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事件 平成 9年 (ワ) 7268号 不正競争行為差止等請求事件
原告 株式会社ポップ研究所右代表者代表取締役 【A】
原告 株式会社ニィス右代表者代表取締役 【B】 右両名訴訟代理人弁護士 中根洋一
同 右吉永満夫
被告 株式会社創英企画右代表者代表取締役 【C】
被告 株式会社ティーアールエスプランニング 右代表者代表取締役 【D】 右両名訴訟代理人弁護士 伊藤真
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/01/17
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告らは、別紙一覧表記載の各ポップ文字を入力したフロッピーディスク、
CDーROM、光ディスクその他の記憶媒体を製造し、自己又は第三者の名義で販売してはならない。
二 被告株式会社創英企画は、原告らそれぞれに対し、各金二五〇万円及びこれに対する平成九年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告株式会社ティーアールエスプランニングは、原告らそれぞれに対し、各金二五〇万円及びこれに対する平成九年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告株式会社ポップ研究所(以下「原告ポップ研究所」という。)は、後記記載のポップ用書体を創作し、原告株式会社ニィス(以下「原告ニィス」という。)は、原告ポップ研究所から許諾を受けて、右書体をもとにアウトラインフォントを開発した。被告らは、右書体と同一もしくは類似した別紙一覧表記載の各ポップ用書体(以下「被告ポップ文字」という。)を制作して、販売した。原告らは、被告らに対し、右行為が不正競争防止法2条1項1号又は不法行為に該当すると主張して、被告ポップ文字を入力した各記憶媒体の製造、販売の禁止及び損害賠償を求めた。
一 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)1 原告ら 原告ポップ研究所は、ポップ用書体に関する書籍等を発行するとともに(甲一)、その制作に係るポップ用書体を他社に使用許諾することを業務としている(甲二、枝番号は省略する、以下同じ)。
原告ニィスは、高品位アウトラインフォントを開発し、原告ポップ研究所の創作に係るポップ用書体についての使用許諾を受けて、このフォントをフロッピー等の磁気ディスクやCDーROM、光ディスク等の記憶媒体に記録させて、営業をしている(弁論の全趣旨)。
2 被告ら 被告株式会社創英企画(以下「被告創英企画」という。)は、コンピュータ用の文字フォントを制作し、これをフロッピーディスクなどの記憶媒体に記録して、パーソナルコンピュータやワードプロセッサのメーカーに販売している。
被告株式会社ティーアールエスプランニング(以下「被告ティーアールエス」という。)は、文字フォントを制作し、これを各メーカーに提供し、あるいは、これを独自に販売している。
3 原告ポップ文字原告ポップ研究所の代表者である【A】(通称名【E】、以下「【E】」という場合がある。)は、視覚的効果を考えてデザインした書体を創作し、この種の書体をポップ文字ないしPOP文字と名付けた。原告ポップ研究所は、平成元年八月、右書体を掲載した書籍「POP文字」(株式会社マール社出版)を刊行し(以下、右書籍に掲載された二八二〇文字を併せて「原告ポップ文字」という。)、原告ニィスを含む数社に原告ポップ文字の使用を許諾している(甲一、一六、弁論の全趣旨)。
原告ニィスは、平成四年四月二三日、原告ポップ研究所から原告ポップ文字の使用許諾を得て、右書体のアウトラインフォントを開発し、「NISーPOP書体」の名称で、単体ソフト商品を販売するほか、コンピュータ等に組み込んだ商品として、OEM販売している。
4 被告らの行為 被告創英企画は、平成三年三月、被告ポップ文字を制作し、これらを含むトゥルータイプフォント「Font Gallery」をフォントパッケージとしてキヤノン株式会社(以下「キヤノン」という。)と提携して販売した。被告ティーアールエスは、被告創英企画の制作した右被告ポップ文字に基づいて、アウトラインフォントを開発し、ポップ文字の制作に使用できるフォントパッケージ「字林」を販売している。
二 争点 1 原告ポップ文字の形態は、周知な商品等表示か。
(原告らの主張) (一) 形態的特徴等 原告ポップ文字は、以下のとおりの形態的特徴を有し、その形態上の特徴のゆえに、原告ポップ研究所の商品(書体)であるという出所表示機能を有している。
(1) コンセプトにおける特徴 原告ポップ文字は、縦に並べても横に並べても違和感が出ないようにデザインを統一しているほか、販売促進効果を図るために、マジックペンやフェルトペンを使用して、手書きで描いたイメージを基本とし、書体に暖かさを与え、併せて読み易さを兼ね備えたデザインを追求している。
