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事件 昭和 40年 (ヨ) 72号
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裁判所 神戸地方裁判所 姫路支部
判決言渡日 1968/02/08
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 申請人の本件仮処分申請をすべて却下する。
訴訟費用は申請人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 申請人「(一) 被申請会社は、自己の商品につき別紙目録(4)ないし(6)の文字標章もしくはこれに類似する文字標章を用いて宣伝、頒布、販売をしてはならない。
(二) 被申請会社が保有し、かつ、その製造にかかる別紙目録(4)ないし(6)の文字標章もしくはこれに類似する文字標章を付した一切の商品、包装紙、
容器、バツキングケースおよび宣伝用印刷物に対する被申請会社の占有を解いて、
申請人の申立てにより神戸地方裁判所姫路支部執行官にその保管を命ずる。
(三) 被申請人【A】は同目録(4)ないし(6)の文字標章もしくはこれに類似する文字標章を用いて自己もしくは第三者の商品の宣伝、頒布、販売をしてはならず、または第三者をしてなさしめてはならない。
(四) 訴訟費用は被申請人らの負担とする。」との裁判二 被申請人ら主文第一、二項と同旨の裁判
申請人の申請理由
一 申請会社の営業内容、規模ならびに経歴(一) 申請会社は、農業用、船舶用その他一般産業用各種デイーゼルエンジンおよびその部分品、付属品の製造、修理ならびに販売等を目的とする資本金一二億円の株式会社であつて、昭和六年四月に設立せられ肩書地に本店を、また、東京都中央区、福岡、札幌、高松、広島、金沢等の各都市にそれぞれ支店を有している。もつとも、申請会社の創業の源は遠く明治四五年三月にさかのぼり、当初申請会社初代社長【B】の個人経営にかかる山岡発動機工作所として発足したものであるところ、その後前記のとおり株式会社の設立による組織変更がなされ、当初株式会社山岡発動機工作所等と称していたが、昭和二七年二月中に商号を現在のとおりヤンマーデイーゼル株式会社(YANMAR DIESEL ENGINE CO.,LTD.)と変更し、爾来主としてデイーゼルエンジンの生産販売を中心に発展して今日に及んでいる。
(二) しかして、申請会社は、全国八ヶ所にその工場を設け、かつ、約五、〇〇〇人の従業員を有しているほか、一〇以上の系列会社と一〇〇を越える系列取引業者をその傘下におさめ、現在年間総売上高約二五〇億円余、総生産高一〇〇万馬力の実績をあげ、小型デイーゼルエンジンについては他のメーカーの追随を許さない地位を保有し、圧倒的な販売量を誇つている。
二 申請会社の有する商標等の表示およびその周知性(一) 申請会社は、大正一〇年以来、その製造にかかる発動機等に「ヤンマー」の表示を使用してきたところ、申請会社は、右「ヤンマー」の縦書表示につき同年三月二四日登録番号一二六、九〇一号をもつて商標登録を受けたほか、同じくこれが横書表示(別紙目録(1)につき昭和一〇年一月一八日登録番号二六一、一九〇号をもつて、英字 YANMAR の表示(同目録(2)))につき右同日登録番号二六一、一八九号をもつて、なお、右英字と図形の結合表示(同目録(3)))につき大正一一年七月六日登録番号一四六、四四五号をもつてそれぞれ商標登録を受けた次第である。しかして、現在これらの各表示につき申請会社の有するわが国および外国における商標登録件数は一九一件、ほかに出願中七四件に達し、しかも右商標登録ならびに出願の範囲はひろく食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品、酒類、茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、調味料、食用油脂、乳製品等の分野にも及んでいる。
(二) ところで、申請会社が右「ヤンマー」(以下単に「ヤンマー」というときは横書の場合を含む)の表示を使用するに至つた経緯は次のとおりである。すなわち、申請会社は、前記のとおり、明治四五年その初代社長【B】の創設にかかるエンジンメーカーであるところ、右【B】は、大正一〇年わが国最初の石油発動機を製造販売するに当り、これが将来わが国の農業機械化のさきがけとなることを予見して豊作の象徴である「トンボ」をその商標として登録する予定であつた。しかし、右トンボの商標権はすでに他人の所有するところであつたため、同人は、トンボの王様である「やんまとんぼ」が自己の【B】の姓にも通ずることに着眼し、さらにこれを呼び易くした「ヤンマー」なる表現を用いることに決め、また英字の場合は、本来なら「YMNMAR」ないし「YAMMER」とすべきところを歯切れのよい印象を文字の上からも感知できるようにするために「YANMAR」なる特異な綴字を使用することとし、これを商標として前記各登録を受けるに至つたものである。
このように、右「ヤンマー」、「YANMAR」等の表示は、前期【B】が独自に創作したいわゆる造語商標であつて、単なる地名、人名等でないのはもとより社会通念上も極めて特異独特なものというべく、どのような辞書、百科辞典の類いを探索してみてもこれと同一又は類似の用語を見出すことはできないのである。
