnicalReport」vol.29No.3Jun.1983p95-97)に開示された技術と実質的に同一であって、本件特許権は、実質的には公知の規定(特許法29条1項3号)により特許が受けることができないものであったから、反訴被告が本件特許を有効と考えたことについては過失が十分に認められると主張する。 証拠(甲1、乙3、18)によれば、本件発明の要旨は、「リードフレームから切り離された複数のリードにセンサ本体を結合したガスセンサにおいて、前記リードを同一面で同じ方向へベースを貫通させて、その一端側を外部ピンに兼用すると共に、リードの他端側にセンサ本体を結合したことを特徴とするガスセンサ」であるが、乙3に開示された公知技術と、「複数の端子板にセンサ本体を結合したガスセンサにおいて、前記端子板を同一面内で同じ方向へベースを貫通させて、その一端側を外部ピンに兼用すると共に、端子板の他端側にセンサ本体を結合したガスセンサ」である点と共通するものの、「本件発明のリードは、ガスセンサの製造工程中は結合されていたリードフレームから切り離されたリードであるのに対し、乙3に開示された公知技術においては、単に端子と記載されているだけで互いに連結されていたか否か不明」である点で異なることが認められる。なお、反訴原告は、本件発明の特許請求の範囲の「リードフレーム」は、単なる「リード」の誤記であると主張するが、「リードフレーム」という記載からすれば、それは、単なる「リード」の誤記ではなく、「リードフレームから切り離されたリード」の誤記であると解すべきである(乙18)。 そうすると、本件発明は、その出願時、乙3に開示された公知技術をもってしても新規性を欠く発明とはいえないのであって、反訴原告の上記主張は、そもそもその前提を欠き失当である。 イ証拠(乙18、23)によれば、本件発明の出願当時公知であった特開昭55-112558号公報(乙23)には、端子板の一端側を外部ピンとしたガスセンサの製造において、作業性を向上させるため、端子板が結合されたリードフレームの状態で加工を行うようにした技術が開示されていることが認められるところ、ガスセンサはその需要から量産が望まれる製品であり、その製造作業性を向上させることは当然要求されるべき事項であるから、上記乙3に開示された技術に、同一分野に属する特開昭55-112558号公報に記載された手段を採用することは、 当業者にとって容易になし得たものと判断されること、特許庁も、無効審判請求事件の審決において、上記のような理由で、本件発明は、進歩性を欠く発明であると判断して特許を無効としたことが認められる。 (2)そこで、本件発明が進歩性を欠く発明であったにもかかわらず反訴被告が本件特許権を有効と信じたことについて、反訴被告に過失があったといえるか否かについて検討する。 ア神栄株式会社、三菱電機株式会社(三田製作所)及び株式会社デンソーに対する不正競争について(ア)反訴被告は、上記の者に対する不正競争を平成7年10月2日(乙19作成日)から12月までの間に行っているが、その当時を基準とすると、次の事実が認められる。 乙19を作成する際、反訴被告の補佐人弁理士【D】は、パトリスによる先行技術調査を行い、特開昭55-112558号公報(乙23)の存在及びその内容を知っていたことが認められるが(甲6の1)、乙3に開示された公知技術の存在及びその内容を知っていたと認めるに足る証拠はない。そして、反訴被告が乙19作成後、上記不正競争を行うまでの間に、乙3に開示された公知技術の存在及び内容を知ったと認めるに足る証拠もない。 また、証拠(甲6の1)によれば、本件発明は、昭和61年12月23日に出願された後、拒絶理由の通知を受けずに平成7年2月7日に公告決定がされ、特許異議の申立てを受けずに、平成7年11月14日に登録査定が出されていることが認められる。 (イ)以上のように、反訴被告は、上記不正競争当時、本件発明が進歩性を欠く発明であると判断し得る資料すら入手していなかったのであり、それに、上記不正競争当時、本件発明は、順調に権利として認められていることも考えあわせると、反訴被告が、上記不正競争の時点で、本件特許権を有効と信じたことにつき過失があったとは認められない。 (ウ)反訴原告は、乙3は、反訴被告と同じ半導体ガスセンサを製造していた競合会社である松下電機産業株式会社の技術レポートであるから、反訴被告は同レポートの存在を知っていたはずであると主張するが、そのような事実を窺わせる証拠はない。 イ矢崎計器株式会社に対する不正競争について(ア)反訴被告は、上記の者に対する不正競争を、平成9年9月ころ行っているが、その当時を基準に、次の事実が認められる。 反訴原告は、平成8年4月25日、本件特許権の無効を求める無効審判請求を申し立てているが、証拠(乙29)によれば、同請求書とともに乙3が証拠資料として提出されていたことが認められる。 したがって、反訴被告は、矢崎計器株式会社に対する不正競争を行った際、本件発明が進歩性を欠く発明であると判断し得る資料を入手していたことが認められる。 (イ)しかしながら、証拠(乙4)によれば、反訴被告は、平成8年8月22日、 特許請求の範囲の訂正を含む本件発明の訂正請求を行ったこと、同訂正請求は、訂正請求書の記載によれば、特許請求の範囲の減縮とそれに伴って生じる明細書中の不明瞭な記載に対する釈明を目的とするものであり、特許請求の範囲の減縮の内容は、本件発明の特許請求の範囲の記載中の「ベース」を「樹脂製ベース」に限定するとともに、「前記リードフレームに脱落防止用の突起を設け」、これを「ベース内に配置」することに限定することであったことが認められるから(以下「本件訂正請求」という。)、上記資料の入手をもって、直ちに反訴被告に過失があったと即断することはできない。すなわち、反訴被告が、矢崎計器株式会社に対する不正競争を行うにつき過失があったといえるためには、本件発明のみならず本件訂正請求に係る発明(以下「訂正発明」という。)についても、有効と信じたことにつき過失があるといえなければならない解される。 証拠(乙18)によれば、本件訂正請求は、特許庁の審決において認められなかったが、その理由は、次のとおりであったと認められる。 「訂正発明の要旨は、『リードフレームから切り離された複数のリードにセンサ本体を結合したガスセンサにおいて、前記リードに脱落防止用の突起を設けて、前記リードを同一面で同じ方向へ、樹脂製のベースを貫通させて、前記脱落防止用の突起をベース内に配置し、その一端側を外部ピンに兼用すると共に、リードの他端側にセンサ本体を結合したことを特徴とするガスセンサ』である。同発明は、本件発明の出願当時公知であった特開昭60-198444号公報に記載された技術と『複数の端子板にセンサ本体を結合したガスセンサにおいて、前記端子板に突起を設けて、前記リードを同一面内で同じ方向へ、樹脂製のベースを貫通させて、その一端側を外部ピンに兼用すると共に、端子板の他端側にセンサ本体を結合したガスセンサ』という点で共通することが認められる。 そして、同発明と訂正発明との間には相違点も存在するが、同発明及び前掲特開昭55-112558号に記載された発明に、それと関連する分野における慣用手段を適用することにより、訂正発明は当業者が容易に発明をすることができたものである。」以上のことからすると、反訴被告が訂正発明は進歩性を欠如する発明であると判断するためには、特開昭60-19844号公報の存在及びその内容を知っているか、又はそれらを知らないことについて過失があることが少なくとも必要であると解されるところ、反訴被告が、上記不正競争当時、特開昭60-19844号公報を、入手していたと認めるに足りる証拠はない。 また、証拠(甲6の1、12、19)によれば、特許庁は、平成9年11月7日付け及び平成10年2月23日付けで、反訴被告に対し、本件訂正請求の訂正拒絶理由通知を発しているが、特開昭60-19844号公報は平成10年2月23日付け訂正拒絶理由通知で初めて引用刊行物として記載されたことが認められ、反訴原告も無効事由の引例として主張していなかったことも併せ考えれば、反訴被告が上記公知資料を知らなかったからといって直ちに過失があるともいえない。 以上のことからすると、反訴被告が、上記不正競争の時点で、訂正発明ひいては本件特許権を有効と信じたことにつき過失があったとは認められない。 (ウ)なお、乙3と特開昭60-198444号公報(甲6の20)で開示されている技術は、非常に類似している技術であるから、乙3を入手していたにもかかわらず、本件訂正発明を有効と考えたことに過失があったといえるかについても一応検討する。 乙3と、特開昭60-198444号公報及び訂正発明とは、乙3のベースがアルミナ系セラミックスであるのに対し、後者のそれは樹脂製である点で異なる。そして、証拠(甲6の13、15)によれば、乙3においては、ベースがアルミナ系セラミックスであり、端子との一体成型が不可能であるため、焼結後のアルミナ系セラミックスのベースに設けた穴に端子を挿入し、低融点ガラスや接着剤等により端子とベースを固着するものと認められる。そうすると、乙3においても、端子板に突起が設けられているものの、同突起は、端子をベースに挿入する際のストッパーであり、挿入時の位置決め部材と解されるのであって、同突起が脱落防止効果を有していると解するのは相当でない(このことは、特許庁が平成9年11月17日付拒絶理由通知においては乙3を引用文献としていたものの、反訴被告の意見書(上記認定と同趣旨の記載がある。)の提出後である平成10年2月23日付拒絶理由通知においては乙3の代りに特開昭60-198444号公報を引用文献としていることからも窺い知ることができる。)。 そして、証拠(甲6の15)によれば、矢崎計器株式会社に対する不正競争の後ではあるが、平成9年11月17日付拒絶理由通知に対する平成10年1月13日付意見書に添付されている資料で、日本大学生産工学部の【G】教授が、「リードフレーム技術での基本的課題は高密度化であるから、リードフレームを変形させて脱落防止用の突起を設けることは、高密度化との基本的原則に反する。」、「脱落防止用の突起を設けたリードフレームを知らない。」と報告していることが認められる。 以上のことからすると、反訴被告が、矢崎計器株式会社に対し不正競争を行った時点において、乙3を入手していることを理由に、反訴被告が訂正発明を有効と考えたことについて過失があるということはできない。 (エ)よって、反訴被告が、矢崎計器株式会社に対し不正競争を行ったことについて、過失があったとは認められない。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 安永武央 |