(2) 統一的な特徴a 字の太さ 細い字では迫力がなく、超極太では視認性が良くないため、中太よりやや太くしている。
b 曲線部の直線化 別紙図面一1ーbのとおり、通常、曲線で描かれている部分を直線としている。
c 点・ハライが直線的であること 別紙図面一1ーcのとおり、フェルトペンによって書いた印象を与えるように、
点・ハライを直線的に描いている。
d ハライの切り落とし 別紙図面一1ーdのとおり、フェルトペンによって書いたような印象を与えるように、ハライの先端を切り落としている。
e 矩形で囲んだ部分が広いこと 別紙図面一1ーeのとおり、矩形で囲んだ部分(ふところ)を通常の書体よりも大きくしている。
f 縦線が短いこと 別紙図面一1ーfの「中」の文字のとおり、矩形で囲んだ部分を大きくし、下に出た縦線を短かくしている。
g 矩形部分の台形形状 別紙図面一1ーgのとおり、矩形部分は、下辺がやや長い台形形状にしている。
h 右肩の丸み 別紙図面一1ーhのとおり、通常、右肩が角張っている部分について、丸みをもたせている。
i ハネ 別紙一2ー1及び同2ー2のとおり、「ハネ」の内側が直角であり、外側が丸みを帯び、払い先が斜めの直線であり、また、「ハネ」の上下二本の線について、上の線は直線で、下の線はやや丸みを帯び、両線とも平行で水平である。
(二) 周知性 原告ポップ文字の形態は、以下のとおり、原告ポップ研究所の出所を示すものとして周知となった。
(1) 原告ポップ研究所の代表者である【E】は、従来から、全国各地でポップ用書体の制作に関する指導を行っていた。
昭和六三年三月、【E】は、ライザウェア株式会社(以下「ライザウェア」という。)から、コンピュータで利用できるポップ用書体の創作を依頼され、太角ゴシック体をベースにして、原告ポップ文字を創作した。
ライザウェアは、【E】の使用許諾を受けた上、平成二年末ころ、コニカビジネスマシン株式会社と提携して、原告ポップ文字を搭載した「レーザーポップライター」と称するポップ広告制作用の商品を開発して、発売を開始し、合計一五〇〇台以上を販売した。右商品は、日経産業新聞において、ヒット商品として紹介されたことがあった。また、ライザウェアは、平成三年一月二五日、月刊「ライザニュース」を発刊して、「レーザーポップライター」の普及に努めたりした。
ライザウェアはその後倒産したが、現在なお、コニカビジネスマシン株式会社は、原告ポップ文字を搭載した右ポップ制作システムの後継機種を販売している。
以上のとおり、「レーザーポップライター」に搭載された原告ポップ文字の形態は、遅くとも平成三年一月には、書体デザイナー、ポップ文字制作機器の製造業者、コンピュータ・ワードプロセッサー製造業者、フォントパッケージ製造業者及びそのユーザーである広告・拡販業者等の間において商品等表示として周知となった。
(2) 株式会社ミマキエンジニアリング、株式会社寺岡精工、日本オフィスメーション株式会社、アプロス株式会社、九州松下電器株式会社(国内商品販売事業部)、
株式会社日本ソフトウエア、アークシステム株式会社は、平成四年六月から平成八年九月に掛けて、原告ポップ研究所から原告ポップ文字の利用許諾を受けて、原告ポップ文字を搭載したポップ制作システムを開発、発売した。
これらのポップ制作システムは、原告ポップ文字を搭載した商品として、四〇〇〇台以上販売された。原告ポップ文字は広く普及し、その形態は、前記の需要者間において、商品等表示として周知となった。
(3) 株式会社マール社は、平成元年八月、原告ポップ研究所の許諾を得て、原告ポップ文字を掲載した「POP文字」という書名の書籍を発行した。同書籍は、デザインやアートを扱う全国主要書店の店頭で販売され、これまでに三万部以上販売されており、多くのポップ文字デザイナー等に利用され、平成八年一二月には第一〇刷が発行され、現在に至っている。同書は業界では著名な図書となり、右図書を通じて原告ポップ文字がポップ関係業界において周知となった。
(4) 原告ニィスは、平成四年二月、原告ポップ文字を利用したコンピュータ用フォントを作成することを企画し、ライザウェア及び原告ポップ研究所から利用許諾を得て、既存の原告ポップ文字をフォント化するとともに、新たな書体を追加して、
これらを「NISーPOP書体」と称し、フォントパッケージとして、現在までに、マッキントッシュ版二万一〇〇九個、ウィンドウズ版一九六一個、合計二万二九七〇個を発売した。原告ポップ文字の形態は、原告ニィスの「NISーPOP書体」の販売を通じて、前記需要者間において、商品等表示として一層周知となった。
(被告らの反論) (一) 形態的特徴 原告が指摘する原告ポップ文字の特徴は、以下のとおり、いずれも先行するポップ用書体に現われているものであり、かつ、通常の形態であり、独自のものではない。