(三) 申請会社は、昭和二六年から開始された民間放送等のマスコミによる宣伝をさらに有効ならしめる目的をもつて、右「ヤンマー」等の商標を申請会社の営業表示として使用することに決め、その商号を前記のとおりヤンマーデイーゼル株式会社(YANMAR DIESEL ENGINE CO.,LTD)と変更するとともに、申請会社の系列下にある取引業者らが「ヤンマー」なる表示を商号として使用するについてはいちいち申請会社の許諾を受けることを要するものとしているのである。このように、申請会社は、わが国のデイーゼルエンジン業界においてはもとより、ひろく一般大衆にも「ヤンマー」なる愛称をもつて親しまれているのであるが、さらに東南アジアをはじめ世界各国においても、「ヤンマー」といえば申請会社ないしその系列会社を意味するものとして周知せられているのである。換言すれば、申請会社の有する右「ヤンマー」(縦書)のほか別紙目録(1)ないし(3)の各表示は、申請会社の商品たることを示す商標としてはもちろん、その営業表示として、ことに同目録(3)の表示はその社章としてわが国において広く認識せられている著名商標であり、かつ、著名商号である。
三 被申請人らの不正競業による利益侵害のおそれ(一) 被申請会社関係(1) 被申請会社は、肩書地に本店を有し、製麺加工殊にインスタントラーメン等の製造、
販売を業とするものであるが、昭和三七年ごろからその製造にかかる右インスタントラーメンに「ヤンマーラーメン」等という商品名を付して販売し、かつ、その商品の包装紙、容器、パツキングケース、宣伝用印刷物に別紙目録(4)ないし(6)の各表示を付し、さらに右商品に関連して新聞、テレビ、ラジオ等を通じ右各表示を宣伝、広告し、また、看板、ポスター、封筒等にもこれを明記するなど、
右各表示を使用して今日に及んでいる。
(2) ところで、申請会社の前記商標ないし営業表示たる同目録(1)なしし(3)の各表示および被申請会社の使用する同目録(4)ないし(6)の各表示のうち、同目録(4)の表示は同目録(1)の表示とその文字の書体、称呼および文字の配列順序の点で全く同一であり、また、同目録(5)の表示は、その主要部分である英字「YANMAR」が同目録(2)の表示と全く同一であり、これと図形の結合を考慮にいれてもその類似していることは否定できず、さらに同目録(6)の表示は同目録(3)の表示とその図形、文字と図形の結合形態、文字の書体、称呼ならびにその配列順序の点から比較対照すれば、著しく類似していることが明白である。このように、被申請会社は、前記のとおり高度の周知性を有する申請会社の前記各表示と同一もしくは類似性のある右各表示をその商品である前記インスタントラーメンに直接もしくはこれに関連して使用営業し、しかもこれを使用するについて申請会社の許諾も得ていなければ、またその対価も支払つていないのである(いわゆる「ただのり」行為)。しかして、今日のようないわゆる多角経営の時代において、被申請会社は、右各表示の右使用行為により一般公衆に対し、右商品ないし営業が申請会社自身またはその系列会社の商品ないし営業と関連があるものとの印象を強く与え、その結果商品の出所の混同(商品主体の混同)ないし営業施設または営業活動の混同(営業主体の混同)を生ぜしめ、もしくはこれを生ぜしめるおそれのあることが明白である。したがつて、被申請会社の右行為は不正競争防止法1条1号および二号に該当するものというべきである。
(3) 申請会社は被申請会社の右行為によつてその営業上の利益を害されるおそれがある。すなわち、同法1条にいわゆる営業上の利益とは、営業に関する一切の権利ないし利益を指称するが、営業上の信用あるいは品位等もまたこれに含まれるものと解すべきである。ところで、申請会社の前記商標ないし商号の如きいわゆる周知表示は、一定の金銭的価値を有する権利ないし利益として、取引社会において使用料その他の対価を得て取引きされているのが実情であるが、そればかりでなく、前述したところから明らかなように、右「ヤンマー」または「YANMAR」等の表示は、一般需要者をして直ちに申請会社もしくはその商品である前記デイーゼルエンジン等を想起させる機能、換言すればそのイメージを呼び起こす作用を有するに至つている。したがつて、もし申請会社において、被申請会社がこれと同一または類似する前記各表示をその商品である前記インスタントラーメンに使用する行為をそのまま見逃すにおいては、申請会社の前記商標等の表示につきその取引上の価値の減少をきたすのはもちろん、その有する右機能ないしイメージの希釈化を招来し、ひいてこれが顧客吸引力広告力、周知度合の伸張力などを短期間に、かつ、大幅に減殺し、この点からも右表示のもつ無体財産権としての価値を減少させる結果となることは経験則に照らして明らかなところである。のみならずまた、被申請会社の右商品になんらかの欠陥があつて一般公衆に損害を与えた場合、もしくは被申請会社側になんらかの違法もしくは不道徳な行為があつてそれが公に報ぜられた場合(現に昭和四〇年五月一八日付朝日新聞は被申請人らが脱税事件で起訴された旨報じている)、その風評は直ちに右イメージに結びつき、申請会社の信用ないし品位に重大な影響を及ぼすものであることはいうまでもない。以上の点からみて、申請会社は、被申請会社の前記行為によりその営業上の利益を害せられるおそれがあるものといわなければならない。
(二) 被申請人【A】関係(1) 被申請人【A】は、被申請人会社の代表取締役であるところ、
昭和三六年六月二一日商標法上の指定商品第三二類のうち「うどんめん」、「そばめん」、「中華そばめん」等について別紙目録(5)の表示の商標登録出願をなし、昭和三七年六月七日その公告がなされ、右商標は昭和三九年三月一三日付をもつて登録せられるに至つた。
(2) しかるところ、同被申請人はなんどき右商標ないし同目録(4)、(6)の各表示を自ら使用し、または第三者に対し右商標の使用を許諾するやも知れず、
かくては申請会社の営業活動等と混同を生ぜしめ、その営業上の利益を害するおそれのあること被申請会社の場合と同様である。
四 保全の必要性 以上の次第であるから、申請会社は、被申請人らに対し不正競争防止法1条1号または二号に基づき、別紙目録(4)ないし(6)の各表示の使用行為等の差止めを求めることができるものというべきところ、被申請会社は前記のとおりすでに昭和三七年ごろから右各表示を使用し来つているものであるが、その代表取締役である被申請人【A】において前記商標登録を得た以上、今後もますます盛大に右各表示を使用するものと予想される。ところで、申請会社は、被申請会社の商品である前記インスタントラーメンについて、これが申請会社の製造にかかるものと誤認混同した問合わせを受けており、被申請会社において右各表示の使用をやめない限り、申請会社の前記周知表示がもつ機能の希釈化による損害は引続き発生しているのであつて、申請会社の信用に重大な影響を及ぼし、今後ともそれが増大することは必定である。申請会社は、被申請人らを相手方として右各表示の使用行為の差止めおよび損害賠償請求等の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、右訴訟の確定を待つていては回復し難い損害を被ることが明らかであるから、被申請人らに対し右行為差止等の仮処分を求める必要がある。
被申請人らの答弁および主張
一 申請人主張の一の(一)の事実のうち、申請会社が肩書地に本店を有していること、およびその設立年月、目的、商号がそれぞれ申請人主張のとおりであることはいずれも認めるが、その余の事実は知らない。同(二)の事実は知らない。
二(一) 申請人主張の二の(一)の事実のうち、申請会社が別紙目録(1)ないし(3)のほか「ヤンマー」(縦書)の各表示につき、その主張の各日に、その主張の如き商標登録を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない。同(二二)、(三)の各事実はいずれも不知もしくは争う。
(二) 申請会社の有する右商標等の表示は、いずれもトンボの一種である「ヤンマ」を主体とし、かつ、これをもじつて「ヤンマー」としたにすぎず、かかる名称は何人にも採択されやすいありふれた用語であつて、その観念呼称外観には何ら創造性、特異性がみられず、造語商標というに価しないものである。のみならず、申請会社が右「ヤンマー」あるいは「YANMAR」の表示を単独に使用することは殆んどなく、通常その商品の一般名称である「デイーゼル」に附加してヤンマーデイーゼルないしは YANMAR DIESEL としてこれを使用しているばかりでなく、右商品を宣伝、広告する場合等の商標を一般に文字と図形の結合表示(別紙目録(3))に限定しているのであるから、一般大衆も「ヤンマー」といえば「デイーゼル」を想起し、また、申請会社の商標といえば右結合表示型のもののみであると印象づけられているのが実情である。したがつて、右「ヤンマー」あるいは「YANMAR」等の表示が申請会社の商標ないし商号の略称として、明確な独立周知性を有しているということは到底できないのである。
三(一)申請人主張の三の(一)、(二)の各(1)の事実はいずれも認める。
(ただし、同(一)の(1)の事実中被申請会社が別紙目録(6)の表示を使用していることは否認する。被申請会社は右表示を以前一時使用したことがあるのみで現在は全然使用していない)。同(一)の(2)、(3)、(二)の(2)の事実はすべて否認する。
(二) 被申請人らは、左記のとおり申請会社との間に不正競業をなす意図が全然なく、現に商品の出所ないし営業活動等につきなんら混同を生ぜしめていないのであつて、申請会社の営業上の利益を害するおそれは全然ないのである。
(1) 被申請会社は、昭和二五年四月八日に製粉加工、
製麺加工等を営むことを目的として設立されたもので、被申請人【A】およびその一族が主宰するいわゆる同族会社であるところ、昭和二七年ごろ当時わが国において売り出し始められていたインスタントラーメン類の製造、販売に従事することになつたのであるが、その際、被申請会社の所在地龍野市の生んだ詩人【C】の作詞「赤トンボ」にヒントを得て、その製品に「トンボ」印の商標を使用し、「トンボの即席ラーメン」、「トンボ印即席中華めん」などの商品名で広くこれを販売し、
多大の費用を投じてその宣伝、広告につとめた結果、右商品は「トンボ」印の商標でひろく一般に周知されるに至つた。ところが昭和三五年にいたり、申請外合名会社木村九商店が、指定商品第四七類の穀物澱粉等につきすでに、これが登録商標を得ている事実が判明したので、被申請人らは争いを避けるために前記「トンボ」印の表示を他に変えることとなつた。しかし、被申請会社の製品は前記のとおりすでに「トンボ」印として一般に周知されていたので、そのイメージを残すため、被申請人【A】においていろいろ考えた末、トンボの一種であるヤンマートンボの頭四文字を取つて「ヤンマー」とし、これを近代的感覚で宣伝する必要上申請人主張の如く英字の横書と図形の結合表示(別紙目録(5))で登録商標(もつとも、同被申請人は右商標登録の出願公告後の昭和三八年二月二二日に特許庁に対し、その対象を指定商品第三二類のうち「うどんめん、そばめん、中華そばめん、カレーライスのもと、スープのもと、その他本類に属する商品」に限定し、その余の「かつお節、削り節、とろろこんぶ、干しのり、焼のり、干わかめ、干しひじき、寒天、およびそれ等の類似品および海藻類」を放棄した)を得たうえ、被申請会社に対しこれが通常使用権の許諾を与え、さらに昭和四〇年七月三日被申請会社のために専用使用権を設定し、その旨の登録を経由したものである。しかるところ、被申請会社は引続き前記インスタントラーメンの分野に専念するとともに、右商標を周知させるためにラジオ、テレビなどを通じて独自の宣伝広告をなし、かつ、"商標管理に最善をつくしてきたものであつて、昭和三九年度だけでも広告宣伝費として金六、三〇〇万円を費し、その売上高は金九億円を超えている。なお、被申請会社は現在二〇〇名以上の従業員を擁し、かつ、全国に販売代理店をもうけ、その生産高は年間五、八〇〇万食に達し、既にこの分野においてわが国屈指の地位に数えられている。このように、被申請会社がその商品であるインスタントラーメンに「ヤンマー」等の表示を使用するに至つた経緯ならびに営業状態等は右のとおりであつて、被申請会社は申請人主張の如くいわゆる「ただのり」を図つたものでもなければ、また、不正競争をなす意思も有していないのである。