(1) コンセプトにおける特徴 原告らが主張するコンセプトにおける特徴は、具体的な商品形態とは異なり、抽象的なアイデアにすぎず、商品等表示性を有するものではない。また、仮に商品等表示性を有するとしても、縦に並べても横に並べても違和感が出ないようにデザインを統一している点は、日本語としてフォント化する以上当然のことであり、手書きのイメージを基本とし、書体に暖かさと読みやすさを備えた点は、従来、販売員自身がマジックペンやフェルトペンを使用して手書きしていたのであるから、やはり当然のことであり、いずれも何らの特徴とはならない。
(2) 統一的な特徴 原告が原告ポップ文字のデザインの特徴として掲げるaないしiの点はいずれも特徴とはなり得ない。すなわち、
a 中太よりやや太くした点については、太さは、そもそも自由に選択できるのであるから、特徴にはならない。
b 曲線部の直線化については、ポップ用書体において、一般に行われている。
c 点・ハライが直線的であることについては、原告ポップ文字より以前に多数存在している。
d ハライの切り落としの点については、フェルトペンにより描いたような印象を与えるためにはハライの先端が直線になるのが当然であり、また、以前から存在する書体に共通する。
e 矩形で囲まれた部分が広いことについては、視認性を良好に保つ必要性から当然であり、ポップ用書体に共通する。
fないしh 縦線が短いこと、矩形部分の台形形状、右肩の丸みについては、いずれもポップ用書体に共通する。
i 原告ら主張に係る「ハネ」の特徴はいずれも、原告ポップ文字より先行する書体に共通し、独自性はない。
(二) 周知性について 原告ポップ文字を搭載した「レーザーポップライター」が、一五〇〇台程度販売されたこと、及び原告ポップ文字を搭載した制作システムが四〇〇〇台以上販売されたことがあったとしても、原告ポップ文字の形態が周知となったとは到底いえない。需用者は「レーザーポップライター」及びその他の制作システムから、原告ポップ研究所と原告ポップ文字の結び付きを知ることはできないから、右販売により、原告ポップ文字の形態上の特徴が原告ポップ研究所の商品等表示として周知となることはない。
また、原告ポップ文字を掲載した「POP文字」という書名の書籍の発行部数は知らない。同書籍の販売により、原告ポップ文字の形態上の特徴が周知になったとはいえない。
さらに、原告ニィスによる原告ポップ文字の販売の事実は知らない。同原告の主張を前提としても、商品の販売開始が平成四年であること、販売数量が二万三〇〇〇個であることからすれば、原告ポップ文字の形態が商品等表示として周知となったとはいえない。
2 被告ポップ文字は、原告ポップ文字と同一又は類似であり、かつ、出所等を混同するおそれがあるか。
(原告らの主張) 書体の類否は、デザインコンセプト、太さ及び構成部分等において、同一ないし類似であるか否かという観点から判断すべきである。被告ポップ文字の形態は、以下のとおり、原告ポップ文字の形態と同一又は類似であり、書体デザイナー、ポップ文字制作機器の製造業者、コンピュータ・ワードプロセッサ製造業者、フォントパッケージ製造業者、及びそのユーザーである広告拡販業者等において、被告の商品をもって原告の商品であると誤認し、混同が生じ、又はそのおそれがある。
(一) デザインコンセプトの類似点 原告ポップ文字も被告ポップ文字も、@文字をフォント化するために、縦に並べても横に並べても違和感が出ないようにデザインが統一されている点、A販売促進効果を意図するために、販売員自身がマジックペンやフェルトペンを使用し、手書きした印象を与えるようなイメージを基本としている点で、デザインコンセプトにおいて共通する。
(二) 字形、太さ等の類似点 原告ポップ文字と被告ポップ文字を、同じ大きさになるように、拡大又は縮小して比較すると、その各線の中心線(骨格線)で構成された字形は、すべての文字において共通する。例えば、「ひとやね」、「しんにょう」、「えんにょう」を構成要素とする文字、「心」及び「愛」の文字は、細かい部分で違いが存するが、両者は、骨格線において同一又は類似である。
原告ポップ文字と被告ポップ文字を、同一尺度でその太さを比較すると、文字の太さ(書体の各線の幅についてその中心線からの距離)は、同一又は類似である。
(三) 構成部分等の類似点 原告ポップ文字と被告ポップ文字とは、部首等の構成部分において、以下のとおり類似する。
(1) 「耳」について 一般に「耳」について、下の払い上げ部分が、突き抜けている書体と突き抜けていない書体の二種類があるが、原告ポップ文字と被告ポップ文字は、書体の選択について、完全に一致する(別紙図面二1参照)。
(2) 「西」について 一般に「西」、「茜」、「晒」の「西」部分について、右側の縦棒は右に曲げられるが、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、「西」「晒」は、右に曲げられ、他方「茜」は右に曲げられていない点で共通する(別紙図面二2参照)。