(2) しかも、上述したところから明らかなように、被申請会社は、デイーゼルエンジンメーカーである申請会社の商品とは全く異種類の右インスタントラーメンを製造、販売しているのであつて、両者の商品は、その品種、用途はもちろん、製造方法、販売場所、流通経路、需要者等を全く異にし、なんら競争関係にないものというべきである。しかして、このようにもともと競争関係の存在しないところにいわゆる混同の生ずる余地のないことは、不正競争防止法1条1号、二号の各規定が不正競争行為自体の排除をその目的としている趣意にかんがみ明白である(なお、いわゆる「ただのり」行為が右各規定による規制の対象になるのは、それが右混同を生ぜしめる場合に限られるのであつて、単に「ただのり」行為であるという理由だけでこれを差止め得るわけではもとよりない。)(3) のみならず、仮に右競争関係の存在を要しないとしても、およそ右混同を生ずる行為についての抽象的ないし画一的な尺度は別段存在しないのであるから、
結局右混同を生ずるかどうかは当事者双方の営業状態、取引の実情、商慣習その他諸般の事情を参酌して決すべきものである。しかるところ、前記のとおり申請会社の有する「ヤンマー」あるいは「YANMAR」等の表示の独立周知性はきわめて微弱であり、なお、申請会社は、長年にわたりデイーゼルエンジンの専門メーカーであることを宣伝、広告してきたものであるが、少くとも前記指定商品等三二類については、被申請人【A】の出願前「ヤンマー」等の商標出願をしておらず、しかも申請会社のようなデイーゼルエンジンの専門メーカーが過去においてはもちろん近い将来インスタントラーメンの製造、販売を企てていることは全く知られていないのに対し、一方被申請会社は前記のとおり「ヤンマー」等の表示を全くの善意で使用するに至つたものであり、しかも前記のとおり指定商品の一部を放棄して右インスタントラーメンの製造、販売に専念し、かつ、右商品の出所等の混同を避けるために常に被申請会社の商号ならびに「イトーの」なる表示をその包装紙等に明記している次第である。これらの事情に前記のとおり両者の商品が品種、用途、流通経路等を全く異にしている事実を正常な一般需要者の判断力に照らして総合考察すれば、最近いかに多角的経営企業形態がとられつつあるにせよ被申請会社の商品および営業活動等と申請会社の商品および営業活動等との間に混同を生ずべき余地は全くなく、現実に右混同を生じたこともないのである。
(三) 仮に事実上右混同を生ずる余地があるとしても、被申請人らの別紙目録(4)、(5)の各表示の使用行為は、左記のとおり商標法による権利の行使と認められるものであるから、申請会社においてこれが差止めを求め得べき筋合いではない。すなわち、被申請人【A】は前記のとおり商標法上の指定商品第三二類のうち「うどんめん」、「そばめん」、「中華そばめん」等につき、別紙目録(5)の表示の商標権を有し、かつ、被申請会社のためにこれが専用使用権等を設定し、一方被申請会社は、右専用使用権に基づき右商標およびこれと類似の同目録(6)の表示をその商品である前記インスタントラーメンに付して販売し、かつ、広告等にも使用して今日に至つているのである。したがつて、被申請人らは商標法による権利を行使しているものというべきであるから。右商標につき無効審決でも確定すれば格別、そうでない限り申請会社においてこれが差止めを求めることは、同法6条の規定に照らして許されないというべきである。
四(一) 申請人主張の四の事実はすべて否認する。
(二) 被申請人会社が「ヤンマー」等の商標を前記インスタントラーメンに表示して販売を開始して以来すでに五年以上を経過しているが、その間、申請会社はなんら製品の販売高の減少、対外信用の失墜の如き損害を被つた事実が存しないのであつて、仮処分による差止めの緊急性は皆無である。一方、万一本件仮処分申請が認容されることになれば、被申請人らが長年にわたつて築きあげた右「ヤンマーラーメン」の販売業者および顧客に対する信用を失墜し、その被る損害は測り知れない程重大である。このように被申請人らに致命的打撃を与える仮処分の必要性は本件の場合全く存しないというべきである。
被申請人らの主張に対する申請人の認否ならびに反駁
一 被申請人ら主張の三の(二)の(2)についておよそ、不正競争防止法1条1号、二号にいわゆる商品あるいは営業活動等の「混同」については、商品表示等が同一または類似であつて、商品の出所ないし営業活動等に混同を生ぜしめまたは生ぜしめるおそれのある限り、必ずしも商品あるいは営業の同一または類似であること即ちいわゆる競争関係の存在することを要しないものというべできある。したがつて、申請人主張のように申請会社の商品である前記デイーゼルエンジン等と被申請会社の商品である前記インスタントラーメンとがその品種等を異にしているから右混同を生じないというなんらの理由もない。かえつて、申請会社は、右デイーゼルエンジン等のほか前記商標登録ないし出題にかかる食肉その他の各種商品についても、これを自己の営業として今後取り扱う意思のあることを公示しているのであるが、右商品が右ラーメン等食料加工品とほぼ同一範疇に属し、同一販売業者、小売業者らの取扱いにかかり、かつ、同一店頭にならべられる機会の多いことを考えると、右混同の生ずる可能性はますます大であるといわなければならない。