(3) 「りっしんべん」の右側の点について 一般に「りっしんべん」について、右側の点は右下がりであるが、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、「憶」の「りっしんべん」のみが右上がりである点で一致する(別紙図面二3ー1ないし3参照)。
(4) 「女へん」の右上部について 一般に「女へん」について、横棒は右側に突き出ないが、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、「女へん」の横棒が右側に突き出ないのが一八文字あり、横棒が右側に突き出るものが一三文字ある点で一致する(別紙図面二4ー1ないし3参照)。
(5) 「京」の下の縦棒のハネの有無について 一般に「京」について、下の縦棒がハネているが、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、「京」を含む九文字のうち五文字にハネがあり、四文字にハネがない点で一致する(別紙図面二5参照)。
(6) 「止」の上部の接触の有無について 原告ポップ文字も被告ポップ文字も、「武」と「賦」の二文字について、「止」の上部が直上の横棒と接触していない点で共通する(別紙図面二6参照)。
(7) 「春」等のハライについて 一般に「春」等の横棒が三本ある文字の「右ハライ」は二本目の横棒を起点とするが、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、九文字すべてについて、「右ハライ」は三本目の横棒を起点としている点で共通する(別紙図面二7ー1及び2参照)。
(8) 「草かんむり」の上下幅及び縦棒の間隔について 草かんむりの上下幅及び二本の縦棒の間隔は、いずれも、書体を創作する者の自由度が大きいところ、原告ポップ文字も被告ポップ文字も、草かんむりのある九六文字について、その上下幅及び縦棒の間隔のいずれも、ほとんど同一である(別紙図面二9、10参照)。
(被告らの反論) 被告ポップ文字の形態は、以下のとおり、原告ポップ文字の形態と類似しているとはいえず、したがって出所につき誤認混同を生じさせるものでもない。
(一) 原告ポップ文字と被告ポップ文字は、デザインコンセプトにおいて相違する。
被告ポップ文字は、従来、タイトル・見出し用としてよく使われている太角ゴシック的イメージを残しながらも、訴求性を高く、グラフィカルかつ遊び心豊かな手書き様のフォントというデザインコンセプトの下に開発された。具体的には、@字づらは画面いっぱいにする、A文字の太さは、角極太又は特太程度とする、B文字のふところはできるだけ大きく描く、C角ゴシックとは異なり、柔らかいイメージを出す、D角ゴシックなどでいうゲタは使わない、という方針を採用した。このように、原告ポップ文字と被告ポップ文字とは、デザインコンセプトにおいて相違する。
(二) 原告ポップ文字と被告ポップ文字は、以下のとおり、形態において、様々な相違点がある。
すなわち、@すべての文字において、被告ポップ文字の方が原告ポップ文字より太くなっている、A原告ポップ文字では、横棒が右に行くに従って太くなっているのに対し、被告ポップ文字では、右上がり感を強調し、全体の印象が重くならないように横棒が右に行くに従い細くなっている、B柔らかなイメージを表現しようとした結果、被告ポップ文字は、横棒と縦棒のつながり部の曲率半径が大きくなっている、C複数角で描かれる横棒と縦棒の接続部における「ゲタ」や「突き出し」(接続部において下の方に四角形にはみ出す形の描き方)が、原告ポップ文字では多くの箇所でみられるのに対し、被告ポップ文字では全くみられない、D被告ポップ文字では、柔らかなイメージを表現するため、原告ポップ文字に比べて、やや丸みを帯びた屋根形のデザインを採っている、E被告ポップ文字では、広いふところ、柔らかなイメージを表現するため、「しんにょう」、「えんにょう」の最下部の横棒を下方に湾曲させている、F糸、会、亥その他の折り返し部も、バランスを考慮して、丸みのある形となっている、G被告ポップ文字のデザインコンセプトであるグラフィカルで遊び心豊かな書体とするため、「点」を円形とする(点を円形としたのは被告ポップ文字が初めてである。)などの点において相違する。
(三) さらに、被告ポップ文字には、原告ポップ文字にはない三三九〇文字の第二水準漢字が存在している点で、相違する。
3 被告らの行為は不法行為を構成するか。
(原告らの主張) 被告創英企画は、原告ポップ研究所が発行した「POP文字」に掲載された各文字をトレーシングペーパーで引き写して、原告ポップ文字の模倣と分からないように、若干趣向を凝らして手を加え、被告ポップ文字を完成させ、右完成した各文字を、コンピューターのデータとしてアウトラインフォント化し、さらに、被告らは、「創英ポップ体1」の名称で、コンピュータのハードメーカー及びソフトメーカーにその使用を許諾するとともに、自らもアプリケーションソフトに組み込み、
これを販売したり、自ら単体の書体ソフトとして販売した。