二 同三の(ニ)の(3)について(一) 被申請会社が右インスタントラーメンの包装紙等に被申請人らの主張の如くその商号等を記載していることは認める。
(二) しかしながら、実際は被申請会社において右商号を右包装紙等の裏面に目立たぬように表示し、しかも住所を明記していない場合が多いのである。のみならず、もともと右のような製造業者の商号等は、もつぱら食品衛生法上の取締基準に適応するために記載されているにすぎず、なんら不正競争防止法上の混同の防止を目的とするものではなく、現にこれが防止の機能を果しているとは決していえないのである。
三 同四の(三)について(一) 被申請人らが別紙目録(4)ないし(6)の各表示を使用する行為が商標法上の行使であることは否認する。
(二)(1) 被申請人らは、別紙目録の(4)、(6)の各表示についてはなんら商標登録を受けていないのであるから、もとより商標法による権利の行使として右各表示を使用できる筋合いでは亳もない。
(2) 同目録(5)の表示についても、左記理由により被申請人らのこれが使用行為を右権利の行使と認めることはできない。
(イ) 右表示について被申請人【A】が商標権を有していることは前記のとおりである。しかしながら、右商標は、もともと前記のとおり申請会社の商号の一部であり、かつ、著名な略称である「YANMAR」をその主要部分として含むものであるばかりでなく(商標法4条1項8号)、申請会社の有する登録第五〇〇、二一八号商標の指定商品と類似し(同条同項一一号)、かつ、申請会社の業務にかかる商品と混同を生ずるおそれのあるものであつて(同条同項一五号)、ほんらい商標登録を受けることができない無効なものというべきである(申請会社は右商標登録出願公告後の昭和三七年八月七日特許庁に対し異議を申し立てたところ、特許庁は昭和三九年一月二七日に右異議は理由がない旨決定したが、右決定は不当である)。しかして、かかる無効な商標の使用行為が適法な権利の行使といえないことはもちろんである。
(ロ) 仮にそうでないとしても、右「YANMAR」の表示は前記のとおり申請会社の著名商標であり、また著名商号(略称)であるが、被申請人らは右表示が簡明かつ人口に膾炙し、農村、漁村地方においてひろく圧倒的な人気を呼んでいることに着目し、
これを自己の商品に付することにより容易に人の記憶にとどまりその売上げが増加することを狙つてこれを使用するに至つたものである。換言すれば、被申請人らの右行為は、近時企業が一般に多角経営化し、かつ、企業イメージをマスコミユ二ケーシヨンを通じて一般公衆の脳裡に浸透させていく宣伝方式が採用されているのを利用し、申請会社の右周知表示に前記の如く「ただのり」する意思に基づくものであることが明白である。仮に被申請人らに右意思が欠けているとしても、被申請人らの右行為は、前記のとおり客観的に申請会社の右周知表示の持つ機能ないし信用力、顧客吸引力等を無償で利用する結果を招来するものであるから、到底商標法による正当な権利の行使ということはできない。けだし、かかる行為は、これを法律上保護すべきなんらの実質的理由を有せず、まさに権利の濫用というべきだからである。
疎明関係(省略)
理 由
被申請会社に対する仮処分申請について
一(一) 申請会社が昭和六年四月に設立され当初株式会社山岡発動機工作所と称したが、その後昭和二七年二月その商号を現在どおりヤンマーデイーゼル株式会社(YANMAR DIESEL ENGINE CO.,LTD.)と変更したこと、申請会社が大阪市に本店を有し、農業用、船舶用、その他一般産業用各種デイーゼルエンジンおよびその部分品、付属品の製造、修理、ならびに販売等をその事業目的とするものであつて別紙目録(1)ないし(3)のほか「ヤンマー」(縦書)の各表示につきその主張の各日にその主張の各商標登録を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。
(二) しかして、成立に争いのない疎甲第一ないし第三号証および証人【D】の証言によれば、申請会社の創業の源は遠く明治四五年三月にさかのぼり、当初申請会社の初代社長であつた【B】の個人経営にかかる山岡発動機工作所として発足したが、その後前記昭和六年四月に組織を変更し、前記のとおり株式会社山岡発動機工作所と称したこと、一方【B】は昭和一一年一月姉妹会社である山岡内燃機株式会社を設立したこと、昭和一六年七月右両会社が合併し、その後前記のとおり商号をヤンマーデイーゼル株式会社と変更したこと、申請会社は昭和八年ごろからもつぱらデイーゼルエンジンの生産販売に従事しているが、その業績は着実な伸びをみせ、その販路は国内だけでなく広く東南アジア、中南米等にもおよび、右デイーゼルエンジン部門ではわが国屈指の地位を占めるメーカーであつて、現に昭和四〇年度だけでも年間総売上高は約二五〇億円余、年間生産量は一〇〇万馬力を越えたこと、申請会社は現在東京都中央区ほか六ヶ所に支店、仙台市ほか三ヶ所に営業所ないし出張所、長浜市ほか七ヶ所に月産合計一五万馬力の生産能力のある工場をそれぞれ有し、約五、〇〇〇人の従業員とヤンマー農機株式会社を初め一〇以上の系列会社をかかえ、右系列会社において農業機械類等の生産販売をしていること、以上の事実を一応認めることができ、右認定に反する疎明資料はない。
二 そこで、申請会社の有する前記各商標ないし商号が周知性を有するものであるかどうかについて考察する。