被告らの右各行為は、原告ポップ研究所に対する不法行為(民法44条709条715条)、原告ニィスに対する不法行為(民法44条709条715条)を構成する。
(被告らの反論) 原告らの主張は争う。被告ポップ文字は、被告らが独自に制作したものであり、
不法行為の成立の余地はない。
4 原告らの被った損害額はいくらか。
(原告らの主張) 被告らは、アウトラインフォント等の販売により、その対価からそれぞれ少なくとも金五〇〇万円の営業上の利益を受けた。不正競争防止法5条1項により、被告各自が得た右金額相当額が原告らの被った損害である。原告らは、右利益相当額のうち、各金二五〇万円を損害として請求する。
(被告らの反論) 原告らの主張は争う。
争点に対する判断
一 争点1(原告ポップ文字の周知商品表示性)について1 前提となる事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(一) 原告ポップ文字の形態的特徴 前記のとおり、原告ポップ文字は、書籍「POP文字」(株式会社マール社出版)に掲載された二八二〇文字を指す。ところで、原告は、原告ポップ文字の形態的な特徴について、以下のとおり主張するので、この点について検討する。
a 原告らは、字の太さについて、細い字では迫力がなく、超極太では視認性が良くないため、中太よりやや太くした点に形態的な特徴があると主張する。しかし、
原告ポップ文字を掲載した「POP文字」が発行された平成元年八月より以前にも、同様の太さで描かれた書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙五ないし一二、二六ないし三〇、四六ないし四九)。
b 原告らは、曲線部の形状について、一般に曲線で描かれている部分を直線化した点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、曲線部を直線で描いた書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙五、六、一〇、一二、四六、四七)。
c 原告らは、点・ハライの形状について、フェルトペンによって書いた印象を与えるよう、点・ハライを直線的に描いた点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、角張った印象を与えないように、右部分を直線で描いた書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙五、六、八、一二、四六、四七)。
d 原告らは、ハライの切り落としについて、フェルトペンによって書いたような印象を与えるよう、ハライの先を切り落とした点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、フェルトペンで書いたようにするため、ハライの先端を直線的に描いた書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙五、六、八、一二、四六)。
e 原告らは、矩形で囲んだ部分(ふところ)について、通常の書体デザインよりも大きくした点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、視認性を良好に保つため、ふところを大きくした書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙一二、四八、四九)。
f 原告らは、縦線を短くした点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、同様の描き方をした書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙一二、四八、四九)。
g 原告らは、矩形部分について、下辺がやや長い台形になるように描いている点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、同様の描き方をした書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙一二、四八、四九)。
h 原告らは、一般に右肩が角張っている部分について、丸みをもたせるように描いた点に形態的な特徴があると主張する。しかし、平成元年より以前にも、同様の描き方をした書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙一二、四七、四九)。
i 原告らは、「ハネ」の内側が直角、外側が丸みを帯び、払い先が斜めの直線で構成され、「ハネ」の上下二本の線について、上の線は直線で、下の線はやや丸みを帯び、両線とも平行で水平である点において、形態的な特徴があると主張する。
しかし、平成元年より以前にも、同様の描き方をした書体が存在しているので、原告ら主張の点は、原告ポップ文字に特有の特徴的形態ということはできない(乙一二)。