成立に争いのない疎甲第三、四号証、同第二八ないし第三六号証、同三九号証、
同第四〇号証の一、二、疎乙第一号証の七、同第一一号証の一ないし一〇、同第一二号証の一ないし四、同第一三号証の一ないし九、証人【E】の証言によつて真正に成立したものと認められる疎甲第五号証、被申請人ら主張の各日に、その主張の被写体を撮影した写真であることに争いのない検疎乙第一ないし第五号証、同第七号証に証人【D】、同【E】の各証言を総合すると、前記【B】は、大正一〇年わが国最初の農業用石油発動機を製造、販売するにあたり、当初豊作の象徴といわれるトンボ印の表示を採用することとし、その旨新聞にも広告したところ、右トンボ印についてはすでに第三者が登録商標を得ていることが判明したためこれをあきらめ、さらに研究した結果、トンボ類の王様ともいうべき「やんまとんぼ」に目をつけ、かつ、それが自己の姓にも通じているところから、これをもじつて「ヤンマー」(縦書)とし、右表示について前記のとおり商標登録を受けたほか、別紙目録(1)ないし(3)の各表示についても次々と商標登録を受けたのであつて、右各商標はその創作にかかる特異なものであること、しかして、右【B】は大正一〇年三月に農業用横型石油発動機を完成し、これをヤンマー変量式石油発動機と命名して製作、販売したほか、動力籾摺機、動力精米機、スロツトル式石油発動機、およびオフセツト式発動機等を相次いで製作もしくは完成し、右各機械にいずれも「ヤンマー」の商標を付して販売、宣伝し、さらに前記株式会社山岡発動機工作所に組織変更後の昭和八年一二月二三日世界最初の小型横型デイーゼルエンジン(五ないし六馬力)を完成して生産を開始し、爾来その製造にかかる右デイーゼルエンジンないし前記系列会社の製品である農業機械類に「ヤンマー」等の名を冠して販売し、あるいは新聞、テレビその他を通じてこれを宣伝、広告し、前記のとおり右デイーゼルエンジン等の専門メーカーとしてわが国屈指の地位を占めるに至り今日に及んでいること、申請会社は右「ヤンマー」(縦書)のほか別紙目録(1)ないし(3)の各表示につき前記のとおり各商標登録を有しているところ(なお、申請会社がこれらの表示につき有している商標登録件数は国内、国外をあわせ約二〇〇件の多数に達している)、申請会社は現在社章として同目録(3)の英字「YANMAR」と図形の結合型の表示を常時使用しているが、その商品である前記デイーゼルエンジンにはこれのほか前記のとおり「ヤンマー」の表示を冠して使用し、さらに、宣伝品、作業服、作業帽、接待用の煎餅等のサービス品、バツジ等に至るまで右各表示を用い、右各表示は申請会社の商品ないし営業表示として取引業者ないし一般需要者の間に周知されていること、のみならず、右「ヤンマー」、「YANMAR」の用語は、他面申請会社の略称として、そのフルネームである「ヤンマーデイーゼル」ないしは「YANMAR DIESEL」とともに著名であり、現に申請会社が外国商社と契約を結び、あるいは、電報を受信、発信するときなどには右「ヤンマー」等の略称を用いているが、さらに申請会社の許可を受けて右略称を商号(例えば○○ヤンマー販売株式会社あるいは○○ヤンマー商会)として使用している特約店、販売店等は、北は青森から南は鹿児島まで個人経営もいれて全国一六二社に及んでいるのであつて、申請会社の商号も右略称を含め右同様一般に周知されていること、以上の事実を一応認めることができる。右認定を左右し得る疎明資料はない。
右認定事実によると、申請会社の前記各商標ないし商号(前記略称を含む)は不正競争防止法施行地域である本邦内で広く認識された周知表示といわなければならない。
三 次に、被申請会社が申請会社の有する前記各表示と同一もしくは類似性のある表示を使用しているかどうかについて判断する。
(一) 被申請会社が肩書地に本店を有し、製麺加工殊にインスタントラーメンの製造販売を業とするものであること、および被申請会社が昭和三六年ごろからその製造にかかる右インスタントラーメンに「ヤンマーラーメン」等という商品名を付して販売し、かつ、その包装紙、容器、パツキングケース、宣伝用印刷物について別紙目録(4)、(5)の各表示を使用し、さらに右商品に関連して新聞、テレビ、ラジオ等を通じ右各表示を宣伝、広告し、また、看板、ポスター、封書等にもこれを明記するなど右各表示を使用して今日に至つていることはいずれも当事者間に争いがないところ、成立に争いのない疎甲第七号証の一ないし四によると、被申請会社は右各表示のほか同目録(6)の英字「YANMAR」と図形の結合型の表示についても右同様これを使用してきたものであることを一応認めることができる。
(二) ところで、被申請会社の右使用にかかる同目録(4)ないし(6)の各表示を前記のとおり申請会社の有する同目録(1)ないし(3)の各表示と比較対照すると、まず同目録(4)の表示は同目録(1)の表示とその文字の配列順序、すなわち外観、称呼において全く同一である、次に同目録(5)の表示は、その主要部分である英字「YANMAR」が同目録(2)の表示とその文字の配列順序、称呼の上からみて全く同一であつて、右英字とその上下左右に接する付飾的な直線図形との結合を考慮にいれてもその類似性を否定することは到底できない。さらに、
同目録(6)の表示は、右英字の配列順序、称呼、図形の格好、および右英字と右図形の結合形態等の点からみて右(3)の表示と類似することがおのずから明らかである。
(三) 以上の事実によると、被申請会社は、その主観的意図如何にかかわらず、
前記商品であるインスタントラーメンあるいはその包装紙等に周知表示である申請会社の前記商標ないし商号と同一もしくは類似性のある別紙(4)ないし(6)の表示を各使用し、かつ、これを使用した右商品を販売しているといわなければならない。
四 そこで、被申請会社の右表示行為ならびに右販売行為等により申請会社との間に商品主体または営業主体の混同を生ぜしめているかどうかについて判断する。
(一) まず、不正競争防止法1条1号および二号にいわゆる「混同」とは、他人の有する周知表示と同一もしくは類似性のある表示の使用行為により、他人の商品もしくは営業活動等と現実に混同を生じている場合だけでなく、混同のおそれのある場合すなわちその危険性が具体化しているような場合をも含むものというべく、
しかも右混同を生ずるについては必ずしも双方の商品または営業が同種であるなどいわゆる競争関係にあることを要せず、これが同種でなくとも、一般需要者をして、その間に資本的な結びつきが存在し、あるいは技術提携が行なわれているなど取引上なんらかの特殊関係があるものと誤認させる状況にあればたりるものと解するのが相当である。殊に、著名商標、著名商号などにつき当裁判所に顕著なように、近来経営の多角化、マスコミユニケーシヨンの発達などに伴う商品取引事情の変化等によつて、その広告的価値がますます巨大かつ広範囲に及ぶ傾向にあることにかんがみると、右のように解することが公正な競業秩序の建設、維持をその目的とする同法の理念にも合致するものといえよう(被申請人らは、被申請人らには不当競争の意思がなく、しかも被申請会社の商品と申請会社の商品とはその品種、用途等を全く異にしなんら競争関係にないのであるから、本件の場合すでにこの点において右混同を生ずる余地がない旨主張するが、およそかかる不正競争の意思の存在は現行法上不正競業が成立するについての要件では別段なく、また、右混同を生ずるにつき双方の商品、営業が同種であることを要しないことは右説示のとおりであるから、右主張は採用しない)。
もつとも、現実の問題として右混同ないし混同のおそれの存否を判断するについては、もとより他の自由な営業活動を不当に制限することがないように、右誤認を生ずべき状況にあるかどうかを、当該表示の使用方法、態様等諸般の事情に照らし、かつ、取引の実情ならびに一般需要者の判断を基準として具体的に決すべきであつて、このことは詳論するまでもない。したがつてまた、単に著名商標ないし著名商号と同一もしくは類似の表示を使用しているという一事だけで右混同の存在を肯定すべきものでないことはもちろんである(もとよりかかる使用行為が他の法的規制の対象となるかどうかは別個の問題といえよう)。
(二) そこで、右観点に立つて本件につき右混同の有無を判断する。
(1) まず、申請会社側の前記事情について検討する。前記認定事実に照して明らかなように、申請会社は過去半世紀を越える期間にわたり一貫してデイーゼルエンジンの専門メーカーとしての地位を占めてきたものであり、近時農業機械部門にも進出し、その系列会社においてこれが生産、販売をなしているとはいえ、右デイーゼルエンジンまたは農業機械にいわば専門的単一企業を経営するものというべきであつて、現に申請会社の有する前記「ヤンマー」のほか別紙目録(1)ないし(3)の各表示はいずれも主力商品であるデイーゼルエンジン等と密接に結びついて使用されており、右使用を通じ申請会社がデイーゼルエンジンの専門メーカーとしての印象を一般需要者に与えていることは否めないところである。もつとも、成立に争いのない疎甲第四三号証の一ないし三、同第四四号証の一ないし四によると、申請会社において昭和三七年七月一二日第三二類の食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)等を指定商品として別紙目録(1)ないし(3)の各表示につき連合商標登録の出願をしたこと、そのほか昭和三八年五月一六日菓子、パンにつき、同年六月二四日調味料、香辛料、食用油脂、
乳製品につき、昭和四〇年一月二八日茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料水につき、申請会社からそれぞれ右各表示の商標出願公告がなされずに登録済みであることを一応認め得るが、申請会社もしくはその系列会社が現在かかる食品営業に従事していることについてはもちろん、一般にデイーゼルエンジンメーカーが多角経営により食品部門に進出し、もしくは進出する傾向にあることについても、これを認め得る疎明資料がない。
(2) 一方、被申請会社側の取引状況等について考えてみるに、被申請会社がその製造、販売にかかる前記インスタントラーメンならびにその包装紙等に申請会社の前記周知表示と同一もしくは類似性のある「ヤンマー」等の表示を使用し、かつ、これを宣伝、広告していることは前記説示のとおりである。しかるところ、右事実に、成立に争いのない疎甲第七号証の一、二、同第一二号証、疎乙第八号証の一ないし四二、同第一五号証の一、三ないし八、同第二〇号証の一ないし一四、同第二一号証の一ないし三二、証人【F】の証言によつて真正に成立したものと認められる疎乙第一号証の一ないし三、同第一五号証の二、同第一六号証、同第一八号証の一ないし六五、同第二二号証、被申請人らの主張の日に、その主張の被写体を撮影した写真であることに争いのない検疎乙第六号証、および証人【F】の証言を総合すると、被申請会社は、当初製粉、製麺業を営む被申請人【A】の個人企業として発足し、昭和二五年四月株式会社に組織変更したものであること、被申請会社はその商品である右インスタントラーメンに初め申請会社の場合と同様トンボ印の表示を付して販売していたが、右表示については、すでに他に登録商標を得ている者のあることが判明したので、
その代表取締役である被申請人【A】において【G】弁理士と相談のうえ昭和三六年六月二一日商標法上の指定商品第三二類のうち「うどんめん」、「そばめん」、