(二) 原告ポップ文字に係る商品の販売経緯 昭和六三年三月、【E】は、ライザウェアから、コンピュータで利用できるポップ用の書体の創作を依頼され、太角ゴシック体をベースにして、原告ポップ文字を創作した。
株式会社マール社は、平成元年八月、原告ポップ研究所の許諾を得て、原告ポップ文字を掲載した「POP文字」という書名の書籍を発行した。同書籍は、平成八年一二月二〇日には第一〇刷が発行された。
ライザウェアは、【E】の使用許諾を受けた上、平成二年末ころ、コニカビジネスマシン株式会社と提携して、原告ポップ文字を搭載した「レーザーポップライター」と称するポップ広告制作用の商品を開発し、発売を開始し、合計一五〇〇台以上を販売した。右商品は、日経産業新聞において、ヒット商品として紹介されたことがあった。ライザウェアは、その後倒産したが、右コニカビジネスマシン株式会社は、原告ポップ文字を搭載した右ポップ制作システムの後継機種を販売している。これらとは別に、株式会社ミマキエンジニアリング外六社も、平成四年六月から平成八年九月に掛けて、原告ポップ研究所から原告ポップ文字の利用許諾を受けて、原告ポップ文字を搭載したポップ制作システムを開発、発売した。右ポップ制作システムは、原告ポップ文字を搭載した商品として、合計四〇〇〇台以上販売された。
原告ニィスは、平成四年二月、原告ポップ文字を利用したコンピュータ用フォントを作成することを企画し、ライザウェア及び原告ポップ研究所から利用許諾を得て、既存の原告ポップ文字をフォント化するとともに、新たな書体を追加して、これらを「NISーPOP書体」と称し、フォントパッケージとして、マッキントッシュ用及びウィンドウズ用のものを合計二万二九七〇個販売した。(甲一ないし三、一二、一四ないし一六、乙四一、四二、四四、四五)(三) 被告ポップ文字の販売経緯 他方、被告創英企画も、平成三年三月に被告ポップ文字の制作を完了させ、同年七月一〇日に、これを「創英ポップ体」の名称で、財団法人日本規格協会の文字フォントライブラリに登録した(乙一)。そして、被告創英企画は、被告ポップ文字を含むトゥルータイプフォント「Font Gallery」をフォントパッケージとしてキヤノン株式会社と提携して販売し(乙二二)、被告ティーアールエスは、被告創英企画の制作した被告ポップ文字に基づいて、アウトラインフォントを制作し、ポップ制作に使用できるフォントパッケージ「字林」と称して、販売している(乙三八ないし四二、四四及び四五)。被告ポップ文字のフォントは、平成四年以降販売された、株式会社東芝、カシオ計算機株式会社、日本電気株式会社、株式会社日立製作所、キヤノン株式会社のワードプロセッサに搭載されており、平成一〇年まででおよそ二五〇万台が販売された(乙五〇ないし五九)。
2 右に認定した事実を基礎として、原告ポップ文字の形態が、周知な商品等表示となったか否かについて検討する。
商品の形態は、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得る。そこで、右の観点から、
原告ポップ文字について、そのような事実があったといえるか否かを判断する。
前記1(一)記載のとおり、原告ら主張に係る原告ポップ文字の形態上の特徴は、
いずれも、原告ポップ文字のみに特有の形態であるということはできないこと、仮に、個々の形態の組合せに独自性があったとしても、原告ポップ文字を搭載した印刷関連機器の販売数及び宣伝等の状況に照らすと、そのような組合せにおける独自性により、需要者に強い印象を与えることはないと解され、そうすると、原告ポップ文字の形態上の特徴が、その特徴をもって、原告らの出所表示ないし商品等表示となり、かつ、その点が周知であったと解することはできない。
以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告らの不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
二 争点2(不法行為の成否)について 原告らは、原告ポップ研究所が発行した「POP文字」に掲載された各文字をトレーシングペーパーで引き写すことにより、原告ポップ文字を模倣し、被告ポップ文字を完成させ、これを「創英ポップ体1」の名称で、第三者に許諾して使用させたり、自ら販売したりした被告らの行為が、不法行為を構成する旨主張する。しかし、原告らの主張を前提としても、(その主張に係る)被告らの行為が原告らの法的利益を侵害するものと解することはできないので、原告らの主張は、それ自体失当であるのみならず、本件全証拠によっても、右主張に係る事実を認めることはできない。
よって、この点に関する原告らの請求は失当である。
三 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれも理由がない。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 石村智