「中華そばめん」等について別紙目録(5)の表示の商標登録出願をなし、昭和三七年六月七日その公告がなされ(なお同類の「かつお節」、「とろろこんぶ」等については昭和三八年二月二二日付で放棄)、右商標は昭和三九年三月一三日付をもつて登録せられたこと(右出願、公告および商標登録の事実は当事者間に争いがない)、しかして、被申請会社はその後右商標につき専用使用権の設定を受けたのであるが、前記のとおり右商標のほか「ヤンマー」等の表示を右商品に使用し、かつその製造、販売に専念して今日に至つていること、被申請会社の右商品の販路は兵庫県西部、中国地方を中心に中部、北陸、四国および九州地方等にまたがり、また、その年間売上高は、昭和三四年当時においては金七、七〇〇万円程度であつたが、昭和四〇年ごろに至り金一一億円を超え、さらに、その年間生産高は昭和四一年度において七、〇〇〇万食に達するなど着実な伸びをみせ、右商品は食品取扱業者および一般需要者間にひろく知られていること、および、被申請会社の右商品のうち前記「ヤンマーラーメン」等がほとんどその九割を占め、その余は「やんまラーメン」、「ヤンマーのざるそば」あるいは「ヤンマーの焼そば」等の商品名で販売されているところ、被申請会社はこれら商品の包装紙に被申請会社の住所および商号を明記し、かつ、右商品名に「【A】の」あるいは「イトーの」と付記し、右商品が被申請会社の製造にかかるものであることを明らかにするとともに、右商品を前記のとおり新聞で広告し、あるいはテレビ等で放送する場合においても右同様右商号、住所を明記し、あるいは「イトーの」と名付けるなど、他と混同を生ずることがないように配慮していること、現に右インスタントラーメンの取扱店、販売店等が一般需要者からこれが申請会社の製造、販売にかかるものではないかとの問合せを受けたことは一度もないこと、以上の事実を一応認めることができる。
(3) 以上認定の申請会社、被申請会社双方の企業形態、取扱状況あるいは、表示使用方法等に照らすと、被申請会社が申請会社の前記各周知表示と同一もしくは類似性のある別紙目録(4)ないし(6)の各表示を被申請会社の前記商品であるインスタントラーメンに使用しているからといつてこれにより申請会社もしくはその系列会社等の商品ないし営業との間に取引上前記のような特殊な関係があるとの印象を一般需要者に与え、ひいて商品主体または営業主体の混同を生ぜしめ、もしくは混同を生ぜしめるおそれがあるとはたやすく認め難いのである。
もつとも、申請会社は本件の場合右混同を生じ、もしくは生ずるおそれのある所以をるる主張し、証人【H】の証言によつて真正に成立したものと認められる疎甲第二一号証、同第三八号の各二、成立に争いのない同第四二号証の一ないし三のように右主張にそう疎名資料がないわけではないけれども、その内容を仔細に検討すると、左記のとおり、これをもつて右認定をくつがえし、右主張を認めるに由ないものというべきであるから、右主張は採るを得ない。すなわち、同第二一号証、同第三八号証の各二は、一般需要者が「ヤンマーデイ-ゼル」と「ヤンマーラーメン」のブランドイメージを混同誤認するおそれがあるかどうかを調査の対象とするものであるが、右調査に当り被申請会社の商号を勝手に「ヤンマーラーメン社」とおきかえ(例えば同二一号証の二の一三頁、末尾アンケート表(6)、(10)同三八号証の二の六頁、一七頁)、あるいは前記認定のような取引の実情等を度外視して被調査者に対し、抽象的に、かつ、漠然と「ヤンマー」と「ヤンマーラーメン」との関係を質問し(同第二一号証の二の末尾アンケート表(6))、その回答を資料にするなど、その調査方法等においていろいろ疑問があり、また、同第四二号証の一ないし三は、何人が混同誤認を生じたものであるのか明確を欠き、いずれも前記認定事実に照らし、かつ、成立に争いのない疎乙第二三号証の一ないし二〇〇、同第二四号証に対比すると、にわかに採用し難いのである。なお、申請人は、
被申請会社が前記商品の包装紙等に被申請会社の商号を記載しているのは、もつぱら食品衛生法上の取締基準に適応するためであつて、混同の防止を目的とするものではない旨主張し、なるほど同法11条等の規定に照らし、右商号等の記載が公衆衛生上必要な取締基準を遵守するためになされているものであることはいうまでもないけれども、他方これにより商品の出所を明らかにし混同の防止に役立つていることは前記認定事実に徴して疑いをいれる余地がないから、右主張も理由がない。
五 以上の次第であつて、被申請会社が別紙目録(4)ないし(6)の各表示を使用し、あるいはこれを使用した前記インスタントラーメンを販売していることなどによつて、申請会社との間に不正競争防止法1条1号ないし二号にいわゆる商品もしくは営業活動等の混同を生ぜしめているということは到底できないから、申請人の被申請会社に対する前記仮処分申請は結局被保全権利を欠くものというべきである。そうすると、右申請は、その余の点につき逐一判断するまでもなくこれを却下すべきである。
被申請人【A】に対する仮処分申請について
一 同被申請人が別紙目録(5)の表示につき商標登録を得ていることは前記説示のとおりであるけれども、前記認定事実から明らかなように、同被申請人は被申請会社の代表取締役にすぎず、なんら右表示等を使用して自ら商品を販売し、あるいは独立の営業をいとなんでいるわけではないから、もとより同被申請人と申請会社との間に前記混同を生ずべき余地はない。
二 したがつて、申請人の同被申請人に対する右仮処分申請も前記説示に照らし却下を免れない。
結論
よつて訴訟費用の負担について民訴法89条93条1項本文を適用して主文のとおり判決する。
別紙 目録<88462―001>